借地権の税務 - 税理士法人 森田会計事務所

第 30 号
借地権の税務
1 借地権とは
2 権利金の認定課税
3 土地帳簿価額の損金算入
4 所得税の取扱い
森田 務 公認会計士事務所
借地権の税務
1
借地権とは
1 借地権の税法解釈と種類
一般に借地権とは、借地借家法に定める「建物の所有を目的とする地上権又は賃借権」
をいいますが、税法では、借地権を次のように規定しており、税目によって若干範囲が違
っています。
法人税
地上権又は賃借権
所得税法に規定する借地権より範囲が広い
所得税
建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権
借地借家法に規定する借地権より範囲が広い
相続税
建物の所有を目的とする地上権又は賃借権
借地借家法に規定する借地権と同じ
借地権には、次のとおり 5 種類の借地権が存在します。
①借地権(旧借地法、借地借家法第 3 条)
②定期借地権(借地借家法第 22 条)
③事業用定期借地権等(借地借家法第 23 条)
④建物譲渡特約付借地権(借地借家法第 24 条)
⑤一時使用目的の借地権(借地借家法第 25 条)
借地権を評価する場合、①を「借地権」
(以下「借地権」といいます。)、②∼④を「定期
借地権等」(以下「定期借地権等」といいます。)及び⑤を「一時使用目的の借地権」に区
分して評価します。
2 借地権の設定とは
借地権の設定とは、土地の所有者等が他の者に対してその土地の使用収益することを許
諾することをいい、一般には、土地の賃貸借契約の締結によってその設定が行われます。
この借地権が設定されますと、借地権者はその土地の使用収益権を手にし、土地所有者は、
地代の収受権を手にすることとなります。
権利金は、その土地の使用収益権に対する対価といえます。
Tax Report
1
借地権の税務
2
権利金の認定課税
借地権が課税される機会としては、借地権設定の時、更新・更改のとき、借地権を譲渡
するときと借地返還のときに発生します。今回は、大変複雑で一歩間違えれば多額の認定
課税を受ける借地権設定時の課税関係について説明します。まず、はじめに借地権課税に
関する専門用語について説明します。
土地を賃貸借するに当たり、借地権の設定の対価として支払われるもの
権利金等
および借地権の設定に当たり受けた無利息借入等がある場合には、その
経済的利益の額を加算した額。
無償返還の
届出書
相当な地代
相当な地代の
届出書
相当な地代の
改訂方法
通常の地代
土地の賃貸借終了時に、借地人が無償で土地を返還することを約した書
類で、この書類を土地の所有者を所管する税務署に賃貸人、賃借人の連
名で提出する。
土地の更地価額の(時価)の年 6%の地代、ただし課税上弊害がなけれ
ば、過去 3 年分の相続税評価額の平均額の年 6%。
土地の地代をその土地の更地価額の年 6%とすることを約した書類で、
この書類を土地の所有者を所管する税務署に賃貸人、賃借人の連名で提
出する。
相当な地代の届出書には、地代の改定方法の記載があり、土地の時価の
変動に応じて地代を見直す方法と据え置く方法があります。
借地権が設定された場合の一般的な地代、ただし課税上弊害がなけれ
ば、過去 3 年分の底地の相続税評価額の平均額の年 6%。
借地権の課税は、土地の所有者または賃借人が法人かもしくは個人であるか、権利金の
授受があるかにより取扱いが大きく異なります。
1 権利金等の授受がある場合
(1)権利金等を受け取る地主側の課税
個人地主の場合は、所得税で「借地権の設定により受ける権利金等の額が、その土地の
借地権設定直前の価額(時価)の 2 分の 1 相当額を超えるときは、その権利金の額は譲渡
所得の収入金額とし、次の算式により計算した金額をその取得費とする」と規定していま
す。
Tax Report
2
借地権の税務
■算式
また、授受する権利金の額が、その土地の価額の 2 分の 1 相当額以下である場合には、
不動産所得の収入金額とされます。この場合において、課税要件を満たせば、累進課税が
緩和される臨時所得課税を選択することが出来ます。
法人地主の場合は、法人税法で「借地権の設定に当たり授受した権利金その他の一時金
の額は、当該法人の各事業年度の所得金額の計算上益金の額に算入し、その設定によりそ
の土地の価額が設定前に比して 2 分の 1 以下に下落する場合は、次の算式により計算した
額を損金に算入する」と規定しています。
■算式
