インド鋳造展示会におけるジャパン・パビリオンの設置

インド鋳造展示会における
ジャパン・パビリオンの設置について
経済産業省 素形材産業室 課長補佐 堀 琢 磨
1.ジャパン・パビリオン出展の意義
いる国際展示会である。展示会に先立ち、ニューデリー
海外見本市におけるジャパン・パビリオンへの出展
において、出展者の参加のもと、駐インド大使への表
敬及び JETRO ブリーフィングが行われた。この時期、
がビジネスに役立つ理由は 8 つある。具体的に、①日
山に近い地域は霧で覆われ、チャンディーガル行きの
本ブランドの 1 つとして、自社製品や技術の認知度が
飛行機が時々欠航になる季節である。
向上する、②単独出展と比べて来場者が増え、将来の
会場には、各企業によるブース(単独出展)の他、
顧客と出会う機会が格段に増す、③需要拡大地への販
日本、ドイツ、イタリア、中国のパビリオンが設置さ
路開拓に役立つ情報(顧客開拓、代理店の発掘、市場
れた。ジャパン・パビリオンは、11 社から構成される。
のニーズ等)が効率よく収集でき、多様な製品群の供
ジャパン・パビリオンへの訪問者の多くが、日本企業
給へのきっかけが得られる、④製品を前に置いてフェ
の高い技術力に関心を持つ。「その企業のホームペー
イス・トゥー・フェイスの会話を通じて、世界各国の
ジは英語で読むことが出来ますか」、「人手不足を機械
多様な人脈をつくることができる、⑤会社の表現力(ア
で補いたいのですが、どこにコンタクトすれば企業を
ピール技術等)が磨かれ、営業力や製品開発力が強化
紹介いただけますか」、様々な質問があった。アルファ
される、⑥展示会の準備・実行プロセスを通じて、志
ベット表記の会員企業リンク集がある工業会には、海
を1つにして汗を流した仲間(同業/異業)ができる、
外バイヤーからの問いあわせが寄せられる。鋳物製品
⑦共同出展により経費のみならず心理的負担も軽減さ
のみならず、中小企業が使いやすい設備にも関心が集
れる、⑧共用の商談スペースの設置や共同のアンケー
まった。出展企業には、製品の成約、現地法人設立の
ト調査のように共同の取組ができる、ことである。イ
要望、3D データ持ち込みの試作相談、見積り依頼等
ンド市場は、財閥系と国営の素材・機械系企業に加え
の成果があった。日本からの出展企業は、「コストば
て、欧米企業がビジネスを古くから展開している市場
かりの問い合わせを予想していたが、現状の技術的問
である。ビジネスのハードルは他社を引きはなすきっ
題点についての積極的な質問も多く、品質・生産性に
かけになりうるものの、業を相互に補完して助けあう
対する意識が予想より高い」、「メイド・イン・ジャパ
仲間が必要になり、ジャパン・パビリオンのような共
ンとしてある種の連帯感を持ってアピールすることが
同の取組が高い効果を持つ。2011 年 2 月、インドを
でき、誠に心強い限り」というコメントを残している。
はじめ世界中から参加者が集まる IFEX(International
また、地元英字紙に、インド経営者と共同で小間を出
Exhibition on Foundry Technology, Equipment and
した企業の記事が掲載された。
Supplies)2011 において、ジャパン・パビリオンが設
置された。また、2012 年 3 月の次回 IFEX2012 にお
いても、ジャパン・パビリオンが設置される。そこで、
海外展開支援の一例として、展示会支援を紹介する。
3.IF E X 2012
世界への販路開拓に力を注ぐ鋳造業界の強い要望
のもと、JETRO のご厚意により、翌年 IFEX2012 に、
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2.IF E X 2011
ジャパン・パビリオンが設置されることになった。
2011 年 2 月 11 日(金)∼ 13 日(日)、インド北部の
2012 年 3 月 2 日(金)∼ 4 日(日)、インド・バンガロー
ル 国 際 展 示 場(Bangalore International Exhibition
チャンディーガル(地図中 Ludhiana 周辺)において、
