これは多摩美術大学が管理する修了生の論文および

これは多摩美術大学が管理する修了生の論文および
「多摩美術大学修了論文作品集」の抜粋です。無断
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多摩美術大学大学院
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益川 美喜
Miki Masukawa
タイトル:
「造形素材としての金属∼Metal Art~」
「造形素材としての金属∼Metal Art∼」
「欲する色がなければパレットの上にある他の色で間に合わせてしまう。
それでも絵は出来上がるのだ。新聞紙があればそれを直接キャンバスに貼
り付けても構わない。木片であれ、壁紙であれ、画家が感心を持ったもの
なら、総てのものが素材になりうる。この考えはあきらかに革命的だった。
」
これは、池田満寿夫の文章「私のピカソ」の中の一節である。素材という
ものが、いかに作品そして作家に影響をあたえうるか、ということを池田
氏はピカソから学んだのであろう。「最初にアイディアがある場合と、まず
素材ありきという場合」がある。たとえば、土がそこにある。ぱっと土を
見て、アイディアが浮かぶこともあれば、土をこねているうちに、思わぬ
形が出来上がり、それが1つのヒントになるときもある。このように、作
家が「素材」から影響を受け、作品、作風ができあがるということは、決
してめずらしいことではなく、逆に作品をつくる上での「素材」というも
のの影響力の大きさを意識せざるおえない。
立体作品の材料として、木、紙、樹脂、粘土、ガラス、布、金属など、様々
な素材がある中で、現在、私が作品を制作する上で素材として用いている
「金属」について、金属の種類や歴史、金属を素材として用いた過去の歴
史的芸術作品、さまざまな金属の特性、技法、表現への応用、また専門的
な技術や道具がなくても容易に金属を素材として作品制作に活用できる新
しい金属系素材などについて調べることを通して、「金属」の素材としての
可能性を考えたい。
■「金属」の歴史
そもそも、人がある種の岩石を熱して、石とは異なる性質の物質を手にい
れたのは、紀元前 4000 年頃だといわれている。今から約 6000 年も昔の
ことになる。これが、人が手にした最初の金属であった。
それからずいぶんと時間がたつと、溶かした銅を鋳型の中に流し込んで、
思い通りの形をつくる技術が発展した。
メソポタミア(中近東)やエジプトで金属の加工技術は大きく発展した。
銅だけでなく、少量の錫(スズ)を加えた青銅は、銅よりも低い温度で溶
け、同じ加工法で銅よりもはるかに硬く、強いものになった。そして、武
器や狩猟用具、農耕器具、貨幣などに盛んに用いられた。
紀元前 1500 年頃になると青銅に比べてさらに硬い鉄がつくられるように
なった。しかし、実際に鉄が大量に生産され、いろいろな加工技術が整っ
てくるのは 600 年程前のことで、高炉が発明されてからのことである。
アルミニウムやステンレスなど、今日もっとも多く使われている金属は
1900 年代にはいってから開発されたものである。アルミニウムは外側に
膜を張り付けることにより、軽くて丈夫なものとなった。ステンレスは鉄
の一種であるが、非常に錆びにくく、長持ちするものとなった。
他にも新しい金属が発見されたり、合金といわれる、他の金属と混ぜ合わ
せて強度を増す工夫がなされ、また加工技術の発展と共に、現在金属はさ
まざまな場面で広く活用されている。
金属と造形・美術とのかかわりをみてみると、青銅は強い金属が発見され
た後も、その独特の色合いと品の良さからブロンズという呼び名で美しい
彫刻作品にたくさん使われている。ステンレスやアルミニウムも光沢の美
しさから、今日では屋外の彫刻や照明器具などに利用されている。このよ
うに金属は、丈夫で硬いということだけでなく、美しい色や艶、幾何学的
な直線やなめらかな線を表現できる素材なので、現在も多くの芸術作品に
幅広く使用されている。
■「金属」という素材
金属は現代社会においてなくてはならない存在である。しかし、見近なわ
りにその種類や加工に関しては専門領域に入ってしまい、作品づくりに取
り入れるには、多少とっつきにくい素材であることも確かである。そこで、
まず金属素材の種類と特徴について調べてみた。
◆アルミニウム
元素記号/Al 比重/2.7 融点 660℃ 色/銀白色
特長/金属のなかでもっとも軽く、展延性(ひろがりとのび)がよく、加
工しやすい金属で、日常生活のなかでは、アルミ箔、パイプ材、サッシな
どに使われており、現在では鉄に次いで広く利用されている。
電気の伝導性がよく、耐食性に優れ(つまりサビない)、熱を伝えやすい性
質を持っている。また、鋳造性がよいので、さまざまな金属との合金を生
み出し、軽合金の主成分となっている。