また、土地の価額が 2 分の 1 以下の下落であっても土地の帳簿価額の損金算入は認めら
れませんが、その下落分を評価損として計上することは認められています。
(2)権利金等を支払う借地権者側の課税
支払った権利金の額は、法人または個人の区分なく無形固定資産として資産に計上しま
す。また、土地などに準じた資産ですので、業務のように供していても減価償却はできま
せん。
2 権利金等の授受がなく、無償返還の届出また正当な地代の支払いがない場合
(1)地主側の課税
地主が個人である場合には、何ら課税関係は生じません。つまり、借地権の設定行為は
資産の譲渡に該当しないことから、時価の 2 分 1 未満で譲渡した場合のみなし譲渡所得課
税を受けることがないからです。
地主が法人である場合には、法人は常に経済的合理性を追求されますので、借地権の設
定に当たり権利金の授受する慣行がある地域においては、たとえ権利金等を授受していな
くとも、権利金等を授受したものとみなして権利金相当額を益金として認定されることに
Tax Report
3
借地権の税務
なります。
借地人が、その法人の役員または従業員以外の者もしくは他の法人であれば、同額の寄
付金を支出したものと認定されることになり、また、その法人の役員または従業員であれ
ば一時の給与(賞与)と認定されます。
計算の仕方は「1
権利金等の授受がある場合」と同様ですが、寄付金には損金算入限
度額があり、また役員賞与については損金不算入になるので、土地の帳簿価額が低い場合
は多額の税金が課税されることになります。
*権利金や借地権の認定課税額の計算は以下の通りです。
(2)借地権者側の課税
借地権者側の課税は法人もしくは個人などの区分により以下のようになります。
①地主が法人の場合
法人
地主法人の役員
または従業員
地主法人の役員
または従業員以外の個人
借地権相当額を受贈益として課税される。
借地権相当額を賞与として一時に課税される。
借地権相当額を一時所得として課税される。
②地主が個人の場合
法人
個人
借地権相当額を受贈益として課税される。
使用貸借(賃料がゼロかもしくは固定資産税相当額)および相当な地代を支
払う場合を除いて、原則として借地権相当額が贈与として課税される。
*贈与課税される場合の借地権の認定額は以下の通りです。
Tax Report
4
借地権の税務
3 相当な地代を授受している場合
相当な地代を授受している場合は、地代の改定(おおむね 3 年以内)をする方法と地代
を据え置く方法とで多少取扱いに違いがあります。両者の方法において、借地権設定時に
権利金や借地権の認定課税されることはありません。
相違点としましては、地代の改定(おおむね 3 年以内)をする方法を選択した地主が法
人で、地代の改定をしなかった場合には、以下のような認定課税が行われます。
地主法人
相当な地代と実際収受している地代との差額は認定課税さ
れ、同額の寄付金が支出されたものとみなされます。
借地人が
法人である場合
相当な地代と実際収受している地代との差額は受贈益になり
ますが、同額の支払い地代が認定され、結果的には課税所得
に増減はありません。
借地人がその会社の
役員または
従業員である場合
給与として課税されます。その者が役員である場合には、そ
の認定額が毎月発生することから、定時定額給与の規定によ
り損金に算入される場合と算入されない場合とがあります。
借地人がその会社の
役員または従業員以外の 地代の差額は雑所得として課税されることになります。
個人の場合
権利金や借地権の認定課税はあくまでも借地権設定時に起きることではありますが、会
社の資金繰りが悪いなどの理由で途中から相当な地代の額を下げた場合には、その時点で
認定課税されることになるので注意が必要です。
4 無償返還の届出書を提出している場合
無償返還の届出書とは、借地権設定に当たり権利金を授受する取引上の慣行がある地域
で、権利金を授受しない代わりに契約において将来借地人がその借地を無償で返還するこ
とを定めて、連名により所轄税務署に提出する書類のことです。この届出書を提出すれば、
権利金や借地権の認定課税を受けることはありません。ただし、この届出書は、法人税法
の規定でありますから法人が絡んだ場合に有効なものであり、個人対個人の場合にはこの
届出自体存在することはありません。
しかし、授受する地代については別の取扱いとなります。
地主が個人であれば地代の認定はなく、何ら問題は生じませんが、地主が法人となれば
