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2001年度スポーツ産業論
審判問題 ∼誤審はなぜおこるのか∼
2002・01・30
作成者一覧
澤 雅英
(商2 1199118r)
佐川 耕太朗 (社2 4100081b)
須藤 諭史
(商4 71144)
西島 崇
(法2 3100157c)
藤縄 拓巳
(社2 77215)
① テーマ設定の理由
近年スポーツのプロ化がすすみ、選手の技術レベルが向上している中、審判の誤審
により試合が壊れ、選手だけではなく見ているほうまで不快な思いをすることは少な
くない。なぜ誤審が起こってしまうのかという課題を考え、そこから今後の審判はど
うあるべきか考えた。
② 概要
様々な競技の審判の地位・選手と審判の立場を考え、その上で誤審問題をとらえ、
今後の審判のあり方を考える。
(a)プロ野球の審判
(b)サッカーの審判
(c)NBAの審判
(d)競馬の審判
③ 研究成果詳細
(a)プロ野球の審判
Ⅰ
審判員とは
(a)所属
セパ両リーグに審判部があり、審判員は各リーグ会長の直属下に属する
(b)待遇
年俸は 300 万から 1500 万程度(一軍の試合出場には一試合ごとに手当)
単年契約
退職金無し(個人事業主扱い)
商業労連連帯労組プロ野球審判部がある
(c)採用から一軍出場まで
・採用は不定期(例として以下はセ・リーグの募集要項 1995 年 12 月 15 日発表)
「応募資格は満二十二歳以上、二十七歳未満(一九九六年四月一日現在)で、身長1
75センチ以上、裸眼視力1・0以上の男子。受験希望者は自己紹介文(400字詰め
原稿用紙1枚)を添えた履歴書を、〒104東京都中央区銀座6の6の7
朝日ビル3
階「セ・リーグ審判部」へ。締め切りは九六年一月十六日到着分まで。試験日は同二十
日」
・通常は二年以上、二軍の試合に出場し、技術を磨く。最近は審判員になる前後にア
メリカに渡り、審判員養成学校で五週間の養成プログラムを受けるものが多い。大
体 3∼5 年で一軍の試合に出場するようになる。
(アメリカは審判員になるとルーキ
ーリーグ、1A、2A、3A に二年程度ずつ所属し、ランクアップしていく)
※参考(a)
(b)
:
(c)
:
Ⅱ
http://men-in-blue.com/
毎日新聞
95 年 12 月 18 日付
規定(ルールブック)における審判員
審判員の権限
9.01(a)リーグ会長は、1 名以上の審判員を指名して、各リーグの選手権試合を主宰さ
せる。
審判員の裁定
9.02(a)審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから、プレイヤー、監督、コーチ
または控えのプレイヤーが、その判断に対して異議を唱えることは許されない。
(原注:ボール・ストライクの判定に異議を唱えるために本塁にむかってスター
トすれば、警告が発せられる。警告にもかかわらず本塁に近づけば、試合から除
かれる)
9.02(b)審判員の裁定が規則の適用を誤って下された疑いがあるときには、監督だけがそ
の裁定を規則に基づく正しい裁定に訂正するよう要請することが出来る
球審及び塁審の任務
9.04(c)1つのプレーに対して 2 人以上の審判員が裁定を下し、しかもその裁定が食い違
っていた場合は、球審が審判員を集めて協議し…どの裁定を取るかを決定する。
※参考:プロフェッショナル・ベースボール・コミッショナー発行公認野球規則
審判員は試合を主宰するものであり、リーグ会長の権限を野球場に引き継いだ存在である。
9.02 に示される通り、ルール適用に関する疑問を唱える抗議以外の、裁定に異議を唱える
抗議は禁止されており、審判員にはそのような抗議を行うもの全てを無条件に退場させる権
利が与えられている。また、必要な場合審判員が裁定について協議することも認められてい
る。(9.04)
公認野球規則の審判員に関する部分は、大きく2つのこと規定し、また審判員に求めてい
る。野球場における審判の絶対的権威と、プレーや選手に対する厳正さと毅然とした態度・
振る舞いである。しかし、実際のプロ野球において実態は全く異なる。Ⅲでは、その実態を
明らかにする。
Ⅲ
審判員に関するトラブル
代表的な事例
(a)1997 年 5 月∼6 月 デュミィロ審判員のケース
6 月 5 日の中日・横浜戦で、球審を務めたディミュロ審判員は、ストライクの判定に執よ
うに抗議した中日・大豊内野手を退場処分とした。その際、同選手やコーチらに取り囲ま
れて胸を数回突かれるなどの暴行を受けた。5 月にも阪神の吉田監督が抗議して、同審判員
から退場を宣告されるなどのトラブルがあった。(97 年 6 月 6 日付)
同月 6 日、ディミュロ審判員はセ・リーグ事務所で川島広守会長に「精神的にショック
を受けている」と、辞任の意向を伝えた。同会長は慰留したが、9日、都内のセ・リーグ事
務所で川島広守会長と2度目の会談を行い、了承された。帰国は米側の指示によるもので、
審判の権威を重んじる米国から日本球界への痛烈な批判となったといえる。ディミュロ審判
員は米3A審判から1年契約で今年3月来日。セ・リーグ公式戦39試合に出場し、そのう
ち11試合で球審を務めた。彼曰く「日本は安全なのにグラウンド内だけは危険だ」(6 月
7 日付)
米テレビはこの事件を一斉に報じた。
ABCテレビは、大豊泰昭選手の抗議したシーンをスローモーションで流し、
「彼は3回
にわたり胸を小突かれた」と指摘。「日米文化交流の目的は果たされなかった」と述べた。
CBSテレビは、日本のプロ野球では選手や監督からの圧力で「審判員は、しばしば判定
を変える」と紹介。事件が起きても、
「だれも罰されず、正式な謝罪もなく、何も変わらな
い」日本のプロ野球界の“不思議さ”を伝えた。(6 月 11 日付)
大リーグ審判組合のパット・カンベル評議委員は「今回の事件が、日米の野球文化、歴史
の違いに起因するものだということは理解している」と前置きしながらも「大リーグのほと
んどの審判が憤慨している。他の審判が全くサポートしなかったことにも驚いた」と話す。
「あんな状況の中では、審判に日米交流を奨励できない。我々は今、交流プログラムを続け
るべきかどうか、真剣に検討している」と付け加えた。同委員は「私は日本の野球を見てい
ないので、野球の質に関して論評は出来ない。しかし、あの状況に我慢できる大リーグ審判
はいない」と断言した。
(7 月 30 日付)
日本ではどのような動きがあっただろうか。セ・リーグの会長や事務局長、審判部長な
どで事態を協議し、暴力行為を伴うなど悪質な抗議に対しては厳正に処分するが、監督あ
るいは当該選手に対して、判定への質問は許可するとの改善策をまとめた。
(6 月 24 日付)
セ・リーグのオーナー懇談会でも審判員への抗議や暴力に対しルール通りに厳正に対処し
ていくというセ・リーグ理事会の報告が確認された。(7 月 4 日付)
