卒業論文講評と要旨(PDF版);pdf

勝俣ゼミ卒業論文講評
仕事の社会学を中心とするゼミナール
担当
今年度の本ゼミでは、12 名の学生が卒業論文
勝俣
達也
る考え方の違いを生み出していることを説得的
を提出した。各自が問題意識をもって研究テー
に示している。二次文献による研究ではあるが、
マに取り組み、卒業論文として十分な水準の論
フリーターの存在や意識が社会的につくられて
文を書き上げたと思う。以下、各論文の講評に
いることを示した社会学らしい論文であった。
移る。
青木論文は、
「流行」という現象の現在のあ
皆川論文は、女性がとくに出産や育児によっ
り方について、ボーカロイドを題材に考察した
て中断することなく働き続けるための仕組みと
論文である。筆者によれば、大衆社会における
して短時間正社員制度に注目した。この制度は、
存在の「不安」を解消するための「流行」のあ
企業側と労働者側双方から十分なニーズがある
り方は、近年、他者との関わりがインターネッ
にも関わらず、まだまだ設置あるいは利用され
トという仮想空間で行われるようになったこと
ていない。筆者はそうした状況をふまえて、短
で変化しているという。そのもっとも先鋭的な
時間正社員制度を導入している企業に関する既
例の一つが、動画サイトのコメント機能などを
存の事例研究の検討や、自身で某百貨店の人事
フルに活用しながら筆者のいう「安心感」や「共
担当者に行ったインタビュー調査にもとづいて、
有」を与えるボーカロイドの流行である。筆者
どのような状況のもとで、短時間正社員制度が
の「流行」に関する関心と、ネット社会におけ
うまく機能しているのかを分析した。先行研究
る人間関係をとらえる感性をベースとして、興
を丁寧に読み込んでおり、企業の人事部にイン
味深い議論が展開されている。
タビュー調査を行った努力も高く評価できる。
木田論文は、地方出身者の地域間移動を行う
田口論文は、いわゆる典型的な「移行」のル
際の決定要因について、6 名の若者に対するイ
ートからはずれたノンエリート青年の自己意識
ンタビューのデータから考察したものである。
のあり方について、具体的には声優あるいはミ
地方出身者がどのような移動のパターンを選択
ュージシャンを目指す二人の若者へのインタビ
するかは、その人生に決定的な影響を与える。
ュー調査にもとづいて検討した。生活史をふく
本論文では、インタビューのデータから、移動
めた事例の記述からは、筆者のインタビュアー
の決定要因として 4 つの具体的な要因を抽出し、
としての能力や、データを文章化する力がうか
さらにそれが各人の「地元」に対する様々な愛
がわれる。とりわけ、
「夢」の「諦め方」が当事
憎のかたちへと結実する形で意識化されている
者によって“あらかじめ”どのように意識され
ことを明らかにした。移動経験という古くて新
ているのかという興味深い点を焦点化したこと
しい普遍的なテーマをとりあげた論文であった。
が、この論文の大きな意義であると思われる。
木村論文は、タイトルのとおり「ファッショ
小野田論文も、フリーターに関する研究であ
ン」を「楽しむ」ということがテーマである。
る。社会的にネガティブな存在とみなされがち
筆者はファッションの「方向性の決定」と「楽
なフリーターだが、筆者自身彼らとそれほど働
しみ方」という二つの点から、ファッションと
くことに対する考え方に大きな違いはないとい
の関わり方をテーマに、路上でのインタビュー
う。それでもフリーターとそうでない人のおか
調査を行った。かなりハードルが高い方法の調
れた状況や経験の違いが、たとえば「やりたい
査をよく実践し、そのデータをしっかりとまと
こと志向」のあらわれ方など、働くことに対す
めている点は高く評価される。「方向性の決定」
1
勝俣ゼミ
と「楽しみ方」の類型化とその関連付け方も説
無償化」が進められてきたが、教育の質の低下
得的であった。筆者の視点のオリジナリティは
や、教育が就労につながらないという点、さら
「楽しむ」という点であったと思う。
には途上国側の援助依存体質や、援助国側の政
山崎論文は、女性の継続就労の問題について