相当な地代と実際に授受している地代の差額について認定課税を受けることになります。
Tax Report
5
借地権の税務
課税関係については、上述の「3
相当な地代を授受している場合」と同様の処理になり
ます。
5 実務対応上のポイント
いままで説明しました通り、借地権課税の取扱いは非常に複雑です。一歩間違えれば、
担税力がないところに多額な税金が認定課税されることになり、経営そのものに多大の影
響を与えることになります。逆の視点から見れば、借地権課税の仕組みをよく理解した上
で、条件が揃えば節税になりうることもあるのです。
ここで実務上のポイントを上げてみます。
対象土地の時価より帳簿価額の方が高い場合は、権利金の認定課税によ
り土地の譲渡損と寄付金(損金算入限度額があります)が損金になる。
借地人である法人に多額の繰越欠損金や債務超過の状態になっている
か。この場合の注意点は、借地権を贈与されることにより既存株主の株
借地人(法人)
式の評価額が上昇することになりますので、所得税や贈与税が課税され
ることがあります。
借地権設定時の権利金の認定課税は、譲渡に該当しないため認定課税を
受けることはありませんが、借地返還時に無償で返還を受けた場合は、
地主(個人)
借地人が法人である場合は一時所得の課税が、借地人が個人であれば贈
与の課税を受けることがあります。
土地の賃貸借契約締結後、遅滞なく(契約締結後最初の申告期限まで)
提出することとされています。ただ、無償返還届出は、賃貸契約書に借
無償返還届の
地返還時は無償にて返還をすることを約定することを前提にしています
提出期限
ので、税務署には確認の意味で提出することになるので、相当期間経過
後に税務署に提出しても認められるものであるとされています。
相当な地代を地価の上昇とともに改定する方法と据え置く方法とがあり
ます。改訂する方法では、常に借地権の価額は、ゼロになります。据え
置く方法では、地価が上昇した場合、契約当初においてはゼロであった
相当な地代の
借地権価額が自然発生的に借地人に帰属することになります。この借地
改定
権は、資産の評価益になることからその時点で課税対象になることはあ
りません。結果的に地価上昇分の相当部分は、地主から借地人へ移るこ
とになります。
地主(法人)
6 認定課税の発生要件
借地権を設定した場合に権利金を授受する取引の慣行がある地域において、その授受が
されないときは、税務上では、これらの行為があったものとみなして課税(認定課税)が
なされます。ただし、この取扱いは、同族関係にある個人及び法人間の取引に対してのみ
Tax Report
6
借地権の税務
適用され、第三者間取引には、適用されません。これは、第三者間取引は、利害の反する
当事者間取引ですから、たとえ権利金の授受がなくても、そこに合理的な理由があると考
えられるからです。
借地権の取引慣行
権利金を授受する取引の慣行があるかどうかは、その場所の借地権割合が 30%未満であ
れば、借地権の慣行がないものとみなされます。平 3 課評 2−4 外追加、平 6 課評 2−2
外・平 12 課評 2−4 外改正
7 無償返還の届出の提出期限と意味
借地契約において土地の無償返還を定めた場合は、遅滞なくこの届出をすることとされ
ています。遅滞なくとは、その借地契約を締結した日の属する事業年度の確定申告書の提
出期限ぐらいのことをいうのでしょうが、必ずしも、その時期に提出しないと届出が認め
られないかというと、そうではなく、もっと弾力的に取り扱われています。たとえば、税
務調査などにおいて指摘された後に、遅滞なく提出した場合でも事情によっては認められ
るとのことです。
無償返還の届出というのは、同族関係会社で行った借地取引の内容をあらかじめ明確に
しておくことによって、将来生ずるおそれのある税務上のトラブルを未然に回避しようと
いう意味合いがあります。つまり、借地契約というのは長期にわたるものですから、その
内容を明確にしておかないと、相続や譲渡時に契約当事者がいないということも考えられ、
その場合には、その評価をめぐってトラブルになることもありますので、こうした取引を
したときは、未然に届出をして、無用のトラブルを避けましょうということです。
8 認定課税関係のまとめ
借地権設定時においては、通常の権利金を収受する場合や相当の地代を収受する場合に
限り、権利金の認定課税の問題は発生しません。問題となるケースは、①地主と借地人が
個人対個人では相当の地代を収受しない場合、②法人が絡む場合には、相当の地代を収受
