Jipanews-29 - 公益財団法人 国民工業振興会

新 素 材 ・ 新 技 術 研 究 会
環境・安全・品質マネージメント研究会
情 報 技 術 ・ マルチメデイア 研究会
No.29 March /2012
巻頭言
/2005
SESepAug./2003
春を迎えて思うこと
専務理事
吉武進也
今年も早や、春を迎える季節となって来ました、春と言えば、桜の花の開花が目
安になっております。
毎年、桜の咲くこの時期に「桜まつり」が桜の名所、紀尾井坂のホテルニューオ
ータニで、ここの所,盛大に開催されております。
これは、戦前に現在の中華人民共和国の大連に住んでおられた方々が、戦後の進
駐して来たソ連軍の暴挙により、日本への帰国が遅れ、辛酸をなめたことにより、
故郷日本の桜が恋しかったことによると思う。
芭蕉も「さまざまの事をおもいだす桜哉」
、西行法師は「願わくは花の下に春死な
ん、そのきさらぎの望月のころ」
、昔から「花は桜、人は武士」と言う言葉あるよう
に花は桜のイメージは、日本で定着しているのです。
残留された日本の方々も、日々、故郷日本の桜を思い出し早く、「桜まつり」をしたい思いに駆られ
ておられたのでしょう。
戦後、大連から帰国して、既に 60 数年になりますが、毎年の「桜まつり」は、皆様の憩いの場であり
、苦難を乗り越えた希望の場となっております。
「桜まつり」も大連から引き上げられた方が多く居られる福岡市、岡山市、大阪市、名古屋市など多
くの都市で開催され、日本各地の桜を鑑賞すると共に交流を深めていったのです。
しかし、高齢化は、やむを得ず、近年は、東京で開催され、参加人数も年々減少して寂しさを加えて
おります。
ただ、お子さんと同伴で来られる方がおられ、お子さん方々が現在の大連訪問旅行を希望されるの嬉
しいことです。
戦中戦後に帰国がかなわず、異国に地で、故郷日本の桜の花を思い、見ずに亡くなれた多くの方に心か
らご冥福をお祈りするや切です。
財団法人 溶接接合工学振興会
財団法人 国民工業振興会 共催
平成 23 年度総会:特別講演
日時
平成 23 年 5 月 25 日 15:00~19:50
場所 ニューオータニイン東京 おおとりの間
1. 平成 22 年度 木原賞・金澤賞
平成 22 年度の木原賞・金澤賞の受賞者及び受賞内容は下記の通り。
木原賞、金澤賞受賞者及び講演題目
賞名
受賞者氏名(会社名)
業績
加茂孝浩氏
溶接性に優れた海洋資源・エネルギー開発
木原賞
(住友金属工業株式会社)
用極厚鋼板の開発・実用化
大岩直貴氏
ジェットエンジン部品など非鉄金属材料の
(株式会社 IHI)
接合技術の研究開発
中村照美氏
純 Ar シールドガス中で消耗電極式溶接を
(独立行政法人物質・
可能とするハイブリッド溶接ワイヤの開発
金澤賞
材料研究機構)
と純 Ar- GMA 溶接システムの実用化
野瀬哲郎氏
溶接構造物に対する疲労トータルソリュー
(新日本製鉄株式会社)
ションの構築
年 12 月 11 日
Jul/2002
JJul/2002
1
野本理事長ご挨拶
(前列左から)加茂氏、大岩氏、中村氏、野瀬氏
木原賞・金澤賞受賞者
2.平成 23 年度 総会特別講演
「鉄鋼業における CAE 活用の現状; エネルギー・自動車分野」
住友金属テクノロジー株式会社 代表取締役社長
社団法人溶接学会 会長
高 隆夫氏
エネルギー分野、自動車分野の各種例について、鉄鋼会社から見た
CAE(Computer-aided Engineering)の適用例について動画を用いて解説された。
エネルギー分野では、鋼管の各種塑性加工、ラインパイプ鋼管の高速延性破壊試
験、油井管のねじ継手、エアコン室外機等の落下例、自動車分野では自動車の衝突
安全性評価、ホイールの設計・成型、スポット溶接、クランク軸鍛造の熱処理例に
ついて解説された。以下にそれぞれの概要を示す。
1)シームレス鋼管の各種塑性加工
シームレス鋼管製作時にビレットにマンドレルを挿入する穿孔作業、圧延、矯正スピニング例が動画
で示された。ピアサー(穿孔圧延機)による穿孔状況の CAE、マンドリル圧延の CAE、冷間ピルガー圧延
の CAE、
鋼管矯正(パイプを真っ直ぐにする工程)の CAE、
鋼管のスピニング加工例がそれぞれ示された。
これらの作業について、平板と同様に、三次元加工がコンピューター上でのシミュレーション可能であ
る。
2)ラインパイプ鋼管の高速延性破壊試験
住友金属のバースト試験設備によりパイプの破壊挙動を観察した例を説明された。ガスバースト試験
について、高速カメラによる映像と 3 次元のコンピューターシミュレイションにより破壊の様子が示さ
れた。実験では 1 週間位かかるものが、コンピューター上では何回も試験が可能である。さらに、長尺
実管によるバースト試験をイタリアのサルディニア島にある軍事施設に依頼して実施した例を示された。
また、
実管バースト試験の CAE により破壊は材料靱性を変えることにより停止することが実証された。
3)油井管ねじ継手
油井管(石油、天然ガスの掘削に使う鋼管)は、ねじ接ぎ手で次々と継ぎ足しながら深部まで掘り下げ
ていくが、4000m 以上の深井戸で、硫化水素を含む酸性環境で掘り進むことがある。10~20m 長さのパ
イプを洋上でねじで繋いで掘り下げていくが、この場合、地圧による圧縮荷重、引張荷重、曲げ荷重等
の全重量をねじ接ぎ手で支えている。このねじのテストは、ISO13679-2002(石油と天然ガス産業-管接
続のため試験手順)による試験でシミュレーションしている。火気で引火する問題があり、ねじ接ぎ手が
現状では主流であるが、シールの完全な火気に問題のない溶接が可能になると後世に残る技術になると
考えられる。
4)エアコン室外機等の落下シミュレーション
物流でエアコンを運搬する場合に落下させるような場合が想定されるので、室外機の落下による衝撃
のシミュレーションを実施している。また、複写機のシミュレーション等を実施しており、鉄鋼会社も
このような試験を実施している例である。
5)自動車の衝突安全性評価
自動車の衝突安全性の評価のための試験を実施している。2005 年に完成した新落錘試験設備は地上高
2
さ 45m で、車本体を持ち上げ高さの調整で各種の速度で落下させることができる。また、横からの衝
突を模した側面の衝撃強さを確認する試験も可能である。これらは、鉄鋼素材の性能を最大限に引き出