また、セ、パ両リーグと審判労組の日本商業労連連帯労組プロ野球審判支部との団体交渉
において、審判労組側が回答を求めていた「試合中の審判への監督や選手らの暴力行為に対
する出場停止などの厳しい処分」について、リーグ側の村田繁パ・リーグ事務局長らが「審
判に対する暴力行為の根絶を期し、
(リーグ)会長が強い態度で臨む」との川島広守、原野
和夫セ、パ両会長の方針を伝えた。(6 月 17 日付)
このディミュロ審判員の帰国で、日本球界は審判員の権威復活と、暴力行為の根絶を目指
すことで意見を一致させたと言える。約一ヶ月後、以下のケースが起こる。
7 月 10 日、近鉄・西武戦で奈良原内野手は、二塁走者としてけん制アウトと判定された
際、二塁塁審の丹波幸一審判員に「空タッチだ」と抗議し、胸を突いた。この行為で同内野
手は退場を宣告される。東尾監督は試合終了後グラウンド内で東尾監督が同塁審に「抗議を
受け付けんとは、お前なめているのか」などと暴言を吐き、胸を突いた。同塁審が退場を宣
告したところ、東尾監督はさらに胸をつかみ、足をけった。この行為で東尾監督も退場。翌
日、東尾監督に出場停止3試合と制裁金10万円、同じく奈良原内野手に出場停止1試合の
制裁を科した。
(7 月 11 日・12 日付)
この処分は従来ではあり得ない厳しいものであった。暴力行為に対する厳しい姿勢が表れ
たものである。
(b)2000 年 5 月 橘高審判員のケース
5月6日、ナゴヤドームでの中日 横浜戦。中日の打者・立浪和義内野手が「ボール」と
見送った球を橘高淳球審が「ストライク」とコールした。立浪は、球審の橘高審判員に猛抗
議をする。形相を変えた星野仙一監督がベンチを飛び出し、球審をにらんで体当たり。興奮
した大西崇之外野手は橘高審判を殴ってしまった。橘高審判員はろっ骨を折るなどの全治2
週間のけがを負った。星野監督は出場停止5日間、制裁金50万円。立浪内野手は出場停止
5日間、制裁金20万円。大西外野手は出場停止10日間、制裁金20万円。
(00 年 5 月 7
日付)
審判労組加盟の商業労連連帯労組は「仲間が仲間を告訴するのは避けたい」という審判
の意思を尊重して告訴を見送ってしまう。
(5 月 10 日付)一度は「告訴も辞さない」と息巻
いてから1週間後のことだった。その後、野球ファン2人が別々に3人を傷害などの容疑
で愛知県警に告発していたことが分かった(5 月 20 日付)が、橘高審判員の意をくんだ形
で、告訴は取り下げられる。結局、セ・リーグと中日球団に審判員への暴力行為根絶を求
めた「要請書」を提出するにとどめてしまった。(6 月 7 日付)
この事件で最も印象に残ったのは、試合後や停止期間があけての星野監督の態度であろ
う。人の見方それぞれであるが、悪びれずにうっすら笑みを浮かべ(そういう顔というこ
ともあろうが)、「間違った方が悪い」とでも言いたげな態度であった。橘高審判員の名前
を出して謝罪する姿勢など微塵もなかった。
(c)2001 年 8 月 渡田審判員のケース
8 月 10 日、巨人・ヤクルト戦で仁志内野手の左翼ポール際への飛球について三塁渡田審
判員が本塁打と判定したが、ヤクルト若松監督の抗議を受けて審判団で協議し、ファウル
と判定が覆された。これに対し長島監督が井野球審に猛抗議、16 分間試合が中断する結果
となった。
セ・リーグ理事会はこれに対し判定に疑問があった場合、抗議を受ける前に速やかに全審
判による協議を行うよう改めて審判部に求めた。問題はこれだけでは終わらなかった。
8 月 16 日、ヤクルト・横浜戦で佐伯内野手の左翼への飛球について、二塁塁審を務めた
渡田審判員は左翼手ラミレスが直接捕球したとしてアウトと判定した。これに対し横浜の森
監督が「ワンバウンドで捕った」と抗議。試合が中断し、試合続行を拒否し、遅延行為とし
て退場処分を受けた。
翌日セ・リーグ豊蔵会長は森監督が「審判団の試合続行要請に応じなかった」として厳
重注意、また渡田審判員に試合に混乱を来したとして 10 日間の休養、事実上の謹慎処分を
下した。この休養には、渡田審判員からの申し出もあったようだ。森監督は処分に対し「厳
重注意?そんなのはどうでもいいが、試合続行の拒否なんてしていない。それだけは承服で
きない」とのコメントを出した。
審判員が判定を巡るトラブルで処分を受けた例はいくつかある。96 年 5 月にパ・リーグ
で本塁打であるか否かの判定をめぐり中断した問題で、打球を判定した二塁塁審の新屋審
判員と責任審判の橘修審判員を厳重注意と試合出場手当を減額とした。また同月セ・リー
グでは乱闘騒ぎで試合が中断したことで、その試合の審判員全員を厳重注意とし、そのう
ちの山本文男審判部長(当時)が休養の意味で二軍の試合に回った。99 年 7 月にはセ・リ
ーグで打球の判定を巡り、誤審を認めたとも受け取れる発言をした田中俊幸審判部長が後
半戦開幕から 3 試合休養した。
※参考
(a)
(b)
:毎日新聞データベース
(c)
:
//www.sponichi.co.jp/baseball/kiji/2001/08/18/01html
考察
(a)ディミュロ審判員のケースは、日米の審判員の違いが、日本の審判員の権威の低さを
浮き彫りにしたといえる。ディミュロ審判員が受けた抗議は、日本では普通の部類に
入るものであった。抗議を受けたのが、審判員としての強い権威意識をもつ大リーグ
のディミュロ審判員であったため、彼が日本球界の日本の審判員への対応・扱いに苦
言を呈し、帰国することになってしまったのである。
ディミュロ審判員の帰国後、日本球界はグラウンドからの暴力追放と審判員の権威向上
を目指すが、以後も審判員に関するトラブルは減らない。ディミュロ審判員ケースは、こ
こ数年問題となる審判員トラブルの火付け役であった。
(b)橘高審判員のケースは、審判員の権威の低さを如実にあらわしたケースである。それ
だけでなく、スポーツマンシップの舞台であるグラウンドで暴力が行われたことは、各
界に波紋を与えた。しかし、審判部は結局告訴を取り下げ、両者で傷をかばい合う野球
界の排他的・閉鎖的な内情も明らかとなった。
この事件は、著しく野球のイメージを損なう結果となった。ファンが星野監督を告訴
したことは、野球ファンですら嫌気を感じていたことが分かる。この事件によって、審
判員問題の根深さと、審判員の地位を向上しなくてはという意識が広まる。
(c)渡田審判員のケースは、審判員自らの意識が問題とされたケースである。判定を覆し
たこの試合の審判団は、かつて「俺がルールブックだ」
「ビデオが間違っている」と名
言を残した二出川審判の審判員としての高潔な意識とは正反対であった。ここ数年のト
ラブルに過敏になり、審判団は公正を旨とし判定を覆したと思われるが、このことは選
手・監督の審判に対する不信感を増大させただけであった。審判員自身が抗議の有効性
を認めてしまったのである。
スロー再生で見れば確かに渡田審判員の裁定は誤りであっ
たが、渡田判定で通せば、
「審判員の裁定は絶対」という原則を守れたのである。抗議
