労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書

労 働 省 平 成11 年 度 「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」
労働の場におけるストレス及び
その健康影響に関する研究報告書
平 成1 2 年3 月
班長 加 藤 正 明
序
本 研 究 は 、 平 成7年 度 よ り「 労 働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影
響 に 関 す る 研 究 」 と し て 労 働 省 よ り 研 究 を 委 託 さ れ 、 平 成 11 年 度 に い た
る5年 間 、 東 京 医 科 大 学 名 誉 教 授 加 藤 正 明 を 班 長 と し て 研 究 を 行 い 、 本 年
をもって終了したので、その大要を総括報告する。
本 研 究 は 、平 成 7 年 度 当 初 3 班 を も っ て 構 成 さ れ た が 、平 成 9 年 度 よ り「 産
業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の 研 究 」 (国 立 精 神 ・ 神 経 セ ン タ ー 、 精 神 保 健
研 究 所 吉 川 武 彦 所 長 )を 加 え 、4班 と し て 相 互 連 絡 提 携 の 上 に 5ヵ 年 間 の 研
究を行ったものである。
即 ち 、 第 1班 「 健 康 影 響 評 価 グ ル ー プ 」 は 、 岐 阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学
川 上 憲 人 助 教 授 を 中 心 と し て 、 平 成 7年 度 は 職 業 性 ス ト レ ス の 集 団 的 評 価
の た め 、 カ ラ セ ッ ク の J C Q 、 NIOSH の 職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 な ど を 含 む 日
本版職業性ストレス評価票を作成の上、コホート研究を実施し、生活習
慣 と の 関 連 な ど を 検 討 し た 。 平 成 8年 度 に は 大 規 模 な 調 査 を 開 始 し 、 ベ ー
スラインデータの解析、職業性ストレスと抑うつ、職場の心理社会的ス
トレッサーと血圧、血清脂質、虚血性心疾患などとの関係についての研
究 を 行 っ た 。 平 成 9年 度 は 職 業 性 ス ト レ ス 、 管 理 者 の ス ト レ ス 、 女 性 労 働
者 の ス ト レ ス 、 事 業 所 別 ス ト レ ス な ど の 研 究 を 実 施 し た 。 平 成 10 年 度 は 、
職業性ストレス判定図の開発、ライフスタイルおよび仕事外の要因の影
響 な ど を 分 析 し 、 平 成 11 年 度 は 事 業 所 別 の ス ト レ ス 対 策 の 進 め 方 、 ス ト
レス対策のモデル事業などを実施し、ストレス対策マニュアルを作成し
た。
第 2班 「 ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ 」 は 、 東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 下
光 輝 一 教 授 を 中 心 に 、 平 成7、8年 度 は 労 働 者 個 人 の ス ト レ ス 評 価 に 関 す
る研究に重点をおくとともに、免疫学的評価、循環系指標の時系列解析
を 行 い 、 平 成 9年 度 は 多 軸 的 ス ト レ ス モ デ ル に 基 づ い て 、 職 業 性 ス ト レ ス
簡 易 調 査 票 (57 項 目 ) を 作 成 し 、 そ の 信 頼 性 、 妥 当 性 に つ い て 検 討 を 行 っ
た 。 平 成 10 年 度 に は 簡 易 調 査 票 の 修 正 を 行 い 、 ま た 、 ス ト レ ス 評 価 法 の
総 合 的 マ ニ ュ ア ル を 作 成 し た 。 平 成 11年 度 に は 個 人 的 ス ト レ ス 評 価 を 目
的とした最終版の職業性ストレス簡易評価法を完成し、また、産業現場
での使用を目的としたその使用マニュアルを作成した。
第 3 班 は 、東 京 経 済 大 学 島 悟 教 授 を 中 心 に 、「 ス ト レ ス 対 策 研 究 」を 行 い 、
平成 7年 度 は ス ト レ ス 対 策 法 の レ ビ ュ ー と 職 場 に お け る 対 策 の 調 査 を 行
い 、 平 成 8年 度 は ス ト レ ス 対 策 の 効 果 評 価 指 標 に 関 す る 検 討 を 実 施 し 、 平
成9年 度 は ス ト レ ス お よ び メ ン タ ル ヘ ル ス 教 育 に 関 す る 調 査 研 究 を 行 っ
た 。 平 成 10年 度 は 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 使 用 し て 、 各 種 の 教 育 や
対策の効果の評価を行い、管理監督者教育用マニュアル、リラクセーシ
ョ ン マ ニ ュ ア ル の 作 成 を 行 っ た 。 平 成 11 年 度 は 運 動 指 導 、 保 健 指 導 、 イ
ントラネット法による対策の評価、セルフケア、ラインによるケアなど
の対策マニュアルを作成した。
第 4班 は 「 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム 」 の 研 究 を 行 い 、 国 立 精 神 ・神
経 セ ン タ ー 、 精 神 保 健 研 究 所 吉 川 武 彦 所 長 を 中 心 に 、 平 成 9年 度 は 産 業 メ
ンタルヘルスの効果と現状に関する全国調査および、企業内の効果につ
いて聞き取り調査を行い、また生産性本部の業績資料からみたメンタル
へ ル ス シ ス テ ム に つ い て 検 討 し た 。 平 成 10 年 度 は 業 種 別 の 全 国 調 査 と サ
ポ ー ト シ ス テ ム の 利 便 性 の 効 果 調 査 を 行 い 、 平 成 11 年 度 に は 事 務 所 規 模
に応じたシステムのありかたの検討を行い、大企業におけるメンタルヘ
ルスシステム、中企業における同システム、零細企業に対する同システ
ムについてのチャートを作成し、そのあり方について具体的に検討した。
以 上 、 平 成 7 年 よ り 同 11 年 に 至 る 労 働 省 委 託 研 究 「 労 働 の 場 に お け る ス
ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 」5 ヵ 年 の 共 同 研 究 を 終 了 す る に あ
たり、労働省の研究助成に感謝するとともに、これらの研究が、今後の
産業メンタルヘルス、特に労働の場におけるストレス及びその健康影響
に対して、有益な効果をもたらすことを期待したいと思う次第でありま
す。
平 成 12年 3月
研究班長 加藤 正明
労 働 省 平 成11 年 度
「作業関連疾患の予防に関する研究」班員名簿
班 長 : 加 藤 正 明 (東京医科大学精神医学名誉教授)
副 班 長: 下 光 輝 一 (東京医科大学衛生学公衆衛生学教授、事務局担当)
「企画調整グループ」
健 康 影 響 評 価 川 上 憲 人*( 岐 阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 助 教 授 )
ス ト レ ス 測 定 下 光 輝 一*( 東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 教 授 )
ス ト レ ス 対 策 島 悟*( 東 京 経 済 大 学 経 営 学 部 教 授 )
産業メンタルへルスシステム
吉 川 武 彦 *( 国 立 精 神・ 神 経 セ ン タ ー 精 神 保 健 研 究 所 長 )
「健康影響評価グループ」
相澤好治 (北里大学医学部衛生学公衆衛生学教授)
川 上 憲 人 ** ( 岐 阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 助 教 授 )
小林章雄 (愛知医科大学衛生学教授)
林 剛司 (日立健康管理センタ産業医主任医長)
橋本修二 (東京大学大学院医学系研究科健康科学・
看 護 学 専 攻 疫 学・予 防 保 健 学 助 教 授 )
「ストレス測定グループ」
大野 裕 (慶應義塾大学医学部精神神経科講師)
下 光 輝 一 ** ( 東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 教 授 )
中 村 賢 (北里大学医療衛生学部心理社会系医療学教授)
横山和仁 (東京大学大学院医学系研究科
社会医学専攻公衆衛生学助教授)
「ストレス対策グループ」
荒井 稔
(順天堂大学医学部精神医学講師)
須藤美智子(ソニー本社健康開発センター係長)
島 悟 ** ( 東 京 経 済 大 学 経 営 学 部 教 授 )
角田 透
(杏林大学医学部衛生学教授)
廣 尚典
(日本鋼管病院鶴見保健センター長)
渡辺直登
(慶応義塾大学大学院経営管理研究科教授)
「産業メンタルヘルスシステムグループ」
吉 川 武 彦 * * (国立精神・神経センター精神保健研究所長)
後藤 敕
( (財)社 会 経 済 生 産 性 本 部
メンタルヘルス研究所専任部長)
児玉隆治
(東京学芸大学保健管理センター教授)
高塚雄介
(早稲田大学学生相談センター講師)
竹島 正
(国立精神・神経センター精神保健研究所
精神保健計画部部長)
丸山 晋
(淑徳大学社会学部社会福祉学科教授)
「企画調整研究協力者」
原谷隆史
(労働省産業医学総合研究所主任研究官)
** は 兼 務 、 * は 連 絡 員
目 次
序 班長 加藤正明
班員名簿
I.総括
1 . 全 体 総 括 --------------------------------------------------------------------------- 1
Ⅱ .「 健 康 影 響 評 価 」 研 究 グ ル ー プ 報 告
1 . 健 康 影 響 評 価 グ ル ー プ 研 究 成 果 の 概 要 ------------------------------------ 5
2 .「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 完 成 と 現 場 で の 活 用 に 関 す る 研 究 -- 12
2 - 1 .「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 現 場 に お け る 有 用 性 の 検 討
2-2. 疾 病 休 業 デ ー タ 等 に 基 づ く 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の
再検討
2-2-1. 疾 病 休 業 デ ー タ か ら み た 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」
の検討
2-2-2. 追 跡 調 査 デ ー タ に よ る 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の
係数の検討
2 - 3 .「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 最 終 修 正
3 . 職 業 性 ス ト レ ス の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 ------------------------------- 40
3-1. 職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト の 研 究 の 概 要
3-2. 職 業 性 ス ト レ ス の 健 康 影 響 : コ ホ ー ト 研 究 最 終 年 度 解 析
結果
3 - 2 - 1 . 職業性ストレスと疾病休業:コホート内患者対照研究
3-2-2. 職 業 性 ス ト レ ス と 1 週 間 以 上 の 疾 病 休 業 : コ ホ ー ト
サイト 4 における患者対照研究
3-2-3. 職 業 性 ス ト レ ス と 動 脈 硬 化 性 疾 患 危 険 因 子
3-3. 職 業 性 ス ト レ ス の 健 康 影 響 に 関 す る 総 合 的 結 論
4 . 事 業 所 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 進 め 方 ---------------------------------- 63
4-1. 労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム と ス ト レ ス 対 策 の 実
施に関する検討
4-2. 年 齢 層 別 の ス ト レ ス 対 策 の ポ イ ン ト
4-3. 変 貌 す る 労 働 状 況 ( リ ス ト ラ 、 ア ウ ト ソ ー シ ン グ な ど )
の下でのストレス対策
4-4. 性 別 、 職 種 お よ び 事 業 場 規 模 別 の ス ト レ ス 対 策 の ポ イ ン
ト(再検討)
5 . 総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル 事 業 に 関 す る 研 究 ---------------------- 84
5 - 1 . SE に お け る ス ト レ ス 対 策 モ デ ル 事 業 ( モ デ ル 事 業 1 )
5 - 2 . 判 定 図 を 用 い た ス ト レ ス 対 策 を 、 従 来 の 方 法( 面 接 に よ
る 個 別 対 応 )と 組 み 合 わ せ た モ デ ル 事 業( モ デ ル 事 業 2 )
5-3. 職 場 環 境 お よ び 個 人 向 け の 複 合 的 ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル
事業(モデル事業3)
5-4. 中 規 模 事 業 場 に お け る ス ト レ ス へ の 意 識 づ く り の モ デ ル
事業(モデル事業4)
5 - 5 . 総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の 計 画 立 案 の モ デ ル 事 業( モ デ ル 事
業5)
5-6. 総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル 事 業 : 要 約
Ⅲ .「 ス ト レ ス 測 定 」 研 究 グ ル ー プ 報 告
1 . ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ 研 究 成 果 の 概 要 --------------------------------- 117
2 . 主 に 個 人 評 価 を 目 的 と し た 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 完 成 --- 126
2-1. 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 信 頼 性 の 検 討 と 基 準 値 の 設
定
2- 2 . 職業性ストレス簡易調査票における職業性ストレッサーおよびソ
ーシャルサポートとストレス反応の関連性の検討
― 共 分 散 構 造 分 析 (MIMIC モ デ ル )に よ る ア プ ロ ー チ ―
2- 3 . 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に お け る 職 業 性 ス ト レ ッ サ ー
およびストレス反応測定項目の反応特性の検討
―項目反応理論によるアプローチ―
2-4. 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に よ る ス ト レ ス 簡 易 判 定 法 の
検討
3 . 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 有 用 性 ------------------------------------ 165
3-1. 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に 対 す る 産 業 医 、 看 護 婦 ・ 士
の意見調査結果より
3-2. 総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル 事 業 の な か で の 職 業 性 ス ト
レス簡易調査票の活用
3-3. 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 使 用 に 関 す る 研 究
3-4. 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 有 用 性 の 検 討
3-5. 精 神 神 経 科 受 診 者 に 対 す る 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の
使用
4 . 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 使 用 マ ニ ュ ア ル --------------------------- 216
5 . 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 限 界 --------------------------------------- 227
Ⅳ .「 ス ト レ ス 対 策 」 研 究 グ ル ー プ 報 告
1 . ス ト レ ス 対 策 グ ル ー プ 研 究 成 果 の 概 要 --------------------------------- 231
2 . ス ト レ ス マ ネ ー ジ メ ン ト の 一 環 と し て の 運 動 指 導 ------------------ 240
3 . Web ペ ー ジ を 用 い た ス ト レ ス チ ェ ッ ク 票 の 作 成 と そ の 試 用
経 験 に つ い て ------------------------------------------------------------------ 249
4 . ス ト レ ス 対 策 に お け る 管 理 者 教 育 --------------------------------------- 255
5 . 保 健 指 導 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 実 際 --------------------------------- 272
6 . メ ン タ ー の 選 抜 要 件 に 関 す る 研 究 --------------------------------------- 298
Ⅴ .「 産 業 メ ン タ ル へ ル ス シ ス テ ム 」 研 究 グ ル ー プ
1 . 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム グ ル ー プ 研 究 成 果 の 概 要 ------------ 309
Ⅵ.成果物
「 健 康 影 響 評 価 」 研 究 グ ル ー プ ---------------------------------------------- 341
「 ス ト レ ス 測 定 」 研 究 グ ル ー プ ---------------------------------------------- 357
「 ス ト レ ス 対 策 」 研 究 グ ル ー プ ---------------------------------------------- 369
「 産 業 メ ン タ ル へ ル ス シ ス テ ム 」 研 究 グ ル ー プ ------------------------- 391
総 括
1
Ⅰ −1 . 全 体 総 括
平 成 7 年 よ り 同 12 年 に 至 る 労 働 省 委 託 研 究 「 労 働 の 場 に お け る ス ト レ
ス お よ び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 」の 5 か 年 間 の 報 告 が 終 了 し た の で 、
ここに総括報告を提出する。
本 研 究 は 平 成 7 年 よ り 同 1 2 年 に 至 る 5 か 年 間 、東 京 医 科 大 学 名 誉 教 授
加藤正明を班長とし、次の 4 研究サブグループによって、おのおのの研
究を相互連絡の下に行った。
第 1 班「健康影響評価グループ」は、岐阜大学医学部公衆衛生学助教
授 川 上 憲 人 を 中 心 に 行 わ れ 、5 年 間 の 研 究 に お い て 、1 ) 大 規 模 調 査 デ ー タ
( 職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト の 研 究 )お よ び 、2 ) 文 献 レ ビ ュ ー に 基 づ
いて以下の研究を行った。
1) さ ま ざ ま な 職 業 ス ト レ ス の 健 康 影 響 の 評 価
2) 職 業 性 ス ト レ ス の 集 団 的 評 価 法 と し て 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 を 開
発した。
3) 事 業 所 全 体 と し て の ス ト レ ス 対 策 の 進 め 方 お よ び 、 性 、 年 齢 、 職 種 、
事業所規模別のストレス対策の進め方を明らかにした。
4) 事 業 所 に お け る ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル 事 業 を 実 施 し た 。
集 団 的 ス ト レ ス 評 価 法 に つ い て は 、 カ ラ セ ッ ク Karasek RA の Job
C o n t e n t Q u e s t i o n n a i r e ( J C Q ) と 、 米 国 国 立 職 業 安 全 保 健 研 究 所 NIOSH
の職業性ストレス調査票その他を検討して、日本版「職業ストレス評価
法」を考案し、集団的ストレス評価を行い、集団ストレスの対策として、
女性のストレス対策、年齢別のストレス対策、職種ごとのストレス対策、
製造組み立て従事者のストレス対策、運輸従業者のストレス対策、ソフ
トウェア技術者のストレス対策、医療関係者のストレス対策、中小規模
事業所のストレス対策、リストラが進む事業所のストレス対策などを検
討 し た 。 こ れ ら の 結 果 に 基 づ き 、「 事 業 所 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 進 め 方
の チ ェ ッ ク リ ス ト 」 と 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 マ ニ ュ ア ル を 作 成 し 、
その簡易版を考案した。
第 2 班 は 、 東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 教 授 下 光 輝 一 を 中 心 に 、「 ス
トレス測定研究班」により、職業性ストレス簡易調査票の研究を継続し
た。職場ストレスによるストレス性健康障害は、長期にわたる欠勤や過
労死などとの関連が高く、職場における健康管理上、重要な問題となっ
ている。第2班は労働者個人のストレス測定のため、既存の多くのスト
レスに関する質問票を検討し、現場で簡便に測定・評価することが可能
であり、信頼性と妥当性の高い職業性ストレス簡易調査票を開発するた
2
め の 研 究 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、1 ) ス ト レ ス 反 応 の み で な く 、ス ト レ ス 要 因
を も 評 価 で き る こ と 、2 ) 心 理 的 反 応 の 中 、ネ ガ テ ィ ブ な ス ト レ ス だ け で な
く 、 ポ ジ テ ィ ブ な ス ト レ ス も 評 価 で き る こ と 、3 ) 心 理 的 、身 体 的 な ス ト レ
ス 反 応 だ け で な く 、 修 飾 要 因 を も 評 価 す る 多 軸 的 評 価 法 で あ る こ と 、 4)
職 場 で 簡 便 に 使 用 可 能 と す る た め 、質 問 項 目 を 少 な く し ( 5 7 問 の 職 業 性 ス
ト レ ス 簡 易 問 診 票 を 作 成 し た ) 、約 1 0 分 で 回 答 で き る よ う に す る 、5 ) ど の
よ う な 職 場 で も 使 用 で き る こ と 、6 ) 自 記 式 調 査 票 で あ る こ と が 必 要 で あ る
とされ、これら条件を満たすこの簡易調査法の使用にあたっては、労働
者個人の秘密の保持に十分な留意が必要であり、そのための配慮が十分
になされなければならない。例えば個人の自主的判断により受診するこ
とや、定期健診の際、嘱託医のみが調査票を見て判断し、本人に返却す
るなどの配慮が必要である。本人がストレス問題のために自ら受診を求
め て 来 た 場 合 も 同 様 で あ る と し た 。 す な わ ち 、1 ) セ ル フ チ ェ ッ ク 、2 ) 健 康
診 断 時 の 問 診 お よ び 保 健 指 導 の 補 助 と し て の 利 用 、3 ) ス ト レ ス 対 策 後 の 評
価 に 利 用 、4 ) 職 場 お よ び 職 種 間 の ス ト レ ス 状 況 の 評 価 に 利 用 、5 ) 健 康 測 定
( T H P )心 理 相 談 対 象 者 の 選 定 に 利 用 が 可 能 で あ る 。ま た 簡 易 調 査 票 の 結 果
から、ストレスプロフィールを作成することが出来、これによりストレ
ス の 評 価 が 容 易 と な っ て い る 。 な お 、 利 用 上 の 注 意 点 と し て 、1 ) 家 庭 生 活
上 の ス ト レ ス 要 因 は 測 定 し て い な い こ と 、2 ) パ ー ソ ナ リ テ ィ は 考 慮 さ れ て
い な い こ と 、3 ) 調 査 時 点 の ス ト レ ス 状 況 し か 把 握 で き な い こ と 、4 ) プ ラ イ
バシーの保護が重要であることが挙げられる。
第 3 班 は「 ス ト レ ス 対 策 に 関 す る 研 究 」 を 、 東 京 経 済 大 学 経 営 学 部 教 授
島 悟 を 中 心 に 行 い 、1 ) ス ト レ ス 状 態 の 現 状 の 把 握 と 、簡 易 ス ト レ ス 調 査 票
を 用 い た 事 業 所 全 体 お よ び 従 業 者 個 人 の ス ト レ ス の 状 態 を 把 握 し 、2 ) 事 業
所におけるストレス対策の立案を、事業所全体に対する対策と、従業員
個人に対する対策とに分けた。ストレス要因が多い時は事業所としてス
トレス要因を減らす対策を立てた。従業員個人のストレス抵抗力を増す
た め に 、 THP に 基 づ く 健 康 づ く り を 行 っ た 。 従 業 員 に ス ト レ ス に よ る 心
身 の 反 応 が 見 ら れ た と き は 、健 康 管 理 対 策 を 講 じ た 。3 ) ス ト レ ス 調 査 票 を
用い、事業所におけるストレス対策の実施とモニタリングを用いること
が必要である。ストレス対策における担当者の役割として、労働者自身
によるストレス対策、ラインによるストレス対策、事業所内健康管理ス
タッフによるケアおよび外部資源によるストレス対策が必要であった。
また、ストレス対策にあたって管理者の教育が不可欠であり、教育に
あたって職場内のコミュニケーションをよくし、部下の観察、個別面接、
ストレスの受け止め方の個人差に留意し、ストレスの高いものへの支援、
産業保健スタッフとの連携、プライバシーへの配慮などが重要である。
管理者教育の実施にあたって、人間関係、仕事の質と量、適性などに配
3
慮した教育プログラムを立てる必要があるとされた。
ここで健康診断をもとにしたストレス対策の例が示され、管理監督者
に お け る リ ス ナ ー マ イ ン ド の 基 本 と し て 、「 気 配 り ― 気 づ き ― 声 か け 」 と
いうコミュニケーションが示され、管理者にとって不可欠のこととされ
た。さらに、メンタリングによるストレス対策と、身体活動・運動によ
るストレス解消、インターネットの活用によるメンタルヘルス活動の研
究が検討された。
第 4 班 の「 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム 研 究 」は 国 立 精 神 保 健 研 究 所 長
吉 川 武 彦 を 中 心 に 行 わ れ 、 平 成 9 年 度 か ら 11 年 度 間 で の 3 年 間 行 わ れ た 。
平 成 9 年 度 に お い て は 、1 ) 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の 現 状 に 関 す る 全
国 調 査 が 行 わ れ 、 産 業 メ ン タ ル へ ル ス シ ス テ ムへ の 取 り 組 み は 、 大 企 業
ほど実施率が高く、システム導入に積極的な事業所は、約4分の1で、
大企業に多かった。つまり4分の3にあたる中小企業では、積極的では
な か っ た 。ま た 、2 ) 企 業 内 メ ン タ ル へ ル ス シ ス テ ム の 聞 き 取 り 調 査 で は 、
11 ヵ 所 の 事 業 所 に 企 業 内 の シ ス テ ム づ く り に つ い て ま と め た 。そ の 結 果 、
1) 組 織 診 断 の 強 化 、 技 術 開 発 、 管 理 者 の 研 修 、 援 助 機 関 や 人 材 の 開 発 、
専従専門医の確保、産業保健専門職の交流、事例集づくり、地域システ
ムづくりが要望された。
10 年 度 は 、 1 ) 規 模 別 ・ 業 種 別 の 差 は な か っ た が 、 3 7 . 5 % が シ ス テ ム 導
入の困難を訴えており、聞き取り調査では、地域保健と産業保健の統合
が望まれ、メンタルヘルスが企業に役立つこと、衛生管理者がキーパー
ソンであり、研修情報アクセスの向上により、システムづくりの機会を
増やすことなどが問題になった。
11 年 度 に は 、 1 ) 事 業 所 規 模 に 応 じ た シ ス テ ム づ く り が 問 題 に な り 、 中
小・零細企業では地域保健統合産業保健が統合された形でのシステムづ
くりと事業支援が必要であり、社内システムとしての衛生管理者の存在
が重要であるとされた。以上の結果からメンタルヘルスシステムのあり
か た と し て 、 大 規 模 事 業 所 の 場 合 、 中 小 事 業 所の 場 合 お よ び 零 細 事 業 所
の場合の 3 つのタイプが図示された。
以 上 4 班 の 研 究 は 、常 に 密 接 な 打 ち 合 わ せ の も と に 行 わ れ 、合 同 会 議 に
より、相互の研究の内容について討議の上、進行した。本研究の結果が、
労働衛生行政に役立つことを切望したい。
平 成 12 年 3 月 3 1 日
労働省委託研究
「労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究」
班長 東京医科大学名誉教授 加藤 正明
「健康影響評価」
研究グループ報告
5
Ⅱ −1 . 健 康 影 響 評 価 グ ル ー プ 研 究 成 果 の 概 要
A.健康影響評価グループの研究の概要
1.5年間の研究の概要
健康影響評価グループでは職業性ストレスの健康影響を評価し、また
事 業 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 進 め 方 を 明 ら か に す る た め に 、( 1 ) 大 規
模調査データ(職業性ストレスと健康コホート研究)の解析結果および
(2)文献レビューに基づいて以下の研究を行った。
1) さまざまな職業性ストレスの健康への影響を評価した。
2 ) 集 団 と し て の 職 業 性 ス ト レ ス の 評 価 法 で あ る「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定
図」を開発した。
3) 事 業 場 全 体 と し て の ス ト レ ス 対 策 の 進 め 方 お よ び 、性、年齢、職種、
事業場規模など別のストレス対策の進め方を明らかにした。
4) 事業場におけるストレス対策のモデル事業を実施した。
各課題の相互関係と研究の流れは、下図に示すとおりである。
研究課題
職 業 性 ス トレ
ス と健 康 コホー
ト研 究
職 業 性 ス トレ
スの健康影
響の評価
仕事のスト
レ ス 判 定図
の開発
事業場におけ
るストレス対
策の進め方
平成7年度 平成8年度 平成9年度
大規模調査の実蚕
文献レ
ビュー
コ ホ ー ト研 究 の
データを基礎デー
タとして活 用 した
平成 10年度
平成 11年度
追跡調査の実蚕
B
ベースラインデータ
の解析
ス トレ ス ソッ
プの 作 成
性 、職 種 、
事業場規
模別のポ
イント
ス トレ ス 対 策
モデル事業の
実蚕
幕ニ
健 康 影 響 評 価 グ ル ー プの
の
追跡デー
タ解析
職 業 性 ス トレ
スの健康影
響の結論
仕事のスト
レス判定申
の開発
仕 事 の ス トレ
ス判定 図 の
完成
全体の枠組
みの作成
年齢別およ
び リストラ下
での対策の
ポイント
職種別のポ
イント(追 加 )
モデル事業
の実施
5年 間 の 研 究 の 流 れ
2.平成11年度研究の概要
最 終 年 度 で あ る 平 成 11 年 度 は 、 こ れ ま で 4 年 間 の 研 究 成 果 を ふ ま え 、
6
他の研究グループと連携しながら、実際の職場でストレス対策を計画、
実 施 す る た め の 検 討 と 具 体 的 な マ ニ ュ ア ル 作 成 を 進 め た 。 平 成 11 年 度 研
究の概要および5年間の研究成果とマニュアルとの関係を図1に示す。
特 に ① 職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 の 5 年 間 の 成 果 を ま と め 、職
業性ストレスの健康影響について一定の結論を得る、②「仕事のストレ
ス判定図」を現場で応用し完成する、③事業場の特徴とストレス対策の
ポイントを補足する、④ストレス測定グループおよびストレス対策グル
ープと連携しながら、本研究班で開発されたストレスの評価・対策方法
を複合的に活用してストレス対策の総合的モデル事業を実施することを
目的とした。これらの研究成果に基づいて「事業場のストレス対策計画
マ ニ ュ ア ル 」、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 マ ニ ュ ア ル 」 を 完 成 し た 。
B.研究課題別の成果
1.仕事のストレス判定図の完成と現場での活用に関する研究
1)仕事のストレス判定図の現場における有用性の検討
仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 を 1 0 の 現 場 で 実 際 に 使 用 し 、そ の 有 用 性 を 確 認 し
た。仕事のストレス判定図の判定結果は実際の印象とよく一致しており、
また職場環境の改善対策の糸口として、管理監督者の教育啓発のツール
と し て 、ま た 対 策 の 効 果 評 価 の 方 法 と し て 有 用 で あ る こ と が わ か っ た( 川
上 班 員 )。
2)疾病休業等からみた「仕事のストレス判定図」の検討
仕事のストレス判定図のうち「量的負荷−コントロール」判定図では、
仕事のコントロールの係数は現行のものとよく一致していたが、仕事の
要 求 度 ( 量 的 負 荷 ) と 疾 病 休 業 の 関 係 が U 字 型 の 関 係 で あ っ た 。「 職 場 の
支援」判定図の係数は疾病休業データからみて適切であった。従来から
の知見、判定図の簡潔さの確保、判定図が必ずしも疾病休業のみを目的
指標として考えていないこと等から係数については現行のままとするこ
と と し た 。た だ し 、昨 年 度 の 年 齢 別 判 定 図 は 各 年 齢 に 共 通 し た 判 定 図( 男
女2枚)に要約した。また職業性ストレス簡易調査票女性用判定図の係
数 を 修 正 し た ( 橋 本 、 川 上 班 員 )。
2.職業性ストレスの健康影響に関する研究
1)職業性ストレスと健康コホート研究5カ年のまとめ
職業性ストレスと健康コホート研究の研究目的、研究対象、研究方法
に つ い て 要 約 し た ( 川 上 班 員 )。
2)職業性ストレスの健康影響に関する結論
職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 の 最 終 年 度 の デ ー タ を 解 析 し 、5 カ
年の研究成果および文献レビューから職業性ストレスの健康への影響に
つ い て ま と め を 行 っ た ( 小 林 ・ 林 班 員 )。 コ ホ ー ト の 追 跡 デ ー タ の 解 析 の
一 部 を 紹 介 す る と 、 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル の 低 さ 、 上 司 の 支 援 の 低 さ が 30
7
研究
課題
個
別
研
究
の
概
要
と
そ
の
成
果
研
究
成
果
成果物
(案)
仕 事 の ストレス 職 業 性 ストレス
判定図の完成 の健康影響に
と現場における 関 す る 研 究
検討
「判 定 図」を6
つの事業場/
職場で実際に
使 用 し、その 有
用性を検討し
た( 川 上 班 員)
職業性スト
レスと健康
コホート研
究のベース
ラインおよ
び追跡調査
データを解
析した結果
から、職業
性ストレス
が、精神的
愁訴、心血
管疾患危険
因子、筋骨
格系疾患、
事故、疾病
休業に及ぼ
す影響を確
認した(小
林・林班員)
職 業 性 ストレス
と健康コホート
研究の疾病休
業データ等に基
づいた検討から
現行判定図を
検 討、一部様
式や係数を修
正 し た( 橋 本 、
川 上 班 員)
仕 事 の ストレス
判定図を完成
し、その 現 場 に
おける有用性を
明らかにした。
職 業 性 ストレス
と健康コホート
研究の現時点
のまとめを 行
い、職業性スト
レスの健康影
響について結
論した。
仕 事 の ストレス判 定
図マニュアル
事業場におけ
るストレス対 策
の計画に関す
る研究
総 合 的 ストレス
対策のモデル
事業に関する
研究
前年度ま
での研究
成果
年齢別(相
澤 班 員 )、 変
貌する労働
状況の下で
のストレス
対策のポイ
ント(渡辺
協力者)を
明らかにし
労 働 安 全 衛
生マネジメント
システムにお
けるストレス・メ
ンタルヘルス
対 策 の 進 め
方を検討した
(川上班員)
事 業 場 ごとの
自 主 的 な ストレ
ス対策計画の
策定方法とそ
の 指 針 を 得 た。
他グルー
プの研究
成果
5つの事業場
で総合的スト
レス対策のモ
デル事業を実
施 し 、計 画 マ ニ
ュアルおよび
関連各ツール
の有用性を検
討 し た( 宮 崎 ・
田 中・深 沢 協 力
者、川上班員)
事業場におけ
るストレス対 策
の 枠 組 み、仕 事
のストレス判 定
図、 職 業 性 ス
トレス簡易調
査 票 、ストレス
対策マニュアル
を複合的に組
み合わせた対
策の有用性と
を示した。
事 業 場 に お け る ストレス対策計画マニュアル
図 1 健 康 影 響 評 価 グ ル ー プ 平 成 11 年 度 研 究 の 概 要
8
日以上の疾病休業の発生に関係していた。上司の支援の低さは高血圧や
肥満などの他の危険因子の影響を除いても1週間以上の疾病休業と関係
していた。研究結果から、健康に影響する可能性のある職業性のストレ
ス要因およびこれ関連の深い健康障害のリストが作成された。
3.事業場におけるストレス対策の計画に関する研究
健康影響評価グループでは平成9年度には性別、職種別、事業場規模
別 の ス ト レ ス 対 策 の ポ イ ン ト を 、 ま た 平 成 10 年 度 に は さ ら に 3 つ の 職 種
のストレス対策のポイントを追加検討するとともに「事業場におけるス
ト レ ス 対 策 の 共 通 の 枠 組 み 」 を 提 案 し た 。 平 成 11 年 度 は 、「 労 働 安 全 衛 生
マネジメントシステム」とストレス対策の関係について検討すると同時
に 、 年 齢 別 の ス ト レ ス 対 策 の ポ イ ン ト お よ び リ ス ト ラ ・ ア ウ ト ソ ーシ ン
グ下におけるストレス対策のポイントについて検討を進め、この課題に
ついての総まとめを行った。
1)労働安全衛生マネジメントシステムとストレス対策の実施に関する
検討
事業場のストレス対策を労働安全衛生マネジメントシステムの中での
活用するための方法について整理した。ストレス対策は、労働安全衛生
マネジメントシステムの中に組み込んでも、またこれと独立にも実施可
能であることが明らかとなった。労働安全衛生マネジメントシステムの
利点を生かして事業場におけるストレス対策の具体的な計画および実施
方 法 を 提 案 で き た ( 川 上 班 員 )。
2)年齢層別のストレス対策
職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 の ベ ー ス ラ イ ン デ ー タ を 用 い て 、職
業性ストレスにおける年齢的な特徴を検討した。結果から、若年層では
職業性の役割の明確化と職業に対する動機づけや満足感を上げるような
対 策 、中 高 年 層 で は 人 間 関 係 に 関 す る 対 策 が 重 要 で あ る と 考 え ら れ た( 相
澤 班 員 )。
3)変貌する労働状況(リストラ、アウトソーシングなど)の下でのス
トレス対策
変 貌 す る 労 働 状 況( リ ス ト ラ 、 ア ウ ト ソ ー シ ン グ な ど ) の 下 で の ス ト レ
ス対策のポイント(渡辺協力者)について文献レビューおよびコホート
データの解析に基づいて要約した。対策として、人事の公平性の確保、
上 司 ・ 部 下 関 係 の 強 化 ( 管 理 監 督 者 教 育 な ど )、 労 働 者 自 身 の キ ャ リ ア デ
ザインの支援があげられた。
4 ) 平 成 9 、 10年 度 の 労 働 者 の 特 性 別 ス ト レ ス 対 策 の 再 検 討
平 成 9 、 10 年 度 の 女 性 、 管 理 職 、 事 務 職 、 製 造 組 み 立 て 職 、 コ ン ピ ュ ー
タ技術者、運輸従事者、医療職、中小規模事業場のストレス対策につい
て再検討し、それぞれの対策ポイントを要約した ( 相 澤 ・林 ・ 小 林・ 川
上班員、朝倉・三木協力者)
9
4.総合的ストレス対策のモデル事業に関する研究
本 研 究 班 全 体 の 研 究 成 果 を 統 合 し 総 合 的 な ス ト レ ス 対 策 を 計 画・ 実 施 す
る た め に 、5 つ の 事 業 場 で「 事 業 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 枠 組 み 」、
「仕
事 の ス ト レ ス 判 定 図 」、「 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 」、「 ス ト レ ス 対 策 マ
ニュアル」を複合的に組み合わせて総合的ストレス対策のモデル事業を
実施した。
1)ソフトウェア技術者(SE)におけるストレス対策モデル事業
事業場内産業保健スタッフに相談できる機会の少ない遠隔地の営業所
や ク ラ イ エ ン ト 先 の ソ フ ト ウ ェ ア 技 術 者 (SE) も 含 め 全 社 的 ス ト レ ス 対 策
を 実 施 す る た め に 、職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票に よ る 調 査 を 実 施 し た 。
調 査 に よ り 一 人 作 業 の SE に ス ト レ ス が 高 い こ と が 把 握 で き た 。 ま た 個 人
向 け の 結 果 通 知 も 好 評 で あ っ た ( 宮 崎 協 力 者 )。
2 ) 判 定 図 を 用 い た ス ト レ ス 対 策 を 従 来 の 方 法( 面 接 に よ る 個 別 対 応 )
と組み合わせたモデル事業
従 来 心 身 の 不 調 者 を 対 象 と し た 個 人 面 接 を 実 施 し て い た 事 業 場 で 、こ れ
に 加 え て 職 場 環 境 の 対 策 を 行 う た め に 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 と「 仕
事のストレス判定図」を用いた調査の上、産業医による職場巡視,調査
対象者の一部に対する個別面接、部課別の報告会を行ない、職場集団を
対 象 と し た ス ト レ ス 対 策 が 可 能 と な っ た ( 田 中 協 力 者 )。
3)職場環境および個人向けの複合的ストレス対策のモデル事業
独 自 の 個 人 向 け ス ト レ ス チ ェ ッ ク( 健 康 診 断 時 に 実 施 ) を 中 心 に 、 職 場
別のストレス要因の評価と対策、個人結果の送付とこれと連動した個人
向け教育・ 研 修(リラクセーション法講習会)を複合的に実施し効果を
あ げ た ( 川 上 班 員 )。 こ の モ デ ル 事 業 に か か っ た 費 用 は 従 業 員 1 名 あ た り
約300円 と 比 較 的 安 価 で あ っ た 。
4)規模事業場におけるストレスへの意識づくりのモデル事業
従 業 員 700 名 の 中 規 模 企 業 で 、 従 業 員 の ス ト レ ス に 対 す る 意 識 づ く り を
進 め る こ と を 目 的 に職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票を 活 用 し た 個 人 向 け ス ト
レスチェック(希望者のみ対象)を中心に、リラクセーション講習会、
職場ごとのストレス評価、相談活動などを複合的に実施したところ、ス
トレスへの意識づくりや産業医への相談が可能であることの理解が進ん
だ ( 川 上 班 員 )。
5)総合的ストレス対策の計画立案のモデル事業
職 場 に お け る ス ト レ ス・メ ン タ ル ヘ ル ス 問 題 の 早 期 発 見 と 予 防 を 目 指 す
活動「メンタルヘルスプロモーションプロジェクト」のための体制づく
りと目標の設定を行った。プロジェクトは事業場内産業保健スタッフ・
人事部門・安全衛生部門・健康保険組合の代表者による運営委員会によ
って運営され、下部組織として4つのグループを設けそれぞれ活動目標
を 定 め た ( 深 澤 協 力 者 )。 こ れ は 将 来 の 大 企 業 で の ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル
10
となると思われる。
5.その他の調査研究
「 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 」( ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ )、「 ス ト レ ス 対
策 マ ニ ュ ア ル 」( ス ト レ ス 対 策 グ ル ー プ ) に つ い て 職 業 性 ス ト レ ス と 健 康
コホート研究の関連事業場の産業保健スタッフに試用および意見を求め、
その有用性および改善点を明らかにした( 川 上・ 林・ 相 澤・ 小 林 班 員 、
宮 崎 ・ 深 澤 ・ 廣 ・ 三 木 協 力 者 )。
またストレス測定グループに協力して、職業性ストレス簡易調査票 を
本グループ関連事業場で合計約2千名に実施しデータを提供した (川上
班 員 、 林 班 員 、 宮 崎 協 力 者 、 廣 協 力 者 )。
C.マニュアル(成果物)の作成
5 年 間 の 研 究 成 果 を 総 合 し て 、「 事 業 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 計 画 マ ニ
ュアル」および「仕事のストレス判定図マニュアル」の素案を作成し、
産業医、保健婦・士、看護婦・士、臨床心理士などとの検討会を行って
その内容を検討し、最終案を作成した。
D.5年間の研究成果の要約と残された課題
健康影響評価グループでは大規模調査(職業性ストレスと健康コホー
ト研究)を実施し、そのデータを文献レビューとともに効果的に活用す
ることで以下の研究成果を得た。
1 ) 主 要 な 職 業 性 ス ト レ ス 要 因 の 測 定 法 を 確 立 し 、そ の 健 康 リ ス ク を 明
らかにした。
2) 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 を 完 成 し 、 そ の 有 用 性 を 確 認 し た 。
3) 事業場のストレス対策の枠組みを提案し、性、年齢、職種、事業場
規模など別のストレス対策の進め方について明らかにした。
4 ) 事 業 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル 事 業 を 通 じ て 、本 研 究 班 の 成
果 物( ス ト レ ス 対 策 の 枠 組 み 、職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 、仕 事 の ス
ト レ ス 判 定 図 、ス ト レ ス 対 策 マ ニ ュ ア ル な ど )を 活 用 し て 実 際 の 現 場
におけるストレス対策の推進が可能なことを明らかにした。
残された研究課題としては、
1) よ り 長 期 に わ た る ま た 個 別 の 疾 患 に 対 す る 職 業 性 ス ト レ ス の 健 康
影響の評価
2) 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 か ら 職 場 環 境 の 改 善 に つ な ぐ た め の ツ ー ル
開発
3) 個 別 の 対 策 手 法 や モ デ ル 事 業 の 効 果 評 価 の 継 続
4) 全 国 規 模 で の 職 業 性 ス ト レ ス の 動 向 を 経 年 的 に モ ニ タ リ ン グ す る
ための基盤整備
があげられる。
11
E.班員構成(5年間)
平 成 7 ∼ 8 年 度: 川 上 憲 人( 岐 阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 )、河 野 慶 三( 富
士 ゼ ロ ッ ク ス )、 相 澤 好 治 ( 北 里 大 学 衛 生 公 衆 衛 生 学 )、 小 林 章 雄 ( 愛 知
医 大 衛 生 学 )、 林 剛 司 ( 日 立 健 康 管 理 セ ン タ )、 石 崎 昌 夫 ( 金 沢 医 大 健
康 管 理 )、 廣 尚 典 ( NKK 鶴 見 保 健 セ ン タ ー )、 橋 本 修 二 ( 東 京 大 学 医 学 部
疫 学 ・ 生 物 統 計 学 )、 曽 根 啓 一 ( 自 治 医 大 、 当 時 )、 織 田 肇 ( 大 阪 府 立
公 衆 衛 生 研 究 所 )、 三 戸 秀 樹 ( 近 畿 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 、 当 時 )。
平 成 9 年 度 : 川 上 憲 人 ( 岐 阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 )、 河 野 慶 三 ( 富 士
ゼ ロ ッ ク ス )、 相 澤 好 治 ( 北 里 大 学 衛 生 公 衆 衛 生 学 )、 小 林 章 雄 ( 愛 知 医
大 衛 生 学 )、 林 剛 司 ( 日 立 健 康 管 理 セ ン タ )、 橋 本 修 二 ( 東 京 大 学 医 学
部 疫 学 ・ 生 物 統 計 学 )。
平 成 10 ∼ 11 年 度: 川 上 憲 人( 岐 阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 )、相 澤 好 治( 北
里 大 学 衛 生 公 衆 衛 生 学 )、 小 林 章 雄 ( 愛 知 医 大 衛 生 学 )、 林 剛 司 ( 日 立
健 康 管 理 セ ン タ )、 橋 本 修 二 ( 東 京 大 学 医 学 部 疫 学 ・ 生 物 統 計 学 )。
健康影響評価研究グループ連絡員 川上憲人 (岐阜大学医学部公衆衛生
学)
12
Ⅱ − 2 .「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 完 成 と 現 場 で の 活 用
に関する研究
「仕事のストレス判定図」を完成し現場で実際に活用できるものにする
た め に 、 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 を 10 の 現 場 で 使 用 し 、 そ の 有 用 性 を 確 認
し た 。仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 の 判 定 結 果 は 実 際 の 印 象 と よ く 一 致 し て お り 、
また職場環境の改善対策の糸口として、管理監督者の教育啓発のツールと
して、また対策の効果評価の方法として有用であることがわかった。
ま た 職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 追 跡 調 査 デ ー タ に 基 づ き 、疾 病
休業等の予測性から「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 係 数 の 再 検 討 を 行 っ た 。
仕事のコントロールの係数は現行のものとよく一致していたが、仕事の要
求 度 ( 量 的 負 荷 ) と 疾 病 休 業 の 関 係 は U 字 型 で あ っ た 。「 職 場 の 支 援 」 判
定図の係数は疾病休業データからみて適切であった。従来からの知見、判
定 図 の 簡 潔 さ の 確 保 、判 定 図 が 必 ず し も 疾 病 休 業 の み を 目 的 指 標 と し て 考
え て い な い こ と 等 か ら 係 数 に つ い て は 現 行 の ま ま と す る こ と と し た 。た だ
し、昨年度の年齢別判定図は各年齢に共通した判定図(男女2枚)に要約
し、また職業性ストレス簡易調査票 女性用判定図の係数を修正した。以下
に各研究の詳細を述べる。
Ⅱ − 2 − 1 .「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」の 現 場 に お け る 有 用
性の検討
A.目的
平 成 1 0年 度 研 究 で 開 発 さ れ た 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 は 、職 場 や 作 業
グループなどの集団を対象として目にみえない仕事上のストレス要因を
評価し、それが労働者の健康にどの程度影響を与えているかを判定するた
め の ツ ー ル で あ る 。「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 で は 、 健 康 と の 関 係 が 深 い
こ と が わ か っ て い る 4 つ の 職 業 性 の ス ト レ ス 要 因 、 す な わ ち「 仕 事 の 量 的
負 荷 」、「 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル ( 裁 量 権 や 自 由 度 )」、「 上 司 の 支 援 」 お よ び
「同僚の支援」をストレス調査票で測定し、その結果にもとづいて職場の
ストレス要因の程度や健康問題の起きやすさ(健康リスク)の程度を知る
こ と が で き る 。「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 特 徴 は 、 ① 特 別 な 専 門 知 識 が
な く て も 、 誰 で も 簡 単 に 使 用 で き る 、 ② 最 小 で 1 2問 の 質 問 ( 職 業 性 ス ト レ
ス 簡 易 調 査 票 版 を 使 用 し た 場 合 )の 回 答 を 合 計 す る だ け で 判 定 が で き る 、
③ あ る 職 場 の ス ト レ ス の 大 き さ を 、全 国 2 . 5 万 人 の 労 働 者 の 平 均 と く ら べ
て判定することができる、④ストレス要因の大小だけでなく、そのための
健 康 影 響( リ ス ク ) も 知 る こ と が で き る た め 対 策 の 必 要 性 が 判 断 し や す い 、
な ど で あ る 。「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 活 用 場 面 と し て は 、 ① 体 調 を 崩
13
す者や事故が多いなどストレスが高いことが疑われる職場に対する調査、
② 職 場 ご と に 仕 事 上 の ス ト レ ス を 定 期 的 に 評 価 し た い 場 合 、③ 新 し い 機 械
の導入などの変化にともなうストレスの増加を評価したい場合、④ストレ
ス対策の効果評価をしたい場合などがあげられる。
「仕事のストレス判定図」を実際に事業場のストレス対策に活用するた
めには、判定図を実際の現場で使用しその有効性を検証する必要がある。
本研究では、本年度研究のモデル事業の中で「仕事のストレス判定図」を
試用し、その妥当性( 職 場 別 の 結 果 が 印 象 と 合 っ て い る か ) お よ び 有 用 性
(ストレス対策の中で有用な情報を与えるか)を検討した。また、これ以
外 に も「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 試 用 を 学 会 や ホ ー ム ペ ー ジ な ど で 広 く
呼びかけ、試用結果と感想を提出してもらい、妥当性と有用性を検討した。
B.対象と方法
表 1 に 、 本 研 究 で と り あ げ た 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 現 場 で の 10
の 使 用 例 を 示 し た 。本 年 度 研 究 で は 合 計 5 つ の モ デ ル 事 業 が 実 施 さ れ た が 、
このうち4つのモデル事業で「仕事のストレス判定図」が使用された。事
例 1 か ら 5 ま で が モ デ ル 事 業 で の 使 用 例 で あ り 、 事 例 1 、 2 は「 モ デ ル 事
業 3 」、 事 例 3 は 「 モ デ ル 事 業 4 」、 事 例 4 は 「 モ デ ル 事 業 1 」、 事 例 5 は
「 モ デ ル 事 業 2 」 に お け る 結 果 で あ る 。 ま た 、 事 例 6 か ら 1 0 ま で は 、「 仕
事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 試 用 を 学 会 や ホ ー ム ペ ー ジ
http://jcqjapan.freeservers.com/ な ど で 広 く 呼 び か け 、試 用 結 果 と 感 想 を 提 出
してもらった結果である。また、事例1,2はJCQ版の判定図を使用し、
このほかは職業性ストレス簡易調査票用の判定図を使用した結果である。
C.結果
1.電機メーカー事業場のストレス要因のモニタリング
電 機 製 品 メ ー カ ー の G 県 の 拠 点 事 業 場 ( 従 業 員 約 2000 名 ) に お い て 実
施 さ れ た に お い て 総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル 事 業 を 実 施 し た( 詳 細 は モ
デ ル 事 業 3 の 報 告 を 参 照 の こ と )。 1 9 9 9 年 7 月 に 従 業 員 2 3 1 2 名 に 対 し て
自己記入式の調査票(ストレスチェック調査票)を郵送し、ス トレスチェ
ッ ク へ の 参 加 を 呼 び か け た 。 1633 名 が 調 査 票 に 回 答 し 返 送 し て き た ( 回
答 率 71 % )。 ス ト レ ス 調 査 票 で は 、 職 業 性 ス ト レ ス 要 因 と し て J C Q の 仕
事の要求度、仕事のコントロール、上司および同僚の支援、精神健康の指
標 と し て CES-D 自 己 記 入 式 抑 う つ 尺 度 を 調 査 し た 。 こ の ス ト レ ス チ ェ ッ
ク調査票の回答から、職種、職場別のストレス要因の状況を「 仕 事 の ス ト
レス判定図」を使って評価した。
事業場全体としては、男女とも全国平均にくらべてやや上司または同僚
の 支 援 が 良 好 で あ り 、 健 康 リ ス ク は 少 な い 傾 向 に あ っ た ( 図 1 )。 し か し
ながら、職種別では男性の生産技術職で上司の支援が低い、女性の機械操
14
作従事者で仕事のコントロールが低いなどが明らかとなった。前者は、生
産技術職が交代勤務ラインで1人で作業することが多いためではないか
と推測された。また職場別の比較では、特定の部課で上司または同僚の支
援が低いことが判明した。こうした結果は、産業医および人事・労務担当
者 と の 報 告 会 で 報 告 さ れ 、今 後 の ス ト レ ス 対 策 の 参 考 資 料 と し て 活 用 さ れ
る予定である。
2.交代勤務の改善対策の効果評価
上 記 の 事 業 場 で は 4 班 3 交 替 の 交 代 勤 務 で は 1997 年 の 調 査 で 仕 事 の 量
的 負 荷 が 大 き く 、仕 事 の コ ン ト ロ ー ル が 低 い こ と が 判 明 し て い た( 平 成 10
年 度 報 告 書 参 照 )。 そ の 後 人 事 ・ 労 務 側 で 勤 務 形 態 の 変 更 が 検 討 さ れ 、 労
働 組 合 と の 合 意 の 上 で 1998 年 4 月 に か ら 4 班 2 交 替 に 勤 務 形 態 が 変 更 さ
れ た 。従 来 の 勤 務 形 態 が 8 時 間 3 交 代 で あ っ た の に 対 し て 新 し い 勤 務 形 態
で は 12 時 間 2 交 代 と 1 回 の 勤 務 で の 連 続 勤 務 時 間 が 長 く な っ た 。 し か し
一 方 で 仮 眠 時 間 が 設 け ら れ た こ と に よ り 実 質 の 1 回 勤 務 時 間 は 10 時 間 程
度 に と ど ま っ て い る 。ま た 交 代 勤 務 の ス ケ ジ ュ ー ル が よ り シ ン プ ル に な り
理 解 し や す く な っ た 、次 の 交 代 班 と の 引 継 ぎ に 時 間 が と れ る よ う に な っ た
などの改善がもたらされた。
この交代勤務の改善がストレス軽減に及ぼす効果を評価するために、
1997 年 4 ∼ 5 月 の 職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 ベ ー ス ラ イ ン 調 査
時 の デ ー タ と 今 回 調 査 の デ ー タ を 個 人 ID を 使 っ て リ ン ク し 、 交 代 勤 務 の
改 善 の 対 象 者 に つ い て 1997 年 と 今 回 の 職 業 性 ス ト レ ス の 状 況 を 「 仕 事 の
ス ト レ ス 判 定 図 」 を 使 っ て 比 較 し た 。 対 策 前 ( 1997 年 ) と 対 策 後 ( 今 回 )
を 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に よ っ て 比 較 し た と こ ろ ( 図 2 )、 対 策 後 に
は量的負荷が減少し仕事のコントロールが改善、またわずかではあるが上
司 お よ び 同 僚 の 支 援 が 増 加 し て い た 。 合 計 の 健 康 リ ス ク は 21% 減 少 す る
と推定された。抑うつ得点にはほとんど差はなかったが、過去1年間の疾
病 休 業 平 均 日 数 は 0.4 日 ( 15 % ) 減 少 し て い た 。 以 上 か ら 、「 仕 事 の ス ト
レス判定図」によってストレス対策の効果評価が可能であること、職場環
境( 勤 務 条 件 を 含 む ) の 改 善 が ス ト レ ス の 改 善 に 効 果 的 で あ る こ と が 示 さ
れた。
3.中規模事業場における仕事のストレス判定図の適応
「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」は 主 に 大 規 模 事 業 場 の 調 査 デ ー タ を も と に 作
成されたため、中小規模事業場で適応可能かどうかを検討する必要があっ
た 。 販 売 ・ 流 通 業 の こ の 企 業 は 従 業 員 約 700 名 で あ り 、 G 県 内 に 本 部 、 店
舗 、配 送 セ ン タ ー な ど 1 0 -50 名 づ つ の 中 小 規 模 事 業 場 が 分 散 さ れ て 配 置 さ
れている。
1999 年 7 月 に 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 用 い た 調 査 を 実 施 し 、 全 従
業 員 の 約 3 割 ( 212 名 ) か ら 回 答 を 得 た ( 詳 細 は 「 モ デ ル 事 業 4 」 の 報 告
書 を 参 照 )。 こ の 調 査 デ ー タ か ら 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 用 の 判 定 図 を
15
用いて、男女、職場別の職業性ストレスの比較を行った。この結果。男女
とも店舗で仕事の量的負荷が大きく仕事のコントロールが低く、また上司
の 支 援 が 低 か っ た ( 女 性 の 結 果 を 図 3 に 示 し た )。 こ れ は 多 忙 で な か な か
上 下 の 意 志 疎 通 の 困 難 な 店 舗 の 状 況 に 関 す る 実 感 と 一 致 し て い た 。以 上 か
ら「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 が 中 小 規 模 事 業 場 の ス ト レ ス 評 価 に も 有 用 で
あることは示された。
4.ソフトウェア技術者における対策モデル事業
対象企業であるソフトウェアハウスは事業場が全国に分布し、そのほと
ん ど が 従 業 員 数 50 人 未 満 の 小 規 模 事 業 場 で あ る 。 従 業 員 の 約 8 0% は ソ フ
トウェア技術者(SE)であり、業務はプロジェクト単位で構成される場
合が多いため、組織替えが頻繁にある・作業内容が短期間に変わりやす
い・ 客 先 で の 業 務 が 多 い な ど の 特 徴 が あ る 。 ク ラ イ エ ン ト 先 に 常 駐 し て い
るSEも多く、産業保健スタッフに従業員が直接相談する機会も少ない。
1999 年 に 対 象 企 業 の 従 業 員 ( 1619 名 、 S E 80 % 、 営 業 職 7 % 、 事 務
職 11 % 、そ の 他 2% )に 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 配 布 し 、1365 名( 男
性 1172 名 、 女 性 193 名 ) か ら 有 効 な 回 答 が 得 た 。 こ の デ ー タ を 職 業 性 ス
ト レ ス 簡 易 調 査 票 用 の 判 定 図 に あ て は め て 、S E の 職 務 内 容 別 の 職 業 性 ス
トレスの傾向を評価した。共同作業者の数別に、SEの上司や同僚の支援
を「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図」 を 用 い て 評 価 し た と こ ろ 、 共 同 作 業 者 の 数 が
少 な い ほ ど 上 司 ・ 同 僚 の サ ポ ー ト が 少 な い 傾 向 が 明 ら か と な っ た( 結 果 は
「 モ デ ル 事 業 1 」 の 報 告 書 を 参 照 )。 対 象 と な っ た 企 業 に お い て は 、 以 前
より客先等で一人あるいは小人数で業務をおこなうSEのストレスが高
い と い う 印 象 が あ っ た が 、 こ れ を 裏 付 け る 結 果 で あ っ た 。「 仕 事 の ス ト レ
ス判定図」が職場単位の評価だけではなく、業務形態の違いによる職業性
ストレスを評価するツールとしても利用可能であることが示された。
5.個人対策と組み合わせた判定図の応用
1999 年 6 月 に , 電 線 ・ ケ ー ブ ル の 製 造 工 場 の 従 業 員 1 0 5 0 名 を 対 象 に ,
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 実 施 し ,950 名 か ら 回 答 が 得 ら れ た( 男 性 8 8 9
名 , 女 性 61 名 ; 平 均 年 齢 3 5 . 6 歳 , SD=11.00 , 回 収 率 90.5 % )。「 仕 事 の
ストレス判定図」を用いて部課別に結果を集計し,①結果を踏まえた産業
医による職場巡視,②産業医・心理カウンセラーによる,調査対象者の一
部 に 対 す る 個 別 面 接 の 実 施 を 経 て ,③ 結 果 に 基 く 部 課 別 の 報 告 会 と 今 後 の
対策の検討を行った。検討会は部課別に実施され,所要時間は 1 時間程度,
参加者は各部課の管理職、産業医、心理カウンセラー、保健婦・士、総務
課 ( 安 全 担 当 ) で あ っ た 。 こ こ で は ,「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に 基 い た
結果を報告し,ストレス要因および今後の対策について検討した。
特 に A 部 で は 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 か ら 総 合 健 康 リ ス ク が 128 で あ
り ( 量 − コ ン ト ロ ー ル =102 , 職 場 の 支 援 =126 ), 仕 事 の 量 的 負 荷 が 高 く 裁
量 権 が 低 い こ と , ま た 同 僚・ 上 司 の 支 援 の 不 足 が 不 足 し て い る こ と が 判 明
16
し 、 職 場 単 位 で の 介 入 の 必 要 性 が 示 さ れ た( 結 果 は「 モ デ ル 事 業 2 」 の 報
告 書 を 参 照 )。 A 部 ( N = 36 ) は , ク リ ー ン ル ー ム 内 の 交 代 勤 務 作 業 で あ
る。上司による方針の変更が多いものの,その連絡が徹底されていない現
状が指摘され、上司の支援不足という判定図の結果と一致する意見が得ら
れた。今後は朝にミーティングを行い作業内容を確認するなど、上司と部
下とのコミュニケーションや情報伝達を円滑にしていくことが課題であ
る こ と が 認 識 さ れ た 。「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に 基 づ い た 結 果 の 報 告 お
よ び 検 討 会 の 実 施 に よ り ,職 場 集 団 を 対 象 と し た ス ト レ ス 対 策 が 可 能 と な
った。
6.電力会社営業所のストレス評価
電力会社のある営業所で、多忙な営業所の仕事のストレスを把握したい
という目的で 職業性ストレス簡易調査票用判定図を用いたストレス評価
を 行 っ た 。営 業 所 の 従 業 員 に 対 し て 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の う ち 4 尺
度 12 項 目 を 使 っ た 調 査 を 実 施 し 、 回 答 を 得 た 。 判 定 結 果 は 、 ほ ぼ 全 国 平
均 と 一 致 し て お り 、 お お む ね 問 題 な か っ た ( 図 4 )。 し か し 一 部 の 職 種 で
はコントロールや上司の支援が低い傾向が認められた。これらについて安
全衛生委員会を通じて人事労務および管理監督者に結果報告をしたとこ
ろ、大変に関心を呼び、また日頃の印象とよく一致しているとの評価が得
られた。
7.某建設業企画課
最近自殺例が発生した職場のストレスを把握したいとの目的で、ある建
設 業 企 画 課 の 課 員 全 員 を 、 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の う ち 4 尺 度 12 項
目 を 使 っ た 調 査 票 に よ っ て 調 査 し た 。こ の 職 場 で は 量 − コ ン ト ロ ー ル 判 定
図 で 、 仕 事 の 量 的 負 荷 が 平 均 に 比 べ て 高 い こ と が 判 明 し た( 図 5 )。 一 方 、
上 司 や 同 僚 の 支 援 は 全 国 平 均 な み で あ っ た 。 健 康 リ ス ク は 総 合 で 120-130
程 度 で あ っ た 。 こ の 例 で は「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に よ っ て 自 殺 の 背 景
となった可能性のある職場要因を評価できた。今後、仕事の量的負荷を減
ら す た め の 工 夫 や 改 善( 仕 事 の 複 雑 さ や 困 難 を 改 善 す る 事 な ど ) が 進 む こ
と に よ り 、 自 殺 予 防 の 対 策 も 進 む と 期 待 さ れ 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」
がその糸口として活用できることが示された。
8.鉄鋼関連の中規模企業
中 規 模 企 業( 従 業 員 115 名 ) に お け る 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 の 適 用 可 能
性 を 検 討 す る た め に 、職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 全 従 業 員 に 実 施 し 、114
名から回答を得た。男性ではほぼ全国平均と同じ結果であった。一方、女
性 で は 同 僚 の 支 援 が 極 端 に 低 か っ た ( 図 6 )。 担 当 看 護 婦 ・ 士 に 問 い 合 わ
せ た と こ ろ 、こ の 事 業 場 で は 女 性 従 業 員 に 中 高 年 層 で 足 を 引 っ 張 り 合 う 言
動があったり、一人当たりの業務が増えているため、理解のない上司に対
し て 不 満 が 高 く な っ た り し て い る 印 象 を 持 っ て い た 。「 仕 事 の ス ト レ ス 判
定図」の判定結果の妥当性が支持された。
17
9.メーカーお客様相談室
最 近 う つ 病 の ケ ー ス が あ っ た メ ー カ ー お 客 様 相 談 室 (男 性 24 名 )に お い
て職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 用 い て 調 査 を 実 施 し 、22 名 か ら 回 答 を 得
た。この職場の特徴を「仕事のストレス判定図」を使用して検討した。こ
の職場では仕事の量的負荷が大きく、コントロールが低いために、量―コ
ン ト ロ ー ル 判 定 図 で は 健 康 リ ス ク が 1 3 1 と 増 加 し て い た ( 図 7 )。 一 方 、
上司および同僚の支援は全国平均に比べて良好であり、このため総合の健
康 リ ス ク は 115 と 中 等 度 で あ っ た 。産 業 医 お よ び 上 司 に よ る 職 場 巡 視 を 行
った結果では、この職場では顧客やユーザーからの問い合わせ電話に対応
する業務を行っており、時間によっては仕事が集中しまた自分のペースで
作 業 が 困 難 な 状 況 に あ っ た 。仕 事 の 量 的 負 荷 を 軽 減 す る た め の 作 業 手 順 や
職場レイアウトの工夫、休憩の自由度の確保など仕事のコントロールの改
善、上司や同僚の支援を現在のまま保つためのグループ会議や報告連絡の
機 会 の 確 保 な ど が 対 策 と し て 話 し 合 わ れ た 。今 後 上 司 に よ り 可 能 な も の か
ら対策が実施される予定である。
10. 従 業 員 教 育 に お け る 応 用
ある公的機関の営業所の従業員に対するストレス教育で職業性ストレ
ス 簡 易 調 査 票 (「 判 定 図 」 関 連 の 12 項 目 の み ) に そ の 場 で 記 入 し て も ら い 、
判 定 図 に あ て は め て 受 講 者 に 示 し ス ト レ ス に つ い て の 説 明 に 利 用 し た 。参
加 者 は 20 名 で 、 男 : 女 = 約 3 : 1 で あ っ た 。 男 性 は 外 周 り 業 務 ( 技 術 職 )
と事務職、女性は事務職、苦情対応係、料金事務であった。年齢はほとん
ど が 40 代 後 半 で あ っ た 。「 判 定 図 」の 結 果 は 全 国 平 均 と ほ ぼ 一 致 し て お り 、
特に問題は発見できなかった。しかし自分たちのストレスをその場で評価
で き た こ と で 、 教 育 効 果 が あ っ た と 感 じ ら れ た 。「 判 定 図 」 を ス ト レ ス 教
育の場面でも活用することができると考えられた。
一方、判定結果は事前に人事 ・労務担当者から「 こ の 営 業 所 は 人 間 関 係
が悪い」と聞いていたこととは異なっていたが、これは小人数で年齢、性
別の結果を見られると困ると受講者が考えて正直に回答しなかった可能
性 が あ る 。少 人 数 で の 判 定 図 の 実 施 に は 年 齢 を 調 査 し な い な ど の 工 夫 が 必
要と考えられた。
D.考察と結論
以上の「仕事のストレス判定図」の現場での試用結果から、同判定図が
大規模事業場でも中小規模の事業場でも職場のストレスの特徴を的確に
把握していること(妥当性)が示された。また「仕事のストレス判定図」
の 結 果 は 、管 理 監 督 者 の ス ト レ ス 問 題 の 理 解 を 促 す の に 役 立 つ と い う 教 育
的側面、実際の対策の糸口となるという実践面の双方において有用である
こ と( 有 用 性 ) が 示 さ れ た 。 い く つ か の 事 例 か ら は 、 健 康 リ ス ク が 120 な
い し 130 を 越 え る 職 場 で は 何 ら か の ス ト レ ス 問 題 が す で に 生 じ て い る 場
18
合が多く、対策の必要性を判断する目安になると思われた。
使用にあたっては、できるだけ事業場内産業保健スタッフ[産業医、衛
生管理者・衛生推進者、保健婦・士等]と連携して職場のストレス評価を
実施することが望ましいと思われた。また、ストレスの評価と対策におい
て は 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に と り あ げ ら れ て い な い こ の 他 の ス ト レ
ス 要 因 に つ い て も 十 分 考 慮 に 入 れ る こ と も 必 要 で あ る と 思 わ れ た 。事 例 9
では職場の物理環境( 湿 度 や 音 響 効 果 な ど ) も 重 要 な ス ト レ ス 要 因 で あ っ
た 。 ま た「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 か ら 職 場 環 境 の 改 善 に つ な げ る た め に
は、まず判定図上の結果が実際の現場では具体的にどのような問題から派
生 し て い る か を 明 か に す る こ と が 最 初 の ス テ ッ プ と な る 。い く つ か の 使 用
事例では産業医による職場巡視や管理監督者との検討会を通じてこれを
実現していた。しかしできれば職場巡視の折りに使用できる観察に基づく
職場環境のストレス要因の改善チェックリストなどがあればこうしたス
テ ッ プ が さ ら に 容 易 に 実 施 で き る よ う に な る と 思 わ れ た 。ま た 職 場 環 境 の
ス ト レ ス の 評 価 を よ り 正 確 に 行 う た め に は 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の
他、健康診断データの職場比較や年次推移、労働者からの意見の聞き取り
など他の情報源も活用することが望ましいと思われた。
最後に、従業員にストレス調査票に記入を求める際には調査目的を明確
に伝え、個人の回答が秘密にされることを保証することが必要と思われた。
これは調査を無記名式で実施する場合でも考慮を忘れないことが必要で
あることが示唆された。
研 究 者:川上憲人(岐阜大学医学部公衆衛生学教室)
研 究 協 力 者 : 宮 崎 彰 吾 ( NKK 京 浜 保 健 セ ン タ ー )、 田 中 美 由 紀 ( 早 稲
田 大 学 文 学 部 )、 廣 尚 典( N K K 鶴 見 保 健 セ ン タ ー )、 長
見 ま き 子 ( 医 療 法 人 あ け ぼ の 会 )、 井 奈 波 良 一( 岐 阜 大 学
医 学 部 衛 生 学 )、 赤 地 和 範( 三 洋 電 機 岐 阜 産 業 保 健 セ ン タ
ー)
19
表1 「仕事のストレス判定図」の現場における有用性の検討結果
適 用 事 例*
1.電機メーカ
ーでのストレス
要因のモニタリ
ング
2. 交 代 勤 務
の改善対策の
効果評価
判定図使用の目的
職場ごとのストレス要 因
をモニターして早めに
問題を発見したい。
ストレスが高いと判定さ
れた職場に対する交替
勤務の改善の効果を
評価したい
3. 販 売・ 流 通 中 規 模 事 業 場 に お け
業 の 中 小 規 模 る仕事のストレス判 定
事 業 場 で の 適 図の適応。
用
4.ソフトウェア 全 国 に 営 業 所 が 展 開
技 術 者 に お け するソフトウェア 技 術 者
(SE)のストレスの現 状
る対策モデル
把握をしたい。
事業
5.個人対策と 職 場 環 境 面 からの対
組 み 合 わ せ た 策を実施するために職
判 定 図 の 応 用 場ごとのストレス評価を
行いたい。
6. 電 力 会 社
のある営業所
のストレス評 価
多忙な営業所の仕事
のストレスを把握した
い。
7. 某 建 設 業 最 近 自 殺 例 が 発 生 し
企画課
た職場のストレスを把
握したい。
8. 鉄 鋼 関 連 中 規 模 企 業(200 名 程
の 中 規 模 企 業 度)における判定図の
適 用 可 能 性 の 検 討。
9.メ ー カ ー お 最近うつ病のケースが
客様相談室
あった営業系職場(24
名 )のにおける検討
使用した
判定図
JCQ版
JCQ版
結果
男性生産技術職で上司の支
援 が 低 い、女性: 機 械 操 作 で 仕
事のコントロールが低いなどが
判明。
対策の効果を数量的に把握す
ることができた。
職業性スト
レス簡易調
査票版
店舗で仕事の量的負荷が高
く、コントロールが低く、上 司 の 支
援 が 低 い。実感とよく一致。
職業性スト
レス簡易調
査票版
顧 客 先 な ど で1人で作業してい
る SE において上司、同僚の支
援 が 低く、自覚 症 状 が 高 いこと
が 判 明。
特定の部で上司の支援が低い
ことが判明。この職場ではすで
に退職者の増加など問題が生
じていた。管理監督者への報告
会 で 活 用 し 好 評 を 得 た。対策を
検 討 中。
おおむね問題なかったが、一部
の職種ではコントロールや 上 司
の 支 援 が 低 い 傾 向。日頃の印
象とよく一致。
・量−コントロール判 定 図 で、労
働負荷が平均に比べて高いこ
とが判明。
女 性 で 同 僚 の 支 援 が 低 いこと
が 判 明 。 担 当 看 護 婦・士の印
象と一致。
仕 事 の 量 的 負 荷 が 高く、コント
ロールが低いことが判明。産業
医。上司の印象と一致。職場巡
視、管理監督者との話合いを
実 施 し 対 策 を 検 討 中。
全 国 平 均と大きな差はなかった
が、教育上効果があったことが
感じられた。
職業性スト
レス簡易調
査票版
職業性スト
レス簡易調
査票版
職業性スト
レス簡易調
査票版
職業性スト
レス簡易調
査票版
職業性スト
レス簡易調
査票版
職業性スト
1 0 . 従 業 員 向 ある営業所のストレス
レス簡易調
けストレス教 育 教 育 で 調 査 票 に 記 入
査票版
してもらい判定図にあ
における応用
てはめた。
注 : 事 例 1 、 2 は 「 モ デ ル 事 業 3 」、 事 例 3 は 「 モ デ ル 事 業 4 」、 事 例 4 は 「 モ
デ ル 事 業 1 」、 事 例 5 は 「 モ デ ル 事 業 2 」 に お け る 試 用 結 果 で あ る 。
20
図1 ある電機メーカーの事業場全体の「仕事のストレス判定図」
の 結 果 ( 男 性 1318 名 、 女 性 285 名 の 回 答 、 JCQ 調 査 票 使 用 )
21
22
図 3 販 売・流 通 業 中 規 模 企 業 の 事 業 場 に お け る「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」
の適用(女性、職業性ストレス簡易調査票使 用 )
23
24
25
26
図 7 最 近 う つ 病 の ケ ー ス が あ っ た メ ー カ ー お 客 様 相 談 室 の「 仕 事 の ス ト
レス判定図」の結果(男性、職業性ストレス簡易調査票使用)
27
Ⅱ − 2 − 2 . 疾 病 休 業 デ ー タ 等 に 基 づ く「 仕 事 の ス ト レ ス
判定図」の再検討
Ⅱ − 2 − 2 − 1 .疾 病 休 業 デ ー タ か ら み た「 仕 事 の ス ト レ
ス判定図」の検討
A.はじめに
昨 年 度 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 を 、 抑 う つ に 基 づ い て 作 成 し た 。 本
年度は、疾病休業に基づく判定図の作成の可能性を検討した。とくに、抑
うつではロジスティックモデルを基礎としたが、疾病休業では退職などに
伴う脱落があることから、比例ハザードモデルを基礎とした。また、昨年
度 の 判 定 図 は 年 齢 ご と に 作 成 し た が 、今 回 は 1 枚 の 判 定 図 に 要 約 す る 方 法
を検討した。
B.対象と方法
1.対象者と対象項目
大 規 模 長 期 コ ホ ー ト 研 究 の ベ ー ス ラ イ ン 調 査 票 が 回 収 さ れ 、そ の 後 の 追
跡 調 査 に よ っ て 、在 職 状 況 お よ び 疾 病 休 業 状 況 が 得 ら れ た 、20 ∼ 59 歳 の 男
9,598 人 を 対 象 と し た 。 な お 、 同 条 件 を 満 た す 女 は 450 人 の た め に 、 検 討
の 対 象 に 含 め な か っ た 。 平 均 追 跡 期 間 は 2.3 年 で あ っ た 。
解析対象項目は、疾病休業、年齢、仕事の要求度、仕事のコントロール、
上 司 の 支 援 、 同 僚 の 支 援 と し た 。 疾 病 休 業 は 30 日 以 上 に 限 定 し 、 観 察 開
始 日 か ら 疾 病 休 業 の 開 始 日 ま た は 観 察 終 了 日 ま で の 期 間 を 用 い た 。仕 事 の
要 求 度 、 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 、 上 司 の 支 援 、 同 僚 の 支 援 と し て は 、 NIOSH
職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 日 本 語 版 、 Job Content Questionnaire(JCQ)日 本 語
版に基づいて、それぞれ2種類のスコアを算定した。なお、スコアの算定
方法は一昨年度の報告書を参照されたい。
2.判定図の解析モデル
判定図の解析には、疾病休業に対する比例ハザードモデルを用いた。職
業 性 ス ト レ ス と し て は 、 4 つ の 組 み 合 わ せ を 選 ん だ 。 す な わ ち 、 NIOSH と
JCQ ご と に 、 仕 事 の 要 求 度 と 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル で 1 組 ず つ 、 上 司 の 支 援
と 同 僚 の 支 援 で 1 組 ず つ で あ る 。 年 齢 と し て は 、 20 ∼ 29 、 30 ∼ 39 、40 ∼ 49 、
50 ∼ 59 歳 と 区 分 し 、 ダ ミ ー 変 数 と し て モ デ ル に 導 入 し た 。
3.判定図の作成方法
判 定 図 は 、職 業 性 ス ト レ ス の 組 み 合 わ せ に 応 じ て 1 枚 作 成 を 検 討 し た 。
とくに、判定図はハザード比に基づいて作成した。それ以外の作成方法は、
昨年度の抑うつに基づく判定図に準じた。
28
C.結果
1.基礎集計
表1に、年齢・疾病休業の有無別の対象者数を示す。なお、参考のため
に 女 の 結 果 も 示 し た 。 男 で は 、 疾 病 休 業 の 割 合 は 、20 ∼ 29 歳 の 0.2 % か ら
50 ∼ 59 歳 の 1.8 % ま で 年 齢 と と も に 単 調 に 上 昇 し た 。
表2に、疾病休業の原因疾患を示す。悪性新生物、精神および行動の傷
害、循環器系の疾患、筋骨格系および結合組織の疾患、損傷・中毒および
そ の 他 の 外 因 の 影 響 が 、 12.5 ∼ 16.7 % で あ っ た 。
表3−1と表3−2に、年齢、疾病休業の有無別、職業性ストレスの平
均 値 と 標 準 偏 差 を 示 す 。 疾 病 休 業 の あ る 者 で は 、 な い 者 に 比 べ て 、NIOSH 、
JCQ と も に 、 仕 事 の 要 求 度 、 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 、 上 司 の 支 援 、 同 僚 の 支
援のいすれも低い傾向であった。
2.比例ハザードモデルの結果
表4に、疾病休業に対する比例ハザードモデルの結果を示す。疾病休業
に 対 す る ハ ザ ー ド 比 は 、NIOSH 、JCQ と も に 、 仕 事 の 要 求 度 、 仕 事 の コ ン ト
ロール、上司の支援、同僚の支援のいずれも、1より小さい傾向であった。
と く に 、NIOSH の 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 、JCQ の 上 司 の 支 援 で 有 意 で あ っ た 。
表 5 に 、仕 事 の 要 求 度 ま た は 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル を ダ ミ ー 変 数 し た 場 合
の 比 例 ハ ザ ー ド モ デ ル の 結 果 を 示 す 。仕 事 の 要 求 度 を ダ ミ ー 変 数 と し た 場
合 、NIOSH で は 、 得 点 35 ∼ 40 未 満 で ハ ザ ー ド 比 が 低 く 、そ の 得 点 の 多 い 方
向 、 少 な い 方 向 と も に ハ ザ ー ド 比 が 上 昇 す る 傾 向 で あ っ た 。 JCQ で は 、
表1 性・年齢・疾病休業の有無別の対象者数
休業
性別
年齢
男
20-29
494
1(0.20)
495
30-39
2810
21(0.74)
2831
40-49
4422
41(0.92)
4463
50-59
1776
33(1.82)
1809
合計
9502
96(1.00)
9598
女
なし
あり
合計
20-29
207
0
207
30-39
179
0
179
40-49
51
0
51
50-59
13
0
13
450
0
450
合計
( ) 内 は 疾 病 休 業 の 割 合(%)
29
表2 疾病休業の原因疾患(男)
悪性新生物
疾病休業 人(%)
12(12.5)
精神および行動の障害
16(16.7)
循環器系の疾患
16(16.7)
筋骨格系および結合組織の疾患
12(12.5)
損 傷 、 中 毒 お よ び そ の 他 の 外 因 の 影 響 12(12.5)
その他
28(29.2)
合計
96(100)
表 3 − 1 年 齢 、 疾 病 休 業 の 有 無 別 、 NIOSHの 仕 事 の 要 求 度 、 仕 事 の
コントロール、上司と同僚の支援( 男 )
疾病
仕事の要求度
仕事のコントロール
休業
年齢
人数
平均
± 標準偏差 平均
± 標準偏差
20-29
30-39
40-49
50-59
合計
年齢
20-29
30-39
40-49
50-59
合計
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
疾病
休業
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
1
478
18
2667
33
4120
30
1592
82
8857
27.0
37.3
36.7
38.6
36.9
37.9
34.2
35.9
35.7
37.7
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
0.0
6.6
8.9
6.4
6.0
6.6
7.2
6.6
7.2
6.6
上司の支援
46.0
39.7
43.9
47.7
48.5
51.1
44.7
51.7
45.5
49.5
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
0.0
10.2
7.1
11.1
12.4
12.7
13.1
13.5
12.1
12.7
同僚の支援
人数
平均
± 標準偏差 平均
± 標準偏差
1
484
21
2737
38
4291
29
1701
89
9213
19.0
14.9
13.7
14.7
13.7
14.9
13.9
15.1
14.0
14.9
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
0.0
10.0
2.6
3.2
3.7
3.2
3.4
3.3
3.4
3.2
19.0
16.0
13.8
15.1
14.3
15.2
14.2
15.3
14.3
15.3
0.0
2.6
3.3
2.8
3.4
2.8
3.1
2.9
3.2
2.8
30
表 3 − 2 年 齢 、 疾 病 休 業 の 有 無 別 、 J C Qの 量 的 労 働 負 荷 、 仕 事 の
コントロール、上司と同僚の支援( 男 )
仕事の要求度
仕事のコントロール
疾病
休業 人数
年齢
平均
± 標準偏差 平均
± 標準偏差
20-29
30-39
40-49
50-59
合計
年齢
20-29
30-39
40-49
50-59
合計
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
疾病
休業
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
1
478
21
2708
36
4221
27
1654
85
8952
29.0
33.4
32.9
33.9
31.9
33.1
31.1
31.7
31.9
33.1
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
0.0
5.0
6.2
5.2
5.2
5.2
4.9
5.1
5.3
5.2
上司の支援
60.0
62.3
70.3
69.3
64.1
68.7
60.4
67.6
64.6
68.3
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
0.0
10.6
9.1
10.1
11.2
10.9
12.8
11.1
11.7
10.9
同僚の支援
人数
平均
± 標準偏差 平均
± 標準偏差
1
484
20
2681
37
4215
30
1657
88
9037
12.0
10.9
9.7
10.6
10.2
10.7
10.0
10.9
10.1
10.8
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
0.0
2.2
2.6
2.2
2.1
2.2
2.1
2.2
2.3
2.2
12.0
11.4
10.6
11.1
10.7
11.2
10.9
11.4
10.8
11.2
0.0
1.5
1.7
2.9
1.6
1.6
1.5
1.6
1.6
1.6
31
表 4 疾 病 休 業 に 対 す る 比 例 ハ ザ ー ド モ デ ル の 結 果 (男)
NIOSH
仕事の要求度
仕事のコントロール
30-39 歳 / 20-29 歳
40-49 歳 / 20-29 歳
50-59 歳 / 20-29 歳
ハザード比
95% 信 頼 区 間
p値
0.98
0.98
4.64
6.10
14.50
0.94
0.96
0.61
0.8 3
1.96
0.19
0.01
0.14
0.08
0.01
ハザード比
95% 信 頼 区 間
p値
0.94
0.93
4.13
5.05
10.30
0.87
0.85
0.55
0.69
1.39
0.12
0.08
0.17
0.11
0.02
ハザード比
95% 信 頼 区 間
p値
0.98
0.97
5.58
6.27
11.90
0.94
0.95
0.75
0.86
1.6 0
0.09
0.07
0.01
0.32
0.00
ハザード比
95% 信 頼 区 間
p値
0.89
0.91
4.08
5.14
11.60
0.81
0.79
0.55
0.7 0
1.58
0.03
0.16
0.17
0.1 0
0.02
∼
∼
∼
∼
∼
1.0
1.0
35.0
44.9
107.0
NIOSH
上司の支援
同僚の支援
30-39 歳 / 20-29 歳
40-49 歳 / 20-29 歳
50-59 歳 / 20-29 歳
∼
∼
∼
∼
∼
1.0 2
1.0 2
30.8
36.9
75.5
JCQ
仕事の要求度
仕事のコントロール
30-39 歳 / 20-29 歳
40-49 歳 / 20-29 歳
50-59 歳 / 20-29 歳
∼
∼
∼
∼
∼
1.0 2
1.0 0
41.8
45.9
87.6
JCQ
上司の支援
同僚の支援
30-39 歳 / 20-29 歳
40-49 歳 / 20-29 歳
50-59 歳 / 20-29 歳
∼
∼
∼
∼
∼
0.99
10.4
30.5
37.5
84.9
32
表 5 疾 病 休 業 に 対 す る 比 例 ハ ザ ー ド モ デ ル の 結 果 ( 男 ) : 仕 事 の 要 求 と コ
ントロールをダミー変数とした場合
1) 仕 事 の 要 求 度 を ダ ミ ー 変 数 に し た 場 合 ( NIOSH )
仕事の要求度
仕事のコント
ロール
スコア
35 未 満 / 30 未 満
40 未 満 / 30 未 満
45 未 満 / 30 未 満
50 未 満 / 30 未 満
50 以 上 / 30 未 満
(1点あたり)
ハザード比
0.78
0.45
0.68
0.83
0.40
0.97
95% 信 頼 区 間
0.43 ∼ 1.41
0.22 ∼ 0.89
0.35 ∼ 1.34
0.37 ∼ 1.86
0.09 ∼ 1.73
0.96 ∼ 0.99
2) 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル を ダ ミ ー 変 数 に し た 場 合 ( NIOSH )
スコア
ハ ザ ー ド 比 95% 信 頼 区 間
仕事の要求度
( 1 点 あ た り ) 0.98
0.95 ∼ 1.02
仕事のコント
45 未 満 / 40 未 満 1.09
0.55 ∼ 2.16
ロール
50 未 満 / 40 未 満 0.94
0.52 ∼ 1.72
55 未 満 / 40 未 満 0.79
0.39 ∼ 1.59
60 未 満 / 40 未 満 0.53
0.23 ∼ 1.24
60 以 上 / 40 未 満 0.37
0.17 ∼ 0.81
3) 仕 事 の 要 求 度 を ダ ミ ー 変 数 に し た 場 合 ( JCQ )
スコア
ハ ザ ー ド 比 95% 信 頼 区 間
仕事の要求度
30 未 満 / 25 未 満 0.90
0.41 ∼ 1.98
35 未 満 / 25 未 満 0.72
0.34 ∼ 1.50
40 未 満 / 25 未 満 0.61
0.26 ∼ 1.40
40 以 上 / 25 未 満 0.62
0.22 ∼ 1.78
仕事のコント
( 1 点 あ た り ) 0.97
0.95 ∼ 0.99
ロール
4) 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル を ダ ミ ー 変 数 に し た 場 合 ( JCQ )
スコア
ハ ザ ー ド 比 95% 信 頼 区 間
仕事の要求度
( 1 点 あ た り ) 0.99
0.95 ∼ 1.03
仕事のコント
65 未 満 / 60 未 満 0.74
0.40 ∼ 1.37
ロール
70 未 満 / 60 未 満 0.70
0.38 ∼ 1.29
75 未 満 / 60 未 満 0.48
0.26 ∼ 0.89
75 以 上 / 60 未 満 0.34
0.17 ∼ 0.70
p値
0.41
0.02
0.27
0.65
0.22
0.0 0
p値
0.35
0.79
0.85
0.51
0.14
0.01
p値
0.79
0.38
0.24
0.37
0.00
p値
0.53
0.34
0.25
0.02
0.00
33
得 点 と と も に 単 調 に ハ ザ ー ド 比 が 低 下 傾 向 で あ っ た 。仕 事 の コ ン ト ロ ー ル
を ダ ミ ー 変 数 と し た 場 合 、NIOSH 、JCQ と も に 得 点 と と も に 単 調 に ハ ザ ー ド
比が低下していた。
3.判定図
図 1 に 、 NIOSH の 上 司 ・ 同 僚 の 支 援 に よ る 疾 病 休 業 確 率 比 の 判 定 図 を 示
す 。 こ の 判 定 図 は 、 NIOSH の 上 司 の 支 援 が 15 点 、 同 僚 の 支 援 が 15 点 の 場
合 を 1.0 と す る 疾 病 休 業 確 率 比 を 示 し て い る 。た と え ば 、上 司 の 支 援 が 15
点 、 同 僚 の 支 援 が 12.5 点 の と き 、 疾 病 休 業 確 率 比 は 1.2 倍 で あ り 、 上 司
の 支 援 と 同 僚 の 支 援 が と も に 12.5 点 の と き 、 疾 病 休 業 確 率 比 は 1.4 倍 で
ある。
同僚の支援︵スコア、点︶
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
2.0
上司の支援(スコア、点)
図 1 疾 病 休 業 デ ー タ か ら み た 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 検 討 : NIOSH
調 査 票 の 上 司 お よ び 同 僚 の 支 援 と 30 日 以 上 疾 病 休 業 の 相 対 危 険 度
表 6 年 齢 別 に み た 30 日 以 上 疾 病 休 業 確 率 の 基 準 値 ( 男 ) ※
年齢(歳)
1年 間 の
2年 間 の
疾病休業確率
疾病休業確率
20-29
0.1%
0.2%
30-39
0.4%
0.6%
40-49
0.4%
0.8%
50-59
0.9%
1.6%
※ NIOSH の 上 司 の 支 援 ( 15 点 )、 同 僚 の 支 援 ( 15 点 ) の
場合の累積疾病休業確率。
表6に、図1に対応する、年齢別、疾病休業確率の基準値を示す。この
基 準 値 は 、 NIOSH の 上 司 の 支 援 が 15 点 、 同 僚 の 支 援 が 15 点 ( 判 定 図 の 疾
病 休 業 確 率 比 が 1.0 ) の 場 合 の 疾 病 休 業 確 率 で あ る 。 疾 病 休 業 確 率 は 、 年
34
齢 と と も に 単 調 に 上 昇 し 、50 ∼ 59 歳 で は 、1 年 間 で 0.9 % 、2 年 間 で 1.6 %
であった。
い ま 、 あ る 集 団 に お い て 、 NIOSH の 上 司 の 支 援 、 同 僚 の 支 援 と も に 平 均
得 点 が 12.5 点 で 、 平 均 年 齢 が 50 ∼ 59 歳 の と き を 考 え る 。 こ の と き 、 2 年
間 の 疾 病 休 業 確 率 は 、図 1 の 疾 病 休 業 確 率 比 1.4 と 表 6 の 疾 病 休 業 確 率 の