しない場合でかつ無償返還の届出書が提出されない場合と使用貸借で無償返還の届出書が
提出されない場合です。以上が認定課税されるケースです。
法人が絡む場合での認定課税を受けないポイントは、無償返還の届出書と言えます。
Tax Report
7
借地権の税務
3
土地帳簿価額の損金算入
1 概要
借地権の設定等により地価が著しく低下する場合の土地等の帳簿価額の一部の
損金算入(法人税法施行令第 138 条)
内国法人が借地権又は地役権の設定により他人に土地を使用させる場合において、その
借地権又は地役権の設定により、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に掲げる割
合が十分の五以上となるときは、その設定の直前におけるその土地の帳簿価額に、その設
定の直前におけるその土地の価額のうちに、借地権又は地役権の価額の占める割合を乗じ
て計算した金額は、その設定があつた日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の
額に算入する。
一 土地の所有者が借地権又は地役権の設定 その設定の直前におけるその土地の価
により土地を使用させた場合(次号又は第 額のうちに、当該価額からその設定の直
四号に該当する場合を除く。)
後におけるその土地の価額を控除した
残額
二 土地の所有者が建物又は構築物の一部の イに掲げる金額のうちにロに掲げる金
所有を目的とする借地権の設定により土 額の占める割合
地を使用させた場合
イ その土地の価額に、その建物又は
構築物の床面積
ロ その設定の直前におけるその土地
の価額からその設定の直後におけ
るその土地の価額を控除した残額
三 借地権者が借地権に係る土地を転貸した その転貸の直前におけるその借地権の
場合
価額のうちに、当該価額からその転貸の
直後におけるその借地権の価額を控除
した残額の占める割合
四 他人に借地権に係る土地を使用させる場 その使用させた直前におけるその土地
合のうち、その土地の使用により、その使 の更地としての価額のうちに、当該価額
用の直前におけるその土地の利用状況に からその使用させた直後におけるその
比し、その土地の所有者及びその借地権者 土地の価額とその借地権の価額との合
がともにその土地の利用を制限されるこ 計額を控除した残額の占める割合
ととなる場合
Tax Report
8
借地権の税務
2
前項の規定に該当する場合において、借地権又は地役権の設定に伴い、通常の場合の
金銭の貸付けの条件に比し特に有利な条件による金銭の貸付け、その他特別の経済的な利
益を受けるときは、当該金銭の貸付けにより通常の条件で金銭の貸付けを受けた場合に比
して受ける利益その他当該特別の経済的な利益の額をその設定の対価の額に加算した金額
をもってその借地権又は地役権の設定の対価として支払を受ける金額とする。
3
前項の場合において、その受けた金銭の貸付けにより通常の条件で金銭の貸付けを受
けた場合に比して受ける利益の額は、当該貸付けを受けた金額から、当該金額について通
常の利率、の十分の五に相当する利率による複利の方法で計算した現在価値に相当する金
額を控除した金額によるものとする。
4
内国法人が第二項の貸付けを受けた金額のうち同項の規定により第一項の設定の対価
の額に加算された金額の全部又は一部の返済その他第二項に規定する特別の経済的な利益
の全部又は一部の返還をした場合において、その返還により当該借地権又は地役権に係る
土地の地代の引上げ、その土地の上に存する建物又は構築物の除去その他土地の価値の増
加があったときは、その返還をした利益の額に相当する金額は、当該土地の帳簿価額に加
算する。
2 土地評価損に係る事例
法人税法では資産の評価損の損金算入を原則として認めず、例外として評価損の損金参
入を認めている場合を法人税施行令で定めています。
固定資産評価損が計上できる場合は、下記のように規定されています。
(イ)災害により著しく損傷した場合
(ロ)1 年以上にわたり遊休状態である場合
(ハ)更生手続開始の決定等に伴い評価換えが求められた場合
販売用土地(棚卸資産)評価損が計上できる場合は、下記のように規定されています。
(イ)災害により著しく損傷したこと
(ロ)著しく陳腐化したこと
(ハ)更生手続開始の決定等に伴い評価換えが求められた場合
(ニ)イからハまでに準ずる特別の事実
Tax Report
9
