観光におけるマーケティングの重要性

観光におけるマーケティングの重要性
枚数
:
26 枚
指導教員名:
水越康介助教授
学修番号
:
05159113
指名
:
永川紗織
1
【目次】
1.はじめに
2.観光マーケティングとは
3.ケース分析:ハワイのケース
4.まとめ
1.はじめに
商品におけるマーケティングには様々な方法があるが、 観光地
におけるマーケティン
グにはどのようなものがあるのだろうか。また、商品のマーケティングと観光地のマーケ
ティングには一体どのような違いがあるのか。この論文では、ボニータ・M・コルブによる
『都市観光のマーケティング』を取り上げ、観光マーケティングについて詳しく述べてい
きたい。また、日本人になじみの深い観光地としてハワイを取り上げ、ハワイ観光につい
てのケース分析を行う。ハワイは古くから観光業により支えられてきた場所であり、最も
成熟した観光マーケットであると考えられる。まず、ハワイの観光戦略の変移と今後の課
題について分析を行う。また、ハワイ・ツーリズム・オーソリティ(以下 HTA)による観
光戦略とボニータの観光戦略における類似点、相違点なども述べていく。
2. 観光マーケティングとは
2.1
ツーリズムマーケティングの定義(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティン
グ』2007 p.3~4)
ツーリズムのマーケティングとは簡単に言うと、リゾートであれ、都市や地域であれ、
さらに国であれ、目的地に訪問者を惹きつける戦略を計画するために、マーケティングコ
ンセプトを適切に応用することである。
しかし、集客のためだけに圧迫的な販売促進を行っても、短期的な効果しか得られない。
ツーリズムの成功は、ひとえにリピート訪問者に依存している。よって、短期的視野で利
益を得ようとするのではなく、長期的な視野で考えていく必要がある。都市をマーケティ
ングする上で大切なのは、訪問者のニーズに合致し、かつ同時に市民の生活の質の改善を
もたらすサービスを提供することなのである。
2.2 4P(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007 p.8~9)
通常、商品をマーケティングする標準的な戦略モデルは4P:Product(商品)、Place (流
通)、Price(価格)、Promotion(プロモーション)に焦点を当てる。しかし、都市のマーケテ
ィングに適用する場合にはこのモデルは調整されなければならない。さまざまな訪問者が
さまざまな価格水準で商品(場所)を消費する。例えばオペラに行く人もいれば、野外無
料コンサートを楽しむ人もいる。つまり価格は主要な戦略要素ではないのである。
都市をマーケティングするときは、プロモーション戦略が重要である。なぜなら都市は
2
イメージの伝達を通して間接的にしかプロモーションできないからである。それゆえツー
リスト誘致のマーケティングプランを作成する際には、価値ある商品・訪問先としての都
市づくり、及びまちが何を提供するべきかのプロモーション、の2つが等しく重要である。
商品とは物的な財であり、サービスであり、アイディアであり、そして体験でもある。
また、物的商品としての都市のもう一つの側面は都市の地理的位置である。例えば、川や
海や山々のそばに位置していることは都市体験に価値が加わる。
2.3 都市の商品構成要素
場所
サービス/イベント
イメージ
興味深い建築
フェスティバル
エキサイティング
モニュメント
パレード
歴史的
文化的イベント
魅力的
演劇
フレンドリー
スポーツ
美的
ツアー
芸術的
公園・広場
映画
民族的
歩道・運河
ホテル
精神的
山・川・海
食事
猥雑的
交通システム
娯楽
家族での楽しみ
歴史的ビルディング
文化施設
教会・寺院・モスク
ユニークな街路パターン
(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007 p.10 表 1.1)
都市の商品構成要素として、上の表に挙げられるものがある。都市のイメージは、物的
都市とサービス/イベントが結合されて想像される。従って、ツーリストの目的地として都
市をマーケティングするときにプロモーションされるべきなのは、以上の表にあるような
全ての体験なのである。
2.4 マーケティングプロセスの違い
伝統的なマーケティングプロセス
都市マーケティングのプロセス
1
外部環境の分析
外部環境の分析
2
ターゲットとなる商品セグメント選択
3
商品の選択
4
価格と流通の決定
商品のパッケージ化とブランド構築
5
販売ミックスのプランニング
メッセージの作成とプロモ―ション
6
結果の評価
商品分析
ターゲットとなる消費者セグメント選択
結果の評価
(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007 p.11 表 1.2)
ボニータは、伝統的なマーケティングプロセスと都市マーケティングのプロセスを上の
3
図表のように表している。伝統的なマーケティングプロセスは、社会的・政治的・法的・
そして技術的変化が潜在的な消費者市場に影響を与えたかを発見するため、まず外部環境
の精査からスタートする。次にターゲットとすべき消費者セグメントを選択する。このセ
グメントのニーズおよびウォンツ分析ののち、ターゲットが欲するベネフィットを提供す
ると考えられる商品が開発される。そして価格設定・流通計画が立てられる。その後、広
告・PR・ダイレクトマーケティング・販売推奨(ベネフィットをベストに伝達可能)など
の手段を用いて販売計画を作成する。
ボニータによると、都市マーケティングにおいても第一ステップは類似しているが、第
二ステップに大きな違いがある。都市マーケティングプロセスにおいては、商品がすでに
存在しているので開発する必要はないが、さらに十分に開発することが可能である。その
ためには、都市の強みや弱みについて完全で客観的な商品分析を行う事が重要である。商
品分析には、まず、第一印象の分析、そしてツーリストが町を訪れる主な理由であると考
える中核的商品の分析、最後に支援的商品(サービスや交通・宿泊)の分析がある。都市
が分析されたのち、ある潜在的ツーリストグループが最も重要なターゲットセグメントと
して選ばれる。通常はプロモーションプロセスの単なる一部分であるパッケージ化(アト
ラクションや他都市 etc と)やブランド構築(スローガン・ロゴ作成も含む)は必然の付加
的な要件となる。続いて広告、PR、販売推奨、ダイレクトマーケティングなどからなるプ
ロモーションプランが作成される。そしプランの実行後に評価がなされる。
(ボニータ・M・
コルブ『都市観光のマーケティング』2007
p.10~12)
<外部環境の精査>
都市における外部環境には、マクロ環境とミクロ環境がある。マクロ環境には、経済的
(成長か減速か・可処分所得)・社会的(価値観・ライフスタイル)・人口学的(年齢・フ
ァミリーステイタス・民族性)に分けられる環境がある。一方、ミクロ環境には、産業界・
市民グループ・市当局といった環境がある。ツーリズムの増加に影響を及ぼすだろう異変
や機会を発見するためにも、この外部環境精査に時間を投資するべきである。(ボニータ・
M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007
p.28)
<ツーリズムの商品分析>
都市を観光目的地として開発するということは、一般商品とは異なり、商品はすでに存
在している。建物の建築スタイルや、公園や景観、都市の歴史、そして住民の民族遺産な
ど、すべて現存するものである。これら都市の特性をより極まったものにすることは可能
であるが、これらを根本的に変えることはできない。観光マーケティングでは、都市に現
存する諸特性と魅力を分析し、しかる後に潜在的ツーリストを見つけることになる。(ボニ
ータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007 p.41)
マーケティングのプロセスにおいて、既に中核的商品が存在している都市においては、
確かにボニータの述べているようなマーケティングプロセスになるかもしれない。しかし、
4
伝統的なマーケティングにおいて、必ずしも図表のようなプロセスになるとは言えないの
ではないか。ここで、既存の商品をリニューアルしようとする場合を考えてみたい。例え
ば、お菓子メーカーであれば『お菓子』という商品は最初から決まっている。スティック
状チョコレートという中核的商品を持つお菓子メーカーの場合、まず、現存する諸特性と
魅力、強みや弱みを分析し、潜在的顧客を見つけた上で商品開発、プロモーションとなる。
消費者層が若い女性ばかりであることが弱みであったら、潜在的顧客として大人や男性向
けに改良し、パッケージやメッセージの選択を行うだろう。次に、都市マーケティングに
ついて考える上で、カジノで有名なアメリカ・ネバダ州のラスベガスを例にとってみてみ
る。ラスベガスは、元々は人口2万人にも満たない砂漠の中のさびれた町であって、最初
からリゾートホテルやカジノのような中核的商品が存在したのではなかった。現在の巨大
エンターテイメントシティであるラスベガスは、外部環境の精査の上で商品開発を行って
