特集 エネルギー新・競争時代 - Strategy

Strategy& Foresight vol.5
̶
2015 Autumn
特集
エネルギー新・競争時代
巻頭言
エネルギー新世紀の勝者は誰か 白石 章二
エネルギー・シフトが及ぼす各業界へのインパクト
白石 章二
電力業界変革に対する戦略ガイド
ノーバート・シュワイターズ、トム・フラハティ
[監訳:岡野 卓郎]
電力貯蔵による電力システムの柔軟性確保
瓜生田 義貴
水素エネルギーのリアリティ
瓜生田 義貴
5
2 015
vol.
AU T UMN
Strategy&
Foresight
Contents
ストラテジーアンド・フォーサイトは、
PwCネットワークの
戦略コンサルティングチーム
Strategy&が、
経営戦略についての
さまざまな課題をテーマに、
経営の基幹を担われている皆様に
向けて発行する季刊誌です。
特集
エネルギー新・競争時代
巻頭言
エネルギー新世紀の勝者は誰か
3
白石 章二
エネルギー・シフトが及ぼす
各業界へのインパクト
4
白石 章二
電力業界変革に対する戦略ガイド
9
ノーバート・シュワイターズ、トム・フラハティ
[監訳:岡野 卓郎]
電力貯蔵による電力システムの柔軟性確保
18
水素エネルギーのリアリティ
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瓜生田 義貴
瓜生田 義貴
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巻頭言
白石 章二(しらいし・しょうじ)
エネルギー新世紀の勝者は誰か
白石 章二
shoji.shiraishi@
strategyand.jp.pwc.com
Strategy& 東京オフィスのパートナー。
25 年以上にわたり、自動車、産業機械、
エネルギー、流通・サービス業など幅広
い分野のクライアントに対し、全社成長
戦略、技術戦略、新規事業開発、
グロー
バル戦略など多数のプロジェクトを支援
してきた。
人類とエネルギーの関係は、生きるために火を活用した原始時代
について論じる。電力貯蔵自体は 100 年以上前から存在する揚水
に始まり、産業革命時の蒸気機関の利用、化石燃料から現代の再生
発電など古くからアイディアはあったが、普及という点で大きく進展
可能エネルギーに至るまで大きな変化を経ながら現在まで密接
しなかった。だがここに来て各種電力貯蔵技術の加速度的進歩に
な結びつきが続いてきた。そして従来、エネルギーは消費する者に
より、個人の家や自動車といった小規模な単位から自治体や国の
とって 恒 常 的に不 足して いるも の で あり、先に利 権を獲 得した
ような超大規模のレベルに至るまで選択肢や適用可能な範囲が
供給者側が圧倒的な利益を握っていたが、現在ではエネルギー
格段に広がっており、電力コストの最適化や既存エネルギーから
の多様化や制度の変化、環境問題、省エネルギーの進展など複数
の脱却など世界中のあらゆる社会へ及ぼす影響は計り知れない。
の要素によりその立場が逆転し、有史以来、初めてエネルギーの
最後の「水素エネルギーのリアリティ」では、社会全体で期待を
供給が需要を上回るという新しい局面に突入している。
集める水素エネルギーについて論じる。環境負荷が少なく優れた
国内に目を移せば、来年4月には電力の小売り全面自由化、
さらに
「夢のクリーンエネルギー」として過去にも数回ブームになって
その翌年には都市ガスも小売り自由化が予定され、企業のみなら
いるが、そもそも水 素ガスをつくるためのエネルギー の 確 保は
ず一般家庭でもエネルギーは「賢く選択し効率よく消費する」とい
どうするかといった問題や、貯蔵・運搬の方法など包括的に検討
う新時代が到来しつつある。今号では『エネルギー新・競争時代 』
すべき課題があり、政府内でも議論が進められている。本稿では、
を特集テーマに、日本国内そしてグローバルに今起きているさま
経済合理性の下で需要と供給をマッチするような条件がどんな
ざまな事案を考察する。
ものかを検討し、今後の展開シナリオについて論じている。
最初の論考「エネルギー・シフトが及ぼす各業界へのインパクト」
では、急激な気候変動や温暖化で世界的に地球環境保護への関心
以上、本号ではいくつかの視点から日本そして他国における未来
が高まる中、原発をめぐる課題や前述の自由化など政府のエネル
のエネルギーの姿について論じているが、エネルギーが多様化
ギー政策による各産業への影響と、従来の領域を超えて生じつつ
し、最終消費者のエネルギーに対しての関心が一層強くなる中で
あるビジネスチャンスや新しい競争環境について述べている。
は、新規参入者でも単に電力の販売者となるなど従来の手法を
2 本目の論考「電力業界変革に対する戦略ガイド」では、総じて
繰り返しては社会に新たな付加価値を生み出すことはできない。
中央集権的かつ寡占状態にあった先進各国の電力業界が、テクノ
今後、供給者側はどのようなエネルギーをどのように販売する
ロジーの発達や異業種からの新規参入、既存のプレイヤー間の
のか、使う側はどのように選択し、どのように活用するのか、それ
競争の激化などにより破壊的革新を余儀なくされている現状に
ぞれ自社のブランドイメージ、および企業価値の向上に結び付け
ついて述べ、各プレイヤーにとっての戦略を紹介している。
るのか、さらにはどのような社会を築いて行くのか。エネルギーを
3 本目の論考「電力貯蔵による電力システムの柔軟性確保」で
起点に業界を超えた大変革が地球規模で起きつつある今、
ビジネス
は、近年の電力貯蔵技術革新とそれによって起き得る社会の変化
チャンスを的確に捉えた者が勝者となる。
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エネルギー・シフトが
及 ぼす各業界への
インパクト
著者:白石 章二
地球上の全員、全産業にかかわる「エネルギー」
ギーにかかわるさまざまな状況が世界規模で変化していることに
ついて紹介し、各産業での変革のレバー(梃)の可能性について
日本では今、エネルギーに関する人々の関心がこれまでになく
論じる。
高まっている。そ の 背 景 の 一つは、世 界 的な気 候 変 動 へ の 対 策
として CO2排出削減への要求が非常に強くなっており、代替エネ
エネルギーが密接にかかわる企業の戦略
ル ギーがこの 問 題 の 解 決 へ の 一 つ の 大きな 糸 口となるためで
ある。また、震災に端を発する原子力発電所の安全性への問題が
交通・運輸
人 々にエネ ル ギーを考えさせるきっかけとなり、非 常に関 心が
自動車業界では、エネルギー価格、つまり原油価格が下がって
高まっていることもある。
いることで、最大のマーケットの一つである米国でエコカーブー
日本国内では、
これらを背景に、政府のエネルギー政策も大きな
ムが薄れ、もともと人気のある大型車の需要が増えている。これ
転換点を迎えている。国際的には 2030 年に13 年度比 26 %の温室
が今 、世 界 の自動 車 業 界 全 体 の 利 益 の 多くを支えている。この
効果ガスの削減を公言している。この目標の是非は別として、公言
瞬間で見ると、エコカーに対する需要という意味ではブレーキが
している以上、国を挙げて取り組み、結果を出す必要がある。国内
かかった形になっているが、CO 2 削減という観点から見れば車に
に向けては 2030 年度の望ましい電源構成を示す「電源のベスト
対 する燃 費 規 制 は 当 然 強 まって いく。日 本 で 車 の 燃 費 が 向 上
ミックス」が 2015 年 7 月に決定された。原発による発電の縮小を
し、ガソリンスタンドが減ったことからも現れているように、燃費
補うため、特に再 生 可 能 エネ ル ギ ー の 役 割 が 高まって いるが 、
規 制が強まれば、エネ ルギー の 需 要が小さくなる。世 界 中で車
安 定 的 な 供給にはまだ高いハードルがあり、どのように推進して
の燃費は 10 年前と比べ 20 %以上向上している。日本で運輸セク
いくのか、そのためにどういう社会を作っていくべきかについて
ターは原油の主な用途のうちの 4 割ほどを占めているが、その需 要
さまざまな 議 論 がなされて いる。税 制 面 からも 、炭 素 税 などが
は 車 の 台 数 が 増 加しな い 限り燃 費 の 向 上 に 合 わ せ て 低 下 す
以 前から検 討されているが、経 済 成 長とのバランスが難しい 問
る。よって運輸部門に対する CO2 対策ではまずは燃費規制が強
題である。エネルギー 政 策 のもう一つ大きなインパクトとして、
まり、合わせて電 動 化が進 んでいく流 れになることが想 定され
2 0 1 6 年 4 月に電 力 小 売りの 全 面 自 由 化 が 決まり、都 市ガスの
る。米 国でも欧 州でも、今 後 10 年 間で燃 費をさらに向 上させる
自由化もスケジュール化されたことが挙げられる。
動きがあり、そ の 改 善ができない 企 業には罰 金を科すことすら
こうした社会的な背景と、技術的なイノベーションもあり、エネ
ある。今 後 新 興 国でも環 境 規 制が加わると同 様 の 動きが生じ、
ルギーにかかわるトレンドは単にエネルギー業界のみにとどまら
全 世 界 的に車 の 燃 費 の 向 上が進 んでいく。加えて車 の 総 数は、
ず、製造、流通、IT 、金融、消費財など、幅広い分野に大きな影響を
2020 年には頭打ちになり、増えなくなると言われている。
及ぼし得る(図表 1 参照)。本稿では多くの産業にわたってエネル
エアライン産業は、コストに占める燃料代の割合が多いため、
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白石 章二(しらいし・しょうじ)
shoji.shiraishi@
strategyand.jp.pwc.com
Strategy& 東京オフィスのパートナー。
25 年以上にわたり、自動車、産業機械、
エネルギー、流通・サービス業など幅広
い分野のクライアントに対し、全社成長
戦略、技術戦略、新規事業開発、
グロー
バル戦略など多数のプロジェクトを支援
してきた。
図表1 : 多方面にわたる変革の可能性
エネルギーに
関するトレンド
温室効果ガスの
削減
原発問題
原油価格の下落と
新しいエネルギー
の台頭
電力とガスの
自由化
生じうる変革
環境制約による
技術革新
マーケティング
(環境によいという
イメージ)
生産拠点の
立地
顧客アカウント
大争奪戦
関連する業界
・ 交通・運輸
・ 全業界
・ 製造業・素材
・ エネルギー
保険など
新しいサービスの
提案
・ 金融
・ 製造業・素材
・ 金融
・ エネルギー
・ IT
・ IT
・ 消費財
・ エネルギー
・ エネルギー
出所:Strategy&
燃料価格の下落を鑑みると、確実に利益が増えると言っても過言
船 主がいる場 所とは異なることが多 い 。そ のような中で徐々に
ではないだろう。よって今のエネルギー価格が続くと、エアライン
オペレーターの側から、環境対策のために排出ガスや燃費規制
は大きく発展すると考えられる。現在のエネルギー価格を考える
を入 れよう、という機運が高まってきている。船は重油を原料に
と、同様の構造を有するあらゆる産業に言えることである。
ディーゼルエンジンで動いているものが多かったが、重油は排ガ
船は環境規制により、燃料や技術革新に変化が表れてきている。
スの問題や CO2 規制もあるため、クリーンさや CO 2 の 問 題と長
車は使うのは平均 10 年ほどであり、飛行機は機体そのものは20 ∼
期にわたり安定的に安く手に入るというコストの点から、LNG 燃