基 準 値 1.6 % を 乗 じ て 、 2.2 % と 計 算 さ れ る 。
D.考察
疾病休業に基づく「仕事のストレス判定図」を検討した。疾病休業のよ
う に 脱 落 を 伴 う デ ー タ で は 、比 例 ハ ザ ー ド モ デ ル が 最 も 一 般 的 な 解 析 モ デ
ルであり、判定図でもそのモデルを基礎とすればよいと考える。また、疾
病休業のように発生確率が低い場合、確率比を用いることによって、年齢
で 共 通 の 判 定 図 と す る こ と が 可 能 で あ り 、判 定 図 を コ ン パ ク ト に 示 す 場 合
に有効と考えられた。また、職業性ストレスを職業性ストレス簡易調査票
で 測 定 す る 場 合 の 判 定 図 と し て は 、 JCQ あ る い は NIOSH 調 査 票 の 職 業 性 ス
トレス得点との換算によって、横軸と縦軸の目盛りを調整すればよいと思
われる。
上 司 の 支 援 と 同 僚 の 支 援 に つ い て は 、NIOSH 、JCQ と も に 、 疾 病 休 業 を 減
ら す 方 向 の 効 果 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。こ の 傾 向 は 従 来 か ら の 研 究 成 果
とも整合するものであることから、その評価結果に基づいて、上記の方法
による判定図の作成が可能と考えられた。
仕事の要求度(量的負荷)と仕事のコントロールについては、いずれも
疾 病 休 業 を 減 ら す 方 向 の 効 果 の 傾 向 を 示 し た 。仕 事 の コ ン ト ロ ー ル で は 従
来の研究成果と整合しているが、仕事の要求度は有意ではないものの、従
来 の 研 究 成 果 と は 逆 の 傾 向 で あ っ た 。 ま た 、 NIOSH の 仕 事 の 要 求 度 は そ れ
以外の項目と異なって、得点と疾病休業との関係が直線的でなく、U字型
の 傾 向( 疾 病 発 生 確 率 は 仕 事 の 要 求 度 が あ る 程 度 の 水 準 で 最 も 低 く 、 そ の
両側で高い傾向)が見られた。U字型であっても、判定図の作成に支障は
ないが、判定図の作成には、その評価結果をさらに検討・確認する必要が
あるものと考えられる。
研 究 者 : 橋 本 修 二 ( 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 )、 川 上 憲 人 ( 岐
阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 )、相 澤 好 治( 北 里 大 学 衛 生 公 衆 衛
生 学 )、 小 林 章 雄 ( 愛 知 医 大 衛 生 学 )、 林 剛 司 ( 日 立 健 康
管 理 セ ン タ )、 廣 尚 典 ( NKK 鶴 見 保 健 セ ン タ ー )
研 究 協 力 者 : 八 田 大 樹 ( 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 )、 石 崎 昌 夫 ( 金
沢 医 大 健 康 管 理 )、 原 谷 隆 史 ( 産 業 医 学 総 合 研 究 所 )、 藤 田
定 ( 愛 知 教 育 大 学 )、 宮 崎 彰 吾 ( NKK 京 浜 保 健 セ ン タ ー )、
桝 本 武 ( NKK 津 製 作 所 )
35
Ⅱ − 2 − 2 − 2 . 追 跡 調 査 デ ー タ に よ る「 仕 事 の ス ト レ ス
判定図」の係数の検討
A.はじめに
職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 の 対 象 事 業 所 の う ち の 1 つ( サ イ ト
8)における2年目の追跡調査データから疾病休業、疾患の新規罹患を指
標 と し て 、 J C Q 、 NIOSH 調 査 票 に 対 す る 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 係
数 の 確 認 を 行 な っ た 。ま た 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に 対 す る 同 判 定 図 の
係 数 は 昨 年 は J C Q あ る い は NIOSH 調 査 票 と の 換 算 式 を 用 い て 間 接 的 に 推
定 し て い た 。そ こ で 今 回 は 横 断 的 デ ー タ か ら 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に
対する係数の見直しも合わせて行った。
B.対象と方法
電 機 製 品 メ ー カ ー の G 県 の 拠 点 事 業 所 ( 従 業 員 約 2,500 名 ) を 調 査 対 象
とした。この事業所は、職業性ストレスと健康コホート研究の調査対象サ
イ ト の 1 つ ( サ イ ト 8 ) で あ り 、 1997 年 4 ∼ 5 月 に JCQ お よ び NIOSH
職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 を 含 む 調 査 票 に よ る 調 査 を 実 施 し て い る 。 1999 年
7 月 に 従 業 員 2312 名 に 対 し て 自 己 記 入 式 の 調 査 票 ( ス ト レ ス チ ェ ッ ク 調
査 票 ) を 郵 送 し 、 ス ト レ ス チ ェ ッ ク へ の 参 加 を 呼 び か け た 。 1633 名 が 調
査 票 を 返 送 し た( 回 答 率 71 % )。1997 年 4 ∼ 5 月 の 職 業 性 ス ト レ ス と 健 康
コ ホ ー ト 研 究 ベ ー ス ラ イ ン 調 査 時 の デ ー タ と 今 回 調 査 の デ ー タ を 個 人 ID
を使ってリンクした。
1997 年 お よ び 1999 年 の 調 査 票 に は 、職 業 性 ス ト レ ス 要 因 と し て J C Q の
4 尺 度 ( 仕 事 の 要 求 度 、 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 、 上 司 お よ び 同 僚 の 支 援 )、
精 神 健 康 の 指 標 と し て CES-D 自 己 記 入 式 抑 う つ 尺 度 が 共 通 し て 含 ま れ て
い た 。 ま た 、 い ず れ の 調 査 で も 過 去 1 年 間 の 疾 病 休 業 日 数 お よ び 23 項 目
の 主 要 疾 患 へ の 既 往 歴 を 調 査 し た 。 1 9 9 7 年 の 調 査 票 に は こ の 他 、 NIOSH
職業性ストレス調査票の尺度(仕事の量的負荷、仕事のコントロール、上
司 お よ び 同 僚 の 支 援 、 他 ) が 含 ま れ て い た 。 ま た 1999 年 の 調 査 票 の う ち
約 半 数 に は職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 量 的 負 荷 と 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル
の尺度(各3項目)が含まれていた。
1997 年 調 査 の J C Q お よ び NIOSH 調 査 票 か ら 仕 事 の 量 的 負 荷 ( ま た は
要 求 度 )、 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 、 上 司 お よ び 同 僚 の 支 援 の 4 尺 度 ( 合 計 8
尺 度 ) を 計 算 し 、 こ れ と 1999 年 の 調 査 に よ る 疾 病 休 業 日 数 お よ び 新 規 疾
病の発生との関係を多重ロジステイック分析によって検討した。新規疾病
の 発 生 は 、 1 9 9 7 年 の 調 査 票 に 既 往 の な い 者 の み に 対 し て 行 な い 、 1999 年
の 時 点 で 23 項 目 の 疾 患 の い ず れ か に 既 往 歴 あ り と 回 答 し た 者 を 新 規 疾 病
36
発 症 者 と 定 義 し た 。 解 析 は 男 女 別 に 行 い 、 い ず れ も 年 齢 と 1997 年 の 当 該
指標(疾病休業日数または抑うつ)を調整した。
ま た 1999 年 の デ ー タ の み を 用 い て 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 仕 事 の
量的負荷と仕事のコントロールと過去1年間の疾病休業日数および抑う
つとの関連を検討した。解析は男女別に行い、いずれも年齢を調整した。
C.結果
表 1 に 結 果 を 示 し た 。 表 1 に は 比 較 の た め に 現 在 の「 仕 事 の ス ト レ ス 判
定 図 」 の 係 数 を 掲 載 し た 。 い つ く か の 例 外 を 除 け ば 、 JCQ お よ び
NIOSH(1997 年 ) と 疾 病 休 業 お よ び 新 規 疾 病 の 罹 患 (1999 年 ) と の 関 係 か ら
は 、 係 数 は ほ ぼ 適 切 と 思 わ れ た 。 た だ し 、 男 性 の JCQ で は 疾 病 休 業 に 関
し て 同 僚 の 支 援 の 係 数 が 小 さ い 、新 規 疾 病 に 関 し て 上 司 の 支 援 の 符 号 が 逆 、
疾 病 休 業 お よ び 新 規 疾 病 の 頻 度 と も 、 男 性 の NIOSH で は コ ン ト ロ ー ル の
係 数 が 小 さ い 、 女 性 の NIOSH で は 上 司 と 同 僚 の 支 援 の 符 号 が 逆 な ど の 違
いが認められた。
1999 年 の 横 断 デ ー タ に お け る 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 ( 量 的 負 荷 と
仕事のコントロール尺度)と疾病休業日数および抑うつとの関係では、男
性 の 量 的 負 荷 の 係 数 は ほ ぼ 現 行 通 り で あ っ た 。し か し 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル
の抑うつに対する係数は今回の方が大きかった。一方、女性の仕事の量的
負 荷 と 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル に 対 す る 係 数 は 、疾 病 休 業 日 数 お よ び 抑 う つ の
いずれに対しても現在の係数よりもかなり大きかった。
D.考察と結論
J C Q お よ び NIOSH( 1997 年 ) と 疾 病 休 業 お よ び 新 規 疾 病 の 罹 患 (1999
年 )と の 関 係 か ら は 、 現 在の 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図の 係 数 は ほ ぼ 適 切 と 思
わ れ た 。職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 量 的 負 荷 と 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 尺 度
の係数に関しては、男性では現在の係数が妥当と思われたが、女性では係
数が過小評価になっている可能性があると思われた。
研 究 者:川上憲人(岐阜大学医学部公衆衛生学)
研究協力者:赤地和範(三洋電機岐阜産業保健センター)
37
表1 「仕事のストレス判定図」に採用された4つの職業性ストレス要因と 1999 年調査における
過去1年間5日以上疾病休業および2年間の新規疾病への罹患との関係
(コホートサイト8)*
調査票 性別
JCQ 男性 現係数
1997
疾病休業
新規疾病
女性 現係数
疾病休業
新規疾病
NIOSH 男性 現係数
1997
疾病休業
新規疾病
女性 現係数
疾病休業
新規疾病
職業性 男性 現係数
疾病休業
ストレ
ス簡易
抑うつ**
調査票
$1999
女性 現係数
疾病休業
抑うつ**
仕事の量的
仕事のコン
上司の支援
同僚の支援
負荷(要求度) トロール
対象 ケー 回 帰 係 SE 回 帰 係 SE 回 帰 係 SE 回 帰 係 SE
者数 ス数 数
数
数
数
−
0.061
− -0.036
− -0.085
− -0.211
−
1059 125
0.094 0.024 -0.020 0.011 -0.056 0.050
0.001 0.070
P=0.001
P=0.062
P=0.258
P=0.895
591 117
0.021 0.022 -0.008 0.011
0.106 0.062 -0.189 0.085
P=0.351
P=0.481
P=0.085
P=0.027
−
0.025
− -0.022
− -0.073
− -0.179
−
224 37
0.011 0.035 -0.016 0.015 -0.126 0.083
0.225 0.122
P=0.815
P=0.299
P=0.129
P=0.065
152 19 -0.025 0.047
0.018 0.022 -0.088 0.107
0.15 0.171
P=0.594
P=0.415
P=0.410
P=0.380
−
0.038
− -0.035
− -0.097
− -0.097
−
1057 126
0.030 0.015 -0.007 0.009 -0.046 0.035 -0.040 0.038
P=0.048
P=0.486
P=0.181
P=0.296
591 118
0.02 0.017
0.003 0.011 -0.017 0.041 -0.035 0.047
P=0.234
P=0.779
P=0.688
P=0.458
−
0.009
− -0.010
− -0.075
− -0.083
−
212 37
0.014 0.028 -0.025 0.019
0.017 0.064
0.086 0.077
P=0.611
P=0.180
P=0.786
P=0.260
149 20
0.027 0.040 -0.004 0.024
0.105 0.095
0.078 0.111
P=0.499
P=0.865
P=0.269
P=0.479
−
0.077
− -0.087
−
621 77
0.048 0.069 -0.113 0.073 NA
NA
P=0.490
P=0.123
643 206 -0.060 0.050 -0.416 0.059 NA
NA
P=0.235
P<0.001
−
0.018
− -0.024
−
101 15
0.235 0.198 -0.178 0.201 NA
NA
P=0.236
P=0.376
109 37
0.184 0.147 -0.162 0.144 NA
NA
P=0.211
P=0.262
* 年齢を調整した多重ロジステイック分析による回帰係数。疾病休業は自己申告による日数。新規疾病は、23
項目の疾患について1997年調査で既往のなかった者のうち1999年に既往を報告した者。
** 1999年調査の横断的分析による抑うつ(CES-D)の多重ロジステイック分析の結果を示した。
$職業性ストレス簡易調査票の解析は1999年の調査データによる横断的解析。職業性ストレス簡易調査票はラ
ンダムに選ばれた1/2の対象者のみに施行された。
NA: 今回の調査では職業性ストレス簡易調査票の上司の支援・同僚の支援尺度は使用しなかった。
38
Ⅱ − 2 − 3 .「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 最 終 修 正
仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 の う ち「 量 − コ ン ト ロ ー ル 」判 定 図 で は 、仕 事 の コ
ン ト ロ ー ル の 係 数 は 現 行 の も の と よ く 一 致 し て い た が 、 仕 事 の 要 求 度( 量 的
負 荷 ) と 疾 病 休 業 の 関 係 が U 字 型 の 関 係 で あ っ た( 表 2 )。「 職 場 の 支 援 」 判
定 図 の 係 数 は 疾 病 休 業 デ ー タ か ら み て 適 切 で あ っ た 。従 来 か ら の 知 見 、判 定
図 の 簡 潔 さ の 確 保 、判 定 図 が 必 ず し も 疾 病 休 業 の み を 目 的 指 標 と し て 考 え て
い な い こ と 等 か ら 係 数 に つ い て は 現 行 の ま ま と す る こ と と し た 。た だ し 、昨
年 度 の 年 齢 別 判 定 図 は 各 年 齢 に 共 通 し た 判 定 図( 男 女 2 枚 ) に 要 約 し た 。 ま
た職業性ストレス簡易調査票女 性 用 判 定 図 の 係 数 は サ イ ト 8 で の 調 査 結 果
を も と に 大 き め に 修 正 し た 。健 康 リ ス ク 算 出 の た め の 最 終 的 な 回 帰 係 数 を 表
3に示した。
研 究 者 : 橋 本 修 二 ( 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 )、 川 上 憲 人 ( 岐 阜
大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 )、 相 澤 好 治 ( 北 里 大 学 衛 生 公 衆 衛 生
学 )、 小 林 章 雄( 愛 知 医 大 衛 生 学 )、 林 剛 司( 日 立 健 康 管 理
セ ン タ )、 廣 尚 典 ( NKK 鶴 見 保 健 セ ン タ ー )
研 究 協 力 者 : 八 田 大 樹 ( 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 )、 石 崎 昌 夫 ( 金 沢
医 大 健 康 管 理 )、原 谷 隆 史 ( 産 業 医 学 総 合 研 究 所 ) 、藤 田 定
( 愛 知 教 育 大 学 )、 宮 崎 彰 吾 ( NKK 京 浜 保 健 セ ン タ ー )、 桝 本
武 ( NKK 津 製 作 所 )
39
表2 「仕事のストレス判定図 」 最 終 版 の 作 成 過 程 の 要 約
疾 病 休 業 の 予 測 性 か ら の 検 討( 平 成
11年 度 研 究 )
判 定 図
の種類
昨年度まで
の状況
量 − コ
ン ト ロ
ー ル 判
定図
・ストレス
・ 量 的 負 荷 の 予 測 性 に 問 題( お そ
反応(抑う
らくU字型の関係)
つ )に 対 す る
・仕事のコントロールの予測性
係数を算出
は良好
・ 性・ 年 齢 別
で5枚あり
・抑うつが疾病休業を予測する
ことを確認
・簡易版調査票用の女性の係数
は過小評価
職 場 の
支 援 判
定図
同上
最終的な方針
・係数は現状のま
ま( 量 的 負 荷 が 過 小
な場合について注
を加える)
・女性の職業性ス
トレス簡易調査票
用係数を修正
・男女2枚に統合
・現在のままで適合性よい
・係数は現状のま
・現行の係数は過大評価の傾向だが
影響はわずか
まとする
・男女2枚に統合
表 3 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」に お け る 4 つ の 職 業 性 ス ト レ ス 要 因 か ら 健
康リスクを計算するための係数(最終案)
調査票
性 別 量的負荷
仕事の
上司の支援
同僚の支援
(要求度)
コントール
全国 回帰 全国
回帰 全国
回帰 全国
回帰
平均 係数 平均
係数 平均
係数 平均
係数
JCQ
男性
32.7 0.061 67.3 -0.036
10.8 -0.085 11.2 -0.211
女性
31.3 0.025 58.8 -0.022
10.5 -0.073 11.0 -0.179
NIOSH
男性
37.3 0.038 47.5 -0.035
14.8 -0.097 15.2 -0.097
女性
35.2 0.009 38.5 -0.010
13.8 -0.075 15.2 -0.083
職 業 性 スト 男 性
8.7 0.076
8.0 -0.089
7.6 -0.097
8.1 -0.097
レス簡易調 女 性
7.6 0.048
7.9 -0.0 56
6.9 -0.097
8.1 -0.097
査 票 **
* 量 的 負 荷 − コ ン ト ロ ー ル 判 定 図 で は 、 健 康 リ ス ク = 100×exp{( 量 的 負 荷
平 均 点 数 − 全 国 平 均 ) × 回 帰 係 数 +( 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 平 均 点 数 − 全 国 平
均 ) × 回 帰 係 数 } と 計 算 す る 。 職 場 の 支 援 判 定 図 で は 、 健 康 リ ス ク = 100 ×
exp{( 上 司 の 支 援 平 均 点 数 − 全 国 平 均 ) × 回 帰 係 数 +( 同 僚 の 支 援 平 均 点 数
− 全 国 平 均 ) × 回 帰 係 数 }と 計 算 す る 。
** 平 均 値 は 平 成 11 年 度 ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ の 研 究 成 果 か ら 提 供 を 受 け
た。
40
Ⅱ−3.職業性ストレスの健康影響に関する研究
職業性ストレスの健康影響を明かにする目的で実施された職業性ストレ
ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 の 研 究 目 的 、研 究 対 象 、研 究 方 法 に つ い て 要 約 す る 。
ま た 、職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 の 最 終 年 度 の デ ー タ を 解 析 し 、5
カ年の研究成果および文献レビューから職業性ストレスの健康への影響に
つ い て ま と め を 行 っ た 。研 究 結 果 か ら 、健 康 に 影 響 す る 可 能 性 の あ る 職 業 性
の ス ト レ ス 要 因 お よ び こ れ 関 連 の 深 い 健 康 障 害 の リ ス ト が 作 成 さ れ た 。以 下
に各研究の詳細を述べる。
Ⅱ−3−1.職業性ストレスと健康コホート研究の概要
A.研究の背景と目的
世 界 労 働 機 関( I L O )の 1993 年 の 報 告 書 (ILO, 1993)も 指 摘 す る よ う に 、
職業性ストレスは職場における今世紀最も重要な健康障害因子のひとつで
あ る 。 WHO も 、 一 般 疾 病 の 発 症 お よ び に 経 過 に 影 響 を 及 ぼ す 作 業 関 連 因 子
の ひ と つ と し て 職 業 性 ス ト レ ス に 注 目 し て い る 。職 業 性 ス ト レ ス の 健 康 影 響
を 科 学 的 に 評 価 し て お く こ と は 、そ の 予 防 対 策 を 検 討 、実 施 す る 上 で き わ め
て重要である。
わ が 国 で も す で に 職 業 性 ス ト レ ス に 関 し て 100 近 く の 論 文 が 公 表 さ れ て
い る が (Kawakami & Haratani, 1999) 、 職 業 性 ス ト レ ス の 健 康 影 響 を 明 確 に で
き る 前 向 き 追 跡 研 究 が 少 な い こ と 、職 業 性 ス ト レ ス の 理 論 モ デ ル に 基 づ い た
研 究 が 少 な い こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 こ の「 職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー
ト 研 究 」は 、こ れ ま で の 横 断 的 研 究 や 小 規 模 の コ ホ ー ト 研 究 で 得 ら れ た 職 業
性 ス ト レ ス の 健 康 影 響 を 、大 規 模 な 長 期 コ ホ ー ト 研 究 で 、よ り 優 れ た 職 業 性
ス ト レ ス の 評 価 尺 度 を 用 い て 、職 業 性 ス ト レ ス の 理 論 モ デ ル に 基 づ い て 明 ら
かにすることを目的として実施された。
特に、1)ベースライン調査の結果から、職業性ストレスと心血管危険因
子、疾病休業、主要疾患への罹患との関係を横断的に明らかにする。特に
Job Content Questionnaire (JCQ) 尺 度 ( Karasek, 1985 ) お よ び NIOSH 職 業 性
ス ト レ ス 調 査 表 を (Hurrell ら , 1988)用 い て 、 仕 事 の 要 求 度 − コ ン ト ロ ー ル モ
デ ル ( Karasek, 1979 ) お よ び 要 求 度 − コ ン ト ロ ー ル − 社 会 的 支 援 モ デ ル
( Johnson & Hall, 1988 )に 基 づ い て 、職 業 性 ス ト レ ス の 影 響 を 解 析 す る 。2 )
追 跡 調 査 の 結 果 か ら 、ベ ー ス ラ イ ン の 職 業 性 ス ト レ ス が そ の 後 の 疾 病 休 業 、
新 規 疾 病 お よ び 死 亡 の 発 生 に 与 え る 影 響 を 明 ら か に す る 。3 )わ が 国 に お け
る職業性ストレスの性別、職種分布を明らかにすることを目的とした。
こ こ で は 、本 コ ホ ー ト 研 究 の 研 究 デ ザ イ ン お よ び 現 在 ま で の 研 究 の 進 捗 状
況について要約する。
41
B.研究の方法
1.対象者
本研究では全国9つの企業または事業場を調査の対象とし、それぞれ1
(ないし2名)の研究者がベースラインおよび追跡調査の実施を担当した
( 表 1 )。 5 つ の 事 業 場 で は 従 業 員 全 員 を 対 象 と し た 。 1 つ の 事 業 場 で は 管
理 職 の み を 対 象 と し た 。2 つ の 事 業 場 で は 一 定 期 間 の 健 康 診 断 受 診 者 を 対 象
と し た 。 残 り 1 つ の 事 業 場 で は 35 歳 以 上 の 男 性 人 間 ド ッ ク 受 診 者 を 対 象 と
し た 。 ベ ー ス ラ イ ン 調 査 の 実 施 時 期 は 1996 年 4 月 ∼ 1998 年 5 月 で あ る 。
2.ベースライン調査
1)質問票調査
対 象 者 に 対 し て 共 通 の 自 己 記 入 式 調 査 票 を 配 布 し 、勤 務 形 態 、生 活 習 慣 、
健康状態、職業性ストレス、仕事外のストレス、性格特性について情報を収
集 し た ( 表 2 )。
職 業 性 の ス ト レ ス 要 因 ( ス ト レ ッ サ ー ) は 、 NIOSH 職 業 性 ス ト レ ス 調 査
票 日 本 語 版 (Hurrel & McLaney, 1988; 原 谷 ら , 1993) お よ び Job Content
Questionnaire(JCQ)日 本 語 版 ( Karasek, 1985; Kawakami et al., 1995; Kawakami
& Fujigaki, 1996) に よ っ て 評 価 し た 。 NIOSH 職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 か ら は 、
量 的 労 働 負 荷 、 労 働 負 荷 の 変 動 、 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル ( 自 由 度 や 裁 量 権 )、
役 割 曖 昧 さ 、 役 割 葛 藤 、 対 人 葛 藤 (グ ル ー プ 内 、 グ ル ー プ 間 ) 、 技 能 の 低 活 用 、
人 々 へ の 責 任 、 認 知 的 要 求( 仕 事 に 要 す る 集 中 力 の 程 度 )、 社 会 的 支 援 ( 上 司 、
同 僚 、 家 族 )の 尺 度 を 用 い た 。 量 的 労 働 負 荷 は 、 2 つ の 尺 度 の 合 計 得 点 と し
て 計 算 し た ( Quinn et al., 1971; Caplan et al., 1975)。 役 割 曖 昧 さ お よ び 役 割
葛 藤 は Rizzo ら の 尺 度 を 使 用 し た ( Rizzo et al., 1970)。 仕 事 の 将 来 曖 昧 さ は 、
Caplan ら の 尺 度 を 使 用 し た ( Caplan et al., 1975)。 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル は 、
Greenberger が 作 成 し た 尺 度( Greenberger, 1980) を 、Hurrel ら が 修 正 し た 16
項 目 尺 度 を 使 用 し た( Hurrel & McLaney, 1989)。 技 術 の 低 活 用 は 、Caplan ら
の 使 用 し た 尺 度 を 用 い た (Caplan et al., 1975)。 社 会 的 支 援 は 、 House ら の 尺
度 を 使 用 し た ( House, 1980)。 JCQ か ら は 、 仕 事 の 要 求 度 ( 5 項 目 )、 仕 事
の コ ン ト ロ ー ル ( 9 項 目 )、 上 司 お よ び 同 僚 か ら の 支 援 ( 各 4 項 目 ) の 4 尺
度得点を算出した。
抑 う つ は CES-D 日 本 語 版 ( Radolff, 1978; 島 ほ か , 1986) に よ っ て 評 価 し
た 。 過 去 1 年 間 の 疾 病 休 業 日 数 は 、「 こ の 1 年 間 に 、 あ な た が 病 気 の た め に
休 ん だ 日 は 合 計 何 日 で す か ( 年 休 で 休 ん だ も の も 含 め ま す )」 と い う 質 問 に
よ り 、 病 気 で 休 ん だ 日 数 を 回 答 し て も ら っ た 。 仕 事 の 満 足 感 は 、 NIOSH 職
業性ストレス調査票に含まれている尺度を使用して測定した。
こ れ ま で の 既 往 歴 に つ い て は 、 32 項 目 の 疾 患 に つ い て こ れ ま で の 治 療
42
表1 職業性ストレスと健康コホート研究ベースライン調査の概要
対象
地域
担当
回答者数/ 回収
事業
対象者
調査時期
(番号)
者
対象者数
率
場
軽金
1996.4―
富山(1)
石崎
全員
7337 90%
属
10
神奈川
1996.5−
鉄鋼
廣
全員
946/2018 47%
(2)
7
桝本、
1996.10 1086/110
神奈川
宮崎 全管理職
鉄鋼
99%
−11
0
(3)
茨城(4)
電機
神奈川
(5)
電機・
相澤
通信
一定期間
の健康診
断受診者
神奈川
(6)
重工
業
同上
同上
岐阜(8)
電機
川上
全員
自動
愛知(9)
車部
品
自動
栃木(10)
車
林
人間ドック
受診者(原
1996.9−
則として
1998.3
35 歳以上
男性)
藤田、
小林 全員
曾根
全員
1996.11
−
1997.11
1997.3−
7
1997.4−
5
1997.6−
1998.4
1996.10
合計
男性
女性
4590 2709
不
明
38
903
43
-
1041
45
-
73%
7155
4
57
628/629 100%
628
-
-
955/955 100%
853
102
-
7216/
9910
2420/
2625
92%
1943
476
1
3765/
3924
96%
3401
353
11
751/751 100%
734
13
4
21248 3745
111
25104
歴 の 有 無 を 調 査 し た( 高 血 圧 、 糖 尿 病 、 高 脂 血 症 、 心 筋 梗 塞 、 狭 心 症 、 不 整
脈、その他の心臓病、脳梗塞・脳出血、その他の神経系の病気、肺がん、胃
がん、大腸がん、胃・十二指腸潰瘍、肝臓病、その他の消化器の病気、腎不
全 、 そ の 他 の 腎 臓 の 病 気 、 そ の 他 の が ん・ 悪 性 腫 瘍 、 腰 痛 、 椎 間 板 ヘ ル ニ ア 、
その他の筋肉や関節の病気、精神科の病気、事故)。また家族歴については、
8つの疾患について両親、ご兄弟姉妹、お子さんの治療・診断歴をたずねた
(高血圧、糖尿病、心臓病、脳梗塞・脳出血、肺がん、胃がん、大腸がん、
その他のがん)。
仕 事 外 の ス ト レ ス に つ い て は 、 以 下 の 17 項 目 に つ い て 最 近 1 年 間 に 起 き
た出来事の有無をたずねた:失業や再就職、妻(夫)の死亡、 離婚、
43
表2 職業性ストレスと健康コホート研究のベースライン質問票で収集された情報
変数・尺度
内容(項目数)
基本的情報
性別、年齢、生年月日、調査日
勤務形態
職種、勤務年数、交代勤務、労働時間、残業時間
家族状況
婚姻状態、子供の数
出典
生活習慣
栄養調査票(FFQ)
17 栄養素(31)
Takatsuka et al. (1997)
身体活動量調査票
1週間運動量(3)、1日エネルギー消費量(5)
Suziki et al. (1998)
睡眠時間
1日平均睡眠時間(1)
喫煙習慣
1日喫煙本数等(5)
飲酒習慣
月飲酒頻度(1)、1回飲酒量(1)
健康状態
既往歴
23 疾患
家族歴
8疾患
CES-D
過去1週間の抑うつ症状(20)
仕事による病気、ケガ
過去半年間の仕事上の事故等(5)
疾病休業日数
過去1年間の病気休業日数(1)
Radloff (1977); 島他
(1985)
職業性ストレス
NIOSH職業性ストレス 職場の物理的環境(10)、 役割葛藤(8)、 役割曖昧
調査票
さ(6) 、 グループ内対人葛藤(8)、グループ間対人
葛藤(8)、 仕事のコントロール(16)、 量的労働負
荷(11)、労働負荷の変動(3)、 技能の低活用(3)、
人々への責任(4)、 仕事上の危険(5)、 認知的要求
(5)、 社会的支援(12)、 仕事外の活動(7)、 職務満
足感(5)、 対処行動(6)、 仕事の将来の曖昧さ(4)、
雇用機会(3)
Job Content
仕事の要求度(9); 仕事のコントロール(9)、 仕事
Questionnaire (JCQ)
の不安定さ(6)、上司の支援(4)、同僚の支援(4)、仕
事の身体的要求度(5)、
仕事外のストレス
ライフイベンツ
Hurrell & McLaney (1988);
原谷隆史他(1993)
Karasek (1985); Kawakami
et al (1995)
過去1年間の主要な生活出来事の数
MONICA Study
EPQ-R 短縮版
神経症傾向(12)、外向性(12)
自尊心
10 項目
社会的望ましさ
10 項目
Hosokawa & Ohyama
(1993)
Hurrell & McLaney (1988);
原谷隆史他(1993)
Crowne & Marlowe (1960);
北村、鈴木(1986)
性格等
44
子 供 の 死 亡 、 配 偶 者・ 子 供 以 外 の 家 族 の 死 亡 、 親 し い 友 人 の 死 亡 、 子 供 の 重
い病気、災害で自宅を失った、悪環境の場所への引っ越し、自分自身の重い
病気、自分自身の重いけが、多額の財産の損失、警察での逮捕や留置、資格
試験の失敗、多額の借金・資金繰りの悩み、家族内のトラブル。また仕事上
の 出 来 事 に つ い て も 4 項 目 の 出 来 事 を た ず ね た: 不 本 意 な 配 転・出向、仕事
上の大きな失敗・トラブル、昇進・昇格、仕事の内容が大きく変わった。
自 己 記 入 式 調 査 で は 性 格 な ど に よ る 回 答 の バ イ ア ス が 生 じ や す い 。性 格 傾
向 に つ い て は 、 ア イ ゼ ン ク EPQ-R 短 縮 版 (Hosokawa T, Ohyama M, 1993)を 用
い て 、 神 経 症 傾 向 と 外 向 性 を 調 査 し た 。 ま た 、 社 会 的 望 ま し さ( 社 会 的 に 望
ま し い 行 動 を と り や す い 傾 向 ) は Crowne & Marlowe (1960)か ら 10 項 目 を 抽
出 し た 尺 度 で 測 定 し た ( 北 村 と 鈴 木 、 1986 )。
3)ベースライン健康診断データの収集
事業場で実施する健康診断データから、身長、体重、血圧、血清総コレス
テ ロ ー ル 、 HDL コ レ ス テ ロ ー ル ( 後 2 者 は 測 定 が 実 施 さ れ た 場 合 の み ) の
情 報 を 収 集 し た( サ イ ト 10 を 除 く )。血 清 総 コ レ ス テ ロ ー ル の 測 定 に つ い て
は CDC の 基 準 に 従 っ て 標 準 化 の 手 続 き を 踏 ん だ( サ イ ト 5 ,6 ,10 を 除 く )。
4)倫理的配慮
原 則 と し て 調 査 対 象 者 全 員 か ら イ ン フ ォ ー ム ド コ ン セ ン ト を 得 た 。ま た 調
査 票 デ ー タ は 個 人 ID と 分 離 し て 通 し 番 号 を つ け て デ ー タ 入 力 後 保 管 さ れ た 。
個 人 ID と 通 し 番 号 と の 対 照 表 は 各 事 業 場 の 産 業 医 が 原 則 と し て 管 理 す る こ
と と し た 。な お 本 研 究 は 岐 阜 大 学 医 学 部 研 究 倫 理 審 査 委 員 会 に お い て 承 認 さ
れている。
3.対象者のフォローアップ
コ ホ ー ト 対 象 者 全 員 ( サ イ ト 10 を 除 く ) の ① 死 亡 、 ② 転 出 ( 異 動 や 退 職 )、
③ 疾 病 休 業 ( 30 日 以 上 、 一 部 サ イ ト で は 7 日 以 上 )、 ④ が ん 、 脳 血 管 疾 患 、
虚 血 性 心 疾 患 の 罹 患 に つ い て 把 握 を 行 な う 。フ ォ ロ ー ア ッ プ 期 間 は ベ ー ス ラ
イ ン 調 査 か ら 5 年 間 。脳 血 管 疾 患 お よ び 虚 血 性 心 疾 患 の 罹 患 の 確 認 は 、所 定
の様式に従って情報を収集し、心血管イベントセンター(愛知医大に設置)
に 送 付 す る こ と で MONICA 調 査 に 準 拠 し た 標 準 化 さ れ た 診 断 を 行 な う 。
4.これまでの研究成果
これまでの研究成果について表3に要約した。詳細は平成8∼11 年 度 報
告書を参照のこと。ベースラインでの解析で、職業性ストレスの性別、年齢、
職 種 別 分 布 を 明 か に し た 。職 業 性 ス ト レ ス( 特 に 要 求 度 − コ ン ト ロ ー ル − 社
会的支援モデル)と抑うつ、過去1年間の疾病休業、主要疾患の既往歴、仕
事 上 の 事 故 、 血 圧 、 血 清 脂 質 、 HbA1c 、 血 清 ペ プ シ ノ ゲ ン I/II 比 、 血 清 フ
ィ ブ リ ノ ー ゲ ン 値 な ど と の 関 係 を 明 ら か に し た 。ま た 、最 大 2.3 年 の 追 跡 調
査 結 果 か ら 職 業 性 ス ト レ ス と 30 日 以 上 の 疾 病 休 業 の 発 生 と の 関 係 を 明 ら か
に し た 。こ れ ら の 研 究 成 果 は 、職 業 性 ス ト レ ス の 健 康 影 響 に つ い て の 結 論 を
出 す 上 で 主 要 な 知 見 と な っ た 。 ま た 性 別 、 年 齢 、 職 種 別 の ス
45
表3 職業性ストレスと健康コホート研究によって明らかになった職業性
ストレスの健康影響*
検討された職業性ス
健康影響の結果指標
ト レ ス 要 因( 主 要 な も
横断調査
追跡調査
の)
仕事の要求度
仕事のコントロール
抑うつ症状
血圧(安静時)
仕 事 の ス ト レ イ ン( 要 血 清 総 コ レ ス テ ロ ー
求度/コントロール ル
比)
上司の支援
HDL コ レ ス テ ロ ー ル
糖化ヘモグロビン
同僚の支援
仕事の不安定さ
血清フィブリノーゲ
ン
身体的負荷
ペプシノゲンⅠ/Ⅱ
比
疾 病 休 業 (30 日 以 上 )
血圧(安静時)
血清総コレステロール
HDL コ レ ス テ ロ ー ル
疾病休業
仕事上の事故
運動習慣
喫煙率
* 平 成 8 ∼ 11 年 度 報 告 書 よ り 要 約 し た 。
トレスの特徴とその対策の検討を進める上の重要な基礎データとして活
用 さ れ た 。さ ら に 本 研 究 の ベ ー ス ラ イ ン お よ び 追 跡 調 査 デ ー タ は「 仕 事 の
ス ト レ ス 判 定 図 」 の 開 発 お よ び そ の 妥 当 性 の 検 討 ( 平 成 10 、 11 年 度 報 告
書参照)に活用された。
5.研究組織
職業性ストレスと健康コホート研究グループのメンバーは、川 上憲人
( 岐 大 医 公 衛 )、 原 谷 隆 史 ( 産 医 研 )、 小 林 章 雄 ( 愛 知 医 大 衛 生 )、 石 崎 昌
夫 ( 金 沢 医 大 健 康 管 理 )、 林 剛 司 ( 日 立 健 康 管 理 セ ン タ )、 藤 田 定 ( 愛
知 教 育 大 学 )、 相 澤 好 治 ( 北 里 大 衛 生 公 衛 )、 桝 元 武 、 宮 崎 彰 吾 、 廣 尚
典 ( N K K )、 橋 本 修 二 、 荒 記 俊 一 ( 東 京 大 学 大 学 院 )。 同 研 究 グ ル ー プ の ホ
ー ム ペ ー ジ は 、 http://www.gifu-u.ac.jp/~norito/cohort.html
研 究 者 : 川 上 憲 人 ( 岐 阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 )、 橋 本 修 二 ( 東 京
大 学 医 学 部 健 康 科 学 ・ 看 護 学 科 疫 学 ・ 生 物 統 計 学 )、 小 林
章 雄 ( 愛 知 医 科 大 学 衛 生 学 )、 林 剛 司 ( 日 立 健 康 管 理 セ
ン タ )、 相 澤 好 治 ( 北 里 大 学 医 学 部 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 )、 廣
尚 典 ( NKK 鶴 見 保 健 セ ン タ ー )
46
研 究 協 力 者 : 原 谷 隆 史 ( 産 業 医 学 総 合 研 究 所 )、 石 崎 昌 夫 ( 金 沢 医 科 大
学 健 康 管 理 )、 藤 田 定 ( 愛 知 教 育 大 学 )、 桝 元 武 ( N K K
津 製 作 所 )、 宮 崎 彰 吾 ( N K K 京 浜 保 健 セ ン タ ー )
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48
Ⅱ−3−2.職業性ストレスの健康影響:コホート研究
最終年度解析結果
Ⅱ − 3 − 2 − 1 .職 業 性 ス ト レ ス と 疾 病 休 業:コ ホ ー ト 内
患者対照研究
A.研究の目的
大規模コホート研究データのベースラインおよび追跡調査データの 解
析結果のまとめおよび文献レビューから、職業性ストレスの健康への影
響を総合的に検討し、職業性ストレスと健康障害との関連について明ら
かにすることを目的とした。
昨 年 実 施 し た30日 間 以 上 の 疾 病 休 業 (60歳 未 満 の 男 性 98件 ) に つ い て
の 1 年 間 の 追 跡 調 査( 年 齢 を マ ッ チ さ せ た 1:3 の 症 例 対 照 研 究 ) で は 、 疾
病休業群で仕事の自由度が低く、同僚のサポートが低く、多重ロジステ
ィック回帰分析の結果で、同僚からのサポート低値の疾病休業のオッズ
比 は 1 . 88 ( 1 . 1 − 3 . 2 ) で あ っ た 。 本 年 度 は 2 年 間 の 追 跡 調 査 に 基 づ
き 、 解 析 対 象 者 数 を 増 や し て 職 業 性 ス ト レ ス が 30 日 以 上 の 疾 病 休 業 に 及
ぼす影響を検討した。
B.研究方法
本年度はコホートサイト2、3、4、8、9における疾病休業登録デ
ー タ か ら 、 2 年 間 の 追 跡 調 査 に お け る 30 日 間 以 上 の 疾 病 休 業 例 ( 6 0 歳 未
満 の 男 性 199 件 ) と の コ ホ ー ト 内 患 者 対 照 研 究 ( 1 : 3 の 年 齢 マ ッ チ ) を 実
施した。
C.研究結果
3 0 日 以 上 疾 病 休 業 199 件 の 内 訳 は 、 新 生 物 26( 1 3 % )、 精 神 障 害 2 9( 15
% )、 循 環 器 系 疾 患 4 0 ( 2 0 % )、 筋 骨 格 系 等 疾 患 4 9 ( 25 % )、 そ の 他 55 件
(28% ) で あ っ た 。
2年間の疾病休業群では仕事のコントロールが有意に低く、上司、同
僚からの支援が有意に低く、仕事の不安定さが有意に高く、身体的負荷
が有意に高く、仕事ストレイン(要求度/コントロール)が有意に高か
っ た ( p < 0 .05) 。 多 重 ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 の 結 果 で は 、 仕 事 の コ ン ト
ロ ー ル 低 値 の 疾 病 休 業 リ ス ク の オ ッ ズ 比 は 2 . 05( 1 . 2 2 ∼ 3 . 4 5 )、 上 司
か ら の 支 援 低 値 の オ ッ ズ 比 は 1 . 7 1 ( 1 . 0 3 ∼ 2 . 8 4 ) で あ っ た ( 表 1 )。
疾病分類別には、精神障害では上司、同僚のサポートが有意に低く、循
環系の疾患では技術の幅が有意に低く、身体的負荷が有意に高く、筋骨
格系疾患では意志決定の範囲が有意に低く、仕事の不安定さが有意に高
く、仕事のストレイン(要求度/コントロール比)が有意に高かった。
49
D.考察と結論
昨 年 ま で の 解 析 と 同 じ く 、 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル が 低 い こ と が 30 日 以 上
の疾病休業のリスクを増加させることが明らかとなった。これはこれま
での欧州での調査結果と一致するところである。また昨年度は同僚の支
援の低さは、本年度は上司の支援の低さが疾病休業のリスクと関係して
いた。職場の人間関係が疾病休業の発生と関係することが示唆される。
仕事の要求度は昨年度、本年度ともに疾病休業とは有意な関係を示さな
かったが、これは判定図の検討の項でも述べたように仕事の要求度と疾
病休業の発生がU字型(要求度が高い場合も低い場合もリスクが増加す
る)ためかもしれない。
表1 男性における職業性ストレスと2年間の疾病休業の発生:職業性
ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 追 跡 デ ー タ の 解 析 ( 30 日 以 上 疾 病 休 業
群 1 9 9 名 、 対 照 群 579 名 の コ ホ ー ト 内 患 者 対 照 研 究 、 性 別 は 男 性 の
み、年齢マッチ)
要因
区分#
オッズ比
95 % 信 頼 区 間
仕事の要求度
高/低
1. 11
0. 68 − 1 . 81
仕事のコントロール
低/高
2. 05*
1. 22 − 3 . 45
上司からの支援
低/高
1. 71*
1. 03 − 2 . 84
同僚からの支援
低/高
1. 04
0. 63 − 1 . 73
高血圧既往歴
あり/なし
0. 94
0. 46 − 1 . 90
高脂血症既往歴
あり/なし
1. 87
0. 79 − 4 . 46
糖尿病既往歴
あり/なし
2. 36
0. 92 − 6 . 05
# 後者に対する前者の危険度を計算した。職業性ストレス要因について
は 中 央 値 で 高 低 に 区 分 し た 。 * p < 0 . 05 。
注 : 内 訳 は 新 生 物 2 6 、 精 神 障 害 2 9 、 循 環 器 系 疾 患 4 0 、 筋 骨 格 系 等 疾 患 49 、
そ の 他55件 。 精 神 障 害 で は 上 司 お よ び 同 僚 の 支 援 が 、 循 環 器 系 疾 患 で は
仕 事 の 幅 ( 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル の 下 位 尺 度 )、 身 体 的 負 荷 が 、 筋 骨 格 系 疾
患 で は 意 志 決 定 の 範 囲( 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル の 下 位 尺 度 )、 仕 事 の 不 安 定
さ、仕事のストレイン(要求度/コントロールの比)が有意に関連して
いた。
研 究 者 : 小 林 章 雄 ( 愛 知 医 科 大 学 衛 生 学 )、 川 上 憲 人 ( 岐 阜 大 学 医
学 部 公 衆 衛 生 学 )、 橋 本 修 二( 東 京 大 学 医 学 部 健 康 科 学 ・
看 護 学 科 疫 学 ・ 生 物 統 計 学 )、 林 剛 司( 日 立 健 康 管 理 セ
ン タ )、 相 澤 好 治 ( 北 里 大 学 医 学 部 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 )、
廣 尚 典 ( NKK 鶴 見 保 健 セ ン タ ー )
研 究 協 力 者: 堀 礼 子 、竹 内 清 美( 愛 知 医 科 大 学 衛 生 学 )、原 谷 隆 史( 産
業 医 学 総 合 研 究 所 )、 石 崎 昌 夫( 金 沢 医 科 大 学 健 康 管 理 )、
50
藤 田 定 ( 愛 知 教 育 大 学 )、 桝 元 武( N K K 津 製 作 所 )、
宮 崎 彰 吾 ( NKK 京 浜 保 健 セ ン タ ー )
Ⅱ−3−2−2.職業性ストレスと1週間以上の疾病休
業:コホートサイト4における患者対
照研究
A.はじめに
職業性ストレスが健康に及ぼす影響について、多くの研究が実施され
てきている。特に、仕事の要求度―コントロールモデルに基づく、職業
性ストレスの虚血性心疾患に及ぼす影響については多数の研究成果が蓄
積 さ れ て お り 、Schnall & Landergis に よ れ ば 職 業 性 ス ト レ ス に よ っ て 1 . 9
∼ 3 . 3倍 程 度 の 危 険 度 の 増 加 が 報 告 さ れ て い る 。 し か し 、 わ が 国 で は 職
業性ストレスの主要疾患に対する影響について十分な研究成果が蓄積し
ているとはいない。
こ の た め 、わ が 国 に お い て 標 準 化 さ れ た 包 括 的 な 職 業 性 ス ト レ ス の 評 価
方法を用いて、客観的な疾病発生の把握方法による大規模長期コホート
研究を実施することが求められている。当センタでは、労働省委託研究
「 労 働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 」に 参 画 し 、
職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 に 関 す る Japan Work Stress and Health Cohort Study
( 全 体 登 録 者 24 、 192 名 ) を 実 施 し て い る 。
本報告は、当センタにおけるコホート登録者を対象に職業性ストレス
が疾病休業に及ぼす影響について検討を行ったので報告する。
B.対象と方法
コ ホ ー ト 登 録 は 、 当 セ ン タ 「 会 瀬 総 合 健 診 」 を 96 年 9 月 か ら 98 年 96
年 3 月までの間に受診し、紙面にて同意を得られた勤労者を対象に行っ
た。ベースライン調査にて、悪性新生物、虚血性心疾患、精神疾患の既
往 が な く 、 年 齢 が 35 ∼ 55 才 の 男 性 勤 労 者 7215 名 ( 平 均 年 齢 43 . 10 ± 6.
06 才 ) を 登 録 者 と し た 。
本 調 査 の 対 象 者 は 、登 録 後 診 断 書 に も と づ き 99 年 6 月 ま で に 疾 病 休 業
( 7 日 以 上 ) が 報 告 さ れ た 156 名 ( 44 . 6± 6 . 7 才 ) を ケ ー ス 群 と し た 。 年
齢、職種をマッチさせ、1:3の比率で選定した疾病休業のないコホー
ト 登 録 者 468 名 を コ ン ト ロ ー ル 群 と し た 。
職 業 性 ス ト レ ス の 指 標 と し て は 、 Karasek に よ る Job Content
Q u e s t i o n n air e ( 以 下 J C Q と 略 す ) 日 本 版 を 用 い た 。 こ の 質 問 票 は 、 職 場 の
精神的ストレスを仕事上の裁量の自由度(ジョブ・コントロール)と心
理的要求度(ジョブ・デマンド)の二つの座標から評価を行うモデルで
あ る 。 今 回 の 解 析 で は 、 尺 度 項 目 と し て は J o b c o n t r o l、J o b d e m a n d 、 上 長
51
からの支援、同僚からの支援、身体的負荷を採用した。解析には、条件
付ロジスティック分析を用い、コホート内のケース・コントロール研究
を行った。
C.結果
ケ ー ス 群 1 5 6 名 の 内 訳 は 、 新 生 物 21 名 、 精 神 疾 患 3 3名 、 循 環 器 疾 患 1 8
名 、 筋 骨 格 系 疾 患 及 び 事 故 41 名 、 そ の 他 43 名 で あ っ た ( 表 2 ) 。
ケース群とコントロール群との背景要因の比較(表3)では、収縮期
血 圧 ・ F B S ・ TC で は 有 意 に ケ ー ス 群 が 高 い が 、 尿 酸 は 有 意 差 を 認 め な か
った。血圧 ・高脂血症・糖尿病の治療者の割合は有意にケース群に高か
った。飲酒量では有意にコントロール群に高かったが、喫煙率、運動習
慣では有意な差を認めなかった。
ロジスティック分析を用いて、疾病休業に及ぼす影響について解析を
行った結果(表4)では、肥満と高血圧に有意差を認め、職業性ストレ
スの項目では有意差を認めなかった。
表2 コホートサイト4の2年間の追跡における疾病休業の診断別内訳
疾病分類
人数
年齢(歳)
悪性新生物
21
47.00±6.26
精神疾患
33
42.45±6.11
循環器疾患
18
49.06±6.55
筋骨格疾患
41
44.24±6.61
その他
43
43.44±6.50
表3 1週間以上疾病休業群と対照群のベースラインデータの比較
(コホートサイト4)
Case群 Control群
収縮期血圧 125.0±16.4 119.9±15.7
p<0.01
FBS
111.9±27.5 105.0±18.6
p<0.01
TC
204.4±41.5 194.5±34.5
p<0.01
UA
5.96±1.46
5.76±1.17
n.s.
血圧治療
19.8% 10.4%
p<0.01
高脂血症治療 7.7%
2.9%
p<0.05
糖尿病治療 9.6% 4.1%
p<0.05
喫煙
88.9% 88.0%
n.s.
飲酒量(合/W) 7.68±7.73 9.41±8.24
p<0.05
運動量(Mets/W) 13.7±17.8 14.9±25.3
n.s.
52
表4 1週間以上疾病休業のベースラインでの予測因子:
多重ロジスティック分析の結果(コホートサイト4)
Odds ratio 95%CI
Job demand(低)
0.779
0.464 ∼ 1.307
Job control(低)
1.015
0.594 ∼ 1.736
上長支援(低)
1.560
0.900 ∼ 2.703
同僚支援(低)
1.128
0.658 ∼ 1.934
身体負荷
0.834
0.492 ∼ 1.412
肥満
1.945
1.068 ∼ 3.544
高血圧
2.052
1.033 ∼ 4.077
高脂血症
2.081
0.604 ∼ 7.167
糖尿病
1.577
0.555 ∼ 4.476
喫煙
0.932
0.467 ∼ 2.297
飲酒(10合/W以上)
0.796
0.388 ∼ 1.631
* 男性のみ。年齢は疾病休業群と対照群でマッチさせた。
D.考察
大 規 模 な 疾 病 休 業 に 関 す る 縦 断 的 研 究 は 、 M a r m o t ら の White Hall Study
を除けば極めて少なく、本邦でもほとんど報告がない。今回の調査では、
肥満と高血圧のみが疾病休業に影響を及ぼすことが判明した。職業性ス
トレスでは有意な差を認めないが、上司の支援が低いと疾病休業を増や
す 傾 向 が 認 め ら れ た . 本 調 査 の 追 跡 期 間 は 最 大 2年 9 ヶ 月 と ま だ 短 く 、 今
後さらに追跡を続け、疾病毎の解析等についても予定である。
研 究 者:林 剛司(日立健康管理センタ)
Ⅱ−3−2−3.職業性ストレスと動脈硬化性疾患危険
因子
A.はじめに
職 業 性 ス ト レ ス は 、動 脈 硬 化 性 疾 患 の 危 険 因 子 と 考 え ら れ て い る 。そ の
ため、高度の職業性ストレスに曝露されている勤労者は動脈硬化性疾患
の 諸 指 標 が 悪 化 す る こ と が 予 想 さ れ る 。 当 セ ン タ で は Japan Work Stress
a n d H e a l t h C o h o r t S t u d y に 7215 名 の 登 録 を 行 っ て お り 、 初 回 登 録 よ り 3
年が経過による動脈硬化性疾患危険因子の経時的変化について調査を行
った。
53
B.対象と方法
対 象 は 、 日 立 健 康 管 理 セ ン タ に お い て Japan Work Stress and Health
Cohort Study に 登 録 さ れ た 男 性 7215 名( 登 録 時 平 均 年 齢 43 .1 ± 6 .1 才 )
の 内 、 3 年 目 の 検 査 を 行 っ た 5173 名 ( 72 . 4% 、 平 均 年 齢 43 . 2± 6. 0
才)を対象とした。
動 脈 硬 化 性 疾 患 の 危 険 因 子 と し て は 、 B o d y m a s s i n d e x (以 下 、 BMI) 、 総
コ レ ス テ ロ ー ル ( 以 下 、 TC )、 中 性 脂 肪 ( 以 下 、 TG )、 HDL ‐ C 、 L p ( a ) 、
収 縮 期 血 圧 ( 以 下 、S B P )、 拡 張 期 血 圧 ( 以 下 、 DBP )、 空 腹 時 血 糖 ( 以 下
FBS )、 H b A 1 c を 取 り 上 げ た 。 職 業 性 ス ト レ ス の 評 価 は 、 t h e J o b C o n t e n t
Questionnaire( 以 下 、 JCQ) を 用 い た 。
解 析 は 、 コ ホ ー ト 登 録 者 を JCQ の 仕 事 の 要 求 度 と 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル
よ り High-Strain 群( 高 要 求 度 ・ 低 コ ン ト ロ ー ル )、A c t i v e 群( 高 要 求 度 ・
高 コ ン ト ロ ー ル )、 P a s s i v e 群 ( 低 要 求 度 ・ 低 コ ン ト ロ ー ル )、 Low-Strain
群(低要求度・高コントール)の4群に区分し、各動脈硬化性疾患危険
因 子 の 初 年 度 と 3 年 目 の 差 に つ い て 比 較 を 行 っ た 。 ま た 、 BMI に つ い て
は 年 齢 で 補 正 を 行 っ た 。 血 圧 の 解 析 で は 高 血 圧 症( 5 41 名 ) を 除 外 し 、 年
齢 、 B M I 、 飲 酒 量 で 補 正 を 行 っ た 。 糖 代 謝 の 指 標 の 解 析 で は 糖 尿 病 ( 183
名 ) を 除 外 し 、 年 齢 、 BMI、 飲 酒 量 で 補 正 を 行 っ た 。 血 清 脂 質 の 指 標 の
解 析 で は 高 脂 血 症 ( 199 名 ) を 除 外 し 、 年 齢 、 B M I 、 飲 酒 量 で 補 正 を 行 っ
た。
C.結果
表 5 に 、 4 群 の 動 脈 硬 化 性 疾 患 危 険 因 子 の 変 化 率 を 示 す 。 High-Strain
群 は 、 T G ・ L p(a) に お い て 最 も 増 加 率 が 大 き か っ た 。 ま た 、 HDL-C で
は変化率が最も小さかった。血圧、糖代謝については、4群間で有意差
を認められなかった。
D.考察
Demand-Control model に お け る 動 脈 硬 化 性 疾 患 危 険 因 子 と の 関 連 に つ
い て 種 々 の 報 告 (1-5)が あ る 。 し か し 、 経 年 的 な 動 脈 硬 化 性 疾 患 危 険 因 子
の 変 化 に つ い て の 報 告 は 少 な い 。 今 回 我 々 は 、 Demand-Control model に
お け る Job content Questionnaire の 下 位 尺 度 が 動 脈 硬 化 性 疾 患 危 険 因 子 の
3年間の経年変化に及ぼす影響の評価を行った。
今 回 の 調 査 で は 、 3 年 間 と い う 短 い 期 間 で は あ る が T G 、 HDL-C 、 L
p(a)と い っ た 血 清 脂 質 の 項 目 で High-Strain 群 に 有 意 な 増 加 を 認 め た 。 こ
のことは、職業性ストレスが動脈硬化性疾患の発生に関与する可能性を
示唆するものと考えられる。今後コホート調査の継続により、動脈硬化
性 疾 患 の 発 生 と Job Stress と の 関 連 の 解 明 が 期 待 さ れ る 。
研 究 者:林 剛司(日立健康管理センタ)
54
表5 初年度の職業性ストレスと動脈硬化性疾患危険因子の3年間の変化
率:重回帰分析の結果(コホートサイト4)
職業性スト
レスの区分
(JCQ)
HighStrain 群
(n= 1100)
Active 群
(n= 1364)
Passive 群
(n= 1 4 4 4 )
Low- Strain
群
(n= 954)
肥満
度
(B M I)
収縮
期血
圧
22.72
×10 - 4
1. 20
×10 - 2
動脈硬化性疾患危険因子
総コレ
中性
FBS
HbA1c ス テ ロ
脂肪
ール
8.61
1. 67 1. 64 -6. 12 -1. 69
×10 ×10 - 2 ×10 - 2 ×10 - 2
×10 - 2
2
32.00
×10 - 4
1. 38
×10 - 2
2. 13
×10 - 2
1. 88
×10 - 2
-6. 07
×10 - 2
-1. 80
×10 - 2
-1. 95
×10 - 4
1. 45
×10 - 2
1. 77
×10 - 2
1. 44
×10 - 2
-5. 96
×10 - 2
-1. 82
×10 - 2
7. 16
×10 - 4
1. 44
×10 - 2
1. 42
×10 - 2
2. 09
×10 - 2
-5. 90
×10 - 2
-2. 20
×10 - 2
拡張
期血
圧
8.31
×10 2
6.16
×10 2
3.07
×10 2
HDL-C
Lp (a )
2. 99
×10 - 2
4. 27
×10 - 2
2. 64
×10 - 2
-0. 27
×10 - 2
4. 59
×10 - 2
-4. 70
×10 - 2
4. 15
×10 - 2
0. 02
×10 - 2
H −
H−P*
L*
H−P
A—P*
A−P*
有意差
A−
**
A−L*
L*
年齢
年齢
年齢
年齢
年齢
年齢
年齢
年齢
年齢
BMI
BMI
BMI
BMI
BMI
BMI
飲酒
BMI
BMI
補正
飲酒
飲酒
飲酒
飲酒
飲酒
飲酒
飲酒量
飲酒量
量
量
量
量
量
量
量
動脈硬化性疾患危険因子変化率は(初年度データ−3 年目データ)/初年度データとした。
H : High Strain 群 、 A : Active 群 、 P : Passive 群 、 L : L o w S t r a i n 群
*: p<0. 0 5 、 **: p<0. 0 1
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55
Ⅱ−3−3.職業性ストレスの健康影響に関する総合的結
論
A.はじめに
職業性ストレスが、疾患の発症、増悪に関与する数多くの要因の一つであ
る こ と を 示 す 知 見 が 欧 米 を 中 心 に 集 積 さ れ て き た 。一 方 、健 康 影 響 評 価 グ ル
ー プ で は 、職 業 性 ス ト レ ス が 健 康 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 、約 2.5 万 人 の 調 査
研 究( 大 規 模 コ ホ ー ト 研 究 ベ ー ス ラ イ ン 調 査 お よ び 追 跡 調 査 )を実施し、わ
が国の職場において注目すべき職業性ストレスの特徴を明らかにしてきた。
本 報 告 は 、内 外 の 文 献 レ ビ ュ ー お よ び コ ホ ー ト 研 究 に よ り 得 ら れ た 知 見 に 基
づいて職業性ストレスの健康への影響についての総合的結論を得ることを
目的とした。
B.職場のストレス要因について
健 康 に 影 響 を 及 ぼ す 職 場 の ス ト レ ス 要 因 と し て は 、仕 事 の 負 荷 、 責 任 な ど
の 仕 事 の 要 求 度 、仕 事 を 行 な う 上 で の 裁 量 度 や 自 己 能 力 の 発 揮 な ど の 仕 事 の
コ ン ト ロ ー ル 、お よ び 職 場 の 人 間 関 係 と し て の 上 司 、同 僚 の 社 会 的 支 援 が 健
康への影響として重要である。特に、仕事の要求度が高く、仕事のコントロ
ー ル が 低 い 職 場 で 精 神 的 緊 張 度 が 高 く 、健 康 問 題 が 生 じ や す い こ と 、こ れ に
加 え て 、職 場 で の 上 司・ 同 僚 の 支 援 が 低 い こ と が も っ と も 問 題 を 生 じ や す い
状況であることが知られている。これらの要因のほか、長時間労働、仕事の
不 安 定 さ 、 仕 事 上 の 出 来 事 、 そ の 他 の 物 理 ・ 化 学 的・ 人 間 工 学 的 有 害 因 子 が
ストレス要因となりうる。
C. 職 業 性 ス ト レ ス の 健 康 影 響
1.疾病休業
欧 米 に お い て 、 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 低 値 の 疾 病 休 業 リ ス ク は 1.4− 2.0
倍 1)2) で あ る 。 昨 年 度 報 告 し た 、 職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 に お け
る 30 日 間 以 上 の 疾 病 休 業 ( 60 歳 未 満 の 男 性 98 件 ) に つ い て の 1 年 間 の 追
跡 調 査 ( 年 齢 を マ ッ チ さ せ た 1: 3 の 症 例 対 照 研 究 ) で は 、 疾 病 休 業 群 で 仕
事 の 自 由 度 が 低 く 、同 僚 の サ ポ ー ト が 低 く 、多 重 ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 の
結 果 で 、 同 僚 か ら の サ ポ ー ト 低 値 の 疾 病 休 業 の オ ッ ズ 比 は 1.88( 1.1 − 3.2 )
で あ っ た 。 同 じ く 本 年 度 は 2 年 間 の 追 跡 調 査 デ ー タ に お け る 30 日 間 以 上 の
疾 病 休 業 例 ( 60 歳 未 満 の 男 性 199 件 : 新 生 物 26 、 精 神 疾 患 29 、 循 環 器 疾 患
40 、 筋 骨 格 系 疾 患 お よ び 事 故 49 、 そ の 他 55 ) と の コ ホ ー ト 内 患 者 対 照 研 究
( 1:3 の 年 齢 マ ッ チ ) を 実 施 し た 。多 重 ロ ジ ス テ イ ッ ク 分 析 で は 、 仕 事 の コ
ン ト ロ ー ル 低 値 の 疾 病 休 業 リ ス ク は 2.05 ( 1.22∼ 3.45) 倍 で あ り 、 上 司 か
56
ら の 支 援 低 値 の リ ス ク は 1.71 ( 1.03 ∼ 2.84) 倍 で あ っ た 。 し た が っ て 、 仕
事のコントロールおよび職場の人間関係は労働者の疾病休業に強い影響を
与えていると結論できる。
2.循環器疾患およびそのリスクファクター
仕 事 要 求 度 ‐ コ ン ト ロ ー ル モ デ ル に も と づ い て お こ な わ れ た 研 究 3)-5) の ほ
と ん ど で 心 血 管 疾 患 と の 有 意 な 関 連 を 示 し 、ま た 、疫 学 的 に 質 が 高 い と 判 断
さ れ た 研 究 に お い て よ り 高 い 相 対 危 険 度 を 示 す 傾 向 が あ る 6 ) な ど 、心 血 管 心
疾 患 と の 強 い 関 連 性 が 示 さ れ て い る 。こ れ ら の 報 告 に お い て は 、仕 事 の 要 求
度 が 高 く 、仕 事 の コ ン ト ロ ー ル が 低 い 高 ス ト レ イ ン 群 で の 虚 血 性 心 疾 患 の 相
対 危 険 度 は 1.5 − 5 倍 で あ る 7 ) 。 脳 血 管 疾 患 に つ い て の 報 告 は 数 少 な い が 、
ス ト レ ス の 多 い 運 転 作 業 者 で 1.14 ∼ 1.30 倍 の 入 院 リ ス ク の 報 告 8 ) が あ る 。
研 究 班 に よ る 2 年 間 の 追 跡 研 究 の 結 果 か ら も 、循 環 器 系 疾 患 で の 休 業 群 で 技
術 の 幅( 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル の 下 位 尺 度 ) が 有 意 に 低 い 傾 向 が あ っ た 。 こ れ
ら の こ と か ら 、仕 事 の ス ト レ ス 要 因 は 循 環 器 疾 患 の 発 生 に 密 接 に 関 与 し て い
る と い え る 。職 業 性 ス ト レ ス と 循 環 器 疾 患 と の 関 連 の メ カ ニ ズ ム に つ い て は
未 解 明 な 点 が 多 い が 、一 つ は 循 環 器 疾 患 の 危 険 因 子 を 介 し て 結 び つ い て い る
可 能 性 が あ る 。こ の う ち 血 圧 に つ い て は 、24 時 間 血 圧 に お い て 多 く の 報 告 9 )
で 有 意 な 関 連 性 が 認 め ら れ て い る 。ま た 、仕 事 を 離 れ た 家 庭 や 睡 眠 中 で の 血
圧 に も 差 違 10)が み ら れ 、 職 業 性 ス ト レ ス の 持 ち 越 し 効 果 と さ れ る 。 そ の 他 、
職業性ストレスが加齢や飲酒による血圧上昇を加速している可能性が指摘
11)
さ れ て い る 。 わ が 国 に お い て は 、 週 60 時 間 以 上 の 労 働 、 仕 事 の ト ラ ブ ル
が 多 い 、時 間 に 追 わ れ る 場 合 に 高 血 圧 の 新 規 発 症 が 約 2 倍 と な る こ と 、仕 事
が ひ ま 過 ぎ る も の で も 高 血 圧 の 発 症 率 が 4 倍 に な る と の 報 告 12)が あ る 。 血
圧 の ほ か 血 清 脂 質 の 上 昇 1 3 ) 1 4 ) 、 HbA1c の 増 加 1 5 ) 、 血 液 凝 固 能 の 亢 進 1 6 ) や 線
溶 系 の 機 能 低 下 17) な ど の 介 在 が 示 唆 さ れ る 。 研 究 班 の ベ ー ス ラ イ ン 調 査 で
も 仕 事 の 要 求 度 が 高 く 、コ ン ト ロ ー ル が 低 い 高 ス ト レ イ ン 群 で 収 縮 期 血 圧 、
拡張期血圧、総コレステロールが有意に高値で、喫煙率が高く、運動習慣を
有 す る も の の 割 合 が 低 い 傾 向 が み と め ら れ た 18)。 ま た 、 こ れ ら の 改 善 の た
め の 働 き か け ( THP な ど ) に 対 し て 、 職 業 性 ス ト レ ス の 高 い 群 で は 改 善 度 が
悪 い 傾 向 19)を み と め た 。 以 上 よ り 、 仕 事 上 の ス ト レ ス 要 因 は 循 環 器 疾 患 の
危 険 因 子 と も 関 連 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。危 険 因 子 以 外 の 発 症 機 序 と し
て 、発 症 の 危 険 が 高 ま っ て い る 最 終 段 階 で 職 場 ス ト レ ス が 誘 因 と し て 作 用 し 、
自 律 神 経 系 を 介 し て 致 死 的 不 整 脈 や 心 筋 梗 塞 の 発 生 を 誘 発 す る 可 能 性 、職 場
ス ト レ ス が 交 感 神 経 系 機 能 の 亢 進 や 、心 筋 の 機 能 回 復 過 程 の 遅 延 な ど を 介 し
て 発 症 を 惹 起 す る 可 能 性 が 推 定 20)さ れ て い る 。 研 究 班 の ベ ー ス ラ イ ン 調 査
で は 女 性 で 同 僚 の 支 援 が 低 い 場 合 に 不 整 脈 の 既 往 者 が 有 意 に 高 い 傾 向 21) が
あ り 、職 業 性 ス ト レ ス の 心 臓 自 律 神 経 系 へ の 影 響 を 示 唆 し て い る 。ま た わ が
国 で は 、こ れ ら と は 別 に 、長 時 間 労 働 が 心 血 管 疾 患 お よ び そ の 危 険 因 子 に 密
接 に 関 連 す る と の 報 告 が 多 い 22)。
57
3.精神症状・疾患、自殺
仕 事 の 要 求 度 が 高 く 、コ ン ト ロ ー ル が 低 い 高 ス ト レ イ ン 群 で 疲 労 症 状 や 抑
う つ 症 状 、 精 神 安 定 剤 や 催 眠 剤 の 使 用 が 多 い こ と が 報 告 1)23)されている。高
ス ト レ イ ン 群 で は 不 眠 症 の 危 険 度 が 3.7 倍 1 4 ) で あ り 、 精 神 的 な 仕 事 の 負 担
感 の あ る も の で は 精 神 科 を 受 診 す る 率 が 1.4 − 2.3 倍 高 い こ と 2 4 ) 2 5 ) 、 職 場 の
人 間 関 係 に 問 題 が あ る 者 で は 5 倍 、 仕 事 の 不 適 性 感 の あ る も の で は 14 倍 う
つ 病 に か か り や す い 26)と さ れ る 。 研 究 班 の ベ ー ス ラ イ ン 調 査 27)で は 、 月 残
業 時 間 が 50 時 間 を 超 え る と 抑 う つ が 高 く な る こ と 、 同 じ く 2 年 間 の 追 跡 研
究 で は 、精 神 疾 患 に よ る 休 業 群 で 上 司 、同 僚 の サ ポ ー ト が 有 意 に 低 い こ と が
示 さ れ た 。 自 殺・ 自 殺 未 遂 に つ い て は 、 多 忙 、 単 調 労 働 、 新 し い 事 を 学 ぶ 機
会 の な い こ と 及 び そ れ ら の 組 み 合 わ せ が 男 性 で 1.98 − 2.44 倍 、 女 性 で 1.44
− 2.34 倍 リ ス ク を 高 め る こ と が 報 告 2 3 ) さ れ て い る 。 以 上 よ り 、 職 業 性 ス ト
レ ス 要 因 は 精 神 症 状・疾患、自殺のリスクを高めるといえる。
4.筋骨格系の障害 腰痛、頚・肩・腕痛
仕 事 の 要 求 度 が 高 い こ と が 頚 ・ 肩 痛 の リ ス ク を 1.43 − 1.47 倍 、 サ ポ ー ト
の 低 い こ と が 腰 痛 の リ ス ク を 1.81 − 2.04 倍 高 め る こ と が 指 摘 2 8 ) さ れ て い る
ほ か 、 仕 事 へ の 不 満 足 感 29)、 職 場 の 人 間 関 係 の 葛 藤 30)と 腰 痛 と の 関 連 な ど
が報告されている。また、職場のストレス対策により、頚肩腕痛の新規外来
患 者 の 減 少 を み た と の 報 告 31)も あ る 。 研 究 班 の 2 年 間 の 追 跡 調 査 で も 、 筋
骨 格 系 疾 患 に よ る 休 業 者 で は 、 意 志 決 定 の 範 囲( 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル の 下 位
尺度)が低く、仕事の不安定さが高く、仕事のストレインが高かった。業務
上疾病の 6 割を占める腰痛をはじめとする筋骨格系の障害を予防する上で、
職場ストレスへの対応が重要といえる。
5.仕事上の事故あるいは交通事故、
仕 事 上 ス ト レ ス フ ル な 出 来 事 を 多 く 経 験 し た も の で は 仕 事 上 の 事 故 を 1.8
倍 多 く 経 験 し や す か っ た 。ま た 、管 理 職 へ の 満 足 度 の 低 い も の や 同 僚 の 支 援
の 低 い 者 で は 2.5 − 2.7 倍 仕 事 上 の 事 故 が 多 い こ と が 指 摘 3 2 ) さ れ て い る 。 こ
のほか、男性で、単調な仕事や、新しい事を覚える機会のない仕事に従事す
る も の で は 交 通 事 故 に よ る 入 院 の リ ス ク が 1.50 − 1.51 倍 で あ る こ と が 示 さ
れ て い る 23)。 仕 事 上 の ス ト レ ス に よ る 不 眠 、 薬 剤 服 用 な ど に よ る 注 意 力 の
低 下 、ね む け 、安 全 へ の 配 慮 の 不 足 な ど が 重 大 な 事 故 に 結 び つ く 可 能 性 が あ
る。労働災害を防止する上で職場のストレス対策が重要である。
6.アルコール関連障害、肥満、脂肪肝
高 ス ト レ イ ン 群 で ア ル コ ー ル 症 と の 関 連 が 強 い こ と 3 3 ) 、ア ル コ ー ル 関 連 障
害 で の 入 院 リ ス ク は 高 ス ト レ ス 群 で 男 性 1.43 、女 性 1.26 で あ る と の 報 告 2 3 )
が あ る 。ま た 、仕 事 上 の コ ン ト ロ ー ル 低 下 と 常 習 飲 酒 者 の 割 合 お よ び 飲 酒 量
の 増 加 と が 関 連 す る こ と 、同 時 に 肝 機 能 障 害 、BMI が 増 加 す る な ど の 報 告 3 4 )
が あ る 。 そ し て 、 高 ス ト レ イ ン 群 で の 脂 肪 肝 の 危 険 度 は 2.5 倍 で あ っ た 1 4 ) 。
これらのことから、職業性ストレスは、アルコール関連障害のほか、飲酒習
58
慣をはじめとする食生活の変化等を介して、肥満、脂肪肝、肝機能障害など
の発生、増悪に関わるものといえる。
7.糖尿病
職 務 不 満 感 が 糖 化 ヘ モ グ ロ ビ ン の 増 加 と 関 連 す る こ と 1 5 ) 、 週 50 時 間 以 上
の 残 業 、 新 し い 技 術 の 導 入 が 糖 尿 病 発 症 の リ ス ク を そ れ ぞ れ 3.7 倍 、2.4 倍
高 め る こ と 35)、 職 場 の 社 会 的 支 援 が 低 い 場 合 に 、 追 跡 時 点 で 糖 尿 病 治 療 中
で あ る 可 能 性 が 2.5 倍 高 か っ た 1 4 ) な ど の 報 告 が あ る 。 近 年 わ が 国 に お け る
糖 尿 病 の 有 病 率 は 増 加 3 6 ) し つ つ あ り 、職 業 性 ス ト レ ス が そ の 発 症 の み な ら
ず経過、予後等に深くかかわることが想定され、留意すべき疾患である。
8.胃・十二指腸潰瘍
心 理 的 ス ト レ ス と 胃・ 十 二 指 腸 潰 瘍 と の 関 連 は 従 来 か ら 指 摘 さ れ て い る が 、
研 究 班 の ベ ー ス ラ イ ン 調 査 27)に お い て 、 技 能 の 低 活 用 の 程 度 が 、 血 清 ペ プ
シノゲンⅠ/Ⅱ 比によって判定された萎縮性胃炎の危険度と関係していた
( オ ッ ズ 比 約 3 倍 、P<0.01 ))。 ま た 、 職 場 の 社 会 的 支 援 が 低 い 場 合 、 追 跡 調
査 時 点 で 胃 潰 瘍 で あ る 可 能 性 が 1.4 倍 高 か っ た 1 4 ) 。 胃 腸 疾 患 で の 入 院 リ ス
ク は 職 業 性 ス ト レ ス が 高 い 男 性 で 1.48 倍 で あ っ た 2 3 ) 。 こ れ ら の こ と か ら
胃・十 二 指 腸 潰 瘍 を は じ め と す る 上 部 消 化 管 疾 患 へ の 職 業 性 ス ト レ ス の 関 与
は無視できないものと考えられる。
D.結論
以 上 よ り 、職 業 性 ス ト レ ス の 健 康 影 響 に つ い て 以 下 の よ う に ま と め る こ と
が で き る ( 表 1 )。
1. 職 場 の ス ト レ ス 要 因 と し て 仕 事 の 要 求 度 、 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 、 職 場 の
人 間 関 係 ( 上 司 、 同 僚 の 社 会 的 支 援 )、 仕 事 の 不 安 定 さ 、 仕 事 上 の 出 来 事 、
長 時 間 労 働 な ど や 、 そ の 他 の 物 理・化学的 ・人間工学的有害因子があり、
これらは、直接、あるいは疾病の危険因子への影響を介して休業や治療
を要するような疾病の発生、増悪、経過の遷延、再発などに関与してい
る。
2. 職 業 性 ス ト レ ス と 関 連 の 深 い 健 康 障 害 と し て 、 以 下 の も の を あ げ る こ と
ができる。
1) 重 症 度 が 高 く 、 職 業 性 ス ト レ ス と の 関 連 性 が 強 い と 考 え ら れ る も の :
・虚血性心疾患
・脳血管疾患
・自殺
・仕事上の重大事故
・交通事故
2) 頻 度 が 高 く 、 仕 事 お よ び 生 活 の 質 へ の 影 響 が 大 き く 、 職 業 性 ス ト レ
スとの関連性があるもの:
・高血圧
59
・不整脈
・肥満、高脂血症、脂肪肝
・糖尿病(耐糖能異常)
・胃・十二指腸潰瘍
・アルコール関連障害
・腰痛、頚肩腕痛
・うつ病
表1 職業性ストレスの健康影響に関する要約―職場のストレス要因およ
び 職 業 性 ス ト レ ス と 関 連 の 深 い 健 康 障 害:職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー
ト 研 究( ベ ー ス ラ イ ン デ ー タ お よ び 追 跡 調 査 デ ー タ )の 分 析 と 文 献 レ ビ
ューからの結論
重症度が高く、職業性 頻度が高く、仕事およ
主な職場のストレス要
ストレスとの関連が比 び生活の質への影響が
因
較的強いと考えられる 大きく、職業性ストレ
もの
スと関連があるもの
仕事の要求度 ( 量 的 負 虚血性心疾患
高血圧
脳血管疾患
荷など)
不整脈
長時間労働
自殺
肥満
仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 仕事上の事故災害
高脂血症
(自由度や裁量権)
交通事故
糖尿病(耐糖能異常)
職 場 の 人 間 関 係( 上 司 、
脂肪肝
同僚の支援)
胃・十二指腸潰瘍
仕事の不安定さ
アルコール関連障害
仕事上の出来事
腰痛、頚肩腕痛
物理化学的要因
うつ病
人間工学的要因
研 究 者:小林章雄(愛知医科大学衛生学教室)
研究協力者: 堀 礼 子 , 竹 内 清 美(愛知医科大学衛生学教室)
60
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医 学 会 雑 誌 1996; 31(1): 81-94 .
Kawakami N, Araki S, Takatsuka N, et al.: Overtime, psychosocial working
conditions, and occurrence of non-insulin dependent diabetes mellitus in
Japanese men. J Epidemiol Community Health 1999; 53(6): 359-63.
Islam MM, Horibe H, Kobayashi F: Current trend in prevalence of diabetes
mellitus in Japan, 1964-1992. J Epidemiol 1999 ; 9(3): 155-62.
63
Ⅱ−4.事業場におけるストレス対策の進め方
健 康 影 響 評 価 グ ル ー プ で は 平 成 9 年 度 に は 性 別 、職 種 別 、事 業 場 規 模 別 の
ス ト レ ス 対 策 の ポ イ ン ト を 検 討 し た 。 ま た 平 成 10 年 度 に は さ ら に 3 つ の 職
種 の ス ト レ ス 対 策 の ポ イ ン ト を 検 討 す る と と も に 、こ れ ま で の 個 別 の ポ イ ン
ト を 整 理 し て 、「 事 業 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 共 通 の 枠 組 み 」 を 提 案 し た
( 図 1 )。平 成 11 年 度 は 、ス ト レ ス 対 策 の 共 通 の 枠 組 み に つ い て さ ら に 検 討
す る た め に 、 1999 年 4 月 に 告 示 さ れ た 「 労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ
ム 」と ス ト レ ス 対 策 の 関 係 に つ い て 検 討 を 追 加 す る と 同 時 に 、こ れ ま で に 検
討 さ れ て い な か っ た 年 齢 別 の ス ト レ ス 対 策 の ポ イ ン ト お よ び リ ス ト ラ・ア ウ
ト ソ ー シ ン グ 下 に お け る ス ト レ ス 対 策 の ポ イ ン ト に つ い て 検 討 を 進 め た 。ま
た 同 時 に 平 成 9、10 年 度 に 検 討 し た 労 働 者 や 事 業 場 の 特 性 別 に み た ス ト レ ス
対策のポイントを見直して、最終的なまとめの作業を行った。
共
通
の
枠
組
み
特
性
別
の
対
策
事業所や労働者
に共通したストレ
ス対策の枠組み
•女 性
•管 理 職
•事 務 職
•製 造 組 立 従 事 者
•中 小 規 模 事 業 所
平 成9年度
労働安全衛生マ
ネジメントシステ
ムとストレス対 策
•年 齢 別
•リストラ・アウト
•情 報 関 連 職 種
•医 療 職
•運 輸 従 事 者
ソーシング下の
対策
•これまでの検討
の見直し
平 成10年 度
平 成11年 度
図1 事業場 のストレス対策の共通 の枠組みと労働者や事業場の特性に合
わ せ た 対 策 に 関 す る 平 成 9 ∼ 11 年 度 の 研 究 の 流 れ
64
Ⅱ − 4 − 1 .労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム と ス ト レ
ス対策の実施に関する検討
A.はじめに
労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム は 、事 業 場 の 安 全 衛 生 水 準 の 一 層 の 向
上 を 図 っ て ゆ く た め の 事 業 場 内 で の 自 主 的 な 安 全 衛 生 活 動 の 仕 組 み( 責 任 分
担 と 情 報 の 流 れ ) を 示 し た も の で あ る 。労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム
は 英 国 で 作 成 さ れ ら 規 格 で あ り 、現 在 で は 国 際 的 な 標 準 の 規 格 と な り つ つ あ
る 。 ま た 、「 計 画 − 実 施 − 評 価 − 改 善 」 と い う 一 連 の 過 程 を 定 め て 、 連 続 的
か つ 継 続 的 に 安 全 衛 生 活 動 を 実 行 す る 点 に 特 色 が あ る 。 わ が 国 で は 1999 年
4 月 30 日 の 労 働 省 告 示 ( 第 53 号 )「 労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム の
指 針 」( 労 働 省 , 1999)に よ っ て わ が 国 で も 広 く 知 ら れ る よ う に な り 、多 く の
事 業 場 が こ の シ ス テ ム の 導 入 を 検 討 し て い る 。労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ
ス テ ム は 主 に 安 全 対 策 や 環 境 対 策 に 対 す る 比 重 が 大 き い が 、安 全 衛 生 マ ネ ジ
メ ン ト シ ス テ ム の 実 施 事 項 に は 健 康 管 理 を 含 む も の と 考 え ら れ て い る( 佐 々
木 , 1999)。
こ の 研 究 で は 、今 後 事 業 場 の 安 全 衛 生 管 理 の 方 法 と し て 普 及 す る と 思 わ れ
る労働安全衛生マネジメントシステムとストレス対策の実施との関係につ
い て 整 理 す る 。特 に 、労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト と ス ト レ ス 対 策 の 相 互 の 位
置 付 け 、同 シ ス テ ム の 中 で ス ト レ ス 対 策 を 実 施 す る た め の 基 本 的 な 考 え 方 お
よび問題点を明らかにすることを目的とした。
B.研究方法
研究方法は文献レビューと労働安全衛生マネジメントシステムの専門家
へ の 意 見 聴 取( ヒ ア リ ン グ ) に よ っ た 。 こ れ ら を 通 じ て 、 事 業 場 に お け る ス
ト レ ス 対 策 の 共 通 の 枠 組 み ( 当 グ ル ー プ 平 成 10 年 度 報 告 書 ) と 労 働 安 全 衛
生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム と の 突 合 せ を 行 っ た 。ま た 、労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ
ン ト シ ス テ ム の 中 で ス ト レ ス 対 策 を 実 施 す る 場 合 の 実 施 事 項 に つ い て 、労 働
省 指 針( 1999)の 各 実 施 条 項 ご と に ス ト レ ス 対 策 の 具 体 的 実 施 事 項 の 案 を 作
成 し た 。ま た 、ス ト レ ス 対 策 を 労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム 内 で 実 施
する際の課題を抽出した。
C.結果
1.労働安全衛生マネジメントシステムとストレス対策
労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム の 中 で の ス ト レ ス・メ ン タ ル ヘ ル ス 対
策 の 進 め 方 を 作 成 し た ( 図 2 )。 検 討 の 結 果 か ら 、 労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン
ト シ ス テ ム の「 計 画 − 実 施 − 評 価 − 改 善 」の サ イ ク ル は 、事 業 場 の ス ト レ ス・
65
組織づくりと計画
組織づくりと計画・実施のポイント
ストレス対策の方針表明
組織づくりと短期・中期目標の設定
ストレス対策計画の作成
実施
1.組織づくり
•労働者
2.計画および実施事
項
•職場環境のストレス
要因の評価と対策
•管理監督者
•教育・研修
•事業所内の産業
保健スタッフ
•健康診断・健康増進
におけるストレス対策
•事業所外の専門
機関
•メンタルヘルス相談
体制の確立と運用
評価・改善
図 自主的労働安全衛生活動としてのストレス対策の進め方
図2 自主的労働安全衛生活動としてのストレス対策の進め方
メ ン タ ル へ ル ス 対 策 に と っ て も 重 要 で あ る と 思 わ れ た 。ま た 同 シ ス テ ム の 組
織づくりの考え方は、ストレス対策を事業主が主導し、労働者、管理監督者
の参画を得て推進する上で有用と思われた。
し か し な が ら 、労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム に お い て 安 全 対 策 に 主
眼 が 置 か れ て い る 。ま た 同 シ ス テ ム の 対 策 活 動 の 中 心 と な る 職 場 ご と の「 リ
ス ク 評 価 」の 考 え 方 で は 、心 理 的 ス ト レ ス は 職 場 に 存 在 す る さ ま ざ ま な リ ス
ク 要 因 の 1 つ と し て 位 置 付 け ら れ る 。こ の た め 労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ
ステムの中でストレス対策を実施するとかえってその特徴が見えにくくな
る 点 が 懸 念 さ れ た 。む し ろ 、労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム の よ い 点 を
生かしたストレス対策の計画、実施を進めることが適切と思われた。
2.労働安全衛生マネジメントシステムにおけるストレス対策の実施事項
労働安全衛生マネジメントシステムの実施事項について、労働省指針
(1999)を 参 考 と し 、同 第 5 ∼ 17 条 の 個 別 実 施 項 目 に 対 応 す る ス ト レ ス 対 策 の
実 施 事 項 の 対 照 表 を 作 成 し た ( 表 1 )。 こ の 作 業 に よ り 、 労 働 安 全 衛 生 マ ネ
ジ メ ン ト シ ス テ ム の 中 で ス ト レ ス・メ ン タ ル へ ル ス 対 策 を 実 施 す る こ と が 可
能となった。
3.労働安全衛生マネジメントシステムの組織
シ ス テ ム 各 級 管 理 者 の 役 割 例 を 作 成 し た ( 表 2 )。
4.今後の課題
労働安全衛生マネジメントシステムの中で の ス ト レ ス 対 策の普及の た め
に は 文 書 例 の 作 成 、リ ス ク 評 価 の た め の ア ク シ ョ ン チ ェ ッ ク リ ス ト の 整 備 な
ど、今後の課題があることが明らかとなった。
66
表1 労働安全衛生マネジメントシステムにおけるストレス対策(案)
条
項
5
条
6
条
労働省指針
の項目
安全衛生方
針の表明
危険又は有
害要因の特
定及び実施
事項の特定
その内容
対 応 す る ス ト レ ス・ メ ン タ ル ヘ ル ス 対 策
危険又は有
害要因の特
定
事 業 場 と し て 労 働 者 の ス ト レ ス・メ ン タ ル ヘ ル ス に つ い て 積
極的、継続的に取り組むことを表明する。
危 害 要 因 と し て 、職 業 性 ス ト レ ス お よ び そ の 原 因 と な る 要 因
(職場環境、労働時間、交代勤務などの労働条件や職場の人
間関係など)を広い視点からとりあげる。
実施事項の
特定
7
条
安全衛生目
標の設定
8
条
9
条
10
条
安全衛生計
画の作成
労働者の意
見の反映
安全衛生計
画の実施及
び運用等
目標と効果
評価の指標
を定める
リスク要因
の評価
健康影響の
評価
現在とられ
ている予防
措置の評価
11
条
体制の整備
管理者の役
割、責 任 、権
上 記 要 因 に 対 す る 対 策 を 具 体 化 す る 。特 に 以 下 の 4 つ の 項 目
について最低限検討する。
1)職場環境のストレス要因の評価と対策
2 ) 管 理 職・ 従 業 員 向 け 教 育
3)健康診断・ 健 康 増 進 に お け る ス ト レ ス ・メンタル ヘ ル ス
対策
4 ) メ ン タ ル ヘ ル ス 相 談 体 制 の 確 立 (EAP の 活 用 を 含 む)
短期( 年 間 ) お よ び 中 期( 数 年 ) 目 標 を 設 定 す る 。
短期あるいは中期目標の例:
・ 管 理 職 全 員 が ス ト レ ス・ メ ン タ ル ヘ ル ス 研 修 を 受 講
・ 早 期 発 見 に よ り う つ 病 の 休 業 期 間 を 1/2 に短縮
・ 職 場 環 境 の 改 善 に よ り ス ト レ ス 性 の 訴 え を 10%減少
自主管理計画では第6条の4つの項目が計画的に達成でき
るように考慮する。中長期計画の中で順次実現してもよい。
自主管理計画の策定にあたって安全衛生委員会やその他の
機会を活用して労働者の意見が反映されるよう配慮する。
事業場あるいは各職場における職業性ストレスの程度や頻
度などの評価を行う。
・労働時間や作業速度など客観データを入手する。
・ストレス問診票による調査結果を活用する。
・ 職 場 巡 視 を 行 う(ス ト レ ス 要 因 の チ ェ ッ ク リ ス ト な ど を 活
用する)
・労働者からの聞き取りを参考にする。
・ 最 低 限 、 ① 仕 事 の 量 的 荷 重 と 自 由 度・ 裁 量 権 の バ ラ ン ス 、
②上司や同僚の支援に注目する。
事業場あるいは各職場のストレス性の健康障害を評価する。
1)年次別、職場別の健康指標の比較
・ 血 圧 、 血 清 総 コ レ ス テ ロ ー ル 、 HbA1c の比較
・「 ス ト レ ス 性 」 疾 患( う つ 病 、 高 血 圧 、 筋 骨 格 系 疾 患 、 胃
十二指腸潰瘍など)の発生頻度の比較
・離職率や疾病休業データの比較
2)「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 を 活 用 す る 。
事 業 場 あ る い は 職 場 ご と に 、職 業 性 ス ト レ ス に 対 し て 現 在 と
られている予防措置を以下のカテゴリー別に見直す。
1)職場環境のストレス要因の評価と対策
2 ) 管 理 職・ 従 業 員 教 育
3)健康診断・ 健 康 増 進 に お け る 個 人 向 け ス ト レ ス・メンタ
ルヘルス対策
4 ) メ ン タ ル ヘ ル ス 相 談 体 制 (EAP の 活 用 を 含 む)
・ シ ス テ ム 各 級 管 理 者(ラインの管理者、中間管理者、部門
責任者など)ごとに、それぞれの役割を明確にする。
67
限 を 定 め 、周
知する。
管理者を指
名する。
人材および
予算の確保
12
条
文書
13
条
緊急事態へ
の対応
14
条
日常的な点
検、改善
15
条
システム監
査
16
条
記録と保管
17
条
労働安全衛
生マネジメ
ントシステ
ムの定期的
見直し
労働者に対
する教育
安全衛生委
員会の活用
文書化し管
理する
・ そ れ ぞ れ の 階 層 ご と に ス ト レ ス・メンタルヘルス対策の進
捗状況や問題点をモニターし報告する責任者を決める。
・システム各級管理者を指名する。
・ メ ン タ ル ヘ ル ス に 関 し て 社 内 に 専 門 家 を 確 保 す る か 、また
は社外の専門家や支援機関との連携体制を確立する
・事業場内産業保健スタッフの研修を実施する。
・管理職教育
・従業員教育
計画の実施にあたり安全衛生委員会を活用する。
安全衛生方針、安全衛生目標、安全衛生計画、システム各級
管 理 者 の 役 割 、 責 任 及 び 権 限 に つ い て 文 書 に よ り 定 め 、文書
を 管 理 す る 。文 書 へ の ア ク セ ス お よ び コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を
円滑にできるように留意する。
緊急事態に対 ・ 精 神 疾 患 や ス ト レ ス の 緊 急 事 例 へ の 対 処 手 順 を 定 め る 。
して労働災害 ・地震、火災、大きな労働災害などストレスの原因となる緊
の予防措置を 急 事 態 発 生 時 の ス ト レ ス・ メ ン タ ル ヘ ル ス 問 題 (PTSD な ど )
の予防手順を定める。
定める
メ ン タ ル ヘ ル ス・ストレス対策計画の実施状況について日常
労働安全衛
的な点検および改善を実施する方法を定め、これを実施す
生マネジメ
る。点検方法: シ ス テ ム 各 級 管 理 者 に よ る 実 施 状 況 の モ ニ タ
ントシステ
リングなど。改善方法の例:教育研修の強化、有資格人材の
ムの日常的
な点検・改善 確保、外部助言の確保、リスク要因コントロールの体系的実
施など。
の手順を定
め実施する
労働災害や
・セクハラ、うつ病、自殺などの事例の発生した職場や、こ
事故の原因
れ ら を 含 め た ス ト レ ス 性 の 健 康 問 題 の 多 発 し た 職 場 、なんと
調査と改善
な く 雰 囲 気 の 悪 い 職 場 な ど に つ い て 、 そ の 原 因 を 分 析 し 、再
発を防止するための対策を行う。
・メンタルヘルス相談が適切に利用できなかった理由を明
らかにし改善する。
次回安全衛
改善点を次回の安全衛生計画に反映する。
生計画への
反映
システム監
定 期 的 に シ ス テ ム の 監 査 計 画 を 作 成 し 、シ ス テ ム 監 査 を 実 施
査の手順を
する手順を定める。システム監査を実施する。システム監査
定め実施す
は、社内あるいは社外の専門家によって実施してもよい。
る
労働安全衛
シ ス テ ム 監 査 の 結 果 、 必 要 が あ る と 認 め る 時 は 、労働安全衛
生マネジメ
生マネジメントシステムの実施および運用について改善を
ントシステ
行う。
ムの改善
・活動を記録しこれを保管する
・個人記録の保管についてはプライバシーの保護に十分留
意する
ストレス ・メンタルヘルス対策とその体制を定期的に見直
し、継続的に改善する。
68
表2 ストレス対策におけるシステム各級管理者の役割(例)
区分
役割の例
職場環境のストレス要因の評価と対策への参加
自分のストレスへの気づきと対処
システムの不具合や改善点に関する監視と助言
管理監督者
ラ イ ン の 管 理 日常的なストレスの予防と労働者へのサポート
監 督 者 、 中 間 職場環境のストレス要因の改善
管理職
労働者の精神的問題の発見と対処
不調者の職場復帰後の支援
事故予防・安全配慮
システムの不具合や改善点に関する監視と改善
部門責任者
部門ごとの目標および計画の策定と実施
計画された職場環境のストレス要因の評価と改善
労働者の精神的問題の発見と対処、不調者の職場復帰
後の支援、事故予防・安全配慮に関する全体的責任
部門単位でのシステムの不具合や改善点に関する監視
と改善
産 業 保 健 ス タ ッ フ[ 産 業 医 、 事 業 場 で の 組 織 づ く り 、 目 標 お よ び 計 画 の 策 定
衛生管理者・衛生推進者、 計画された職場環境のストレス要因の評価と改善
保健婦・士、こころの健康 教育研修の実施
づ く り 専 門 ス タ ッ フ (「 心 理 健 康 診 断 、 健 康 増 進 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 実 施
相談担当者、産業カウンセ 相談体制の確立と運用
ラー、臨床心理士、精神科 緊急事態への対応
医、心療内科医等」をいう) 部門単位でのシステムの不具合や改善点に関する監視
と提言、システム監査およびシステム改善への参加
等]
事業主
事業場の組織づくり、目標および計画の策定
情報、文書、マニュアルの整備
職場環境のストレス要因の評価と改善の推進
教育研修の推進
健康診断、健康増進におけるストレス対策の推進
メンタルへルス相談体制の確立と運用
緊急事態への準備と対応
事業場単位でのシステムの不具合の監視と改善
労働者
D.結論
ストレス対策は、労働安全衛生マネジメントシステムの中に組み込んで、
あるいはこれと独立に同システムの考え方をツールとして生かしながらで
も実施可能であることが明らかとなった。労働安全衛生マネジメントシス
テムの利点を生かして事業場におけるストレス対策の具体的な計画および
実施項目を提案できた。
研 究 者:川上憲人(岐阜大学医学部公衆衛生学教室)
研究協力者: 小 木 和 孝 、 伊 藤 昭 好(労働科学研究所)
69
E.文献
1)佐々木元茂:労働安全衛生マネジメントシステムについて.産業医学
ジ ャ ー ナ ル 22(5): 29-33, 1999.
2 ) 労 働 省 労 働 基 準 局 安 全 衛 生 部: 労 働 安 全 衛 生 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム に
関 す る 指 針 に つ い て . 1999 年 4 月 30 日 告 示 .
3)英国規格協会(日本規格協会、訳):労働安全衛生マネジメントシス
テ ム の 指 針 . 日 本 規 格 協 会 , 1996.