借地権の税務
固定資産である土地の評価損1年以上遊休状態にある土地の評価損が否決された事例
建築材料の販売を営む会社Aは、所有する固定資産である土地について評価換えに伴
う評価損を損金計上しました。しかし税務当局は損金算入を否認、更正の上、過少申告
加算税の賦課決定処分をしました。この処分の取消を求めて会社Aは審査請求しました。
会社Aは土地の損金算入を認めるべきであると次のように主張しました。
①土地の取得時において全く予想し得なかった業界の変化のため、本来の用途として
使用することができず遊休状態にある。これは法人税法施行令に規定する「1 年以上
にわたり遊休状態であること」に該当する。
②土地の時価は土地相場の下落に伴い取得時の3分の1程度の価額となっている。
国税不服審判所は、会社Aの請求を棄却しました。審判所は固定資産評価損の解釈を
次のように示しました。
①法人税法では、原則として、資産評価損の損金算入を認めない。例外的に評価損の
損金算入を認めるべきケースについて限定的解釈をするのが相当である。
②法人税法施行令で定める事実が生じるだけでは固定資産評価損の損金算入が認めら
れるためには足りない。固定資産の価額が帳簿価額をより下回ったのが当該事実に
よるものであることも必要である。
この解釈を本事例にあてはめると、土地評価損の損金算入のためには1年以上にわた
り遊休状態にあるだけではダメで、
「遊休状態にあるため」に土地の時価が下落したこと
が必要であるということです。審判所は、時価の下落は一般的な土地相場の下落に基づ
くものであり、遊休状態にあるためではないと判断したわけです。
(平成 15 年 1 月 28
日裁決)。
Tax Report
10
借地権の税務
「(ニ)準ずる特別の事実」に該当しないために土地評価損が否決された事例
建設業を主として営む会社Bが、分譲マンションの建設用地として取得した土地に係
る評価損を損金算入しました。しかし税務当局は損金算入を否認、更止の上、過少申告
加算税の賦課決定処分をしました。この処分の取消を求めて会社Bは審査請求しました。
会社Bは、土地の損金算入を認めるべきであると次のように主張しました。
①土地は固定資産であることには変わりないから、法人税法における固定資産評価損
の規定も勘案すべきである。
②建設用地を含む地域が地すべり防止区域に指定されたこと及び約 300m 離れた同
様の傾斜地で土砂崩れがあったことは、棚卸資産評価損の損金算入が認められる
「(ニ)準ずる特別の事実」に該当する。
審判所は、会社Bの主張①について固定資産評価損の規定は事業用資産を前提にした
規定であり、販売用土地の場合の規定ではないとして否認しました。
審判所は、会社Bの主張②に関連して棚卸資産の評価損の損金算入が認められる場合
のうち「(ニ)準ずる特別な事実」について、「具体的には破損、型崩れ等、異常な事態
が発生し、通常の方法では販売ができなくなった場合をいう。」という解釈を示しました。
審判所は、会社Bの主張②について「(ニ)準ずる特別の事実」に該当しないため、土
地評価損の損金算入は認められないと判断しました。審判所は「地すべり防止区域の指
定を受けているが、その後、分譲マンション建設のために都市計画法許可及び地すべり
等防止法許可も受けているため、分譲マンションの建設・販売は可能であり、通常の方
法によって販売ができなくなったわけではない。また、土砂崩れは、建設用地から約
300m 離れた場所で発生し、建設用地そのものが直接被害にあったわけではない。」と
指摘しました。
会社Bが「(ニ)準ずる特別の事実」を主張するとしたら、少なくとも、地すべり防止
区域の指定が直接的な原因となって通常の分譲マンションの建設・販売ができなくなっ
たこと及び建設用地そのものが直接被害にあったことを立証する必要があるということ
でしょう(平成 15 年 4 月 24 日裁決)。
土地評価損の損金算入には厳しい姿勢で土地評価損の損金算入が認められるのはレアケ
Tax Report
11
借地権の税務
ースと一般的に言われています。今回紹介した裁決事例からも土地評価損が認められる場
合の規定が厳しく解釈されることがわかります。土地評価損の損金算入には注意が必要で
しょう。
3 経済的利益に対する取扱い
1
前項の規定に該当する場合において、借地権又は地役権の設定に伴い、通常の場合の
金銭の貸付けの条件に比し特に有利な条件による金銭の貸付け(いずれの名義をもってす
