運航における安全への取組み

運航における安全への取組み
航空輸送における安全マネジメントシステムの実践
ATEC SMSワークショップ
(2008年11月7日)
ANA 運航本部安全・品質推進室 時任勝正
2
CONTENTS
ANAの概要
ICAO SMS構成要素の運航への適用
• ハザードの特定
• 安全分析機能
• 安全監督と安全能力監視
3
ANAの概要
• 従業員数:
約13000名
パイロット;
約1500名(内機長約900名)
CA;
約4700名
整備士;
約1450名
• 機体数:
210機 (グループ)
• ANAグループ7社(ANA、ANK、AJX、NXA、AKX、CRF、AJV)
4
ICAO SMS構成要素の運航への適用
航空輸送の安全性
• 全損事故に遭う確率
▫ 世界平均: 100万回飛行回数あたり約0.75件
▫ 先進地域では: 300~400万回飛行回数あたり1件
• 毎日1往復した場合
▫ 世界平均 1800年に一度
▫ 先進地域 4800年に一度
5
致命的・重大事故を防ぐには
• ヒューマンエラーをなくすことはできない.
• 事故の背景には多くのインシデントがある.
1:600ルール(ICAO SMM 4.4.17)
• 一方、致命的事故の件数は極めて少なく、事象発
生の間隔は非常に長い.(航空機事故の特徴)
従前の事後対応型の安全管理の
取り組みだけでは対応できない
6
ICAOのSMS
ICAO Safety Management System
• SMSとは安全をマネージするため必要な組織構成、説明責
任、方針、及び業務手順を含む系統だった取り組み.
• ICAOは系統的、事前対応的、明示的な安全管理の理念を示
し、国に対し安全計画及びSMSの実施に関する要件を満たす
ための手引を提供する.
• 日本では2006年10月の航空法改正により、航空各社におけ
る全社的な安全管理体制の構築が義務付けられた.
7
ANAにおけるSMSの構築
• ANAは過去からインシデント調査、ハザード特定、
安全監視等の内部手順により安全プログラムを
運用.
• 2001年にSMS概念と個別プログラム
運用をまとめた安全マニュアルを設定.
安全管理規程
• 2006年の法改正に合わせ、安全管理
規程を設定し、安全管理システムを
再構築.
全日本空輸株式会社
8
ICAO SMS構成要素
安全監督と
安全能力監視
計画立案
上級管理者の
コミットメント
安全管理文書
及び情報管理
組織
安全促進
及び研修
ハザードの
特定
安全分析機能
調査機能
リスク管理
9
安全監督と
安全能力監視
計画立案
上級管理者の
コミットメント
安全管理文書
及び情報管理
組織
安全促進
及び研修
ハザードの
特定
安全分析機能
調査機能
リスク管理
10
ハザードの特定 (Hazard Identification)
‹ハザード特定のための系統立った安全評価や安全監査などが整えられ
ている
‹発生事象報告制度が自発的なインシデント報告を含め実施されている
‹ハザード特定のために十分なリソースを管理者が提供している
‹要員がハザード特定プログラムを支援するために必要な訓練を受けてい
る
‹能力ある要員がプログラムを管理し、自らを事業活動に密接に関連させ
ている
‹インシデントに巻き込まれた要員は通常の過失のために自分が処罰さ
れないことを知っており、非懲罰的で公正な環境が管理者により育成さ
れている
‹ハザードデータが体系的に記録、保存、分析されている
‹取扱いに注意を要する事柄に対する保護措置が整えられている
ICAO SMMより
11
ANAにおけるハザード特定プログラム
• 機長報告制度(義務報告)
• ECHO(Experience Can Help Others )
(自発報告制度)
• FOQA(Flight Operational Quality Assurance)
• LOSA(Line Operations Safety Audit)
• IOSA(IATA Operational Safety Audit)
• SAFER(Safety Evaluation and Review program)
12
機長報告制度(義務報告)
• Captain Report: 法令に基づく機長報告事項.
▫ 事故または異常事態
▫ 異常接近、重大インシデント
▫ イレギュラー運航
▫ 年間報告数:27件(2007年)
• Air Safety Report:発生事象把握、品質向上目的で会社
が求め、また監督官庁に報告が求められるもの.
▫ 運航中の機材故障、GTB、運用限界超過、等
▫ 特定事象 :TCAS RA、鳥衝突、被雷、電磁干渉障害等
▫ 年間報告件数: 約2000件(2007年)
13
ECHO(自発的報告制度)
― Experience Can Help Others-
• 報告の義務はないがヒヤリハット
体験を自発的に報告し、組織で
共有することで不安全要素の
排除に役立てる制度.
• 投稿者を特定できない方法で
WEB、匿名メールで情報を収集.