4)小木和孝(監)、川上 剛、原 邦夫(著):労働安全衛生マネジメ
ン ト シ ス テ ム 導 入 実 践 マ ニ ュ ア ル . 通 産 資 料 調 査 会 , 1999
Ⅱ−4−2.年齢層別のストレス対策のポイント
A.目的
年 代 別 の CES-D 得 点 と 職 業 性 ス ト レ ス の 関 連 の 解 析 お よ び 先 行 研 究 の 文
献レビューから、年代ごとの職業性ストレスの特徴とその対策のポイント
を明らかにする。
B.対象と方法
職 業 性 ス ト レ ス と 健 康 コ ホ ー ト 研 究 の ベ ー ス ラ イ ン 調 査 内 の NIOSH ス ト
レ ス 調 査 票 、 JCQ、 CES-D の 結 果 に つ い て 、 20 代 の グ ル ー プ か ら 50 代 の グ
ル ー プ ま で 、 調 査 対 象 を 10 歳 ご と に 4 つ の グ ル ー プ に 分 け 、NIOSH の 職 業
性 ス ト レ ス 調 査 票 あ る い は JCQ の 質 問 項 目 得 点 と 抑 う つ 尺 度 で あ る CES-D
得点との相関係数をグループ間で比較した。相関係数の違いから、年齢ご
とのストレスの特徴を検討した。
C.結果
1 . CES-D と 職 業 性 ス ト レ ス の 偏 相 関 ( 表 1, 2)
全 体 で は 、 ど の 年 代 で も NIOSH の 自 尊 心 の 項 目 が 最 も 強 い 負 の 関 連 性 を
示した。関連性の強い項目としては、役割や対人関係に関連する項目、職
務の満足感が上位を占め、社会的支援項目がそれに続くという傾向がみら
れた。
2 . 年 代 別 の 偏 相 関 係 数 順 位 と 順 位 の 年 代 差 ( 表 3)
CES-D 得 点 と NIOSH、 JCQ 各 項 目 の 相 関 係 数 を 高 い 順 ( 絶 対 値 ) か ら 並
べ 、 CES-D 得 点 に NIOSH、 JCQ の ど の 項 目 が よ り 関 連 性 を 持 つ か を 検 討 し
た。
1) 全 体
自尊心の項目が各年代を通して最も強い関連を持っていた。これに対し
70
表 1 年 代 別 の CES-D と NIOSH 職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 項 目 と の 相 関 ( 全 体 )
20∼ 29歳
30∼ 39歳
40∼ 49歳
50∼ 59歳
人数/男性
2663
5905
7573
3350
女性
1166
889
934
457
合計
3829
6794
8507
3807
CES-D平 均 ( 標 準 偏 差 ) 14.04
12.53( 7.16) 11.67( 6.46) 11.51( 5.47)
/男性
( 7.29)
/ 女 性 13.93( 7.41) 13.28( 6.83) 13.05( 6.15) 13.51( 5.61)
/ 全 体 13.98( 7.30) 12.53( 7.19) 11.70( 6.51) 11.71( 5.56)
NIOSH職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票
役割葛藤
0.2890***
0.3265***
0.3312***
0.2516***
役割曖昧さ
0.2864***
0.3649***
0.3858***
0.2851***
グループ内対人葛藤
0.2623***
0.3228***
0.3508***
0.2907***
グループ間対人葛藤
0.2648***
0.3258***
0.3606***
0.3136***
仕事のコントロール
-0.0744***
-0.2465***
-0.2419***
-0.1832***
量的労働負荷
0.0922***
0.0553***
0.0414***
-0.0040
労働負荷の変動
0.1205***
0.0932***
0.0729***
0.0300
技能の低活用
0.0916***
0.1793***
0.1802***
0.1396***
人々への責任
0.0158
-0.1032***
-0.1125***
-0.0825***
認知的要求
0.0811***
0.0394**
0.0119
-0.0381
社会的支援(上司)
-0.2044***
-0.2731***
-0.2621***
-0.1779***
社会的支援(同僚)
-0.2148***
-0.2515***
-0.2490***
-0.1838***
社 会 的 支 援 ( 友 人 ・ 家 族 ) -0.1958***
-0.2799***
-0.2187***
-0.1471***
仕事外の活動
0.0054***
-0.0010
-0.0694***
-0.0713***
職務満足感
-0.2885***
-0.3409***
-0.3523***
-0.2450***
仕事の将来の曖昧さ
0.1656***
0.2278***
0.2183***
0.1444***
自尊心
-0.4922***
-0.5046***
-0.4925***
-0.3801***
***p<0.001 **p<0.01
*p<0.05
表 2 年 代 別 の CES-D と JCQ ス ト レ ス 評 価 項 目 と の 相 関 ( 全 体 )
20∼ 29歳
30∼ 39歳
40∼ 49歳
50∼ 59歳
JCQに よ る ス ト レ ス 評 価
仕 事 の 要 求 度 ( 5項 目 版 )
0.1205***
0.0781***
0.0655***
0.0230
仕 事 の 要 求 度 ( フ ラ ミ ン ガ ム 版 ) 0.1823***
0.1309***
0.1301***
0.0850***
意志決定の範囲
-0.1477***
-0.2496*** -0.2324*** -0.1999***
仕 事 の コ ン ト ロ ー ル ( 9 項 目 版 ) -0.1330***
-0.2428*** -0.2214*** -0.2049***
仕 事 の 不 安 定 さ ( 3項 目 版 ) 0.1897***
0.2333***
0.2196***
0.1964***
仕事の不安定さ(フラミンガム版)
0.2003***
0.2457***
0.2259***
0.2051***
社会的支援(上司)
-0.1713*** -0.2082*** -0.2160*** -0.1274***
社会的支援(同僚)
-0.1942*** -0.2538*** -0.2514*** -0.1516***
職場の社会的支援合計
-0.2134*** -0.2696*** -0.2708*** -0.1599***
身 体 的 負 荷 ( 3項 目 版 )
0.0797***
0.1737***
0.1974***
0.1732***
常同姿勢による負荷
0.1521***
0.2341***
0.2056***
0.2141***
仕事のストレイン指数1
0.0132
0.1053***
0.1002***
0.1152***
仕事のストレイン指数2
0.1897***
0.2588***
0.2065***
0.1971***
***p<0.001 **p<0.01
*p<0.05
仕 事 の ス ト レ イ ン 指 数 1 = Hlatky,M.ら に よ る 計 算 式 に よ り 求 め た 指 数
仕 事 の ス ト レ イ ン 指 数 2 = Landsbergis ら に よ る 計 算 式 に よ り 求 め た 指 数
71
表3 年代別の項目相関順位(全体)
順
20∼ 29歳
位
1 自尊心
30∼ 39歳
自尊心
自尊心
自尊心
2
役割葛藤
役割曖昧さ
役割曖昧さ
グループ間対人葛藤
3
職務満足感
職務満足感
グループ間対人葛藤 グループ内対人葛藤
4
役割曖昧さ
役割葛藤
職務満足感
5
グ ル ー プ 間 対 人 葛 藤 グ ル ー プ 間 対 人 葛 藤 グ ル ー プ 内 対 人 葛 藤 役割葛藤
6
グ ル ー プ 内 対 人 葛 藤 グ ル ー プ 内 対 人 葛 藤 役割葛藤
7
社 会 的 支 援 ( 同 僚 )N 社 会 的 支 援 ( 友 人 ・ 家 族 ) 職 場 の 社 会 的 支 援 合 計 常 同 姿 勢 に よ る 負 荷
8
職 場 の 社 会 的 支 援 合 計 社 会 的 支 援 ( 上 司 )N 社 会 的 支 援 ( 上 司 )N 仕 事 の 不 安 定 さ ( フ )
9
社 会 的 支 援 ( 上 司 )N 職 場 の 社 会 的 支 援 合 計 社 会 的 支 援 ( 同 僚 )J 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル ( 9 )
10 仕 事 の 不 安 定 さ ( フ ) 仕 事 の ス ト レ イ ン 指 数 2
40∼ 49歳
50∼ 59歳
役割曖昧さ
職務満足感
社 会 的 支 援 ( 同 僚 )N 意 志 決 定 の 範 囲
N=NIOSHス ト レ ス 調 査 票 の 尺 度 J=JCQの 尺 度 フ =フ ラ ミ ン ガ ム 版 9 = 9項 目 版
て 、 40 代 前 後 で 比 較 す る と 、 若 年 層 で 相 対 的 に 高 い 順 位 に あ る も の は 、 役
割 葛 藤 、 職 務 満 足 感( の 低 さ ) で あ り 、 中 高 年 層 で は 、 グ ル ー プ 内 対 人 葛 藤 、
グループ間対人葛藤の項目であった。
2) 男 性
男 性 の み で 偏 相 関 係 数 の 順 位 を 各 年 代 ご と に 比 較 し た 場 合 、以 下 の よ う な
特徴がみられた。
( 1) 役 割 葛 藤 は 20 代 で 高 く 、 30 代 50 代 で の 順 位 は 変 わ ら な か っ た 。
( 2) 職 務 満 足 感 は 30 代 で 最 も 高 い 順 位 を 示 し 、20 代 と 40 代 で は そ の 年 代
で の 相 関 係 数 順 位 が 変 わ ら ず 、 50 代 で 順 位 が 下 が っ て い た 。
( 3) グ ル ー プ 内 対 人 葛 藤 は 、20 40 代 で は そ の 年 代 で の 相 関 係 数 順 位 は 変
わ ら ず 、 50 代 で 若 干 の 順 位 の 上 昇 が み ら れ た 。
( 4) グ ル ー プ 間 対 人 葛 藤 は 、 全 体 の 解 析 と 同 様 、 20 30 代 に 比 べ 、 40 50
代でその年代での相関順位が高かった。
( 5) 男 性 で は 、 全 年 代 で 役 割 曖 昧 さ が CES-D と の 相 関 が 比 較 的 高 い こ と が
認められた。
3) 女 性
女性全体では、年代ごとの違いが男性に比べ大きい傾向が認められた。
( 1) 役 割 葛 藤 は 40 代 で 順 位 が 最 も 高 く 、 20 代 と 30 代 で は 変 わ ら ず 、 50
代で順位が低くなっていた。
( 2) 職 務 満 足 感 は 、 20 代 ( 6 位 ) と 40 代 ( 7 位 ) で ほ ぼ 変 わ ら な い 順 位 を
示 し た が 、 順 位 自 体 は 男 性 に 比 べ 高 い も の で は な く 、 30 代 で は 10 位 、 50
代 で は 10 位 以 下 と な り 、30 代 は 男 性 と 全 く 逆 の 傾 向 を 示 し 、50 代 は 男 性 と
ほぼ一致した傾向を示した。
( 3) グ ル ー プ 内 対 人 葛 藤 、 グ ル ー プ 間 対 人 葛 藤 と も に 、 50 代 が 最 も 順 位 が
72
高 く 、 次 い で 、 20 代 、 40 代 の 順 で あ っ た 。 30 代 で は 、 グ ル ー プ 内 対 人 葛 藤
は 10 位 以 下 、 グ ル ー プ 間 対 人 葛 藤 は 9 位 と 、 30 代 で 相 対 順 位 が 大 き く 下 が
ることが認められた。
D.職業性ストレスの年齢特徴に関する文献レビュー
ス ト レ ス( あ る い は 抑 う つ )が ど の よ う な 年 齢 的 要 素 に 関 連 す る か を 論 じ
た文献はほとんど認められない。
年 齢 的 要 素 を ポ イ ン ト に し た ス ト レ ス 調 査 に 、Meltzer ら 1 )が ア メ リ カ ニ
ュ ー ヨ ー ク 州 北 部 の 包 装 工 場 の 従 業 員 143 人 を 構 造 化 面 接 を 用 い て 行 っ た
も の が あ る 。こ れ に よ る と 、メ ン タ ル ヘ ル ス に 反 映 す る よ う な ポ ジ テ ィ ブ な
感 情 は 、 20 代 か ら 30 代 に か け て 上 昇 し 、 40 代 で 急 激 に 下 降 、 40 60 代 は
ほ と ん ど 変 わ ら な い と い う 変 化 が 認 め ら れ る と の こ と で あ る 。Meltzer ら は
こ の 要 因 と し て 、 20 代 は 仕 事 や 結 婚 に 適 応 す る 激 動 の 時 代 で 、30 代 に な る
とこの時期を過ぎ、生活が確立されてくるためと考えている。
また、同調査結果を自尊心、環境への適応、人格構造、成熟度(熟練度)
の 4 つ の カ テ ゴ リ ー に 分 け て 比 較 す る と 、 若 年 層 と 中 高 年 層 で の 違 い は 、自
尊 心 、環 境 へ の 適 応 、人 格 構 造 の 順 に 大 き く( 上 記 の ご と く 、若 年 層 で よ い )、
成 熟 度( 熟 練 度 ) で は ほ と ん ど 違 い が 認 め ら れ な か っ た と 報 告 し て い る 。こ
の 要 因 に つ い て Meltzer ら は 、自 尊 心 に つ い て は 、若 年 層 は 自 分 自 身 に よ り
多 く の 理 想 を 持 ち 、自 分 自 身 の 能 力 に も 自 信 を も っ て い る た め で あ ろ う と し 、
環 境 へ の 適 応 で の 差 に つ い て は 、要 請 さ れ た 状 況 に よ り よ く 適 応 し 、実 際 に
適 応 可 能 な 環 境 も 多 い た め で あ ろ う と 考 え て い る 。一 方 、人 格 構 造 の 違 い は 、
将 来 や 定 年・ 老 後 に つ い て 、若 年 層 が あ ま り 現 実 的 に 考 え な く と も 済 む 分 の
み の 違 い で あ り 、 成 熟 度 が 変 わ ら な か っ た の は 、仕 事 に 大 き く 依 存 す る た め
年齢的な差がみられないとしている。
別 の ス ト レ ス と 年 齢 に つ い て 報 告 と し て 、 Timmreck ら 2 ) に よ る も の が
あ る 。 無 作 為 抽 出 し た 電 話 会 社 の 社 員 450 人 の う ち 、 有 効 回 答 が 得 ら れ た
322 人 を 対 象 と し た も の で 、 調 査 に は 、 The Schedule of Recent Events
( SRE) と The Health Opinion Survey( HOS ) が 用 い ら れ た 。 最 も 高 い
ス ト レ ス を 示 し た 年 齢 層 は 、24 歳 以 下 、40 歳 44 歳 、60 歳 以 上 で あ っ た 。
Timmreck ら は 考 え ら れ る 要 因 と し て 以 下 の よ う な こ と を 挙 げ て い る 。
1) 若 年 層 は 変 化 の 時 期 で あ り 、 そ の 変 化 ( こ れ に は 、 結 婚 、 妊 娠 、 家 族
の増加、経歴の変化、夫婦喧嘩、法的なトラブル、学校の始まりや終わりな
どが含まれる)からストレスが生じる。
2) 中 年 層 は 、 家 族 の 死 、 家 族 構 成 の 変 化 、 借 金 な ど に よ る 抵 当 権 の 喪 失 、
職 業 上 の 手 応 え の 変 化 、息 子 や 娘 が 家 か ら 離 れ る な ど が ス ト レ ス を 生 じ さ せ
る。
3) 高 年 齢 層 は 配 偶 者 や 近 親 者 の 死 、 病 気 、 退 職 、 最 後 の 子 供 が 家 を 離 れ
る、経済状況の変化など、若年層とは違った変化がストレスとなる。
73
E.考察
1. 全 体 に つ い て
自 尊 心 の 低 い こ と と 抑 う つ が 高 い こ と に は 、ど の 年 代 で も 関 連 性 が み ら れ
た。ただし、自尊心が低いから抑うつが高くなるのか、抑うつが強いための
自 責 感 の 強 ま り と し て 、自 尊 心 が 低 く な る の か は 不 明 で あ る 。他 の 項 目 と 比
較 し て も 自 尊 心 の 低 い こ と と 抑 う つ が 高 い こ と の 関 連 性 は 強 く 、自 尊 心 を 高
める働きかけをすることは重要と思われる。
自尊心を高める働きかけには様々な方法が考えられるが、職業的な側面を
考 え る と 、職 業 上 で 評 価 さ れ 、職 場 で 必 要 と さ れ る こ と が ポ イ ン ト と な る と
思われる。
コ ホ ー ト デ ー タ 上 、 CES-D の 得 点 は 若 年 層 で 高 く 、 CES-D と 自 尊 心 と の 逆
相 関 を 考 え る と Meltzer ら が 若 年 層 で 自 尊 心 が 最 も 高 い と し た 報 告 と 一 致
しない。このことは、職業性ストレスを考える場合、抑うつと年齢要因が時
代 や 産 業 構 造 、文 化 な ど の 影 響 を 受 け る こ と に よ り 、そ の 関 連 性 や 特 徴 が 変
化することによるものと考えられる。
2. 若 年 層 に つ い て
コ ホ ー ト デ ー タ 上 、 20 30 代 の 若 年 層 で は 、 役 割 葛 藤 の 高 さ と 職 務 満 足
感 の 低 さ が 中 高 年 層 と 比 較 し た 場 合 の 特 徴 と し て 認 め ら れ た 。役 割 葛 藤 に つ
い て は 、NIOSH 日 本 版 の 質 問 内 容 か ら 考 え る と 、 必 ず し も 自 ら が と る べ き 役
割 を 決 定 す る 上 で の 内 的 な 葛 藤 を 反 映 し て い る も の で は な く 、外 的 な 状 況 か
ら の 役 割 の 変 化 や そ の 唐 突 さ 、役 割 変 化 の 一 貫 性 を 保 持 す る こ と へ の 困 難 さ
な ど を 反 映 し て い る よ う に も 思 わ れ る 。つ ま り 、役 割 の 変 化 か ら ス ト レ ス が
生 じ て い る と 考 え ら れ る 。 こ の こ と は 、 氏 原 3) が 若 年 層 の 仕 事 へ の 考 え 方
と し て 、仕 事 は し た い こ と を す る た め の 必 要 悪 で あ り 、仕 事 の た め に 自 分 の
ペ ー ス を 崩 す こ と を 極 力 さ け る 点 を あ げ て い る こ と や Timmreck ら 2)が 若 年
層はライフイベントからストレスが生じることを指摘していることに関連
があるのかもしれない。
ま た 、 小 此 木 は 「 モ ラ ト リ ア ム 人 間 」4) と い う 概 念 を 提 唱 し た が 、 モ ラ ト
リ ア ム に あ る 心 理 と し て 以 下 の よ う な 特 徴 を 挙 げ て い る 5 )。
1) ま だ ど ん な 職 業 的 役 割 も 獲 得 し て い な い 。
2) 全 て の 社 会 的 関 わ り は 、 ま だ 見 習 い 期 間 な の で 、 暫 定 的 ・ 一 時 的 な も
のである。
3) 本 当 の 自 分 は こ れ か ら 先 の 大 人 に な っ た 未 来 に 実 現 さ れ る は ず で 、 現
在の自分は仮のものにすぎない。
4) 全 て の 価 値 観 、 思 想 か ら 自 由 で 、 ど の よ う な 自 己 選 択 も こ れ か ら 先 の
ことである。
5) 全 て の 社 会 的 出 来 事 も し ょ せ ん 大 人 の 社 会 の こ と な の で 、 ど ん な こ と
にも当事者意識を持たない。大人社会に対して、お客様意識しか持たない。
小 此 木 は 、 上 記 心 理 と と も に 、 最 近 の 青 年 の 特 徴 と し て 、 か つ て は 12
74
13 歳 か ら 22 23 歳 ま で と さ れ て い た 青 年 期 が 、 遅 延 ・ 延 長 し 、 い ま や 30
歳 過 ぎ ま で モ ラ ト リ ア ム 状 態 に い る と 思 い 、な お も そ の あ り か た を 保 ち 続 け
よ う と す る「 モ ラ ト リ ア ム 青 年 」 が 当 た り 前 に な り 、 い つ ま で も ふ ん ぎ り の
つ か な い ま ま の 心 理 状 態 で 暮 ら し て い る と 述 べ て い る 5 )。 こ の こ と は 、 若 年
層 で 上 記 心 理 特 徴 を 背 景 と し て 、役 割 を 積 極 的 に 受 け 入 れ な い 、ど の 役 割 に
も つ き た く な い と の 気 持 ち が あ り 、こ れ が 役 割 葛 藤 を 強 く 感 じ さ せ て い る と
も考えられる。
し た が っ て 、若 年 層 の ス ト レ ス 対 策 を 考 え た 場 合 、職 業 上 の 役 割 を 明 確 に
す る と と も に 、役 割 の 変 化 を 緩 や か に し 、変 化 の 前 後 で 一 貫 性 を 獲 得 で き る
ようにすることが重要である。
職 務 満 足 感 の 低 さ つ い て は 、や は り 質 問 内 容 か ら 考 え る と 仕 事 そ の も の へ
の 満 足 の 他 に 、仕 事 を し て い く 上 で の 状 況 に 対 す る 満 足 も 含 ま れ て い る 。つ
ま り 、仕 事 の 満 足 感 を 規 定 す る 要 因 は 、個 人 的 な 内 的 要 因 と 職 場 環 境 や 給 与
な ど の 外 的 要 因 ま で 幅 広 く 影 響 す る 。し た が っ て 、職 務 満 足 感 を 上 げ る よ う
な対策を考えた場合も、対策は多岐に渡り、その個人の状況に、より個別的
に な ら ざ る を 得 な い 。ま た 、上 記 の モ ラ ト リ ア ム 的 な 態 度 が 背 景 要 因 と し て
強 い 場 合 、何 に 対 し て も 満 足 感 や 手 応 え は 感 じ づ ら い 状 態 に あ り 、職 務 満 足
感 の み を 上 げ る 対 応 は 非 常 に 困 難 で あ る 。 ゆ え に 、職 務 満 足 感 に 対 す る ス ト
レス対策としては、職業上の不満に耳を傾け、問題を具体化し、職務満足感
を 上 げ る と 思 わ れ る 、あ ら ゆ る 個 別 的 対 応 を 積 極 的 に 行 う こ と が 重 要 と な る 。
3. 中 高 年 層 に つ い て
40 代 、 50 代 の 中 高 年 層 で は 、 コ ホ ー ト デ ー タ 上 、 グ ル ー プ 内 対 人 葛 藤 、
グ ル ー プ 間 対 人 葛 藤 の 対 人 葛 藤 が 、若 年 層 に 比 べ 、相 対 順 位 が 高 い こ と が 認
められた。この要因として考えられることは、
1) こ の 年 代 で は 管 理 職 が 増 え 、 役 目 上 、 対 人 関 係 の 問 題 を 抱 え る こ と が
多くなる。
2) 松 浪 と 飛 鳥 6 ) が 指 摘 し て い る よ う に 、 い ま だ 日 本 企 業 に お い て は 仕 事
が 個 人 に 対 し て よ り も 、課 や グ ル ー プ な ど の 集 団 に 対 し て 与 え ら れ る こ と が
多 く 、メ ン バ ー は 自 ら の 責 任 を 果 た す と と も に 、仲 間 へ の 配 慮 を 必 要 と す る
ことが多い。このことがストレスを感じさせる。
3) 世 代 間 の ギ ャ ッ プ が 大 き く 、 か か わ る 上 で ス ト レ ス を 感 じ る 。
な ど で あ る 。 武 貞 は 、40 50 代 の 職 業 人 の ス ト レ ス 因 と し て 、( 1) 職 場 で
の 役 割 、( 2 ) 職 場 で の 立 、( 3 ) 転 勤・ 単 身 赴 任 、( 4) 上 昇 の 停 止 、 将 来 が 見
通 せ る こ と 、( 5) 定 年 後 の 見 通 し 、( 6 ) 身 体 の 衰 え の 6 点 を 挙 げ て い る 7 )。
役 割 の ス ト レ ス は 若 年 層 で 高 か っ た 今 回 の 報 告 と は 合 致 し な い が 、職 場 で
の 役 割 や 立 場 と は 何 に よ っ て 規 定 さ れ る か を 考 え た 場 合 、そ こ に は( 管 理 職
で あ れ ば な お さ ら で あ る が )仕 事 の 内 容 の 他 に 、対 人 関 係 的 要 素 も 多 く 含 ま
れ る 。こ の よ う に 、対 人 関 係 上 の ス ト レ ス が 職 場 で の 役 割 や 立 場 に 関 す る ス
ト レ ス の 要 因 に な っ て い る 可 能 性 も あ り 、今 回 の 結 果 と は 必 ず し も 矛 盾 し な
75
い。
対 人 関 係 の 問 題 発 生 は 、考 え 方 や や り 方 が 違 う な ど の 個 人 間 で の 問 題 発 生
と 、立 場 や 役 職 の 違 い や ギ ャ ッ プ か ら 生 じ る 組 織 上 の 問 題 発 生 、世 代 間 の ギ
ャップなどがあると思われる。しかし、問題が継続するにしたがい、どのよ
う な 問 題 発 生 も 個 人 的 な 対 立 に 結 び つ い て し ま う 。し た が っ て 、個 人 間 で の
問 題 解 決 に は 限 界 が あ る 。中 高 年 層 で は 、対 人 葛 藤 を 個 人 で 抱 え さ せ る の で
は な く 、 産 業 保 健 ス タ ッ フ[ 産 業 医 、 衛 生 管 理 者 ・ 衛 生 推 進 者 、 保 健 婦 ・士
等]および人 事・ 労 務 担 当 者 が 相 談 に あ た る チ ー ム を つ く り 、そのチームが
相 談 や 指 示 を し な が ら 具 体 的 な 解 決 策 を 探 し て い く こ と が 重 要 で あ る 。ゆ え
に 、中 高 年 層 へ の ス ト レ ス 対 策 の ポ イ ン ト は 、い か に 対 人 葛 藤 を 相 談 組 織 が
支えられるかであり、相談を気軽にできる職場づくり等が必要である。
職 場 だ け で な く 、異 世 代 間 の 問 題 に は 常 に 世 代 間 の ギ ャ ッ プ を ど の よ う に
埋 め る か が 問 題 に な る 。氏 原 は 中 高 年 層 と 比 較 し た 場 合 の 若 年 層 の 対 人 関 係
特 徴 を 以 下 の よ う に 挙 げ て い る 3 )。
1) 若 年 層 の 人 間 関 係 は 人 を 信 頼 し な い こ と に 発 し て い る た め 、 深 い 人 間
関 係 を 持 つ こ と を 恐 れ る ( 裏 切 ら れ る の を 非 常 に 恐 れ る )。
2) あ な た な し で は 生 き て い け な い と い っ た 関 係 は 、 自 分 の 立 場 を 失 う 可
能性がを持つため、若年層にとっては最も危険と感じられる。
3) 若 年 層 の 対 人 関 係 は 、 全 て が お 互 い に と っ て 役 に 立 つ 存 在 と い う 関 係
で築かれている。契約関係に近く、深入り深追いはしない。
4) 自 分 を 殺 す こ と を 極 端 に 嫌 う の で 、 仕 事 の た め に 自 分 の ペ ー ス を 崩 す
ことを極端に嫌う。だから会社勤めをしていてもアルバイト的である。
氏 原 は 同 時 に 、仲 間 指 向 の 中 高 年 層 と は 正 反 対 で あ る た め 噛 み 合 わ な い が 、
単 に 批 判 す る だ け で な く 、こ の よ う な 有 り よ う を い か に 取 り 入 れ る か か が 問
題 と な る と 述 べ ら れ て い る 。し た が っ て 、世 代 間 の ギ ャ ッ プ を 埋 め る に は 、
ま ず 互 い に 、特 に 若 年 層 を 取 り 込 ま ざ る を 得 な い 管 理 職 の よ う な 立 場 の も の
が 、こ の 世 代 間 ギ ャ ッ プ を 認 識 す る こ と が 必 要 で あ る 。若 年 層 は こ の 世 代 間
ギ ャ ッ プ を 埋 め る 必 要 性 も 意 義 も 感 じ な い で あ ろ う こ と か ら 、こ の 問 題 を 回
避 す る に は 中 高 年 層 、特 に 管 理 職 が ど の よ う な 認 識 に 立 っ た 行 動 を と る か に
よるところが大きい。啓蒙と教育を行うには、講演会や講習会、研修会を利
用するのがよいと思われる。また、この違いに立った上で、若年層に仕事を
さ せ る 場 合 、仕 事 上 の 責 任 と 義 務 を 明 確 に し 、そ の 仕 事 に 限 定 し て 契 約 関 係
を 結 ぶ こ と を 対 人 関 係 の 基 本 に す る こ と が 必 要 で あ る 。 こ の 一 方 で 、義 務 と
責 任 を 果 た す 以 上 、そ れ 以 外 の こ と に は 深 入 り せ ず 、あ る 程 度 の 自 由 度 を 持
た せ る こ と が 重 要 で あ る 。こ の よ う な 対 人 関 係 が 全 て の 面 で 良 い と は 思 わ れ
な い が 、少 な く と も 入 り 口 と し て は こ の よ う に せ ざ る を 得 な い の が 現 状 で あ
る。
76
F.まとめ
抑 う つ を 指 標 に 、各 年 代 に お け る ス ト レ ス 要 因 の 特 徴 と そ の 対 策 を ま と め
ると、
1) ど の 年 代 で も 、 自 尊 心 が 高 い 人 は 抑 う つ 感 が 少 な い 。 良 い 面 を 積 極 的
に 評 価 す る な ど 、 自 尊 心 を 高 め る よ う な 働 き か け を す る こ と は 、ど の 年 代 の
ストレス対策としても重要である。
2) 20 30 代 の 若 年 層 で は 、 役 割 葛 藤 や 職 務 へ の 不 満 足 か ら ス ト レ ス を 生
じ や す い 。役 割 を は っ き り さ せ 、役 割 を 変 え る と き は 相 互 に 了 解 す る よ う に
する。職務への不満は積極的に聞き、改善できるものは改善する。
3) 40 50 代 の 中 高 年 層 は 、 対 人 面 で ス ト レ ス を 感 じ や す い 。 対 人 面 の 問
題 は 、個 人 的 に 処 理 さ せ る の で は な く 、積 極 的 に 相 談 す る よ う に 働 き か け る 。
個 人 が 相 談 し や す い 職 場 を つ く る と と も に 、相 談 窓 口 、そ れ を 支 え る 事 業 所
内の組織の確立が重要である。
4) 世 代 間 の ギ ャ ッ プ は 、 上 司 や 管 理 職 が 若 年 層 と ど う か か わ る か を 中 心
に埋めることが重要である。研修会や講演会を通し啓蒙・教育を行い、一部
若年層に合わせたやり方で関係をつくっていく。
研 究 者:相澤好治(北里大学医学部衛生学公衆衛生学)
研究協力者:遠乗秀樹(北里大学医学部衛生学公衆衛生学)
職業性ストレスと健康コホート研究グループ
G.文献
1) Meltzer H. Ludwig D. : Age differences in positive mental health of workers. J
of Genetic Psychology. 119: 163-73, 1971 .
2) Timmreck TC, Braza GF, Mitchell, JH : Stress and aging. Geriatrics 35(6):
113-120, 1980.
3)小 川 捷 之 , 齋 藤 久 美 子 , 鑪 幹 八 郎 , 編 : 臨 床 心 理 学 大 系 3 ラ イ フ サ イ
ク ル , 金 子 書 房 , 東 京 , 1990.
4)小 此 木 啓 吾 : モ ラ ト リ ア ム 人 間 の 時 代 , 中 央 公 論 社 , 東 京 , 1978.
5)小 此 木 啓 吾 : モ ラ ト リ ア ム 人 間 ー 臨 床 と 社 会 を 結 ぶ 概 念 と し て ー . 臨 床 精
神 医 学 増 刊 号 :113-116, 1998.
6)飯 田 、 吉 松 、 町 沢 、 編 : 職 業 人 と し て の 危 機 , 有 斐 閣 , 東 京 , 1986.
7)早 石 修 編 : ス ト レ ス 社 会 と 心 の 健 康 2 , 高 度 情 報 化 社 会 に お け る 健 康
な 生 き 方 を 求 め て ,世 界 保 健 通 信 社 , 大 阪 , pp71-108, 1991.
77
Ⅱ − 4 − 3 . 変 貌 す る 労 働 状 況( リ ス ト ラ 、 ア ウ ト ソ ー シ
ングなど)の下でのストレス対策
A.目的
近年、多くの日本企業は、競争環境の激化、企業成長の鈍化、従業員の
高齢化といった環境要因の変化に対応すべく、情報化の推進、組織の統廃
合を含む大掛かりな施策を実施するようになった。これらの施策のうち特
に注目すべきは、その人事管理的側面についての施策であろう。日本企業
は終戦後からバブル経済の崩壊に至るまでの長い間、終身雇用・年功序列
に 代 表 さ れ る「 日 本 的 経 営 」 を 保 持 し 続 け て き た 。 し か し 、10 年 に 及 ば ん
とする長期の景気後退の環境下で、生き残りをかけ、ついに人事管理的側
面についても変革を実施し始めた。その代表的なものがリストラによる人
員 削 減 、な ら び に 業 務 の 外 注 化 や 非 正 規 従 業 員 の 活 用( ア ウ ト ソ ー シ ン グ )
の増加であろう。一般に、これらの施策は、人件費の削減、企業のフレキ
シビリティーの向上といった側面で、企業にとってのメリットを生むこと
が認められているが、そこで働く従業員にとっては、必ずしもメリットば
かりではないことが容易に推測される。
そ こ で 本 稿 で は 、1980 年 代 以 降 現 在 ま で 、継 続 的 に リ ス ト ラ が 実 施 さ れ 、
かつ日本以上にアウトソーシングが活用されている米国において実施され
た先行研究をレビューすることを通じて、リストラの実施やアウトソーシ
ングの導入が従業員の心理的状態に及ぼす影響について明らかにすること
を目的とする。
本稿の限界を先に述べよう。先述したとおり本稿では米国の文献をレビ
ューする。このことは、日本とは雇用形態が異なる米国の研究成果を渉猟
し て も 、そ れ は 必 ず し も 日 本 の 現 状 に 適 合 し な い 場 合 が あ る と 考 え ら れ る 。
しかし、それを考慮したとしても、米国における先行研究をレビューする
ことには意義があると筆者は考える。その理由としては、①日本企業が直
面する競争環境の変化は、先進国にある程度共通するものである、②日本
の雇用システムは、内部労働市場に基づいた人材の配置・訓練・処遇を重
視する方向から、より外部労働市場的な要素を取り入れた人材の育成・配
置・ 処 遇 へ と 方 向 転 換 を し つ つ あ る と い う 点 に お い て 、米 国 化 し つ つ あ る 、
③何よりも、日本企業を対象としたリストラならびにアウトソーシングの
心理的影響についての研究がほとんどない、という3点を挙げることがで
きる。
B.リストラの実施が従業員に与える心理的影響
リストラによる失業が個人に大きな心理的ダメージを与えることは言う
78
までもない。しかしながら、リストラによる人員削減は、その後企業に残
る従業員にも様々な心理的影響を与えることが明らかになっている。リス
ト ラ 後 も 企 業 に 留 ま る 従 業 員 は 「 サ バ イ バ ー( survivor)」 と 呼 ば れ 、 彼 ら
が 示 す 一 連 の 反 応 は 「 サ バ イ バ ー シ ン ド ロ ー ム ( survivor syndrome )」
( Cascio,1993 )、「 サ バ イ バ ー シ ッ ク ネ ス ( survivor sickness )」
( Noer,1993) な ど と 呼 ば れ る 。
な お 、「 リ ス ト ラ 」 と は 、 本 来 「 事 業 再 構 築 ( リ ス ト ラ ク チ ャ リ ン グ )」
を 意 味 す る 言 葉 で あ り 、 計 画 的 な 人 員 削 減 を 意 味 す る 用 語 と し て は 、「 ダ ウ
ンサイジング」という言葉が広く使用されている。しかしわが国では、計
画的な人員削減を示す言葉として「リストラ」を用いることが定着してい
る。このことを考慮して、本稿では企業の人員削減を意味する言葉として
「 ダ ウ ン サ イ ジ ン グ 」 で は な く 、「 リ ス ト ラ 」 を 使 用 す る こ と と す る 。
サバイバーを対象とした研究の中には、リストラ後、彼らが肯定的な反
応を示すとするものもある。例えば、リストラ後サバイバーのモチベーシ
ョンやコミットメントは向上し、現状を自らの成長の機会と捉える
( Henkoff,1994; Emshoff, 1994; Isabella, 1989)、 仕 事 に 対 す る 関 与 を 深
め る ( Brockner et al., 1988 )、 企 業 に 対 す る オ ー ナ ー シ ッ プ 感 を 持 つ
( O’Neill and Lennm 1995) と い っ た 結 果 が 報 告 さ れ て い る 。
このような研究結果が散見されるものの、リストラはサバイバーのネガ
ティブな反応を示すという結果を報告する研究の方が圧倒的に多い。サバ
イ バ ー が 示 す 反 応 と し て は 、 怒 り( 同 僚 の 解 雇 に 対 し て 、 手 続 き に お け る
正 当 性 の 欠 如 や 不 公 平 感 に 対 す る 怒 り )、 抑 う つ 、 恐 れ( 次 は 自 分 が 解 雇 さ
れ る か も し れ な い と い う 恐 れ )、罪 悪 感( 同 僚 が 解 雇 さ れ た に も か か わ ら ず
自 分 が 雇 用 さ れ 続 け て い る こ と に 対 す る 罪 悪 感 、)ト ッ プ マ ネ ジ メ ン ト に 対
する不信、自信喪失、モラル・コミットメント・モチベーションの低下、
不 安 、 企 業 と の 心 理 的 契 約 の 変 化 、 職 務 保 証 の な さ ( job insecurity) が
指 摘 さ れ て い る ( Brockner,1988; Cascio,1993; Noer,1993; Narvan,1994,
Astrachan, 1995, Ket’z de Vries and Balazs, 1997)。
また、人員削減による仕事量の増加・長時間労働・休日の削減はバーン
ア ウ ト を 引 き 起 こ し 、 効 率 を 悪 化 さ せ る ( Brockner, Davy and Carter,
1985; Brockner et al., 1987; Brockner, 1988; Cascio, 1993; Mone, 1994)。
さらに、リストラはその実行者に対しても、意思決定の遅延、同僚や部下
に 対 す る 攻 撃 性 の 増 加 、 集 中 困 難・ 抑 う つ 的 と い っ た 影 響 を 与 え る こ と が
明 ら か に な っ て い る ( Ket’S,de Vries and Balazs, 1997)。
行動への影響も指摘されている。例えば、サバイバーは自分の生産性を
向 上 さ せ る こ と に よ っ て 、「 解 雇 さ れ た 同 僚 は 解 雇 さ れ る に 値 す る 人 で あ
っ た 」と 認 識 し 、同 僚 の 解 雇 に 対 す る 不 公 平 感 を 是 正 し よ う 試 み る る た め 、
結果として、短期的には生産性が向上するといったことが見られる
( Brockner,1988; Ket’S,de Vries and Balazs, 1997)。 一 方 、 企 業 や 経 営
79
陣 に 対 す る 怒 り は 、 サ ボ タ ー ジ ュ や 生 産 性 の 低 下 を 招 く ( Brockner,1988)。
さらに、残った従業員の中で、より高業績をあげようとすることにより、
同僚との関係が競争的になり、緊張感が高くなることも指摘されている
( Brockner,1988; Ket’S,deVries and Balazs, 1997)。
C.派遣労働の特徴とその心理的影響
最近わが国企業では、リストラによる正社員の削減を推進するだけでな
く、アウトソーシングによって正社員以外の非正規従業員や派遣労働者と
い っ た コ ン テ ィ ン ジ ェ ン ト ・ ワ ー カ ー ( contingent worker) を 積 極 的 に 活
用するようになってきている。このことは、今まで以上に日本企業の従業
員の雇用形態が多様化しつつあることを意味する。
一 般 に 、「 ア ウ ト ソ ー シ ン グ 」 に は 、 業 務 自 体 を 外 注 化 す る も の と 、 特 定
業務の遂行のために、非正規従業員や派遣労働者といったコンティンジェ
ン ト ・ ワ ー カ ー ( contingent worker: 長 期 的 な 雇 用 契 約 が 、 暗 黙 に も 明 白
にもなされていない労働者)を活用するという2つの形態がある。本稿で
はこの2つの形態のうち、コンティンジェント・ワーク について、その中
でも今後特に需要が増えると想定される派遣労働者について、その職務の
特徴と、それに従事する個人に対する心理的影響について明らかにする。
派遣労働を扱う派遣業の形態には、常用型派遣と登録型派遣という2つ
の形態がある。常用型派遣とは、常用雇用者のみを派遣するものであり、
一方登録型派遣とは、派遣で働くことを希望する者が、派遣先が決まるま
では派遣会社と雇用関係が生じないシステムをいう。派遣形態の違いによ
って、そこに従事する個人が直面する状況に差異があることは否定できな
いが、一方で、彼らが直面する課題には多くの共通性があると考えられる
ため、本稿では常用型派遣と登録型派遣について、特に区別せずにその課
題について検討することにする。
派遣労働の最大の特徴は、彼らが従事する職務内容にある。多くの場合、
企業が彼らに割り当てる業務は、企業にとって競争力の源泉とはなりにく
く、かつ高度なスキルを必要としない業務である。このことは、派遣労働
者が自らのスキルアップ・ キ ャ リ ア ア ッ プ を 図 ろ う と す る 際 に 、 希 望 す る
ような職務が存在しないという点において、大きな障壁となる。そもそも
派遣労働者は、正規従業員に比べて職務保証が低く、職を失う可能性を常
に抱えているが、このようなキャリア形成の困難さが、職務保証を一層厳
しいものにしている。
これ以外にも、派遣労働者には、正規従業員と比べて、派遣先での同僚
や上司との人間関係が希薄になりがちである、裁 量 権 が 狭 い 、 役 割 が あ い
ま い で あ る 、 と い っ た 特 徴 が あ る ( Beard and Edwards, 1995)。
さらに、派遣労働に従事する個人のひとつの傾向として、外部労働市場
の冷え込みの影響を受け、本来正規従業員としての雇用を希望していなが
80
ら、派遣労働にしか従事できなかった、という非自発的な派遣労働者のケ
ースも増加してきている。
派遣労働者を対象としたストレス研究は、アメリカにおいても非常に少
ないが、数少ない研究においては、職務満足が低いことが低いことが指摘
さ れ て い る ( Ellingson, Gruys and Sackett, 1998)。 同 様 に 、 渡 辺 ら (1990)
が実施した調査では、派遣労働者は正規従業員に比べて抑うつ傾向が高く、
組織に対するコミットメントが低いことが報告されている。また、前述し
た派遣労働の特徴 ( 低 い 職 務 保 証・狭い裁量権・役割のあいまいさ等)は、
個人にとって非常に高ストレスであることは容易に推測できる。これらの
結果から、派遣労働者は正規従業員と比較した場合、より高ストレスな状
況下にある可能性は否定できない。
D.その対策
このように、リストラの実施やアウトソーシングの導入は、それに関連
する従業員に大きなストレスをもたらす。しかしながら、今後日本企業が
厳しい競争環境の中を生き延びていくためには、リストラやアウトソーシ
ングは避けることができないということも、また自明のことである。では、
一 体 ど の よ う な 対 策 が 可 能 な の で あ ろ う か ?(図1)
まず最初にリストラの実施がもたらす影響に対する対策について考えて
<人員削減後の企業にのこる従業員の心理的状況=
サバイバーシンドローム>
対策のポイント
ネガティブな
心理的反応
=抑うつ、不
安、罪悪感、仕
職務や組織の捉
え 方 の 変 化=仕
事の不安定感↑、
組織への愛着↓
経営陣・上司
に対する憤り
や不信感
<派遣社員の心理的状態>
派遣という業務形
態の特徴=能力発
派遣社員の心理的状態=
抑うつ傾向、職務満足が
低い、組織コミットメン
トが低い、業務特性によ
る心理的にネガティブな
影響
●人 事 の 公 平
性の維持
● 上司・部下関
係の強化
●自 分 自 身 の
キャリアデ
ザインの推
進・支援
図1 変貌する労働状況(リストラ、アウトソーイングなど)の下でのストレス対策
のポイント:文献レビューを行って問題点と対策のポイントを要約した。
81
みよう。リストラの実施が従業員に対して与えるネガティブな影響を和ら
げ る 緩 衝 要 因 と し て 注 目 さ れ て い る の が 、 公 平 性 で あ る( Brockner et. al.,
1990)。 公 平 性 に は 結 果 の 公 平 性 ( distributive justice ) と 手 続 き 的 公 平
性( procedural justice ) が あ る 。 そ れ ぞ れ に つ い て 具 体 例 を 挙 げ る な ら ば 、
リストラにおける結果の公平性とは、解雇者に対する再就職支援の実施や
退 職 割 増 金 の 支 給 等 に よ る 支 援 の こ と で あ り 、手 続 き 的 公 平 性( procedural
justice ) と は 、 解 雇 者 が 選 出 さ れ る プ ロ セ ス に お け る 正 当 性 ・ 適 切 性 の こ
とである。また、リストラ実施の理由や意義の説明、解雇者に対する悔悛
の 表 明 と い っ た 社 会 的 説 明( 相 互 作 用 的 公 平 性 :interactional justice )も
非常に重要である。
また、前述のように、リストラ実施後は、企業に残った従業員の同僚間
関係、上司―部下関係が悪化しやすいので注意が必要である。特に、仕事
の量的負荷の増加によるストレスや、自分自身の将来に対する不安感が高
まりやすい。そこで、上司から部下に対するより適切なサポート(メンタ
リング)が必要となる。メンタリングとは、
「会社の風土や職務に精通した
経験豊かな従業員 (上司や先輩)が、未熟な従業員( 部 下 や 後 輩 ) に 対 し
て一定期間継続して行う、心理・社会的な支援、キャリアの促進に関する
支 援 」 の こ と で あ り 、 部 下 の 話 を 十 分 に 聞 く こ と や ( 心 理 的 支 援 )、 キ ャ リ
ア発達を促進するような働きかけ(キャリア的な支援)が必要である。特
に後者のキャリア的支援については、部下が、自分のキャリア形成を会社
まかせにせず、自分自身でキャリアデザインをできるような姿勢を身につ
けるよう支援をすることが、今後特に重要であろう。同様のことは、企業
の人的資源管理施策についても言える。
次に派遣労働者の活用における対策について考えて見よう。リストラの
対策の所でも述べたが、派遣労働者に対しても、派遣先の上司のメンタリ
ング機能が重要になる。ともすれば、希薄になりがちな人間関係を補い、
正規従業員との連携をスムーズにするためにも、派遣労働者に対して、指
揮命令件を持つ派遣先の管理者が適切な配慮を行うことは、職場環境を向
上につながる。非自発的な派遣労働者に対する上司の適切な支援は、彼ら
の ス ト レ ス を 軽 減 す る こ と が 指 摘 さ れ て い る ( Jones and Johnson, 1992)。
また、より中長期的な対策としては、派遣労働者の職務保証を向上させ
ることが重要になってくる。特に雇用関係がより不安定な登録型の派遣労
働者については、派遣元企業がスキルアップ・ キ ャ リ ア ア ッ プ に つ な が る
ような職務を提供できるよう企業努力を行うことや、派遣元企業の主導に
より、各個人のエンプロイヤビリティ(雇用可能性)の向上をはかること
が必要であろう。
研 究 者:渡辺直登(慶應義塾大学)
研究協力者:坂爪洋美(慶應義塾大学大学院)
82
E.文献
1 ) Astrachan, J.H. (1995) Organizational departures: The impact of
separation anxiety as studied in a mergers and acquisitions
simulation. Journal of Applied Behavioral Science , 31: 31-50.
2 ) Brockner, J. (1988) "The effects of work layoffs on survivors:
Research, theory, and practice" Staw,B M. and Commings,L L.
Research in organizational behavior. Vol. 10, Greenwich, CT: JAI
Press.
3 ) Brockner, J., J. Davy and C. Carter (1985) Layoffs, self-esteem, and
survivor guilt: Motivational, affective, and attitudinal
consequences. Organizational Behavior and Human Decision
Processes, 36: 229-244.
4 ) Brockner, J., R.L. Dewitt, S.L. Grover and T.F. Reed (1990) When it
is especially important to explain why: Factors affecting the
relationship between managers' explanations of a layoff and
survivors' reactions to a layoff. Journal of Experimental Social
Psychology, 26: 389-407.
5 ) Brockner, J., S.L. Grover, T.F. Read, R.L. Dewitt and M.N. O'Malley
(1987) Survivors' reactions to layoffs: We get by with a little help
for our friends. Administrative Science Quarterly, 32: 526-541.
6 ) Brockner, J., M. Konovsky, R. Cooper-Schneider, R. Folger, C.
Martin and R. Bies (1994) Interactive effects of procedural justice
and outcome negativity and survivors of job loss. Academy of
Management Journal, 37: 397-409.
7 ) Brockner, J. and P.A, Siegel (1996) "Understanding the interaction
between procedural and distributive justice: The role of trust" R.M.
Kramer. and T.R. Tyler. Trust in organization: Frontiers of theory
and research. Thousand Oaks, CA: Sage.
8 ) Brockner, J., B.M. Wiesenfeld and C.L. Martin (1995) Decision
frame, procedural justice, and survivors' reactions to job loss.
Organizational Behavior and Human Decision Processes , 63: 59-68.
9 ) Cascio, W. F. (1993) Downsizing: What do we know? What have we
learned. Academy of Management Executive , 7: 95-104.
10) Beard, K.M. and J.R. Edward.(1995) Employee at risk: Contingent
Work and the Psychological Experience of Contingent Workers. In.
C.L.Cooper and D.M.Rousseau (Eds .) Trends in Organizational
Behavior. vol.2 ,Chichester : John Wiley and Sons, 109-126.
11) Ellingson,J.E., M.L. Gruys and P.R. Sackett.(1998) Factors related
to the satisfaction and performance of temporary employees.
83
Journal of Applied Psychology, 83(6) : 913-921.
12) Jones, J.G. and W.R. Johnson (1992) .Subjective underemployment
and psychological stress: The role of social and supervisor support.
Journal of Social Psychology, 132(1 ) : 11-21.
13) Ket'z de Vries, M. F. R. and K. Balazs. (1997) The Downside of
Downsizing. Human Relations , 50: 11-50.
14) Mishra, A.K. and G.M. Spreitzer (1998) Explaining how survivors
respond to downsizing: The roles of trust, empowerment, justice,
and work. Academy of Management Review, 23: 567-588.
15) Mone, M. (1994) Relationships between self-concepts, aspirations,
emotional responses, and intent to leave a downsizing organization.
Human Resource Management , 33: 281-298.
16) Navran, F. (1994) Surviving a downsizing. Executive Excellence , 11:
12-13.
17) Noer, D.M. (1993) "Healing the wounds: Overcoming the trauma of
layoffs and revitalizing downsizing organizations". San Francisco:
Josseey-Bass.
18) 坂 爪 洋 美 (1999)「 ス ト レ ス 理 論 に 基 づ く 失 業 研 究 の 展 望 − 失 業 が 個 人
の 心 理 的 状 態 に 及 ぼ す 影 響 」 , 日 本 労 働 研 究 雑 誌 , 1999 年 5 月 号
19) 渡 辺 直 登 ・ 水 井 正 明 ・ 野 崎 嗣 政 ( 1990) 人 材 派 遣 会 社 従 業 員 の ス ト レ
ス , 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト , キ ャ リ ア プ ラ ン 経 営 行 動 科 学 5(2) 75―
83.
Ⅱ−4−4.性別、職種および事業場規模別のストレス対
策のポイント(再検討)
平 成 9 、 10年 度 の 女 性 、 管 理 職 、 事 務 職 、 製 造 組 み 立 て 職 、 コ ン ピ ュ ー
タ技術者、運輸従事者、医療職、中小規模事業場のストレス対策のポイン
ト に つ い て 昨 年 度 ま で の レ ビ ュ ー を も と に 再 検 討 を 行 っ た 。再 検 討 に よ り 、
性別、職種別、事業場規模別のストレス対策のポイントを3∼5ポイント
に 要 約 し 、 ス ト レ ス 対 策 計 画 マ ニ ュ ア ル (「 成 果 物 」( 案 ) 参 照 ) に 含 め た 。
84
Ⅱ−5.総合的ストレス対策のモデル事業に関する研究
本研究班全体の研究成果を統合して総合的なストレス対策を計画・実施
す る こ と が 可 能 で あ る か ど う か を 明 ら か に す る た め に 、5 つ の 事 業 場 で「 事
業場におけるストレス対策の枠組み」、「仕事のストレス判定図」、「職
業性ストレス簡易調査票」、「ストレス対策マニュアル」を複合的に組み
合わせて総合的ストレス対策のモデル事業を実施した。以下にそれぞれの
モデル事業について報告する。
Ⅱ − 5 − 1 .S E に お け る ス ト レ ス 対 策 モ デ ル 事 業( モ デ ル
事業1)
A.目的
対象企業であるソフトウェアハウスは事業場が日本全国に分布し、その
ほ と ん ど が 従 業 員 数 50 人 未 満 の 小 規 模 事 業 場 で あ る 。 従 業 員 の 約 80% は
ソ フ ト ウ ェ ア 技 術 者(SE)であり、業務はプロジェクト単位で構成され
る場合が多いため、組織替えが頻繁にある・作業内容が短期間に変わりや
すい・客先での業務が多いなどの特徴がある。クライエント先に常駐して
いるSEも多く、産業保健専門職に従業員が直接相談する機会も少ないた
め、ストレス対策を考える場合に職場や業務毎の実態にあったストレス要
因の評価をすることが大変難しかった。本モデル事業では現状の限られた
産業保健スタッフのマンパワーで、派遣先を含めたすべての職場・業務の
ストレス要因の抽出と評価を行い、従業員および管理監督者のメンタルヘ
ルスに対する意識を向上させると共に、遠隔地の営業所やクライエント先
に常駐しているSEも含めた、従業員全員に対するストレス対策を実施す
ることを目的とした。
B.方法
対 象 企 業 の 従 業 員 数 は 全 社 で 1619 名 ( S E 80% 、 営 業 職 7% 、 事 務 職
11% 、 そ の 他 2% ) で あ る 。 産 業 保 健 専 門 職 は 本 社 内 の 健 康 相 談 室 に 産 業
保 健 婦 ・士 が 1 名 が 常 勤 し て お り 、50 名 以 上 の 従 業 員 が 在 籍 す る 4 事 業 場
(本社含む)にはそれぞれ嘱託産業医が専任されている。健康診断は各事
業 場 の 最 寄 り の 外 部 健 診 機 関 に 委 託 し て い る が 、従 業 員 の 80% 以 上 が 集 中
している本社地区においては本社近隣の健診機関が一括して健康診断を実
施している。
85
あなたのストレス
プロフィール
個別判定
データ読み込み
コンピュータ
ネットワーク
(
OCR)
ストレス対策
マニュアル
集計
判定図作成
プログラム
ストレス判定図
統計処理
SEのストレス
要因抽出
常勤保健婦
嘱託産業医
管理
監督者
問題提示・
対策立案
回収
外部健診施設
教育
(
簡易版ストレス調査票)
断
診
康
健
電子メール
個別相談
自動判定
プログラム
メンタルヘルス調査
従業員
衛生委員会
図 1 S E に お け る 総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の 流 れ (モ デ ル 事 業 1 )
ストレス対策は図1に従い、メンタルヘルス調査を中心とした流れに沿っ
て、個々の従業員・管理監督者・安全衛生管理組織(衛生委員会)を活動
対象として実施された。まず、全従業員を対象に、「職業性ストレス簡易
調査票」に対象企業の業務特性、特にSEの業務に関する質問を追加した
調査表を作成し、全事業場で一斉にメンタルヘルスに関するアンケート調
査をおこなった。調査に際して、記載内容に関する個人のプライバシーを
厳守することを明記した説明書を同封し、また記入後の調査票は個別に封
入して本社健康相談室に直接返送されるように配慮した。回収した調査票
はOCRを用いて自動データ読み込みをおこない、データ入力作業の効率
化を試みた。
個 人 向 け の 対 策 と し て は 、集 計 し た 個 々 の デ ー タ か ら 自 動 判 定 プ ロ グ ラ ム
を 用 い て 個 別 判 定 を お こ な い 、「 あ な た の ス ト レ ス プ ロ フ ィ ー ル 」 を 作 成 し
て 全 回 答 者 に 返 送 し た 。 こ の 際 「 ス ト レ ス 対 策 マ ニ ュ ア ル 」 の 中 の 「 イン ト ラ
ネットによるストレス対策マニュアル」を参考に、遠隔地の小規模事業場に
勤 務 す る 従 業 員 や 、ク ラ イ エ ン ト 先 に 常 駐 し て い る S E が 社 内 産 業 保 健 ス タ
ッ フ に 容 易 に 相 談 す る こ と を 可 能 と す る た め に 、ほ ぼ す べ て の 従 業 員 が 仕 事
上 利 用 し て い る 電 子 メ ー ル を 活 用 し て 本 社 常 勤 保 健 婦・士 に よ る メ ー ル 相 談
窓口を開設し、個人通知の際に利用案内をおこなった。
集 団 向 け の 対 策 と し て は 、 在 籍 者 数 が 20 名 以 上 の 17 職 場 に つ い て 「職 業 性
ス ト レ ス 簡 易 調 査 票」の集計結果から、それぞれの職場の仕事の要求度・ 仕
事のコントロール・同僚の支援・上司の支援を計算し、「判定図作成プログ
86
表1 SEにおけるストレス対策(モデル事業1)における実施事項とその効果
区分
計画・
実施事項
使用した
マニュアル等
職場組織・環境 SEの職場・ 職 業 性 ス ト
におけるストレ 業務形態別の レ ス 簡 易 調
スの評価と対策 具体的ストレ 査票
ス要因の特定
教育・研修の計
管理職教育
画と実施
「職 業 性 ス
トレス簡易
健康診断および 調査票」によ
健康保持増進な るストレスチ
どの機会におけ ェック
るストレス対策
外部健診機関
との連携強化
効果
課題
SEのストレス要因として、残業の ストレス対策の労
多さ・客先での業務・単独作業・顧 働衛生年間計画へ
客対応・不適切な業績評価・研修機 の反映
会の不足・将来不安等が考えられた
管理監督者教
育マニュアル
+仕事のスト
レス判定図
職場のストレス要因について関心を
持つのに役立った (94%)
理解するのに役立った (100%)
減らすのに役立つと思う (77%)
業務の円滑な管理に役立つ (88%)
個人結果通知
(あなたのス
トレスプロフ
ィール)
「自分自身のストレスについて関心
を持つのに役立った」
(82%)
、
「理 具体的なストレ
解するのに役立った」
(76%)
、
「減 ス・マネジメント
らすのに役立った」
(50%)
、
「スト 対策の充実
レス解消に役立つ 」
(52%)
衛生委員会に新任
管理職研修として
リスナー教育の導
入を提案中
システム研究 常勤保健婦・士による実務に促した 本社地区以外の健
グループ成果 健康診断の事後措置が可能になった 診機関との連携
イントラネッ
メンタルヘルス
電子メール相
トによるスト
の相談体制の確
談
窓
口
の
開
設
レス対策マニ
立と運用
ュアル
遠隔地の営業所やクライエン
ト先に常駐しているSE等が ホームページ作成
容易に相談できるようになっ を検討中
た
ラ ム 」 を 用 い て「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」の 作 成 と 「 健 康 リ ス ク 」 の 推 定 を お
こない、得られた結果に対する嘱託産業医のコメントを記入して各職場の
管 理 監 督 者 者 宛 て に 送 付 し た 。こ れ ら の 結 果 と「 ス ト レ ス 対 策 マ ニ ュ ア ル 」
の中の「管理監督者教育マニュアル」を資料として、全社の管理監督者を
対象とした教育を実施した。
S E の ス ト レ ス 要 因 の 評 価 は 、 「職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 」 の 精 神 的 ス
トレス反応、身体的ストレス反応をそれぞれ目的変数とし、対象企業に特
徴的な職務特性について追加した質問事項から得られた業務内容や職場環
境を説明変数としてロジステック回帰分析をおこなった。後日この結果を
衛生委員会の議題として、全社における中長期的ストレス対策について検
討した。
また、従来の健康診断結果通知は外部健診機関が作成した保健指導のみ
で個人に通知されていたが、外部健診機関との連携強化による健康診断事
後 措 置 の 充 実 を 目 的 と し て 、 全 従 業 員 の 80% に あ た る 1300 名 弱 が 同 一 の
外部健診機関で健診を受診している本社地区において、健診機関と本社常
勤保健婦・士の情報交換を円滑にするために、外部健診機関が管理してい
87
る健康診断データベースを本社常勤保健婦・士がネットワーク上で利用で
きるように改善し、従業員の実務内容にあった、具体的な保健指導を健康
診断結果通知の際におこなうことができるように改善した。(表1)
C.結果
従 業 員 全 員 の 1619 名 に メ ン タ ル ヘ ル ス 調 査 票 を 配 布 し 、1365 名( 男 性 1172
名 、 女 性 193 名 ) か ら 有 効 な 回 答 が 得 ら れ た 。 個 人 向 け の 対 策 に 対 す る 評 価
目 的 で 、 個 人 結 果 通 知 で あ る 「あ な た の ス ト レ ス プ ロ フ ィ ー ル 」 を 返 送 す る
際 に 200 名 を 無 作 為 に 選 出 し て お こ な っ た 無 記 名 式 の ア ン ケ ー ト 調 査 ( 回 収
率 46 % ) で は 、 今 回 の メ ン タ ル ヘ ル ス 調 査 お よ び 「 あ な た の ス ト レ ス プ ロ フ
ィ ー ル 」 が 、 ス ト レ ス に 関 心 を 持 つ の に 役 立 っ た ( 82 % )。
健 康 リスク
11
10
全国平均
同僚の支援
9
2−3人
20人以上
8
ほとんど1人
10−19人
7
6
5−9人
5
4
5
全国平均
職場4
職場8
6
7
8
上司の支援
職場1
職場5
職場9
職場2
職場6
職場10
9
190-200
180-190
170-180
160-170
150-160
140-150
130-140
120-130
110-120
100-110
90-100
80-90
70-80
10
職場3
職場7
図 2 S E の 共 同 作 業 者 の 数 別 に み た 上 司 お よ び 同 僚 の 支 援(「 職 場 の 支 援 判
定 図 」、 30歳 代 ・ 男 性 )
88
ス ト レ ス に つ い て 理 解 す る の に 役 立 っ た( 76 % )、ス ト レ ス を 減 ら す の に
役 立 っ た( 50 % )、 ス ト レ ス 解 消 に 役 立 ち そ う( 52 % ) と い う 結 果 で あ っ た 。
ま た 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 を 配 布 し た 17 職 場 の 管 理 監 督 者 に お こ な っ
たアンケートでは、「職場のストレス判定図」が職場のストレス要因に関心
を 持 つ の に 役 立 っ た ( 94 % )、 職 場 の ス ト レ ス を 理 解 す る の に 役 立 っ た
( 100 % )、 職 場 の ス ト レ ス を 減 ら す の に 役 立 つ と 思 う( 77 % )、業 務 を 円 滑
に 管 理 す る た め に 役 立 ち そ う ( 88 % ) と い う 評 価 で あ っ た 。 対 象 と な っ た
企業においては、以前より客先等で一人あるいは小人数で業務をおこなう
SEのストレスが高いという印象があったが、SEの共同作業者の数と上
司や同僚のサポートとの関係を「仕事のストレス判定図」を用いて評価す
ると、共同作業者の数が少ないほど上司・同僚のサポートが少ない傾向が
明 ら か と な り 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」は 職 場 単 位 の 評 価 だ け で は な く 、
業務形態の違いによる職業性ストレスを評価するツールとしても利用する
こ と が 可 能 で あ っ た 。( 図 2 )
SE(男性)の職場組織・環境におけるストレスの評価を目的としてお
こなったロジスティック回帰分析では、残業の多さ・客先での業務・単独
作業・顧客対応・不適切な業績評価・研修機会の不足・将来不安等の要因
がSEの身体的および精神的ストレス反応と関連が深いと考えられた(表
2 )。
表2 SEのストレス要因の解析:多重ロジステイック回帰
精神的ストレス反応
身体的ストレス反応
オッズ比
95%C.I
オッズ比
95%C.I
年齢
0.96
0.93-0.99
0.99
0.96-1.02
月残業20時間以上
1.53*
1.05-2.23
1.58*
1.10-2.26
客先業務20%以上
1.61*
1.12-2.31
1.39
0.99-1.96
単独作業
1.94*
1.13-3.34
1.78*
1.06-3.01
顧客対応
1.75*
1.14-2.70
1.35
0.89-2.03
業績評価の不満
2.51*
1.77-3.54
1.50*
1.08-2.10
研修機会不足
1.57*
1.10-2.24
1.13
0.80-1.60
仕事の将来不安
2.15*
1.44-3.20
2.10*
1.44-3.07
SE経験10年以上
1.02
0.65-1.62
1.36
0.88-2.10
* p<0.05.
89
D.考察
職 場 の 組 織 や 環 境 に お け る ス ト レ ス の 評 価 に つ い て は 、「 職 業 性 ス ト レ
ス簡易調査票」に実際の職場や業務における具体的な項目を質問事項に
追加することによって、今回対象となったソフトウェアハウスに特徴的
なストレス要因を評価することができた。また、多数の事業場を一斉に
調査することによって、事業場間のストレス要因の比較もできたため、
全社としてのストレス対策を考えるうえで効果的であった。個々の従業
員に返送した「あなたのストレスプロフィール」は、自分のストレスへの
意識の向上には有効であるが、ストレスの低減のためには部分的な効果
にとどまる可能性があり、ストレスマネジメントのための具体的な活動
に発展させるためにはこれに続く教育・研修等による介入が必要である
と考えられた。また、電子メールによる健康相談に加えて今後はイント
ラネットを利用したストレスマネジメントに関する情報の提供や教育を
検討中である。
「仕事のストレス判定図」は職場のストレスを視覚的に理解することが
できるため職場や事業場間の比較が容易であり、管理監督者の理解を得
やすかった。ソフトウェア技術者のストレス対策においては、人事労務
管 理 制 度 の 工 夫 、 サ ポ ー ト・ ス キ ル 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ・ ス キ ル な ど
の教育・研修への導入、キャリアカウンセリングを含んだ教育の実施な
どが有効であると考えられているが、今回の調査結果に基づいて衛生委
員会で計画的 ・継続的なストレス対策を検討した際に、新任管理職教育
へのリスナー教育の導入による上司のサポートの向上と、ソフトウェア
技術者の技術研修の充実を優先課題として提案し、労働衛生年間計画に
反映させることを検討中である。
健康診断および健康保持増進などの機会におけるストレス対策として
は、外部健診機関が実施している健康診断結果通知に、社内の業務内容
やストレス要因を把握している事業場内産業保健スタッフによる実態に
あった保健指導を加えることによって、健診の事後措置を充実させるこ
とができたと考えられる。メンタルヘルスの相談体制の確立と運用に関
しても、社外健診機関と連絡を密に取ることによって、健診機関がすで
に確立しているこころの健康づくり専門スタッフとの連携体制を有効に
活用することが可能となった。ただし、本社地区以外では外部健診機関
との連携がまだ不十分であるため今後のどのような方法で連携強化を図
るかが検討課題である。
研 究 者 : 宮 崎 彰 吾 ( NKK 京 浜 保 健 セ ン タ ー )
研 究 協 力 者: 古 谷 徳 子( 日 本 鋼 管 病 院 保 健 セ ン タ ー 統 括 部 )
90
Ⅱ − 5 − 2 .判 定 図 を 用 い た ス ト レ ス 対 策 を 、従 来 の 方 法
( 面 接 に よ る 個 別 対 応 )と 組 み 合 わ せ た モ デ
ル事業(モデル事業2)
A.はじめに
電機製造業の工場(A 工場)に勤務する従業員を対象に、仕事のスト
レス判定図を使用し、ストレス対策を実施したので、計画から実施、結
果までを以下に報告する。
A 工場では、これまで、個人の健康状態に焦点を当てた個別対応、す
なわち、質問紙を用いた精神的健康状態の測定と、精神的不調者に対す
る個別の面接のみが実施されていた。この場合、不調者への対応は可能
であるものの、職場単位でのストレス予防対策の実施は困難であった。
そこで、今回、従来より行われている個別のアプローチに加え、職場
集団を対象とした集団へのアプローチを以下の方法で行うことにより、
ストレス対策を実施した。
B.ストレス対策実施のための計画立案
部 課 別 に ス ト レ ス 要 因 を 把 握 し 、職 場 全 体 と し て の 評 価 を 行 っ た 上 で 、
部課別に対策を討議していくことを目的としたストレス対策を、安全衛
生 計 画 に 組 み 込 み 、 平 成 11 年 度 事 業 計 画 と し て 実 施 し た 。
表1にその概要を示す。
対 象 企 業 :1999 年 6 月 上 旬 に 、 電 機 製 造 業 の 工 場 ( A 工 場 ) の 全 従 業
員 1050 名 を 対 象 に 、 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 ( 12 項 目 版 : 仕 事 の 量
的負担・仕事のコントロール ・上司の支援・同僚の支援、各 3 項目)を
実 施 し た 。 950 名 か ら 回 答 が 得 ら れ 、 回 収 率 は 90.5 % で あ っ た ( 平 均 年
齢 35.6 歳 、S D=11.00 )。 内 訳 は 、 男 性 8 8 9 名・ 女 性 61 名 、製 造 部 門 547
名 ・ 非 製 造 部 門 403 名 、 で あ っ た 。
事業場内産業保健スタッフ:産業医 1 名、心理カウンセラー1 名 、 保
健婦・士 1 名、衛生管理者 2 名。
C.ストレス対策の実施
表 1 に 示 し た ス ト レ ス 対 策 の 実 施 概 要 の う ち 、1) と 2) に つ い て そ の
詳細を以下に報告する。
1 .「 職 場 環 境 の ス ト レ ス 要 因 の 対 策 」 に つ い て
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 実 施 し 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 を 用 い
て部課別に結果を集計した。続いて、①結果を踏まえた産業医による職
91
表1
1
2
ストレス対策の計画・実施概要(モデル事業2)
区分
職場環境
ストレス
因の対策
ストレス
策のため
教育 ・研
の
要
H10 年 度 ま で
特になし
対
の
修
管理職を対象とし
た 不 定 期 の 講 演
(心理カウンセラ
ー に よ る )。
3
健康診断、
健康保持増
進における
対策
質問紙を用いた、
精神的健康状態の
測定。
4
相談体制の
確立と運用
心理カウンセラー
による精神的不調
者を対象とした、
個人面接の実施。
H11 年 度 計 画 ⇒ 実 施
結果
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 職場単位でストレス
調査票、を実施した。 要 因 を 把 握 す る こ と
が可能となった。
「 仕 事 の ス ト レ ス 判 部課別に、ストレス
定 図 」を 用 い て 部 課 別 要 因 の 把 握 、 具 体 的
に 結 果 を 報 告 し 、管 理 な 対 策 の 検 討 が 可 能
職を対象に対策を検 と な っ た 。
討 し た( 産 業 医 、心 理
カウンセラー、保健
婦 ・ 士 に よ る )。
精 神 的 健 康 状 態 に 加 精神的健康状態に加
え ス ト レ ス 要 因 を 測 え、原因であるスト
定 し 、そ の 結 果 を 個 別 レ ス 要 因 の 把 握 が 可
に 全 従 業 員 に 返 送 し 能となった。
た。
精 神 的 不 調 者( 全 従 業 工 場 内 の 診 療 所 に お
員 の 約 5 % )を 対 象 に 、 い て 、 ス ト レ ス ・ 精
個人面接を実施した。 神的健康に関する相
そ の 際 、“ 保 健 婦 ・ 士 談 が 可 能 な こ と の 認
− 心 理 カ ウ ン セ ラ ー 知が容易となった。
− 産 業 医 ”の 連 携 を 重
視した。
場巡視、②産業医・心理カウンセラーによる、調査対象者の一部に対す
る 個 人 面 接 を 経 て 、③ 結 果 に 基 づ く 部 課 別 の 報 告 と 対 策 の 検 討 を 行 っ た 。
このうち、個人面接は従来より行っていたものの、部課別のストレス
要因の把握、調査結果の個人への返送、および次に示す管理職を対象と
した部課別の検討会は、 職業性ストレス簡易調査票の 結 果 に 基 づ き 、 今
回新たに実施された。
2 .「 ス ト レ ス 対 策 の た め の 教 育 ・ 研 修 」 に つ い て
管 理 職 を 対 象 に 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に 基 づ い た ス ト レ ス 調 査 の
結果を報告し、今後の対応について検討した。検討会は、部課別に実施
され、所要時間は 1 時間程度、参加者は各部課の管理職、産業医 ・心理
カウンセラー ・保健婦・士・総務課 (安全担当)であった。
こ こ で は 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に 基 づ い た 結 果 を 報 告 し 、 ス ト レ
ス 要 因 お よ び 今 後 の 対 策 に つ い て 討 議 し た 。調 査 を 実 施 し た 20 部 署 の う
ち、特に健康リスクが高く、職場単位での介入の必要性が示唆された A
部と B 部について、検討会の結果を以下に報告する。
《A 部 ― ク リ ー ン ル ー ム 内 製 造 部 門 ― 》
「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 結 果 : A 部 ( N = 36 ; 平 均 年 齢 35.6 歳 、
SD= 11.20 ) の 結 果 を 図 1 に 示 す 。 上 段 は 仕 事 の 量 的 負 担 と 仕 事 の コ ン ト
92
11
190-200
180-190
170-180
160-170
150-160
140-150
130-140
120-130
110-120
100-110
90-100
80-90
70-80
仕事のコントロール
10
9
8
7
6
5
4
4
5
11
6
7
8
9
仕事の量的負担
10
11
190-200
180-190
170-180
160-170
150-160
140-150
130-140
120-130
110-120
100-110
90-100
80-90
70-80
10
同僚の支援
9
8
7
6
5
4
5
6
7
8
9
10
上司の支援
全国平均
事務職
管理職
現業職
専門技術職
A 部
職場名
人数
36 名
A 部
尺度
平均点 健康リスク(全国平均=100)
量的負荷
8.74 量-コントロール判定図
コントロール
7.26 (A)
102 総 合 健 康 リ ス ク
上司の支援
5.85 職場の支援判定図(A)x(B)/100
同僚の支援
7.65 (B)
126
128
図 1 A 部 に お け る 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 結 果 : モ デ ル 事 業 2( 男 性 、
職業性ストレス簡易調査票)
ロールを、下段は上司の支援と同僚の支援の得点を示す。図中には、A 部
に 加 え 、30 歳 代 男 性 の 職 種 別 お よ び 全 体 の 全 国 平 均 が 示 さ れ て い る 。 図 1
よ り 、 A 部 の 総 合 健 康 リ ス ク は 128 で あ り ( 量 − コ ン ト ロ ー ル =102、 職 場
の 支 援 =126 ) 、 同 僚 ・ 上 司 の 支 援 の 不 足 を 中 心 に 、 仕 事 の 量 的 負 担 が 高 く
裁量権が低いことが、健康阻害の要因となっている可能性が示された。
検討会の結果:A 部は、クリーンルーム内の作業現場であり、交替勤務を
伴う部署である。結果を踏まえた検討会からは、A 部では、得意先の要望
による製品注文の変更が多発し、上司の指示や方針の変更が発生しやすい
こ と 、さ ら に 上 司 か ら 部 下 へ の 情 報 伝 達 が 十 分 で な い 可 能 性 が 指 摘 さ れ た 。
個人面接および職場へのヒヤリングからも、“上司の方針により業務
93
11
仕事のコントロール
10
9
8
7
6
5
4
4
5
6
7
8
9
仕事の量的負担
10
11
11
10
同僚の支援
9
8
7
6
5
4
5
6
7
8
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10
190-200
180-190
170-180
160-170
150-160
140-150
130-140
120-130
110-120
100-110
90-100
80-90
70-80
190-200
180-190
170-180
160-170
150-160
140-150
130-140
120-130
110-120
100-110
90-100
80-90
70-80
上司の支援
全国平均
事務職
管理職
現業職
専門技術職
B 部
職場名
人数
31 名
B 部
尺度
平均点 健 康 リ ス ク ( 全 国 平 均 = 1 0 0 )
量的負荷
9.42 量-コントロール判定図
コントロール
7.48 (A)
106 総 合 健 康 リ ス ク
(A)x(B)/100
上司の支援
6.55 職 場 の 支 援 判 定 図
同僚の支援
7.32 (B)
121
128
図2
B 部 に お け る 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 結 果 : モ デ ル 事 業 2( 男 性 、
職業性ストレス簡易調査票)
内 容 が 変 更 す る の は い い が 、変 則 勤 務 の た め に 連 絡 が 不 徹 底 な こ と が 多 く 、
情 報 が 伝 わ っ て こ な い ( 40 歳 ・ 男 性 )” と い う 口 述 が 得 ら れ て お り 、 上 司 の
支 援 が 不 足 し て い る と い う 調 査 結 果 と 一 致 し て い た 。今 後 は 、作 業 開 始 時 の
引 継 ぎ の 説 明 時 間 を 長 く し 、よ り 詳 細 に 行 う こ と に よ り 、上 司 と 部 下 と の コ
ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 、情 報 伝 達 を 円 滑 に し て い く こ と が 改 善 課 題 と し て 取 り 上
げられた。
考 察 :「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に よ り 、 職 場 単 位 で ス ト レ ス 要 因 改 善
策の検討が可能となった。また、個人面接との併用により、判定図結果の妥
当 性 を 検 討 す る こ と 、職 場 で の 具 体 的 な ス ト レ ス 要 因 を 拾 い 上 げ る こ と が 可
能となり、職場での改善課題の検討が容易になったと考えられた。
94
《B 部 ― 製 品 開 発 部 門 ― 》
「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」結 果:B 部( N=31;平 均 年 齢 36.2 歳 、S D =9.01)
の 結 果 を 図 2 に 示 す 。B 部 の 総 合 健 康 リ ス ク は 128 で あ り( 量 − コ ン ト ロ ー
ル =106、 職 場 の 支 援 =121)、 仕 事 の 量 的 負 担 の 高 さ ・ 裁 量 権 の 低 さ を 中 心 に 、
同 僚・ 上 司 の 支 援 の 不 足 が 健 康 阻 害 の 要 因 と な っ て い る 可 能 性 が 示 さ れ た 。
検 討 会 の 結 果:B 部 は 、 製 品 開 発 を 行 う 部 署 で あ る 。 結 果 を 踏 ま え た 検 討
会 で は 、新 製 品 の 開 発 な ど に 伴 い 、知 識 や 技 術 を 短 期 間 で 習 得 す る 必 要 性 が
近 年 増 加 し て い る こ と か ら 、仕 事 の 量 的 負 担 が 過 度 で あ る 可 能 性 が 指 摘 さ れ
た 。 個 人 面 接 か ら も 、“ こ こ 数 年 、 異 動 で 人 が 減 っ て か ら 仕 事 量 が 増 え 始 め
た ( 30 歳 ・ 男 性 )”“ 多 忙 時 は 特 に 仕 事 に 追 わ れ 、 仕 事 の こ と を 考 え て 夜 中
目 が さ め る こ と も あ る( 30 歳 ・ 男 性 a、33 歳 ・ 男 性 )” と い う 口 述 が 得 ら れ
ており、仕事の量的負担の高さが、精神的な不調の原因、健康リスク要因と
なり得ていることが示唆された。
さ ら に 、“ 職 場 内 で は 作 業 の 特 性 上 、助 け を 求 め た く て も 相 談 し に く い( 30
歳 ・ 男 性 b)” と い う 口 述 も 報 告 さ れ て お り 、 B 部 で は 、 グ ル ー プ で は な く
各 人 が 個 別 の 仕 事 を 担 当 し て い る こ と か ら 、周 囲 へ の 相 談 の 機 会 が 少 な く 、
仕 事 を 抱 え 込 み 、 量 的 負 担 が 増 加 し て い る 可 能 性 も 示 唆 さ れ た 。今後は、ト
ラ ブ ル 時 の 対 応 を 担 当 者 一 人 に 任 せ な い こ と 、日 常 か ら 担 当 者 間 の 情 報 の 共
有 を 行 う こ と を 徹 底 さ せ 、各 人 の 量 的 負 担 を 低 減 さ せ て い く こ と が 改 善 課 題
となった。
考 察:当 該 部 署 の ス ト レ ス 要 因 を 具 体 的 な 数 値 で 把 握 す る こ と に よ り 、
職 場 内 で の ス ト レ ス 対 策 実 施 の 必 要 性 を 強 く 認 識 し 、各 人 の 負 担 を 低 減 さ せ
る た め の 具 体 的 な 対 策 の 検 討 が 可 能 に な っ た と 考 え ら れ た 。一 方 で 、対 策 に
よる効果を確実とするためには、今後、継続して対策を実施すること、効果
評価を行い必要に応じて対策を再検討することが必要と考えられた。
D.ストレス対策実施の効用とコスト
効 用 :「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に 基 づ い た 結 果 の 報 告 お よ び 検 討 会 に
よ り 、 職 場 集 団 を 対 象 と し た ス ト レ ス 対 策 の 実 施 、 す な わ ち 、 部 課 別 の“ 職
場 ス ト レ ス 要 因 ” の 定 量 的 把 握 お よ び 、ス ト レ ス 要 因 改 善 の た め の ア プ ロ ー
チが可能となった。
また、個人面接との併用による効用として次の3点が考えられた。①精神
的 不 調 者 へ の 対 応 が 行 え る こ と 。② 個 人 面 接 の 内 容 を 判 定 図 結 果 と 照 合 す る
ことで、判定図結果の妥当性を検討できること。すなわち、不調者から得ら
れ た 面 接 結 果 を 考 慮 す る こ と で 、判 定 図 で 示 さ れ た ス ト レ ス 要 因 が 、実 際 に
従 業 員 の 不 調 の 要 因 と な っ て い る 程 度 に つ い て 検 討 で き る こ と 。③ 個 人 面 接
の 内 容 を 反 映 さ せ る こ と で 、部 課 別 の ス ト レ ス 対 策 に お け る 改 善 課 題 の 検 討
が 容 易 と な る こ と 。 す な わ ち 、“ 仕 事 の 量 的 負 担 ” と“ 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル ”
の具体的内容について、個人面接結果から精査できること。なお、いずれの
場合も、個人が特定されないよう、守秘の徹底が必要である。
95
コストおよび実施上の注意:一方で、質問紙の印刷、データ入力、結果の
処 理 、 結 果 の 個 人 へ の 発 送 な ど に か か る 、 費 用 ・ 人 数・ 時 間 な ど の コ ス ト 面
で の 負 担 が 伴 う と 共 に 、 実 施 に 際 し て は 、 管 理 職・従業員の理解や、プライ
バシーの保護に関する徹底などを、事前に行うことが必要となる。
研 究 者:田中美由紀(早稲田大学文学研究科)
研究協力者:小田原 努(日立健康管理センタ)
河島美枝子(大分県立看護科学大学)
Ⅱ − 5 − 3 .職 場 環 境 お よ び 個 人 向 け の 複 合 的 ス ト レ ス 対
策のモデル事業(モデル事業3)
A.はじめに
本研究班では、これまでの研究成果から、事業場におけるストレス対策
の 計 画 の 指 針 と な る「事業場におけるストレス対策の枠組み」、職場集団
の 職 業 性 ス ト レ ス と そ の 影 響 を 評 価 す る た め の「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」、
個人向けのストレスの総合的評価と気づきの支援を行うための「職業性ス
トレス簡易調査票」、さまざまなストレス対策の方法論を記載した「スト
レス対策マニュアル」が提案されている。本研究では、これらの研究成果
を複合的に組み合わせて、実際の事業場で総合的なストレス対策が実施可
能かどうかについて比較的大規模の事業場を対象にモデル事業を実施した。
B.対象と方法
1.対象企業の概要
電 機 製 品 メ ー カ ー の G 県 の 拠 点 事 業 場( 従 業 員 約 2000 名 )を モ デ ル 事 業
の対象とした。この事業場では、事業場内の産業保健センターに常勤産業
医1名、看護婦・士1名(別途健保診療所に3名)のスタッフがいる。ま
た衛生管理者は各職場に1名づつ課長相当職が配置されている。この事業
場は、職業性ストレスと健康コホート研究の調査対象サイトの1つ(サイ
ト 8 ) で あ り 、 1997 年 に J C Q お よ び NIOSH 職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 を 含
む職業性ストレスに関する詳細な調査を実施している。
2.ストレス対策の企画立案
ストレス対策の実施については、安全衛生委員会で産業医から提案し平
成 11 年 度 事 業 計 画 と し て 実 施 す る こ と と な っ た 。ス ト レ ス 対 策 の 主 な 目 標
は以下のようである。
1) 職 場 ご と の ス ト レ ス 要 因 を 定 期 的 に 把 握 し 、 対 策 活 動 に つ な げ る 。ま た
1998 年 4 月 に 実 施 さ れ た 交 代 勤 務 の 改 善 の ス ト レ ス 軽 減 効 果 を 評 価 す る 。
96
2)2 年 前 に は ス ト レ ス に 関 す る 教 育 啓 発 の た め の セ ミ ナ ー を 実 施 し た 。今
回 は 個 人 向 け の ス ト レ ス 対 処 技 術 ( リ ラ ク セ ー シ ョ ン 法 ) の 講 習 会 に 200
名(従業員の1割)以上の受講を目指す。
3) メ ン タ ル ヘ ル ス 相 談 体 制 の 見 直 し の た め の 基 礎 調 査 を 実 施 す る 。
3.計画の概要
1999 年 7 月 に 従 業 員 2312 名 に 対 し て 自 己 記 入 式 の 調 査 票 ( ス ト レ ス チ
ェ ッ ク 調 査 票 ) を 郵 送 し 、 ス ト レ ス チ ェ ッ ク へ の 参 加 を 呼 び か け た 。 1633
名 が 調 査 票 に 回 答 し 返 送 し て き た( 回 答 率 71% ) 。 ス ト レ ス チ ェ ッ ク に 使
用した調査票は独自のものであり、職業性ストレス要因としてJCQの仕
事の要求度、仕事のコントロール、上司および同僚の支援、精神健康の指
標 と し て CES-D 自 己 記 入 式 抑 う つ 尺 度 を 調 査 し た 。こ の ス ト レ ス チ ェ ッ ク
調 査 票 の 回 答 か ら 、 職 種 、 職 場 別 の ス ト レ ス 要 因 の 状 況 を「仕事のストレ
ス 判 定 図 」 を 使 っ て 評 価 し た 。 ま た 、 1997 年 4 ∼ 5 月 の 職 業 性 ス ト レ ス と
健康コホート研究ベースライン調査時のデータと今回調査のデータを個人
ID を 使 っ て リ ン ク し 、 1998 年 4 月 に 実 施 さ れ た 交 代 勤 務 の 改 善 の 対 象 者
に つ い て 1997 年 と 今 回 の 職 業 性 ス ト レ ス の 状 況 を 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定
図 」を 使 っ て 比 較 し た 。ス ト レ ス チ ェ ッ ク 調 査 票 か ら は 個 人 結 果 を 作 成 し 、
これを回答者に返却した。また、この個人結果説明会とリラクセーション
法講習会を同時に開催した。
C.結果
主要な実施事項、使用したマニュアル、結果および今後の課題を表1に
まとめた。
1.職場組織・環境におけるストレスの評価と対策
1)職場ごとのストレス要因の評価
JCQ の 4 尺 度 の 平 均 値 を 求 め 、 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 ( JCQ 版 ) を 使
用して性、年齢、勤務形態、職種、職場別にストレス要因を評価した。職
種 別 で は 、 生 産 技 術 職 で 上 司 の 支 援 が 低 い こ と が 判 明 し た(図1)。また
中高年女性、製造ラインの女性従業員の仕事のコントロール感が低いこと
などが明らかとなった。この結果を産業医および人事・総務担当者に報告
した。原因と対策を検討する予定である。
2)交代勤務の改善の効果評価
4 班 3 交 替 の 交 代 勤 務 で は 1997 年 の 調 査 で 仕 事 の 量 的 負 担 が 大 き く 、仕
事 の コ ン ト ロ ー ル が 低 い こ と が 判 明 し て い た( 平 成 10 年 度 報 告 書 参 照 )。
その後人事・労務側で勤務形態の変更が検討され、労働組合との合意の上
で 1998 年 4 月 に か ら 4 班 2 交 替 に 勤 務 形 態 が 変 更 さ れ た 。従 来 の 勤 務 形 態
が 8 時 間 3 交 代 で あ っ た の に 対 し て 新 し い 勤 務 形 態 で は 12 時 間 2 交 代 と 1
回の勤務での連続勤務時間が長くなった。しかし一方で仮眠時間が設けら
れ た こ と に よ り 実 質 の 1 回 勤 務 時 間 は 10 時 間 程 度 に と ど ま っ て い る 。ま た
97
表1 総合的ストレス対策のモデル事業3の実施事項、方法、結果および残された課題の一覧
区分
計画・実施事項
方法、マニュアル等
職場組織・ 職場ごとのストレ 「仕事のストレス判
環境におけ ス要因の評価
定図」
(JCQ 版)を使
るストレス
用して性、年齢、勤務
の評価と対
形態、職場別にストレ
策
ス要因を評価した。
教育・研修
の計画と実
施
健康診断お
よび健康保
持増進など
の機会にお
けるストレ
ス対策
メンタルヘ
ルスの相談
体制の確立
と運用
結果
課題
生産技術職で上司の支 産 業 医 お よ
援が低い(図1)
、中高 び人事・総務
年女性、製造ラインの女 担 当 者 に 報
性従業員の仕事のコン 告。原因と対
トロール感が低い、等。 策 を 検 討 予
定。
交代勤務の改善対 対策前(1997 年)と 対策後には量的負荷が
策(4班3交替から 対策後(今回)を「仕 減少し仕事のコントロ
4班2交替へ)の効 事のストレス判定図」 ールが改善、疾病休業が
果評価
によって比較した。 0.4 日減少していた(図
2)
。
リラクセーション リラクセーション法 目標の 200 名を越える リ ラ ク セ ー
法の講習会(10/27) マニュアル
約 250 名が出席。9割近 シ ョ ン 法 の
を開催(外部講師、
くが「リラックスでき 継 続 的 指 導
希望者のみ出席)
た」8割が「実生活でも を ど う 実 施
使ってみる」と。
するか。
独自のストレス調 ストレス調査票の結 ・全従業員の約7割
ストレスチ
査票によるストレ 果から個人結果を返 (1633 名)が参加。
ェックに引
スチェック(健康診 送。
・一部に感想を求めた。 き続き、従業
断時に実施)
23 名中 22 名が「ストレ 員 の 意 識 を
スに対して関心を持つ 高 め る た め
のに役だった」と回答 の 企 画 が 必
(表2)
。
要。
産業医、看護婦・士 従業員にアンケート 社外の窓口設置を希望 社 内 お よ び
への相談以外に相 実施。
する者が約半数。一方で 社外 の 相 談
談窓口を設置すべ
社内産業保健センター 経路 の 双 方
きかどうかについ
の知名度が3割程度と の 充 実 を 考
ての基礎調査。
低いことも判明。
える。
交 代 勤 務 の ス ケ ジ ュ ー ル が よ り シ ン プ ル に な り 理 解 し や す く な っ た 、次 の 交
代 班 と の 引 継 ぎ に 時 間 が と れ る よ う に な っ た な ど の 改 善 が も た ら さ れ た 。対
策 前 ( 1997 年 ) と 対 策 後 ( 今 回 ) を 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に よ っ て 比
較 し た と こ ろ ( 図 2 )、 対 策 後 に は 量 的 負 荷 が 減 少 し 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル が
改 善 、ま た わ ず か で は あ る が 上 司 お よ び 同 僚 の 支 援 が 増 加 し て い た 。抑 う つ
得 点 に は ほ と ん ど 差 は な か っ た が 、過 去 1 年 間 の 疾 病 休 業 平 均 日 数 は 0.4 日
減少していた。
98
管理職、専門職、技術職で
は、全国平均とくらべて仕
事のストレスによる健康リ
スクが低い傾向にありま
す。裁量権や自由度が全
国平均にくらべて十分与え
られているためと思われ
る。
78
74
仕事のコントロール
70
66
62
58
機械操作従事者では、量的
負担の割に裁量権や自由度
が少ないため、男性現業職
の全国平均にくらべて5%程
度健康リスクが高い。
54
50
26
28
14
生産技術職では、上司から
の支援が少なく、健康リスク
が増加している。
13
30
32
34
36
38
40
仕事の量的負担
同僚の支援
12
11
10
9
8
8
9
10
11
12
上司の支援
13
管理職
専門職
技術職
事務職
生産技術
機械操作
肉体作業
その他
14
図1 モデル 事 業3の対象となった事業場における男性従業員の「仕
事のストレス判定図」
(JCQ版を使 用)
99
78
1997年にくらべて1999年
には量的な負担感と仕事
のコントール(裁量権や自
由度)が改善し、仕事のス
トレスによる健康リスクは
合計21%改善。
74
仕事のコントロール
70
66
62
58
54
50
26
28
14
30
32
34
36
仕事の量的負担
38
40
13
同僚の支援
12
11
10
9
8
8
9
10
11
12
上司の支援
4班交代'97
13
14
4班交代'99
参考値
◇全国平均 □管理職 ○専門職 ◇事務職 △現業職
図2 「仕事のストレス判 定 図」による交代 勤 務(356 名)の改善効果の評価:1998
年 4 月 に 4 班3交代から 4 班 2 交 代 勤 務 に 変 更 し た 結 果、1997 年にくらべて
1999 年 に は 量 的 負 担、コントロール、上司・同僚の支援が改善していた。過去1
年 間 の 疾 病 休 業 平 均 日 数 も 1997 年 の 2.42 日から 1999 年 の 2.12 日 に 平 均
0.3 日(約 15%)減少した。
100
2.従業員向けの教育・研修
1999 年 10 月 27 日 に 個 人 向 け の ス ト レ ス チ ェ ッ ク 結 果 通 知 の 説 明 会 と リ
ラクセーション法の講習会を同時に開催した。 リラクセーション講習会は
リ ラ ク セ ー シ ョ ン 法 マ ニ ュ ア ル を 使 用 し 、近 傍 の 総 合 病 院 心 療 内 科 に 勤 務 す
る 臨 床 心 理 士 1 名 を 講 師 と し て 実 施 し た 。 説 明 会・ 講 習 会 は 希 望 者 の み と い
う こ と で 参 加 を 募 っ た が 、 目 標 の 200 名 を 越 え る 約 250 名 が 出 席 し た ( 図
3 )。 リ ラ ク セ ー シ ョ ン 法 講 習 会 の 後 の 質 問 で は 、 9 割 近 く が 「 リ ラ ッ ク ス
で き た 」 8 割 が「 実 生 活 で も 使 っ て み る 」 と 回 答 し た 。 今 後 の 課 題 と し て は 、
リラクセーション法の継続的指導をどう実施するかが残された。
図3 モデル事業の事業場におけるリラクセーション法 講 習 会
(1999 年 10 月)
表2 独自のストレス調査票による個人別ストレスチェック結果についての感想:
感想はがきを返送してきた者 23 名 の 回 答 の 分 析 *
項 目†
ストレスに関心を持つのに役だったか?
自 分 の ストレスを理 解 す る の に 役 だ っ た
か?
ストレスを減らすのに役だつと思うか?
ストレス解消に役立ちそうか?
肯 定 回 答 者 数(%)
22 (96%)
21(91%)
18 (78%)
18 (78%)
* 感想はがきを送付した 100 名 中 23 名(23%)が回答した。
†「はい」
「いいえ」で回答を求めて「はい」の者の人数(割合)を示した。
101
3.健康診断および健康保持増進などの機会におけるストレス対策
すでに述べたように独自のストレスチェック調査票を郵送して回答して
も ら い 、 調 査 票 の 結 果 か ら 個 人 結 果 を 作 成 し て 返 送 し た 。100 名 に 対 し て 感
想 記 入 用 の 葉 書 を 同 封 し 感 想 を 求 め た 。 回 答 の 寄 せ ら れ た 23 名 中 22 名 が
「 ス ト レ ス に 対 し て 関 心 を 持 つ の に 役 だ っ た 」と 回 答 し て い た な ど 、ス ト レ
ス チ ェ ッ ク の 個 人 結 果 の 返 却 が 比 較 的 好 評 で あ っ た こ と が わ か っ た( 表 2 )。
今 後 は ワ ン シ ョ ッ ト の ス ト レ ス チ ェ ッ ク に 引 き 続 き 、従 業 員 の 意 識 を 高 め る
ための継続的な企画が必要であると考えられた。
4.メンタルヘルスの相談体制の確立と運用
ス ト レ ス チ ェ ッ ク 調 査 法 と 同 時 に 、 産 業 医 、 看 護 婦・ 士 へ の 相 談 以 外 に 相
談窓口を設置すべきかどうかについてのアンケートを同封し記入してもら
っ た 。社 外 の 窓 口 設 置 を 希 望 す る 者 が 約 半 数 あ っ た 。ま た 一 方 社 内 産 業 保 健
セ ン タ ー( 産 業 医 、 看 護 婦 ・ 士 が 常 勤 ) の 知 名 度 が 3 割 程 度 と 低 い こ と も 判
明 し た 。社 内 お よ び 社 外 の 相 談 経 路 の 双 方 の 充 実 を 今 後 検 討 す る こ と と な っ
た。
5.ストレス対策の費用
以上のストレス対策を実施するにあたって、ストレスチェック用紙印刷
費・ 封 筒 な ど が 40-50 万 円 、 リ ラ ク セ ー シ ョ ン 法 講 師 謝 礼 5 万 円 、デ ー タ 入
力 10 万 円 、 賃 金 10 万 円 ( 個 人 結 果 出 力 、 封 筒 詰 め )、 合 計 65-75 万 円 前 後
が 必 要 で あ っ た 。 こ れ は 従 業 員 1 名 あ た り 約 300 円 、 ス ト レ ス チ ェ ッ ク 回
答 者 1 名 あ た り に し て 500 円 弱 の コ ス ト で あ っ た 。
D.考察と結論
このモデル事業では、従業員に対するストレスチェック調査を中心とし
て、職場ごとのストレス診断およびストレス対策の効果評価、従業員向け
の教育・啓発、ストレスへの気づきの支援などのストレス対策を総合的に
実施することができた。また、同時に実施したアンケートによりメンタル
へルスの相談先について社内外の窓口の設置および広報について方針を得
ることができた。このモデル事業から、これまでに本研究班で開発された
「 事 業 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 枠 組 み 」 、「仕事のストレス判定図」、
「ストレス対策マニュアル」を用いて総合的なストレス対策を実施するこ
と が 可 能 で あ る こ と が 示 さ れ た 。「 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 」 に つ い て
今 回 は 1997 年 調 査 と の 比 較 と い う 目 的 あ っ た た め 独 自 の ス ト レ ス チ ェ ッ
ク調査票を用いたが、こうした個人向けストレスチェックの有用性は少な
くもと支持されたと考える。
職種や職場ごと の仕事のストレス判定図 の 特 徴 は 、 産 業 医 お よ び 人 事・
労務担当者に対する説明会ではある程度妥当なものと考えられた。また人
事・労務担当者への教育および職場環境への配慮の意識づくりに十分な効
果があったと考えられた。しかし実際の対策に結びつけるためには、問題
102
の指摘された職種や職場について職場巡視や職場上司からのヒアリングな
ど に よ っ て よ り 具 体 的 な 問 題 を 抽 出 す る 必 要 が あ る 。 今 後 産 業 医 と 人 事・
労務担当者で相談することになった。
交代勤務の改善がストレス軽減効果を数値的に示すことができたことは、
こ れ を 企 画 し た 人 事・労務担当者および産業医から高い評価を受けた。実
際 に こ の ラ イ ン を 職 場 巡 視 し た と こ ろ 、小 ロ ッ ト で の 個 別 生 産 が 多 い こ と 、
複雑な作業手順をともなう作業であることなどから、手順の明確化や上司
へ報告や連絡などが十分にできない場合にはストレスの原因になる可能性
が あ る と 推 測 さ れ た 。12 時 間 2 交 代 勤 務 は 睡 眠 な ど の 点 で は 生 体 に 不 利 な
可能性もあるが、1交代の勤務時間が長くなったことで、より容易に作業
班 内 あ る い は 次 の 交 代 班 の メ ン バ ー と の 報 告・連絡・ 相 談 が で き る よ う に
なったことが量的な負担感を減らし、仕事上のコントロールを増加し、ま
た上司や同僚の支援を改善したと推測される。また勤務途中での仮眠時間
の確保、3交代に比べて次の番までの休日日数が約1日多いなどの配慮が
2交代勤務自体による不利な影響を軽減していると推測される。
従業員向けのリラクセーション講習は参加者に大変に好評であった。これ
は事前のストレスチェックにより個々人のストレスの程度について意識づ
くりができていたためと考えられる。単発の講習ではなく、個人向けのス
トレスチェックと連動してこうしたストレス対策用の講習会を開催するこ
とが効果的であると考える。また今回はリラクセーション法マニュアルを
参考にしながらも、リラクセーション法の専門家(臨床心理士)を講師に
依頼し実施したことも効果的であった理由の1つと考える。この講師は、
マニュアルにある説明のほか、リラクセーション法のVTRを使用した導
入説明を行ったことが効果的であった。リラクセーション法の講習を効果
的に実施するために、外部講師の確保、VTRなどのツール類の整備、講
習会のポイントについての解説などがリラクセーション法の普及に重要と
思われた。
ストレスチェックの個人結果の返却も、返送されてきた葉書の回答から
は見るかぎりは好評であった。少なくともストレスに対する関心や気づき
を促す効果はあったのではないかと考えられる。ただし、未回答の者の意
見が反映されていないこと、「役立つ」と回答した者が実際にストレス軽
減のためにこの結果を役立てることができたかどうかについては評価をし
ていないことなどから、セルフチェックの個人結果返却の効果はより厳密
に評価される必要があると思われる。
メンタルヘルスの相談体制については、今回のモデル事業では従業員のニ
ーズの把握にとどまった。ストレスチェックの個人結果には「問題があれ
ば産業保健センターに相談するように」と記載したが、ストレスチェック
による相談があったという報告は産業医からは現在までまだない。事業場
内の産業保健センターがストレスやメンタルへルスに関する相談に対応し
103
ていること、また秘密を守って相談ができることなどが十分に広報されて
いないためである可能性がある。また半数の従業員が事業場外の相談窓口
を希望していた点については、事業場内産業保健スタッフの役割の広報と
同 時 に 、 社 外 で の 相 談 窓 口( 電 話 相 談 や EAP な ど ) に つ い て も 検 討 す る 必
要があることを示唆している。
今 回 の 総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の 費 用 は 従 業 員 1 名 あ た り 300 円 前 後 と か な
り 安 価 に 実 施 で き て お り 、あ る 程 度 以 上 の 規 模 の 事 業 場 で は 十 分 に ま か な え
る金額であると考える。
研 究 者:川上憲人(岐阜大学医学部公衆衛生学教室)
研究協力者:赤地和範(三洋電機岐阜産業保健センター)
Ⅱ−5−4.中規模事業場におけるストレスへの意識づく
りのモデル事業(モデル事業4)
A.はじめに
中 小 規 模 事 業 場 で も メ ン タ ル へ ル ス・ス ト レ ス 対 策 に 関 心 は 高 い も の の 、
実際に対策を実施している事業場の割合は少ない。わが国の事業場のスト
レス対策を普及するためには、中小規模事業場でも実施可能なストレス対
策の方法を提案する必要がある。このモデル事業では、流通・販売系の中
規模企業において総合的なストレス対策が実施できるどうかを確認するた
め に 、本 研 究 班 で 開 発 し た「 事 業 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 枠 組 み 」、「 仕
事のストレス判定図」、「職業性ストレス簡易調査票」および「ストレス
対策マニュアル」を用いて検討した。
B.対象と方法
1.対象企業の概要
販 売 ・ 流 通 業 の 従 業 員 700 名 の 企 業 を 対 象 と し た 。 こ の 企 業 で は 、 G 県
内 に 本 部 、 店 舗 、 配 送 セ ン タ ー な ど 10-50 名 ず つ 従 業 員 が 分 散 し た 中 小 規
模事業場が点在している。産業保健スタッフは非常勤嘱託産業医2名であ
り、月1回の安全衛生委員会に出席するとともに、職場巡視、必要に応じ
て教育研修活動を行っている。保健婦・士、看護婦・士はいない。衛生管
理者は1名のみである。
2.ストレス対策の立案と実施
産 業 医 か ら 提 案 し 、安 全 衛 生 委 員 会 で 承 認 さ れ 、平 成 11 年 度 事 業 計 画 と
して実施した。この企業ではこれまでにストレス・メンタルへルスに関す
104
表1 総合的ストレス対策(モデル事業4)の実施事項とその効果および課題
区分
職 場 組
織・環境
における
ストレス
の評価と
対策
教育・研
修の計画
と実施
健康診断
および健
康保持増
進などの
機会にお
けるスト
レス対策
メンタル
ヘルスの
相談体制
の確立と
運用
計画・実施事
項
職場ごとのス
トレス要因の
評価(職業性
ストレス簡易
調査票の個人
デ ー タ を 集
計)
使用したマニュアル
等
職業性ストレス簡易
調査票+仕事のスト
レス判定図
リラクセーシ
ョン法の講習
会を開催(外
部講師、希望
者のみ出席)
職業性ストレ
ス簡易調査票
によるストレ
スチェックを
実施(希望者
のみ)
リラクセーション法
マニュアル
ストレスチェ
ックへの回答
者には、産業
医に電子メー
ルまたは電話
で相談できる
ようにした。
イントラネットによ
るストレス対策マニ
ュアル
職業性ストレス簡易
調査票による個人結
果(ストレスプロフ
ィール)
効果
課題
店舗において量的負
荷が大きく仕事のコ
ントロールが低かっ
た。また配送センタ
ーや店舗でパート女
性が上司の支援を低
いと感じていること
が わ か っ た ( 図 )。
25 名 が 講 習 会
(10/26)に 出 席 。大 変
に好評であった(表
1 )。
対策につい
ては次年度
以降検討す
る。
分散事業場
の労働者に
どう講習会
を企画する
かが課題。
・全従業員の約3割 参 加 率 が 低
( 212 名 ) が 参 加 。
か っ た こ と
・一部に感想を求め か ら ス ト レ
た 。 2 2 名 中 19 名 が ス へ の 関 心
「ストレスに対して の 低 さ や 障
関心を持つのに役だ 壁 の 高 さ が
っ た 」と 回 答( 表 2 )。 う か が え る 。
・電子メールによる 産業医がメ
相談が1件(自分の ン タ ル ヘ ル
ストレス状況の説明 スの相談を
とアドバイスを求め 受けている
ことをもっ
て き た )。
・ 電 話 相 談 が 1 件 と広報すべ
(パニック障害で治 き。
療 中 の 者 )。
る対策は何も実施したことがなかったため、目的としては将来のストレス
対策実施の第1段階として従業員のストレスに対する意識づくりを高める
ことを主眼とすることとなった。
実 施 事 項 と そ の 方 法 の 一 覧 を 表 1 に 示 し た 。 ま ず 1999 年 7 月 に 職 業 性 ス
トレス簡易調査票を用いた個人向けストレスチェックを実施した。このス
トレスチェックでは参加は個人の自由とし、守秘を保証するために回答し
た 調 査 票 は 直 接 産 業 医 に 郵 送 す る こ と と し た 。全 従 業 員 の 約 3 割( 212 名 )
から回答を得た。ストレスチェックへの回答者にはストレス測定グループ
が 開 発 し た ソ フ ト ウ ェ ア を 用 い て 個 人 結 果 を 作 成 し 返 送 し た( 同 年 9 月 )。
このデータから、男女、職場別 の仕事のストレスの特徴を「仕事のストレ
ス判定図」を用いて評価した。また、ストレスチェックの結果通知後、結
105
果 の 説 明 会 と リ ラ ク セ ー シ ョ ン 法 講 習 会 を 開 催 し た( 同 年 10 月)。リラク
セーション法の講師は、近くの総合病院の心療内科に勤務する臨床心理士
に依頼して行った。また、ストレスチェックの個人結果には、産業医の連
絡先(電子メールおよび電話番号)を掲載し、相談したいことがあれば自
由に連絡するように記載した。
なお、ストレスチェックの個人結果には2種類のものを作成し、対象者
をランダムに2群に分けてそれぞれ一方の形式のものを送付した。1種類
は産業医のコメント欄に一律に「次のページからの結果を読んで、あなた
のストレス改善に役立ててください」と記した。もう1種類はストレスチ
ェックの仕事のストレス要因、ストレス反応、緩衝要因のそれぞれについ
て「 要 指 導 」 の 得 点 で あ っ た 場 合 に は そ れ ぞれについて 「注意してくださ
い」など個人ごとのコメントを作成して記した。ストレスチェックの個人
結 果 に は 合 計 100 名 を 無 作 為 に 選 ん で ス ト レ ス チ ェ ッ ク の 結 果 に 対 す る 感
想葉書を同封し提出を求めた。
C.結果
各実施事項ごとに結果および課題について表1に整理した。
1.職場環境におけるストレスの評価と対策
職業性ストレス簡易調査票の回答者の個人データを集計して、仕事のス
トレス判定図にあてはめ、男女、職種別の仕事のストレスの特徴を検討し
た。男性では店舗において量的負荷が大きく仕事のコントロールが低く健
康 リ ス ク が 約 130 と 大 き い と 推 定 さ れ た ( 図 1 ) 。 ま た い ず れ の 職 場 で も
上司および同僚の支援が低かった。また女性でも店舗および配送センター
で量的負荷が大きく仕事のコントロールが低かった。また店舗の女性は特
に上司の支援を低いと感じていることがわかった(図2)。この結果は中
央安全衛生委員会で報告されたが、人事労務担当者などの印象とよく一致
し て い た 。特 に 店 舗 で は 最 近 の 過 当 競 争 の た め に 業 務 が 多 忙 に な っ て お り 、
そのため従業員とのミーティングなどがほとんど開催できない状態である
ことが指摘された。今後職場の安全衛生委員会などを通じて改善する予定
である。
2.教育・研修の計画と実施
従 業 員 向 け の 教 育・研修として、ストレスチェックの個人結果の説明会
と リ ラ ク セ ー シ ョ ン 法 講 習 会 を 開 催 し た( 1999 年 10 月 26 日 ) 。 希 望 者 を
募 っ た と こ ろ 25 名 が 講 習 会 に 出 席 し た( 図 3 ) 。 表 2 に 示 し た 通 り 、 大 部
分の出席者が好意的な感想を提出していた。今後、分散している各事業場
の従業員にどう教育研修を提供するかが課題である。
3.健康診断の機会におけるストレス対策
職業性ストレス簡易調査票によるストレスチェックには全従業員の約3
割 ( 212 名 ) が 参 加 し た 。 参 加 者 に 個 人 結 果 ( ス ト レ ス プ ロ フ ィ ー ル ) を
106
図1 流通・販売系中規模企業における職場別の「仕事のストレス判定図」の結果
(男性、職業性ストレス簡易調査票)
107
図2 流通・販売系中規模企業における職場別の「仕事のストレス判定図」の結果
(女性、職業性ストレス簡易調査票)
108
図3 リラクセーション法講習会(モデル事業4)の様子
表2 リラクセーション法講習会出席者の感想(感想を提出した19名)
項目
セミナーはわかりやすかったですか?
リラクセーション法について十分理解できましたか?
リラクセーション法を今後やってみようと思いますか?
人数(%)
18(95%)
16(84%)
19(100%)
自由記入:
・さっそく自分で訓練してみようと思いました。
・不眠が多いので布団に入った時にやってみたいと思います。一度カウンセリングを受けてみた
いと思います。
・やってみると意外と効果があることがわかった。
・今後ともこうした機会があれば参加したい。
・3,4,5段階も学習したい(注:今回は1,2段階までの学習でした)
。
・ここちよいねむりができました。
・ウィークデーの寝付きが悪くて困っていたので、さっそくやってみたいです。
・やってみて効果を知るのが楽しみです。
・事業場単位でも開催していただくと助かります(注:今回は本部のみでの開催でした)
。
・途中参加だったのでやや理解不足。
作 成 し て 返 送 し た 。 感 想 葉 書 を 同 封 し た 100 名 の う ち 22 名 が 回 答 を 寄 せ た 。
う ち 19 名 が 「 ス ト レ ス に 対 し て 関 心 を 持 つ の に 役 だ っ た 」 と 回 答 し て い た
( 表 3 )。 ま た ど ち ら か と い え ば 、 個 人 別 の コ メ ン ト を 出 力 し た 結 果 通 知 の
方 が 好 評 で あ っ た 。し か し 、ス ト レ ス チ ェ ッ ク へ の 参 加 率 が 低 か っ た こ と は 、
ストレスへの関心が低いかあるいはストレスチェックの趣旨がよく理解さ
れていないためと思われた。
109
表 3 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票に よ る ス ト レ ス チ ェ ッ ク に つ い て の 参 加
者 の 感 想 ( 感 想 は が き を 返 送 し て き た 者 22 名 の 回 答 の 分 析 ) *
項目
「ストレスプロフ
ィ ー ル 」は わ か り や
すかったか?†
ストレスに関心を
持つのに役だった
か?
自分のストレスを
理解するのに役だ
ったか?
ストレスを減らす
のに役だつと思う
か?
ストレス解消に役
立ちそうか?
