中国通貨バスケット制度の経済分析

平成 20 年度
文教大学情報学研究科修士論文
中国通貨バスケット制度の経済分析
~人民元為替政策に関する研究~
情報学専攻
王文林
(WENLIN WANG)
要旨
1990 年代中国の経済的な特徴としては為替政策の独立、資本管制である。中国の資本自
由化が進むとともにこのような経済特性は続くことはできない。中国は新たなマクロ経済
対策が必要とされている。2005 年 7 月、人民元為替制度の改革を行われた。中国の為替
制度はバスケットを参考とした管理フロート制に変わった。しかしながら、次のステップ
としては、どのような改革をすれば人民元為替制度は安定的変動相場制に移るのかという
問題である。
本論文は、数多くの学者の研究を基にし、通貨バスケット制度の意味、政策目標、特徴
などを分析した。さらに、ドルペッグ制と通過バスケット制の区別も分析した。現在中国
当局が積極的に行っている各種措置は、企業や個人に相場変動リスクを回避する手段を準
備していることである。最近の中国の矢継ぎ早の外国為替市場整備策は、人民元が次第に
市場経済の国の通貨となり、市場経済の国と同じように、為替リスクをヘッジする手段を
整備するための措置である。通貨バスケット制の「縮小機能」は人民元とある重要通貨の
間で安定的な機能を果している。通貨バスケット制は為替レートの応変に対して強い、政
府対経済のコントロールを減少させ、中国銀行対外国為替市場圧力の減少などのメリット
がある。通貨バスケット制度のもとで、中国は各国との貿易量により、通貨バスケットに
入れる通貨を選択することは可能である。そして、中国は通貨バスケット制度を採用した
ら、人民元対アメリカドルの為替レートはドルペッグと違い、つねに変動している。この
点については、外国為替市場に対する単項投機行為を防ぐことができる。中国は現在「バ
スケットを参考とした管理フロート制」を採用しているが、これから「通貨バスケット制」
を採用するというのが筆者の主張である。中国は通貨バスケット制でいろいろなことを勉
強し、将来的に「変動相場制」になることを期待する。
2
目次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
第一章
5
日本経済と円相場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1-1
1970 年代の円相場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1-2
1980 年代の円相場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1-3
1990 年代の円相場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
第二章
中国人民元相場の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
2-1
2005 年 7 月の人民元為替相場形成メカニズム改革の概要 ・・・・・・・・・・11
2-2
人民元の適度な切り上げは、中国経済にプラス・・・・・・・・・・・・・・・
2-3
中国人民元相場の歴史と基本問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
2-4
外国為替相場理論と人民元・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
2-5
人民元に対するバラッサ=サミュエルソン効果・・・・・・・・・・・・・・・16
第三章
11
先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
3-1
宿輪
3-2
小野有人(2005)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
3-3
関
3-4
清水
3-5
白井早由里(2006)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
3-6
伊藤隆敏など(2007)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
第四章
純一
(2004)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
志雄(2008)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
聡(2006)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
実例分析
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
4-1
通貨バスケット制とドルペッグ制の区別・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
4-2
通貨バスケット制の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
4-3
中国は通貨の選択と比重について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
4-4
数値例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
付録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
Summary・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
57
はじめに
近年、中国の為替政策の改革に対する関心が高まっている。中国は、1978 年の改革・開
放政策への転換以後、貿易・投資(直接投資)の面で世界経済におけるプレゼンスを高め
てきた。現在の日本にとって、米国を抜き一番目の貿易相手国である中国は、2005 年 7
月に、人民元の対ドルレートが 1 ドル=8.11 元に切り上げられた。この時期、中国人民銀
行は、市場需給に基づき、通貨バスケットを参考とする管理変動相場制度の実施と人民元
の2%切り上げを宣言した。この結果は、中国為替相場制度の改革と経済成長戦略の調整
が新たな段階に入ったことを示すものである。
一方、世界的国際収支の不均衡に改善の兆しが見られないため、中国に柔軟な為替政策
の採用を求める米国からの圧力はますます強まっている。これからは、中国は遅かれ早か
れ固定相場制から変動相場制に移行することになるだろう。
本論文では、日本為替政策の歴史と中国為替政策の歴史現状から分析し始める。そして、
先行研究では、学者たちの理論をまとめ、それについてさらに研究する。最後数値例を挙
げ、筆者の主張を提出する。今の中国は通貨バスケット制をとるべきである。
4
第一章 日本経済と円相場
中国の通貨・為替政策の将来を考察する上では、日本の戦後の歴史が参考になる。日本
為替政策の推移と中国為替政策の推移については、多くの共通点がある。
表1
日本と中国の為替政策の類似性 1 )
中国
日本
1981 年から 94 年まで、輸出を優遇する二重為
1945 年から 49 年まで、実質的に輸出品の為替
替相場制を維持
相場を円安に、輸入品の為替相場を円高に維持
1993 年 ま で に 国 内 市 場 の 市 場 経 済 化 が 概 ね 完
1949 年のドッジライン(財政・金融の引き締め
了し、配給切符を全廃
措置)実施に より大部分の 価格統制と配 給制の
廃止
1994 年 の 二 重 為 替 相 場 の 一 本 化 と 実 質 的 な 米
1949 年の 1 ドル 360 円の単一為替レートの設
ドルペッグへの移行
定と米ドルペッグ制への移行
1996 年の IMF8 条国移行による経常取引に関
1964 年の IMF8 条国移行による経常取引に関
する為替管理撤廃
する為替管理撤廃
2005 年 の 人 民 元 の 対 米 ド ル レ ー ト 小 幅 切 り 上
1971 年のニクソン・ショックによる変動相場制
げと変動幅拡大の約束
への移行とその後の切り上げ
1-1
1970 年代の円相場
外交為替の世界を一番身近に感じさせるのが、毎日の円相場の動きである。日本は 1970
年代初頭より変動相場制に入り、現在まで四世紀半以上もそれが続いている。変動相場制
では円高、円安という用語がよく使われる。円高とは yen appreciation と英訳されること
からもわかるように、円の価値(評価)が上がることである。また、円安は yen depreciation
と英訳され、円の価値が下がることをいう。円高、円安とはあくまで円の価値が相対的に
どう変化したか、つまり相場変動の方向を示すものであり、相場の絶対的水準ではないこ
とに注意しておきたい。
まず、変動相場制当初の 1970 年代の円相場の動きを見ておこう。日本の円は、1971 年
12 月に戦後長く続いた1ドル 360 円から 308 円に為替平価(基準相場)が変更された。
円の切り上げ(為替平価を円高方向に設定しなおすこと)を行い、それまでの輸出主導型
1) 深尾光洋
『 中 国 経 済 と 人 民 元 の 行 方 : 戦 後 日 本 の 通 貨 ・ 為 替 政 策 と の 比 較 』 2006 年 6 月
5
三田商学研究
経済による貿易黒字を縮小しようとしたのである。あわせて、輸入促進策や資本流出促進
策などさまざまな改善策がとられたが、貿易収支の黒字は続き、功を奏しなかった。こう
した状況下で円の再切り上げの予想が高まり、市場でドルを売って円を買う圧力も強くな
った。平価を設定しなおすことが再三必要になることが予見され、固定相場制を維持する
ことは困難になった。
かくして 1973 年 2 月 14 日、日本政府は「当分の間」、為替相場変動の制限を停止して
変動相場制に移行すると発表した。ここから今日の変動相場制が始まった。円は市場で一
気に 1 ドル 300 円を突破し、2 月末には 270 円まで上昇した。その後数ヶ月間はほぼ 1 ド
ル 265 円で動かない時期が続いた。 1 )
1973 年 10 月から 74 年にかけて中東戦争を機に OPEC(石油輸出国機構)が原油の公
示価格を約 4 倍に引き上げるいわゆる石油ショックが発生した。日本もこの第一石油危機
の影響を大きく受けた。経常収支は赤字に転じ、また未曾有のインフレーション(狂乱物
価)に見舞われるなど、経済は大混乱の状態であった。特に卸売物価は前年と比べて30%
以上の上昇率をみせ、消費者物価も 25%近く上昇した。
円相場は日本経済に対する悲観的な見方から、円が売られドルがかわれるようになって
円安の方向に向かっていき、1974 年の初めには1ドル 300 円まで下がった。石油危機の
影響から日本の国際収支(総合収支)の赤字は 1975 年まで続いた。1974 年の夏にはいっ
たん円高に傾きかけた円相場も、秋から年末には再び 1 ドル 300 円に戻った。 2 )
1974 年は、国際金融市場の一つであるユーロ市場でも金融不安が生じ、いくつかの銀行
が倒産したり経営危機に陥った。日本の銀行は、国際金融市場で信用力が落ち、ドル調達
が困難な状況となった。すなわち、国際収支の赤字ファイナンスのため資金需要が増大し
たが、金利上昇も絡んで資金逼迫の状態となった。ようやく、1975 年には借り入れ制限の
緩和策もあって逼迫感はうすれ、再び円高に向かった。
その後 1977 年までは徐徐に円高が進み、1978 年は円高がいっそう激しくなった。そし
てこの年過去最高の 1 ドル 175.50 円という円高を記録した。経常収支も 1975 年から再び
黒字に転じ、その額も増大した。この円高はカーター・アメリカ大統領の始めてのドル買
強調介入によるドル防衛策でようやく収まった。アメリカの金融政策の中心がマネーサプ
ライに比重を移すことによりドル金利が暴騰し、ドル高となった。また、1979 年にはイラ
1)
川本明人
『外国為替の基礎知識』
中央経済社
平 成 11 年
P10
2)
川本明人
『外国為替の基礎知識』
中央経済社
平 成 11 年
P11
6
ン革命を契機とする第二次石油危機が発生し、原油価格の高騰とともにドル需要が増加し
た。そのため、ドル高が進み、円は 1 ドル 260 円まで下がった。
1-2
1980 年代の円相場
1980 年の末に円安に対して、アメリカ、西ドイツ、スイスと強調して円防衛策を講じ、
円は 1 ドル 200 円まで戻った。その後 1980 年代半ばまで一時期を除いて、アメリカのド
ル防衛策およびインフレ対策としてのドル高金利により、変動を繰り返しつつもドル高円
安傾向が続いた。アメリカの短期金利は一時 20%近くまで上がり、この高金利を背景にさ
まざまな金融商品開発が進み、いわゆる金融革命が進んだ。同時にドル買い需要が続き、
ドル独歩高という状態が続いた。
日本はドル高円安を利用して輸出拡大を続けた。自動車、家電、半導体などの日本の主
要輸出品をめぐって海外との摩擦が頻繁に発生するようになった。日本は市場開放を求め
られ、1980 年の外国為替管理法改正や 1984 年の日本円ドル委員会によって、外貨借り入
れ自由化や円転規制(銀行が外貨を借り入れてこれを円に転換することを規制したもの)
撤廃など資本自由化が進められた。一方、アメリカでは貿易赤字が 1000 億ドルを超え、
さらに累増する傾向にあった。
こうした状況を修正したのが「プラザ合意(Praza Accord)」である。1985 年 9 月 22
日に日、米、独、仏の主要 5 カ国蔵相会議(G5)がニューヨークのプラザホテルでもたれ、
ドル高円安傾向に終止符を打つ強い決意表明がなされた。これを受けて円相場は瞬間に 1
ドル 240 円台から 200 円を切り、1 年後には 150 円近くまで上昇した。 1 ) このため 1987
年 2 月には 7 カ国の蔵相・中央銀行総裁会議で「ルーブル合意」がなされ、ドルの下落に
一応の歯止めがかけられた。 2 ) しかし同年 10 月に発生した世界株価同時安(ブラック・
マンデー)の影響で再びドル安が進行したため、12 月には為替相場の安定のために協力し
合うという「クリスマス合意」が発表された。こうして為替相場に対する協調体制もしだ
いに整得られてきた。
プラザ合意直後は急激な円高により日本の輸出産業が打撃を受け、
「円高不況」感が広が
った。だが、輸出の不利が海外投資を加速し、経営のグローバル化が進んだ。同時に円高
対策として行った低金利政策が影響し、株価、地価などを押し上げるバブル経済に突入し
1 ) http://www.nomura.co.jp/terms/japan/hu/plaza_a.html(野 村 證 券 - 証 券 用 語 解 釈 集 )
2 ) http://fx.nirq.com/dir/r/00022.shtml( 外国為替証拠金取引FX用語辞典)
7
た。その後日本経済は長期の好況期に入り、資産インフレが発生し、経済の投機化が生み
出された。金融機関は不動産部門を中心に貸出しを増加させ、また海外への証券投資も促
してジャパン・マネーが世界を席巻した。結果的に金融資産の膨大な蓄積と肥大化が進ん
だのである。
円相場は 1988 年には 1 ドル 120 円台という最高値まで進んだ。1989 年になってようや
