ディジタル情報家電の動向と今後

ディジタル情報家電の動向と今後
ディジタル情報家電の動向と今後
Trend of Digital Information Appliances
千 葉 滋 *
Shigeru Chiba
要 旨
ディジタル情報家電の動向と課題について概観し
た。情報家電はネットワークを基盤とした多種多様の
サービスを受けるためのプラットホームとして成長
し,それらの相互作用の中で機能が複合・分化し,TV,
PC といった従来の概念では定義できない新しい情報
家電が誕生すると予測している。また,市場の立ち上
げには従来にない様々な課題が発生することも指摘し
ている。
This paper describes on the trend of digital information
appliances (DIA) and its future. It is prospected that DIA
will be developed as the platform for enjoying a various
kind of network services and new types of DIA will be
proposed depending on new killer services. This paper also
describes on the important issues that must be overcome to
find new DIA market.
1.背景
産業用情報機器が技術革新で低価格となり,
新種の
家電として家庭に定着し始めたのは,1980 年後半の
ことである。当時,家庭内で使われ始めた FAX やコ
ピー機等を情報家電と呼ぶ人もいた。その後,ワープ
ロ,コードレス電話,携帯電話,CD-I,パソコン,マ
ルチメディアプレーヤ,カーナビ,インターネット関
連商品と,いずれも何らかの意味で情報を扱う商品が
次々と登場し,それまで,AV(オーディオ・ビデオ)
と白物(洗濯機,冷蔵庫など)だけで構成されていた
家電市場に第3の領域を築いた。
最初は,
主にオフィスで利用されている情報通信機
器がパーソナルな形態で使われるだけであったが,
デ ィ ジ タ ル 処 理 や LSI 技 術 の 進 展 に よ り , 電 話 ,
ファックス,ゲーム機,電子手帳などが小型複合化し
ながらモバイル商品として発展し,
産業と家庭がボー
ダーレス化した市場に定着した。
最近では携帯電話,インターネット,パソコン,
カーナビ等の普及が著しく,情報と通信の融合,さら
にはAVと放送を加えたマルチメディア機器へと進展
しつつある。
一方,ディジタル情報処理技術,放送通信等におけ
る伝送路のディジタル化等や,
ネットワーク網の充実
により,コンテンツのメディア横断的な供給が進行,
情報機器に新たな付加価値を与えるサービスが次々と
始動している。その中で,ユーザの利用形態は,受動
的消費から能動的消費へ,情報の単なる消費から処
理・発信へ,生活の場から経済活動の場へ,単一情報
から複合的情報の消費へと展開し,高度化,多様化し
てきている。
情報家電はネットワークを基盤にした多種多様な
サービスを手軽に享受するためのプラットフォームや
ゲートウェイ(入り口)としての期待がもっとも大き
いと考えられるが,多様な情報サービスの提供や相互
作用の中で,機能が複合・分化し,TV,PC といった
従来的概念では定義できない新しい機器,
真の意味の
「情報家電」
に次第に進化していくものと予想される。
また,中長期的には,家庭内ネットワークによる白モ
ノ等との連携も進展し,
最終的にはジャンル別の統合
化と秩序ある多様化が併行して進行し,
ネットワーク
をインフラとする情報家電の商品群が新しい巨大市場
を形成すると見込まれる。
TV,PCといった従来的概念では定義できない新し
い機器,即ち,真の情報家電が広く家庭に入り込むの
は,インフラの状況,消費者の情報機器に対する慣
れ・ニーズ等を考慮すると,数年後になると思われ
る。当面は携帯電話の予想以上の普及にみられるよう
に情報通信機器がパーソナルな形態で使われることか
ら始まり,その後,電話,ファックス,ゲーム機,電
子手帳などが小型複合化しながらネットワーク機能を
つけて進展,