いった結果と言える。このようなマーケティングプロセスの例は多数存在するのだ。以上
より、マーケティングのプロセスは外部環境によって変化しうるものであり、伝統的なマ
ーケティングプロセスや都市マーケティングだからと言って、違いはないと言える。
2.5 都市観光の潜在性を分析(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007
p.12)
ツーリストを惹きつけるマーケティングプラン作成プロセスにおいてもっとも重要なス
テップは、どんな特色とベネフィットを都市が提供しなければならないのかの完璧で正確
な分析である。ツーリストの目的地として都市を分析する上で必要なことは、都市の特色
やサービスだけでなく訪問体験によって得られるベネフィットにも焦点を当てることであ
る。以下の表にツーリスト商品と、得られるベネフィットを挙げてみる。
ツーリスト商品
得られるベネフィット
歴史的重要な場所
国家的価値やアイデンティティの増強
娯楽の場所
日常生活にない興奮
文化施設
どこにもない品質のアート体験
遊園地
家族の一体感
例えば、歴史的な場所というのは、国家的価値やアイデンティティの増強といったベネ
フィットをもたらす。娯楽は、日常生活にないエキサイティングな経験を与えるであろう。
また、文化施設は、他に類を見ない品質のアート体験を、遊園地など家族で楽しめる商品
は、家族の一体感といったベネフィットをもたらす。そして、このようなベネフィットに
おいて、大半の知識をもっているのはその都市の住民である。従って、専門コンサルタン
トにブランドイメージを任せるようなトップダウン方式よりも、市が市民と協力してマー
ケティングプランを作成するほうが良いと言える。
2.6 利害関係者の関与(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007 p.45)
5
ツーリズムマーケターは、得られた情報が有益かつ正確であることを担保するため、様々
な意見を持つ市民を巻き込むべきである。同時に、政治的、社会的に影響力のある人々も
確実に含まれている必要がある。これらの人々は、マーケティングプランの実施を阻害す
るか、逆に成功を確実にするかの両刃の力を持っている。観光マーケティングプラン作り
のために、彼らとのコミュニケーションは必須である。観光の成功の鍵は、彼ら利害関係
者の持つ専門知識の活用にかかってくる。
果たして『住人のための観光』なのか、『観光のための住人』であるのか。前者だったは
ずが後者にならないように注意しなければならない。
2.7
ツーリストセグメントのターゲット化(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケテ
ィング』2007 p.15~16、p.82~83)
ツーリズム開発は、潜在的ツーリストをいくつかのグループにセグメント化し、どのセ
グメントを最も容易に来訪させうるかを決定しなければならない。潜在的ツーリストは以
下の4つの方法でセグメント化しうる。一つは、人口学的要因、さらに地理的要因、サイ
コグラフィック的要因、旅行形態などである。
セグメントの方法
ターゲットグループ
人口学的要因
年齢、所得、性別、家族形態、民族性
地理的要因
局地的、地域的、全国的、国際的
サイコグラフィック的要因
くつろぎ、興奮、ナイトライフ、冒険、ロマンス
旅行形態
従来型観光客、日帰り客、ビジネス客
セグメント化の次に行わなければならないのが、ターゲット化である。ターゲット化戦
略には3種類あり、非差別的戦略、集中的戦略、差別的戦略に分けられる。非差別戦略は
同じプロモーションメッセージを全ての人に送る戦略である。例えば、清涼飲料水やファ
ーストフードなどのような、広範囲に消費される安価な商品を市場に出すためには適した
戦略となるが、特定のグループに魅力的な商品を提供する、都市において効果は少なく適
さない。次に、集中的な戦略であるが、これは一つの消費者セグメントを単独ターゲット
としてプロモーションを行う戦略である。ここで重要なのが、商品に興味のある特定セグ
メントと、提供しなければならないベネフィットの分析である。この利点としては、時間
と費用の両面を節約できることである。例えは、歴史に興味がある人をターゲットに、ニ
ュースレターに広告を載せるような手法である。最後に、差別的な戦略についてである。
これは、まず訪れることを最も希望しているツーリストの主要なセグメントを決め、一つ
以上のベネフィットを伝達するプロモーションメッセージを設計する。このことにより、
より小さなセグメントをセカンドターゲットとすることも可能である。
2.8 マズローの欲求階級とツーリズム
ここで、『マズローの欲求階級』について触れてみたい。これは、最も良く知られている
6
心理的なモチベーション理論で、マズロー(Abraham Maslow)によって開発された。マ
ズローによれば、全ての人々が充足させようとする第一の生理的欲求は、食料・衣服・居
住などを得ようとする基本的な生存欲求(the basic needs of survival)である。これらを
満足させたうえで、次に安全・安心の欲求(safety and security)が来る。人は、危害から
安全であると同時に、これらの基本的な欲求が将来も保障されることを欲する。これらが
満たされたら、集団への帰属欲求(belonging needs)、職業・趣味などの社会的欲求(social
needs)を満たそうとする。そして、ユニークで特別でありたいと願う、自尊意識(self-esteem)
も欲求する。欲求の最終段階は自己実現(self-actualization)であり、教育や体験によって
最上の自分になりたいという欲求である。(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティ
ング』2007 p.106)
マズローの欲求階級とツーリズム
欲求
概要
ツーリズムとの関連要素
生理的欲求
衣食住や他の基礎的必需
飲食施設・食料品店・キャンプ場での
品
BBQ・ホテル・トイレ
個人的安全と快適性
警察の電話番号・ガードマン・路上ガイド・
安全欲求
インフォメーションセンター・信号機・安
全な交通手段
帰属欲求
自尊欲求
自己実の現欲求
歓迎されているという感
フレンドリーな地域住民・店舗オーナーの
覚、集団の一員という感
あいさつ・地域社会への奉仕・社会活動・
覚
ナイトライフツアー
特別でユニークと感じる
他都市にはないユニークな活動・特別イベ
ことへの欲求
ント・レッスンを受ける機会
今までで最良の人間と感
プロからのレッスン・価値あるボランティ
じること
アに参加する機会
(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007 p.111 表6.2より)
上述した欲求の多くは、商品購買を通じて満たすことができるので、マズローの理論を
マーケティングに直接応用することができる。実際、必要とする全ての食料・衣服・住居
を消費者が所有したら、その他の購買はすべて、より高次の欲求を満たすためのものにな
る。人間の欲求は、一つの欲求を叶えてから次の欲求へと動く階層構造をしているとマズ
ローは言う。もちろん、人はより高度な帰属世級、社会的欲求、自尊世級を叶えようとし
ている時でも衣食住、安全・安心といった基礎的な欲求を叶えていく必要がある。よくデ
ザインされたパッケージツアーは、ツーリストの多くのニーズが同時に叶えられるような
ものである。結局、その都市のアトラクションがどんなにエキサイティングなものであっ
ても、ツーリストにとってはおいしい食事や快適なベッド、安全が第一に必要なのである。
それゆえ、マーケターは都市への来訪がツーリストの帰属欲求・自尊欲求・自己実現の欲
求を満たすことをプロモーションすると同時に、基礎的欲求も充実させるという情報をプ
7
ロモーションしなければならない。
帰属欲求について・・・例えば、小さな町においては、友好的で来訪者を歓迎する雰囲
気を伝えることで、ツーリストの帰属欲求を満たすことができる。ツーリストの帰属欲求
を満たすために、ツーリストがその都市の住民や他のツーリストと一緒に楽しめるような
社交活動やイベントを開催することも重要である。そして、どこで地元住民とともに遊べ
るのかといった情報提供も必要である。
自尊欲求について・・・例えば帰宅してから其その旅について他人と情報共有すること
で自尊心を満たすことが出来る。そのため、ツーリストは日常では起こり得ないような経
験や、良いサービスなどで特別扱いされた経験が必要である。また、趣味の欲求のために
旅行することや、プロからレッスンを受けたりすることは、単に見物するだけよりもはる
かにエキサイティングな経験に映るだろう。ツーリストが向上させたいと望む技術や趣味
としてはタンゴを踊る、スポーツをする、料理、技術などが挙げられる。また、多くのツ
ーリズム商品が一年中利用可能であるのに対し、フェスティバルのようなイベントは誰も
が参加できるわけではないので自慢する権利を持ち、特別にアピールできる。そのイベン
トにスターや有名人が出演する場合には特に当てはまる。
自己実現の欲求について・・・ある都市への訪問が、ツーリストの特殊な技能や興味を
プロレベルまで向上させることができるとアピールするために、マーケターは専門家によ