用途/若い世代にはなじみが薄いが、かつて、お弁当箱に使われていたア
ルマイトはアルミの表面に酸化皮膜を施したもの。アルミ箔などをはじめ
として、台所用品にはかなり使われている。ジュラルミンもアルミニウム
と銅の合金で、代表的な合金のひとつであり、マグネシウム、けい素系の
合金は耐食性に優れ、サッシ材に使われる。また、亜鉛・マグネシウム系
は、アルミ合金の中で最も強いので航空機の用材に、などアルミニウムは
現代社会の中で広範囲に使われている。加工性がよいアルミだが、唯一の
難点は溶接が難しいこと。しかし、銅とけい素を加えた合金は強度と耐熱
性があり、鋳造性に優れ、溶接も容易。このように他の素材と組み合わせ
ることにより、さまざまな用途に応えられるのがアルミニウムなのである。
◆銅
元素記号/Cu 比重/8.9 融点 1083℃ 色/赤
特長/酸化しにくい赤色の金属で、熱と電気の伝導率は銀に次いで高い。
常温でも高温でも加工しやすく各種金属の合金用成分としても重要な金属。
ブロンズや他の金属とよく結合し、真鍮や青銅のような合金をつくること
ができる。硬質と軟質タイプの2つに分類されている。
銅と人類との付き合いは古く、人類が初めて手にした金属は銅といわれて
いる。また、水や水蒸気の影響は受けないが、空気中にある酸素と反応し
て緑色に変色することがある。この「ろくしょう」と呼ばれる銅のサビは、
かつては有毒とされていたが、現在では毒性がないことが立証されている。
用途/柔らかく、展延性がよいので加工がしやすく、棒・線・パイプ・板
などとして供給されている。加工性のよさから彫金やエッチング等にも多
く使われており、芸術分野の素材としても多用されている金属である。工
業製品としては導電性が良いため、電気部品に使われることが多い。
銅もアルミ同様、さまざまな物質との合金がつくられており、それらはそ
の合金固有の色で呼び分けられることが多い。白銅はニッケルとの合金で
色が白いことからこう呼ばれ、耐食性とくに海水に対して強く高温にも耐
えるので貨幣に使われることが多い。
同様に、青色をしていることから青銅と呼ばれる合金は、銅像などにも使
われるが、かつて大砲の砲身にも使われたため「砲金」ともいわれる。
一般に「あかがね、あか」と呼ばれている赤銅は、日本固有の合金。成分
は銅 95 パーセント、金 4 パーセント、銀 1 パーセントを含み主に装飾用
に使用されている。
◆黄銅(シンチュウ)
比重/8.43 融点 900℃
黄銅は銅に亜鉛を入れたもので亜鉛が 38∼42 パーセントのものを六四黄
銅と呼び、28∼30 パーセントのものを七三黄銅という。一般にはシンチ
ュウの名で知られている。黄銅の英名は brass=ブラスという。管楽器の多
くがこの黄銅で作られていることからブラスバンドの呼び方が生まれたと
いわれている。ただし、溶接の最中、有毒ガスを発生するので注意しなけ
ればならない。
特長・用途/黄銅は軟質の銅と亜鉛の合金。合金にすることで銅、亜鉛の
どちらよりも固く、伸びなくなり、引っぱりに対する強さも増す。中でも
六四黄銅はこれらの性質がもっともよく出るので、機械部品として多用さ
れる。
安価な亜鉛との合金のため、銅よりも安く、融点も低いので鋳物としても
便利である。また、展延性がよくサビにくく、美しい色と輝きを持つので
機械部品以外の用途として、楽器や装飾品などに多く使われており、建材
としても人気が高い。
六四黄銅にすずを加えたものにネーバル黄銅がある。すずを加えることに
より、金属を腐食させやすい海水に対して強くなるため、スクリューなど
の船舶用部品として使用されている。
◆鉛
元素記号/Pb 比重/11.34 融点 327℃ 色/灰白色
特長/鉛は比重が大きい、柔らかい、融点が低い、展性が大きい、潤滑性
が大きい、耐食性に優れている、などの特徴をあわせもち、それゆえ他の
金属素材から比べると少し異質な扱われ方をしている。
用途/鉛はそのままでは使われることは少ないが、特徴を生かしてさまざ
まな分野で合金として使用されている。すずとの合金はハンダ(ろう)、活
字合金、ヒューズ、スプリンクラー(自動消火栓)などに利用される。身
近なところでは鉛にすずを貼り付け成形したものが絵具のチューブ。
鉛単体の利用としては、自動車のバッテリーの電極、水道管、電気通信用
ケーブルの被覆など。鉛を含んだガラスは、屈折率が大きく、柔らかくて
重いので光学レンズ、電球などや高級なグラスなどの材料になっている。
◆鉄(炭素鋼)
元素記号/Fe 比重/7.86 融点 1530℃ 色/黒
特長/一般に鉄と呼ばれているものは、金属元素としての鉄に炭素を加え
た合金のこと。鉄は現在では金属の代名詞のようなもので、われわれの身
の回りで使用している金属の大部分が、鉄かその合金といっても差し支え
ない。しかし、厳密にいえばこの世の中に鉄という存在はなく、その多く
が○○○鋼(材・棒・管など)と呼ばれるものである。鉄鉱石から最初に