を受けての協議による判定撤回は、もちろん後に分かることであるが、最も悪い選択で
あったといえる。
「誤審をなくせ」といくらマスコミに叩かれようとも、毅然とした判定を守って欲しか
った。このように態度を周囲に合わせてしまう審判員・審判部の体質が、これまで全て
から独立した権威の確立を妨げてきた、といえるかもしれない。
Ⅳ
まとめ:プロ野球審判員問題
この章は、ⅠからⅢのまとめとして、審判員問題を分析し、将来へのいわば提言を試みた
ものである。
選手や監督の意識における審判員の軽視は、そう簡単には改善されないであろう。国内で相
撲の次に長い野球の歴史の中で培われたものだからである。それに比べ、審判員自身の意識
を改革することは比較的たやすいことであると思う。審判員が自らの威厳・権威を取り戻す
ことが、審判員改革の端緒となるのでないか。まず審判員の威厳を再確認し、身につける。
そうして、
その威厳・権威に見合った審判員技術・判定技術を磨いていくということである。
野球における審判員は、他のスポーツよりも出番が多く、ゲームの勝敗を決する場面で、
文字通り決
定的な役割を果たす、重要な地位を占める。審判員はある意味で、選手と同じグラウンドに
立つプレー
ヤーの一人なのである。野球というスポーツにとって審判員という存在はそう言ってもよい
くらい重要
なのである。審判員には、自らが選手と同等の、グラウンドに立つプレーヤーであるという
高い意識を
持って、切磋琢磨して欲しい。毅然とした審判の態度、選手に負けない審判の迫力、そうい
ったものは
野球の大きな魅力である。
(a)
審判員を軽視する状況
日本プロ野球界には、大リーグと違い、審判員を軽視する状況がはびこっている。上に
挙げたケースは最近のものであるが、抗議は以前から有り、むしろ現在より激しいもので
あった。かつては抗議による試合の中断時間が 1 時間、2 時間に及ぶこともざらであった。
(現在は抗議による中断時間が 30 分を超えることはめったにない:2001 年度版セ・リー
ググリーンブック参考)
。そして、抗議の延長として、審判員への暴行が行われることも多
かった。日本プロ野球の審判員の権威は、低下したのでなくて、初めから無かったのであ
る。
審判員の権威が無い状況には、2 つの主な理由が挙げられる。選手・監督のスター意識と、
審判の待遇・地位の低さである。高騰する年俸などによる選手の過剰なスター意識につい
て説明は必要ないと思うが、その意識を持たせるのに一役買ったのはマスコミでありファ
ンであるということは述べておく必要がある。もてはやされた選手・監督が、支持を得た
と考え、審判員に軽々しく不平を漏らすという状況を生むのである。また、現在はそうで
もないが、かつては審判員のほとんどが元プロ野球選手であった。
(現在は半数弱が元プロ)
そのため、審判員という地位に関わらず、1 軍のスター選手は審判員を軽視し、審判員は自
らを卑下する、といった状況がある。待遇面でも、選手と審判員は雲泥の差である。年俸
格差は一軍においては 10 倍といっていいだろう。このような状況が相絡まって、審判員の
権威というものが発達しなかったのである。
(b)
上記の状況に対する審判員の過剰反応
上述のように、審判員の権威など初めから無かった。現在の審判員問題を引き起こして
いるのは、審判員自身の、抗議への過剰な反応によるものである。
プロ野球には、選手間などで「悪しき慣習」が多く存在する。昨シーズン、ヤクルト藤井
投手が巨人戦で泣かされた事件も、藤井投手が「大差試合では投手はまじめに打ってはなら
ない」という慣習を破ったためであった。この事件に対するマスコミの反応は、
「藤井擁護・
慣習批判」という姿勢であった。ファンやマスコミは、プロ野球に公明正大を求めたのであ
った。公明正大という論調は、審判員にも適用された。その論調に乗って、球団や監督・選
手も審判員を批判しはじめたのである。馴れ合い的な判定(カウント 0−3 では際どい球は
ストライクとする傾向など)の存在と、また度々起こる誤審問題で、審判員はマスコミ、フ
ァン、球団、選手、監督から痛烈に批判を浴びせられるのである。審判員たちは、その批判
に対し公明正大であろうと務め、渡田審判員のケースのように判定を覆してしまったりする
のである。判定を一度覆せば選手・監督は、判定を覆る可能性があるものと認識するのは明
らかで、それによってますます判定に対する抗議が執拗になってくるのである。最近起こっ
た審判員に関する問題は、最終的には審判員自身がマスコミやファンの批判に対し過剰に反
応してしまったためである、ということが出来る。
(c)
野球の醍醐味の一つ−微妙なプレイと抗議
ここで、抗議というものについて考えてみる。微妙なプレーに対する選手や監督の抗議
によって、審判に関する問題が浮き彫りとなっている。抗議行為が引き金となって、審判
批判が行われているのである。では、日本の野球で抗議とはどのような位置を占めている
か。
結論から言えば、日本では審判員の判定に対し選手・監督が抗議する場面は、野球の醍
醐味の一つであるということが出来る。
日本の野球は「待つ野球」
「作戦を多用する野球」であるため、プレープレーで際どい判
定となる場合が多い。ファンは、そのプレーに対し「どこがセーフだ」と盛り上がるのが
楽しみであり、選手・監督もそれを心得ていて、たとえ審判が正しいと思っていても抗議
という「パフォーマンス」を行うのである。そして、その抗議をファンはまた喜ぶのであ
る。このように、判定の正誤以前に、審判員に対する抗議というものが市民権を得ている
のである。
また、選手を鼓舞するために、指揮官自ら勝利への執念を選手に見せるために、わざと
激しい抗議をするということもよく言われることである。
(d)
より魅力あるプロ野球に
現在審判員問題の核である選手・監督と審判員間の相互不信を無くし、より魅力あるプ
ロ野球の復活を実現するにはどうすればよいか。審判員の権威の確立である。
まずは、本当の誤審を減らすために、審判員の技術向上が欠かせないであろう。より優れ
た技術を持つことにより、自らの判定への自信を持つことが出来、権威の確立につながる。
具体的には、米国のように自前の審判員養成学校を国内に開校し、1 軍に上がる前に多くの
経験を積ませることが近道であろう。また、現在の審判員 4 人制を、かつての 6 人制に戻
すことも必要である。
それと共に、プロ野球にかかわるもの全員が、審判員のゲームにおける地位というものを
確認する必要がある。現在の審判員の置かれる状況は、上述のルールブックを全く無視した
ものである。野球とはどういうものかを一から捉え直せば、自ずと審判員の地位が確立され
るであろう。審判員は選手を鼓舞するための道具などではないのである。
また、実際的な待遇面を改善する必要性がある。上述したような選手・監督との年俸格差
の是正、また選手・監督の処分内容の決定権を審判員に付与すれば、審判員の地位は上がる
であろう。