30 年、エンジンを交換しながら使うが、船の場合はエンジンも含め
料への舵を切っている。船のエンジンに関わる企業は LNG 燃料
て20 年以上使う。船が基本的に休みなく24 時間運航することを
への対応をする必 要があり、新 技 術 へ の 対 応が勝ち残りのカギ
考えると、非常に長い時間である。船は公海上、規制のないところ
を握る。一 方で中 国が造 船 の 生 産 キャパシティを増 加してきた
で航行するため、燃費規制や排出ガス規制が困難であった。船籍
ために需 要を超える生 産 能 力が あり、今 後もインドやブラジル
は、船にかける税金の安い国にすることが多く、船に投資をする
といった新 興 国 の 増 産 計 画によりさらなる生 産 キャパシティの
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増 加が想 定され、コスト面で中 国や 韓 国 勢に勝 つことが難しい
原発が発電の主流であるが、安全性の面から真剣に原発を廃止す
状 況になっていることから、新 技 術 へ の 対 応による対 策が重 要
ることになれば、CO2 排出削減の点でも他の電源の選択肢として
な意味を持つ。
は、再 生 可 能エネ ルギーが有 力 な 選 択 肢とならざるを得 な い 。
これらのことは何を意味するのか、昨年来大きく価格を下げた
このように電源が多様化してくることにより、電気がどこで作られる
原油相場については、さまざまな見方がされているが、上記のよう
か、エネルギーはどこで余るのか、国や地域ごとに大きな差異が
な状況から筆者は今後の原油価格の上昇には悲観的である。中東
生じる。エネルギーは運ぶのに大きな投資が必要で高いコストが
情勢はさらなる混迷を深めているが、そもそも世界の原油生産に
かかるため、特にエネルギー 使 用や素 材としてのエネルギーが
占める中東地区の割合が小さくなってきている。原油価格の長期
コストの大部分を占める企業は、エネルギーが安価な土地に生産
低迷は、ほかの産業にはコストの低下という恩恵以外にも、次で
拠 点を移し、価 値 の 高 いものに変 換することで競 争 力を高める
論じるようなさらなる変化をもたらすであろう。
企業も出てくる。
たとえば米 国でのシェー ルガス革 命により、安 い 原 料が手に
製造業や素材産業
入ることで、世 界 の 化 学 産 業が米 国に立 地しようと動 いたのは
エネルギーを使う産業やエネルギーを原材料とする業界のエネ
まさにこの 動 機で ある。また、石 油 化 学 業 界では「 石 油 」という
ルギーにかかるビジネスチャンスについて考えてみたい。こうした
エネルギーを原材料にして、さまざまな商品を作っていたが、実は
産業にとって、エネルギーは生産や物流に関わる必要不可欠なコ
ガスも原材料に使えるものもあり、ガスが安く手に入るところに
ストであり、それを抑えることは競争力に直結する大変重要な問
立地しようという動きが起こっている、という具合である。
題である。原発の問題や原料 価格の高騰で、エネルギーコストが
これらにより、今まで「エネルギーを単純に作って売る」のみで
大きな負荷としてのしかかってくる。グローバルで見ると、エネル
産業が成り立っていた国は、今後の経済回復に長い年月が必要で
ギーの地域的な違いが顕著に現れてきており、エネルギーの観点
あることが予想される。エネルギーが安く採れる国では、従来の
から生産拠点の立地を検討することも、製造業の競争力に影響
ようにエネ ルギーをそ のまま海 外に輸 出するのではなく、そ れ
を及ぼし得る。
を原材料にして何か付加価値のあるものを製造することで産業
また日本はエネルギーとしての電力が、他国に比べ割高である。
の育成を図り国の発展につなげていくことが必要になるだろう。
電力を何で作るかは、価格を左右する重要な点である。現在、日本
また、再生可能エネルギーを産業の梃にしようと荒野や僻地に
の 電 源 の 主 流 は L N G を燃 料とする火 力 発 電 で ある。日 本 では
風力発電所を設置するだけでは、十分な需要は見込めず、作った
LNG による発電コストが国の試算によると約 13 円 /kwh 。一方、
エネルギーをそのまま捨てることになりかねない。作り出したエネ
世界の最先端の太陽光発電のコストは 5 ∼ 10 円 /kwh まで下がっ
ルギーを蓄積し別の製品に変換し、世界各地の消費拠点へ運搬
ている。日本の太陽光発電コストはそれに比べるとまだまだ高く、
する仕 組 みを産むことが不 可 欠である。エネルギーを水 素など
国 の 試 算によると 30 円 /kwh である。これはパネ ルの 価 格では
「 貯めて運 べるもの 」に転 換し、それにかかわる新しい 産 業エコ
なく、設 置 側 のコストによる。極 端な例では米 国 、テキサスでは
システムを構築することが重要である
4セント/kwh 程度で、再生可能エネルギーが LNGより安価に発電
ロシアや北アフリカ諸国のような国々が、1 次エネルギー産業
できるまでになって いるの で ある。価 格は 普 及に大きなドライ
中心の経済から、電気を水素に変換して輸出するような 3 次エネ
バーとなるため、本来は再生可能エネルギーが安価で手にはいら
ルギー産業の育成や、安くできる電気を使い水など社会で必要不
ないとCO2 の排出量は減らない。原発がここまで普及してきたの
可欠なものに変換するような産業の育成を通じて、安定的な経済
は過去に費用が安いと考えられていたためである。いまだ世界は
発展を目指すことは、世界の秩序と政治的安定のためにも不可欠
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で は な い だろうか 。そこには 技 術と資 本 を 海 外 から 導 入 する
ことで、まずモノを紹介し売り込みができる。毎月使う光熱費の
インセンティブも含 めて、新たな 事 業 機 会が生 み 出されてくる
フローの部分を把握できれば、今度はその人の生活パターンを
であろう。
分 析し、そこから、そ の 人に合った 商 品をプロモ ーションする。
一方でエネルギー意識の高まった最終消費者は、その商品が
購買行動に結び付けられたら、次に引き落とし口座やクレジット
作られて手 元に届くまでにどのようなエネルギーが使 用された
カードその他の決済手段を抑えているので「決済」を獲得できる。
のかに強く関心を持つようになる。その結果、企業は自社が選択
決済から「ポイント贈呈」につながり、最終的に「お金を貸しましょ
したエネルギーが、最終消費者にとってはその商品やブランドのイ
う」になる。各 種 料 金 の 支 払 い 状 況から信 用 情 報を正 確に得ら
メージにも直結し得る、
というマーケティング面にまで影響を及ぼ
れ、新たな金融商品やサービスが提案できるようにもなる。たと
すことまで考えなければならない。
えば地域によってはエネルギー使用量の季節変動が大きいため、
例えばリボルビング払いを導入するなどの金融サ ービスなども
電気とガスの完全自由化による他産業の参入
考えられる。
こうしてみると、エネルギーのアカウントを把握するということ
目を家 庭 向けサ ービスに転じよう。電 気とガスで今 後 起こる
は、
さまざまな業界にとって非常に重要なマーケティングのツールに
エネルギーの自由 化は、発 電・送 配 電・小 売りの 分 離と自由 化を
なり得るという意味で、大きなインパクトを有する。大手 E コマー
引き起こす。そ れによりお客 様 のアカウントをめぐり、各エネル
ス企業がクレジットカードを普及させて、ポイントを給 付している
ギ ー 会 社 が 携帯電話各社などと組むなど、言わば「顧客アカウン
の は 、当 該 企 業 はモノを売り、今 後 は 電 力 も 射 程に入 れること
ト大争奪戦」が生じる。
でユ ーティリティにも入り、グ ル ープ の 旅 行 会 社 で旅 行 の 履 歴
たとえば一つの家計で見たときに、電気は 1カ月約 1 万円、ガス
も把 握し、同じクレジットカードを使って決済もし、金融で融資も
は 約 5 0 0 0 円 払って いるとする。携 帯 電 話 は 、親 子 が み ん な で
し、どんどん顧客の支出を獲ろうとしている動きと見ることがで
使っていると合わせて数万円と結構大きな額になる。さらに水道
きる。このように伝 統 的なユーティリティ企業が、
これまでとは全
や固定電話など、公共料金と必要な固定費を多くの人々は銀行
く異なるプレイヤーと組むことで、新しいサ ービス形 態が生まれ
口 座から毎月自動 引き落としで支 払っている。
「 顧 客アカウント
ようとして いるため 、顧 客 争 奪 戦 の 様 相を呈 することになって
大争奪戦」では、このコストを、全部一括で管理しようという動き
いる。
である。アカウントを握った企業は、各家庭の電気やガスの使用
量、通 信 費 などの 情 報をすべ て 手に入 れることができる。個 別
エネルギー業界に押し寄せる変化の波
のコストを管 理 するだけでなく、ひとまとめにすることで、アカ
ウントの 生 活にかかるさまざまな 情 報 の み ならず 、そ の 引き落
エネルギー業界にとっては、
「電力とガスの自由化」は非 常に
とし口 座も把 握し、携 帯 電 話 番 号 、さらにメー ルアドレスもすべ
大きな影響があることは自明のことである。従前、市民へのエネ
て握っているとなれば、あらゆる消 費 パワー の 吸 引が起こるの
ルギー の 安 定 供 給ということを絶 対 的な目的として、岩 盤 の 規
ではないかと容 易に想 定される。各 家 庭 のエネ ルギーコストは
制で守られていたエネルギー業界も、市場の自由化の波が押し
季 節 変 動 は あ れど不 可 欠 な 支 払 い で 、毎 月の 家 計 の 支 払 い の
寄 せ てきて おり、もはや 変 化 が 避 けられな い 状 況 で ある。この
中 では 大 きなウエイトを 占 める。これを 巡り、各 企 業 が 業 種 を
自由化を前に、エネルギーを生成する技術および市場でのプレ
超えた提携や統 廃 合などの 動きが進むであろう。
イヤーともに多様化しており、たとえば新しく電力小売りに参加
アカウントを握った企業は、顧客のいろいろな情報を入手する
する企業として約 200 社もの企業が手を挙げたとされる。新たな
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市 場を狙う新 規 参 入 者にとっては 、巨 大 なビジネスチャンスが
広がっていると言える。ただし、これら電 力 小 売りに参 加する新
規 事 業 者 は 、単にこれまで 地 域 の 電 力 会 社 が 消 費 者 に 共 有し
てきたスタイルと同様のサービスを供給するだけでは新たな市
場も開拓できない。社会に何らかの新しい付加価値をもたらすこ
とが新規事業 者には求められる。
エ ネ ル ギ ー 業 界 にお い て 、I T を 活 用した 消 費 者 へ の 新しい
サービスには大きな期待がかかるが、従来の「エネルギーの IT 化」
として 挙 げられてきた スマ ートグリッドの 管 理 や 、発 電 送 配 電
の分離・小売りの分離、新システムの構築だけでは不十分である。
顧 客との 接 点で得られる情 報を生かし、新しい サ ービスを提 供
することに IT を生かすべきだろう。たとえばエネルギーを売る会
社と保険商品は極めて親和性が高く、エネルギー会社は保険の
販売会 社になれる可能性も有する。
エネ ル ギーと金 融や 保 険と、一 見かけ離 れている産 業が、I T
で顧 客 のアカウントとライフラインの 使 用 状 況を把 握すること
でまったく新しい 役 割を果たすことも可 能になる。既 存 の 金 融