るかを問わず、これと同様の経済的性質を有する金銭の交付を含む。以下この条において
同じ。)その他特別の経済的な利益を受けるときは、当該金銭の貸付けにより通常の条件で
金銭の貸付けを受けた場合に比して受ける利益その他当該特別の経済的な利益の額をその
設定の対価の額に加算した金額をもってその借地権又は地役権の設定の対価として支払を
受ける金額とする。
2
前項に関して、経済的利益の額に加算した金額を算出する場合下記の通りに計算する。
その受けた金銭の貸付けにより通常の条件で金銭の貸付けを受けた場合に比して受ける
利益の額は、当該貸付けを受けた金額から、当該金額について通常の利率(当該貸付けを
受けた金額につき利息を附する旨の約定がある場合には、その利息に係る利率を控除した
利率)の十分の五に相当する利率による複利の方法で計算した現在価値に相当する金額を
控除した金額によるものとする。
3
内国法人が第二項の貸付けを受けた金額のうち同項の規定により第一項の設定の対価
の額に加算された金額の全部又は一部の返済その他第二項に規定する特別の経済的な利益
の全部又は一部の返還をした場合において、その返還により当該借地権又は地役権に係る
土地の地代の引上げ、その土地の上に存する建物又は構築物の除去その他土地(借地権者
にあっては、借地権)の価値の増加があったときは、その返還をした利益の額に相当する
金額は、当該土地(借地権者にあっては、借地権)の帳簿価額に加算するとされています。
Tax Report
12
借地権の税務
4 具体例
(1)法人が借地権を設定した場合
会社が借地権を設定した際に、通常の権利金の授受がない場合には、認定課税が行われ
ますが、この場合に行われる認定課税の金額は、次の算式で計算した金額となります。た
だし、この算式により計算した金額が、通常収受すべき権利金の額を超える場合は、その
通常収受すべき額となります。この場合の通常収受すべき権利金の額とは、たとえば更地
価額に借地権割合を乗じた額などをいいます。
認定課税される金額=土地の更地価額×(1−
相当の地代
=
土地の更地価額
×
実際の地代の年額
相当の地代の年額
)
おおむね年6%
※1
権利金を一部授受している場合や経済的利益の額がある場合は、その額を控除した
金額に対して課税されます。
※2 相当の地代は、権利金や経済的利益がある場合であっても、ないものとして計算し
ます。
■具体例
土地の更地価額(時価)
その土地の相続税評価額
借地権割合
通常支払うべき権利金
実際に支払っている地代年額
相当の地代の年額
2,000 万円
1,400 万円
60%
1,200 万円 (時価)
60 万円
120 万円
①実際に支払っている地代に見合う権利金の額
認定課税される金額=2,000 万円×(1−
=
60 万円
120 万円
)
1,000 万円
②通常支払うべき権利金の額
1,200 万円
<
1,000 万円
∴1,000 万円
③認定課税される権利金の額
1,000 万円
Tax Report
13
借地権の税務
(2)個人間で土地を賃貸借する場合
権利金の授受がないと借地人に対しては、借地権相当額が贈与されたものとみなして贈
与税の認定課税が行われますが、この場合に行われる贈与税の認定課税の金額は、次の算
式で計算した金額となります。
認定課税される金額
自用地価額 ×
=
借地権割合
①相当の地代の年額
×(1
−
実際の地代の年額−通常の地代の年額
相当の地代の年額−通常の地代の年額
=(自用地価額の過去3年間の平均額−
実際に支払った権利金の額及び特別の経済的利益の額)×
②通常の地代の年額
)
=
自用地価額
×(1
−
おおむね年6%
借地権割合)×
6%
※1
※2
※3
自用地価額は、相続税評価額を用います。
借地権割合は、国税局長が定めた割合(路線価地図に記載されたもの)を使います。
相当の地代の年額は、支払った権利金の額等がある場合であっても、これらの金額がないも
のとして計算した金額によります。
※4 通常の地代の年額は、その地域において通常の賃貸借契約に基づいて支払われている地代を
基に計算しますが、その額が不明な場合は、次の算式によって求めた金額を通常の地代とし
ても差し支えありません。
■具体例
土地の更地価額(時価)
その土地の自用地価額
自用地価額の過去3年間の平均額
借地権割合
実際に支払っている地代年額
通常の地代の年額
相当の地代の年額
認定課税される金額
1,400 万円
×
2,000 万円
1,400 万円