全 回 答 者 ( 22 名 )
個 人 コ メ ン ト **
( 10 名 )
一律コメント
( 12 名 )
12 (55%)
7 (70%)
5 (42%)
19 (86%)
9 (90%)
10 (84%)
17 (81%)$
7 (78%)$
10 (84%)
12 (55%)
4 (40%)
8 (67%)
12 (55%)
4 (40%)
8 (67%)
* 感 想 は が き を 送 付 し た 100 名 中 22 名 ( 22% ) が 回 答 し た ( 1999 年 10 月 25 日 現
在 )。
** 参 加 者 の う ち 無 作 為 に 選 ん だ 半 数 (106 名 )に は 結 果 に 対 応 し た 産 業 医 の コ メ ン ト
( 簡 単 な も の ) を つ け て 結 果 を 返 し た 。 こ れ 以 外 は 一 律 に「 結 果 を 参 考 に ス ト レ ス に
うまく対処してください」とコメントした。
† 「 わ か り や す か っ た 」「 ま あ ま あ わ か り や す か っ た 」 と 回 答 し た 者 の 合 計 。 こ の 質
問 以 外 は 「 は い 」「 い い え 」 で 回 答 を 求 め て 「 は い 」 の 者 の 人 数 ( 割 合 ) を 示 し た 。
$ 1名が無回答のため分母が1名少ない。
4.メンタルヘルスの相談体制の確立と運用
ス ト レ ス チ ェ ッ ク へ の 回 答 者 に は 、産 業 医 に 電 子 メ ー ル ま た は 電 話 で 相 談
で き る よ う に し た 。電 子 メ ー ル に よ る 相 談 が 1 件 あ り 、自 分 の ス ト レ ス 状 況
の 説 明 と ア ド バ イ ス を 求 め て き た た め 、産 業 医 か ら ア ド バ イ ス を 返 信 し た と
こ ろ お 礼 の メ ー ル が 寄 せ ら れ た 。ま た 電 話 相 談 が 1 件 あ り 、こ れ は パ ニ ッ ク
障 害 で 治 療 中 の 者 で あ っ た 。産 業 医 が メ ン タ ル ヘ ル ス の 相 談 を 受 け て い る こ
とをもっと広報すべきであることが課題として残された。
5.費用
ス ト レ ス チ ェ ッ ク 用 紙 印 刷 費 ・ 封 筒 な ど 2 万 円 、 用 紙 提 出・ 結 果 通 知 用 郵
送 費 3.2 万 円 、 リ ラ ク セ ー シ ョ ン 法 講 師 謝 礼 5 万 円 、 賃 金 4 万 円( デ ー タ 入
力 、 個 人 結 果 出 力 、 封 筒 詰 め )、 合 計 14.2 万 円 。 こ の ほ か プ リ ン ト ア ウ ト 、
コ ピ ー 費 用 な ど が 必 要 で あ っ た 。 こ れ は 従 業 員 1 人 あ た り 約 200 円 、 ス ト
レ ス チ ェ ッ ク 回 答 者 1 人 あ た り 約 700 円 の コ ス ト で あ っ た 。
110
D.考察と結論
本モデル事業では、事業の目標であるストレスに対する関心や理解を高
めることはある程度達成されたと思われる。また、産業医に対してメンタ
ルヘルス相談が可能であることを広報する効果があったと思われた。しか
し参加者が予想より少なかったことなどから、さらに従業員向けの啓発活
動を展開する必要があると思われる。また職場の環境改善や上司への教育
研修も次年度の課題である。
以上から中規模企業(中小規模事業場)において、「事業場におけるス
トレス対策の枠組み」、「仕事のストレス判定図」、「職業性ストレス簡
易調査票」および「ストレス対策マニュアル」を用いて総合的ストレス対
策を実施することが可能であることが示された。
研 究 者:川上憲人(岐阜大学医学部公衆衛生学教室)
研究協力者:井奈波良一(岐阜大学医学部衛生学教室)
Ⅱ−5−5.総合的ストレス対策の計画立案のモデル事業
(モデル事業5)
A.はじめに
技術革新にともないこれまでにないスピードで変化が求められる企業に
おいて、社員のストレス・メンタルヘルス問題は重要な関心事となってい
る。しかし、企業内においてその問題への対策は、従前の産業保健部門の
みの活動では困難であると思われる。そこで、企業内の他部門と連携し、
職場におけるストレス・メンタルヘルス問題の早期発見・予防活動を行う
と同時に、社員個人が自発的に健康増進活動を実施するように様々な支援
を行う必要があると思われる。
B.ストレス対策・メンタルヘルス活動の問題点
企 業 内 に お い て 、 ス ト レ ス 対 策・ メ ン タ ル ヘ ル ス 活 動 を 推 進 す る 上 で 、
労働衛生的対策が困難な点が問題点として挙げられる。有害物による疾病
予防対策のようにその明確な作業管理や作業環境管理の方法が確立されて
おらず社員個人のストレス状況の把握が困難であるため、企業が具体的に
行 う べ き 対 策 や 活 動 方 針 を 明 確 に 示 せ な い と い う 支 障 が 生 じ て い る 。ま た 、
身体疾患対応と違って、ストレス関連疾患や精神科的疾患の場合、主治医
に よ る 診 断 名 と 職 場 で の 就 労 状 況( 職 場 適 応 状 態 ) が 一 致 し な い こ と が 多
く、職場では2次予防、3次予防が非常に難しいことも問題としてあげら
れる。結果として企業内におけるストレス対策・メンタルヘルス活動では
111
事例への対応が中心となり現状では抜本的な予防活動への発展が困難な状
況に陥ってしまっている。企業内外には、ストレス・メンタルヘルス問題
を 扱 う 様 々 な 専 門 家( 精 神 科 、 心 療 内 科 、 産 業 医 、 臨 床 心 理 士 、 保 健 婦・
士、看護婦・士、産業カウンセラー等)が存在するが、専門家が社員と治
療的関係を結ぶ場合、社員(患者)の利益・プライバシーを優先する立場
にたつため、社員間の平等性を優先する企業と専門家との間に対立が発生
し企業が同様な事例を予防する具体的な対策を実施することが困難な状況
と な り ス ト レ ス 対 策・メンタルヘルス活動の発展の支障となっていること
も問題の一つである。加えて、企業内労働衛生部門は歴史的に環境面(フ
ァシリティー)等、物理的側面から社員を支援して来た。しかし、ストレ
ス対策・メンタルヘルス活動を行う場合、心理・社会学的側面からの支援
も 行 わ な け れ ば な ら な い 。 そ も そ も 企 業 内 で は 職 制( 上 司 )や 人 事 部 門 が 、
心理・社会学的側面から社員を支援して来た経緯もあるので、各々の関係
を調整しその役割を明確にした上で社員を支援するシステムを構築する必
要性があると思われる。
C.ストレス対策・メンタルヘルス活動推進モデル
企業内にて職制・人事部門は、ストレス対策・メンタルヘルス活動に関
連した立場、役割を担っている。具体的に職制の持つ業務命令・業務評価
などの立場、役割や人事部門の持つ採用・異動・就労規則の運用などの立
場、役割は、その内容によっては社員のストレス・メンタルヘルス問題に
与える影響は大きい。企業内にてストレス対策・メンタルヘルス活動を推
進するには、職制、人事部門の社員の職場への適応を支援する役割、立場
を明確にするとともに各々が産業保健部門(産業保健スタッフ)とスムー
ス に 連 携 し 社 員 の 職 場 適 応 を 支 援 す る シ ス テ ム( 三 位 一 体 の 支 援 シ ス テ ム )
の構築が望ましいと考えられる(図 1 参照)。
就労支援
就労支援
職場
本人(家族)
産業保健
スタッフ
人事
労働衛生・
医学的支援
労働衛生・
医学的支援
人事的支援
人事的支援
図1 職場適応状態の支援システム―三位一体の支援システム―
(モデル事業5)
112
(社員・職 場 ・適 応 )
社員
支援
職場
①社員・不 適 応
支援
支援
②職場・不 適 応
適応アセスメント
支援
•就労支援
•人事的支援
•労働衛生・産 業 保 健 的 支 援
•職制アセスメント
•人事アセスメント
•産業保健アセスメント
③社員・職 場 ・不適応
図2 三位一体の支援システムの機能(モデル事業5)
三位一体の支援システムは、職制、人事、産業保健スタッフが各々の立
場から、社員と職場の関係をアセスメントし、不適応が生じている場合、
その不適応の型である①社員・不適応、②職場・不適応 ③社員・職場・
不適応、のいずれかを三位一体で連携して決定し、適切な支援方法(就労
支 援 、人 事 的 支 援 、労 働 衛 生・ 産 業 保 健 的 支 援 )を 実 施 す る 機 能 で あ る( 図
2 参照)。この機能を強化することが、企業内におけるストレス対策・メ
ンタルヘルス活動の推進には不可欠であると思われる。
D.ストレス対策・メンタルヘルス活動実施のために必要な 組織づくり
1999 年 4 月 、 企 業 内 に お け る ス ト レ ス 対 策 ・ メ ン タ ル ヘ ル ス 活 動 の 推 進
を具体的に実践するために産業保健部門・人事部門・安全衛生部門・健康
保険組合の代表者による運営委員会を設立した。運営委員会において「予
防的メンタルヘルス対策の確立」を活動目標とし、職制、人事担当者、産
業保健スタッフが協力して社員のストレス対策・メンタルヘルス活動を行
う こ と 、 社 員 が 自 ら ス ト レ ス 対 策・ メ ン タ ル ヘ ル ス 活 動 を 実 践 で き る よ う
に支援を行う活動を推進するプロジェクトを行うこととなった。またその
下部組織として、マネージャー研修・社員研修・スタッフ研修・リラクゼ
ー シ ョ ン 開 発 グ ル ー プ( Gp ) を 設 立 し 7 事 業 所 よ り 23 名 の 産 業 保 健 ス タ
ッ フ ( 産 業 医 2 名 、 保 健 婦 ・ 士 、 看 護 婦 ・ 士 17 名 、 臨 床 心 理 士 1 名 、 ヘ ル
ストレーナー3 名)が参加した(図 3 参照)。
113
事務局
運営委員会
スーパーバイザ ー
スーパーバイザ ー
産 業 医 ・臨 床 心 理 士
産 業 医 ・ヘルストレーナー
マネージャー研修Gp
社員研修Gp
スタッフ研 修 Gp
リラクゼーション開発Gp
看護職
看護職
看護職
看 護 職 ・ヘルストレーナー
*人事・安全衛生・健康保健組合の代表も運営委員会に参加
図3 モデル事業5の組織図
E.具体的な活動目標
各々グループ(Gp)は以下に示す活動目標を決定した。
マネージャー研修Gp
活動目標:職場のメンタルヘルスのキーパーソンに対する教育・啓発プログラ
ムの作成と実施
社員研修Gp
活動目標:一般社員に対する教育・啓発プログラムの作成と実施
講演会の企画・実施
スタッフ研修Gp
活動目標:産業保健スタッフのスキルアップ、
研修講師養成プログラムの作成と実施
人事担当者への教育プログラムの作成
リラクゼーション開発Gp
活動目標:各種ストレスコーピング法の紹介
運動・栄養プログラムの開発
F.活動結果
4 つのグループ(Gp)は以下に示す活動を行った。
マネージャー研修Gp
・新任課長研修プログラムの作成
・統括課長研修プログラムの作成
社員研修Gp
・新入社員研修プログラムの作成
114
・30才研修プログラムの作製
・講演会の実施
スタッフ研修Gp
・ 産業保健スタッフ研修プログラムの作製と実施
・ 研修の講師の育成
リラクゼーション開発Gp
・ インターネット上でリラクゼーションツールの紹介
・ 運動プログラムの作成
運営委員会は人事部門と交渉を行い、その結果として、マネージャー研修G
pと社員研修Gpが作製した研修プログラムを2000年度から人事部門が行
う社員研修に組み入れて実施することが決定した。また、スタッフ研修Gpが
作製した産業保健スタッフ研修プログラムを人事スタッフにも実施するととも
に産業保健部門と人事部門合同のストレス対策・メンタルヘルス活動に関する
研修会を継続して実施して行くことが決定した。
G.今後の活動と課題
今年度は、産業保健部門が中心となり人事部門・安全衛生部門・健康保険組
合と連携して事業所毎に各々の研修プログラムを実施して行く予定である。そ
の際、研修の講師となる産業保健スタッフの育成が今後の課題である。産業保
健スタッフは各種健康診断、事後措置等の様々な労働衛生に関係する業務をす
でに抱えているので、新たな業務を追加することが大きな業務負担とならない
ように配慮しなければならない。その上で研修を継続して実施し社内研修とし
て確立する活動としていくバランスを保つことも課題である。また、健康保健
組合と協力して関連企業へ研修制度を広めて行くことも大きな課題である。
加えて、我々の活動の評価を行うことも大きな課題と思われる。自記式質問
票の実施や定期健康診断結果の評価等を通じて健康管理の点からストレス対
策・メンタルヘルス活動を見直して行く予定である。加えて、職制・人事部門
との関係を深めることによりストレス対策・メンタルヘルス活動の企業活動へ
の効果・影響についても考察して行きたい。
研 究 者:深澤健二(ソニー㈱ 健康開発センター)
Ⅱ−5−6.総合的ストレス対策のモデル事業:要約
以上5つの総合的ストレス対策のモデル事業の成果を要約する。ソフトウェ
ア技術者(SE)におけるストレス対策のモデル事業(モデル事業1)では、
産業保健スタッフに相談できる機会の少ない遠隔地の営業所やクライエント先
のソフトウェア技術者(SE)も含め全社的ストレス対策を実施するために、職業
115
性ストレス簡易調査票による調査を実施した。調査により一人作業の SE にスト
レスが高いことが把握できた。また個人向けの結果通知も好評であった。判定
図を用いたストレス対策を従来の方法(面接による個別対応)と組み合わせた
モデル事業(モデル事業2)では、従来心身の不調者を対象とした個人面接を
実施していた事業場で、これに加えて職場環境の対策を行うために職業性スト
レス簡易調査票と「仕事のストレス判定図」を用いた調査の上、産業医による
職場巡視,調査対象者の一部に対する個別面接、部課別の報告会を行ない、職
場集団を対象としたストレス対策が可能となった。職場環境および個人向けの
複合的ストレス対策のモデル事業(モデル事業3)では、独自の個人向けスト
レスチェック(健康診断時に実施)を中心に、職場別のストレス要因の評価と
対策、個人結果の送付とこれと連動した個人向け教育・研修(リラクセーショ
ン法講習会)を複合的に実施し効果をあげた。規模事業所におけるストレスへ
の意識づくりのモデル事業(モデル事業4)では、従業員 700 名の中規模企業
で、従業員のストレスに対する意識づくりを進めることを目的に職業性ストレ
ス簡易調査票を活用した個人向けストレスチェック(希望者のみ対象)を中心
に、リラクセーション講習会、職場ごとのストレス評価、相談活動などを複合
的に実施したところ、ストレスへの意識づくりや産業医への相談が可能である
ことの理解が進んだ。総合的ストレス対策の計画立案のモデル事業(モデル事
業5)では、職場におけるストレス・メンタルヘルス問題の早期発見と予防を
目指す活動「メンタルヘルスプロモーションプロジェクト」のための体制づく
りと目標の設定を行った。プロジェクトは産業保健部門・人事部門・安全衛生
部門・健康保険組合の代表者による運営委員会によって運営され、下部組織と
して4つのグループを設けそれぞれ活動目標を定めた。これは将来の大企業で
のストレス対策のモデルとなると思われる。またこれらのストレス対策のモデ
ル事業にかかった費用は、従業員1名あたり 200 円(モデル事業4)∼300 円
(モデル事業3)、ストレスチェック参加者1名あたりでも 500∼700 円であり、
ストレス対策がかなり安価に実施できることが明らかとなった。
以上5つの事業所における総合的ストレス対策のモデル事業を通じて、本研
究班の成果物(ストレス対策の枠組み、職業性ストレス簡易調査票、仕事のス
トレス判定図、ストレス対策マニュアルなど)を活用して実際の現場における
ストレス対策の推進が可能なことが明らかとなった。ストレス対策にかかる費
用が比較的安価であったことからも、これらの成果を活用したストレス対策は
事業場に普及しやすいと考えられた。
「ストレス測定」
研究グループ報告
117
Ⅲ−1.ストレス測定グループ研究成果の概要
5 年間の研究概要
ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ で は 、労 働 者 の 心 身 の 健 康 管 理 に 必 要 な 職 業 性 ス ト
レスの測定法が確立されていないことから、職業性のストレス要因、心理
的・ 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 お よ び 修 飾 要 因 に つ い て 、労 働 現 場 に お い て 簡 便 に
使 用 で き る 信 頼 性・妥 当 性 の 高 い 調 査 票 を 開 発 す る こ と を 5 ヵ 年 研 究 の 目 的
と し た 。平 成 7・8 年 に は 既 存 の ス ト レ ス を 測 定 す る 調 査 票 の 検 討 及 び 職 場 に
お け る ス ト レ ス 測 定 の 実 態 を 調 査 し た 。平 成 9 年 に は そ の 検 討 結 果 を も と に 、
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 開 発 し た 。 平 成 10 ・ 11 年 に は 産 業 現 場 に お い
て 簡 易 調 査 票 を 試 用 し 、更 に 修 正 、検 討 を 加 え 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を
完成した。
平成7年度研究概要
様 々 な 心 理 測 定 法 な ら び に 生 物 学 的 測 定 法 を 検 討 し 、職 業 性 ス ト レ ス の 測 定
をどのように行い評価するか検討した。
平成 8 年度研究概要
職場におけるストレス評価の実態に関する調査研究ならびにダイナミック
な ス ト レ ス モ デ ル に 基 づ い た ス ト レ ス 要 因 、ス ト レ ス 反 応 、修 飾 要 因 の 相 互
関係に関する検討、ストレス反応と疾病との関係に関する検討を行った。
平成 9 年度研究概要
1. 多 軸 的 ス ト レ ス モ デ ル に 基 づ い て 、 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 (57 項 目 )
を作成し、その信頼性・妥当性について検討を行った。
2. ス ト レ ス 評 価 法 マ ニ ュ ア ル 作 成 の た め の ス ト レ ス 測 定 法 分 類 表 を 作 成 し
た。
平成 10 年度研究概要
1. 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 修 正 を 行 い そ の 活 用 に つ い て 検 討 し た 。
2. 現 場 担 当 者 が 実 際 に 使 用 で き る ス ト レ ス 評 価 法 の 総 合 的 な マ ニ ュ ア ル を
作成した。
118
平 成 11 年 度 研 究 概 要
1.
①
②
2.
①
②
③
3.
主に個人評価を目的とした最終版職業性ストレス調査票を完成した。
信頼性、尺度構成等について検討し、各尺度の基準値を設定した。
簡易評価法について検討した。
職業性ストレス簡易調査票の有用性について検討した。
職業性ストレス簡易調査票施行者の意見調査
職業性ストレス簡易調査票被施行者(労働者本人)の意見調査
職場における有効な活用法についての検討
職業性ストレス簡易調査票使用マニュアルを作成した。
119
平 成 11 年 度 研 究 の 概 要
平 成 11 年 度 研 究 は 、 ① 主 に 個 人 評 価 を 目 的 と し た 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調
査 票 の 完 成 、② 簡 易 調 査 票 の 有 用 性 に つ い て 、③ 簡 易 調 査 票 使 用 マ ニ ュ ア ル
の作成を研究課題として研究を実施した。
具体的研究計画
1) 主に個人評価を目的とした職業性ストレス簡易調査票の完成
① 職業性ストレス簡易調査票の信頼性の検討と基準値の設定
(下光班員、原谷研究協力者)
② 職業性ストレス簡易調査票における職業性ストレッサーおよびソー
シャルサポトとスレス反応の関連性の検討 ―共分散構造分析
(MIMIC モ デ ル )に よ る ア プ ロ ー チ ―
(下光班員、岩田研究協力者)
③ 職業性ストレス簡易調査票における職業性ストレッサー及びストレ
ス反応尺度特性の検討 ―項目反応理論の応用―
(下光班員、岩田研究協力者)
④ 職業性ストレス簡易調査票によるストレス簡易判定法の検討
(中村班員)
2)職業性ストレス簡易調査票の有用性 ―簡易調査票施行による従業員
のストレス対処への動機づけ促進効果の検討―
① 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に 対 す る 産 業 医 、看 護 婦・士 の 意 見 調 査 結
果より (下光班員、健康影響評価グループ)
② 総合的ストレス対策モデル事業のなかでの職業性ストレス簡易調査
票の活用 (下光班員、健康影響評価グループ)
③ 職場における職業性ストレス簡易調査票の使用に関する研究
(横山班員、丸田研究協力者)
④ 職業性ストレス簡易調査票の有用性について
― 心 理 相 談 介 入 評 価 に つ い て ― (古 木 研 究 協 力 者 )
⑤ 精神神経科受診者に対する職業性ストレス簡易調査票の使用
(大野班員)
3)職業性ストレス簡易調査票使用マニュアルの作成
( 中 村 班 員 、 他 班 員・協力者)
4)職業性ストレス簡易調査票の限界
( 中 村 班 員 、 他 班 員・協力者)
研究成果
1)主に個人評価を目的とした職業性ストレス簡易調査票の完成
1- 1 ) 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 信 頼 性 の 検 討 と 基 準 値 の 設 定
ストレス測定グループが開発した職業性ストレス簡易調査票については、
120
す で に 各 尺 度 の 信 頼 性 の 高 さ 、 尺 度 構 成 と 因 子 構 造 と の 対 応 、基 準 関 連 妥 当
性 の 高 さ が 確 認 さ れ て い る が 、 昨 年 ま で の 研 究 結 果 を 受 け 、一 部 質 問 項 目 の
順 序 の 変 更 お よ び 言 葉 の 修 正 を 実 施 し 、最 終 改 訂 版 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査
票 に よ る 多 職 種 、 多 業 種 で 調 査 を 実 施 し 、12,274 名 ( 男 性 10,089 名 、 女 性
2185 名 ) の 回 答 が 得 ら れ た 。
簡 易 調 査 票 に お け る 各 尺 度 の Cronbach の α 信 頼 性 係 数 を 算 出 し た と こ ろ 、
仕 事 の ス ト レ ッ サ -17 項 目 は 0.74 、 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 18 項 目 で は 0.84 、
身 体 的 ス ト レ ス 反 応 11 項 目 で は 0.81、 社 会 的 支 援 9 項 目 で は 0.83 で あ っ
た 。 ま た 、 全 57 項 目 の 因 子 分 析 (主 成 分 分 析 、 バ リ マ ッ ク ス 回 転 )を 行 い 3
因 子 を 抽 出 し た 。第 1 因 子 は 活 気 以 外 の ス ト レ ス 反 応 、第 3 因 子 は 労 働 負 荷 、
第 2 因子は社会的支援や活気などのその他の項目が高い因子負荷量を示し
た 。ス ト レ ッ サ ー 、ス ト レ ス 反 応 の 下 位 尺 度 に つ い て も 因 子 分 析 を 実 施 し 、
ほ と ん ど の 項 目 は 尺 度 と 因 子 が 一 致 し て お り 、ほ ぼ 尺 度 構 成 に 対 応 し た 因 子
構 造 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 ま た 、 基 準 値 の 設 定 を 行 っ た( 下 光 班 員 、 原
谷 研 究 協 力 者 )。
1-2 )職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に お け る 職 業 性 ス ト レ ッ サ ー お よ び ソ ー
シャルサポートとストレス反応の関連性の検討
― 共 分 散 構 造 分 析( M I M I C モ デ ル ) に よ る ア プ ロ ー チ ―
職業性ストレス簡易調査票の特徴は多次元測定・評価にあり、ストレッサ
ー・ソーシャルサポート・ストレス反応ともいくつかの測定内容で構成され
て い る こ と で あ る 。し た が っ て 、各 ス ト レ ス 反 応 の 影 響 要 因 を 明 ら か に す る
こ と よ り も 、ス ト レ ス 反 応 全 部 を 従 属 変 数 と し て 、ス ト レ ッ サ ー や サ ポ ー ト
と の 関 連 性 を 同 時 に 検 討 し 、そ れ ぞ れ の 関 連 の 大 き さ を 明 ら か に す る 方 が 簡
易 調 査 票 に よ る ス ト レ ス 評 価 の 全 体 像 を 反 映 し て い る と 思 わ れ る 。そ こ で 、
共 分 散 構 造 分 析 (Covariance Structure Analysis / Structural Equation
Modeling)に よ る 検 討 を 試 み た 。
1 万 人 を 越 え る 日 本 人 労 働 者 か ら 得 た デ ー タ に 共 分 散 構 造 分 析 (MIMIC モ
デ ル )を 適 用 し 、 ス ト レ ッ サ ー ・ ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト ・ ス ト レ ス 反 応 の 全 体 と
しての関連性を検討した。その結果、ストレッサー・ソーシャルサポートと
も『 ス ト レ ス 状 態 』 に 有 意 な 関 与 を 認 め 、 ま た 様 々 な ス ト レ ス 反 応 に 有 意 に
関 連 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。こ れ ら の 関 連 性 は 男 女 と も ほ ぼ 同 様 で
あ っ た が 、 女 性 労 働 者 で は 「 同 僚 の 支 援 」 は『 ス ト レ ス 状 態 』 に 関 与 し て お ら
ず、その分「家族のサポート」の関与が大きくなっていた。「仕事の適合性」
や 「 職 場 の 対 人 関 係 」 の『 ス ト レ ス 状 態 』へ の 関 与 の 相 対 的 大 き さ か ら 、 労 務
管理の重要性が再認識された( 下 光 班 員 、 岩 田 研 究 班 員 )。
121
1-3 ) 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に お け る 職 業 性 ス ト レ ッ サ ー 及 び ス ト レ ス
反応尺度特性の検討 ―項目反応理論の応用―
職業性ストレス簡易調査票で測定されるストレッサーおよびストレス反
応 が 、ど の よ う な ス ト レ ッ サ ー ・ ス ト レ ス 反 応 レ ベ ル に 特 異 的 に 或 い は 鋭 敏
に 反 応 し て い る の か を 項 目 反 応 理 論 (IRT)を 用 い て 検 討 し た 。
ス ト レ ッ サ ー 測 定 項 目 の IRT解 析 結 果 で は 、 ス ト レ ッ サ ー の 特 性 が 低 い レ
ベ ル か ら 高 い レ ベ ル に な る に 従 い 、ま ず 仕 事 の 量 的 負 担 ・ 質 的 負 担 が 出 現 し 、
さ ら に ス ト レ ッ サ ー レ ベ ル が 上 が る と 、コ ン ト ロ ー ル の 低 下 が 現 れ 、次 い で
対 人 関 係 、仕 事 の 適 合 性 が 発 現 し て く る こ と が う か が わ れ た 。ス ト レ ス 反 応
項 目 の IRT解 析 結 果 で は 、ス ト レ ス 反 応 の レ ベ ル が 低 い 方 か ら 順 に 、ま ず 「 活
気 の な さ 」 が 自 覚 さ れ 、そ れ が し ば ら く 続 く と 「 イ ラ イ ラ 感 」 ・ 「 疲 労 感 」 が 出 現
し、次いで「不安」・「身体愁訴」が現れ、最後に「抑うつ感」が現れるというス
ト レ ス 反 応 出 現 の 流 れ が う か が わ れ た 。ま た 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 が 良 好 な
識 別 性 を 有 し て い る の に 対 し 、身 体 的 ス ト レ ス 反 応 測 定 項 目 の 識 別 性 は 低 く
な っ て い た 。IRT解 析 の 結 果 、 ス ト レ ッ サ ー 項 目 ・ ス ト レ ス 反 応 項 目 と も に 、
あ る レ ベ ル の ス ト レ ッ サ ー や ス ト レ ス 反 応 を specificに 測 定 し て い る も の で
はなく、それぞれ幅広いストレッサーレベル・ストレス反応レベルを捉える
よう設定されており職業性ストレスの測定に有用であることが確認された
( 下 光 班 員 、 岩 田 研 究 班 員 )。
1-4 ) 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に よ る ス ト レ ス 簡 易 判 定 法 の 検 討
職業性ストレス簡易調査票によるストレス判定を健診や健康測定の現場
で 簡 便 に 行 う た め の 判 定 方 法 と そ の 判 定 基 準 を 12,000 余 名 の デ ー タ に 基 づ
き 作 成 ・ 検 討 し た 。 ス ト レ ッ サ ー 評 価 軸 と し て 、「 仕 事 の 負 担 度 ( 7 項 目 )」
に お い て 男 性 6 項 目 以 上 、 女 性 5 項 目 以 上 、「 コ ン ト ロ ー ル 度( 3 項 目 )」で
は男女とも2項目以上ストレス度の高い上位 2 つの選択肢への回答があっ
た 場 合 、 要 チ ェ ッ ク と 判 定 し た 。 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 で は 18 項 目 中 男 性 は
14 項 目 、 女 性 は 13 項 目 以 上 、 身 体 的 反 応 で は 11 項 目 中 男 性 は 5 項 目 、 女
性 は 6 項 目 以 上 に 、同 様 の 回 答 を し た 場 合 、各 ス ト レ ス 反 応 が 要 チ ェ ッ ク と
判 定 し た 。「 職 場 の 社 会 的 支 援 要 チ ェ ッ ク 」 は 、「 上 司 ・ 同 僚 の 支 援 」 6 項
目 中 、「 多 少 」 あ る い は 「 全 く な い 」 の 選 択 肢 が 選 ば れ た 回 答 が 5 項 目 以 上
あ る 場 合 と し た ( マ ニ ュ ア ル 参 照 )。 デ マ ン ド ・ コ ン ト ロ ー ル ・ サ ポ ー ト モ デ
ル を 参 考 に 簡 易 調 査 票 の 「 仕 事 の 負 担 度 」、「 コ ン ト ロ ー ル 度 」、「 社 会 的 支
援」のいくつに「要チェック」が判定されたかによって、段階点(0∼3)
ご と の「 ス ト レ ス 反 応 要 チ ェ ッ ク 発 現 リ ス ク 」 を 、 多 項 ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰
分 析 に よ り 検 討 し た 。 そ の 結 果 、「 仕 事 の 負 担 度 」、「 コ ン ト ロ ー ル 度 」、「 社
会 的 支 援 」 の い ず れ も 要 チ ェ ッ ク と さ れ た 者 で は 最 大 18.5 倍 と い う ス ト レ
ス 反 応 発 現 リ ス ク が 推 定 さ れ た ( 中 村 班 員 )。
122
2)職業性ストレス簡易調査票の有用性に関する研究
−簡易調査票施行による従業員のストレス対処への動機づけ促進効果の検討−
2 - 1 )職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 に 対 す る 産 業 医 、 看 護 婦 ・ 士 の 意 見 調 査 結 果 よ
り
職業性ストレス簡易調査票が産業現場で使用可能かについて検討するた
め 、産 業 医 お よ び 看 護 婦・士 を 対 象 に 、簡 易 調 査 票 、従 業 員 へ の フ ィ ー ド バ ッ
ク の た め の 結 果 出 力 例 、 結 果 解 釈 の た め の 説 明 文 、“ 簡 便 な 評 価 法 ” の た め
の 使 用 ガ イ ド の 4 点 と 本 調 査 票 に つ い て の 意 見・ 感 想 記 入 用 紙 を 郵 送 し た 。
回 答 数 41 名 中 、 簡 易 調 査 票 を 実 際 に 使 用 し て み た と 答 え た 者 は 13 名
( 32% )で 、使 用 の 場 面 は 新 入 社 員 の 健 康 相 談 ・ 入 社 3 ヶ 月 後 の 面 談 が 多 か っ
た 。 簡 易 調 査 票 に つ い て の ① 健 康 指 導 や THP の 心 理 相 談 の 場 で 対 象 者 の ス
トレスの把握には使えるか?という問に対して、使えると回答したものが
95% と 高 か っ た 。② 健 康 診 断 な ど の 場 面 で の 簡 易 調 査 票 に つ い て ス ト レ ス の
意 識 づ く り や 気 づ き の 促 進 に 使 え そ う か ? と い う 問 に 対 し て 、使 え る と 回 答
し た 者 は 93% と 高 く 、 ま た こ れ ら の う ち 50% が こ の ま ま で 十 分 使 用 で き る
と 回 答 し て い た 。実 際 に 従 業 員 の ス ト レ ス を 減 ら す こ と に こ の 調 査 票 は 有 効
か 、 と い う 問 に 対 し て は 64% が 使 え る ( 有 効 ) と 回 答 し た 。 ③ こ れ ま で 使
用 し た こ と の あ る 調 査 票 と の 比 較 で 、他 の 調 査 票 を 使 用 し た 経 験 が あ る も の
は 33 名 (80% ) で あ り 、 こ の う ち 優 れ て い る 13 名 (39 % )、 同 じ 7 名 (21% )、
劣 っ て い る 2 名 (6% )、 わ か ら な い (33% )と の 回 答 を 得 た 。
...
検 討 結 果 よ り 、簡 易 調 査 票 は 、特 に 職 業 性 の ス ト レ ス 調 査 票 と い う 点 で 仕
事 の ス ト レ ス 要 因 を 聞 い て い る 点 が 評 価 さ れ て お り 、本 調 査 票 は 職 域 で の 汎
用 性 が 高 い と 考 え ら れ た ( 下 光 班 員 、 健 康 影 響 評 価 グ ル ー プ )。
2-2 ) 総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル 事 業 の な か で の 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査
票の活用
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 、総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル 事 業 の 中 で 使
用し、その有用性について検討した。
1) 健康診断および健康保持増進事業などの機会におけるストレス対策
希望者に簡易調査票を施行した。参加者に対して一律にフィードバッ
クプログラムによる「 あ な た の ス ト レ ス プ ロ フ ィ ー ル 」 を 返 却 し 、 参
加 者 の 感 想 を 求 め た 。 100 名 中 22 名 が 回 答 し 、 ス ト レ ス に 関 心 を 持 つ
の に 役 立 っ た( 86% )、 自 分 の ス ト レ ス に つ い て 理 解 す る の に 役 立 っ た
( 81% )、 ス ト レ ス を 減 ら す の に 役 立 つ と 思 う ( 55%)、 ス ト レ ス 解 消
に 役 立 ち そ う ( 55% ) と の 回 答 結 果 を 得 た 。
2 ) ソ フ ト ウ ェ ア 技 術 者 を 対 象 と し た ス ト レ ス 対 策 事 業 の 中 で 1619 名 に
簡易調査票を施行した。1)と同様にストレスプロフィールを返却し、
そ の 後 、200 名 を 無 作 為 抽 出 し て 質 問 紙 に よ り 簡 易 調 査 票 の 評 価 に つ い
て の 感 想 を 求 め た 。 92 名 が 調 査 票 に 回 答 し 、 ス ト レ ス に 関 心 を 持 つ の
123
に 役 立 っ た ( 82 % )、 自 分 の ス ト レ ス に つ い て 理 解 す る の に 役 立 っ た
( 76% )、 ス ト レ ス を 減 ら す の に 役 立 つ と 思 う ( 50 % )、 ス ト レ ス 解 消
に 役 立 ち そ う ( 52% ) と の 回 答 結 果 を 得 た 。
2 つの事業場における簡易調査票使用の結果、労働者から本調査票が有用
で あ る と い う 評 価 を 得 た ( 下 光 班 員 、 健 康 影 響 評 価 グ ル ー プ )。
2-3 ) 職 場 に お け る 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 使 用 に 関 す る 研 究
職業性ストレス簡易調査票を使用し、回答者が内容を理解・応用できるか
を 検 討 す る た め 、都 内 の 某 金 融 機 関 の 事 務 作 業 者 110 名 に 簡 易 調 査 票 を 配 布
し た 。 80 名 の 回 答 者 に 対 し て 判 定 結 果 を 送 付 し 、 さ ら に 1 )結 果 が 全 体 と し
て わ か り や す い か 、 2 )評 価 が 回 答 者 自 身 感 じ て い る こ と と 一 致 す る か 、 3 )
今 回 の 結 果 が 回 答 者 自 身 の ス ト レ ス の 気 づ き に 役 立 つ か 、の 回 答 を 求 め た 。
こ れ に よ り 得 ら れ た 21 名 の 回 答 結 果 を 解 析 し た 。
簡 易 調 査 票 の 「 ス ト レ ス の 原 因 」、 「 ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 」
お よ び 「 ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る 他 の 因 子 」 の 評 価 は い ず れ も 2/ 3 以
上 の 回 答 者 が 自 己 の 評 価 と 一 致 し て い た 。 ま た 、 2/ 3 以 上 の 回 答 者 が ス ト
レスの気づきに役立ったと回答した。
簡易調査票による評価は被検者の自己評価とよく一致し、ストレスの気づ
き に 役 立 つ と 推 察 さ れ た ( 横 山 班 員 、 丸 田 研 究 協 力 者 )。
2-4 ) 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 有 用 性 に つ い て
−心理相談効果指標ツールとして−
ス ト レ ス 相 談 の 前 後 に 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 実 施 し 、ス ト レ ス 相 談
が 有 効 で あ っ た か の 効 果 判 定 指 標 と し て 簡 易 調 査 票 を 使 用 し 、そ の 有 用 性 に
ついて検討した。
某 事 業 場 に お い て 健 康 診 断 時 に 簡 易 調 査 票 を 実 施 し 、調 査 結 果 の ス ト レ ス
反 応 と し て の 不 定 愁 訴 率 の 高 か っ た 47 名 に つ い て ス ト レ ス 相 談 を 実 施 し た 。
そのストレス相談受診者を対象として健康診断から 1 年後に再度簡易調査
票を施行し、ストレス相談の有効性について検討した。
ス ト レ ス 相 談 後 、ス ト レ ス の 原 因 と な る 因 子 お よ び ス ト レ ス に よ っ て お こ
る 心 身 の 反 応 に 改 善 が 認 め ら れ た 。ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る 他 の 因 子 に
つ い て は 家 族・ 友 人 か ら の 支 援 、仕 事 や 生 活 に 対 す る 満 足 感 は 改 善 傾 向 を 示
し た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、ス ト レ ス 相 談 は 特 に ス ト レ ス に よ っ て 引 き 起 こ さ
れ る 心 身 の 反 応 に 有 効 で あ り 、ま た ス ト レ ス の 原 因 と 考 え ら れ る 因 子 に つ い
て も あ る 程 度 有 効 で あ る こ と が 示 さ れ た 。 ま た 、簡 易 調 査 票 を 施 行 す る こ と
に よ り 心 理 相 談 の 効 果 を 多 軸 的 に 評 価・ 判 定 す る こ と が 可 能 で あ り 、今 後 、
職場におけるメンタルヘルス推進活動の効果指標としての活用が期待され
る ( 古 木 研 究 協 力 者 )。
124
2-5 ) 精 神 神 経 科 受 診 者 に 対 す る 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 使 用
勤 労 者 に 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 使 用 す る に あ た っ て 、精 神 疾 患 発 症
者 に お け る 傾 向 を 把 握 す る こ と が 重 要 で あ る こ と か ら 、精 神 神 経 科 外 来 初 診
受 診 者 で 面 接 を 行 っ た 185 名 中 、「 神 経 症 と う つ 病 」 の 156 名 に 簡 易 調 査 票
を 実 施 し た 。 欠 損 値 デ ー タ を 除 い た 144 名 ( 男 55、 女 89 、 平 均 年 齢 33.7
歳 )に つ い て 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 及 び 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 得 点 の 傾 向 を 検
討した。
心 理 的 、 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て「 神 経 症 と う つ 病 」 の 男 女 と も そ の
得 点 分 布 は 高 得 点 位 に 位 置 し て い た 。( 大 野 班 員 )。
3)職業性ストレス簡易調査票使用マニュアルの作成
ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ が 開 発 し た「 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 」を 産 業 現
場 で 有 効 に 活 用 し て も ら う こ と を 目 的 と し 、わ か り や す い 使 用 マ ニ ュ ア ル を
作 成 し た ( 中 村 班 員 、 他 班 員 、 協 力 者 )。
4)職業性ストレス簡易調査票の限界
ストレス測定グループが開発した職業性ストレス簡易調査票の産業現場
( 含 小 規 模 事 業 場 )に お い て の 実 際 的 活 用 に あ た り 、調 査 票 の 使 用 に 関 す る
限 界 を 明 ら か に し て お く 必 要 が あ る 。労 働 省「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る
研 究 」ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ お よ び 健 康 影 響 評 価 グ ル ー プ が 行 っ た 研 究 成 果
を基に、調査票の活用上の限界について整理した。
① 自記式調査票としての限界
自記式でおこなわれるため、回答する者の意志・意図に影響を受け、
ストレス状況を正しく評価できないことがありうる
② 調査時点のストレス状況しか把握できない
③ 簡易版であるが故の限界
簡易版であるため項目数が少なく、コーピングやタイプ A 行動パタ
ーンなどの指標を評価することはできない
④ 疾 病 の ス ク リ ー ニ ン グ を 主 目 的 と し て 開 発 さ れ た も の で は な く 、本 調
査票による疾病の診断はできない
以 上 の 点 を 考 慮 し 、職 場 に お け る ス ト レ ス 評 価 の 補 助 的 資 料 と し て 活 用 す
る ( 中 村 、 大 野 、 横 山 班 員 、 原 谷 、 古 木 、 丸 田 研 究 協 力 者 )。
今後の課題
*職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 用 い た 全 国 規 模 で の 職 業 性 ス ト レ ス の 動 向 調
査
*簡 易 調 査 票 に 追 加 す る オ プ シ ョ ン と し て の コ ー ピ ン グ 調 査 票 の 開 発
*簡 易 調 査 票 を 健 康 測 定 時 に 使 用 し て 、 心 理 相 談 に 生 か す よ う な 事 業 場 内 シ
ステムの開発
125
*簡 易 調 査 票 施 行 結 果 に 産 業 医 、 看 護 婦・ 士 の 意 見 を 反 映 で き 、 事 業 場 ご と
にその特徴を生かしたコメント等を追加することが可能なソフトの開発
*個 々 人 や 事 業 場 ご と の 簡 易 調 査 票 施 行 結 果 に 応 じ た き め 細 や か な ス ト レ ス
管理ツールの活用
*簡 易 調 査 票 施 行 の 結 果 、 ス ト レ ス プ ロ フ ィ ー ル に 問 題 が あ っ た 労 働 者 や 部
署に対する事業場の対応やストレス管理対策の紹介と普及
班員構成
平 成 7 年 ∼8 年 度
班 員 : 下 光 輝 一 ( 東 京 医 大 )、 飯 森 眞 喜 雄 ( 東 京 医 大 ) 大 野 裕 ( 慶 應 義 塾 大
学 医 学 部 )、 神 山 昭 男( 北 海 道 大 学 医 学 部 )、 谷 川 武( 筑 波 大 学 医 学 専 門 群 )、
中 野 弘 一( 東 邦 大 学 医 学 部 )、 中 村 賢( 北 里 大 学 医 学 部 )、 早 野 順 一 郎( 名 古
屋 大 学 医 学 部 )、 横 山 和 仁 ( 東 京 大 学 医 学 部 )
研 究 協 力 者 : 岩 田 昇( 産 業 医 科 大 学 )、 原 谷 隆 史( 産 業 医 学 総 合 研 究 所 )、藤
垣裕子(科学技術庁科学技術政策研究所)
平 成 9 年 ∼1 0 年 度
班 員 : 下 光 輝 一( 東 京 医 大 )、 大 野 裕( 慶 應 義 塾 大 学 医 学 部 )、 谷 川 武 ( 筑 波
大 学 医 学 専 門 群 )、 中 村 賢 ( 北 里 大 学 医 学 部 )、 丸 田 敏 雅 ( 東 京 医 大 )、 横 山
和仁(東京大学医学部)
研 究 協 力 者 : 岩 田 昇 ( 産 業 医 科 大 学 )、 原 谷 隆 史 ( 産 業 医 学 総 合 研 究 所 )
平 成 11 年度
班 員:下 光 輝 一( 東 京 医 科 大 学 )、大 野 裕( 慶 応 義 塾 大 学 医 学 部 )、中 村 賢
( 北 里 大 学 医 療 衛 生 学 部 )、 横 山 和 仁 ( 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 )
研 究 協 力 者 : 岩 田 昇 ( フ ロ リ ダ 国 際 大 学 )、 原 谷 隆 史 ( 産 業 医 学 総 合 研 究
所 )、 古 木 勝 也 ( 京 都 工 場 保 健 会 産 業 保 健 部 )、 丸 田 敏 雅 ( 東 京 医 科 大 学 )
ストレス測定研究グループ連絡員 下光輝一 (東京医科大学衛生学公衆衛生学)
126
Ⅲ − 2 .主 に 個 人 評 価 を 目 的 と し た 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調
査票の完成
Ⅲ−2−1.職業性ストレス簡易調査票の信頼性の検討と
基準値の設定
A.目的
平 成 9 年 度 に ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ で は 、仕 事 の ス ト レ ッ サ ー 、ス ト レ ス
反 応 、 緩 衝 要 因 を 全 57 項 目 で 評 価 す る こ と が 可 能 で あ り 、 労 働 現 場 で 容 易
に 使 用 で き る 、簡 便 な 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 開 発 し た 。こ の 調 査 票 に
つ い て は 実 際 に 約 2、 500 名 の 勤 労 者 を 対 象 と し て そ の 信 頼 性 、 妥 当 性 に つ
い て 検 討 し 、各 尺 度 の 信 頼 性 は 比 較 的 高 く 、尺 度 構 成 と 因 子 構 造 と の 対 応 が
認められ、また、基準関連妥当性も高いことが確認されている。その後、昨
年 度 ま で の 研 究 結 果 を 受 け 、よ り わ か り や す く 、誤 解 の な い 質 問 と す る た め 、
一 部 質 問 項 目 の 順 序 の 変 更 お よ び 言 葉 の 修 正 を 実 施 し た 。さ ら に 、多 職 種 、
多 業 種 で の デ ー タ 収 集 を 行 い 、修 正 し た 簡 易 調 査 票 の 信 頼 性 に つ い て 再 検 討
を 行 い 、簡 易 調 査 票 を 完 成 さ せ 、そ の 基 準 値 を 設 定 す る こ と を 目 的 と し て 検
討した。
B.方法
1998 年 か ら 1999 年 に 、 21 企 業 ・ 団 体 に 実 施 し た 最 終 改 訂 版 職 業 性 ス ト
レ ス 簡 易 調 査 票 の 回 答 者 を 対 象 と し 信 頼 性 分 析 お よ び 因 子 分 析 を 行 っ た 。対
象 者 は 12,274 名 (男 性 10,089 名 、女 性 2185 名 )、平 均 年 齢 は 男 性 38.4±10.1
歳 、 女 性 35.3±10.2 歳 で あ っ た 。 対 象 企 業 は 、 化 学 、 工 業 、 電 気 、 製 鉄 、
電力、製糖、生命保険等の企業および小規模事業場と多岐にわたっていた。
簡 易 調 査 票 の 回 答 は 、4 段 階 の 選 択 肢 に 1 点 か ら 4 点 の 得 点 を 与 え 、尺 度
得 点 を 算 出 し た 。 一 般 に は 肯 定 あ る い は 頻 度 が 多 い 方 が 高 得 点 と な る が 、ス
ト レ ッ サ ー の 対 人 関 係 の 「 (14)私 の 職 場 の 雰 囲 気 は 友 好 的 で あ る 。」 は 逆 転
項目であり、否定の回答が高得点となる。解析は、まず各尺度の信頼性とし
て Cronbach の α 信 頼 性 係 数 を 算 出 し た 。 次 に 因 子 的 妥 当 性 を 、全 57 項 目 、
ス ト レ ッ サ ー 17 項 目 、ス ト レ ス 反 応 29 項 目 の 因 子 分 析 を 行 い 因 子 構 造 を 検
討した。因子分析は、共通性を1とした主因子法により因子を抽出しバリ
マックス回転を行った。
基準値の設定に関しては、男女別に各尺度得点の平均値、標準偏差から
t-score を 算 出 し て 35 未 満 、 35∼ 45、45∼ 55、55 ∼ 65、65 以 上 と 5 段 階 評
価 し 、各 段 階 ご と の 素 点 を 決 定 し て ス ト レ ッ サ ー 、ス ト レ ス 反 応 等 の 最 も 高
い群をグレーゾーンとした。
こ れ ら の 解 析 に は SPSS for Windows を 使 用 し た 。
127
C.結果
簡 易 調 査 票 の 各 尺 度 の Cronbach の α 信 頼 性 係 数 を 算 出 し た (表 1 )。
「 ス ト レ ス の 原 因 と 考 え ら れ る 因 子 」 に 関 し て 、 仕 事 の ス ト レ ッ サ -全 体 で
は α 信 頼 性 係 数 は 0.74、下 位 尺 度 の 量 的 労 働 負 荷 は 0.77、質 的 労 働 負 荷 0.68、
コ ン ト ロ ー ル 0.65 、 対 人 関 係 0.64、 働 き が い 0.79 で あ っ た 。「 ス ト レ ス に
よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 」 に つ い て は 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 18 項 目 で は α 信
頼 性 係 数 0.84、活 気 を 除 い た 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 15 項 目 で は 0.91、活 気 は
0.89、 怒 り 0.86、 疲 労 0.84、 不 安 0.71 、 抑 う つ 0.86 、 身 体 愁 訴 0.81 で あ っ
た 。「 ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る そ の 他 の 因 子 」 の 社 会 的 支 援 9 項 目 で は
α 信 頼 性 係 数 0.83、 職 場 の 社 会 的 支 援 (上 司 + 同 僚 )0.78、 上 司 の 支 援
表 1 職業性ストレス簡易調査票のα信頼性係数
全体
項目数
人数
男性
α係数
人数
女性
α係数
人数
α係数
17
11645
0.74
9652
0.74
1993
0.77
量的労働負荷
3
12069
0.77
9946
0.76
2123
0.77
質的労働負荷
3
12065
0.68
9943
0.66
2122
0.71
コントロール
3
12068
0.65
9964
0.65
2104
0.69
対人関係
3
11967
0.64
9877
0.63
2090
0.64
働きがい
2
12093
0.79
9975
0.80
2118
0.75
心理的ストレス反応(18 項目)
18
11847
0.84
9769
0.84
2078
0.83
心理的ストレス反応
(活気を除く 15 項目)
15
11907
0.91
9813
0.92
2094
0.91
活気
3
12073
0.89
9945
0.89
2128
0.87
怒り
3
12084
0.86
9953
0.86
2131
0.87
疲労
3
12102
0.84
9964
0.85
2138
0.83
不安
3
12090
0.71
9960
0.70
2130
0.73
抑うつ感
6
12041
0.86
9919
0.86
2122
0.84
11
12008
0.81
9894
0.82
2114
0.79
社会的支援(9 項目)
9
11795
0.83
9757
0.84
2038
0.83
職場の社会的支援(上司+同僚)
6
11844
0.78
9792
0.78
2052
0.78
上司の社会的支援
3
11895
0.79
9833
0.78
2062
0.81
同僚の社会的支援
3
11935
0.76
9840
0.75
2095
0.80
家族・友人の社会的支援
3
12024
0.83
9901
0.83
2123
0.83
仕事のストレッサー(17 項目)
身体的ストレス反応
128
0.79、 同 僚 の 支 援 0.76 、 家 族 ・ 友 人 の 社 会 的 支 援 0.83 で あ っ た 。
ま た 、 全 57 項 目 の 因 子 分 析 ( 主 成 分 分 析 、 バ リ マ ッ ク ス 回 転 ) を 行 い 3 因
子 を 抽 出 し た 。 累 積 寄 与 率 は 34.9% で あ っ た 。 第 1 因 子 は 活 気 及 び B(10)
気 が は り つ め て い る 以 外 の ス ト レ ス 反 応 の 項 目 で は い ず れ も 0.43 以 上 の 高
い 因 子 負 荷 量 を 示 し た 。 特 に 抑 う つ 6 項 目 は 0.52 か ら 0.64、 疲 労 3 項 目 は
0.58 か ら 0.67 と 高 か っ た 。 第 2 因 子 は 、 活 気 、 社 会 的 支 援 、 満 足 度 な ど ポ
ジ テ ィ ブ な 項 目 が 高 い 因 子 負 荷 量 を 示 し た 。特 に 因 子 負 荷 量 が 高 か っ た 項 目
は 、 仕 事 の 満 足 度 0.62、 働 き が い 0.56 で あ り 、 職 場 の 上 司 や 同 僚 の 社 会 的
支 援 の 6 項 目 も 0.58 か ら 0.64 と 因 子 負 荷 量 が 高 か っ た 。
ストレッサーでは、労働負荷を除いた項目の因子負荷量の絶対値が大き
か っ た 。量 的 労 働 負 荷 や 質 的 労 働 負 荷 で は 因 子 負 荷 量 は 0.58 か ら 0.75 と 高
か っ た 。 ス ト レ ス 反 応 の 「 (10)気 が は り つ め て い る 。」 は 第 3 因 子 の 負 荷 量
が 0.58 と 高 く 、 ス ト レ ッ サ ー に 近 い 項 目 で あ る こ と が 示 さ れ た (表 2 )。
ス ト レ ッ サ ー の 17 項 目 の 因 子 分 析 を 行 い 、 6 因 子 を 抽 出 し た (表 3 )。 累
積 寄 与 率 は 64.7% で あ っ た 。 第 1 因 子 は 、 質 的 労 働 負 荷 の 3 項 目 の 因 子 負
荷 量 が 0.68 か ら 0.82 と 高 か っ た 。 量 的 労 働 負 荷 の 「 (1) 非 常 に た く さ ん の
仕 事 を し な け れ ば な ら な い 。」も 0.62 と 高 か っ た 。 第 2 因 子 は 、 対 人 関 係 の
3 項 目 の 因 子 負 荷 量 が 高 か っ た 。第 3 因 子 は 量 的 労 働 負 荷 の 3 項 目 の 因 子 負
荷 量 が 高 く 、A (1 )、(2 )は 0.76、0.83 と 高 か っ た 。 第 4 因 子 は コ ン ト ロ ー ル
の 3 項 目 が 0.61 か ら 0.86 と 高 か っ た 。第 5 因 子 は 仕 事 の 適 性 と 働 き が い の
2 項 目 が そ れ ぞ れ 079、0.75 と 高 い 因 子 負 荷 量 を 示 し た 。ま た 、 技 術 の 低 活
用 1 項 目 が -0.65 と 負 荷 量 の 絶 対 値 が 大 き か っ た 。第 6 因 子 は 2 項 目 で「 A (7)
身 体 を 大 変 よ く 使 う 仕 事 だ 。」、「 A (15) 私 の 職 場 の 作 業 環 境 ( 騒音、照明、温
度 、 換 気 な ど ) は よ く な い 。」 で あ り 、 身 体 的 労 働 負 荷 と 職 場 環 境 が ひ と つ の
因子として抽出された。
129
表 2 全 57 項 目 の 因 子 分 析
第 1因
子
第 2因
子
第 3因
子
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
C
C
C
C
C
C
C
C
C
D
D
0.04
0.12
0.04
0.05
-0.02
0.03
0.09
-0.14
-0.13
-0.19
0.14
0.18
0.16
0.13
0.22
-0.30
-0.28
-0.29
-0.32
-0.31
0.43
0.47
0.55
0.59
0.58
0.67
0.29
0.56
0.59
0.64
0.61
0.58
0.64
0.55
0.52
0.54
0.48
0.59
0.52
0.48
0.50
0.48
0.54
0.48
0.47
0.50
-0.10
-0.02
0.03
-0.05
0.04
0.05
-0.03
0.05
0.07
-0.35
-0.15
0.03
-0.06
0.08
0.07
0.09
0.01
-0.02
0.24
0.28
0.46
-0.24
-0.39
-0.36
-0.53
-0.20
0.49
0.56
0.55
0.52
0.55
-0.28
-0.34
-0.27
-0.11
-0.10
-0.15
0.03
-0.26
-0.24
-0.33
-0.28
-0.24
-0.35
-0.22
-0.24
-0.01
0.00
-0.02
0.02
0.03
0.00
0.01
-0.05
-0.07
-0.05
-0.13
0.60
0.58
0.48
0.64
0.62
0.50
0.62
0.62
0.50
0.62
0.40
0.75
0.67
0.72
0.64
0.58
0.69
0.25
-0.42
-0.13
0.10
-0.14
0.25
0.20
0.09
0.09
0.06
0.23
0.14
0.02
0.05
0.27
0.28
0.29
0.39
0.40
0.17
0.58
0.26
0.27
0.19
0.04
0.08
0.17
0.05
0.08
0.02
0.02
0.04
0.02
-0.03
0.10
0.02
0.02
0.01
-0.07
0.04
0.01
0.01
-0.03
0.05
-0.01
-0.08
0.01
-0.04
-0.05
0.00
0.00
(1) 非 常 に た く さ ん の 仕 事 を し な け れ ば な ら な い 。
(2) 時 間 内 に 仕 事 が 処 理 し き れ な い 。
(3) 一 生 懸 命 働 か な け れ ば な ら な い 。
(4) か な り 注 意 を 集 中 す る 必 要 が あ る 。
(5) 高 度 の 知 識 や 技 術 が 必 要 な む ず か し い 仕 事 だ 。
(6) 勤 務 時 間 中 は い つ も 仕 事 の こ と を 考 え て い な け れ ば な ら な い 。
(7) 身 体 を 大 変 よ く 使 う 仕 事 だ 。
(8) 自 分 の ペ ー ス で 仕 事 が で き る 。
(9) 自 分 で 仕 事 の 順 番 ・ や り 方 を 決 め る こ と が で き る 。
(10) 職 場 の 仕 事 の 方 針 に 自 分 の 意 見 を 反 映 で き る 。
(11) 自 分 の 技 能 や 知 識 を 仕 事 で 使 う こ と が 少 な い 。
(12) 私 の 部 署 内 で 意 見 の く い 違 い が あ る 。
(13) 私 の 部 署 と 他 の 部 署 と は う ま が 合 わ な い 。
(14) 私 の 職 場 の 雰 囲 気 は 友 好 的 で あ る 。
(15) 私 の 職 場 の 作 業 環 境 (騒 音 、 照 明 、 温 度 、 換 気 な ど )は よ く な い 。
(16) 仕 事 の 内 容 は 自 分 に あ っ て い る 。
(17) 働 き が い の あ る 仕 事 だ 。
(1) 活 気 が わ い て く る 。
(2) 元 気 が い っ ぱ い だ 。
(3) 生 き 生 き す る 。
(4) 怒 り を 感 じ る 。
(5) 内 心 腹 立 た し い 。
(6) イ ラ イ ラ し て い る 。
(7) ひ ど く 疲 れ た 。
(8) へ と へ と だ 。
(9) だ る い 。
(10) 気 が は り つ め て い る 。
(11) 不 安 だ 。
(12) 落 着 か な い 。
(13) ゆ う う つ だ 。
(14) 何 を す る の も 面 倒 だ 。
(15) 物 事 に 集 中 で き な い 。
(16) 気 分 が 晴 れ な い 。
(17) 仕 事 が 手 に つ か な い 。
(18) 悲 し い と 感 じ る 。
(19) め ま い が す る 。
(20) 体 の ふ し ぶ し が 痛 む 。
(21) 頭 が 重 か っ た り 頭 痛 が す る 。
(22) 首 筋 や 肩 が こ る 。
(23) 腰 が 痛 い 。
(24) 目 が 疲 れ る 。
(25) 動 悸 や 息 切 れ が す る 。
(26) 胃 腸 の 具 合 が 悪 い 。
(27) 食 欲 が な い 。
(28) 便 秘 や 下 痢 を す る 。
(29) よ く 眠 れ な い 。
気軽に話:上司
気軽に話:職場の同僚
気軽に話:配偶者、家族、友人等
困った時の頼り:上司
困った時の頼り:職場の同僚
困った時の頼り:配偶者、家族、友人等
個人的な問題の相談:上司
個人的な問題の相談:職場の同僚
個人的な問題の相談:配偶者、家族、友人等
仕事の満足度
家庭生活の満足度
130
表 3 仕 事 の ス ト レ ッ サ ー 17 項 目 の 因 子 分 析
第 1 因子 第 2 因子 第 3 因子 第 4 因子第 5 因子 第 6 因子
A (1) 非常にたくさんの仕事をしなければならない。
0.39
0.10
0.76
A (2) 時間内に仕事が処理しきれない。
0.23
0.15
0.83
A (3) 一生懸命働かなければならない。
0.62
0.05
0.42
A (4) かなり注意を集中する必要がある。
0.82
0.03
0.04
A (5) 高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ。
0.68
0.15
0.15
A (6) 勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなけれ
ばならない。
0.72
0.01
0.27
A (7) 身体を大変よく使う仕事だ。
0.16
A (8) 自分のペースで仕事ができる。
0.16
0.01
0.05
0.10
0.00
0.04
0.01
0.20
0.05
0.17
0.05
0.24
0.18
0.06
0.11
0.02
0.01
0.71
0.10
0.86
0.08
0.25
0.61
0.22
0.02
0.11
A (10) 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる。
0.06
A (11) 自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない。
0.12
0.05
0.05
0.02
0.26
0.01
A (12) 私の部署内で意見のくい違いがある。
0.05
0.76
0.16
A (13) 私の部署と他の部署とはうまが合わない。
0.01
0.76
0.16
A (14) 私の職場の雰囲気は友好的である。
0.12
0.63
0.15
A (15) 私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)
はよくない。
0.01
0.01
0.30
0.00
0.19
0.26
A (9) 自分で仕事の順番・やり方を決めることができる。
A (16) 仕事の内容は自分にあっている。
A (17) 働きがいのある仕事だ。
0.14
0.05
0.40
0.02
0.00
0.07
0.05
0.05
0.02
0.78
0.02
0.13
0.15
0.04
0.01
0.21
0.13
0.65
0.12
0.05
0.24
0.05
0.03
0.26
0.79
0.10
0.08
0.23
0.75
0.07
0.35
0.11
0.10
0.05
0. 6 2
ス ト レ ス 反 応 29 項 目 の 因 子 分 析 を 行 い 8 因 子 を 抽 出 し た (表 4 )。累 積 寄 与
率 は 66.4% で あ っ た 。第 1 因 子 は 、抑 う つ の 6 項 目 が 0.52 か ら 0.77 と 高 い
因 子 負 荷 量 を 示 し た 。 ま た 、 不 安 の 項 目 で あ る「 B (11 ) 不 安 だ 」、
「 B ( 12) 落
着 か な い 。」 も 同 じ 第 1 因 子 と し て 抽 出 さ れ た 。 第 2 因 子 は 、 活 気 の 3 項 目
が 0.85 か ら 0.89 と 非 常 に 高 い 因 子 負 荷 量 を 示 し た 。 第 3 因 子 は 、 怒 り の 3
項 目 が 0.68 か ら 0.87 と 高 く 、 第 4 因 子 は 、 疲 労 の 3 項 目 が 0.66 か ら 0.78
と 高 か っ た 。 第 5 , 6 ,7 因 子 は 各 々 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 項 目 が 抽 出 さ れ た 。
第5因子は、身体的ストレス反応の項目である肩こり、腰痛、眼疲労の3項
目 の 因 子 負 荷 量 が 0.65 か ら 0.78 と 高 か く 、 第 6 因 子 は 、 消 化 器 症 状 3 項 目
と 不 眠 が 0.43 か ら 0.75 と 高 か っ た 。 第 7 因 子 は 、 め ま い 、 関 節 痛 、 頭 重 ・
頭 痛 、 動 悸 ・ 息 切 れ の 4 項 目 が 0.48 か ら 0.71 の 因 子 負 荷 量 で あ っ た 。 第 8
因 子 は 、 不 安 の 3 項 目 が 0.49 か ら 0.71 の 因 子 負 荷 量 を 示 し た 。
131
表 4 ス ト レ ス 反 応 29 項 目 の 因 子 分
B (1) 活気がわいてくる。
第 1 因子 第 2 因子 第 3 因子 第 4 因子 第 5 因子 第 6 因子 第 7 因子 第 8 因子
-0.18
-0.14
B (2) 元気がいっぱいだ。
B (3) 生き生きする。
-0.15
0.17
B (4) 怒りを感じる。
0.22
B (5) 内心腹立たしい。
B (6) イライラしている。
0.28
0.18
B (7) ひどく疲れた。
0.23
B (8) へとへとだ。
B (9) だるい。
0.34
-0.02
B (10) 気がはりつめている。
0.51
B (11) 不安だ。
B (12) 落着かない。
0.57
0.59
B (13) ゆううつだ。
0.72
B (14) 何をするのも面倒だ。
B (15) 物事に集中できない。
0.77
0.55
B (16) 気分が晴れない。
0.73
B (17) 仕事が手につかない。
B (18) 悲しいと感じる。
0.52
0.17
B (19) めまいがする。
0.08
B (20) 体のふしぶしが痛む。
B (21) 頭が重かったり頭痛がする。 0.15
0.08
B (22) 首筋や肩がこる。
0.09
B (23) 腰が痛い。
B (24) 目が疲れる。
0.08
0.14
B (25) 動悸や息切れがする。
0.10
B (26) 胃腸の具合が悪い。
B (27) 食欲がない。
0.16
0.15
B (28) 便秘や下痢をする。
0.25
B (29) よく眠れない。
0.85
0.88
0.89
-0.06
-0.14
-0.15
-0.09
-0.06
-0.20
0.14
-0.16
-0.13
-0.27
-0.16
-0.10
-0.32
-0.07
-0.11
-0.05
-0.04
-0.09
-0.08
-0.01
-0.05
-0.01
-0.05
-0.10
-0.04
-0.11
-0.10
-0.07
-0.10
0.87
0.85
0.68
0.22
0.17
0.14
0.17
0.18
0.21
0.26
0.16
0.11
0.25
0.09
0.18
0.07
0.07
0.07
0.06
0.10
0.06
0.05
0.13
-0.01
0.09
0.03
-0.04
-0.10
-0.08
0.13
0.12
0.26
0.77
0.78
0.66
0.33
0.10
0.15
0.19
0.26
0.17
0.19
0.09
-0.06
0.15
0.09
0.20
0.15
0.01
0.18
0.05
0.09
0.11
0.03
0.09
-0.05
-0.05
-0.06
0.07
0.08
0.13
0.19
0.11
0.23
0.10
0.09
0.08
0.09
0.10
0.11
0.12
0.03
0.05
0.08
0.40
0.38
0.78
0.65
0.70
0.07
0.19
-0.02
0.19
0.11
-0.05
-0.09
-0.08
0.07
0.08
0.10
0.10
0.08
0.16
0.07
0.10
0.12
0.14
0.13
0.14
0.18
0.12
0.13
0.18
0.01
0.23
0.12
0.06
0.21
0.19
0.75
0.62
0.75
0.43
-0.04
-0.06
-0.03
0.08
0.08
0.07
0.12
0.19
0.15
0.07
0.07
0.09
0.08
0.09
0.08
0.09
0.19
0.25
0.71
0.62
0.48
0.13
0.33
0.03
0.68
0.15
0.26
0.04
0.20
0.06
-0.06
-0.05
0.08
0.13
0.20
0.21
0.22
0.03
0.71
0.60
0.49
0.37
-0.08
-0.02
0.29
0.02
0.35
0.03
0.04
0.00
0.05
0.00
0.15
0.11
0.05
0.17
-0.08
0.24
132
今 回 の 結 果 か ら 算 出 し た 判 定 基 準 を 示 す ( 表 5 )。
表5−1
133
表5−2
134
表5−3 性別、項目別平均値
男性
尺 度
素点計算法
年 令
女性
n
平均
値
10,041
38.4
標準
n
平均 標準偏
偏差
値
差
10.1 2 , 1 7 5 35.3
10.5
【ストレスの原因と考えられる因子】
心理的な仕事の負担(量)
No.1+No.2+No.3
9,993
6.3
2.0 2,133
7.4
2.2
心理的な仕事の負担(質)
9,990
6.4
1.8 2,132
7.4
2.0
10,048
3.0
0.9 2,160
3.0
1.0
自覚的な身体的負担度
No.4+No.5+No.6
No.7
9,923
8.7
1.7 2,100
8.9
1.9
職場環境によるストレス
No.12+No.13+ ( 5 No.14)
No.15
10,041
2.7
1.0 2,146
2.6
1.0
仕事のコントロール度
No.8+No.9+No.10
10,012
7.0
1.9 2,114
7.1
2.0
あなたの技能の活用度
No.11
10,035
3.0
0.8 2,133
2.8
0.8
あなたが感じている仕事の適
性度
働きがい
No.16
10,034
2.2
0.8 2,143
2.2
0.8
No.17
10,033
2.2
0.8 2,135
2.4
0.8
9,993
6.7
2.2 2,138
6.6
2.3
職場の対人関係でのストレス
【ストレスによっておこる心身の反応】
活気
No.1+No.2+No.3
イライラ感
No.4+No.5+No.6
10,000
6.3
2.1 2,141
6.5
2.2
疲労感
No.7+No.8+No.9
10,010
6.3
2.3 2,148
6.4
2.3
不安感
No.10+No.11+No.12
10,007
6.0
2.0 2,140
5.5
2.1
抑うつ感
No.13 ∼ No.18 の 合 計
9,966
10.0
3.4 2,132
10.1
3.4
9,941
17.6
4.9 2,124
19.2
5.1
【ストレス反応に影響を与える他の因子】
上司からのサポート
No.1+No.4+No.7
同僚からのサポート
No.2+No.5+No.8
9,880
9,887
7.4
6.9
2.0
1.8
2,071
2,105
8.1
6.9
2.1
2.0
家 族 や 友 人 か ら の サ ポ ート
No.3+No.6+No.9
9,948
5.0
1.9
2,133
4.6
1.7
No.1+No.2
10,014
4.2
1.3
2,147
4.1
1.2
身体愁訴
仕事や生活の満足度
No.19 ∼ No.29 の
合計
135
表5−4 職種別平均値(男性)
上段:人数、下段:平均値±標準偏差
量的負担
専門技術
事務
販売
サービス
運輸
生産技能
保安
その他
合計
3783
1097
187
20
21
1322
47
129
6606
6.2 ±2.0 6.4 ±2.0 6.0 ±1.7 6.7 ±2.0 8.3 ±1.7 6.5 ±2.1 8.6 ±1.7 6.8 ±2.3 6.3 ±2.0
質的負担
3779
1094
190
20
22
1325
46
129
6605
6.2 ±1.8 6.6 ±1.7 6.3 ±1.7 6.7 ±1.7 7.2 ±1.7 6.7 ±1.8 7.1 ±2.0 6.7 ±1.9 6.4 ±1.8
身体的負担
3802
1102
192
20
22
1330
47
132
6647
3.0 ±0.9 3.4 ±0.7 3.0 ±0.8 3.0 ±1.0 2.8 ±1.0 2.3 ±1.0 3.1 ±0.8 2.9 ±1.0 2.9 ±0.9
対人関係
3765
1094
189
19
21
1312
46
131
6577
8.7 ±1.7 8.7 ±1.6 8.9 ±1.6 8.3 ±2.1 10.0±1.6 8.6 ±1.7 8.4 ±2.1 9.2 ±1.8 8.7 ±1.7
職場環境
コントロール
技能の活用
適性
働きがい
活気
イライラ
疲労
不安
抑うつ
3794
1102
192
20
22
1332
47
132
6641
2.7 ±1.0
3.1 ±0.9
3.1 ±0.8
3.0 ±0.8
3.1 ±. 8
2.3 ±1.0
3.0 ±0.9
2.9 ±1.1
2.7 ±1.0
3791
1098
191
19
22
1321
47
131
6620
7.0 ±1.8
6.7 ±1.7
6.7 ±1.7
7.2 ±1.0
8.3 ±1.7
7.5 ±1.9
7.8 ±2.2
6.9 ±2.1
7.1 ±1.8
3796
1101
191
20
22
1329
47
132
6638
3.1 ±0.7
2.9 ±0.8
3.2 ±0.7
2.9 ±0.8
3.2 ±0.8
2.8 ±0.8
2.6 ±0.7
2.9 ±0.8
3.0 ±0.8
3794
1101
192
20
21
1331
47
132
6638
2.2 ±0.7
2.3 ±0.8
2.1 ±0.7
2.3 ±1.0
1.9 ±0.7
2.3 ±0.8
2.0 ±0.8
2.1 ±0.8
2.2 ±1.7
3795
1101
191
20
21
1330
47
132
6637
2.2 ±0.8
2.3 ±0.8
2.1 ±0.7
2.3 ±0.9
2.0 ±0.6
2.4 ±0.8
2.1 ±0.8
2.2 ±0.8
2.3 ±0.8
3779
1100
190
20
22
1323
46
130
6610
6.6 ±2.2
6.8 ±2.2
7.1 ±2.0
6.7 ±1.7
7.8 ±2.4
6.5 ±2.1
7.2 ±2.3
7.4 ±2.3
6.6 ±2.2
3772
1102
192
20
22
1327
46
131
6612
6.3 ±2.1
6.2 ±2.1
6.2 ±1.9
6.8 ±2.1
4.7 ±1.9
6.6 ±2.2
5.7 ±2.1
5.8 ±2.0
6.3 ±2.1
3784
1104
191
20
22
1324
46
130
6621
6.3 ±2.3
5.9 ±2.1
5.7 ±2.2
6.4 ±1.8
4.3 ±1.3
6.6 ±2.4
4.8 ±1.8
5.6 ±2.1
6.2 ±2.3
3787
1100
192
20
21
1322
47
131
6620
5.9 ±2.0
5.9 ±1.9
6.0 ±1.9
6.1 ±1.6
4.4 ±1.2
6.0 ±2.0
5.4 ±1.8
5.6 ±1.9
5.9 ±2.0
3775
1096
191
20
22
1311
47
130
6592
9.5 ±3.0
9.8 ±2.8
189
18
10.0±3.3 9.8 ±3.4
身体愁訴
3774
1091
7.2 ±1.6 10.5±3.5 8.4 ±2.7
22
1305
45
8.8 ±2.9 10.0±3.4
129
6573
17.3±4.8 17.3±4.8 16.8±4.0 17.0±.4 14.3±4.1 18.4±5.5 16.3±4.2 16.6±4.4 17.5±4.7
上司の支援
同僚の支援
家庭支援
満足度
3747
1081
188
19
20
1301
47
127
6530
7.4 ±2.0
7.3 ±2.0
6.9 ±1.8
7.4 ±2.2
7.7 ±2.0
7.6 ±2.0
8.5 ±1.7
7.2 ±2.3
7.4 ±2.0
3748
1080
188
20
21
1304
46
128
6535
6.8 ±1.8
6.9 ±1.9
6.3 ±1.6
6.9 ±1.6
6.3 ±2.1
7.0 ±1.8
7.2 ±1.7
6.6 ±2.0
6.9 ±1.8
3762
1091
186
20
22
1318
47
127
6573
5.0 ±1.9
5.0 ±1.9
4.9 ±1.9
4.8 ±1.7
4.9 ±2.1
5.2 ±2.1
5.3 ±2.0
4.7 ±2.1
5.0 ±1.9
3785
1101
191
20
22
1324
46
130
6619
4.2 ±1.2
4.0 ±1.2
3.8 ±1.1
4.1 ±1.3
3.4 ±1.0
4.4 ±1.3
3.6 ±1.1
3.8 ±1.3
4.2 ±1 2
136
表5−5 職種別平均値(女性)
上段 :人数、下段:平均値±標準偏差
専門技術
事務
販売
サービス
460
7.3± 2.2
463
7.2± 1.9
469
2.8± 1.0
449
9.1± 1.9
431
7.9± 2.2
429
7.9± 1.9
434
3.5± 0.7
429
9.0± 1.8
7
6.3± 1.7
6
6.7± 1.8
7
2.9± 0.9
7
8.4± 2.1
466
433
2.6± 1.0
454
7.1± 2.1
461
2.9± 0.8
468
2.1± 0.7
462
2.3± 0.8
生産技能
保安
その他
合計
29
6.1± 1.9
28
7.2± 1.7
29
3.0± 0.9
29
8.6± 2.0
160
7.5± 2.0
161
7.3± 2.0
163
2.4± 1.0
149
8.6± 2.1
3
9.7± 2.1
3
11.0 ±1 . 0
3
3.0± 1.0
2
10.5
20
8.9± 2.3
21
9.0± 2.0
21
2.81 ±1 . 1
20
9.5± 2.1
1110
7.6± 2.2
1111
7.5± 2.0
1126
3.0± 1.0
1085
9.0± 1.9
7
28
163
3
21
1121
2.7± 1.0
429
6.7± 1.8
430
2.8± 0.8
429
2.2± 0.8
426
2.5± 0.8
2.1± 1.1
7
7.7± 1.3
7
2.3± 0.8
7
3.0± 0.8
7
3.1± 0.7
2.3± 0.9
26
7.7± 2.1
29
2.6± 0.9
29
2.3± 0.8
29
2.5± 0.7
2.3± 1.1
162
7.8± 2.2
157
2.6± 0.9
160
2.2± 0.8
161
2.5± 0.8
4.0± 0.0
2
5.5
3
2.7± 0.6
3
1.3± 0.6
3
1.7± 0.6
2.9± 1.1
21
7.7± 2.7
21
2.0± 0.7
21
2.2± 0.8
21
2.6± 0.8
2.6± 1.0
1101
7.1± 2.1
1108
2.8± 0.8
1117
2.2± 0.8
1109
2.4± 0.8
466
6.8± 2.3
467
6.2± 2.1
468
6.5± 2.2
465
5.4± 2.1
466
9.7± 3.2
433
6.4± 2.2
431
6.4± 2.2
433
6.2± 2.2
431
5.4± 2.0
430
10.3 ±3 . 4
7
7.0± 3.1
7
7.6± 1.7
7
7.4± 1.6
7
5.9± 1.9
7
12.1 ±3 . 6
28
6.1± 1.9
28
7.0± 1.8
28
7.1± 2.6
28
5.3± 1.4
28
9.6± 2.8
156
6.5± 2.3
157
6.9± 2.2
160
6.6± 2.1
156
5.6± 2.0
154
10.2 ±3 . 2
3
8.0± 4.6
3
3.7± 0.6
3
3.7± 1.7
3
3.7± 0.6
3
6.0± 0.0
21
6.9± 1.9
21
6.42.2±
21
5.3± 1.9
21
5.1± 2.5
21
9.3± 3.1
1114
6.6± 2.3
1114
6.4± 2.2
1120
6.4± 2.2
1111
5.4± 2.0
1109
10.0 ±3 . 3
身体愁訴
460
19.1 ±5 . 3
425
18.9 ±4 . 7
7
20.0 ±2 . 0
27
20.2 ±5 . 4
157
19.1 ±5 . 0
3
12.7 ±2 . 9
21
16.7 ±4 . 0
1100
19.0 ±5 . 0
上司の支援
437
8.0± 2.2
449
6.7± 2.0
458
4.5± 1.7
463
3.9± 1.1
424
7.9± 2.0
424
6.9± 1.9
426
4.7± 1.7
432
4.3± 1.2
7
9.6± 1.1
7
7.6± 1.3
7
4.6± 2.1
7
4.4± 0.8
29
8.6± 2.0
29
6.8± 1.8
29
5.0± 2.1
29
4.0± 1.1
149
8.7± 2.0
149
7.2± 2.0
157
4.8± 2.0
159
4.2± 1.1
3
5.3± 1.2
2
5.0± 2.0
3
5.3± 1.2
3
2.71.2±
18
8.2± 1.7
20
7.1± 2.5
21
4.3± 1.8
21
3.8± 1.0
1067
8.0± 2.1
1087
6.8± 2.0
1101
4.6± 1.8
1114
4.1± 1.2
量的負担
質的負担
身体的負担
対人関係
職場環境
コントロール
技能の活用
適性
働きがい
活気
イライラ
疲労
不安
抑うつ
同僚の支援
家庭支援
満足度
運輸
137
D.考察
ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ が 開 発 し た 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 は 、労 働 現 場
で 容 易 に 使 用 可 能 と す る た め に 項 目 数 が 57 項 目 と 少 な く 、 多 く の 尺 度 は わ
ず か 3 項 目 で 構 成 さ れ て い る 。一 般 に は 項 目 数 が 少 な い と 信 頼 性 の 低 下 が 懸
念 さ れ る 。し か し 、簡 易 調 査 票 の 信 頼 性 を α 信 頼 性 係 数 を 用 い て 検 討 し た 結
果 、 ス ト レ ッ サ ー の 尺 度 で は コ ン ト ロ ー ル 、 対 人 関 係 が 0.65 と や や 信 頼 性
が 低 い が 、他 の ス ト レ ッ サ ー 、ス ト レ ス 反 応 や 社 会 的 支 援 で は 各 尺 度 の 信 頼
性 は 高 か っ た 。ま た 簡 易 調 査 票 の 各 尺 度 の 構 成 項 目 の 内 的 整 合 性 が 高 く 、信
頼性が比較的良好であることが示された。
因 子 分 析 の 結 果 か ら 、ほ と ん ど の 項 目 は 尺 度 と 因 子 が 一 致 し て お り 、ほ ぼ
尺 度 構 成 に 対 応 し た 因 子 構 造 で あ る こ と が 確 認 で き た 。 全 57 項 目 の 因 子 分
析の結果から概ねストレッサーとストレス反応が良好に区別されているこ
とが確認できた。
ス ト レ ッ サ ー の 17 項 目 の 因 子 分 析 の 結 果 か ら 、 因 子 構 造 は ほ ぼ 尺 度 内 容
に対応していた。
し か し 、 量 的 労 働 負 荷 の 「 A (3) 一 生 懸 命 働 か な け れ ば な ら な い 。」 が 質
的 労 働 負 荷 の 第 1 因 子 に 0. 62 と い う 高 い 負 荷 量 を 示 し た 。 こ の 項 目 は 前 回
「 ス ト レ ス が 原 因 と 考 え ら れ る 因 子 」の 第 1 番 目 の 質 問 項 目 で あ っ た も の で
あ り 、ま っ さ き に 倫 理 的 な も の を 尋 ね て い る よ う に 思 わ れ る と い う こ と で 最
終 版 簡 易 調 査 票 で は 順 序 を 下 げ て 、3 番 目 に 移 行 し た も の で あ る 。前 回 の 因
子 分 析 の 結 果 よ り も 量 的 労 働 負 荷 で 高 い 因 子 負 荷 量 を 示 し て い た が 、ま だ 、
倫 理 的 な も の と し て 、或 い は 集 中 し て 一 生 懸 命 働 か な け れ ば な ら な い と 理 解
された可能性がある。
E.結論
ストレス測定グループで開発した職業性ストレス簡易調査票の各尺度の
信頼性は高く、尺度構成と因子構造との対応が認められた。
研 究 者 : 下 光 輝 一 ( 東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 )、 原 谷 隆 史 ( 労
働省産業医学総合研究所)
研 究 協 力 者 : 中 村 賢 ( 北 里 大 学 医 療 衛 生 学 部 )、 川 上 憲 人 ( 岐 阜 大 学 医
学 部 公 衆 衛 生 学 )、 林 剛 司( 日 立 健 康 管 理 セ ン タ )、 廣 尚
典 ( 日 本 鋼 管 病 院 鶴 見 保 健 セ ン タ ー )、 荒 井 稔 ( 順 天 堂 大
学 越 谷 病 院 )、 宮 崎 彰 吾( NKK京 浜 保 健 セ ン タ ー )、古 木 勝 也
( 京 都 工 場 保 健 会 産 業 保 健 部 )、 大 谷 由 美 子 ( 東 京 医 科 大 学
衛 生 学 公 衆 衛 生 学 教 室 )、 小 田 切 優 子 ( 東 京 医 科 大 学 衛 生 学
公衆衛生学教室)
138
F.文献
1) 中 村 賢 、 下 光 輝 一 、 神 山 昭 男 : 職 場 に お け る ス ト レ ス 評 価 の 実 態 に 関
す る 調 査 研 究 . 労 働 省 平 成 8 年 度「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」
労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告
書 ,1997:105-110.
2) Karasek R:Job Content Questionnaire. Department of Industrial and Systems
Engineering, Los Angels :University of Southern California, 1985.
3) 川 上 憲 人 、 荒 記 俊 一 、 小 林 章 雄 、 原 谷 隆 史 、 古 井 景 :Karasek 職 業 性 ス ト
レ ス 尺 度 日 本 語 版 の 信 頼 性 と 妥 当 性 . 日 衛 誌 1992;47:492 .
4) Hurrell JJJr, McLaney MA :Exposure to job stress--a new psychometric
instrument. Scand J Work Environ Health 1988;14(Suppl 1):27-28.
5) 原 谷 隆 史 、 川 上 憲 人 、 荒 記 俊 一 : 日 本 語 版 NIOSH 職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票
の 信 頼 性 お よ び 妥 当 性 . 産 業 医 学 1993;35:S214.
6) 川 上 憲 人 : 職 業 性 ス ト レ ス の 健 康 影 響 に 関 す る 長 期 コ ホ ー ト 研 究 . 労 働
省平成7年度「作業関連疾患の予防に関する研究」労働の場におけるス
ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 ,15-20, 1996.
7) 原 谷 隆 史:JCQ お よ び NIOSH 職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 の 心 理 測 定 学 的 特 性 .
労働省平成8年度「作業関連疾患の予防に関する研究」労働の場におけ
る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 , 1997:15-20 .
8) 原 谷 隆 史: 簡 易 ス ト レ ス 調 査 票 の 信 頼 性 と 妥 当 性 .労 働 省 平 成 9 年 度「 作
業関連疾患の予防に関する研究」労働の場におけるストレス及びその健
康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 , 199 8 :116-124.
139
Ⅲ−2−2.職業性ストレス簡易調査票における職業性ス
トレッサーおよびソーシャルサポートとス
トレス反応の関連性の検討―共分散構造分
析(MIMIC モ デ ル) に よ る ア プ ロ ー チ ―
A.はじめに
前 節 で は 、 平 成 11年 度 に 収 集 し た 1 万 人 を 越 え る 労 働 者 の デ ー タ を 用 い て
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 (以 下 、 簡 易 調 査 票 ) が 職 務 ・ 職 場 に お け る ス ト
レッサー、心理的・身体的なストレス反応、およびソーシャルサポートの3
つ の 因 子 よ り 構 成 さ れ て い る こ と を 確 認 し た 。こ こ で は ス ト レ ッ サ ー や ソ ー
シャルサポートとストレス反応との関連性について検討する。
B . 関 連 性 の 検 討 方 法( 解 析 方 法 の 選 択)
1.重回帰分析の制約
ス ト レ ス 反 応 に 関 す る 変 数 を 連 続 量 と し た 場 合 、ス ト レ ッ サ ー と ス ト レ ス
反応の関連性を検討するのに最も一般的に用いられてきた解析手法は重回
帰 分 析 で あ る 。す な わ ち 、例 え ば ス ト レ ス 反 応 と し て の 「 う つ 症 状 」 を 従 属 変
数 、ス ト レ ッ サ ー ・ ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト を 独 立 変 数 と し て 重 回 帰 分 析 を 行 い 、
労働者の「うつ症状」に有意な関連を示すストレッサーやサポートを明らか
に す る 方 法 で あ る 。 た だ し 、 重 回 帰 分 析 で は 従 属 変 数 は 1つ で な く て は な ら
ず 、複 数 の ス ト レ ス 反 応 に 対 し て 適 用 す る 場 合 に は 、各 ス ト レ ス 反 応 領 域 ご
と に 別 々 に 解 析 を 繰 り 返 し て 行 う 必 要 が あ る 。こ れ を 多 重 回 帰 分 析 と 呼 ぶ こ
ともある。
ま た 、 重 回 帰 分 析 で は 独 立 変 数 (説 明 変 数 )は 互 い に 独 立 ( 無 相 関 ) で あ る こ
と を 前 提 と し て お り 、 こ れ が 満 た さ れ な い (=相 関 が あ る ) 場 合 に は 多 重 共 線
性 (multicollinearity)に よ り 関 連 性 の 推 定 値 (回 帰 係 数 ) に バ イ ア ス が か か る こ
と が 知 ら れ て い る 。し か し 、ス ト レ ッ サ ー 同 士 あ る い は ス ト レ ッ サ ー と ソ ー
シャルサポート間に何らの相関も存在しない状況はむしろ非現実的であり、
この重回帰分析の前提条件はほとんど常に満たされないというのが実際で
ある。
簡 易 調 査 票 の 特 徴 は 多 次 元 測 定 ・ 評 価 に あ り 、ス ト レ ッ サ ー ・ ソ ー シ ャ ル サ
ポート・ストレス反応ともいくつかの測定内容で構成されていることである
1)
。し た が っ て 、各 ス ト レ ス 反 応 ご と の 影 響 要 因 を 明 ら か に す る こ と よ り も 、
ス ト レ ス 反 応 全 部 を 従 属 変 数 と し て 、ス ト レ ッ サ ー や サ ポ ー ト と の 関 連 性 を
同 時 に 検 討 し 、そ れ ぞ れ の 関 連 の 大 き さ を 明 ら か に す る 方 が 簡 易 調 査 票 に よ
る ス ト レ ス 評 価 の 全 体 像 を 反 映 し て い る と 思 わ れ る 。そ こ で こ こ で は 、共 分
散 構 造 分 析 (Covariance Structure Analysis / Structural Equation Modeling) に よ
る検討を試みた。
140
2.共分散分析の利点
共 分 散 構 造 分 析 と は 、直 接 観 測 で き な い 潜 在 変 数 (構 成 概 念 ) を 導 入 し , 潜 在
変 数 と 観 測 変 数 と の 間 の 因 果 関 係 を 同 定 す る こ と に よ っ て 、社 会 現 象 や 自 然
現 象 を 理 解 す る た め の 統 計 的 ア プ ロ ー チ の こ と で あ る 2) 。 基 本 的 に は 、 非 実
験 多 変 量 デ ー タ の 分 析 方 法 で , 因 子 分 析 と 多 重 回 帰 分 析 ( パ ス 解 析 )を 拡 張 し
たものである。自由にモデルを設定し、これを検証し、数値的に明確に関係
の程度を表すことができる。
共 分 散 分 析 に は 多 様 な 解 析 モ デ ル が あ る が 、こ こ で は 我 々 の 目 的 に 最 も 合
致 す る Multiple Indicator Multiple Cause Model (以 下 、MIMIC モ デ ル )を 選 択 し
た 。 共 分 散 構 造 分 析 の 基 調 は 潜 在 変 数 の 測 定 (検 証 的 因 子 分 析 )モ デ ル お よ び
潜 在 変 数 の 因 果 (構 造 ) モ デ ル で あ る が 、 MIMIC モ デ ル で は 潜 在 変 数 を 1つ だ
け 導 入 し 、そ れ を 媒 介 変 数 と し て 観 測 変 数 間 の 因 果 関 係 を 探 る 。重 回 帰 分 析
を 「 刺 激 -反 応 (S-R)モ デ ル 」 に 沿 っ た 解 析 方 法 と み な す と す れ ば 、MIMIC モ デ
ル は 「 刺 激 - 生 体 - 反 応 (S-O-R) モ デ ル 」 を 表 現 し た 解 析 方 法 と い う こ と も で き
る。
ま た 、 共 分 散 分 析 (MIMIC モ デ ル )は 独 立 変 数 間 の 相 関 (共 分 散 )成 分 を 許 容
し 、 そ れ ら も 同 時 に 推 定 す る こ と が 可 能 で あ る た め 、1.で 指 摘 し た 多 重 共 線
性 の 問 題 に つ い て も 効 果 的 で あ る 。要 す る に 、こ こ で 構 築 し た MIMIC モ デ ル
と は 、 ① 観 測 変 数 で あ る ス ト レ ッ サ ー お よ び ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト が (相 互 の
相 関 が 許 容 さ れ た 条 件 下 で )あ る 一 つ の 直 接 観 測 不 能 な 潜 在 変 数 (例 え ば 、 生
体 内 の ス ト レ ス 状 態)の 形 成 に 関 与 し 、 ② そ の 潜 在 変 数 が 観 測 変 数 で あ る 複
数のストレス反応に影響を及ぼすという因果関係を表現したモデルである。
こ の ① ス ト レ ッ サ ー → 潜 在 変 数 に 関 わ る 形 成 的 指 標 ( 偏 回 帰 係 数 に 相 当 )、②
潜 在 変 数 → ス ト レ ス 反 応 に 関 わ る 影 響 的 指 標 (単 回 帰 係 数 に 相 当 )の 双 方 を
同時に推定することが本節のねらいである。
C.方法
1.対象者
解 析 に 用 い た 簡 易 調 査 票 デ ー タ の 内 訳 は 、 前 節 に 記 し た と お り で あ る 。完
全 回 答 が 得 ら れ た 男 9,343名 、 女 1,918 名 の デ ー タ を 解 析 し た 。
2.変数の要約
全体像を効率良く把握するために、ストレッサー・ソーシャルサポート・
ス ト レ ス 反 応 と も 、内 容 的 に 類 似 す る 項 目 群 で 尺 度 化 を 行 い 、変 数 を 要 約 し
た 。表 1 に 尺 度 名 お よ び 各 尺 度 の 構 成 に 用 い た 質 問 項 目 の 番 号 を 列 記 し た 。
ス ト レ ッ サ ー 項 目 の 7・1 1・ 15は そ れ ぞ れ 単 一 項 目 で 、 今 回 の モ デ ル に は 入 れ
な か っ た 。 な お 、 潜 在 変 数 の 規 定 要 因 に は 、 観 測 (説 明 )変 数 か ら の 形 成 的 な
パ ス に 加 え て 、 観 測 不 能 ( 未 知 )な 変 動 要 因 か ら の パ ス も 設 定 し 得 る が 、 今 回
はあくまでも簡易調査票で測定されたストレッサーとソーシャルサポート
で規定される『ストレス状態』を潜在変数に想定したため、この
141
表 1 共 分 散 分 析 構 造 分 析 ( MIMIC モ デ ル ) に 用 い た 各 尺 度 変 数
尺 度 名
【ストレッサ−】
仕 事 の 量 的 負 担 : Quantitative Overload
仕 事 の 質 的 負 担 : Mental Demand
職 場 の 対 人 関 係 : Interpersonal Relations
仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 度 ( の 低 さ ) : Job
Control
仕 事 の 適 性 度 ( の 低 さ ) : Job Fitness
【ストレス反応】
活 気 ( の 低 下 ) : Lack of Vigor
イ ラ イ ラ 感 : Irritability
疲 労 感 : Fatigue
不 安 感 : Anxiety
抑 う つ 感 : Depressed Mood
身 体 愁 訴 : Somatic Symptoms
構 成 項 目
No.1 + No.2 + No.3
No.4 + No.5 + No.6
No.12 + No.13 + (5 - No.14)
No.8 + No.9+ No.10
No.16 + No.17
No.1 + No.2 + No.3
No.4 + No.5 + No.6
No.7 + No.8 + No.9
No.10 + No.11 + No.12
No.13 No.18の 合 計
No.19 No.29の 合 計
No.1 + No.4 + No.7
【ストレス反応に影響を与える他の因子】
No.2 + No.5 + No.8
上 司 か ら の サ ポ ー ト : Supervisor Support No.3 + No.6 + No.9
同 僚 か ら の サ ポ ー ト : Coworker Support
家 族 や 友 人 か ら の サ ポ ー ト : Family
Support
*解 析 に は 、 性 ・ 年 齢 も 説 明 変 数 に 入 れ た
変 動 要 因 を 含 め な い モ デ ル を 設 定 し た 。 年 齢 ・ 性 (男 = 0 、 女 =1)も 形 成 要 因 と
して投入した。
複 数 の 構 造 モ デ ル を 想 定 し て 、最 終 モ デ ル を 採 択 す る 目 的 で 共 分 散 構 造 分
析を実行する場合には、各モデルの適合度を比較・評価する必要がある。ま
た 、こ の 過 程 が 従 来 の 数 理 統 計 解 析 よ り 優 れ た 特 徴 の 一 つ で も あ る 。し か し
な が ら 、 今 回 の MIMIC モ デ ル 分 析 で は 、 対 立 モ デ ル を 設 定 し て お ら ず 、 こ こ
ではモデル全体の適合度の提示は省略する。
D.結果および考察
1 . 全 体 で の MIMIC モ デ ル 解 析
Fig 1に MIMIC モ デ ル お よ び 全 対 象 者 で の 各 指 標 の 推 定 値 (標 準 化 解 ) を 示
す 。 共 分 散 構 造 分 析 の 慣 例 に 従 い 、 観 測 変 数 は □ で 囲 い 、 潜 在 ( 非 観 測 )変 数
は ○ で 囲 ん で あ る 。ス ト レ ス 反 応 の 観 測 変 数 は い わ ば 従 属 変 数 で あ り 、潜 在
変数『ストレス状態』からのパスとそれでは説明されない部分(同じく潜在
変 数 と し て 扱 う 誤 差 )の パ ス の 2つ で 規 定 さ れ て い る 。
MIMIC モ デ ル で 推 定 し た パ ス ( 形 成 的 指 標 ・ 影 響 的 指 標 ) の い ず れ も p <
0.001の 高 い 有 意 水 準 を 示 し た 。 先 述 の よ う に 形 成 的 指 標 は 各 説 明 変 数 間 の
相 関 を 許 容 し た 上 で の 偏 回 帰 係 数 に 相 当 す る 。つ ま り 、他 の 形 成 要 因 の 影 響
142
を除外した後の各観測変数の関連性を示している。ストレッサーでは「仕事
の適性」・「職場の対人関係」・「仕事の量的負担」・「仕事の質的負担」・「仕事の
コントロール」の順で『ストレス状態』の形成に関連している。特に上位 3
ストレッサーの関連が大きく、「仕事の適合性」は「仕事の質的負担」や「仕事
の コ ン ト ロ ー ル 」 の 2倍 以 上 の 関 連 性 を 示 し て い る 。「 職 場 の 対 人 関 係 」 ・ 「 仕 事
の 量 的 負 担 」 も 「 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 」 の 2倍 以 上 と な っ て い る 。
ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト は い ず れ も 負 の 係 数 で 、『ストレス状態』の
形成に抑制的に関連していることを示している。「上司からのサポート」と
「家族からのサポート」は同程度の関連性を示しているが、「同僚からのサポ
ート」の関連性はそれらの半分程度でしかない。また、ソーシャルサポート
の 抑 制 的 効 果 は ス ト レ ッ サ ー の 形 成 的 指 標 に 比 し て か な り 小 さ く 、む し ろ 年
齢の関連性の方が大きい。若年層・女性の方が『 ス ト レ ス 状 態 』 を 形 成 し や
すい。
一方、ストレス反応への影響的指標に基づくと、『ストレス状態』は「抑
うつ感」・「イライラ感」・「疲労感」・「活気の低下」・「不安感」・「身体愁訴」の順
で 関 連 を 示 し て い た 。抑 う つ 感 と の 関 連 性 が 最 も 大 き い も の の 、「 身 体 愁 訴 」
以 外 の ス ト レ ス 反 応 と の 関 連 性 に は さ ほ ど 相 違 が な い 。 こ の こ と は 、ス ト レ
ス状態が多様な心理的・身体的な反応として発現している事実を再認識さ
143
せるものであり、ストレス反応を一つに限定して測定・評価することの限界
を 示 唆 す る 結 果 と も 解 釈 で き る か も し れ な い 。「 身 体 愁 訴 」 へ の 影 響 的 指 標 は
他より低いが、これは「身体愁訴」は「抑うつ感」や他のストレス反応よりも
『 ス ト レ ス 状 態 』 以 外 の 影 響 要 因 (例 え ば 、 体 質 や デ ー タ 収 集 時 点 で の 持 病
な ど )で 説 明 さ れ る 部 分 が 大 き い こ と を 示 し て い る 。
2 . 男 女 別 の MIMIC モ デ ル 解 析
Fig 2お よ び 3に 男 性 お よ び 女 性 労 働 者 に お け る 解 析 結 果 ( 標 準 化 解 )を 示 す 。
こ こ で 留 意 す べ き は 、 こ の MIMIC モ デ ル で は 、 あ く ま で も ス ト レ ッ サ ー の 5
観 測 変 数 、 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 3観 測 変 数 、 お よ び 年 齢 に 基 づ い て 形 成 さ
れ た あ る 潜 在 変 数 (構 成 概 念 )に 対 す る 各 観 測 変 数 の 関 連 性 の 大 き さ で あ り 、
ま た ス ト レ ス 反 応 の 6観 測 変 数 に 対 す る そ の 潜 在 変 数 の 影 響 の 大 き さ で あ る 。
し た が っ て 、 こ の 潜 在 変 数『 ス ト レ ス 状 態 』 は 男 性 労 働 者 と 女 性 労 働 者 で は 、
必 ず し も 同 一 次 元 で は な い こ と で あ る 。し た が っ て 、各 係 数 値 の 大 き さ を 厳
密 に 比 べ る こ と は で き な い 。た だ 、こ れ だ け 大 き な サ ン プ ル サ イ ズ で は そ の
相 違 は あ ま り 顕 著 で は な い と 考 え ら れ 、大 ま か な 比 較 は 可 能 で あ る と 思 わ れ
る。
男 性 労 働 者 は 全 対 象 者 の 83%を 占 め て お り 、全 対 象 者 に お け る 結 果 と ほ ぼ
同 様 と な っ て い る 。 一 方 、 女 性 労 働 者 の 方 (Fig 3)で は 、 い く つ か 男 性 労 働 者
とは異なる結果が得られた。最も大きな相違は、「同僚からのサポート」
144
か ら『 ス ト レ ス 状 態 』へ の 形 成 的 指 標 が 有 意 で な い こ と で あ る 。し か し 、「 家
族からのサポート」や「上司のサポート」はその分男性労働者よりも大きく
な っ て お り 、「 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 」 全 体 と し て の 抑 制 的 関 与 は ほ ぼ 同 等 で あ
ることがわかる。
もう一つの相違は、男性労働者では「仕事の量的負担」の方が「仕事の質的負
担 」 よ り だ い ぶ 大 き い 係 数 値 (後 者 は 前 者 の 60%程 度 )に な っ て い る が 、女 性 で
は む し ろ 質 的 負 担 の 方 が わ ず か に 大 き な 値 を 示 し て い る こ と で あ る 。た だ 、
これらの要因は男女とも「仕事の適合性」や「職場の対人関係」に比べると関
連性が小さい。これは、仕事自体の量的・質的負担の影響が小さいというよ
り も 「 仕 事 の 適 合 性 」 や 「 職 場 の 対 人 関 係 」 の 方 が 日 本 人 の『 ス ト レ ス 状 態 』の
形成により関与していると解釈すべきであろう。
仕 事 の 適 性 、あ る い は 俗 に 言 う 「 向 き ・ 不 向 き 」 は 、産 業 ・ 組 織 心 理 学 で は 古
くから検討されてきたテーマであるが、保健・医学研究者たちによるこれま
で の 職 業 性 ス ト レ ス 研 究 で は あ ま り 扱 わ れ て い な か っ た 。し か し 、こ こ で の
結 果 を 踏 ま え る と 、労 務 管 理 に お け る 職 場 配 属 ・ 配 転 の 際 、本 人 の 能 力 ・ 特 性
や 希 望 な ど に 十 分 な 配 慮 が 必 要 で あ る と い う こ と が 、職 業 性 ス ト レ ス 対 策 と
いう観点からも示唆される。
145
E.まとめ
1万 人 を 越 え る 日 本 人 労 働 者 か ら 得 た デ ー タ に 共 分 散 構 造 分 析 (MIMIC モ
デ ル )を 適 用 し 、 ス ト レ ッ サ ー ・ ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト ・ ス ト レ ス 反 応 の 全 体 と
しての関連性を検討した。その結果、ストレッサー・ソーシャルサポートと
も『 ス ト レ ス 状 態 』 に 有 意 な 関 与 を 認 め 、 ま た 様 々 な ス ト レ ス 反 応 に 有 意 に
関 連 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。こ れ ら の 関 連 性 は 男 女 と も ほ ぼ 同 様 で
あ っ た が 、 女 性 労 働 者 で は 「 同 僚 の サ ポ ー ト 」 は『 ス ト レ ス 状 態 』 に 関 与 し て
おらず、その分「家族のサポート」の関与は大きくなっていた。「仕事の適合
性 」 や 「 職 場 の 対 人 関 係 」 の『 ス ト レ ス 状 態 』 へ の 関 与 の 相 対 的 大 き さ か ら 、
労務管理の重要性が再認識された。
研 究 者 : 下 光 輝 一 (東 京 医 科 大 学 衛 生 公 衆 衛 生 学 教 室 )
岩 田 昇 (Life Course and Health Research
Center Florida International University)
F.文献
1) 下 光 輝 一 , 横 山 和 仁 , 大 野 裕 , 丸 田 俊 雅 , 谷 川 武 , 原 谷 隆 史 , 岩 田 昇 ,
大谷由美子, 小田切優子 : 職場におけるストレス測定のための簡便な調
査票の作成, 労 働 省 平 成 9 年 度 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 調 査 研 究 報
告 書 , 107-115, 1998.