機 関が取り込 む のか、エネ ル ギー 会 社か、または流 通 などの 他
業種もしくはまったくの 新プレイヤーか、いち早くビジネスチャ
ンスをつかみ 、販 売チャネ ルを手に入 れた者が覇 者となるであ
ろう。
事 業 者や 消 費 者にとっては、これまで所 与と考えていたエネ
ルギー 事 業 者を、自分たち の 消 費スタイルに合うもの 、割 安 な
も の 、環 境にやさしいといった 主 義 主 張に合うも の 、安 定 供 給
第 一といったさまざまな 条 件から選 択 肢が増える商 品となる。
一 方で、伝 統 的なエネルギー 企 業にとっては多 様なプレイヤー
との 新 た な 競 争 が 待 ち 受 け て いる。電 気 の 自 由 化 を 追う形 で
ガスの自由 化も起こり、電 気とガスの 双 方で新しい 変 革が生じ
る。多 様 化した エ ネ ル ギ ー をうまく生 産 に 生 かしたり、消 費 者
へ の 新しい サ ービスに発 展 させ たりする企 業 の 競 争 が 始まる
だろう。
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電力業界変革に対する
戦略ガイド
私たちが電気を作り、使い、管理する方法が、
ついに変わりつつある。
その影響は、電力業界の境界をはるかに超える。
著者:ノーバート・シュワイターズ、トム・フラハティ
監訳:岡野 卓郎
電力業界がグローバルに変革の時期を迎えている。特に風力やソーラーなどの分散発電や環境からの要請をきっかけに多様な分野
からの新規参入が顕著だ。本稿は、そのような変革の時代において、電力業界の既存プレイヤーにとっても、他業界の企業にとってもどの
ように思考し、対応するべきかの戦略
“ガイド”
として機能することを目的としている。弊誌前々号「エネルギーとスマート化」で紹介した
事例とも関連するが、特に Tesla(テスラ)や Google などの新興企業が業界の垣根を越えて、電気自動車やデータをレバーに新たな電力
のエコシステムを創造していくことが着目すべきポイントだ。さらには情報とグリッドに
“コネクテッド”
な消費者自身が大きな力を持ち、
新たな付加価値や顧客接点の変革をけん引していくだろう。
(岡野 卓郎)
電力業界は、さまざまな理由で破壊的革新(ディスラプション)
も、高炭素から低炭素へ、炭素ゼロさえも含まれるものへと変化
が起こりそうになかった業 界だ。
トーマス・エジソンが発 電 所を
してきている。多くの地域で電力ビジネスは、寡占から競争の激し
建 設し始めた 1880 年 代から 21 世 紀 初めまで、実 態はほとんど
い市場へと変化している。
変わっていない。経済界のリーダーたちは、電気について考える
最近まで大多数のユーザーにとって、電力は選択する余地の
必 要 などほとんどなかった。電 力は発 電 所や 地 域 の 電 力 会 社 、
ない必需品であったが、今や多種の電力源や供給者から選べる
政府から供給されるものであり、発送電の方法や管理の仕方に
ようになった。テクノロジーの発達で、消費者は電力を調達・使用・
口出しする機会もなかったためだ。電力会社の役員たちも、絶大な
貯蔵するにあたり、より大きな決定権と選択肢を得た上に、自家
安心感に基づいて長期計画を策定・実行し、経済成長に伴って需要
発 電で収 入を得る機 会まで手に入れたのだ。テクノロジー の 力
は伸びる中で、自然な寡占状況が当たり前と認識されてきた。
と、顧 客 主 導 の 要 求 の 力が、有 益に相 互 作 用 する時 代になった
のである。
しかし、そのような時代は過ぎ去った。重要な変革が同時多発的
このことは 電 力 業 界に、従 来 の 硬 直 的 で 発 電 能 力 を 基 本に
に進行し、世界の商取引と人の快適な暮らしにとって欠かせない
割高な料金を課してきた手法から、柔軟性を重視せざるを得ない
エネルギーである電力は発電、送電、蓄積、販売の方法に革命が
パラダイム・シフトを引き起こした。長い歴史の中で、電力業界は
起こりつつある。
トップダウンの中央集権体制からより分散化され、
世界的に、発電・変電・送電・売電・小売りと細かく役割分担してき
インタラクティブな体制へと移行している。エネルギー・ミックス
たが、現在は、新たなプレイヤー、テクノロジー、プロバイダと顧客
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ノーバート・シュワイターズ
トム・フラハティ
岡野 卓郎(おかの・たくろう)
norbert.schwieters@
de.pwc.com
tom.flaherty@
strategyand.us.pwc.com
takuro.okano@
strategyand.jp.pwc.com
Strategy& 東京オフィスのマネージャー。
PwCドイツ法人デュッセルドルフオフィ
Strategy& ダラスオフィスのリーダー。
スのパートナー。グローバルのエネル
電 力 、ユ ーティリティ・プラクティスの
10 年にわたり、商社・エネルギー企業を
ギー・プラクティスのリーダーを務める。
一 員 で あり、電 力・ガス 業 界 に 対し幅
含む幅広いクライアントとともに、全社
広くコンサルティングを行っている。
戦略、
グローバル化戦略、組織改革など
のプロジェクトを中心に行ってきた。
間のやり取りの活発化や選択肢の増加、業界間の境界線の曖昧化
アフリカで、かつて携帯電話が一気に広まって固定電話のイン
で市場が激変している。狭い業界の中で少数のプレイヤーとの
フラ整 備が不 要となったように、分 散した再 生 可 能エネ ル ギー
み 取引していた既存企業も、多彩なスタートアップ企業とも取引
システムを最初から導入すれば、集中化された発電所が必要ない
せざるを得ない。結果、電力システムは一方的な形態から、統合
可能性もある。
されたネットワーク型の生態系へと進化している。これらの変化
こうした変化に直面している、電力業界の既存プレイヤーは、
に加え、マクロ的にはデジタル革命も、電力系統を静的な安定し
将来の存続を賭けて戦略を再構築する必要がある。またこの革
た場から動 的で破 壊 的 な 革 新 の 場 へと変えている。かつて、電
命は、電力業界とそのサプライチェーンの全企業と、電力を購入
力会社株は極めて安定した株式であり、社会的弱者でも電力株
している全 企 業や消 費 者にとって大きな意 味を持つ。購 入 者に
を持っていれば安泰と言われていたが、新たな環境においては、
とって、選 択 の 余 地 のなく単なるコストに過ぎなかった電 力が、
電力会社そのものが時代遅れとなるリスクに直面している。PwC
今後ははるかに価 格 変 動 性が高く、高 価 値なもの へと変 容して
の第 18 回世界 CEO 意識調査において、電力会社の役員が「自社
いく可 能 性がある。これらによって、未 曽 有 の 機 会が出 現し、消
が破壊的革新(ディスラプション)に直面している」と認識してい
費者の電力に対する見方は 180 度転換し、消費者は発電者を兼
る割合が、他の業界に比べて特に多かったのもうなずける。しか
ねた存在となるのだ。企業は、需要計画に参加し、風力発電所と
し、これらのリーダーたちは、変化を恐れるのではなく進んで受
電 力 購 買 契 約を締 結し( それにより環 境 配 慮 のイメージを高め
け入れ、新たに出現した機会に積極的だ。
る)、ピーク時 の 高 い 電 気 料 金を避けるために蓄 電 設 備を設 置
電力業界が変わりつつある根底には、世界的なメガトレンドの
し、電力使用を効果的に管理するデータやソフトウェアのサービ
独特な組み合わせが考えられる。地球温暖化ガス排出や気候変
スと契 約するといったようなことができる。数 年 後にはそれが、
動への懸念が、電力会社への厳しい政治的・社会的圧力となり、使
顧 客 の 利 益につながるケイパビリティを強 化する技 術やアプリ
用する燃料構成の改善とさらなる効率化推進との両面からの取
ケーションとして利用されるだろう。いずれも、新規参入業者、隣接
り組みを促している。PwC の 2015 年の Global Power & Utilities
分野の企業、賢い消費者にビジネスチャンスを提供する。端的に
( P&U )Surveyによると、太陽光発電など再生可能エネルギー の
言 えば 、これまでになく幅 広 い 分 野 のリー ダ ー にとって 、今 は
コスト下 落 、大 規 模・小 規 模 の 蓄 電 技 術における画 期 的 発明、新
電 力につ いて戦 略 的に思 考し、新たな 可 能 性を構 想し、自社 の
たな省エネ技術などが、
これまで以上に、分散化した発電システム
ケイパビリティが 十 分 かを 検 討 することが 不 可 欠 な 時 代 な の
への移行を推進している。ビッグデータの普及と採用、インター
である。
ネットベ ースのアプリケーションによって、よりインテリジェントで
インタラクティブなシステムが実現し、個人の電力消費習慣を変
電力業界における破壊的革新
えた。さらに既 存プレイヤーと新規参入組の競争激化や隣接業
界からの 活 発な参 入により新 た なビジネスモ デ ル の 開 発 も 促
電力会社が今後「死のスパイラル」に陥る、
といった予測は誇張
したことが指摘される。
だ が 、変 化 に い ち 早く対 応しな い ならリスクは 高 まるだろう。
このようなダイナミックな機運は、先進国の成熟した電力市場に
エネ ル ギ ー 革 命によって 新 たな 市 場 やビジネスモデ ルが 次 々
限った話ではない。電力普及が未だに不十分な開発途上国でも、
と確立されれば、既存プレイヤーは戦略面で敗者となってしまう。
同様の変化が急速に進んでいる。サハラ砂漠以南のアフリカ諸国
電 力 会 社 にとって のリスクは 、最 終 消 費 者 へ の 送 電 サ ービ ス
では、分散発電技術の導入によって、初めて消費者が電力供給を
で、効率の良い他社に取って替わられることである。他業界では、
受けられるようになったケースもある。
Amazon が実際に既存の出版社や小売り書店を駆逐したように、
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電 力 業 界における新 進 企 業もまた、中 間 業 者を駆 逐してしまう
出現する場合もあれば、ある特定の地域内で複合的に現れる場
可能 性がある。
合もある。たとえば、政府がエネルギー業界を保有・運営し、再生
電 力 会 社は、変わりゆく環 境 の 中で戦 略を再 検 討しなければ
可 能 エネ ル ギ ーとデジタ ル 技 術 の 導 入 を 義 務 付 ける「 エコ 型
ならない。多くの家庭や企業が経済的メリットに惹かれて、規模
指 令 統 制 市 場 」や、
「 超 分 散 型 発 電 市 場 」として各 地に分 散した
を問わず、消 費する電 力 の 一 部を自ら発 電することに踏 み 切っ
エネ ル ギ ー 資 源 を 活 用 するため 、送 電 網 へ の 電 力 集 約と需 給
て い る。
ドイツ の 自 宅 所 有 者 が 屋 根 上ソー ラ ー パ ネ ル で 発 電
バランス 確 保 の 方 法 に 変 革 が 起 きるパタ ー ン 、地 方 共 同 体 が
する一 方で、ブラジルの 製 造 業 者は工 場 の 一 角にコジェネレー
電 力 供 給 や 市 場につ い て 決 定 する権 限 を 強 める「 地 方 型シス
ション( 熱 電 供 給 )設 備を導 入している。
ドイチェ銀 行 の「 2015
テム」、再生可能エネルギーを、国境を超えてまたは国内で長距
年 太陽光発電予測( 2015 Solar Outlook )」調査によると、世