14
安全監督と
安全能力監視
計画立案
上級管理者の
コミットメント
安全管理文書
及び情報管理
組織
安全促進
及び研修
ハザードの
特定
安全分析機能
調査機能
リスク管理
15
安全分析機能(Investigation Capability)
‹安全管理者は分析方法について経験豊富であるか、もしく
はその訓練を受けているか、または有能な安全分析者を利
用することができる
‹分析ツール(及び専門家による支援)が安全分析を支援する
ために利用できる
‹信頼できる安全データベースが組織により維持されている
‹他の情報源にアクセスすることができる
‹ハザード情報およびパフォーマンス・データが日常的に監視
されている(傾向分析等)
ICAO SMMより
16
分析方法・ツールの紹介 その①
17
FOQA(フォッカ)
(Flight Operational Quality Assurance)
■FOQA Programとは
すべての運航便の飛行Dataを分析・評価し、
その結果を運航乗務員にFeedbackし、
組織的な改善措置を講じていくプログラム
(ANA内際計、約600便/日、解析率約92%)
■ FOQAのフロー概念図
飛行Data解析室
・FOQA解析装置による
「A」, 「D」 Level Event
飛行Data
約 600 便/日
の自動抽出
自動抽出
FOQA
Data Base
「A」
Level
80
157
TIME -
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
PCH, CCP - DEG
146
141
149
4.3
5.2
126
117
2.4
100
112
120
0.4
0.4
0.6
FOQA委員会
140
133
VR=126KT
160
-2.0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
(隔月開催)
FOQA 担当
自動抽出
「D」 Level
180
131
・自動抽出 「A 」・「D」Level Event一覧
・自動抽出 「A 」 Level Event飛行Data
IAS - KT
Event Data
153
・Dataの信頼性の確認
- CONFIDENTIAL-
FOQA REPORT
Trend Analysis
“DRAFT”
提言
2005年報
関係部署
関係部署
- CONFIDENTIAL目次
1. FOQA Dataによる運航の傾向
機種別・隔月号
2. FOQA Dataに基づく運航品質
向上のための提言
3. FOQA Data-機種別資料-
FOQA REPORT
Trend Analysis
2006.07~08
AOR
AOR
目次
Airplane
Airplane Operations
Operations
Reference
Reference
発行: 2006年・5月・運航本部FOQA担当
「D」Level
1. 「A」 Level
2. 「D」 Level
3. FOQA委員会討議内容
4. 発生件数・発生率
リクエスト
飛行デ–タ
FOQA分析担当
乗員による詳細
分析、状況確認
分析
結果
発行: 2006年・9月・運航本部FOQA担当
全乗員
全乗員
INFORMATION
INFORMATION
-- -- --
「A」 Level
- -CONFIDENTIALCONFIDENTIAL-
乗員部
安全情報
DSRDSR-- - - -
ANA
ANAFOQA
FOQAPROGRAM
PROGRAM
DATA
DATA SUMMARY
SUMMARY
REPORT
REPORT
FPGFPG-FLT
FLTOPS
OPS
当該乗員
当該乗員
REV.
REV.-- --
教育/
訓練
■EVENTの評価レベル
● 評価Levelは次の 2種類とし、各 EventやLevel 毎に具体的な
数値・状況 (Event Trigger)を設定
「A」 Level:通常の運航の範囲を大きく超え、安全運航の観点
から好ましくない事象の可能性も考えられる場合
「D」 Level:通常の運航の範囲を超えた場合
「A」Level
A = Alert
D = Detect
「D」Level
通常運航範囲
「D」Level
「D」Level
着陸
「A」Level
離陸
■ FOQA Feedback - Data Summary Report(DSR)
PF
B747400
PEAK VALUE/DURATION
GEAR
TRIGGER
A/P
A/T
■ 状況:
110
104.0
120
EVENT:
GROSS WT FLAP
130
100
0.5
0.2 0.3 0.4 0.4
90
80
■ その他:
3
4
5
6
7
8
145.0
142.5
7.0
6.0
5.0
3.0
2.3
0.8 0.7 0.7 0.9
DRAP
2
6.8
4.6
3.8
4.0
3.3 3.2
2.2
0.4 0.3 0.5 0.4 0.3 0.4 0.4 0.3
1
8.0
V2:143 KT
2.0
1.0
RELATIVE TIME
0.0
CCP, PCH, ELEV - DEG
REG No. FLT PHASE
グラフ
形式
141.5
A/C TYPE
FOQA担当
TO
数値
Data
131.5
FROM
126.5
FLT No.