く円高の勢いは止まった。円の変動幅も、1985 年の 63.81 円、1986 年の 50.75 円、1987
年の 37.55 円、1988 年の 16.35 円としだいに安定度を増やしていった。しかし、1989 年
6 月には天安門事件の影響で円は 1 ドル 151 円まで戻した。
図1 1 )
1-3
1990 年代の円相場
1990 年代に入って日本経済はバブル崩壊後の不況に突入する。株価が暴落し、地価や不
動産価格も大幅に下落した。そして、土地融資を原因とする不良債権の顕在化が金融界に
深刻な影をおとした。また世界的には、湾岸戦争やソ連邦の解体、東西ドイツ通貨統合な
どさまざまな歴史的事件が起きた。
1990 年代初頭の円相場は、
「有事のドル買い」を反映したドル高で、一時 1 ドル 160 円
1 ) 出 所 : http://moneykit.net/from/topics/topics79_03.html
8
前後まで下がった。だが、その後日本経済はバブル崩壊により内需が低迷して貿易黒字が
拡大し始め、円相場は再び上昇基調をとった。1992 年には欧州通貨情勢の動揺から 1 ド
ル 120 円を突破した。
この大きな原因は、東西ドイツ統一によるインフレ懸念から行われたドイツの金利引き
上げである。ヨーロッパ諸国間で基準相場を決めて固定相場制を維持しながら、全体とし
てドルなどに対して変動する制度をとっていた。ドイツ以外の国は通貨相場の下落を恐れ、
基準相場を切り上げた。この中で、イギリスポンドは投機筋からターゲットにされ、切り
下げを予想したポンド売りにさらされた。1 ポンドは円で表示すると 240 円から 190 円台
に下落し(第二次大戦後は 1 ポンド 1008 円であった)、逆にドイツマルクはドルに対して
大幅に上昇し、つられて円も上昇した。1993 年になると、ベンツェン米財務長官やクリン
トン大統領が円高誘導発言をしたことにより、円はさらに上昇した。そして、同年 8 月に
は投機的なドル売り円買いから 100 円 40 銭の最高値を記録した。このときはアメリカの
連邦準備銀行が協調介入をした。日本も公定歩合の連続的引き下げで、総合経済対策を打
ち出した。
だが、1994 年になると、貿易摩擦をめぐる日米包括協議が物別れに終わり、6 月にはつ
いに円は 100 円を突破した。8 月以降は、1 ドル 90 円台が定着した。さらに、1995 年 3
月には、アメリカと自由貿易市場を形成していたメキシコのペソ下落と、ドイツマルク上
昇のあおりで円は 1 ドル 80 円台となった。これはメキシコ通貨危機によるドル不安と、
ドイツのコール政権勝利によるマルクへの信用増大から、ドル安・マルク高・円高という
連鎖によるものであった。そして 4 月 17 日には最円高 79 円 75 銭の「超円高」を記録し
た。円高対策として企業の合理化や海外生産シフトが進められてきたが、それらはこの超
円高によりほぼ限界に来ていた。 1 )
超円高は日本の貿易黒字を改善するという名目だったが、アメリカにもドル安の不安材
料を与えた。ワシントンで開かれた G7 会議でも、為替相場の水準が異常であることが表
明された。円は 1996 年夏にはようやく 1 ドル 100 円台に戻した。そして 1997 年には 120
円台に下落した。
さらに 1998 年になると、日本の金融機関の不良債権問題が一段と深刻になり、また金
融不祥事が生じたりして景気回復の兆しは見えなくなり、株安、債権安、円安というトリ
プル安の状況もしばしば見られた。これを受けて円は 1 ドル 140 円台まで下がり、1990
1) 川本明人
『外国為替の基礎知識』
中央経済社
平 成 11 年
9
P13
年代半ばと比較すると相当の円安となった。わずか 3 年で 4 割も下落したことになる。い
ずれにしても円相場の乱高下は通貨投機を招き、これがアジアや日本経済を不安定にして
いる。
表2
1945 年 8 月
日本の為替管理自由化の歴史
1 )
第 二 次 世 界 大 戦 の 終 了 、 全 て の 対 外 取 引 と 外 貨 準 備 資 産 は GHQ(General Headquarters of the
Allied Powers)が 管 理 。
1949 年 4 月
1 ド ル 360 円 の 単 一 為 替 レ ー ト を 決 定 。
12 月
外国為替取引原則禁止の「外国為替および外国貿易管理法」を公布・施行。民間輸出再開。
1950 年 1 月
「外国為替予算制度」を実施。民間輸入再開。
6月
「外国為替等集中規制」の導入。集中相場公定。
1952 年 4 月 7
対 日 講 話 条 約 発 効 、 GHQ 廃 止 。
月
東京外国為替市場の再開。
8月
IMF 加 盟 。
1964 年 4 月
IMF8 条 国 へ 移 行 ( 外 国 為 替 予 算 制 度 の 廃 止 )。 OECD へ 加 盟 。
1971 年 8 月
米 国 が ド ル と 金 の 交 換 性 を 停 止 ( ニ ク ソ ン ・ シ ョ ッ ク )。 円 は 一 時 フ ロ ー ト に 移 行 。
1971 年 12 月
IMF 平 価 を 1 ド ル 308 円 に 変 更 ( ス ミ ソ ニ ア ン ・ レ ー ト ) 為 替 変 動 幅 を 上 下 2.5% に 拡 大 。
1972 年 5 月
外貨集中制を廃止。居住者外貨預金制限付き自由化。
1973 年 2 月
円の変動相場制移行。
1977 年 11 月 ~
円高に対応して資本流入規制措置の導入。
1979 年 2 月
1980 年 12 月
1980 年 外 国 為 替 管 理 法 の 施 行 ( そ れ ま で の 為 替 取 引 を 原 則 禁 止 と す る 法 体 系 か ら 原 則 自 由 に 転
換 )。 外 貨 預 金 、 外 貨 借 り 入 れ の 全 面 自 由 化 。
1984 年 4 月
先物外国為替取引についての実需原則の撤廃。
1998 年 4 月
外 国 為 替 管 理 法 の 全 面 改 正 。為 銀 主 義 の 撤 廃 に よ り 日 本 企 業 や 個 人 と 海 外 金 融 機 関 と の 直 接 取 引
が全面自由化。
1) 深尾光洋
『 中 国 経 済 と 人 民 元 の 行 方 : 戦 後 日 本 の 通 貨 ・ 為 替 政 策 と の 比 較 』 2006 年 6 月
10
三田商学研究
第二章 中国人民元相場の現状
2-1
2005 年 7 月の人民元為替相場形成メカニズム改革の概要
人民元相場形成メカニズム改革の発表は、まさに意表をつく形で、7 月 21 日の夜行われ
た。中国人民銀行は 21 日公告を公布したが、その概要は以下の通りである。 1 )
①、2005 年 7 月 21 日から、中国は市場の需給を基礎とする、通貨バスケットを参考にし
て調節を行う、管理された変動相場制度を実行する。
②、中国人民銀行は、毎営業日市場終了後、当日のインターバンク外為替市場での米ドル
など取引通貨対人民元為替相場の終値を公表し、翌営業日の当該通貨対人民元取引の仲値
とする。
③、2005 年 7 月 21 日 19 時、米ドル対人民元取引レートは調整して 1 米ドルを 8.11 人民
元とし、翌日のインターバンク外国為替市場での外国為替指定銀行間の取引の仲値とする。
④、現段階では、毎日のインターバンク外国為替市場での米ドル対人民元取引レートは、
引き続き人民銀行が公布した米ドル取引仲値の上下 0.3%の幅の中で変動する。米ドル以外
の通貨対人民元の取引レートは、人民銀行が公布した該当通貨取引仲値の上下に一定の幅
で変動する。中国人民銀行は、市場発展状況と経済金融情勢に基づいて、適時に為替相場
変動幅を調整する。
中国の為替相場形成メカニズムの改革は、とりあえずは 2%の切り上げだが、変動幅が
上下に 0.3%あるので、毎日の切り上げは小さいが、毎日 0.3%ずつ切り上がっていけば、
かなりの切り上げになると期待する向きが多かった。実際にそうした見方の報道も少なく
なかった。そこで中央銀行は、7 月 27 日に声明をだして、その解釈は間違っているとした。
つまり、人民元為替相場のはじめの調整水準が 2%切り上げということは、人民元為替相
場形成メカニズム改革のはじめの時に調整を行い、調整水準が 2%ということであって、
決して人民元相場の第一歩の調整が 2%で、今後まださらに調整があるということではな
いというのである。
2-2
人民元の適度な切り上げは、中国経済にプラス
中国は 2005 年 7 月 21 日の人民元相場形成メカニズム改革と 2%切り上げをどのように
見ているか。2005 年 8 月5日付「経済日報」によれば、マクロ経済の面から見ると、人
1) 付録1参考
11
民元相場水準を適当に引き上げ、中国のGDPを米ドルで計算すると、一人当たりGDP
は相応に上昇し、中国人民が保有する富は相応に価値が増える。為替相場が高まると、輸
入拡大と輸出の適当な減少に役たち、中国の当面の貿易黒字と外貨準備増加が速すぎる状
況を変えることができ、その結果として、徐徐に輸出入の基本的均衡と外貨収支の均衡を
実現し、資源の使用効率を高め、通貨政策の独立性を強め、金融コントロールの自発性と
有効性を高め、経済総量の均衡を促進する。長期的に見て、人民元相場形成メカニズムの
改革は、内需拡大を主とする経済の持続的発展戦略の実現に有利であり、需給構造と産業
構造の改善に有利であり、経済成長方式の転換と資源配置の改善を促進し、国民経済全体
の効果と利益を高める。 1 )
企業に対する影響はどうか。人民元の切り上げは、中国の貿易条件改善に有利である。
企業が技術、設備、輸入原材料、部品機材を導入するのに有利である。当面の国際石油、
鉱産品など資源性商品の価格が絶えず上昇する状況の下で、企業の輸入コストを引き下げ
ることができる。輸出企業によっては、人民元切り上げはさらに大きな競争圧力をもたら
すことになるが、企業が経営メカニズムを転換し、自主的に新たな道を開拓する能力を増
強し、対外貿易増加方式転換と構造調整を速める。
人民の生活に対する影響からみると、人民元為替相場水準を適当に高めることは、輸入
消費物資の価格を引き下げ、国内住民の実際の消費能力と消費水準をある程度強めること
になる。域外への観光は以前よりも安くなるであろう。つまり、適度な人民元切り上げは
中国経済にプラスと見ているわけである。
しかし中国当局が投機筋の思惑通りに、人民元を切り上げるわけにはいかない。今後は、
予想がつかなくなるところに、今回の相場形成メカニズム改革の意義があることになる。
1 ) 中 国 『 経 済 日 報 』 http://paper.ce.cn/jjrb/html/2009-01/11/node_2.htm( デ ジ タ ル 新 聞 )
12
図2
人民元対ドル名目レートの推移 1 )
2-3
中国人民元相場の歴史と基本問題
2-3-1
人民元相場は歴史的に何を基準として変動してきたか
今日の人民元問題を理解する上で、新中国建国以来の人民元相場の歴史を知ることは、
大変有意義である。人民元は中国の対外開放後、確かに大幅にきり下がった。しかし、大
幅にきり下がった背景には、人民元が対米ドルで十数年にわたり全く変動しなかった歴史
がある、また大幅な切り下げについて理解を深めるためには西側諸国の通貨が変動相場制
に移行後、人民元は中国経済の実態にかかわりなく、高めに維持されたことを知る必要が
ある。
中国は通貨バスケット方式を、西側諸国の通貨が変動相場制に移行したあと実施した。
その歴史を知れば、人民元がドル離れする始まり、との結論は出しにくくなる。
人民元と西側通貨との為替相場は、為替相場制定方法と変動の特徴から、いくつかの時
期に分けることができる。ここでは大きく三つの時期に分けてみよう。
(1) 伝統経済体制下の人民元為替相場(1949 年~1980 年)
A、
国民経済復興期(1949 年~1952 年)
B、
人民元為替相場安定不変の時期(1953 年~1972 年)
C、
人民元為替相場を通貨バスケットで計算した時期(1973 年~1980 年)
(2)
経済体制改革中の人民元為替相場(1980 年~1993 年)
1 ) 出所:Searchina・Finance
13
A、
人民元公定相場と貿易用内部決済相場併存の時期(1980 年~1984 年)
B、
内部決済相場取り消しから外貨調整センター開設まで(1985 年~1991 年)
C、
公定相場と外貨調整センター相場併存の時期(1991 年~1993 年)
(3)
市場化為替相場への過度期
A、
需給に基づく管理された変動相場制(1994 年~2005 年 7 月)
B、
需給に基づく、通貨バスケットを参考とする、管理された変動相場制(2005 年 7
月以降)
中国の経済発展につれて、国際社会において中国の担うべき役割分担は、日々重くなっ
てきている。中国経済にさまざまな問題はあっても、国際社会の一員として、中国が担う
べき役割をどれだけ分担してくれるのか。国際社会は、その点で中国の対応に注目し、ま
た期待もしているわけである。
表3
中国の為替政策の変化
1978 年
1 )
改 革 開 放 路 線 の 開 始 、 国 内 市 場 の 5% の 価 格 だ け が 市 場 化 さ れ 残 り は 統 制 さ れ て い た 人 民 元 に は 国
内交換性がない。
1979 年
貿易の国家独占の停止、地方政府・企業などの外貨留保容認。
1980 年
IMF、 世 銀 に 加 盟 、 為 替 管 理 規 定 の 公 表 、 外 貨 兌 換 券 の 導 入 ( 94 年 末 に 廃 止 )
1981 年
輸出促進のための二重相場制の導入。貿易用為替相場を元安に、海外華僑からの送金などは元高に
設定。
1992 年
鄧小平の南巡講話と対内直接投資の大幅な拡大。
1993 年
国 内 市 場 の 80% が 市 場 化 さ れ 配 給 票 ( 糧 票 ) を 廃 止 。 国 内 経 済 の 市 場 経 済 化 が 概 ね 完 了 。
1994 年
二 重 為 替 相 場 を 一 本 化 し 実 質 的 な 米 ド ル ペ ッ グ に 移 行 。公 定 相 場 の 切 り 下 げ 、外 貨 留 保 制 度 の 廃 止、
外貨取引センターの設立(銀行間取引市場)
199 年 12 月
IMF8 条 国 移 行 に よ る 経 常 取 引 に 関 す る 為 替 管 理 撤 廃 。
2001 年
WTO 加 盟
2005 年 7 月
人 民 元 を 2% 切 り 上 げ る と と も に バ ス ケ ッ ト ペ ッ グ に 移 行 。
2-3-2
中国はなぜ大幅な人民元切り上げ回避を望むのか
人民元相場問題は単なる経済問題ではなく、政治問題でもある。1985 年のプラザ合意お
1) 深尾光洋
『 中 国 経 済 と 人 民 元 の 行 方 : 戦 後 日 本 の 通 貨 ・ 為 替 政 策 と の 比 較 』 2006 年 6 月
14
三田商学研究
よび 93 年の日米貿易摩擦激化後、日本円は二度大幅な切り上げに追い込まれた。日本経
済にマイナスの影響をもたらしたことに対して、中国では「前者のくつがえるは後者の戒
め」としているようだ。今の中国経済がまだ当時の日本の強さを持っていないとの認識か
ら、人民元相場については外圧に屈せず、慎重に対応したいと考えている。
中国は高度成長を続け、国際収支は経常勘定も資本・金融勘定も黒字を続け、外貨準備
は増加の一途を辿っている。こうした表面的な経済状況から、人民元切り上げの外圧があ