離送電する広域「スーパーグリッド」などが想定される。
界の 多くの 国において、屋 根 上ソーラーパネルで発 電した場 合
の 電力コストはキロワット当たり0.13 ∼ 0.23ドルで、多くの国の
業界の対応
電力小 売り価格よりはるかに安 い 。
需要の形態にも、変化が起きている。2014 年度の調査において
将来のビジネスモデルを定義するために、電力会社は自社の
UBS 証 券は「 2020 年までにバッテリー 価 格は現 在 の 半 分 以 下
存在意義や将来の市場におけるポジショニングを理解し、問い直さ
に下落する」と予測したが、バッテリーのデザイン進化によって、
なければならな い 。過 去には 、電 力 会 社 が 発 電 から小 売りまで
既に経済合理性のある電気自動車が実用化されている。蓄電池
完 全に統 合 された 事 業を運 営 するの が 当 然と考 えられて い た
技術の進歩は新たな設備投資も促進しており、たとえばテスラ・
が、今やアンバンドリングの機会がバリューチェーンの深部まで
モーターズ( Tesla Motors )は、ネバダ州に 40 ∼ 50 億ドルを投
じて巨大バッテリー工場を建設中である。安価な蓄電が実現した
ことで 、顧 客 のグリッド( 送 電 網 )との 関 わり方 も 劇 的に変 わる
可能性がある。自家発電した電力をグリッドへ売る能力を持った
顧 客が増え続ければ、電 力 会 社は主な電 力 供 給 者から「 数 ある
供給者のうちの一社」とならざるを得ない。また蓄電設備の普及
で 電 力 消 費 パタ ーンの 新 た な 管 理 方 法 が 確 立 されれば 、電 力
会社が担ってきた需要変動に合わせて電力を供給するという役割
は縮 小するであろう。利 用 者からの 収 入が減 少するなかで送 電
網の保守・運転のコストを賄っていかねばならないため、電力系
統の設計変更の必要性にも迫られるであろう。
図表1 : エネルギー業界のビジネスモデル
電力会社1社が全セグメントを所有、運営していた伝統的な電力
業界モデルは今、バリューチェーンにおける細分化されたセグメン
トに特化する新規参入業者からの競争に直面している。
伝統的な
電力会社
送配電
は規制された業界であり、何層もの規制が存在することが多い。
小売
でき な い 。しかし業 界 変 革 の 波 を 受 け 、市 場 も 進 化 が 迫られ 、
コモディティ・
サプライヤー
グリッド
管理者
プロダクト
イノベーター
付加価値
提供者
「発電+
小売電力会社」
グリッド
開発者
サービス・
バンドラー
バーチャル
電力会社
+
+
型から、柔 軟な分 散 型 電 力システムへ の 移 行に対 応することは
送配電
発電
一 方 、市 場も急 速に変 化している。世 界 の あらゆる国で電 力
現行の市場制度設計に大きな変更を加えない限り、発電能力中心
発電
小売
資産重視型
サービス重視型
(統合型)
(細分化型)
出所:Strategy&
将 来は多様な市場モデルが新たに出現するだろう。それは単体で
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デジタル技術に支えられたスマート電力の時代では、
主なサービス販路はオンラインになり、
電力小売り価格は、革新的なデジタル・プラットフォームによって決定される
食 い 込 み 、細 か な 役 割に特 化した 事 業 者 の 参 入 が 増 加して い
と同 時に「メーター の 後ろにあるもの 」も販 売して、電 力 小 売り
る。その結果、電力会社は自らの役割やビジネスモデルを再検討
業 者 の 役 割を拡大し、顧客の期待するサービス内容も変えてい
するだけでなく、製 品 や サ ービスの 提 供 、顧 客との 関 わり方に
く。たとえば、電 気 自動車への充電事業を積極的に展開し、顧客
も見 直しが迫られている( 図 表 1 参 照 )。
の敷地内インフラの設置(さらに蓄電技術、燃料電池と組み合わ
今 後 も 電 力 会 社 は 従 来 の 業 態 を ある程 度 維 持 するだろう。
せた屋上太陽光発電パネルの管理・統合業務)を行うだろう。
エネルギー供給者は、集中化された発電施設を使った発送電を
二つ目の「サービス・バンドラー」は、標準的な電気・ガスや関連
担い、システムインテグレータは、送電網の随所に配置された技
サービスを提供することに加えて、自動車メーカーやマーケティ
術インフラを使って需給ピークの調整を行うことに専念する。電
ング会 社 、技 術 専 門 家と協 働して 、全く新しい 新 たな 電 力 関 連
力 の 供 給とシステム統 合を担う資 産 重 視 型 の 企 業は、いくつか
サービスを提供することで、将来の顧客ニーズにいち早く対応す
のカテゴリーに分 類される。一つは「 純 粋な電 力 販 売 、コモディ
る。たとえば、電気自動車のライフサイクルを通じてのバッテリー
ティ・サプライヤー」で、発電所を所有・運転し、市場価格で、競争
交換、新たに電気・ガスの契約を行う際のサービス設定のコーディ
的な卸市場へ電力を販売する。二つ目は「グリッド開発者」で、発
ネーションなど自宅関連の利便性向上のためのサービス、自家発
電所から配電事業者へと送電する際に通過しなければならない
電した電 力を電 力 会 社に買 い 取らせる際 のマネジメントなどの
変電所の用地確保や建設、所有、保守を行う。三つ目は「グリッド
サービスである。三つ目の「バーチャル電力会社」は、分散型シス
管理者」で、変電所・配電網を運営するとともに、発電事業者およ
テムで発電された電力を集約し、エネルギー市場間の仲介役を務
び小売りサービス事業者に、自らのネットワークを開放して使え
める。バーチャル電力会社はさらに、従来は第三者が提供してき
るようにする。四つ目が「発電+小売り電力会社」で、自前の発電
た、伝統的なサービス圏外に散在するエネルギー資源の統括な
所を持ちながら電力の小売り事業も行う。資産の効率的活用と
ど、新興サービスの統合者としての役割も果たす。四つ目の「付加
ともに、
「モノのインターネット( Internet of Things )」技術の
価値提供者」は、情報管理、ビッグデータ、オンライン・アプリケー
活用が成功するために不可欠となるであろう。
ションなどの基本能力を活用する。たとえば、産業・商業界の顧客
また、特に顧客、データ、テクノロジーが関わる新たな領域で、
にサービスを提供する英国のキウイ・パワー( KiWi Power )は省
多くのイノベーションやビジネス機会が生まれる可能性が高い。
消費に向けた戦略を提案し、大手企業の電気代を大幅に削減する
スマートグリッド、マイクログリッド、ローカル発電、ローカル蓄電
ことに貢献している。
は、企業が新たな形で顧客と関わる機会を生み出すだろう。全て
の 顧 客 の ためにグリッドの 価 値 を 高 めようと努 力 する企 業 は 、
多くの 企 業 は 既に、分 散 型 の 電 力システムを想 定し、自らの
システム の パフォー マンスを 改 善し、顧 客との 関 わりを 強 化し
ポジショニングおよびビジネスモデルを分散型発電や、バリュー
柔軟性を実現するテクノロジーを導入する。そして、拡張性ある
チェーン上の新業態 へと移行している。単純な電気の 販 売では
蓄電、バーチャル電力、自宅のオートメーション化と利便性向上、
なく、高 効 率 な 集 中 管 理や 省エネ対 策 の 価 値をエネ ル ギ ー・マ
需要側のマネジメントにおけるソリューションを提供するだろう。
ネジメントのサ ービスとしてまとめて提 供し、顧 客との 関わりに
デジタル技術に支えられたスマート電力の時代においては、主な
は、ソーシャルメディアなどの 新 規チャネ ルを利 用している。将
サービス販路はオンラインとなり、電力小売り価格は、革新的なデ
来的に既存プレイヤー各社は、顧客のためにエネルギー消費を
ジタル・プラットフォームによって決定されることが期待される。
直接マネジメントするサービス、ホーム・マネジメントなど利便性
これら進 化した 電 力 小 売り業 者 は 、いくつか のカテゴリーに
を向上させる製品やサービスを幅広く提供する業態へ進化して
分類されるが、その一つ目の「プロダクト・イノベーター」は、電力
いくであろう。
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電 力 会 社 が 今 後 のビジネスモデ ルにつ い てどのような 決 定
受け取ってきた既 存 顧 客 の 期 待も満たしていかねばならない 。
を下すにせよ、イノベーションや顧客との関わりに対する考え方
この ように 異 なる二 つ のビジネスモ デ ルを 同 時 に 追 求 するに
を変えなければならない 。大 半 の 電 力 会 社は、競 争 力 の 高 いイ
は 、新 規 事 業 の 開 発と既 存 顧 客 へ の 価 値 提 案 の 策 定を構 造 的
ノベ ーター 企 業 の 成 長 曲 線よりも、意 識 の 面ではるかに後れを
に分 離させる必 要が ある。これら二 つ の 責 任は、互 いに利 益 相
取っており、いまだに技術重視の枠にとらわれている。既存電力
反 する可 能 性が あるからで ある。そうした変 革を起こすために
会 社は視 野を広げて、プロセス、製 品 、ビジネスモデ ルといった
は 、抜 本 的 な 措 置 が 必 要 なことも ある。たとえばドイツの 電 力
全ての領域が、イノベーションというシステムの構成要素である
会 社 で あるエ ーオン( E . O N )は 、自らは 再 生 可 能 エネ ル ギ ー 、
と認識せねばならない。これらは電力業界にイノベーションを起
送 配 電 網 、顧 客 向けソリューション開 発に注 力するため、発 電 、
こす、潜在的な起爆剤の宝庫なのである。
グローバルなエネルギー取引、探査・生産の各事業を「ユニパー
また、現代のネット上の「コネクテッドな顧客」は電力業界より
( Uniper )」と称する別会社に移管する方針を発表した。
も、ソーシャルメディアや携 帯 機 器を使ったコミュニケーション
に精 通しており、電 力 会 社はそうした顧 客との 関 係を強 化 する
別の進め方として、新規参入者や小規模事業者とともに、ター
必要がある。顧客がエネルギーに関する意思決定をシンプルに
ゲットを絞ったアウトソーシングや提 携も考えられる。既 存 の 電
したいのに合わせて、電力会社は顧客にとって
“エネルギーに関
力 会 社は、これらのイノベ ーションを育 成するとともに、新 製 品
する全てに対してパートナー ”
となることを訴 求していくべきで
やサービスの規模拡大を支援し、また場合によっては、独自のケ
ある。顧 客との 信 頼 関 係を早 期に構 築すれば、他 業 界から競 合
イパビリティのさらなる活用として、その企業を買収することも
が参入しても、強力な差別化要因にできる。
できる。新たな 収 益と販 路 拡 大を通じて、既 存 事 業を成 長させ
電 力 会 社が顧 客 志 向を強 めて従 来 の 業 態を脱 却 するに際し
るには、革新的なサービス提供者や市場参加者との提携やパー
ては、細分化された市場で競争優位性を保つために必要なケイ
トナ ーシップが 必 須となる。こうした 領 域 で 電 力 業 界 は 豊 富 な
パビリティが自社にあるか、そ の 優 位 性はどの 程 度 かを測 定し
経験を持っているとはいえない。
「自前か、提携か、買収か」の決
なければならない。既存のケイパビリティ
(たとえば規制当局へ
断には、イノベーションと業界変革を推進し、新規顧客獲得や事
の 対 応や、大 規 模な発 電 所 のマネジメントなど)のうち、現 在ど