2) 豊 田 秀 樹 : SASに よ る 共 分 散 構 造 分 析 , 東 京 大 学 出 版 会 , 1992.
146
Ⅲ−2−3.職業性ストレス簡易調査票における職業性ス
トレッサーおよびストレス反応測定項目の反
応特性の検討
―項目反応理論によるアプローチ―
A.はじめに
前 節 で は 、 共 分 散 構 造 分 析 に よ っ て 、 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 (以 下 、
簡 易 調 査 票 )で 捉 え た 職 務 ・ 職 場 に お け る ス ト レ ッ サ ー が そ れ ぞ れ『 ス ト レ ス
状態』を増大させる方向に有意に関連し、一方、ソーシャルサポートは抑制
する方向に関連していること、および『ストレス状態』が様々な心理的・身
体 的 な ス ト レ ス 反 応 に 有 意 に 関 連 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。こ こ で は 簡
易調査票の各質問項目の測定特性について検討する。
B . 項 目 特 性 の 検 討 方 法( 解 析 方 法 の 選 択)
1.古典的測定理論の制約
こ の 種 の 測 定 尺 度 の 構 成 項 目 の 特 性 を 検 討 す る 際 に 、い わ ゆ る 古 典 的 測 定
(テ ス ト ) 理 論 と 呼 ば れ る 正 規 分 布 を 前 提 と す る 線 形 関 数 に 依 拠 し た 方 が 一
般 的 で あ る 。 し か し 、 こ の 方 法 に は い く つ も の 問 題 点 が 指 摘 さ れ て い る 1) 。
そ の 最 大 の も の は 、① 標 本 集 団 の 特 性 と 測 定 尺 度 の 特 性 は 常 に 表 裏 一 体 の 関
係 に あ り 、こ れ を 分 け て 検 討 す る こ と は 不 可 能 で あ る と い う 点 で あ る 。つ ま
り 、 項 目 の 困 難 度 (症 状 測 定 の 場 合 な ら 閾 値 と 考 え て よ い )や 識 別 力 と い っ た
項目特性と測定尺度の信頼性・妥当性といった尺度特性は、あくまでも検討
に用いた標本集団における算定値にすぎないのである。
「 抑 う つ 感 」 の 測 定 尺 度 を 例 に と っ て み る と 、構 成 項 目 の Good-Poor分 析 (高
得 点 者 と 低 得 点 者 間 で の 回 答 の 有 意 差 検 定 )を 抑 う つ 感 が ほ ぼ 同 一 レ ベ ル に
集 中 し た よ う な 均 質 な 標 本 集 団 で 行 え ば 、 有 意 差 を 示 す 項 目 は 少 な く 、識 別
力 は 低 い と い う 結 論 に な る 。と こ ろ が 、患 者 と 健 常 者 が 同 数 含 ま れ る よ う な
抑 う つ レ ベ ル の ば ら つ き が 非 常 に 大 き い 標 本 な ら 、ど の 項 目 も 非 常 に 高 い 有
意 水 準 の 識 別 力 で あ る と い う 結 論 に な る 。 こ の よ う に 、ど の よ う な 標 本 集 団
を 用 い る か に よ っ て 、項 目 特 性 や 尺 度 特 性 が 大 き く 異 な っ て し ま う 。こ れ を
“ sample (group) dependency ” と 呼 び 、 古 典 的 測 定 理 論 の 最 大 の 問 題 点 で あ
ると云われている。
こ れ 以 外 に も 、 ② 同 じ 項 目 か ら 構 成 さ れ た 尺 度 (テ ス ト )で な け れ ば 結 果 の
比 較 が で き な い こ と 、③ 信 頼 性 の 概 念 が あ く ま で も 平 行 テ ス ト の 形 式 で 定 義
づ け ら れ て い る こ と 、 ④ 回 答 者 が あ る 測 定 項 目 に ど う 反 応 す る か (例 え ば 、
症 状 測 定 の 場 合 な ら 該 当 す る と 回 答 す る か 否 か )に つ い て 判 断 で き る 情 報 が
な い こ と 、 ⑤ 項 目 の 測 定 誤 差 分 散 が す べ て の 人 で (症 状 測 定 の 場 合 な ら 、 症
状 の 重 い 人 も 軽 い 人 も 区 別 な く )同 一 で あ る と 仮 定 し て い る こ と な ど 、 古 典
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的 測 定 理 論 の 問 題 点 は い く つ も 挙 げ ら れ て い る 1) 。 古 典 的 測 定 理 論 が 尺 度 の
特 性 に 焦 点 を 当 て た 理 論 で あ る た め 、そ の 理 論 で 個 々 の 項 目 特 性 を 検 討 す る
には限界があることは否めない。
2.項目反応理論の概要
古 典 的 測 定 理 論 と は ま っ た く 異 な っ た 、非 線 形 ア プ ロ ー チ が 項 目 反 応 理 論
(Item Response Theory 、 以 下 IRT)で あ る 。I R Tで は 、 あ る 一 群 の 項 目 へ の 回 答
(項 目 反 応 )確 率 と 回 答 者 の 潜 在 特 性 (θ ) と の 関 係 を 検 討 す る た め 、 合 計 得 点
との関係を検討する古典的測定理論のような制約を受けない。
一 般 に 、 あ る 項 目 に 対 す る 該 当 回 答 の 確 率 は 、 ス コ ア に 応 じ て S字 型 に 増
加 す る 曲 線 (項 目 特 性 曲 線 ま た は Item Characteristic Curve)で 表 現 さ れ る 。I R T
の 一 般 的 な 方 法 は 、こ の 曲 線 に ロ ジ ス テ ィ ッ ク 関 数 を 当 て は め る も の で あ り 、
そ の 関 数 を 規 定 す る パ ラ メ ー タ の 数 に よ っ て 、 1・2・ 3パ ラ メ ー タ ロ ジ ス
テ ィ ッ ク (1-・ 2 - ・ 3-PL)モ デ ル が 提 唱 さ れ て い る 。 1-PLモ デ ル で は 、 潜 在 特 性
θ に お け る 回 答 率 P (θ ) を P(θ ) = 1/(1+exp(-1.7( θ - b)))と い う ロ ジ ス テ ィ ッ
ク 関 数 で 表 現 す る 。2-PLモ デ ル で は 、P( θ ) = 1/(1+exp(-1.7a(θ - b)))と な る 。
aパ ラ メ ー タ は 識 別 力 を 、bパ ラ メ ー タ は 困 難 度 を 表 し て い る 。困 難 度 と い う
の は 潜 在 特 性 軸 上 の 位 置 の こ と で 、位 置 パ ラ メ ー タ と も 呼 ば れ る が 、こ こ で
扱 う 測 定 項 目 の 性 質 上 、分 か り や す く す る た め に 閾 値 と 呼 ぶ こ と に す る 。な
お 、3-PLモ デ ル と は い わ ゆ る 試 験 (テ ス ト )の 際 の 当 て 推 量 に よ る 正 答 確 率 も
考 慮 に 加 え た モ デ ル で 、今 回 の よ う な 症 状 測 定 に は 適 合 し な い の で 、こ こ で
は省略する。
Fig 1に 2-PLモ デ ル に 基 づ い て 描 い た 項 目 特 性 曲 線 を 例 示 す る 。 x軸 は 測 定
項 目 群 か ら 推 定 さ れ る (直 接 観 測 不 可 能 な )潜 在 特 性 を 示 し て お り 、 y軸 は 該
当 回 答 の 確 率 を 示 し て い る 。説 明 の た め に 、aお よ び b パ ラ メ ー タ を そ れ ぞ れ
0.50∼ 1.50 お よ び -1.50 ∼ 1.50と 変 化 さ せ て 3つ の 曲 線 を 描 い た 。 1-・ 2-PLモ デ
ル に 共 通 に 組 み 込 ま れ て い る b (閾 値 )パ ラ メ ー タ に 注 目 す る と 、 数 値 が 大 き
くなるにつれて曲線の位置は潜在特性上の右側になっていることに気が付
く 。 参 照 の た め に 該 当 確 率 が 50% で x 軸 と 平 行 に 補 助 線 を 引 く と 、 各 曲 線 と
の 交 点 か らx軸 上 に 投 影 し た 特 性 値 が こ のbパ ラ メ ー タ に 対 応 し て い る こ と
が分かる。
一 方 、 こ の 交 点 に お け る 曲 線 の 傾 き は a ( 識 別 力 )パ ラ メ ー タ に 対 応 し て お
り 、数 値 が 小 さ け れ ば 傾 き は 緩 く 、数 値 が 大 き い と 傾 き は よ り 急 に な っ て い
る こ と が 分 か る 。 す な わ ち 、 a パ ラ メ ー タ (識 別 力 )が 大 き け れ ば 、 bパ ラ メ ー
タ (閾 値 ) 近 辺 で 該 当 確 率 は 大 き く 変 化 し て お り 、 小 さ け れ ば 確 率 の 変 化 は 緩
や か で 敏 感 で は な い と い う 特 性 を 表 し て い る 。 な お 、1-PLモ デ ル で は 、 こ の
傾 き を 問 題 と せ ず 、 位 置 ( 閾 値 )だ け に 注 目 し て い る 。 こ こ で の 我 々 の 目 的 は 、
簡 易 調 査 票 に 盛 り 込 ん だ 測 定 項 目 そ れ ぞ れ の 項 目 特 性 ( 識 別 力 ・ 閾 値 )を 明 ら
か に す る こ と で あ り 、 2-PLモ デ ル に よ る 検 討 を 試 み た 。
3 . I R Tの 適 用 条 件
148
149
と こ ろ で 、 I R T分 析 は 「 局 所 独 立 性 の 仮 定 」 が 満 た さ れ る 状 況 下 に お い て 、
有効な分析法である。この仮定とは、「潜在特性値θを固定した時、各項目
へ の 該 当 回 答 は 互 い に 独 立 で あ る 」 と い う 仮 定 で あ る 2) 。別 の 言 い 方 を す れ ば 、
「 す べ て の 項 目 が 1 つ の 特 性 の み を 共 通 し て 測 定 し て い る と い う 、一 次 元 性 の
仮 定 」 2) と い う こ と が で き る 。潜 在 特 性 と の 関 係 性 に よ っ て 項 目 特 性 を 明 ら か
に す る の が I R Tの 特 徴 で あ る 以 上 、潜 在 特 性 が 1つ に 規 定 さ れ な け れ ば 、項 目
特性の正確な推定が困難であることは言を待たない。
C.方法
1.対象者
簡 易 調 査 票 に 完 全 回 答 が 得 ら れ た 男 9,343名 、 女 1,918名 の デ ー タ を 解 析 に
用いた。
2.解析
I R T分 析 に か け る 前 に 、 ま ず 主 成 分 分 析 (因 子 回 転 せ ず )を 行 い 、 前 提 条 件
と な っ て い る 測 定 項 目 群 の 一 次 元 性 を 検 討 し た 。 第 1主 成 分 の 説 明 分 散 ( 寄
与 )率 の 大 き さ や 第 2主 成 分 以 降 の 寄 与 率 と の 隔 差 、な ら び に 項 目 の 各 主 成 分
へ の 寄 与 (因 子 負 荷 量 ) か ら 一 次 元 性 を 確 認 し た 。 I R T分 析 は 2-PL モ デ ル を 採
用 し た 。 各 項 目 へ の 回 答 デ ー タ は 、 簡 易 評 価 法 に 準 じ て 、 1-2-3-4の 4段 階 回
答 を 0-0-1-1と 変 換 し た 。 そ の 際 、 一 部 の 項 目 の 配 点 を 逆 に し 、得 点 の 高 い 方
が ス ト レ ッ サ ー や ス ト レ ス 反 応 が 高 く な る よ う に 向 き を 統 一 し た 。な お 、本
報 告 で は 全 体 が 把 握 し や す い よ う に 、 2-PL モ デ ル で 得 ら れ た 各 項 目 の aお よ
び bパ ラ メ ー タ を 項 目 の 内 容 的 ま と ま り ご と に 平 均 化 し 、 そ れ に 基 づ い て 項
目反応曲線を描いた。
D.結果および考察
1 . ス ト レ ス 反 応 項 目 の I R T分 析
a) 一 次 元 性 の 検 討
ス ト レ ス 反 応 に 関 す る 29項 目 全 体 を 主 成 分 分 析 し た 結 果 、 固 有 値 (お よ び
説 明 分 散 率 ) は 第 1 主 成 分 か ら 第 6 主 成 分 ま で 順 に 9.3 (32%) ・ 2.4 (8%) ・ 2.0
(7%)・ 1.5 (5%)・1.2 (4%)・1.1 (4%)と な っ て お り 、 第 7主 成 分 以 降 は 1.0未 満 で
あ っ た 。 第 1 主 成 分 の 説 明 分 散 (寄 与 )率 は 30% を 越 え 、 第 2主 成 分 以 降 は い ず
れ も 10% 未 満 で あ る こ と 、 な ら び に 各 項 目 と も 第 1主 成 分 に 最 も 大 き な 因 子
負荷量を有することから、項目全体の一次元性は認められると判断した。
b ) I R T分 析 結 果
Fig 2に そ れ ぞ れ の ま と ま り ご と の 項 目 反 応 曲 線 を 示 す 。「 イ ラ イ ラ 感 」 ・ 「 不
安 感 」 ・ 「 抑 う つ 感 」 と い っ た 心 理 的 な 反 応 は 実 線 で 、「 活 気 の 低 下 」 ・ 「 疲 労 感 」 ・
「 身 体 愁 訴 」 の よ う な 身 体 的 な 反 応 を 主 と す る も の は 点 線 で 描 い た 。こ こ で は 、
x軸 は 『 ス ト レ ス レ ベ ル 』 と い う 潜 在 特 性 を 反 映 す る も の と み な す 。 各 曲 線
の 該 当 回 答 率 が 0.50 の 点 に お け る 傾 き を 見 る と 、 心 理 的 反 応 (実 線 )の 方
150
151
が 識 別 力 が 高 い こ と が 分 か る 。 つ ま り 、 あ る『 ス ト レ ス レ ベ ル 』 近 辺 で 該 当
率が急増しており、鋭敏に反応している。一方、身体的反応のうち、「疲労
感 」 は 心 理 的 反 応 と 同 様 の 識 別 力 を 示 す も の の 、「 活 気 の 低 下 」 お よ び 「 身 体 愁
訴」の傾きは非常に緩やかで、幅広い『ストレスレベル』で該当回答が認め
られ、鋭敏とはいえない。なお、これらの結果を見ると、項目全体を通して
識 別 力 は 一 定 で あ る と み な す 1-PLモ デ ル の 適 合 性 が 悪 い こ と は 明 ら か で あ
る。
さ て 、 あ る『 ス ト レ ス レ ベ ル 』 と は 閾 値 の こ と で 、 各 曲 線 の 該 当 回 答 率 が
0.50の 点 の x軸 上 へ の 投 影 地 点 で あ る 。 各 曲 線 の 閾 値 を 見 る と 、x軸 の 左 側 か
ら順に「活気の低下」・「イライラ感」・「疲労感」・「不安感」・「身体愁訴」・「抑う
つ感」となっている。「活気の低下」は傾きが緩いために明確ではないが、該
当 回 答 率 0.50の 投 影 地 点 は 他 に 比 べ て か な り 左 側 に あ り 、 次 に 低 い 閾 値 の
「 イ ラ イ ラ 感 」 ・ 「 疲 労 感 」 の 閾 値 レ ベ ル で は 、 該 当 率 は80% を 越 え て い る 。 「 活
気の低下」は非常に低い 『ストレスレベル』でも認められ、他のストレス反
応 が 発 現 す る『 ス ト レ ス レ ベ ル 』で は 大 半 の 者 に 見 ら れ る 症 状 で あ る こ と が 、
この図から観察される。「イライラ感」と「疲労感」は識別力・閾値ともほぼ同
程 度 で 、 「 不 安 感 」 ・ 「 身 体 愁 訴 」 ・ 「 抑 う つ 感 」 よ り も 低 い『 ス ト レ ス レ ベ ル 』で
発現する。
「 身 体 愁 訴 」 は 「 イ ラ イ ラ 感 」 や 「 疲 労 感 」 と 同 程 度 の『 ス ト レ ス レ ベ ル 』で す
で に 該 当 回 答 が 見 ら れ る が 、「 活 気 の 低 下 」 と 同 様 に 傾 き が 緩 い た め に 明 確 な
閾値を示さない。項目特性曲線を見ても、より高い閾値を示す「抑うつ感」
の 曲 線 と x 軸 上 の 2.0 あ た り で 交 差 し て お り 、そ れ よ り 高 い『 ス ト レ ス レ ベ ル 』
で は 「 抑 う つ 感 」 よ り も 該 当 率 が 低 い 。前 節 のMIMIC モ デ ル の と こ ろ で も 議 論
し た が 、「 身 体 愁 訴 」 は 「 抑 う つ 感 」 や 他 の ス ト レ ス 反 応 よ り も『 ス ト レ ス 状 態 』
以 外 の 影 響 要 因 で 説 明 さ れ る 部 分 が 大 き い と 考 え ら れ 、a)で 述 べ た 一 次 元 性
の 条 件 は 満 た す も の の 、『 ス ト レ ス レ ベ ル 』 と い う こ こ で の 潜 在 特 性 に は 反
映されない変動軸を有する可能性も否定できない。
「 不 安 感 」 と 「 抑 う つ 」 を 比 べ る と 、 「 不 安 感 」 の 方 が よ り 低 い『 ス ト レ ス レ ベ
ル 』で 発 現 し て お り 、「 抑 う つ 感 」 の 閾 値 レ ベ ル で は 、80%以 上 の 該 当 率 と な っ
て い る 。 一 方 、 「 抑 う つ 感 」 は 最 も 高 い 閾 値 を 示 し て お り 、 低 い『 ス ト レ ス レ
ベ ル 』 で 見 ら れ る こ と は 稀 で 、 よ り 高 い『 ス ト レ ス レ ベ ル 』 で 発 現 し て く る
症 状 で あ る と い え よ う 。 前 節 の MIMIC モ デ ル の 検 討 で 、『 ス ト レ ス 状 態 』 は
「 抑 う つ 感 」 と の 関 連 性 が 最 も 大 き い こ と が 明 ら か に さ れ て い る 。 こ れ ら2 つ
の 結 果 を 踏 ま え る と 、労 働 者 の よ り 深 刻 な ス ト レ ス 問 題 を 観 察 す る 際 に 最 も
注目すべき症状は「抑うつ感」であると云えそうである。
2.ストレッサー項目の検討
ス ト レ ッ サ ー に 関 す る 17項 目 全 体 を 主 成 分 分 析 し た 結 果 、 固 有 値 (お よ び
説 明 分 散 率 ) は 第 1主 成 分 か ら 順 に 3.6 (21%)・ 3.1 (18%)・ 1.4 (8%)・ 1.2 (7%) と
な っ て お り 、 第 5主 成 分 以 降 は 1.0 未 満 で あ っ た 。 各 項 目 の 回 転 前 因 子 負 荷 量
152
を 見 る と 、項 目 7「 か ら だ を 大 変 よ く 使 う 仕 事 だ 」 と 項 目 15「 私 の 職 場 の 作 業 環
境 (騒 音 ・ 照 明 ・ 温 度 ・ 換 気 な ど)は よ く な い 」 が 共 に 第 4主 成 分 に 大 き な 負 荷 量
を 示 し て お り 、 他 と は 異 な る 次 元 (因 子 )と な っ て い る こ と は 明 ら か で あ っ た 。
そ こ で こ の 2項 目 を 除 外 し 、 再 度 主 成 分 分 析 を 行 う と 、 固 有 値 (寄 与 率 )は 順
に 3.5 (23%)・3.1 (20%)・ 1.3 (9%)で 第 4主 成 分 以 降 は 1.0未 満 で あ っ た 。
第 1主 成 分 の 寄 与 率 が 20%を 越 え る と い う 一 次 元 性 判 断 の 目 安 は 、 一 応 満
た し て い る 。し か し 第 2主 成 分 も ほ ぼ 同 程 度 の 寄 与 率 で あ り 、ま た 第 2 主 成 分
以 降 の 主 成 分 に よ り 大 き な 因 子 負 荷 量 を 示 す 項 目 も 散 見 さ れ た た め 、測 定 項
目 群 の 一 次 元 性 に は 大 い に 疑 問 が 残 っ た 。 我 々 は 実 際 に は 、 試 み に こ の 15
項 目 を 用 い て I R T分 析 を 行 っ て み た 。 し か し 、 I R T分 析 に お い て 一 次 元 性 の
前 提 条 件 は 非 常 に 強 い も の で あ る (す な わ ち 、 一 次 元 で な け れ ば 潜 在 特 性 を
一 つ の 軸 上 に 表 す こ と は 不 可 能 で あ る )こ と を 鑑 み 、 そ の 結 果 は 妥 当 で は な
い と 判 断 し た 。 「 多 様 な ス ト レ ッ サ ー を 簡 便 に 測 定 す る こ と 」 は 、簡 易 調 査 票
の 開 発 目 的 の 筆 頭 に 挙 げ ら れ て い る 。こ こ で 一 次 元 性 が 認 め ら れ な か っ た こ
と は 、開 発 目 的 ど お り に ス ト レ ッ サ ー 項 目 が 構 成 さ れ て い る こ と を む し ろ 再
確認させるものであった。
E.まとめ
日 本 人 労 働 者 か ら 得 た 簡 易 調 査 票 デ ー タ に 項 目 反 応 理 論 (2-PL モ デ ル ) を
適 用 し 、各 ス ト レ ス 反 応 の 測 定 項 目 群 の 項 目 反 応 特 性 を 検 討 し た 。そ の 結 果 、
「イライラ感」・「不安感」・「抑うつ」といった心理的な反応は「活気の低下」や
「 身 体 愁 訴 」 の よ う な 身 体 的 な 反 応 よ り も 、 あ る『 ス ト レ ス レ ベ ル 』の 変 位 を
鋭 敏 に 捉 え て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。 ま た 該 当 回 答 (症 状 )の 閾 値 か ら 、
「 活 気 の 低 下 」 は 非 常 に 低 い『 ス ト レ ス レ ベ ル 』 か ら 認 め ら れ る こ と 、 さ ら に
「イライラ感」・「疲労感」・「不安感」・「身体愁訴」・「抑うつ感」の順で閾値が高
く な っ て い る こ と が 示 さ れ た 。 縦 断 的 な 観 測 を 行 っ た 訳 で は な い の で 、時 系
列 的 な 発 現 の 様 相 は 明 ら か で は な い が 、『 ス ト レ ス レ ベ ル 』 の 増 大 (増 悪 ) に
伴 っ て 、ス ト レ ス 反 応 は こ の よ う な 順 序 で 顕 在 化 し て く る 可 能 性 が 示 唆 さ れ
た。
研 究 者 : 下 光 輝 一 (東 京 医 科 大 学 衛 生 公 衆 衛 生 学 教 室 )
岩 田 昇 ( Life Course and Health Research
Center Florida International University)
F.文献
1) Hambleton, R.K. and Swaminathan, H.: Item Response Theory, Principles and
Applications, Kluwer-Nijhoff Publishing, 1985.
2) 芝 祐 順 (編 ): 項 目 反 応 理 論 , 基 礎 と 応 用 , 東 京 大 学 出 版 会 , 1991.
153
Ⅲ − 2 − 4 .職 業 性 ストレス 簡 易 調 査 票 に よ る ス ト レ ス 簡 易
判定法の検討
A.目的
「 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 」 は 、 産 業 現 場 や 健 康 保 持 増 進 (T H P )事 業
に お け る 定 期 健 康 診 断 や 健 康 測 定 は 無 論 の こ と 、社 内 診 療 所 な ど へ の 受 診 者 、
あるいは社内イントラネット等を通じた希望者に対する適用など多様な側
面 で の 活 用 が 期 待 さ れ る 。簡 易 調 査 票 よ る 標 準 的 な ス ト レ ス 判 定 法 と し て は 、
レ ー ダ ー チ ャ ー ト を 用 い る「 ス ト レ ス プ ロ フ ィ ー ル 」判 定 法 (以 下 、プ ロ フ ィ
ー ル 判 定 法 )が 提 案 さ れ て い る が 1 ) 、 実 際 の 健 康 診 断 や 健 康 測 定 の 現 場 、 あ
る い は 診 察 場 面 に お い て は 、迅 速 か つ 効 率 的 な 判 定 が 求 め ら れ る 場 合 も 想 定
さ れ る 。そ こ で 本 研 究 で は 、そ う し た 場 面 で の 利 用 を 目 的 と し た ス ト レ ス 簡
易 評 価 ・ 判 定 法 を 開 発 す る と と も に 、 こ れ を 実 用 に 供 す る 際 の 判 定 基 準・判
定資料を、1万2千人余のサンプルに基づく標準データから作成した。
B.対象と方法
1.解析対象
対 象 と し て 全 国 の 延 べ 21 事 業 場 に 勤 務 す る 従 業 員 12,362 名 よ り 得 た 回 答
か ら 2 ) 、 性 別 ・ 年 齢 の 記 入 漏 れ な ど 、 不 備 回 答 を 除 い た 12,188 名 (37.85±
10.20 歳 )の 回 答 を 用 い た (有 効 回 答 率 =98.59%) 。男 女 の 内 訳 は 、男 性 10,025
名 (38.39±10.07 歳 )、 女 性 2,163 名 (35.35±10.44 歳 )で あ っ た 。
2.簡易判定法開発の基本方針
簡 易 判 定 法 に 求 め ら れ る 最 も 重 要 な 要 件 の ひ と つ は 、回 答 結 果 の 集 計 と 判
定 の 単 純 化 ・ 簡 便 化 と い え る 。 簡 易 調 査 票 は 57 項 目 の 質 問 か ら 構 成 さ れ 、
そ の 回 答 形 式 は す べ て 4 件 法 に よ る 段 階 評 価 で あ る 。標 準 的 な プ ロ フ ィ ー ル
判 定 法 で は 、 そ の 1− 2− 3− 4 の 段 階 評 価 の 各 段 階 を 間 隔 尺 度 上 の ス コ ア と
みなして判定を行うが、簡易判定法では、この段階評価を中央で二分し、0
− 0− 1− 1 に 変 換 し て カ ウ ン ト す る 方 法 を 採 用 す る こ と と す る 3 ) 。 な お 、 こ
の 0− 0− 1− 1 へ の 変 換 に 先 だ っ て 、 す べ て 好 ま し く な い 方 が 1 に な る よ う
に各質問項目の回答の方向性を統一する。すなわち、ストレッサー、ストレ
ス 反 応 に 関 す る 質 問 項 目 に つ い て は 、当 該 ス ト レ ッ サ ー 、当 該 ス ト レ ス 反 応
を 有 す る 場 合 が 1、有 さ な い 場 合 が 0、ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 項 目 に つ い て は 、
当 該 の サ ポ ー ト 資 源 を 持 た な い 場 合 が 1、 有 す る 場 合 が 0 と な る 。 こ う し た
操 作 の 結 果 、簡 易 判 定 法 に お い て は 、す べ て の 質 問 項 目 に 関 し て 測 定 の 水 準
が 名 義 尺 度 水 準 に 落 と さ れ る 。 そ の た め 、標 準 的 な プ ロ フ ィ ー ル 判 定 法 に よ
る 判 定 結 果 と 齟 齬 を 来 さ ず 、論 理 的 に 整 合 性 の あ る 判 定 基 準 を 有 す る と い う
ことが、簡易判定法に求められる第2の要件といえる。
第 3 に は 、 い か に 簡 易 判 定 法 と は い え 、 集 計 と 判 定 の 単 純 化・簡便化の一
154
方 で 、 簡 易 調 査 票 に 含 ま れ る 豊 富 な 情 報 (た と え ば 、 ス ト レ ッ サ ー の 多 軸 評
価 )を 極 力 失 わ ず 、 保 持 し て ゆ く こ と が 望 ま し い と い え よ う 。
3.簡易判定法開発の手順
前項で述べた諸条件を満たし得る判定法としてわれわれが開発した判定
法 の 概 略 を 以 下 に 述 べ る が 、そ の 要 点 は 、ス ト レ ス 反 応 に 問 題 を 有 す る 者 の
抽 出 基 準 の 設 定 を 出 発 点 と し 、 次 い で 、多 軸 的 に 評 価 さ れ た ス ト レ ッ サ ー お
よびソーシャルサポート要因のストレス反応に対する影響評価の目安を推
定することであった。
1 )ス ト レ ス 反 応 要 チ ェ ッ ク 者 の 判 定
簡 易 判 定 で は 集 計 の 単 純 化 を 考 慮 し 、ス ト レ ス 反 応 は 心 理 的 反 応 (18 項 目 )
と 身 体 的 反 応 (11 項 目 )の 2 つ に 大 別 し た 全 体 集 計 を 前 提 と し 、そ れ 以 下 の 下
位 尺 度 に よ る 判 定 は 行 わ な い こ と と し た 。簡 易 判 定 基 準 の 設 定 に あ た っ て は 、
ま ず 、 1− 2− 3− 4 の 段 階 評 価 点 に も と づ く 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 と 身 体 的 ス
ト レ ス 反 応 の 総 合 得 点 (心 理 的 ス ト レ ス 反 応 : 18 点 ∼ 72 点 ,身 体 的 ス ト レ ス
反 応:11 点 ∼ 44 点 )を そ れ ぞ れ 5 段 階 評 価 し 、そ の 最 上 位 段 階 に 分 布 す る 者
を 、そ れ ぞ れ の ス ト レ ス 反 応 に つ い て の 要 チ ェ ッ ク 者 と 判 定 す る こ と と し た 。
こ の 5 段 階 評 価 法 は 、プ ロ フ ィ ー ル 判 定 法 に 準 拠 し た も の で あ り 、表 1 に 見
る よ う に 、 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 要 チ ェ ッ ク 域 は 、 男 女 と も 52 点 以 上 、 身
体 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て は 、 男 性 24 点 、 女 性 27 点 以 上 が 要 チ ェ ッ ク 域
であった。
表1 ストレス反応総合得点の5段階評価
a)心理的ストレス反応
男 性 (N=9,769)
スコア
人 数
(%)
18∼23
24∼32
33∼41
42∼50
51∼72
417
2,945
3,694
1,895
818
(4.3%)
(30.1%)
(37.8%)
(19.4%)
(9.4%)
b)身体的ストレス反応
男 性 (N=9,894)
スコア
人 数
(%)
11∼15
16∼20
21∼24
25∼44
0
4,004
3,535
1,426
929
(0.0%)
(40.5%)
(35.7%)
(14.4%)
(9.9%)
スコア
18∼23
24∼32
33∼41
42∼50
51∼72
スコア
11
12∼16
17∼21
22∼26
27∼44
女 性 (N=2,078)
人 数
(%)
95
629
768
409
177
(4.6%)
(30.3%)
(37.0%)
(19.7%)
(9.6%)
女 性 (N=2,114)
人 数
(%)
62
651
772
434
195
(2.9%)
(30.8%)
(36.5%)
(20.5%)
(10.4%)
155
次 に 、ス ト レ ス 反 応 が 要 チ ェ ッ ク 域 に あ る か 否 か を 簡 易 判 定 す る た め 、心
理 的 ス ト レ ス 反 応 、身 体 的 ス ト レ ス 反 応 の 両 尺 度 に つ い て 、総 合 得 点 に お け
る 5 段 階 評 価 と 、0 − 0− 1− 1 の バ イ ナ リ ー 評 価 で ス ト レ ス 反 応 が (+ )と な っ
た 項 目 数 と の 間 の ク ロ ス 集 計 を 行 い 、全 質 問 項 目 中 何 項 目 で ス ト レ ス 反 応 が
(+ )と な る 場 合 に 総 合 得 点 が 要 チ ェ ッ ク 域 に 入 り や す い か を 推 定 し た 。
2 )ス ト レ ッ サ ー 総 合 評 価 か ら の 判 定
因 子 分 析 の 結 果 2)か ら 、 簡 易 調 査 票 の ス ト レ ッ サ ー の う ち 、 調 査 票 左 上 の
最 初 の 7 項 目 を「 仕 事 の 負 担 度 」 因 子 、 次 の 3 項 目 を「 コ ン ト ロ ー ル 度 」 因
子 、No.12 ∼ 14 の 3 項 目 を「 対 人 関 係 」 因 子 、No.16、17 の 2 項 目 を「 仕 事
の 適 合 性 」因 子 と し て 、ス ト レ ッ サ ー の 多 軸 評 価 に 用 い る こ と の 妥 当 性 が 認
められている。そこで、簡易判定では、それぞれの評価軸におけるストレッ
サ ー の 多 寡・ 強 弱 そ の も の を 判 定 材 料 と は せ ず 、ス ト レ ッ サ ー 評 価 軸 の そ れ
ぞ れ で“ ス ト レ ッ サ ー 要 チ ェ ッ ク 者 ” を 操 作 的 に 定 義 し 、 こ の 要 チ ェ ッ ク 者
に お け る 心 理 的・身 体 的 ス ト レ ス 反 応 の 発 現 リ ス ク を 予 測 す る と い う 観 点 か
ら 判 定 根 拠 を 求 め る こ と と し た 。ス ト レ ッ サ ー 要 チ ェ ッ ク 者 の 操 作 的 定 義 は
以 下 の 手 順 で 行 わ れ た 。 す な わ ち 、 個 々 の 評 価 軸 ご と に 、 0− 0− 1− 1 の バ
イ ナ リ ー 評 価 に お い て 当 該 ス ト レ ッ サ ー が (+ ) と な っ た 項 目 の 数 を 数 え 、 そ
の項目数別の回答者分布にもとづいて要チェック者を抽出することとした。
そ の 後 さ ら に 、4 つ の ス ト レ ッ サ ー 評 価 軸 の い く つ (0∼ 4 個 )に 要 チ ェ ッ ク が
判 定 さ れ た か に よ っ て 、5 段 階 の ス ト レ ッ サ ー 総 合 評 価 群 を 設 定 し た 。 最 後
に 、ス ト レ ス 反 応 が 要 チ ェ ッ ク で あ る か 否 か を 基 準 変 数 、ス ト レ ッ サ ー 総 合
評 価 を 説 明 変 数 、 年 齢 を 共 変 量 と し て 、名 義 尺 度 に よ る 多 項 ロ ジ ス テ ィ ッ ク
回 帰 分 析 を 男 女 別 に 実 施 し 、ス ト レ ッ サ ー 総 合 評 価 段 階 ご と の ス ト レ ス 反 応
発現リスクを算出した。
3 )demand-control-support 総 合 評 価 か ら の 判 定
ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト は 通 常 ス ト レ ス の 緩 衝 要 因 と 位 置 づ け ら れ て い る 4)
こ と に 加 え 、 い わ ゆ る demand-control-support モ デ ル 5 ) の キ ー 概 念 の ひ と
つ で も あ る 。 そ こ で 、 簡 易 判 定 法 の 判 定 基 準 に 、 demand-control-support
の 複 合 リ ス ク を 導 入 す る こ と は 意 味 あ る こ と と い え る 。 そ こ で 、簡 易 調 査 票
の ス ト レ ッ サ ー 尺 度 か ら 「 仕 事 の 負 担 度 (demand) 」 と 「 コ ン ト ロ ー ル 度
(control)」 の 2 つ の 下 位 尺 度 、お よ び ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 尺 度 か ら 、No.1 、
2、 4、 5、 7、 8 の 6 つ の 質 問 項 目 を 「 職 場 内 サ ポ ー ト (support)」 因 子 と し
て 選 択 し 、こ れ ら 3 者 か ら 構 成 さ れ る 評 価 軸 を 設 定 し 、ス ト レ ッ サ ー 総 合 評
価 と 同 様 の 手 法 に よ り 、 4 段 階 の demand-control-support 総 合 評 価 群 を 設
け、評価段階ごとのストレス反応発現リスクを算出した。
4.統計解析
デ ー タ の 統 計 解 析 に は 、 SPSS 9.0J for Windows を 用 い た 。
156
C.結果と考察
1.ストレス反応の簡易判定と判定基準
表 2 は 、0− 0− 1− 1 の バ イ ナ リ ー 評 価 に お い て 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 が (+ )
と な っ た 項 目 数 が 0∼ 1 8 項 目 あ っ た そ れ ぞ れ の 人 々 が 、 総 合 得 点 の 5 段 階
評 価 で ど の 評 価 段 階 に 属 し て い た か の 分 布 を 示 す ク ロ ス 集 計 で あ る 。こ こ か
ら 、 バ イ ナ リ ー 評 価 で ス ト レ ス 反 応 が ( + )と な っ た 項 目 が 16 項 目 以 上 あ っ
た男性、15 項 目 以 上 あ っ た 女 性 の す べ て が 、 総 合 得 点 で の 5 段 階 評 価 が 要
チ ェ ッ ク 域 に あ っ た こ と が わ か る 。ま た 、バ イ ナ リ ー 評 価 で ス ト レ ス 反 応 が
(+ )と な っ た 項 目 が 1 4 項 目 あ っ た 男 性 、 1 3 項 目 あ っ た 女 性 の 70% 以 上
表 2 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 項 目 に 対 す る ス ト レ ス 反 応( + )項 目 数 と 総 合 得
点5段階評価の関係
157
表 3 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 項 目 に 対 す る ス ト レ ス 反 応( + )項 目 数 と 総 合 得
点5段階評価の関係
が 、 総 合 得 点 の 5 段 階 評 価 で 要 チ ェ ッ ク 域 に 入 っ て い た 。言い換えれば、バ
イ ナ リ ー 評 価 に お け る ス ト レ ス 反 応 の ( + )の 個 数 が 、男 性 で あ れ ば 14 項 目 、
女 性 で あ れ ば 13 項 目 以 上 あ る と き 、 ス ト レ ス 反 応 が 要 チ ェ ッ ク 域 に 入 る 危
険性がきわめて高いと判断できる。
身 体 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て も 同 様 の 集 計 を 試 み た と こ ろ (表 3 )、 70%以
上の人が総合得点の5段階評価で要チェック域に含まれるストレス反応
(+ )の 個 数 は 、 男 性 で 5 項 目 、 女 性 で 6 項 目 で あ っ た 。
以 上 の こ と か ら 、 ス ト レ ス 反 応 の 簡 易 判 定 に お い て は 、心 理 的 ス ト レ ス 反
応 に つ い て は 男 性 14 項 目 、 女 性 13 項 目 、 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て は
男 性 5 項 目 、女 性 6 項 目 を 基 準 と す る こ と に よ っ て 、ス ト レ ス 反 応 の 要 チ ェ ッ
ク 者 を 70%以 上 の 蓋 然 性 を 以 て 予 測 で き る と 考 え ら れ る 。 し か し な が ら 、
1 )こ の 項 目 数 の 基 準 値 は 経 験 的 な 値 で あ る こ と 、 2 )ス ト レ ス 反 応 の 判 定 に
際 し て false negative と false positive ど ち ら の 危 険 を 優 先 す る か に よ っ て 、
基 準 値 の 変 更 も 必 要 と い え る こ と に 留 意 す べ き で あ ろ う 。た だ し 、前 者 に つ
い て は 、男 性 1 万 人 、女 性 2 千 人 を 超 え る サ ン プ ル か ら 得 ら れ た 経 験 値 で あ
る こ と は こ の 基 準 値 の 信 頼 性 を 高 め る 大 き な 要 素 の ひ と つ と い え る 。ま た 後
者についても、表2、3を参照することによって、簡易判定実施者が一定の
158
幅を持ったフィードバックを被検者に与えることも可能と思われる。
2.ストレッサー総合評価からの判定
表 4 は 、 0 − 0− 1− 1 の バ イ ナ リ ー 評 価 に お い て ス ト レ ッ サ ー ( + )と 判 定
さ れ た 項 目 数 ご と に そ の 該 当 者 が 何 名 ず つ い た か の 分 布 を 、4 つ の ス ト レ ッ
サ ー 評 価 軸 の そ れ ぞ れ に つ い て 示 し た も の で あ る 。「 仕 事 の 負 担 度 」 に つ い
て 、 当 該 ス ト レ ッ サ ー が ( + )と 判 定 さ れ た 項 目 が 、 男 性 の 場 合 6 項 目 以 上 、
女 性 の 場 合 5 項 目 以 上 あ っ た 者 の 割 合 は 、そ れ ぞ れ 39.2%と 37.2%で あ っ た 。
「 コ ン ト ロ ー ル 度 」 に つ い て は 、 2 項 目 以 上 で ス ト レ ッ サ ー (+ ) と 判 定 さ れ
た 者 が 、 男 女 と も ほ ぼ 3 名 に 1 人 の 割 合 で 存 在 し た 。「 対 人 関 係 」 に つ い て
は 、 同 じ く 2 項 目 以 上 で ス ト レ ッ サ ー ( + )と 判 定 さ れ た 者 の 割 合 は 男 女 と も
20%強 で あ っ た 。 ま た「 仕 事 の 適 合 性 」 に 関 し て は 、 該 当 す る 2 つ の 質 問 項
目 の 両 方 に ス ト レ ッ サ ー ( + ) が 判 定 さ れ た 者 の 割 合 は 、 男 性 60.9%、 女 性
53.6%と 他 の 評 価 軸 に 比 べ 高 頻 度 で あ っ た 。 こ う し て 、「 仕 事 の 負 担 度 」 に
つ い て は 、 男 性 で 6 項 目 以 上 、 女 性 で 5 項 目 以 上 、そ れ 以 外 の 評 価 軸 に つ い
て は 、 男 女 と も 2 項 目 以 上 で ス ト レ ッ サ ー (+ )と 判 定 さ れ た 者 を 、 こ こ で は
当該ストレッサーの要チェック者として操作的に定義した。
表5、6は、上記の操作的定義にもとづくストレッサー総合評価におけ
る 回 答 者 分 布 と 、心 理 的 、身 体 的 ス ト レ ス 反 応 そ れ ぞ れ に に つ い て 、ス ト レ ッ
サー総合評価ごとの要チェックストレス反応の発現リスクを示したもので
ある。心理的、身体的ストレス反応のいずれに関しても、要チェック
表 4 4 つ の ス ト レ ッ サ ー 評 価 軸 に お け る ス ト レ ッ サ ー( + ) 項 目 数 の 回 答
者分布
159
と さ れ た ス ト レ ッ サ ー 評 価 軸 の 数 が 増 え る に つ れ 、要 チ ェ ッ ク ス ト レ ス 反 応
の 発 現 リ ス ク も 増 大 す る こ と が 認 め ら れ た 。4 つ の ス ト レ ッ サ ー 評 価 軸 の す
べ て で 要 チ ェ ッ ク と さ れ た 者 の 比 率 は 、 男 女 と も ほ ぼ 2%で あ っ た が 、 彼 ら
の 要 チ ェ ッ ク ス ト レ ス 反 応 の 発 現 リ ス ク は 、 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 で 6.64 倍
(男 性 )∼ 7.56 倍 (女 性 )、 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 で は 2.47 倍 ( 男 性 )∼ 4.70 倍 (女
性 )と き わ め て 高 い も の で あ っ た 。
と こ ろ で 、 前 述 し た よ う に 、4 つ の ス ト レ ッ サ ー 評 価 軸 に お け る 要 チ ェ ッ
ク 者 の 比 率 は 評 価 軸 に よ っ て 異 な っ て い る 。こ う し た ス ト レ ッ サ ー 評 価 軸 に
よ る 比 率 の 相 違 は 、ひ と え に 質 問 項 目 数 の 違 い に 由 来 す る も の と い え る が 、
同 時 に 、要 チ ェ ッ ク ス ト レ ス 反 応 の 発 現 リ ス ク の 推 定 に 対 し て 、各 ス ト レ ッ
サ ー 評 価 軸 が 異 な っ た 重 み 付 け を 持 っ て い る こ と を 意 味 し て い る 。言 い 換 え
れ ば 、ス ト レ ッ サ ー 総 合 評 価 が 同 一 で あ っ て も 、要 チ ェ ッ ク と 判 定 さ れ た ス
ト レ ッ サ ー 評 価 軸 の 組 み 合 わ せ の 違 い に よ っ て 、要 チ ェ ッ ク ス ト レ ス 反 応 の
発現リスクが異なってくるといえる。そこで、表7には、組み合わせの異な
る 任 意 の 3 つ の ス ト レ ッ サ ー 評 価 軸 に よ っ て ス ト レ ッ サ ー総 合 評 価 を 行 っ
た 場 合 に 、 要 チ ェ ッ ク ス ト レ ス 反 応 の 発 現 リ ス ク が ど う 変
表5 ストレッサー総合評価の回答者分布と心理的ストレス反応要チェッ
ク発現リスク
160
表6 ストレッサー総合評価の回答者分布と身体的ストレス反応要チェッ
ク発現リスク
動 す る か を 再 計 算 し た 結 果 を 示 し て あ る 。 こ こ か ら 、ス ト レ ッ サ ー 総 合 評 価
に よ る 判 定 に お い て は 、「 仕 事 の 適 合 性 」 評 価 軸 の 重 み 付 け が 他 の 評 価 軸 の
そ れ に 比 べ て 相 対 的 に 小 さ い こ と が 認 め ら れ 、簡 易 判 定 に 際 し て は 、ど の ス
トレッサー評価軸において要チェックとなっているかについても留意する
必要があると思われる。
3 . demand-control-support 総 合 評 価 か ら の 判 定
「 職 場 サ ポ ー ト 」尺 度 の バ イ ナ リ ー 評 価 で は 男 性 有 効 回 答 者 9,802 名 の う
ち 2,237 名 (22.8%)、 女 性 有 効 回 答 者 2,053 名 の う ち 613 名 (29.8%) が、全 6
項 目 中 5 項 目 以 上 で 職 場 の サ ポ ー ト 資 源 が (− )と 判 定 さ れ た 。 そ こ で 、 こ れ
ら を「 職 場 サ ポ ー ト 」に 関 す る 要 チ ェ ッ ク 者 と し て 、demand-control-support
の 複 合 リ ス ク を 前 項 と 同 様 の 手 法 で 推 定 し た (表 8 、9 )。こ こ で も 、要 チ ェ ッ
クの要因が多くなるに従って要チェックストレス反応の発現リスクも増大
し た 。 と り わ け 、 demand、 control 、 support3 つ の
要 因 す べ て に お い て 要 チ ェ ッ ク と さ れ た 者 の 発 現 リ ス ク は 、心 理 的 ス ト レ ス
反 応 に つ い て は 、 男 性 18.46 倍 、 女 性 12.51 倍 、 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い
て は 、 男 性 5.53 倍 、 女 性 6.12 倍 と 高 値 を 示 し て い た 。
161
表7 ストレッサー総合評価におけるストレッサー評価軸の組み合わせが
ストレス反応発現リスクの推定値に与える影響
以 上 、簡 易 調 査 票 に よ る 簡 易 判 定 法 の 開 発 の 経 緯 と 判 定 法 お よ び そ の 判 定
基 準 に つ い て 述 べ て き た が 、簡 易 判 定 の 実 際 に お い て は 、資 料 に 示 す よ う な
簡 易 判 定 用 の 透 明 シ ー ト を 作 成 し 利 用 す る こ と に よ っ て 、集 計・ 判 定 の 簡 便
性 は さ ら に 高 ま る も の と 考 え る 。た だ し 、以 上 に 示 し た 判 定 基 準 を 導 き 出 す
にあたっては、個々のストレッサー評価軸、職場サポート要因に関して、あ
くまで操作的な定義にもとづく要チェック者の抽出を手がかりにしており、
そ の 操 作 的 定 義 の 仕 方 に よ っ て は 、推 定 さ れ る ス ト レ ス 状 態 発 現 リ ス ク の 実
際 上 の 値 が 変 動 す る こ と は 忘 れ て は な ら な い だ ろ う 。言 い 換 え れ ば 、こ こ に
示 さ れ た 種 々 の リ ス ク 推 定 値 は ひ と つ の 目 安 な の で あ り 、そ の 推 定 値 が 一 人
歩きすることだけは厳に慎まなければならないだろう。
162
表 8 Demand-Cntorol-Support 総 合 評 価 の 回 答 者 分 布 と 心 理 的 ス ト レ ス
反応要チェック発現リスク
表 9 Demand-Cntorol-Support 総 合 評 価 の 回 答 者 分 布 と 身 体 的 ス ト レ ス
反応要チェック発現リスク
163
[資料]
164
と は い え 、調 査 対 象 者 の ス ト レ ッ サ ー 状 況 、ス ト レ ス 緩 衝 要 因 の 状 況 を 一 定
の 仕 方 で 段 階 づ け た と き 、そ れ ぞ れ の 評 価 段 階 に 属 す る 人 々 が 、相 対 的 に ど
の 程 度 の ス ト レ ス 反 応 発 現 リ ス ク に 曝 さ れ て い る か に つ い て 、統 計 的 根 拠 を
示 し つ つ 、そ の 判 定 基 準 を 提 起 し て い る 点 で 、本 簡 易 判 定 法 は 種 々 の 現 場 に
おける実用に有効に活用し得るものと考える。
研 究 者 : 中 村 賢 (北 里 大 学 医 療 衛 生 学 部 )
研 究 協 力 者 : 鈴 木 牧 彦 (北 里 大 学 医 療 衛 生 学 部 )
D.文献
1)
下 光 輝 一 ,丸 田 敏 雅 , 飯 森 眞 喜 雄 他: 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 産 業 現
場 で の 活 用 に 関 す る 検 討 . 労 働 省 平 成 10 年 度「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に
関する研究」労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研
究 報 告 書 ,195-215,1999.
2)
下 光 輝 一 ,原 谷 隆 史 : 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 信 頼 性 の 検 討 と 基 準
値 の 設 定 . 労 働 省 平 成 11 年 度 「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」 労
働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 ,126138,2000.
3)
中 村 賢 ,岩 田 昇 , 原 谷 隆 史: T H P 事 業 に お け る 簡 易 調 査 票 の 活 用 .
労 働 省 平 成 10 年 度 「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」 労 働 の 場 に お
け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 ,171-180,1999 .
4)
Hurrel, J.J.Jr. and McLaney, M.A.: Exposure to job stress: a new
psychometric instrument. Scand. J. Work Environ. Health, 14(Suppl. 1): 2728, 1988.
5)
Johnson, J.V. and Hall, E.M.: Job strain, work place social support and
cardiovascular disease: a cross-sectional study of a random sample of the
Swedish working population. Am. J. Public Health, 78: 1336-1342, 1988.
165
Ⅲ−3.職業性ストレス簡易調査票の有用性
Ⅲ−3―1.職業性ストレス簡易調査票に対する産業医、
看護婦・士の意見調査結果より
A.目的
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 が 、様 々 な 産 業 現 場 に お け る 健 康 管 理 ツ ー ル と
し て 使 用 可 能 で あ る か 否 か を 、 産 業 医 並 び に 看 護 婦・士 か ら の 意 見 調 査 を 行
い、その有用性について検討する。
B.対象と方法
産業医及び看護婦・士を対象に、簡易調査票、従業員へのフィードバック
の た め の 結 果 出 力 例 、 結 果 解 釈 の た め の 説 明 文 1 )、 健 康 診 断 な ど の 場 で 時 間
を か け ず に 評 価 を 行 え る こ と を 目 的 と し た“ 簡 便 な 評 価 法 ”の た め の 使 用 ガ
イドの4点と、本調査票についての意見・感想記入用紙を郵送した。
C.結果1
41人より意見・感想記入用紙を回収した。
回 答 を よ せ た 41 名 の 職 種 の 内 訳 、 担 当 事 業 場 の 業 種 、 規 模 は 以 下 の と お
りである。
職種
人数 (%)
産業医
14 34%
保健婦
22 54%
看護婦
2 5%
その他の衛生管理者
1 2%
その他
2 5%
業種
頻度 (%)
建設業
1 2%
製造業
31 76%
運輸・通信業
1 2%
サービス業
3 7%
その他
5 12%
規模
頻度 (%)
50∼99人
1 2%
100∼499人
1 2%
500∼999人
4 10%
1000∼4999人
26 63%
5000人以上
8 20%
簡 易 調 査 票 を 、 実 際 に 使 用 し て み た と 回 答 し た 者 は 、 13 名 (32% )で あ り 、
使用の場面は、新入社員の健康相談、入社 3 ヶ月後の面談が多かった。
職業性ストレス簡易調査票を、
1 . 健 康 指 導 や THP の 心 理 相 談 で 「 そ の 場 で 使 う 」ことについて
「 対 象 者 の ス ト レ ス の 把 握 に は 使 え る か ? 」と い う 問 に 対 し て 、使 え る と
回 答 し た も の が 39 名 (95% ) 、 使 え な い と 回 答 し た 者 が 2 名 (5% )で あ っ た 。
使 え る と 回 答 し た 者 39 名 で は 、「 こ の ま ま で 十 分 」、と し た 者 が 9 名 、「 さ
ら に 改 善 の 余 地 が あ る 」 と し た 者 が 25 名 、 無 回 答 5 名 で あ っ た 。 さ ら に 、
簡 易 調 査 票 の 問 題 点 、改 善 す べ き 点 と し て 、選 択 お よ び 自 由 記 述 形 式 に て 以
下のことが挙げられた。
印刷について
166
• 文字が小さい
9名
• 印字が薄い
7名
量について
• 項目数がまだ多い
6名
• 記入に時間がかかる
6名
質問・選択肢の表現と内容について
• 対象者の表現を統一したほうがよい
• ほとんどいつもあったなど回答がややこしい
• 選 択 肢 の 「 ほ と ん ど 」「 し ば し ば 」「 時 々 」 の 受 け 止 め 方 に 個 人
差がありあいまいである
• 対人関係についての質問はしにくい
• 対 人 関 係 (特 に 上 司 ) に つ い て 、 も う 少 し 密 な 質 問 が あ っ た ほ う
がよい
• 「活気」に関する質問3項目には、極めて違和感を感じる
• 社 会 的 支 援 を 尋 ね て い る 質 問 で 、 配 偶 者 , 家 族 ,友 人 を 分 け た ほ
うがよい
• 緊 急 を 要 す る ( 自 殺 の 危 険 )症 状 を 加 え た ほ う が 良 い
• 現在のトラブルの糸口となるような質問を加えたほうが良い
その他の要望・意見
• 必要部分のみ使用したい、セットの提示が欲しい
• 判定結果が実際と合わない
• 質問数が少なくても、評価可能であることを実感した
質 問 の 量 に つ い て 、 健 康 相 談 、 THP な ど 、 そ の 場 で 使 用 す る 場 合 に は 、
ス ト レ ス に 関 す る 質 問 だ け で 57 項 目 を 割 く 時 間 は な く 、 ま た 、 簡 易 評 価 を
行 う 場 合 に も 、評 価 に も そ れ な り の 時 間 が か か る た め 、事 前 配 布 を 考 え た ほ
うがよいと思われる。
質問・選択肢の内容について、対人関係について意見が分かれ、より密に
尋ねたほうがよいという者と人員削減の問題等から尋ねにくいという意見
があった。対人関係についてより密に、という指摘に対しては、調査票を面
談の資料として用いてもらいトラブルの原因となっている対人関係につい
て は 面 談 に よ っ て 情 報 を 得 る ほ う が よ い と 考 え た 。ま た 、社 会 的 支 援 に 関 す
る 質 問 へ の 指 摘 に つ い て は 、調 査 票 の 性 格 が 職 業 性 ス ト レ ス を 対 象 と し た も
のである点から、仕事外の支援は 1 項目でよいと考えた。
使 え な い と 回 答 し た 者 2 名 は 、 修 正 や 条 件 整 備 が あ れ ば 使 え る (人 員 が 十
分 に い れ ば 可 能 な ど )と 回 答 し て い た 。
2 . 健 康 診 断 な ど の 場 面 で の職業性ストレス簡易調査票について
「 ス ト レ ス の 意 識 づ く り や 気 づ き の 促 進 に つ か え そ う か 」と い う 問 に 対 し
て 、 使 え る と 回 答 し た 者 は 38 名 (93% ) 、 使 え な い と 回 答 し た 者 は 3 名 (7% )
167
で あ っ た 。 使 え る と 回 答 し た 者 の う ち 18 名 が こ の ま ま で 十 分 、17 名 が さ ら
に改善の余地があると回答していた。
「 実 際 に 従 業 員 の ス ト レ ス を 減 ら す こ と に 、こ の 調 査 票 は 有 効 か 」と い う
問 に 対 し て 、25 名 (64 % )が 使 え る (有 効 )、14 名 (36 % )が 使 え な い と 回 答 し て
い た 。有 効 と 回 答 し た 者 で は こ の ま ま で 十 分 と 回 答 し た 者 が 8 名 、さ ら に 改
善 の 余 地 が あ る と 回 答 し た 者 が 14 名 で あ っ た 。 使 え な い と 回 答 し た 者 の う
ち 、10 名 は 修 正 や 条 件 整 備 が あ れ ば 使 え る と 回 答 し た が 、4 名 は 修 正 や 条 件
整 備 が あ っ て も 使 え な い と 回 答 し た 。こ の 点 に つ い て は 、自 由 記 述 に よ る 問
題 の 指 摘 か ら 判 断 す る と 、ス ト レ ス 調 査 の み で は ス ト レ ス を 軽 減 す る こ と は
で き ず 、さ ら に 対 策 を た て て い か な く て は な ら な い と い う 考 え か ら 、使 え な
いと回答したようであった。
「 精 神 的 問 題 や ス ト レ ス 事 例 の ス ク リ ー ニ ン グ ( 早 期 発 見) に は 使 え そ う
か 」 と い う 問 に 対 し て 、 35 名 (88 % )が 使 え る 、 5 名 (12% )が 使 え な い と 回 答
し た 。 使 え る と 回 答 し た 者 の う ち 12 名 は そ の ま ま で 十 分 と 回 答 し た が 、20
名 は さ ら に 改 善 の 余 地 が あ る と 回 答 し た 。 使 え な い と 回 答 し た 者 で は 、4 名
は修正や条件整備があれば使えると回答したが、1名は修正や条件整備が
あっても使えないと回答していた。
上 記 3 つ の 問 に 関 連 し て 、 問 題 点 、改 善 す べ き 点 を 自 由 記 述 に よ り 求 め た
ところ、以下のような意見が挙げられた。
簡易調査票の量・内容に関する意見
• 文字が小さい
• 項目数がまだ多い
• 健康診断時では時間がかかるので無理
• 精神的ストレス反応の問いには答えずらい
• ストレスの要因は仕事に関するものとは限らない
• 対処に関する質問があるとよい
個人返却用結果に関する意見
• 結果の出力は2枚はいらない
• プロフィール結果の方向を統一したほうがよい
• 個人ごとの結果に対する問題点や具体的な対策がコメントしてある
とよい
• 利用する際の問題点
• ストレス得点を計算して○点以上は要注意などの数値的基準がある
とよい
• こ の 調 査 票 と 評 価 が 、直 接 ス ト レ ス を 減 ら す こ と に な る か 疑 問 で あ る
• 健 診 で メ ン タ ル 面 の チ ェ ッ ク を 行 う こ と や 、ス ク リ ー ニ ン グ を 行 う こ
と は 、法 的 あ る い は 人 権 上 の 問 題 が な い と は い い き れ な い の で は な い
のか
評価意見
168
•
•
従業員のストレス状態の概要を知ることができる
相談指導をする際、問題となっている点を切り口にして、話を進めて
いくことが出来る
• どこに問題があるのか一目でわかり個人の気づきの助けになる
• 集団の指標、評価にも使用できる
また、簡易調査票そのものに対する意見ではなかったが、ストレス調査に
対する倫理上の問題や事業場の対応の問題なども挙げられていた。
その他
• 健康診断前に簡易調査票を記入、結果出力をし、問診時にその結果を
元に健康指導できるような体制だと使いやすい
• 調査する時期を選ぶのがポイント
• ストレス調査票は実態把握の手段で実際に社員のストレスを減らす
ことは出来ない
• ストレス調査をもって、スクリーニング、ひいてはメンタルストレス
対策に足りるという認識が広まることはよくない
• 本 調 査 票 の 趣 旨 は (個 人 レ ベ ル で の ) ス ト レ ス へ の 気 づ き の 支 援 と 考 え
られるので、拡大解釈されないような運用が必要
事業場サイドの問題
• 2次検査、事後措置体制の整備、労使、作業者等の理解など整備すべ
き問題が多い
• 人員不足
3.これまで使用したことのある調査票との比較
ま ず 、健 康 診 断 や そ の 他 の 機 会 に 簡 易 調 査 票 以 外 の ス ト レ ス や メ ン タ ル ヘ
ル ス の 調 査 票 を 使 用 し た こ と が あ る と 回 答 し た 者 は 33 名 (80% )、 な い と 無
い と 回 答 し た 者 8 名 (20% )で あ っ た 。簡 易 調 査 票 以 外 の ス ト レ ス や メ ン タ ル
ヘ ル ス の 調 査 票 を 使 用 し た 経 験 の あ る 33 名 中 、 本 調 査 票 に 対 す る 評 価 と し
て 、 優 れ て い る 13 名 、 同 じ 7 名 、 劣 っ て い る 2 名 、 わ か ら な い 11 名 と い
う結果であった。
長所としては下記の点があげられていた。
職業性ストレス簡易調査票に関して
• 質問が簡単で読みやすい
• シンプルでまとまりがある
• 評価の方法が明確である
• いろいろな角度からとらえられている
• 仕事を中心に聞いている。
• 「 仕 事 」、「 職 場 環 境 」 に お け る ス ト レ ス に 関 し て は 一 番 わ か り や す い
• 心と体の状態を尋ねている
• ストレス反応に影響を与える他の因子の評価もある
調査施行により得られる長所
169
•
•
•
•
個人結果がわかりやすい
自分状態を客観的に見ることができる
記入の時点でストレスの要因に関する気づきが期待できる
ス ト レ ス フ ル な 状 態 か ら の 対 処 法 、あ る い は 対 処 が 必 要 な 事 態 に 陥 っ て
いることに気づくことが期待できる
• 個人の問題のみでなく、組織や職場としての問題評価ができそう
しかしながら、短所としては、項目数が多い、本調査票にあるストレス因
子 だ け が ス ト レ ス の 原 因 と な る の で は な い 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て 尋
ね て い る 項 目 数 が 少 な い と い っ た 意 見 も あ げ ら れ 、個 人 返 却 用 の ス ト レ ス プ
ロフィールに関しては個人的なコメントがないことなどが指摘されていた。
D.考察
以上の結果をまとめると、回答をよせた産業医、看護婦・士は、職業性ス
ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 産 業 現 場 で 使 用 可 能 と 評 価 し て い た 。し か し 一 部 に は 、
調 査 票 の さ ら な る 短 縮 (項 目 数 を 減 ら す )、 対 処 に 関 す る 質 問 の 追 加 な ど の 要
...
望 が あ る こ と が わ か っ た 。 し か し 、職 業 性 の ス ト レ ス 調 査 票 と い う 点 で 、仕
事 の ス ト レ ス 要 因 を 聞 い て い る 点 が 評 価 さ れ て お り 、本 調 査 票 は 今 後 職 域 で
の 汎 用 性 が 高 い と 考 え ら れ る 。 ま た 、 結 果 (ス ト レ ス プ ロ フ ィ ー ル )の 説 明 文
が長く、個人に対する評価がないという点については、別紙のごとく、某事
業 場 に お い て 総 合 評 価 シ ー ト を 作 成 し て 対 処 し た 。健 康 診 断 な ど 、多 く の 人
数 に 簡 易 調 査 票 を 使 用 す る 場 合 に は 、調 査 票 の デ ー タ か ら 総 合 評 価 ま で を 一
連の流れで行うことができるようなソフトの開発も望まれる。
研 究 者 : 下 光 輝 一 (東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 教 室 )
研 究 協 力 者 : 川 上 憲 人 (岐 阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 ),宮 崎 彰 吾 ( 日 本 鋼 管 病
院 京 浜 保 健 セ ン タ − ), 相 澤 好 治 (北 里 大 学 医 学 部 衛 生 学 公 衆
衛 生 学 ), 林 剛 司 ( 日 立 健 康 管 理 セ ン タ ), 深 澤 健 二 ( ソ ニ ー 株
式 会 社 健 康 開 発 セ ン タ ー ), 三 木 明 子 ( 宮 城 大 学 看 護 学 部 成 人
看 護 ),廣 尚 典 (日 本 鋼 管 病 院 鶴 見 保 健 セ ン タ − ) 、 小 田 切 優
子 (東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 ) 、大 谷 由 美 子 (東 京 医 科 大
学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学)
E.文献
1 )加 藤 正 明 他: 労 働 現 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究
報 告 書 : 労 働 省 平 成 1 0 年 度 「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」 p.
207∼ 212
170
[別紙]
171
Ⅲ−3−2.総合的ストレス対策のモデル事業のなかでの
職業性ストレス簡易調査票の活用
A.目的
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 、総 合 的 ス ト レ ス 対 策 の モ デ ル 事 業 の 中 で 使
用し、その有用性について検討、考察する。
B.方法および結果
実施後の
評価方法
健康診断および 標準化得点使用 参 加 者 の 感 想
を調査。
健康保持増進な 参加者一律
どの機会におけ ( ス ト レ ス プ ロ (100 名中 22 名
が回答)
るストレス対策 フィール)
希望者(約 30%)
に実施
実施方法
1)
2)
ソフトウェア技
術者を対象とし
たストレス対策
事業の中で調査
票を使用(対 象
1619 名)
評価方法
標準化得点使用
参加者一律
(ストレスプロ
フィール)
全員一律結果
返却の後に 200
名をランダム
に選出して調
査票により評
価
(92 名が回答)
評価の内容
ストレスに関心を持つのに役立っ
た(86%)
自分のストレスについて理解する
のに役立った(81%)
ストレスを減らすのに役立つと思
う(55%)
ストレス解消に役立ちそう(55%)
ストレスに関心を持つのに役立っ
た(82%)
自分のストレスについて理解する
のに役立った(76%)
ストレスを減らすのに役立つと思
う(50%)
ストレス解消に役立ちそう(52%)
C.考察
2 事業場での簡易調査票の使用の結果、労働者から、ストレスに関心を持
つ の に 役 立 っ た 、 自 分 の ス ト レ ス に つ い て 理 解 す る の に 役 立 っ た な ど 、簡 易
調 査 票 が 有 用 で あ る と い う 評 価 を 得 た 。調 査 票 の 労 働 者 個 人 か ら の 評 価 に つ
い て は 、質 問 項 目 の み で な く 、個 人 へ の 返 却 の 方 式 に よ り 左 右 さ れ る と 思 わ
れ る 。 昨 年 度 研 究 報 告 後 に 、 簡 易 調 査 票 の フ ィ ー ド バ ッ ク (あ な た の ス ト レ
ス プ ロ フ ィ ー ル )の ソ フ ト を 開 発 し た が 、 個 人 個 人 へ の 具 体 的 な ア ド バ イ ス
を 求 め ら る 声 が 聞 か れ 、 今 後 は 、 産 業 医 、 看 護 婦・士の意見を反映でき、事
業場ごとにその特徴を生かしたコメント等を追加することが可能なソフト
の開発も望まれる。
研 究 者 : 下 光 輝 一 (東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 教 室 )
川 上 憲 人 (岐 阜 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 )
宮 崎 彰 吾 (NKK 京 浜 保 健 セ ン タ ー )
172
Ⅲ−3−3.職業性ストレス簡易調査票の使用に関する研
究
A.目的
筆 者 ら は こ れ ま で 、職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 活 用 に 関 す る 調 査 を 行 っ
て き た 。 今 回 は 、 こ れ を 実 際 に 使 用 し 、 回 答 者 が 内 容 を 理 解・ 応 用 で き る か
検討することを目的とした。
B.対象と方法
都 内 の あ る 金 融 機 関 の 事 務 作 業 者 110 名 に 簡 易 調 査 票 を 配 布 し 、記 入 を 求
め 、 回 答 を 郵 送 に よ り 回 収 し た 。 回 答 の あ っ た 80 人 ( 男 性 48 人 、 女 性 32
人 )の そ れ ぞ れ に 判 定 結 果 の チ ャ ー ト 表 を 送 付 し 、 さ ら に 、 1) 結 果 が 全 体 と
し て わ か り や す い か 、2)「 ス ト レ ス の 原 因 」 の 評 価 が 回 答 者 自 身 感 じ て い る こ
と と 一 致 す る か 、3 )「 ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 」 の 評 価 が 回 答 者 自
身 感 じ て い る こ と と 一 致 す る か 、 4) 「 ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る 他 の 因
子 」 の 評 価 が 回 答 者 自 身 感 じ て い る こ と と 一 致 す る か 、 5)今 回 の 結 果 が 回 答
者 自 身 の ス ト レ ス の 気 づ き に 役 立 つ か 、を 回 答 を 求 め た 。こ れ に よ り 得 ら れ
た 回 答 結 果 (男 性 12 人 、 女 性 9 人 )を 解 析 し た 。解 析 対 象 と し た 21 人 の 年 齢
は 、 男 性 34 ∼ 58(平 均 46)歳 、 女 性 22∼ 44( 平 均 32 )歳 で あ っ た 。
表 1 あ る 金 融 機 関 の 事 務 作 業 者 80 人 の 簡 易 調 査 票 回 答 結 果
男
性
女
性
男
性
女
性
男
性
女
性
a
a
量的負担
質的負担
身体負担
対人関係
職場環境
コントロール
技術の活用
適合性
働きがい
2.8(1-5)
3.0(2-5)
3.2(1-4)
3.6(2-5)
3.1(1-4)
3.5(1-5)
2.9(1-4)
2.9(1-5)
3.6(2-5)
3.0(1-5)
3.1(1-5)
3.3(2-4)
2.7(1-4)
2.7(1-4)
2.7(1-5)
2.6(0-4)
2.8(1-5)
2.7(1-4)
活気
いらいら
疲労
不安
うつ
身体愁訴
3.6(2-5)
3.6(2-5)
3.3(1-4)
3.4(1-5)
3.3(1-4)
3.3(0-4)
3.1(1-5)
2.8(1-4)
2.9(1-4)
2.9(1-4)
2.8(1-4)
2.9(1-4)
上司サポート
同僚サポート
家族サポート
満足
3.7(2-5)
3.5(2-5)
3.3(1-4)
3.4(1-5)
2.8(1-4)
2.8(1-5)
3.9(1-5)
2.8(1-5)
男 性 4 8 人 (年 齢 2 4 - 5 8 、 平 均 3 9 歳 )、 女 性 3 2 人 (年 齢 22-57、 平 均 35 歳 )
173
C.結果
は じ め に 得 ら れ た 80 人 の 回 答 結 果 を 表 1 に 示 す 。 解 析 対 象 と し た 21 人
の簡易調査票の結果に対する評価を表2に示す。簡易調査票の「ストレスの
原 因 」 、「 ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 」 お よ び 「 ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を
与 え る 他 の 因 子 」 の 評 価 は い ず れ も 2/ 3 以 上 の 回 答 者 が 自 己 の 評 価 と 一 致
し て い た 。 ま た 、 2 /3 以 上 の 回 答 者 が ス ト レ ス の 気 づ き に 役 立 つ と 回 答 し
た。
表 2 金 融 機 関 事 務 作 業 者 21 人 の 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 へ の 評 価
男 性 (% )
結果のわかりやすさ:
わかりにくい
どちらかといえばわかりにくい
どちらかといえばわかりやすい
わかりやすい
どちらともいえない
「 ス ト レ ス の 原 因 」 の 自 己 評 価 と の 一 致:
一致しない
どちらかといえば一致しない
どちらかといえば一致する
一致する
どちらともいえない
「 ス ト レ ス に よ る 心 身 反 応 」 の 自 己 評 価 と の 一 致:
一致しない
どちらかといえば一致しない
どちらかといえば一致する
一致する
どちらともいえない
「ストレス反応に影響を与える他の因子」の自己評
価との一致:
一致しない
どちらかといえば一致しない
どちらかといえば一致する
一致する
どちらともいえない
「 ス ト レ ス へ の 気 づ き 」 に 役 立 つ か:
役立たない
どちらかといえば役立たない
どちらかといえば役立つ
役立つ
どちらともいえない
女 性 (% )
計 (% )
1
5
2
3
1
(8.3)
(41.7)
(16.7)
(25.0)
(8.3)
0
5
3
0
1
(0)
(55.6)
(33.3)
(0)
(11.1)
1
10
5
3
2
(4.8)
(47.6)
(23.8)
(14.3)
(9.5)
0
2
6
2
2
(0)
(16.7)
(50.0)
(16.7)
(16.7)
0
0
6
2
1
(0)
(0)
(66.7)
(22.2)
(11.1)
0
2
12
4
3
(0)
(9.5)
(57.1)
(19.0)
(14.3)
1
1
6
4
0
(8.3)
(8.3)
(50.0)
(33.3)
(0)
0
0
6
3
0
(0)
(0)
(66.7)
(33.3)
(0)
1
1
12
7
0
(4.8)
(4.8)
(57.1)
(33.3)
(0)
0
0
7
3
2
(0)
(0)
(58.3)
(25.0)
(16.7)
0
0
8
1
0
(0)
(0)
(88.9)
(11.1)
(0)
0
0
15
4
2
(0)
(0)
(71.4)
(19.0)
(9.5)
0(0)
2 (16.7)
6 (50.0)
2 (16.7)
2 (16.7)
0
1
5
1
2
(0)
(11.1)
(55.6)
(11.1)
(22.2)
0
3
11
3
4
(0)
(14.3)
(52.4)
(14.3)
(19.0)
これらに対し、男女とも半数以上が、結果が 「わかりにくい」、「どちらか
らといえばわかりにくい」または「どちらともいえない」と答えた。これらの
回 答 者 で は 、 不 安 感 、 疲 労 感 お よ び 身 体 愁 訴(い ず れ も ス ト レ ス に よ る 心 身
174
反 応 )の 得 点 (そ れ ぞ れ 平 均 3.0, 3.1, 3.0 点 )が 「 わ か り や す い 」 「 ど ち ら か と い
え ば わ か り や す い 」 と 回 答 し た 者 の 得 点 (同 4.0, 3.8, 3.9 点 ) よ り 有 意 に 低
か っ た (p<0.05)。( 表 3 )
表3 「わかりにくい」、「どちらからといえばわかりにくい」または「どちら
と も い え な い 」 と 答 え た 13 人 と 「 わ か り や す い 」 「 ど ち ら か と い え ば わ か
りやすい」と答えた8人との不安感、疲労感および身体愁訴得点の比較
(平 均 と 範 囲 )
「わかりにくい」ほか
「わかりやすい」ほか
不安感
3.0 (1-4)*
4.0 (3-5)
疲労感
3.1 (2-4)*
3.8 (2-4)
身体愁訴
3.0 (2-4)*
3.9 (3-4)
* p<0.05 (順 位 和 検 定 )
D.考察
簡 易 調 査 票 に よ る 評 価 は 被 験 者 の 自 己 評 価 と よ く 一 致 し 、ス ト レ ス の 気 づ
き に 役 立 つ と 推 定 さ れ た 。半 数 以 上 の 回 答 者 が 結 果 の チ ャ ー ト 表 示 が 一 目 で
は 判 ら な か っ た と 考 え ら れ る の で 今 後 表 示 に 工 夫 を 要 す る と 思 わ れ る 。訴 え
の 多 い 者 は 自 己 の ス ト レ ス 評 価 に 関 心 が あ る た め 、結 果 を よ く 理 解 し た と 推
察される。
研 究 者 : 横 山 和 仁 、 荒 記 俊 一 (東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研
究 科 ・ 医 学 部 公 衆 衛 生 学 教 室 )、
丸 田 敏 雅 、 飯 森 眞 喜 雄 (東 京 医 科 大 学 精 神 医 学
教室)
研 究 協 力 者 : 木 村 薫 (東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 ・ 医 学
部公衆衛生学教室)
Ⅲ−3−4.職業性ストレス簡易調査票の有用性の検討
A.はじめに
ス ト レ ス 相 談 の 前 後 で 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 実 施 し 、そ の 介 入 の 評
価としての簡易調査票の有効性について考察した。
175
B.対象と方法
某 製 造 業 で 働 く 従 業 員 518 名 に 対 し て 、1998 年 11 月 の 健 康 診 断 の 事 前 に
簡 易 調 査 票 を 個 人 に 配 布 し 、健 康 診 断 実 施 当 日 に 回 収 を し た 。提 出 さ れ た 調
査 票 回 答 者 518 名 中 有 効 デ ー タ 508 名 を 対 象 と し た 。
対 象 者 の 年 齢 構 成 を 図 1 に 示 し た 。 2 0 歳 代 ・ 3 0 歳 代 で 全 体 の 67.2 %
を 占 め た 。 平 均 年 齢 を 見 る と 全 体 で は 35.0 歳 、 男 性 で 36.3 歳 、 女 性 で 31.6
歳であった。
年齢構成
35.8%
総計
女性
33.7%
58.2%
26.8%
男性
0%
20歳代
20%
20.9%
15.8% 8.9%
17.1%
22.9%
40.3%
40%
30歳代
9.6%
60%
40歳代
80%
9.9%
100%
50歳代
図1 性・年齢別構成
対象者の部署別構成を図 2 に示した。部署の構成をみると、生産部、産機
技術部、流通・物流技術部、サービスセンターまでで約 6 割を占めた。
176
0
20
40
60
80
100
120
生産部
産機技術部
対象者数(人)
流通・
物流技術部
サービスセンター
資材部
開発部
品質保証部
新入社員研修
開発生産部門
産機システム部門
情報システム室
物流システム部
総務部
流通・
FA部門
経理部
部署の構成
男性
女性
その他
図2 対象者の部署別構成
1.断面調査
各々の自覚症状、心理的疲労感などのストレスによっておこる心身の反
応 と 1 )仕 事 の 負 荷 、 2 )仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 、3 )作 業 環 境 、 4 ) 働 き が い 、
5 )上 司・同 僚 な ど の 周 囲 の 社 会 的 支 援 に つ い て の 関 係 に つ い て 断 面 的 に 検
討した。
こ の 場 合 、ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 と し て 、簡 易 調 査 票 の (1)
「 怒 り を 感 じ る 」、 (2) 「 内 心 腹 立 た し い 」、 (3) 「 イ ラ イ ラ し て い る 」、 (4)
「 ひ ど く 疲 れ た 」、 (5) 「 へ と へ と だ 」、 (6) 「 だ る い 」、 (7) 「 気 が は り つ め
て い る 」、(8)「 不 安 だ 」、(9)「 落 着 か な い 」、(10)「 ゆ う う つ だ 」、(11)「 何
を す る の も 面 倒 だ 」、(12)「 物 事 に 集 中 で き な い 」、(13)「 気 分 が 晴 れ な い 」、
(14) 「 仕 事 が 手 に つ か な い 」、 (15) 「 悲 し い と 感 じ る 」、 (16) 「 め ま い が す
る 」、(17)「 体 の ふ し ぶ し が 痛 む 」、(18)「 頭 が 重 た か っ た り 頭 痛 が す る 」、
(19)「 首 筋 や 肩 が こ る 」、(20)「 腰 が 痛 い 」、(21)「 目 が 疲 れ る 」、(22)「 動
悸 や 息 切 れ が す る 」、(23)「 胃 腸 の 具 合 が 悪 い 」、(24)「 食 欲 が な い 」、(25)
「 便 秘 や 下 痢 を す る 」、 (26) 「 よ く 眠 れ な い 」 の 26 項 目 に つ い て 「 し ば し
ばあった」または「ほとんどいつもあった」と答えた場合を1点として、
その合計とした。
(1)仕事負荷によるストレスによっておこる心身の反応
①「 非 常 に た く さ ん の 仕 事 を し な け れ ば な ら な い 。」、②「 時 間 内 に 仕 事
が 処 理 し き れ な い 」、③「 一 生 懸 命 働 か な け れ ば な ら な い 」、④「 か な り 注
意 を 集 中 す る 必 要 が あ る 」、⑤「 高 度 の 知 識 や 技 術 が 必 要 な 難 し い 仕 事 だ 」、
177
⑥「 勤 務 時 間 中 は い つ も 仕 事 の こ と を 考 え て い な け れ ば な ら な い 」、⑦「 か
ら だ を 大 変 よ く 使 う 仕 事 だ 」 の 7 項 目 に つ い て「 そ う だ 」 ま た は「 そ う だ
まあ」と答えた場合を1点としてその合計を仕事負荷とし、検討した。
(2)仕事のコントロールによっておこる心身の反応
仕 事 の コ ン ト ロ ー ル に つ い て は 、 ① 「 自 分 の ペ ー ス で 仕 事 が で き る 」、
② 「 自 分 で 仕 事 の 順 番 ・ や り 方 を 決 め る こ と が で き る 」、 ③ 「 職 場 の 仕 事
の 方 針 に 自 分 の 意 見 を 反 映 で き る 」の 3 項 目 に つ い て「 そ う だ 」ま た は「 そ
うだまあ」と答えた場合を1点として、その合計とし、その関連について
検討した。
(3)職場環境によっておこる心身の反応
職 場 環 境 に つ い て「 私 の 職 場 の 作 業 環 境 ( 騒 音 ・ 照 明・ 温 度・ 換 気 な ど )
は よ く な い 」に つ い て「 そ う だ 」ま た は「 そ う だ ま あ 」と 答 え た 場 合 を「 悪
い」とし、それ以外を「良い」とし、その関系を検討した。
(4)働きがいとストレスによっておこる心身の反応
働 き が い に つ い て「 働 き が い の あ る 仕 事 だ 」 を 「 そ う だ 」 ま た は「 そ う
だ ま あ 」 と 答 え た 場 合 を「 あ る 」 と し 、 そ れ 以 外 を 「 な い 」 と し 、 そ の 関
連を検討した。
(5)サポートとストレスによっておこる心身の反応
周囲からのサポートによってストレスは軽減されることが知られてい
る 。 今 回 の 調 査 に お い て (1 )上 司 、(2 ) 職 場 の 同 僚 、( 3 ) 配 偶 者 、 家 族 、
友人などのそれぞれからのサポートと心身の反応との関連を調べた。
2.ストレス相談による介入調査
初年度の簡易調査票の結果からストレスによっておこる心身の反応が高
い と 判 断 さ れ た 者 47 名 に 対 し て ス ト レ ス 相 談 を 1999 年 よ り 実 施 し 、 再 度
1999 年 11 月 の 健 康 診 断 時 に そ の 47 名 に 対 し て 簡 易 調 査 票 に よ る 調 査 を 実
施 し 、 ス ト レ ス の 原 因 と な る 因 子 (心 理 的 な 仕 事 の 量 的 負 担 ・ 質 的 負 担 、 職
場 環 境 に よ る ス ト レ ス 、仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 、相 談 受 診 者 の 仕 事 の 技 能 の 活
用 度 、 仕 事 の 適 性 度 、 働 き が い )、ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 (活 気 、
イ ラ イ ラ 感 、 疲 労 感 、 不 安 感 、 抑 う つ 、 身 体 愁 訴 )、 ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を
与 え る 他 の 因 子( 家 族 ・ 友 人 、 上 司 ・ 同 僚 か ら の サ ポ ー ト 、 仕 事 や 生 活 の 満
足 感 )そ れ ぞ れ に お い て ど の よ う に 変 化 し た の か を 対 応 の あ る t 検 定 に て 検
討した。
C.結果と考察
1.断面調査
( 1 ) ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 (表 1 )
全 体 の ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 の 分 布 を 見 れ ば 、心 身 の 反 応
の 0 ∼ 9 で 全 体 の 8 割 強 (84.8% )を 占 め た 。 ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身
の反応4以内の範囲では約 6 割弱を占めていた。
178
表1 ストレスによっておこる心身の反応の分布
ストレス度
0∼4
5∼9
10∼14
15∼19
20∼23
男性
213
97
39
11
2
%
58.8%
26.8%
10.8%
3.0%
0.6%
女性
78
43
17
6
2
%
53.4%
29.5%
11.6%
4.1%
1.4%
総計
291
140
56
17
4
%
57.3%
27.6%
11.0%
3.3%
0.8%
ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 の 平 均 を 見 る と 全 体 で は 4.79 で あ
り 、 男 性 4.65、 女 性 5.14 で あ る 。 年 代 別 性 別 で は 30 歳 代 の 女 性 が 最 も
高 く 6.40、 年 代 で は 20 歳 代 が 最 も 高 く 5.11 で あ っ た 。 30 歳 代 の 女 性 は
負担がかかりやすい立場におかれていると思われた。
表2 年代別・性別ストレス度の平均
年代分布
男性
女性
総計
20 歳 代
平均
4.88
5.38
5.11
対象者数
97
85
182
30 歳 代
平均
4.68
6.40
4.93
対象者数
146
25
171
40 歳 代
平均
4.73
4.17
4.61
対象者数
83
23
106
50 歳 代
平均
3.75
2.92
3.53
対象者数
36
13
49
平均
4.65
5.14
4.79
対象者数
362
146
508
部 署 別 ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 を 図 -3 に 示 し た 。 情 報 シ ス
テ ム 室 8.73、 流 通 ・ FA 部 門 7.50、 開 発 生 産 部 門 6.06 、 サ ー ビ ス セ ン タ
ー 5.60 な ど コ ン ピ ュ ー タ ー を メ イ ン で 使 用 す る 業 務 や 、 サ ー ビ ス 部 門 な
ど に 心 身 の 反 応 が 高 く 見 ら れ た 。自 覚 的 な 蓄 積 疲 労 が 意 識 さ れ や す い と 思
われた。
(2)仕事よっておこる心身の反応
仕事の負荷とストレスによっておこる心身の反応の関連をみると仕事
の 負 荷 の 少 な い (0 ∼ 1 )が 2.90 と も っ と も 心 身 の 反 応 が 少 な く 、 仕 事 負
荷 の か な り 多 い (6 ∼ 7 )が 5.42 と も っ と も 高 く な っ て い る 。 負 担 が 多 け
れば多いほど心身の反応も高くなっていた。
年代別に仕事負荷とストレスによっておこる心身の反応の関連をみる
と 仕 事 負 荷 の 少 な い (0 ∼ 1 )場 合 が ど の 年 代 と も 、 も っ と も ス ト レ ス に
179
10.00
部署別ストレス度
9.00
8.00
7.00
6.00
5.00
4.00
3.00
2.00
1.00
部署平均
全
体
他
の
部
そ
理
経
門
テム
情
部
報
門
シ
ス
テ
物
ム
流
室
シ
ス
テ
ム
部
総
務
流
部
通
・
FA
部
門
部
シス
機
産
開
発
生
産
研
修
部
入
社
員
証
部
保
発
材
部
開
質
品
新
通
流
資
術
・
物
部
流
サ
技
ー
術
ビ
部
ス
セ
ン
タ
ー
技
機
産
生
産
部
0.00
全体平均
図3 部署別のストレスによっておこる心身の反応
よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 が 少 な く 、 か な り 多 い (6 ∼ 7 )が も っ と も 高 く
なっていた。
(3)仕事のコントロールと心身の反応
仕 事 の コ ン ト ロ ー ル の 欠 如 と 心 身 の 反 応 の 関 連 を み る と 、全 体 で は コ ン
ト ロ ー ル が か な り 強 く( 3 ) 持 て て い る と 心 身 の 反 応 が 低 く 、 コ ン ト ロ ー
ル が な い (0 )と 心 身 の 反 応 が 高 く な っ て い た 。 年 代 別 に み る と 若 年 層 ほ ど
その傾向が強まっていた。
180
10.00
9.00
少ない
普通
多い
かなり多い
全体平均
8.00
7.00
6.00
5.00
4.00
3.00
2.00
1.00
0.00
20 歳代
30 歳代
40 歳代
50 歳代
平均
図 4 仕 事 負 荷 と 心 身 の 反 応 (年 代 別 )
10.00
9.00
ない
8.00
弱い
強い
かなり強い
全体平均
7.00
ス
6.00
ト
5.00
レ
4.00
ス
3.00
反
応
2.00
1.00
0.00
20 歳代
30 歳代
40 歳代
50 歳代
図5 仕事のコントロールと心身の反応
平均
181
(4)職場環境と心身の反応
職場環境と心身の反応の関連をみると職場環境が悪いと思う場合に心
身 の 反 応 が 高 い 。 年 代 別 で 40 歳 代 で は 職 場 環 境 に よ っ て 心 身 の 反 応 に 影
響 は み ら れ て い な い 。 50 歳 代 で は 「 悪 い 」 と 思 う 場 合 の 方 が ス ト レ ス 度
が 高 い が 、 全 体 平 均 を 下 回 っ て い た 。 職 場 環 境 の 要 因 は 、 2 0・ 3 0 歳 代
に影響が大きいようであった。
表3 職場環境によっておこる心身の反応
年代分布
良い
悪い 総計
20歳 代
平均
4.39
6.06
5.11
対象者数
104
78
182
30歳 代
平均
4.20
6.03
4.93
対象者数
103
68
171
40歳 代
平均
4.73
4.44
4.61
対象者数
63
43
106
50歳 代
平均
2.97
4.35
3.53
対象者数
29
20
49
平均
4.26
5.56
4.79
対象者数
299
209
508
(5)働きがいと心身の反応
働 き が い と 心 身 の 反 応 の 関 連 を み る と 働 き が い が「 あ る 」場合には、ス
ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 は 低 く 、「 な い 」 場 合 に は 高 く な っ て い
た。その傾向はどの年代においてもみられた。
10.00
9.00
8.00
働きがいがない
7.00
ス
6.00
ト
5.00
レ
4.00
ス
3.00
反
応
全体平均
働きがいがある
2.00
1.00
0.00
少ない
普通
多い
かなり多い
図6 働きがいと心身の反応
総計
182
10.00
働きがいとストレス度
9.00
8.00
ス
ト
ない
7.00
6.00
レ
ス
度
全体平均
5.00
4.00
ある
3.00
2.00
1.00
0.00
20 歳代
30 歳代
40 歳代
50 歳代
平均
図7 働きがいと仕事負荷別ストレス反応
以 上 、仕 事 と ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 と の 関 連 を み て き た が 、
心 身 の 反 応 か ら み る と「 働 き が い 」 が 「 な い 」 と 感 じ て い る 場 合 が も っ と
も 心 身 の 反 応 が 高 く 、仕 事 の 負 荷 が 少 な い 場 合 が も っ と も 心 身 の 反 応 が 低
い 。 働 き が い が あ る と 仕 事 負 荷 が か な り 多 く て も 心 身 の 反 応 は 4.73 と 全
体 平 均 4.79 と ほ ぼ 同 じ ぐ ら い ま で 軽 減 し た 。
(6)サポート体制とストレスによっておこる心身の反応
周囲からのサポートによってストレスは軽減されることが知られてい
る。今回の調査において①上司、②職場の同僚、③配偶者、家族、友人な
どのそれぞれからのサポート体制と心身の反応との関連を調べた。
サ ポ ー ト と し て 「 次 の 人 た ち は ど れ く ら い 気 軽 に 話 し が で き ま す か 」、
「 あ な た が 困 っ た 時 、次 の 人 た ち は ど れ く ら い 頼 り に な り ま す か 」、
「あな
た の 個 人 的 な 問 題 を 相 談 し た ら 、次 の 人 た ち は ど の く ら い き い て く れ ま す
か 」 の 3 項 目 に お い て「 非 常 に 」 ま た は「 か な り 」 と 答 え た 場 合 を 1 点 と
してその合計をサポートの度合とした。
a)サ ポ ー ト が 十 分 に 得 ら れ て い る 場 合
3 項目とも「非常に」または 「かなり」と答えたサポートの度合が
強い者だけを取り出し、サポートが十分に得られているグループとし
た。①上司、②職場の同僚、③配偶者、家族、友人などのうち、どの
サポートがもっとも心身の反応を下げるかを比較してみた。
サ ポ ー ト が 十 分 に 得 ら れ て い る グ ル ー プ で は 、50 歳 代 を 除 く 各 年 代
とも上司のサポートが得られている場合にストレスによっておこる心
身の反応が低い結果となった。
183
10.00
9.00
上司のサポートが得られる
同僚のサポートが得られる
8.00
ス
7.00
ト
6.00
レ
配偶者、家族、友人などのサポートが得られる
全体平均
5.00
ス
反
応
4.00
3.00
2.00
1.00
0.00
20 歳代
30 歳代
40 歳代
50 歳代
平均
図8 サポートが十分に得られている場合
b) サ ポ ー ト が 得 ら れ て い な い グ ル ー プ の 場 合
逆 に 3 項 目 と も「 多 少 」 ま た は「 全 く な い 」 と 答 え た サ ポ ー ト の 度 合
が 弱 い 者 だ け を 取 り 出 し 、サ ポ ー ト が 得 ら れ な い グ ル ー プ と し た 。① 上
司、②職場の同僚、③配偶者、家族、友人などのうち、どのサポートが
ないと心身の反応を上げるかを比較してみた。
全 体 で は ② 同 僚 の サ ポ ー ト が な い 場 合 に 心 身 の 反 応 が 一 番 高 く 5.90、
次 い で ③ 配 偶 者 、 家 族 、 友 人 な ど が 5.75、 ① 上 司 が 5.43 と な っ て い る 。
年 代 別 に み る と 20 歳 代 、30 歳 代 で は ③ 配 偶 者 、 家 族 、 友 人 な ど の サ ポ
ートがない場合がもっともストレスによっておこる心身の反応が高く、
20 歳 代 で 8.67 で あ り 、 30 歳 代 で 6.60 で あ っ た 。 40 歳 代 、 50 歳 代 で
は ② 同 僚 の サ ポ ー ト が な い 場 合 が も っ と も 心 身 の 反 応 が 高 く 、 40 歳 代
で 6.78 で あ り 、 50 歳 代 で 5.00 で あ っ た 。 サ ポ ー ト が 得 ら れ な い 場 合
の ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 の 増 大 は 、年 代 に よ る 格 差 が み ら
れた。
184
10.00
ストレス度とサポートが得られない場合
8.00
ス 6.00
ト
レ
4.00
全体平均
ス
上司のサポートが得られない
度
同僚のサポート得られない
2.00
配偶者、族、友人などのサポートが得られない
0.00
20 歳代
30 歳代
40 歳代
50 歳代
平均
図9 サポートが得られない場合
c) 周 囲 か ら の サ ポ ー ト と 心 身 の 反 応
全 体 を み る と 周 囲 か ら の サ ポ ー ト を「 よ く 得 て い る 」グ ル ー プ ほ ど ス
ト レ ス 度 は 低 く (平 均 3.64)、多 く の サ ポ ー ト が 受 け ら れ る 場 合 に 心 身 の
反 応 を 軽 減 す る こ と を 示 し て い る 。 年 代 別 に み る と 20 歳 代 、30 歳 代 で
は「 得 に く い 」 グ ル ー プ と「 得 て い る 」 グ ル ー プ と の 差 は あ ま り な く 、
30 歳 代 で ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 は 逆 転 す る 。 し か し 、 サ
ポ ー ト を「 よ く 得 て い る 」グ ル ー プ で は 年 代 に 関 係 な く も っ と も ス ト レ
スによっておこる心身の反応は低いと思われた。
表4 周囲からのサポート
年代分布
平均
20歳 代
対象者数
平均
30歳 代
対象者数
40歳 代
50歳 代
平均
対象者数
平均
対象者数
平均
対象者数
得にくい
0∼3
6.17
24
4.97
32
6.58
24
5.63
8
5.80
88
得ている
4∼7
5.60
103
5.76
80
4.38
55
3.05
22
5.18
260
よく得ている
8∼9
3.73
51
3.73
55
3.50
20
3.00
11
3.64
137
その他
3.75
4
4.50
4
2.86
7
3.50
8
3.52
23
185
以 上 、ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 と 周 囲 か ら の サ ポ ー ト と の 関
連 を み て き た 。周 囲 の サ ポ ー ト が よ く 得 ら れ て い る 場 合 、上 司 か ら の サ ポ
ー ト が あ る と き ほ ど 心 身 の 反 応 は 低 く 、サ ポ ー ト が 得 ら れ な い 場 合 、同 僚
か ら の サ ポ ー ト が な い 場 合 に 心 身 の 反 応 を 高 め る こ と が わ か っ た 。し か し 、
サ ポ ー ト が な い 場 合 に は 年 代 別 の 格 差 が み ら れ 、20・ 30 歳 代 ほ ど 配 偶 者 、
家 族 、友 人 な ど の サ ポ ー ト が な い と ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 を
高めることがわかった。
若年層においては、配偶者、家族、友人などとの関係が日常生活での基
本 的 な 部 分 で あ り 、サ ポ ー ト が 得 ら れ な い と し た ら そ れ だ け ス ト レ ス を 溜
め 込 ん で し ま う こ と が 考 え ら れ る 。一 方 、上 司 と の 関 係 が 良 好 で あ る 場 合
は 、「 働 き が い 」 な ど の 要 因 も 関 連 し て ス ト レ ス を あ ま り 感 じ な く て す む
と考えられる。
全 体 を 通 じ て 周 囲 か ら の サ ポ ー ト が「 よ く 得 ら れ る 」場 合 ほ ど ス ト レ ス
は 低 下 す る 。ス ト レ ス 対 策 の 一 環 と し て サ ポ ー ト 体 制 の 整 備 の 重 要 性 が 言
わ れ る が 、今 回 の 調 査 で も サ ポ ー ト が 十 分 に 得 ら れ る ほ ど ス ト レ ス を 軽 減
すると思われた。
以上断面調査の結果をまとめると下記のとおりとなる。
① 仕事の負荷が多いとストレスによっておこる心身の反応は高くなる
傾向がみられた。
② 仕事に自分の意見が反映するなどのコントロールが持てるようにな
るとストレスによっておこる心身の反応も低下する傾向がみられた。
③ 作 業 環 境 を 悪 い と 思 う 場 合 、ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 が や
や高くなる傾向がみられた。
④ 働 き が い を も ち に く い と 思 う 場 合 、ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反
応が高くなる傾向がみられた。
⑤ 働 き が い を も っ て い る 場 合 、仕 事 の 負 荷 が 多 く て も ス ト レ ス に よ っ て
おこる心身の反応は全体平均値より若干ではあるが低くなる傾向がみら
れた。
⑥ 周 囲 の サ ポ ー ト で は 、上 司 の サ ポ ー ト が 多 く 得 ら れ る ほ ど ス ト レ ス に
よっておこる心身の反応は低くなる傾向がみられた。
⑦ 周囲のサポートが得られない場合、若年層では配偶者、家族、友人の
サ ポ ー ト が 得 ら れ な い 場 合 に 、 40 歳 ・ 50 歳 代 で は 職 場 の 同 僚 の サ ポ ー
トが得られない場合に、ストレスによっておこる心身の反応が高くなる
傾向がみられた。
⑧ 周囲からのサポートをよく得ている場合にストレスによっておこる
心身の反応は低く、得にくい場合には高くなる傾向がみられた。
今回の調査によって、仕事においては、意欲をもたせることがストレス軽
減 の た め に は 重 要 な 要 素 で あ る と 考 え ら れ た 。周 囲 の サ ポ ー ト と し て 上 司 に
相 談 で き た り 、頼 り が い が あ る と 思 え る 上 司 を も つ こ と に よ り ス ト レ ス も 軽
186
減 す る 。 若 年 層 に お い て は 、 身 近 な 配 偶 者 ・ 家 族・ 友 人 と の 関 係 に お い て 相
談 で き な い な ど の 状 況 に お か れ た 場 合 、 ス ト レ ス が 増 大 す る 。また、周囲か
ら の サ ポ ー ト が 得 ら れ な い 場 合 は ス ト レ ス が 増 大 す る 。サ ポ ー ト 体 制 が 整 備
されるほどストレスは軽減するという定説を裏付ける結果となった。
2.ストレス相談による介入調査
結果を表 5 に示した。
ストレス相談後、心理的な仕事の量的負担・質的負担、職場環境によるス
トレス、仕事のコントロール、相談受診者の仕事の技能 の活用度、仕事の適
性 度 、働 き が い と い っ た ス ト レ ス の 原 因 と な る 因 子 に つ い て 改 善 が 認 め ら れ
た。
ま た 、 ス ト レ ス に よ っ て お こ る 心 身 の 反 応 に つ い て は 活 気 、イ ラ イ ラ 感 、
疲労感、不安感、抑うつ、身体愁訴すべてにおいて改善が認められた。
ストレス反応に影響を与える他の因子については家族友人からのサポー
ト、仕事や生活も満足感は改善傾向を示した。
187
表 5
ストレス相談は特にストレスによって引き起こされる心身の反応には有
効 で あ る と 思 わ れ る 。ま た 、ス ト レ ス の 原 因 と 考 え ら れ る 因 子 に つ い て も あ
る程度有効かと思われるが、職場の対人関係、仕事量、またその他のストレ
スに影響を与える上司や同僚からのサポートについてはストレス相談だけ
で は 対 処 が 難 し く 、職 場 全 体 と し て の ス ト レ ス 対 策 つ ま り 、メ ン タ リ ン グ や
メ ン タ ル ヘ ル ス 教 育 、 EAP 導 入 な ど を 積 極 的 に 考 え て い く べ き で は な い か
と思われる。
一 方 、こ の よ う に ス ト レ ス 相 談 を 実 施 し 、そ の 効 果 判 定 に 簡 易 調 査 票 を 使
用 す る こ と は 有 効 か と 思 わ れ る 。し か し 、そ の 効 果 判 定 の 時 期 に つ い て は 、
188
相 談 の 時 期 が 様 々 で あ っ た こ と 、再 調 査 は 次 の 健 康 診 断 時 に 実 施 し た こ と な
ど改善の余地はあると思われる。
以下、職場の反応も合わせて有効性と注意点について述べる。
D.結果有効性と注意点
1 .社 内 で の ス ト レ ス 対 策・メ ン タ ル ヘ ル ス の 導 入 に 際 し て の 客 観 的 基 礎 デ
ータの収集に有効と思われる。
実施感想より:その他の問診票に比べて質問項目が少なく、また労働と
の関係の問診項目があるため。
注意点:
①
ス ト レ ス 対 策 に は 、こ の 調 査 票 以 外 に 仕 事 量 を 図 る 残 業 時 間 、シ フ ト
の仕方、標準的作業時間、更には生産性などの社内の情報の収集が必要
となる。
②
下 記 の よ う に 調 査 票 の 各 項 目 に は 調 査 後 の フ ォ ロ ー (メ ン タ ル ヘ ル ス
教 育 、 適 正 配 置 、 時 間 管 理 、 カ ウ ン セ リ ン グ 、 リ ラ ク セ ー シ ョ ン 等 )が 必
要になる場合があるため、その後の対策・措置まで考えた計画が必要と
なる。
表6 調査票項目とストレス対策
ストレス要因
コントロール
働きがい
社会サポート
不定愁訴・訴え
リラクセーション
時間管理
シフトの組み方
適正配置
EAP の導入
カウンセリング
適正配置
アクティブリスニング
メンタリング教育
カウンセリング
メンタルヘルス教育
リラクセーション
③
調 査 票 実 施 後 に 生 じ た 問 題 の 対 策・措 置 に は 労 働 者 個 人 の レ ベ ル か ら
会社全体に対するものまであり、社内のコンセンサス、産業医のコンセ
ンサスを得る必要がある。
④
調 査 票 の 質 問 項 目 の 中 に は 上 司 と の 関 系 、 同 僚 と の 関 系 、仕 事 の や り
がい、働きがいといった情報があり、事業場用として使用されると会社
の不満分子としてみられる危険性もあり、こうした個人の健康情報の開
示におけるプライバシーの保護には十分な配慮、さらには事業場として
の取り決めが必要と思われる。
189
部門対応
個人対応
メンタリング教育
カウンセリング
リラクセーション
事業場
メンタルヘルス教育
適正配置
時間管理
シフトの組み方
EAPの導入
小規模事業場における注意点
導 入 に 際 し 、事 業 主 の メ ン タ ル ヘ ル ス に 対 す る 理 解 は か な り 重 要 な 部 分 と
な る が 、小 規 模 事 業 場 の 場 合 、こ れ ま で メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 者 の 経 験 の な い
場 合 が あ る 。そ の 場 合 導 入 の 意 義 の コ ン セ ン サ ス は 得 に く 、リ ス ト ラ に よ る
仕 事 量 の 増 加 、仕 事 の ス タ イ ル の 変 更 な ど に よ る ス ト レ ス の 増 大 が 考 え ら れ
るケースにはその部分により導入を図るなどの工夫が必要である。
実 際 に 、小 規 模 事 業 場 に お い て は 調 査 票 実 施 に は メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 者 の
経験があり、協力的であったが、仕事のスタイルが変更になり、仕事量が増
え て き て い る た め 、再 度 調 査 票 を 利 用 し た ス ト レ ス 対 策 へ の 依 頼 も あ っ た 。
2.カウンセリングなど介入を実施した際の効果判定について有用である
(前 述 ) 。
実施した感想より:訴え率の高かった社員の面談を実施したが、その後ス
トレスが解消されると訴え率は改善した。
注意点:
①
得 点 の 悪 い 労 働 者 だ け の 面 談 の 実 施 だ け で は 不 十 分 な 場 合 も あ る 。つ
まり、ストレス点が低くてもメンタルヘルス上の問題を抱えているケー
ス が あ る 。(以 前 か ら の 継 続 面 談 者 は カ ウ ン セ ラ ー と の 人 間 関 係 が で き て
いるためか得点自身は正常者と変わらなかったなど)
②
カ ウ ン セ ラ ー な ど の 資 質 ( 企 業 理 解 、 カ ウ ン セ リ ン グ 技 量 な ど )の 確 保
が必要となる。
3 .事 業 場 に お け る 労 働 者 の 仕 事 量 、仕 事 の ス タ イ ル な ど に 変 更 が 生 じ た 場
合 、簡 易 調 査 票 の 実 施 は そ の ス ト レ ス を 客 観 的 に は か る こ と に つ い て 有 用 性
がある。
実施した感想より:調査票実施後に仕事量が増えたり、夜勤などに従事
す る 労 働 者 が 増 え 、そ の 調 査 票 を 利 用 し た ス ト レ ス 対 策 の 依 頼 が あ っ た 。
注意点:1.と同様。
研 究 者 : 古 木 勝 也 ((財 )京 都 工 場 保 健 会 )
190
Ⅲ − 3 − 5 .精 神 神 経 科 受 診 者 に 対 す る 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調
査票の使用
A.はじめに
1.勤労者に見られるストレス反応の身体面および精神面への現れ
職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス で は 、精 神 医 学 的 障 害 の 早 期 発 見 は 重 要 な 役 割 で あ
る 。こ れ ま で の 職 場 の 健 康 診 断 で は 、身 体 的 な 検 査 が 中 心 に 行 わ れ て お り 、
精 神 医 学 的 障 害 を 早 期 に 見 つ け 出 す こ と が 難 し く 、状 態 が 進 行 し て か ら 診 察
室 を 訪 れ る 場 合 が 多 か っ た 。 14 カ 国 の 一 般 診 療 科 に お け る 心 理 的 問 題 に 関
す る WHO 国 際 共 同 研 究 で 、精 神 医 学 的 障 害 の 有 病 率 は 各 セ ン タ ー の 平 均 で
21%と 高 値 を 示 し て い る 1 )。 さ ら に 、 う つ 病 患 者 の 能 力 低 下 の 程 度 は 慢 性 の
身体疾患を有する患者と同じかあるいはそれ以上であると報告されるよう
に 2 )、 精 神 疾 患 も 身 体 疾 患 と 同 様 、 十 分 な 対 応 を と る べ き 問 題 で あ る 。 ま た 、
精 神 症 状 が 慢 性 の 経 過 を た ど る と 患 者 の 機 能 障 害 も 慢 性 化 す る 3 , 4 )と 言 わ れ
て お り 、 精 神 面 に あ ら わ れ る ス ト レ ス 反 応 (い わ ゆ る 心 身 症 ) の 早 期 発 見 が 課
題となっている。
一 方 、 身 体 愁 訴 が 前 面 に 出 て く る 身 体 表 現 性 障 害 に つ い て は 、内 科 を 転 々
と 受 診 し 、器 質 的 な 原 因 が 見 つ か ら ず 、最 終 的 に 精 神 科 に た ど り 着 く ケ ー ス
が 多 く み ら れ る 。欧 米 で は 身 体 科 を 受 診 す る 患 者 の う ち 身 体 的 異 常 で は 説 明
で き な い 身 体 愁 訴 を 訴 え る 患 者 は 30∼ 40%と 報 告 さ れ て い る 5 )。 日 本 の 内
科 初 診 患 者 に お け る 調 査 で は 17.9%と い う 報 告 が あ る 6 )。
こ の よ う に 一 般 診 療 で は 、ス ト レ ス 反 応 は 身 体 愁 訴 と し て 現 れ る こ と が 多
い こ と か ら 、職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス の チ ェ ッ ク で は 、精 神 状 態 の み な ら ず 身
体状態を的確に把握して対策を練ることが不可欠である。
2.身体愁訴と心理的ストレス反応の関連
身体愁訴とうつや不安障害の関係について、以前は、身体状態と精神状態
は 逆 相 関 に あ り 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 が 強 く 現 れ て い る と き に は 身 体 愁 訴 が
少 な く 、逆 に 身 体 愁 訴 が 多 い と き に は 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 が 目 立 た な い と 考
え ら れ て い た 7 , 8 )。 し か し 、 Simon ら 9 ) が 1991 年 に 2 万 5 千 人 規 模 の 調 査
を行って精神状態と身体状態は相関関係にあることを明らかにしたことも
あ っ て 、身 体 愁 訴 が 前 景 に 出 て い る 人 で も 精 神 的 な 苦 悩 が 強 い と い う 可 能 性
が支持されるようになっている。
また、精神的な悩みを抱えている人でも、精神的な訴えをすることには抵
抗 感 が あ る た め に 、身 体 状 態 の 悩 み を 訴 え る こ と も 多 く 、身 体 的 な 訴 え を も
とに精神的苦悩や精神疾患の存在の可能性を評価するのが有用であるとい
う指摘もある。
たとえば、抑うつ感は、頭痛、肩こり、腰痛、胃痛、下痢、便秘など、さ
ま ざ ま な 身 体 愁 訴 を 伴 っ て い る こ と が 多 い 。身 体 愁 訴 ば か り が 前 景 に 立 っ て 、
191
抑 う つ 感 や 気 力 の 低 下 が す ぐ に は 明 ら か に な ら な い「 仮 面 う つ 病 」と 呼 ば れ
る 状 態 は そ の 典 型 で あ る 。う つ は 非 常 に 多 く 認 め ら れ る 状 態 で あ り 、た と え
ば 社 会 機 能 が 障 害 さ れ る ほ ど の 抑 う つ 状 態 が 存 在 す る う つ 病 (大 う つ 病 性 障
害 )の 生 涯 有 病 率 は 、 女 性 で 10%か ら 25%、 男 性 で 5%か ら 12%と 非 常 に 高
い 。 ま た 、 地 域 標 本 で の 成 人 の う つ 病 の 時 点 有 病 率 は 女 性 で 5%か ら 9%、
男 性 で 2%か ら 3%と さ れ て い る 。 こ う し た 割 合 は 、 躁 う つ 病 や 慢 性 の 軽 う
つ 病 は も ち ろ ん 、軽 度 の 抑 う つ 状 態 ま で 含 め る と き わ め て 高 く な る と 考 え ら
れる。また、うつ病の再発率は高く、大うつ病性障害、単一エピソードの患
者 の 約 50-60%が 再 発 し 、 一 度 再 発 し た 患 者 の 70%が 、 二 度 再 発 し た 患 者 の
90%が 再 発 す る と さ れ て い る 1 0 )。
不 安 症 状 も ま た 、 気 分 障 害 と 同 様 、産 業 現 場 で 多 く 見 ら れ る 精 神 的 な 問 題
で あ る 。こ れ も 自 律 神 経 を 介 し て 身 体 愁 訴 を 伴 う こ と が 多 く 、た と え ば 漠 然
と し た 不 安 が 続 く 全 般 性 不 安 障 害 で は 、筋 肉 の 緊 張 に 伴 う ふ る え や 筋 肉 痛 、
手足やその他の身体部位の発汗、口渇、嘔気や下痢などの胃腸症状、頻尿、
喉のつかえや嚥下困難などの症状が生じるとされている。
ま た 、 急 激 に 不 安 が 高 ま る パ ニ ッ ク 発 作 (不 安 発 作 )も 産 業 場 面 で 少 な か ら
ず認められるが、これも、動悸、発汗、身体のふるえ、息切れ感や息苦しさ、
喉が詰まる感じ、胸痛や胸部不快感、嘔気や腹部の不快感、めまい、身体の
異 常 感 覚 、 冷 感 や 熱 感 な ど を 伴 う と さ れ て い る 1 1 )。
なかでも、後述する身体表現性障害は身体愁訴を中心とする病像を呈する
も の で 、気 分 障 害 ・ 不 安 障 害 な ど と の 生 涯 合 併 率 が 高 い こ と も 指 摘 さ れ て お
り 、し か も こ れ ら が 合 併 す る 場 合 は 身 体 表 現 性 障 害 が 先 行 す る 場 合 が 多 い と
い わ れ て い る 重 要 な 精 神 医 学 的 障 害 で あ る 1 2 , 1 3 )。 し か し 、 そ の 一 方 で 、 身
体表現性障害と診断された患者の2年間のフォローアップ研究で、全体の
10%未 満 が 、後 に 器 質 的 な 異 常 と 診 断 さ れ た 症 例 が 含 ま れ て い た と 報 告 さ れ
て い る こ と か ら 1 3 )、 こ う し た 状 態 を 心 身 両 面 か ら 的 確 に 把 握 、 理 解 す る こ
とが必要であると考えられている。
こ う し た 背 景 を ふ ま え る と 、不 安 状 態 や 抑 う つ 状 態 に 適 切 に 対 処 す る こ と
は 精 神 保 健 の 実 践 に お い て き わ め て 重 要 で あ り 、そ の 主 要 を 占 め る 身 体 愁 訴
の的確な把握が不可欠である。
一 方 、労 働 省 が 中 心 に な っ て 進 め て い る 講 習 会 な ど の 啓 蒙 活 動 も 手 伝 っ て 、
メ ン タ ル ヘ ル ス に 対 す る 一 般 の 関 心 が 高 ま り 、社 内 の 診 療 所 は も ち ろ ん 精 神
科 を 気 軽 に 受 診 す る 人 が 増 え て き て い る 。 班 員 の 外 来 に お い て も 、仕 事 や 学
業のストレスが多く占めている。従って、精神科の受診は、ストレスを感じ
た 勤 労 者 の 援 助 希 求 活 動 と 考 え る こ と が で き る 。そ う し た 理 解 に 基 づ い て 、
本 調 査 で は 、大 野 外 来 を 初 診 し た 受 療 者 群 を 何 ら か の 援 助 を 必 要 と す る ス ト
レ ス 体 験 群 と し 、そ う し た 行 動 を 起 こ す に 至 っ て い な い 勤 労 者 群 と 身 体 愁 訴
及び心理的ストレス反応の分布について比較検討した。
192
B.対象
精神・神経科外来初診受療者を対象に、
「作業関連疾患の予防に関する研
14~17)
究」
の「ストレス測定法の開発」において開発した自己記入式簡易調
査票の一部である心理的ストレス反応及び身体愁訴に関する質問紙を実施
し た 。 外 来 初 診 受 療 者 群 は 、 1998 年 4 月 ∼ 1999 年 11 月 、 慶 應 義 塾 大 学 病
院の精神・神経科初診受診者のうち同精神・神経科に所属する大野を受診し
た 者 185 名 (男 性 69 名 、 女 性 116 名 )と し 、 そ の 人 数 及 び 平 均 年 齢 を 表 1 に
示す。そのうち、現在就労している人数を参考のために記す。
表 1 外 来 初 診 受 療 者 群 の 人 数 (98/4/3∼ 99/11/5)
人数
平 均 年 齢 (歳 )
就労者
男性
69
43
36.2±14.7
女性
合計
116
185
31
74
34.3±15.7
35.0±15.3
外 来 初 診 受 療 者 群 に つ い て 、DSM-Ⅳ (Diagnostic and statistical manual
of mental disorders fourth edition)の 診 断 基 準 に 従 っ て 、 外 来 初 診 時 に 分
類した。
表 2 外 来 初 診 受 療 者 群 の 診 断 分 類 ( DSM-Ⅳ に よ る )
単極性気分障害
摂食障害
男性
23
1
女性
44
22
計
67
23
適応障害
11
8
19
不安障害
身体表現性障害
睡眠障害
解離性障害
精神分裂病
双極性気分障害
その他
合計
9
10
4
1
4
1
5
69
9
8
6
0
8
1
10
116
18
18
10
1
12
2
15
185
こ の 中 で 精 神 分 裂 病 、 双 極 性 気 分 障 害 、痴 呆 な ど の 症 状 の あ る 者 を 除 い た
者 156 名 (男 性 59 名 、女 性 97 名 )に 簡 易 調 査 票 を 実 施 し た 。そ れ ら を ス ト レ
ス体験群とし、表3に人数及び平均年齢を示す。
表 3 ス ト レ ス 体 験 群 の 人 数 (98/4/3∼ 99/11/5)
男性
女性
合計
人数
59
97
156
就労者
40
29
69
平 均 年 齢 (歳 )
37.0±14.5
34.8±16.3
35.6±15.7
193
さ ら に 、表 2 の 診 断 分 類 で 人 数 の 多 か っ た 単 極 性 気 分 障 害 に つ い て も 検 討
を 行 っ た 。主 要 な 訴 え が う つ 状 態 の 群 を 抑 う つ 群 と し 、そ の 人 数 と 平 均 年 齢
を表4に示す。
表 4 抑 う つ 群 の 人 数 (98/4/3∼ 99/11/5 )
男性
女性
合計
人数
23
44
67
就労者
16
11
27
平均年齢
36.0±12.0
41.0±17.2
39.3±15.7
C.方法
上 記 の 対 象 に 対 し て 以 下 の 調 査 票 を 実 施 し 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 お よ び 身
体愁訴の両面から、ストレス体験群、勤労者群の結果を比較した。
調 査 票 は 、 本 研 究 に よ り 開 発 し た 自 己 記 入 式 の 簡 易 調 査 票 で あ り 、一 ヶ 月
間 の 状 態 を 、「 0.ほ と ん ど な か っ た 」「 1 . と き ど き あ っ た 」「 2 . し ば し ば
あ っ た 」「 3 . か な り あ っ た 」 の 4 段 階 で 評 価 す る よ う に な っ て い る 。
身 体 愁 訴 に つ い て は 、世 界 保 健 機 関 WHO 国 際 共 同 研 究 で 用 い て い る 身 体
表 現 性 障 害 ス ク リ ー ニ ン グ 質 問 票 Screener for Somatoform
Disorders(SSD) 1 8 , 1 9 ) 及 び 、 労 働 省 班 研 究 で そ の 有 用 性 を 検 討 し て き た 心 理
的 健 康 感 尺 度 Subjective Wellbeing Inventory (SUBI) 2 0 , 2 1) を 参 考 に し て 、
心 身 の 疲 労 と 関 連 の 深 い 身 体 愁 訴 を 項 目 化 し て 身 体 状 態 を 評 価 す る 質 問 11
項 目 で 構 成 さ れ る (表 5 を 参 照 )。S S D お よ び SUBI は と も に W H O が 開 発 し
た質問紙である。
表 5 身 体 愁 訴 の 質 問 項 目 (計 11 項 目 )
1.首 筋 や 肩 が こ る
2.腰 が 痛 い
3.体 の ふ し ぶ し が 痛 い
4.目 が 疲 れ る
5.よ く 眠 れ な い
6.頭 が 重 か っ た り 頭 痛 が す る
7.め ま い が す る
8.便 秘 や 下 痢 を す る
9.胃 腸 の 具 合 が 悪 い
10.食 欲 が な い
11.動 悸 や 息 切 れ が す る
心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て は 、 既 に 信 頼 性 、妥 当 性 が 確 立 し て い る 気 分
プ ロ フ ィ ー ル 検 査 (POMS) 2 2 ~ 2 5 )、 Center for Epidemiologic Studies
Depression Scale(CES-D) 2 6 , 2 7 ) 、 State-Trait Anxiety Inventory(STAI) 2 8 , 2 9 )
か ら 質 問 18 項 目 を 作 成 し て い る (表 6 を 参 照 )。
尺 度 の 構 成 は 、POMS を 参 考 と し 、ポ ジ テ ィ ブ な 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 と し
194
て「 活 気 」、ネ ガ テ ィ ブ な 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 尺 度 と し て「 イ ラ イ ラ 感 」
「疲
労 感 」「 不 安 感 」「 抑 う つ 感 」 の 5 尺 度 が 選 出 さ れ て い る 。
表 6 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 質 問 項 目 (計 18 項 目 )
活気
イライラ感
疲労感
不安感
抑うつ感
1.活 気 が わ い て く る
2.元 気 が い っ ぱ い だ
3.生 き 生 き す る
4.怒 り を 感 じ る
5.内 心 腹 立 た し い
6.イ ラ イ ラ し て い る
7.ひ ど く 疲 れ た
8.へ と へ と だ
9.だ る い
10.不 安 だ
11.落 着 か な い
12.気 が は り つ め て い る
13.ゆ う う つ だ
14.悲 し い と 感 じ る
15.気 分 が 晴 れ な い
16.物 事 に 集 中 で き な い
17.仕 事 が 手 に つ か な い
18.何 を す る の も 面 倒 だ
D.結果および考察
1.身体愁訴の合計得点
ス ト レ ス 体 験 群 (男 性 59 人 、 女 性 97 人 )に つ い て 、 身 体 愁 訴 11 項 目 (1 項
目 あ た り 1∼ 4 点 )の 合 計 得 点 を 算 出 し た 。 最 低 11 点 、 最 高 44 点 と な る 。
そ の 分 布 を 男 女 別 に 表 7,8 に 示 す 。 身 体 愁 訴 の 合 計 得 点 に つ い て 、 男 性 で は
16 点 以 上 に ス ト レ ス 体 験 群 の 80.8% が 含 ま れ 、23 点 以 上 に 53.8% が 含 ま れ
る 。 女 性 で は 、19 点 以 上 に ス ト レ ス 体 験 群 の 81.2 % が 含 ま れ 、25 点 以 上 に
54.1% が 含 ま れ る 。
こ れ ら の 分 布 を 勤 労 者 群 ( 男 性 10,089 人 、 女 性 2,185 人 )と 比 較 す る と 、
男 性 で は 17 点 以 下 に 勤 労 者 群 の 56.8% が 含 ま れ 、 21 点 以 下 に 80.8% が 含
ま れ 、 24 点 以 下 に 90.6 % が 含 ま れ る 。 女 性 で は 、 19 点 以 下 に 勤 労 者 群 の
57.2% が 含 ま れ 、23 点 以 下 に 80.6% が 含 ま れ 、26 点 以 下 に 90.8% が 含 ま れ
る。
抑 う つ 群 (男 性 23 人 、 女 性 44 人 )に つ い て 、 身 体 愁 訴 の 合 計 得 点 を 同 様 に
算 出 し 、 そ の 分 布 を 男 女 別 に 表 9,10 に 示 す 。身 体 愁 訴 の 合 計 得 点 に つ い て 、
男 性 で は 14 点 以 上 に 抑 う つ 群 の 84.2% が 含 ま れ 、 23 点 以 上 に 52.6% が 含
ま れ る 。 女 性 で は 、 19 点 以 上 に 抑 う つ 群 の 80.6% が 含 ま れ 、 26 点 以 上 に
55.6% が 含 ま れ る 。
195
表 7 ス ト レ ス 体 験 群 (男 性 )の 身 体 愁 訴 の 合 計 点 (11∼ 44 点 )
196
表 8 ス ト レ ス 体 験 群 (女 性 )の 身 体 愁 訴 の 合 計 点 (11∼ 44 点 )
197
表 9 抑 う つ 群 (男 性 )の 身 体 愁 訴 の 合 計 点 (11∼ 44 点 )
表 10 抑 う つ 群 (女 性 )の 身 体 愁 訴 の 合 計 点 (11∼ 44 点 )
198
2.心理的ストレス反応の合計得点
ス ト レ ス 体 験 群 (男 性 59 人 、女 性 97 人 )に つ い て 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 18
項 目 (1 項 目 あ た り 1∼ 4 点 ) の 合 計 得 点 を 「 活 気 」 の 項 目 ( No.1,2,3 )を 逆 転 し
て 算 出 し た 。 最 低 18 点 、 最 高 72 点 と な る 。 そ の 分 布 を 男 女 別 に 表 11,12
に 示 す 。 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 合 計 得 点 に つ い て 、 男 性 で は 45 点 以 上 に ス
ト レ ス 体 験 群 の 80.4% が 含 ま れ 、56 点 以 上 に 51.0 % が 含 ま れ る 。 女 性 で は 、
42 点 以 上 に ス ト レ ス 体 験 群 の 82.3% が 含 ま れ 、55 点 以 上 に 52.9% が 含 ま れ
る。
こ れ ら の 分 布 を 勤 労 者 群 ( 男 性 10,089 人 、 女 性 2,185 人 )と 比 較 す る と 、
男 性 で は 36 点 以 下 に 勤 労 者 群 の 52.2% が 含 ま れ 、 44 点 以 下 に 80.8% が 含
ま れ 、 49 点 以 下 に 90.3 % が 含 ま れ る 。 女 性 で は 、 36 点 以 下 に 勤 労 者 群 の
53.1% が 含 ま れ 、44 点 以 下 に 81.3% が 含 ま れ 、49 点 以 下 に 90.3% が 含 ま れ
る。
抑 う つ 群 (男 性 23 人 、 女 性 44 人 )に つ い て 、 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 合 計 得
点 を 同 様 に 算 出 し 、そ の 分 布 を 男 女 別 に 表 13,14 に 示 す 。心 理 的 ス ト レ ス 反
応 の 合 計 得 点 に つ い て 、男 性 で は 50 点 以 上 に 抑 う つ 群 の 80.0% が 含 ま れ 、
60 点 以 上 に 50.0% が 含 ま れ る 。女 性 で は 、51 点 以 上 に 抑 う つ 群 の 83.3% が
含 ま れ 、 57 点 以 上 に 58.3% が 含 ま れ る 。
199
図1 心理的ストレス反応得点分布
200
表 11 ス ト レ ス 体 験 群 (男 性 )の 精 神 的 ス ト レ ス 反 応 の 合 計 点 (18∼ 72 点 )
201
表 12 ス ト レ ス 体 験 群 (女 性 )の 精 神 的 ス ト レ ス 反 応 の 合 計 点 (18∼ 72 点 )
202
表 13 抑 う つ 群 (男 性 ) の 精 神 的 ス ト レ ス 反 応 の 合 計 点 (18 ∼ 72 点 )
表 14 抑 う つ 群 (女 性 ) の 精 神 的 ス ト レ ス 反 応 の 合 計 点 (18 ∼ 72 点 )
203
3.心理的ストレス反応の下位項目
心理的ストレス反応の 6 つの下位項目について、合計得点を算出した。
「 活 気 」「 イ ラ イ ラ 感 」「 疲 労 感 」「 不 安 感 」 は 最 低 3 点 、 最 高 12 点 、「 抑 う
つ 感 」 は 最 低 6 点 、 最 高 24 点 で あ る 。 ス ト レ ス 体 験 群 に つ い て の 分 布 を 男
女 別 に 表 15∼ 24 に 示 す 。 ま た 、 抑 う つ 群 に つ い て の 分 布 を 男 女 別 に 表 25
∼ 34 に 示 す 。
ま た 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 6 つ の 下 位 項 目 と 身 体 愁 訴 の 合 計 得 点 に つ い
て 、 勤 労 者 群 の 分 布 に 従 っ て 、 「 1.低 い / 少 な い 」「 2.や や 低 い / 少 な い 」
「 3.