るが、見方を変えれば、とても外圧に屈し大幅に人民元を切り上げるような状況にはない。
中国経済の問題点として、よく指摘されるのは、就業圧力が比較的大きい、政府財政の負
担が比較的重い、隠れた財政赤字が大きい、銀行の不良資産が比較的多い等の問題である。
中国は 1996 年 12 月 1 日から国際通貨基金(IMF)八条国になった。資本取引につい
ては人民元は一部を除いて交換性を持たず、許可を取得しなければ取引できない。
中国としては、長期的には資本取引を自由化し、人民元に交換性をつけることを最終目
標としているが、中国では資本取引の自由化はどの段階にあるか考えてみる。
2-3-3
資本取引の自由化と人民元
中国は長期的には、人民元について資本取引の交換性をつけた後、人民元を交換可能通
貨とする方針でいる。したがって、徐々に資本取引についての制限を緩めていく方針であ
る。
中国の資本取引開放の方針は以下のようなものがあげられる。先に流入を緩め、後に流
出を緩めること。先に長期資本流動を開放し、後に短期資本流動を開放すること。先に金
融機関管理を開放し、後に非金融機関と住民個人の管理を開放すること、などである。
総じていえば、中国の為替相場体制改革の重要な内容は次の二つである。資本取引の厳
格 な 管 理 を 徐 徐 に 自 由 化 す る こ と 、 為 替 相 場 変 動 幅 を 徐 徐 に 拡 大 す る こ と で あ る 。 1998
年以降、中国は資本取引管理を徐徐に緩めてきた。国際通貨基金が確定した 43 の資本取
引項目のうち、厳格な管理のものは全体の 2 割に達していないとされる。
2-4
外国為替相場理論と人民元
これまで見てきたとおり、人民元相場は中国政府当局が意図的に定めてきたといっても
過言ではない。しかも、既述の通り、中国政府が意図的に相場水準を決めることができる
現行方式が、中国の現実の国情に合っているというのである。計画経済から市場経済への
15
過度期にある中国にとって、人民元為替相場が外国為替市場で決まるのであれば、外国為
替相場理論を適用する余地があるが、相場が恣意的に決められているのが現状である。
2005 年 7 月の人民元相場形成メカニズム改革後の相場も、通貨バスケットは参考であり、
通貨バスケットの数字通りに動いているわけではない。
対外開放前の人民元為替相場水準について、関係者の次のような見方がある。
「西側主要通貨に対する人民元相場を変動させるとき、相対的に中間より上に偏った水
準に保つべきである。こうすれば、人民元が国際通貨の中で安定と威信を保てる。こうす
ることによって、国際的に突発事件が起きて、為替相場が大幅に下落したりするリスクを
回避することができる。」 1 )
また、対外開放後には、人民元相場は、中国の輸出に有利なように設定された。為替管
理局関係者はおよそ次のように記している。
「過去に、人民元為替相場が中国の輸出入貿易の調節作用を発揮させるために、一般に
はすべて輸出外貨換算コストを為替相場水準の基礎としていた。
あわせて、輸出外貨換算コストの変化状況に基づいて、適時に人民元相場水準を調整し
ていた。たとえば、1981 年の内部決済相場は、輸出外貨換算コストに一定の経営利潤を加
えて決めていた。1985 年、1986 年の人民元相場の調整も、輸出外貨換算コストに追随し
て引き下げていた。1994 年以来、中国のマクロ経済に構造的な変化が生じた。人民元相場
の形成と運行メカニズムにも実質的な変化が生じた。」 2 )
2-5
人民元に対するバラッサ=サミュエルソン効果
長期的視点から人民元のとりうるトレンドを考えてみよう。ここでは、人民元に対する
バラッサ=サミュエルソン効果についても考えるために、生産性上昇率を考慮に入れた分
析を行う。 3 )
バラッサ=サミュエルソン仮説とは次のようなものである。製造業部門などの貿易財部
門の生産性はサービス部門など非貿易財部門の生産性と比較して上昇率が高いことを仮定
する。小国開放経済を仮定し、貿易財部門の企業が世界市場での価格受容者であるとする
と、貿易財部門の生産性上昇率が高い状況下では、貿易財部門の企業は賃金率を上昇させ
)吴 念 鲁 , 陈 全 庚 『 人 民 币 汇 率 研 究 』 中 国 金 融 出 版 社 1989
) 刘 光 灿 『 中 国 外 汇 体 制 与 人 民 币 自 由 兑 换 』 中 国 財 経 出 版 社 1997
3 ) バ ラ ッ サ = サ ミ ュ エ ル ソ ン 仮 説 を 用 い た 研 究 の 代 表 例 と し て 、 Froot and Rogoff[1995]が あ る 。 ま た 、 ア ジ ア の
通 貨 で バ ラ ッ サ = サ ミ ュ エ ル ソ ン 仮 説 の 検 証 を 試 み た 研 究 と し て 、Ito, Isard, Symansky, and Bayoumi [1996], Ito,
Isard and Symansky[1998]が あ る 。
1
2
16
る。部門間での労働の移動性を仮定すると、貿易財部門の賃金率の上昇は、非貿易財部門
の賃金率に影響を及ぼす。非貿易財部門の企業は利潤を維持するため、財の価格を上昇さ
せ、賃金率を上昇させることで対応する必要がある。したがって、消費者物価指数(CPI)
など貿易財だけでなく非貿易財を含む一般物価指数は、貿易財の価格が不変の水準に保た
れていても上昇してしまう。消費者物価指数を基準として計算された購買力平価(PPP)
は、生産性の高い国々で過小評価される傾向にある。したがって、生産性の高い国々の通
貨は、消費者物価指数を基準とした購買力平価と比較して切り上げるべきなのである。
ここで、バラッサ=サミュエルソン効果を説明するための簡単なモデルを提示する。 1 )
まず、次のような、貿易財部門(T)と非貿易財部門(N)が存在している自国経済と、
外国経済(*印で表示)を考える。自国は、外国には影響を与えられないほどの小国であ
ると仮定する。また、各国で貿易財部門と非貿易財部門との間では労働者が自由に移動で
きると仮定する。ただし、労働者の国際間の移動は不可能であるとする。すると、名目賃
金率(W)は貿易財部門と非貿易財部門との間で等しくなる。単純化のため、貿易財価格
(P T )と非貿易財価格(P N )はそれぞれ、名目賃金率を貿易財部門の生産性(α T )も
しくは非貿易財部門の生産性(α N )で割ったものに等しくなると仮定する。
また、貿易財については、国際的な商品裁定が動き、一物一価の法則が成立することを
仮定する。
自国における貿易財の価格(P T )と非貿易財の価格(P N )は次のように表される
P T =W/α T
(1)
P N =W/α N
(2)
外国における貿易財の価格(P T * )と非貿易財の価格(P N * )は次のように表される。
P T * =W * /α T *
(3)
P N * =W * /α N *
(4)
貿易財についての一物一価の法則より、自国と外国の貿易財の価格は次のように均等化さ
れる
P T =SP T *
(5)
(1)、(3)、(5)、式より、次のような方程式を導出できる。
S=Wα T * /W * α T (6)
1
)
伊藤隆敏・小川英治・清水順子
『東アジア通貨バスケットの経済分析』東洋経済新報社
17
2007
p121
(6)式は、変化率を用いて次のように書き換えることができる。
S=(W-W * )+(α T * ―α T )
(7)
(7)式は生産性上昇率が高いほど自国通貨を増価させるということを表す。高い生産
性上昇率は、貿易財の価格を低下させる。外国の貿易財に対するその国の貿易財の相対価
格が低下するならば、当該国の通貨は増加しなくてはならない。長期的な観点から、中国
経済が先進国からの直接投資によって資本ストックを蓄積し、技術移転によって技術を高
めていくことが予想され、中国における労働の生産性は上昇していくであろう。したがっ
て、生産性上昇に伴う人民元の増加が長期的に起こってくるであろう。
表4
生産性上昇率、名目賃金変化率と人民元に対する効果 1 )
中国(2000~02 年)
ア メ リ カ (2000~ 03
日本(2000~03 年)
韓国(2000~03 年)
年)
財のシェ
貿易財
非貿易財
貿易財
非貿易財
貿易財
非貿易財
貿易財
非貿易財
67.84%
32.16%
24.88%
75.12%
32.56%
67.44%
49.78%
50.22%
8.08%
4.17%
3.49%
0.90%
2.77%
-0.28%
1.74%
2.00%
6.74%
8.55%
-0.61%
4.28%
-0.24%
0.29%
8.90%
10.44%
ア
生産性上
昇率
名目賃金
変化率
1) (出所)
中 国:中 国 社 会 科 学 院 提 供 、ア メ リ カ:OECD STAN Date Base、日 本:OECD STAN Data Base、
賃 金 構 造 基 本 統 計 調 査 、 韓 国 : OECD STAN Date Base, Korea Statistical Yearbook.
18
表5
人民元に対する効果 1 )
対米ドル
対日本円
対韓国ウォン
生産性上昇率
年率 4.6%の増価
年率 5.3%の増価
年率 6.3%の増価
生産性上昇率による効
年率 2.8%の減価
年率 1.7%の減価
年率 8.5%の増価
年率 0.7%の過大評価
年率 0.8%の過大評価
年率 1.4%の過小評価
果 +名 目 賃 金 変化 率 に よ
る効果
バラッサ=サミュエル
ソン効果
(注)生産性は、実質生産量を雇用量で除したものとして定義した。
表 4 に示されているように、中国(2000~02 年)、アメリカ、日本、韓国(2000~03
年)における貿易財部門の生産性上昇率はそれぞれ 8.08%、3.49%、2.77%、1.74%であ
る。一方で、それぞれの国の貿易財部門における名目賃金率の変化率はそれぞれ 6.74%、
-0.61%、-0.24%、8.90%である。生産性が現在の率で上昇していくと仮定すると、生
産性上昇率のみで、人民元は米ドルに対して年率 4.6%、日本円に対して 5.3%、韓国ウォ
ンに対して 6.3%増加することが分かる。ただし、名目賃金率の上昇を考慮すると、人民
元は米ドルに対して年率 2.8%減価、日本円に対して 1.7%減価、韓国ウォンに対して 8.5%
増価することになろう。
次に、非貿易財の要素を取り入れたバラッサ=サミュエルソン仮説の本質的な部分を説
明する。一般物価水準は、貿易財価格と非貿易財価格の加重平均として次のように表現さ
れるとする。
P=P T ω T P N ω N
(8)
P * =P T ω T* P N ω N*
(9)
ただし、ω T :CPIにおける貿易財のシェア、ω N :CPIにおける非貿易財のシェア。
購買力平価(S PPP )が自国と外国の一般物価水準の比率(P/P * )として定義されるとす
ると、S PPP =P/P * を対数表示にして、(8)、(9)式を代入し、さらに、(1)~(4)式を代
入すると、次のような式を表すことができる。
logS PPP =log(P/P * )=logS+ω N (logα T -logα N )- ω N * (logα T * -logα N * )
1) (出所)
(10)
中 国:中 国 社 会 科 学 院 提 供 、ア メ リ カ:OECD STAN Date Base、日 本:OECD STAN Data Base、
賃 金 構 造 基 本 統 計 調 査 、 韓 国 : OECD STAN Date Base, Korea Statistical Yearbook.
19
ただし、S PPP :CPIで測った購買力平価、S:貿易収支を均衡させる為替レート。*をつけ
た変数は外国の変数を表す。
(10)式は、変化率で表現すると次のように書き換えることができる。
S PPP =S+ω N (α T -α N )-ω N * (α T * -α N * )
(11)
長期においては、通貨当局は真の均衡為替レートと CPI に基づいた購買力平価との間の
乗離をもたらす生産性上昇率に基づいてターゲットとする通貨バスケットの水準と構成を
調整しなければならない。通貨当局が米ドル、日本円などを構成通貨とする通貨バスケッ
ト制度をとる場合、
(11)式に従って、中国の生産性上昇率だけでなく、外国の生産性上昇
率をも考慮に入れるべきである。
(11)式によれば、人民元の購買力平価は、一物一価の法則の下での為替レート((11)
式のS)米ドルに対して年率 0.7%過大評価、日本円に対しては 0.8%過大評価、韓国ウォ
ンに対しては 1.4%過小評価されることが推計される。
第三章
先行研究
本章では、6 人の学者の理論を挙げて研究した。この 6 人の学者は全員中国為替制度に
ついて論じている。しかし、この 6 人の学者はそれぞれ違う観点を持っている。たとえば、
通貨バスケット制度は中国で実行するのは難しい、中国は変動相場制を選択すべき、中国
は変動相場制をとるか通貨バスケット制をとるかもう少し様子をみる、などが挙げられる。
特に伊藤隆敏(2007)の回帰分析事例は大変参考になった。
3-1
宿輪
純一
(2004) 1 )
主な要点としては三つ上げられる。
①、
アジア通貨危機後、アジアの通貨制度は中国とマレーシアを除き概ね変動相場制
になった。一方で「円の国際化」の成果は芳しくない。
②、
中国は徐徐に変動幅を広げ、変動相場制移行を検討しているが、問題はそのスピ
ードである。
③、
変動相場制下で、アジアの貿易は拡大した。アジアの健全な成長と日本の構造改
革推進のためにも変動相場制推進が望ましい。
変動相場制という大いなる実験も 30 年間余りが過ぎた。スタートしたときとの経済状
況の違いは、資本の移動の増加が当初の予想よりも大きくなったことである。
1) 宿輪純一
UFJ銀行エコノミスト・東京大学大学院教官
20
通貨(為替レート)を考えるときに、ファンダメンタルズ(基礎的条件)が重要となる。
しかし、その言葉に勘違いがある。いわゆる(経済の)ファンダメンタルズと、通貨のフ
ァンダメンタルズは違うのである。通貨のファンダメンタルズは、経常収支(貿易収支)
とインフレ率(金利)が主たる構成要素である。これらは通貨の売買(需給)に直接関係
するものである。失業率や経済成長率の高い、低いは、直接的に通貨の売買に影響を及ぼ
さない。あくまでも間接的な影響を及ぼさない。経常収支(貿易収支)とインフレ率(金
利)の視点が、いつも重要なのである。
変動相場制を導入した理由はいろいろあった。経済で問題になるのは、ギャップである。
そのギャップの広がりが、限界を超えたときに破綻を招くのである。まず、貿易において
は、企業の売り上げに近いが、輸出が大きいほうが望ましい。一時的に貿易条件をよくす
るためには、為替レートを低めに設定する。当然の結果として、各国は為替レートの引き
下げ競争となり、過去には戦争という結果になった。そのため基本的には国家の通貨当局
が、恣意的に為替レートを動かせないような制度にしたのである。基本的な考え方は、変
動相場制のしたでは貿易収支(経常収支)を「均衡」させる方向に、為替レートは自律的
に動くのである。
二つ目の、インフレ率、つまりインフレ・デフレといった貨幣的な状況も重要な要因と
なる。まず基本的な原理とすれば、購買力平価とも言えるが、デフレの通貨とインフレの
通貨があった場合、通貨の価値はデフレ通貨のほうが高く、デフレ通貨のほうが買われる
