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1 幼児英語における動詞句内主語仮説の再考 VP

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幼児英語における動詞句内主語仮説の再考*
VP-internal Subjects in Child English Revisited
杉崎
鉱司
三重大学
Abstract
This study addresses the question of whether early child English conforms
t o t h e V P - i n t e r n a l S u b j e c t H y p o t h e s i s . We f i r s t r e - e v a l u a t e t h e e v i d e n c e
provided by Déprez & Pierce (1993) for the existence of VP-internal
subject stage in the acquisition of English. Building on the syntactic
analysis of the collocation why not? by Merchant (2006), we present
e v i d e n c e f r o m c h i l d E n g l i s h a g a i n s t D é p r e z & P i e r c e ’s f u n d a m e n t a l
a s s u m p t i o n t h a t c h i l d r e n ’s s e n t e n c e - i n i t i a l n o i s a m a r k e r f o r s e n t e n t i a l
n e g a t i o n . We t h e n t u r n t o C h o m s k y ’s ( 2 0 1 2 a , b ) m i n i m a l i s t a n a l y s i s o f
s u b j e c t - a u x i l i a r y i n v e r s i o n , a n d a n a l y z e c h i l d r e n ’s y e s / n o - q u e s t i o n s b a s e d
on that syntactic analysis. The results of our transcript analysis reveal
that children acquiring English never produce any incorrect yes/noquestion in which the most prominent element in the subject noun phrase
u n d e r g o e s i n v e r s i o n . I f C h o m s k y ’s a n a l y s i s i s o n t h e r i g h t t r a c k , t h i s
finding constitutes new piece of evidence that young children satisfy the
r e q u i r e m e n t t h a t s u b j e c t s m u s t f i r s t b e m e rg e d i n t e r n a l l y t o t h e p r e d i c a t e .
*
本 稿 は , E V O L A N G I X : Wo r k s h o p o n T h e o r e t i c a l L i n g u i s t i c s /
Biolinguistics (2012 年 3 月 13 日 , 於 キ ャ ン パ ス プ ラ ザ 京 都 ), お よ び 日 本
英 語 学 会 第 3 1 回 大 会 ( 2 0 1 3 年 11 月 1 0 日 , 於 福 岡 大 学 ) に お け る 筆 者 の
研 究 発 表 (Sugisaki(2012)お よ び Sugisaki(2013))に 基 づ く も の で あ る . こ れ
ら の 研 究 に 対 し 有 益 な コ メ ン ト を 頂 い た 各 位 , 特 に Cedric Boeckx 氏 , 藤
田 耕 司 氏 ,平 岩 健 氏 ,池 内 正 幸 氏 ,北 原 久 嗣 氏 ,村 杉 恵 子 氏 ,小 畑 美 貴 氏 ,
小野創氏,大津由紀雄氏,遊佐典昭氏に感謝したい.
1
1.
はじめに:生成文法理論と母語獲得
生 成 文 法 理 論 で は ,そ の 当 初 よ り 一 貫 し て 母 語 獲 得 は ( i ) 生 後 に 外 界
か ら 与 え ら れ る 言 語 の 情 報 (「 言 語 経 験 」) と , ( i i ) ヒ ト に 遺 伝 に よ り
生 得 的 に 与 え ら れ た 言 語 機 能 で あ る「 普 遍 文 法 」( U G ) と の 相 互 作 用 に
よ り 達 成 さ れ る ,と 仮 定 さ れ て き た .生 成 文 法 理 論 に 基 づ く 母 語 獲 得
研 究 は ,こ の 母 語 獲 得 に 関 す る 根 本 的 な 仮 説 が 妥 当 で あ る こ と を 示 す
た め の 試 み の 1 つ と し て , UGに 含 ま れ る と 考 え ら れ る 属 性 が , 観 察
し う る 最 初 期 か ら 幼 児 の 母 語 知 識 を 制 約 し て い る こ と を ,様 々 な 手 法
を 用 い て 実 証 的 に 示 し て き た .「 刺 激 の 貧 困 の 状 況 下 に お い て , 母 語
獲 得 が な ぜ 可 能 で あ る の か 」 と い う 問 い に 答 え る た め , UGの 中 に 豊
富な仕組みの存在を仮定していた「原理とパラメータのアプローチ」
( P & P ) の も と で は ,こ の 種 の 研 究 が U G の 様 々 な 属 性 に 関 し て 活 発 に 行
わ れ , 数 多 く の 成 果 を あ げ て き た (Otsu (1981), Hyams (1986), Crain
( 1 9 9 1 ) 他 ) .一 方 ,現 在 の「 ミ ニ マ リ ス ト ・ プ ロ グ ラ ム 」( M P ) に お い て
は ,UGに 固 有 の 属 性 を で き る 限 り 少 な い も の に し ,こ れ ま で UG固 有
と 考 え ら れ て き た 属 性 を 他 の 要 因 ,特 に 演 算 の 効 率 性 な ど の 一 般 的 自
然 法 則( い わ ゆ る「 第 三 要 因 」)か ら 導 く こ と が 試 み ら れ て い る .理
論 的 研 究 の 関 心 が UGの 最 小 化 へ と 変 化 す る の に 伴 い , 生 成 文 法 理 論
に 基 づ く 母 語 獲 得 研 究 は ,か つ て の 勢 い を 失 い つ つ あ る .し か し ,こ
れ ま で U G 固 有 と 考 え ら れ て い た 属 性 が ,M P の 枠 組 み の 中 で 再 分 析 さ
れ , 最 小 化 さ れ た UGと 一 般 的 自 然 法 則 の 相 互 作 用 か ら 導 か れ る こ と
に な っ た と し て も ,そ の 属 性 が 生 得 的 な 源 か ら 生 じ て い る と い う 点 に
は 変 化 が な い . ま た , こ の よ う な MPの 枠 組 み で の 再 分 析 に よ り , 言
語 獲 得 に お い て ど の よ う な 現 象 が 早 期 発 現 す る の か ,ど の よ う な 誤 り
は観察され得ないのかなどに関する新たな予測が得られる場合も多
い .し た が っ て ,生 得 的 な 由 来 を も つ と 考 え ら れ る 属 性 の 早 期 発 現 に
関 す る 研 究 は , MPの 枠 組 み に 基 づ く 理 論 的 研 究 の 新 た な 成 果 を 踏 ま
えながら,これまで以上に活発に行われることが期待される.