業 開 発につながる自社 の 差 別 化 要 因は何かにつ いての 明 確 な
れが必 要 なレベ ルを満たしているか、今 後どのような 新たなケ
ビジョンが必 要である。電 力 会 社は、顧 客 接 点・体 験について誰
イパビリティを開 発する必 要が あるかを把 握しなくてはならな
が責 任を負うの か、送 配 電 網やネットワークは誰 が管 理 するの
い 。たとえば、電 力 会 社が「メーター の 後ろにある技 術 」や高 度
か、効 率 性 、品 質 、コストは誰が担 保するのか、そして、コアのケ
なデータ解析技術を使って良質な顧客インサイトを捕捉するに
イパビリティとして何を自社 の 軸とするのかを決 定しなければ
は、スマート機 器やグリッドからデータを収 集 、合 成 、解 析し、そ
ならない。
れらをアクション可 能 なインサイトや 将 来 へ の 見 通しへと変 換
させる高度な専門知識を要する。次に、収集したデータに、人口
変革後の世界における新規参入者
動態などの情報、消費行動、顧客の特徴など、データ活用には役
立つ要因を含む、追加の情報レイヤーを重ね合わせなければな
電力会社は、長い年月にわたる実績、莫大な資産、顧客基盤に
らない。
加え、関 連するケイパビリティを有するが、新しい 環 境に適 応し
新時代に成功者となるためには、未知の領域に侵入する勇気
ようする取り組みの中で、新たな競合相手にも直面している。電
が 必 要 な の は 明 白 だが 、一 方 で 、これまで 安 定したサ ービスを
力 会 社に変 革を迫ったのと同じ力が、過 去 電 力 業 界との 接 点が
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自前の送配電網を持つ、
分散型電力の企業コミュニティでは、
電力会社以外の企業が電力やデータを
マネジメントする役割を担うことができる
図表 2 : 拡大する電力業界の生態系
テクノロジー、ビジネスモデルの革新、規制改革などによって、新たな業態や業種が育ちつつあり、他業種との協働も進む。
電力マネジメントおよび関連サービス
電力マネジメントおよび関連サービス
• スマート機器(サーモスタット、
メーター、周辺機器)
• LED照明
• 自宅内ディスプレイ
• 設置と保守サービス
• リモート接続/接続解除
凡 例
• 製品
• サービス
• 携帯機能
電力に関する情報/サービス
省エネ・
コンサルティング
• 消費量モニタリング
• 設置と保守サービス
•• 電力使用状況監査
•• 請求・支払
• スマート家電
• 高効率な空調システム
• 気密性向上
電力測定
エネルギー
交換市場
•
•
•
•
保険
引っ越し関連サービス
ホーム・サービス
水
モニタリング・システム
ホーム
オートメーション
•
•
•
モニタリング・ハードウェア
携帯からの動画視聴
設置と保守サービス
再生可能資源/マイクロ発電
車輛
•
•
•
住宅関連サービス
駐車場
燃料補給
設置と保守サービス
•
•
•
•
太陽光パネル
その他の敷地内発電機
電力会社による電気買取り制度
設置と保守サービス
•
通信サービス
出所:Strategy&, PwC
ほとんどなかった企業や完全な新規参入者に参入機会を与えて
テクノロジーとは無関係な場合もある。2011 年、ユタ州を本拠
いるからで ある。過 去にお い ても、革 新 的 なビジネスモデ ル の
とする創 業 1 5 年 の ホ ー ムセ キュリティ企 業 で 、機 動 力 の 高 い
ほとんどは新 規 参 入 者によって考 案された。そして分 散 型 電 力
直 販 営 業 チ ー ムを 持 つビビント社( V i v i n t )は 、太 陽 光 パネ ル
市場への参入障壁はかつてなく低くなっている。現在数百億ドル
事 業に参 入 することを決 めた 。
規模の電力市場には、電力マネジメント・需要管理業務、ローカル
ビビント社にはソーラーパネルを設 置できる機 能はなかった
発電、大規模な蓄電と地域スーパーグリッド、消費者の行動転換
が 、膨 大 な 個 人 宅 を 訪 問 できる営 業 部 隊 を 管 理・育 成し、報 酬
を奨励するソフトウェアなど、多種多様な機会が存在する(図表 2
を 与 えるケ イ パビリティが あった 。同 社 が 1 3 億ド ル で I P O を
参照)。新規参入企業は、急展開する電力関連テクノロジー事業、
成 功 さ せ た 2 0 1 4 年 春 、営 業 部 隊 は 2 万 2 , 0 0 0 世 帯 の 顧 客 に
顧客サービス事業に参入するために、数々の戦略的行動を起こす
対して 屋 上ソー ラー パネ ル の 契 約 を 獲 得した 。翌 年 5 月には 、
ことができる。
同 社 が 設 置したソ ー ラ ー パ ネ ル の 発 電 能 力 は 合 計 2 7 4 メガ
企業は第一に、自社が、変わりつつあるゲームに参加できるか
ワットに達し、電力会社の発電所の出力に匹敵する規模となった。
問うべ き で あ る 。新 時 代 の 電 力 市 場 に お い て 役 に 立 つ 、どの
GE やシーメンス( Siemens )などの工学技術系企業は長年、
ような ケイパビリティが 自 社 に あるか?この 問 い へ の 答 えは 、
分 散 型 電 力 市 場 で の 大 規 模 なセグメントに機 器 類 を 供 給して
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エネルギー消費の削減は、
利益を得るための数ある方法の一つに過ぎない。
電気料金が安い時間帯へ需要をシフトすることでも、
企業は大幅なコスト削減を実現できる
ホーム・ベース
インターネット、デジタル、データマ
ト( Comcast )、AT&T など、既にメー
はさまざまなアプリケーションの可能
ネジメント業界の企業各社は、電力業
ターの 中に食い込んでいる各社だ」。
性も手に入れた。PwC「顧客変革に関
界 へ の 参 入に関 心を強 め 、メディア、
既に顧客の自宅や生活環境に、有線ま
する円 卓 会 議 」における基 調 講 演で、
娯 楽 、自宅オートメーション、省エネ、
たは無線の通信回線で接続しており、
G o o g l e 最 高 技 術 提 唱 者 の マイケ ル
デ ー タ 集 約 など各 セグメントの 機 会
米国で電力卸事業のライセンスを持つ
T. ジョーンズは、将 来 の 可 能 性を語っ
を 評 価して いる。
「5年後の電力業界
Googleは、2015 年 1 月、スマート・サー
た。
「全ての電子機器がアグリゲーター
に お ける主 戦 場 は 、
“ ホ ー ム( 住 宅 )”
モスタットメーカー のネスト社( Nest
に向かって、自らの消費電力を集約す
だ」と、NRG Energy のデイヴィッド・ク
L a b s )を 3 2 億ドルで買 収し自宅オー
ることで、それぞれが必 要とする電 力
レーン C E O は『 ブ ル ームバーグ・ビジ
トメー ション および エ ネ ル ギ ー・マ ネ
をオークションで調達できる。あとは、
ネスウィーク』に語る。
「競合相手や提
ジメント分 野での 強 力なポジションを
料金がいくらかを誰かに決めてもらう
携先となるのは、Google やコムキャス
手に入れた。また、この買収で Google
だけだ」。
き た 。しかし 分 散 型 電 力 業 界 が 成 長し 拡 大して き た ことで 、
行 動 経 済 学インサイトを組 み 合 わ せ て 省 エネ 促 進 効 果 の ある
個 々 の 顧 客レベ ル 、企 業 の 集 合 体レベ ル の 両 方 で 、企 業と電
請 求 業 務とコミュニ ケ ーションの ため のソリューションを 開 発
力 業 界 の 境 界 線 が 曖 昧 に なりつ つ あ る。たとえばシ ーメンス
し、現 在 、9 0 の 電 力・ガス 会 社 、合 計 3 2 0 0 万 人 の 顧 客 に 提 供
は 、ハ ワ イ の 大 規 模 農 場 で あ る「 パ ー カ ー・ラ ン チ( P a r k e r
して いる。
R a n c h )」とプロジェクトで事 業 運 営コスト削 減 の 為に大 規 模
コンバ ージェンスが 特に起 きる領 域 は 、電 気 自 動 車と蓄 電・
な出 力のマイクログリッドを建 設して いる。
発 電 技 術 の 間 で ある。テスラ創 設 者 でソー ラー・シティの 共 同
自 前 の 送 配 電 網 また は マイクログリッドを 持 つ 分 散 型 電 力
創 設 者でもあるイーロン・マスクは、これら 2 業 種 の 境目に立つ
の 企 業コミュニティでは 、電 力 会 社 以 外 の 企 業 も 、電 力やデ ー
存 在 で ある。テスラは 、高 度 な自 動 車 用 バッテリー 製 造 で 得 た
タをマネジメントする役 割 を担う事 ができる。デ ー タセンター
ノウハウと規 模 のメリットを 生 かして 、パワ ー ウォー ルという
市 場 へ の 新 規 参 入 事 業 者 は 、デ ー タ 分 野 と 同じぐら い 電 力
新 たな 自 宅 用 蓄 電システムを作った 。これは 、ソー ラー パネ ル
分 野 に も 関 連 性 の 高 い 製 品・サ ー ビ ス を 開 発して い る 。たと
で 発 電した 余 剰 電 力 を 蓄 電しつ つ 、予 備 電 源として も 役 立 つ
えば 、英 国 系 P E ファンドが 出 資 するハ イドロ 6 6( H y d r o 6 6 )
も の で ある。
と いう企 業 は 、寒 冷 な ス ウェー デ ン 北 部 の 水 力 発 電 所 付 近
そのようなシステム・ソリューションは、既存の電力会社と新規
で デ ー タセンタ ー を 運 営して い る。また 米 国 の オ ー パワ ー 社
参 入 業 者 の 両 方 にとって 将 来 有 望 で ある。スマ ート・シティの
( Opower )は、ビッグデータ解析、クラウドコンピューティング、
コンセプトは 、デジタ ル 技 術と高 効 率 な 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー
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の 融 合 、そして都 市 計 画と建 設 事 業という二 本 の 柱 の 上に成り
自らの消費パターンについて調べる
立って いる。スマ ート・シティは 、新 た な 交 通 機 関 、医 療 、水 道 、
電気代はかつて、恒常的な固定費と見なされていた。しかし現
廃 棄 物 処 理 などの サ ービ ス向 上 を 通じて 、人 々 の 生 活 の 質 を
在生じている全ての変化を背景に、電気代を削減する方法は豊富
向 上しようとする試 み で ある。たとえば 、インタ ー ネット・アプ
にある。以前はコストだったものが、利益や効率オペレーションの
リケ ー ションと電 気 自 動 車 を 融 合 さ せ れば 大 都 市 圏 に お ける
改善余地とすることも可能になったのだ。
自動 運 転を含 めた 新 たな 交 通インフラが 整 備される。P w C の
PwC 調査によると、
「省エネ技術」は、現在から2030 年までの
2 0 1 5 年 の G l o b a l P & U S u r v e y によると、今 後 1 0 年 間 でス
間に、電力市場に最大の影響を及ぼす技術として特定されてい
マ ート・シティやコミュニティは 、ますます 重 要 な 役 割を果 たす
る。しかし、電力消費を減らすことは、電力業界の変革から利益を
ようになって いくと見られる。