ことになる。最近の経済状況ではデフレが主流になってきたが、以前の成長期の経済では
インフレが主流であった。この場合、固定相場制の場合、ある国でインフレ率が高まると、
固定相場制によって他の国にダイレクトに伝播することになった。変動相場制の場合は、
高いインフレ率などの経済ショックの伝播を、為替レートの変動によって食い止めること
ができた。これはデフレのときも同様である。
現在の経済状況から考えても、変動相場制のほうが固定相場制よりも望ましい。そもそ
も成長の速度も違う経済を、固定的に結びつけておくという考え方こそ危険なのである。
しかし、企業は経営(計画)の観点から、固定的な為替レートに有益性を見出す。固定相
場制でも為替レートはいつか大きく変動するものである。予想外のときに、突然大きく動
くのがいいのか、毎日少しずつ動いているのが良いのか、という話である。現在は為替レ
ートの変動をヘッジするツールは多数存在しており、それらを活用すればよい。
変動相場制下で、日本とアジア経済の貿易も拡大中である。実はリスクを増幅させる固
21
定的な制度よりも、すべて良いとは言えないが、基本的には変動的な制度が望ましい。
3-2
小野有人(2005) 1 )
中国が採用した「通貨バスケット」を参考にした「管理フロート制」とはどのようなも
のか。
国際通貨基金(IMF)は、管理フロート制を「通貨当局が、特定の為替レート目標を
持たずに、必要に応じて裁量的に為替レートに影響を及ぼそうとする為替制度」と定義し
ている。先般の人民元改革により、人民元の対米ドル基準レートが約 2%切り上がるとと
もに、日々米ドルに対して 0.3%の範囲での相場変動が認められることになった。しかし、
こうした措置は、「特定の為替レート目標をもたない」管理フロート制とは矛盾している。
IMFは、加盟国の公式表明ではなく、実態に即して加盟国の為替制度を分類しており、
これまで中国は「標準的な固定相場制」と位置つけられてきた。人民元の対米ドル相場の
変動幅が、これまでのところ、非常に小幅なものにとどまっていることも踏まえると、実
態的には、中国は、管理フロート制ではなく、引き続き固定相場制を採っていると考えら
れる。
それで、今後中国は通貨バスケット制を採用するのだろうか。
通貨バスケット制の利点は、自国通貨価値が、通貨バスケットを構成する外国通貨の加
重平均で決まるため、特定の外国通貨が大きく変動した際に、その影響を緩和できる点に
ある。たとえば、ドルが円やユーロに対して上昇した場合、中国人民元がドルに連動して
いれば、人民元も円やユーロに対して同率だけ上昇し、輸出競争力が低下する。しかし、
通貨バスケット制であれば、ドルはバスケットの一部にすぎないため、人民元の対円、対
ユーロ増加率はより小さなものにとどまる。実際の増加率は、バスケット構成通貨のウエ
ートに依存するが、仮に貿易相手国との貿易量に応じて構成通貨やそのウエートが設定さ
れていれば、輸出競争力を安定的に保つことができる。このため、東アジア諸国との域内
貿易の比重が高い中国の場合、人民元をドルに連動させるよりも、通貨バスケットに連動
させたほうが、貿易・投資活動の安定化のためには望ましいと考えられる。
中国は、通貨バスケットを為替管理の「参考」にするとしているが、これまでの人民元
相場の動きを見ると、通貨バスケットよりも米ドルへの連動度合いが大きいようである。
中国が、名実ともに通貨バスケット制の採用に踏み切るのかどうか、今後の為替市場の動
きから目が離せない。
1) 小野有人
みずほ総合研究所
政策調査部
上席主任研究員
22
3-3
志雄(2008) 1 )
関
① 中国では、近年外貨準備の急増に伴うマネー・サプライの高い伸びに象徴される流動
性の膨張を背景に、不動産や株式の価格が急上昇し、バブルの様相を呈している。さ
らに、インフレ率も上昇の一途をたどっており、11 年ぶりの高い水準となっている。
流動性の膨張を抑えるために、中国当局は、国際収支黒字の削減と金融引き締めに取
り組んできたが、対ドル安定という為替政策に制約され、所期の効果を挙げるにいた
っていない。
② 対外収支黒字が発生している直接的原因は、人民元レートが割安なために、外貨が供
給過剰になり、当局がそれによる為替レート上昇を抑止する目的で市場に介入してい
ることにある。中央銀行が原則として介入しないという完全な変動制の下では、為替
市場における需給のインバランスは、為替レートの変動によって解消される。仮に経
常収支が黒字になっても、必ず資本収支の赤字に相殺されることになり、その結果、
流動性の膨張がその発生源で止められることになる。このように、完全変動制への移
行こそ、流動性の膨張を抑えるもっとも有効な手段である。
③ 日本は 1973 年 2 月に変動制に移行したが、そのきっかけは、まさに 1971 年以降、外
貨準備とともにマネー・サプライが急増したことである。現在の中国も、流動性の膨
張を抑えるための最後の手段としては、もはや完全変動制への移行しか残っていない。
3-4
清水
聡(2006) 2 )
中国が為替レートの変動を本格化させるべき理由としては、①資本取引の自由化の前提
条件として必要であること、②現在の実質実効為替レートが適正な水準から乖離している
可能性があること、③外国為替市場を整備するに当たって、為替変動が限定的な現在の制
度では限界があること、④人民元の切り上げ期待を緩和させ、資本流入の拡大と外貨準備
の増加を抑制するために有効であること、などがあげられる。
また為替変動の本格化が遅れることにより、①外貨準備の増加と不胎化政策がもたらす
コストの増加、②短期対外債務の増加、③貿易財部門への過剰な投資、④線四国の保護主
義の高まり、などの問題が拡大する可能性が高い。
(1)為替制度の選択
為 替 制 度 の 選 択 に 当 た っ て は 、 中 間 的 な 制 度 の 長 期 的 な 存 続 を 否 定 す る 二 極 論 ( The
1) 関志雄
2)
清水聡
(株)野村資本市場研究所シニアフェロー
環太平洋戦略研究センター調査部主任研究員
23
Bipolar View)がある。これは、
「中間的な制度は通貨危機に見舞われやすく、長期的には
存続が不可能である。どの国においても、為替制度は厳格な固定相場制か、自由変動相場
制のどちらかを選択すべきである」とする考え方である。90年代後半には、通貨危機の
続発を受けてこのような考え方が多くの支持を受けた。
しかし、実際には、中間的な制度から離脱しようとする途上国は、別の中間的な制度か
変動相場制に向かう場合が多い。中国の場合も、ハード・ペッグを目先の目標とすること
は現実的と思われず、いわゆるBBC(バンド、バスケット、クローリング)の要素をい
くつか採りいれるか、あるいは管理変動相場制を経て自由変動相場制に向かうかの選択肢
しかないであろう。もちろん、これらに切り上げを組み合わせることは考えられる。
このうち、クローリング(Crawling)を採りいれる可能性は少ないと見られる。クロー
リング・ペッグ制あるいはクローリング・バンド制は、自国とペッグ対象通貨国とのイン
フレ率格差を、為替レートの規則的な変更により反映させる制度である。通常は、自国の
インフレ率が高い場合に、対外競争力の維持やインフレの抑制を目的として、名目レート
を段階的に切り下げる政策運営を行うことになる。中国の場合、このような高インフレで
はない。また、この制度は為替政策を金融政策の一環として捉える考え方を重視しており、
金融政策が発展途上にある中国では、制度設計が難しいと思われる。
今回の切り上げ後の人民元レートの推移を見ると、きわめて緩やかな上昇が続いており、
「事実上のクローリング・ペッグ制」ともいえる状況にある。したがって、あえてクロー
リングを制度化する必要はないと考えることもできよう。
現在の制度は、
「 市場の需給に基づき、通貨バスケットを参考に調整した管理フロート制」
である。また、対ドルレートの変動幅は中間レートの上下 0.3%であり、そのほかの通貨に
対するレートの変動幅は上下 3%である。したがって、バンドとバスケットの要素が採り
いれられていることになるが、切り上げ後の政策運営を見ると、中心値を固定したバンド
制よりは柔軟な制度となっている。また、バスケットの構成通貨は明らかにされたものの、
対ドルレートの変動が小さいため、通貨当局がバスケットの価値の安定を図っていると仮
定すれば、ドルの比率が極めて高いと解釈せざるを得ず、それをバスケットと呼ぶ意味は
小さいと考えられる。
対ドルレートの変動幅(バンド)は、
「今後適当な時期に調整する」ことが表明されてお
り、段階的に拡大されることとなろう。その際には、人民元の持続的な上昇を防ぐために、
中間レートが再び固定される可能性もある。また、当面は人民元の上昇圧力が強く、人民
24
銀行の市場への関与は容易に減らないと予想される。理想的には、バンドの拡大によって
投機的な圧力が次第に弱まり、為替介入が減少することが望ましい。
(2)中国にとっての通貨バスケット制
バスケットの採用に当たっては、当然のことながらメリットとデメリットを伴う。その
場合、どの制度と比較しているかを常に明確にしなければならない。
まず、
「通貨バスケットを参考とする」のは、対外競争力を重視する途上国においてはある
程度当然のことである。アジア諸国でも、韓国やタイの実質実効レートはかなり安定的に
推移している。問題は、バスケットの詳細な内容(通貨の構成比率や許容変動幅など)を
公表する公式の通貨バスケット制を採用するか否かである。
表6
Benefits and Costs of a Basket Peg Regime 1 )
Benefits
Costs
Fewer fluctuations in trade balances (or
Not crisis-proof (less chance of misalignment, but not
gross domestic product fluctuations),
perfect, could lose foreign reserves)
compared with soft peg
No transparency, and calculation of the basket may be
Moderate capital flows. Adds some currency risk to
too complicated
prevent a ‘one-way bet’(risk of being attacked is
Not completely flexible (compared with the floating
smaller than in fixed exchange rate regime)
exchange rate regime)
Adds
flexibility
in
managing
external
shocks
Loses a nominal anchor (compared with the fixed
(compared with a fixed exchange rate regime)
exchange rate regime),leading to possibly higher risk
Adopts similar baskets in the region, so that regional
premium of interest rate
currencies with strong trade ties appreciate and
Precludes policy coordination among the neighboring
depreciate together
countries (solving coordination failure, Ogawa and Ito
通貨バスケット制(バスケット・バンド制)を採用する最大のメリットは、名目あるい
1 ) 出所:Asian
Development Bank ed (2004). Monetary and Financial Integration in
East Asia: The Way Ahead(Vol.1,Vol.2)
25
は実質の実効為替レートを安定させることにより、貿易収支の安定化に貢献する点にある。
これは、マクロ経済運営の観点に立ったメリットといえる。
これは、バスケットの内容を公表しなくても実現することが可能である。たとえば、シ
ンガポールは、通過の構成比率も許容変動幅も公表しない通貨バスケット制を採用してい
る。ただし、このような制度は、公式には通貨バスケット制ではなく、管理変動相場制に
分類される。
表7
バスケット・ペッグ制のメリットとデメリット 1 )
メリット
デメリット
・
単一通貨ペッグに比較して貿易収支の安定が
・ 通貨危機を回避できない。
図れる。
・ 透明性がない。バスケットの構成比率の算出は
・
・
単一通貨ペッグに比較して資本フローが緩や
複雑になる可能性がある。
かになり、経済主体の為替リスクが減少し、通
・ 変動相場制に比較して柔軟性にかける。
貨危機の可能性も低下する。
・ 単一通貨ペッグに比較してノミナル・アンカー
単一通貨ペッグに比較して外的ショックへの
を失う。
対応が柔軟となる。
・ 変動相場制と異なり、ミスアライメントを防ぐ
ことができる。
一方、通貨バスケット制のデメリットとしては、第一に、変動相場制などより柔軟な制
度と比較して、投機的な攻撃に弱いことがあげられる。投機的な攻撃の対象となるのは、
為替レートに関して何らかの固定的な取り決めをしている場合である。中国の場合、柔軟
性の低い制度から高い制度に移行する過程にあり、どの制度を使用するとしても、当初は
柔軟性の低さから投機に弱いことになるため、この点が通貨バスケット制を選択しない理
由にはならないかもしれない。しかし、通貨バスケットを中心値にした場合でも、資本取
引自由化の進展に伴い、バンドを次第に拡大する必要がある。中国が単独でバンドの狭い
通貨バスケット製を運営し続けることは、容易ではないであろう。また、通貨バスケット
1 ) 出所:Asian
Development Bank ed (2004). Monetary and Financial Integration in
East Asia: The Way Ahead(Vol.1,Vol.2)
(日本語訳)
26
制を採用する場合、バスケットの構成比率が大きな問題となることはいうまでもない。
投機に対する脆弱性に対処するためには、通貨の構成比率は公表しないほうが良いであ
ろう。通貨当局の信認が低い場合には、制度の透明性が重要になるという指摘があるが、
投機的な攻撃に対する配慮はきわめて重要であると思われる。
第二に、ドル・ペッグ制に近い現在の制度と比較した場合、通貨バスケット制ではドル
以外の通貨に対する安定性が増やす反面、ドルに対する安定性は低下することが上げられ
る。特定の通貨で取引する企業や個人などの経済主体は、自分の取引する通貨に対する人
民元の安定を望むのが通常であろう。外国為替市場における取引通貨の構成比率を見れば、
大半の経済主体はドルに対する安定を望むと考えられる。為替リスクヘッジ手段が整備さ
れていない中では、この点への配慮は非常に重要である。
対ドルレートの変動幅の拡大を容易に実施できない現状では、通貨バスケット制の採用
は難しい。現在の変動幅のままで通貨バスケット制を採用した場合には、ドルの比率が極
めて高くなければバスケットの価値は安定しない。