治的・経済的な利害の問題など様々な問題や難
考察した論文である。筆者は、女性の働き方を
しさが依然として存在することが論じられてい
制約する様々な社会状況や男性中心の企業社会
る。筆者は、こうした現状に対して、現場の視
のあり方を批判するが、とくにこだわったのは、
野に立った被援助国の自立的・持続的な発展の
女性自身にも根強く残る性別役割分業意識であ
ための開発教育が必要であるとする。
る。専修大学の女子学生に行ったアンケート調
矢島論文は、現代の若い女性がなぜやせたい
査の結果から、とくに母親の就業パターン(専
という願望を過剰にもつのか、そしてそうした
業主婦・両立・再就職)が、女子学生の性別役
願望に対してマス・メディア、とりわけ女性雑
割分業意識にストレートに影響を与えているこ
誌がどのようなメッセージを発信して影響を与
とを明らかにしている。また、男女平等を原則
えているのかということを分析した論文である。
とする学校社会から、突然男中心の企業社会へ
女性が過剰なやせ願望をもつ(もたされる)こ
の適合を迫られる女子大学生の困難についての
とに対する批判的な分析がベースになっている
議論も説得的であった。
が、論文としては女性雑誌のダイエット記事を
原論文は、東京ディズニーリゾート(以下
丹念に分析した後半部分の価値が高い。とくに
TDR)について考察した論文である。筆者は TDR
90 年代と 00 年代では、ダイエット記事の内容
の魅力を「世界観」
・
「キャスト」
・
「ゲスト効果」
に若干の質的な変化が見られるという分析は、
の3点から分析し、人々がそこから得られる「感
大変興味深い。
情体験」こそが、TDR に人が集まる本質である
滝下論文は、企業が採用活動を行う上で、
「学
とした。TDR に関する文献は、その経営や接客
歴」と「性別」という属性をどのように考慮し
手法を礼賛する一般書が多く、人文・社会科学
ているのか、そしてそれとあわせてそうした属
的な研究の先行研究としては扱いにくい。筆者
性が学生たち自身の就職活動にどのような影響
もそうした問題に直面していたのだが、独自に
を与えているのかについて、既存の統計的な研
アンケート調査を行ってそのデータを分析をす
究をもとに議論を行った。企業の採用活動や学
すめる一方、感情社会学の文献を参照すること
生の就職活動は、学歴あるいは学校歴といった
で論文としての突破口が開かれた。
シグナルによって枠づけられてしまう。しかし、
浅野論文は、
「ゲーム依存者」とはどういう
女子学生の場合は、性別という属性の影響が、
人々のことを指すのか、あるいはなぜ近年「ゲ
むしろ学歴シグナルを貫徹させないというさら
ーム依存者」が増えてきたのかという2点につ
に矛盾した状況の中で、立ち回らざるを得ない
いて、論じたものである。前者の問いに関する
という状況がとらえられている。
議論も興味深いが、とくに後者の議論に関して、
最後に、全体的にみた今年度の卒論の特徴に
小此木啓吾の「1.5 の関係」という概念を発展
ついて簡単に述べておきたい。本年度の 4 年生
的に利用して議論を展開している部分に、筆者
は、勝俣ゼミの第 2 期生である。この第 2 期生
の優れた力量が感じられる。オンラインゲーム
が 3 年次のときには、前期はゼミで共通文献を
に熱中する依存者の自己意識のあり方が丁寧に
輪読したが、後期は各自の自由なテーマで文献
描かれており、ゲームという舞台を利用したイ
やインタビュー調査の報告を順番に行ってもら
ンターネット上の人間関係の特徴を論じた議論
った。3 年次から各自にテーマを模索させ、報
としても優れている。
告の機会を与え、ゼミ論文を書いてもらったこ
秋谷論文は、先進国が途上国の教育開発に関
とが、卒論のテーマの探求にうまくつながった
わる際の諸問題や難しさについて論じたもので
かどうかは個々の学生によって異なったように
ある。ユネスコなどが中心となって「初等教育
思う。3 年次のゼミで何をしておくべきかとい
2
2014 年度
卒業論文講評
う問題はやはり難しい。
また、本ゼミではとくに 4 年次の後半になる
と、少人数か個別に指導することが多くなるの