本 研 究 は ,こ の よ う な 背 景 を 踏 ま え ,英 語 獲 得 初 期 に お け る 主 語 の
2
基 底 位 置 に つ い て 再 考 す る .理 論 的 研 究 に お い て は ,P & P に お い て も ,
M P に お い て も ,一 貫 し て ,主 語 は 動 詞 句 内 に 基 底 生 成 さ れ ,
(英語な
ど の 言 語 に お い て は ) そ の 後 TP の 指 定 部 の 位 置 へ と 移 動 す る , と 仮
定 さ れ て い る . 本 研 究 で は , ま ず , こ の 「 動 詞 句 内 主 語 仮 説 」 (VPinternal Subject Hypothesis) に 対 す る 英 語 獲 得 か ら の 証 拠 と し て
Déprez & Pierce (1993)が 議 論 し た 現 象 を 取 り 上 げ , そ の 証 拠 と し て の
妥 当 性 に 対 し ,M e r c h a n t ( 2 0 0 6 ) に よ る 理 論 的 研 究 の 成 果 に 基 づ い て 批
判 を 加 え る . 次 に , Chomsky (2012a,b)に よ る yes/no 疑 問 文 の 理 論 的
分 析 に 基 づ い て 英 語 獲 得 初 期 に お け る yes/no 疑 問 文 の 調 査 を 行 い ,
幼児英語においてもやはり主語が動詞句内に基底生成されているこ
とを示す新たな証拠を提示する.
2.
英語獲得における文頭否定文と動詞句内主語仮説
2.1. 幼 児 英 語 に お け る 文 頭 否 定 文 と そ の 分 析
B e l l u g i ( 1 9 6 7 ) な ど の 研 究 以 来 ,英 語 を 母 語 と し て 獲 得 中 の 幼 児 の 2
歳 代 頃 の 発 話 に お い て , (1)の よ う な , 文 頭 ( つ ま り 主 語 の 前 ) に no
を置いた,誤った否定文が観察されることが広く知られている.1
(1)
Nina と い う 幼 児 に よ る 発 話 (Déprez & Pierce 1993: 34)
a.
No my play my puppet. Play my toys.
(2 歳 ;00 ヵ 月 :02 日 )
b.
No Mommy doing. David turn.
(2;00:02)
c.
No lamb have it. No lamb have it.
(2;00:03)
d.
N o l a m b h a v e a c h a i r e i t h e r.
(2;00:03)
e.
N o d o g s t a y i n t h e r o o m . D o n ’t d o g s t a y i n t h e r o o m .
(2;01:02)
f.
D o n ’t N i n a g e t u p .
(2;01:02)
1
同種の誤りは,ドイツ語の獲得などにおいても観察されている.
(i)
N e i n d i e s e Messer auau. no this k n i f e hurting ‘This knife is not hurting.’ (Kathrin, 25‐26 months; Déprez & Pierce (1993))
3
g.
Never Mommy touch it.
(2;01:02)
h.
No Leila have a turn.
(2;01:03)
i.
Not man up here on him head.
(2;02:01)
Déprez & Pierce (1993)は , (1)の よ う な 「 文 頭 否 定 文 」 (neg-initial
s e n t e n c e ) が 発 話 さ れ た 文 脈 を 分 析 す る こ と に よ り ,こ れ ら の 文 に 現 れ
て い る 否 定 要 素 は 「 文 否 定 」 (sentential negation)を 示 す 要 素 で あ り ,
そ の 直 前 の 発 話 を 否 定 す る 「 照 応 否 定 」 (anaphoric negation)で は な い
と 主 張 し た .例 え ば ( 1 c ) は ,そ の 前 後 に あ る 親 子 の 会 話 を 考 慮 す る と ,
“No, the lamb does have it.”と い う 意 味 の 「 照 応 否 定 」 で は な い と 考 え
られる.
(2)
(1c-d)の 文 脈 (Déprez & Pierce 1993: 34)
Mother:
Can you put it on the floor?
Nina:
N o h a v e i t , M o m m y.
Mother:
Yo u d o n ’t w a n t m e t o h a v e i t ?
Nina:
No. No. No lamb have it. No lamb have it.
Mother:
Yo u d o n ’t w a n t t h e l a m b t o h a v e i t e i t h e r.
Nina:
N o l a m b h a v e a c h a i r e i t h e r.
文 頭 に あ る no が 文 否 定 を 表 す 要 素 で あ る と い う 仮 定 に 基 づ き ,
Déprez & Pierce (1993)は , こ の 段 階 に あ る 幼 児 は ,no と not を 区 別 し
て お ら ず ,そ れ ら を 同 一 の 統 語 的 位 置 に 出 現 さ せ て い る と 考 え た .そ
の 場 合 ,( 1 ) の よ う な「 文 頭 否 定 文 」に お い て は ,主 語 は ,否 定 要 素 で
あ る n o ( t ) よ り も ,構 造 的 に 低 い 位 置 に 現 れ て い る こ と に な る .D é p r e z
& Pierce (1993)は ,
「 主 語 は 動 詞 句 内 に 基 底 生 成 さ れ る 」と い う「 動 詞
句 内 主 語 仮 説 」 (VP-internal Subject Hypothesis; Fukui & Speas (1986),
Kitagawa (1994), Koopman & Sportiche (1991), Kuroda (1988)他 )を 採 用
し , さ ら に 幼 児 英 語 に お い て は , 主 語 は 義 務 的 に TP 指 定 部 へ 移 動 す
る 必 要 が な い と い う 仮 定 を 付 け 加 え る こ と に よ っ て ,「 文 頭 否 定 文 」
が な ぜ 幼 児 の 発 話 に 現 れ う る か を 説 明 し た . こ の 分 析 で は , (1c)の 文
は , お よ そ (3)の よ う な 構 造 を も つ こ と に な る .