生まれるのが「銑鉄」である。炭素が非常に多く含まれており、これを使
用するのは、銑鉄を鋳型に流し込む鋳鉄だけである。(硬いので工作機械の
台座などに使用される。)銑鉄を製鋼(炭素、けい素、りんなどを取り除く)
し、できあがるのが鋼である。通常、鋼は普通鋼と特殊鋼に分類される。
普通鋼(炭素鋼)は成分として炭素、けい素、マンガン、リン、硫黄の五
つの元素を含んでいる鋼で、加工性に優れる。含まれる成分によっては熱
処理が必要なものもあり、炭素の量が多くなるほど硬くなる。耐食性に劣
り、サビがでるのが鉄の特徴。彫刻作品など、サビを生かしたマティエー
ルにする例もあるが、一般には表面の処理が必要である。
板、パイプ、形鋼(H、L型など)に加工され、金属用部材としてその用
途はじつに広い。
◆ステンレス鋼
比重/7.5 融点 1480℃ 色/銀白色
特長/ステンレス鋼(Stainless Steel)の由来は Stain(汚す)に less を
付けたもので汚さない、汚れないという意味。「鉄はサビて汚れる」という
前提に対して、いつまでも汚れない(サビない)ということで、鋼にクロ
ムを加え、耐食性を増したものがステンレス鋼であり、クロム 12∼18 パ
ーセント、ニッケル 7∼10 パーセント、炭素 0.2 パーセント以下のものを
いう。
ステンレス鋼は含む成分量の違いから、13 クロムステンレス鋼(クロム 13
パーセント含有)、18 クロムステンレス鋼(クロム 18 パーセント含有)、
18-8 ステンレス鋼(クロム 18 パーセント、ニッケル 8 パーセント含有)
の三種類にわけられている。ステンレス鋼を強さの順で比べると、13 クロ
ム、18 クロム、18-8 ステンレスの順番だが、サビにくさの点では、まっ
たくの逆になる。さらに、13 クロム、18 クロムは磁石につくが、18-8
ステンレスは付かない。
用途/18-8 ステンレス鋼は耐熱性、耐食性、加工性に優れており光沢があ
るので建築用材、装飾用材、キッチン用部材に使われている。18 クロムは
18-8 ステンレスの廉価版としての使われ方をしている。
13 クロムは 18-8 ステンレスより耐熱性に優れ、熱処理により高硬度にな
るため刃物用材として利用されている。
■「金属」の加工(技法)
まず、金属加工の伝統的技法として、「金工」がある。金工という言葉の意
味を簡潔に定義すると、金属を素材とし、それに技巧(細工)を施した工
芸、もしくはその職人(金属細工人)ということができる。そして金工は
美術工芸のなかで最も間口が広く、数多くの分野を持ち、古くは弥生時代
に銅鐸・銅剣・銅鉾・銅鏡がつくられ、そして古墳時代には鉄や金が使用
され、透彫り・線彫り・象嵌・鍍金などの技法がみられ、装身具や貨幣な
どがつくられている。我が国において仏教伝来以後、金工は急速に発展し、
仏像・仏具などがつくられ、さらに中世になって茶の湯の釜、調度品など
さまざまなものが出現し、現在に至っている。
◆金工の技術
金工には様々な技術がある。金工の主要な技法として、鋳金・鍛金・彫金、
その他がある。
①鋳金・・・金・銀・銅・鉄・錫・アンチモニーなどの金属やその合金を
加熱して溶解させ、これを、ある種の土や砂、石など不燃性の物質でつく
った型に注入して、仏像・仏具・置物の類、花瓶そのほか、いろいろな作
品をつくる方法を、鋳金あるいは鋳造、または鋳物という。
②鍛金・・・金・銀・銅・鉄などの金属またはその合金の塑性を利用し、
打ち延ばしたり、縮めたりして、壺・皿・花瓶その他の作品をつくる方法
を、鍛金あるいは打ちものという。これには鉄床(かなとこ)に金属の塊
を置いて、これを金槌や木槌で打ち延ばして薄い板金(いたがね)をつく
る鍛造と、金属の板を表と裏から打って立体をつくる鎚起、および金属板
を折り曲げたり蝋付け(ろうづけ)したりして立体をつくる板金(ばんき
ん)の3つの方法がある。
このほかに、鉄を鍛錬して日本刀などの刃物をつくる場合があるが、これ
は鍛冶(かじ)と呼ばれ、美術工芸の場合、いわゆる鍛金とは区別して扱
っている。なお、板金に文様を切り透かして、そこに他の金属を嵌め込み、
両面からその文様の金属が見えるようにする切り嵌め(嵌め金ともいう)
の技術は、鍛金に属するものとして扱われている。
③彫金・・・いろいろな種類の鏨を使用して鳥銅(赤銅)
・朧銀(四分一)
・
真鍮などの金属に文字や文様を彫刻し、切削造形する方法を彫金という。
これには、文様を高く彫りあげる高肉彫り(たかじしぼり)、文様を線条で
表す毛彫りや蹴り彫り(けりぼり)、絵画のように筆意を表現する片切り彫
りや肉合彫り(ししあいぼり)、小さな粒をおきあげ彫りにする魚々子(な
なこ)、金属の色や光沢を利用して金属の片面に他の金属を嵌め込む象嵌な
ど、各種の技法がある。
なお、象嵌には、糸象嵌、針金象嵌、線象嵌、布目象嵌、平象嵌など、い
ろいろな種類がある。