る講義や有名人による実技研修をパッケージ化することができる。他にも、都市のユニー
クな建築物を限られた期間のみ公開することや有名なシェフによる料理教室などが挙げら
れる。自己実現はボランティア活動も含まれる。都市を離れる際に、自分は良いことをし
たのだという思いが生まれる。
ツーリストが観光という商品を最終的に評価する際には、心理的な要素(どれほど欲求
が満たされたか)に左右される部分が大きいはずである。よって、都市観光において、マ
ズローの欲求階級を応用して分析することは大変有効である。
2.9 戦略的分析
環境精査と商品分析から得られるすべての情報は、パッケージ化され、ブランド構築さ
れ、特定のターゲットとなるツーリストセグメントに対してプロモーションが可能となる
ような、都市のイメージを開発するために使われる。しかしこれらの戦略決定の前にすべ
ての利用可能なすべての情報を分析することが必要である。SWOT 分析とはこのような目
的のために使われる有効なツールである。
SWOT とは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats
(脅威)を表す。SWOT 分析は、利用可能なすべてのデータを処理し、もっともふさわし
い戦略を決定する手助けとなる。そのプロセスにおいては、商品分析から情報を引き出し、
ツーリストを引きつけるようなプロモーションが可能な、都市の主要な強みと、直さなけ
ればならない弱みを知る。さらに環境精査からの情報を分析し、都市が利点として用いる
8
機会と、回避しなくてはならない脅威を発見する。(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマ
ーケティング』2007 p.62)
<SWOT 分析>
★Strengths(強み)・・・ツーリストを引き付けるために利用可能な、都市の特色・ベネ
フィット(ex:歴史的遺産・テーマパーク)
★Weaknesses(弱み)・・・ツーリストの来訪を潜在的に遠ざけてしまう都市の弱み
(ex:中核的商品の老朽化、街灯の少なさ)
★Opportunities(機会)
・・・経済的・社会的・人口学的な傾向から得られる機会の分析
(ex:若い人の要望の増加・関心の変移)
★Threats(脅威)・・・ツーリズム産業の発展に対する脅威
(ex:可処分所得の減少・ガソリンや航空運賃の値上げ)
このように、SWOT 分析で、客観的にあらゆる情報を見直すことは、全体像を把握する
上での一つの有効な手段である。
2.10
ブランド構築(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007 p.19)
ボニータは、都市をプロモーションするときにブランドを用いることには多くの利点が
あると述べている。まず、その都市に固有のものであり続けるように著作権を設定するこ
とができる。同時に来訪者の保証できる質のシンボルにもなる。さらに何度も長く用いる
ことにより、ブランドは都市が提供するすべてのベネフィットを潜在的ツーリストに思い
起こさせる速気法にもなる。
観光において、その都市がいかにユニークなイメージであるかは重要な要素であること
からも、ブランドイメージを構築することは、都市にとってプラスの側面が大きい。しか
し、都市での滞在に満足しなかった旅行者にとってはマイナスのイメージを想起させるこ
とからも、ブランドイメージと実際の滞在でのイメージにギャップが生じないよう、満足
いく質や体験を提供しなければならない。
2.11
戦略の種類(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007 p.69~75)
戦略とは、ツーリストを引きつけるためのアプローチであり、マーケティングプランと
は目標を達成する戦略の実行方法に関する詳しい情報をすべて含んだ戦略のことである。
プランには、遂行されなければならない特定のタスク、だれがその責任者であるのかなど
の詳細を含む。ツーリストを引きつける夢を実現するためには『目標・戦略・プラン』の
3つ全てが必要である。
マーケティング戦略は、組織の目標を達成するために、マーケティング・ミックスのど
の要素に焦点を当てるべきかのプロセスを指す。マーケティング戦略は、どんな顧客を対
象とすべきか、どのような商品を売るべきか、どんな価格で、どこで、どのようなタイプ
でプロモーションを行うかという決定を必要とする。戦略の種類としては、消費者戦略、
9
商品戦略、価格戦略、流通戦略、プロモーション戦略、混合戦略の6つがある。
消費者戦略とは、SWOT 分析により、都市にはすでに強い中核的な商品が存在すると分
かったときに用いられる戦略である。この場合、ツーリズムマーケターは、都市の中核的
な商品を楽しむ潜在的なツーリストを見つけることに焦点を当てることとなる。セグメン
ト化や、潜在的なツーリストグループを発見しターゲット化するプロセスは、消費者戦略
で行われる。これは通常のマーケティングと同様の手法である。
商品戦略とは、SWOT 分析により、都市の中核的商品が、他の競合都市と類似している
ことが明らかになったとき行われる。通常の商品戦略は、特定の消費者グループの需要を
満たす商品開発である。しかし、通常のマーケティング手法とは異なり、都市はすでに存
在しているもので、新たな商品開発は選択肢にはならない。ここでは差別化戦略と商品拡
張戦略の2パターンがある。差別化戦略は、この都市がいかにユニークであるかを強調す
ることで競合都市との違いを明白にして伝える戦略である。商品拡張戦略は、支援的商品
や付加的商品の開発により、商品を拡張し充実することに焦点を当てる。例えば、魅力的
な商品の再生やツアーの開発、支援サービスの見直しなどである。
価格戦略は、営利目的の企業に広く使われており、競合相手より安い価格で商品を提供
することによって顧客を引きつける。だが、都市において、ツーリズム担当者はアトラク
ション・レストラン・宿泊施設が設定している価格を直接コントロールすることは出来な
い。しかし、都市の利用可能な価格戦略には、対抗価格戦略、一流価格戦略、プロモーシ
ョン価格戦略がある。対抗価格戦略では、競合相手の目的地やよく似た商品がある際に、
こちらの都市のほうが安価で提供できるとプロモートする。一流価格戦略は、高品質でユ
ニークな商品がある際に、より排他的なイメージと高価なパッケージを備えた商品をプロ
モートすることでブランドイメージを植え付ける。反対に、非常に安価な商品をプロモー
トすることもできるが、品質と排他性のイメージを壊すことになってしまう。最後に、プ
ロモーション価格戦略は、オフシーズンなどで、ツーリストが減っているときに行う戦略
である。マーケターは、アトラクションや宿泊施設と協力し、安価なパッケージを提供す
ることで、普段来訪の余裕のないツーリストの来訪が可能となる
流通戦略は、通常、流通に焦点を当て、消費者にとって便利で身近な場所で企業が商品
を提供する戦略であるが、都市は再配置ができない。しかし、遠い都市に旅行する潜在的
なツーリストをターゲット化する際、より少ない移動で遠い都市と同じ体験をすることが
出来るというプロモーションメッセージを伝えることは出来る。日本人にとって、ハワイ・
グアム・沖縄はよい例であろう。また、格安航空会社などの発展により、都市を訪れる低
コストをプロモートすることも出来る。
プロモーション戦略は、消費者が商品のベネフィットに気づいておらず、プロモーショ
ンが情報を伝達するために必要な場合に、プロモーションに焦点をあてる。都市において
は、SWOT 分析によってツーリストを引きつけるために必要な中核的商品・支援的商品・
付加的商品がすでに存在しており、それらに関心を抱いているツーリストのセグメントが
10
識別されている際に行う。この戦略では、ターゲットセグメントに対し、適切なプロモー
ションのメッセージを作り出し、正しいプロモーションの方法と適切なメディアの選択を
行う必要がある。
混合戦略は、消費者・商品・価格・流通とプロモーションの戦略のうち、複数の戦略を
行う戦略である。SWOT 分析と商品分析の情報を元に、限られた財源を分配して複数の戦
略を行わなければならない場合もある。
戦略の種類として、消費者戦略、商品戦略、価格戦略、流通戦略、プロモーション戦略、
混合戦略の6つがあるが、都市観光のマーケティングにおいてはあまり有効でないもの、
応用できないものもある。消費者戦略は従来と同様の手法である。商品戦略について、ボ
ニータは『通常のマーケティング手法とは異なり、都市はすでに存在しているもので、新
たな商品開発は選択肢にはならない。ここでは差別化戦略と商品拡張戦略の2パターンが
ある。』と述べているが、新たな中核商品を開発することも出来ると考えるので、合わせ
て3パターンである。価格戦略はなかなか難しいが、外部環境を見極めたうえでうまく使
えば、効果を得られるだろう。流通戦略においては、従来の超品における流通戦略をその
まま応用はできない。旅行者の心理に訴える方法として、考え方によっては可能であるが
世界中で飛行機などの移動手段が確立されている現代においてはあまり有効ではないと思
われる。ツーリズムにおいて旅行者は都市の持つ
イメージ
によって購買を決定するの