得る一つの方法に過ぎない。電気が余り気味で安価な時間帯へと
需要をシフトすることもまた、製造企業にとって大幅なコスト削減
新規参入業者、電力顧客のための戦略
につながる。
需 要を調 節してコスト削 減につなげるやり方は、
「アドバンス
大 量に電 気を消 費する企 業にとって、進 化する電 力 市 場を利
ト・デ マンドサ イド・マネジメント」と呼 ば れるが 、まだ 十 分 活 用
用して利益を得るためには幅広い選択肢がある。
されているとはいえな い 。そ の 理 由は多 々 あるが、電 力を供 給
する方が、需 要を調 整するよりも利 益になることも理 由 の 一 つ
発電者になる
と考えられる。しかし、電 力 使 用 量を急 減することは、電 力 系 統
分 散 型 電 力 市 場は、あらゆる種 類 のプレイヤ ーが発 電 、売 電
にとってエネルギー の 提 供と同じくらい 重 要となる可 能 性もあ
することを可能にする。IKEA は、米国のほぼ全店舗に、屋根上の
る。今 後 、市 場が化 石 燃 料 依 存から脱 却して太 陽 光や 風 力 など
ソーラーパネルを設置した。米国最大のゴミ収集会社であるウェ
の再生可能資源の割合が増えるにつれ、需要をピーク時以外へ
イスト・マネジメント( Waste Management )は、発電事業に乗り
とシフトすることに対 価が払われるような需 要 調 節 の 市 場を確
出す方法を発見した。全米 130ヶ所のゴミ埋め立て場から排出さ
立する必要がある。
れるメタンガスを捕捉し、敷地内で発電するための資源として使
うことで、同社は、米国環境庁が定義する再生可能エネルギーの
電力消費を自社ブランド向上に活用
重要な生産者となった。出力は約 500メガワットで、40 万世帯へ
このような環境で作用しているユニークな要因の一つが、多く
の電力供給が可能である。発電した電気を使用・販売することに加
の企業にとって、電力消費がブランドイメージの一部となり得る
えて、同社はこれらのケイパビリティの外販も事業としても展開し
ということである。地域によってはどの種類の電力を、どのように
ており、他社が自らのゴミ埋め立て地で同様のシステムを構築し
使っているかが、企業文化の重要な構成要素となっている。電力
ようとする際に、プロジェクトマネージャーや顧問としてサービス
使用は、自社を差別化し、企業の価値観が社員や現地コミュニティ
を提供している。エネルギーを大量消費する事業においては、自
の価値観と一致していることを示すだけでなく、マーケティング
家発電は有効な方策として採用されてきた長い歴史がある。たと
や広告戦略の一部でさえある。2015 年 2 月、Apple はファースト・
えば、スカンジナビアの建材メーカー、モールヴェン( Moelven )
ソーラーと8 億 5,000 万ドルの契約を結び、カリフォルニア州に同
は、自社の製造工程で出る木屑のバイオガスで消費エネルギーの
社が建設するメガソーラー・ファームで作る電力を買い取ることに
「バイオエネルギー業界の技
95 %以上を賄うことを目標に掲げ、
合意した。このメガソーラーは、Apple の同州での事業に必要な
術的発展と市場の発展に積極的な役目を果たしたい」と語る。
電力を全て賄える。この契約は Apple が低排出エネルギーを使い
16
S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 5 2 0 1 5 A u t u m n
「世界各地の全データセンターを再生可能電力で稼働している
企業」としてのイメージを構築する戦略の一部であった。
これまでの変化の軌道
動乱の時代において企業は、脅威に対処するのと同様に、機会
を捉えることにも鋭敏でなければならない。自社の電力変革は、
取締役会で審議し承認するレベルの戦略的決断が必要な課題で
ある。
政策や、最終的な市場の形態への不確実性もあるが、ここまで
の軌道は明確である。今日までは、気候変動への懸念と技術イノ
ベーションが、電力業界の変革を後押しする二つの要因であった。
しかし今後、顧客が自らの手元にあるツー ルの使い方に習熟し、
競争がさらに魅力的な提案を引き出すような、顧客主導の力が、
変革の主な牽引力となるであろう。
今私たちに見えているのはほんの表層だ。今後、さらなるディ
スラプション(破壊的革新)が起きるポテンシャルは計り知れない
―だが、同じくらい大きなチャンスも存在すると考えてほしい。
“A Strategist’s Guide to Power Industr y Transformation”, by
Norbert Schwieters and Tom Flaherty, strategy+business, Issue 80
Autumn 2015
S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 5 2 0 1 5 A u t u m n
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電力貯蔵による
電力システムの
柔軟性確保
著者:瓜生田 義貴
電力システム改革によってこれまで一体であった「電気を作る」
この需要変動の山谷を平準化するアイデアとして電力貯蔵の
「 電 気 を 送る」
「 電 気 を 売る」機 能 が 分 離 されようとして いる。
考え方は古くから存在し、現に 1900 年から揚水発電という形で
これは制度に起因する大きな変化であるが、技術上でもこの変化
実現されてきた。その後しばらくそのほかの実用的選択肢は特
を加速する可能性として近年進展している電力貯蔵の技術があ
に存在しなかったが、近年の各種電力貯蔵技術の進歩により、そ
る。電力貯蔵自体は古くからあるアイデアであるが、このバッファ
の選択肢や可能となる適用範囲が格段に広がってきている。
をシステムに導入することで「(再生可能エネルギーの導入と需給
ピークの平準化により)世界中の発電所の数は現在の半分でよく
目的に合わせた複数のエネルギー貯蔵手段
なる」
(テスラCEO)
という世界が実現に向けて動きだしつつある。
エネルギー貯蔵の手段を比較する際には、用途に応じて変換効
電力の需給におけるムダ取り
率、費用、貯蔵能力(出力・容量・密度・放電時間)を考えることが重
要となる。各エネルギー変換の方式毎にそれぞれの長所・短所を
東日本大震災以降にベースロード電源、ピーク電源という言葉
概観してみたい(図表 1 参照)。
が一般的になってきたように、電力の需要は時間帯・季節によって
実に変動が大きく、その脈動に対応できるよう電力会社は発電設
( 1 )力学的エネルギーに変換
備を各種取り揃えて対応してきた。たとえば、ある1 日の中でも日
• 揚水発電: 夜間のベースロード電源を用いて水を高所に
中と夜間での電力需要の変動は大きく、季節間で見ても夏と冬の
くみ上げ、昼のピーク需要時の発電に活用されている。高
間ではピーク需要に大きな差が存在する。電力会社は年間のピー
出力・大容量の貯蔵が可能な最も成熟した技術であるが、
ク需要を満たせる容量まで発電能力を積み上げた結果、年間の
立地が限定される上、初期コストがかかる。
稼働日数が数日という発電所も多く存在している。
• 圧縮空気貯蔵: 電力を用いて空気を天然の地下岩塩ドー
近 年 、急 速に太 陽 光 や 風 力 発 電 設 備 の 新 設 が なされている
ム等に(ガスと共に)圧縮して保存し、ピーク需要時にガス
が、
これらの発電方式の課題は、出力が太陽任せ・風任せで出力変
タービンにて発電を行う。大容量の貯蔵が低コストで可能
動が全く読めないという点にある。従来の系統に接続しようとして
であるが、立地が限定される上、初期コストがかかる。
も、他の発電所で需要変動を吸収する必要がある点や、従来想定
• フライホイール: 回転エネルギーの形で電力を保存する。
されてい なかった大 容 量 の 電 力が末 端 の 配 電 網に入 力される
高出力、長寿命でメンテナンスフリーであるが、エネルギー
ためハード上の不都合が生じる点から新電源の潜在力をフルに
貯蔵密度は低くまた精密加工の技術が求められる。
活かしきれないでいる。
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S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 5 2 0 1 5 A u t u m n
瓜生田 義貴(うりうだ・よしたか)
yoshitaka.uriuda@
strategyand.jp.pwc.com
Strategy& 東京オフィスのマネージャー。
エネルギー・製造業を中心とした幅 広
いクライアントに対する海外進出戦略、
中 期 経 営 計 画 策 定 などの 戦 略 策 定
および実行支援のプロジェクトを手掛
ける。
図表1 : 代表的電力貯蔵技術の特徴
費用
変換
効率
貯蔵能力(現状最大規模の例)
投資
出力
万円
MW
/kW
力学的
容量
密度
MWh
Wh
/kg
定格出力
での放電時間
(レンジ)
圧縮空気貯蔵
80%
∼10
100
2,800
-
日
高出力フライホイール
95%
-
20
5
-
分
揚水貯蔵
85%
∼1
3,000
30,000
-
時間
リチウムイオン電池
90%
∼15
25
50
1,200
時間
フロー電池
60%
∼7
25
75
10∼30
時間
水素
60%
-
-
-
-
-
電気化学的
化学的
出所:各種資料よりStrategy&分析
( 2 )電気化学的エネルギーに変換
必 要に応じガスとして、または発 電 等 のアプリケーション
• 二次電池: 電力を化学エネルギーに変換することで電力を
で利用するもの。高出力・大容量の貯蔵が可能であるが、エネ
貯蔵している。ハイブリッドや電気自動車等で実用済であ
ルギー変換効率が低い。コストの点で軽減が求められる。
る。高エネルギー密度で軽量であるが、生産コストの低減
が求められる。
• フロー電池: 荷電流体がイオンを膜交換する形で電力を貯
以上の代表的なストレージ技術の特徴を一覧にした表が図表 1
である。
蔵する。信頼性が高く長寿命であるが、低エネルギー密度
また、横軸に出力規模、縦軸に定格出力での放電時間でプロット
であることと初期コスト・ランニングコストがともに高いこと
したのが図表 2 である。右上に行くほど大容量のエネルギーマネ
が求められる。
ジメント用途、左下に行くほど電力品質保証用途に使われること
が多い。ただし電池については組み合わせてスケールを増加させ
( 3 )化学的エネルギーに変換
ることで右上へと移行することが可能である。
• 水素貯蔵: 電力を用いて水を電気分解し水素として保存し、
S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 5 2 0 1 5 A u t u m n
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図表 2 : 代表的な電力貯蔵用法とその用途
日・週・月
水素貯蔵
金属空気電池
フロー電池
時間単位
定格出力での
放電時間
(レンジ)
長期間
フライホイール
ZnBr
高密度
スーパーキャパシタ
VRB
揚水貯蔵
PSB
圧縮空気貯蔵
NaS電池
鉛蓄電池
ニッケル・カドミウム電池
大容量
エネルギー
マネジメント
リチウム・イオン電池
負荷シフト
/系統安定化
高出力フライホイール
分単位
電力品質保証
秒単位
高出力スーパーキャパシタ
1kW
10kW
100kW
1MW
10MW
100MW
1GW
システム貯蔵容量
出所:各種資料よりStrategy&分析
電力貯蔵の進展により社会はどう変わりうるか?