すための最適形状の開発を高能率で実施するためのものである。
本装置は、バンパーとボディフレームの間に位置する衝突エネルギー吸収部材であり、自動車の構造
を守るクラッシュボックスの構造開発にも活用されている。新しい画期的なジャバラ構造のクラッシュ
ボックスの構造開発にもコンピューターシュミレーションが活用されており、斜め方向からの衝撃に対
しても良好な、従来方式とは異なった新構造のクラッシュボックスが開発されている。
6)ホイールの設計・成型
アルミ材の自動車ホイールのロール成形、タイヤが縁石に乗り上げた時の変形をコンピューター上で
シュミレーションしており、材料の溶接、ロール成形等でのホイールのコンピューター解析が可能とな
っている。
7)スポット溶接
スポット溶接では、その溶接経過時に熱的現象、電気的現象、力学的現象、冶金的現象が複雑に絡み
合っており、複雑な錬成解析手法が必要である。表面処理鋼板によるスポット継手の破壊予測を CAE
により評価している。スポット溶接部の各部の性能を調査し、スポット継ぎ手の破壊予測が可能となっ
た。
8)クランク軸鍛造の熱処理の CAE 適用例
自動車用のクランク軸の鍛造、高周波焼き入れ等についての CAE 事例を説明された。
9)その他
ハイブリッド専用モーター、リターダー(永久磁石式補助ブレーキ)についても、モーターの性能評価
に CAE が活用されている。
以上各種の事例について、動画による CAE 事例を紹介され、いずれもきわめて珍しい事例であり、
大変興味深い講演であつた。この 20~30 年のコンピューターの能力向上により、CAE の専門のメーカ
ーでない鉄鋼メーカーでもいろいろな解析に活用している。材料特性の詳細を熟知する素材メーカーが
このような試験を実施することに重要な意義があることを強調された。
総会風景
3.懇親会
吉武専務理事
(司会)
宮田名大副総長
(開会挨拶)
馬場産報社長
(乾杯)
3
青山東大教授
(閉会挨拶)
小川和博様
住友金属工業(株)
結城正弘様
(株)IHI
津崎兼彰様
(独)物質・材料研究機構
川崎博史様
新日鐵(株)
木原賞・金澤賞受賞者の上司挨拶
財団法人 国民工業振興会
平成 23 年度第 1 回理事会・評議員会 講演
日時; 平成 23 年 6 月 2 日(木) 11:00~12:00
場所;
ニューオータニイン東京 4 階「ももきりの間」
演題 「最近の鉄鋼技術をめぐる産学の状況」
(社)日本鉄鋼協会専務理事
小島彰氏
日本の鉄鋼業及び(社)日本鉄鋼協会の現状について詳細な資料で説明された。
日本を支えるものづくりの比率は、
GDP 産業別構成比からは製造業 23%、
建設業 5%で合計 28%に達しており、ほぼ 1/3 がものづくりに関係してい
ると言える。平成 20 年の統計からは、工業製品の内、鉄鋼・非鉄の出荷
額は、総額の約 10%の 34 兆円で、鉄鋼と非鉄金属の比率は 2 対 1 であり、
これに金属製品を加えた広義の金属材料では、ほぼ 50 兆円に達している。
世界の粗鋼生産は、21 世紀に入って急増しており、これは中国が伸びた
ことによる。経済レベルと鋼材消費には関連があり、景気が良くなると鉄
鋼需要が増加する傾向が見られる。鉄鋼需要が多い理由としては、鋼材価格が安いことが挙げられ、5
~10 円/100gr 程度であるのに対して、例えば、チタンでは 1000 円/100gr に達する。
今後の日本社会の発展基盤である鉄鋼技術については、ユーザー産業の国際競争力を左右するもの(先
進ハイテン材料、特殊鋼)、安心安全、低コストな社会インフラ整備(耐震性構造物、耐蝕材料)、エネル
ギーの開発、供給、変換(シームレスパイプ、太径管、耐熱鋼、電磁鋼板、水素材料)、エネルギー・資
源制約への対応(石炭利用技術、鉄鋼関連元素戦略技術、高機能鋼材利用)、環境対応技術(低 CO2 精錬
技術(13%が鉄鋼から発生)、副生物利用技術、環境処理技術、高機能鋼材利用)等がある。
鉄鋼業の工学的特質としては、1)バラツキのある自然材料から安定した工業製品を生産(プロセスの対
応力)、2)精錬、溶解、凝固、圧延、熱処理、加工に及ぶ長いプロセス(付加価値の源泉プロセス)、3)ナ
ノスケールからキロスケールまで数桁に及ぶ制御レンジ(マルチスケール工学)、4)材料工学のみならず
機械、電気、化学、土木建築、物理等の幅広い工学分野から構成される(総合工学)、5)幅広いものづく
り産業の基盤を支える材料(幅広い波及効果)、6)製品技術とそれを作り込む生産技術の融合(研究と生産
との融合)がある。
最近の粗鋼生産推移からは、2002 年以降、中国の増産で急激に増加しており、2000 年に世界のトッ
プであった新日鐵は、2009 年には世界第 4 位、2010 年には第 6 位となった。2009 年の鉄鋼生産の内、
輸出は約 3450 万 T で、3 割以上が海外に輸出されている。そのうち韓国には、1000 万トン近くが輸出
されており、高級鋼が日本から輸出されて先方の産業を支えている。
日本の鉄鋼業の課題としては、1)地球環境問題(CO2 改善)、2)原料の高騰、3)グローバル大競争と業
界再編、4)競争力の源である高度技術開発、5)人材確保等がある。
4
鉄鋼業の地球環境対策としては、自主行動計画として、生産工程での CO2 削減、製品・副産物によ
る貢献(高機能鋼材供給、スラグ活用、廃プラスチックの有効活用)、国際貢献(技術移転、製品活用、ス
ラグ活用)、民生・業務・運輸における取組の強化等がある。
鉄鋼業の環境対策としての COURSE50 計画は、CO2 排出の抑制と、CO2 の分離・回収により、CO2
排出量を約 30%削減する技術を開発するもので、2030 年頃までに技術を確立し、2050 年までの実用化・
普及を目指している。この技術開発のステップ 1(2008~2012 年度)は NEDO の「環境調和型製鉄プロ
セス技術開発」として正式に採択された。
日本の製鉄原料の輸入先の寡占化が進んでおり、グレードの低いものを如何にうまく使うかがポイン
トである。
鉄鋼業の技術面として、大河内賞の受賞件数で見ると、全期間で受賞件数が第 2 位で、平均 20%を占
めており、技術開発に力を入れていることがわかる。研究開発人員及び研究費は 2003 年に低下してい
たが、その後、重要と考えて増加している。