この点は、変動幅を拡大すれば解決していくことになるが、通貨バスケット制の採用を
明示しつつ、個別の通貨に対する変動もコントロールするというやり方は複雑である。
以上の検討を踏まえると、中国が通貨バスケット制を採用する場合に最大のネックとな
るのは、為替取引においてドルが支配的であるために、対ドルレートの変動幅の拡大を段
階的にしか進められない点である。現実的な選択肢としては、対ドルレートの変動幅を段
階的に拡大し、実質実効レートの安定を図る中で、バスケットの詳細は公表しないという
ことになろう。通貨バスケット制を明示的に採用するとしても、かなり先のことであろう。
長期的には、自由変動相場制がもたらすミスアラインメントを重視し、通過バスケット
制を選択することも考えられるが、既に述べたとおり、単独でこれを維持し続けることは
難しい。アジア諸国との為替政策の協調の中で通貨バスケット制を実施することが、一つ
の選択肢であろう。
3-5
白井早由里(2006) 1 )
一般的に、国際資本移動の自由化、金融政策の独立性、固定相場制の維持という三つの
目標を同時に実現することはきわめて難しいことが「国際金融のトリレンマ」として知ら
れている。中国では、現在、自国の景気変動に合わせて国内金利を独自に調整しており、
1)
白井早由里
慶応大学教授
27
独立した金融政策を実行している。また、現在でも事実上のドル・ペッグ制を採用してお
り、人民元の対ドルレートの安定化を優先している。この二つの目標を実現するというこ
とは、国際資本移動の自由化を制限せざるを得ないことになる。
長期的には、中国は国際資本移動の自由化を目指すと考えられる。国際資本移動が自由
化されれば、民間企業の資金調達手段の多様化、国内投資家や家計の投資先の多様化と投
資リスクの分散、国内企業の海外進出に伴う資金調達の円滑化、貿易信用取引の自由化と
貿易促進などさまざまな効果が期待できるからである。国際資本移動の自由化を促進する
時期が来れば、中国政府は独自の金融政策の維持と固定相場制の維持との間で二者択一を
しなければならない。中国のように市場規模が大きい国では景気対策として金融政策によ
る調整手段を失うのはきわめて難しい。となると、中国がとるべき道はドル・ペッグ制を
放棄して、より柔軟な為替制度へ移行すべきということになる。
それでは、柔軟な為替制度の中では、どの為替制度が中国経済にとって望ましいのだろ
うか。東アジア経済危機からの教訓として、固定相場制を採用する場合には単一通貨のド
ルに対して自国通貨を安定化させるよりも、ドル、円、ユーロから構成される通貨バスケ
ットに対して自国通貨を安定化させる通貨バスケット制が望ましいことはよく知られてい
る。ドル・ペッグ制と比べて通貨バスケット制の場合には人民元の円やユーロに対するレ
ートが大きく変動する状態を回避できる。中国は日本やEUとの貿易・投資などの経済取
引が大きいため、これらの通貨を含めた実効為替レートの変動を安定化するのが適してい
る。バスケットの中の各通貨の比重については、中国の輸出入貿易の総額に占める米国、
日本、EUそれぞれとの貿易額の割合をとるのが一般的である。ただし、投機攻撃を弱め
るためにも、比重の変更、公定レートの変更、比較的緩やかな変動幅の設定を含む、緩や
かな通貨バスケット制を適切である。
こうした自国通貨を複数通貨の加重平均レート(名目実効為替レート)に対して安定化
させる通貨バスケット制のほかに、複数通貨の実質実効為替レートを安定させる通貨バス
ケット制も検討する価値があろう。貿易・投資の安定的な拡大にとって問題となるのは名
目実効為替レートではなく、中国との相対的な物価水準を示す実質実効為替レートである
からである。そして実質実効為替レートを安定させながらも、一定の変動範囲の中で市場
の需給関係による変動を可能とするターゲット・ゾーン制との組み合わせが適切であると
考えられる。
最後に、変動相場制への転換と資本移動の自由化のタイミングはどちらを先行させるべ
28
きなのだろうか。大勢を占める見解は、Eichengreen(2004)のように、変動相場制への
転換が先行すべきというものである。その理由は、国内銀行の不良債権問題が残り、銀行
のリスク管理能力に問題がある中で資本移動を自由化すると、こうした問題を悪化させる
可能性があるからである。資本移動の自由化の前に、銀行改革、プルデンシャル規制の改
善、資本市場の育成、企業改革などの一連の構造改革が必要である。一方、中国人民銀行
が為替レートの変動をスムーズにする目的で外国為替市場に介入するのであれば、変動相
場制に移行した後に為替レートが大きく変動する状態を回避できる。その結果、地場企業
に及ぼす打撃を緩和することができる。また、外資系企業は委託加工貿易が多いので、人
民元の切り上げが輸出に及ぼすマイナスの影響を緩和できる。したがって、変動相場制へ
の移行を優先させるべきであるということになる。
ただし、変動相場制へ移行した直後は人民元の切り上げが持続すると予想されるので、
切り上げがもたらす、農業部門、失業問題、所得格差、外貨準備の評価損などへの負の効
果についてもっと慎重に検討する必要があろう。将来の抜本的な変動相場制に向けて、中
国政府が今取るべき為替政策はこうした負の影響を考慮しつつ、人民元の対ドル相場の変
動幅を徐徐に拡大していくことであろう。
3-6
①、
伊藤隆敏など(2007) 1 )
最近人民元の実効為替レートの動き
2005 年が 7 月 21 日以前は、人民元はドル・ペッグ制度の下で米ドルに固定されていた。
その一方で、人民元はほかの重要貿易相手国の通貨に対して変動していた。人民元改革の
発表後、主要貿易相手国通貨の加重平均に対する人民元価値、つまり、実効為替レートは
変動している。具体的には、アメリカ以外の主要貿易相手国の通貨に対して人民元は大き
く変動しているし、米ドルに対しても、変動幅は小さいものの変動している。
人民元の名目実効為替レート(NEER)を、中国の主要貿易相手国・地域(アメリカ、
EU、香港、日本、韓国、イギリス、シンガポール、ロシア、オーストラリア)に対する
輸出額に基づく貿易ウェイトに基づいて計算した。加えて、貿易相手国との間のインフレ
ーション格差を考慮に入れて調整した、実質実効為替レート(REER)を計算した。名
目実効為替レートと実質実効為替レートをともに 2005 年 1 月 3 日の値を1に基準化して
いる。
1)
伊藤隆敏
東京大学大学院経済学研究科・先端科学技術研究センター教授
29
②、
通貨バスケットを参考する管理フロート制度
中国政府は為替相場制度を、通貨バスケットを参照する管理フロート制へ移行させると
発表した。ここで、中国政府が採用した、通貨バスケットを参照する管理フロート制とは、
いったいどのようなものかについて考えてみたい。
まず、固定為替相場制度と管理フロート制の区別について考えてみたい。固定為替相場
制度の下では、固定させる先の通貨が米ドルであれば、米ドルとの交換レートを一定に保
つと宣言している、ということである。次に、ある通貨バスケット価値に対して、固定為
替相場制を採用するということは、通貨当局は通貨バスケットの構成と割合を発表するこ
とで、目標とする為替レートの水準を事前に発表することと同じ意味を持つ。事前に発表
されたルールに基づいて、通貨当局は為替レートを公表した水準に固定するために、外国
為替市場へ介入しなければならない。
管理フロート制度の下では、水準について目標前後にある程度の幅を持つ、あるいはそ
の許容水準幅の中でも急速な変化は嫌う、というような形の選考を、通貨当局が持ってい
ると考えられる。為替レートの水準と変化率についてある程度の許容範囲を持ちつつ介入
を行う。事前に為替介入のルールを発表する必要はない。したがって、固定為替相場制度
には透明性と説明責任がかけると指摘される(Frankel, Schmukler , and Serven2002 参
照)。ただし、管理フロート制であっても、変動許容幅の上限や下限を明示するような、透
明性のある管理フロート制(ターゲット・ゾーン制)を構築することも可能である。
次に、管理フロート制について、「通貨バスケットを参照する」場合と、「通貨バスケッ
トにペッグさせる」場合の区別について考えてみたい(通貨バスケットの具体的な考察に
ついては、Ogawa,Ito,and Sasaki2004 参照)。管理フローと制の下で、通貨バスケットを
「参照する」政策を行うという場合は、その運用しだいでは、固定為替相場制度の下で通
貨バスケットに「ペッグ」する場合と比較して、透明性と説明責任にかける。透明性と説
明責任に欠けている為替相場政策ルールの下では、通貨当局は不明瞭な為替相場政策を行
いがちであり、為替レートに対する政策的な観点からの「操作」(manipulation)を行っ
てしまう可能性がある。不明瞭な為替相場政策や、為替レートに対する操作の可能性は、
通貨当局の意向に追随するような期待をもって行動する「ハネムーン効果」
(Kurgman1991 参照)を、通貨当局が期待することはできない。
他方で、通貨当局の為替相場政策に対する不完全情報もしくは非対称情報が存在する場
合には、通貨当局の外国為替市場に対する介入は為替レートに対してより強い効果をもた
30
らす可能性がある。なぜならば、通貨当局と民間部門との間で不完全または非対称情報が
存在する場合、通貨当局は市場参加者に対してサプライズを与えることができるからであ
る。
③、
中国の通貨バスケットの構成
通貨バスケット内の構成通貨を決定する方法や、通貨バスケット内の各構成通貨のウェ
イトを計算する方法にはさまざまな方法がある。ここでは、中国にとってどの方法が最も
望ましいかについて考えてみたい。
通貨バスケット内の構成通貨とそのウェイトを決定する方法は、通貨当局の為替相場政
策の目標によって異なる(Ogawa,Ito and Sasaki2004 参照)。通貨当局が貿易収支を安定
化させるという目標を持っている場合には、実質実効為替レートを安定させるべきであり、
そのため通貨当局はターゲットとする通貨バスケットの中に貿易相手国の通貨を入れるべ
きである。輸出額と輸入額を合計した貿易量の面から考えると、中国はアメリカ、EU、
日本それぞれに対しておよそ 15%、15%、15%の貿易量シェアを持っている。もしEU
と日本以外の国々の通貨が米ドルに対して強い連動性を持っていると仮定した場合、通貨
バ ス ケ ッ ト 内 の 米 ド ル 、 ユ ー ロ 、 日 本 円 の 割 合 は 70% 、 15% 、 15% と な る 。 さ ら に 、
Ito,Ogawa,and Sasaki1998 は、輸出と輸入に対する為替レートの弾力性を考慮すべきで
あると指摘している。弾力性を考慮に入れることは分析を複雑化させるが、貿易収支を安
定化させるためにはより妥当であるといえる。中国にとって現在、貿易収支の安定化は為
替政策の重要な目標と考えられる。また、現在、中国は資本規制によって短期資本取引を
規制しているため、上記の方法を採用することで、大きな為替レートの変動を防ぐことが
できる、と考えられる。
④、
Frankel and Wei 1994 の手法を用いた推計
ここでは、中国の通貨当局が実際に通貨バスケット制度を採用していたかどうかを実証
的に分析する。分析手法は、Frankel and Wei1994 で使用されたものを用い、人民元が三
つの通貨(米ドル、日本円、ユーロ)にどれくらいのウェイトを置いていたかを推計する。
Frankel and Wei1994 に従い、スイス・フランをニュメレートとして為替を計算する。推
計には日次データを用い、人民元対スイス・フラン為替レートの対数階差を、上記の3通
貨の対スイス・フラン為替レートの対数階差に回帰する。
Δlog e RMB/SFR =α 0 +α 1 Δlog e USD/SFR +α 2 Δlog e JPY/SFR +α 3 Δlog e EURO/SFR +є t
ただし、e RMB/SFR :人民元対スイス・フラン為替レート、e USD/SFR :米ドル対スイス・フラ
31
ン為替レート、 e JPY/SFR :日本円対スイス・フラン為替レート、 e EURO/SFR :ユーロ対スイ
ス・フラン為替レート。
推計には、日次データを用い、データの出所はロイターである。2006 年 1 月 4 日、当
日の中心レートの決定方式が変更になっている点に留意する。2005 年 7 月 22 日から 12
月末までは、前日の終値を当日の中心レートとしていたのに対して、2006 年 1 月 4 日以
降は当日の始値を当日の中心レートとしている。そきで、t 日の人民元レートというとき
の時点について、この中心値の定義の変更に伴い、12 月 31 日までは、上海 15:30(東京
16:30)、1 月 4 日以降は、上海 10:00(東京 10:00)の値をとっている。
まず、人民元改革発表の前後での係数の変化を見るために、分析季刊を(1)2005 年 1
月 3 日から 05 年 7 月 20 日まで、(2)2005 年 7 月 22 日から 06 年 6 月 7 日まで、の 2
期間にわけ、推定を行った。
表8
サンプル期間
人民元のバスケット・ウェイトの推計(為替相場制度改革前後) 1 )
定数
米ドル
日本円
ユーロ
修正済み決定
D.W.値
係数
0.0000
1.0000 * * *
0.0000
0.0000
20 日標準偏差
0.0000
0.0000
0.0000
0.0000
2005 年 7 月 22
0.0001 *
0.9672 * * *
0.0169 * * *
-0.0138
0.0000
0.0056
0.0063
0.0136
2005 年 1 月 3
1.0000
2.7130
0.9955
2.5723
日~05 年 7 月
日~06 年 6 月
7 日標準偏差
Chow Test
Chow Test = 8.26274>3.371062(1%水準)
構造変化あり
(注)***、**、*はそれぞれ有意水準 1%、5%、10%で統計的に有意であることを表す。
表 8
に回帰分析の結果を示した。米ドルに対する回帰係数は改革発表直後にやや低下
したものの、1 に近い高い水準にとどまったままであることが分かる。一方で、日本円、
ユーロに対する回帰係数は非常に小さい値をとっている。改革発表後、日本円に対する係
数は、統計的に有意に上昇したことが分かる。また、改革発表の前後で構造変化があった
1 ) 伊 藤 隆 敏 、 小 川 英 治 、 清 水 順 子 『 東 ア ジ ア 通 貨 バ ス ケ ッ ト の 経 済 分 析 』 2007 東 洋 経 済 新 報 社
32
P 116
のかどうかを、Chow Test を用いて検定した。その結果、改革発表の前後で有意に構造変
化があったことが示された。
また、2006 年 1 月 4 日に行われた中心レート決定方式の変更に伴い、政策に変更があっ
たのかを分析するために、分析期間を(1)2005 年 7 月 22 日から 05 年 12 月 30 日まで、
(2)
2006 年 1 月 4 日から 06 年 6 月 7 日まで、に再分割して(sub-sample)推定を行う。推定
式は上と同じである。
表9
サンプル期
人民元のバスケット・ウェイトの推計(中心レート定義変更前後) 1 )
定数
米ドル
日本円
ユーロ
間
修正済み決
D.W.値
定係数
2005 年 7 月
0.0001 * * *
0.9692 * * *