で、プロモーション戦略は最も重要であると考える。適切な手段で、正確なメッセージを
適切な人々に伝えられるかどうかが鍵である。
このように、マーケティング戦略において様々な角度から見た多様な手法が存在する。
しかし、従来の商品マーケティンでは効果的だが観光においてはあまり大きな効果を発揮
しないものもあると分かった。
2.12
ボニータの観光マーケティングについての考察
ボニータの観光マーケティングにおいて、4P は同様だが、価格は主要な戦略要素ではな
いということが分かった。この点が従来の商品マーケティングとは異なる点である。また、
セグメント化、ターゲット化の分類においては、従来の手法とほぼ同様である。しかし、
戦略において、特定の企業において有効な非差別化戦略が不可である点において異なって
いる。
都市という商品は、実際訪れるまで消費することができないので、イメージが大変重要
な要素である。都市観光は、実際に訪れるという決定を行うまで、イメージを通して間接
的なプロモーションしかできない。よって、従来のマーケティング同様にブランドイメー
ジを築き上げることも重要になってくる。しかし、イメージによる旅行者の期待と実際の
経験にギャップがあっては、旅行者は決してリピーターとはならないだろう。従って、商
品そのものだけではなく、経験から得られるベネフィットを適切に分析し伝え、旅行者満
11
足度等によって測定・評価を繰り返していく必要がある。その上で、マズローの欲求階級
に従って分析することは極めて有効である。
マーケティングプロセスには様々な手法があるので、『商品だから』、
『都市』だからとい
って一概には決められない。だが、両者ともに依然として外部環境の精査がとても大切で
あることは間違いない。マーケターは、SWOT 分析などあらゆる分析方法を使用し、冷静
で正確な分析を行わなければならない。都市観光の潜在性を見極める上で、マーケターの
手腕が問われるだろう。
最後に忘れてはならないのが、地域住民などの利害関係者の存在である。都市観光の成
功において、彼らの存在は不可欠であり、彼らを巻き込んだ『目標・戦略・プラン』を立
てることが重要である。住民と訪問者の双方への配慮と取り組みを徹底していくことが、
成功への鍵である。
3. ケース分析:ハワイ
3.1 はじめに:ハワイについて
ハワイ州(Hawaii)は、太平洋に位置するハワイ諸島にあるアメリカ合衆国の州である。
ハワイ島、マウイ島、オアフ島、カウアイ島、モロカイ島、ラナイ島、ニイハウ島の7つ
の島と 100 以上の小さい島々からなるハワイ諸島のうち、ミッドウェー環礁を除いた全て
の島々がハワイ州に属している。州都はオアフ島のホノルル市。(フリー百科事典:
Wikipedia より)
代表的産物はパイナップルやさとうきび、コナコーヒーであり、ハワイ独特の楽器であ
るウクレレに合わせて踊るフラダンスも有名である。ハワイでは、ハワイアンキルトとい
う伝統的な手芸が受け継がれており、アロハシャツが男性の正装と見なされる。先住民で
あるハワイアンは現在 10 万人ほどおり、第一言語として使うものは少ないものの、ハワイ
語も受け継がれている。
12
3.2 ハワイの観光業(Hawai’i Tourism Strategic Plan:2005-2015 p.3 より)
訪問者を歓迎するハワイの長い歴史は、ポリネシアからの入植者が渡来したときから始
まった。ハワイは、息をのむ景観、緑豊かな雨林、荘厳な山並み、美しい砂浜、一年中温
暖な気候を提供する場所として太平洋に浮かぶ“パラダイス”と呼ばれる。また、ハワイ先住
民の存在と地理的に孤立した環境が相まって、世界のどこにも類を見ない独特な観光地と
して親しまれている。
一方で、ハワイは多様な文化があることでも知られている。1852 年∼1946 年の間に、当
時成長の著しかったサトウキビ産業を支える労働力として、世界中各地から約 39 万 5 千人
もの人々がハワイに渡った。これらの移住労働者のうち、一部の者は祖国に戻ったが、大
半の者はハワイに残り、住民に加わった。ハワイに残り家庭を築き上げたこれらの住民が、
多様な文化と人種が混じりあったコミュニティを形成した結果、マルチカルチャー社会で
ある今日のハワイが出来上がったのである。
ハワイにおける観光業は軍需と並び大変大きな役割を担っている。2004年、州全体の雇
用機会のうち20%が観光関連であった。
3.3 ハワイへの総ビジター数の変化
年間旅行者数
8000000
7000000
6000000
5000000
人4000000
3000000
2000000
1000000
0
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 0
年
1
2
3
4
5
6
7
8
(ハワイ州政府 HP より作成)
1959 年にハワイがアメリカ合衆国の州となって以降、集客産業はハワイ経済の柱となる
までに成長した。その後、観光産業が 30 年以上に渡り順調に成長を続けた後、1991 年に
なって訪問者数の低迷が始まった。このトレンドの要因としては、アジア経済の停滞、世
13
界市場における競争の激化、1991 年の湾岸戦争勃発、1992 年のハリケーン‘Iniki’の直撃な
どが挙げられる。特に米国本土からの観光客の減少が著しかった。このような低迷が何年
か続いた後、米国の景気回復も相まって 2000 年には 6,948,595 人と訪問者数の記録を打ち
立てるまでに回復した。しかしながら、経済回復もつかの間で、2001 年 9 月 11 日のアメ
リカ同時多発テロにより、ハワイのみならず世界中の観光産業が大きな打撃を受けること
となった。米国や日本をはじめとした主要国の景気低迷、SARS に対する懸念、イラク戦争
の開戦などによっても、世界中の観光産業は窮地に追い込まれた。しかし、2004 年を境に
再び旅行者数は増加し始め、2006 年には 7,528,106 人と、過去最高の訪問者数を記録した。
そして、2007 年には横ばいであった旅行者数は、2008 年になって再び低迷に転じた。
3.4 ライフサイクル論
商品において、ライフサイクルがあるのと同様に、都市にとってもライフサイクルは存
在する。誕生し→成長し→成熟し→衰退、または脱成熟化といったように再活性化され市
場に登場することで終わる。(ボニータ・M・コルブ『都市観光のマーケティング』2007
年 p.112)
ここで、年間旅行者数を元に、ハワイ州を都市のライフサイクルに当てはめてみる。1959
年がハワイ州における都市の初期ステージとすれは、その後成長段階を得て訪問者数の過
去最高値を記録した 2000 年に成熟化を迎え、訪問者数の低迷が始まった 1991 年ごろから
衰退期に入ったと考えられる。しかし、2004 年には再び旅行者数が伸び始めたことから、
ハワイ州は脱成熟化を果たしたと言える。しかし、2008 年において再び旅行者数は低迷化
している。これは、アメリカ発の世界大不況や新型インフルエンザの流行も大きな要因で
はあるが、近年の消費者嗜好の変化、航空業界の再編、技術革新も観光業界を根本的に変
える要因となっていると考えられる。例えば、オイルサーチャージの導入や若者の旅行離
れ、旅行形態が安・近・短へと変化していることも要因の一つであろう。
3.5
ハ ワ イ 州 観 光 戦 略 計 画 : 2005 ∼ 2015 ( TSP )( Hawai’i Tourism Strategic
Plan:2005-2015 p.1 より)
1999 年、州政府の観光局として新しく設立されたハワイ・ツーリズム・オーソリティ(以
下 HTA)は、同局による最初の観光戦略計画である『Ke Kumu(ケ・クム)
:ハワイ州集客
産業に関する戦略方針』を起草した。Ke Kumu は、HTA と観光産業に指針を示すほか、
観光業を復興することにより地域社会に恩恵をもたらすことを目的とし、次の二つの研究
結果に基づいて立案された。
1、ハワイ州観光局業の競争戦略評価(ハワイが世界各地で直面している競争や動向につ
いて説明した競争分析)
2、ハワイ州観光商品評価(ハワイ州が観光客に提供するサービスの実現と一般認識の両
面から捉えた商品評価)
14
この計画では,『持続可能な観光』を目指す方策が示され、観光業の成功度を訪問者数に
基づいて評価するのではなく、支出の増加に重点が置かれた。また、世界を複数の地理区
分(主要マーケットエリア)に分割することにより、成功の可能性が最も大きい地域に人
材や資材を割り当てる取り組みを行った。その後、補足データを収集し、1999 年度イニシ
アティブの有効性を評価し、公聴会を重ね社会からの意見を請うことにより、計画を改正
した 2002 年度 Ke Kumu が出来あがった。そしてまた、HTA は 2003 年に、2002 年度 Ke
Kumu の改正を以下の過程で行った。
・ハワイ州が現在置かれている競争上の位置を検証する研究閣下を更新する
・研究結果を見直す(ハワイ州の持続可能観光に関する 2004 年度研究など)
・様々なアウトリーチ・プログラムを通じて地域社会および業界から意見、提案、懸念を
収集する(州政府による観光業サミット、全島における公聴会、業界討論会など)
・世界レベル、地域レベル、およびハワイ州観光業界で起きている変化を評価する
この過程で明らかになったのは、ハワイ州のニーズに対応した総合的かつ包括的な計画