④その他・・・以上の他に、金工の主要な技法として、カザリとメッキと
がある。カザリというのは、金属の線を用いて鎖を編んだり、鑞(ろう)
を使って金属をつけ合わせたりする技術である。メッキというのは、銅や
銅合金に金銀の鍍飾をする技術で、鍍金(ときん)ともいわれ、一般には
水銀に純金を溶かしてアマルガムをつくり、これを銅の表面に塗って鍍飾
することをいう。このほか、簡単な鍍金の方法では、銅や真鍮の板を火で
加熱しながら水銀を引いて金箔を置く方法があり、建築金物の鍍金に多く
用いられていた。
メッキと似た方法に、金着せという方法と金銀色絵という方法がある。金
着せは鉄の表面に薄い金を着せたもので、この技術は中世以降途絶えたが、
金銀色絵は、金着せの進歩した技術で、低温の鑞を用いて金銀の薄い板を
鑞付けする技術である。
また、金属を使う芸術には「金属彫刻」と「鋳造」があるが、作家が直接
金属を加工する意味で、金属彫刻は現代的なものといえるだろう。
しかし、金属彫刻に使う技術の中には、古代から継承されてきているもの
もある。たとえば、金属板をハンマーでたたき込んで鎧をつくったり、ま
た貴金属を曲げたり彫ったりして装身具をつくったりするのは代表的な例
である。古代エジプトの職人達は木床の上に金の薄板をおいて打ち出し、
ローマの人たちは、ブロンズのマスクをハンマーで打ちだして作り上げて
いった。彼らの技術は、現代の金属を扱う職人、芸術家に確実に継承され
てきているのである。また、現代芸術家は鍛冶職人の技術、彫金職人の技
術、造船業者の溶接やリベット打ちなどの技術を使って作品をつくりあげ
ている。1895 年にはアセチレン溶接が開発され、彫刻家に多くの新しい
可能性や規模の拡大を提供してくれた。そしてこの新しい技術を駆使して
活躍したのが、スペインのジュリオ・ゴンザレス(1876∼1942)であっ
た。溶接技術を使った彼の作品は、1927 年に発表され、自らの技術をピ
カソ(1881∼1973)に伝えていった。多くの芸術家達は、金属特有の切
断、溶接、モデリング、鋳造、研磨、着色が可能なこと、また石材を除け
ば耐久性が非常に優れていることで、いち早くこの素材を使っていったの
である。そして、アメリカの彫刻家であるデビット・スミス(1906∼1965)
のように金属を溶接した作品を次々と発表し、1940 年代にはその功績が
認められ、1950 年代に金属彫刻の芸術的価値は、しっかりと確立し、イ
ギリスの彫刻家アンソニー・カロ(1924∼)、アレクサンダー・カルダー
(1898∼1976)、リイン・チャドウィック(1914∼)らの作品にによっ
て、その発展ははっきりと証明されていった。
このように、古くから職人や芸術家達によって発展してきた様々な金属の
加工技術を「金属を加工する基本的な技術」として調べてみた。
◆切断
機械的に金属を切断する方法として、溶断、シャーリング、レーザー、ウ
ォータージェット等の加工方法がある。そのなかでも一般的なのは溶断と
シャーリングである。
「溶断」とは電気、ガスを使い高熱で金属を溶かしながら切断するもの。
機材が持ち運びでき、どこでも使えるが、切断部分が高熱になるため、変
形、変色などが起こりやすい。
「シャーリング加工」とは板金を切るもので、上下にある刃がギロチンの
ように噛み合って、そのせん断作用で板を直線または曲線(刃の形が曲線
の場合)に切断するもので非常に一般的な技術である。
「レーザー加工」は微細加工に適している。レーザーは加工する物質に対
して直接触れない熱加工なので、加工物に対してほとんど影響を及ぼすこ
とがない。そのため超精密な加工やさまざまな材料(金属ばかりでなくセ
ラミックス、複合材、布など)に適している。切断だけでなく、穴あけ、
トリミング、溶接、表面処理などにも使われている。
「ウォータージェット加工」は直径 0.1∼0.2 ミリのノズルから音速かそ
れ以上の速さで噴射する水流を使って切断加工すること。ノズルからでる
噴流は細かいが、単位面積当たりのエネルギー密度は非常に高くしてある。
加工物に熱を与えず、水流が細かいので段ボール、ゴム、布地などの燃え
やすいものから、ケーキのような壊れやすいものまで、さまざまな材質の
ものを加工できる。
◆曲げ加工
曲げ加工(ベンダー加工)には何種類かの方法がある。加工する金属の形
状によって方法が異なるが、まず、板金の場合を挙げてみる。
「折曲げ」/板金を曲げたり、折りたたむ加工。
「丸曲げ」/円筒状、円錐状に成形したり、平行な曲面に曲げる加工。
その他に、パイプを曲げる「パイプR曲げ」、形鋼などを曲げる「アングル
R曲げ」などがある。
「プレス加工」も曲げ加工の一つ。金型を使って板状の金属を希望する形
へといろいろに成形するのもで、大量生産の工業製品の多くがこのプレス
加工によって生み出されている。
◆接着・接合
二個または数個の金属を局部的に溶かして接着させることで、大きく分け
て三タイプの方法がある。