0.0129 * * *
0.0078
0.0000
0.0042
0.0054
0.0124
0.0000
0.9656 * * *
0.0200 *
-0.0235
0.0001
0.0110
0.0108
-0.0235
0.9988
2.3290
0.9915
2.6030
22 日~05 年
12 月 30 日標
準偏差
2006 年 1 月 4
日 ~ 06 年 6
月 7 日標準
偏差
Chow Test
Chow Test =0.41147<1.970704(10%水準)
構造変化なし
(注)***、**、*はそれぞれ有意水準 1%、5%、10%で統計的に有意であることを表す。
表 9 に回帰分析の結果を示した。米ドルに対する係数は、中心レートの決定方式の変更
後、統計的に有意に低下している。また、日本円に対する係数は統計的に有意に上昇して
いる。中心レートの決定方式の変更前後で構造変化があったのかどうかを、Chow Test を
用いて検定した結果、変更の前後で有意な構造変化はないことが示された。
1 ) 伊 藤 隆 敏 、 小 川 英 治 、 清 水 順 子 『 東 ア ジ ア 通 貨 バ ス ケ ッ ト の 経 済 分 析 』 2007 東 洋 経 済 新 報 社
33
P 116
表 10
4 通貨の変化の相関係数 1 )
(2005 年 1 月 3 日~05 年 7 月 20 日)
人民元
米ドル
日本円
人民元
1.0000
米ドル
1.0000
1.0000
日本円
0.6214
0.6214
1.0000
ユーロ
0.4606
0.4606
0.2667
表 11
ユーロ
1.0000
4通貨の変化の相関係数 2 )
(2005 年 7 月 22 日~06 年 6 月 7 日)
人民元
米ドル
日本円
人民元
1.0000
米ドル
0.9977
1.0000
日本円
0.5563
0.5476
1.0000
ユーロ
0.3771
0.3805
0.3382
ユーロ
1.0000
表 10 表 11 において、分析期間内の 4 通か(人民元、米ドル、日本円、ユーロ)の相関
係数を示した。人民元と米ドルの間の相関係数は為替相場制度改革前に 1 であった。改革
後にやや相関係数は低下しているものの、いまだ1に近い値を取っていることが分かる。
1 ) 伊 藤 隆 敏 、 小 川 英 治 、 清 水 順 子 『 東 ア ジ ア 通 貨 バ ス ケ ッ ト の 経 済 分 析 』 2007 東 洋 経 済 新 報 社
2 ) 伊 藤 隆 敏 、 小 川 英 治 、 清 水 順 子 『 東 ア ジ ア 通 貨 バ ス ケ ッ ト の 経 済 分 析 』 2007 東 洋 経 済 新 報 社
34
P 117
P 117
表 12
アジア他通貨のバスケット・ウェイトの推計 1 )
(2005 年 7 月 22 日~06 年 6 月 7 日)
定数
米ドル
日本円
ユーロ
修正済み決
D.W.値
定係数
0.0002
0.6219 * * *
0.2162 * * *
0.2343 * * *
偏差
0.0001
0.0223
0.0254
0.0542
韓国ウォン
0.0003
0.5382 * * *
0.3394 * * *
0.1864 *
0.0002
0.0446
0.0512
0.1098
0.0004*
0.5937 * * *
0.2905 * * *
0.3884 * * *
0.0002
0.0403
0.0460
0.0989
0.0000
0.9908 * * *
0.0105 * * *
-0.0044
0.0000
0.0020
0.0023
0.0049
0.0001
0.8869 * * *
0.0932 * * *
0.0685 * * *
0.0001
0.0221
0.0251
0.0533
シンガポー
0.8988
2.1370
0.6817
2.0190
0.7539
1.9418
0.9994
1.8672
0.9291
2.1119
ル・ドル標準
標準偏差
タイ・バーツ
標準偏差
香港ドル標
準偏差
マ レ ー シ
ア・リンギ標
準偏差
(注)***、**、*はそれぞれ有意水準 1%、5%、10%で統計的に有意であることを表す。
次に、一般に通貨バスケットに連動している通貨として知られる、シンガポール・ドル、
韓国ウォン、タイ・バーツを比較する。上述した Frankel and Wei 1994 の手法を用いて、
バスケット・ウェイトの推計を行った。
結果は表 12 に示されている。米ドルのウェイトは、シンガポール・ドルで約 62%、韓
国ウォンで約 53%、タイ・バーツで約 59%となっている。人民元、マレーシア・リンギ、
香港ドルの約 90%を超えるドルのウェイトと比較すると、これらの通貨バスケットにおけ
るドルのウェイトははるかに小さい。日本円のウェイトは、シンガポール・ドルで約 22%、
韓国ウォンで約 34%、タイ・バーツで約 29%となっており、いずれも統計的に有意である。
1 ) 伊 藤 隆 敏 、 小 川 英 治 、 清 水 順 子 『 東 ア ジ ア 通 貨 バ ス ケ ッ ト の 経 済 分 析 』 2007 東 洋 経 済 新 報 社
35
P 117
ユーロのウェイトは、シンガポール・ドルで約 23%、韓国ウォンで約 19%、タイ・バーツ
で約 39%であり、いずれも統計的に有意である。これらの通貨と比較すると、人民元は明
らかに、いまだにドルとの連動性が非常に高く、通貨バスケットを参照する為替相場制度
がとられているとは言えない。
つまり、2005 年 7 月 21 日の人民元改革は、その前後で為替レート管理の「体制」
( regime)
を変えたものではなく、単に 1 回限りのレベルの調整(2.1%の増価)を行ったもので、そ
の前後で、体制の変化はなかった、ということになる。ただし、7 月 21 日の時点では、発
表文を忠実に読む限り、このような一回限りの変化であるとは、市場関係者は気がついて
いなかった。そこで、2.1%の変化がそれ以降にドルのウェイトの低下の前触れである、と
市場関係者が考えた場合をシミュレートしてみる。大きなショックをうけて、一時的には、
塩谷ユーロのウェイトが高まったと考えたが、その後の動きで、再びドルのウェイトの変
化を計量経済学的に実証するには、新しい情報(毎日の終値)が通貨されると同時に、市
場参加者はその情報を消化して、バスケットのウェイトをアップデートしていく、という
過程をモデル化する。
第四章
4-1
実例分析
通貨バスケット制とドルペッグ制の区別
中国人民元の為替制度について、通貨バスケット制とドルペッグ制は一体どんな区別が
あるのだろうか。筆者は簡単な数値例を挙げてみた。
仮に、人民元は最初ドルペッグ制だったとする。現在ドルペッグ制から通貨バスケット
制に変わったとして、しかも、通貨バスケットの中ではドルと円二つの通貨しか入れてな
いと考えよう。この二つ通貨の割合はドル 90%、日本円 10%と設定する。
仮に、ドルペッグ制の中で、ある日ドル、日本円、人民元の為替レートは下記のように
なるとしよう。
1 ドル=8元
1ドル=100円
1元=12.500円
今ドル(90%)、日本円(10%)が入っている通貨バスケット制に変わった場合、通貨
バスケット制の標準として、人民元の為替レートは:
8元=0.9 ドル+0.1 ドル
36
or
8 元=0.9 ドル+10 円
①、
となる
もし円はドルに対して切り下げの場合
1 ドル=110 円
ドルペッグ制の場合、三つの通貨の為替レートの変化は:
1 ドル=8 元=110 円
1 元=13.7500 円
分析結果:人民元はドルに対して変わらないが、円に対して価値が上がった。
通貨バスケット制の場合、三つの通貨の為替レートの変化は:
8 元=0.9 ドル+0.1 ドル
=0.9 ドル+10 円
=0.9 ドル+10×1/110 ドル
=0.99 ドル
新しいドル対人民元の為替レートは:
8 元=0.99 ドル
1 ドル=8.0808 元
新しい人民元対日本円の為替レートは:
8 元=0.99 ドル
=0.99×110 円
=108.9 円
1 元=13.6125 円
以上の分析から、人民元は対ドルで切り下げたが、対円は切り上げたことが分かった。
対円に対してドルペッグ制より変動幅は小さい。
②、もし、円がドルに対して切り上げの場合
1 ドル=90 円
ドルペッグ制の場合、三つの通貨の為替レートの変化は:
1 ドル=8 元=90 円
1 元=11.25 円
分析結果:人民元はドルに対して変わらない、円に対して価値が下がった。
通貨バスケット制の場合、三つの通貨の為替レートの変化は:
8 元=0.9 ドル+0.1 ドル
37
=0.9 ドル+10 円
=0.9 ドル+10×1/90 ドル
=1.01 ドル
新しいドル対人民元の為替レートは:
8 元=1.01 ドル
1 ドル=7.9208 元
新しい人民元対日本円の為替レートは:
8 元=1.01 ドル
=1.01×90 円
=90.9 円
1 元=11.3625 円
以上の分析から、人民元は対ドルで切り上げたが、対円は切り下げたことが明らかに
なった。対円に対してドルペッグ制より変動幅は小さい。
これから、上記二つの状況を分析と整理をして、ドルペッグ制と通貨バスケット制の二
つ違う制度の状況で、人民元対ドル、日本円の為替レートの変動幅について、下記の表に
まとめてみる。
表 13 ドルペッグ制とバスケット制の中で人民元対ドル、円の為替レートの変動幅の比較 1 )
1)
円対ドルレートの変化
ドルペッグ制
通貨バスケット制
円対ドル
人民元対ドルのレートは
人民元対ドル
切り下げ
変わらない
切り下げ
人民元対円
人民元対円切り上げだが、
切り上げ
切り上げ幅減少
円対ドル
人民元対ドルのレートは
人民元対ドル
切り上げ
変わらない
切り上げ
人民元対円は
人民元対円切り下げだが、
切り下げ
切り下げ幅減少
筆者作成
38
したがって、通貨バスケット制度の中で、人民元対ドル、日本円の為替レートは変動し
ている。そして、この表より人民元対日本円の変動幅は減少したことがわかる。これによ
り、通貨バスケット制度の「縮小機能」というメリットを説明することができる。また、
人民元対ドル、対日本円の変動幅に対して以下の二つの特徴が挙げられる。一つは日本円
対ドルの変動幅、もう一つはドルと日本円は通貨バスケット中の比重の大きさである。
もし、日本円対ドルの変動幅を変えられない状況で、人民元対日本円の変動幅を縮小し
たい場合は、通貨バスケットの比重を調節すれば良い。日本円の比重を増加し、ドルの比
重を減少し、人民元対日本円の変動幅を縮小することができる。しかしながら、人民元対
ドルの変動幅は拡大することになる。
政府は必要に応じて、ある国の通貨と安定的な状況を保てたい場合は、その国の通貨比
重は大きくすれば良いのである。もしある国の通貨は通貨バスケットでの比重が小さ過ぎ
ると、通貨バスケット制度の「縮小機能」は弱くなることが分かった。つまり、ある通貨
に対して、中国の経済と関連があっても、比重は小さい場合は通貨バスケットの中に入れ
ないで、その比重はもっと重要な通貨にあげればよいのである。
4-2 通貨バスケット制の意味
通貨バスケット制の仕組みを簡単に説明しよう。ここでは、タイ・バーツを例にとる。
タイは、日本に対する貿易(輸出+輸入)シェアは、アメリカと同じぐらいの比重を持っ
ている。バーツのバスケット価値を考える、ということは、ある一定量のバーツBが、一
定量の円Yと一定量のドルDの価値の和に等しいということである。たとえば、160 バー
ツを、2 万円の円と 2 ドルのドルの和と等しいと考えよう。160 バーツの価値が 2 万円と
2 ドルで裏打ちされているものと考えよう。
ここで、マーケットで成り立っている為替レートが、1 ドル 100 円であるとする。そう
すると、2 万円と 2 ドルの合計価値は、ドル建てでみると 4 ドル、したがって、バーツ・
ドル為替レートは 1 ドル 40 バーツとなる。あるいは、2 万円と 2 ドルの価値を円建てで
見ると、400 円、したがって、バーツ・円為替レートは 1 円 0.4 バーツとなる。
次に、円ドルレートが変動したとしよう。1 ドル 75 円を対ドル円高になったとすると、
同様の計算を経て、バーツの為替レートは、1 ドル 34.3 バーツ(対ドルバーツ高)、1 円
0.457 バーツとなる。また 1 ドル 120 円と対ドル円安になった場合には、1 ドル 43.6 バー
ツ(対ドルバーツ安)、1 円 0.364 バーツとなる。
39
このように、円がドルに対して増価(減価)すれば、バーツもドルに対して増価(減価)
する。その追随の程度は、バスケットに入っている円とドルの比重による、ということに
なる。
貿易関係が密接な通貨をバスケットに入れることにより、バーツは、対競争相手の通貨
(この場合円)との連動性を高めることになる。通貨のウェイトの推計には、通常、次の
ような式が用いられる。
バーツ/SF=α 0 +α 1 ドル/SF+α 2 円/SF+α 3 ユーロ/SF
ここで、SFはスイスフランである。ここで、α 1 、 α 2 、 α 3 は、バーツを決定する通貨
のウェイトである。このような、バスケットの仕組みを採用した通貨は、実質実効為替レ
ートが安定化することになる。
4-3
中国は通貨の選択と比重について
まず、通貨バスケットの中身について、中国人民銀行総裁周小川は次のように語ってい
る。人民元為替相場調節の一つの参考として、通貨バスケットの選択とその比重を確定す
るときの基本原則は、中国の国際収支経常勘定の主要取引国家、地区及びその通貨を考慮
することである。平たく言えば、中国の対外貿易、対外債務(利息支払いを含む)、外商
直接投資(配当を含む)等対外経済貿易活動中かなり大きな比重を占める主要な国家、地
区の通貨を総合的に考慮して、ひとつの通貨バスケットを組成し、それぞれ通貨バスケッ
トの中での比重を決める。周小川総裁は、商品とサービス貿易の比重を通貨バスケット選
択と比重確定の基礎とすると強調した。この他、周小川総裁は対外債務の通貨構造を適当
に考慮すべきだと述べた。2004 年末は対外債務がドル換算で 2286 億ドルとなった。また、
周小川総裁は外商直接投資の増加がかなり速く、目下中国が使っている外商直接投資は
5600 余億ドルとなっている。これらの投資のうち、多くが投資国の自国通貨を使っている。
従って、通貨バスケットの中で、外商直接投資の影響を考慮しなければならない、とした。
周小川総裁は、新しい人民元相場形成メカニズムの参考にする“通貨バスケット”の貨
幣種を披露した。米ドル、ユーロ、日本円、韓国ウオン等が主要な通貨バスケットである
とした。周小川総裁は同時に、「シンガポール、英国、マレーシア、ロシア、オーストラ
リア、タイ、カナダ等と中国の貿易の比率がかなり大きく、これらの国の通貨は人民元相
場に対して大変重要である」と述べた。このことは、これらの国家の通貨も人民元相場の
参考にする”通貨バスケット“の範囲内であることを意味する。
40
通貨バスケットを参考にすることは、通貨バスケットだけに着目することではない。通
貨バスケットだけに着目するとは、通貨バスケット相場指数の変化で機械的に人民元対米
ドルの相場を調整することである。米ドルだけに着目する為替相場制度に比して、中国が
今回選択した人民元相場の新しいメカニズムは、人民元対主要通貨の変化を全面的に反映
することが出来る。そこで米ドルの不安定がもたらす影響に対し、対応しやすくなってお