を Ke Kumu 以外にも制定して、ハワイ州観光業界の全関係者に課せられた責任を定義する
必要があるということだった。そうして『ハワイ州観光戦略計画:2005∼2015(以下 TSP)』
が立案された。TSP は、特定の政府機関、地域組織、業界グループなどの行動計画ではな
く、ハワイ州観光業界の全関係者が認識すべき 2015 年までのビジョンを示したもので、こ
のビジョンを実現するためのロードマップ(戦略方針、具体的な目標、責任を課された支
援パートナー)も定めている。TSP は、ハワイが生活、仕事、観光の場として理想的であ
るという州政府のビジョンを実現するため、全ての関係者による協力を促す目的で制定さ
れた。
<2015 年までに実現するべきハワイ観光業界のビジョン>
① ハワイ先住民と伝統文化を尊重する
② ハワイの自然資源と文化資源を尊重し保存する
③ 利害関係者が尊重し合える環境を作る
④ 安定した経済を支える
⑤ 訪問者がハワイならではの豊かな時間を満喫できるようにする
ここまで見ると、ハワイ州は明確なビジョンを持ち、評価を繰り返すことで、戦略を常
に見直していることが分かる。また、差別的な戦略を中心に、効率的なマーケティングを
行っている。観光業が経済の主軸になるほどまでに発展したのは、現状に満足せず常に改
善を試みた、州単位での人々の努力の結果である。
3.6 成果の測定
計画の実施にあたっては、取り組みの監視と評価を継続的に行うことが重要であり、関
係グループを正しい方向に導くためにも計画を調整する必要がある。よって、HTA は4つ
15
の測定結果に基づき年次報告を策定している。その4つの指標というのは、住民の意見、
国や州の税収、訪問者の支出、旅行者満足度である。次の図のような関係である。
成功の評価
旅行者満足度
住民の意見
国や州の税収
訪問者の支出
住民の意見については、2年に一度居住者意見の調査を行い、調査結果を地域別および
人口統計区分によって統計をとる。国や州の税収(短期宿泊税・観光関連の一般消費税・
空港使用料など)に関してはハワイ州収税局によって毎年報告される。訪問者の支出調査
はハワイ州研究経済分析局とハワイ州産業経済開発観光局(以下 READ)によって行われ、
全般的な支出状況は毎月報告される。宿泊施設に限界のあるハワイでは、訪問者の支出は、
集客産業の経済的成長を実現する手段として今後さらに重視されると考えられる。最後に
訪問者満足度の調査は、READ によって毎年実施・報告される。この測定値は、ハワイの
主要市場に関して収集され、全体的な満足度だけでなく、訪問客による活動(宿泊・アト
ラクション・外食・ショッピング・アクティビティなど)ごとの満足度が調べられる。訪
問者の満足度と行動パターンを追跡調査することで、文化的なイベントやフェスティバル
に訪問者がどのように参加しているかも調べられる。また、イベントに参加する訪問者の
特 性 を 特 定 す る こ と も 可 能 と な る 重 要 な 指 標 で あ る 。( Hawai’i Tourism Strategic
Plan:2005-2015
p.10 より)
3.7 ハワイ観光業に対する住民の意見(Hawai’i Tourism Strategic Plan:2005-2015 p.4
‘2002 Survey of Resident Sentiments’より)
ここで、2002 年に調査されたハワイ観光業に対する住民の意見を見てみたい。この調査
によると、調査に回答した居住者の 50%が、観光業が自分自身や家族にとって「大概にし
て好ましい」と答えている。(1999 年より 58%ダウン)また、雇用にプラスの影響を与え
ていると答えたのが 80%、生活水準に関しては 67%、島におけるクオリティー・オブ・ラ
イフに関しては 67%となった。しかしながら、また多数の居住者はツーリズムがネガティ
ブな影響を与えていると感じている。例えは交通に関して 54%、犯罪 41%、住宅価格 35%
の者がマイナスの影響をもたらしていると答えている。
ハワイの集客産業の成長と発展は、州全体、島レベル、そして居住者にもさまざまな影
響をもたらしている。しかし、島という地理的特性を持ったハワイは、その資源および利
用において厳しい制約を課せられている。今後、人口が増加し、経済が発展する中で、経
済目標の達成とハワイの自然資源、物理資源、および人的資源の維持との間で正しい均衡
がとれるよう計画を調整することが求められる。
16
ハワイ州では、ビジョンでも掲げているように、地域住民やハワイ先住民と伝統文化を
尊重し、かつ利害関係者が尊重し合える環境を作ることを目標としている。このことから
も、ハワイ州におけるマーケティングは、人々を第一に考えていることが分かる。正にこ
れが、ハワイのツーリズムの成功の要因の一つであろう。
3.8
SWOT 分析(Hawai’i Tourism Strategic Plan: 2002-2015, Exhibit2 より)
ハワイの資産および資源において、TSP における SWOT 分析の結果を下のように示す。
これは世界全体の旅行業界においてハワイが占める位置を示し、ハワイ集客産業の新しい
ビジョンを実現するうえでのハワイの長所・短所・機会・脅威を特定したものである。
★Present Strengths(強み)
・・・ブランド意識、気候、文化と歴史、魅力的な目的とアピ
ール、高いビジター満足度、自然資源、人々とアロハの精神、
宿泊施設の質と多様さ、安全しかしエキゾティック、アクティ
ビティーとアトラクションの多様さ、地理的ロケーション
★Present Weaknesses(弱み)
・・・地理的な孤立、不十分な公共・民間のインフラ、不十
分な訪問者と居住者のふれあい、 新しい
経験の不足、到着
前後の正確な情報の欠乏、ステークホルダーの総体的合意の
欠如、ビジネス観光旅行の遅れ、来訪者の期待と認識違い、
不安定な島間の交通サービス、不安定な国家・国際的な航空
産業、公共施設の整備、新しい経験への乏しい配慮と限られ
たアクセス、プロフェッショナルガイドの不足
★Future Opportunities(機会)・・・ビジネス観光旅行の成長、クルーズ産業の成長、文
化観光事業の発展、地理的マーケットエリアによるマーケ
ティング計画のカスタマイズ、新しい市場の発展、フェリ
ーの発達、自然資源の管理の改善、公共・民間インフラの
改善、ステークホルダーの観光への参加の増加、接待文化
の維持と永続、スポーツ観光の成長
★Future Threats(脅威)・・・公共・民間インフラの老朽化、ツーリズム反対派の意見、
犯罪とドラッグの使用、破壊的な世界での事件、世界的競
争の増加、自国のセキュリティー基準の上昇、空輸不足、
内部の争い・自己満足、ハワイ経験のコスト、航空会社の
燃料の利用可能性とコスト
観光業がハワイの主要産業であり続ける一方で、それを取り巻くグローバル環境が目ま
ぐるしく変化している。ここでは特に、脅威について論じたい。
観光は多数の都市が潜在的ツーリストの獲得に向けて張り合う、極めて競争的な産業で
ある。従って、自らの都市の商品分析をするだけでは十分ではなく、競合相手の調査分析
17
が必要である。世界規模での競争の激化に伴い、この傾向はますます強まることが予測さ
れる。例えば、ハワイの競合関係にある他の観光地は、販売促進活動、商品開発、研究活
動などに多額の投資を行っている。米国本土で人気の観光地といえば、フロリダ、ラスベ
ガス、メキシコなどで、フロリダ州においては2002∼2003年に観光事業に8,070万ドルを投
資し、そのうち2,320万ドルを広告関連に充てている。ラスベガスの2002年における観光関
連の総予算は1億6000万ドルで、そのうちの6,010万ドルが広告に投じられた。
一方、犯罪やドラッグの使用が増えれば、その分治安も悪化する。先に述べた居住者の
意見を見ても、実に41%もの島民が観光業により犯罪においてマイナスの影響を与えてい
ると感じていた。また、同時多発テロやイラク戦争の結果、消費者の観点だけでなく、国
土安全の視点からも
旅行者の安全性
という問題が重視されるようになった。
3.9 ターゲット化とセグメント化
Annual Report によると、ハワイ州では訪問客にアンケートを実施し、人数・訪問回数
(リピーターかどうか)・旅行形態(ツアーか個人か)・宿泊数・滞在先の形態(ホテル・
コンドミニアム)
・旅行目的(観光・ハネムーン・ビジネス等)に関して調査を行っている。
これは、次にターゲットとすべき層を見極めるためにも重要な調査である。
また、以下のビジター数の変化のように、地理的なセグメント化による調査も行ってい
る。地理的なセグメント化とは、消費者がどこに住んでいるかに基づいてグループ化する
ことである。地理的なセグメント化が重要なのは、プロモーションを行う地理的な限界を
決定することができるからである。限界を決めることで、なるべく少ない費用で、より効
率的なプロモーションが行えるのである。ハワイ州は、まさにこのような差別的な戦略を
行っている。
3.10
ビジター数の変化
(2008 Annual Visitor Research Report ‘Table 1: Summary of Visitor Statistics: 2008 vs.