117.5
FLT DATE
0.4
0.3
0.5
0.4
0.3
0.4
0.4
0.3
2.2
3.3
3.2
3.8
V2 AIR/GND RELAY WIND
NOSE MAIN DIR SPD
122 143 GND
GND
234 20
122 143 GND
GND
231 18
122 143 GND
GND
230 22
122 143 GND
GND
233 23
122 143 GND
GND
238 25
122 143 GND
GND
237 22
122 143 GND
GND
235 18
170
122 143 GND
GND
242 12
CAS
122160
143 GND
GND
246 16
122 143 AIRCCP GND VR:122
249 KT
19
150
122 143 AIRPCH AIR
252 18
122140
143 AIRELEVAIR
258 14
VR
113.0
DATA SUMMARY
REPORT
CCP
RATE : 1 SEC
ELEV CAS
POS
1.5 91.5
1.5 97.0
1.5 104.0
1.5 108.5
1.5 113.0
1.5 117.5
1.3 126.5
1.3 131.5
4.5 141.5
6.6 140.0
6.2 145.0
7.3 151.5
108.5
- CONFIDENTIAL-
ANA FOQA PROGRAM
EVENT : T3
RA PCH
ALT
-8 0.2
-8 0.3
-8 0.4
-8 0.4
-8 0.5
-8 0.8
-6 0.7
-4 0.7
0 0.9
6 2.3
18 4.6
36 6.8
CAS - KT
DSR には 「数値Data」・「グラフ」・
及び「動画再生用Data」 を添付.
-1.0
9
10 11 12 SEC
動画再生用
(DataはFDで提供)
B767は ACARS装備機のみ
21
■ DRAP動画再生
• ある日の福岡空港 滑走路16への進入・着陸の模様
23
分析方法・ツールの紹介 その②
24
LOSA(ロサ)
(Line Operations Safety Audit)
• 日常運航をコックピットの予備席からモニターし、スレットや
運航乗務員のエラーを抽出し、スレット・アンド・エラーマネジ
メントの観点から分析・評価するツール.
• 乗員のマネジメントの実態を解明し、
明らかになった弱点を改善につなげる.
• 「運航の健康診断」とも言われる.
• 観察者は「壁の蠅
」に徹する.
25
LOSAのプロセス
社内観察員、
外部観察員
社内準備
会議
3~5年毎に
再実施の判断
・通常フライトの
オブザーブ
・エラーが発見
されても個人の
不利益とはし
ない
オブザーブ(約2ヶ月)
訓練、
手順、
規程等の
見直し
対策の検討と実施
データの分析
26
LOSAプログラムの実施概要
• 2006年8~10月、 国際線も含め316便でLOSA
のオブザーブ(データ収集)を実施.
• 分析を通じて悪天候、タイムプレッシャー等、
何点かのスレットが判明.
• 分析結果をもとに、各種対策を検討・実施中.
• 3~5年後に再実施し、PDCAサイクルを回す
.
27
LOSAの成果の一例
~TEMチェックシート~
フライト前
フライト後
28
安全監督と
安全能力監視
計画立案
上級管理者の
コミットメント
安全管理文書
及び情報管理
組織
安全促進
及び研修
ハザードの
特定
安全分析機能
調査機能
リスク管理
29
安全監督と安全能力監視
‹安全性指標が承認され、現実的な安全目標が定められている
‹安全監督及び安全能力監視機能に適切なリソースが割り当てられてい
る
‹要員からのインプットが求められ、悪影響の懸念がない環境で提供され
ている
‹定期的な安全監査が、組織のすべての業務範囲(契約業者の業務を含
む)について実施されている
‹安全監督は、例えば安全評価、品質保証プログラムの結果、安全傾向
分析、安全調査、及び安全監督といった、全ての入手可能なフィードバッ
クによる体系的な検討を含んでいる
‹結果が要員に伝達され、改善策が、体制を強化するために必要に応じて
実施されている
ICAO SMMより
30
SAFER(内部安全監査)
(Safety Evaluation and Review program)
-ANA内部安全監査―
• グループ安全評価プログラム規則に則り、安全管理体制
の「適合性」と「有効性」を検証
• 定例内部安全監査;
ANA内部安全監査組織により定期的に実施
• その他;
臨時内部安全監査/フォローアップ安全監査
31
FINDINGとRECOMMENDATION
• 評価;
F1;安全性に著しく影響があり直ちに一次処理が必要な項目
F2; F1以外のFinding
Recommendation; 改善が望ましい項目
• 是正と完了確認;
・ F1、F2に対する是正計画は2週間以内に提出.
・ 是正処理完了確認は監査員と行いCLOSE.
32
IOSA
(IATA Operational Safety Audit)
• 国際的に認知された安全監査プログラム
• ANAは2004年11月に日本の航空会社としては
初めてIOSA登録される.
• 2007年12月、3回目の受審
・2年毎の更新が必要
・IATA加盟の条件
・アライアンス加盟の条件
33
ICAO SMS構成要素
安全監督と
安全能力監視
計画立案
上級管理者の
コミットメント
安全管理文書
及び情報管理
組織
安全促進
及び研修
ハザードの
特定
安全分析機能
調査機能
リスク管理
34
次期新鋭機ボーイング787