り、中国の対外経済貿易環境の総体的安定を守り、国際収支の基本的均衡と国民経済の持
続、協調、健康でかなり速い発展を促進するのに有利である、とみなされている。
表 14 中国(2008)貿易相手国(単位:億ドル) 1 )
順位
国別
1~5 月(億ドル)
比率%
総値
10,120.8
100.0
1
欧州
1,660.2
16.4
2
アメリカ
1,304.7
12.9
3
日本
1,065.6
10.5
4
ASEAN
955.5
9.4
5
香港
799.7
7.9
6
韓国
758.2
7.5
7
台湾省
561.0
5.5
8
インド
241.6
2.4
9
オーストラリア
222.6
2.2
10
ロシア
221.3
2.2
以上の順位からみると、通貨バスケットに入る貨幣はユーロ、ドル、日本円、ASEAN、
香港ドル、韓国ウォン、台湾ドル、インドルビー、オーストラリアドル、ロシアルーブル
などである。それぞれの比重は 16.4%、12.9%、10.5%、9.4%、7.9%、7.5%、5.5%、
2.4%、2.2%、2.2%である。インドルビー、オーストラリアドルとロシアルーブルの比重
は小さいので、通貨バスケットの中に入れても、あまり影響されない。この三つの通貨は
とりあえず通貨バスケットの中に入れない。そうしたら、残された通貨はユーロ、ドル、
1)
http://info.shippingchina.com/stats/index/detail/id/2645.html
41
日本円、ASEAN、香港ドル、韓国ウォン、台湾ドルになる。そして、ユーロ、ドル、日本円
は通貨バスケットの中で最も重要な貨幣になるのである。韓国の為替制度は変動相場制の
で、普通の比重通りバスケットの中に入る。ASEAN 各国の通貨、香港ドル、台湾ドルはど
うやってバスケットの中に入れるか?もし、ASEAN 各国と中国の貿易量から見ると、比重
は非常に小さく、通貨バスケットを影響する可能性は小さい。さらに、ASEAN 各国は実際
的にまたドルとのペッグの部分は非常に大きい。したがって、ASEAN 各国の比重はドルの
比重に加えればいいと筆者は思っている。香港の為替制度はカレンシーボード制であるた
め、その比重はドルの比重に加えるのである。台湾の為替制度は変動相場制であるため、
普通に通貨バスケットの中に入れる。
4-4
数値例
本章最初のところで通貨バスケット制とドルペッグ制の区別について、簡単な数値例を
挙げた。ここで、通貨バスケットの中で人民元対ドルの変動について簡単な数値例を挙げ
たいと思う。
仮定:価値は 1 ドルの通貨バスケットの中で、当日の為替レートは
1 ドル=105.6 円=0.776 ユーロ
もし、ドル、日本円、ユーロの比重はそれぞれ 40%、30%、30%であれば、価値は 1
ドルの通貨バスケットの中で下の式を成り立てる。
1 ドル=0.40 ドル+32.4 円+0.233 ユーロ
さらに、仮定:
1 ドル=8.2770 元
下の式が成り立つ。
8.2770 元=0.40 ドル+0.30 ドル+0.30 ドル
次は、ドルと日本円とユーロの為替レートを変動した場合は人民元の為替レートはどのよ
うになるのだろうか。
①、
ユーロの価値が 10%上がった場合
8.2770 元=0.40 ドル+0.30 ドル+0.30 ドル(1+10%)
8.2770 元=0.40 ドル+0.30 ドル+0.33 ドル
8.2770 元=1.03 ドル
1 ドル=8.0359 元
42
②、
日本円の価値が 10%上がった場合
8.2770 元=0.40 ドル+0.30 ドル(1+10%)+0.30 ドル
8.2770 元=0.40 ドル+0.33 ドル+0.30 ドル
8.2770 元=1.03 ドル
1 ドル=8.0359 元
③、
ユーロと日本円同時に 10%の価値が上がった場合
8.2770 元=0.40 ドル+0.30 ドル+0.30 ドル
8.2770 元=0.40 ドル+0.30 ドル(1+10%)+0.30 ドル(1+10%)
8.2770 元=1.06 ドル
1 ドル=7.8085 元
ここで、分かったことは、もしユーロと日本円がドルに対して価値が上がった場合、人
民元もドルに対して価値が上がった。
④、
ユーロの価値が 10%下がった場合
8.2770 元=0.40 ドル+0.30 ドル+0.30 ドル(1-10%)
8.2770 元=0.97 ドル
1 ドル=8.5329 元
⑤、
日本円の価値が 10%下がった場合
8.2770 元=0.40 ドル+0.30 ドル(1-10%)+0.30 ドル
8.2770 元=0.97 ドル
1 ドル=8.5329 元
⑥、
ユーロと日本円同時に 10%の価値が下がった場合
8.2770 元=0.40 ドル+0.30 ドル(1-10%)+0.30 ドル(1-10%)
8.2770 元=0.40 ドル+0.27 ドル+0.27 ドル
8.2770 元=0.94 ドル
1 ドル=8.8053 元
ここで、もしユーロと日本円はドルに対して価値が下がった場合、人民元もドルに対し
て価値が下がったことが分かった。
以上の六種類の状況の分析から、通貨バスケット制度の下で人民元対ドルの為替レート
は不変ではなく、変動していることが分かった。一方、通貨バスケット制は投機行為を防
ぐことができ、同時通貨バスケットの比重の選択によって、元高の圧力に対しての投機攻
43
撃にも防ぐ作用がある。
したがって、通貨バスケット制度の導入に伴い、為替制度の安定性と機動性は大幅に増
加した。さらに、中国金融市場に対しての投機行為を防ぎ、中国中央銀行の対外国為替市
場のコントロール頻度を減少させるなどのメリットがある。中国また完全的な通貨バスケ
ット制度を採用せず、通貨バスケットを参考とした管理フロート制である。しかし、通貨
バスケットを参考とした管理フロート制するのは一時的なものだと思う。次のステップと
しては完全的な通貨バスケット制度ではないだろうかと筆者を考えている。
44
おわりに
2005 年 7 月人民元為替政策の改革は内外経済に及ぼすインパクトは限定的である。し
かし、中国が市場経済にふさわしい為替相場制度移行への第一歩を踏み出した意義は大き
い。中国人民元の為替レート体制については、そもそも中国としてどのような通貨体制が
望ましいか、という側面と米中経済摩擦問題としての側面を考える必要がある。
アメリカのサブプライム危機に端を発した国際金融危機の影響が為替市場に及んでいる。
2008 年 9 月中旬にリーマン・ブラザーズが連邦破産法に破綻を申請して以来、欧米の金
融機関は流動性の確保が難しくなり、世界中の資産を売却、本国送金している。その結果、
アジアの株などの資産価格は大きく下落、資本流出による通貨売りから、アジア通貨は対
米ドルで大きく減価している。唯一の例外は日本円で、これは円のキャリートレード(円
借り、高金利通貨への投資)をしていた内外の投資化がポジションをたたんで、円の返済
を進めているためである。
世界的な金融危機はそれほどに規模、スピードともに例を見ないほどの激震となってい
るといえよう。金融危機の深刻さから、実体経済への影響も測り知れず、今後、各国とも
どこまで経済が減速していき、不況がどのくらいの期間続くのかも読みきれない状況とな
っている。金融機関への影響は比較的軽微ではないかといわれた日本も、電機、自動車な
どから吐き出される失業者を見ただけで、日本経済がどこまで深刻さを増やすのか、また
予測もつかない。
中国の場合も、金融の自由化やグローバル化の進展度合いから考えて、金融危機の影響
は大きなものではないと見られたが、アメリカの実体経済が急速に悪化していき、その影
響がヨーロッパにも、アジアにもいっきに波及しているだけに、中国経済にも急ブレーキ
をかけることとなってしまった。
こうした現状を反映して、人民元の為替相場も、2005 年の人民元改革以来、初めて継続
した下落基調を示した。厳しい輸出環境の中で、為替相場の面でさらに競争力を落とした
くないという政府の意向が反映されたものであろう。こうした状況の中で、アメリカから
は人民元相場に対して、従来同様の指摘が出されている。
ところで、人民元の為替相場は、人民元改革以来、バスケット連動性をとっているはず
である。すなわち、人民元の相場はドルのみならず、約 20 の主要通貨の動きと連動する
はずである。昨年のピークから 60%ほども対ドルで下落した韓国ウォンは例外としても、
インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、台湾の通貨は今年に入って、ピークか
45
ら 10~30%程度対ドルで下落している。ユーロも今ではだいぶ回復してきたが、今年の 7
月から一時、20%程度の対ドルの下落を示した。円のように例外的に対ドルで上昇してい
る通貨もあり、人民元のバスケットの構成比も分からないため、人民元がこういう状況の
中で、対ドルで 1~2%程度の下落を示したもののほぼ安定している。
中国が今注力しなければならないことは、国際競争に耐えられる企業の育成、特に中小
企業の強化であろう。人民元相場の上昇ペースは当面は抑制できても、いずれ更なる上昇
は避けられないであろう。技術力と経営ノウハウを備えた、国際競争力のある企業ができ
るだけ多く、早期に出現することを期待したい。そのためには、銀行がそうした企業の可
能性を見抜いて、積極的に融資、支援できる融資判断力を確立する必要がある。
一般的には、外貨準備が増加を続けることで、ドル資産が貯まり、将来のドル下落のリ
スクがどんどん大きくなっていく。国内経済が過熱することで、バブルになることのリス
クを回避するためには、より伸縮的な為替レート体制が必要であると考えられる。しかし、
現在の状況で本当に早めにフロート制に移行することが望ましいのか。もし、今フロート
制になったらかなりのリスクがあると考えられる。筆者は中国為替の現状の分析から、や
はりフロート制へ行く前に一度通貨バスケット制を選択したほうが安全であると主張する。
46
謝辞
本研究をまとめるにあたり、多くの方々のご指導とご助言をいただきまして、誠にあり
がとうございました。
まず、大学院一年目指導教授栗林訓先生には懇切丁寧にご指導をいただきまして、心か
ら感謝いたします。しかし、残念なことは栗林先生が不幸な出来ことに見舞われたことで
あります。
次に、大学院二年目指導教授富田輝博先生にも丁寧なご助言とご指導をいただきまして、
誠に感謝いたします。特に、富田教授はいろいろな観点からこの研究の新たな可能性につ
いてアドバイスをいただきました。なおかつ、富田教授は、修士論文作成以外でも大変お
世話になり、ここで富田教授に深くお礼を申し上げます。
そして、副指導の石塚浩先生にもいつも親切にご指導してくださいまして、感謝の気持
ちがいっぱいです。また、文教大学大学院情報学研究科の石田晴美先生、根本俊男先生、
恵羅博先生、志村正先生、高田哲雄先生、竹田仁先生などのご指導にも感謝いたします。
本大学院の同期、先輩、後輩や準備室の方々など様々な面でご協力や励ましをいただく
ことができ、とても感謝いたします。そして、青山学院大学友人のアドバイスにも助けら
れました。
最後になりましたが、大学院に通わせていただき、援助をしてくれた親戚に感謝の意を
捧げたいと思います。今後、さらに活躍できるように一層の努力を重ねたいと思います。
THANKS SO MUCH!!
47
参考文献
和文書籍:
①
大西義久『円と人民元 : 日中共存へ向けて』
②
関志雄 『人民元切り上げ論争:中・日・米の利害と主張』
④ 黒田
東彦
2003)
(中公新書
(東洋経済新報社
2004)
『通貨の興亡:円、ドル、ユーロ、人民元の行き方』
(中央公論新社
⑤ 縄田和満
『TSP による計量経済分析入門』
2006)
⑥ 内田
『データマイニング入門』
2005)
治
(朝倉書店
(日本経済新聞社
⑦ 榊原英資
『人民元改革と中国経済の近未来』
⑧ 小口幸伸
『人民元は世界を変える』
(集英社
⑨ 川本明人
『外国為替の基礎知識』
(中央経済社
⑩ 宿輪
純一
『週間東洋経済』
⑪ 小野有人「通貨バスケット制」
2005)
1998)
(2004)
『みずほリサーチ October 2005』
志雄「流動性の膨張を如何に抑えるか―迫られる完全変動相場制への移行―」
Chinese Capital Markets Research
⑬ 清水
2005)
「中国の通貨制度の方向性―――バスケット通貨制導入は困難変動相場
制こそアジアの将来」
⑫ 関
(角川書店
2002)
季刊中国資本市場研究 2008Winter
聡(2006)「中国の為替制度改革の展望」『国際金融』1163 号(18.4.1)
⑭ 白井早由里(2006)
「中国の人民元改革と変動相場制への転換―経済発展と為替制度の
総合政策学アプローチ―」慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科
ーキングペーパーシリーズ No.85
総合政策学ワ
2006 年 2 月
⑮ 伊藤隆敏・小川英治・清水順子『東アジア通貨バスケットの経済分析』(東洋経済新報
社
2007)
⑯ 深尾光洋
『シリーズ:現代経済研究 25
2006)
48
中国経済のマクロ分析』(日本経済新聞社
英文書籍:
①Lawrence R. Klein,
Econometric Modeling of China , World Scientific P.C.,
Singapore and London, 2000
②Asian Development Bank ed (2004). Monetary and Financial Integration in East
Asia: The Way Ahead (Vol.1,Vol.2)
③Froot, Kenneth A. and Kenneth Rogoff(1995) “Perspectives on PPP and Long-run
Real Exchange Rates,” in Gane M. Grossman and Kenneth Rogoff, eds., Handbook of
International Economics, Vol.3,Elsevier, pp.1647-1688.
④Ito, Takatoshi, Peter Isard, and Steven Symansky (1998) “Economic Growth and
Real Exchange Rate: An Overview of the Balassa-Samuelson Hypothesis in Asia,” in
Takatoshi Ito and Anne O.Krueger, eds., Change in Exchange Rates in Rapidly
Developing Countries, University of Chicago Press, pp.109-128.
⑤Ito, Takatoshi, Peter Isard, Steven Symansky and Tamin Bayoumi (1996) “Exchange
Rate Movements and Their Impacts on Trade and Investment in the APEC Region,”
International Monetary Fund, Occasional Paper Series, No.145.