普 通 」「 4.や や 高 い / 多 い 」「 5.高 い / 多 い 」 の 5 段 階 に 分 類 し た 。「 3.普 通 」
を 平 均 点 ±0.5SD で 分 類 し 、 「1.低 い / 少 な い 」 及 び 「 5.高 い / 多 い 」 は 平 均
点 ±1.5SD で 区 切 っ て い る 。 勤 労 者 群 、 ス ト レ ス 体 験 群 、 抑 う つ 群 に つ い て 、
そ れ ぞ れ の 分 布 の パ ー セ ン テ ー ジ を 男 女 別 に 表 35,36 に 示 す 。
男 性 に つ い て は 、 勤 労 者 群 で は「 活 気 」が「 1.低 い / 少 な い 」は 10.1% 、
「疲
労 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 8.8 % で あ っ た 。 ス ト レ ス 体 験 群 で は 「 抑 う つ
感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 66.7% 、「 活 気 」 が 「 1.低 い / 少 な い 」 は 50.9% 、
「 疲 労 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 40.7% 、「 不 安 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は
37.0% で あ っ た 。 抑 う つ 群 で は「 抑 う つ 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 85.0% 、
「 活 気 」 が 「 1.低 い / 少 な い 」 は 63.6% 、「 疲 労 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は
50.0% 、「 不 安 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 42.9% で あ っ た 。
ス ト レ ス 体 験 群 及 び 抑 う つ 群 で は 「 抑 う つ 感 」「 活 気 」「 疲 労 感 」「 不 安 感 」
の 訴 え が 多 い の に 対 し て 、「 身 体 愁 訴 」「 イ ラ イ ラ 感 」に つ い て は 、分 布 の 広
がりが見られた。
女 性 に つ い て は 、 勤 労 者 群 で は 「 活 気 」 が 「 1.低 い / 少 な い 」 は 10.4% 、
「 疲 労 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 10.1% 、「 不 安 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は
10.0% で あ り 、「 身 体 愁 訴 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 9.0% で あ っ た 。 ス ト レ ス
体 験 群 で は 「 抑 う つ 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 63.2% 、「 活 気 」 が 「 1.低 い
/ 少 な い 」 は 46.7 % 、「 疲 労 感 」 が 「 5. 高 い / 多 い 」 は 45.7% 、「 不 安 感 」
が「 5.高 い / 多 い 」は 41.8% で あ り 、「 身 体 愁 訴 」が「 5.高 い / 多 い 」は 44.7%
で あ っ た 。 抑 う つ 群 で は 「 抑 う つ 感 」 が 「 5. 高 い / 多 い 」 は 80.0% 、「 疲 労
感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 61.9% 、「 活 気 」 が 「 1.低 い / 少 な い 」 は 57.1% 、
「 不 安 感 」 が 「 5.高 い / 多 い 」 は 45.0% で あ り 、「 身 体 愁 訴 」 が 「 5 .高 い /
多 い 」は 47.2% で あ っ た 。ス ト レ ス 体 験 群 及 び 抑 う つ 群 で は「 抑 う つ 感 」
「疲
労 感 」「 活 気 」「 不 安 感 」「 身 体 愁 訴 」 の 訴 え が 多 い の に 対 し て 、「 イ ラ イ ラ
感」については、分布の広がりが見られた。
204
205
206
207
208
209
210
表 33 抑うつ群(男性)の抑うつ感の合計点(6点∼24 点)
211
212
213
4.低得点の分布
ストレス体験群について、身体愁訴の合計得点が低い者の診断分類を表
37 に 示 す 。 ま た 、 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 合 計 得 点 が 低 い 者 の 診 断 分 類 を 表
38 に 示 す 。 軽 度 の 気 分 障 害 や 摂 食 障 害 な ど が 多 く み ら れ 、 そ れ ぞ れ に つ い
て 面 接 時 の 訴 え を 検 討 し た 所 、障 害 が 軽 度 の 場 合 や 職 場 の ス ト レ ス に 直 接 的
に影響していない場合など職場のストレスの軽減を目的とした介入の必要
性が低いものであった。
表 37 身 体 愁 訴 ( 計 44 点 ) の 低 得 点 の 分 布
得点
11
3
12∼ 13
4
14∼ 15
3
16∼ 17
5
男性(人)
単極性気分障害 2
解離性障害 1
単極性気分障害 1
不安障害 1
身体表現性障害 1
適応障害 1
単極性気分障害 2
不安障害 1
単極性気分障害 2
強迫性障害 1
身体表現性障害 1
適応障害 1
女性(人)
0
3
摂食障害 2
単極性気分障害 1
1
単極性気分障害 1
5
摂食障害 3
睡眠障害 1
単極性気分障害 1
表 38 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 ( 計 72 点 ) の 低 得 点 の 分 布
得点
18∼ 28
2
29∼ 38
6
男性(人)
単極性気分障害 1
不安障害 1
身体表現性障害 3
不安障害 2
単極性気分障害 1
4
10
女性(人)
摂食障害 2
睡眠障害 1
身体表現性障害 1
単極性気分障害 3
摂食障害 3
不安障害 1
睡眠障害 1
適応障害 1
身体表現性障害 1
E.おわりに
職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス を 考 え る に 場 合 に は 、簡 便 に 使 用 で き る 調 査 票 を 利
用 し て 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に 対 し て い ち 早 く 対 処 す る こ と が 有 用 と 思 わ れ
る。しかし、これまでの職場の健康診断では、身体的な検査が中心に行われ
て お り 、精 神 的 な 要 因 か ら 生 じ る ス ト レ ス 反 応 を 早 期 に 見 つ け 出 す こ と が 難
214
し く 、状 態 が 進 行 し て か ら 診 察 室 を 訪 れ る こ と が 多 く み ら れ た 。こ の よ う に
一 般 診 療 で は 身 体 状 態 に 目 が 向 き や す く 、職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス チ ェ ッ ク で
は 精 神 状 態 の み に 焦 点 が あ た り や す い た め 、身 体 状 態 、精 神 状 態 が 別 々 に 扱
われることが多い。
こ う し た こ と か ら 本 研 究 で は 、 ス ト レ ス 性 健 康 障 害 を 身 体 状 態 、精 神 状 態
の 両 面 か ら 簡 便 に 評 価 で き る 調 査 票 の 開 発 を 行 っ て き た 。本 調 査 で は 、大 野
外来を初診した受療者群を何らかの援助を必要とするストレス体験群とし、
そうした行動を起こすまでに至っていない勤労者群と身体愁訴及び心理的
ストレス反応の分布について比較検討を行った。
ストレス体験群と勤労者群では、身体愁訴及び心理的ストレス反応の分布に大きな違
いがみられ、抑うつ群については、ストレス体験群よりさらに身体愁訴及び心理的スト
レス反応の訴えが高かった。
従 っ て 、 本 調 査 票 を 用 い る こ と は 、勤 労 者 の ス ト レ ス 状 況 を 把 握 す る の に
有 用 で あ り 、職 場 に お け る メ ン タ ル ヘ ル ス の 問 題 を 取 り 扱 う 場 合 に は 、社 内
の心療所及び一般診療科において身体状況だけでなく精神状況にも目を向
け る 必 要 性 が あ る と 考 え ら れ る 。ま た 、こ の よ う な 身 体 愁 訴 と 心 理 的 ス ト レ
ス 反 応 の 両 面 を 評 価 で き る 簡 便 な 調 査 票 を 利 用 す る こ と に よ っ て 、心 理 的 ス
トレス反応の早期把握が可能になってくると考えられる。
研 究 者 : 大 野 裕 (慶 應 義 塾 大 学 医 学 部 精 神 ・ 神 経 科 )
研 究 協 力 者 : 田 中 暁 子 (慶 應 義 塾 大 学 医 学 部 精 神 ・ 神 経 科 )
F.文献
1) Ormel J, VonKorff M, Ustun B et al : Common mental disorders and disability
across cultures. JAMA 272:1741-1748,1994.
2) Wells KB, Steward A, Hays RD: The functioning and well-being of depressed
patients. JAMA 264:914-919,1989.
3) Voncoff M, Ormel J, Karton W et al : Disability and depression among high
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49:91-100,1992.
4) Ormel J, Voncoff M, Vanden Brink W et al : Depression, anxiety, and disability
show synchrony of change. Am J Public Health 83:385-390,1993.
5) Janca A, Isaac M, Costa e Silva JA: World Health Organization international
study of somatoform disorders-background and ratio nale. Eur J Psychiat
9:100-110,1995.
6) 大野裕,荒木信夫,石井留美他:内科初診患者の身体表現性障害の有病率:WHO国際共
同研究から.日本医事新報 3734:49-52,1995.
7) Barsky AJ : Patients who amplify bodily sensations. Ann Intern Med 91:6370,1979.
215
8) Barsky AJ, Goodson JD, Lane RS et al : The amplification of somatic symptoms.
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9) Simon G, VonKorff M : Somatization and psychiatric disorder in the NIMH
Epidemiologic catchment area study. Am J Psychiatry 148:1494-1500,1991.
10) American Psychiatric Association : Diagnostic and statistical manual of mental
disorders fourth edition. American Psychiatric Association, Washington
DC,1994.
(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳:DSM-Ⅳ 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書
院,東京,1996.)
11) Katon W : Panic disorder and somatization: Review of 55 cases. Am J Med
77:101-106,1984.
12) Reif W, Schaefer S, Hiller Wet al : Lifetime diagnoses in patients with
somatoform disorders: Which came first? Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci
241:236-240,1992.
13) Rief W, Hiller W, Geissner E et al : A two-year follow-up study of patients
with somatoform disorders. Psychosomatics 36:376-386,1995.
14) 加藤正明他:労働の場におけるストレスおよびその健康影響に関する研究報告:労
働省平成7年度「作業関連疾患の予防に関する研究」平成8年3月,1996.
15) 加藤正明他:労働の場におけるストレスおよびその健康影響に関する研究報告:労
働省平成8年度「作業関連疾患の予防に関する研究」平成9年3月,1997.
16) 加藤正明他:労働の場におけるストレスおよびその健康影響に関する研究報告:労
働省平成9年度「作業関連疾患の予防に関する研究」平成10年3月,1998.
17) 加藤正明他:労働の場におけるストレスおよびその健康影響に関する研究報告:労
働省平成10年度「作業関連疾患の予防に関する研究」平成11年3月,1999.
18) Tacchini G, Janca A, Isaac M : Somatoform disorders schedule(SDS). World Health
Organization, Geneva,1993.
19) Isaac M, Tacchini G, Janca A : Screener for somatoform disorders(SSD). World
Health Organization, Geneva,1994.
20) World Health Organization : Assessment of subjective wellbeing: The subjective
wellbeing inventory. New Delhi, WHO regional of office for South-East
Asia,1992.
21) 大野裕,吉村公雄,山内慶太他:心理的健康感と心理的不健康感の関係について:患者
群と非患者群の比較.ストレス科学 10:273-278,1996.
22) McNair DM, Lorr M, Droppleman LF : Profiles of mood states. Educational Testing
Service, San Diago,1971.
23) Pollock V et al : Profiles of mood states: The factors and their physiological
correlates. J Nerv Ment Disease 167:612-614,1987.
24) 横山和仁,荒記俊一,川上憲人他:POMS(感情プロフィール検査)日本語版の作成と信
頼性および妥当性の検討.日本公衛誌37:913-918,1990.
216
25) 赤林朗,横山和仁,荒記俊一他:POMS(感情プロフィール検査)日本語版の臨床応用の
検討.心身医学31:577-582,1991.
26) Radloff LS : The CES-D scale: A self-report depression scale for research in
the general population. Applied Psychological Measurement 1:385-401,1977.
27) 島悟,鹿野達男,北村俊則他:新しい抑うつ性自己評価尺度について.精神医学
27:717-723,1985.
28) Spielberger CD, Gorsush RL, Lushene RE : STAI manual. Consulting psychologist
press,pp23-49,Palo Alto,1970.
29) Kendall PC, Finch AJJr, Auerbach SM et al : The state-trait anxiety inventory:
A systematic evaluation. J Consul Clin Psychol 44:406-412,1976.
Ⅲ−4.職業性ストレス簡易調査票使用マニュアル
1.はじめに
今 日 、 職 場 に お け る ス ト レ ス 問 題 と そ れ に よ る ス ト レ ス 性 健 康 障 害 は 、長
期 に わ た る 欠 勤 や 過 労 死 な ど と の 関 連 性 が 報 告 さ れ て お り 、職 場 に お け る 健
康管理上重要な問題となりつつあります。
し た が っ て 、事 業 者 は 従 来 の 定 期 健 康 診 断 等 を 中 心 と し た 健 康 管 理 だ け で
な く 、職 場 で の ス ト レ ス 状 態 を 把 握 し 、作 業 環 境 や 作 業 と の 関 連 を 検 討 す る
こ と に よ り 、労 働 者 の 健 康 障 害 を 未 然 に 防 ぐ こ と が で き る よ う 、適 切 に 対 処
することが必要です。
職場には、質的または量的な労働負担、仕事の適性、仕事の コントロー
ル 、 技 術 の 活 用 度 、 対 人 関 係 、 職 場 の 物 理 的・ 化 学 的 環 境 な ど 、 労 働 者 自 身
だけでは取り除くことができないストレス要因が存在しています。
し か し な が ら 、こ れ ま で こ の よ う に 多 岐 に わ た る ス ト レ ス と そ れ に よ る 健
康障害を簡便かつ適切に評価する方法は、これまでありませんでした。
そ こ で 、労 働 省 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 班 ― ス ト レ ス 測 定 研 究 グ
ル ー プ で は 、労 働 省 か ら の 委 託 を 受 け 、既 存 の ス ト レ ス に 関 す る 質 問 票 を 検
討し、現場で簡便に測定、評価することが可能であり、しかも信頼性があり
妥当性の高い質問票【 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 】を開発いたしました。
2.職業性ストレス簡易調査票の特徴
職業性ストレス簡易調査票は、以下のような特徴をもっています。
1 )従 来 の ス ト レ ス 反 応 の み を 測 定 す る 多 く の 調 査 票 と 異 な り 、 職 場 に お
けるストレス要因をも同時に評価できること
2 )心 理 的 な ス ト レ ス 反 応 の 中 で ネ ガ テ ィ ブ な 反 応 の み で な く ポ ジ テ ィ ブ
な反応も評価できること
217
3 )身 体 的 な ス ト レ ス 反 応 や ス ト レ ス 反 応 を 緩 和 す る 要 因 も 評 価 す る 多 軸
的評価法であること
4 )労 働 現 場 で 簡 便 に 使 用 で き る よ う に 質 問 項 目 は 5 7 項 目 と 少 な く 、 約
10分で回答できること
5 )あ ら ゆ る 業 種 の 職 場 で 使 用 で き る 調 査 票 で あ る こ と
6 )被 験 者 本 人 が 記 入 す る 自 記 式 調 査 票 で あ る こ と
7 )専 門 的 知 識 が な く て も 評 価 判 定 で き る こ と
などです。
3.職業性ストレス簡易調査票の構成
簡 易 調 査 票 は 、① 仕 事 の ス ト レ ス 要 因 (17 項 目 ) 、② ス ト レ ス 反 応 (29 項 目 ) 、
③ ス ト レ ス 緩 和 要 因 ( 社 会 的 支 援 9 項 目 、 満 足 度 2 項 目 ) の 計 57 項 目 か ら 構
成されております。
仕 事 の ス ト レ ス 要 因 に 関 す る 尺 度 は 、 ① 量 的 労 働 負 荷 ( 項 目 No.1,2,3) 、
② 質 的 労 働 負 荷 (4,5,6) 、③ 身 体 的 労 働 負 荷 (7) 、④ コ ン ト ロ ー ル (8,9,10)、
⑤ 技 術 の 応 用 (11) 、 ⑥ 対 人 葛 藤 (12,13,14) 、 ⑦ 職 場 環 境 (15) 、 ⑧ 仕 事 の 適 性
(11,16,17)で 、 項 目 数 は 合 計 17 項 目 で す 。
ス ト レ ス 反 応 に つ い て は 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 と 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 が 測
定 出 来 る よ う に な っ て お り ま す 。心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に 関 す る 尺 度 は 、ネ ガ
テ ィ ブ な 感 情 気 分 を 測 定 す る 尺 度 で あ る ① 緊 張 − 不 安 、 ② 怒 り 、③疲労、④
抑 う つ と 、 ポ ジ テ ィ ブ な 尺 度 で あ る ⑤ 活 気 か ら な り 、 項 目 数 は 合 計 18 項 目
( 項 目 No.1 ∼ 18) で す 。 ま た 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 ( 身 体 愁 訴 ) に 関 す る 尺 度 は
一 つ で 、 項 目 数 は 11 項 目 (項 目 No.19 ∼ 29) で す 。
ス ト レ ス 緩 和 要 因 と し て は 、職 場 と 家 庭 で の 支 援〔「 上 司 」
「同僚」
「家族・
友 人 」〕( 項 目 No.1 ∼ 9) を 入 れ た 3 項 目 お よ び 職 場 と 家 庭 に 対 す る 満 足 度 の 2
項 目 (項 目 No.1 ∼ 2)が あ り ま す 。
被 験 者 の 作 為 を 防 ぐ た め に 2 つ の 工 夫 が な さ れ て い ま す 。1つは、仕事の
ス ト レ ス 要 因 に 関 す る 項 目 の 中 で 、 No.8,9,10,14,16,17 の 項 目 お よ び ス ト
レ ス 反 応 項 目 の No.1,2,3 の 項 目 は 、 そ の 他 の 項 目 と 反 対 の 回 答 を 選 択 し た
方 が ス コ ア ー が 良 く な る 設 問 に な っ て お り ま す 。こ れ は 被 験 者 に 回 答 パ タ ー
ン を 悟 ら れ な い た め で す 。も う 1 つ は 回 答 欄 を 4 つ の 偶 数 に し て あ り 、中 間
の 欄 が な い こ と で す 。こ れ は 被 験 者 が あ た り さ わ り の な い 平 均 的 な 回 答 が で
きないようにするためです。
4.職業性ストレス簡易調査票の採点方法
簡 易 調 査 票 の 採 点 方 法 は 2 種 類 あ り ま す 。1 つ は 標 準 化 得 点 を 用 い る 方 法
( 約 12,000 名 の デ ー タ か ら 算 出 ) で あ り 、 も う 1 つ は 回 答 肢 を 二 分 割 し
チェック項目がいくつあったかを数える簡易採点法です。
218
1) 標 準 化 得 点 か ら の 採 点 法
*コンピュータを用いた採点方法
仕 事 の ス ト レ ス 要 因 か ら ス ト レ ス 緩 和 要 因 ま で の 計 57 項 目 の 各 項 目 ご と
に 1 か ら 4 の 回 答 を コ ン ピ ュ ー タ に 入 力 し 、作 表 プ ロ グ ラ ム で フ ァ イ ル を 読
み 込 む こ と に よ り 、 自 動 的 に フ ィ ー ド バ ッ ク の た め の 図 表 (ス ト レ ス ・ プ ロ
フィール)2 枚 が 出 力 で き ま す 。 フ ィ ー ド バ ッ ク の た め の プ ロ グ ラ ム
(Windows95 以 上 )は 無 償 で 提 供 し ま す 。
使用のてびき
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 を 施 行 す る こ と に よ り 、 産 業 医 や 看 護 婦・士は、
労 働 者 一 人 一 人 の ス ト レ ス の 状 態 を 知 り 、同 時 に 仕 事 に 関 連 し た ス ト レ ス 要
因 に つ い て の 情 報 が 得 ら れ ま す 。そ し て 、ス ト レ ス 状 態 に あ る 人 を 早 期 に 見
つ け 、対 処 す る こ と が 可 能 と な り ま す 。ま た 労 働 者 個 人 が 自 分 の ス ト レ ス に
気づき、ストレスに対する意識が高まることが期待できます。
①労働者に調査票を配布し、記入してもらいます。
②コンピュータで結果を出力します。
活気
③ レーダーチャート中段の、 ス ト レ ス に
よ っ て お こ る 心 身 の 反 応が高い状態であ
るかを調べます
全体的にチャートが大きいほ
ど 心 理 的・身 体 的 ス ト レ ス 反 応
が 低 く 、良 好 な 状 態 で あ る こ と
を 示 し ま す 。チ ャ ー ト が 小 さ く
な り 、特 に グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ
て い る 場 合 に は 、ス ト レ ス 反 応
が高くなっている状態が疑わ
れます。
身体愁訴
イライラ感
疲労感
抑うつ感
例:グレーの部分に入っている疲
労感が高いことがわかります。
不安感
219
④回答者の仕事に関連した ス ト レ ス
の 原 因 と 考 え ら れ る 因 子が高いか
を調べます。
心理的な仕事の負担(量)
例: グ レ ー の 部 分 に 入 っ て い る
心 理 的 な 仕 事 の 負 担 (量 )
が大きいと考えられます
心理的な仕事の
負担(質)
働きがい
自覚的な身
体的負担度
あなたが感じ
ている仕事の
適性度
職場の対人関係
でのストレス
あなたの技
能の活用度
仕事のコント
ロール度
⑤ストレス反応に影響を与える他の
因 子の程度をべます。
職場環境によ
るストレス
上司からのサポート
例:周囲からのサポートがあり、
また仕事や生活の満足度も高
いことを示しています。
仕事や生活の
満足度
同僚からの
サポート
家族や友人からのサポート
⑥ストレス反応が高い状況にある場合は、
④で仕事の原因と考えられる因子の
チェックを行いましょう。グレーゾー
ンに入る軸が多い場合は、産業医、保
健婦・士による面談を奨め早期に対策
をたてましょう。
220
221
2)簡 易 採 点 法
コンピュータを用いた表の出力ができない場合や、調査票に回答しても
ら っ た と 同 時 に 判 定 評 価 を 行 い 被 験 者 に フ ィ ー ド バ ッ ク し た い 場 合 に は 、簡
易採点法を用いて採点する事が可能です。
(1) ス ト レ ス 反 応 総 合 得 点 に よ る 評 価 法
心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の No.1 ∼ 3 の 項 目 に つ い て は 、① ほ と ん ど な か っ た
を4点、②ときどきあったを3点、③しばしばあったを2点、④ほとんどい
つ も あ っ た を 1 点 と し ま す 。 No. 4 ∼ 1 8 の 項 目 に つ い て は 、 ① ほ と ん ど な
かったを1点、②ときどきあったを2点、③しばしばあったを3点、④ほと
ん ど い つ も あ っ た を 4 点 と し ま す 。そ し て チ ェ ッ ク し て あ る と こ ろ の 点 数 を
合計します。
身 体 的 ス ト レ ス 反 応 の No. 1 9 ∼ 2 9 の 項 目 に つ い て は 、 ① ほ と ん ど な
かったを1点、②ときどきあったを2点、③しばしばあったを3点、④ほと
ん ど い つ も あ っ た を 4 点 と し ま す 。そ し て チ ェ ッ ク し て あ る と こ ろ の 点 数 を
合計します。
こ れ ま で の 研 究 結 果 (表 1 参 照 )か ら 、 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 総 合 得 点 が 男
女 と も 5 1 点 以 上 の 人 は 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 が 高 い と 考 え ら れ ま す 。同 様
に 、身 体 的 ス ト レ ス 反 応 の 総 合 得 点 が 男 性 で 2 5 点 以 上 、女 性 で 2 7 点 以 上
の人は、身体的ストレス反応が高いと考えられます。
表1 ストレス反応総合得点の5段階評価
a )心 理 的 ス ト レ ス 反 応
男 性 (N=9,769)
スコア
人 数
(% )
スコア
女 性 (N=2,078)
人 数
(% )
18∼23
24∼32
417
2,945
(4.3%)
(30.1%)
18∼23
24∼32
95
629
(4.6%)
(30.3%)
33∼41
42∼50
3,694
1,895
818
(37.8%)
(19.4%)
(9.4%)
33∼41
42∼50
768
409
177
(37.0%)
(19.7%)
(9.6%)
51∼72
b )身 体 的 ス ト レ ス 反 応
男 性 (N=9,894)
スコア
人 数
(% )
51∼72
スコア
女 性 (N= 2,114)
人 数
(% )
0
(0.0%)
11
62
(2.9%)
11∼15
4,004
(40.5%)
12∼16
651
(30.8%)
16∼20
3,535
(35.7%)
17∼21
772
(36.5%)
21∼24
1,426
(14.4%)
22∼26
434
(20.5%)
25∼44
929
(9.9%)
27∼44
195
(10.4%)
222
さ ら に ス ト レ ス 反 応 の 総 合 得 点 を 簡 易 に 算 出 す る 方 法 と し て 、添 付 し た 透
明 シ ー ト を 利 用 す る 方 法 が あ り ま す 。透 明 シ ー ト を 図 に 示 す よ う 調 査 票 の 上
に 合 わ せ て 置 き 、ス ト レ ス 反 応 で グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ た 項 目 数 を 数 え る 方 法
です。
心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て は 、グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ た 数 が 男 性 で は 1 8
項 目 中 1 4 項 目 以 上 、女 性 で は 1 3 項 目 以 上 あ る 場 合 は 、総 合 点 5 1 点 以 上
に入る危険性がきわめて高いと判断できます。
身 体 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て は 、同 様 に グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ た 数 が 男 性 で
は 1 1 項 目 中 5 項 目 以 上 、女 性 で は 6 項 目 以 上 あ る 場 合 は 、総 合 得 点 男 性 で
は 2 5 点 以 上 、女 性 で は 2 7 点 以 上 に 入 る 危 険 性 が き わ め て 高 い と 判 断 で き
ます。
心 理 的 ま た は 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 の 高 い 人 に つ い て は 、 産 業 医 、看 護 婦 ・
士あるいは心理相談担当者の面談をすすめるなどの対応を図る必要がある
でしょう。
(2) 仕 事 の ス ト レ ス 要 因 に よ る 評 価 法
添 付 し た 透 明 シ ー ト を 図 に 示 す よ う 調 査 票 の 上 に 合 わ せ て 置 き 、仕 事 の ス
ト レ ス 要 因 (項 目 No.1 1 と 1 5 を 除 く 1 ∼ 1 7 )の 内 グ レ ー の ゾ ー ン に 回 答
した数を、①仕事の負担度、②コントロール度、③対人関係、④仕事の適合
性、の質問グループごとに数える作業を行います。
最 初 の 7 項 目 (No.1 ∼ No.7 )の 回 答 で グ レ ー ゾ ー ン に 入 る も の が 6 つ 以 上
あれば 仕 事 の 負 担 度「要チェック」とします。
次 の 3 項 目 (No.8∼ No.10)で グ レ ー ゾ ー ン に 2 つ 以 上 あ れ ば コ ン ト ロ ー ル
度「要チェック」とします。
No.12∼ No.14 の 3 項 目 も 、 グ レ ー ゾ ー ン に 2 つ 以 上 あ れ ば 対 人 関 係 「 要
チェック」とします。
ま た 、 No.16 と No.17 の 2 項 目 に 関 し て グ レ ー ゾ ー ン に 2 つ 以 上 あ れ ば 仕
事 の 適 合 性「要チェック」とします。
そして仕事の負担度、コントロール度、対人関係、仕事の適合性の4項目
中「要チェック」がいくつあったかを数えます。
3 項 目 が「 要 チ ェ ッ ク 」 と な っ た 人 は 、 チ ェ ッ ク の な い 人 と 比 較 し て 、 心
理 的 ス ト レ ス 状 態 (心 理 的 ス ト レ ス 反 応 総 合 得 点 5 1 点 以 上 ) の 発 現 リ ス ク
が 男 性 で は 4.6 倍 、 女 性 で は 5.6 倍 に な る こ と が わ か っ て い ま す (表 2 参 照 )。
同 様 に 、身 体 的 ス ト レ ス 状 態 (身 体 的 ス ト レ ス 反 応 総 合 得 点 男 性 2 5 点 以 上 、
女 性 2 7 点 以 上 )の 発 現 リ ス ク も 仕 事 の ス ト レ ス 要 因 の チ ェ ッ ク 数 に 応 じ て
高 ま る こ と が 、 明 ら か に な っ て い ま す (表 3 参 照 )。
要 チ ェ ッ ク 数 が 3 つ 以 上 と な っ た 人 は 、「 ス ト レ ス 問 題 が 高 い 確 率 で 疑 わ
れ る ケ ー ス 」 と し て 、 産 業 医 、 看 護 婦・ 士 、 心 理 相 談 担 当 者 の 面 談 を す す め
た り 、「 要 観 察 ケ ー ス 」 と し て 、 注 意 深 い フ ォ ロ ー が 必 要 と 考 え ら れ ま す 。
223
表2 ストレッサー総合評価の回答者分布と心理的ストレス反応要チェッ
ク発現リスク
a) 男 性
ストレッサー
チェック数
0
1
2
3
4
人 数
1,009
3,784
3,302
1,202
168
(10.7%)
(40.0%)
(34.9%)
(12.7%)
(2.0%)
心理的ストレス反応要チェック発現リスク
(95% CI)
Odds 比
1.00
(reference)
1.01
(0.72-1.41)
n.s.
2.35
(1.71-3.24)
p<0.001
4.61
(3.30-6.45)
p<0.001
6.64
(2.82-7.63)
p<0.001
b)女性
ストレッサー
人 数
チェック数
心理的ストレス反応要チェック発現リスク
(95% CI)
Odds 比
0
309
(15.9%)
1.00
(reference)
1
758
(38.9%)
1.58
(0.84-2.96)
n.s.
2
604
(31.0%)
2.49
(1.34-4.64)
p<0.01
3
241
(12.4%)
5.59
(2.91-10.74)
p<0.001
4
37
(1.9%)
7.56
(2.86-20.00)
p<0.001
表3 ストレッサー総合評価の回答者分布と身体的ストレス反応要チェッ
ク発現リスク
a) 男 性
ストレッサー
人 数
チェック数
身体的ストレス反応要チェック発現リスク
(95% CI)
Odds 比
0
1,025
(10.7%)
1.00
(reference)
1
3,832
(40.0%)
0.96
(0.73-1.27)
n.s.
2
3,344
(34.9%)
1.56
(1.20-2.04)
p<0.001
3
1,210
(12.6%)
2.58
(1.94-3.44)
p<0.001
4
168
(1.8%)
2.47
(1.52-4.01)
p<0.001
b) 女 性
ストレッサー
人 数
チェック数
身体的ストレス反応要チェック発現リスク
(95% CI)
Odds 比
0
307
(17.8%)
1.00
(reference)
1
768
(44.4%)
1.16
(0.66-2.06)
n.s.
2
617
(35.7%)
2.22
(1.28-3.86)
p<0.01
3
247
(15.1%)
3.80
(2.01-6.93)
p<0.001
4
37
(2.1%)
4.70
(1.78-12.38)
p<0.01
224
( 3) 仕 事 の 負 担 や 職 場 内 の 支 援 状 況 に よ る 評 価 法
添 付 し た 透 明 シ ー ト を 図 に 示 す よ う 調 査 票 の 上 に 合 わ せ て 置 き 、仕 事 の ス
ト レ ス 要 因 で あ る ① 仕 事 の 負 担 度 、② コ ン ト ロ ー ル 度 お よ び ス ト レ ス 緩 和 要
因 の ③ 職 場 内 支 援 度 の グ ル ー プ ご と に 、グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ た 項 目 数 を 数 え
ます。
最 初 の 7 項 目 (No.1 ∼ No.7 )の 回 答 で グ レ ー ゾ ー ン に 入 る も の が 6 つ 以 上
あ れ ば 仕 事 の 負 担 度「要チェック」とします。
次 の 3 項 目 (No.8∼ No.10)で グ レ ー ゾ ー ン に 2 つ 以 上 あ れ ば コ ン ト ロ ー ル
度「要チェック」とします。
右 下 ス ト レ ス 緩 和 要 因 の No.1,2,4,5,7,8 の 項 目 で 、 5 つ 以 上 グ レ ー ゾ ー ン
に入っていれば職場内支援度「要チェック」とします。
そして仕事の負担度、コントロール度、職場内支援度の3項目の中で、要
チェックとなった数を調べます。
こ れ ま で の 研 究 (表 4 ・ 表 5 参 照 )で は 、 要 チ ェ ッ ク と な る 項 目 が 3 つ の 人
は 、チ ェ ッ ク の な い 人 と 比 較 し て 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 要 チ ェ ッ ク の 発 現 リ
ス ク が 男 性 で 18.5 倍 、 女 性 で は 12.5 に な る こ と が わ か っ て い ま す 。
同 様 に 、 要 チ ェ ッ ク が 3 つ の 人 は チ ェ ッ ク の な い 人 と 比 較 し て 、身 体 的 ス
ト レ ス 反 応 要 チ ェ ッ ク が 男 性 で 5.5 倍 、 女 性 で 6.1 倍 に な り ま す 。
このことから、上記方法により簡易調査票をチェックし、3つに要チェッ
ク と な っ た 人 は「 ス ト レ ス 問 題 が 高 い 確 率 で 疑 わ れ る ケ ー ス 」 と し て 、 産 業
医 、 看 護 婦 ・ 士 の 面 談 や 、 心 理 相 談 の 受 診 を す す め た り 、「 要 観 察 ケ ー ス 」
として、注意深いフォローが必要と考えられます。
表 4 Demand-Control-Support 総 合 評 価 の 回 答 者 分 布 と 心 理 的 ス ト レ ス 反 応
要チェック発現リスク
a) 男 性
チェック数
0
1
2
3
人 数
3,306
3,706
1,949
462
( 35.1%)
( 39.3%)
( 20.7%)
( 4.9%)
心理的ストレス反応要チェック発現リスク
(95% CI)
Odds 比
1.00
3.04
8.91
18.46
(reference)
( 2.33-3.97)
( 6.87-11.57)
( 13.57-21.12)
p<0.001
p<0.001
p<0.001
b) 女 性
チェック数
0
1
2
3
人 数
655
735
416
128
( 33.9%)
( 38.0%)
( 21.5%)
( 6.6%)
心理的ストレス反応要チェック発現リスク
(95% CI)
Odds 比
1.00
2.68
6.02
12.51
(reference)
( 1.58-4.52)
( 3.57-10.18)
( 6.73-23.22)
p<0.001
p<0.001
p<0.001
225
表 5 Demand-Control-Support 総 合 評 価 の 回 答 者 分 布 と 心 理 的 ス ト レ ス 反
応発現リスク
a) 男 性
チェック数
身体的ストレス反応要チェック発現リスク
人 数
(95% CI)
1.00
(reference)
0
3,353
1
3,748
( 39.3%)
1.74
( 1.43-2.11 )
p<0.001
2
1,969
( 20.7%)
3.38
( 2.77-4.12)
p<0.001
3
465
( 4.9%)
5.53
( 4.23-7.23)
p<0.001
b) 女 性
チェック数
(35.2%)
Odds 比
身体的ストレス反応要チェック発現リスク
人 数
Odds 比
(95% CI)
0
662
( 33.8%)
1.00
(reference)
1
742
( 37.9%)
1. 99
( 1.26-3.14)
p<0.05
2
425
( 21.7%)
4.29
( 2.71-6.79)
p<0.06
3
130
( 6.6%)
6.12
( 3.40-11.02)
p<0.01
5.利用方法
1) 自 己 チ ェ ッ ク
被 験 者 が 自 分 の ス ト レ ス に 気 づ く こ と は 重 要 で す 。こ の 調 査 票 を 被 験 者 自
身 で 記 入 し て 自 己 判 定 す る こ と に よ っ て 、気 づ き へ の 援 助 を 行 う こ と が で き
ます。社内イントラネットを利用すれば、希望者はいつでも簡単にセルフ
チ ェ ッ ク で き る こ と に な り ま す 。そ し て 被 験 者 に 対 し リ ラ ク セ ー シ ョ ン の 方
法やその効果を解説した対処法マニュアル等を配布してあげることが有効
で し ょ う 。 さ ら に 専 門 家 の ア ド バ イ ス 希 望 者 に 対 し て は 、社内の産業医、カ
ウ ン セ ラ ー 等 に 相 談 で き る 体 制 を 整 備 す る 必 要 が あ り ま す 。こ の よ う な 体 制
を 整 備 で き な い 場 合 は 、社 外 の 専 門 機 関 や 中 小 企 業 に あ っ て は 地 域 産 業 保 健
センターを活用すべきです。
2)健康診断時の問診および保健指導の補助としての利用
こ の 調 査 票 は ス ト レ ス の 状 況 を 把 握 す る 目 的 で 開 発 さ れ た も の で あ り 、特
定 の 疾 患 を 早 期 に 発 見 す る た め の 調 査 票 で は あ り ま せ ん 。し た が っ て 、健 康
診 断 時 に 医 師 が 行 う 問 診 の 補 助 や 健 康 診 断 結 果 に 基 づ い て 医 師 や 看 護 婦・士
等 が 行 う 保 健 指 導 の 補 助 と し て 利 用 す る こ と が で き ま す 。そ の た め に は 健 康
診断の待ち時間に記入あるいは事前配布をして記入のうえ持参してもらう
必 要 が あ り ま す 。 そ の 結 果 自 己 チ ェ ッ ク と 同 様 、気 づ き へ の 援 助 と ス ト レ ス
対処方法などのアドバイスを行うことができます。
226
3)ストレス対処後の評価に利用
本 人 の 気 づ き に 基 づ い て 何 ら か の ス ト レ ス 対 処 を 実 行 し た 場 合 、再 度 こ の
調 査 票 を 利 用 し 、そ の 対 処 法 が 有 効 に 機 能 し た か ど う か を 判 定 す る こ と が で
きます。
4)職場および職種間の評価に利用
職 場 あ る い は 職 種 間 の ス ト レ ス 状 況 を 把 握 す る こ と は 、事 業 場 の ス ト レ ス
対 策 を 推 進 す る う え で 大 変 重 要 で す 。こ の 調 査 を 健 康 診 断 時 に 全 員 に 実 施 し
た 事 業 場 で は 、衛 生 管 理 者 等 が そ の デ ー タ を 職 場 ご と あ る い は 職 種 ご と に 集
団 と し て 解 析 す る こ と に よ っ て 、そ の 集 団 の ス ト レ ス 状 況 が 容 易 に 把 握 で き
ま す 。特 定 の 時 期 に 特 定 の 集 団 だ け を 調 査 す る 場 合 は 、調 査 目 的 な ど を 十 分
に説明したうえで行う必要があるでしょう。
5)THP心理相談対象者の選定に利用
現在THPの心理相談対象者は医師の判断および希望者となっています
が 、こ の 調 査 票 を 利 用 す る こ と に よ っ て よ り 客 観 的 に 評 価 し 選 定 す る こ と が
可能になります。
6.利用上の注意点
1)家庭生活上のストレッサーは測定していない
こ の 調 査 票 で は 質 問 項 目 数 の 制 約 か ら 、職 場 の ス ト レ ッ サ ー を 測 定 す る 項
目 し か 設 け て お り ま せ ん 。し た が っ て 、職 場 の ス ト レ ッ サ ー の 得 点 が 低 い に
も 関 わ ら ず ス ト レ ス 反 応 得 点 が 高 い 場 合 は 、面 談 時 に 家 庭 生 活 上 の ス ト レ ッ
サーの有無等について確認する必要があります。
2)パーソナリティは把握していない
パ ー ソ ナ リ テ ィ は ス ト レ ス 反 応 に 大 き な 影 響 を 与 え ま す が 、同 様 に 質 問 項
目 数 の 制 約 か ら パ ー ソ ナ リ テ ィ に 関 し て は 把 握 し て お り ま せ ん 。ス ト レ ッ サ
ー と ス ト レ ス 反 応 の 関 係 を 詳 細 に 検 討 す る 場 合 に は 、パ ー ソ ナ リ テ ィ に 関 す
る 調 査 票 を 併 用 す る か 、面 談 時 に パ ー ソ ナ リ テ ィ を 把 握 す る 必 要 が あ り ま す 。
3)調査時点のストレス状況しか把握できない
ス ト レ ス 反 応 は 最 近 1 ヶ 月 間 の 状 態 に つ い て 質 問 し て お り 、そ れ 以 前 に つ
い て は 把 握 で き ま せ ん 。し た が っ て 、面 談 時 等 に そ の 状 態 が い つ か ら 続 い て
いるのかなどを把握する必要があります。
4)プライバシーの保護
ス ト レ ス に 関 す る 調 査 結 果 は 健 康 診 断 結 果 と 同 じ で す の で 、プ ラ イ バ シ ー
の 保 護 に 十 分 留 意 す る 必 要 が あ り ま す 。調 査 を 行 っ て 回 答 し た 調 査 票 を 回 収
す る 場 合 は 、封 筒 に よ る 回 収 も し く は 表 紙 を つ け た 形 で の 回 収 が 望 ま し い で
しょう。
5)精神疾患を早期に発見するものではない
ス ト レ ス 反 応 の 総 合 得 点 が 高 い 、あ る い は グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ て い る 数 が
多 い 場 合 は 、 メ ン タ ル ヘ ル ス の 観 点 か ら「 要 チ ェ ッ ク 」 状 態 で あ り 、 必 ず し
227
もうつ病などの精神神経疾患と診断することはできません。
6)定期診断結果の活用
身 体 的 ス ト レ ス 反 応 の 総 合 得 点 が 高 い 、あ る い は グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ て い
る 数 が 多 い 場 合 は 、必 ず し も ス ト レ ス の み が 原 因 と は 限 り ま せ ん 。定 期 健 康
診断の結果も考慮して、適切な対応をしてください。
研 究 者 : 中 村 賢 (北 里 大 学 医 療 衛 生 学 部 心 理 社 会 系 医 療 学 )、 下 光 輝
一 (東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 ) 、 大 野 裕 ( 慶 應 義 塾 大
学 医 学 部 精 神 神 経 科 )、 横 山 和 仁 (東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究
科 社 会 医 学 専 攻 公 衆 衛 生 学 助 教 授 )、 原 谷 隆 史 ( 労 働 省 産 業 医
学総合研究所)
研 究 協 力 者 : 古 木 勝 也 ( (財 )京 都 工 場 保 健 会 産 業 保 健 部 )、 丸 田 敏 雅 (東 京 医
科 大 学 精 神 神 経 科 ),鈴 木 牧 彦 ( 北 里 大 学 医 療 衛 生 学 部 心 理 社
会 系 医 療 学 )、大 谷 由 美 子 (東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 )、
小 田 切 優 子 (東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 教 室 )
Ⅲ−5.職業性ストレス簡易調査票の限界
A.目的
本 研 究 は 、 ス ト レ ス 測 定 班 が 開 発 し た「 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 」 を 産
業 現 場 (小 規 模 事 業 場 を 含 む )で 実 際 に 活 用 す る に 当 た り 、 活 用 上 の 限 界 を 明
らかにすることを目的としている。
B.対象と方法
労 働 省「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」班 ス ト レ ス 測 定 グ ル ー プ お よ
び 健 康 影 響 評 価 グ ル ー プ が 行 っ た 研 究 成 果 お よ び 文 献 を 基 に 、簡 易 調 査 票 活
用上の限界について検討・考察した。
C.結果および考察
1.自記式調査票としての限界
被 験 者 が 調 査 票 に 自 分 で 記 入 す る こ と を 前 提 と し て い る た め 、短 時 間 で 多
人 数 に 実 施 で き る 、面 接 者 の 技 量 に 影 響 さ れ な い 等 の 利 点 は あ る が 、被 験 者
の 精 神 状 態 、実 施 環 境 の 影 響 を 受 け や す い し 、被 験 者 が 回 答 結 果 に よ り 不 利
益 を 被 る と 感 じ た 場 合 、作 為 的 な 回 答 を 得 る 可 能 性 が あ り 、そ の チ ェ ッ ク も
困難である。
小 此 木 ら 1 ) は 自 記 式 調 査 票 で あ る ”Cornell Medical Index-Health
Questionnaire ” (CMI)を 用 い て 健 常 群 を 対 象 に 調 査 し た 結 果 、 テ ス ト 目 的 が
228
「 職 場 転 換 希 望 」 の 場 合 被 験 者 は テ ス ト 結 果 を 悪 く み せ よ う と す る し 、「 入
社時健康調査」の場合は良くみせようとすることを明らかにしている。
したがって、産業現場で簡易調査票を利用する場合は、目的やプライバシ
ー 保 護 に つ い て 十 分 説 明 す る と と も に 、本 人 の 同 意 や 労 働 組 合 の 同 意 を 事 前
に得る必要がある。
2.調査時点のストレス状況しか把握できない
簡 易 調 査 票 の ス ト レ ス 反 応 の 項 目 は 最 近 1 ヶ 月 間 の 状 態 を 聴 い て お り 、そ
れ 以 前 の 状 態 に つ い て は 把 握 し て い な い 。 し た が っ て 、調 査 結 果 を 評 価 す る
場 合 は 、調 査 時 期 が 会 社 の 繁 忙 期 で あ っ た か 閑 散 期 で あ っ た か を 考 慮 し た 上
で 評 価 す べ き で あ る 。ま た 、労 働 者 に 常 時 高 い ス ト レ ス 負 荷 が か か っ て い る
ハイリスク職場においては、年間に複数回の調査を実施する必要がある。
3.簡易版であるが故の限界
産 業 現 場 で ス ト レ ス の 状 況 を 簡 易 に 測 定 す る と い う 目 的 か ら 、簡 易 調 査 票
は 5 7 の 質 問 項 目 か ら 構 成 さ れ て い る 。 原 谷 ら 2) に よ っ て こ の 調 査 票 の 信
頼 性 と 妥 当 性 は 確 保 さ れ て い る た め 、 川 上 ら 3) お よ び 横 山 ら 4 ) の 調 査 に お
い て 、簡 易 調 査 票 に よ る 評 価 と 被 験 者 の 自 己 評 価 あ る い は 上 司 の 評 価 と が よ
く 一 致 し て い る と い う 結 果 が 得 ら れ て い る 。し か し 調 査 項 目 の 制 約 か ら 、簡
易調査票では家庭生活上のストレッサーおよびパーソナリティーは測定し
ていない。
社 会 生 活 、職 業 生 活 お よ び 家 族 生 活 の 各 ス ト レ ッ サ ー の 総 和 が 社 会 的 ス ト
レ ッ サ ー と な っ て い る こ と か ら 5) 、被 験 者 の ス ト レ ス 反 応 の 結 果 を 測 定 し た
職 場 の ス ト レ ッ サ ー の み で 評 価 す る こ と は 、誤 っ た 判 断 を 下 す 可 能 性 も あ る 。
ま た 、 丸 田 ら 6 )は 某 金 融 機 関 の 調 査 か ら 、 ス ト レ ッ サ ー の 認 知 や ス ト レ ス
反 応 、ス ト レ ス・ コ ー ピ ン グ に お い て 性 格 特 性 が 密 接 に 関 与 す る こ と を 示 唆
する結果を得て、ストレス測定における性格評価の重要性を指摘している。
し た が っ て 、職 場 の ス ト レ ッ サ ー の 得 点 が 低 い に も か か わ ら ず 心 身 の ス ト
レ ス 反 応 得 点 が 高 い 場 合 は 、面 談 時 に 被 験 者 の 家 庭 生 活 に 係 わ る ス ト レ ス 要
因の有無やパーソナリティを考慮する必要がある。
4.疾病のスクリーニングを主目的としたものではない
大 野 ら 7 ) は 外 来 患 者 の 内 、ス ト レ ス 関 連 健 康 障 害 発 症 者 を 対 象 に 簡 易 調 査
票 を 試 用 し た 結 果 、患 者 群 の ス ト レ ス 反 応 得 点 が 健 常 群 と 比 較 し て 高 値 を 示
す 傾 向 が み ら れ る こ と を 明 ら か に し た 。し か し 、こ の 調 査 は 外 来 患 者 を 対 象
と し た 調 査 で あ り 、本 研 究 班 で は 簡 易 調 査 票 が 産 業 現 場 で ス ク リ ー ニ ン グ に
利 用 可 能 か ど う か の 検 討 は 行 っ て い な い 。 ま た 、産 業 現 場 に は 精 神 疾 患 を 診
断 で き る ス タ ッ フ が ほ と ん ど い な い こ と も 、検 討 を 行 わ な か っ た 理 由 の 一 つ
である。
簡易調査票は職業性のストレス状況を把握する目的で開発されたもので
あ り 、上 記 の 理 由 か ら こ の 調 査 票 を 産 業 現 場 で ス ク リ ー ニ ン グ に 活 用 す べ き
ではない。
229
研 究 者 : 中 村 賢 (北 里 大 学 医 療 衛 生 学 部 心 理 社 会 系 医 療 学 )、下 光 輝 一
(東 京 医 科 大 学 衛 生 学 公 衆 衛 生 学 )、大 野 裕 (慶 應 義 塾 大 学 医 学
部 精 神 神 経 科 ) 、 横 山 和 仁 (大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 社 会 医 学 専
攻 公 衆 衛 生 学 ) 、原 谷 隆 史 (労 働 省 産 業 医 学 総 合 研 究 所 )、古 木 勝
也 ((財 )京 都 工 場 保 健 会 産 業 保 健 部 )、丸 田 敏 雅 ( 東 京 医 科 大 学 精
神神経科)
D.文献
1 )小 此 木 啓 吾 、延 島 信 也 、重 田 定 義 、 楠 本 昌 子:心 身 医 学 に お け る Cornell
Medical Index の 研 究 (そ の 2 )― 記 入 動 機 、Y G と の 相 関 、時 間 的 変 動 性
―精神身体医学、9:115−122,1969.
2 )原 谷 隆 史 、 岩 田 昇 、 谷 川 武 : 簡 易 ス ト レ ス 調 査 票 の 信 頼 性 と 妥 当 性 、
労 働 省 平 成 9 年 度「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」 労 働 の 場 に お け
る ス ト レ ス 及 び そ の 影 響 に 関 す る 報 告 書 、 1 1 6 − 1 2 4 ,
1998.
3 )川 上 憲 人 :「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 現 場 に お け る 有 用 性 の 検 討 、 労
働 省 平 成 1 1 年 度「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」 労 働 の 場 に お け
るストレス及びその影響に関する報告書、12−26,2000.
4 )横 山 和 仁 、 荒 記 俊 一 、 丸 田 俊 雅 、 飯 森 槇 喜 雄 、 木 村 薫 : 職 業 性 ス ト レ
ス 簡 易 調 査 票 の 使 用 に 関 す る 研 究 、 労 働 省 平 成 1 1 年 度「 作 業 関 連 疾 患
の予防に関する研究」労働の場におけるストレス及びその影響に関する
報告書、172−174,2000.
5 )石 原 邦 雄 、 山 本 和 郎 、 坂 本 弘 編 : 生 活 ス ト レ ス と は 何 か ー そ の 理 論
と方法―垣内出版株式会社、東京、139−147、1985.
6 )丸 田 俊 雅 、 飯 森 槇 喜 雄 、 清 水 宗 夫 : 職 場 に お け る ス ト レ ス と 性 格 と の 関
連 ― 気 分 障 害 、 軽 度 精 神 障 害 を 中 心 と し て ― 労 働 省 平 成 8 年 度「 作 業 関
連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」労 働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 影 響 に
関する報告書、121−125,1998.
7 )大 野 裕 、 田 中 暁 子 : 精 神 神 経 科 受 診 者 に 対 す る 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調
査票の使用、平成11年度「作業関連疾患の予防に関する研究」労働の場
におけるストレス及びその影響に関する報告書、190−216,20
00.