1,500 万円
60%
61.8 万円
33.6 万円
90 万円
=
60%
×(1
−
61.8 万円
−
33.6 万円
90.0 万円
−
33.6 万円
)=
420 万円
Tax Report
14
借地権の税務
4
所得税の取扱い
1 借地権設定時の所得区分
土地の上に借地権を設定する際に、権利金が授受される場合があります。これは不動産
の貸付けによる所得と考えられます。しかし、借地権の設定期間が長期にわたり、かつ権
利金の額があまりに多額となる場合は、実質的には不動産の譲渡と同様の結果をもたらす
と考えられます。そこで所得税法では、一定の要件に該当する場合には、上記のような権
利金の授受は譲渡所得とみなすこととされています(所得税法施行令 79 条)。
具体的には、借地権の設定に際して借地人から土地所有者に対して支払われる権利金、
協力金、礼金等であって、その名称を問わず、借地契約終了時に返還を要しない金銭、経
済的価値を有する財産の供与(経済的利益)に対する取扱いは、土地の時価との関係で以
下のとおり異なっています。
■収入金額
土地の時価の 50%以下のとき
不動産所得として課税
土地の時価の 50%超のとき
譲渡所得として課税
尚、不動産所得として課税される場合は、所得税法 90 条(変動所得及び臨時所得の平
均課税)が適用されます。
■必要経費・取得原価
次の額が認められます。
当該土地の帳簿価額 ×
設定に伴い受取った権利金
受取った権利金
+
底地の時価
以上の額が譲渡収入に対する原価として損金処理できます。
Tax Report
15
借地権の税務
2 具体例
1
個人が借地権を設定した場合の具体例
(1)前提条件
土地の更地価格(時価)
6,000 万円
取得した権利金
3,600 万円 (契約期間 30 年)
底地価格
2,400 万円
土地の取得価格
400 万円
実際に支払っている地代年額
120 万円
建物の取壊しに際し、次に掲げる費用を支出している。
①立退き料
500,000 円
②取壊し費用
400,000 円
③取壊しを行った建物の未償却残高
575,250 円
(2)所得金額の計算
①借地権設定の対価として支払いを受ける権利金の額が譲渡所得に該当するかの判定
36,000,000 円
>
60,000,000 円
×5/10 ※譲渡所得に該当
②譲渡所得の原価として認められる金額の計算(1+2)
認定課税される金額=4,000,000 円×(1−
36,000,000 円
36,000,000 円+24,000,000 円
)
=2,400,000 円
取得価額が不明の場合には5%基準についても適用できる。
③資産損失・立退料・取壊し費用
575,250 円
+
④譲渡所得の計算
500,000 円 +
権利金
400,000 円=
1,475,250 円
−(譲渡原価【1+2】)
36,000,000 −(2,400,000 +
1,475,250)=
32,124,750 円
(譲渡所得:分離長期)
Tax Report
16
借地権の税務
3 借地権の名義書換に係る所得
借地権、地役権等の存続期間の更新の対価として支払を受けるいわゆる更新料に係る所
得及び借地権者等の変更に伴い支払を受けるいわゆる名義書換料に係る所得は、その実質
が契約の更改に係るものであり、かつ、令第 79 条「資産の譲渡とみなされる行為」の規
定の適用があるものを除き、不動産所得とされます。
4 借地権の譲渡に係る所得
前提として借地権者が、借地権を譲渡した場合には、土地を譲渡した場合と同じ取扱い
がされます。
1
譲渡収入金額
個人借地人が借地権を譲渡した場合、通常は分離課税の譲渡所得(棚卸資産の譲渡であ
る場合は事業所得又は雑所得)となり、譲渡価額が譲渡収入金額となります。
2
取得価額
取得価額には、次のようなものが含まれます。
①地主等に支払った権利金、借地権の購入代価又は立退料等の金額
②土地の上に存する建物等を取得した場合におけるその建物等の購入代価のうち借地権
の対価と認められる部分の金額
③埋立て、地盛り、地ならし、切土、防壁工事等の整地又は土地の改良のために要した
費用
④借地契約の更新又は変更に当たり支出した費用
⑤建物を増改築するに当たり、地主等に対して支出した費用
⑥借地権を建物等とともに取得した場合において、その取得後おおむね1年以内にその
建物等の取壊しに着手する等、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的