であるが、にも関わらずかなり学生たちの問題
関心に重なり合う部分が見られたことは興味深
かった。田口論文と小野田論文(フリーター)
、
青木論文と木村論文(流行)
、山崎論文と滝下論
文(女子大学生の就職)などテーマが近い場合
はもちろんであるが、個々の議論や問題関心の
レベルでは他にもある。論文の指導をしながら、
学生たちの問題意識や議論の重なりとズレから
こちらが教えられることも多かったように思う。
3
2014 年度
卒業論文要旨
短時間正社員制度の可能性を
広げるために
LH21-4080E
皆川
夢を追うこと・諦めること
~フリーターの葛藤~
夏実
HS23-0022D
現在の日本の労働条件では女性が結婚・出産後
も仕事を続ける事は難しい。しかし、一旦退職し
しまうと、子どもを抱えての再就職は難しい。女
性が会社を辞めずに仕事と育児の両立をしてい
くための働き方として、「短時間正社員制度」が
あることを知った。第一章では、まだ世の中にあ
まり知れ渡っていない制度の概要について論じ
ている。短時間正社員制度は、法律でもしっかり
規定されていたが、その対象は3歳までであった。
第二章では、制度の現状について論じている。制
度は、労働者側にとっては主に子育て世代にあた
る 30 代 40 代の女性が仕事と育児の両立のために
必要と感じているが、賃金の減少を不安に感じて
いる。一方、企業側にとっては、人材の流出を防
ぐことができるからというニーズはあるが、業務
の生産性の面で不安を抱えている。また短時間正
社員制度の問題点として、フルタイム正社員との
違い、賃金水準の決定方法を挙げた。正社員に求
められる働き方の中には、短時間勤務者がこなす
ことの出来ない部分もある。これらが短時間勤務
者のキャリアアップの妨げになってしまう。賃金
決定は、企業・労働者の両者に不満がないように
設定することが難しい。そして制度の導入状況は、
2011 年に 58.5%となっている。その他の子育て
支援政策と比べても、多く導入されていることが
分かった。第三章では、実際に制度を上手く運用
している企業の事例から制度を上手く運用する
ための状況を検討する。それらは法律が整備され
た 2007 年以前にすでに短時間正社員にあたる制
度を導入さていたこと、女性社員が多い企業であ
るということ、就業形態が多数設定されていると
いうこと、そして短時間勤務をキャリアアップに
繋げているということである。そして会社と社員、
社員同士の関係を良好にすることによってこれ
らは実現できるのである。
4
田口
葵葉
日本は昔から「中学校卒業後、高校、大学に進
学し就職活動を行い良い会社に入社する」などの
ライフコースを「典型的な道」
「標準的な道」と捉
える者が多かった。しかし現在の日本には「標準
的な持ち」から逸れたフリーターやニートといっ
た非正規雇用者が増加している。論文ではそのよ
うな高校・大学を中退など制度としての移行を失
敗、拒否し「標準的な道」から外れた若者に立ち
はだかる、自立した存在として生きる「意味」を
自分の力で獲得しなければならない立場になった
彼ら/彼女らに向けられる「意味付けの圧力」の
もとで、どのように社会状況を認識しながら「意
味への問い」に向き合おうとしているのか、また
はそのプロセスを明らかにする。
一章ではフリーターになった理由から 3 種類に
分類分けを行った文献を紹介し、分類分けされた
ことによってフリーターの明確な部分が見えなく
なっている事を指摘し、フリーターの具体的な姿
を知ることでどのように社会状況を認識しながら
「意味への問い」に向き合おうとしているのかを
分析するため、ライフヒストリーの重要さを指摘
した。二章では筆者は夢追い型に分類されるフリ
ーターとして働く 2 名にインタビューを行い、2
名がそれぞれどのような意味を持ちながら自身の
「夢」と向き合っているのかを紹介した。第三章
では 2 人の立場や夢に向かう姿勢、フリーターに
対する気持ちを比較し検討した。事例の検討から、
夢追い型として分類分けされていた彼らは「望ん
でフリーターとなった」者と「望まぬままフリー
ターになってしまった」者というフリーターへの