「融接」/溶けている状態で金属に機械的圧力やつち打ちをしないでする
溶接のこと。溶接技術とは、金属を溶かす方法の一種であるが、この方法
にもアーク熱を連続的に利用した電気溶接と、アセチレンガスを利用した
ガス溶接がある。酸素アセチレンは、酸素とアセチレンガスの化合物で最
も一般的な溶接に用いる熱エネルギーだが、他のガスを使用することもで
きる。次に、ガス溶接の方法だが、まず接合したい金属を合わせ、その継
ぎ目に沿って金属が溶けるまで炎をあて徐々に移動させていくのである。
電気溶接はガス溶接よりも早く仕上げることが可能だが有効性に乏しい。
またこの溶接法は主に鋼鉄に用いられているが、激しい熱および光のため、
モデリングや細部の作業には不向きであるし、作品に近づいて作業するの
に保護服を着るといった煩わしさもある。
「圧接」/接合部に機械的圧力を加えて行なう接合のことで、高温と常温
で行なう場合がある。
「ろう付け」/二種類または数種類かの金属を接合するのに、媒介として
融点の低い金属を溶かして使って接着する。このとき接合する金属は溶か
さない。ハンダを使う軟ろう付けと銀ろうなどを用いる硬ろう付けがある。
小さいものや強度をあまり必要としないものに適している。
特に、ハンダ付けは軟鑞や硬鑞をつかって金属を接合する方法で、比較的
簡単に作業をすることができる。軟鑞はスズと鉛の合金で融点が非常に低
いが、硬鑞は融点の高い金属合金なので接合する場合、比較的高温度を必
要とする。しかし、どちらを使うにしても、接合する金属にフラックス(接
合中金属表面の酸化を防止するために用いる)を塗りつけておく必要があ
る。もちろんフラックスを塗る前に、汚れや油分を取り去っておくべきで
ある。このようにしておくと、接合面をきれいに仕上げることができる。
◆切削
削る作業には、「旋盤加工」と「フライス加工」の二つのタイプがある。
「旋盤加工」/工作物を回転させ、バイト(金属切削用の刃物)を接触さ
せて金属を切削することをいう。元来は工作物の外周を円筒状に削ること
を表現したが、丸棒の切断、きりもみ、ねじ切りなどの作業も、旋盤加工
により可能である。刃が一つなので寿命が短く、フライスほど精度は高く
ない。
「フライス加工」/回転式の刃物のことで、円筒の外周及び端面に何枚か
の切刃を持ち、これに回転切削運動を与え、加工物を送り込みその表面を
加工すること。フライスは旋盤のバイトと違って刃先が多いため、寿命が
長く、正確で作業も早いというメリットがある。どちらも、円錐や球体な
どのいろいろな形に加工が可能である。旋盤とフライスの違いは工作する
ものを回すのか、刃を回すのかの違いである。
◆表面処理
金属の表面をその内部と違った性質にすることをいう。この表面処理の目
的は外観を美しくすること、サビないようにすることである。
作品はただ磨き上げるだけでも良いが、サビの出るのが心配であれば、金
属専用の透明塗料や有色塗料を薄く作品全体に吹き付けることができる。
塗装する場合、作品の表面をあらかじめ金属研磨材で磨いておくと仕上が
りがきれいである。また、塗料を用いず、亜鉛のような錆を防止する金属
を吹き付けることで錆を防止することもできる。
工業用品などではメッキ、溶射(金属溶液の噴射)、酸化被膜の三つの方法
があり、金、銀、クロムなどは美観のために、亜鉛、すず、ニッケル、銅、
クロムはサビ対策に使われる。前項のアルミニウムのところで述べたアル
マイト処理は、酸化被膜の代表例である。これは、アルミニウムまたはそ
の合金を陽極に、鉛を陰極にして酸性水溶液中で電解させ、陽極のアルミ
ニウムを溶出させて部品の表面に酸化物の層をつくるもの。サッシなどの
建材、食器、装飾品などに使われ、このアルマイトは大変硬いものになる。
塗装も表面処理の一種といえる。また銅を使ったクラフトなどで行なわれ
る、黒化液をかけて、一部を腐食させ、アンティークのようなイメージを
出し、その上をラッカー等で塗り仕上げるなどといったことも一つの表面
処理である。さらに、高級感を出すための一般的な方法として、エナメル
ペイントがある。ニスと顔料を混ぜたもので、乾きが速く、塗膜は平らで
強く、光沢がある。銅、鉄、アルミなどいろいろな材質の金属に対応して
いる。
また、ほとんどの金属は、薬品を使用して着色することが可能である。た
とえば、銅や真鍮は加熱状態で硝酸塩の溶液を塗布することで緑色に着色
することができる。また鋼鉄は真っ赤に焼いた状態で、水蒸気を吹きかけ
ると黒色に変色する。
◆成型
「鋳造」/金属を熱して溶解し鋳型に流し込み、目的の形に仕上げる作業
をいう。鋳造には、銑鉄、鋼、銅合金、アルミニウム合金が使われる。一
般的に引っ張りに弱い。そのなかでも引っ張り強度を上げた鋳物としては
鋳鋼、高級鋳鉄、可鍛鋳鉄(ゴルフクラブ)などがある。鋳造方法として
は、ダイカスト(精密で、そのままメッキや塗装も可能/カメラ、計算機、