鉄鋼関係の国家プロジェクトとして、SCOPE21 が 2003 年に終了し、2008 年 5 月に新日本製鐵(株)
大分製鉄所で新設炉に実用化されており、石炭を 350℃に急速加熱し、850℃のコークス炉に導入する
ことで 20%の省エネを達成可能にしたプロセスである。また、高炉スラグ、製鋼スラグによる環境改善
効果が認識され、鉄鋼スラグによる海域環境改善への期待が高まり、磯焼けや温暖化の影響を受ける珊
瑚礁等への対策や、魚業資源回復のための技術として期待されている。
一方、日本鉄鋼協会では、産学連携が大正 4 年から意識されており、学会部門、生産技術部門、総合
企画の 3 本立て組織でユニークな活動をしている。講演大会での研究発表、論文誌への投稿数、金属関
係論文誌インパクトファクター(1 論文当たりの引用回数の平均値)は 0.901 で効果があり、インターネッ
トで無償公開されている。大学等鉄鋼研究者への研究支援も 2.5 億円規模であり、研究助成について 23
年度は 41 件が採択されている。また、人材育成に注力しており、企業人材育成では、鉄鋼工学セミナ
ー(蔵王セミナー)(企業経験 3 年、30 歳前後の若手研究者の 1 週間程度の強化合宿)の他、鉄鋼工学セミ
ナー専科、鉄鋼工学アドバンスドセミナー、技術講座(西山記念技術講座、白石記念技術講座)を開催し
ている。鉄鋼工学セミナー参加者の推移では、参加者はほぼ 300 人弱で推移しており、韓国からの受講
生も来ている。学生人材育成については、学生鉄鋼セミナー(2 泊 3 日の合宿コース)、学生鉄鋼セミナ
ー(製鉄所見学コース)、大学特別講義(今年から拡充)、材料分野の JABEE 幹事学協会等がある。
産学人材パートナーシップ材料分科会報告書(2008)によると、材料系企業が期待する大卒人材像とし
ては、各種の基礎学力、専攻分野の専門学力、課題発見・解決能力、状況把握能力、コミュニケーショ
ン能力、リーダーシップ、技術系マネジメントが期待されている。
鉄鋼業での工学人材として、住友金属工業の学科別採用比率例では、材料系が 29%で、機械、電気、
土木・建築等の生産系の採用が多い。鉄鋼関係企業 17 社の採用状況でも、研究開発が 32%であるのに
対して、生産操業が 46%で多い。
最後に、大学教育でのプラス効用として、専門科目の講義、卒論・修論・博論などの研究が挙げられ、
反省としてもっと勉強しておけば良かった専門科目としては、熱力学、材料力学、流体力学が挙げられ
ている。
諸外国との比較では、アーヘン工大では、縦割りの 9 学部と横断的な 6 研究フォーラムの分野横断教
育が行われており、また、小・中学校、高校、父兄への積極的な PR 活動の結果、金属、材料科学科入
学生が増加している。浦項工科大学では、1995 年に金属系大学院を強化し、2005 年から国際的に著名
な教授陣を迎えている。
このような諸外国の先進的、着実な取組にも注力し、我が国鉄鋼技術の競争力強化に資する新たな産
学連携体制の構築が急務であると結論されている。
5
摩擦攪拌接合の現状と今後の展望
財団法人溶接接合工学振興会 第 22 回セミナー
平成 23 年 10 月 26 日(水)13:00~19:10
開催場所 日本精工(株)3F 講堂
ニューオータニイン東京おおとりの間
主催 (財)溶接接合工学振興会
共催 (財)国民工業振興会
後援 (社)溶接学会、(社)日本溶接協会、
(社)日本高圧力技術協会
開会挨拶
司会
東京大学名誉教授
野本敏治氏
東北大学大学院工学研究科 粉川博之氏
野本東大名誉教授
粉川東北大教授
1)講演会開催主旨説明
東北大学大学院工学研究科
粉川博之氏
今回の講演会の企画・講演司会を担当された東北大粉川教授から、今回の講演会
の開催主旨の説明があった。摩擦攪拌接合(FSW)は、1991 年 12 月に英国溶接研究
所のグレン・トーマスにより開発された接合法で、今年の 12 月で開発されて丁度
20 年となる。溶接技術としては、プロセスそのものは大変単純で、回転ツールを回
転させて接合材に押しつけ、
材料を軟化させ、塑性流動により接合する方法である。
アーク溶接が難しいアルミ合金に適用されて瞬く間に発展しており、マグネシュー
ム合金、銅合金にも適用されている。最近では、鉄鋼材料、Ni 合金、Ti 合金への
適用も検討されており、
摩擦攪拌点接合、
摩擦攪拌プロセシングにも発展している。
本講演会では、摩擦攪拌溶接法の基礎、鐵道車両、宇宙・航空機への適用、継手性能の向上、摩擦攪拌
点接合法(FSSW)の基礎、自動車ボデー接合への適用、摩擦攪拌溶接の展望について講演があり、更に、
コメンテータからは、摩擦攪拌接合のアルミニウム橋への適用、銅合金への適用、特許問題、摩擦攪拌
接合の国際規格について報告された。
2)摩擦攪拌接合の基礎
大阪大学大学院工学研究科
藤井英俊氏
摩擦攪拌接合(FSW)のツールは、ショルダ部と先端のプローブ部から構成され、
プローブ部を材料中に押し入れ、接合面に沿って移動させ、材料は固体の状態を維
持しながら、ツールによる塑性流動と温度上昇により攪拌部内で再結晶させて接合
を行う。本溶接法の英国特許は、2015 年まで有効である。
摩擦攪拌接合は、溶接部表面が美しく変形が少ないこと、スパッタが発生しない
こと、ジールドガスが不要であること、入熱量が少ないこと、結晶が微細化し高強
度化が可能であること等の特徴がある。継ぎ手形状としては、隅肉溶接がやや難し
いが、新技術が開発されている。主な接合パラメータとしては、ツール回転速度、
接合速度、荷重、ツール形状等があり、入熱量と接合条件の関係式が求められている。6000 系アルミ合
金の場合の接合適正条件が求められており、5000 系他の合金よりも広い範囲が得られている。接合欠陥
は、入熱不足、入熱過剰、塑性流動異常等で発生している。接合部の機械的性質等についても説明され
た。
摩擦攪拌接合は、優れた特徴を持つ溶接法であり次の様に纏められている。1)攪拌部、熱加工影響部、
6
熱影響部からなる接合部が微細化されるので母材より高強度化の可能性がある。 2)接合部は、動的再
結晶組織で転移が少ない。 3)入熱量は、ショルダー径の 3 乗、回転速度に比例、接合速度に反比例する。
4)接合のしやすさは、接合温度における材料の塑性流動生で決まり、材料の強度などから推定できる。