導入が違うことによる「意味への問い」の相違が
みられた。望んでフリーターとなった者は「意味
への問い」に対する覚悟を見る事が出来たが、望
まぬフリーターとなった者は「本来なら就職して
いたのであろう年齢」である「23 歳」への認識が
大きく変わり「意味付けの圧力」となっているこ
とが明らかとなり、同時にフリーターの分類分け
に当てはめてしまうとフリーターの本来の姿が隠
れてしまうということが確認できた。
勝俣ゼミ
フリーターの「やりたいこと」志向を
生む社会的要因
インターネットの普及がもたらす
「流行」の変化
―ボーカロイドから見た一考察―
HS23-0056F
小野田
優
HS23-0061B
現代の若者において、フリーターと非フリータ
ーを分けるものは何なのだろうか。1990 年以降、
フリーターの数は急増し、その原因として若者の
仕事に対する意識の変化、仕事と自分の「やりた
いこと」を結びつけようという考え方がその一つ
だといわれている。しかし若者の意識がその個人
においてのみ変化していくだろうか。若者の意識
の変化には、様々な社会的要因が関わっているの
ではないかと考え、それを明らかにするために、
本論文では、フリーターの「やりたいこと」志向
を生む社会的要因をテーマにし、論じている。
まず第 1 章では、本論文を書いていくにあたっ
て、前提として知っておかなければならないフリ
ーターについて、第 2 章では、若者の就業状況と
社会階層の関連、そして「やりたいこと」と社会
階層の関連、第 3 章は高校生の「やりたいこと」
志向を奨励する学校教育の変化、そして第 4 章で
はフリーターとなった者が「やりたいこと」を志
向し続けられる、もしくはそうせざるを得ない状
況をつくっている社会的要因に焦点を当てて、論
じている。
現代の若者が「やりたいこと」と仕事を結びつ
けるために、その通過点として、フリーターを選
ぶことは、本人のみに原因があるわけではない。
むしろ、若者を取り巻く様々な社会的要因がそう
せざるを得ない状況をつくっているとさえいえる。
フリーターにとっての「やりたいこと」とは、
働くために必要な「きっかけ」なのだ。働くため
の「きっかけ」は、以前はほとんどの若者に与え
られていた。しかし 1990 年以降、それが与えら
れない者が増えた。そして与えられなかった者の
多くは、一時的にフリーターとなり、その「きっ
かけ」を自分で探さなければならなくなった。そ
のフリーター自身が見つけられる「きっかけ」こ
そが「やりたいこと」なのだ。
フリーターの「やりたいこと」は働くことを忌
避するものではなく、むしろ厳しい状況下で、働
くことに没頭するために必要な「きっかけ」なの
だと感じた。
5
青木
卓也
近年、
「流行」
という現象にあてはまるサービス、
商品があらゆる世代で起こっている。それは、短
期間かつ大多数という条件が存在している。しか
し、一昔前に「流行」と現在の「流行」は同じ現
象、条件なのだろうか。このような疑問が生まれ
た理由としては、インターネットとスマートフォ
ンという携帯端末の普及が挙げられる。インター
ネットを利用するのに、時間や場所の制約がなく
なったことで、私たちは twitter や facebook など
といった SNS で情報を発信する、ある意味マス
メディア的な位置に立つようになった。つまり、
マスメディアという一方的に情報を発信するとい
う概念が薄れ、双方的に情報を交換する新たなマ
スメディアの形が完成しつつあるように感じてい
る。
論文では、上記で述べた一般市民がインターネ
ットの普及によって起こった変化が、いかに「流
行」という現象に影響を与えたのか、一昔前の「流
行」の概念、条件と比較を交えつつ述べている。
そして、現代における新しい「流行」の例として、
「ボーカロイド」というコンテンツの「流行」を
挙げて現代の「流行」を考察していく。この「ボ
ーカロイド」というコンテンツの流行は非常に興
味深く、現代の私たちが抱えているあらゆる不安
が起因の一つに存在していた。そして不安を解消
するために、ニコニコ動画などの動画投稿サイト
などで「繋がり」を求めている。今回の論文では