家電品など)やシェルモード法、遠心鋳造などがある。車のホイールやお
寺の鐘、鎌倉や奈良の大仏などは鋳物の代表的な例である。
「鍛造」/金属を一定の温度に熱し圧力を加え変形する作業。あまり複雑
な形や大きなものはつくれないが、鋳造品に比べ金属組織が均等でねばり
強さが大きい。
鍛造品の代表的な例に日本刀がある。その制作過程をみると、玉鋼と呼ば
れる原料を、板状にして細かくくだいて重ね、これを加熱し叩いて一体に
する。それをまた加熱し、縦、横、十文字に折っては重ねるという作業を
繰り返す。もともと玉鋼の状態では均質ではないが、この作業を何百、何
千回と繰り返すうちに多層になり、均質化していく。
このように叩くことにより炭素が少しずつ抜け、理想とする炭素量の鋼と
なる。日本刀の用途上の必要性としては、刃は硬く、中は柔らかくしなり
がなければならない。玉鋼を叩くことによって、切れとしなりが生まれ、
かつ折れにくいという日本刀の特長が実現される。一般に中心部は炭素が
0.1 パーセント程度で外周部は 0.7 パーセント程度といわれている。その
後、刀の形に叩いて伸ばし、形を整え、熱処理を加え、焼入れを行ない、
日本刀は完成する。一連の工程で、最も重要なのが叩いて鍛える「鍛造」
なのである。
■新しい金属系素材∼拡張する素材∼
今日、造形素材は実に多様化し、それにともなって表現方法も様々である。
インターネットで美術関連の素材について検索したところ、100 件以上も
のホームページが表示された。それぞれ、紙、布、木材や樹脂、金属素材
から植物などの自然物、そして洗濯ばさみまで、様々な素材を用いて作品
をつくっている作家達の作品紹介ホームページが数多くみられた。このよ
うに、現在では従来からの素材に加えて、さまざまに多様化する素材が現
在の造形素材として幅広く作家達に受け入れられている。
そもそも、美術で素材が多様化し始めるのは、コンセプチュアル・アート
の影響があると考えられる。ミニマリズムが工業的な素材をずっと使って
いたところに、プロセス・アートというのがでてきて、そこから素材が多
様化してきた。アメリカでそれが顕著にみられたのは、一九六九年にホイ
ットニー美術館での「アンチ・イリュージョン」という展覧会である。
エヴァ・ヘッセ、ブルース・ナウマン、カール・アンドレ、キース・ソニ
ア、リチャード・セラなどが出品している。反イリュージョンという、何
かの物質を通して別のイメージや幻影を観客に与えるというのではなくて、
物質そのものが持つ現実の力を観る者にアピールしている。
六〇年代の後半に日本でも「もの派」が起こっているし、イタリアにはア
ルテ・ポーヴェラが発生して、場所を変えて同時的にわれわれの生活を取
りまいているすべてのものを美術の素材として成立させるような動きがで
てきた。一九九〇年の二月に、ホイットニー美術館で「アンチ・イリュー
ジョン」と似たようなメンバーで「ザ・ニュー・スカルプチュア、一九六
五−七五」という展覧会が行われた。六〇年代後半からの十年間に現れた
新しい彫刻の形態を回顧した展覧会である。従来の鉄や鉛、ブロンズとい
うのは別にして、そこでどういう素材を使ったかというと、布、ワイヤー、
コード、ゴムホース、プラスチック、ネット、ポリエステル、ポリウレタ
ン、ファイバーグラス、アルミホイル、発泡スチロール、フェルト、グリ
ース、ネオン、蛍光灯、ゴム(ラバー)、ボールベアリング、ガラス、チョ
ーク、フロアーダスト(床の塵)
、タオル、煉瓦、鏡、砂利、アルミニウム、
岩、岩塩、石炭、砂、ビーワックス(蜜蝋)、ヴェルヴェットなど、このよ
うに従来の美術では使われなかったような素材を使うようになっていた。
ちなみに同時代の日本の「もの派」の使っていた素材も、土、石、スポン
ジ、木、油土、ガラス、鉄板、綿、和紙、パラフィン、角材、水、セメン
トブロック、針金、チョーク、サンドペーパー、鉄管、ロープ、コード、
電球、炭というように、だいたい一致する。つまり、従来のブロンズや鉄
とは違う素材を使っていこうという意思が同時代的にあったといえる。
さらに、ミニマリズムと同じ時代のポップ・アートが素材の拡張というか、
新しい試みをしたといえる。たとえば、クレス・オルデンバーグは、プラ
スチックやヴィニールという素材を使っている。また、アンディー・ウォ
ーホルもプラスチックの銀の枕のような風船などのような作品がいろいろ
ある。つまり、ポップ・アートが伝統的な素材に逆らうということで、素
材に対するひとつの拘束を打ち破ったといえるであろう。
では、金属素材のみを考えたとき、素材の拡張はあるのだろうか。金属素
材は、その扱いや加工に職人的要素を必要とすることが多い、よってスケ
ッチブックに水彩の筆をはしらせるように簡単にはいかないというイメー
ジが強い。しかし、探してみると実に様々な新しい金属系素材をみつける
ことができた。それらは従来の金属素材と違い、手軽に素材として加工で