4
(3)
Déprez & Pierce (1993) の 分 析 に お け る (1c)の も つ 構 造 :
[CP [TP
[NegP no
[vP
lamb have it
]]]]
Déprez & Pierce (1993)の 分 析 が 正 し け れ ば , 英 語 の 獲 得 に 見 ら れ る
「 文 頭 否 定 文 」と い う 誤 り は ,動 詞 句 内 主 語 仮 説 と い う 重 要 な 理 論 的
提 案 に 対 す る 母 語 獲 得 か ら の 証 拠 を 提 供 す る こ と と な り ,大 変 重 要 な
発 見 と な る . そ の 影 響 力 の 大 き さ を 考 慮 す る と , Déprez & Pierce
( 1 9 9 3 ) の 分 析 の 妥 当 性 は ,母 語 獲 得 に 関 す る 他 の 事 実 と 照 ら し 合 わ せ ,
慎重に検討される必要があると考えられる.
次節以降では,
「 英 語 を 母 語 と す る 幼 児 が n o と n o t を 区 別 せ ず ,両
者 を ど ち ら も 文 否 定 を 表 す 要 素 と し て 用 い て い る 」と い う 仮 定 に つ い
て ,M e r c h a n t ( 2 0 0 6 ) に よ る 理 論 的 研 究 の 成 果 に 基 づ き ,批 判 的 検 討 を
加える.
2 . 2 . M e rc h a n t ( 2 0 0 6 ) に よ る W h y n o ( t ) ? の 分 析
英 語 で は , ( 4 ) の 会 話 に あ る よ う に , “ W h y i s n ’t A n n a l e a v i n g ? ” の 意
味 に 相 当 す る 短 い w h 疑 問 文 と し て ,W h y n o t ? と い う 表 現 を 用 い る こ
とが可能である.
(4)
a.
Speaker A:
Anna is not leaving.
b.
Speaker B:
Why not?
Merchant (2006)は , こ の 短 い wh 疑 問 文 が 興 味 深 い 言 語 間 変 異 を 示
す こ と を 発 見 し た . (5)に あ る よ う に , 英 語 ・ ド イ ツ 語 な ど で は Why
not? に 相 当 す る 表 現 が 許 容 さ れ , Why no? に 相 当 す る 表 現 は 非 文 法
的 と な る が , 逆 に ギ リ シ ャ 語 ・ イ タ リ ア 語 な ど で は Why no? に 相 当
す る 表 現 が 許 容 さ れ , Why not? に 相 当 す る 表 現 は 非 文 法 的 と な る .
(5)
Why no(t)?の 言 語 間 変 異 (Merchant 2006: 20):
a.
English:
why
not?
b.
German:
warum
nicht?
c.
Dutch:
waarom
d.
Danish:
e.
* why
no?
* warum
nein?
niet?
* waarom
nee?
hvorfor
ikke?
* hvorfor
nej?
Icelandic: hvorfor
ekki?
* hvorfor
nej?
5
f.
French:
pourquoi
pas?
* pourquoi
non?
g.
Ts e z :
shida
anu?
* shida
ey?
h.
Greek:
i.
Italian:
j.
Bezhta
k.
Russian: * pochemu
* giati
dhen?
giati
oxi?
* perché
non?
perché
no?
* su-d
-esh
su-d
gä’ä
ne?
pochemu
njet?
Merchant (2006)は , こ の 言 語 間 変 異 を 次 の よ う に 説 明 す る . ま ず ,
「 w h y に 相 当 す る w h 表 現 は 句 ( p h r a s e ) で あ り ,そ の た め ,そ れ に 付 加
さ れ う る 要 素 も 句 に 限 ら れ る 」と い う 構 造 的 制 約 を 仮 定 す る .そ れ に
加 え て ,「 w h y に 付 加 さ れ る 要 素 は 文 否 定 を 表 す 要 素 に 限 ら れ る 」 と
い う 制 約 を 仮 定 す る .英 語 タ イ プ の 言 語 で は ,文 否 定 を 表 す 要 素 は 句
で あ り ,why に 付 加 す る こ と が 可 能 と な る .一 方 ,ギ リ シ ャ 語 タ イ プ
の 言 語 で は , 文 否 定 を 表 す 要 素 が 主 要 部 (head)で あ る た め , why に 相
当 す る 表 現 に 付 加 す る こ と が で き な い .こ の よ う な 言 語 で は ,付 加 さ
れうる否定要素に関する上記の構造的制約を満たすことが不可能で
あ る た め ,最 終 手 段 と し て ,否 定 を 表 す 副 詞 句 的 要 素 で あ る n o を w h y
に付加することが許される.
2.3. 英 語 獲 得 へ の 新 た な 予 測
Merchant (2006)の 分 析 に よ れ ば ,why に 付 加 さ れ る 要 素 は 文 否 定 を
表 す 要 素 に 限 定 さ れ る .英 語 を 母 語 と し て 獲 得 中 の 幼 児 が こ の 制 約 に
従 っ て お り ,か つ D é p r e z & P i e r c e ( 1 9 9 3 ) の 主 張 が 正 し く ,英 語 の 獲 得
に お い て ,n o と n o t が 区 別 さ れ ず ,両 者 が 文 否 定 の 要 素 と し て 用 い ら
れ る 段 階 が 存 在 す る の で あ れ ば , (6)の 予 測 が 成 り 立 つ こ と と な る .