5)欠陥は、入熱不足、入熱過剰、塑性流動異常等で発生する。 6)入熱が多いと結晶粗大化、入熱がすく
ないと欠陥が発生するため、最高の継ぎ手強度を示す条件範囲が存在する。 7)熱処理系合金は熱処理に
より強度の回復が可能である。
3)摩擦攪拌接合の適用(1)鉄道車両
(株)日立製作所
江角昌邦氏
鉄道車両は、その強度、軽量化、施工性等から歴史的に木製から鋼製、SUS304
ステンレス製、更にアルミ合金製へと変化し、その構造も中空押出型材を使用した
ダブルスキン構体へと進化してきた。このアルミ車体構体の溶接に積極的に FSW
が適用されている。FSW の適用により、接合ひずみが減少、表面の仕上げが非常
にスムーズになり完成精度が向上する。又、溶加材を使用しないので、材質の異な
る溶加材が表面に模様を付けることもなく、一体感のある綺麗な仕上げとすること
が出来る。
摩擦拡散接合は、
機械的なプロセスであり、
アーク溶接の場合の不安定現象がなく、
作業者の技量にも依存しないため極めて安定した接合部を得ることが出来る。また、
作業環境が清潔であることも大きな特徴である。
日立製作所では、ダブルスキン構体のアルミ車両(A-train)に摩擦拡散接合を積極的に適用している。
ビード表面には回転ツールの痕跡が観察されるが、アーク溶接とは異なり、均質な微細化された組織と
なり、高精度で見栄えの良い綺麗な構体を得る事が出来ている。
摩擦攪拌接合部の非破壊検査では、斜角超音波探傷試験により安定した検査を実施している。これら
の技術の適用により、摩擦攪拌接合を適用した車両は拡大中であり、2011.3 月時点で約 2,900 両を達成
している。
4)摩擦攪拌接合の適用(2)宇宙・航空機
三菱重工業(株)
佐藤広明氏
昨年度の第 21 回溶接セミナーで、
「H-2B ロケットの推進薬タンクに適用した
FSW に関わる開発の経緯」と題して、ロケットについて講演しているので、今回
は、主に航空機分野の摩擦攪拌接合について講演された。
航空機宇宙分野での摩擦攪拌接合の適用では、溶融溶接が不可能な航空機用高強
度アルミニウム合金(7000/2000 系)の接合が可能であることが最大のメリットであ
る。材料を溶かさないので欠陥の無い接合が可能で、高品質で、母材並みの疲労強
度が得られる。また、組立工程の自動化を図る事が出来る。
航空機とロケット構造に対する性能要求の違いは、航空機では従来リベット組立
であり、運用期間が 40 年以上、疲労強度、耐食性が要求されるので構造様式の見直しが必要であるの
に対して、ロケット(燃料タンク)では、機密性維持のため、TIG、プラズマ溶接組立が採用されており、
工法の変更のみで対応可能である。
航空機への摩擦攪拌接合の適用については、機種により、床構造、胴体主翼構造、胴体パネルの結合
等に適用されている。 小型民間機の重ね継手への適用を前提として、継手部の疲労強度特性、亀裂進展
特性、継手部の耐食性、継手部の検査等について検討を進めている。
突合せ継手部の疲労強度特性は、母材に近い強度特性がえられるが、リップやツールマークは疲労強
度に悪影響を与えるので、
表面仕上げにより母材に近い特性が得られている。
亀裂進展特性に対しては、
残留応力の除去(バーニシング)による接合部の残留応力の制御により亀裂進展特性が改善できる。
継手部の耐食性については、熱影響部が優先的に腐食、異材接合部では腐食に弱い金属が優先的に腐
食され、母材よりも腐食リスクは高いが、接合部を過時効状態にすることで特性の改善が出来る。非破
壊検査としては、超音波検査、渦流検査が実施されている。
以上の検討により技術的には成立するが、摩擦攪拌接合の高速溶接によるコストダウン効果を得るこ
とは困難である。
7
5)摩擦攪拌溶接継手性能の向上
住友軽金属工業(株)
田中 直氏
非熱処理アルミニウムは、摩擦攪拌接合の入熱による影響は受けず、機械的性質
への影響は、ビード表面の凹凸、ビード止端部形状及び再結晶による粒径変化によ
る。ビード形状の中でアンダーカットの影響は、0.2mm 以内にすれば強度への影響
は小さく、攪拌による結晶粒の微細化による硬化の影響は、接合到達温度に依存す
ることが判った。結論として、ビード表面の凹凸、ビード止端部形状及び攪拌によ
る再結晶を制御することにより、機械的性質は向上することが判った。
熱処理アルミニウム合金では、固溶限以上の合金成分を与え、高温で十分に固溶
させた後急冷し、合金成分を過飽和の状態においた後、時間の経過とともに析出硬
化し、機械的性質の向上した合金となる。最高到達温度を低下させるために、ショルダー径の低下、回
転数低下、接合速度の向上を検討し、又、過時効温度での保持時間を短くする検討を実施した結果、最
低硬さ、引張強さも向上している。この場合は、形状制御に加えて、到達温度、接合速度、プロセスを
最適化することにより軟化を抑制できる。
また、耐食性については、耐 SCC 性、耐食性について検討している。
6)摩擦攪拌点溶接の基礎
川崎重工業(株)
藤本光生氏
摩擦攪拌点接合法(FSSW)は、摩擦攪拌現象を利用した重ね継手の点接合法であ
る。接合ツールを回転させ、被接合部材に圧入することで摩擦熱を発生させ材料を
軟化し、移動することなく引き抜き接合を完成させる。
溶接後の継手の引張剪断強さは抵抗スポット溶接と比較して同等の値が得られる。
摩擦攪拌点接合の原理としては、ツールの回転に伴ってまず摩擦熱で材料を軟化
し、プローブの周囲に回転及び軸方向の塑性流動現象を生じて上下の材料を攪拌、
一体化する。この場合、材料は溶融せず固体状態を維持している。
摩擦攪拌点接合による継手の強度特性は、一定のツール加圧力、回転数の場合で
は、ある加圧時間で引張剪断強さが極大値を示すデータが得られている。本方式では、通常のスポット
溶接のように電流の分流がないので、打点間隔を狭くすることが可能である。
接合部に於ける塑性流動は、上板表面の材料が、プローブ周辺で螺旋状に下方に移動し、下端から連
続的に材料が排出され、外側に押し出される現象が観察されている。
分割式のショルダーとプローブで構成される複動式摩擦攪拌点接合も開発されており、本方式では接
合部外観は表裏面ともに平滑で、
ツール圧入した領域で板間界面が消失して接合界面が形成されており、
薄板の接合で使いやすい方法である。
7)自動車ホデー接合への摩擦攪拌点接合の適用
トヨタ自動車(株)
桔梗千明氏