審判員の権威を確立した上で、さらに「パフォーマンスとしての抗議」を確立することが
重要である。選手・監督と審判員双方がこのことを確認しておかないと、また判定と抗議を
巡って問題が起きるだろう。野球の醍醐味としての際どい判定について、選手・監督のみで
なく審判員もパフォーマーとなり、
ファンを楽しませるような場面を作ることが大事である。
そうすることで、今起こっている、暴力など飛び出すスポーツマンシップに反するようなニ
ュースに気を悪くすることなしに、野球を 100%楽しめる日がやってくることと思う。
(b)サッカーの審判
1、サッカーの審判の現在と未来
サッカーのレフェリングは、1891 年、ルールの中に登場して以来、現代サッカーの
最重要課題です。サッカーにおいて、レェリングは、他のスポーツに比べ、主審の幅広
いフィールド活動が要求され、視覚的にファウル等を判断しにくいなど、様々な要因が
あります。このレフェリングの問題が指摘されたのは、1966 年ワールドカップ決勝戦
でのハーストの「疑惑のゴール」問題にさかのぼります。
FIFA が行ったレフェリー改革
FIFA がこの問題の改革を行ったのは、
1990 年のワールドカップイタリア大会以降で、
改革はふたつです。
1、ラインズマンの専門化
今日のサッカーにおいては、「スピード」の追求が求められています。守備の高度
化に対応するため、攻撃はできるだけシンプルで速く、というのが常識になっていま
す。このため、レフェリーもラインチェック等の専門化の必要が出てきます。また、
ラインズマンという名称は後に「アシスタント・レフェリー(副審)」に変わりまし
た。これは、主審だけが大きな責任を負うのではなく、二人の副審、さらには第四審
判と呼ばれる予備審判と協力し合って試合をコントロールしていこうという考えが
込められています。また、98 年ワールドカップでは副審のもつフラッグにスイッチ
を仕込み、それを押すと主審の腕に巻いたバンドが振動して注意を喚起する「シング
ルビップ」が使用されました。
2、審判員の定年引き下げ
前述したように、現代のサッカーのスピード化に対応するため、レフェリーにも非
常に高いフィジカルフィットネスが求められています。このことが年齢引き下げの最
大の理由です。この改革でそれまで 50 歳だった国際審判員の定年が 45 歳に引き下
げられました。
「主審 2 人制」の意義
しかし、これによって誤審がなくなるわけではありません。人間である限り必ず起こ
りうるものです。この前提のもと、どのようなレフェリングシステムにしたら誤審が少
なくなるかで、今解決策として提案されているのが「主審 2 人制」です。
これはその名のとおり、主審を二人おくシステムですが、現在、国際サッカー評議会
の定例会で、二人制のテストが承認され、フランスの二部リーグ等で広く実験が行われ
ています。主審は長さ 105 メートル、幅 68 メートルの対角線上を基本に動きを繰り返
しており、カウンターアタックが行われた場合は 50 メートル離れたポイントで重要な
判定を下さなくてはならない状況が多々あります。この制度をとれば、こうした状況に
も十分対処できます。
「主審 2 人制」の問題点
サッカーのルールは一度制定したら、ワールドカップから少年サッカーまでまったく
同じルールで行わなくてはなりません。よって、実質主審がもう一人必要になるため、
人数不足の問題点が出てきます。
VTR の導入
あらゆるスポーツで誤審と騒がれるたびに検討されるのが VTR の導入です。サッカー
の場合は具体的にはまず、ゴール判定用のカメラがあがります。この導入についてはワー
ルドカップ等で検討する価値があると思います。しかし、後の参考資料「誤審の事例」で
書いているように、その VTR をススタンドモニターで移すことは危険であるため、結局
は主審のみが見て、主審が判断を下すこととなり、あくまで人間の目に帰着することは否
めません。
審判のプロ化
審判の質の向上の対策として、審判のプロ化も考えられます。このメリットは審判のフ
ィジカルの向上です。しかし、イタリアでは「パートタイム」の身でありながら組織的な
トレーニングが行われており、フィジカル面は向上しています。よって、プロ化をする必
要性がないともいえます。また、定年が 45 歳と若く、引退後が人生設計が難しいことも
プロ化を足踏みさせている大きな要因です。
2、誤審の事例
・
「中山のプレーは明らかにファウルだった」
■GK曽ヶ端と中山の接触プレー
0−0で迎えた後半 13 分、ジュビロのGKヴァンズワムがロングキック、アントラ
ーズ・ゴール前まで飛び、GK曽ヶ端が出てジャンプしながらキャッチします。しかし
あきらめずにこのボールを追ってきたジュビロの中山も一瞬遅れてジャンプ。ボールを
つかんだ直後に中山に体の正面に当たられた曽ヶ端は後方に倒れながら思わずボール
を離します。ボールは中山の前にこぼれ、中山はDFをひとり抜いて無人のゴールにけ
り込んだのです。
このプレーに、アントラーズは当然「ファウルだ」と抗議しました。しかし主審のア
ンヤン・リムキーチョン氏は、断固としてはねつけ、ジュビロの先制点が認められまし
た。試合はこの後、ジュビロがもう1点を加え、2−0で勝ちました。
■このプレー自体は明らかにファウルだった
以前のルールには、いわゆる「キーパーチャージ」に関する規定がありました。GK
を保護するためのルールで、正当なチャージでも、自陣ゴールエリア内にいるGKに対
して行うと、守備側に間接FKが与えられました。しかしこの規定は、1997 年にルー
ルが全面的に書きかえられたときに削除され、以後「キーパーチャージ」はなくなりま
した。
現在も、GKと競り合った選手がファウルをとられることがありますが、それは、
直接FKとなるファウルチャージ、あるいは間接FKとなる「危険なプレー」が行われ
たと主審が判断した場合で、
他のフィールドプレーヤーと基本的には同じ基準で笛が吹
かれます。
■判定のポイントは「どちらが先にボールの落下点にポジションをとったか」
そうした目でこのプレーを見ると、中山は曽ヶ端がジャンプしてボールをキャッチし
た直後にその体に衝突しています。これがGK曽ヶ端ではなく、アントラーズのDF秋
田がヘディングでクリアしたと考えると、よくわかると思います。ヘディングの競り合
いの判定は、主審の判断のなかでも難しいもののひとつです。たとえば、中山が秋田の
上に乗りかかるようにしてヘディングしたとします。しかしその最後の場面だけでは、
どちらのファウルなのか判断することはできません。ポイントは、どちらが先にボール
の落下点にポジションをとっていたかです。このとき、秋田が先にポジションをとって
おり、遅れた中山が無理してそれに乗りかかるようにヘディングした場合には、中山の
ファウルです。しかし中山が先にポジションにはいっており、遅れた秋田がヘディング
を妨害しようとジャンプする中山の下に自分の体を入れたのであれば、秋田のファウル