きるものが多く、また素材を仕入れるのに金属系の業者などに問い合わせ
なくても、画材店や東急ハンズなどの百貨店など比較的身近な販売店で手
に入れることができる。そんな新しい金属系素材のうち、特に興味深い3
つの素材について調べてみた。
◆ピューター・メタル・インゴット
ピューターは、スズを主成分とし、これにアンチモンや銅を加えて調整し
た合金である。その組成はさまざまだが、ふつうは 91%以上のスズを含ん
でいる。かつては鉛を添加したものもあったが、現在は鉛を含まないもの
が一般的である。アンチモンを 9%含むピューターは、チューダーピュー
ター(Tudor pewter)と呼ばれている。また、30%の鉛を含むスズ−鉛系
のものは、 Roman pewter と呼ばれる。ピューター鋳物は、銀白色の美
しい金属光沢を持ち、柔軟で適当に強さもあるため、花瓶や像などの置物、
食器、アクセサリーなどが作られている。
金属加工、とくに鋳物というと、高温にする炉や、鍛冶屋のような特別な
施設が必要のように思われるが、しかし、ピューターは、家庭用のコンロ
とホーロー製のなべを用いて簡単に溶解できるので、家庭で鋳物作りを楽
しむ材料として手軽に扱うことができる金属系素材である。というのも、
ピューターの融点は 250 度前後と低く、鉄やステンレスの鍋にいれて台所
のガスの火にかけると、ほんの数分から十数分でどろどろに溶けてしまう。
その溶けた金属を型に流し込むなどして成型し、冷やせば出来上がってし
まうのである。また、失敗しても再度溶かして使えるので、気楽に挑戦す
ることができる。価格も 1Kg3000 円前後というから興味深い。
そもそも、ピューターの歴史は古く、少なくとも 2000 年前に中国でつく
られていたことが知られている。また一説には、最も古いピューター製容
器は紀元前 1500 年にさかのぼるという話もある。しかし、本当の意味で
のピューター工芸は、ローマ帝国占領下のイギリスで始まったとされる。
ローマの兵士たちは、イングランドの Cornwall の鉱山から産出するスズか
らピューター製品を鋳造して使用していた。この鉱山は、当時世界最大の
スズ・鉛・銅の鉱山であった。これらの金属は、中世からルネッサンスに
かけて、イギリスの主要な輸出品となっていた。中世になると、ピュータ
ーの人気は急速に高まっていき、1290 年頃、イングランド王エドワード
㈵世は 300 ものピューター製の皿や塩壺を所有していたそうだが、銀製の
皿は一枚も持っていなかったらしい。 さらに 1348 年までには、ロンドン
が世界最大のピューター製品生産地になった。イギリスでは、ピューター
製品に関する品質基準が定められて厳格な管理が行われた。その結果、英
国製ピューター製品に対する高い評価が定着した。ヨーロッパでピュータ
ー製品が一般の人々に使用されるようになったのは 15 世紀頃のことであ
る。また、16 世紀末までにはピューターギルドがパリやマルセイユなど各
地に設立された。そして、17 世紀にはピューター製品はその最盛期を迎え
た。しかし、18 世紀になると磁器製テーブルウェアの大量生産が始まり、
ピューター製品の人気は翳りを帯び、さらには、ビクトリア時代に電気メ
ッキ製品が生産されるようになり、ピューター製品は日常の食卓からは姿
を消していった。しかし、日常用品としての生産量が減少する一方で、ク
ラフトマンシップに支えられた良質な工芸品としての評価が確立していっ
た。その重要な契機となったのが、19 世紀後半のアーツ・アンド・クラフ
ツ運動とそれに続くアール・ヌーヴォーの流行であった。この時代には、
ピューターの鋳造による優れた作品が製作されたという。ピューターはブ
リタニアメタルとも呼ばれている。ブリタニア(Britannia)は、グレート
ブリテン(英国本島)を女性に見立てて呼ぶときの名称である。このピュ
ーターの別名は、イギリスとピューターとの深い関係を物語っているよう
に思われる。ブリタニアメタルは、18世紀イギリスで発明された。それ
以前のピューターは、スズ、銅、鉛、亜鉛、ビスマスなどから成っていた。
「ブリタニアメタル」とは、アンチモンを添加し、鉛を除くことによって、
より強く安全な合金として生まれ変わったピューターなのである。ブリタ
ニアメタルは、それまでのピューターよりも美しい光沢とより高い強度を
持っていた。この特徴が、陶磁器や電気メッキ製品との競合のなかで今日
まで生き延びることを可能にしたのであろう。
◆アートクレイシルバー
誰にでも簡単にシルバーの作品が作れる。そんな粘土状の純銀素材が「ア
ートクレイシルバー」である。 粘土細工の感覚で思いのままに形を作り、
高温で焼くと作品がそのまま純銀となってできあがるという、新しい純銀
素である。アートクレイシルバーは、純銀を微粉末にしたものと、水、バ
インダー(糊のようなもの)で練りあわされ、粘土状になっている。これ
は水性粘土であるため、普通の粘土のように水を加えながら作業し、形が