自動車のホデー部品は、軽量化のためアルミ材の採用が拡大している。
アルミ材の新接合法として、自動車のフード、バックドア等の量産部品に摩擦攪
拌点接合を採用、2003 年 8 月に 2 代目プリウスに正式採用し、その後、各種の
主力車種に展開している。
アルミフタ物の接合法として、摩擦攪拌点接合法は、従来の抵抗スポット接合
法、リベット法、TOX 法に比較して、品質信頼性、コスト、外観(見栄え)、強度、
打点速度等の各項目において良好で、強度は抵抗スポット溶接並みであり、自動
車のアルミフタ物の接合に適している。
摩擦間版点接合の自動車ボデーのアルミフタ物への適用に際して、品質保証方
法の立案、品質保証方法の決定、品質基準の決定を行い、全てを満足する「強度、残厚、破断径」を品
質基準として決定している。 品質保証体制の立案(漏れのない品質保証体制とするために FTA(故障の木
解析)を実施し、生産ラインにおける品質保証を FTA をもとに生産ラインにおける検査項目を決定し実
施している内容を詳細に解説された。更に、品質保証のための設備機能開発を実施されている。
摩擦攪拌点接合法の今後の改善にむけて、ツール消耗費低減による接合コストの低減、非破壊検査の
8
導入による破壊検査品廃却のコスト削減等をあげている。
また、自動車ボデー接合における摩擦攪拌点接合の今後の展望としては、当面自動車ボデー接合への
展開は無いと考えている。また、鋼板接合への適用については、抵抗スポット溶接部を単に摩擦攪拌点
接合法に置き換えるだけではコストメリットはないと断じている。
8)摩擦攪拌溶接の展望
東北大学大学院工学研究科
佐藤 裕氏
摩擦攪拌溶接は、種々の鉄鋼への適用の可能性については検討されてはいるが、
未だ汎用技術としては未熟であり、他の代替技術としてはみなされていない。これ
は高性能なツールが未だ存在しない事に起因しているが、近年、各種の新ツールも
開発されて、世界的にも注目されている。鉄鋼の摩擦攪拌接合の要件としては、高
剛性の装置の開発と高温で強度、耐摩耗性が高く、靭性が良好な接合ツールの開発
が必要である。
鉄鋼への摩擦攪拌接合の適用例として、ナイフの製造例他が説明された。
摩擦攪拌プロセッシング(FSP)は、材料の結晶粒を微細化するばかりでなく、回
転ツールによる摩擦加熱と塑性流動により不均一組織を均質化したり、異種金属間では局所領域で合金
反応が生ずることもあり、このような摩擦攪拌により生ずる組織変化を積極的に利用した組織改質技術
を言う。鋳物の改質技術への適用、表面複合化例等が紹介された。
更に、チタン及びチタン合金の摩擦攪拌接合の研究も積極的に行われており、特殊形状ツールや、シ
ョルダー無回転方式の利用が提案されている。また、隅肉溶接例が紹介された。
9)総合討論
座長
大阪大学接合科学研究所
藤井英俊氏
コメンテータ
(1)摩擦攪拌接合のアルミニウム橋への適用
大阪大学大学院工学研究科
大倉一郎氏
アルミニウム合金は、耐食性、軽量性から、最近、歩道橋、拡幅歩行者用アルミ
ニウム床版、道路橋用アルミニウム床版が建設されるようになり、今後長大橋への
適用が期待される。アルミニウム部材の製作においては、摩擦攪拌接合と押出型材
の組合せに移りつつあり、この分野では日本が世界をリードしている。
道路用アルミニウム床版の研究については、既に研究に着手しており、トラック
タイヤの移動載荷疲労試験が行われ、アルミニウム床版の疲労耐久性が高いことが
実証されている。アルミニウム床版の摩擦攪拌接合では、プローブ先端付近のキッ
シングボンド防止のため、両面摩擦攪拌溶接を適用する必要がある。
道路橋用アルミニウム桁については、6000 系アルミニウムの特徴を生かす新しい桁構造が提案されて
いる。この道路橋用アルミニウム床版の公道への設置は 2013 年に予定されている。又、摩擦攪拌溶接
接合を考慮したアルミニウム桁の設計・製作ガイドラインは数年のうちに日本アルミニウム協会から刊
行が予定されている。
(2)特許出願から見た摩擦攪拌接合技術
特許庁
松本公一氏
国際特許分類(IPC)では、摩擦攪拌接合技術は、B23k20/12 に規定されている「熱
が摩擦により発生されるもの(摩擦接合)」にあたる。
日本特許庁独自の特許分類(FI)では、B23K20/12,310 に規定されている「FSW;
摩擦攪拌接合(被接合物以外の第三の物体と被接合物との摩擦発熱により軟化した
被接合物が流動又は変形して接合されるもの)」とされる。
公開データから 1 年半前迄に出願された出願傾向として、1997 以降に日本の特
許出願が増加しており、年間最大 180 件になり、全体では 1,800 件が出願されてい
る。(2011.6.30 現在)
公知文献から見たツール関連出願文献推移、スポット FSW 関連出願公開文献推移を示された。
又、公知文献から見た用途等については、全体を 100 とした比率では、鐵道車両、自動車、航空宇宙、
容器等、電気部品等、熱交換機等の順である。
9
又、審査する上で気になる点として、塑性流動については、具体的にどのような現象か、ピンがない
ツールでも生ずるのか等について疑問を提出された。 又、ワークとツールの相対移動について、単純
に入れ替えるのが容易かどうかについても疑問が提示された。
(3)FSW に関する規格: ISO25239「Friction Stir Welding ―Aluminium―」について
軽金属溶接協会
榎本正敏氏
摩擦攪拌接合(FSW)に関する規格化は、2004 年に始まった。各国で応用特許が出
願され始め、広く産業界への応用をはかるために、国際規格として国際溶接学会
(IIW)が国際標準化機関(ISO)へ送付し、国際規格として発行されることになった。
ISO25239 は、5 部から構成され、Part1 は用語で英国が、Part2 は設計でベルギ
ーが、 Part3 はオペレータの認証試験でスウェーデンが、 Part4 は施工法確認試
験で日本が、 Part5 は品質保証と検査でフランスが原案作成を担当した。現在は、
2011 年 10 月に最後の TC44 の投票段階にある。
本規格は、多くの特許保有権者が存在するため、基本特許を保有している英国
TWI の名が規格本文に掲載され、応用特許を保有している各社(大部分が日本の各社)は ISO のホームペ