ということになります。10 月 13 日の先制点の場面では、遅れていたのは中山でした。
相手がボールをキャッチした曽ヶ端でなく,ヘディングでクリアした秋田であっても、
中山のプレーは明らかなファウルだったと思うのです。
■主審のポジションが誤審の原因ではなかったか
主審は、ルールの実践者です。ルールという規範と実際のプレーをつき合わせ、違反
と規定されているプレーに罰則を適用するのが主審の仕事です。中国語では審判のこと
を「裁判」と書きます。香港で国際試合を見ると、国際審判員は「国際裁判」と表現さ
れています。誰かの判断にゆだねるのではなく、自ら判断を下していくのは、
「警察官」
ではなく、まさに「裁判官」の仕事なのです。
「誤審」とは、そのルールの適用を間違うことを言います。この場合、中山のプレーを
「正当な競り合いの範囲内」と判断し、罰則を適用しなかったのは、明らかに「誤審」
でした。リムキーチョン氏は、アフリカの東にある島国モーリシャスの国際審判員です。
1988 年、27 歳の若さで国際審判員となり、アフリカでトップクラスにランクされる審
判のひとりです。94 年、98 年とワールドカップで2大会連続主審を務めた実力は、折
り紙つきといっていいでしょう。そうした名レフェリーでも「誤審」をするということ
になります。この試合を見ていた人の話では、ヴァンズワムがボールをもってキックし
たとき、
リムキーチョン氏はボールの落下点でのプレーを見極めるためにハーフライン
近辺にポジションをとっていたそうです。プレーの近くで見ることができなかったこと
が、この「誤審」の大きな原因だったと想像されます。
■場内でのVTR再生は問題
あるベテラン審判員によると、こうしたケースでまっすぐボールの落下地点に向かっ
て走ると、競り合う両選手が重なり、判定が難しくなるといいます。プレー地点への最
短距離でなくても、少し角度をとって走ると、プレーが見やすくなるのだそうです。こ
のときのリムキーチョン氏には、その余裕もなかったのかもしれません。本来なら、真
横から見ている副審が助けるべきだと思います。しかしリムキーチョン氏はバックスタ
ンド側の土本泰副審に助言を求めることはありませんでした。
現在のルールでは、GKは特別の保護は受けていません。しかし通常、審判たちはG
Kに対する競り合いにはとくに注意を払うように指導されています。GKが高いボール
をキャッチしようとするときには、両手を挙げ、脇がまったく無防備にならざるをえな
いからです。ヘディング同士の競り合いなら、互いにたくみに腕を使うので、相手が多
少遅れて競ってきても、もちこたえられます。しかしGKはそれができないのです。だ
からGKがジャンプしてキャッチしようとするところに体をぶつけて競りかかるプレ
ーは、多くの場合ファウルをとられることになります。今回の曽ヶ端はまさにそのケー
スでした。その面でも、
「誤審」であったと言わざるをえません。
セキュリティーからの要請として、FIFA(国際サッカー連盟)の試合運営要項で
は、微妙な判定のシーンは場内の大型映像では流さないようにと指示しています。しか
しこのときには、2回にわたって場内に流したと聞きました。得点シーンだったから自
動的に流したのでしょうが、もう少し柔軟な判断が必要だったのではないでしょうか。
これがアントラーズサポーター乱入を招いたのではないでしょうか。
3、今後の課題:
サッカーはスピードが速く、歴史背景上、そんなに厳格なジャッジが求められていな
かった。このため、映像の技術が発展した現在、ジャッジについて、多くの問題点か発
生している。サッカーについてのジャッジは今こそが現在進行形であり、今後、様々な
変化が見られるだろう。
4.考察
サッカーは、他のスポーツと比べて、時間が長い割には、得点が少ない。この特徴か
ら、人々はサッカーを楽しむにあたって、その得点への過程を追求し、堪能する。この
ため、サッカーでは、点が入ったかはいっていないか、という判断に観客は注目するよ
りもむしろ、どこにスペースがあって、どうそのスペースに走り込み、得点にいたった
のか、ということのほうに注目する。機械のような正確なジャッジは求められていない
場合も多い。
また、サッカーは審判に対し、だましあい的な要素も強い。オフサイドの駆け引きが
その典型である。うまく審判をだました行為は、非難されるよりもむしろテクニックの
一つとして評価される。審判がみえないところでの反則は、日常茶飯事であり、前回の
ワールドカップでの、中田やベッカムにしつように反則を繰り返したシメオネがその例
である。彼は非難されるどころか、アルゼンチン代表の支柱なのである。
このことから考えると、まず、サッカーでは、カメラの導入は必要ないと考える。前
に述べたように、結局は主審の目で確認することになるし、他のスポーツほどの正確な
ジャッジは求められていない場合があるからである。また、ファアルの確認にいたって
は、上記で述べたように、反則も一つのテクニックであること、また、サッカーは長い
距離をスピーディーに動くスポーツであるから、途中で確認してプレーを中断すること
はできないことから、カメラの導入は必要ないと考える。
以上のことから考えると、主審二人制については難しい。個人的にはワールドカップ
等、非常に大きな、世界の注目がいく大会では導入すべきであると考える。こういった
大会では、いつも以上に審判のミスというものに敏感になっている場合が多く、審判に
対し、身体的、精神的不安が大きい。二人置くことで、審判の責任、リスクが軽減され
る効果があるからである。
(c)NBAの審判
1、序説
バスケットボールは、相撲などではあると言われる八百長が、非常に起こりにくいス
ポーツである。その理由としては、バスケットのゴールのネットにボールを通過させる
という非常に細かく微妙な技術が、選手に要求されるからである。たとえ守備側が手を
抜いていたとしても、シュートが入らなければ意味がない。「NBAのレベルにあれば、
選手のシュート成功率は相当のものだから、守備側が少し手を抜いただけで得点できる
のではないか」という反論もあるかもしれないが、逆にそれだけ高いレベルにあるから
こそ、守備側が手を抜いたかどうかは誰の目にも明らかとなる。
ただ、これまでにバスケットボール(特にNBA)の世界では多くの審判問題が起こっ
てきた。そもそもバスケットボールという競技は、NBAや国際試合のレベルから、中学
生の部活の試合のレベルまで、審判なくして成り立たないと言えよう。確かに遊びであれ
ば、ファウルなど気にならないし、誰がボールをコート外に出したかの判定などはジャン
ケンで済ませられる。しかし、各々の選手が勝敗をかけて臨んでいる試合ではそうはいか
ない。誰もが真剣にプレイし興奮した状態になっているため、それによる故意ではないフ
ァウル、判定に対する抗議は起こりうる。したがって、特にファウルやボール所有、得点
などに関する審判の判定に対して、すべての選手が納得できないこともある。