2007’より)
2008 年
2007 年
変化(%)
総計
6,713,436
7,496,820
-10.4
U.S. West
2,769,229
3,244,707
-14.7
U.S. East
1,683,114
1,901,502
-11.5
日本
1,175,199
1,296,421
-9.4
カナダ
359,580
333,397
7.9
ヨーロッパ
115,172
108,022
6.6
オセアニア
155,480
164,151
-5.3
その他アジア(日
112,548
121,109
-7.1
ビジター数(空路)
本以外)
18
ラテンアメリカ
18,896
19,943
-5.2
その他
324,218
307,568
5.4
ここで、セグメント別にビジター数の変化について見てみたい。U.S West においてはビ
ジター数が 3,244,707 人から 2,769,229 人へと減少し、−14.7%と最も減少率が大きかった。
また、U.S. East においてもビジター数は、1,901,502 人から 1,683,114 人へと減少し、−
11.5%となった。同様に、日本においても 1,296,421 人から 1,175,199 人へと減少。表から
読み取れることとして、U.S. West や U.S. East、日本からのビジター数大体マイナス 10%
以上で大きく減少していることが分かる。ハワイ州では、近年のビジター数の低迷はこれ
ら米国本土からの旅行者が減少していることに原因があると分析している。ビジター数を
回復させるためには、リピーター率の高いこれらの国々からの来訪者を増加に転じさせな
ければならないだろう。
一方、カナダやヨーロッパからにおいてはビジター数が増加している。全体のビジター
数が−10.4%も減少している中で、カナダは 333,397 人から 359,580 人への上昇(+7.9%)、
ヨーロッパは 108,022 人から 115,172 人へ(+6.6%)と大きな増加であることから、カナ
ダ・ヨーロッパは今後のビジター数の増加に最も期待できるセグメントである。今後は、
消費者戦略・プロモーション戦略を重点に、これらの国々に対してよりプロモーションを
強化していくべきであると考えられる。
3.11
一人一日当たりの支出(2008 Annual Visitor Research Report p.4より)
2008年に飛行機で訪れた、一人一日当たりの支出の平均は$180であり、2007年の$185
から落ち込んだ。U.S. West・U.S. East・ヨーロッパ・その他アジアからの旅行客の支出
は平均を下回った。一方、日本・カナダ・オセアニア・ラテンアメリカからの旅行客の平
均は2007のものに比べて上昇した。日本人観光客の一日における支出は、他の国々に比べ
最も高い位置を保ち続け、$288(Per Person)であった。次にその他アジアからが$222
でランクインし、ラテンアメリカ$219、オセアニア$216、U.S. Eastが$183、ヨーロッ
パ$169、カナダ$153、U.S. Westは$146という結果となった。
以上の結果を見てみると、日本人観光客の一人当たりの支出の高さが目立つ。日本人観
光客の特徴としては、他国に比べ、DFSで買い物をする人が多いことが挙げられる。しか
し、近年において日本人のビジター数がマイナスに転じていることも事実である。一人当
たりの支出を増加させたいハワイ州としては、彼ら日本人観光客の訪問者数を増やすこと
が目標達成への近道であると考えられるので、もう一度日本人観光客へのマーケティング
手法を見直さなければならないだろう。
一方、ビジター数が増加傾向にある、カナダやヨーロッパを見てみると、依然として一
人一日当たりの支出は低く、大きく平均を下回っている。彼らの支出の増加が、ハワイの
観光業を盛り上げるための今後の課題である。
19
3.12
2008 年における訪問者の旅行目的
ハネムー ビジネス
7%
ン・結婚
9%
親戚や友人
の訪問
9%
バケーショ
ン
75%
(2008 Annual Visitor Research Report p.56 より作成)
2008 年における訪問者の旅行目的を主要4つの目的別(バケーション、親戚や友人の訪
問、ハネムーン・結婚、ビジネス)について見てみると、バケーションが占める割合が 75.3%
で第一位である。次に来るのが親戚や友人の訪問で 9.4%であり、移民を多く持つハワイの
特徴がうかがえる。そしてハネムーンや結婚目的が 6.9%である。次にビジネス(ミーティ
ングやコンベンション)で 6.6%、結婚で 1.8%となっている。
目的別かつ国別の割合でいくと、バケーション目的では、U.S. East と U.S. West 約 70%
を占める。また、親戚や友人の訪問においても同様で U.S. East と U.S. West で約 80%を
占める。ビジネスでは U.S. East・U.S. West 合わせて 70%以上を占めており、以上3つの
カテゴリーにおいては米国本土が主要なマーケットであると判断できる。2008 年のビジネ
ス旅客は 436,574 人であり、前年よりも 11.3%減少している。今後、ビジネス客を増やし
たいハワイ州としては、米国マーケットにより一層力を入れていかなければならないと考
えられる。ハワイという地理的に孤立している環境でどこまでこの層が伸ばせるかは、州
単位での取り組みが鍵である。ボニータによると、ビジネス旅客は、都市に宿泊したり、
食事を取ったりするだけにとどまらず、仕事が終了した後の自由時間を過ごす際に商品を
購入しうる格好のターゲットであると言える。従って、マーケターは文化やスポーツイベ
ント等の夕方の活動をプロモートする必要がある。彼らが滞在を満喫することで、今後家
族を連れて訪れる機会につながる可能性もある。さらに、親戚や友人の訪問でやってくる
人々は、見落とされがちではあるが、旅行者の支出を増やしたいハワイ州においては大切
なターゲットセグメントでもある。来訪者を接待する居住者は、彼らと一緒に訪れる場所
や過ごせる活動を探している可能性がある。実際、居住者が自分の都市を観光する唯一の
機会になるかもしれない。これらの人々について、マーケターは市内の居住者を中心にプ
ロモーションメッセージを送る必要がある(p.86)。一方、ハネムーンや結婚においては 40%
以上を日本が占めていることから、日本が主要マーケットであることが分かる。しかし、
こちらも前年に比べて大きく減少しており(ハネムーン−7.2%、結婚−15.3%)さらに、
20
化の進む日本
本において、
、今後ハネム
ムーンや結婚
婚目的の訪問
問者は激減す
するであろう
うこと
少子化
が予想
想される。
今後
後、ハワイ州
州は、ビジネ
ネスやスポー
ーツ、フラダ
ダンスや英語
語学習目的の
の短期留学な
などの
新たなマーケットを作ってい
いかなければ
ばならないで
であろう。そ
そのためには
は、さらなる
るスポ
イベントの活
活性化と、地
地域のみなら
らず州単位で
での協力が求
求められる。
ーツイ
3.13
旅行者満足
足度と欲求(2008 Visittor Satisfacttion & Activ
vity Report より)
行者満足度は
は、Hawai’ii Visitors an
nd Convention Bureau
u(HVCB)が 1950 年代
代から
旅行
調査し始め、最初
初は U.S と日本に焦点を
を当てる調査
査であったが
が、2002 年か
からはカナダ
ダやヨ
対象に加わり
り、2008 年からはオセア
アニアも加わ
わった。この
の調査では、満足
ーロッパも調査対
宿泊施設や交
交通機関、ア
アトラクショ
ョン、食事、ショッピン
ングなどとい
いった
度のレベルを、宿
者体験に分類
類して調査している。ま
また、旅行者
者が滞在中に
にどのような
なアクティビ
ビティ
旅行者
ーを行
行ったかも調
調査している
る。
以下
下が、2006 年から 2008 年において
ての全体的な
な満足度のグ
グラフである
る。
全体
体的な満
満足度
70
60
50
%
40
2
2006
2
2007
30
2
2008
20
10
0
S. West
U.S
U East
U.S.