大きい(大規模の産業需要家の中には安価な夜間電力をフル活
用するために夜間操業をしている需要家もいるが、その対策にも
電力貯蔵のメリットを需要家側と供給側(電力供給、送配電)に
なり得る)。たとえば従来に比べ半額程度のリチウムイオン電池で
分けて整理したい(図表 3 参照)。
蓄電事業に参入したテスラは、家庭用と合わせ中小産業用もター
需要家側のメリットは、時間帯により電力価格が異なる地域に
ゲットとした製品を発表している。
居住する場合、安価な時間に発電した電力を貯蔵しておくことで
大∼超 大 規 模ともいえる自治 体・地 域・国レベ ルでは、エネ ル
結果的に電気代を安くすることができ(価格アービトラージ)、ま
ギー安 全 保 障や 地 域 の 産 業 振 興 等 の 面で電 力 貯 蔵が活 躍しう
た電力会社からの供給が不安定な地域での品質保証や万一の電
る。長期保 存 の 形 態も従 来 の 戦 略 的な石 油 備 蓄だけでなく、再
力供給が途絶時でも一定期間は蓄電したエネルギーを利用でき
生 可 能エネルギー+蓄電(+消費・売電)による経済合理性が徐々
る供給安定性を確保できることである。
に追求可 能となってきた。このレベ ルの 貯 蔵 規 模であると現 時
個人(家・自動車)はこれまで電力供給を電力会社に頼る必要が
点での選択肢は、コストの課題は依然として存在するものの水素
あったが、太陽光発電した電力を電気自動車や蓄電池に貯蔵する
の活 用も有 望 な 選 択 肢となるだろう。直 近でハウステンボスに
ことで電気の自給自足体制ができつつある。
おける「変なホテル」が夏場の余剰電力を水素の形で貯蔵し冬に
中規模の企業・ビル・産業需要家は需要変動パターンに応じて
利用することを発表したが、このさらに大きなスケールのものが
グリッドから供 給される電 力と蓄 電を組 み 合わせることで電 力
自治体・地域レベルで起きる可能性があり、海外からの水素輸入
コストを低下させることが可能になる。特に製造業にとっては電
もまたエネルギー 貯 蔵・輸 送 技 術という観 点では同 一 の 線 上 の
力やエネルギー価格はコストへの影響が大きく、安価な地域へと
活動であると言えよう。
工場を移転させる動機にもなるため、電力コスト最適化の機会は
供給家側へのメリットは①需給バランス最適化、②投資の回避・
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S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 5 2 0 1 5 A u t u m n
図表3 : 電力貯蔵の主なメリット
電力供給・トレーディング
送電・配電
ベースロード・価格アービトラージ
需給バランスの
最適化
需要家(B2B、B2C)
日中・夜間の価格アービトラージ
ピーク需要対応
システム安定化
投資の回避・抑制、
運用コスト低減
電源投資の回避・抑制
ネットワーク投資の回避・抑制
OPEX 改善
契約電力の引き下げ
高出力安全運転による
タービン効率の向上
ネットワーク損失の低減
AC / DC変換ロス
貯蔵媒体による電力輸送
再生可能エネルギーの
スムーズな導入
出力平準化による安定的系統連携
自律起動支援
高品質の確保
系統容量混雑回避
分散電灯の導入促進
電力信頼性向上(電力停止時)
周波数安定(運転予備)
感性的価値
電圧維持支援
供給安定性の向上
出所 : 各種資料よりStrategy&分析
抑 制・O P E X 低 減 、③ 再 生 可 能エネ ルギー のスムーズな 導 入で
分散型エネルギーシステムとの親和性が非常に高いこの技術は
ある。①については需 要 家 側で電 力 貯 蔵が進むことにより需 要
従来の発送電網の中に徐々に浸透していくと思われる。
ピークが減少し、供給負荷が低減する。②の低減では電力貯蔵に
エネルギー・電力のような基幹システムの変化はそうそう起き
要するコストがピーク対応発電所を維持・運転するコストより安く
ようもないと一見感じられるが、歴史を振り返れば人間のエネル
なりつつあるため、現在稼働率の低い火力発電所の休止・終了ま
ギー消費も数十年単位で大きな変化を繰り返してきた。日本でも
たは新規投資の回避が可能となる。③の再生可能エネルギーの
江戸時代は薪を燃料として使い国中の山を次々と禿山としてきた
スムーズな導入は前述の通り多くの箇所で議論となっているが、
が明治時代には石炭が台頭し、やがて石油に代替され、その石油
既存のシステムの上では厄介者となりがちなこれら発電装置を
もまた当初は無価値として捨てられていた天然ガスにリプレース
スムーズに導入することにつながる。
されつつある。これらはいずれも100 年程度での変化であり、
この
これら需要側と供給側のメリットが結びついた場合、日中 / 夜間・
視点からすると上記で見てきたような変革の実現も案外想像よ
月間・季節間という時間を越えた、そして地域や国家など場所を
りも早 い のではな いだろうか 。この ような 中 、あるべ き 目 指 す
越えたエネルギーの融通システムが構築される可能性がある。
姿 から逆 算し、事 業 性 成 立 のドライバーを的 確に見 極め、既 存
の技術と大胆な投資で電力貯蔵の将来の未来を拓いきつつある
電力貯蔵による電力システムへのインパクト
テスラのような 動きは、この 業 界 での 変 化を好 機と捉えようと
している企業にとって示唆深いものではないだろうか。
エネルギー貯蔵にかかるコストはシステムの柔軟性確保の重要な
選択肢であるうえ、その経済合理性は既存の他選択肢のコストと
比較可能なレベルとなってきている。再生可能エネルギーや地域
S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 5 2 0 1 5 A u t u m n
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水素エネルギーの
リアリティ
著者:瓜生田 義貴
近年日本で燃料電池車( FCV )販売の動きや、東京オリンピック
(供給・輸送・需要をつなぐ水素チェーン)はこれまで実現されて
での 水 素バスや水 素 発 電 の 計 画 などにより「 水 素 社 会 」の 実 現
こなかった。
に向けた機運が高まっている。一方当然ながらその定着のために
しかしながら、今回特に日本で改めて水素が着目されているの
は既存のエネルギーに対する経済合理性や技術的・社会的受容
は大きく2 つの理由がある。第一に気候変動枠組条約締約国会議
性がクリアされることが条件となる。実際に水素はこれまでも 10
( COP )での議論が進む世界的な温室効果ガス排出削減に伴う
年に一回程度「夢のクリーンエネルギー」としてブームが発生して
炭素規制強化の動きや、国内の電力を取り巻く環境の変化(原発
はコストがネックで 尻 す ぼ み で 消 えるということを 繰り返して
政策や電力システム改革)が水素供給チェーンの経済的合理的な
いる。水 素はプレミアム価 格を許 容 する一 部 の 需 要 家や 、対 既
実現の追い風と考えられる点である。特に排出削減のグローバル
存 エ ネ ル ギ ー に対し割 安となるニッチ な 市 場 / 地 域 に限 定し
の枠組み合意に伴い日本の運輸・発電部門は低炭素の道を模索
た用 途にとどまるの だろうか。今 回 の 動きがこれまでと何 が違
せざるを得 なくなり、新 規 原 発に頼りづらい 中で水 素は幾 つか
うのか、また定 着するとしたらどのような将来像・シナリオが起き
の取り得る選択肢の一つとなる。第二に近年の水素輸送におけ
得るかを考えてみたい。
る技術的進展(液化・メチル化輸送技術)や FCV の実用化という
点である。これによって水素の供給と需要のマッチングの組み合
需要と供給をどのようにマッチングするか?
わせや、ビジネスをくみ上げる際の自由度が増している。
以下では需要と供給の状況を概観し、そのマッチングについて
日本にとって水素は、エネルギーの安全保障上の調達先多様化
考えてみたい(図表 1 参照)。
や、使用時の CO2 ゼロに寄与する環境性能の高さの点から以前
から注目されてきた。水素は石油・ガス・石炭・太陽光・風力など多
供給側の事情:
様な一次エネルギーから生成可能な二次エネルギーであり、一つ
国内でも一定の水素は供給可能だが、
の原料に頼らない。使用先としても発電・運輸燃料・化学原料・エネ
海外が大ボリューム
ル ギ ー 貯 蔵 媒 体 等 の 複 数 の 使 い 道を有し、使 用 端 では C O2 を
出さない。さらに、既存の電力・ガスインフラとの親和性も高く、
水素の代表的な供給方法としては、①工場からの副生(鉄鋼や
うまく活用すれば大きな新規投資なしに使用することができる。
天然ガス田)、②天然ガス等の改質、③水の電気分解(再生可能由
しかし自然・人工を問わず水素がそのままの形で存在するケース
来が主想定)の 3 つが主に存在する。日本においては、①の副生は
はほとんどなく、何らかの 資 源を基に意 図 的に生 産する必 要が
主に鉄鋼生産において発生するコークスガス由来の水素で、現在
ある。また原料である電力→水素(またはその逆工程)の変換で
は鉄鋼プラント内において回収され燃料として消費されている。
形を変える都 度 3 割 程 度 のエネ ル ギーロスが生じるため、水 素
②の改質については、製油所やアンモニアプラントの操業の一環
は割高なエネルギーとなる宿命を持つ。
「天然ガスや、一度作っ
で生産されているものを、本業のプラントの稼働と関係なく稼働・
た電 力をわざわざ水 素に変 換する手 間をかける理 由は何か」と
増産することで所外へ供給することが考えられる。また③の電気
いう問いに答えられるだけの価値を提供できるビジネスモデル
分解に基づく水素の大規模な供給は、今後再生可能エネルギー
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瓜生田 義貴(うりうだ・よしたか)
yoshitaka.uriuda@
strategyand.jp.pwc.com
Strategy& 東京オフィスのマネージャー。
エネルギー・製造業を中心とした幅 広
いクライアントに対する海外進出戦略、
中 期 経 営 計 画 策 定 などの 戦 略 策 定
および実行支援のプロジェクトを手掛
ける。
図表1 : 水素のサプライチェーン
水素製造
貯蔵
輸送・配給
消費
原料・発生場所
用途
利用者
国内or海外
コークス
ガス
(製鉄)
水素ステーション・
燃料電池自動車
副生
ガス
液化/
メチル化
OR
天然ガス
(製油所、
プラント)
改質
(・ガス化)
OR
電力・水
(主に風力・
太陽光発電所)
家庭
ローリー
貯蔵
需給調整
船
気化/
脱水素化
定置用燃料電池
家庭・事業者
OR
大規模火力
電力会社
ガス会社
パイプ
ライン
大手自家発
工場・ビル
電解
都市ガス添加
家庭・事業者
出所 : 各種資料よりStrategy&分析
由来の電力で水を電気分解することが考えられている。これらを
始 めたように、現 在 世 界 の 未 利 用 の エネ ル ギ ー 源 を 有 効 活 用
合計することで国内での現状の水素供給可能量としては、幾つか
する手 段として水 素は重 要な輸 送 媒 体 の 候 補となり得る。まさ
の推計方法の違いはあれ、およそ 100 億 m3は供給可能との見方
に L N G と同 様にして 、海 外 で 生 産した 水 素 を 液 体 の 状 態 で日
が多い。なお水素が炭素を出さないクリーンなエネルギーという
本に輸 入 する動きも 千 代 田 化 工や 川 崎 重 工 などによって 提 案
のは需要時の話であり、②においては二酸化炭素貯留( CCS )など
されており、川 崎 市においては 2 0 1 7 年を目 途に小 規 模 な 輸 入
で地中固定するなどの方法以外は水素生産のために炭素が排出
実証試験の実施が予定されている。
される。
一 方 、海 外 ではより大 規 模 な 水 素 供 給 が 、より安 価に行 える
需要側の事情:
可能性を秘めている。パタゴニアやゴビ砂漠等で年を通して吹い
当面の FCVや中長期的な FCV
ている風 のエネルギーは地 球 の 全 電 力 需 要 の 7 倍にも達する。
いずれに向けても供給コスト低減が必要
また、褐 炭というそ のままでは発 電に利 用 することができな い
低品位の石炭も、水素に形を変えることで発電に使用することが
需 要 側 の 事 情 で 言 えば 、
「 水 素 でなければならな い 」エネ ル
可 能である。石 油 掘 削とともに産 出され、かつては「 無 価 値 」と
ギー関連のアプリケーションは実はそう多くない。大半のものは
して 捨 てられて い た 天 然ガスを日 本 が 液 化 輸 入し有 効 活 用 を
ほかのエネルギー源を既に経済合理性を持って使用しており、水素
S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 5 2 0 1 5 A u t u m n