この「繋がり」という言葉がキーワードになって
いる。
それぞれの時代で起こった「流行」を考察する
ことで、その時代の風潮、一般市民の思考などを
読み取ることができる。では現在の「流行」を読
み取ることで、見えてくるものは何であるのか、
考察で明らかとなる。
2014 年度
卒業論文要旨
地方出身者の移動決定の要因
現代ファッションとの関わり方
―上京か地元かの意思決定―
HS23-0064F
木田
-ファッションを楽しむこととは-
遼太郎
HS23-0091A
毎年地方からは、
多数の若者が東京に移動する。
進学のため、就職のため、東京へのあこがれなど
様々な理由がそこには存在するだろう。筆者自身
も、大学進学のため東京に移動し、それがごく自
然な若者の移動の流れであるという認識を持って
いた。しかしその一方で、高校を卒業したのちに
地元企業に就職するなどして、地元に定着し続け
ている友人も数多くいる。また、東京の大学に進
学した同期生の中には、就職を機に地元に戻ると
いう人も少なからずいる。上京・地元それぞれの
立場を選択した若者たちの間には、どのような意
思要因が存在するのか本論文で考察を行った。
第1章、第2章では、地域間移動を行う若者た
ちの先行研究として、マイルドヤンキー、ローカ
ルトラックという2つの概念を紹介している。第
3章では、若者を筆者が定めた3つのパターンに
類別し、そのなかからそれぞれ2人ずつ抽出して
行ったインタビュー調査の内容を紹介している。
第4章では、インタビュー調査の内容を分析し、
地域間移動における4つの要因(人間関係、生育
環境、教育環境、イメージ)を抽出した。第5章
では、第4章の考察の結果を受けて、地方出身の
若者たちの地域間移動に共通する要因として、地
元愛という要因を定義づけた。
本論文では、地方出身の若者たちを対象に、イ
ンタビュー調査を用い対象者の非常に深い部分に
まで踏み込むことで、対象者の意識を明確に分析
し、移動決定の要因を明らかにすることができた。
地域間移動は、その人の人生の中でも重要な分岐
点であり、その後のライフコースに大きな影響を
与える出来事である。上京する人、地元に残る人、
東京の企業に就職する人、地元に U ターンする人、
それぞれの立場の人たちにインタビュー調査を行
い、その内容を分析することは、現代日本の若者
たちの流れを知るうえで、非常に意味のあること
であったと考える。
6
木村
恵理子
ファッションと言うと外見を意識する者が多い
だろう。しかし、ファッションは外見を意識する
ということだけではなく、第一印象を構成する重
要な役割を被服が担っている点、人は似ている格
好の者に好意を抱きやすい点、被服で印象管理が
可能な点など、ファッションが心理にも影響を与
えていることは言うまでもない。また、イベント
や気分によって衣服を選択することはファッショ
ンの醍醐味であり、ここにファッションの楽しみ
が存在している。だが、このファッションの楽し
み方は一通りではないのではないか。多くのジャ
ンルが存在するファッションであるが、人のファ
ッションの方向性はどのように決定し、その方向
性の決定はファッションの楽しみ方にどのように
関係しているのだろうか。
論文では、現代日本における若者のファッショ
ンとの関わり方の中でも「ファッションを楽しむ
こと」とはどういうことなのかについて原宿での
インタビュー調査をもとに考察する。
分析によって、ファッションの方向性の決定に
ついては「理想像タイプ」「ヒントタイプ」「フリ
ーダムタイプ」
「ジャンル突出タイプ」の4つのタ
イプに分けられた。楽しみ方についてはそれぞれ
のタイプごとに若干の違いがあるにしろ、
「理想像
を掲げるタイプ」と「理想像を掲げないタイプ」
の2つのタイプに大きく分けられ、この2つのタ
イプで楽しみ方に大きな違いがあった。
さらに、現代日本におけるファッションの特徴
として「気分」
「自由」「変化」が挙げられること
が明らかになった。現代ファッションにおいて若
者たちは、
「気分」に合わせて、「自由」にファッ
ションを選択、あるいは「自由」に理想像を掲げ、