またNBA固有の審判問題としては、ホームコートアドバンテージの問題が挙げられる。
つまり、時としてホーム側に有利(アウェイ側に不利)な判定が下されることがあるとい
うものだ。
2、NBAにおける審判の地位について
NBAで毎試合笛を吹いている審判たちは、世界のトップレベルの審判である。した
がって、選手側からの審判に対する信頼はあつく、選手によって審判が軽視されるよう
な傾向は見られない。また、1試合に3人の審判制をとっていることに加え、さらに3
人のアシスタント役が補助にまわっていることにより、より厳密に公平な審判が行われ
るようになっている。
まれに選手や監督が審判に激しく言い寄り、それによって退場処分等を受けることもあ
る。しかし納得がいかない判定であれば、審判に抗議するのは当然のことであるし、勝利
に対する真摯な態度から生じるものと言えるので、審判を軽視しているわけではないと考
えられる。
3、審判問題の具体的事例
事例1
<1995−96シーズンの代替審判による問題>
1995−96シーズン前の1995年7月1日、NBAはロックアウト(選手側対
オーナー側の労使対立に端を発する、オーナーによる選手の締め出し)に突入した。幸
い、ロックアウトはシーズン前に終了し、1995−96シーズンは例年通り10月下
旬の開幕を迎えた。
だが、それとは別のところでロックアウトがシーズン中までも長引いていた。それは
NBAのリーグ側対審判側の労使問題による、審判のロックアウトであった。審判のロ
ックアウトも、NBAからすると大きなマイナスとなった。NBAという世界トップの
バスケットボールリーグでは、
経験豊かな世界のトップの審判たちが毎試合笛を吹いて
いる。だが、審判のロックアウトにより、この年は代替審判を起用せざるを得なくなっ
たのだ。
この影響は小さくはなかった。シーズンが開幕すると、各地で乱闘や退場処分が頻
発。本来、乱闘などの事件が起こる原因は様々であるが、このシーズンの場合は、代
替審判の判定に選手の不満が徐々にたまっていき、些細なぶつかり合いなどがきっか
けで、乱闘に発展してしまうケースが多かった。また、審判の判定に対する抗議から、
多くの選手が退場処分を受けた。大乱闘によって当時史上最高額の罰金が課された試
合もあった。こうした状況は、選手、チームだけでなくNBA全体にとって大きなマ
イナスとなっていた。
選手の強い要望もあり、シーズン途中の「ロックアウトの解除→正式審判による試合
の審判」によってこの問題は解決されたが、バスケットボールにおける審判の持つ重要
性を認識させられた事件であった。
事例2
<疑惑の判定>
1999−2000シーズンのプレイオフ、東カンファレンス準決勝のマイアミヒー
ト対ニューヨークニックス第3戦、延長残り2秒のところでマイアミヒートの選手が逆
転シュートを決め、この試合はマイアミヒートが勝利した。だが、この逆転シュートは
大きな物議を醸した。というのも、この選手はバックボード(ゴールのボード)の斜め
後ろからシュートを放っており、ノーゴールではないかとの抗議の声があったからであ
る。
NBAでは、シュートがバックボードの後ろから放たれ、ボールがバックボードを超え
た場合、バイオレーション(相手ボールとなること)になる。ではここでどのような場合
にバイオレーションとなるのかについて説明したい。
バックボードの後ろ側・ゴールの支柱にボールが当た バイオレーション(ボード全面からのシ
ったとき
ュート・パスもバイオレーション)
バックボードの裏から放たれたボールが、ボードを超 バイオレーション
えたとき
バックボードの正面にボールが当たったとき
プレーは続行
バックボードの左右面にボールが当たったとき
プレーは続行
バックボードの上下面にボールが当たったとき
プレーは続行
このとき、審判は疑惑のシュートに対して、ボードを超えていったのではなく、ボー
ドの角ギリギリを通過していった、と判断したのである。シュートはどちらともとれる、
非常に審判の難しいものであった。
注:
なお、この物議を醸したシュートによって勝ちを拾ったマイアミヒートだったが、
結局はこのシリーズは3勝4敗で敗退した。第7戦終了後、マイアミヒートの選手た
ちは、審判の判定がニューヨークニックス寄りであった、と主張し審判を批判した。
後日NBA側は、この選手たちの批判に対する処分として罰金を課している。
事例3
<疑惑の判定2>
1994−95シーズンのプレイオフ、東カンファレンス1回戦、シカゴブルズ対シャー
ロットホーネッツ第4戦で、疑問を残した判定があった。
この前の試合の第3戦でシカゴブルズが勝利を収めたことにより、シカゴブルズは対戦成
績を2勝1敗とリード、シリーズに王手をかけ、一方のシャーロットホーネッツは後がない
状態に追いつめられていた。
(NBAプレイオフは1回戦に限っては3勝先取シリーズ)
この第4戦は終始一進一退の攻防が続き、終盤まで勝敗の行方は全くわからなかった。残
り1分7秒、シカゴブルズのマイケル・ジョーダンのシュートにより、85対84とシカゴ
ブルズが1点リード。その後両チームともに得点を決めることができず、残り5.9秒、シ
ャーロットホーネッツに最後の攻撃のチャンスが回ってきた。
シャーロットホーネッツのハーシー・ホーキンス選手が最後に放ったシュートもはずれ、
試合終了のブザーが鳴った。だが、このシュートに対し、シカゴブルズのマイケル・ジョー
ダンはファウルと判定されてもおかしくないほどの守備をしていた。そして試合後のインタ
ビューでも、ジョーダンは「相手の腕を押したと思う」と認めている。しかしながら、この
ジョーダンのプレイに対して審判はファウルを宣告せずに流した。これによりシカゴブルズ
は第4戦の勝利とともに、次のラウンドに進出することとなった。
これに対して、シャーロットホーネッツの選手・監督たちは納得がいかず、「勝利を審判
によって奪われた」と、この敗戦を受け入れることができないようであった。特に「世論は
自分たちではなく、シカゴブルズやマイケル・ジョーダンを望んでいる」「ジョーダンがあ
のようなことをされた場合、ファウルは宣告されただろう」「両チームとも真剣で懸命なの
だから、公平に審判されるべきだ」といった趣旨のコメントを、シャーロットホーネッツの
アロンゾ・モーニング選手は残していたのが印象的であった。
このモーニング選手の審判への批判に対しても、NBAは罰金処分を下している。
事例2と事例3からわかるように、審判の判定に対して選手などが批判をすることを、N
BAでは厳重に処分しているようである。
4.今後のあり方について
NBA では審判は3人制であり、かなりきめ細かな判定が行われているが、まだ審判に対
する抗議、暴言などはしばしば起きる。これではゲームの質自体を低下させてしまう。課題
としては審判の研修制度や、
選手の審判に対する態度を変化させていく必要性があるだろう。
5、分析および評価
今回の調査ではNBA(バスケットボール)について取り扱ったわけだが、事例1では