であったことが明らかなときにおける建物等の取壊し損失の額(その建物等の取壊し
時の帳簿価額と取壊し費用との合計額から廃材の処分による収益の額を控除した金
額)
⑦借地権の取得のために支払った仲介手数料等の金額
⑧借地権の無償取得又は低廉取得があった場合において、借地権の時価とその実際に支
払った権利金又は購入代価の額との差額に対して受贈益として法人税や所得税を課税
された場合におけるその受贈益の金額。なお、個人が個人から贈与を受けたものとし
て贈与税を課税された場合におけるその受贈益に相当する金額は、取得費に加算する
Tax Report
17
借地権の税務
ことはできません。
⑨長期保有の借地権の取得費の計算については、概算取得費控除の特例が設けられてお
り、実際の取得費がその借地権の収入金額の5%よりも少ないときは収入金額の5%
相当額とされる簡便計算法があります。
5 相当の地代を支払っている土地の譲渡
1
相当の地代を固定している場合
相当の地代を固定方式としている場合、又は中途半端に値上げをしている場合には、土
地の価額の上昇により地代率が相対的に低下し、自然発生借地権が借地人に帰属していく
と考えられています。
このような状態にある土地を譲渡した場合には、次のような課税関係になります。
(1)支払っている地代が通常の地代を超える場合
その支払っている地代の額が通常の地代の額に相当する金額となる以前において、譲渡
が行われた場合は、借地権価額は次の算式で求めた金額となります。
実際収受している地代の年額
借地権価額=土地の更地価額×(1−
本来の相当の地代の年額
)
土地(底地)価額=土地の更地価額−借地権価額
※「本来あるべき相当の地代の年額」とは、その土地の価額(課税上弊害がないと認められる限り
自用地としての価額の過去3年間における平均額)の年6%相当額をいいます。実際に収受して
いる権利金の額又は特別の経済的利益の額がある場合であっても、これらの金額がないものとし
て計算します。
(2)支払っている地代が通常の地代以下である場合
支払っている地代の額が通常の地代の額以下である場合における借地権価額は、その土
地について通常取引される借地権の価額となります。
借地権価額
=
土地(底地)価額
土地の更地価額
=
×
土地の更地価額
借地権割合
−
借地権価額
Tax Report
18
借地権の税務
2
相当の地代を地価にスライドさせている場合
相当の地代をスライド方式としている場合は、借地権の価額は常にゼロとなりますから、
この土地を譲渡した場合には、その土地は、更地価額(時価)により譲渡したものと考え
られます。
借地権価額
=
土地(底地)価額
ゼロ
=
土地の更地価額
※この場合において、譲渡価額が著しく低い(時価の2分の1未満)場合には、時価による譲渡が
あったものとして次のような課税関係が生じます。
(1)地主個人、買主個人の場合
地主個人に対する課税 譲渡価額が譲渡所得の収入金額となる。
●譲受価額が時価より低い場合には、譲受価額との差額は贈与
があったものとみなされ贈与税が課税される。
買主個人に対する課税 ●時価の2分の1未満で取引された場合で、かつ、譲渡人の取
得価額より低い場合には、譲渡人の取得時期、取得価額を引
き継ぐ。
(2)地主個人、買主会社の場合
地主個人に対する課税
時価により譲渡があったものとみなされ、譲渡所得税が課税さ
れる。
買主会社に対する課税 時価との差額は受贈益として認定される。
(3)地主会社、買主個人の場合
地主会社に対する課税
買主個人に対する課税
時価との差額は贈与したこととなり、寄付金(役員又は使用人
に対する譲渡の場合は給与)となる。
時価との差額は会社からの贈与として、一時所得の課税対象(会
社の役員又は使用人の場合は給与)となる。
(4)地主会社、買主会社の場合
地主会社に対する課税 時価との差額は寄付金となる。
買主会社に対する課税 時価との差額は会社の収益となる。
Tax Report
19
借地権の税務
TaxReport
借地権の税務
【著 者】日本ビズアップ株式会社
【発 行】森田 務 公認会計士事務所
〒630-8247
奈良市油阪町456番地
TEL 0742-22-3578
第二森田ビル 4F
FAX 0742-27-1681
本書に掲載されている内容の一部あるいは全部を無断で複写することは、法律で認められた場合を除き、著
者および発行者の権利の侵害となります。
Tax Report
20