資料(PDF 305KB)

2015/2/23
福岡支店
住所:福岡市中央区舞鶴 2-4-15
TEL:092-738-7779
URL:http://www.tdb.co.jp/
特別企画
:
2015 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査
賃金改善を見込む企業は 48.9%で過去最高
~ベアが前年度比 6.0 ポイント増の 38.6%~
はじめに
2014 年 4 月の消費税率引き上げ以降、景気が低調に推移するなか、政府は政労使会議等を通じ
て賃金の引き上げを要請している。そのため、雇用確保とともにベースアップや賞与(一時金)
の引き上げなど、賃金改善の動向はアベノミクスの行方を決定づける要素として注目されている。
そこで帝国データバンク福岡支店は、2015 年度の賃金動向に関する企業の意識について九州・
沖縄(以下、九州)企業を対象に調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査 2015 年 1 月調
査とともに行った。
調査期間は 2015 年 1 月 19 日~31 日。調査対象は九州企業 1,952 社で、有効回答企業は 792 社
(回答率 40.6%)。今回の調査は全国調査分から九州の企業を抽出・分析したもの。本調査におけ
る詳細データは、景気動向調査専用HP(http://www.tdb-di.com/)に掲載した。
調査結果(要旨)
1. 2015 年度の賃金改善を「ある」と見込む企業は 48.9%。前年度見込みを 4.4 ポイント上回
り、2006 年 1 月の調査開始以降で最高の見通しとなった。全国平均(48.3%)よりわずか
に高い。また、2014 年度に賃金改善を実施した企業は 6 割を超える
2.賃金改善の具体的内容は、ベア 38.6%(前年度比 6.0 ポイント増)、賞与(一時金)24.4%
(同 1.0 ポイント減)。賃金改善をベアで実施する企業が広がっている
3.賃金を改善する理由は「労働力の定着・確保」が大幅増加、7 割に迫る。人手不足が続くな
かで「同業他社の賃金動向」を挙げる企業が過去 2 番目となり、他社の動向をより意識する
傾向が強まる。改善しない理由は、「自社の業績低迷」が最多となる一方、消費税率引き上
げの影響は薄れてきている
4.2015 年度の総人件費は平均 2.59%増加する見込み
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1
2015/2/23
特別企画:205 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査
1.2015 年度の賃金改善、過去最高となる 48.9%の企業が見込む
2015 年度の企業の賃金動向について尋ねたところ、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、
一時金の引上げ)が「ある(見込み含む)」と回答した企業は 48.9%となり、前回調査(2014 年 1
月)における 2014 年度見込み(44.5%)を 4.4 ポイント上回り、調査開始以降の最高を 2 年連続
で更新した。全国平均
(48.3%)より 0.6 ポイ
■2015年度の賃金改善有無(正社員)
(構成比%、カッコ内社数)
ある
(見込み含む)
ント高い。また、「ない
(見込み含む)」と回答し
ない
(見込み含む)
前年度
との差
<参考>2014年度見込み <参考>2014年度実績
ある
ない
(見込み含 (見込み含
む)
む)
合計
前年度
との差
あった
なかった
全国
48.3
(5,217)
1.9 27.4
(2,955)
-1.6
100.0
(10,794)
46.4
29.0
63.4
九州
48.9
(387)
4.4 25.5
(202)
-3.6
100.0
(792)
44.5
29.1
64.4
30.9
大企業
45.4
(64)
-1.1 18.4
(26)
-4.5
100.0
(141)
46.5
22.9
66.0
25.5
査(29.1%)を 3.6 ポイ
中小企業
49.6
(323)
5.6 27.0
(176)
-3.5
100.0
(651)
44.0
30.5
64.1
32.1
小規模企業 39.1
(84)
0.4 37.2
(80)
1.9
100.0
(215)
38.7
35.3
50.2
45.1
ント下回った。他方、2014
農・林・水産
30.0
(3)
-16.2 20.0
(2)
4.6
100.0
(10)
46.2
15.4
30.0
60.0
金融
25.0
(2)
13.9 25.0
(2)
-19.4
100.0
(8)