(6)
英語獲得への予測:
英 語 を 獲 得 中 の 2-3 歳 児 は , Why not? に 加 え て , Why no?
を発話する.
6
2.4. 英 語 を 母 語 と す る 幼 児 の 発 話 分 析
英 語 の 獲 得 へ の 予 測 で あ る ( 6 ) の 妥 当 性 を 調 べ る 為 ,C H I L D E S デ ー
タ ベ ー ス (MacWhinney 2000)に 含 ま れ る 幼 児 英 語 発 話 コ ー パ ス の 内 ,
7 名 分 の コ ー パ ス に 対 し ,分 析 を 実 施 し た .分 析 対 象 と な っ た コ ー パ
ス は , Ta b l e 1 の と お り で あ る .
年齢範囲
分析
(歳;月:日)
ファイル数
Abe
2;04:24 - 3;07:28
Adam
幼児名
幼児発話数
データ収集者
120
14,944
Kuczaj (1976)
2;03:04 - 3;05:01
40
32,479
Brown (1973)
Eve
1;06 - 2;03
20
10,626
Brown (1973)
Naomi
1;02:29 - 3;04:18
85
13,233
Sachs (1973)
Nina
1;11:16 - 3;03:21
52
30,408
Suppes (1973)
Peter
1;09:08 - 3;01:20
20
22,580
Bloom (1970)
Sarah
2;3:05 - 3;07:23
70
14,279
Brown (1973)
138,549
Total
Ta b l e 1 : 分 析 対 象 と な っ た 幼 児 英 語 発 話 コ ー パ ス
分 析 方 法 と し て は , CHILDES デ ー タ ベ ー ス に 付 属 す る 検 索 プ ロ
グ ラ ム で あ る C L A N を 用 い て ,w h y を 含 む 幼 児 の 発 話 を す べ て 拾 い 上
げ ,そ れ ら を 1 つ ず つ 確 認 し ,n o t あ る い は n o が 後 続 す る 発 話 の 数 を
明らかにした.
分 析 結 果 は Ta b l e 2 の と お り で あ る .
幼児名
Why not?の 発 話 数
Why no?の 発 話 数
Abe
1
0
Adam
124
0
Naomi
2
0
Sarah
1
0
7
TOTAL
128
0
Ta b l e 2 : 分 析 結 果
分析対象となった 7 名の幼児の内,4 名が関連する表現を発話し
た . こ れ ら の 発 話 は す べ て Why not? と い う 形 式 で , Why no? と い う
発 話 は ま っ た く 見 ら れ な か っ た .各 幼 児 の 発 話 の 具 体 例 は 以 下 の と お
りである.
(7)
(8)
(9)
Abe (3;06:26)
* FAT:
hey don't touch the caterpillar .
*CHI:
why not ?
Adam (2;09:18):
* M O T:
no (.) he doesn't have any teeth yet .
*CHI:
why not ?
* M O T:
he's too small .
Naomi (3:03;26)
*CHI:
why ?
* M O T:
because (.) that's one of those questions I can't
answer honey .
* M O T:
I can answer why when you ask me some things but
+...
*CHI:
why not ?
* M O T:
other things are just very hard to answer that
question .
(10) Sarah (3;02:16)
*GLO:
we're not going to use this microphone today .
*GLO:
because the machine is broken .
*CHI:
why not ?
*GLO:
and it's being fixed .
こ れ ら の 幼 児 は Why not?と 同 時 期 に , こ の 表 現 と は 独 立 に why を
8
含 む 疑 問 文 を 発 話 し て い る た め ,W h y n o t ? を 1 つ の「 固 ま っ た 表 現 」
としてのみ発話している可能性は低いと考えられる.
( 11 ) a .
Abe:
why you doing work at home ?
(2;07)
b.
Adam:
why you (s)miling ?
(2;08:16)
c.
Naomi:
why we reading Connecticut ?
(2;08:14)
d.
Sarah:
why need them more ?
(2;08.25)
2.5. 幼 児 の 発 話 分 析 の 結 果 に 関 す る 議 論
7 名 の 幼 児 を 対 象 と し た 自 然 発 話 分 析 の 結 果 か ら ,英 語 の 獲 得 に お
い て は , Why not?と い う 発 話 は 観 察 さ れ る も の の , Why no?と い う 誤
り は ま っ た く 観 察 さ れ な い こ と が 明 ら か と な っ た .こ の 発 見 は ,英 語
獲 得 の 観 察 し う る 最 初 期 か ら , 幼 児 は not が , そ し て not の み が 文 否
定の要素であるという知識をもつことを示唆しており,したがって,
「 幼 児 が not と no を 区 別 せ ず に , 両 者 を 文 否 定 と し て 用 い る 段 階 が
あ る 」 と い う Déprez & Pierce (1993)の 主 張 に と っ て 問 題 を 提 起 す る
と 考 え ら れ る .2 , 3 英 語 獲 得 に お い て 文 頭 に 現 れ る n o が ,文 否 定 の 要
素 で は な い と す る と ,そ れ に 後 続 し て い る 主 語 は 動 詞 句 内 に 留 ま っ て
い る と い う こ と に は 必 ず し も な ら ず , よ っ て Déprez & Pierce (1993)
が 提 示 し た 英 語 獲 得 か ら の 動 詞 句 内 主 語 仮 説 に 対 す る 証 拠 は ,そ の 効
力を非常に弱めることになる.4
2
分 析 し た 範 囲 内 で は , 英 語 獲 得 に お い て , Why not?の 方 が , 文 頭 否 定 文
よ り も 出 現 時 期 が 若 干 遅 い よ う で あ る . こ の 観 察 は , Why not?が 発 話 さ れ
え る よ う に な る ま で に ,文 頭 否 定 文 の 出 現 時 期 が 終 わ っ て い る 可 能 性 を 生
じ さ せ る た め ,本 論 に と っ て 問 題 と な り う る .さ ら に 多 く の コ ー パ ス を 分
析 す る こ と に よ り ,こ の よ う な 獲 得 時 期 の 差 が ど の 程 度 一 般 的 で あ る か を
明らかにする必要があり,その点については今後の検討課題とする.
