イタリア・民間会社の高速鉄道事業参入

海外トピックス
風力発電の電気を一部使用して走行する電車(マルメ,スウェーデン)
イタリア・民間会社の高速鉄道事業参入
さ
とう れい
こ
佐 藤 麗 子
調査研究センター主任研究員
のシェア25%獲得を目指すとしている。
2.NTV の運行路線と車内サービス
はじめに
NTV は,イタリア半島を縦断する高速鉄道路線
2012年4月28日,イタリアで民間会社“Nuovo
を,北からミラノ,ボローニャ,フィレンツェ,ロ
(イタリア語の意味は「新旅
Trasporto Viaggiatori”
ーマ,ナポリの5都市を運行する。開業当初はミ
客輸送」
,以下,NTV)が高速旅客列車「イタロ」の
ラノ~ナポリ間の1日2往復であったが,順次運
運行を開始した。従来,同国の高速鉄道は,旧国
転本数を増やしており,さらに今後はボローニャ
鉄 を 継 承 し た イタリア 鉄 道(Ferrovie dello Stato
から分岐する路線でヴェネツィア方面へも運行す
Italiane,以下 FS)のみが運行しており,NTV の参
る予定で,12月初旬までに1日当たり合計50往復と
入は民間企業による独占への挑戦として注目を集
する計画である。
めている。
座席クラスは,スマート,プリマ,クラブの3
そこで,NTV のウェブサイト情報ならびに各種
種別で,11両編成中,6両がスマート,4両がプ
新聞報道をもとに,NTV のサービス内容を中心に
リマ,1両がクラブとなっている。座席は全席,
紹介する。
革張りのリクライニングシートで,無料の Wi −
Fi 接続が利用できる。スマートでは,オプション
1.NTV の概要
でシネマ車両を選択することもでき,39席,8ス
クリーンを備えた車内で映画を放映する。クラブ
NTV は,自動車メーカー「フェラーリ」のモン
テゼモロ会長,ファッションブランド「トッズ」の
では各座席の個別モニターでテレビ放送や映画を
楽しむことができる。
ヴァッレ会長ら4人の実業家により,2006年12月
に設立された株式会社である。会長にはモンテゼ
3.運賃種別と運賃例
モロ氏が就任し,2007年2月にはイタリア運輸省
から鉄道事業免許を取得した。また,線路使用料
運賃は,変更や払い戻しの条件によって,ベース,
として,年間1億2 , 000万ユーロ,10年間で12億ユ
エコノミー,ローコスト,プロモイタロの4つに分
ーロを支払うことになっている。
かれており,ローコストとプロモイタロはスマート
NTV は新会社設立後,平均年齢26歳,およそ
クラスのみの設定である。もっとも制約が少ない
900人を新規採用し,従業員教育を行ってきた。
ベースは,利用者の変更可能,日付・時刻の変更
2014年に収支均衡に達することを目標にしており,
可能で,運賃額の20%の手数料で払い戻しも可能
同年までに年間利用客900万人,国内高速鉄道市場
となっている。ローコストは利用者の変更は可能
82 運輸と経済 第 72 巻 第 7 号 12 . 7
運輸調査局
だが,日付・時刻の変更不可,払い戻し不可とな
利用者が3万8 , 904人となった。また,予約を含め
っている。プロモーション運賃であるプロモイタロ
た乗車券販売枚数は,同日現在で9万8 , 827枚にの
は,利用者の変更にも10ユーロの追加料金が必要
ぼり,提供座席数に対する販売数は41%であり,
であり,値段が安く設定されている分,制約も多い。 これは当初の予想を上回る数字だという。
NTV によると,販売される乗車券のうち,3分の
定時到着率は,予定時刻の5分以内に到着した
1はエコノミーもしくはローコストとのことである。
列車が81%,15分以内に到着した列車が95%で,
最安値のプロモイタロの運賃額は,ローマ~ミ
こちらも上々の成績と評価されている(イタリアで
ラノ間(515 km)は30ユーロから,ローマ~ナポリ
は長距離列車については,到着予定時刻の15分以内の
間(205 km)な ら び に ロ ー マ ~ フ ィ レ ン ツ ェ 間
到着は定時到着とされる)
。
(254 km)はともに20ユーロからという設定である。
また,もっとも需要の多いローマ~ミラノ間の
6.FS との競争
運賃は,座席クラスによりエコノミー運賃が65ユ
ーロから118ユーロ,ベース運賃が88ユーロから
130ユーロとなっている。
NTV の挑戦を受ける形となった FS であるが,
新規参入を見越した対抗策をすでに打ち出してい
る。2011年12月のダイヤ改正に合わせて,高速鉄
4.ポイントプログラム
道車両「フレッチャロッサ(イタリア語で“赤い矢”
の意味)
」において,新型車両を導入し,ヨーロッ
NTV では顧客へのサービスとして,ポイントプ
パ諸国で一般的な1等,2等の座席種別を変更し,
ログラム「イタロ・ピウ(ピウは‘もっと’という意味)」
スタンダード,プレミアム,ビジネス,エグゼクテ
を導入している。これはプログラムに登録した利
ィブという,4クラスの座席種別を新設した。こ
用者を対象に,運賃支払額1ユーロにつき5ポイン
れは,座席のクラス分けを細分化することで,利
トが貯まるというものである。また,レンタカー会
用目的に合ったサービスを選択可能にしたもので,
社のハーツ,ホテルチェーンのスターホテルとパ
FS は今後,新しい座席クラスを適用する路線を順
ートナー契約を結んでおり,両社のサービスを利
次拡大していく方針である。
用した場合にも,ポイントを貯めることができる。
ただし運賃面では,ローマ~ミラノ間のスタン
貯めたポイントは,乗車券はもちろん,イタロ
ダードが108ユーロ,エグゼクティブが200ユーロ
の鉄道模型,リュックサックやスマートフォン,電
であり,NTV より割高な設定となっている。
子レンジやテレビなどの家電,ホテルやレンタカ
ーなどの旅行関連商品に交換できる。例えば乗車
おわりに
券ならば,ローマ~ミラノ間の場合,スマートは
7 , 200ポイント,プリマは9 , 600ポイント,クラブは
1万2 , 000ポイントで交換することができる。
NTV による高速鉄道への新規参入は,EU の進
める競争政策のもとで実現したものであり,競合
関係にある2社が,まったく同じ線路上で高速列
5.イタロ開業後の実績
車を運行するというのは,現在の日本では考えら
れないことである。所要時間は変わらないため,
イタリアの日刊紙コリエレ・デラ・セラの記事(電
運賃ならびにサービス面での競争が展開されるも
子版)によると,5月24日までの1カ月弱で4万
のと考えられるが,NTV と FS がどのような戦略
5 , 863人がイタロを利用し,その内訳はクラブ利用
で利用者に訴えかけ,また利用者はどのような選
者が1 , 083人,プリマ利用者が5 , 876人,スマート
択をするのか,興味深いところである。
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