11.1
44.4
25.0
37.5
年度実績では、賃金改善
建設
46.4
(64)
-0.6 27.5
(38)
1.9
100.0
(138)
47.0
25.6
70.3
27.5
不動産
50.0
(11)
10.0 22.7
(5)
-1.3
100.0
(22)
40.0
24.0
68.2
31.8
の「あった」企業が 6 割
製造
42.3
(82)
-1.0 25.3
(49)
-5.2
100.0
(194)
43.3
30.5
61.9
31.4
卸売
50.5
(102)
1.9 25.7
(52)
-1.0
100.0
(202)
48.6
26.7
64.9
31.2
を超え、消費税率引き上
小売
53.5
(23)
11.5 25.6
(11)
-8.4
100.0
(43)
42.0
34.0
60.5
32.6
運輸・倉庫
53.3
(24)
11.6 33.3
(15)
2.0
100.0
(45)
41.7
31.3
66.7
33.3
サービス
58.3
(74)
16.9 22.0
(28)
-12.3
100.0
(127)
41.4
34.3
65.4
29.9
その他
た企業は 25.5%と前回調
げによる影響が不透明な
なかで多数の企業が賃金
改善を実施していた実体
が明らかとなった。
「ある(見込み含む)」
を業界別(回答企業 10 社
以上)にみると、『サービ
16.7
32.5
66.7
(2)
0.0
(0)
0.0
100.0
(3)
50.0
0.0
100.0
0.0
輸 輸入のみ 39.3
出
輸出のみ 60.0
入
別 輸出入両方 56.0
(24)
5.1 31.1
(19)
-11.0
100.0
(61)
34.2
42.1
45.9
44.3
(12)
28.4 25.0
(5)
-22.3
100.0
(20)
31.6
47.3
75.0
20.0
(14)
0.4 24.0
(6)
-5.6
100.0
(25)
55.6
29.6
76.0
24.0
福岡
49.2
(158)
3.5 27.4
(88)
-4.6
100.0
(321)
45.7
32.0
62.6
31.8
佐賀
45.8
(22)
-3.3 22.9
(11)
3.6
100.0
(48)
49.1
19.3
70.8
20.8
長崎
46.2
(36)
4.8 26.9
(21)
-7.6
100.0
(78)
41.4
34.5
64.1
34.6
熊本
52.6
(50)
8.2 21.1
(20)
2.9
100.0
(95)
44.4
18.2
67.4
29.5
大分
49.3
(34)
10.0 18.8
(13)
-10.4
100.0
(69)
39.3
29.2
60.9
34.8
宮崎
52.8
(28)
-4.9 26.4
(14)
5.2
100.0
(53)
57.7
21.2
67.9
28.3
鹿児島
40.5
(30)
1.0 33.8
(25)
-2.0
100.0
(74)
39.5
35.8
59.5
35.1
沖縄
53.7
(29)
12.8 18.5
(10)
-11.8
100.0
(54)
40.9
30.3
72.2
24.1
注1:網掛けは、ブロック全体以上を表す
注2:全国の母数は有効回答企業1万794社。九州は792社
2015年度の賃金改善有無
あった/ある(見込み含む)
2013年度見込み
(2013年1月調査)
37.4%
2013年度実績
(2014年1月調査)
2014年度見込み
(2014年1月調査)
なかった/ない(見込み含む)
32.4%
30.1%
51.0%
43.4%
44.5%
2014年度実績
(2015年1月調査)
20%
26.4%
30.9%
48.9%
0%
5.5%
29.1%
64.4%
2015年度見込み
(2015年1月調査)
分からない
25.5%
40%
注:2013年1月調査の母数は有効回答企業820社、2014年1月調査は868社、2015年1月調査は792社
60%
4.7%
25.6%
80%
100%
注:2013年1月調査の母数は有効回答企業820社、2014年1月調査は868社、2015年1月調査は792社
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特別企画:205 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査
ス』(58.3%)が最も高く、『小売』
(53.5%)、
『運輸・倉庫』(53.3%)、『卸売』(50.5%)、『不動
産』(50.0%)が続いた。14 年度見込みと比べると、人手不足感が強い『サービス』(16.9 ポイン
ト増)、『運輸・倉庫』(11.6 ポイント増)の増加が目立った。