3
こ の 発 見 は , Stromswold & Zimmermann (1999/2000)に よ る ド イ ツ 語 獲 得
からの証拠と合致する.彼らの研究では,5 名のドイツ語を母語として獲
得 中 の 幼 児 の 自 然 発 話 を 分 析 し , こ れ ら の 幼 児 が nicht ‘not’と nein ‘no’を
区 別 し ,一 貫 し て 前 者 を 文 否 定 ,後 者 を 照 応 否 定 と し て 用 い て い る こ と を
明らかにしている.
4
Déprez & Pierce (1993)の 分 析 が 妥 当 で な い の で あ れ ば , 英 語 獲 得 で 観 察
される文頭否定文はどのように分析されるべきか,という問いが生じる.
9
Déprez & Pierce (1993)の 分 析 が 妥 当 で は な い と な る と , 果 た し て 幼
児 の も つ 英 語 の 知 識 に お い て ,英 語 を 母 語 と す る 成 人 の も つ 言 語 知 識
と 同 様 に ,主 語 が 動 詞 句 内 に 基 底 生 成 さ れ て い る こ と を 示 す 他 の 証 拠
が あ る だ ろ う か ,と い う 問 い が 新 た な 研 究 課 題 と し て 生 じ る .次 節 で
は , Chomsky (2012a,b)に よ る 英 語 の yes/no 疑 問 文 に 関 す る 新 た な 理
論的分析に基づき,この問いに取り組む.
3.
英 語 獲 得 に お け る yes/no 疑 問 文 と 動 詞 句 内 主 語 仮 説
3.1. 英 語 の yes/no 疑 問 文 に お け る 助 動 詞 の 移 動 と そ の 理 論 的 含 意
Chomsky (1968: 61-2)な ど で 議 論 さ れ て い る よ う に , ヒ ト の 言 語 機
能 を 特 徴 づ け る 重 要 な 属 性 の 1 つ に ,「 言 語 機 能 に お け る 操 作 が , 線
的 順 序 で は な く , 構 造 に 依 存 す る 」 と い う 「 構 造 依 存 性 」 (structure
d e p e n d e n c e ) が あ る .こ の「 構 造 依 存 性 」を 示 す 例 と し て 頻 繁 に 議 論 さ
れ て き た 現 象 の 1 つ が ,英 語 の y e s / n o 疑 問 文 に お け る「 主 語 - 助 動 詞
の 倒 置 」 (subject-auxiliary inversion)で あ る . 典 型 的 な 具 体 例 を (12)(13)に あ げ る .
(12) a.
b.
They will pay the subjects who will act as controls.
Wi l l t h e y
pay the subjects who will act as
controls?
c.
* Wi l l t h e y w i l l p a y t h e s u b j e c t s w h o
act as
controls?
(13) a.
b.
c.
The subjects who will act as controls will be paid.
Wi l l t h e s u b j e c t s w h o w i l l a c t a s c o n t r o l s
* Wi l l t h e s u b j e c t s w h o
be paid?
act as controls will be paid?
線 的 順 序 に 基 づ い て こ れ ら の 例 を 考 え た 場 合 ,文 頭 へ 移 動 し て い る
こ の 問 い に つ い て は ,す で に い く つ か の 提 案 が な さ れ て い る .例 え ば D r o z d
(1995)は ,10 名 の 英 語 を 母 語 と す る 幼 児 の 自 然 発 話 分 析 を 行 っ た 結 果 ,大
部 分 の 文 頭 否 定 文 は , No way Leila have a turn. の よ う な , 感 嘆 的 否 定
( e x c l a m a t o r y n e g a t i o n ) と し て 解 釈 で き る こ と を 明 ら か に し ,そ れ に 基 づ き ,
文 頭 に 現 れ て い る no は 純 粋 な 文 否 定 で は な く , no way の よ う な , 前 の 発
話に対して異議を唱える表現であると主張している.
10
の は , (12)に お い て は 文 の 中 で 最 初 に 現 れ た 助 動 詞 で あ る が , (13)で
は , 文 の 中 で 2 番 目 ( あ る い は 最 後 )に 現 れ た 助 動 詞 で あ る . こ の よ
う に ,線 的 順 序 に 基 づ い た 分 析 で は ,ど の 助 動 詞 が 文 頭 に 移 動 す る の
かを統一的に説明することが難しい.一方,構造に基づく分析では,
「 構 造 的 に 最 も 高 い 位 置( つ ま り 主 節 )に あ る 助 動 詞 が 移 動 す る 」と
い う 統 一 的 な 説 明 が 可 能 と な る た め ,( 1 2 ) - ( 1 3 ) に 示 し た 英 語 の y e s / n o
疑 問 文 に お け る「 主 語 - 助 動 詞 の 倒 置 」は ,助 動 詞 の 移 動 が 構 造 に 基
づく操作であることを端的に示すものと考えられている.5
上 記 の 例 は ,埋 め 込 み 節 を 伴 う こ と に よ り ,文 中 に 2 つ の 助 動 詞 を
含 む 文 に お け る 助 動 詞 の 移 動 を 扱 っ た も の で あ る が ,近 年 の 研 究 で あ
る C h o m s k y ( 2 0 1 2 a , b ) で は ,( 1 4 ) の よ う な 埋 め 込 み 節 を 伴 わ な い 単 文 に
お け る「 主 語 - 助 動 詞 の 倒 置 」に お い て も ,説 明 さ れ る べ き 重 要 な 問
いが潜んでいると主張する.
(14) a.
b.
Yo u n g c h i l d r e n c a n w r i t e s t o r i e s .
Can young children
write stories?