日本
カナダ
ヨーロッパ
(2008 Vissitor Satisfa
action & Acttivity Reporrtp.10 より作
作成)
の表の全体的
的な満足度は
は、『ハワイ
イでの休暇が
が素晴らしか
かったか』『旅行が期待
待以上
上の
であったか』』『ハワイを友
友人等に勧め
めたいか』『ハワイにま
また来る見込
込みがあるか
か』の
の調査の評価
価の平均値で
である。グラ
ラフを見てみ
みると、U.S West、U.S. East、カナ
ナダに
4つの
おいて
ては 60%以
以上に人々が
が満足しており、満足度は高い。また
た、日本・ヨ
ヨーロッパに
におい
ては、
、先に述べた
た国々よりも
も低いものの
の、全体的に
に比較的高い
い満足度では
はある。2007
7 年に
比べると徐々に上
上がってきて
ていることか
からも、ハワ
ワイ州の戦略
略はうまく機
機能している
ると言
良いのではな
ないだろうか
か。
って良
21
ここで、マズローの欲求階級について考えてみたい。まず、生理的欲求については衣・
食・住に分けて考えてみる。全体的な傾向としては、似ているので、ここでは 2008 年にオ
アフ島に滞在した U.S. West からの旅行者を例に取にとって見てみる(2008Visitor
Satisfaction & Activity Report Table4.1 より)と、住にあたるホテルなどの宿泊施設に
ついては、73.9%と大多数の人々が満足していると答えている。一方、食にあたるレストラ
ンは、57.1%が満足していると答えており、衣におけるショッピングについては、69.1%の
人々が満足していると答えている。全体的に、住に関しては大部分の人々が満足しており、
衣・食に関しては、半数以上の人々が満足していると言って良いだろう。課題としては、
衣・食において、価格に不満であると答えた人々が約 20%であることから、レストランや
ショッピングの価格を見直すことで人々の満足度をより上げていく必要があるとは考えら
れる。次に、安全・安心の欲求について、公園やビーチでのセキュリティーの項目を見て
みると、61.4%が満足していると答えている。また、交通機関においては、60.9%の人々が
全体的に満足していると答えている。空港に関しては 56.5%が満足していると答えている
一方、15%以上の人々は不便に感じているようだ。空港で働く人々のフレンドリーさに関
しては、52.4%が満足しており、36.7%の人々もいくらか満足と答えていることからも、問
題ないであろう。ハワイ州の戦略プランにおいて、地域住民との関わりや、彼らが旅行者
の歓迎について重要と捉えていることから、帰属欲求を満たそうと努力していることが伺
える。自尊欲求についてなのだが、
『友人や家族にハワイを勧めたいか』という調査におい
て、全ての国において約 80%もの人々が、勧めたいと答えていることから、彼らの自尊欲
求は高いレベルで満たされていると分かる。ハワイにおいてはフラダンスが有名であり、
これを学ぶ機会が増えればより自尊欲求を満たすことが出来るであろう。しかし、ホノル
ルにおいて無料でフラダンスやハワイアンキルト、ウクレレ講習などのユニークな体験が
出来るのだが、あまり多くの人々にこれらの情報が行き届いていないのが現状であり、今
後の課題である。ちなみに、ゴルフに関して述べると、58.3%が全体的に満足しているのだ
が、価格については約 23%の人々が不満に感じているようだ。ハワイ州は、直接価格決定
をすることはできないが、この結果からも何らかの方法で価格戦略に目を向けるべきであ
ると言える。最後に、自己実現の欲求においてなのだが、ハワイ州において有名なイベン
トといえば、ホノルルマラソンであり、多くの有名人が参加することからも、これに当て
はまると言えるだろう。こちらの満足度の結果は得られなかったのだが、このようなイベ
ントを盛り上げていくことで、人々の欲求は満たされ、満足度は大きく高まると考察でき
る。
3.14
2008 年における旅行者の年齢別比率(2008 Annual Visitor Research Report p.51
より)
2008 年における旅行者の年齢別比率を国ごとに見てみると、以下のように二極化が起こ
っていることが分かった。一方は、41 歳∼59 歳の年齢層が最も多く占めるパターンであり、
22
もう一方は、25 歳∼40 歳の年齢層が最も多く占めるパターンである。
A:41 歳∼59 歳が最も多い国・・・U.S. West(34.6%)、U.S. East(36.9%)、カナダ
(35.6%)、オセアニア(32.7%)においては、41∼59 歳の層が最も多い。また、同様に
60 歳以上の比率も高く、すべての国において 16%以上を占めることが分かった。
B:25 歳∼40 歳が最も多い国・・・日本(40.3%)、ヨーロッパ(37.2%)、その他アジ
ア(40.0%)、ラテンアメリカ(28.7%)は 25 歳∼59 歳の層が最も多い。また、これらの
国においては、18 歳∼24 歳の占める割合も高く、日本においては 10.3%、ラテンアメリカ
においては 14%が 18 歳∼24 歳の若い層となっている。
ボニータによると、年齢層別に好まれる活動にはしばしば大きな相違があるため、セグメ
ント化のプロセスでマーケターは年齢を考慮すべきである。子供たちと 10 代では劇的な違
いがあるし、年配のツーリストとヤングアダルトの間にも希望する旅行体験に大きな差が
ある。ボニータの見解からすると、ハワイ州は訪問者の年齢層をより細かく分けたうえで、
ターゲットの求めるものを見極めていかなければならないであろう。(ボニータ・M・コル
ブ『都市観光のマーケティング』2007 p.88)
また、A において特徴的なことは、全てが英語圏であるということである。B においては、
英語を母国語としない国がほとんどであるということである。実際、B の国々においては、
年齢が高くなる程、言語のバリアが大きいというのが現状である。今後の高齢化社会にお
いて、シニア層は格好のターゲットとなることからも、ハワイ州では英語以外の言語サー
ビスの充実を図っていかなければならないと考えられる。
3.15
観光客の形態の変化
総合
人数形態
2007
国内
2008
2007
国際
2008
2007
2008
一人
16.7%
15.8%
19.7%
18.7%
8.8%
7.4%
二人
42.2%
41.8%
43.2%
43.2%
39.5%
37.9%
三人以上
41.0%
42.3%
37.1%
38.1%
51.7%
54.7%
団体
2.13%
2.14%
1.98%
2.01%
2.55%
2.68%
出典: 2008 Annual Visitor Research Report Table 3: Summary of Visitor
Characteristics (Percentage of Total): 2008 vs. 2007
まず、国内からの訪問者において見てみると、2名での訪問が多いということが分かる。
一方、国際館においては、三人以上の団体が半数以上を占めている。しかし、人数形態に
おいて、三人以上の団体は、全体的にみると多くのパーセンテージを占めているが、年々
減少しているようである。一方、国内・国際間において一人や二人といった少人数の旅行
23
者が増えているということが分かる。
また、全体の旅行形式においてグループツアーでの旅行は 2007 年の 12.1%から 2008 年
11.1%へと減少。パッケージ旅行においては 2007 年の 38.4%から 35.8%へと減少。グル
ープかつパッケージ旅行者は 10.2%から 9.3%へと減少している。一方、完全な個人旅行客
のパーセンテージは 2007 年の 59.7%から 2008 年には 62.3%へと上昇している。米国にお
いては、パッケージを利用する人は少なく、個人旅行で様々な島へ訪れるケースが多いの
が現状である。
これを踏まえて、ハワイにおいては大勢用のコンドミニアムといったような宿泊施設よ
りも、シングルやダブルで利用出来る宿泊施設を増やすべきであると考えられる。そして、
個人での旅行が増えていることから、個人でも宿泊施設の予約を取りやすい環境づくりが
重要であると考察される。近年のインターネットの普及からも、ネット環境整備への取り
組みは一つの主要な課題である。また、個人旅行客にとっては豊富なインフォメーション
が容易に利用可能であることや、移動手段においての分かりやすさ、市内交通の利便化が
求められる。ハワイ州 TSP の SWOT 分析でも、ハワイの観光インフラの老朽化は問題と
されていうことからも、この点は要改善である。
3.16
リピート率(2000 年~2008 年 Annual Visitor Research Report より作成)
リピート率
66
64
62
60
58
56
リピート率
54
52
50
48
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
リピート率は 1999 年年の 58.9%から 2000 年には 60%、2001 年 61.1%、2002 年 62.3%、
2003 年 62.5%と、2002 年までは順調に上昇し続けた。しかし、2004 年にリピート率は