ージにその名が掲載されることになっている。規格発行前に、特許を有する各社は特許を有償で使用し
ても差し支え無いことを宣言している。
(4)銅合金の摩擦攪拌接合について
(株)日立製作所日立研究所
平野 聡氏
銅は熱伝導率が大きく、融点も 1000℃以上と比較的高いため、溶融部の確保の観
点からアーク溶接などが難しい材料とされている。一方、銅合金は、鉄鋼と比較し
て低応力で流動するため、摩擦攪拌接合が比較的容易な材料と考えられている。
銅接合の場合、温度伝導率が高いため、ツール近傍で発生した熱が周囲に拡散し
易く、
ツール近傍の材料を局所的に昇温させるためにはより多くの熱が必要となる。
また、変形抵抗を比較するとアルミニウムの約 2 倍であり、塑性変形させるのに大
きな力が必要で、装置やツールの力学的負担が大きくなる。
銅合金への適用例としては、バッキングプレートへの適用とか、キャニスターと
呼ばれる放射性廃棄物格納容器の封止接合に摩擦攪拌接合を応用する開発が行われている。
講演会風景
閉会挨拶
懇親会
司会
開会挨拶
挨拶
乾杯
閉会挨拶
東京大学名誉教授
(財)溶接接合工学振興会専務理事
大阪大学教授
愛知産業(株)社長
(株)産報社長
東京大学教授
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野本敏治氏
吉武進也氏
南二三吉氏
井上裕之氏
馬場 信氏
青山和浩氏
南 阪大教授
井上社長
馬場社長
青山東大教授
吉武専務理事
懇親会挨拶風景
財団法人国民工業振興会 講演会
(第22回情報技術・マルチメジア研究会 例会)
日時 平成24年 2 月28日(火)14:00~16:00
場所:ニューオータニイン東京 4F 「ももきりの間」
講演「スマートフオン・タブレットの最新動向と活用」
オープンラボ横浜代表 田中令子氏
タブレット PC(iPad)を使用して、実演を交えながら、特徴、使用方法、注
意事項その他全般に亘って詳細に説明された。 講演は、3部に分けて、第1部
では、タブレットの概要についてコンピュータとの対比で解説し、第2部では、
実演として iPad の画面をプロジェクターで写して操作の説明し、第3部では、
適用可能な各種のソフトの購入方法も交えて解説された。
スマートフオンについては、インターネットとの親和性が高く、パソコンの機
能をベースとして作られた多機能携帯電話で、電話付の超小型 PC といえるもの
で、携帯電話と比較すると、OS、データ通信速度、ソフトウエアが異なっている。
タブレット PC については、平板状の外形を備えタッチパネル式などの表示・入力部を持った携帯可
能なパーソナルコンピュータをさすもので、ユーザーインターフェース,形状、重さ、OS,ソフトウエ
ア等で PC とは異なっている。更に、具体的に、iPad とノートパソコンとの比較によりその特徴を説明
し、iPad では PC よりも厚さが薄く、重量が軽量化されており、バッテリーの駆動時間も長時間となっ
ていることを説明された。
更に、iPad を例として、本体以外に必要な環境として、初期設定用パソコン、パソコンと同期するた
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めの無料ソフトウエア(iTunes)
、インターネット接続環境、AppleID(iTunes アカウント)等が必要とな
る。また、インターネット接続のために、Wi-Fi ルータ等が必要で、各社から販売されており、それぞ
れ月額料金が決められている。iPad+Wi-Fi モデルと Wi-Hi ルータの組み合わせでインターネット接続
が可能であり、これとは別に公衆無線 RAN 接続のためのアクセスポイントが各所に設けられている。
これらのスマートフォン、タブレット PC の得意分野としては、インターネット(ブラウザ・メール
が標準装備)
、電子メモ、電子書籍(自作可)
、ビデオチャット(無料テレビ電話、国際通話が可能)
、ビ
デオ・写真撮影、音楽・動画鑑賞、映画鑑賞等が可能である。これに対して、不得意な分野としては、
表計算、細かいレイアウトのワープロ作業、プリンター接続、CD-ROM、DVD、USB メモリ等は専用
のアダプタ等を使用する必要がある。また、有線 LAN 接続ができないこと等がある。
タブレット PC の昨年末の世界シエアとしては、iPad が 57%で独走しており、今回の iPad について
の解説は極めてタイミングの良い講演と言える。日本でも現在多くのメーカーから発売されており、そ
れだけ選択肢が広がっている。
第2部として、基本操作のデモンストレイションを行い、ipad の基本的な使い方についてわかりやす
く説明した。
価格 COM にインターネット接続し、価格動向、また、各種の無料・有料のソフトウエアの入手方法
について説明があった。
以上、アイフォン、タブレット PC 利用に際して、基本的に考慮しなければいけない各種の問題点に
ついて詳細な説明があり、今後、活用するうえでの指標が得られた。
講演の中で随所で質疑応答が行われて、更に理解が進んだ。
(財)国民工業振興会講演会
(第 18 回 環境・安全・品質マネジメント研究会 例会)
日時;平成 24 年 3 月 5 日(月)14.00~16:00
場所;ニューオータニイン東京4階「ももきりの間」
講演「最近の商品取引・消費経済の動向」
経済産業省 商務情報政策局商務流通グループ
商取引・消費経済政策課長
石崎 隆氏
日本の商品先物市場は、経済産業省と農林水産省の管轄となっている。これ
は先物取引の内の商品の受け渡しに注目した管轄の方法と言われている。経済
産業省は、日本の商品先物取引市場は過渡期であるとして、健全な発展を目指
して商取引改正法案を国会に提出し、2009 年 7 月 3 日に衆参両院を通過し、
2011 年 1 月 1 日から施行されている。商品先物取引法の法目的は、商品の価
格形成を公正にするとともに、商品の生産及び流通を円滑にし、もって国民生
活の適切な運営に資することである。
我が国の先物取引の発祥は江戸時代の大阪(堂島)の米市場にあり、エネルギ
ーや食糧の自給率の低い我が国では、自由な商品市場がとりわけ重要で、国際
的にも商品相場(石油価格の乱高下や、金の価格の高騰等)は、世界経済(生産活動、消費生活)に大きな影
響を与えている。講演者は、経済産業省で商品先物取引、クレジット取引(後払い取引)、リース取引等