その問いとは,
「 英 語 の yes/no 疑 問 文 の 形 成 に お い て 移 動 す る 要 素 は ,
な ぜ 述 部 (predicate)の 中 で 中 心 的 な 要 素 で あ る 助 動 詞 で あ っ て , 主 語
の 名 詞 句 の 中 で 中 心 的 な 要 素 を 成 し て い る 名 詞 で は な い の か 」と い う
問 い で あ る .よ り 具 体 的 に は ,な ぜ ( 1 4 b ) が 文 法 的 で あ っ て ,( 1 5 ) は 非
文法的であるのか,という問いである.
(15)* Children young
can write stories?
C h o m s k y ( 2 0 1 2 a , b ) は ,( 1 5 ) の 非 文 法 性 に 対 し ,M P の 枠 組 み に 基 づ い
た 次 の よ う な 分 析 を 提 案 し て い る . ま ず , 文 は Complementizer を 主
要 部 と す る 句 (CP)で あ り , 英 語 の yes/no 疑 問 文 の 形 成 に お い て は , C
が そ こ に 移 動 し て く る べ き 主 要 部 を 探 索 (search)す る , と 仮 定 す る .
そ の 探 索 の 際 ,「 第 三 要 因 」 で あ る 演 算 の 効 率 性 に よ り , C は 構 造 的
5
Crain & Nakayama (1987)は , 英 語 を 母 語 と す る 幼 児 を 対 象 と し た , 発 話
引 き 出 し 法 (elicited production)を 用 い た 実 験 を 行 い , こ れ ら の 幼 児 が (13c)
に 相 当 す る よ う な 誤 っ た 文 を 発 話 し な い こ と を 示 す こ と に よ り ,幼 児 の 言
語知識が構造依存性に制約されたものであると主張している.
11
に 最 も 近 い 位 置 に あ る 主 要 部 を 選 び 出 す .動 詞 句 内 主 語 仮 説 が 正 し け
れ ば , (16)に 示 す よ う に , C が 探 索 を 行 う 際 , 主 語 は TP の 指 定 部 の
位 置 で は な く 動 詞 句 内 に あ る た め ,C の 位 置 か ら 見 て 構 造 的 に 最 も 近
い 要 素 は T の 位 置 を 占 め る 助 動 詞 と な る .結 果 と し て ,な ぜ 移 動 す る
要素は助動詞であって主語内の名詞ではないのかという問いに対す
る答えが容易に得られる.6
S e a rc h
(16) [
C [
canT
[vP
[young children] write stories
] ] ]
Chomsky (2012a,b)に よ る yes/no 疑 問 文 の 形 成 に 関 す る こ の 分 析 で
は , 動 詞 句 内 主 語 仮 説 が 中 心 的 な 役 割 を 果 た し て い る 為 ,「 ( 1 4 b ) が 文
法 的 で あ り ,(15)が 非 文 法 的 で あ る と い う 事 実 は ,動 詞 句 内 主 語 仮 説
に 対 す る 強 力 な 証 拠 と な る 」 と Chomsky は 主 張 す る . 3.2. 英 語 獲 得 に お け る yes/no 疑 問 文 の 発 話 分 析
も し C h o m s k y ( 2 0 1 2 a , b ) が 主 張 す る よ う に ,( 1 7 a ) が 可 能 な 文 で あ り ,
(17b)が 許 容 さ れ な い 文 で あ る と い う 事 実 が 動 詞 句 内 主 語 仮 説 に 対 す
る証拠であるならば,
「 果 た し て 英 語 を 母 語 と す る 幼 児 が (17b)の よ う
な 誤 り を 示 す の か ど う か 」を 調 べ る こ と に よ り ,こ れ ら の 幼 児 の 発 話
する文において主語が動詞句内に基底されているかどうかを明らか
に す る こ と が で き る は ず で あ る .よ り 具 体 的 に は ,も し 幼 児 が ( 1 7 b ) の
よ う な 誤 り を 示 す の で あ れ ば ,幼 児 の 言 語 知 識 は 動 詞 句 内 主 語 仮 説 に
沿ったものではないことになる.
(17) a.
Can young children
b. * Children young
write stories?
can write stories?
英 語 を 母 語 と す る 幼 児 の 発 話 に お い て , (17b)の よ う な 誤 り が 実 際
に 観 察 さ れ る か ど う か を 明 ら か に す る た め に , CHILDES デ ー タ ベ ー
ス (MacWhinney 2000)に 含 ま れ る 幼 児 英 語 発 話 コ ー パ ス の 内 , 3 名 分
のコーパスに対し,分析を実施した.分析対象となったコーパスは,
6
Chomsky (2012a,b)に よ る 分 析 に 関 す る 詳 細 な 議 論 お よ び そ の 問 題 点 の
指 摘 に 関 し て は , K i t a h a r a ( 2 0 11 ) を 参 照 さ れ た い .
12
Ta b l e 3 の と お り で あ る .
年齢範囲
分析
(歳;月:日)
ファイル数
Adam
2;03:04 - 5;02:12
Eve
Sarah
幼児名
幼児発話数
データ収集者
55
44,034
Brown (1973)
1;06 - 2;03
20
10,626
Brown (1973)
2;03:05 - 5;01:06
139
29,467
Brown (1973)
Ta b l e 3 : 分 析 対 象 と な っ た 幼 児 英 語 発 話 コ ー パ ス
分 析 方 法 と し て は , CHILDES デ ー タ ベ ー ス に 付 属 す る 検 索 プ ロ グ
ラ ム で あ る CLAN を 用 い て , 疑 問 符 (“?”)を 伴 っ た 幼 児 の 発 話 を す べ
て 見 つ け 出 し , そ れ ら を 1 つ ず つ 確 認 し , (18)に あ る 3 種 類 の yes/no
疑問文に分類した.
(18) 分 類 :
a.
助動詞の移動を伴った,一語からなる主語を含む
yes/no 疑 問 文 :
Can you
b.
write stories?