出来上がったら乾燥させ、これを高温で焼成すると、水とバインダーが燃
えてなくなり、純銀の微粉末 同士が焼結して地金となるのである。完成品
は純度 99.9%の純銀というから本格的である。また、粘土タイプの他にも、
ソフトタイプ、液状タイプなど様々な作品制作に対応しているので、アク
セサリーをはじめ、幅広く制作に活用できるであろう。ちなみに、アート
クレイのゴールドタイプという、同じく粘土状で焼成後に高品位の 22 金
に焼き上がるというものもある。
◆カラーワイヤー(自遊自在)
「感性をカタチにするやわらかいデザインカラーワイヤー」というキャッ
チコピーで販売されているのが、日本化線株式会社が発売している「自遊
自在」という針金素材である。ビニールをコーティングしたアルミ製のワ
イヤーで、手で簡単に曲げることができる他、ねじる、まきつける、ペン
チやニッパーで簡単に切断可能、とまさに自由自在の造形素材である。色
は36色、長さは3m・5m、太さは 0.9mm∼1cmの5種類と、様々
なカラーや太さがあり、価格も300円∼と手頃なので、アイディア次第
でいろいろな制作に応用できるという特性を持っているものである。この
素材は実にポップでカラフル、まるでチューブからしぼり出した油絵の具
のようになめらかに線を描いてくれる。造形用カラーワイヤとして、デザ
イン、ディスプイレー、教材、花材、ホビー、クラフト等の造形用素材と
して、幅広く使える素材といえるだろう。
これらのように、日常生活において比較的入手しやすく、加工も簡単な手
軽な造形素材でも金属造形の作品はつくれるのである。溶鉱炉がなくても
コンロや電子レンジ、オーブンがあれば金属を加工できるような自由な金
属系素材で、まるでケーキを焼くように鋳造するというのも面白いのでは
ないだろうか。
■造形素材としての金属
ここまでで述べてきた通り、「金属」とひとことでいっても、実に多種多様
な金属素材があり、また加工方法がある。しかし、金属素材に対する”と
っつきにくさ”には、金属自体に対する知識不足だけでなく、その入手方
法や加工の方法の分かりにくさも一因となっているのではないだろうか。
確かに、身の周りに沢山の金属による製品は転がっているが、いざ金属を
使って何かを作ろうと思った場合、金属素材とその加工に対する知識が往々
にして必要になってくる。
また、私が現在素材として扱っているのはシンチュウの線材(針金)であ
るが、針金はもっとも身近にある金属のひとつである。私自身、大学の卒
業制作以来、真鍮線を素材として選び、これを使って作品を制作、そして
発表しているは、素材自体の美しさに魅せられたからだけでなく、自分の
ストロークに合う扱いやすい素材だという理由が大きな要因でもある。針
金には、実にいろいろな太さがあり、また材質も各種の金属で作られてい
る。先ほど紹介したようにビニールやエナメルの膜をつけられているもの
もある。太いものは、専門的な道具がないと切断や折り曲げが自由にでき
ないが、ほとんどの針金はペンチとヤットコがあれば加工できる。しかし、
金属を素材として制作をする上で、そういった金属の加工や、材料につい
てさらに詳しく知ることにより、一層表現の幅も広がるのではないだろう
かと考えた。素材を知ることによって、素材との密接な関係が築かれ、そ
ういった素材自体に触発されて作品をつくるというスタイルがあってもい
いのではないだろうかと考える。
従来、作品を制作するという行為は、それ自体ではなんの意味も持たない
素材を用いて、作家の意図する何かを表現すべく、意味ある形を生み出し
ていくことであるとされてきた。作品制作に関するこういった基本原理を
あらためて考えると素材としての面白さが見えてくる。「まず素材ありき、
そしてそこから表現が生まれる。」という場合も素材と作家との面白い関係
を作り出してくれる。美術作品は、絵画や彫刻である前に、まず単なる物
体である。だからこそ、素材とその扱い方が、作品の言語を構成している
といえるのではないだろうか。
金属造形の表現の幅は広がっている。人類が金属を発見し,それを造形素
材として作り出した作品群は,その時代時代の職人や芸術家達の手によっ
て発展し、今もなお、様々な新しい表現を可能にしている。金属は自由に
形を変えて作品を生み出す素材であるが、それを思いのままに操って作品
として仕上げるのはとても難しい。しかし、その中にも金属という素材を
通して沢山の楽しみと発見、そして新しい発想がある。そんな現代の金属
造形を素材とともに考え、これからの制作に役立てたい。
「参考文献」
(書名/著者名/出版社名/出版年)
●アーティストマニュアル∼技法・材料・道具∼/stan smith ・professor
h f ・ten holt ・paul hogarth/メルヘン社
●金工の伝統技術/香取正彦・井尾敏雄・井伏圭介/理工学社
●金の民芸∼堅くて素朴な金物