Center)にて開催される予定である。製造業が集まる
IFEX2011 が開催された。これは、インド鋳造協会大
南インド地域、特にチェンナイ近郊の企業にも、製品・
会(Indian Foundry Congress)に併せて開催されて
技術を PR する良い機会である。同会場にて、第 60
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政策TREND
回インド鋳造協会大会に加えて、第 2 回アジア鋳造
フォーラムも開催される。展示会に関して、JETRO は、
4.インドにおける鋳造産業集積
小間を増やして対応にあたり、結果 9 社(鋳造製品、
インド鋳造協会によれば、インド鋳造産業は、5 千
鋳造機械、副資材等)によって、ジャパン・パビリオ
事業所と 50 万人の従業員からなる。年産 800 万 t の
ンが構成されることになった。この中には、自治体関
うち、上位 50 社で 3 分の 1 を占め、規模の格差が大
係団体(財団法人長野テクノ財団)の応援を受けて、
きい。用途別には自動車が 3 分の 1 であり、生産種別
大インド市場に乗り込もうとする企業もある。大型の
には、ねずみ鋳鉄が 7 割を占める。インドにおける産
展示品は、横浜港 → シンガポール又は香港経由 → チェ
業集積地は表のとおりであり、地域性が見られる。近
ンナイ港、そして陸路でバンガロールに運搬される。
代鋳造業は、インド東部の西ベンガル州(1940 年代
諸手続を含めると 2 か月半かかることから、本号が刊
はインド鋳造品の 8 割を生産)にはじまり、緑の革命
行される頃は、準備が佳境に入っている時期である。
が成功をおさめて工業化が進んだパンジャブ地方、綿
花栽培の灌漑ポンプ需要が増える南部の綿花地帯に広
がる。近年では、自動車企業が立地するデリー首都圏
イ ン ド に おける鋳造産業集積
集積地
東
部
西ベンガル州
ハリアナ州
北
部
西
部
ハウラ
(Howrah)
500
ファリダバード
N/A
(Faridabad)
グルガオン
N/A
(Gurgaon)
用途
特徴
カルカッタ(対岸)とともに、Hoogly Industrial Region として
鉄道、工作機械、
知られている。40 年代から鋳造企業が集積した。繊維工業(ジュー
上下水道
ト)・農具・上下水道から、鉄道・工作機械へ発展した。
農 業 機 械、 建 設 グルガオンの東、2 号線(デリー∼アグラ)に位置する。軽工業、
機械、二輪車
機械工業など、様々な中小企業が立地する。
自動車
8 号線(デリー∼ムンバイ)沿いにあり、マルチ・スズキ、ホンダの
工場周辺に、
四輪の鉄系鋳物、二輪のアルミ部品企業などが立地する。
ルディアナ
N/A 農業機械(35%)、
(Ludhiana)
工作機械(33%)、「緑の革命」が成功し、小麦、米、砂糖黍の収穫が増える。羊毛の
ポ ン プ / フ ァ ン 産地。バークラナンガルダムの水力発電を利用。ミシン・農機具
ジャランダル
パンジャブ州
N/A
(10 %)、 自 動 車 から、自動車・工作機械へ発展。ルディアナは 100 万都市。ジャ
(Jalandahr)
部 品・ エ ン ジ ン ランダール/バタラの生産量のうち 15%は輸出。
バタラ
950 (8%)
(Batala)
ラージコット
(Rajkot)
デ ィ ー ゼ ル・ エ
ン ジ ン(42 %)、
500 自 動 車 / 繊 維
(15 %)、 工 作 機
械(11%)
コルハープル
(Kolhapur)
自 動 車 / エンジ ン
(42%)
、灌漑用ポンプ 標高 500m。旧藩王国の都。交通の要衝。木材、米、砂糖黍などの
250 /バルブ(17%)
、糖 集散地であり、製紙業及び製糖業が発達した。近年は、自動車部
業(6%)
、トラクター 品の生産が拡大している。
/農業機械(4%)
クジャラート州
マハラシュトラ州
カルナータカ州
南
部
企業数
プネー
(Pune)
ベルガウム
(Belgaum)
N/A
主に自動車部品
自 動 車 / エンジン
(31%)
、ポンプ/バ
150 ルブ(21%)
、
モーター
(10%)
、トラクター
/農業機械(7%)
