ドレスデンのTILLING: 一塩基多型の大規模検出

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APPLICATION BIOPHARMA
ドレスデンのTILLING:
一塩基多型の大規模検出
Sylke Winkler, Claudia Seidel, Stefan Meissner,
Nicola Gscheidel および Michael Brand
ドレスデン工科大学(TU Dresden)のバイオテクノ
ロジーセンターおよび遺伝学科、およびドレスデン
のマックス-プランク研究所の分子遺伝学研究所
(MPI-CBG)
(左より)
Sylke Winkler,
Claudia Seidel,
Nicola Gscheidel
TILLING(Targeting Induced Local Lesion
IN Genomes)法は、突然変異個体における
各個体からの 関心遺伝子 の PCR増幅に
よって、一塩基多型(SNP)をその検出に引
き続いて特定するために開発された強力な
逆遺伝学ツールである 1,2 。しかし、遺伝子
機能が失われるナンセンス突然変異が同
定されることは比較的まれな事象であるの
で、関心のある遺伝子における推定された
ヌル突然変異を発見するために多数の突
然変異個体をスクリーニングする必要があ
る。TILLING法は、主としてPCRの後にPCRフ
ラグメントの制限酵素消化もしくは直接的な
配列決定に基づいている。したがって、非
常に自動化に適している。MPI CBGでは、
Tecan Genesis RWS 200ワークステーション
を選択し全分注ステップを自動化している。
我々の現在の装置は、テフロンでコーティン
グした8個のチップを持つ(384ウエルプレー
ト用)リキッドハンドリングアーム、全試薬の
為の水冷式トラフ、分注プラットホームとして
利用している冷却キャリヤー、ロボットマニ
ピュレータ(RoMa)アームおよびPCRプレート
の 供 給 も と で あ る ホ テ ル か ら 成 る。RoMa
アームは、デッキ上に設置された4つの384
ウエル用ブロックを持つサーマルサイク
ラー、冷却分注プラットホームおよび冷却イ
ンキュベーターの間でPCRプレートを移送す
る。PCR装置の電動蓋にあるパッドは、マイ
クロプレートを密封し、サンプルの交差汚染
を予防する。
Tecan Journal 3/2006
変異誘発およびライブラリーの作成
スクリーニング法
TILLINGプロジェクトの成功の基本は、非常
ゼブラフィッシュ・プロジェクトについては、
Wienholds ら に よ っ て 初 め て 報 告 さ れ た
nested PCR法を 用いてスクリーニングを
行っている 2 。この方法において、標準化ス
テップはゲノムDNAの段階ではなくPCRの段
階で行われる。これはプロジェクトの初期に、
ドレスデンのMPIで吸光プレートリーダーが利
用できなかった事に起因する。この場合も
同様に、全分注ステップは自動的に行われ
ている。nestedステップの内側のプライマー
対は、蛍光色素で標識する為のユニバーサ
ルプライマーの鋳型として、あるいはユニ
バーサルシークエンスプライマーの直接的
な鋳型として利用する為に、ユニバーサル
テールを含んでいる。
に多数の変異個体のライブラリー作成であ
る。エチルニトロソウレア(ENU)やエタンスル
ホン酸メチル(EMS)のようなアルキル化変
異原は、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ
および線虫に容易に適用され、処理個体の
ゲノム全体にランダムに点突然変異を引き
起こす。突然変異動物を未処理個体と交
配すると、誘発されたSNPは次世代に伝播
され、新たに変異を持った個体が多数生ま
れる。伝統的なTILLINGライブラリーは、数
千匹の生きた突然変異動物(ゼブラフィッ
シュおよびショウジョウバエ)、あるいは蘇生
可能な冷凍個体(線虫)およびそれに対応
するゲノムDNAから成る。ゲノムDNAの調製
は、すべて96ウエルディーププレート内で行
なわれ、希釈し384ウエルプレートに5mlづ
つ小分け分注される(DNA濃度は約0.2∼1
ng/ml)。プレートは冷凍保存し、PCRに直接
用いることができた。テフロンでコーティング
したチップをシステム液で簡単に洗浄する
ことにより、異なるテンプレートを分注する際
の交差汚染を防いでいる。
最初のPCRは、384ウェルプレートに鋳型ゲ
ノムDNAを含む全量10μlの溶液を入れて
おくという設定になっている。最初のPCR産
物は、あらかじめ次のPCR用のマスターミッ
クスが入っている新しい384ウェルプレート
に適量移され、2回目のPCRが行われる。直
接シーケンス法によるSNPの検出について
は、アガロースゲル電気泳動法によって、事
前に2回目のPCR産物の質を確認しておく。
プライマーおよびdNTPsはエキソヌクレアー
ゼI/シュリンプアルカリフォスファターゼと共
にインキュベーションすることによって脱リン
酸化され、除去された。このステップも前述
同様に、Genesis 200は全分注ステップを
APPLICATION BIOPHARMA
行っている。さらに8つの384ウエル用PCRブ
ロックが利用可能になった為、手動でマイク
ロプレートを搭載している。我々の現在の処
理能力は、アガロースゲル電気泳動法によ
る品質チェックを含めて、1.5日当たり3,072
のサンプルである。
ショウジョウバエおよび線虫プロジェクトにつ
いては、Colbertら3の報告しているTILLINGプ
ロトコルに従う。最初のPCRを実行後同じよう
に希釈し、2回目のPCRはテールを持った