県別では、「沖縄」(53.7%)、「宮崎」
(52.8%)、
「熊本」(52.6%)が 5 割を超えた。特に、「沖
縄」では前年より 12.8 ポイント増加しており、全国的に見て低い平均年収を是正する動きが強ま
っている。企業規模別では「中小企業」(49.6%)が「大企業」(45.4%)を 4.2 ポイント上回っ
た。前年度は「大企業」(46.5%)が「中小企業」(44.0%)を上回っていたことを考えると、
「ト
リクルダウン」(浸透)の兆しがうかがえる。
2013 年 4 月や 2014 年 10 月の日本銀行による金融緩和で円安が進行しているなか、輸出企業の
業績回復にともない賃金改善を実施する企業も増加している。輸出のみを行っている企業につい
てみると、60.0%で賃金改善が「ある(見込み含む)」と回答した。2014 年度実績でも 7 割強が賃
金改善を実施したうえで、さらに 2015 年度も過半数が見込んでおり、国内の需要拡大が顕著な『建
設』とともに、賃金アップのけん引役を果たすとみられる。
2. 賃金改善の具体的内容、ベア実施企業が 38.6%、賞与(一時金)は 24.4%
賃金を改善する理由(複数回答)
2015 年度の正社員における賃金改善
の具体的内容は、「ベースアップ」が
38.6%となり、「賞与(一時金)」は
0
20
自社の
業績拡大
11.4%
見込み)と比べると、ベアが 6.0 ポイ
施する企業が広がっている様子がうか
で上昇している。
68.2%
23.3%
19.6%
2013年度 見込み
14.7%
15.0%
16.5%
同業他社の
賃金動向
消費税率 0.0%
引き上げ
2014年度 見込み
2015年度 見込み
23.3%
19.4%
注:2013年度見込みは2013年1月調査、2014年度見込みは2014年1月調査、2015年度見込みは2015年1月調査。
母数は賃金改善が「ある(見込み)」と回答した企業、2013年度307社、2014年度386社、2015年度387社
賃金を改善しない理由(複数回答)
が え る 。 ベ ー ス ア ッ プ は 2012 年 度
(29.1%)を底に 13 年度以降 3 年連続
(%) 80
53.7%
52.8%
48.3%
物価動向
ト減少しており、賃金改善をベアで実
60
55.7%
59.8%
労働力の
定着・確保
24.4%となった。前回調査(2014 年度
ント増加した一方、賞与は 1.9 ポイン
40
0
20
40
自社の
業績低迷
(%)
69.5%
65.3%
21.1%
15.8%
18.3%
14.7%
16.6%
19.3%
人的投資の
増強
内部留保の
増強
80
56.5%
同業他社の
賃金動向
消費税率
引き上げ
60
0.0%
29.6%
23.3%
15.0%
14.2%
13.9%
2013年度 見込み
2014年度 見込み
2015年度 見込み
注:2013年度見込みは2013年1月調査、2014年度見込みは2014年1月調査、2015年度見込みは2015年1月調査。
母数は賃金改善が「ない(見込み)」と回答した企業、2013年度266社、2014年度253社、2015年度202社
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特別企画:205 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査
3. 賃金改善理由、「労働力の定着・確保」が大幅増加、改善しない理由では「自社の業績
低迷」が 8.8 ポイント増加
2015 年度の賃金改善が「ある(見込み含む)」と回答した企業 387 社に理由を尋ねたところ、最
も多かったのは「労働力の定着・確保」の 68.2%(複数回答、以下同)となり、リーマン・ショ
ック前の 2008 年度(69.4%)に次ぐ高水準となった。さらに「自社の業績拡大」
(48.3%)が続
いたが、2 年連続で減少し、5 割を下回った。また、人手不足が続きより良い人材の確保が必要と
されるなかで、「同業他社の賃金動向」(16.5%)は 12 年度(17.4%)に次いで過去 2 番目なり、
他社の賃金動向をより意識する傾向が強まってきた。
企業からは、「税負担の増加と物価の上昇に少しでも支援すべきとの判断からの上乗せ」(化学
品製造、福岡県)や「若手技術者の定着・確保」(建設、大分県)といった、従業員への支援やモ
チベーション向上を期待した賃上げと回答する企業は多く、人材の確保を狙いとする傾向が強い。
他方、賃金改善が「ない」企業 202 社に理由を尋ねたところ、「自社の業績低迷」が 65.3%(複
数回答、以下同)と前年調査(56.5%)より 8.8 ポイント増加した。前年調査で 2 位だった「消