助 動 詞 の 移 動 を 伴 っ た ,複 数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 む
yes/no 疑 問 文 :
Can young children
c.
write stories?
名詞の移動を伴った,複数の語からなる主語を含む
yes/no 疑 問 文 :
* Children young
can write stories?
結 果 は , Ta b l e 4 に 示 し た と お り で あ っ た . こ れ ら 3 名 の 幼 児 の 発
話 に お い て は ,助 動 詞 の 移 動 を 伴 っ た 一 語 か ら な る 主 語 を 含 む y e s / n o
疑 問 文 が y e s / n o 疑 問 文 の 発 話 の 大 部 分 を 占 め て い た が ,2 名 の 幼 児 に
つ い て は , 複 数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 む yes/no 疑 問 文 の 発 話 も あ る
程 度 観 察 さ れ た .こ れ ら の y e s / n o 疑 問 文 は ,す べ て 助 動 詞 の 移 動 を 伴
っ て お り , 名 詞 の 移 動 を 伴 う 誤 っ た yes/no 疑 問 文 は ま っ た く 観 察 さ
れ な か っ た . 複 数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 む yes/no 疑 問 文 の 発 話 の 具
13
体 例 を (19)-(20)に 示 す .
複数の語からなる主語を含む
助動詞の移動を伴う,
yes/no 疑 問 文
幼児名
一語からなる主語を
助動詞の移動
名詞の移動
を伴う
を伴う
含 む yes/no 疑 問 文
Adam
1345
50
0
Eve
34
0
0
Sarah
570
18
0
Total
1949
68
0
Ta b l e 4 : 幼 児 に よ る y e s / n o 疑 問 文 の 発 話 数
(19) Adam に よ る 複 数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 む yes/no 疑 問 文 :
a.
*CHI:
does this top go on here ?
(3;03:18,)
b.
*CHI:
can my train go in the water ?
(3;05:29)
(20) Sarah に よ る 複 数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 む yes/no 疑 問 文 :
a.
*CHI:
does that one get a button ?
(3;07:23)
b.
*CHI:
Mama (.) is the knife ready ?
(3;10:01)
3.3. 幼 児 に 与 え ら れ る 言 語 経 験 に お け る yes/no 疑 問 文 の 分 析
Chomsky (2012a,b)に よ る 英 語 の yes/no 疑 問 文 の 形 成 に 関 す る 分 析
が 正 し く ,か つ 前 節 で 得 ら れ た 結 果 が ,幼 児 の も つ y e s / n o 疑 問 文 に 関
する言語知識が成人のそれと同質であることから生じているのであ
れば,上記の結果は,英語を母語とする幼児の言語知識においても,
主語は動詞句内に基底生成されていることを示すものとなる.一方,
他 の 分 析 の 可 能 性 と し て , 幼 児 は yes/no 疑 問 文 の 形 成 に 関 し て 成 人
と 同 質 の 知 識 を も つ に は 至 っ て お ら ず ,上 記 の 結 果 は ,幼 児 が 単 に 言
語経験から導き出した表面的な一般化から生じたものであるという
可 能 性 が あ る .よ り 具 体 的 に は , 以 下 の 様 な 「 学 習 」 の 可 能 性 が 考 え
られる.
14
(21) 言 語 経 験 に 基 づ く 「 学 習 」 の 可 能 性 の 1 つ :
a.
( 2 2 a ) の よ う な , 一 語 か ら な る 主 語 を 含 み ,「 倒 置 」 を
伴 っ た y e s / n o 疑 問 文 に 接 す る こ と で ,英 語 を 獲 得 中 の
幼 児 は ,「 y e s / n o 疑 問 文 の 形 成 に お い て は 何 ら か の 要
素が文頭に移動しなければならない」と推測する.
b.
文頭へ移動すべき要素に関して,幼児は2種類の
可能性を検討する.
c.
(i)
文の中にある助動詞を移動する.
(ii)
文の中の2番目の要素を移動する.
( 2 2 b ) の よ う な ,複 数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 み ,か つ 助
動 詞 が 移 動 し て い る 文 に 豊 富 に 接 す る こ と に よ り ,幼
児 は (i)を 採 用 し , (ii)を 排 除 す る .
(22) a.
b.
c.
Can you
write stories?
Can young children
* Children young
write stories?
can write stories?
こ の よ う な 言 語 経 験 に 基 づ く「 学 習 」に よ る 獲 得 の 妥 当 性 を 明 ら か
に す る た め に , 複 数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 む yes/no 疑 問 文 を 発 話 し
た 2 名 の 幼 児 ( Adam と Sarah) の コ ー パ ス に お い て , 親 が 発 話 し た
y e s / n o 疑 問 文 に つ い て 分 析 を 実 施 し た .分 析 方 法 と し て は ,C H I L D E S
デ ー タ ベ ー ス に 付 属 す る 検 索 プ ロ グ ラ ム で あ る CLAN を 用 い て , 疑
問 符 (“?”)を 伴 っ た 母 親 の 発 話 を す べ て 見 つ け 出 し , そ れ ら を 1 つ ず
つ 確 認 し ,複 数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 み ,か つ 助 動 詞 が 移 動 し て い る
文 が ど れ だ け 発 話 さ れ て い る か を 調 査 し た .分 析 対 象 と し た フ ァ イ ル
は , 複 数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 む yes/no 疑 問 文 を 幼 児 が は っ き り と
発話したファイルの直前までである.
結 果 は , Ta b l e 5 の と お り で あ っ た .