バスケットボール自体が審判なくして競技として成り立たないその極端な例を取りあげた。
これはバスケットボールという競技に対して真剣に取り組むことに正比例して重要となっ
てくる問題であると思う。
事例2では、どちらとも言い切ることができないような微妙な状況であり、バスケットボ
ールという競技の持つ、審判することの難しい側面を取りあげた。ボードを超えたのか超え
ていないのか、という事例2で挙げた例以外にも、ライン際でどちら側のチームがボールに
さわったのか、ボールが弧を描く最高点にはいつ達したのか、ある選手の犯したファウルに
対してどのようなファウルの判定をすればよいのか、など、例はいくらでも挙がってくる。
それゆえバスケットボールにおいて、審判が最適な判断を下し、選手や監督たちからある程
度の信頼を勝ち取ることがいかに困難なものか、ということが言えるとおもう。
事例3では、ホームコートアドバンテージと呼べるのはどこまでか、試合終盤という非常
に重要な場面でどれ位の基準で審判するのか、といったサッカーなどプロの他の競技にもあ
る程度共通する問題を取り扱った。この事例では「明らかにファウルと思われる行為を、時
のスーパースターマイケル・ジョーダンがおこなったことにより、ファウルとはならなかっ
た」との相手チームの主張もあったが、実際にはマイケル・ジョーダン以外の選手がそのよ
うな行為をおこなってもファウルとは判定されなかったと思われる。NBAでは試合終盤の
プレイは流す傾向にあるからだ。ホームコートのゲームであれば、事例3のような判定がな
されるのもなおさらである。とは言え、審判の裁量に任されるその判断基準が不明確であり、
判定に対して不満が出るのは珍しいこととはいえない。しかしながら、人間が判定をおこな
っている以上は、疑問の残る判定があってもしょうがないとはいえども、やはりそれがあま
りにも極端であると、選手や監督、観客の不満、審判に対する信用の低下、そして最悪の場
合にはゲームそのものの質を低下させてしまうことにもつながりかねない。そのようなこと
が起こらないようにするため、そしてNBA全体が発展していくために、審判はそれを意識
してゲームに臨むべきであろう。
ではより高い質の判定をおこなっていくためにはどうすればよいのだろう。現在では映像
技術の進歩もあり、わずか一瞬の出来事でも記録に残るようになっている。ただし安易な映
像判定の導入は、バスケットボールの持つスピード感、エキサイティングな展開を壊してし
まうことになりかねない。これは、サッカーなど、試合展開も大きな意味を持ってくるよう
なスポーツが抱えている審判問題解決の限界といえる。現在NBAでは3人審判(プラス3
人の補助)
制がとられており、
よりきめ細かで公平な判定がおこなわれている。
このように、
審判そのものの向上が課題であると言えよう。他にも、審判の研修制度の充実、リーグ側の
審判に対する待遇、実試合での経験を積極的に積ませていく、などの方策が考えられる。そ
もそもNBAにおける審判に対する信頼の高さは、経験や質の高さなど、審判自身が自らの
能力、努力で勝ち取ってきたものであるから、これからもそうした姿勢を保ち続けていくこ
とが重要ではないかと考える。それは、審判に対する侮辱・抗議をおこなった者に対する厳
重な処罰の徹底といった、ただ圧力を加える政策などよりも、はるかに重要なことだ。
最後に、プレゼンテーションの場では時間がなく、調査したことの全てを発表し周りの
人々に伝えていくことができなかったのは非常に残念である。プレゼンテーションの時間配
分等も考えた、わかりやすい説明ができなかったのは自分の力量不足である。その伝えきれ
なかった分を、このレポートには詰め込んだつもりである。自分なりの意見も盛り込んであ
るので、
それを見てくれた人が、
様々な議論を交わしてくれるようならば、うれしい限りだ。
ただし、あまりバスケットボールに興味のない人には、かなりマニアックな内容ではある。
■参考文献■
HOOP(日本文化出版)
1995年7月号
HOOP(日本文化出版) 1996年2月号
HOOP(日本文化出版)
DUNK
2000年8月号
SHOOT(日本スポーツ企画出版社) 2000年8月号
(d)競馬の審判
1、日本中央競馬の審判システム
日本中央競馬主催のレースでは、次のような手順で審判が行われレース結果を確定
させている。
(1) コースの各コーナー脇に設置された監視塔に、監視員がつく
(2) レースの様子をパトロールビデオに収める。
(3) レース中不明瞭なアクシデントが起きた場合には、1,2の情報を元に、5人で構成
する審議員が、レースの裁定を行い、結果を確定する。
この現行システムは、開催日には、30分に1回のペースで行われる過密なレース日程
を、滞りなく消化することを可能にしている。
2、審判の権威
日本中央競馬での審判の権威は非常に強力で、裁定された結果にはどの騎手も調教師
も素直に従っているのが現状である。その理由としては、次のようなことが考えられる。
(1)不確定要素の多い競技であること
競馬では競技の主役が馬であることから、その前後を通じて頻繁に不測の事態が
起こりうる。それらに対してある程度のところで線引きを行うための、絶対的な機
関が必要となってくる。
(2)危険な競技であること
時速60キロものスピードで移動する馬に乗る騎手は、絶えず多大な危険にさら
されている。その危険から彼らを守るために、各騎手の騎乗スタイルを厳しく監視
する必要がある。<騎手同士の不文律、談合による真剣勝負の醍醐味の喪失を防止
する上でも、第3者による監視が望ましい。
(3)ギャンブルであること
レースが合法的に賭博の対象となっているので、その結果を審判するものに絶対
的な権威がないと、暴動、騒乱などのさまざまなトラブルが起こりうる。
これらの要因が複合的に結びつき、現在の強い審判組織が形成されたといえるだ
ろう。
3、審判組織力の強さの一端を示す事例
<事例1>
1991年、秋の天皇賞(G1)で、1位入線したメジロマックイーン号は、スタ
ート直後に他馬の進路妨害をしたとして、降着処分受けた。当時、メジロマックイー
ン号は人気実力ともに現役ナンバー1であったことや、騎乗していたのが、すでにス
ター騎手として活躍していた武豊騎手であり、このレースでも2位入線の馬より5馬
身先着してゴールを通過していたことから、最下位降着という厳しい処分は、話題と
なった。
武豊騎手は、裁定に不服の意を示したが、係争することなく、その後の騎乗停止処
分に従った。
<事例2>
2001年、京都大賞典(G2)では、直線走路でテイエムオペラオー号、ステイ
ゴールド号、ナリタトップロード号の3頭による、デッドヒートが展開された。しか
し、その途中で2番手を走行していたステイゴールド号が、大きく斜行し、3番手の
ナリタトップロード号は、前の2頭にはさまれる形で行き場を失い、騎乗していた渡
辺騎手は落馬負傷することとなった。
この結果、ステイゴールド号は失格、手綱を取っていた後藤騎手は騎乗停止処分を