自己変身や他人との差別化などの「変化」を求め
ており、その行為自体をも楽しんでいるのである。
現代ファッションにおいて、ファッションの可能
性はファッションを楽しむ者から発信され、ファ
ッションを楽しむことで新たなファッションの可
能性が開けていくのではないだろうか。
勝俣ゼミ
継続就労意識を冷却される女性たち
HS23-0095C
山崎
なぜ人は東京ディズニーリゾートに
惹かれるのか
音緒
HS23-0108E
原
衣里
筆者は、学園祭での出店、サークルでのイベン
ト企画、アルバイトでの接客など、日常の様々な
場面で「どうすれば多くの人が集まるのか、楽し
んでもらえるのか」
という疑問にぶつかってきた。
世の中には、連日多くの人で賑わう場所がある。
その一例として「東京ディズニーリゾート」があ
る。東京ディズニーリゾートに人々が惹かれる理
由を追及することで、筆者の疑問を解く手掛かり
になると考え、本論文のテーマを設定した。
東京ディズニーリゾートについては、経営戦略
が魅力とされ、その戦略における“仕組み”に焦点
が当てられがちであるように感じられる。しかし、
経営側の「ディズニーではこんなことをしていま
すよ」といった、一方的な記述だけでは、人がど
のようなことをきっかけとして東京ディズニーリ
ゾートに訪れているのか、どのような経験に満足
を得ているのかということが今一つ見えてこない。
その仕組みが効果を発揮する背景には、人々の生
活様式や社会状況、そして人の感情が大きく関係
していると考えた。そこで筆者は、東京ディズニ
ーリゾートを訪れる“人”に焦点を当て、アンケー
ト調査を実施し、考察を行った。
本論文では、
「世界観」
「キャスト」
「ゲスト」と
いう 3 つのカテゴリーに分け、それぞれが「人を
惹きつける役割を担っている」という分析をして
いるが、3 つのどれもが、
「感情の喚起」という役
割を果たしていた。その感情とは、世界観から得
られる「癒し」であり、キャストから得られる「感
動」であり、友人と共に時間を過ごすという「楽
しさ」であり、東京ディズニーリゾートから獲得
できる感情はおそらく無限である。これらから、
人が東京ディズニーリゾートに惹かれる理由は、
「感情が喚起される場所だからである」と考察す
る。東京ディズニーリゾートで獲得できる「感情
体験」こそが、多くの入場客を惹きつけている理
由であり、魅力であるのだと思う。
筆者は、就職活動を通じて女性が働きたいとい
う意思が尊重され継続的に就労ができたり、再就
職ができる環境が整っているのか疑問に感じてい
た。女性が本当に働きやすい社会とは何か、男女
雇用機会均等法が施行されてから約30年の時が
経過したが、女性は何のしがらみもなく活き活き
と働く事ができているのだろうかと感じたことが
本論文の出発点である。
第1章の「現代社会における女性の労働環境」
では、既存のデータを用いて女性たちがどのよう
なライフコースを描き、女性たちが継続就労をど
のくらい望んでいるのか、そしてまた上手くいか
ない原因を明らかにした。第二章「男女役割分業」
では、女性は社会や企業など自分を取り巻く環境
のしがらみによって働いたいと言う意思があるに
も関わらず「泣き寝入り」している現状があると
し、その根深さの原因について論じている。第3
章「男女平等の幻想」では、多くの女性たちが性
別役割分業にとらわれており、社会から働くこと
と子供を産み育てることを求められている二重の
方向から二重のプレッシャーが存在していること
を指摘した。第4章「女嫌い男社会」では男並に
なることを強いられた女性たちが企業と対峙する
ことによって男女平等思想がどのように打ち砕か
れてしまうのかについて論じている。結論として、
性別役割分業意識によって女性ばかりが家事、育
児を担わなくてはいけない世の中、働いたとして
も女性ということで意欲を冷却させられ退職を余
儀なくしてくる企業、その中に組み込まれて多少
のことに目を瞑っていれば嫌な思いをしないと女
性たちは一種の諦めやしょうがないという感情を
抱きながら生きているのではないかという考えに
至った。しかしながら、そんな社会に対してしょ
うがないという感情を抱き続けるのではなく、世
