PM Tools A to Z

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No.25
プロジェクトの目的と目標
2005.6.1
KT
プロジェクトは、当シリーズ No.20「PMBOK 立ち上げプロセス考」で見たように、ある
組織、企業、団体などによって、ビジネス・ニーズや顧客の要求のような誘因の結果とし
て、ある目的を持って企画され、設定された目標が妥当なことによって認可されます。
この、プロジェクトの目的と目標の記述について、実際のプロジェクトの作業範囲記述書
やプロジェクト計画書などの文書をレビューすると、それらが混同して使用されている事
例を見かけることがあります。
また、PMBOK の英語版と日本語版などプロジェクトマネジメントの書籍に目を通すと、
例えば Project objectives が「プロジェクトの目的」や「プロジェクトの目標」と訳されて
おり、少し混乱があるようにも思われます。
今回はこの、プロジェクトの目的と目標について見ていきたいと思います。
始めに、プロジェクトの目的と目標に対してステークホルダーの合意や支援が得られない
と、プロジェクトは必ず失敗するということを認識しておきましょう。
プロジェクトの目的とは、プロジェクトの存在理由、プロジェクトを立ち上げる理由のこ
とです。したがって、プロジェクトの目的は、プロジェクト・オーナーに対する価値内容
をあらわしています。それはプロジェクトのライフサイクルを通して変化するものではな
く、またプロジェクト・マネジャーがマネジメントできるものでもありません。
例えば、新しい需要予測理論に基づく新在庫管理システムを開発する場合、そのプロジェ
クトの目的は、「在庫圧縮によるコスト削減」や「将来のオンデマンド・サービス・システ
ム構築のためのインフラ整備」となるかもしれません。この場合、英語では Project purpose
が適当のようです。
また、当プロジェクトの目的を、「新在庫管理システムを構築すること」のように、プロジ
ェクトの最終成果物にフォーカスして設定する場合もあります。先に掲げた「プロジェク
トの目的=プロジェクトの存在理由」からは少しはずれるようにも思いますが、このよう
に設定する事例も多いようです。この場合、英語では Project objectives が適当とも言われ
ています。
次に「プロジェクトの目標」について整理しましょう。
プロジェクトの目標を決めるときには、「SMART」の基準を守ることが重要だと言われて
います。
SMART とは、S=Specific:具体的なこと、M=Measurable:測定可能なこと、A=
Agreed-upon:合意されていること、R=Realistic:現実的なこと、T=Timely:期限が明
確なこと、を意味しています。(SMART は、プロジェクトマネジメント関連書籍によって
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一部違う用語を当てている場合があります。)
つまり、プロジェクトの目標は、具体的に表現するもので、結果を測定することで評価が
でき、目標に対してステークホルダーが合意しており、達成可能な現実性を有し、かつ完
了までの期限が決まっていることが必要になります。例えば、「新在庫管理システムの機能
要件と品質基準が既定され、かつそれらは顧客と合意されている」との前提のもとで、プ
ロジェクトの目標を「新在庫管理システムを、1 億円の予算で開発し、そのカットオーバー
を本年 10 月 31 日とする。」とすると目標が明確に分かります。
このような明確な目標を設定すると、プロジェクトマネジメントの対象のアウトラインも
明確になります。したがって、プロジェクトの目標は、プロジェクト・マネジャーがマネ
ジメントする責任があり、場合によりそれらが変更される可能性もあって変更管理の対象
にもなるわけです。
なお、英語では、最終的なプロジェクトの目標を Goal、中間的な目標を Target と使い分け
て呼ぶ場合があるようです。
さて、ここでプロジェクトの目標について、もう少し掘り下げてみましょう。
プロジェクトの目標は測定可能でなければならない、とあります。上例では、機能量、品
質、予算、期限などが測定対象として明確に挙げられているので、変更管理の実施や、プ
ロジェクトの成否が判定できます。
では、プロジェクトの目標として、例えば上例において、
「新在庫管理システムにより運用
開始後 1 年間に 30%の在庫圧縮と 15%の在庫管理費用の削減を行う」と設定することも可
能で、この場合にはプロジェクトの成否はプロジェクト終了後 1 年経ないと分かりません。
しかもこの目標は、プロジェクト・マネジャーにはマネージできないものです。しかし、
現実にはこのような目標を設定するプロジェクトも多いのです。
こうして見ると、プロジェクトの目標にはプロジェクトの完了時に測定・判定できるもの
と、最終成果物として世に出て使用された結果として測定・判定できるものの2種類があ
ることが分かります。後者はプロジェクトをプロジェクト・ライフサイクルの視点ではな
く、より上の視点、即ちプロダクト・ライフサイクルで見るものです。(プロジェクト及び
プロダクト・ライフサイクルについては当シリーズ No.20 を参照ください。)
プロジェクトの立ち上げ時や計画時には、プロジェクト憲章(Project Charter)やプロジ
ェクト作業範囲記述書(SOW:Statement of Work)、プロジェクト計画書などを作成して
プロジェクトの目的と目標を掲げますが、ここで示した観点を踏まえてそれらを具体的に
記述すると共に、それらに対してステークホルダーの合意と支援を取り付けておくことが、
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プロジェクトを成功に導くポイントになります。
参考文献:1.PMBOK® ガイド第 3 版
PMI
2.PMBOK® Guide - Third Edition
PMI
3.プロジェクトマネジメント 成功するための仕事術
東洋エンジニアリング
日本能率協会マネジメントセンター
4.世界一わかりやすいプロジェクトマネジメント
サニー・ベーカー他
総合法令出版
※PMBOK は Project Management Institute の米国及びその他の国における登録商標です。
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