受けることとなった。
この2つの裁定は、大レース、人気馬に対して行われたため、日本中央競馬における
審判の権威を、強く世間に印象付けるものとなった。
4.今後の課題
競馬に関して言えば、強すぎる審判の権限を監視する第3者の存在が求められることにな
るだろう。プレーヤー、調教師との3者相互監視的なシステムが一般的な発想だろうが、競馬
がギャンブルであることを考えると、現場の人間が結果に口を出すことは望ましくない。む
しろ、ファンを主体とした、監視団体の設立がベターである。今後は、ファンが制度にも能動
的に参加することが求められる。
参考ホームページ
1991年、天皇賞秋レース結果
http://www.g-keiba.com/race/akiten/19911027e10.htm
より、<事例1> 1991年天皇賞秋のレース結果を参照
JRA公式ホームページ 競馬のしくみ
http://www.jra.go.jp/nyumon/nazenani/qanda/qanda02.html
より、現在の日本競馬の審判システムを参照
:様々なスポーツの審判問題について
∼競馬に関する審判問題を調べての感想∼
競馬に関する審判問題を調べている最中、痛感したことは客観的データとして提示できる文
献およびホームページが、非常に少ないということである。多くの文献、ウェブサイトは自分
の予想、勝ち馬投票券の的中法(競馬で儲ける方法)にその内容が終始しており、客観性、実
証性に乏しいと感じざるをえないものであった。みな競馬のシステムに関する研究より、そこ
からどう利益を得るかに興味関心を向けるようだ。
これには2つの理由が考えられる。一つには、現在のJRAのシステム、構造に競馬ファン
はとりたてて、切迫した不安は感じていないということがある。もう一つは、競馬というスポ
ーツはそれにまつわる産業を、特に必要とはしていないということである。既にギャンブルと
いう側面で、
巨大な市場が存在しているため、利用者の目がその方面には向きにくいのだろう。
サッカーにギャンブル要素が組み込まれ、また、様々な公営ギャンブルの売上が減少している
中、今後、ギャンブルとスポーツの両面を融合した形のサービスが展開されないと、市場の維
持、発展は望めないと私は以前から思っていたが、今回の調査を通してその意を再び強くした。
④ 最終コメントへの回答
コメント者
栗原 「プロレスの審判はどうなのか?」
→プロレスの審判はそれ自体がプロレスというショーの一貫となっている
ため
少し他の審判とは違うと思われる
コメント者
川島 「スポーツによってすごい差があるのは、反則の大きさによるものではない
か?」
(例:ラグビーと野球)
→確かにそれも原因の一因だと思う。
コメント者
小泉 他数人
「人間が裁く以上誤審はなくならない。以下にミスを少なくするかが課題、
大画面スクリーンなどを使用し万人が納得する判決が求められる。」
→研究成果でも述べたとおり、誤審はなくならないものだと思う。しかし
ミスを少なくすることは可能だと思うので、その方法を考えることが重
要
具体的には、審判はとにかくチームなり協会なりが講習会を積極的に開
催しレベルを上げるなどが考えられる。
コメント者
氏名不明 「身体接触の審議は非常に個人個人で見方が違う物である。しかし最近
になって誤審問題がとりあげられるようになったが、昔はどうだった
のか知りたい」
→昔は誤審に対する観客やマスコミのクレームが少なかった。映像機器の
発展も
関係していると思う。また昔は野球で例えば「0ストライク3ボール」
の時は
際どいボールは全てストライクとカウントし、
「2ストライク0ボール」
の時はボールにしていたという話もある
コメント者
氏名不明 「審判の質を高めるにはどうすればよいか?シドニーオリンピックの柔
道は誤審なのか?」
→上記の通り研修会を開くなど。また給料を増やし生活を安定させ、仕
事に自覚をもたせることが挙げられる。オリンピックの柔道は私見だ
が誤審だと思う。あの試合は柔道で言う後進国の審判がジャッジをし
ていたのでそれが原因だと思われる。
コメント者
佐藤 「金をかけているか、反則を取る競技か、スピードを大切にしているか、と
言った
特徴が同関係しているか詳しく調べて欲しい」
→最終報告で述べたとおり、3つとも直接の原因である。
コメント者
尾野 「2人制(サッカー)が今試験のどのような段階であるのか?導入の見込みは
あるのか?」
→現在、フランスの2部リーグではすでに2人制が導入されている。また世
界各地でも2部リーグなどでは検討されている
コメント者
曽根原 「今シーズンからイングランドのプレミアリーグで審判のプロ化が行われ
ているようだが問題は起こっていないのか?」
→審判が存在することで起こりうる問題は発生しているが、プロ化された
ことによる特定の問題はそれほどあらわれてない。
コメント者
神
「審判の給料はいくらなのか?」
→「野球の審判」の項目を参照
コメント者
藤本 「プロ野球では偉大な選手であった監督は自分が一番えらいと言った考えを
持っていることや抗議にいかないと士気に関わると言った考えが横行し
ているのが問題ではないか」
→「野球の審判」の項目を参照
⑤ 作業スケジュールと各分担
∼1月10日 誤審の事例と、審判の地位・立場についての調査
1月10日
最終報告レジュメ作成
∼1月29日 コメントに関する回答と、データベースの検索
1月30日
最終レポート作成
2月7日∼13日 再編集
レジュメ及びレポート作成、総編集:
野球部門の調査:
澤
佐川
サッカー部門の調査: 須藤
バスケット部門の調査: 西島
競馬部門の調査:
藤縄
⑥ 全体の感想と評価
このテーマにして調べていくうちに、やはり各々のスポーツによって審判の立場・地位・
役割が違っていることがわかった。判断を下すという意味で同じであるが、問題が生じて
しまう原因に挙げた「スピードの必要性」
「金が関係しているか、していないか」
「反則を
取る競技か違うか」で全くその意味合いが違う。
映像機器の導入は、競技によってその有効性にかなりの差異がある。つまり全ての競技
に関して導入するのは不可能であり、また競技自体の面白みも欠いてしまうものもある。
アメリカンフットボールで導入されている審判に抗議してビデオ判定させる「ギャンブ
ル」はすでに作戦の1つとして各チームに受け入れられているが、ラグビーでは試合の流
れを止める上に醍醐味をなくすと抗議が続いた。このように競技によって雲泥の差である。
確かにアメリカンフットボールやバスケットボールのようにワンプレイワンプレイがきれ
る競技や、相撲のように判定を下すのが最後の勝負が決まる瞬間の競技は導入する方がむ
しろよいだろう。ただしサッカーのようにスピードが重要でゴールまでの過程が重要な競
技は導入しない方がいいだろう。
やはり現状としては、審判を取り巻く環境の改善(研修会の増加、給料の安定、プロ化
など)を図り、
自覚意識・技術の向上を促進するのが良い方法であろう。