54.6%まで落ち込んだ。そして 2005 年に 55.7 に回復したのち、2006 年には 63.9%に急上
昇し、2007 年 65.2%と過去十年で最高のリピーター率を記録した。ちなみに 2008 年は
64.7%に下降したが、いずれにしても高いリピーター率を保っている。
24
2007 年に比べてリピーターの総人数は減少したものの、滞在日数は前年の 9.66 日から
9.85 日に伸びている。また、リピーターのうち 77.4%が国内からであり、国外からは 22.6%
であった。2008 年のリピーター率のトップは U.S. West からであり、80.4%がリピーター
であった。次いで、カナダからの旅行者のうち 61.3%がリピーターであり、日本からは
57.7%がリピーター、U.S. East からは、56.1%がリピーターであった。大多数のリピータ
ーのうち、69.9%もの人々が個人旅行者である。リピーターの平均旅行数は 7.05 であり、
2007 年調査の 6.91 とほぼ同じ数値であった。およそ半数のリピーターがホテルに滞在し
(56.7%)、20.9%がコンドミニアム、12%がタイムシェア・マンション、11.6%が友人や
親せきの元に滞在している。リピーターのタイムシェア・マンションの使用は、昨年と比
べて 1.8%増加している。オアフ島は 56.4%ものリピーターに訪れられている。次いでマウ
イ島が 31.4%、ハワイ島が 19.4%、カウアイ島が 15.9%である。三分の一以上のリピータ
ーはバケーションに戻ってきており、11.2%が友人や親類の訪問、6.2%がビジネス目的(ミ
ーティングやコンベンション、インセンティブ)でのリピーターである。
<リピーターの特徴>
リピーターの特徴をまとめてみると、以下のことが分かった。
・個人旅行者が多い
・オアフ島への訪問が多い
・ホテル滞在者が多い
・バケーション目的である
ツーリズムにおいてリピーターの存在は果てしなく大きい。ハワイ観光の成功の要因の
一つに、リピーターの存在があることは間違いない。彼らは、今後のハワイの『持続可能
な観光』という目標を成し遂げる上で非常に重要な存在である。そこで、以上に挙げたよ
うなリピーターの特徴を踏まえ、彼らのニーズを確実に汲み取り、今後のマーケティング
に活かしていくことが大切である。高いリピーター率を保っているからといって安心する
のではなく、このように毎年調査、分析を繰り返し、リピーター確保のためのマーケティ
ング戦略・プランを練っていくことが不可欠だ。このような努力を重ねることで、『リピ
ーターに愛されるハワイ』の構図が確立され、観光大国ハワイは今後も更なる成功を収め
るであろう。
4.まとめ
ボニータが述べるように、都市観光におけるマーケティングでは、従来のマーケティン
グをそのまま応用するのではなく、都市という特性を考慮した上での変化が必要な点があ
ると分かった。また、従来のマーケティングにおいては『消費者⇔企業』の関係が主であ
るのに対し、観光においては『政府⇔観光局⇔住民⇔ビジター』の関係を考えなければな
25
らないことが分かった。観光地としてのハワイの成功は、住民を巻き込んだ、政府・観光
局の努力の成果であると考察できる。また、今後の課題としては、住民などの利害関係者
との更なるコミュニケーションの活性化が求められる。その上で、観光の質の向上と、競
合都市との差別化に取り組んでいく必要があるだろう。『持続可能な観光』を行う上で、
伝統文化や自然資源など守るべきものを守り、改善すべき点は改善し、住民と訪問者の双
方が尊重しあえる環境をつくることが大切である。
ハワイは、最も成功している観光地の一つでありながらも、調査・評価・分析を繰り返
して常に戦略を見直し続けている。このような地道な作業を繰り返し、変化していくツー
リズムの動向を見極め、マーケティング戦略・プランを練っていったからこそ、低迷期を
乗り越えられたのだろう。そして、成熟期を迎えてからも、衰退を免れ、脱成熟化を果た
したハワイから学ぶことは非常に大きい。どの都市においても、持続可能な観光を視野に
入れ、短期的な成功に陥らないようにしなければならない。マーケッターがどのようなマ
ーケティングを行うかで、都市観光の寿命が決まってしまうことを常に肝に銘じておく必
要があろう。
都市観光の成功・失敗は、時に経済や人々の生活をも左右する。それほど都市観光にお
けるマーケティングは重要であると言えるのだ。
参考文献と URL
(1) ボニータ・M・コルブ著、近藤勝直
年
監訳、
『都市観光のマーケティング』多賀出版 2007
第一般第一刷発行
(2) ハワイ州政府 HP(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-plant/)
(3) フリー百科事典 Wikipedia、『ハワイ州』
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AF%E3%82%A4)
(4) State of Hawai’i, Hawai’i Tourism Strategic Plan: 2002-2015
(http://www.hawaiitourismauthority.org/pdf/tsp2005_2015_final.pdf)
(5) State of Hawai’i, DBEDT, 2008 Visitor Satisfaction & Activity Report
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/vsat/2008-vsat-final-web.pdf)
(6) State of Hawai’i, DBEDT, 2000 Annual Visitor Research Report, 2001
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-research/2000-annual-visitor.pdf)
(7) State of Hawai’i, DBEDT, 2001 Annual Visitor Research Report, 2002
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-research/2001-annual-visitor.pdf)
(8) State of Hawai’i, DBEDT, 2002 Annual Visitor Research Report, 2003
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-research/2002-annual-visitor.pdf)
(9) State of Hawai’i, DBEDT, 2003 Annual Visitor Research Report, 2004
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-research/2003-annual-visitor.pdf)
26
(10) State of Hawai’i, DBEDT, 2004 Annual Visitor Research Report, 2005
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-research/2004-annual-visitor.pdf)
(11) State of Hawai’i, DBEDT, 2005 Annual Visitor Research Report, 2006
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-research/2005-annual-visitor.pdf)
(12) State of Hawai’i, DBEDT, 2006 Annual Visitor Research Report, 2007
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-research/2006-annual-research-r.pd
f)
(13) State of Hawai’i, DBEDT, 2007 Annual Visitor Research Report, 2008
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-research/2007-annual-research.pdf)
(14) State of Hawai’i, DBEDT, 2008 Annual Visitor Research Report, 2009
(http://hawaii.gov/dbedt/info/visitor-stats/visitor-research/2008-annual-visitor.pdf)
評価
「観光マーケティング」という独自の領域があるかどうかを考察することは意味のある
ことだと思います。どうやら、多くの点では共通しているようですね。その一方で、具体
的なハワイの事例では、大きな違いが出てきているように感じました。「顧客」は誰か?
観光客だけを見ているわけにはいかないということでしょうか。公共マーケティングにも
つながりそうな大事な視点だと思いました。
27