費税率引き上げ」(23.3%)は、賃金改善が「ある」理由とともに減少しており、賃金改善の要因
としての消費税率引き上げの影響は薄れてきている。
企業からは、「円安の影響により、利益率の低下が起因で厳しい状況」(機械・器具卸売、福岡
県)といった、円安にともない仕入価格の上昇が続くなかで、厳しいコスト競争下にあって収益
環境の改善がみられないことや、「既に今年度大幅な賃上げを実施済み」(鉄鋼、福岡県)という
意見もあった。
■2015年度の総人件費の増加
4. 2015 年度の総人件費は 2.59%増加の見込み
分からない
11.6%
2015 年度の自社の総人件費は、2014 年度と比較して
総人件費
平均 2.59 %増
減少
8.7%
どの程度変動すると見込んでいるか尋ねたところ、「増
加」1と回答した企業が 62.4%にのぼった。他方、「減少」
変わらない
17.3%
増加
62.4%
は 8.7%にとどまっており、総じて企業は人件費が増加
すると見込んでいる。2015 年度の総人件費は前年比で平
均 2.59%増(全国平均 2.50%)と見込まれる。
業界別にみると、『運輸・倉庫』で「増加」すると回
注1:母数は有効回答企業792社
注2:「増加」は「1%以上3%未満増加」「3%以上5%未満増加」
は有効回答企業792社
「5%以上10%未満増加」「10%以上増加」の合計。
加」は「1%以上3%未満増加」「3%以上5%未満増加」 「5%以上1
注3:「減少」は「1%以上3%未満減少」「3%以上5%未満減少」
少」は「1%以上3%未満減少」「3%以上5%未満減少」 「5%以上1
「5%以上10%未満減少」「10%以上減少」の合計。
1
「増加」
(「減少」
)は、「10%以上増加(減少)」
「5%以上 10%未満増加(減少)
」「3%以上 5%未満増
加(減少)
」「1%以上 3%未満増加(減少)」の合計
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特別企画:205 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査
答した企業が 71.1%と 7 割超となった。また、『サービス』では総人件費が平均 3.48%増と唯一 3%
を超えている。県別では
■2015年度の総人件費の増加見通し~業界別~
80
「熊本」(3.34%)と「沖
60
縄」(3.00%)で 3%を超
40
えた。
20
2.83
69.8
66.1
61.9
61.6
単位:%
61.3
66.7
54.5
40.0
3.48
2.63
2.30
2.88
2.35
2.50
1.75
12.5
-0.33
そ の他
金融
-0.11
農 ・林 ・水
産
「増加」計(左目盛り)
不動産
製造
建設
卸売
サー ビ ス
小売
運 輸 ・倉 庫
0
71.1
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
-1.0
平均増加率(右目盛り)
まとめ
デフレ脱却と安定的なインフレ率 2%という目標を目指す日本銀行による金融緩和で、緩やかな
物価上昇が続いている。しかし、賃金の改善は緩慢なスピードで推移しており、実質賃金の下落
による個人消費の悪化が今後の景気を左右する大きなファクターとなってきた。そのため、アベ
ノミクスは賃金上昇に成否がかかる状況となっており、政府は政労使会議などを通じて業績が改
善している企業に対する賃上げ要請を行っている。
2014 年度には 6 割以上の九州企業が賃上げを実施したなかで、2015 年度は過去最高の賃金改善
見通しとなった。総人件費は平均 2.59%上昇すると見込まれる。特に、企業の間ではベースアッ
プによる賃上げで従業員に還元しようとする考えが広がってきた。ただし、賃金改善の理由とし
て「労働力の定着・確保」を挙げる企業は多く、業績が改善したというよりも労働力の確保を優
先して賃金を上げている姿が明らかとなった。また、円安による恩恵は輸出企業に表れており、
輸出企業の半数超が賃金改善を実施すると回答している。輸入企業との差は大きく、円安による
コスト高に苦しむ企業と輸出拡大につながっている企業との間で賃上げへの対応に顕著な違いが
表れる結果となった。
アベノミクスの成功には賃金上昇による消費拡大が不可欠である。そのために、アベノミクス
効果がより多くの企業に行き渡るような第三、第四の政策実行の重要性がより増しているといえ
よう。
【内容に関する問い合わせ先】
株式会社帝国データバンク福岡支店情報部
TEL 092-738-7779
担当:江口
FAX 092-738-8687
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