の中の価値観、慣習、制度を見直さなければなら
ないのではと感じた。
7
2014 年度
卒業論文要旨
ゲーム依存者の実態
アフリカ諸国の教育開発問題
~彼らの住む「世界」~
-国際協力による教育システムの見直し-
HS23-0114J
浅野
学
HS23-0120B
本論文のテーマは「ゲーム依存症」である。
「ゲーム依存者」という言葉は有名だが彼らが
どんな人間なのかという定義は曖昧である。
ゲームやネットが身近な存在としてある我々と
「ゲーム依存者」と呼ばれる人々、両者はどう異
なるのか、そしてなぜ依存者は生まれ、増えてい
るのか。この二つの問いに対して様々な角度から
考察することが本論文の目的である。
第一章、第二章ではゲーム依存症を病気として
見た場合の定義を明らかにしている。ゲーム依存
症には決して突然変異で発生したものではなく、
そこに至るまでのプロセスが存在するものである。
第三章では実際のネットゲーム依存者の事例を
もとにゲーム依存者とはどのような人間なのかと
いう点を考察している。事例で挙げた三人のゲー
ム依存者には共通したある特徴があった。その特
徴とは「ゲーム世界を第二の現実と考えている」
というものである。ネット上のアバターを「理想
の自分」と考え、次第に現実よりもゲームを優先
させるようになる。この考えこそがゲーム依存者
の大きな特徴であり、一般人と異なる部分である。
第四章ではゲーム依存者が増加した理由につい
て二つの視点から考察している。
一つ目はゲームの進化である。テレビゲームと
いう文化は「物語性」と「他者との関わり」とい
う部分を大きく発展させ、進化していった。そし
て、その二つの要素を高いクオリティで共存させ
たネットゲームはプレイヤーを依存させてしまう
程の「リアルな世界」を作り出したのである。
二つ目は自己のあり方の変化である。現代では
現実で挫折した人間の逃げ道として「ネットやゲ
ーム世界を利用した現実の埋め合わせ」というも
のがある。この埋め合わせが当人にとってはとて
も心地よいものだからこそ、そこに依存してしま
う人が増加しているのである。
第五章ではまとめとしてゲーム依存者と現実逃
避について論じている。ゲーム依存者のしている
ことはゲームを利用した現実逃避であり、それは
我々にも決して無関係なことではないのである。
8
秋谷
梓帆
グローバル化が進むなかで社会開発が重視され
るようになり、特に学校教育は発展途上国におけ
る開発問題の中での最優先課題の一つとなってい
る。日本では教育を受ける権利・機会が当たり前
にあり、毎日自分のクラスの授業に参加すること
ができるが、貧困地域では、子ども達が学校へア
クセスする機会は容易でないという現実がある。
また、同じ途上国でもアジアとアフリカ諸国では
状況も問題も異なり、アフリカ諸国の就学率は世
界で最低ラインであり、教育問題だけではなく、
開発問題においてもより深刻な問題を孕んでいる
ことを先行研究を通して知り、本研究ではアフリ
カ諸国の教育開発問題について焦点を当てた。国
際機関が長い間、アフリカ諸国への教育開発援助
を行ってきているが、未だ彼らの教育に向上が見
られない原因は何であるのか、またアフリカ諸国
においての教育の機能、教育開発を行う上で支援
側に求められていることは何であるのかについて、
現在孕む問題点をふまえて支援側の視点から分析
した。第一章では、国際化時代における人権問題
を、国際機関の取り組みを通して研究した。第二
章ではアフリカ諸国においての教育政策の推進に
ついて、初等教育無償化問題が持つ問題・教育の
質の重要性を現地のリアルな意見に基づいて研究
した。また第三章では、教育開発における教師教
育の見直しや課題を生徒側の立場から議論してい
る。そして第四章では、自助努力と持続的自立発
展性について援助依存やパートナーシップが持つ
危険性、アフリカ諸国が主体的に自国の開発を進
める重要性について議論した。
この研究を通して、
アフリカ諸国での教育と国の開発や社会発展は切
り離すことができないものであることが確認でき
た。そして、教育を通して、技能・知識を身につ