ポンプ / バ ル ブ
(46 %)
、食品加
コインバトール
600 工(7%)
、繊 維 機
(Coimbatore)
械(6%)
、モーター
タミル・ナドゥ州
(6%)
、自動車(4%)
チェンナイ
N/A
(Chennai)
旧藩王国の都。古くは、ポンプ、製粉機、粉砕機などの動力装置
を生産。自動車及び工作機械に発展。顧客は、域内の他、ムンバ
イやアーメダバード。ラージコット海岸部からカッチ(Kutch)
湿原にかけて、ベントナイトを産する。ロストワックス法による
鋳造企業が 100 社集積する。
標高 500m。自動車企業の集積地。
標高 700m。西ガーツ山脈東麓に位置し、インド南部の数少ない
常流河川であるクリシュナ川の源流にあたる。交通の要衝であり、
木材、綿花、米などの集散地として栄える。40 年代から農具を生産。
農業用トラクター、自動車部品、工作機械へ発展。自動車部品は
プネに輸送。
標高 900m。西ガーツ山脈を横切る広い谷にあり、東西の海岸を
結ぶ、交通の要衝として栄える。南インドの綿工業の中心であり、
灌漑用ポンプの他、自動車、農業機械の生産地。COINDIA により、
中小鋳造企業を支える共用設備が整備される。
海港を持つ。南アジアのデトロイトと呼ばれる、
自動車企業の集積地。
自動車、農業機械 中東・アフリカなどへの輸出拠点になっている。鉄道車両の工場が
ある。製糖業、セメント業、繊維産業(綿、絹、合成繊維)が発達。
(出典)用途及び企業数は、The Institute of Indian Foundrymen 等による。パンジャブ州の用途欄データは、ジャランダル及びバタラのデータ。
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ジャパン・パビリオンのコンセプト・ボード
IFEX 2011 では、間仕切りをなくし、回遊性を高めたレイ
アウトを採用した
鋳造産業の集積地
(インド鋳造協会資料による)
5.注目が集まるインド市場
日本国内において同業者間、材料間、加工法間等、も
のづくり産業内の競争が激化し、営業の面積(地域及
び分野)を広げるための取組が各企業で行われている。
素形材製品は、人口増加とともに需要が急拡大する
「衣食住+電力エネルギー+輸送機器」と密接に関わり、
世界中から大いに求められているものである。インド
鋳造協会は、世界2位(世界生産量の約 1 割)のイン
ド鋳物市場は、2010 年∼ 2016 年にかけて、鋳物生産量
及び生産金額とも 2 倍以上(生産量 810 万 t → 1,700 ∼
1,800 万 t、生産金額 80 億ドル→ 192 億ドル)になると
予想する。
インドの鋳物工場にて
各素形材団体において、インド市場に注目する動き
が顕在化している。今年に入ってからも、日本鋳鍛
鋼会では総会( 4 月)にて元駐インド大使の講演が行
郊外(グルガオン)、西部のムンバイ、南部のチェン
われ、日本鋳造協会春季大会講演会( 5 月)では、イ
ナイにおいて、鋳造産業が急速に発展している。各産
ンド鋳造協会前会長他による講演が行われた。また、
業集積地では、①設計・検査・試作加工・研修に使う
NPO 熟年ものづくり国際協力センターでは日印自動
共同利用設備の設置(コインバトール)、②砂再処理
車協力会による講演( 8 月)が行われ、さらに、日本
設備の設置(ベルガウム)、③キュポラへの公害防止
鍛造協会関係者 50 名は、11 月、ハイデラバードで開
機器の導入(ハウラ)等、地域独自の取組が進む。農
催された国際鍛造会議と企業訪問ツアー(鍛造企業が
業大国インドに特徴付けられるのは、工場の厳しい水
集積するチェンナイ・バンガロール、プネ、ラージコッ
管理規制である。その他の鋳造企業をとりまく課題は、
ト、デリー、パンジャブ)に参加した。
日本と同様、教育・訓練、原材料調達、省エネ、リサ
皆様のジャパン・パビリオンへのご訪問をきっかけ
イクル、環境対策であり、インド鋳造協会は、教育・
に、販路開拓が進むことを願ってやまない。
訓練、研究発表、技術指導を行っている。
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