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の重量エネルギー密度の高さという特徴を最大限有効活用でき
技術上も制度上も実施可能であるが、体積当たりの熱量が水素
るアプリケーションは、重 量がシビアに問われるロケットの 上 段
の 混 入により低 下し熱 量 調 整が必 要になるという短 所がある。
エンジン程度である。
ドイツでは、実際に余剰電力を水素化し、ガス管網へ貯蔵の一手段
よって、既存のエネルギーを代替できるかは、必要となるイン
として混 入するエネルギー 会 社も存 在するが、日本においては
フラ整備や機器改修コストも含め水素価格がいくらなら需要家
現状電力とガスの間をまたいで経済的インセンティブを見出す
がスイッチし得るかにかかっている。以 下では各アプリケーショ
活動は実施しづらい。
ン毎にそのスイッチ価格及び必要水素量がどの程度かを見て行
きたい。前提として CO2 削 減 効 果による水 素 へ のプラス効 果や
発電
補助金はなく、港の水揚 CIF30 円(現時点で海外水素輸入各社
まず産業用ガスエンジンや発電用ガスタービンは、実現すれば
が中期的な目標とする値)を前提としたい。
水 素 の 大 量 消 費を実 現 するアプリケーションで ある。たとえば
東 京 湾 岸 の天然ガス発電所に 5 ∼ 10% 程度混焼させることで、
自動車
FCV 自動車と同等以上の需要が見込まれる。熱量等価で言えば、
昨 今 最も注 目されている当 面 のアプリケーションだが、ハイ
石油との等価は現在既に視野に入るものの、天然ガスや石炭と
ブリッド 自 動 車 の ガソリンと 同 等 の 競 争 力 と な るに は 、水 素
等価になるには大幅な CIFコストの低下が必要なため、採算性が
1 N m3 あたり数 十 円 程 度 低 下し1Nm 3 あたり110 円程度となる
シビアに問われるようになった電力会社からすると、既存設備を
ことが必 要である。既に水 素ステーションの 一 般 向け水 素 販 売
改修または新設するだけの経済的インセンティブをなかなか持ち
価 格 は 事 業 者 負 担 の 下この 数 字 を 達 成 済 で あるが 、持 続 的な
にくい 。天 然ガスと価 格 競 争 力を持 た せるためには 、スケ ー ル
事業活動とするには調達コストダウンが必要となる。その際、水素
効果を利用するための輸入ボリュームの大型化や炭素税の導入、
の原料コストに加え、国内でのエネルギー輸送コストが重要とな
加えて CCS などの技術開発が条件となるだろう。さらに、本格的
る。一方ボリュームの面では 2025 年の FCV200 万台という政府
な実現を検討する際には電源構成(ベース・ミドル・ピーク比率)と
目標が達成されても、水素のボリュームの面では小さい上、車両
その中でのエネルギー源の選択(発電方式)の双方がかかわり、
価格、燃料価格、充填インフラの整備の点で既存のガソリン自動車
10年以上の単位で前もって計画する必要がある。
や P HE V 、E V に比 べ FCV がハンデを有する。また、そもそ も の
次に電力を水素の形で貯蔵するという手段も存在する。現在
FCV 販売台数の目標達成も容易ではなく、FCV 事業は自立して
太陽光発電や風力発電と合わせて、送電網が吸収困難な再生可能
立ち上がっていない(参考までに車両価格が FCV の半分で既 存
エネルギーの出力変動など送配電網をバッファーするために電池
のガソリンステーションが使用可能なハイブリッド自動車でさえ
をシステムに組 み 入 れることが想 定されている。そこで電 池 の
も 200 万台の普及には 10 年以上の年月を要した)。
代わりに水素を利用すれば大規模かつ長期の電力保存が可能と
なる
(※前章「電力貯蔵による電力システムの柔軟性確保」参照)。
都市ガス混入
都市ガスに水素を混ぜて家庭での燃焼に使用する用途も考え
以上各種用途および、本稿外の各種分析・推計を踏まえると、
られる。現在の都市ガスへと移行する前の家庭用ガスには水素が
自動車→貯蔵→発電→都市ガス混入の順に受け入れがしやすい
含まれていたことを考えても既存インフラへも 5% 程度であれば
のではないかと考えられる。ただし水素のコストダウンに向けて
24
S t r a t e g y & F o r e s i g h t Vo l . 5 2 0 1 5 A u t u m n
図表 2 : 2050 年の水素需給 @CIF30 円 /Nm3 の想定(単位:億 Nm3)
余剰再エネ活用
(蓄エネ・系統強化も)
都市ガス
混入
水素需要者
(誰が利用
するか)
発電
(大規模)
2030~
発電
(コジェネ)
2030~
FCV
余剰生産能力=100
(FCV 800万台分に
相当)
2035~?
800万台以上は輸入水素を利用
100
産業用
円/Nm³
180
副生
改質・
ガス化
電解
副生
改質・
ガス化
電解
約30
60
約70
N/A
約30
約35
国内由来水素
海外由来水素
水素供給源(どのように作るか)
出所 : 各種資料よりStrategy&分析
できる努 力は海 外からの 大 規 模 輸 入がメインであり、それ以 外
どのようなマッチングが想定されるか?
はいずれも炭素税などの排出削減に関する何らかのペナルティ
あり得る今後の展開シナリオ
が存在しないと経済的には手放しで水素利用の普及が進む状態
にはないと考えられる。
上記の国内外の各製造法による供給量、および各アプリケー
ション毎での需要量・受入可能価格を考えると、日本において将来
的にあり得る供 給・需 要マッチングは図 表 2 のようになると想 定
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される。図 表 の 縦 軸に用 途 、横 軸には国 内 外での 製 造 法が対 応
送電線の建設が困難など
しており、長方形の面積は一定の仮定を置いた際のおおよその
水素需要量の大きさ(単位:億 Nm 3 )を示している。
既に走り出しているFCV は数百万台程度までは国内産の水素
によって賄うことができるが、それ以上の自動車への利用や発電
用途の水素利用はボリューム面からも需要家の受入れ可能な価格
面からも海外から輸入される水素を利用する必要が生じることが
( 2 )水素が既存エネルギーに対し価格優位を持ち得る環境がある
• 安価な水素源へのアクセスが存在する(安価な褐炭、太陽
光、風力、地熱)
• 既 存 のエネルギー 価 格が割 高 、又は炭 素 税 等で今 後さら
に割高となり得る
わかる。この海外水素導入へのジャンプが実現できるかが、水素
が持続的に使用できるかの今後の大きな分かれ目となる。
導入の順序はどのようになるだろうか? 一つの理想的なシナ
( 3 )そ の ほかのプレミアム価 格を払う用 意が需 要 家にある( 環
境価値、調達分散、等)
リオとしては、短期的に見るとFCV での水素利用が徐々に進み、
一 部 で 水 素による電 力 貯 蔵 の 利 用( 送 電 線 敷 設 の 代 替 )など、
この条件に当てはまるのは原発停止・抑制中の日本・
ドイツや、
別 の 用 途も生じさせることである。中 長 期 的に見ると海 外から
世界一厳しい環境規制を有するカリフォルニアが筆頭に挙げら
大規模輸入により安価かつ大量の水素がまず沿岸部の大需要家
れ、おそらく局所的にはほかの国・地域もあると思われる。いずれ
(発電、石油精製、鉄鋼等)に向けて導入され、それを核に内陸部
にせよ、水 素 エネ ル ギ ー が 成 立 するためには「 場 所・用 途・タイ
でも各アプリケーションでの水素導入を 実 現 さ せ 、加 えて F C V
ミングを選ぶ」ことが重要である。
向け利用もさらに進む、ということである。
ただしこのシナリオは日本全体で均一に起きるわけではなく、
不確定なシナリオを考える意義:
段 階 的に地 域( 場 所・地 形 )を選 ぶ 形 で 進 展 すると考えられる。
企業・自治体・国への示唆
例えば、水素利用需要家の多い沿岸部の工業地帯周辺がエリア
限定での水素化に有望であろうし、内陸部での FCV 用のステー
国 内 産 水 素を利 用した F C V( 自 動 車・バス)の 需 要 量 は 当 面
ションもまた需要密度の高い都市部や高速・主要幹線道路中心に
小さく、それだけでは水素利用の拡大は遅い可能性が高い。水素
整備が進む可能性が高い。また貯蔵との兼ね合いで言えば再生
が日本のエネルギー業界の中で一定の規模を占めることができ
可能エネルギーの余剰を多く有する北海道や東北、九州地方等が
るようになるためには、発 電 へ の 導 入 および炭 素 税 等 の 後押し
導入先として有望と考えられる。
も含めた海 外からの 大 規 模 輸 入による安 価 な 水 素 入 手を実 現
これは世 界においても共 通であり、水 素 事 業が向く国・地 域 、
することが 必 要となる。最後に企業・自治体・国にとっての示唆を
向かない国・地域が存在する。状況は国により異なるが共通して
まとめた。
必要なのは下記であろう。
• 企 業:大 き な 新 規 事 業 機 会 が 創 出 さ れる。海 外 から の 輸 入
チェーンの確立にむけて商社、金融機関、エンジニアリング会
( 1 )エネルギー・環境面で何らかの厳しい制約が存在する
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社は上流・中流・下流において長期の輸入事業の恩恵を享受し
• 制度上の制約:原発の制限・停止、強力なCO 2削減目標など
得るし、メーカーも燃料電池自動車(とそのコンポーネント)、
• 自然条件上での制約 : 国内資源が限定的、パイプラインや
水素ステーション、水素発電ガスタービン、配管等の水素対応
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機 器・部 材・素 材 などの 新 た な 需 要 が 増 加 する。発 電 会 社 に
とってみても更新時期にある老朽化力の代替候補として水素
混焼も低炭素実現の検討の候補となり得る。
• 自治体:産業育成の観点で水素を活用できる可能性も存在する。
豊富な自然エネルギーが存在する自治体においては、そのポテ
ンシャルをフルに活用すべく水素による電力貯蔵と組み合わせ
ながら風力・太陽光発電を導入し、大規模な売電を可能にする。
• 国:グロ ー バ ル で の 排 出 規 制 合 意 を 達 成 するた め の 一 つ の
大きな要素として水素を利用し得る上、新たな産業創造の選択
肢になる。またエネルギーの安全保障上からも調達先の分散へ
と寄与する。
本 稿 で 提 示したシナリオが 実 現 するかはまだ 不 確 定 要 素 が
大きい 。しかしシナリオプランニングの 分 野においてはまさに、
不 確 定であるが、実 際に起きた場 合にインパクトが高 い 事 象を
通 常 特 に 重 点 的 に 検 討 する必 要 が ある。企 業・自 治 体・国 等 の
関係者はシナリオが現実味を帯びた段階でどのように自分たち
が事業機会を有効活用すべきか、個別に又は共同であらかじめ
検討することが重要であると考えられる。
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Media highlights
最新レポートの
ご案内
「第11回グローバル・イノベーション調査」
Strategy& は 2015 年 10 月、研究開発に最も多額の費用を投入した世界の上場企業のトップ
1,000 社を対象とした第 11 回グローバル・イノベーション調査結果を発表しました。R&D 支出ラン
キングで世界の上位 5 社は昨年と同じで、日本企業はトヨタが 8 位、ホンダが 21 位、日産が 31 位と
なりました。日本 企 業 は 1 8 1 社 がトップ 1 , 0 0 0 社 にランクイン、その R & D 支 出 は 合 計 1 , 0 9 3
億米ドルで、米国に次いで第 2 位でしたが、R&D 支出額、ランクイン企業数ともに昨年比で減少
していました。R&D 支出や売上高の推移、
グローバル展開など、詳細は弊社ウェブサイトのプレス
リリースページよりご覧いただけます( http://www.strategyand.pwc.com/jp/home/media/
media-releases )。
2015 年調査 R&D 支出額 トップ 5 企業
2015
順位
社名
本社
所在地域
業種
2015年調査
R&D支出
(10億ドル)
対売上高
R&D支出比率
(%)
1
フォルクスワーゲン
欧州
自動車
15.3
5.7
2
サムスン
アジア
コンピュータ・エレクトロニクス
14.1
7.2
3
インテル
北米
コンピュータ・エレクトロニクス
11.5
20.6
4
マイクロソフト
北米
ソフトウエア・インターネット
11.4
13.1
5
ロシュ
欧州
ヘルスケア
10.8
20.8
8
トヨタ自動車
日本
自動車
9.2
3.7
21
本田技研工業
日本
自動車
5.5
4.5
31
日産自動車
日本
自動車
4.6
4.4
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