「ストレス対策」
研究グループ報告
231
Ⅳ−1.ストレス対策グループ研究成果の概要
5 年間の研究概要
ス ト レ ス 対 策 グ ル ー プ で は 、事 業 場 規 模 を 問 わ ず 実 施 可 能 な ス ト レ ス 対 策
方 法 の 開 発 を 5 カ 年 研 究 の 目 的 と し て 研 究 事 業 を 行 っ た 。平 成 7 年 度 ・ 8 年
度は従前のストレス対策方法に関してレビューを行い、職場のストレス状
況・ ス ト レ ス 対 策 方 法 に 関 し て 調 査 を 行 っ た 。平成9年度は、各種ストレス
対 策 方 法 を 実 施 し て 検 討 を 加 え る と と も に 、ス ト レ ス 対 策 マ ニ ュ ア ル 原 案 の
作成を行った。平成10年度は、特に職業性ストレス簡易調査票の活用、リ
ス ナ ー 教 育・メンタリング教育、保健指導、運動習慣、イントラネットなど
に よ る ス ト レ ス 対 策 に 関 し て 調 査 研 究 を 行 っ た 。平 成 1 1 年 度 は 、引 き 続 い
て ス ト レ ス 対 策 方 法 の 実 用 性 検 討 を 行 い 、ス ト レ ス 対 策 マ ニ ュ ア ル を 完 成 し
た。
平成 7 年度研究概要
従 前 の 職 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 方 法 の 文 献 レ ビ ュ ー を 行 い 、職 場 の ス ト レ
ス状況に関する調査研究を行った。
平成 8 年度研究概要
職 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 効 果 評 価 指 標 に 関 す る 検 討 、作 業 関 連 疾 患 の 一
次予防としてのストレス対策方法などに関して検討を行った。
平成 9 年度研究概要
1 . ス ト レ ス ・ メ ン タ ル ヘ ル ス 教 育 ( 一 般 労 働 者 ・ 管 理 者 )、 リ ス ナ ー 教 育 、
メンタリング教育、保健指導、メール相談などによるストレス対策につ
いて研究を行った。
2. 包 括 的 な ス ト レ ス 対 策 の 基 礎 と な る マ ニ ュ ア ル 作 成 に つ い て 検 討 を 行 っ
た。
平成 10 年度研究概要
1. 職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 の 活 用 、 リ ス ナ ー 教 育 ・ メ ン タ リ ン グ 教 育 、 保 健
指導、運動習慣、イントラネットによるストレス対策などに関して調査
研究を行った。
2. 管 理 監 督 者 教 育 用 マ ニ ュ ア ル ・ リ ラ ク セ ー シ ョ ン マ ニ ュ ア ル の 作 成 を 行
った。
232
平成 11 年度研究概要
1 .運 動 指 導 、保 健 指 導 、イ ン ト ラ ネ ッ ト 法 に よ る 職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 の 活 用 、
メンタリングに関して調査研究を行った。
2 . セ ル フ ケ ア・ ラ イ ン に よ る ケ ア・ 産 業 保 健 ス タ ッ フ 等 に よ る ケ ア の 枠 組 み に
沿って、ストレス対策マニュアルを完成した。
233
平 成 11 年 度 研 究 の 概 要
平 成 11 年 度 研 究 と し て 、 ① 保 健 指 導 、 イ ン ト ラ ネ ッ ト 法 に よ る 職 業 性 ス
ト レ ス 調 査 票 の 活 用 、メ ン タ リ ン グ に 関 し て 調 査 研 究 を 行 っ た 。② セ ル フ ケ
ア ・ ラ イ ン に よ る ケ ア ・ 産 業 保 健 ス タ ッ フ に よ る ケ ア の 枠 組 み に 沿 っ て 、ス
トレス対策マニュアルを完成した。
平 成 11 年 度 の 調 査 研 究 項 目 と 担 当 研 究 者
(1)ストレスマネージメントの一環としての運動指導
須 藤 班 員 、 島 班 員 、 廣 班 員 、 協 力 者 : 武 田 繁 夫 ( 三 菱 化 学 )、 長 谷 川 恵 美
子(東京大学大学院教育研究科)
( 2 ) Web ヘ ゚ ー シ ゙ を 用 い た ス ト レ ス チ ェ ッ ク 票 の 作 成 と そ の 試 用 経 験 に つ い
て
荒 井 班 員 、 島 班 員 、 角 田 班 員 、 廣 班 員 、 協 力 者 : 田 中 克 俊 ( 東 芝 )、 原 谷
隆 史 ( 産 業 医 学 総 合 研 究 所 )、 北 村 尚 人 ( 三 菱 重 工 )
(3)ストレス対策における管理者教育
廣 班 員 、 協 力 者 : 森 晃 爾 、 鈴 木 英 孝 ( エ ッ ソ 石 油 ・ ゼ ネ ラ ル 石 油 )、 小
林 祐 一 ( HOYA )、 深 澤 健 二 ( ソ ニ ー )、 田 中 克 俊 ( 東 芝 )、 木 村 真 紀 ( 富 士
電機)
(4)保健指導におけるストレス対策
島 班 員 、 廣 班 員 、 協 力 者 : 遠 藤 俊 子( N T T 東 日 本 )、 塩 谷 光 子( 日 立 )、
富 山 明 子( 神 奈 川 県 予 防 医 学 協 会 )、 錦 戸 典 子( 聖 路 加 看 護 大 学 )、 宮 脇 百 合
子 ( ソ ニ ー )、 原 谷 隆 史 ( 産 業 医 学 総 合 研 究 所 )
(5)メンターとしての適性に関する研究
渡辺班員、協力者:久村恵子(南山大学大学院経営学研究科)
最初にストレス対策の枠組みと策定について概要を説明する。
ス ト レ ス 対 策 の 枠 組 み(図1)
1)労働者は、HPにあるストレスセルフチェックを用いることにより、ス
ト レ ス へ の 気 づ き が 促 進 さ れ 、自 ら ス ト レ ス 要 因 を 除 去 も し く は 減 じ る よ う
な 対 策 を 講 じ る こ と が 可 能 に な る 。ま た ス ト レ ス 反 応 が 生 じ て い る と 気 づ い
た 場 合 に は 、メ ー ル あ る い は 直 接 面 接 に よ り 、産 業 保 健 ス タ ッ フ か ら 保 健 指
導 を 受 け た り 、リ ラ ク セ ー シ ョ ン の 指 導 を 受 け る こ と が で き る 。こ の H P を
作 成 し 管 理 す る の は 産 業 保 健 ス タ ッ フ で あ る 。な お 、こ の ス ト レ ス セ ル フ チ
ェ ッ ク シ ス テ ム の 有 用 性 に 関 し て は 、平 成 1 0 年 度・平 成 1 1 年 度 の 研 究 に
より確認されている。
234
ホームページ1)
* 労 働 者 に よ る ス トレス・メンタルヘルスのセルフチェッ
ク→ メー ル 相 談 (産業保健スタッフが担当)
* ス トレス・メンタルヘルス関連情報提供
労働者
事
業
場
外
支
援
機
関
* 保 健 指 導 2)
リラクセーション
運 動 指 導
管理監督者
* 傾聴
* 快 適 職 場 づ くり
*産業保健スタッフ
へ の リファー
飲 酒 指 導
*リスナー教育
1) 産業保健スタッフによる作成・管 理
禁 煙 指 導
メール 相 談
* ストレス・メンタル ヘ ル ス 教 育
産業保健スタッフ
2) 労 働 者 は 必 要 に 応 じ て 産 業 保 健 ス タ
ッフによる保健指導を受ける。事業所外
支援機関は必要に応じて、労働者およ
び産業保健スタッフを支援する。
図1 ストレス対策の枠組み
2 ) ラ イ ン の 管 理 監 督 者 は 、 産 業 保 健 ス タ ッ フ か ら 、 ス ト レ ス・ メ ン タ ル ヘ
ル ス 教 育 や リ ス ナ ー 教 育 を 受 け る こ と に よ り 、ス ト レ ス 状 態 に あ る 部 下 に 対
し て 傾 聴 的 態 度 が と れ る よ う に な り 、ま た 快 適 職 場 の 形 成 が 可 能 と な る 。必
要に応じて部下を産業保健スタッフにリファーすることができる。
3 ) 産 業 保 健 ス タ ッ フ は 、 健 康 診 断・ 健 康 測 定・ 職 場 巡 視 な ど の 機 会 、 も し
くは労働者の求めに応じて随時、保健指導を行う。この保健指導には、リラ
クセーション、運動指導、飲酒指導、禁煙指導などが含まれる。
4 )事 業 場 外 支 援 機 関 は 、必 要 に 応 じ て 労 働 者 や 産 業 保 健 ス タ ッ フ に 対 し て
援助を行う。
事 業 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 策 定(図2)
事業場におけるストレス対策は以下の手順に沿って行う。
1.ストレスの現状の把握
(1)事業者におけるストレスの現状の把握
(2)従業員個人におけるストレスの状態の把握
2.事業場におけるストレス対策の立案
3.事業場におけるストレス対策の実施とモニタリング
4.3の結果にもとづいてストレス対策法の修正を行って再度実施
こ の 1 か ら 4 を 繰 り 返 す こ と に よ り 、事 業 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 を 推 進
する。
235
ストレスの状態の評価
簡易問診票・健診データなど
ストレス要因対
ストレス反応対
ストレス抵抗力
事業場におけるストレス対策方針の決定
ストレス対策の実施
簡易問診票・健診データなどによるモニタリング
ストレス対策の再評価
ス ト レ ス 対 策 の 修 正・実施
図2 ストレス対策の手順
236
主な研究成果の要約
1)ストレスマネージメントの一環としての運動指導
企 業 に 従 事 す る 20 ∼ 59 歳 の 社 員 12,447 名 ( 男 性 9,162 名 、 女 性 3,285
名 )を 対 象 と し た 。精 神 健 康 度 の 指 標 と し て GHQ12 項 目 と ス ト レ ス レ ベ ル 、
仕 事 の 満 足 度 お よ び 生 活 満 足 度 に つ い て 10 段 階 区 分 し た 自 己 評 価 表 を 用 い
て調査した。また、運動習慣を有する者では運動頻度、強度、時間、種目な
ど を 、運 動 習 慣 が な い 者 に は 運 動 を し な い 理 由 な ど に つ い て 問 診 票 に よ っ て
調査した。これらに基づき、精神健康度に及ぼす運動習慣の有無、運動種目
や 頻 度 な ど の 影 響 を 調 べ 、さ ら に 精 神 健 康 度 向 上 の た め の 運 動 処 方( 運 動 種
目、頻度等)を求めた。この結果、運動を定期的に実施している者は、全く
運動しない者、たまにする者に比較し、仕事や生活満足度は有意に高く、ス
ト レ ス レ ベ ル は 低 か っ た 。運 動 種 目 と 精 神 健 康 度 と の 関 連 を 調 べ た 結 果 、男
女 と も い ず れ の 運 動 種 目 に お い て も GHQ 得 点 お よ び ス ト レ ス レ ベ ル が 運 動
し な い 群 よ り 低 か っ た 。97 、98 年 の 2 年 間 継 続 し て 回 答 が 得 ら れ た 7640 名
を 対 象 に 縦 断 的 観 点 か ら 検 討 し た 。ま ず 、2 年 間 継 続 し て 運 動 習 慣 を 有 す る
男 性 ( 運 動 継 続 群 ) は 、 GHQ 得 点 お よ び ス ト レ ス レ ベ ル が 有 意 に 低 く 、 仕 事
や 生 活 満 足 度 は 有 意 に 高 か っ た 。 98 年 に 日 常 生 活 に 運 動 を 導 入 し た 者 ( 運
動 導 入 群 ) は 、 98 年 の 調 査 時 に は 生 活 満 足 度 が 向 上 し 、 ス ト レ ス レ ベ ル が
低 下 す る 傾 向 を 示 し た 。 逆 に 運 動 を 中 止 し た 群( 中 止 群 ) は 運 動 導 入 群 と 逆
の 傾 向 を 示 し た 。2 年 間 と も 運 動 習 慣 が な い 者 ( 非 運 動 習 慣 群 ) は 、 他 群 に
比 較 し 仕 事 や 生 活 満 足 度 が 低 く 、ス ト レ ス ベ ル は 高 か っ た 。女 性 も ほ ぼ 同 様
で あ っ た 。最 も 多 く の 者 が 実 施 し て い る 運 動 種 目 で あ る ウ ォ ー キ ン グ で あ り 、
週 2 回 以 上 の 頻 度 で ウ ォ ー キ ン グ を し て い る 者 の GHQ 得 点 お よ び ス ト レ ス
レ ベ ル が 最 も 低 か っ た 。 運 動 を し な い 理 由 と し て 、「 運 動 が 嫌 い 」 と 回 答 し
た 男 性 の GHQ 得 点 は 低 値 で あ っ た が 、「 時 間 が な い 」 と 回 答 し た 者 は 有 意 に
高 値 で あ り 、「 場 所 が な い 」と 回 答 し た 者 も 高 値 の 傾 向 を 示 し た 。女 性 で は 、
運動をしない理由と精神健康度との間には一定の傾向を示さなかった。
本 研 究 に よ り 、 運 動 習 慣 を 有 す る 者 の 精 神 健 康 度 が 高 く 、日 常 生 活 の 中 に
運動を導入することはストレス対策の1つとして有効であることが示唆さ
れたので、マニュアルの作成を行った。また、運動種目による精神健康度へ
の 影 響 に 差 異 は な か っ た 。し た が っ て 、生 活 習 慣 病 の 合 併 が な く 、単 に 精 神 ・
心 理 的 効 果 を 目 指 し た 場 合 に は 任 意 の 運 動 を 選 択 し て も 良 い と 思 わ れ る 。最
もポピュラーなウォーキングの場合は週2回以上実施することが好ましい
と 思 わ れ る 。 一 方 、「 運 動 嫌 い 」 な 者 に 対 し て 運 動 を 強 い る こ と は 一 層 の ス
ト レ ス と な る 可 能 性 が あ り 、運 動 の 必 要 性 の 啓 蒙 を 介 し た 自 発 的 な 運 動 の 導
入 を 待 た ね ば な ら な い 。 し か し 、「 時 間 が な い 」 者 や 「 場 所 が な い 」 た め に
運動ができない者に対しては環境整備等の措置が必要と思われる。
こ の 結 果 か ら 、運 動 の 有 す る ス ト レ ス 対 策 と し て の 意 義 が 示 唆 さ れ た の で 、
ストレス対策としての運動マニュアルの作成を行った。
237
2 )W e b ヘ ゚ ー シ ゙ を 用 い た ス ト レ ス チ ェ ッ ク 票 の 作 成 と そ の 試 用 経 験 に つ い て
ス ト レ ス チ ェ ッ ク 票 は 、Web ペ ー ジ 上 に 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 評 価 票 の 質 問
項 目 を 配 置 し 、そ れ ぞ れ の 質 問 項 目 に 対 す る 回 答 を マ ウ ス で チ ェ ッ ク す る こ
とによって、仕事のストレッサー、精神的ストレス反応、身体的ストレス反
応 の 得 点 を 算 出 し 、 そ の 得 点 に 応 じ た コ メ ン ト (現 在 の 状 況 や 状 態 に つ い て
の 評 価 、 対 処 行 動 に つ い て の ア ド バ イ ス な ど )を 提 示 す る と い う 仕 組 み に な
っ て い る 。精 神 的 ス ト レ ス 反 応 の 下 位 尺 度 の 中 か ら 疲 労 、抑 う つ を 取 り 上 げ
た。
Web ペ ー ジ の 試 用 公 開 の 対 象 は 、 首 都 圏 に あ る 電 機 メ ー カ ー A 社 の 本 社 と
研 究 所 に 勤 務 す る 8200 名 と し た 。平 成 11 年 12 月 14 日 に Web ペ ー ジ が 各 社
サ ー バ ー に ア ッ プ ロ ー ド さ れ 公 開 が 開 始 さ れ た 。ア ク セ ス 件 数 は ホ ー ム ペ ー
ジ に お け る ロ グ カ ウ ン タ ー に よ っ て 集 計 し 、ま た 本 Web ペ ー ジ に 対 し て の 感
想を別途健康管理室のホームページ上で募集した。
こ の 結 果 、Web ペ ー ジ 公 開 時 か ら 平 成 12 年 3 月 15 日 ま で の 間 に 合 計 1,208
件 の ア ク セ ス を 認 め た 。こ の 期 間 中 、本 Web ペ ー ジ を き っ か け と し て 産 業 医
の も と を 訪 れ た ケ ー ス が 7 件 確 認 さ れ た 。健 康 管 理 室 の ペ ー ジ に 寄 せ ら れ た
感 想 と し て 、「 Web 上 だ と 気 楽 に セ ル フ チ ェ ッ ク が 出 来 る 」、「 仕 事 の ス ト レ
スや自分自身のストレス状態について客観的なコメントが得られて有用で
ある」といった意見が寄せられた。
件 数 は 実 際 に ス ト レ ス チ ェ ッ ク が 行 わ れ た 件 数 で は な く 、ホ ー ム ペ ー ジ へ
の ア ク セ ス 件 数 で あ る が 、短 い 試 用 期 間 な が ら 多 く の ア ク セ ス が 得 ら れ 勤 労
者の関心の高さがうかがわれた。
こ の 研 究 に よ り 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 評 価 票 を 用 い た Web ヘ ゚ ー シ ゙ を 用 い た ス
トレスチェック票は実用的で有用なストレス対策であることが確かめられ
たのでマニュアル作成を行った。
3)ストレス対策における管理者教育
実 際 に 職 場 で の 健 康 管 理 に 携 わ っ て い る 産 業 保 健 ス タ ッ フ に 、「 平 成 10
年 度 労 働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 」の 該
当部分を配布し、実践での使用可能性、および改良すべき点について、書面
に よ る 回 答 を 求 め た 。 マ ニ ュ ア ル の 使 用 可 能 性 に つ い て は 、 ほ と ん ど が「 そ
の ま ま で 使 用 可 能 」 お よ び「 一 部 改 良 の 上 で 使 用 可 能 」 と 、 肯 定 的 で あ っ た
が 、 改 良 す べ き 点 と し て は 、「 具 体 性 を 高 め る 必 要 が あ る 」、「 も っ と 疾 病 対
策 よ り ス ト レ ス 対 策 の 視 点 を 強 調 す べ き で あ る 」の 2 点 が あ げ ら れ た 。こ の
結果を踏まえて、マニュアルの構成を一部改変した。
こ の 検 討 と あ わ せ て 、 事 業 者 向 け に 、管 理 者 教 育 に 関 す る 啓 発 用 パ ン フ レ
ット(見開き2ページ)を作成した。
238
4)保健指導におけるストレス対策
4 名 の 産 業 保 健 婦 ・ 士 ( 1 名 は 企 業 外 労 働 衛 生 機 関 に 所 属 )、 1 名 の 産 業 医 、
1 名の精神科医および 1 名 の 大 学 教 員( 産 業 保 健 婦 ・士経験あり)からなる
検 討 会 を 各 回 約 2.5 時 間 、計 5 回 開 催 し 、健 康 診 断 お よ び そ の 結 果 に 基 づ い
た保健指導の場におけるストレス対策のあり方を検討した。うち 2 回は 1
名 の 産 業 保 健 研 究 者 に も 参 加 し て も ら い 、オ ブ ザ ー バ ー と し て の 意 見 を 得 た 。
こ の 結 果 、( 1 ) 労 働 者 個 々 の ス ト レ ス の 程 度 や 精 神 健 康 度 を 推 し 測 る に
は 、 面 接 に よ る 問 診 が 不 可 欠 で あ る 。 問 診 時 間 は 、 最 低 で も 1 人 あ た り 5∼
10 分 程 度 必 要 で あ る 。( 2 ) 問 診 を 効 率 よ く す す め る に は 、 質 問 票 の 使 用 が
有 効 で あ る が 、あ く ま で 参 考 資 料 と し て 活 用 す る に と ど め る の が よ い 。
(3)
保 健 指 導 の 実 効 性 を 高 め る に は 、 個 別 面 接 を 行 う こ と が 重 要 で あ る 。( 4 )
健 診 結 果 に 基 づ く 保 健 指 導 と 健 康 の 保 持 増 進 を 目 的 と す る 保 健 指 導 は 、本 来
の 意 味 か ら み れ ば 別 の も の で あ る が 、現 実 的 に は 同 時 に 行 う こ と も 考 慮 さ れ
て よ い 。( 5 ) 問 診 や 保 健 指 導 に あ た る 産 業 医 、 看 護 職 は ス ト レ ス や メ ン タ
ル ヘ ル ス に 関 す る 知 識 お よ び 技 術 を 、研 修 等 を 通 じ て 習 得 す る( 向 上 さ せ る )
べ き で あ る 。こ う し た 検 討 結 果 を 踏 ま え て 、保 健 指 導 に お い て 実 施 さ れ る べ
きストレス対策のあり方と具体的な実践例およびそれらの理論的背景をま
と め る と と も に 、 事 業 主 向 け に 啓 発 用 パ ン フ レ ッ ト( 見 開 き 2 ペ ー ジ ) を 作
成した。
5 )メ ン タ ー と し て の 適 性 に 関 す る 研 究 ― メ ン タ ー の 性 格 特 性 と プ ロ テ ジ ェ
経験―
大 阪 ・ 名 古 屋 の 民 間 企 業 9 社 に 勤 務 す る 487 人 の 男 性 管 理 職 ( 係 長 以 上 )
に 質 問 紙 を 配 布 し 回 収 し た 。 被 調 査 者 の 平 均 年 齢 は 45.5 歳( SD=7.4)、 役 職
は 、 係 長 職 が 104 名 (21.4 % )・ 課 長 職 が 285 名 ( 58.5 % )・ 部 長 職 以 上 が 98
名 (20.1 % ) で あ っ た 。 質 問 項 目 は 、 ① デ モ グ ラ フ ィ ッ ク 変 数( 年 齢 、 役 職 )、
② メ ン タ リ ン グ に 関 す る 変 数 、 ③ 心 理 学 的 特 性( 傾 性 ) に 関 す る 変 数 で あ る 。
変 数 間 の 相 関 係 数 を 求 め た と こ ろ 、メ ン タ リ ン グ 行 動 と 個 人 の 心 理 学 的 特 性
及 び プ ロ テ ジ ェ 経 験 と の 間 に 、1 % 水 準 で 統 計 的 に 有 意 な 弱 い ま た は 中 程 度
の 相 関 (r=.19∼ .37,p<.01) の あ る こ と が 確 認 さ れ た 。メ ン タ リ ン グ 行 動 と プ
ロ テ ジ ェ 経 験 (r=.37,p<.01)、自 己 効 力 感 (r=.32,p<.01) 、自 己 充 実 的 達 成 動
機 (r=.31,p<.01)と の 間 で は 統 計 的 に 有 意 な 相 関 関 係 が 確 認 さ れ た 。 メ ン タ
リング行動を従属変数としてステップワイズ法による階層的重回帰分析を
行 な っ た 。 Model 1 で は デ モ グ ラ フ ィ ッ ク 要 因 ( 年 齢 、 職 位 )、 Model 2 で は
プ ロ テ ジ ェ 経 験 、 Model 3 で は 個 人 の 心 理 学 的 特 性 ( 自 己 効 力 感 、 自 尊 心 、
ロ ー カ ス・ オ ブ・ コ ン ト ロ ー ル 、 競 争 的 / 自 己 充 実 的 達 成 動 機 ) を 投 入 し た 。
そ の 結 果 、個 人 の プ ロ テ ジ ェ 経 験 (β =.308,p<.001)、自 己 充 実 的 達 成 動 機 ( β
=.203,p<.001)、自 己 効 力 感 (β =.150,p<.01)、年 齢 (β =.117,p<.05) の 順 で
統 計 的 に 有 意 な 標 準 回 帰 係 数 が 確 認 さ れ た 。ま た 、各 Model 2(Adj.R2=.146) 、
239
Model 3(Adj.R2=.253) に お い て 統 計 的 に 有 意 な 自 由 度 調 整 済 み 決 定 係 数 が
確 認 さ れ る と 共 に 、モ デ ル 間 に お い て 統 計 的 に 有 意 な 自 由 度 調 整 済 み 決 定 係
数 の 増 加 分 (Model1-2 △ Adj.R2=.136 、 Model2-3 △ Adj.R2=.087) も 確 認 さ れ
た。
本 研 究 の 結 果 か ら 、 メ ン タ ー の 選 抜 に あ た っ て は 、 メ ン タ ー 候 補 者 の「 自
己 充 実 的 達 成 動 機 」、「 自 己 効 力 感 」、 お よ び 「 プ ロ テ ジ ェ 経 験 」 を 考 慮 す る
こ と が 必 要 で あ る こ と が 指 摘 で き る 。具 体 的 に は 、① 十 分 に メ ン タ リ ン グ を
受 け て き た 経 験 が あ る こ と 、② 競 争 的 で は な く 、自 己 目 標 を 達 成 し よ う と す
る 動 機 が 高 い こ と 、③ 自 分 に 自 信 を 持 ち 、困 難 に 打 ち 克 て る と い う 自 信 が 強
い こ と 、が 良 き メ ン タ ー と し て 求 め ら れ る 要 件 と な ろ う 。こ の 結 果 を 踏 ま え
て、マニュアル作成を行った。
今後の課題
今 回 開 発 し た ス ト レ ス 対 策 法 は 、事 業 場 の 規 模 を 問 わ ず 実 施 可 能 な も の を
という目的で開発したが、今後、包括的プログラムとして、事業場規模を違
え て モ デ ル 事 業 を 展 開 し て い く 必 要 が あ る 。こ の モ デ ル 事 業 の 中 で 、包 括 的
プログラムの効果評価を行って、改良を加えていくことが望ましい。
ストレス対策研究グループ連絡員 島 悟(東京経済大学経営学部)
240
Ⅳ−2.ストレスマネージメントの一環としての運動指導
A.緒言
労 働 者 を 取 り 巻 く 社 会 情 勢 や 労 働 環 境 の 多 様 化 に 伴 い 、精 神 的 疲 労 を 訴 え
る 者 が 増 加 し て き た 。 平 成 9 年 度 の 労 働 省 報 告 で は 、 身 体 的・精神的疲労感
を 訴 え る 者 が 急 増 し 、企 業 で も ス ト レ ス 対 策 は 重 要 課 題 の 一 つ と な っ て き た 。
労 働 省 で は 、 委 託 研 究「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 」 に お い て 職 場 で
用 い る ス ト レ ス マ ネ ー ジ メ ン ト マ ニ ュ ア ル の 中 で「 運 動 に よ る ス ト レ ス 解 消
法」を取り上げている。運動によるストレス解消に関する研究は多い。しか
し 、精 神 的 疲 労 や ス ト レ ス 感 な ど を 客 観 的 尺 度 に 置 換 し 、運 動 導 入 と の 関 連
を論じた報告は少ない。そこで、一万人を越える労働者を対象に、日常生活
における運動実施状況や運動の習慣化の動機などとストレス感の大きさを
数 値 尺 度 に 置 換 し た 精 神 健 康 度 と の 関 連 を 調 べ 、ス ト レ ス 対 策 と し て の 運 動
の 有 用 性 を 吟 味 し 、さ ら に 職 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 と し て 運 動 を 導 入 す る
際の指導マニュアル作成の資料を提供することにした。
B.対象と方法
企 業 に 従 事 す る 20 ∼ 59 歳 の 社 員 12,447 名( 男 性 9,162 名 、女 性 3,285 名 )
を 対 象 と し た 。 精 神 健 康 度 の 指 標 と し て GHQ12 項 目 を 用 い 、0-1 法 で 評 価 し
た 。 さ ら に 、 ス ト レ ス レ ベ ル( ス ト レ ス を 全 く 感 じ な い 状 態 を 1 、 最 も 厳 し
く 感 じ る 状 態 を 10 と し 、 10 段 階 で 評 価 し た )、 仕 事 の 満 足 度 お よ び 生 活 満
足 度 ( 同 様 に 満 足 度 が 最 も 低 い 状 態 を 1 、 最 も 高 い 状 態 を 10 と し た ) に つ
い て 、 10 段 階 区 分 し た 自 記 評 価 表 を 用 い て 調 査 し た 。 次 い で 、
「日常生活に
おいて運動をしているか?」の設問に対し、
「 定 期 的 に 行 う 」、
「たまに行う」
お よ び「 し な い 」 の 3 種 の 回 答 を 設 定 し た 。 ま た 、 自 分 の 体 力 レ ベ ル に つ い
て 、「 5 . 良 い 」、「 4 . ま あ 良 い 」、「 3 . 普 通 」、「 2 . あ ま り 良 く な い 」 お
よ び 「 1 . 良 く な い 」 の 5 段 階 の 回 答 を 設 定 し 、「 日 常 で き る だ け 身 体 を 動
か す よ う に し て い る か ? 」 の 設 問 に は「 は い 」、「 い い え 」 の 回 答 を 設 定 し た 。
運動習慣を有する者には、週間頻度、自覚的運動強度、一回の運動時間およ
び 運 動 種 目 な ど を 調 べ た 。 一 方 、 運 動 習 慣 が な い 者 に は「 運 動 し な い 」 理 由
などを調査した。これら運動習慣の有無や運動種目、頻度、強度などと精神
健 康 度 と の 関 連 を 調 べ た 。ま た 、運 動 し な い 理 由 と 精 神 健 康 度 と の 関 連 も 調
べた。
な お 本 調 査 で は 、 精 神 健 康 度 の 指 標 と し て GHQ12 項 目 版 を 使 用 し 、本 研 究
班 で 開 発 し た 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 評 価 票 を 用 い な か っ た 。こ れ は 経 時 的 調 査
の開始段階では職業性ストレス簡易評価票が完成していなかったため職業
性 ス ト レ ス 簡 易 評 価 票 使 用 し な か っ た も の で あ り 、GHQ は あ く ま で 例 示 と し
て用いた。
調 査 結 果 は 、 す べ て 男 女 別 に 解 析 し 、 統 計 処 理 に は SPSS を 用 い 、 一 元 配
241
置 分 散 分 析 お よ び ノ ン パ ラ メ ト リ ッ ク 検 定 を 行 い 、危 険 率 5 % を 有 意 限 界 と
した。
C.結果
1.運動習慣と精神健康度との関連(表1)
運 動 状 況 の 設 問 に 対 し 、「 定 期 的 に 行 う( A 群 )」、「 た ま に 行 う( B 群 )」、
「 し な い ( C 群 )」 と 回 答 し た 群 そ れ ぞ れ の 仕 事 満 足 度 、 生 活 満 足 度 、 ス ト
レスレベルおよびGHQ得点を表1に示した。A,B,C群の順に、仕事や
生 活 満 足 度 が 高 く 、 ス ト レ ス レ ベ ル や G H Q 得 点 は 低 値 を 示 し 、A,C群間
には有意差が認められた。
表1 運動習慣と精神健康度との関連
2.自己の体力認識レベルと精神健康度との関連(表2)
自 己 の 体 力 認 識 レ ベ ル と 精 神 健 康 度 と の 関 連 を 表 2 に 示 し た 。体 力 レ ベ ル
が 高 い と 認 識 し て い る 者 ほ ど ス ト レ ス レ ベ ル や G H Q 得 点 は 低 く 、仕 事 や 生
活に対する満足度が高いことが示された。
3 . 日 常 生 活 に お け る 身 体 活 動 意 欲 と 精 神 健 康 度 と の 関 連(表3)
「 日 常 で き る だ け 身 体 を 動 か す よ う に し て い ま す か ? 」に 対 す る 回 答 と 仕
事 や 生 活 満 足 度 、ス ト レ ス レ ベ ル お よ び G H Q 得 点 と の 関 連 を 表 3 に 示 し た 。
日 常 生 活 に お け る 身 体 活 動 意 欲 の 高 い 者 ほ ど 仕 事 や 生 活 の 満 足 度 が 高 く 、ス
トレスレベルやGHQ得点は低かった。
242
表2 自己体力認識レベルと精神健康度との関連
表3 日常生活における身体活動意欲と精神健康度との関連
4.運動種目と精神健康度との関連(図1、2)
運 動 実 施 状 況 の 設 問 に「 定 期 的 に 運 動 を 行 う 」 ま た は「 た ま に 行 う 」 と 回
答 し た 者 の 運 動 種 目 を 調 査 し 、 仕 事 や 生 活 満 足 度 、ス ト レ ス レ ベ ル お よ び G
H Q 得 点 と の 関 連 を 図 1 ( 男 性 )、2( 女 性 ) に 示 し た 。 男 性 の 場 合 、
「運動
習 慣 の な い 者 」に 比 較 し ほ と ん ど の 運 動 種 目 に お い て 仕 事 満 足 度 や 生 活 満 足
度 が 高 く 、ス ト レ ス レ ベ ル お よ び G H Q 得 点 は 低 か っ た 。女 性 の 場 合 は 男 性
ほ ど 顕 著 で は な い が 、ほ と ん ど の 運 動 種 目 に お い て 運 動 習 慣 が な い 者 に 比 較
し 生 活 満 足 度 は 有 意 に 高 く 、ス ト レ ス レ ベ ル や G H Q 得 点 は 低 い 傾 向 を 示 し
た 。男 女 と も 精 神 健 康 度 に 及 ぼ す 運 動 種 目 よ る 明 ら か な 差 異 は 認 め ら れ ず 、
男 性 の ダ ン ス 、女 性 の 野 球 実 施 者 数 が 少 な か っ た た め に 運 動 習 慣 が な い 群 と
の間に有意差がみられなかった。
243
仕事満足度
生活満足度
6.8
7.6
a
a
7.2
6.6
a,b a,b a,b
b
6.4
b
a,b
b
a
a
a
a
a
a
a
a
6.8
6.4
6.2
6
6
そ の他
a
ウェイト
トレーニング
スキー
a
ジ ョギ ン グ
野球
ダ ンス
水泳
テ ニス
ゴ ルフ
歩行
しない
その他
ウェイト
トレーニング
ジ ョギ ン グ
スキー
ダンス
野球
水泳
テ ニス
ゴル フ
しな い
歩行
5.8
5.6
GHQ得点
ストレスレベル
5.8
3
5.6
2.6
a
a
a
5.4
a
a
a
a
2.2
5.2
5
b
a
図1 男性の実施運動種目と精神健康度との関連
生活満足度
仕事満足度
8
a
a
6.4
7.5
a
a
6.2
a
a
a
a
a
a
a
7
6
6.5
5.8
6
5.6
5.5
5.4
ダンス
そ の他
水泳
ウェイト
トレーニング
ダ ンス
テニス
ジ ョ ギ ング
水泳
ゴルフ
スキ ー
テ ニス
野球
ゴ ルフ
GHQ 得点
ストレスレベル
2.9
2.7
2.5
a
2.3
2.1
a
1.9
1.7
その他
ウェイト
トレーニ
ング
ジョギング
スキー
野球
しない
1.5
歩行
その他
ウェイト
トレーニング
ジ ョギング
スキー
野球
ダンス
水泳
テニス
ゴルフ
歩行
しな い
6.5
6.3
6.1
5.9
5.7
5.5
5.3
5.1
4.9
4.7
4.5
歩行
5
しな い
そ の他
ウェイト
トレーニング
ジ ョギ ン グ
スキー
ダ ンス
野球
水泳
テ ニス
ゴ ルフ
しな い
歩行
5.2
図 2.女 性 の 実 施 運 動 種 目 と精 神 健 康 度 との 関 連
a : p < 0 . 0 5 、一 元 配 置 分 析 後 、 多 重 比 較 検 定 、 運 動 し な い 群 と の 比 較
図2 女性の実施運動種目と精神健康度との関連
そ の他
a : p < 0 . 0 5 、一 元 配 置 分 析 後 、 多 重 比 較 検 定 、 運 動 し な い 群 と の 比 較
b : p < 0 . 0 5、一 元 配 置 分 析 後 、 多 重 比 較 検 定 、 歩 行 群 と の 比 較
ウェイト
トレーニング
ジ ョギ ング
スキ ー
野球
ダ ンス
水泳
テニス
ゴ ルフ
歩行
しな い
そ の他
ウェイト
トレーニング
ジ ョギ ン グ
スキ ー
ダ ン ス
野 球
水 泳
テ ニス
ゴ ル フ
歩 行
しな い
1.4
図 1.男 性 の 実 施 運 動 種 目 と精 神 健 康 度 との 関 連
6.6
a,b
a
1.8
4.8
a
a
a
244
5.2年間の運動実施状況と精神健康度との関連(図3、4)
1997 ∼ 1998 年 の 2 年 間 連 続 し て 回 答 が 得 ら れ た 者 7640 名 を 対 象 に 、 2 年
間 継 続 し て 定 期 的 に 運 動 し た 者 ( 運 動 継 続 群 )、 2 年 間 定 期 的 な 運 動 を し な
か っ た 者( 非 運 動 習 慣 群 )、97 年 度 に は 定 期 的 に 運 動 を 行 い 、98 年 に は 中 止
し た 者 ( 運 動 中 止 群 ) お よ び 98 年 度 か ら 初 め て 定 期 的 に 運 動 を 行 な っ た 者
(運動導入群)に分け、精神健康度を比較した。男性の場合、運動継続群は
2 年 間 と も 生 活 満 足 度 が 他 群 に 比 較 し 有 意 に 高 く 、ス ト レ ス レ ベ ル は 低 か っ
た 。 一 方 、 運 動 を 中 止 し た 場 合 ( 中 止 群 )、 生 活 満 足 度 が 有 意 に 低 下 し 、 ス
トレスレベルは有意に上昇した。逆に、運動を導入した場合、生活満足度が
有 意 に 上 昇 し 、 ス ト レ ス レ ベ ル は 低 下 し た 。 非 運 動 習 慣 群 は 、2 年 連 続 し て
生 活 満 足 度 が 最 も 低 く 、 ス ト レ ス レ ベ ル は 最 も 高 か っ た 。女性の場合は、ス
ト レ ス レ ベ ル は 一 定 の 傾 向 を 示 さ な か っ た が 、生 活 満 足 度 は 男 性 と 同 様 の 結
果を示した。
6 . 運 動 を し な い 理 由 と 精 神 健 康 度 と の 関 連( 図 5 、 6 )
運 動 習 慣 が な い 者 の「 運 動 を し な い 理 由 」 と ス ト レ ス レ ベ ル お よ び GHQ 得
点 と の 関 連 を 調 べ 、 図 5 ( 男 性 )、 6 ( 女 性 ) に 示 し た 。 運 動 し な い 理 由 の
う ち 「 運 動 が 嫌 い 」 と 回 答 し た 男 性 の GHQ 得 点 や ス ト レ ス レ ベ ル は 、「 時 間
が な い 」と 回 答 し た 者 に 比 し 有 意 に 低 値 で あ っ た 。ま た 、
「 場 所 が な い 」、
「や
る気がない」などと回答した男性のGHQ得点も高かった。女性は、男性と
は 異 な り 、「 時 間 が な い 」 や 「 場 所 が な い 」 と 回 答 し た 者 の ス ト レ ス レ ベ ル
が高値傾向を示した。
運 動 継 続 群 (n=1528)
運 動 導 入 群 (n=545)
高い
高い
7.5
*
*
*
#
*
*
#
6.5
6
97年 度
98年 度
5.8
5.6
#
5.4
*
*
*
低い
低い
#
*
ストレスレベル
生活満足度
7
中 止 群 (n=231)
非 運 動 習 慣 群 (n=1418)
6
5.2
5
97年 度
図 3.2 年 間 の 運 動 実 施 状 況 と精 神 健 康 度 との 関 連
98年 度
(男 性 、n=3722)
* :p < 0 . 0 5、一 元 配 置 分 析 後 、多 重 比 較 検 定 、 # :p < 0 . 0 5、W i l c o x o n 検 定
図 3 2 年 間 の 運 動 実 施 状 況 と 精 神 健 康 度 と の 関 連 ( 男 性 、 n= 3722 )
245
運 動 継 続 群 (n=454)
運 動 導 入 群 (n=203)
中 止 群 (n=118)
非 運 動 習 慣 群 (n=638)
高い
7.4
* *
7.2
生活満足度
ストレスレベル
高い
7.6
*
7 *
*
*
6.8
6.6
6
5.5
5
低い
低い
6.4
6.2
6
97年 度
6.5
4.5
4
97年 度
98年 度
98年 度
図 4.2 年 間 の 運 動 実 施 状 況 と精 神 健 康 度 との 関 連
(女 性 、n=1413)
* :p < 0 . 0 5、一 元 配 置 分 析 後 、多 重 比 較 検 定 、 # :p < 0 . 0 5、W i l c o x o n 検 定
図 4 2 年 間 の 運 動 実 施 状 況 と 精 神 健 康 度 と の 関 連 ( 女 性 、 n= 1413 )
GHQ
4
6.4
3.5
6.2
6
G H Q得 点
3
5.8
a
5.6
a
a
5.4
5.2
2.5
2
1.5
その他
やる気がない
指導者がいない
場所がな い
運動が嫌 い
き っかけがない
その他
やる気がな い
指導者 がいな い
場所がな い
運動が嫌 い
き っかけがない
(1306)(1132)(244)(237)(31)(823)(189)
1
時間がな い
5
4.8
時間がな い
低 い ←
ス トレ ス レ ベ ル→ 高 い
ストレスレベル
6.6
(1306)(1132)(244)(237)(31)(823)(189)
図 5.男 性 の 運 動 を し な い 理 由 と ス ト レ ス レ ベ ル お よ び G H Q と の 関 連
(n=3962、Mean± S E)
a: p<0.05、 一 元 配 置 分 析 後 、 多 重 比 較 検 定 、 時 間 が な い 群 と の 比 較
図5 男性の運動をしない理由とストレスレベルおよび
GHQ 得 点 と の 関 連 ( n = 3962 、 Mean ±SE)
246
GHQ
ス トレ ス レ ベ ル→ 高 い
低 い ←
ストレスレベル
6.6
5.2
3.5
6.4
3
6.2
G H Q得 点
6
5.8
5.6
5.4
2.5
2
1.5
その他
やる気がない
指導者がいない
場所がない
運動が嫌い
(619)(517)(173)(98)(13)(275)(102)
1
き っかけがない
その他
やる気がな い
指導者がいない
場所がない
運動が嫌い
き っかけがない
時間がない
4.8
時間がない
5
(619)(517)(173)(98)(13)(275)(102)
図 6.女 性 の 運 動 を し な い 理 由 と ス ト レ ス レ ベ ル お よ び G H Q 得 点 と の 関 連
(n=1797、Mean± S E)
図6 女性の運動をしない理由とストレスレベルおよび
GHQ 得 点 と の 関 連 ( n= 1797 、 Mean ±S.E.)
D.考察
運 動 は 一 種 の ス ト レ ス で あ り 、ま た ス ト レ ス の 解 消 に も 貢 献 す る と 言 わ れ
る 。ス ト レ ス に 対 す る 運 動 実 施 の 有 用 性 を 多 く の 労 働 者 を 対 象 に 調 べ た 報 告
は 少 な い 。 本 研 究 で は 、 12,447 人 の 労 働 者 を 対 象 に 、 運 動 習 慣 の 有 無 や 運
動 実 施 状 況 、自 己 体 力 の 認 識 レ ベ ル や 日 常 の 身 体 活 動 意 欲 な ど と 精 神 健 康 度
と の 関 連 を 調 べ た 。そ の 結 果 、運 動 習 慣 を 有 す る 者 お よ び 体 力 の 認 識 レ ベ ル
が高い者は精神健康度も高かった。また、日常の精神健康度も高かった。身
体 活 動 意 欲 が 高 い と い う こ と は 、精 神・心 理 的 状 態 が 良 好 で あ る こ と の 反 映
なのかもしれない。しかし、運動実施が精神健康度を高めるのか、精神健康
度の高い者が運動実施可能な状況にあるのかは不明である。
一 方 、 2 年 間 継 続 し て 運 動 を 行 な っ て い た 者 で は 図 3、 4 に み ら れ る よ う
に、生活満足度が高く、ストレスレベルは低かった。運動を途中で中止した
者 は 生 活 満 足 度 の 低 下 、ス ト レ ス レ ベ ル の 上 昇 を 示 し 、逆 に 途 中 か ら 運 動 を
導 入 し た 者 で は 生 活 満 足 度 が 上 昇 し 、ス ト レ ス 感 が 減 っ た 。こ れ ら の 事 実 は 、
日 常 生 活 の 中 に 運 動 を 取 り 入 れ る こ と が 精 神・心 理 的 に 望 ま し い 影 響 を も た
らすことを示していると思われる。
Sorensen た ち は 、 41 ∼ 50 歳 の 者 219 名 を 対 象 に 有 酸 素 運 動 を 中 心 と し た
247
運 動 療 法 を 行 な い G H Q 得 点 の 低 下 を 認 め 、 特 に 運 動 プ ロ グ ラ ム を 70% 以 上
遂 行 し た 者 に 顕 著 で あ っ た こ と を 報 告 し て い る 。ま た 、入 江 た ち は 354 名 の
労 働 者 を 対 象 に ブ レ ス ロ ー の 7 つ の 生 活 習 慣 を 吟 味 し た 結 果 、運 動 習 慣 の 保
持 は ス ト レ ス 軽 減 効 果 を 有 す る こ と を 報 告 し 、Ezoe た ち は 、 男 性 2132 名 お
よ び 女 性 668 名 の カ メ ラ 製 造 業 者 を 対 象 に 、運 動 と 精 神 的 ス ト レ ス の 関 連 を
調べ、運動にはストレス解消効果があることを報告している。さらに、
Steptoe た ち は 青 年 期 の 者 を 対 象 に 、 青 木 は 高 齢 者 を 対 象 に 調 べ 、 運 動 が 精
神的健康状態を良好な状態に導くことを報告している。本調査結果や
Sorensen た ち 、 入 江 た ち 、 Esoe た ち お よ び Steptoe た ち の 結 果 は 、 い ず れ
の年代においても日常生活の中に運動を導入することはストレス対策とし
て 有 効 で あ る こ と を 示 唆 し て い る 。し か し 運 動 に よ る ス ト レ ス 解 消 の 機 序 に
関しては、まったく未踏段階であり、今後の解明が待たれる。
さ て 、 精 神 健 康 度 に 及 ぼ す 運 動 種 目 の 相 違 を 調 べ た 報 告 は 見 あ た ら ず 、本
研 究 に お い て 調 べ た が 、運 動 種 目 に よ る 影 響 に 差 は な か っ た 。運 動 実 施 者 の
意 志 と は 異 な り 、運 動 指 導 者 に 指 定 さ れ た 種 目 を 実 施 し た 場 合 の 影 響 は と も
かく、生活習慣病の合併がなく、単に精神・心理的効果を目指した場合には
運動実施者の任意の運動を選択するのが望ましいと思われる。
一 方 、「 運 動 嫌 い 」 な 者 に 対 し 運 動 を 強 い る こ と は 一 層 ス ト レ ス と な る 可
能 性 が あ り 、運 動 の 必 要 性 の 啓 蒙 を 介 し た 自 発 的 な 運 動 の 導 入 を 待 た ね ば な
ら な い だ ろ う 。 し か し 、「 時 間 が な い 」 者 や 「 場 所 が な い 」 た め に 運 動 が で
き な い 者 に 対 し て は 環 境 整 備 等 の 措 置 が 必 要 と 思 わ れ る 。女 性 で は 、運 動 す
る場所の提供や必要に応じて勤務時間内での運動指導などの特別措置も考
慮する必要があるかもしれない。
運 動 に よ る ス ト レ ス 解 消 効 果 を ア ピ ー ル し て い く こ と が 必 要 と 考 え 、こ れ
ら の 調 査 を 基 に 、 勤 労 者 に 対 し 、日 常 生 活 に お け る 身 体 活 動 実 施 の 動 機 付 け
となるリーフレットを作成した。労働現場において活用されたい。
E.まとめ
(1)運動習慣を有する者は、高い精神健康度を維持し、新たな運動の導入に
よって精神健康度の向上することが示唆された。
( 2 )精 神 健 康 度 に 対 す る 運 動 種 目 の 差 異 は な く 、各 個 人 の 嗜 好 や 条 件 に あ っ
た運動種目の選択によって目的が果たされることがわかった。
( 3 )運 動 が で き な い 状 況 に あ る 者 に 対 す る 環 境 整 備 等 の 措 置 が 必 要 と 思 わ れ
た。
研 究 者 : 須 藤 美 智 子 ( ソ ニ ー (株 ) 健 康 開 発 セ ン タ ー )
研 究 協 力 者 : 武 田 繁 夫 ( 三 菱 化 学 ( 株 )鹿 島 事 業 場 人 事 グ ル ー プ )
248
F.文献
1 ) Sorensen M,Anderssen S, et al. The effect of exercise and diet on
mental health and quality of life in middle-aged individuals with
elevated risk factors for cardiovascular disease sports Science
17(5):369 -377,1999.
2) 入 江 正 洋 、 宮 田 正 和 ら . 健 康 に 関 す る 認 識 お よ び ラ イ フ ス タ イ ル と メ ン
タ ル ヘ ル ス 、 産 業 衛 生 学 雑 誌 39(4) : 107 -115,1997.
3 ) Steptoe A, Butler N. Sports participation and emotional well-being
in adolescents. Lancet 347(9018):1789-1792,1996.
4 ) Ezoe S, Morimoto K. Behavioral lifestyle and mental health status
of Japanese factory workers. Preventive Medicine.23(1):98105,1994.
5) 青 木 邦 夫 , 健 康 指 導 教 室 参 加 高 齢 者 の 精 神 的 健 康 の 変 化 に 関 す る 要 因 .
体 育 学 研 究 45 : 1-14 , 2000 .
249
Ⅳ − 3 .W e b ペ ー ジ を 用 い た ス ト レ ス チ ェ ッ ク 票 の 作 成 と
その試用経験について
A.目的
イ ン タ ー ネ ッ ト の 拡 が り や 企 業 内 イ ン ト ラ ネ ッ ト の 整 備 に 伴 い 、こ れ ら を
職場のストレスマネージメントに利用しようとする動きがいくつかの企業
で 始 ま っ て い る 。 そ の 多 く は 、イ ン タ ー ネ ッ ト を 使 っ て メ ン タ ル ヘ ル ス に 関
す る 知 識 の 普 及 や 相 談 窓 口 の 広 報 を 行 う こ と を 主 な 目 的 と し て い る が 、イ ン
ターネットはそれ以外にも様々な利用方法を提供することができる優れた
イ ン タ ー フ ェ ー ス と し て の 機 能 を も っ て い る 。本 研 究 で は 、従 業 員 の ス ト レ
ス 状 態 へ の 気 づ き を 促 し セ ル フ ケ ア に 役 立 て る た め の ツ ー ル と し て 、 Web
ページ゙を用いたストレスチェック票を作成し、実際の試用によってその有
用性を検討した。
B.方法
1 . Web ペ ー ジ を 用 い た ス ト レ ス チ ェ ッ ク 票 の 作 成
ス ト レ ス チ ェ ッ ク 票 は 、 Web ペ ー ジ 上 に 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 評 価 票 1 ) 2 ) の
中 の 、仕 事 の ス ト レ ッ サ ー と ス ト レ ス 反 応 に つ い て の す べ て の 質 問 項 目 を 配
置 し 、そ れ ぞ れ の 質 問 項 目 に 対 す る 回 答 を マ ウ ス で チ ェ ッ ク す る こ と に よ っ
て、仕事のストレッサー、精神的ストレス反応、身体的ストレス反応の得点
を算出しその得点に応じたコメントを提示するという仕組みになっている。
各 質 問 項 目 に つ い て は 、 4 件 法 (0-3 点 )で 採 点 を 行 い 、 仕 事 の ス ト レ ッ サ
ー に つ い て は 、 17 項 目 で 計 51 点 満 点 、 精 神 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て は 15
項 目 で 計 45 点 満 点 、 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て は 11 項 目 計 33 点 満 点 で
採 点 を 行 っ た 。な お 、精 神 的 ス ト レ ス 反 応 の 下 位 尺 度 と し て 抽 出 さ れ て い る
疲 労 と 抑 う つ に つ い て も 、 疲 労 は 3 項 目 で 9 点 満 点 、 抑 う つ は 6 項 目 計 18
点 満 点 で 採 点 を 行 っ た 。 各 尺 度 の 合 計 点 数 に 対 し て 、 便 宜 上 そ れ ぞ れ「 要 注
意 」、「 や や 注 意 」、「 特 に 問 題 な し 」の 3 種 類 の 判 定 を 行 う こ と と し 、先 に 本
調 査 票 を 用 い て 行 っ た 研 究 3)4)に お け る 得 点 分 布 や 評 価 法 に 関 す る 検 討 の 結
果 を 参 考 に し な が ら 、判 定 の た め の カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト を 設 定 し た 。そ の 結
果 、 仕 事 の ス ト レ ッ サ ー で は 、45% の 人 を「 や や 注 意 」 と 判 定 す る こ と が 妥
当 と 考 え ら れ 、 そ の 場 合 21 点 以 上 が カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト と な っ た 。 ま た さ
ら に 上 位 25%の 人 を 「 要 注 意 」 と 判 定 す る こ と と し た が そ の 場 合 、 27 点 以
上 が そ の カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト と し て 設 定 さ れ た 。同 様 に 、精 神 的 ス ト レ ス 反
応 に つ い て は 、 15%の 人 を 「 や や 注 意 」、 5%の 人 を 「 要 注 意 」と 判 定 す る た
め 、 そ の カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト を 、 そ れ ぞ れ 19 点 以 上 、26 点 以 上 と 設 定 し た 。
ま た 疲 労 に つ い て も 、 40%の 人 を 「 や や 注 意 」、 20%の 人 を 「 要 注 意 」 と 判
定 す る た め 、 そ れ ぞ れ 3 点 以 上 と 6 点 以 上 を 、 抑 う つ に つ い て 15%の 人 を
250
「 や や 注 意 」、 5%の 人 を 「 要 注 意 」 と 判 定 す る た め そ れ ぞ れ 7 点 以 上 と 10
点 以 上 を カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト と す る こ と が 妥 当 と 判 断 し た 。身 体 的 ス ト レ ス
反 応 に 関 し て は 、 15%の 人 を 「 や や 注 意 」、 5%の 人 を 「 要 注 意 」 と 判 定 す る
と し て 、 そ の カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト は 10 点 以 上 と 15 点 以 上 に 設 定 さ れ た 。
な お 、今 回 の カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト の 設 定 に お い て は 、男 女 に よ る 区 別 は 行 わ
な か っ た 。 ま た 、 Web 上 で は 、「 特 に 問 題 な し 」「 や や 注 意 」「 要 注 意 」 と い
っ た 判 定 に 合 わ せ て 緑 色 ∼ 黄 色 ∼ 赤 色 の 帯 グ ラ フ を 作 成 し 、自 分 の 状 態 が ど
のあたりに位置するか一目でわかるようにグラフ上に自分の得点を反映し
たポインターが示されるようになっている。
各 判 定 に 対 す る コ メ ン ト の 内 容 は 、現 在 回 答 者 を 取 り 巻 く 仕 事 上 の ス ト レ
ッサーの程度や、精神的、身体的反応についての簡単な評価と、その結果に
対 応 し た 対 処 行 動 な ど の ア ド バ イ ス が 中 心 と な っ て い る 。 例 え ば 、「 や や 注
意 」の 場 合 に は 、職 場 や 同 僚 な ど 回 り の サ ポ ー ト を 求 め て み る よ う 促 し た り 、
「 要 注 意 」の 場 合 に は こ の 状 態 が 続 く こ と の 危 険 性 を 説 明 し な が ら 一 人 で 対
処しようとせずに健康管理スタッフへの相談を積極的に勧めるといった内
容となっている。
Web ペ ー ジ の 作 成 に 当 た っ て は 、 今 回 は JavaScript を 用 い て プ ロ グ ラ ム
の 作 成 を 行 っ た 。Perl 等 の 言 語 を 使 っ た CGI(Common Gateway Interface)
に よ っ て 処 理 を 行 っ た 方 が サ ー バ ー 上 に デ ー タ も 保 存 さ れ る た め 、後 で 回 答
結 果 の 集 計 や 解 析 等 の 作 業 を 行 う こ と が 可 能 と な る が 、CGI を 使 用 し た 場 合
に は 、各 企 業 の サ ー バ ー へ の ア ッ プ ロ ー ド や 管 理 面 に お い て 情 報 処 理 の 専 門
家 に よ る 煩 雑 な 作 業 が 必 要 と な る と い う 欠 点 が あ る 。 そ の 点 、 JavaScript
を 用 い た プ ロ グ ラ ム で は 、デ ー タ 処 理 は 主 に ク ラ イ ア ン ト 側 の PC で 行 わ れ 、
デ ー タ は Web サ ー バ ー 上 に 保 存 さ れ な い も の の 、 そ の 分 守 秘 性 は 高 く 、 サ
ー バ ー に 対 す る 負 担 も 格 段 に 少 な い 。ま た 、各 企 業 の イ ン ト ラ ネ ッ ト へ の ア
ップロードも 専門家でなくとも可能であり、カットオフポイントの再設定
や コ メ ン ト 内 容 の 変 更 等 も 簡 単 に 行 え る た め 、各 事 業 場 の 特 性 や 産 業 医 の 意
見を反映させるといったことも可能となる。
2 . Web ペ ー ジ の 試 用
Web ペ ー ジ の 試 用 公 開 の 対 象 は 、首 都 圏 に あ る 電 機 メ ー カ ー A 社 の 本 社 と
研 究 所 に 勤 務 す る 計 8200 名 と し た 。 対 象 者 は 全 員 社 内 イ ン ト ラ ネ ッ ト 上 の
Web ペ ー ジ の 閲 覧 が 可 能 な 環 境 に あ る 。 A 社 で は 平 成 11 年 12 月 14 日 に
Web ペ ー ジ を イ ン ト ラ ネ ッ ト の サ ー バ ー に ア ッ プ ロ ー ド し 、 同 日 よ り 従 業
員 に 対 し て の 公 開 が 開 始 さ れ た 。ア ク セ ス 件 数 は ホ ー ム ペ ー ジ に お け る ロ グ
カ ウ ン タ ー に よ っ て 集 計 し 、 ま た 本 Web ペ ー ジ に 対 し て の 感 想 を 別 途 健 康
管理室のホームページ上で募集した。
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図1 仕事のストレッサー質問ページ
図2 ストレス反応質問ページ
252
図3 コメント提示ページ
C.結果
Web ペ ー ジ 公 開 時 か ら 平 成 12 年 3 月 15 日 ま で の 間 に 合 計 1208 件 の ア ク
セ ス を 認 め た 。 こ の 期 間 中 、 本 Web ペ ー ジ を き っ か け と し て 産 業 医 の も と
を訪れたケースも 7 件確認された。
健 康 管 理 室 の ペ ー ジ に 寄 せ ら れ た 感 想 と し て 、「 Web 上 だ と 気 楽 に セ ル フ
チ ェ ッ ク が 出 来 る 」、「 仕 事 の ス ト レ ス や 自 分 自 身 の ス ト レ ス 状 態 に つ い て
客 観 的 な コ メ ン ト が 得 ら れ て 有 用 で あ る 」と い っ た 意 見 が 多 く 寄 せ ら れ た 。
ま た 、「 実 際 、 誰 に 相 談 に 行 け ば よ い の か な ど よ り 具 体 的 な 内 容 の コ メ ン ト
に し て 欲 し い 」、「 (下 位 尺 度 の )そ れ ぞ れ の 意 味 の 違 い が わ か り に く い 」 な ど
といった意見も寄せられた。
本 Web ペ ー ジ が 契 機 と な り 産 業 医 の も と を 訪 れ た 事 例 を 紹 介 す る 。
【Aさん、32歳、男性】
数 か 月 前 か ら 、 ど う も ス ト レ ス を 強 く 感 じ て い た が 、病 院 に 行 く ほ ど で は
な い と 思 っ て い た し 、実 際 多 忙 で 受 診 す る 時 間 が と れ な い 状 況 で あ っ た 。た
ま た ま Web ペ ー ジ で ス ト レ ス チ ェ ッ ク の で き る こ と を 知 り 、 早 速 試 し て み
た 。そ の 結 果 、自 分 で 思 っ て い る 以 上 に ス ト レ ス の 反 応 が 出 て い る こ と が 分
か っ た 。コ メ ン ト 文 を 読 ん で 、取 り 合 え ず 一 度 産 業 医 に 相 談 す る こ と に し た 。
以 上 の よ う な 経 緯 で 健 康 管 理 室 に 相 談 に 来 ら れ た 。実 際 に 話 を 伺 っ て み る
253
と 、業 務 上 の ス ト レ ス 要 因 が 多 く 、ス ト レ ス 反 応 が 心 身 に 多 少 あ ら わ れ て い
る こ と が 明 ら か に な っ た 。ス ト レ ス と ス ト レ ス に 関 連 し た 心 身 の 病 気 に つ い
て の 説 明 を 行 う と と も に 、面 接 で 明 ら か に な っ た 業 務 を 処 理 す る う え で の 時
間 管 理 の 問 題 、仕 事 を 断 れ な い と い う 自 己 主 張 が 不 十 分 で あ る と い う 問 題 な
ど に つ い て 話 し 合 っ た 。ま た 残 業 時 間 に 関 し て 当 面 減 ら す よ う に 努 力 す る こ
とと、必要に応じて上司を含めて相談することも提案した。
面接時点では、直ちに治療は必要がない状態であると判断して、定期的に
健 康 管 理 室 で フ ォ ロ ー し て 、職 場 状 況 お よ び 心 身 の 健 康 に 関 し て モ ニ タ ー す
ることとした。
このように、本例は、業務上のストレスにより心身の病気になる前に、
Web ペ ー ジ で ス ト レ ス チ ェ ッ ク を 行 う こ と に よ り 、 早 期 の 気 づ き か ら 産 業
保 健 ス タ ッ フ に よ る 早 期 の 介 入( 産 業 保 健 指 導 )が 可 能 と な っ た 事 例 で あ る 。
ス ト レ ス 対 策 の 枠 組 み に お け る Web ペ ー ジ で ス ト レ ス チ ェ ッ ク シ ス テ ム の
有用性を示唆する例であると考えられる。
D.考察
件数は実際にストレスチェックが行われた件数ではなくホームページへ
の ア ク セ ス 件 数 で あ る が 、短 い 試 用 期 間 な が ら 多 く の ア ク セ ス が 得 ら れ 勤 労
者の関心の高さがうかがわれた。
自 発 的 に 寄 せ ら れ た 感 想 に お い て も 、そ の 利 用 の し や す さ や 有 用 性 を 認 め
る も の が ほ と ん ど で あ っ た が 、本 人 に 返 す コ メ ン ト に つ い て は よ り わ か り や
す く 具 体 的 な も の に す る 必 要 が あ る と 思 わ れ た 。 今 回 は 、A 社 の 本 社 と 研 究
所 の 両 事 業 場 で 利 用 で き る よ う コ メ ン ト の 内 容 は 一 般 的 な も の と し た が 、コ
メ ン ト の 内 容 は 簡 単 に 変 更 出 来 る た め 、実 際 に 使 用 す る 際 に は 、当 該 事 業 場
の 産 業 医 や 心 理 相 談 担 当 者 の メ ー ル ア ド レ ス や 連 絡 方 法 を 記 し た り 、他 の 支
援窓口や外部相談機関の紹介を行うなどの工夫が必要だと思われる。
本 Web ペ ー ジ は 、 ア ッ プ ロ ー ド や コ メ ン ト の 変 更 等 の 簡 便 さ を 重 視 し 、
CGI で な く JavaScript を 用 い て プ ロ グ ラ ム を 作 成 し た た め 、デ ー タ が Web
サ ー バ ー 上 に 保 存 さ れ ず 今 回 の 研 究 に お い て も 、回 答 内 容 の 分 析 や ス ト レ ス
チ ェ ッ ク に よ る 気 づ き や 対 処 行 動 の 変 化 の 有 無 、使 用 感 に つ い て の 意 見 の 収
集 等 に つ い て の 情 報 は 十 分 に 得 ら れ て い な い 。 し か し な が ら 、 Web ペ ー ジ
上 で 気 軽 に ス ト レ ス チ ェ ッ ク が で き る 今 回 作 成 し た よ う な ツ ー ル は 、ス ト レ
ス へ の 気 づ き や 適 切 な 対 処 行 動 に 結 び つ け る た め の 有 効 な 手 段 と し て 、今 後
多くの企業で活用されると思われる。
研 究 者: 田 中 克 俊 ( (株 )東 芝 安 全 保 健 セ ン タ ー ) 、荒 井 稔 (順 天 堂 大 学 )、
廣 尚 典( NKK 鶴 見 保 健 セ ン タ ー )、島 悟( 東 京 経 済 大 学 )、
角田 透(杏林大学衛生学教室)
研 究 協 力 者 : 北 村 尚 人 ( 三 菱 重 工 健 康 管 理 セ ン タ ー )、 原 谷 隆 史 ( 産 業 医
254
学 総 合 研 究 所 )、
E.文献
1) 下 光 輝 一 、 横 山 和 仁 、 大 野 裕 ほ か : 職 場 に お け る ス ト レ ス 測 定 の た め の
簡便な調査票の作成.労働省平成 9 年度「作業関連疾患の予防に関する
研 究 」労 働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 ,
1998: 107-115.
2)原 谷 隆 史: 簡 易 ス ト レ ス 調 査 票 の 信 頼 性 と 妥 当 性 .労 働 省 平 成 9 年 度「 作
業関連疾患の予防に関する研究」労働の場におけるストレス及びその健
康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 , 1998: 116-124 .
3) 横 山 和 仁 : ス ト レ ス 測 定 の た め の 簡 易 問 診 票 の 検 討 − 心 理 的 ス ト レ ス 反
応の評価項目について−.労働省平成 9 年度「作業関連疾患の予防に関
する研究」労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報
告 書 , 1998: 124-128.
4) 大 野 裕 : ス ト レ ス 測 定 の た め の 簡 易 問 診 票 の 検 討 − 身 体 愁 訴 の 評 価 質 問
について−.労働省平成 9 年度「作業関連疾患の予防に関する研究」労
働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 ,1998:
128-140.
255
Ⅳ−4.ストレス対策における管理者教育
A.はじめに
職 場 の ス ト レ ス 対 策 の ひ と つ と し て 、 ラ イ ン に よ る ケ ア が あ る 。そ の な か
で 、 管 理 者( 管 理 職 ) の 果 た す 役 割 は 、 ス ト レ ス 要 因 の 調 整 、 ス ト レ ス 関 連
疾 患 の 早 期 発 見 、 必 要 に 応 じ た 業 務 配 慮 や そ の 他 の サ ポ ー ト な ど 、多 く の 点
で極めて重要である。したがって、ラインによるケアの推進のために、管理
者 の 教 育 は 不 可 欠 で あ る と い っ て よ い 。こ の 教 育 の 実 務 に あ た る の は 衛 生 管
理 者 あ る い は 看 護 職 の 場 合 が 多 い と 考 え ら れ る た め 、昨 年 彼 ら が 管 理 者 に 対
し て 行 う 教 育 の た め の マ ニ ュ ア ル を 作 成 し た 。本 年 度 は 、そ の マ ニ ュ ア ル に
関 し て 、数 多 く の 実 務 者 か ら 意 見 を 聴 取 し 、よ り 効 果 的 か つ 実 践 的 な 内 容 に
すべく改訂を行った。
B.方法
実 際 に 職 場 で の 健 康 管 理 に 携 わ っ て い る 産 業 保 健 ス タ ッ フ に 「 平 成 10 年
度 労 働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に 関 す る 研 究 報 告 書 」の 該 当
部分を配布し、実践での使用可能性、および改良すべき点について、書面に
よる回答を求めた。
C.結果
マ ニ ュ ア ル の 使 用 可 能 性 に つ い て 肯 定 的 評 価 を 受 け た 点 は 、( 1 ) そ の ま
ま 使 用 が 可 能 で あ る こ と 、( 2 ) 平 易 な 表 現 で あ る こ と 、( 3 ) よ く ま と ま
っ て い る こ と で あ る 。 一 方 、 問 題 点 と し て は 、( 1 ) ポ イ ン ト が 絞 り 切 れ て
いないこと、(2)疾病に偏っていることが指摘された。
全 体 と し て は 、 ほ と ん ど が「 そ の ま ま で 使 用 可 能 」 お よ び「 一 部 改 良 の 上
で使用可能」と、肯定的であったので、以下の事項に関しては、変更の必要
がないものと判断した。
( 1 ) 教 育 の 時 間 は 60 分 ( 1 回 の み ) 程 度 を 想 定 す る 。
(2)メンタルヘルス活動の必要性の啓発を主眼とする。
( 3 )受 講 者 に 精 神 医 学 お よ び 心 療 内 科 学 の 予 備 知 識 を 特 に 必 要 と し な い も
のにする。
(4)それのみで完結し、他に教材を準備しなくてよいような構成とする。
( 5 )内 容 は 疾 病 管 理 よ り も ス ト レ ス 対 策 、心 身 の 健 康 の 保 持 増 進 と い っ た
側面に力点をおく。
(6)医学、心理学などの専門用語は極力ひかえ、使用する場合には十分な
解説を添える。
上 述 の 指 摘 を 踏 ま え て 、 マ ニ ュ ア ル の 構 成( 目 次 立 て ) を 一 部 改 変 し て 、
以下のように改めた。
256
( 1 ) 労 働 安 全 衛 生 法 の 要 点 と メン タ ル ヘ ル ス 対 策 の 重 要 性 (5 分)
( 2 ) 安 全 配 慮 義 務 と プ ラ イ バ シ ー へ の 配 慮(5 分)
( 3 ) ス ト レ ス と 健 康 の 関 係 概 説 ( 10 分 )
( 4 ) ス ト レ ス 対 策 に お け る 管 理 者 の 役 割 ( 15 分 )
( 5 ) 事 例 提 示 ( 15 分 )
( 6 ) 業 務 上 疾 病 認 定 の 新 し い 考 え 方 ( 10 分 )
な お 60 分 と い う 時 間 設 定 に つ い て は 、 検 討 委 員 会 で の 論 議 の 結 果 、中 小 企
業 に お い て 実 施 す る こ と を 踏 ま え た 場 合 、 こ の 程 度 が 妥 当 で 、現 実 的 で あ ろ
う と い う 結 論 に 至 っ た 。 ま た 内 訳 は 、 あ く ま で「 例 示 」 で あ る が 、 委 員 会 で
の議論を経たものである。
さらに管理者の役割としては、次の点を強調することとした。
(1)職場のコミュニケーションを良好にする。
(2)部下をよく観察し、必要に応じて個別面談などの場をつくる。
( 3 )ス ト レ ス の 受 け 止 め 方 や そ れ に よ る 健 康 障 害 へ の 陥 り や す さ に は 個 人
差があることを理解し、それに基づいた対応を図る。
( 4 )特 に 高 ス ト レ ス 下 に あ る 者 に 対 し て は 、業 務 上 の 配 慮 を は じ め と す る
支援を怠らない。
( 5 )必 要 に 応 じ て 、産 業 医 を は じ め と す る 産 業 保 健 ス タ ッ フ と 連 携 を と る
(6)プライバシーに対する配慮を十分に行う。
改 訂 し た マ ニ ュ ア ル の 実 物 を 次 に 付 し た 。 マ ニ ュ ア ル は 、上 半 分 の 枠 内 を
OHP 用 紙 に コ ピ ー し て 示 し な が ら 、 教 育 担 当 者 が 下 半 分 の 文 章 を 読 み 上 げ る
形 で 教 育 を 行 な え る よ う に 構 成 さ れ て い る 。説 明 が 円 滑 に 進 む こ と を 意 図 し
たため、一部上述した構成とは順序等が異なっている。また、事例について
は 、字 数 が 多 く な り OHP に よ る 提 示 は 不 適 当 で あ る と 考 え ら れ た た め 省 略 し
てあるが、昨年作成したマニュアルに掲載したものが活用可能である。
なお、この検討とあわせて、事業者向けに、管理者教育に関する啓発用パ
ンフレット(見開き2ページ)を作成した。
研 究 者 : 廣 尚 典 ( NKK )
研 究 協 力 者 : 森 晃 爾 、 鈴 木 英 孝 ( エ ッ ソ 石 油 ・ ゼ ネ ラ ル 石 油 )、 小 林 祐
一 ( HOYA )、 深 澤 健 二 ( ソ ニ ー )、 田 中 克 俊 ( 東 芝 )、 木 村 真
紀(富士電機)
257
職 場 に お け るこころの 健 康 づ くり対 策 の 意 義
• 健康の保持増進対策の一環
– 労 働 安 全 衛 生 法 に 基 づ く活 動
• 労 働 の 質 の 向 上 と職 場 の 活 性 化
– 従 業 員 の 充 実 感 ,生 産 性 の 向 上 に 寄 与
• 企 業 活 動 の リス ク マ ネ ジ メント
– 従 業 員 の 休 業 ,作 業 能 力 低 下 お よ び 事 故 の 抑 止
本 日 は、皆さん管理者の方々に、こころの健康づくりに取り組んでいただく、その 全 体
像をお話するのですが、活動の意義としては主に3つの事柄があげられます。第一は、
こころの健康づくり対策は、労働省が推進している健康の保持増進対策の重要な柱
として位置づけられるものであるということです。最近職 場 で は、以前のようにいわゆる
職業病を防ぐだけでなく、従 業 員 全 般 の 健 康 を 保 持 増 進 さ せ る 取り組みを求められ
ており、労働安全衛生法の改正内容をみても、それが反映されています。第二に、こ
ころの健康づくり対策は、従業員の仕事に対する充実感、満足感を高め、職場を活
性化させることにつながるという点があります。これはひいては、生産性を向上させるこ
とにも寄与すると考えられます。欧米の報告には、これを裏付けるデータが数多くみら
れます。そして第三に、企業活動のリスク管理の観点でも、こころの健康づくりは重 要
性を増してきていることも見逃すことができません。こころの病 気 に よ る 休 業 は 長 期 化
することが 多く、休みには至らない例でも、作 業 能 力 へ の 影 響 が 少 なくないのが普通
です。したがって、こころの病気は、多大な労働力の低下を招くといえます。そうすると
今 度 は、その同僚など周囲に仕事量の増加をはじめとするしわ寄せが及び、職場の
士気も低下しかねません。さらに危険を伴うような作業では、注意力や集中力の低下
などによって、大きな事故を引き起こす恐れさえあるといって過言ではありません。こう
したリスクを極力回避するためにも、実効ある心の健康づくり対策が必要なのです。
258
業 務 上 疾 病 の 発 生 防 止 と安 全 配 慮 義 務
• 心 理 的 負 荷 に よる精 神 障 害 等 に 係 る 業 務 上 外
の 判 断 指 針 (1 9 9 9 ,9 )
– こころの 病 気 が 労 災 として認 め られ る 範 囲 を 規 定
• 安全配慮義務
– 労 働 契 約 上 の 信 義 則 に もとづ くもの
– 使 用 者 としての 労 働 者 の 生 命 ,身 体 お よ び 健 康 を 危
険 か ら保 護 す る よ うに 配 慮 す べ き義 務
– 危 険 予 知 義 務 ,結 果 回 避 義 務
活動の実際を紹介する前に、重要な二つの事柄に触れておきたいと思います。ひと
つは、心の病気の労災認定をめぐる問 題 で す。平成11年(昨年)9月に「 心 理 的 負
荷 に よ る 精 神 障 害 等 に 係 る 業 務 上 外 の 判 断 指 針」が、労働省から公表されました。
職場のいろいろな安全衛生対策は、何も労働災害の防止だけを目的とするものでは
ありませんが、活動の方向性を確認する意味では、十分に理解しておくとよいと言え
るでしょう。この 指 針 の 中 身 は、最後の方で改めて解説します。もうひとつは、安 全 配
慮 義 務という概念です。これは民 事 訴 訟 に お ける最高裁の判例で示されたもので、
言葉としては労働安全衛生法などの法律には登場しません。どういうものかというと、
労 働 契 約 上 の 信 義 則 に 基 づ い て、使用者として労働者の生命および健康を保護す
るように配慮すべきであるという義務です。具体的には、労働時間、休日、休憩場所
などについて適正な労働条件を確保したり、労働者の年齢や健康状態に応じて、従
事 す る 作 業 時 間 や 作 業 内 容 を 軽 減 し たり、就労場所を変更するなどの適切な措置
をとることをさしています。労働者が生命や健康を脅かされる恐れが高くないかどうか
を知っておく義務を危険予知義務とも呼びます。また、もしそうであれば、何らかの必
要な対策を高じて、その発生を防ぐことが必要となりますが、これを結果回避義務とも
呼びます。したがって、安全配慮 義 務 は、危険予知義務と結果回避義務の2つから
なるということもできるでしょう。安 全 配 慮 義 務 は、労働契約についてくるものであり、労
働 協 約 や 労 使 協 定 に 入 っ て い なくても自動的に事業者と労働者の間に成立するも
のであるということになります。こころの健康づくりにおいても、当然このことは踏まえて
おかねばなりません。
259
こころの 健 康 づ くり4つ の 対 策
• セ ル フケア
– 従 業 員 み ず か らが 行 う活 動
• ラインに よ る ケ ア
– 管 理 監 督 者 な ど が 行 う活 動
• 事 業 所 内 産 業 保 健 ス タッフな ど に よ る ケ ア
– 産 業 医 や 安 全 衛 生 担 当 な ど が 行 う活 動
• 事 業 所 外 の 専 門 家 ,機 関 を活 用 した ケ ア
– 労 働 省 関 連 機 関 や 地 域 の 専 門 機 関 な ど を利 用 した 活 動
さて、それでは具体的にどういった活動を行うのかと言うと、大きく 4 つに分けることが
できます。それらを順にみていきたいと思います。まず第一にセルフケア。これは個々
の 従 業 員 が ストレスやこころの健康について理解し、みずからのこころの健康づくりを
すすめていく活動をいいます。各々が自分自身のストレスに気づくことから始まり、それ
を上手に軽減できる方法を身につけたり、自発的に誰か適当な人に相談することが
できるようになることが大切です。
(セルフケアを支援するために、多くの従業 員 の 方 が
参加できるような研修の機会を設ける予定にしています。
)
260
こころの 健 康 づ くり4つ の 対 策
• セ ル フケア
– 従 業 員 み ず か らが 行 う活 動
• ラインに よ る ケ ア
– 管 理 監 督 者 な ど が 行 う活 動
• 事 業 所 内 産 業 保 健 ス タッフな ど に よ る ケ ア
– 産 業 医 や 安 全 衛 生 担 当 な ど が 行 う活 動
• 事 業 所 外 の 専 門 家 ,機 関 を活 用 した ケ ア
– 労 働 省 関 連 機 関 や 地 域 の 専 門 機 関 な ど を利 用 した 活 動
2 番目はラインによるケアです。これは、皆さん管理者に中心的な役割を果たしてい
ただく対策です。主として、職場環境の改善、部下に対する相談そしてこころの健康
問題をもつ部下への支援がこれにあたります。管 理 者 は、まさしくこれらのキーパーソ
ンです。この部分が今回知っていただく最重要ポイントとなります。詳しくは、のちほど
まとめてお話しします。
261
こころの 健 康 づ くり4つ の 対 策
• セ ル フケア
– 従 業 員 み ず か らが 行 う活 動
• ラインに よ る ケ ア
– 管 理 監 督 者 な ど が 行 う活 動
• 事 業 所 内 産 業 保 健 ス タッフな ど に よ る ケ ア
– 産 業 医 や 安 全 衛 生 担 当 な ど が 行 う活 動
• 事 業 所 外 の 専 門 家 ,機 関 を活 用 した ケ ア
– 労 働 省 関 連 機 関 や 地 域 の 専 門 機 関 な ど を利 用 した 活 動
3 番 目 は、産 業 医 や 看 護 職、
(私共)衛生担当など、いわゆる社内の産業保健スタッフ
が 行う活動です。皆さん管理者の方と協力して、職場環境を評価し必要な改善をす
すめていったり、健康診断の機会や個別に相談を受けることを通して、従業員のセル
フケアを支援することなどがこれにあたります。また、こうした研修の場を企画し、実施し
ていくのも、我々の役割です。皆さんが部下のこころの健康問題で困ったことがあった
場 合 にも、ぜひご相談いただきたいと思います。必要に応じて、社外の専門機関など
への紹介もできます。
262
こころの 健 康 づ くり4つ の 対 策
• セ ル フケア
– 従 業 員 み ず か らが 行 う活 動
• ラインに よ る ケ ア
– 管 理 監 督 者 な ど が 行 う活 動
• 事 業 所 内 産 業 保 健 ス タッフな ど に よ る ケ ア
– 産 業 医 や 安 全 衛 生 担 当 な ど が 行 う活 動
• 事 業 所 外 の 専 門 家 ,機 関 を活 用 した ケ ア
– 労 働 省 関 連 機 関 や 地 域 の 専 門 機 関 な ど を利 用 した 活 動
最 後 4 番 目 は、社 外 の 専 門 家 や 専 門 機 関 を 利 用 し た 活 動 で す。率直なところ、ここ
ろの健康づくり対策は、一部外部の専門機関を活用した方がうまくいくこともありま
す。最近は、利用できる関連専門機関も充実してきています。私共産業保健スタッ
フにご相談いただければ、適当なところを紹介できますので、ご活用ください。
263
ス トレスと健 康 の モ デ ル
個人要因
仕 事 上 の ス トレ ス 要 因
ス トレ ス 反 応
疾病
仕 事 外 の ス トレ ス 要 因
緩衝要因
こころの健康づくり対策における、皆さん管理者の役割をよく理解してもらうために、ス
トレスと病気の関係について、簡単にまとめておきたいと思います。こころの病気には
ストレスというものが強く関連している、このことは皆さんなんとなくご存知でしょう。ストレ
スとは 一 般 的 に「ゆがみ」とか「ひずみ」などと考えることができます。それの原因となる
ものをストレス要 因と称します。例えば、深刻な悩み事を抱えていると、気分が沈みが
ちになる、体が重い感じがするといったことが起こる場合がありますね。この気 分 や 体
調 の 変 化 は ストレスが表面化したものということができます。ストレス反応と言うこともあ
ります。それを引き起こした深刻な悩みがストレス要 因というわけです。もうひとつ例を
あげましょう。仕事などでパソコンを使った作業を長時間していると、目が疲れたりしょ
ぼしょぼしたりしますね。この目の症状がストレス反応、パソコン作業を長時間行うこと
がストレス要因というわけです。ストレス反応は言ってみれば、注意信号です。その段
階 で 病 気とは言えません。我々のこころや体はよくできていて、多少のストレスに対して
は、持ちこたえられるようになっています。しかし、ストレス要因が非常に大きかったりい
くつも重なったりすると、それに伴って、ストレスも大きくなり、ついには我 々 の 健 康 状 態
は破綻をきたして、何らかの病気が生じることになります。その代表例としては、ある種
のうつ病や心身症があげられます。心 身 症 は、ストレスが体の病気として現れたものと
言えるでしょう。図では、 これからの説明のために、ストレス要因を仕事上と仕事外の
2 つに分けてありますが、この総和がストレスを引き起こすのであることは、言うまでもあ
りません。
264
ス トレ ス と健 康 の モ デ ル
個人要因
仕 事 上 の ス トレ ス 要 因
ス トレ ス 反 応
疾病
仕 事 外 の ス トレ ス 要 因
緩衝要因
この流れに影響を与える要因が大きく分けて2つあります。ひとつは個 人 要 因という言
葉でひと括りにできるもの、もうひとつは 緩 衝 要 因と称されるものです。仮に全く同じス
トレス要因がかかったとしても、ひとによってストレス反応の大きさや病気になりやすさ
の 度 合 い は 異 なります。
「打たれ強さ」とか「脆弱性」の違いなどという言葉で表現して
もよいかもしれません。その 個 人 差 は 何 処 から来るかというと、性、年齢、遺伝的な素
因、生育歴、性格傾向など多くの要因があげられます。これらをまとめて個人要因とし
ているのです。個人要因には、本人の努力や注意で、変えることができるものと、そう
でないものがあります。一方、緩 衝 要 因とはストレス要因が引き起こすストレス反応を
緩 和 す る 外 部 の 要 因 をさします。この代 表 例 は、上司、同僚、友人そして家族などに
よる支援です。支援の形は、自分にとって貴重なものや情報を提供してくれる、いわば
物 理 的 なものであったり、近くにいると気分が安らぐ、話をじっくり聴いてくれるといった
情 緒 的 なものであったり、さまざまです。緩衝要因を十分に持っている人とそうでない
人とでは、やはりストレス反応の大きさや病気の起きやすさに差が出ます。このことは、
数 多くの大規模な研究で明らかになっています。
265
ラインに よ る ケ ア の め ざ す ところ
個人要因
仕 事 上 の ス トレ ス 要 因
ス トレ ス 反 応
疾病
仕 事 外 の ス トレ ス 要 因
緩衝要因
それでは、このモデルでラインによるケア、すなわち皆さん管理者が中心となってすす
める対策がどのような意義をもつのかを確認したいと思います。図をごらんください。さ
きほど述べたように、ラインによるケアは、主として仕事上のストレス要因を軽減、調整
すること、そして緩衝要因を強化することが中心となります。この2つのそれぞれについ
て、少し詳しくみてみます。
266
ラインに よ る ケ ア の 内 容
• 仕 事 上 の ス トレ ス 要
因の軽減
・物 理 化 学 的 環 境
・人 間 工 学 的 側 面
– 職場環境の評価
・人 間 関 係
・仕 事 の 質 的 ,量 的 負 荷
– 問題点の把握
・仕 事 の 自 由 度 ,裁 量 権
・組 織 形 態
– 職場環境の改善
・作 業 ス ケ ジ ュ ー ル な ど
まず、仕事上のストレス要因の軽減です。ストレス要因を軽減、調整するためには、そ
の 実 態 す な わ ち 職 場 環 境 を 的 確 に 評 価 す る ことから始めなければなりません。ここで
いう職場環境は、広い意味をさしています。騒音だとか照明の程度、あるいは温度、
湿度といった物理化学的環境はもちろんですが、作業スペースや作業姿勢、仕事の
質 的・量的内容、自由度、それから人間関係などを含みます。ちなみに、5 年 毎 に 労
働 省 が 行 っ て い る 労 働 者 健 康 状 況 調 査 の 結 果 で は、職場でもっとも多くの人が感じ
ているストレス要因 は、人間関係です。また、事業所、部署の組織形態も、ストレス要
因のひとつと考えられます。次に、これらをひとつひとつ評価して、職場のストレス要因
が主としてどういった点にあるのか、改善すべき、そして改善可能な問題は何かを整
理することになります。そして、リストアップされた 問 題 点 に 優 先 順 位 を つ け て 取り組ん
でいただきたいと思います。言うまでもなく、こうした職場環境は絶えず変化しています
から、これを一 通りやって完結ということにはなりません。継続的に、問題意識をもって
行っていく必要があります。
267
ラインに よ る ケ ア の 内 容
• 相 談 と助 言
・声 か け を 惜 し ま な い
– 気づく
・聞 き 役 に 徹 す る
– 話を聴く
・共 感 的 態 度 で 接 す る
– 情 報 提 供 ,助 言 を
行う
・批 判 は ひ か え る
– 専 門 ス タッフに 依
頼する
・助 言 を あ せ ら な い
・結 論 を 急 が な い
・プライバ シ ー に 配 慮 す る
次 に、緩衝要因の強化です。これは具体 的 に は、皆さん管理 者 が 日 頃 から部下との
コミュニケーションをよくし、よい相談相手となることを意味しています。まず、部下のち
ょっとした 変 化 に 気 づくことが大 切 で す。それから、多忙の中で簡単なことではないと
思いますが、できるだけ時間をとって直接話を聴く機会を設けてください。じっくり話を
聴くと言うのはなかなか難しいものですが、それが上手になると、ただ聴いてあげるだけ
で、相手の気持ちを楽にしたり、ストレスを和らげたりすることができます。傾聴という言
葉があります。自分の意見や感情を前面に出さず、相手に対して共感する態度で、
できるだけ聴き役に徹することに心がけることが第 1 歩です。話の途中でやたらに批
判したり、じれったくなって言いたいことの結論を急がせたりするのは、いただけません。
話を進めていく中で、助言や情報提供を行える場面も多いかと思いますが、必ずしも
それは必要ありません。じっくり相手の思いを聴いてあげることが大切です。また、相手
の抱えている問題がかなり深刻であったり、心身の病気が心配されるような場合には、
( )や( )に相談することも考慮してください。
(括弧内には、事業所の実情に応じ
て、産業医、看護職、衛生管理者などが入る)気になる部 下 へ の 対 応 で どうしたらよ
いかなどについても、助言を得ることができるはずです。
268
仕 事 に よるストレスを評 価 す る モ デ ル
3つ の 軸 で 評 価
高 ス トレス
• 仕事の要求度
• 仕事の自由度
• 周 囲 か らの 支 援
支援少
仕事の自由度小
仕事の要求度大
職 場 環 境 の 評 価という点で、ヒントのなるかと思われるモデルをひとつご紹介します。
どういったときに特にストレスが大きくなるかを表した有名なモデルです。仕事に関する
問 題 を 3 つの側面から評価します。ひとつは仕事の要求度。仕事の量や質など要求
されているところの大きさです。ふたつめは仕事の自 由 度。そのくらい自分で仕事のペ
ースが調節できるか、あるいは裁量権が与えられているかといったことです。そして、三
つめがこのサポートです。仕事の要求度が大きく、仕事の自由度が小さく、さらに周囲
からの支援が少ない場合に、仕事によるストレスは強くなってしまいます。そして、その
状 態 が 続くと、心身の健康が脅かされるといえるのです。一般的には、管理者は、部
下の仕事に関して、この 3 つをある程度調整できる立場にあるはずです。少し言い方
を変えてみます、例えば部下で、仕事の質的あるいは量的な負荷が大きく、自由度や
裁量権もあまり与えることのできない方がいたとしましょう。そうした方には、いろいろな
意味でのサポート面で十分な配慮をしていくことによって、少しでもストレスを緩和させ
ることが期待できるわけです。
269
メンタル ヘ ル ス 対 策 に お け る
管理者の役割
•
職 場 の コニ ュ ニ ケ ー シ ョン を 良 好 に す る .
•
部 下 を よく観
•
ス トレスの 受 け 止 め 方 や 健 康 障 害 へ の 陥 りや す さの 個
•
高 ス トレ ス 状 態 に あ る 者 に ,業
•
必 要 に 応 じ て ,専
•
十 分 に プライバ シ ー に 対 す る 配 慮 を 行 う.
察 し,必 要 に 応 じて 個 人 面 談 な ど の 場 を つ くる .
人 差 を 理 解 す る.
務 上 配 慮 な ど の支援を怠らない.
門 ス タッフと連 携 をとる.
これまでお話してきたことから、メンタルヘルス対策における皆さん管理者の主な役割
をまとめてみたいと思います。まず、職場のコミュニケーションをよくし、風通しのよい 働
きやすい職場づくりに心がけることです。平素から、職場 環 境 をストレス要因という観
点からもよく評価し、部下に対して気配り、声かけを惜しまないことが大切です。ひとり
ひとりをよく観察して、表情や態度、仕事ぶりが気になる場合には、堅苦しくない形で
の個人面談などの場を持つことも望まれます。話の聴き方については、先ほどのとおり
です。また、
「ストレスと健康モデル」を思い出してください。ストレスの 受 け 止 め 方 や 健
康 障 害 へ の 陥りやすさには個人差があります。このことを理解した上で、仕事の与え
方 や 支 援 の 仕 方 に つ い て、個別の配慮をお願いしたいと思います。これは、何も一部
の部下を特別扱いしろということではありません。それが高じると、職場に不満が高ま
ったり、士気が低下したりする恐れがあります。これとは別に、前の図でお示しした「仕
事によるストレスを評価するモデル」などを参考にして、高いストレス状態にあると考え
られる部下に対しては、早めに適切な対応を図ってください。必要に応じて( )や
( )と連携することも忘れないください。そして、これも非常に重要なことです。プライ
バシーに関する配慮を十二分に行ってください。このように話をしてきますと、メンタル
ヘルス対策に取り組むのは、大変負担が増すことだと感じる方もいるかもしれません。
しかし、こうした活動の効果が上がれば、普段の仕事の効率が上がり、職 場 の 雰 囲 気
もよくなって、管理者として仕事がしやすくなることも十分に期待できます。
(この後、時間があれば、事例提示を行う )
270
こころの 病 気 の 労 災 判 断 指 針
対 象 疾 病 に 該 当 す るこころの 病 気 を 発 病
発 病 前 6 ヶ月 間 に 業 務 に よ る 強 い 心 理 的 負 荷 が 存 在
出 来 事 とそ の 後 の 変 化 (仕 事 の 質 的 ・量 的 負 荷 ,仕
事 の 自 由 度 ・裁 量 権 ,長 時 間 残 業 ,周 囲 の 支 援 な ど )
業 務 以 外 の 心 理 的 負 荷 ,個 人 要 因 の 影 響 が 弱 い
最 後 に なりましたが、始めの方で触れたこころの病気の労災認定について、少し解説
しておきます。従来は、労災と言うと、一部の職業病を除いて、もっぱら工 場 や 工 事 現
場での事故、 怪我が対象であったかと思います。ところが、最近ではいわゆる過労死
の問題が出てきて、さらに過 労 自 殺という言葉も耳にするようになっています。こうした
中 で、平 成 11 年 9 月 に 労 働 省 からこころの病気を労災として認めるための判断指針
が公表されました。これを満たせば、こころの病気が労災と認定されるわけです。指針
では、労災認定には 3 つの項目に当てはまることが必要であるとされています。その第
一 は、発病したこころの病気が、対象疾病に該当するということです。つまり、こころの
病 気 のすべての種類が認められるわけではないのです。しかし、その 対 象 疾 病 の 範 囲
をみると、非常に幅が広く、成人で発病する主なこころの病気は大方含まれていると
言って過言ではありません。第二は、発病前 6 ヶ月間の間に、強い仕事に関するスト
レス要因があったことです。労災が認められる大前提は、仕事と関連があることですか
ら、これは当然だと言えますね。6 ヶ月という期間は、過去の研究成果をもとに決めら
れたようです。どういったことが強い負荷に相当するかというと、指針には別表がつけら
れていて、それを参考にします。別表では、仕事の関連で起きる様々な出来事が列挙
されており、それぞれの負荷の程度が 3 段階評価されています。例えば、
「重大な労働
災 害 の 発 生 に 直 接 関 与 し た」という出来事は、一番重いⅢにランクされています。これ
を目安にして、出来事を取り巻く諸事情を勘案した上で、負荷の程度を判定するの
ですが、重要なことがあります。
271
こころの 病 気 の 労 災 判 断 指 針
対 象 疾 病 に 該 当 す るこころの 病 気 を 発 病
発 病 前 6 ヶ月 間 に 業 務 に よ る 強 い 心 理 的 負 荷 が 存 在
出 来 事 とそ の 後 の 変 化 (仕 事 の 質 的 ・量 的 負 荷 ,仕
事 の 自 由 度 ・裁 量 権 ,長 時 間 残 業 ,周 囲 の 支 援 な ど )
業 務 以 外 の 心 理 的 負 荷 ,個 人 要 因 の 影 響 が 弱 い
それは、出来事が起きた後、本人のおかれた立場、仕事などがどのように変化したか
が評価の対象となることです。仕事の量、特に長時間労働、仕事の質、責任、裁量権、
物 的・ 人 的 環 境 の 変 化、会社が講じた支援の具体的内容などが問われることになり
ます。たとえ出来事そのものの負荷の強度が中くらいのⅡであったとしても、その後の
本人にかかる負荷が大きければ、仕事による強い心理的負荷すなわちストレスが存
在したと判断されるわけです。このようにして、2つめの項目に当てはまるかどうかが判
断されます。第一項目をみたし、第二 項 目 にも当てはまると考えられた場合には、第
三項目が検討されます。第三項目は、仕事以外に明らかな心理的負荷がないことと
個 人 要 因 に 顕 著 な 問 題 が な いことです。仕 事 以 外 の 心 理 的 負 荷 に つ い て は、これも
三段階評価の別表が用意されています。個人要因では、過去にこころの病気があっ
たかどうか、過去からの社会適応状況はどうだったか、アルコールなどの依存はなかっ
たか、社会生活に影響するような性格の偏りはなかったかなどが問題となります。この
第 三 項 目 め も み たした場合に、その事例は業務上疾病すなわち労災認定の対象と
判断されることになります。なお、仕 事 以 外 の 心 理 的 負 荷と個人要因のどちらか、ある
いは双方が明らかに存在する場合には、総合的な評価によって決定されることになっ
ています。これが、判 断 指 針 の 概 要 で す。
(詳細につき興味のある方は、資料を差し上
げますので、申し出てください。
272
Ⅳ−5.保健指導におけるストレス対策
1.保健指導と労働者をめぐる社会的背景
A.労働者をめぐる社会的背景と課題
昭 和 47 年 労 働 安 全 衛 生 法 が 労 働 基 準 法 か ら 独 立 し た が 、 当 時 の 産 業 保 健
は労災や職業病の予防とそのための作業環境の改善に主眼がおかれていた。
しかしコンピューターシステムの開発を始めとする科学技術の進展により、
1980 年 頃 か ら 、 労 働 態 様 は 分 業 化 ・ 高 密 度 化 し 、 そ れ と 共 に 急 速 な 経 済 成
長 も も た ら さ れ た 。同 時 に 人 々 の ワ ー ク ス タ イ ル・ ラ イ フ ス タ イ ル も 大 き く
変化するなど、急速な社会変化がもたらされた。
わ が 国 の 人 口 全 体 は 高 齢 化 し 、労 働 者 の 高 齢 化 に 伴 う 生 活 習 慣 病 等 へ の 対
策 が 課 題 と な る 一 方 で 、労 働 環 境 の 大 き な 変 化 に よ る 労 働 者 の メ ン タ ル ヘ ル
ス不全の増加に対する社会的解決が迫られている。
こ の よ う な 状 況 に お け る 、労 働 者 の ス ト レ ス 対 策 に お け る 保 健 指 導 に 関 連
する施策の動向を以下に示す。
B.労働安全衛生法改正に伴う法的位置づけ
労 働 者 の 高 齢 化 に 伴 う 生 活 習 慣 病 の 増 加 に 対 し 、昭 和 6 3 年 に は 改 正 労 働
安 全 衛 生 法 が 制 定 さ れ 、健 康 診 断 の 充 実 強 化 と 、心 と か ら だ の 健 康 づ く り( T
H P ) が 示 さ れ た 。 し か し 、 一 般 健 康 診 断 の 結 果 で は 、 そ の 後 も 39.5 %( 平
成 10 年 度 ) の 労 働 者 に 何 ら か の 所 見 が 認 め ら れ る 等 、 平 成 元 年 以 来 、 有 所
見者の上昇が続いている。また、仕事や職場生活で不安、悩み、ストレスを
感 じ る 労 働 者 の 割 合 が 増 加 し 、 さ ら に「 過 労 死 」 が 大 き な 社 会 的 問 題 に な っ
ている。
こ の よ う な 状 況 に よ り 、 平 成 8 年 に は 労 働 安 全 衛 生 法 が 再 び 改 正 さ れ 、①
労 働 安 全 衛 生 管 理 体 制 の 充 実 、② 職 場 に お け る 労 働 者 の 健 康 管 理 の 充 実 が 図
ら れ る こ と に な っ た 。 そ こ で は 、「 事 業 者 は 一 般 健 康 診 断 の 結 果 に 基 づ い て
必 要 な 労 働 者 に 対 し て 医 師 ま た は 保 健 婦・士 等 に よ る 保 健 指 導 を 行 う よ う 務
め な け れ ば な ら な い 」「 労 働 者 は 通 知 さ れ た 一 般 健 康 診 断 の 結 果 お よ び 保 健
指 導 を 利 用 し て そ の 健 康 の 保 持 に 努 め る も の と す る こ と 」等 、事 業 者 と 労 働
者 の 努 力 義 務 が 示 さ れ た 。更 に 、健 康 管 理 の 充 実 の た め に 保 健 指 導 が 挙 げ ら
れ 、「 健 康 診 断 の 結 果 、 特 に 健 康 の 保 持 に 努 め る 必 要 が あ る と 認 め る 労 働 者
に 対 し 、 医 師 、 保 健 婦・ 士 又 は 保 健 士 に よ る 保 健 指 導 を 行 う よ う に 努 め な け
れ ば な ら な い 。」( 労 働 基 準 局 長 通 達 基 発 第 5 6 6 号 第 66 条 の 5 参 照 )
と示されており、初めて保健婦・士による保健指導が条文に表現された。
273
≪ 参考 ≫
労 働 基 準 局 長 通 達 基 発 第 566 号 平 成 8 年 9 月 13 日
保 健 指 導 等 ( 第 66 条 の 5 関 係 )
(1) 保健指導の方法としては、面接による個別指導、文章による
指導等の方法があること。
(2) 保健指導の内容としては、日常生活面での指導、健康管理に
関する情報の提供、再検査または精密検査の受診の勧奨、医療
機関で治療をうけることの勧奨等があること
(3) 第一項の「特に健康の保持に努める必要があると認める労働
者 」 に は 、健 康 診 断 の 結 果 、異 常 な 所 見 を 有 す る と 判 定 さ れ た 労
働者等であって、医師等が必要と認めるものであること。
(4) その他、保健指導に当たっては、指針を十分に考慮して行う
べきこと。
C.THP
昭 和 63 年 労 働 安 全 衛 生 法 の 改 正 に よ り 、 働 く 人 の 健 康 作 り に 事 業 者 の 努
力 義 務 が 具 体 的 に 規 定 さ れ た 。 第 7 0 条 の 2 を 受 け て「 事 業 場 に お け る 労 働
者 の 健 康 保 持 増 進 の た め の 指 針 」、 通 称 「 心 と か ら だ の 健 康 づ く り
( T H P )」 が 示 さ れ た 。
生 活 習 慣 病 や 心 身 の 機 能 の 低 下 は 、生 活 に 運 動 や 食 生 活 を 中 心 に 適 切 な 生
活 習 慣 を 維 持 し 、 ま た ス ト レ ス を 自 己 コ ン ト ロ ー ル す る こ と に よ り 、か な り
予 防 で き る こ と が 明 ら か に さ れ て い る 。T H P で は 、そ の た め の 積 極 的 働 き
か け と し て 、 健 康 測 定 ・ 運 動 指 導 ・ 運 動 実 践 ・ 心 理 相 談 ・ 産 業 栄 養 指 導 ・産
業 保 健 指 導 の 分 野 の 保 健 専 門 職 を 位 置 付 け 、ラ イ フ ス タ イ ル の 偏 り に よ り 将
来起きる可能性のある健康障害に対し予防的に働きかけることに意義がお
かれている。
中 央 労 働 災 害 防 止 協 会 で は T H P 運 動 を 、 研 修 の 実 施 や 、働 く 人 の 健 康 増
進、企業の活性化を補助金を伴う国の援助のもとに推進している。
D.快適職場づくり
平 成 4 年 5 月 に 労 働 安 全 衛 生 法 が 改 正 さ れ 、快 適 職 場 づ く り が 事 業 者 の 努
力 義 務 と さ れ た 。 第 71 条 の 3 の 規 定 に よ り 「 事 業 者 が 講 ず べ き 快 適 な 職 場
環 境 の 形 成 の た め の 措 置 に 関 す る 指 針 」( 快 適 職 場 指 針 ) が 労 働 大 臣 か ら 公
表されている。
快 適 職 場 指 針 の 目 指 す も の は「 仕 事 に よ る 疲 労 や ス ト レ ス を 感 じ る こ と の
少ない、働き易い職場づくり」である。そこでは快適な職場環境の形成につ
い て の 目 標 に 関 す る 事 項 の 一 つ に「 労 働 者 の 心 身 の 疲 労 の 回 復 を 図 る た め の
施 設 ・ 設 備 の 設 置 ・ 整 備 」 の 項 目 が あ げ ら れ「 労 働 に よ り 生 ず る 心 身 の 疲 労
を で き る だ け 速 や か に 回 復 さ せ る た め 、休 憩 室 等 の 施 設 の 設 置・ 整 備 を 図 る
274
こと」が努力目標とされている。
快適な職場環境の形成を図るために事業者が構ずべき措置の内容に関す
る 事 項 と し て は 、「 作 業 に 従 事 す る こ と に よ る 労 働 者 の 疲 労 の 回 復 を 図 る た
め の 施 設 ・ 設 備 の 設 置 ・ 整 備 」 が あ げ ら れ 、「 疲 労 や ス ト レ ス を 効 果 的 に 癒
すことができるように、臥床できる設備を備えた休憩室等を確保すること」
「 職 場 に お け る 疲 労 や ス ト レ ス に 関 し 、相 談 に 応 ず る こ と が で き る よ う 相 談
室等を確保すること」等が事業者の努力目標とされている。
ま た 快 適 な 職 場 環 境の形成の た めの措置の実施に関し、考慮すべき事項と
し て 「 継 続 的 か つ 計 画 的 な 取 組 み 」「 安 全 衛 生 委 員 会 活 用 等 労 働 者 の 意 見 の
反 映 」「 年 齢 等 個 人 差 を 配 慮 し た 必 要 な 措 置 」「 職 場 に 生 活 の 場 と し て の 潤
いを持たせ、緊張をほぐすよう配慮すること」があげられている。
E . 健 康 づ く り 1 0 ヵ 年 計 画 (「 健 康 日 本 2 1 」 厚 生 省 )
厚 生 省( 保 健 医 療 局 ) は 、 少 子 ・ 高 齢 化 の 進 行 、 生 活 習 慣 病 の 増 加 、 要 介
護 高 齢 者 の 増 加 、 医 療 費 の 増 大 等 を 背 景 と し て 、全 て の 国 民 が 健 康 で 生 活 で
きる社会を実現するために、*壮年死亡の減少、*寝たきり、痴呆の期間の
短 縮( 健 康 寿 命 の 延 伸 ) 等 の 基 本 的 理 念 に 基 づ く「 健 康 日 本 2 1 」 を 策 定 し 、
平 成 1 2 年 か ら 計 画 を 実 施 す る 。( 公 衆 衛 生 審 議 会 で の 審 議 を 経 て 、 平 成 1
2 年 1 月 に 公 表 。) こ れ で は 、 病 気 の 早 期 発 見 や 治 療 に 留 ま ら ず 、 健 康 を 増
進 し 発 病 を 予 防 す る「 一 次 予 防 」 の 重 視 と 高 度 な 生 活 の 質 の 確 保 ・ 維 持 が 必
要であるとしている。
計画は数値目標を含むかなり具体的なものである。栄養・食生活、運動・
身 体 活 動 、 休 養・ こ こ ろ の 健 康 、 ア ル コ ー ル 、 歯 科 の 観 点 か ら の 生 活 習 慣 の
改 善 に よ る 病 気 の 危 険 因 子 の 低 減 、 お よ び 循 環 器 ・ が ん ・ 糖 尿 病・ 歯 科 の 側
面 か ら の 検 診 の 充 実 に よ り 疾 病( 循 環 器 ) 等 の 減 少 、 が ん 死 亡 や 糖 尿 病 の 発
症の減少、自殺者の減少、歯の健康を目指すものとする。
F.精神障害等の労災認定に係る専門検討会(労働省)
労 働 省 は 平 成 11 年 9 月 14 日 に 、 働 く 人 の 精 神 障 害 や 過 労 自 殺 に つ い て
の 労 災 認 定 基 準 に 関 し「 心 理 的 負 荷 に よ る 精 神 障 害 等 に 係 る 業 務 上 外 の 判 断
指 針 」 を 示 し た 。 報 告 書 で は ICD10 診 断 基 準 に 基 づ き 疾 患 を 分 類 し 、 労 働
者 の 業 務 に よ る 出 来 事 に つ い て 、当 該 精 神 障 害 の 発 病 に 関 与 し た と 認 め ら れ
る業務による心理的負荷の強度の評価を判定する客観的な判断基準を示し
て い る 。そ こ に は 業 務 以 外 の 心 理 的 負 荷 お よ び 個 体 側 要 因( 心 理 面 の 反 応 性 、
脆弱性)の評価も含まれている。
G . 労 働 安 全 衛 生 マ ネ ー ジ メ ン ト シ ス テ ム (O H S M S)
健康診断における有所見者の増加、高年齢労働者の増加等に伴って、労働
者 の 健 康 の 増 進 及 び 快 適 な 職 場 環 境 の 形 成 の 促 進 を 求 め 、 労 働 省 は 平 成 11
275
年 4 月 30 日「 労 働 安 全 衛 生 マ ネ ー ジ メ ン ト シ ス テ ム に 関 す る 指 針 」
(労働省
告 示 第 53 号 ) を 公 表 し た 。 こ の 指 針 は 、 労 働 安 全 衛 生 法 に 基 づ く 労 働 安 全
衛 生 規 則 第 24 条 の 2 に 根 拠 を 置 く 指 針 で あ り 、 労 働 安 全 衛 生 法 の 体 系 の 中
で位置付けられている。
労 災 の 減 少 率 が 落 ち て い る 傾 向 の 中 で 、労 働 安 全 衛 生 管 理 を「 計 画 ― 実 施
― 評 価 ― 改 善 」の 一 連 の 過 程 の 中 で 組 み 立 て 、生 産 管 理 等 と 一 体 で 推 進 し て
いくことを骨子としている。
≪参考≫
労働安全衛生規則(第 8 節の2)自主的活動の促進のための指針
( 第 24 条 の 2 ) 労 働 大 臣 は 、 事 業 上 に お け る 安 全 衛 生 の 水 準 の 向 上 を 図 る
ことを目的として事業者が一連の過程を定めて行う自主的活動を促進する
ための指針を公表することができる。
( 遠 藤 俊 子 ( NTT 東 日 本 首 都 圏 健 康 管 理 セ ン タ ))
2.保健指導の基本とストレス対策への適用
A.保健指導の概要と特徴
1)保健指導の定義と範囲
保 健 指 導 は 、 一 般 的 に は 次 の よ う に 定 義 さ れ る こ と が 多 い 。「 個 人 ま た は
各集団の健康を保持・増進し、疾病を予防管理するために、保健医療従事者
が 、そ の 専 門 性 を 生 か し 助 言 と 援 助 を 与 え る こ と 。健 康 診 断 や 健 康 相 談 に よ
る 問 題 の 発 見 、 個 別 指 導( ケ ー ス ワ ー ク ) や 集 団 指 導( グ ル ー プ ワ ー ク ) に
よ る 問 題 の 改 善 、 家 庭 訪 問・ 看 護 、 衛 生 教 育 、 生 活 指 導 な ど 対 象 者 の 属 す る
集団の社会環境、生活環境の改善ならびに組織の育成などが活動内容とな
る 。」( 衛 生 ・ 公 衆 衛 生 学 用 語 辞 典 )
すなわち、個人∼集団、相談∼教育など、多岐にわたる健康支援活動全体
を 包 含 し た も の と し て 、保 健 指 導 と い う 用 語 が 用 い ら れ る こ と が 一 般 的 で あ
る。
しかし、健康診断時あるいは事後に、健診結果に基づく受診指導ならびに
生 活 指 導 を 行 う こ と を 、特 に 保 健 指 導 と 呼 ぶ 狭 義 の 用 い ら れ 方 も あ り 、ど ち
らの意味で使われているのかを区別して理解しておくことが必要である。
労 働 安 全 衛 生 法 第 66 条 の 5 第 1 項 で は 、 健 康 診 断 の 結 果 必 要 が 認 め ら れ
た 労 働 者 に 対 し 、 医 師 ま た は 保 健 婦・ 士 に よ る 保 健 指 導 を 行 う こ と が 定 め ら
れ て い る 。こ の 場 合 の 保 健 指 導 は 、 前 述 の 2 種 類 の 定 義 の う ち の 後 者 、す な
わち健診結果に基づく受診ならびに生活指導という狭義の意味で用いられ
ていると考えられる。
2)保健指導の担い手
276
保健指導を行う職種として、保健婦・士、助産婦、医師、歯科医師などが
あり、その法的根拠としては、以下のようになっている。
・ 保 健 婦 ・ 士 : 保 健 指 導 に 従 事( 保 助 看 法 第 2 条 、1948 、1993 一 部 改 正 )
・ 助 産 婦 : 助 産 又 は 妊 婦 、 じ ょ く 婦 も し く は 新 生 児 の 保 健 指 導( 保 助 看 法
第 3 条 、 1948)
・ 医 師 : 医 療 お よ び 保 健 指 導 ( 医 師 法 第 1 条 、 1948)
・ 歯 科 医 師 : 歯 科 医 療 お よ び 保 健 指 導 ( 歯 科 医 師 法 、 1948)
こ れ ら の う ち 、 保 健 婦 ・ 士 は 、 そ の 業 務 を 専 ら「 保 健 指 導 に 従 事 」 と 定 義
さ れ て い る の が 特 徴 的 で あ り 、保 健 指 導 を 本 務 と す る 職 種 で あ る と 考 え ら れ
る。
産業保健においては、上記の保健婦・士、産業医のほか、看護婦・士が常
勤 職 と し て 事 業 場 に 雇 用 さ れ て い る ケ ー ス が 多 く 1 )、主 に こ の 3 つ の 職 種 が
職 域 で の 保 健 指 導 の 担 い 手 と し て 活 動 し て い る 。こ の 他 、衛 生 管 理 者 も 労 働
者 の 安 全 ま た は 衛 生 の た め の 教 育 ( 労 働 安 全 衛 生 法 第 10 条 第 1 項 ) な ど 、
特 に 労 働 衛 生 教 育 の 面 で 保 健 指 導 の 一 翼 を 担 っ て い る 。 ま た 、歯 科 医 師 が 常
勤 ま た は 非 常 勤 で 雇 用 さ れ 、歯 科 に 関 す る 保 健 指 導 に あ た る 例 も 、徐 々 に 増
えている。
3)保健指導の内容と特徴
こ れ ま で 述 べ て き た よ う に 、保 健 指 導 の 定 義 を 広 義 に と る か 狭 義 に と る か 、
ま た そ の 担 い 手 が ど の 職 種 で あ る か に よ り 、保 健 指 導 の 内 容 と 特 徴 は 異 な っ
て く る と 思 わ れ る 。 こ こ で は 、 保 健 指 導 を 本 務 と す る 保 健 婦・士の行う保健
指導(広義)について、内容と特徴を整理する。
保 健 指 導 に は 、少 し ず つ ニ ュ ア ン ス の 異 な る 次 の よ う な 内 容 が 含 ま れ る と
言 わ れ て い る 2 )。
案 内 ( guidance )
紹 介 ( orientation)
保健−指導
指 示 ( instruction)
( Health) 相 談 ( counseling)
助 言 ・ 指 導 ( consultation)
教 育 ・ 研 修 ( education)
訓 練 ( training)
すなわち、広義の保健指導の中には、健康の保持増進や疾病予防のための
情 報 提 供 や 健 康 教 育 か ら 、健 康 に 関 す る 悩 み や 問 題 意 識 を 持 っ た ク ラ イ ア ン
ト が 自 分 か ら 相 談 を 持 ち か け る 健 康 相 談 、健 診 時 の 問 診 や 健 診 結 果 の 説 明 や
アドバイスのための面談など、多岐にわたる活動が含まれている。
こ れ ら の 一 連 の 活 動 を 通 し て 、 保 健 婦・ 士 や 看 護 婦・ 士 の 行 う 保 健 指 導 に は 、
看 護 の 理 念 で あ る「 相 手 を 全 人 的 に と ら え 気 持 ち や 生 き が い を 尊 重 し 、対 象
と の 人 間 関 係 を 通 じ て 生 活 適 応 へ の 支 援 を す る 」と い う 特 質 か ら 、次 の よ う
277
な特徴があると考えられる。
(1)対象者の生活の視点で、問題把握と支援を行う
対 象 者 の 健 康 状 態 や 疾 病 の 有 無 だ け に 着 目 す る の で は な く 、生 活 そ の も
の の 質 を ど の よ う に 高 め る か に 着 目 し て 、 支 援 を 行 う 。勤 労 者 で あ れ ば 、
職 場 で の 生 活 を 中 心 に 、 家 庭 で の 生 活 を 含 め て 、 食 事・ 運 動・ 睡 眠・ ス ト
レ ス 状 況・生きがいなど、生活の様々な側面にわたって、対象者自身が振
り返り改善していけるよう、支援する。
(2)あらゆる健康レベルを対象とする
疾 病 を 持 つ 人 や そ の 予 備 軍 だ け で な く 、全 て の 人 々 を 対 象 と し た 支 援 を
行う。
全 て の 人 々 へ の 支 援 を 充 実 さ せ る こ と は 、問 題 が 起 こ る 以 前 か ら の 一 次
予 防 活 動 の 推 進 に 通 じ 、生 活 の 質 や 働 き 甲 斐 の 向 上 と あ い ま っ て 、職 場 全
体の活性化に通じる。
(3)全人的な支援を行う
1人の人を、食事面、運動面、ストレス状況面などに分割して指導する
のではなく、それらを統合したトータルな存在として、支援する。例えば,
ス ト レ ス か ら の 生 活 リ ズ ム の 乱 れ・ 飲 酒 量 の 増 加 ・ 夜 遅 く の 食 事 ・ 運 動 不
足 な ど の 生 活 背 景 を 持 つ 人 に は 、し ば し ば 血 中 脂 質 の 増 加 や 肝 機 能 の 低 下
が 観 察 さ れ る が 、 そ れ ぞ れ の 問 題 点 を 個 別 に 指 摘・指導するだけでは、本
人 の 反 発・ 混 乱 を 招 く 結 果 に 終 わ る 杞 憂 が あ る 。 人 の 生 理 的・ 心 理 的 反 応
や 生 活 行 動 は 一 連 の も の で あ り 、そ れ ぞ れ の 分 野 だ け 切 り 出 し て ア プ ロ ー
チするより、統合的なアプローチが望ましい。
そ の 際 、 身 体 面 ・ 心 理 面・ 生 活 面 に わ た り 全 人 的 支 援 を 行 う 看 護 的 な ア
プローチは、極めて有用と考えられる。
( 4 ) 対 象 の self efficacy を 高 め 、 self care 力 を 育 て る 支 援 を 行 う
生 活 習 慣 の 改 善 や 生 き が い ・ 働 き が い の 問 題 は 、あ く ま で 本 人 が 主 体 的
に取り組むことが基本である。従って、保健指導の最終目標も、本人が自
立 的 ・ 主 体 的 に self care を 行 え る よ う に す る こ と で あ り 、 対 象 者 本 人 の
意 欲 や self care 能 力 を 高 め る よ う 、 継 続 的 に ア プ ロ ー チ し て い く こ と が
大切である。
(5)潜在的ニーズを引き出し、気づきを促す
現 在 は 表 面 に 現 れ て お ら ず 、対 象 者 自 身 が 気 づ い て い な い ニ ー ド に つ い
て も 、き め 細 か く 対 象 者 の 生 活 状 況 を 把 握 す る と と も に 、把 握 し た 内 容 を
対 象 者 に 投 げ か け 、対 象 者 自 身 の 気 づ き を 促 す こ と が 、生 活 指 導 場 面 で は
有用である。指示・指導的なアプローチではなく、対象者との対等な信頼
関 係 に 基 づ く カ ウ ン セ リ ン グ 的 な ア プ ロ ー チ に よ り 、本 人 の 深 い 納 得 を 伴
った気づきとなり得る。
4)保健指導の形態、機能、プロセス
保 健 指 導 に は 、 教 育 的 対 応 と 相 談 的 対 応 が あ り 、相 互 補 完 的 に 用 い ら れ る
278
3)
。また、同様に、目的や場合に応じて、個別指導と集団指導のどちらかの
形で実施される。
(1)形態
保 健 指 導 の う ち 、個 別 指 導 の 形 態 と し て は 、面 談 で 行 う の が 最 も 一 般 的
で あ る 。電 話 相 談 も よ く 用 い ら れ 、ま た 最 近 で は 電 子 メ ー ル の や り と り で
保 健 指 導 を 行 え る よ う な 環 境 も 増 え て き て い る 。し か し 、電 話 や 電 子 メ ー
ル 等 で は 、相 手 の 表 情 が 観 察 で き ず 、的 確 な ア セ ス メ ン ト や 信 頼 関 係 の 構
築 に や や 難 が あ る の で 、初 回 の 保 健 指 導 に は や は り 面 談 が 適 し て い る と 言
え る 。そ の 後 の フ ォ ロ ー や 連 絡 等 に は 、気 軽 に 利 用 で き る 電 話 や 電 子 メ ー
ルも補助的に用いることで、より密度の高い保健指導が可能となろう。
集団指導の形態としては、講義や参加型学習、グループワークなどがあ
る。単に話を聞くだけでは、知識の伝達に留まってしまい、主体的な気づ
き や 生 活 改 善 へ の 動 機 付 け に 繋 が ら な い 可 能 性 が 強 い 。参 加 型 学 習 や グ ル
ー プ ワ ー ク な ど を 適 宜 取 り 入 れ て 、対 象 者 の 主 体 性 を 尊 重 し つ つ 自 己 決 定
を引き出していく手法が、今後ますます必要になると思われる。
(2)機能
保健指導の機能としては大別すると以下の 4 点が挙げられる。
①アセスメント機能 :対象者が自らの健康や生活をとりまく様々な要
素 に つ い て 振 り 返 り 、問 題 が も し 存 在 す る の な ら そ の 本 質 を 明 ら か に す る
ことを支援する。
②カウンセリング機能:対象者の不安・思いを内面から受け止めて、心
情 を 理 解 し 相 手 が 自 ら 状 況 に 気 付 き 、受 容 し 、解 決 を 図 る 姿 勢 を 獲 得 す る
ことを支援する。
③問題解決支援機能:
< 知 識・ 情 報 の 提 供 > 対 象 者 の ニ ー ズ に 応 じ て 、 適 切 な 健 康 知 識 や 情 報 、
あるいはそれらの入手方法を提示する。
<コーディネーション>問題解決のために職場内または職場外の保健
医 療 専 門 職 に 紹 介 し た り 、本 人 の 同 意 を 得 た 上 で 上 司 や 人 事 部 門 と の 調 整
( 職 務 内 容 や 就 業 時 間・職場の人間関係の調整、配置転換等)を行う。家
族 の 協 力 を 得 る こ と や 地 域 の 保 健・ 医 療・ 福 祉 資 源 の 活 用 を 含 め て 、 広 い
視点でのコーディネーションが必要である。
④ セ ル フ ケ ア 力 な ら び に サ ポ ー ト ネ ッ ト ワ ー ク の 育 成 支 援 機 能( エ ン パ
ワ ー メ ン ト ):
対 象 者 が 自 ら 主 体 的 に 状 況 に 対 処 し て い く 力 を 獲 得 す る た め に 、支 持 的
に 関 わ り な が ら 、セ ル フ ケ ア 能 力 の 向 上 や サ ポ ー ト ネ ッ ト ワ ー ク の 組 織 化
を支援する。
これらのうち、対象者のニーズや状況に応じて、適切な機能が提供され
ることが望ましい。実際には、どれか1つの機能だけではなく、これらを
適 切 に 組 み 合 わ せ て 実 施 す る こ と が 多 い 。 さ ら に 、も う 1 つ の 機 能 と し て 、
279
保 健 指 導 の 機 会 は 、個 々 の 対 象 者 へ の 深 い 関 わ り を 通 じ て 、対 象 集 団 の 生
活状況やヘルスニーズを把握する大切なコミュニティアセスメントの機
会ともなることを、挙げておく。
(3)プロセス
他 の 保 健 活 動 と 同 様 に 、保 健 指 導 も 次 の よ う な プ ロ セ ス で 展 開 さ れ る 。
① ア セ ス メ ン ト: 対 象 の 生 活 状 況 お よ び 健 康 支 援 ニ ー ズ を 担 当 者 側 が 把
握するとともに、対象者が自らそれに気づけるような働きかけを行う。
② 計 画: ニ ー ズ に 応 じ て ど の よ う な 機 能 を 提 供 す る か 対 象 者 と と も に 検
討・判断し、その提供方法について計画する。また、担い手として別の職
種が適していると判断された時は、紹介・引継ぎを行って、より専門性を
生かした支援が行えるよう配慮する。
③実施:計画に沿って、個人指導または集団指導を行う。いずれも、専
門 職 か ら の 一 方 的 な 知 識 の 押 し 付 け に な ら な い よ う 、対 象 者 の 準 備 状 態 や
感 情 面 に も 配 慮 し て 、対 象 者 自 身 が 主 体 的 に 健 康 改 善 に 取 り 組 め る よ う 、
アプローチすることが大切である。
④ 評 価: 保 健 指 導 を し た ら 必 ず 評 価 す る こ と が 大 切 で あ る 。 評 価 の 種 類
としては、プロセス評価、結果評価、経済的評価などがある。
⑤記録・報告・事後措置:一連の保健指導のプロセスについて、必ず記
録する。どのようなニーズに基づいて、どのような支援を行い、どのよう
な 結 果 に な っ た の か 、と い う 1 回 毎 の 保 健 指 導 の プ ロ セ ス を き ち ん と 記 録
す る こ と で 、継 続 的 な 評 価 が 可 能 と な る 。ま た 複 数 の 専 門 職 が 関 わ る 場 合
や、担当者が交代する場合にも、記録は ケアの一貫性を保つ上で、大変
貴重な資料となる。スタッフ間の報告や、他の機関への紹介・連携などの
事後措置も、必要に応じて行う。
B.産業保健における保健指導の主な内容とストレス対策への適用
ここでは、産業保健における主な保健指導場面である、健診時の問診と事
後指導、健康教育、健康相談の3つについて、その主な内容とストレス対策
に ど の よ う に 適 用 で き る か を 整 理 す る 。次 章 以 降 で は 、労 働 安 全 衛 生 法 に よ
り定められた健康診断における保健指導場面でのストレス対策事例を紹介
す る こ と に な る が 、前 述 し た よ う に 、保 健 指 導 に つ い て は 一 連 の 流 れ を 持 つ
活 動 と し て 理 解 し て お く 必 要 が あ る た め 、こ こ で は 健 康 教 育 な ら び に 健 康 相
談におけるストレス対策についても、簡単に触れておくことにする。
1)健診の事後指導
労 働 安 全 衛 生 法 に あ る よ う に 、健 康 診 断 は す べ て の 労 働 者 が 年 1 回 以 上 受
け る 必 要 が あ り 、 精 神 面 も 含 め た 健 康 状 態 を 確 認・ 見 直 し を す る よ い 機 会 と
なる。
労 働 安 全 衛 生 法 第 66 条 の 5 第 1 項 で は 、 健 康 診 断 の 結 果 必 要 で あ る と み
と め ら れ た 場 合 に 保 健 指 導( 事 後 指 導 )を 行 う こ と が 定 め ら れ て い る 。 適 切
280
な 事 後 指 導 が あ っ て こ そ 、健 康 診 断 を 実 施 す る 意 義 が あ る と い っ て も 過 言 で
は な い 。健 診 後 の 保 健 指 導 の 担 い 手 と し て は 、医 療 的 指 導 が 必 要 な 対 象 者 に
関 し て は 医 師 が あ た り 、 そ の 他 の 生 活 指 導 に 関 し て は 、 保 健 婦・士または看
護 婦・士があたる場合が多い。形態としては、面談による指導、文書による
指 導 な ど の 方 法 が あ る 。全 員 に 面 談 す る こ と は マ ン パ ワ ー の 面 か ら 難 し い 場
合 が 多 く 、通 常 は 健 診 デ ー タ や 生 活 習 慣 に 問 題 点 が あ る 対 象 者 の み に 面 談 に
よる保健指導する場合が多い。その場合も、緊急度にもよるが、画一的で一
方 的 な 指 導 に 終 始 し な い よ う 、 相 手 の 生 活 様 式 や 価 値 観 を 尊 重 し 、対 象 者 が
自 分 自 身 で 問 題 意 識 が 持 て る よ う な ア プ ロ ー チ 法 が 、長 い 目 で み て 有 効 で あ
る。但し、対象者の性格や状況によって、適切な対応法が異なる場合もある
の で 、的 確 な ア セ ス メ ン ト ∼ 評 価 の プ ロ セ ス を 繰 り 返 し て 適 宜 軌 道 修 正 し て
いく柔軟な姿勢が望まれる。
これらの健診後 の 事 後 指 導の 有 効 性 や 関 連 要 因 に つ い て の 実 践 的 な 検 討
が 、こ の 数 年 始 め ら れ て い る 。健 康 診 断 デ ー タ や ラ イ フ ス タ イ ル の 改 善 の た
め に は 、文 書 の み の 指 導 よ り 有 所 見 者 と の 面 談 を 組 み 合 わ せ た 保 健 指 導 を 行
っ た 方 が 効 果 が 高 い 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る 4 ) − 7 )。健 診 時 の 問 診 お よ び 健
診 後 の 事 後 指 導 の 所 要 時 間 に つ い て も 、各 々 の 現 場 で 検 討 が 行 わ れ て お り 8 )
9)
、 職 場 の 状 況 に も よ る が 、 概 ね 健 診 時 に 5− 1 5 分 、 健 診 後 に 1 5 − 3 0 分
く ら い の 面 談 が 実 施 で き る こ と が 望 ま し い と 考 え ら れ る 。ま た 、対 象 者 の 健
康 意 識 1 0 ) 1 1 ) や 主 観 的 健 康 観 1 2 )、 お よ び 職 業 性 ス ト レ ス 1 3 ) な ど と 保 健 指 導
のあり方との関連に着目した検討も、試みられている。
今 後 の 更 な る 実 践 的 な 知 見 の 積 み 重 ね に よ り 、保 健 指 導 の 効 果 や そ の 望 ま
しい内容・方法等に関する技術的な根拠が確立していくことが期待される。
さ て 、健 診 後 の 保 健 指 導 に ス ト レ ス 対 策 と し て の 役 割 を ど の よ う に 適 用 し
て い く か に つ い て は 、 大 き く 2 つ の ア プ ロ ー チ が 考 え ら れ る 。1つは、身体
面の問題に対する精神的ストレスの影響に配慮した保健指導を行っていく
こ と で あ る 。身 体 的 な 所 見 で あ っ て も 、そ の 要 因 を た ど る と 仕 事 上 の ス ト レ
ス か ら 飲 酒 量 が 増 え て い た り 、 食 事 が 不 規 則 に な っ た り 、睡 眠 不 足 に な っ た
り な ど 、精 神 的 ス ト レ ス の 影 響 を 受 け て い る 場 合 も 多 々 見 ら れ る 。し た が っ
て 、保 健 指 導 に あ た っ て は 、受 診 や 精 密 検 査 な ど の 必 要 な 医 療 上 の 事 後 措 置
を 受 け る 支 援 は も と よ り 、生 活 面 で の 振 り 返 り と 気 づ き の 支 援 を 行 っ て い く 。
問 診 の 場 合 と 同 様 、気 づ き が 得 ら れ る こ と に よ っ て 自 助 力 の 発 揮 が 期 待 さ れ
るので、一方的な指導ではなく、対象者に十分に語らせ、対策を共に考えて
いくことが大切である。
もう1つは、メンタルヘルス上の問題、例えばやる気の減退とか、抑うつ
傾 向 な ど が 認 め ら れ た 場 合 の 対 処 で あ る 。 こ の 場 合 も 、対 象 者 と と も に 考 え
て い く 基 本 的 な ス タ ン ス は 同 じ で あ る 。問 題 の 程 度 に 応 じ て 、以 下 の よ う な
主に3通りの対処が考えられる。
① 鑑 別 診 断 や 治 療 が 必 要 と 判 断 さ れ た 場 合 に は 、専 門 医 療 機 関 を 受 診 す る
281
よ う 勧 奨 す る 必 要 が あ る 。す で に 通 院 を し て い る 労 働 者 に は 、服 薬 が 主 治 医
の 指 示 通 り 行 わ れ て い る か ど う か を 確 認 す る な ど 、適 切 な 受 療 を 支 援 す る よ
うな働きかけを行う。
② 高 ス ト レ ス 状 態 に あ っ た り 、大 き な 悩 み を か か え て い る よ う な 例 で は 、
健 康 状 態 が 悪 化 し な い よ う に 、 適 切 な 支 援 が 必 要 で あ る 。高 ス ト レ ス 状 態 に
あ っ て も 自 分 自 身 が そ れ に 気 づ か な い と 、適 切 な 対 応 が と ら れ ず 健 康 の 保 持
増 進 は 望 め な い 。 ま ず は 、 対 象 者 の 気 づ き を 促 す 支 援 を 行 っ て い く 。ま た 、
高 ス ト レ ス 状 態 の 原 因 の 大 半 が 仕 事 上 の 諸 問 題 に あ る 場 合 に は 、本 人 と よ く
話 し 合 っ た 上 で 、 職 制 や 人 事 担 当 な ど の 関 係 部 署 に も 働 き か け て 、何 ら か の
業務上の配慮を検討することが必要な場合もある。
③ 特 に 精 神 面 の 健 康 に 問 題 が 認 め ら れ な か っ た 労 働 者 に 対 し て も 、生 活 習
慣 の 偏 り な ど が み ら れ る 場 合 に は そ の 適 正 化 を す す め た り 、よ り ポ ジ テ ィ ブ
な 生 き が い や 働 き が い の 形 成 に つ な が る 支 援 を 行 う こ と に よ っ て 、各 々 の 健
康 レ ベ ル が 高 ま り 、明 る く 健 康 な 職 場 形 成 の 実 現 に 寄 与 で き る こ と が 期 待 さ
れる
2)健康教育
健 康 的 な 生 活 習 慣 の 確 立 に 関 す る 一 般 的 な 健 康 教 育( 年 齢 層 毎 に 行 わ れ る
場 合 も 多 い )や 、糖 尿 病 教 室 な ど 同 じ 疾 患 傾 向 を 持 つ 人 た ち へ の 健 康 教 育 な
ど、職場では様々な健康教育が展開されている。その主たる担い手は、産業
医 や 保 健 婦・ 士 、 看 護 婦・士 で あ る 。 一 方 、 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 の た め の
労 働 衛 生 教 育 に 関 し て は 、衛 生 管 理 者 や ラ イ ン の 管 理 者 を 中 心 に 行 わ れ て い
る。また、THPの一環としての健康教育に関しては、運動指導担当者や、
栄養指導担当者、心理相談担当者なども加わることがある。
ス ト レ ス や メ ン タ ル ヘ ル ス に 関 す る 健 康 教 育 に つ い て も 、近 年 盛 ん に 実 施
されている。その担い手としては、産業医や保健婦・士、看護婦・士、およ
び カ ウ ン セ ラ ー や 臨 床 心 理 士・精 神 科 医 な ど の 精 神 心 理 面 の 専 門 家 な ど が あ
た る こ と が 多 い 。 内 容 と し て は 、ス ト レ ス へ の 自 己 対 処 を 促 す た め の 基 礎 的
な 知 識 と 技 術( 精 神 健 康 へ の 理 解 、ス ト レ ス の 気 付 き 、自 己 対 処 の 方 法 な ど )
と 、職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス 向 上 の た め の 知 識 と 技 術( メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 例
の早期発見と対処、管理職の役割、傾聴訓練など)について行われることが
多 い 。対 象 が 管 理 職 か 一 般 職 か に よ り 、ど の 内 容 に 重 き を 置 く か が 変 わ っ て
く る 。管 理 職 に 対 す る メ ン タ ル ヘ ル ス 教 育 に つ い て は 、本 書 の 別 項 を 参 照 し
てほしい。
3)健康相談
健 康 相 談 は 、対 象 者 が 相 談 へ の 動 機 付 け を 持 っ て い る 点 が 特 徴 的 で あ り 、
何 よ り も 対 象 者 の ニ ー ズ に 沿 う こ と が 基 本 と な る 。メ ン タ ル ヘ ル ス に 関 す る
相 談 は 職 場 の 人 間 関 係 や 職 務 内 容 に 関 連 す る も の が 多 く 14)、 そ れ ら に 適 切
に 対 応 す る こ と に よ り 、心 身 の 健 康 と 充 実 し た 職 業 生 活 を 送 る こ と へ の 支 援
につながる。一方、家庭生活での心の悩みに関する相談も少なくないが、全
282
人 的 な 支 援 を 考 え る 際 、家 庭 生 活 と 職 業 生 活 は 切 り 離 す こ と は で き な い 問 題
で あ り 、そ れ ら の 相 談 に 関 し て も 適 切 な 対 処 が 望 ま れ る 。健 康 相 談 の 来 談 経
路としては、自発相談、健康診断からの流れ、疾病管理からの流れ、上司や
人 事 か ら の 依 頼 ( 職 場 側 の ニ ー ズ )、 家 族 か ら の 相 談 な ど が あ る 。 前 述 の 健
康 診 断 時 の 問 診 と 事 後 指 導 、お よ び 健 康 教 育 の 場 面 で 、基 本 的 な ス ト レ ス へ
の気づきの支援ならびに担当者との良好な人間関係づくりができていると、
比較的軽微な症状や悩みの段階での相談が増えて大事に至る前の対応が可
能となり、職場全体のメンタルヘルスの向上に通じる。
従って、これまで述べてきた健康診断時の問診と事後指導、健康教育、お
よ び 健 康 相 談 な ど の 保 健 指 導 の 各 場 面 間 の 有 機 的 な 連 携・循 環 を 図 る こ と は 、
事 業 場 の ス ト レ ス 対 策 の 根 幹 と も 言 う べ き 大 切 な ポ イ ン ト の 1 つ で あ る 1 5 )。
ま た 、 こ れ ら の 円 滑 な 連 携・ 循 環 を 図 る 上 で 、 こ れ ら す べ て の 保 健 指 導 場 面
を通して対象者に一番身近な専門職として関わっていくことのできる保健
婦 ・ 士 、 看 護 婦 ・ 士 の 役 割 は 大 き く 1 6 )、 一 層 の 活 用 が 期 待 さ れ る 。
( 錦 戸 典 子 ( 聖 路 加 看 護 大 学 地 域 看 護 学 研 究 室 ))
C.文献
1 )健 康 管 理 事 業 等 に 携 わ る ス タ ッ フ に 関 す る 調 査 結 果 の 概 要( 平 成 4 年 調
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出 版 会 、 1999.