(nestedの)内側のプライマーおよび蛍光標
識 プ ラ イ マ ー(LI-COR.IRDye700Ⓡ お よ び
IRDye800Ⓡ)を用いて行われる。これにより、
4倍までプールすることができる標識PCR産
物が生じる。変性の後再度アニールされ、
変異型および野性型PCR産物間でヘテロ
二重鎖形成を誘発する。ヘテロ二重鎖はエ
ンドヌクレアーゼCel-1によって切断され、そ
の結果生じる蛍光標識断片は精製され、ス
ラブゲルシーケンサーを用いた高分解能
SDS-PAGE に よ っ て 分 離 さ れ る。こ の
TILLINGアッセイのためにGeminiソフトウェア
を用いて様々な分注ステップを含む全自
動プロトコルを設定した。RoMaアームは、
サーマルサイクラーブロックおよび分注プ
ラットホーム間でPCRプレートを移動する。全
ての混合溶液に対して冷却ユニットの利用
が 可 能 で あ る。4 枚の 384 ウ エ ル プ レ ート
(1,536個のサンプル)を11時間以内に処
理することができるが、精製にはさらに2∼3
時間かかる。
推定された突然変異の検出は、莫大な数
のサンプルを取り扱うため、スクリーニング装
置の自動化を必要とする。例えば、比較的
まれなナンセンス突然変異(停止コドンは全
SNPの5%に相当)を単離するためには、非
常に多数のゼブラフィッシュの変異個体を
用いて、約400∼500万の塩基対をスクリー
ニングしなければならない。現在我々は、週
当たり9,000個以上のサンプルを処理でき
る。これは、1回のスクリーニングあたりの検
出率を500塩基対と控えめに見積もっても、
週当たり450万塩基対のゲノム情報に相当
する。したがって、我々の装置は、毎週1つ
のナンセンス突然変異に加えて多くのミス
センス突然変異を同定することができる。ま
た、機能的なゲノム研究のために日常的に
突然変異体を作製するための自動TILLING
法の適性を実証している。
■この記事は2006年9月発行 Tecan Journal 3/2006
に掲載されているユーザーストーリーを抜粋、翻訳したも
のです。ご質問、ご要望は下記までお願いします。
テカンジャパン株式会社
8チャンネルチップ
アームが384ウェル
プレートへ分注
Sylke Winkle氏と
Genesis 200
文献
1.McCallum, C.M., Comai, L., Greene, E.A.,
Henikoff, S.: Tageted screening for induced
mutations. Nature Biotechnology 18: 455
(2000)
2.Wienholds, E., Schulte-Merker, S., Walderich,
B., Plasterk, R.H.A.: Targetselected inactivation of the zebrafish rag1 gene. Science
297: 99 (2002).
3. Colbert, T., Till, B.J., Tompa, R., Reynolds, S.,
Steine, M.N., Yeung, A.T., McCallum, C.M.,
Comai, L., Henikoff, S.: High-throughput
screening for induced point mutations.Plant
Physiology 126: 480 (2001).
4.Winkler, S., Schwabedissen, A., Backasch, D.,
Bokel, C., Seidel, C., Bonisch, S., Furthauer,
M., Kuhrs, A., Cobreros, L., Brand, M., Gonzalez-Gaitan, M.: Target-selected mutant
screen by TILLING in Drosophila. Genome
Research 15: 718 (2005).
For review: Stemple, D.L.: TILLING – a highthroughput harvest form functional genomics. Nature Reviews 5: 1 (2004).
ドレスデンTILLINGプロジェクトは、ゼブラフィッ
シュDanio rerio(Michael Brand, TU Dresden
and MPI-CBG; Carl-Philipp Heisenberg, MPICBG)、線虫Caenorhabditis elegans(Anthony
Hyman, MPI-CBG)お よ び シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ
Drosophila melanogaster4(Marcos GonzalezGaitan, MPI-CBG)についての共同研究として
始まった。ワークテーブルとPCRの統合化は、
MPI-CBG 技 術 開 発 ス タ ジ オ(TDS)の Hannes
GrabnerおよびJan Wagnerの支援によって設
計された。ドレスデンTILLINGプロジェクトは、欧
州委員会の第6次研究フレーム ワークプログラ
ムによって資金援助を受けた。「ヒトの発達およ
び疾患のためのゼブラフィッシュモデル」(ZFMODELS)、ドレスデン工科大学、およびマック
スプランク研究所分子遺伝学研究所。
TEL. 044-556-7311/FAX.044-556-7312
E-mail: [email protected]
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