いわゆるモバイルインターネット分野を
形成し,放送のディジタル化を経て家庭内へ浸透する
というシナリオを考えるのが最も自然である。
* 情報家電開発本部 マルチメディア開発研究所
―5―
シャープ技報
第75号・1999年12月
日本は PC では米国の後塵を拝したが,情報家電分
野では世界のリード役と目されている。それは,ユー
ザの目線で家電製品を作るノウハウがあると期待され
ているためである。また,弱点とされるサービスやイ
ンフラについても,
携帯電話を中心としたモバイル分
野で世界に先駆けて新しい事業が次々と立ち上がる気
運がある。さらに政府も制度の見直し,規制緩和や情
報通信ネットワークを中心とした社会インフラの整備
を政策的且つ精力的に進めており,2000 年のディジ
タルBS放送開始やインターネット常時接続の一般化
を契機に,21 世紀を担う情報家電産業が生み出され
る土壌は整いつつある。
2 . 情報家電の課題と今後
報家電市場創出には,
商品の基本的な性能や機能は
勿論,ユーザビリティ(操作性)や理解等の容易性等,
いわゆるユーザの視点に立った商品開発が前にも増し
て重要となる。それに加えて,これから本格化する
ネットワークインフラやサービスと情報家電が連携し
て目指す魅力ある生活スタイルをセットで提案するこ
とが求められる。すなわち,情報家電という新しい
ジャンルを確立するためには,
新たなコンセプトを具
現化する上での個々の商品の役割を明確にしながら,
ソフト(コンテンツ)やサービスと組み合わせた包括
的でバランスの取れた商品戦略が必須となる。
さらに,
情報家電がネットワーク環境で使用される
ことから,利用環境への柔軟な接続性,技術進化によ
るバージョンアップ等に対応した拡張性を具備するこ
とが求められる。これらに対する不備は,ユーザの心
理的負担増やコスト増につながり,
市場成長の阻害要
因となるため確実な対応が求められる。また,その仕
組みの開発と標準化,デファクト化等,グローバル・
スタンダードへの展開活動も不可欠となる。それには
一企業の枠を超えた連携も必要になり,業種間の連
携,連合も重要な選択肢となる。
消費者の機器購入後の対応についても同様の課題が
ある。例えば,機器間の接続性等に関わる課題につい
てはメーカ間の枠を越えた検証サービス体制が必要と
なり,
ネットワーク上をコンテンツや個人情報が飛び
交う社会では,プライバシーや著作権の保護方策に関
する配慮が不可欠となる。また,それなくしては情報
家電産業の健全で長期的な成長は望めないわけであ
る。
上記のように情報家電普及には,知的所有権問題,
著作権保護問題等,情報処理,通信,家電,等複数の
分野にまたがる横断的課題が数多く生起し,一社だけ
では対応に限界があることを知る必要がある。例え
ば,デファクト化の推進ではイニシアティブをとりな
がらの基盤技術先行開発,情報発信,標準化活動等を
進めることが先行者利益を確保するための重要な課題
になるが,その場合でも相互補完のための協業が重要
なポイントとなる。
一方,企業内においては,コア部品及びサービス・
コンテンツへの付加価値の二極分化や知的所有権等に
おける新たな課題の顕在化といった環境変化に対する
組織的対応も必要不可欠となり,企業内組織体制の変
革にも否応無しに取り組まざるを得なくなる。また,
一方では,業界の横断的活動でリーダーシップをとる
方策が必要で,前にもまして独自の強い技術を持つこ
とが重要になる。
情報家電関連メーカが取り組むべき多くの課題が,
一社だけでは解決できないものを含むことから,情報
家電が本格的なマルチメディアとして家庭に広く深く
入り込むのには,数年の期間が必要と考えられる。
サービス,ネットワーク,及び情報家電の統合環境
が,いわばマルチメディアと言え,映像,音響と情報
通信を融合化,統合化させた情報環境であるとも言え
る。マルチメディア時代への流れは,生活,産業,公
共の3方面から進むと考えられ,大局的には個別に進
化してきた AVCC が 90 年代後半までの統合の時代を
経て,21 世紀の融合化した真のマルチメディアの
サービスへと向かっていくと考えられる。
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0日受理)