け、一人一人の能力を強化することが社会発展の
ために重要であることが研究によって分かった。
勝俣ゼミ
若者を取り巻くやせ願望
採用活動において
企業が重視する属性の影響力
-マス・メディアの影響とダイエットブーム-
HS23-0124E
矢島
千亜樹
HS23-0132E
現代において、
「やせ願望」は多くの若者が抱い
ており、実際にダイエットを実践したことのある
若者も多いのではないだろうか。しかしまったく
やせる必要のない者が「やせたい」と願い、ダイ
エットに走るという「やせ願望」は一体どのよう
にして生まれたのだろうか。
第一章では、現代の若い女性の「やせ願望」が
大変強く、ここ数十年の間に体型がスリム化した
という、女性たちの体型の変化やダイエットの実
態について既存研究を紹介している。また、なぜ
多くの人々は「やせ願望」を持つようになるのか
について、
「時代や文化の美の基準」
「アイデンテ
ィティの確立」
という視点から考察した。
さらに、
社会における外見の重要性と男性から見られる存
在としての女性という視点から、女性が「やせ願
望」を抱く要因を明らかにした。
第二章では、様々な要因のなかでも「マス・メ
ディアが与える影響力は大きいものである」と考
え、マス・メディア、とくに女性雑誌の分析を行
うことでマス・メディアがダイエットをどのよう
に取り上げているのかを分析調査した。おもに女
性雑誌『ノンノ』の 1971 年~1999 年までの既存
研究を参考に、それ以降から現在までの女性雑誌
『ノンノ』の追調査を行い、分析した。まずはじ
めに「ダイエットに関する記事の量」について時
系列的に調査をし、ダイエットに関する記事の件
数、およびページ数を示し、さらに社会的要因と
の関係を分析した。つぎに、
「ダイエットに関する
記事の内容」について「ダイエットの危険性を警
告記事」と「ダイエットを推奨する記事」の 2 つ
に分類し、推奨する記事については「ダイエット
の種類」「対象部位」
「ダイエットの方法」などを
時系列的にまた具体的内容ごとに細かく分析した。
これらのことから女性雑誌、さらにはマス・メデ
ィアが女性にダイエット願望を抱かせる影響力は
非常に大きいものであるということがわかった。
9
滝下
果英
1999 年の男女雇用機会均等法の改正以降、採用
活動において女子学生に対して不利な扱いをする
ことは禁じられた。しかし現在においても、男女
間差別は完全に払拭したとは言い難い状況である。
また、就職活動において性別と同じく問題視され
ている一つが、学歴・学校歴による学生の選抜で
ある。最終学歴や自身の大学ランクによって、就
職機会が限定されていると感じる学生が多い。
論文では、なぜ男女間の就職活動が公平になり
得ないのかを、企業が学校歴・学歴を重視してい
ることを踏まえて議論している。
1 章では、教育の観点からみた場合の女性の地
位の変化について述べている。女性の進学率は著
しく向上しており、大学への進学率は 5 割を超え
ている。年々就職する女性の教育年数が長くなっ
ており、教育と就職が密接に関わりあっている。
2 章では、高卒の就職活動と大卒の就職活動、大
学ランクが異なる学生の就職活動をそれぞれ比較
し、学歴・学校歴が就職活動の様々な場面に影響
を及ぼしていることを述べた。
これらを踏まえ 3 章では、就職活動において男
女間に差が生じている原因の述べた後、なぜこの
差がなくならないのかについて考察している。学
歴・学校歴が重視されている就職市場において、
女子の高学歴化が進んだにも関わらず、男女間に
差が生じているのは、企業は一貫して学歴・学校
歴によって学生を選抜しているのではなく、学
歴・学校歴である程度選別した後、更に性別によ
って更に選別されていることが原因である。女子
学生の多くが、性別による選抜が行われていると
実感しているのだ。女性の高学歴化によって、男
女間の学歴の差が無くなったからといって、性別
という属性における差が払拭されることはないこ
とを示した。
学生たちは、学歴・学校歴や性別がどのように
企業の採用活動に影響を及ぼすかということを、
どこか織り込んで就職市場に向き合っていると言
える。