を所管されており、本講演では、このうちの商品先物取引(約束した将来の一定の期日に売り手が商品を
受け渡し、買い手が現金を受け渡す取引)の動向について詳細に解説された。
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商品先物市場は、商品の売買価格を先物取引により決めることにより、将来の商品の売買価格が変動
するリスクを回避できるリスクヘッジ機能、先物市場からの国内販売のための商品調達機能、国内の需
給状況を反映した円建ての価格指標の形成することがその存在意義であり、商品先物取引の機能として
は、透明かつ公正な価格形成機能、価格変動リスクのヘッジ機能、在庫調整機能、資産運用機能等があ
る。
世界の主要商品取引所の取引高が急速に増加して過去 5 年間で 4.6 倍になっており、これはアジア特
に 10.9 倍に達する中国、インドの増加が主原因で、欧米では、石油先物を取り扱うニューヨーク商業取
引所、ヨーロッパの ICE Futures の伸びが大きい。中国・インドの増加要因は、経済成長による石油・
貴金属・食糧等の需要増大、投資に積極的な国民性、商品先物に投資が集中したことによる。
世界の商品先物取引所には、1 位から 10 位までは、中国、米国、英国、インドが占め、経産省が主管
する東京工業品取引所が 11 位である。1 位の上海期貨交易所と 10 位のインド国立商品・デリバティブ
取引所の取引高には 10 倍の開きがある。アジアでの取引所の上位5位は、中国、インドが占め、東京
工業品取引所は 6 位である。また、世界の主な取引所の合従連衡、再編がグローバルに進んでいる。
上記の再編は高速売買取引が主要な原因となっており、CME(シカゴ商品取引所)のデータによると
現在では 5~7 ミリ秒単位で売買注文をだす高速取引が行われており、相場の流動性を高める一方,予期
せぬ株価の急変動を招くことがある。日本のデリバティブ取引所のシステムは、NASDAQ OMX、NYSE
Euronext の方式が使われている。
我が国の取引所の現状としては、商品先物取引所には、東京工業品取引所、東京穀物商品取引所、関
西商品取引所があり、金融商品取引所には、東京証券取引所グループ、大阪証券取引所、東京金融取引
所、名古屋証券取引所、福岡証券取引所、札幌証券取引所がある。
商品先物取引での苦情相談件数が過去には多かったが、累次の法律改正により減少し、平成 21 年の
改正では、不招請勧誘禁止規定が導入されて電話勧誘が規制され、更に冒頭に記載した直近の法改正に
より、平成 23 年には対前年比約 50%、ピーク時からは 4 分の 1 に減少した。
商品市場活性化のために、夜間取引の開始・延長、NASDAQ システムの導入による高速売買の実現、
金ミニ取引の開始、証拠金制度の国際標準化等の導入により、我が国の商品先物市場の出来高は、2004
年までに 240 億円まで増加し、2005 年以降 7 年連続で減少してきたが、2011(平成 23)年は対前年比約
15%増加した。また、取引金額で 2009 年の約 60 兆円から、金価格の伸びにより、約 100 兆円に達し
ている。
一方、証券市場の取引金額は、2007 年にピークを示すが、2008 年 9 月のリーマンショックにより減
少し、2011 年は 2004 年の水準にまで減少している。
2010 年の世界の取引所の商品先物、金融デリバティブ商品取引の規模は、商品先物については、中国
の上海期貨交易所が 1 位で、東京工業品取引所は 11 位、金融デリバティブ商品については、韓国取引
所が 1 位で、大阪証券取引所が 11 位である。
韓国の総合取引所の現状については、2005 年に韓国証券取引所(株式)、コスダック(店頭株式)、韓国
先物取引所(金融デリバティブ+商品先物)を統合して韓国総合取引所(KRS)が設立された。設立の目的
は、コスト削減、競争力強化であり、金融デリバティブの出来高は大幅に増加したが、商品先物は伸び
悩んでいる。
東京工業品取引所の商品市場別出来高では、金、ゴムは比較的横ばいで安定しているが、石油の出来
高が 2003 年をピークに落ちているので心配している。
東京穀物商品取引所・関西商品取引所において、平成 23 年 8 月 8 日の米の日から米の先物取引は試
験上場が開始されており、取引状況としては、当初、高値に張り付くなどの状況がみられたが、その後
は、値動きに極端な乱高下は見られない。
日本の取引所の将来の可能性については、統合取引所構想を金融庁、農水省とともに合従連捷の検討
を行っている。2013 年 1 月には、東証と大証が持株会社(日本取引所グループ)の設立で合意しており、
2013 年1月検討からさらにこの 1~2 年後には、日本取引所グループが、証券現物(新東証)と金融デリバ
ティブ(新大証)に再編される他、商品取引所の東京工業品取引所の上場などが予定されている。
将来の可能性としては次の項目がある。
1)商品、金融、証券を一つの HD のもとにぶらさがること、
2)商品先物と金融デリバティブを一つの取引所において取扱われること。
前者については、平成 21 年度の法改正で、後者については、平成 23 年度の法改正で対応している。
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以上、経済産業省が主管する商品先物取引について詳細に解説された後、聴講者から数多くの質問が
あり、詳細で丁寧な説明を戴いた。
特別講演会
日時 平成 24 年 3 月 28 日(水) 14:00~15:30
場所 ニュウオータニイン東京 4F ももきりの間
主催
財団法人 国民工業振興会
後援 東京商工会議所・品川支部・大田支部
公益社団法人 日本技術士会
挨拶
(財)国民工業振興会 理事長・東京商工会議所 特別顧問
井上 裕之氏
演題「中小企業の技術開発支援策」
経済産業省 中小企業庁 創業・技術課長
佐藤 文一氏
講演の冒頭で、国際的にも活発な活動をしているグローバルニッチトップ型中小
企業の事例として温度制御に特化した工業用制御機器製造の理化工業(株)
、模造品
対策として金属加工の難しい形状の手持屈折計を開発した(株)アタゴについて説
明され、ソリューション型中小企業の例として、IC・電子部品の「組立」から「テ