15
移 動 を 伴 う yes/no 疑 問 文 の 発 話 数
分析対象
母親の
ファイル
全発話数
一語からなる
複数の語から
主語を含む
なる主語を含む
Adam の 母 親
01-27
10420
732 (97.60%)
18 (2.40%)
Sarah の 母 親
001-070
15270
533 (99.07%)
5 (0.93%)
Ta b l e 5 : 幼 児 に 向 け ら れ た 発 話 に お け る y e s / n o 疑 問 文 の 発 話 数
Ta b l e 5 に 示 さ れ る と お り , 幼 児 に 向 け ら れ た 発 話 に お い て , 複 数
の 語 か ら な る 主 語 を 含 む y e s / n o 疑 問 文 は 極 め て 少 な く ,S a r a h に 関 し
て は ,y e s / n o 疑 問 文 の 発 話 全 体 の 1 % に も 満 た な か っ た .L e g a t e & Ya n g
(2002)は ,空 主 語 パ ラ メ ー タ を 英 語 タ イ プ の 値 ,つ ま り 空 主 語 を 許 さ
な い 値 に 固 定 す る た め に 必 要 と 考 え ら れ る t h e re 構 文 の 頻 度 を 分 析 し ,
幼 児 に 向 け ら れ た 発 話 に お け る そ の 頻 度 は 全 体 の 発 話 数 の 約 1.2%で
あ る こ と を 明 ら か に し た . Sarah に 与 え ら れ た 言 語 経 験 に お い て , 複
数 の 語 か ら な る 主 語 を 含 む yes/no 疑 問 文 の 頻 度 は こ の 値 を 下 回 る も
の で あ る . し た が っ て , 英 語 を 母 語 と す る 幼 児 に 対 し , (21b)の (ii)に
あ る「 文 の 中 の 2 番 目 の 要 素 を 移 動 す る 」と い う 可 能 性 を 排 除 す る の
に 十 分 な 数 の yes/no 疑 問 文 が 必 ず 与 え ら れ て い る と は 考 え に く い .
つ ま り ,幼 児 が ,周 り の 大 人 か ら 与 え ら れ る 言 語 経 験 の み に 基 づ い て ,
「 y e s / n o 疑 問 文 の 形 成 の 際 に は 助 動 詞 を 移 動 さ せ ね ば な ら な い 」と い
う知識を導き出している可能性は低いと考えられる.言い換えれば,
Ta b l e 5 に 示 し た 結 果 は ,前 節 で 得 ら れ た 幼 児 の 発 話 に 関 す る 結 果 が ,
言 語 経 験 に 基 づ く「 学 習 」か ら 生 じ て い る の で は な く ,成 人 の 言 語 知
識 に お け る yes/no 疑 問 文 の 形 成 と 同 様 に , 主 語 が 動 詞 句 内 に 基 底 生
成されていることから生じている可能性を高めるものである.
3.4. 幼 児 英 語 に お け る yes/no 疑 問 文 : 議 論
3 節 で は ,英 語 を 母 語 と す る 3 名 の 幼 児 の 自 然 発 話 を 分 析 す る こ と
に よ り , 助 動 詞 の 移 動 を 伴 っ た yes/no 疑 問 文 の 発 話 は 観 察 さ れ る の
16
に 対 し , 主 語 に 含 ま れ る 名 詞 の 移 動 を 伴 う 誤 っ た yes/no 疑 問 文 は ま
っ た く 観 察 さ れ な い こ と を 明 ら か に し た .ま た ,そ れ と 同 時 に ,こ の
結 果 を ,幼 児 に 与 え ら れ る 言 語 経 験 の み に 基 づ い て 説 明 す る こ と は 難
し い こ と も 明 ら か に し た .し た が っ て ,C h o m s k y ( 2 0 1 2 a , b ) の 統 語 分 析
が 正 し け れ ば ,本 節 で 得 ら れ た 結 果 は ,幼 児 の も つ 英 語 の 知 識 に お い
て も ,観 察 し う る 最 初 期 か ら 主 語 が 動 詞 句 内 に 基 底 生 成 さ れ て い る こ
とを示すものと言える.
4.
結論:幼児英語における動詞句内主語仮説
本 稿 で は ,英 語 を 母 語 と す る 幼 児 の 言 語 知 識 に お い て も ,主 語 が 動
詞 句 内 に 基 底 生 成 さ れ て い る か 否 か と い う 問 い を 取 り 上 げ ,英 語 獲 得
か ら の 新 た な 事 実 に 基 づ く 再 検 討 を 行 っ た . ま ず , Déprez & Pierce
(1993)の 提 示 し た 「 文 頭 否 定 文 」 か ら の 証 拠 に 対 し , Merchant (2006)
に よ る Why not?の 理 論 的 分 析 に 基 づ い て 幼 児 発 話 か ら 新 た な 事 実 を
発 掘 し ,そ の 妥 当 性 に 関 し て 疑 問 を 投 げ か け た .そ の 後 ,主 語 が 動 詞
句内に基底生成されていることを示す他の証拠を探るために,
Chomsky (2012a,b)に よ る MP の 枠 組 み で の yes/no 疑 問 文 の 分 析 を 採
用 し , 主 語 に 含 ま れ る 名 詞 の 移 動 を 伴 う 誤 っ た yes/no 疑 問 文 の 発 話
が 英 語 を 母 語 と す る 幼 児 に 見 ら れ る か ど う か を 調 査 し た . Chomsky
( 2 0 1 2 a , b ) の 分 析 が 正 し け れ ば ,こ の よ う な 誤 り が 観 察 さ れ な い と い う
発 見 は ,幼 児 英 語 に お い て も や は り 主 語 が 動 詞 句 内 に 基 底 生 成 さ れ て
いることを示すものである.
ま と め る と ,本 研 究 は ,幼 児 の も つ 英 語 の 知 識 が「 動 詞 句 内 主 語 仮
説 」を 満 た す も の で あ る こ と を 新 た な 証 拠 を 用 い て 示 す と 同 時 に ,
「ミ
ニ マ リ ス ト・プ ロ グ ラ ム 」に お け る 理 論 的 研 究 と 母 語 獲 得 研 究 と が ど
の よ う に 関 わ り 得 る か に 関 し て ,1 つ の 具 体 例 を 提 示 す る も の で あ る .
17
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