中文書籍:
① 李靖 『中国资本账户自由化与汇率制度选择』
② 高海紅
『全球视角下的人民币汇率』
③ 刘力秦 徐奇渊『人民币国际化探索』
④ 徐少强 马丹 宋兆含
⑤ 安华
『货币银行学』
⑥ 岳华
(中国経済出版社
2008)
(中国財政経済出版社
2006)
(人民出版社
『人民币实际汇率研究』
(上海財政大学出版社
(复旦大学出版社
⑦ 赵大平 『人民币汇率传递对中国贸易收支的影响』
(中国金融出版社
2005)
(上海世紀出版集団
2007)
⑧ 何慧刚 『国际资本流动下东亚汇率制度选择与协调研究』
49
2006)
2006)
『国际汇率制度改革之路固定与浮动的博弈』
2007)
2006)
(中国財政経済出版社
付録1
2005 年 7 月 21 日の公告
中国人民银行公告〔2005〕第 16 号
中国人民银行关于完善人民币汇率形成机制改革的公告
为建立和完善我国社会主义市场经济体制,充分发挥市场在资源配置中的基础性作用,
建立健全以市场供求为基础的、有管理的浮动汇率制度,经国务院批准,现就完善人民币汇
率形成机制改革有关事宜公告如下:
一、自 2005 年 7 月 21 日起,我国开始实行以市场供求为基础、参考一篮子货币进行调
节、有管理的浮动汇率制度。人民币汇率不再盯住单一美元,形成更富弹性的人民币汇率机
制。
二、中国人民银行于每个工作日闭市后公布当日银行间外汇市场美元等交易货币对人民
币汇率的收盘价,作为下一个工作日该货币对人民币交易的中间价格。
三、2005 年 7 月 21 日 19∶00 时,美元对人民币交易价格调整为 1 美元兑 8.11 元人民
币,作为次日银行间外汇市场上外汇指定银行之间交易的中间价,外汇指定银行可自此时起
调整对客户的挂牌汇价。
四、现阶段,每日银行间外汇市场美元对人民币的交易价仍在人民银行公布的美元交易
中间价上下千分之三的幅度内浮动,非美元货币对人民币的交易价在人民银行公布的该货币
交易中间价上下一定幅度内浮动。
中国人民银行将根据市场发育状况和经济金融形势,适时调整汇率浮动区间。同时,中
国人民银行负责根据国内外经济金融形势,以市场供求为基础,参考篮子货币汇率变动,对
人民币汇率进行管理和调节,维护人民币汇率的正常浮动,保持人民币汇率在合理、均衡水
平上的基本稳定,促进国际收支基本平衡,维护宏观经济和金融市场的稳定。
中国人民银行
2005 年 7 月 21 日
50
(日本語訳)
中国人民銀行公告(2005)第 16 号
中国人民銀行の人民元為替レート体制の改革についての公告
わが国の社会主義市場経済の制度を確立および改善し、市場の資源配分におい
て市場がその完全な機能を発揮して、市場の需給に基づき管理された変動為替
相場制度をさらに強固なものとするために、国務院の承認を受けて、中国人民
銀行は、人民元為替レート体制改革に関して以下のように公告する。
一、2005 年 7 月 21 日から、中国は通貨バスケット制を参考にしつつ、市場の
需給を基礎に、管理された変動為替制度へと移行する。人民元は、対ドルで固
定制(ドル・ペッグ)ではなくなり、人民元為替レート体制は、弾力性が大き
くなり改善される。
二、中国人民銀行は毎営業日の終業後に、当日の銀行間外貨市場におけるドル
など、対人民元で取引されている外貨の為替レートの終値を、翌営業日におけ
る当該通貨の対人民元取引中心価格として公布する。
三、2005 年 7 月 21 日の 19 時より、ドル対人民元の取引価格は 1 ドルが 8.11
元となるよう調整される。それは翌日の銀行間外貨市場における外貨指定銀行
間取引の中心価格とされ、外貨指定銀行はこのときから、顧客への店頭価格を
調整することができる。
四、現段階においては、銀行間の毎日の外貨市場でのドル対人民元の取引価格
は人民銀行の公布したドル取引中心価格の上下の 0.3%の幅の範囲で変動し続
け、非ドル通貨対人民元の取引価格は人民銀行の公布した当該通貨取引中心価
格の上下一定の範囲内で変動する。
中国人民銀行は市場の発展状況と経済金融情勢に従って適宜、為替レートの
変動幅を調整する。同時に、中国人民銀行は、通貨バスケットを参照しつつ、
市場の情勢を見ながら、人民元為替レートを、より弾力的なものとする。中国
人民銀行は、人民元為替レートを、基本的に、合理的かつ均衡レートのあたり
で安定するように維持する、それによって、国際収支の基本的均衡を促進して、
マクロ経済と金融市場の安定を維持する。
中国人民銀行
2005 年 7 月 21 日
51
付録2
2005 年 7 月 26 日の声明(中国人民銀行のホームページより)
中国人民银行新闻发言人郑重声明
人民币汇率形成机制改革受到国内外媒体和有关方面的广泛关注和充分理解。但也有国
外的个别媒体对改革的有关内容,特别是对人民币对美元交易价格的调整制造误解,甚至错
误地认为人民币升值 2%只是初始调整,“可能引发中国人民银行在不远的将来会进一步提高
人民币汇率的预期······”。
为准确理解人民币汇率形成机制改革,现郑重声明如下:
一、人民币汇率初始调整水平升值 2%,是指在人民币汇率形成机制改革的初始时刻就作
一调整,调整水平为 2%。并不是指人民币汇率第一步调整 2%,事后还会有进一步的调整。
二、人民币汇率水平升值 2%是根据汇率合理均衡水平测算出来的。这一调整幅度主要是
从我国贸易顺差程度和结构调整的需要来确定的,同时也考虑了国内企业的承受能力和结构
调整的适应能力。这个幅度基本上趋近于实现商品和服务项目大体平衡。
三、渐进性是人民币汇率形成机制改革的一个重要原则。渐进性是指人民币汇率形成机
制改革的渐进性,而不是指人民币汇率水平调整的渐进性。人民币汇率制度改革重在人民币
汇率形成机制的改革,而非人民币汇率水平在数量上的增减。
中国人民银行热诚欢迎国内外各界继续关注、支持人民币汇率形成机制改革,也希望有
关媒体本着负责任的态度,准确理解改革的精神,客观报道改革的有关内容。
2005 年 7 月 26 日
52
(日本語訳)
中国人民銀行ニュース担当者からの重要な声明
人民元為替相場の形成体制における改革は国内外メディアと関連機関から広い注目を
受け、かつ充分に理解をされている。しかしながら、国外のいくつかのメディアは改革の
内容、特に対ドル人民元交易価格の調整、人民元の 2%の切り上げが初期調整値だと間違
った理解をしている。
「 中国人民銀行は近い未来に更に人民元為替レートを切り上げること
を誘発する見通し・・・・・・」
人民元為替相場の形成体制における改革を正確に理解できるために、以下の重要な声明
を発表する:
一、人民元為替レートの初期 2%の切り上げ調整値は、人民元為替相場形成改革の開始時
点での 2%の切り上げ水準を調整することを意味している。人民元為替レートの第一歩切
り上げ値が 2%と調整しており、その後には更なる切り上げの調整を意味していない。
二、人民元為替レートの 2%の切り上げ値は、為替レートの合理的な均衡水準によって計
算されたものである。この調整値は主に我が国の貿易黒字と貿易構造調整の需要によって
確定され、同時に国内企業の人民元切り上げの対応能力と構造調整の適応能力を考慮に入
れている。この範囲は基本的に商品とサービス項目の大体のバランスがとれることを実現
にできるように働いている。
三、漸進性は人民元為替相場形成体制改革の一つの重要な原則である。漸進性は人民元
為替相場形成体制の改革における漸進性を指し、人民元為替レートの調整の漸進性を指し
ていない。人民元為替相場制度改革は、人民元為替レートの数値の増減を指しているので
はなくて、人民元為替相場形成体制の改革に重点を置いているのである。
中国人民銀行は国内外の各界からの人民元為替形成体制改革の絶え間ないご関心、ご支
持を歓迎し、関連メディアが改革の精神を理解し、責任を持って改革の内容を客観的に報
道することを期待しております。
中国人民銀行
2005 年 7 月 26 日
53
付録3
中国 人民 银行 公告〔2006〕第 1 号
中国 人民 银行 关于进一 步完善银行间 即期 外汇 市场 的公 告
为完善以市场供求为基础、参考一篮子货币进行调节、有管理的浮动汇率制度,促进外汇市场发展,
丰富外汇 交易 方式,提 高金 融机构自 主定 价能力, 中国 人民银行 决定 进一步完 善银 行间即期 外汇 市场,改
进人民币汇率中间价形成方式。现就有关事宜公告如下:
一、自 2006 年 1 月 4 日起,在银行间即期外汇市场上引入询价交易方式(以下简称 OTC 方式),同
时保留撮 合方 式。银行 间外 汇市场交 易主 体既可选 择以 集中授信 、集 中竞价的 方式 交易,也 可选 择以双边
授信、双边清算的方式进行询价交易。同时在银行间外汇市场引入做市商制度,为市场提供流动性。
二、自 2006 年 1 月 4 日起,中国人民银行授权中国外汇交易中心于每个工作日上午 9 时 15 分对外公
布当日人民币对美元、欧元、日元和港币汇率中间价,作为当日银行间即期外汇市场(含 OTC 方式和撮合
方式)以及银行柜台交易汇率的中间价。
三、引入 OTC 方式后,人民币兑美元汇率中间价的形成方式将由此前根据银行间外汇市场以撮合方式
产生的收 盘价 确定的方 式改 进为:中 国外 汇交易中 心于 每日银行 间外 汇市场开 盘前 向所有银 行间 外汇市场
做市商询 价, 并将全部 做市 商报价作 为人 民币兑美 元汇 率中间价 的计 算样本, 去掉 最高和最 低报 价后,将
剩余做市 商报 价加权平 均, 得到当日 人民 币兑美元 汇率 中间价, 权重 由中国外 汇交 易中心根 据报 价方在银
行间外汇市场的交易量及报价情况等指标综合确定。
四、人民币兑欧元、日元和港币汇率中间价由中国外汇交易中心分别根据当日人民币兑美元汇率中间
价与上午 9 时国际外汇市场欧元、日元和港币兑美元汇率套算确定。
五、本公告公布后,银行间即期外汇市场人民币对美元等货币交易价的浮动幅度和银行对客户美元挂
牌汇价价 差幅 度仍按现 行规 定执行。 即每 日银行间 即期 外汇市场 美元 对人民币 交易 价在中国 外汇 交易中心
公布的美 元交 易中间价 上下 千分之三 的幅 度内浮动 ,欧 元、日元 、港 币等非美 元货 币对人民 币交 易价在中
国外汇交易中心公布的非美元货币交易中间价上下 3%的幅度内浮动。银行对客户美元现汇挂牌汇价实行最
大买卖价差不得超过中国外汇交易中心公布交易中间价的 1%的非对称性管理,只要现汇卖出价与买入价之
差不超过当日交易中间价的 1%、且卖出价与买入价形成的区间包含当日交易中间价即可;银行对客户美元
现 钞 卖 出 价 与 买 入 价 之 差 不 得 超 过 交 易 中 间 价 的 4%。 银 行 可 在 规 定 价 差 幅 度 内 自 行 调 整 当 日 美 元 挂 牌 价
格。
中国人民银行负责根据国内外经济金融形势,以市场供求为基础,参考篮子货币汇率变动,对人民币
汇率进行 管理 和调节, 维护 人民币汇 率的 正常浮动 ,保 持人民币 汇率 在合理、 均衡 水平上的 基本 稳定,促
进国际收支基本平衡,维护宏观经济和金融市场的稳定。
中国人民银行
二○○六年一月三日
54
(日本語訳)
中国人民銀行公告(2006)第一号
中国人民銀行のインターバンクの外国為替スポット市場改善に関する公告
中国人民銀行は、通貨バスケットを参考にしながら市場の需給を基礎にして管理された変
動為替制度を更に改善し、外国為替マーケットの発展を促し、外貨取引の方式を多様化さ
せ、金融機構の価格決定能力を強化することを狙いとして、インターバンクの外国為替ス
ポット市場を更に改善し、人民元の中間為替レートの形成方式を修正することを決定した。
同銀行は、以下のように公告している。
一、 2006 年 1 月 4 日から、インターバンクのスポット市場においては、相対取引方式
(以下、OTC 方式)を導入し、それと同時にオートマティック・プライス・マッチング
(automatic price-matching)方式を維持する。インターバンク外国為替市場の取引主体
は集中信用授与(centralized credit authorization)、集中競売(centralized price
bidding)の方式に基づいたり、または双方信用授与、双方合意(settlement)を基礎にし
た OTC 方式のマーケットを通して、外国為替取引に参加することができる。同時に、
インターバンクの外貨市場においてはマーケット・メーカー(market makers)制度を導
入し、市場に流動性を提供する。
二、 2006 年 1 月 4 日から、中国人民銀行は、中国外貨交易中心(China Foreign
Exchange Trading System)に対し、各営業日の午後 9 時 15 分に当日の対ドル、
ユーロ、日本円と香港ドルとの間の為替中間レートを、銀行店頭における取引のみなら
ず、インターバンクのスポット市場(OTC方式とオートマティック・プライス・マッ
チング方式)及び銀行店頭交易レート率の中間値として対外に公布することを授権する。
三、 人民元の対ドル中間レートの形成方式は、OTC 方式の導入後には、この前のイン
ターバンクの外貨市場での自動プライスマッチング(automatic price-matching)方式に
基づいた終値の方式から、以下のような方式に変えられる。すなわち、中国外貨交易セ
ンターは毎日、インターバンク外国為替市場のオープン前にすべてのマーケットメーカ
ー(market makers)にレートを照会し、そしてそれらの最高値と最低値を除いたレート
を加重平均して当日の人民元の対ドル中間レートが得られる。ウェイトは中国外貨交易
センターによって、各々のマーケット・メーカーによる取引量、およびつけられたレー
55
トなどの他の指標をも考慮しつつ確定される。
四、 人民元の対ユーロ、対日本円、及び対香港ドル為替中間レートは、中国外貨交易
センターがそれぞれ当日の人民元の対ドル中間レートと、当営業日の午前 9 時の国際外
貨市場におけるユーロ、日本円、及び香港ドルの対ドルレートのセット計算によって確
定される。
五、 同公告が公布されてからも、インターバンクのスポット市場における人民元対ド
ルなどのレートの変動幅と銀行対顧客の店頭対ドルレートとの差の幅が依然として現
行規定によって執行される。すなわち、毎日インターバンク・スポット市場のドル対人
民元為替レートは中国外貨交易センターの公布した対ドル中間レートの上下 1000 分の
3 の幅内で変動し、ユーロ、日本円、香港ドルなどの非ドル貨幣の対人民元レートは中
国外貨交易センターが公布した非ドル貨幣の中間レートの上下の 100 分の 3 の幅内で変
動する。銀行の対顧客ドルの現金店頭為替レートの最大の売買価格の差が中国外貨交易
センターの公布した交易中間価格の 1%の非対称性管理を超えることができない。現金
売り出し価格と買入れ価格との差が当日交易中間価格の1%を超えてはならない、しか
も、売り出し価格と買入価格によって形成された区間が当日の中間レートを含むことが
必要である。銀行対顧客ドル現金売出し価格と買入価格との差が交易中間価格の 4%を
超えることができない。銀行は決められた価格差の幅内においては当日ドル店頭価格を
調整することができる。
中国人民銀行は、人民元の為替レートを基本的には適応的かつ均衡的な水準に安定・
維持させることに責任を持ち、それによって国際収支の基本的なバランスを促進し、マ
クロ経済と金融の安定を維持する。
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Economic Analysis on Currency Basket System in China
~Research of RMB Exchange Policy~
Summary
WenLin
Wang
The features of Chinese external economy in 1990s are independent monetary
policy, capital controls and quasi fixed exchange regime. With the acceleration of
China’s capital account liberalization, this policy mix is proved unsustainable, and a
new fix is needed. After the Renminbi exchange rate formation mechanism reform in
July 2005 , China announced to apply managed floating exchange rate regime with
reference to currency basket , the Renminbi exchange rate regime reform launched.
However , how to take further reforms to lead Renminbi exchange rate to a pure
floating regime steadily still hangs in doubt.
On July 21,2005,China announced to implement managed floating exchange rate
regime with reference to currency basket.
The clearer rule will be applied widely, considering the debates on currency
basket, the definition, policy objective, formation mechanism and features of currency
basket regime are discussed in this thesis. Comparing with the single dollar peg,
currency basket regime is able to reduce the volatility of exchange rate among major
currencies, it assumes the function of “condenser ” to ensure the stability of exchange
rate in terms of major currencies. Currency basket peg regime will increase the
exchange rate flexibility and expand the space for macro control, reduce the pressure
for the central bank’s intervention in foreign exchange market, enhance the
independence of monetary policy. In accordance with the rule of currency basket peg
regime, in order to maintain the stability of total trade, China can organize the
currency basket with reference to trade share. Under the currency basket peg regime,
the Renminbi exchange rate in terms of US dollar is flexible
, it will not bring the
one-way appreciation or depreciation. This mechanism will be conducive to manage the
one-way speculation in the foreign exchange market, eliminate the worries on one-way
Renminbi appreciation pressure. Then the transition from “
managed floating with
reference to currency basket” to the standard currency basket regime is needed for
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Chinese economy , and finally move to the pure floating regime. Therefore
, the
targets of monetary policy will switch from the external economy to internal economy ,
Renminbi exchange rate regime, the macro economic policy will move to a new mix :
independent monetary policy , effective capital controls and floating exchange rate. As
the capital controls are lift up, China should actively search the path to exit the
current exchange rate regime safely, and determine the medium and long run strategy.
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