スト」までを一貫したサービスを提供する(株)加藤電器製作所、技術提案型企業
として独自の技術を基に極限環境での使用に耐えうる種々のヒーターを製造する新
熱工業(株)を挙げられた。また、中小企業技術革新制度(SBIR)の有力な事業であ
る「戦略的基盤技術高度化支援事業」の成果事例として、金属プレス加工では管状複雑形状部品のプレ
ス加工技術の開発例(国本工業(株))、金型では加工条件の最適化による高機能かつ微細な狭ピッチコ
ネクター用成形金型高精密加工技術のデータベース化を実現している(株)キメラの例を紹介された。こ
こで、グローバルニッチトップ型企業とは、中小企業の目指すべきビジネスモデルの一つの型であり、
傑出した基盤技術を武器にきわめて高い性能が求められる特定分野の要素部品製造で世界シエアを席巻
する高い競争力を持つ企業を言う。
中小企業の新成長戦略として、2020 年度までの平均で名目 3%、実質 2%を上回る成長、名目 GDP
については 2020 年度に 650 兆円程度を目指すために強味を発揮する分野としては、環境・エネルギー
分野と健康(医療・介護)分野、フロンティアの開拓としてはアジア、観光・地域活性化の四つに柱を研
究し、ここで需要を創出することが重要である。
産業構造ビジョン 2010 で重要なことは、産業構造として、自動車依存の一本足打法から脱却して戦
略 5 分野重視の「八ヶ岳構造」へ転換することであり、その分野は、インフラ関連、環境・エネルギー、
文化産業、医療・介護・健康・子育てサービス、ロボット・宇宙等の先端分野である。さらに企業のビ
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ジネスモデル転換の支援では、モジュール化分業が挙げられている。
現在の中小企業は、海外に大手が進出することにより、1)大手からの情報不足、2)下請けとしての財
政援助不足等が発生しており、5~10 年前から考えていて起案した法律「中小ものつくり法律」を評価
している。中小企業庁は総勢 200 名の勢力であり、44 万社ある中小企業、地方の企業の指導は技術士
に依頼したいと考えている。
サプライチェン構造では、大手重工業を中心にしてダイアモンド構造をしており、地域別にみると、
浜松市、大田区、東大阪市ではそれぞれの地域の特徴があり、地域の特徴を生かしながら進める必要が
ある。今回の東日本大震災で、効率化、低コスト化を追求した結果、下請け構造がピラミッド型からダ
イヤモンド型に変わり製造業の脆弱化が顕在化した自動車産業の例がある。
この様な情勢の中で、中小企業が従来型の産業構造から脱却するためには、1)グローバル製造業以外
の産業も直接海外展開する必要があること、2)日本の製造業の国際競争力の原点である優れたものつく
り基盤技術の確立、3)リスク回避、ハードル低減して、海外展開を容易にするための手段として、国内
GNT(グロバルニッチトップ)との連携により経営負担の軽減、技術流出防止、販路拡大を行うことが必
要である。
中小企業を取り巻く環境の現状認識としては、グローバル的視点からの分析としては、アジア(中国)
の脅威に対して、国内中小製造業での国際競争力の低下が危惧されているが、実態は日本の製造技術は
依然として高い水準にあり、特に、基盤技術及びマザーマシンの分野においてきわめて高い技術力を保
持していると考えている。問題点は、この高い技術力を活かして利益をあげる適切なビシネスモデルが
欠如していることと考えている。
中小企業が産出する付加価値額の推移からは、長期にわたり 50~60%で安定的に維持しており、大企
業と遜色は見られない。
ものつくり中小企業の国際競争力は、鍛造・鋳造、粉末冶金などの分野では日本は競争力を維持して
いるが、中国は特許取得数ですべての分野で急増しており、量産型から、技術導入型に変遷している様
である。
製造業に対する国内需要は、20 年間ほぼ横ばいであるが、国内需要に占める海外からの輸入割合は増
加の一途であり、2010 年には 17%に達している。
戦略的基盤技術高度化支援事業は、
「中小ものづくり高度化法」
に基ずく認定を受けた特定研究開発等
計画を基本とした研究開発が対象であり、認定を受けた中小企業者を含む中小企業、ユーザー企業、大
学、研究開発機関らで構成する共同研究体が実施し、3 年間で 1
億円に達する委託事業である。
技術分野として、20 分野の基盤技術分野が決められており、組み込みソフトウエア、切削加工をはじ
め満遍なく実施されている。
現在、中小ものつくり高度化法「特定ものつくり基盤技術高度化指針」の改定作業がおこなわれてお
り、対象技術範囲の拡大のために指針内容・範囲の改定作業が行われている。特に新規技術分野として、
農業の加工分野を支援する「冷凍空調」及び「塗装」の 2 分野の追加が検討されている。また、24 年度
は予算要求額として 132 億円を要求している。
更に、戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)は新規開発が主体であるが、あらたに、グローバル
技術連携支援事業を設定して予算要求をしている。これは海外への販路開拓を図るため、ニッチ分野等
の世界市場獲得を目指す中小企業の連携体が取り組む技術流出対策(試作品開発等)を支援する補助金で、
補助率は 2/3 で 3 年間 5,000 万円、事業としては 7,500
万円の事業で、4/16 頃に公募が予定されている。
また、今年の「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)」は、上記新事業と同様に 4/16 頃に公募さ
れる予定であり、いずれも 1~5 ケ月の募集期間が設けられている。
講演後、熱心な質疑応答が行われた。
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聴講風景
財団法人
国民工業振興会
〒141-0001 東京都品川区北品川 5-3-20
Tel 03-3449-2144 Fax 03-5488-5520
E-mail [email protected]
http://www.jipa-japan.or.jp
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