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衛 生 学 雑 誌 41 巻 、 p .522、 1999 .
5)長沢澄雄、他 : 健 保 組 合 に お け る 保 健 指 導 に よ る ラ イ フ ス タ イ ル の 変 容
( 第 4 報 )、 産 業 衛 生 学 雑 誌 40 巻 p .370、 1998.
6)安達邦子、他 : 健 保 組 合 に お け る 保 健 指 導 に よ る ラ イ フ ス タ イ ル の 変 容
( 第 3 報 )、 産 業 衛 生 学 雑 誌 39 巻 p .s 273、 1997.
7)安達邦子、他 : 健 保 組 合 に お け る 保 健 指 導 に よ る ラ イ フ ス タ イ ル の 変 容
( 第 2 報 )、 産 業 衛 生 学 雑 誌 38 巻 p .s 101、 1996.
8)大園裕、他 : 某 事 業 場 に お け る 保 健 指 導 内 容 と 所 要 時 間 、 産 業 衛 生 学 雑
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9)平井祐美子、他 : 個 人 に 対 す る 健 康 支 援 活 動 − 定 期 健 康 診 断 受 診 後 の 保
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雑 誌 41 巻 p .195、 1999.
11) 朝 枝 哲 也 、 他 : 健 康 意 識 に 基 づ く 健 康 指 導 支 援 シ ス テ ム の 開 発 、 産 業 医
学 35 巻 p .s 195、 1993.
12) 竹 熊 美 和 、 服 部 健 司: 保 健 指 導 に お け る 主 観 的 健 康 観 の 意 義 、 産 業 衛 生
283
学 雑 誌 39 巻 p . s 388、 1997.
13) 赤 尾 ま す み 、他 : 職 業 性 ス ト レ ス と 保 健 指 導 プ ロ グ ラ ム 参 加 意 志 と の 関
連 性 の 検 討 、 産 業 衛 生 学 雑 誌 40 巻 p .157、 1998.
14) 平 成 9 年 度 「 労 働 者 の 健 康 状 況 調 査 報 告 」、 労 働 省 、 1998.
15)錦 戸 典 子: 産 業 看 護 職 に よ る 精 神 保 健 活 動 の 流 れ − 健 康 づ く り ∼ 早 期 発
見 ・ 対 処 ∼ 再 適 応 の 支 援 − 、 保 健 の 科 学 41 巻 p .670-676、 1999.
16) 錦 戸 典 子 、他: 職 場 の ス ト レ ス 対 策 に お け る 産 業 看 護 職 の 役 割 と そ の た
め の 能 力 育 成 に 関 す る 基 礎 的 研 究 、労 働 省 平 成 1 0 年 度「 作 業 関 連 疾 患
の 予 防 に 関 す る 研 究 」「 労 働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に
関 す る 研 究 報 告 書 」( 班 長 : 加 藤 正 明 )、 1999、 386-413.
3.保健指導に必要な能力と育成
A.はじめに
高齢化や疾病構造の変化により慢性疾患やメンタルヘルスに関連する支
援 が 主 体 と な っ て き た 今 日 、保 健 相 談 指 導 の 重 点 は 生 活 の 中 で の 不 健 康 因 子
に 気 付 き 、健 康 的 な 生 活 習 慣 を 確 立 す る 過 程 へ の 支 援 や 、対 象 者 の 心 理 的 側
面 に 触 れ る 精 神 保 健 相 談 に お か れ て い る 。 働 く 人 々 の 日 常 や 労 働 の 様 子 、職
場 内 人 間 関 係 等 の 生 活 世 界 を よ く 把 握 し て い る 保 健 婦・士 の 相 談 指 導 の 場 で
果 た す 役 割 は 大 き く 、 保 健 相 談 指 導 は 保 健 婦・ 士 の 役 割 の 中 で も 、 も っ と も
期待されている職務であるともいえる。
保健指導はその目的により教育、指導、相談等の機能に分けられるが、い
ずれもアセスメント、計画、実施、評価の各プロセスの循環により成り立ち、
保健婦・士には各プロセスにおける的確な動きが期待される。
B.保健指導に必要な理解
ス ト レ ス 対 策 と し て 保 健 婦・ 士 が 行 う 活 動 と し て は 、作 業 や 作 業 環 境 に お
け る ス ト レ ッ サ ー を 見 出 し 、快 適 職 場 維 持 形 成 の た め の 支 援 、個 人 の ス ト レ
ス へ の 気 づ き の 促 進 と ス ト レ ス 耐 性 を 高 め る た め の 健 康 教 育 、職 務 ス ト レ ス
による不適応等に対するケア等があげられる。1) 保健婦・士はそれらの活
動 の 中 で 個 人 や 集 団・組 織 等 を 対 象 と し て 保 健 指 導 の 方 法 や 技 術 を 用 い 対 象
支援を行う。
職 場 の ス ト レ ス 対 策 と し て の 保 健 指 導 を 適 切 な も の と す る た め に は 、以 下
の事柄が十分理解されていることが必要と考えられる。
1)企業における健康保持増進活動の意義
284
労 働 者 の 健 康 の 保 持 増 進 に は 労 働 者 の 自 助 努 力 に 加 え て 、事 業 者 の 行 う 心
身 両 面 に わ た る 継 続 的 ・ 計 画 的 健 康 管 理 の 積 極 的 な 増 進 が 必 要 で あ る 2 )。
2)予防精神保健の重要性
労 働 の 場 で の ニ ー ズ や メ ン タ ル ヘ ル ス の 課 題 を 読 み 取 り 、ス ト レ ス へ の 気
付 き と 対 処 等 、メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 の 予 防 に 向 け た 働 き か け の 重 要 性 を 理 解
する。
3)人間発達の原理
労 働 者 の 各 年 齢 層 を 人 間 発 達 の 原 理 に 照 ら し 理 解 し 、そ こ で の メ ン タ ル ヘ
ルスの課題を引出し援助に結び付ける。
4)対象の置かれた場と心理・社会的状況の的確な把握
保 健 指 導 の 対 象 で あ る 労 働 者 を 生 活 者 と し て 全 人 的 に 把 握 す る た め に 、時
代状況における対象(個・集団)の精神的健康状態を的確に理解する。その
た め に は 支 援 対 象 の 背 景 に あ る 産 業 社 会 の 構 造 や 状 況 の 理 解 、労 働 の 場 の 把
握 、適 応 お よ び 適 応 不 全 の 概 念 理 解 、個 人 ・ 集 団 ・ 社 会 の 相 互 関 係 の 理 解 等 が
重要である。
5)職業性ストレスの理解
職 業 性 ス ト レ ス の 概 念 や 評 価 法 を 理 解 し 、援 助 対 象 の 職 業 生 活 に お け る ス
トレッサーとストレス反応に気付き、マネージメントの方法を探る。
6)精神医学・心身医学・精神看護学の正確な知識
個人や集団の示す精神病理現象を労働の場での心的ストレスからの観点
を含み、多岐的視点から保健婦・士として正確に把握し、適切な援助に向け
ることが大切である。
7 ) 自 己 理 解 と 他 者(援助対象等)との関係性
ストレス対策のみならず保健指導ではさまざまな方法やアプローチの視
点 を 学 び な が ら 、 自 己 理 解 と 他 者( 援 助 対 象 ) と の 関 係 性 等 を 知 識 や 経 験 と
関係付けながら、専門的に築く技法の獲得が重要となる。
対 象 の 個 々 の 有 り 様 を 尊 重 し な が ら 、対 象 者 が 自 分 ら し く 生 き て い く こ と
をサポートするカウンセリングの技術等が取り入れられる。
8)ソーシャル・サポート・ネットワーク
産 業 精 神 保 健 チ ー ム に お け る 医 師 等 専 門 職 と の 役 割 分 担 を 明 確 に し 、そ れ
ぞれの専門職の立場から得た情報の共有化を図る。援助に必要なソーシャ
ル・サポート・ネットワークの構築をメンバーと共働する。
そ の た め の 精 神 保 健 福 祉 行 政 の 理 解 や 、人 的 物 的 社 会 資 源 に 関 し て の 情 報
を多く収集すること等が必要である。
9)産業保健専門職の倫理
産 業 精 神 保 健 活 動 に 必 要 な 記 録 や デ ー タ 等 の 情 報 を 管 理 し 、ま た 専 門 職 と
し て 職 業 上 知 り 得 た 企 業 や 個 人 の 秘 密 を 保 持 す る 。ま た 専 門 職 と し て の 立 場
と、企業の一員としての立場等の成熟した均衡を図る。
285
C.能力と育成
職 場 の ス ト レ ス 対 策 を 効 果 的 に 進 め て い く 上 で 、 保 健 婦・ 士 等 の 能 力 育 成
システムを整えていくことは、重要な課題である。
1)保健指導のための能力
看護職が職場のストレス対策上の役割を果たしていくために必要な能力
と し て 、 文 献・ イ ン タ ビ ュ ー 両 調査 に よ り 、
「対象理解能力」
「対象者のセル
フ ケ ア 力 を 高 め る 能 力 」「 現 状 把 握 ・ 分 析 能 力 」「 基 本 的 支 援 技 術 」「 メ ン タ
ル ヘ ル ス 支 援 の た め の 知 識・ 技 術 」「 組 織・ 社 会 的 リ ソ ー ス の 活 用 能 力 」「 自
己 形 成 力 」の 7 つ が あ げ ら れ て い る 。さ ら に イ ン タ ビ ュ ー 調 査 か ら は プ レ ゼ
ンテーション能力、研究能力、企業人としての能力があげられている。
ス ト レ ス 対 策 に 固 有 の 能 力 と し て は 、メ ン タ ル ヘ ル ス 支 援 の た め の 知 識 ・
技 術 が あ げ ら れ そ の 内 容 と し て は 精 神・ 心 理 学 の 基 礎 知 識 と 、メ ン タ ル ヘ ル
ス 教 育 技 術 が 抽 出 さ れ 、ス ト レ ス に つ い て の 理 論 や リ ラ ク セ ー シ ョ ン ス キ ル
を 始 め と し て 、職 場 で 良 く 見 ら れ る 適 応 障 害 や そ れ に 伴 う う つ 状 態 な ど の 問
題とその対処法等について理解し、労働者に教育して
い く こ と の で き る 能 力 が 必 要 で あ る こ と が 示 さ れ て い る と い え る 3 )。
産 業 精 神 保 健 活 動 に お け る 保 健 指 導 の 場 で は 看 護 の 原 則 に 立 ち 、対 象 の 表
現する事柄から重要なメッセージを聴き取って援助的関わりに結び付ける
能 力 を 備 え る 必 要 が あ る 。対 象 の 言 葉 に な ら な い 感 情 を 理 解 し 、そ こ に 応 答
を 返 せ る セ ン ス と ス キ ル が 現 場 で 重 要 と な る 。特 に 対 象 が 自 己 の 方 向 性 を 独
力 で 見 出 し 、歩 ん で い け る よ う 、対 象 へ の 共 感 的 理 解 に 根 ざ し た 関 り が 重 要
で あ る 。そ の た め に 看 護 職 が 行 う カ ウ ン セ リ ン グ に つ い て は 、人 間 の 心 理 や
精 神 の 構 造 や 成 り 立 ち 等 精 神・心 理 学 の 基 礎 知 識 お よ び カ ウ ン セ リ ン グ の 基
礎的演習や理論学習等による保健面接技術を応用することで対応が可能で
ある。
さ ら に 産 業 看 護 職 の 置 か れ た 立 場 か ら の 、対 象 の 生 活 の 場 で あ る 企 業 お よ
び そ の 背 景 や ス ト レ ス 状 況 を 理 解 し 易 い 企 業 人 と し て の 能 力 も あ る 。ま た ス
ト レ ス 対 策 支 援 の た め の 組 織 や 環 境 等 、働 き か け の 場 や 方 法 を 理 解 し て い る
こ と も 大 き な メ リ ッ ト で あ り 、 そ の 活 用 能 力 が 期 待 さ れ る 3 )。
2)産業保健婦・士等の育成
経済の発展に伴い労働内容の高度化、高密度化が増し、働く人々には高い
労 働 へ の 能 力 や 幅 の 広 い 知 識 が 要 求 さ れ る 。そ の よ う な 時 代 や 社 会 状 況 を 適
切 に 読 み 取 り 、状 況 や 対 象 の ニ ー ズ に ふ さ わ し い 専 門 的 保 健 指 導 サ ー ビ ス が
提供できるよう保健婦・士の資質を整えることが必要である。
保 健 婦・ 士 の 専 門 性 を 高 め 社 会 的 ニ ー ズ に 応 え る た め に は 、専門職として
の 知 識・ 技 術 な ら び に 問 題 解 決 能 力 が 求 め ら れ る 。最 近 は 看 護 教 育 機 関 の カ
リ キ ュ ラ ム 等 で 、 精 神 看 護 学 、産 業 看 護 学 も 重 き を お か れ る よ う に な っ て い
る。しかし産業保健の場での必要条件を満たすには学校教育機関での学習
(卆前教育)だけでは不十分である。
286
産 業 保 健 の 場 は そ の 応 用 の フ ィ ー ル ド で あ り 、現 場 で の 育 成 で は そ れ ら の
看 護 理 論 か ら 有 効 な 部 分 を 引 き 出 し 、実 践 の 場 に つ な ぐ 作 業 が 繰 り 返 し 必 要
に な る 。特 に 学 校 で 学 ん だ 看 護 の 基 礎 知 識 と 企 業 の 特 性 に 沿 っ た 保 健 活 動 を
リ ン ク さ せ て い け る よ う な 体 系 立 て た 育 成 が 必 要 で あ る 。ま た 保 健 専 門 職 と
し て 質 の 高 い ケ ア ・ サ ー ビ ス を 提 供 で き る よ う 、保 健・ 看 護 の み な ら ず 人 間 ・
環境工学や法律等の広範囲な基礎的学習も必要とされる。
さ ら に 保 健 指 導 に お け る 職 場 の ス ト レ ス 対 策 の 展 開 に あ た っ て は 、産 業 看
護 一 般 の 能 力 を き ち ん と 身 に つ け る こ と を 基 本 に 据 え た 上 に 、メ ン タ ル ヘ ル
ス支援のための知識技術を積み重ねていくことが必要である。
具 体 的 に は 社 内 外 の 学 習 機 会 を 活 用 し て 、 講 習 会・研修会の受講、事例検
討、体験学習、スーパービジョンをうける、OJT、産業看護職間や多職種
間の交流、研究会・自主学習会への参加、研究活動、自己学習などにより学
習 を 進 め て い く こ と が 望 ま し い と 考 え ら れ る 。特 に ス ト レ ス 対 策 と し て の 保
健 指 導 を 効 果 的 に 行 っ て い く た め に は 、事 例 検 討 会 の 活 用 や 、実 践 か ら 生 じ
た問題や課題解決をスーパーバイザー等の適切な支援を得ながら進めてい
く こ と が 大 切 で あ る と 思 わ れ る 3 )。
継 続 教 育 の 例 と し て ア メ リ カ 産 業 看 護 婦 協 会 ( American Association of
Occupational Health Nurse:AAOHN)で は 、健 康 相 談( health counseling)
を 産 業 に お け る 看 護 婦 活 動 の 主 要 な も の と し て 提 示 し て い る 。そ の た め 看 護
活 動 に カ ウ ン セ リ ン グ ス キ ル が 要 求 さ れ る 頻 度 は 高 く 、産 業 精 神 看 護 の た め
の 継 続 教 育 で も 、 1960 年 代 に は 行 動 力 学 の 理 解 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力
の 開 発 、効 果 的 介 入 能 力 の 増 強 を 主 と し た 育 成 プ ロ グ ラ ム が 組 ま れ て い る 。
ま た 1970 年 代 に は NIOSH(National Institute of Occupational Safety
and Health)を 中 心 に 「 産 業 ナ ー ス と 労 働 者 精 神 保 健 」 と い う 自 己 学 習 を ベ
ー ス と し た 26 ユ ニ ッ ト か ら な る 継 続 教 育 プ ロ グ ラ ム を 作 成 し た 。修 士 ・ 博 士
課 程 レ ベ ル の 高 等 教 育 は ERCs(NIOSH Education Resource Center;1993
年 は 14 ヶ 所 )で 提 供 さ れ て い る 4 )。
D.産業精神保健活動を行う保健婦・士等の育成の場
産 業 精 神 保 健 活 動 に 従 事 す る 保 健 婦・士 等 の 育 成 の 場 は 徐 々 に 整 え ら れ て
いる。最近は研修会・講習会として開催されているものは単発的なものを含
め 数 多 く あ る が 、 保 健 婦・ 士 等 の 育 成 の た め に 組 織 的 に 開 催 さ れ て い る 主 な
ものを以下にあげる。
産業保健指導専門研修・心理相談専門研修(中央災害防止協会)
労 働 安 全 衛 生 法 の 一 部 改 正( 1988 年 ) に よ り THP を 目 指 し 総 合 的 労 働 衛
生 管 理 体 制 が 示 さ れ た 。そ の 結 果 、中 央 災 害 防 止 協 会 の 主 催 す る 産 業 保 健 指
導 担 当 者 、心 理 相 談 担 当 者 の 研 修 受 講 を 多 く の 保 健 婦・ 士 が 行 う よ う に な っ
た。
287
産 業 看 護 講 座 基 礎 コ ー ス( 日 本 産 業 衛 生 学 会 ・ 日 本 看 護 協 会・ 産 業 保 健 推
進センター)
日 本 産 業 衛 生 学 会 産 業 看 護 部 会 で は 教 育・ 資 料 委 員 会 を 中 心 に 産 業 看 護 職
の 専 門 性 を 高 め 業 務 の レ ベ ル ア ッ プ を 図 る こ と を 目 的 に「 産 業 看 護 講 座 」を
継 続 し て き た が 、 平 成 9 年 よ り 、 新 た に 構 築 さ れ た「 産 業 看 護 職 継 続 教 育 シ
ス テ ム 」 に 則 り 、 毎 年「 産 業 看 護 基 礎 コ ー ス 」 を 実 施 し て き て い る 。 ま た 日
本 看 護 協 会・産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー 等 も 徐 々 に 同 様 の 研 修 実 施 に 参 画 を 初 め
ている。
産業カウンセラー養成講座(日本産業カウンセラー協会)
日 本 産 業 カ ウ ン セ ラ ー 協 会 は 1960 年 に 設 立 さ れ 産 業 カ ウ ン セ ラ ー の 養 成
や 資 格 試 験 を 実 施 し て い る 。 産 業 カ ウ ン セ ラ ー の 技 能 資 格 ( 1991 年 12 月
27 日 付 労 働 省 告 示 第 2 号 ) が 認 定 さ れ る に い た り 、 今 後 も 産 業 保 健 婦 ・ 士
に 資 格 取 得 希 望 者 が 増 え る も の と 予 想 さ れ る 。保 健 指 導 に お け る カ ウ ン セ リ
ン グ マ イ ン ド を 醸 成 す る た め の 基 礎 研 修 と し て 理 解 し た い 。ま た「 日 本 産 業
カウンセラー協会ナースの会」では対象が産業精神保健活動における保健
婦・ 士 と の 関 係 性 を 通 し て 自 己 実 現 し て い く 援 助 の あ り 方 を 、プ ロ セ ス の 検
討とスーパービジョン等を中心に学習している。
E.おわりに
労 働 安 全 衛 生 法 の 一 部 改 正 〈 1988 年 〉 に よ り 心 身 両 面 か ら の 健 康 作 り
( THP)を 目 指 し 総 合 的 労 働 衛 生 管 理 体 制 が 示 さ れ て 以 来 、単 に 心 身 概 念 と
し て だ け で な く 、生 活 概 念 と し て の 健 康 の 理 解 に 基 づ い た 保 健 サ ー ビ ス の 提
供 者 と し て 保 健 婦 ・ 士 に 課 さ れ た 役 割 に は 大 き い も の が あ る 。し か し 産 業 精
神 保 健 活 動 の 場 に ふ さ わ し い 援 助 を 実 現 し て い く た め の 、保 健 婦・士 等 の 継
続 的 育 成 は ま だ 十 分 に 整 備 さ れ て い る と は い え な い 。保 健 指 導 に お け る ス ト
レ ス 対 策 支 援 の た め の 育 成 プ ロ グ ラ ム の 整 備・ 体 系 化 に よ り 、能 力 の 高 い 産
業 看 護 職 の 育 成 を 急 ぐ と と も に 、固 有 の 能 力 で あ る メ ン タ ル ヘ ル ス 支 援 の た
め の 知 識・技 術 に つ い て の 教 育 ・ 学 習 シ ス テ ム を さ ら に 整 え て い く 必 要 が あ
る 3 )。ま た 全 国 レ ベ ル で の 参 加 が 可 能 に な る よ う な 具 体 的 研 修 の 場 の 構 築 も
今後の課題と思われる。
( 遠 藤 俊 子 ( NTT 東 日 本 首 都 圏 健 康 管 理 セ ン タ ))
F.文献
1 ) 原 谷 隆 史: 職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス と ス ト レ ス 対 策 . 日 本 産 業 衛 生 学 会 特
別 研 修 会 、 1995
2 ) 心 理 相 談 員 養 成 研 修 テ キ ス ト 「 心 と か ら だ の 健 康 づ く り 」( THP) 労 働
省中央労働災害防止協会
3)錦戸典子,他 : 職 場 の ス ト レ ス 対 策 に お け る 産 業 看 護 職 の 役 割 と そ の た
め の 能 力 育 成 に 関 す る 基 礎 的 研 究 . 労 働 省 平 成 10 年 度 「 作 業 関 連 疾 患
288
の 予 防 に 関 す る 研 究 」「 労 働 の 場 に お け る ス ト レ ス 及 び そ の 健 康 影 響 に
関 す る 研 究 報 告 書 」( 班 長 : 加 藤 正 明 ). 14-15、 1999
4 ) 関 戸 好 子: ア メ リ カ に お け る 産 業 看 護 、 産 業 精 神 保 健 ハ ン ド ブ ッ ク , 中
山 書 店 , 1998
5.保健指導におけるストレス対策の実際
A.労働衛生機関におけるメンタルヘルスへの支援
労 働 衛 生 機 関 と は 、 特 定 の 企 業 に 所 属 し な い で 、労 働 衛 生 の 専 門 的 な 技 術
と 情 報 を 提 供 す る 機 関 で あ る 。 労 働 衛 生 機 関 、健 康 診 断 機 関 の 会 員 で 組 織 さ
れ て い る 全 国 労 働 衛 生 団 体 連 合 会( 通 称 : 全 衛 連 ) で は 、 労 働 省 の 指 導 に よ
り 優 良 な 健 康 診 断 機 関 、労 働 衛 生 機 関 を 目 指 し て い る 。全 衛 連 で は 労 働 省 の
委託事業として健康診断の精度を向上させ優良な機関を目指すための総合
精 度 管 理 事 業 が 昭 和 6 3 年 に 開 始 さ れ 、そ れ ぞ れ の 機 関 が 、職 種 別 に 事 業 に
参 加 し て い る 。 保 健 婦・ 士 、 看 護 婦・ 士 は 、 健 康 診 断 全 般 に わ た る 基 本 的 事
項 、お よ び 健 康 診 断 の 事 後 措 置 と し て の 保 健 指 導 に 重 点 が お か れ て い る 。ま
た 、そ れ ぞ れ の 機 関 で は 、昭 和 6 3 年 健 康 保 持 増 進 サ − ビ ス 機 関 と し て の 機
能 を 備 え 、メ ン タ ル ヘ ル ス ケ ア に 対 応 す る 心 理 相 談 担 当 者 が 健 康 指 導 に 対 応
している。
K 機 関 で は 、 健 康 診 断 の 事 後 措 置 と し て の 保 健 指 導 、メ ン タ ル ヘ ル ス ケ ア
へ の 対 応 は 保 健 婦 ・ 士 が 医 師 と の 連 携 の も と で 事 業 場 に か か わ っ て い る 。か
か わ り 方 の 基 本 と し て は 、心 身 両 面 か ら の 健 康 づ く り を 目 標 に 、ス ト レ ス に
焦 点 を あ て 事 業 場 の 健 康 管 理 体 制 に 応 じ ニ − ド に 対 応 し て い る 。ま た 、職 場 、
仕 事 を 少 し で も 理 解 し て 指 導 、 相 談 に の ぞ め る よ う に ス ト レ ス 状 況 、職 場 風
土等の予備知識をうけて、職場見学をおこなう。
B.事業場の健康管理体制分類とメンタルヘルスケアにおける個別対応
1)従業員数50人未満では
全員または有所見者を対象に、健康診断結果通知、保健指導、健康相談時
に 健 康 調 査 票 を 用 い 、個 人 の ス ト レ ス 状 況 の 把 握 と 対 処 に つ い て 確 認 す る こ
とを重視しフォロ−による確認が必要な場合はK機関がおこなう。
2)従業員50人以上∼1、000未満では
(1)事業場に保健婦・士、看護婦・士がいる場合
・ メ ン タ ル ヘ ル ス ケ ア で の 体 制( 産 業 医 、 精 神 科 、 臨 床 心 理 士 と の 連 携 )、
取 り 組 み( 管 理 、 監 督 者 教 育 、 従 業 員 教 育 、 疾 病 へ の 対 応 ) の な か で 相 互
の 役 割 分 担 や フ ォ ロ − 方 法 を 確 認 し 、ス ト レ ス 状 況 、職 場 風 土 等 の 予 備 知
識 を 受 け て 個 別 対 応 を す る 。健 康 調 査 票 は 事 業 場 の 看 護 職 と 共 同 で 作 成 す
る。
289
・ フ ォ ロ − が 必 要 と 判 断 し た と き は 、 担 当 保 健 婦 ・ 士 、 看 護 婦・ 士 の 再 面
談の了解を本人に求め、拒否の場合はK機関での面談をおこなう。
(2)事業場に保健婦・士、看護婦・士がいない場合
担 当 者 を 通 じ て 産 業 医 と の 連 携 を も ち 、5 0 人 未 満 の 従 業 員 数 の 対 応 を
する。
面 談 時 間:健 康 診 断 に お け る 問 診 で の ヒ ヤ リ ン グ の 場 合 は 5 分 か ら 1 0 分
THP、健康診断における保健指導では、約20分
メンタルヘルスが中心の場合は、30∼40分
保健婦・士稼働数:従業員数と面談時間によって決める
C.職場のストレスと保健指導
職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス は 、仕 事 の 過 重 や 不 愉 快 な 職 場 環 境 な ど の ス ト レ ス
要 因 を 取 り 除 き 、働 く 人 達 の 心 身 の 健 康 保 持 を す る こ と で す 。一 方 働 く 人
達 も 自 分 で つ く る ス ト レ ス が な い か ど う か も 知 る こ と が 必 要 で あ り 、ま た 、
ストレスをコントロ−ルする方法を身に付けることが必要である。
働く人達は、同じストレス要因にさらされていても、個人ごとにストレス
状 態 は 異 な っ て い る 。ス ト レ ス 要 因 や ス ト レ ス 状 態 を 把 握 す る こ と が 必 要 で
あ る 。ま た ス ト レ ス 要 因 に 対 処 す る た め の 生 活 習 慣 の 把 握 や ス ト レ ス に 対 す
る 対 処 方 法 が 必 要 で あ り 、そ れ を 支 え る 支 援 体 制( 相 談 窓 口 を 中 心 と し た サ
ポ−トシステム)が欠かせない。
保健指導では、秘密の保持、プライバシ−の保護、基本的人権の尊重など
に 十 分 配 慮 し な が ら 、同 じ ス ト レ ス 要 因 に 対 す る 反 応 は 個 人 に よ っ て 大 き く
違 っ て い る こ と を 重 視 し 、個 人 の 特 性 を 大 切 に す る こ と が 必 要 で あ る 。ま た 。
相手の性格や生活習慣、ストレス要因、ストレス状態、ストレス解消法の有
無 、支 援 体 制 の 有 無 な ど 総 合 的 に 検 討 し な が ら 、相 談 に 応 じ て い く こ と が 必
要である。
職 場 の ス ト レ ス に 取 り 組 む 場 合 、 簡 単 に 把 握 す る こ と が で き る「 ス ト レ ス
チエック表」を活用する。ここで、ストレスチエック表に基づく自己チエッ
ク の も つ 意 義 、活 用 す る 場 合 の 注 意 点 に 留 意 し 、保 健 指 導 で は 慎 重 に 取 り 扱
うことが必要である。
①心身の健康保持増進として積極的で主体的な健康づくりをするために、
自分のストレス要因、状態、支援体制を知ることが必要である。またなぜ自
己チエックが必要なのか理解していることが必要である。
② 「 ス ト レ ス チ エ ッ ク 表 」 か ら 仕 事 で の ス ト レ ス 要 因 ( 1 7 項 目 )、 最 近
の ス ト レ ス 状 態( 2 9 項 目 )、 自 分 の 周 囲 の 相 談 者 の 有 無( 9 項 目 )、 仕 事 、
家 庭 生 活 で の 満 足 度( 2 項 目 ) の 自 己 チ エ ッ ク 状 況 を 把 握 し 、 相 談 に 応 ず る 。
③ 自 己 チ エ ッ ク は 、自 分 の 状 態 に つ い て ス ト レ ス に つ い て 評 価 す る の で 、
主 観 的 評 価 方 法 と 呼 ば れ る 。そ の 問 題 点 に 留 意 し た 保 健 指 導 を す す め る こ と
が必要である。
290
* よ り 良 く 評 価 さ れ た い と い う 気 持 ち が 潜 ん で い る と 、実 際 と は 異 な っ た
回 答 を す る こ と が あ る 。本 人 の 気 持 ち を 大 切 に 取 り 上 げ な が ら 、事 実 を 把
握していく努力が必要であり回答について慎重に扱うことが重要である。
* 状 態 を 実 際 よ り 強 く 評 価 し た り 、 弱 く 評 価 し て い る こ と も あ り ま す 。状
態 の 程 度 を 労 働 者 と 相 談 者 と で 確 認 し 、今 の 状 態 を 把 握 す る こ と が 必 要 と
な る 。特 に 仕 事 と の 関 係 や 職 場 で の 人 間 関 係 等 に 焦 点 を 合 わ せ た 検 討 が 大
切である。場合によつては職場や仕事の理解のための行動も必要となる
* す べ て の 質 問 に 同 じ 答 え を し て い る 労 働 者 も い る の で 、答 え 方 に よ つ て
は、対話による再評価が必要となる。
*評価したあとで、行動や思い、状態が変わることがあるので、評価した
時点から状態の軽減程度を確認することが必要となる。
( 富 山 明 子 ( 神 奈 川 県 予 防 医 学 協 会 ))
D.事例
【事例1 全員の健康診断結果への保健相談とメンタルヘルスへの対応】
事業場:研修機関
従 業 員 数 : 2 3 人 、 平 均 年 齢 : 51.9 歳
健康相談導入目的:平均年齢が高く、若年者と高齢者との人間関係、また少
人 数 で の 人 間 関 係 の 難 し さ が あ る 。遠 距 離 通 勤 者 が 多 い こ と か ら 疲 労 の 蓄 積
も考えられる。メンタルヘルスを取り入れた保健指導を希望。
《保健相談方法》
( 1) 初 回 な の で 事 業 場 が 希 望 し て い る こ と を 、 担 当 者 、 責 任 者 と 話 し 合 い 、
保健指導が活用されていくようなスタートをする。
保健相談終了後は、担当者とその上司に印象、感想を伝え、報告書が必
要 な 場 合 は 、保 健 相 談 者 氏 名 の 報 告 だ け と す る 。ま た 個 人 へ の 職 場 配 慮 が
必要な場合は、報告することを事前に本人に了解を求めておく。
( 2) 保 健 相 談 の 目 的 は 、 健 康 相 談 結 果 の 説 明 と 指 導 、 ス ト レ ス を 含 め た ラ
イフスタイルの検討とセルフケア力を高められるように支援する。
・面談時間一人20分 保健婦・士稼動数1.5日
・ 面 談 場 所 は プ ラ イ バ シ ー に 配 慮 で き る 場 所 で あ り 、雰 囲 気 を 確 認 し て お
く
・保健相談日程、スケジュールは、担当者が計画し各個人に通知する。こ
の と き 保 健 相 談 の 職 場 へ の 連 絡 は 、保 健 指 導 の 場 の イ メ ー ジ が 少 し で も
描けるような案内文を事業場担当者と検討する。
( 3) 次 年 度 計 画 に 向 け て の 情 報 交 換 を し て 終 了 と な る 。
《保健相談結果の感想》
( 1) 1 年 目 の 感 想
・「 3 分 診 療 」 の 時 代 に 、 2 0 分 も 時 間 を と る の で 自 分 の こ と が 分 か っ て
もらえるような気がする。
291
・ 少 人 数 職 場 で 気 を 使 っ て 話 せ な い こ と も 多 い の で 、2 ∼ 3 か 月 に 1 度 く
らい外部の人が相談に乗ってくれるとよい。
( 2) 2 年 目 の 感 想
・ 人 間 関 係 に よ る ス ト レ ス は 前 年 度 と 同 様 に 続 い て い る 。「 少 人 数 で あ る
が 故 に 、一 つ の 関 係 が 崩 れ る と す ぐ 全 体 に 波 及 し て し ま う 。そ の た め に 外
部の保健指導は安心できる」
2 年 目 を 終 了 し て 、従 業 員 が 自 分 の こ と を 話 す 時 間 と し て の 相 談 に 慣 れ
てきた。2年目からは、30分の相談時間となり、相談内容も健診結果、
生活、仕事、人生観と幅広く話す人が多くなってきている。当初保健相談
の導入目的であった人間関係によるストレスへの対応となってきている
ということで、保健相談が毎年2回となる。
【事例2 THPとしてのメンタルヘルス】
《健康保持増進でのメンタルヘルス−健康指導のなかでのストレス対策》
事業:電機産業の研究職、システムの研究・開発
従業員数:300人の関連企業
産業保健スタッフ:産業医週1回、看護婦・士1名、衛生管理者
《メンタルヘルス対策》
( 1) メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 者 に は 、 看 護 婦 ・ 士 が 中 心 に な っ て 外 部 の 専 門 機
関( 精 神 科 医 、 カ ウ ン セ ラ − ) と の 連 携 で 対 応 し て い る 。 産 業 医 は 職 場 と
の調整役、看護婦・士は専門機関と連携しながら、事例の相談役と関係者
との連携、フォローアップをおこなっている。
( 2 )従 業 員 へ の 相 談 窓 口 が 常 設 さ れ て い る が 、ど ち ら か と い う と メ ン タ ル
ヘ ル ス 不 全 者 へ の 対 応 が 中 心 に な っ て い る 。事 業 場 と し て ス ト レ ス 対 策 が 、
全体の取り組みになっていない。
( 3 ) 管 理 監 督 職 へ の 教 育・ 研 修 は 、 臨 時 に 実 施 し て い る が 計 画 的 な 実 施 に
まで至っていない。
《健康保持増進の導入と経過》
( 1) 研 究 職 の 多 い 職 場 で あ り 、 健 康 づ く り が 必 要 で あ る と の こ と で 導 入 さ
れた。健康保持増進におけるメンタルヘルス対策として実施された。
( 2) 3 0 歳 、 3 5 歳 以 上 を 対 象 に 健 康 度 測 定( 医 学 的 検 査 、 運 動 機 能 検 査 、
ストレス、ストレス対応を含めた生活状況調査)の結果にもとづき、栄養、
ス ト レ ス を 含 め た 健 康 指 導 と 運 動 指 導 を お こ な う 。3 年 間 継 続 す る な か で
健康保持増進への意識が浸透する。
( 3) 中 間 管 理 職 か ら 、 対 象 外 の 若 い 人 の 健 康 管 理 が 気 掛 り で あ る と の 声 が
あ が り 、全 員 に 生 活 状 況 調 査 に 基 づ く 健 康 指 導 を 、希 望 者 に は 運 動 指 導 を
行った。
《健康指導方法》
292
( 1) T H P 指 針 で は 、 心 理 相 談 必 要 者 に は 心 理 相 談 担 当 者 が 指 導 す る こ と
に な っ て い た が 、事 業 場 と し て ス ト レ ス 対 策 に 組 織 的 な 取 り 組 み が 不 十 分
な 場 合 特 別 視 さ れ る こ と を 避 け る た め 、 保 健 婦・士が保健指導、心理相談
の 担 当 者 と な り 、 ス ト レ ス 、ス ト レ ス 対 応 調 査 項 目 を 重 視 し た 全 員 を 対 象
とした健康指導をおこなった。
( 2) 研 究 職 が 対 象 な の で 、 仕 事 の 質 ・ 量 、 研 究 の 見 通 し 等 を 傾 聴 す る こ と
を重視し、生活時間の使い方、家族関係、職場の人間関係に重点をおいた
食 事 、運 動 、ス ト レ ス の 対 処 方 法 の 生 活 習 慣 の 見 直 し を 図 る こ と を 支 援 し
た。
( 3)1 回 の 面 談 は 2 0 分 な の で 、2 0 分 で 終 了 で き な い と 判 断 す る と き は 、
看 護 婦・士へつなげるか、K機関にくるのか本人の選択で決めている。健
康 指 導 前 と 後 は 看 護 婦・士 と カ ン フ ァ レ ン ス を お こ な い 継 続 し た 活 動 に つ
なげている。
【事例3 健康診断と健康保持増進の組み合わせ
―健康診断事後措置としてのストレス対策】
事業:電機産業
従業員数:70人、関連企業
産業保健スタッフ:事務担当
《メンタルヘルス対策》
( 1) 本 部 に は 、 メ ン タ ル ヘ ル ス 対 策 が あ り 、 産 業 医 も 常 勤 し て い る が 、 関
連 企 業 で は 独 自 に 事 業 を 展 開 す る よ う に な っ て い る 。但 し 健 康 診 断 の 方 法
は 統 一 し て お り 、 健 康 診 断 時 に 生 活 習 慣 状 況 調 査( 食 生 活 、 運 動 、 ス ト レ
ス 状 況 等 )の 調 査 を お こ な い 、健 康 管 理 区 分 と し て 検 査 と 生 活 習 慣 状 況 調
査 を 基 に 産 業 医 か ら の 指 示 が だ さ れ る 。方 針 と し て は 、積 極 的 な 健 康 づ く
り を す る た め に 、 定 期 健 康 診 断 と T H P を 組 み 合 わ せ た 方 法 で 、保 健 指 導
は 全 員 対 象 と し 、 希 望 者 に 対 し て は 、 運 動 機 能 測 定・ 運 動 指 導 を お こ な う
ことになっている。
( 2)全 員 対 象 の 保 健 指 導 な の で 、健 康 管 理 区 分 に 応 じ た 指 導 を お こ な う が 、
要受診者要精検者には、受診の必要性、確認の支援を重点に支援し、要注
意 者 、要 観 察 者 に は 、健 康 保 持 増 進 の 側 面 に 重 点 を お い た 保 健 指 導 を お こ
な う 。保 健 指 導 で は 、ス ト レ ス を 含 め た 生 活 習 慣 状 況 調 査 結 果 を 使 用 す る
の で 、健 康 診 断 結 果 の 事 後 指 導 と し て ス ト レ ス 状 況 や 対 処 状 況 を 確 認 す る 。
( 3) 従 業 員 の 相 談 窓 口 が な い の で 、 K 機 関 を 相 談 窓 口 と し て 活 用 す る よ う
従業員に勧める。
( 4) メ ン タ ル ヘ ル ス 教 育 は 、 お こ な わ れ て い な い 。
《健康診断と健康保持増進を組み合わせた保健指導の導入》
( 1) 本 部 の 方 針 、 気 長 に 楽 し く 継 続 で き る 心 身 の 健 康 づ く り を 関 連 企 業 が
293
取り組むことになる。
( 2) 全 員 の 保 健 指 導 は 、 K 機 関 の 保 健 婦 ・ 士 が 訪 問 し 事 業 場 で お こ な い 、
希望者の運動機能測定・運動指導、保健指導はK機関でおこなう。
《健康診断実施後の保健指導方法》
( 1) 健 康 管 理 区 分 に 応 じ た 保 健 指 導 を す る た め 、 事 務 担 当 者 を 通 じ て 産 業
医の指示の確認ができるように依頼する。
( 2) 1 人 の 面 談 時 間 を 2 0 分 と し て 、 事 務 担 当 者 は 呼 び 出 し ス ケ ジ ュ − ル
を 起 案 し 従 業 員 に 周 知 を 図 る 。 場 所 の 関 係 上 1 日 に 保 健 婦・ 士 が 2 人 稼 働
し必要日数事業場に訪問する。
( 3) 保 健 指 導 当 日 は 、 健 康 診 断 結 果 、 生 活 習 慣 状 況 調 査 結 果 を 活 用 し 、 メ
ン タ ル ヘ ル ス 的 対 応 を 図 る 。そ の た め 年 代 別 課 題 、職 位 別 課 題 等 念 頭 に お
いてストレス状況を把握し相手の話しを傾聴しつつ対処方法を共に考え
ていく。
( 4) 相 談 窓 口 が 事 業 場 に 設 置 さ れ て な い の で 、 継 続 相 談 、 フ ォ ロ − が 必 要
だ と 判 断 す る と き は 、K 機 関 に く る よ う に す す め る か 、電 話 で の フ ォ ロ −
の 了 解 、面 談 担 当 者 の 名 刺 を 渡 す な ど の 工 夫 を し て 、対 象 者 と の つ な が り
を 維 持 で き る よ う に 努 め る 。継 続 相 談 支 援 の 必 要 な 対 象 者 全 員 の 保 健 指 導
を次年度面談までのフォロ−として継続する。
【事例4 健康診断時の面談によるストレス状態の把握】
事業:サービス業
従業員数:700人
産 業 保 健 ス タ ッ フ :産 業 医 週 1 回 、 臨 床 心 理 士 週 1 回 、 保 健 婦・士1名、事
務担当1名
《保健相談導入目的》
( 1) 保 健 婦 ・ 士 は 一 人 で 従 業 員 の 健 康 管 理 を 担 当 し て い る 。
( 2) メ ン タ ル ヘ ル ス に つ い て は 、 臨 床 心 理 士 と の チ ー ム で お も に 精 神 疾 患
患 者 の ケ ア と 相 談 に 応 じ て い る 。従 業 員 全 員 へ の 対 応 が 不 可 能 で あ り 、ま
た 健 康 診 断 時 の 訴 え の 詳 細 が 保 健 婦・ 士 ま で 伝 わ っ て こ な い 。後 日 呼 び 出
し が 難 し い の で 、 健 康 診 断 時 の 場 面 を 有 効 活 用 し た い と い う こ と で 、健 康
診断時健康調査票を活用した保健婦・士面談が導入された。
《保健相談方法》
( 1) 健 康 診 断 は 4 日 間 集 団 健 診 方 式 で 行 う 。 そ の た め に 保 健 婦・ 士 面 接 は 、
健 康 診 断 の 流 れ で は 最 終 工 程 に な る 。そ こ で 流 れ が ス ム ー ス に 行 え る よ う
保健婦・士は3∼4人稼動する。
( 2) 保 健 婦 ・ 士 面 接 当 日
・ 事 業 場 保 健 婦・ 士 か ら 面 談 の た め の オ リ エ ン テ ー シ ョ ン を 受 け る 。人 間
関 係 に よ る ス ト レ ス に 注 目 し た い 職 場 、残 業 が 多 い 職 場 の 従 業 員 の 疲 労 の
294
実態の確認、職場のニーズを知りたいなど
・ 保 健 婦・ 士 面 談 時 間 5 ∼ 7 分 、健 康 調 査 票 は 担 当 者 と 共 同 作 成 し た も の
を活用し、事前配布による自記入である。健康調査票はA4、1枚、質問
項目は11項目である
・面接場所には、担当保健 婦・士の紹介資料、健康相談室の案内パンフレ
ットを準備してもらい、面談と担当保健婦・士活動への連携を図る
・ 事 業 場 保 健 婦・士は、保健相談会場の調整役となっている。健診時面談
で 担 当 保 健 婦・士の面談が必要な場合は、バトンタッチする。また健診時
面 談 で 完 結 し た 方 が よ い と 判 断 し た 場 合 は 、面 接 時 間 が 長 く な る の で 健 診
時 面 談 を 担 当 保 健 婦・士が担当する
《健診時面談終了後》
取り決めた次の基準によって申し送りするためのカンフアレンスは必ず持
つ
A フォローしない
B 症状や問題があるが自分で解決できるであろう
面談の場で解決できた。フォローは不要
C 自己解決できるか心配、健診結果によりファローを希望する
担当保健婦・士に伝えることを本人に言っておく
D …の理由で緊急あるいは必ず面談を希望する
担当保健婦・士より呼び出しがあるということを本人に伝えておく
( 富 山 明 子 ( 神 奈 川 県 予 防 医 学 協 会 ))
《健診時の問診を重視した例》
年一回は必ず全従業員が受ける健康診断に看護職の面談を組み込むこと
は 、多 く の 従 業 員 と の 面 識 が 出 来 そ の 後 の シ ス テ ム を 運 び や す く す る と と も
に 、そ こ に T H P の 基 本 を 取 り 入 れ る こ と で 、心 身 両 面 の 個 人 の 健 康 度 を 継
続的に観察したり、問題や課題の早期発見、更には日常生活を振り返り、本
人の気づきを高め、対応能力の向上を支援していくよい機会となり得る。
そのためには健診時に看護職が個人と向き合う充分な問診時間を確保す
る こ と が 必 要 で あ り 、問 診 時 間 を 中 心 と し て 健 診 の 流 れ を 組 む こ と が の ぞ ま
し い 。し か し 、現 実 に は 川 の 流 れ を 少 し 塞 き 止 め る 形 で 問 診 を 組 み こ ま ざ る
を 得 な い 場 合 も あ る 。そ の よ う な 状 況 で も 問 診 票 の 工 夫 と 、面 談 技 術 を 向 上
す る こ と で 最 大 限 に 問 診 を 有 効 に す る こ と が 出 来 る 。問 診 票 は 、健 診 を 外 部
機 関 に 委 託 す る 場 合 で も 、事 業 場 の ニ ー ズ に 合 わ せ て オ リ ジ ナ ル な も の を 作
り、内容は、身体面のみでなく、ストレスに対応出来る項目を加えるなどが
考 え ら れ る 。 面 談 技 術 と い う と 巾 広 い が 、「 今 本 人 が ど ん な 気 持 ち で い る の
か( 何 か 言 い た そ う 、 楽 し そ う 、 怒 っ て い る 、 愛 想 よ く 付 き 合 っ て い る 、 緊
295
張している、焦っている 等)を感じとり、その人のペースに合わせて一言
聞 い て み る 。ま た 、単 に こ こ だ け の 関 わ り で は な く こ れ か ら も 関 係 を も っ て
行く人だという意識を持ち、関心を持って対面する」ことを心がける。その
事 が 、短 時 間 の 問 診 で も 事 後 の シ ス テ ム に 有 効 に つ な が っ て い く と 思 わ れ る 。
【事例5 短時間の問診で対応した事例】
Aさん 男性 33歳
《健康診断問診時》
開発
残業20時間
学卒
健 診 会 場 は い つ も の よ う に 保 健 婦・ 士 の 問 診 の 前 だ け 用 意 し た 椅 子 も な く
な り 長 蛇 の 列 に な っ て い た 。順 番 が 来 て 保 健 婦・ 士 の 前 に 座 ら れ た A さ ん は
あ ま り 記 憶 に 残 っ て い な い 人 だ っ た 。「 す み ま せ ん ね 、 随 分 待 た れ ま し た で
し ょ う 」と 持 参 さ れ た 健 診 会 場 で 配 ら れ る 個 人 票 と 事 前 に 記 入 し て 来 て も ら
っ た ス ト レ ス 調 査 票 を 受 け 取 り な が ら 声 を か け た 。答 え は な く 、本 人 は 悪 い
こ と で も し た よ う な 感 じ で 小 さ く な っ て お ら れ る よ う な 印 象 を 受 け た 。顔 色
も 悪 い し 、も う 少 し 立 ち 入 っ て み た い と 思 い 、個 人 票 を ぱ ら ぱ ら め く り な が
ら 「 本 社 か ら こ ら れ た ん で す ね ぇ 」「 あ ま り 健 診 で は 今 ま で は 問 題 な か っ た
よ う で す ね ぇ 」と 語 り か け な が ら 、本 人 が 何 か 話 し て く れ る の を 待 っ て い た 。
問診票の情報も特に問題なさそうだし、お酒も適量、たばこもすわない、残
業時間も多くはない。しかし、何か気になる。本人もさっさとこの場を切り
上 げ た い と い う 風 で も な い の で 、 ま た「 こ の 事 業 場 は 如 何 で す か 」と 問 い 掛
け て み た 。 本 人 か ら「 出 先 の 職 場 に 一 人 な の で め い っ て し ま う 。 本 来 上 司 と
二 人 職 場 だ が 殆 ど 出 張 で い な い 、 自 分 は 精 神 的 に 強 い と 思 っ て い た が ...」
と い う 話 が 始 ま っ た 。「 そ う な ん で す か 、ご 苦 労 が あ る ん で す ね 。と こ ろ で 、
ご め ん な さ い ね 、 も っ と お 話 し を 聞 き た い の で す が 、こ こ で は き ち ん と 聞 け
ないので後日健康相談室にこられませんか」と、本人の意志を確認し、その
場 で 面 談 日( 出 来 る だ け 早 い 日 に 設 定 )を 事 前 に 記 入 し た 約 束 票 を 渡 し て 後
日につないだ。
流れ
健診案内 →
受診票
問診票
健 診 受 診 問 診 問
題
なし
あり
面談予約
放置
事後面談
《事後面談》
健診会場で面談の約束をした方には、およそ1時間の時間を取っている。
約 束 の 時 間 に き ち ん と こ ら れ た A さ ん は 、健 診 会 場 で あ っ た 時 よ り も ゆ と り
を感じた。面談室はドアを閉めて、周りを気にせず話せる環境にした。本人
296
か ら の 話 し は「 不 安 が 続 き 、自 殺 ま で は 考 え な い が ど う し よ う も な い 気 持 ち
になる。一月前から症状強くなる。最近仕事の責任が重くなった。職場は一
人 で い る こ と が 殆 ど で 、一 日 全 く 誰 と も 話 さ な い 日 が 多 い 。症 状 は コ ミ ュ ニ
ケ ー シ ョ ン が な い こ と 、仕 事 の 負 担 が 増 え た こ と か ら 強 く な っ て き た 」と 振
り 替 え る 。更 に 聴 い て い く と 上 司 と の 関 係 も 良 く な い 。疲 れ の 色 が 表 面 に 出
て い た の で 何 ら か の 対 策 の 必 要 性 を 感 じ 、 今 後 の こ と を 話 し 合 っ た 。そ の 中
で 現 状 把 握 の た め に 職 場 訪 問 を 提 案 し 、ま た ス ト レ ス 対 処 法 の 指 導 を 行 っ た 。
職 場 訪 問 に よ り 、 本 人 の 置 か れ て い る 環 境 に 問 題 が あ る こ と が わ か り( 一
人 職 場 、 孤 立 )、 上 司 に 感 想 を 伝 え 、 グ ル ー プ の 見 直 し が 行 わ れ た 。
その後、本人は仕事の相談者も身近に出来、元気をとりもどされた。
《まとめ》
こ れ は「 お や ? 」 思 う 感 じ を お ろ そ か に し な い で 関 わ り 、 職 場 巡 視 等 に よ
る 情 報 収 集 の 段 階 で 、問 題 と な っ て い る 条 件 が 改 善 さ れ 解 決 に つ な が っ た 事
例 で あ る 。傾 聴 は も ち ろ ん 面 談 を す る 看 護 職 の 敏 感 な 感 受 性 を 磨 く 事 と 、本
人をとりまく環境を看護職自身の目で見る事の重要性を感じた。
【事例6 問診票を活用した事例】
B さん 女性、19歳、高卒、ストレス得点 44点
《健康診断問診から個人面談まで》
Bさんは、一年前に入社。入社時の教育や、入社後6ヶ月後の面談で会っ
て い る た め に 、顔 見 知 り で あ っ た 。性 格 も 明 る く 人 な つ こ い 感 じ の す る 人 だ
っ た 。健 診 に は 何 人 か の 職 場 の 人 と 一 緒 に 来 て 、待 ち 時 間 も 楽 し く 会 話 を は
ず ま せ て い た 。 順 番 が 回 っ て 来 た 時 は 、「 や あ 、 こ の 頃 ど う ? 」 と い う 会 話
か ら 始 ま っ た 。「 最 近 忙 し く て 肩 が こ る ん で す よ 」 と 、 相 変 わ ら ず に こ に こ
話されるのに、うっかり表面にとらわれて、パンフレットを渡し、
「じゃあ、
またね」と終わってしまった。
健診後に健診時に持参された問診票を機会集計しストレスの評価を行い、
高 得 点 者 に は 個 人 面 談 を 実 施 す る が 、B さ ん の 得 点 は 面 談 対 象 範 囲 に 入 っ て
おり、上司経由の面談案内を送り個人面談を実施した。
《個人面談》
高得点者の面談は、上司を通じて案内し、30分の時間をとっている。二
人 っ き り で の 面 談 で は 、遠 慮 深 げ で は あ る が 、明 確 に 自 分 の 困 っ た 現 状 を 語
っ た 。 内 容 は「 仕 事 が ど ん ど ん 増 え 帰 り も 遅 く な り 疲 れ が 溜 ま っ て 、 い ろ い
ろ 心 配 な 症 状 が あ り 誰 か に 相 談 し た か っ た が 、他 の 人 は 自 分 よ り も っ と 忙 し
い の で 、自 分 も 頑 張 ら な く て は い け な い と 思 い 誰 に も 言 え な か っ た 。頑 張 っ
て は い る が だ ん だ ん 仕 事 の 先 が 見 え な く な り 気 持 ち が 重 く 、益 々 は か ど ら な
くなってきた。最近、足が重くなり歩きずらくなったり、視力が朝も回復し
な か つ た り 、食 事 も 何 を 食 べ て い る の か 分 か ら な く な り 、疲 れ て い る の に 眠
れ な い 日 も 多 く な っ た 。」と い う こ と だ っ た 。
「こんなこと言っていいのかな、
わ が ま ま か な 。」 と 言 わ れ る B さ ん に 「 と て も 、 私 に は わ が ま ま と は 思 え な
297
健診案内 →
受診票
問診票
健診受診
問診
問 題 あ り
事後面談
なし
放置
問診票ストレス得点
高
面談案内
個人面談
低
放置
上司 本人
い よ 、体 が 今 の 状 態 を 何 と か し て よ と 言 っ て い る よ う に 思 え る よ 」と 伝 え 、
産業医の面談を進めた。
産業医より、仕事のペースダウンをすすめられ、職場に対しては本人がよ
い 仕 事 の ペ ー ス 配 分 を 保 て る よ う に「 就 業 制 限 」 を 出 し た 。 本 人 は 少 し 休 養
を と る と と も に 、先 輩 と 仕 事 の 再 見 直 し を し て 優 先 順 位 を 決 め て 取 り 掛 か る
ことが出来、症状は消えていった。
《まとめ》
これは、問診票の点数化で問題のある人が表面化され、産業医の措置で対
策 に つ な が っ た 事 例 で あ る 。健 診 の 問 診 に お い て 色 々 な 手 段 を と り い れ 、タ
イムリーな産業医との連携の必要性を改めて感じるものであった。
(塩谷光子(日立通信健康管理センタ)
298
Ⅳ−6.メンターの選抜要件に関する研究
A.問題
メ ン タ ー 制 度 を 導 入 す る 上 で 大 き な 問 題 と な る こ と の ひ と つ に 、「 ど の よ
う な 人 を メ ン タ − と し て 選 抜 す れ ば よ い か 」と い う メ ン タ − の 選 抜 要 件 に 関
する議論がある。本研究では、個人のパーソナリティ、動機、態度といった
心 理 学 的 特 性 と メ ン タ リ ン グ 経 験 に 焦 点 を 当 て 、良 き メ ン タ ー と し て の 要 件
についてアプローチする。
1980 年 以 降 、 メ ン タ リ ン グ 研 究 で は 、「 メ ン タ ー と は ど の よ う な 役 割 を 果
す の か 」、「 メ ン タ リ ン グ と は ど の よ う な 行 動 な の か 」と い っ た メ ン タ リ ン グ
の 機 能 と 、「 メ ン タ リ ン グ は メ ン タ ー や プ ロ テ ジ ェ に 対 し て ど の よ う な 利 益
を も た ら す の か 」と い っ た メ ン タ リ ン グ の 効 果 に 主 な 関 心 が 寄 せ ら れ て き た
( Aryee,Chay,& Chew,1996 )。 そ の 結 果 、 メ ン タ リ ン グ の 機 能 に つ い て は 、
プ ロ テ ジ ェ の キ ャ リ ア 発 達 を 促 す た め の 支 援 で あ る「 キ ャ リ ア 的 機 能 」と 、
企業人/社会人として心身共に成熟した人間への成長を促すための支援で
あ る 「 心 理 ・ 社 会 的 機 能 」 の 2 機 能 が 明 ら か に さ れ て き た
( e.g.,Burke,1984;Kram,1985;Noe,1988 )。
一 方 、 メ ン タ リ ン グ の 効 果 に 関 し て は 、メ ン タ ー や プ ロ テ ジ ェ の キ ャ リ ア
発達・満足・サクセスの向上をはじめ、学習の促進、職務業績・満足 ・意欲
や 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 向 上 、組 織 社 会 化 の 成 功 な ど の 効 果 が 確 認 さ れ て き
た ( e.g.,Phillips-Jones,1982;Hunt
&
Michael,1984;Burke,1984;
Kram,1985;Fagenson,1989;Dreher & Ash,1990 )。
近年、このようなメンタリングの持つ様々な効果を、経営組織において人
為 的 に 活 用 し よ う と す る 機 運 が 高 ま っ て き て い る 。 米 国 企 業 (e.g.,
Motorola, AT&T, IBM)を 中 心 に 、 本 来 人 間 関 係 の 中 で 自 発 的 に 生 じ る メ ン タ
リ ン グ( 非 公 式 メ ン タ リ ン グ ) を 、 組 織 か ら の 介 入 に よ り 人 為 的 に 生 じ さ せ
( 公 式 メ ン タ リ ン グ )、 メ ン タ リ ン グ の 効 果 を 活 用 す る プ ロ グ ラ ム ( メ ン タ
リ ン グ・ プ ロ グ ラ ム ) が 開 発 さ れ て き て い る 。 メ ン タ リ ン グ・ プ ロ グ ラ ム そ
の も の の 具 体 的 利 用 目 的 は 多 様 で あ る 。し か し そ の 手 続 き に 関 し て は 、組 織
が メ ン タ リ ン グ を 行 う メ ン タ ー を 確 保 、訓 練 し 、メ ン タ リ ン グ を 必 要 と す る
人 々( プ ロ テ ジ ェ ) に 提 供 し 、 そ の 実 施 を モ ニ タ リ ン グ す る と い う 一 連 の プ
ロセスという面で共通している。
公 式 メ ン タ リ ン グ の 活 用 を 前 に 、組 織 は メ ン タ ー と し て の 役 割 の 受 容 を 希
望 す る 人 々 の 中 か ら 良 き メ ン タ ー と な る べ き 人 材 を 、よ り 多 く か つ 適 切 に 選
抜 す る 必 要 に 迫 ら れ て き て い る 。 こ の 、「 い か に 良 き メ ン タ ー と な り う る 人
を 選 ぶ の か 」と い う 問 題 は 、と り も な お さ ず 、良 き メ ン タ ー と し て の「 適 性 」
を判断する際の基準/要因を確立する問題に帰結できる。
メ ン タ ー と し て の 適 性 に 関 し て は 、 こ れ ま で 、 個 人 の ① 職 務 及 び 組 織 ・産
299
業 に 関 す る 技 術 的 ・ 専 門 的 能 力 ・ 知 識・ ス キ ル の 熟 練 度 、 ② 地 位・ 権 力 や 尊
敬 ・ 信 頼 と い っ た 公 式 / 非 公 式 な 評 価 、 ③ 人 間 性( 例 : 寛 大 さ 、 柔 軟 性 、 人
好 き 、 世 話 好 き 等 )、 を 重 視 す べ き で あ る と さ れ て き た 。 し か し 、 現 実 の 選
抜 に お い て は 、① と ② に 示 さ れ る 、個 人 の 地 位 や 権 力 に 関 連 す る キ ャ リ ア サ
ク セ ス の 程 度 や 技 術 的・ 専 門 的 能 力 / 知 識 の 程 度 が 重 視 さ れ 、③ の 個 人 の パ
ー ソ ナ リ テ ィ 、動 機 、態 度 と い っ た 心 理 学 的 特 性 に つ い て は あ ま り 重 視 さ れ
な い 傾 向 が あ る (Myers & Humphreys,1985) 。
メ ン タ リ ン グ の 概 念 や 先 行 研 究 ( e.g.,Halatin & Knotts,1982 ; Myers &
Humphreys,1985 ; McKeen & Burke,1989) の 結 果 か ら 見 て も 、 メ ン タ ー に と
っ て 、様 々 な 領 域 に 関 す る 豊 か な 知 識 や 技 術 的・ 専 門 的 能 力 は 必 要 条 件 で あ
り 、企 業 や 社 会 で の よ り 高 い 地 位 や 影 響 力 の 保 有 も 必 要 条 件 で あ る と 考 え ら
れ る 。 し か し 一 方 で 、「 良 き メ ン タ ー と し て 要 件 は こ の よ う な 知 識 ・ ス キ ル
や 地 位・影響力のみで十分なのか」という疑問があることも事実である。組
織 市 民 行 動 や メ ン タ リ ン グ な ど に 代 表 さ れ る 向 社 会 的 行 動 は 、人 々 の 安 定 的
な 性 格 特 性 に 影 響 を 受 け る と 指 摘 さ れ て い る (George &
Brief,1992;Aryee,Chay,& Chew,1996)。 さ ら に 、 個 人 の 性 別 、 年 齢 、 人 種 、
地位といったデモグラフィック要因を中心に展開されてきたメンタリング
に 対 す る メ ン タ ー の 影 響 要 因 に つ い て の 研 究 に お い て も 、僅 か な が ら で は あ
る が 、メ ン タ ー の 内 的 要 因 や メ ン タ リ ン グ の 経 験 の 及 ぼ す 影 響 が 検 証 さ れ て
い る 。 ロ ー カ ス ・ オ ブ ・ コ ン ト ロ ー ル (Allen,et al.,1997) 、 愛 他 主 義 や ポ
ジ テ ィ ブ な 情 動 ( Aryee,Chay,& Chew,1996) 、 達 成 動 機 (久 村 ,1996)、 メ ン タ
ー / プ ロ テ ジ ェ と し て の メ ン タ リ ン グ 経 験 ( Ragins & Cotton,
1993;Fagenson & Amendola,1993;Allen,et al.,1997; 久 村 ,1996) は 、 メ ン タ
リングの実施やその意欲に対してポジティブな影響を及ぼすことが確認さ
れてきている。
このような研究結果を踏まえると、メンターとしての適性について、個人
の 知 識・ ス キ ル や 地 位・ 権 力 と い う 物 理 的 ・ 客 観 的 要 因 の み に 依 存 し て 議 論
す る こ と は 不 十 分 で あ り 、む し ろ 個 人 の パ ー ソ ナ リ テ ィ や 動 機 と い っ た 心 理
学 的 特 性 や 、人 々 の メ ン タ リ ン グ へ の 認 識 に 影 響 を 及 ぼ す メ ン タ リ ン グ 経 験
といった要因を重視し議論を進めることが必要ではないかと考えられる。
B.目的
本研究では、メンターとしての適性を判断する際には、個人の心理学的特
性とメンタリング経験についても考慮すべきであろうという問題意識の上
に 立 っ て 、人 々 が 行 っ て い る メ ン タ リ ン グ 行 動 と 個 人 の 心 理 学 的 特 性 お よ び
プロテジェとしてのメンタリング経験との関係性を検証することを目的と
し た 。 具 体 的 に は 、 自 己 の 中 核 的 評 価 (Judge, et al.,1998)を 構 成 す る 傾 性
(disposition)の う ち 三 つ の 傾 性 ― ロ ー カ ス ・ オ ブ ・ コ ン ト ロ ー ル 、 自 尊 心 、
自 己 効 力 感 ― と 、メ ン タ リ ン グ 行 動 へ の 影 響 が 確 認 さ れ て は い る が よ り 一 層
300
の 検 証 を 必 要 と す る 達 成 動 機 を 個 人 の 心 理 学 的 特 性 変 数 と し て 採 用 し 、プ ロ
テ ジ ェ と し て の メ ン タ リ ン グ 経 験 変 数 と 共 に 、現 在 行 っ て い る メ ン タ リ ン グ
行動との関係性について検証を行なうこととした。
C.方 法
1.手続きおよび回答者
大阪または名古屋に本社を置く 9 社に勤務する人々を対象に質問紙調査
( 記 名 式 ) を 実 施 し た 。 調 査 時 期 は 1998 年 8 月 下 旬 か ら 9 月 下 旬 で あ り 、
質 問 紙 は 各 企 業 の 人 事 関 連 部 署 を 通 じ て 配 布 、956 部 を 回 収 し た 。 本 研 究 で
は 、経 営 組 織 に お け る メ ン タ リ ン グ 行 動 の 中 に は 、少 な く と も 権 限 や 地 位 ( 主
任 ・ 係 長 以 上 )を 得 な け れ ば 行 う こ と が で き な い 行 動 が 含 ま れ て い る と い う
指 摘 を 考 慮 し( 久 村 ,1997 )、管 理 職 、 す な わ ち 係 長 職 以 上 の 498 名 の デ ー タ
を 選 択 し 採 用 す る こ と に し た 。 こ の 回 答 者 498 名 の う ち 、 年 齢・ 性 別 の 記 載
が な い 3 名 と 、8 名 以 外 が す べ て 男 性 で あ っ た こ と か ら 8 名 の 女 性 デ ー タ を
削 除 し た 。 そ の 結 果 、 最 終 的 な 分 析 の 対 象 で あ る 487 名 の 構 成 は 、 平 均 年 齢
が 45.46 歳( SD = 7.37)、係 長 職 が 104 名 (21.4% )・課 長 職 が 285 名( 58.5 % )・
部 長 職 以 上 が 98 名 (20.1 % )で あ っ た 。
2.分析に用いた変数
分 析 で は 、 デ モ グ ラ フ ィ ッ ク 変 数( 年 齢 、 性 別 、 役 職 ) の 他 に 、 以 下 の 変
数を用いた。
1)メンタリングに関する変数
Kram(1985)に よ る メ ン タ リ ン グ の 2 機 能 を 前 提 に 、 Noe(1998)、 Dreher &
Ash(1990) 、 Ragins & McFarlin(1990)の 項 目 に 日 本 企 業 の 状 況 を 加 味 し た 久
村 (1996)の 尺 度 を 参 考 に 、メ ン タ リ ン グ 行 動( = 現 在 行 っ て い る メ ン タ リ ン
グ 行 動 ) 全 9 項 目 (α =.81) ― キ ャ リ ア 的 機 能 5 項 目 (α =.73) 、 心 理・ 社 会 的
機 能 4 項 目 ( α =.67) ― と 、プ ロ テ ジ ェ 経 験( 現 在 受 け て い る メ ン タ リ ン グ 行
動 ) 全 9 項 目 (α =.92) ― キ ャ リ ア 的 機 能 5 項 目 ( α =.86) 、 心 理・ 社 会 的 機 能
4 項 目 ( α =.85) ― を 作 成 し た 。
2)心理学的特性に関する変数
① 達 成 動 機: 堀 野 (1987) に よ っ て 開 発 さ れ た 項 目 を 参 考 に 、自 己 充 実 的
達 成 動 機 4 項 目 ( α =.60) と 競 争 的 達 成 動 機 5 項 目 ( α =.83) を 作 成 し た 。
② 自 尊 心 : Rosenberg(1965)の 尺 度 を 参 考 に 作 成 し た ( 6 項 目 、 α =.67 )。
③ 自 己 効 力 感 : Judge,et al.(1998)の “ Generalized Self-Efficacy 尺
度”を参考に作成
し た 6 項 目 、 α =.81 )。
④ ロ ー カ ス ・ オ ブ・ コ ン ト ロ ー ル : Levenson(1981) の“ Internality,
Powerful Others, and Chance” 尺 度 を 参 考 に 作 成 し た( 7 項目、α =.65 )。
301
D.結 果
1.メンタリング行動と各変数間の関係に関する分析結果
現在行っているメンタリング行動と個人の心理学的特性およびプロテジ
ェ と し て の メ ン タ リ ン グ 経 験 と の 関 係 に つ い て の 概 要 を 見 る た め に 、単 相 関
係 数 を 算 出 し た ( 表 1 )。
そ の 結 果 、 全 体 的 に は 、メ ン タ リ ン グ 行 動 と 個 人 の 心 理 学 的 特 性 及 び プ ロ
テ ジ ェ 経 験 と の 間 に 、1 % 水 準 で 統 計 的 に 有 意 な 弱 い ま た は 中 程 度 の 相 関 関
係 (r=.19∼ .37,p<.01)が 確 認 さ れ た 。特 に 、プ ロ テ ジ ェ 経 験 (r=.37,p<.01) 、
自 己 効 力 感 (r=.32,p<.01)、自 己 充 実 的 達 成 動 機 (r=.31,p<.01)と の 間 に 統 計
的 に 有 意 な 相 関 関 係 が 確 認 さ れ た 。さ ら に メ ン タ リ ン グ 行 動 を 機 能 別 に 見 た
場合、特に、メンタリング行動のキャリア的機能はプロテジェ経験
(r=.33,p<.01) と の 間 に 、 心 理 ・ 社 会 的 機 能 は 自 己 充 実 的 達 成 動 機
(r=.34,p<.01)、 プ ロ テ ジ ェ 経 験 (r=.32,p<.01)、 自 己 効 力 感 (r=.30,p<.01)
との間に、統計的に有意な相関関係が確認された。
2 .メ ン タ リ ン グ 行 動 に 対 す る 個 人 の 心 理 学 的 特 性 / プ ロ テ ジ ェ 経 験 の 影 響
現在行っているメンタリング行動に対する個人の心理学的特性およびプ
ロ テ ジ ェ 経 験 の 影 響 力 を 検 証 す る た め 、階 層 的 重 回 帰 分 析 を 実 施 し た ( 表 2 ) 。
具 体 的 に は 、 メ ン タ リ ン グ 行 動 を 従 属 変 数 と し 、 Model 1 に デ モ グ ラ フ ィ ッ
ク 要 因( 年 齢 、 職 位 )、Model 2 に 個 人 の プ ロ テ ジ ェ と し て の メ ン タ リ ン グ 経
験 、Model 3 に 個 人 の 心 理 学 的 特 性( 自 己 効 力 感 、 自 尊 心 、 ロ ー カ ス・ オ ブ ・
コントロール、競争的/自己充実的達成動機)を投入した。また、メンタリ
ン グ 行 動 を 各 機 能 別 に 従 属 変 数 と し た 分 析 も 実 施 し た (表 2 )。
メ ン タ リ ン グ 行 動 全 体 に 対 す る 重 回 帰 分 析 の 結 果 、個 人 の プ ロ テ ジ ェ 経 験
( β =.308,p<.001) 、 自 己 充 実 的 達 成 動 機 ( β =.203,p<.001)、 自 己 効 力 感 ( β
=.150,p<.01)、年 齢 ( β =.117,p<.05)の 順 で 統 計 的 に 有 意 な 標 準 回 帰 係 数 が
確 認 さ れ た 。 ま た 、 各 Model 2(Adj.R 2 =.146)、 Model 3(Adj.R 2 =.253) に お い
て 統 計 的 に 有 意 な 自 由 度 調 整 済 み 決 定 係 数 が 確 認 さ れ る と 共 に 、モ デ ル 間 に
お い て 統 計 的 に 有 意 な 自 由 度 調 整 済 み 決 定 係 数 の 増 加 分 (Model1-2 △
Adj.R 2 =.136 、 Model2-3 △ Adj.R 2 =.087)も 確 認 さ れ た 。 す な わ ち 、 現 在 行 っ
て い る メ ン タ リ ン グ 行 動 に 対 し て 、弱 い な が ら も 年 齢 の 影 響 力 は 確 認 さ れ た
が 、そ れ 以 上 に 個 人 の プ ロ テ ジ ェ と し て の メ ン タ リ ン グ 経 験 お よ び 自 己 充 実
的達成動機、自己効力感が影響を及ぼしていることが確認された。
機 能 別 メ ン タ リ ン グ 行 動 に 対 す る 重 回 帰 分 析 の 結 果 、キ ャ リ ア 的 機 能 に つ
い て は 、 個 人 の プ ロ テ ジ ェ 経 験 (β =.303,p<.001)、 自 己 充 実 的 達 成 動 機 ( β
=.128,p<.01)、自 己 効 力 感 ( β =.149,p<.05)、年 齢 ( β =.132,p<.05)、職 位 ( β
= . 1 0 8 , p < . 0 5 )の 順 で 統 計 的 に 有 意 な 標 準 回 帰 係 数 が 確 認 さ れ た 。 ま た 、 各
Model 2(Adj.R 2 =.143)、 Model 3(Adj.R 2 =.201) に お い て 統 計 的 に 有 意 な 自 由
度調整済み決定係数が確認されると共に、モデル間において統計的に
302
表1 メンタリング行動と個人の心理学的特性およびプロテジェ経験変数間の相関分析結果
平均
1. メンタリング行動
(全体)
2. メンタリング行動
(キャリア)
3. メンタリング行動
(心理・社会)
4. プロテジェ経験
(全体)
5. プロテジェ経験
(キャリア)
6. プロテジェ経験
(心理・社会)
7. 競争的達成動機
8. 自己充実的達成
動機
9. 自己効力感
10.自尊心
11.ローカス・オブ・
コントロール
12.年齢
13.職位1)
26.23
SD
4.14
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
1.00
14.52
2.59
.92**
1.00
11.70
2.04
.86**
.59**
24.75
6.28
.37**
.33**
.32**
13.78
3.58
.35**
.33**
.28**
.97**
10.96
2.97
.35**
.31**
.32**
.95**
.83**
18.63
3.33
.19**
.15**
.20**
.17**
.17**
.16**
16.37
1.92
.31**
.23**
.34**
.16**
.14**
.15**
.41**
17.80
16.22
2.61
2.44
.32**
.20**
.27**
.17**
.30**
.19**
.15**
.08
.14**
.07
.15**
.08
.24**
.20**
.31**
.18**
1.00
.64**
20.52
2.55
.25**
.19**
.26**
.18**
.18**
.15**
.10*
.29**
.50**
-.19**
-.07
-.15**
-.04
45.46
7.37
.05
.10*
.79
.41
.11*
.15**
* p<.05 ** p<.01 1)係長職=0、課長職以上=1
1.00
-.03
.03
1.00
-.11*
-.05
1.00
-.14**
-.06
1.00
-.05
-.04
1.00
1.00
-.11*
-.01
1.00
.33**
-.06
.02
1.00
-.22**
-.06
1.00
.55**
1.00
303
表2 メンタリング行動に対する個人の心理学的特性およびプロテジェ経験の影響(階層的重回帰分析結果)
年齢
職位1)
1. 従属変数:メンタリング行動
( 全体)
Model 1
Model 2
Model 3
-.022
.029
.117*
.130*
.121*
.078
2. 従属変数:メンタリング行動
( キャリア)
Model 1
Model 2
Model 3
.019
.067
.132*
.148**
.140**
.108*
3. 従属変数:メンタリング行動
( 心理・社会)
Model 1
Model 2
Model 3
- .069
-.028
.066
.072
.066
.021
.374***
.308***
.354***
.303***
.309***
.239***
.146***
.136***
.150**
.030
.073
.029
.203***
.253***
.087***
.143***
.122***
.149*
.012
.041
.037
.128**
.201***
.058***
.093***
.093***
.119*
.041
.094
.009
.250***
.217***
.124***
プロテジェ経験
自己効力感
自尊心
ローカス・オブ・コントロール
競争的達成動機
自己充実的達成動機
Adj. R2
△Adj. R2
.010*
p<.05 ** p<.01 *** p<.001 1) 係長職=0、課長職以上=1
.021**
.000
304
有 意 な 自 由 度 調 整 済 み 決 定 係 数 の 増 加 分 (Model1-2 △ Adj.R 2 =.122 、Model2-3
△ Adj.R 2 =.058)も 確 認 さ れ た 。 す な わ ち 、 現 在 行 っ て い る メ ン タ リ ン グ 行 動
の キ ャ リ ア 的 機 能 に 対 し て 、弱 い な が ら も 年 齢 お よ び 職 位 の 影 響 力 が 確 認 さ
れ た が 、そ れ 以 上 の 影 響 力 が 個 人 の プ ロ テ ジ ェ と し て の メ ン タ リ ン グ 経 験 お
よ び 自 己 充 実 的 達 成 動 機 、 自 己 効 力 感 に お い て 確 認 さ れ た 。 一 方 、 心 理・社
会 的 機 能 に つ い て は 、個 人 の 自 己 充 実 的 達 成 動 機 ( β =.250,p<.001) 、プ ロ テ
ジ ェ 経 験 ( β =.239,p<.001) 、 自 己 効 力 感 ( β =.119,p<.05)の 順 で 統 計 的 に 有
意 な 標 準 回 帰 係 数 が 確 認 さ れ た 。 ま た 、 各 Model 2(Adj.R 2 =.093) 、 Model
3(Adj.R 2 =.217)に お い て 統 計 的 に 有 意 な 自 由 度 調 整 済 み 決 定 係 数 が 確 認 さ
れ る と 共 に 、モ デ ル 間 に お い て 統 計 的 に 有 意 な 自 由 度 調 整 済 み 決 定 係 数 の 増
加 分 (Model1-2 △ Adj.R 2 =.093、 Model2-3 △ Adj.R 2 =.124) も 確 認 さ れ た 。 す
な わ ち 、現 在 行 っ て い る メ ン タ リ ン グ 行 動 の 心 理・ 社 会 的 機 能 に 対 し て は 、
年 齢 や 職 位 と い っ た デ モ グ ラ フ ィ ッ ク 変 数 か ら の 影 響 力 は 確 認 さ れ ず 、む し
ろ 個 人 の 自 己 充 実 的 達 成 動 機 、プ ロ テ ジ ェ と し て の メ ン タ リ ン グ 経 験 お よ び
自己効力感が影響を及ぼしていることが確認された。
E.考 察
本研究では、メンターとしての適性、即ち良きメンターとなりうる人を判
断する要因ついて議論するために、従来の技術的・専門的能力/知識や地
位・ 権 力 と い っ た 要 因 で は な く 、人 々 の パ ー ソ ナ リ テ ィ や 動 機 と い っ た 心 理
学 的 特 性 や メ ン タ リ ン グ 経 験 と い っ た 要 因 に 焦 点 を 当 て 、管 理 職 に お け る メ
ンタリング行動に対する個人の心理学的特性およびプロテジェとしてのメ
ンタリング経験の影響について検証を行なった。
その結果、メンターの選抜を行なう際には、個人の心理学的特性やメンタ
リ ン グ 享 受 経 験 と い っ た 要 因 を 考 慮 す べ き で あ る と い う 結 論 が 得 ら れ た 。特
に 、現 在 行 っ て い る メ ン タ リ ン グ に 対 す る 影 響 力 が 確 認 さ れ た「 自 己 充 実 的
達 成 動 機 」 と 「 自 己 効 力 感 」、 お よ び 「 プ ロ テ ジ ェ と し て の メ ン タ リ ン グ 経
験」を考慮することが必要であると指摘できる。具体的には、①過去に十分
な メ ン タ リ ン グ を 受 け て き て い る 経 験 が あ る こ と 、② 自 己 充 実 的 達 成 動 機 が
高 い こ と 、③ 自 己 効 力 感 が 高 い こ と 、が 良 き メ ン タ ー と し て 求 め ら れ る 要 因
として指摘できよう。
一方、本研究においても、メンタリング行動、特にキャリア的機能に関し
て は 、年 齢 や 職 位 か ら の 影 響 が 確 認 さ れ て お り 、メ ン タ ー と し て の 適 性 を 判
断する際に個人の年齢や職位といった要因も考慮することが必要であると
いえよう。しかし、本研究において、年齢と職位を統制した上でもメンタリ
ン グ 行 動 に 対 し て プ ロ テ ジ ェ 経 験 と 心 理 学 的 特 性 ― 自 己 充 実 的 達 成 動 機・自
己 効 力 感 ― が 影 響 を 及 ぼ し て い る こ と 、さ ら に 心 理・社 会 的 機 能 に 対 し て は
年 齢 と 職 位 が 影 響 を 及 ぼ し て い な い こ と が 確 認 さ れ て い る こ と よ り 、公 式 ・
非 公 式 を 問 わ ず 、 メ ン タ ー を キ ャ リ ア・ サ ク セ ス の 程 度 や 技 術 的・専門的知
305
識 / 能 力 の 程 度 に よ っ て 選 ぶ 傾 向 が 強 い と い う 現 状 は 、メ ン タ リ ン グ の よ り
有 効 か つ 効 果 的 な 活 用 の 限 界 に 繋 が る と 考 え ら れ る 。主 に キ ャ リ ア 的 機 能 を
期 待 し て メ ン タ ー を 選 抜 す る 際 に は 、個 人 の 心 理 学 的 特 性 や プ ロ テ ジ ェ 経 験
と い っ た 要 因 の 他 に 、年 齢 や 職 位 と い っ た 個 人 の キ ャ リ ア・ サ ク セ ス や 権 限
の 程 度 を 考 慮 す る こ と が 必 要 で あ る 。 し か し 、 心 理・ 社 会 的 機 能 を 期 待 し て
メ ン タ ー を 選 抜 す る の で あ れ ば 、個 人 の キ ャ リ ア・ サ ク セ ス や 権 限 の 程 度 の
み で は 十 分 と は 言 え な い 。 つ ま り 、 プ ロ テ ジ ェ に 対 し て キ ャ リ ア 的 側 面( キ
ャ リ ア 的 機 能 ) と 心 理 ・ 社 会 的 側 面( 心 理 ・ 社 会 的 機 能 ) の 両 側 面 へ の 支 援
を 実 施 す る こ と が メ ン タ リ ン グ の 本 質 と 考 え 、そ れ を メ ン タ ー に 求 め る の で
あ れ ば 、 個 人 の 技 術 的・ 専 門 的 能 力 / 知 識 や キ ャ リ ア・ サ ク セ ス の 程 度 の み
な ら ず 、個 人 の パ ー ソ ナ リ テ ィ や 動 機 と い っ た 心 理 学 的 特 性 や 過 去 、現 在 に
問わずどのようにメンタリングと関わってきたかという個人のメンタリン
グに関する経歴についても考慮すべきであろう。
本研究の結果を見るかぎり、メンターの選抜要因として、メンタ−候補者
の心理学的特性やメンタリング経験により多くの関心を払うことの重要性
が 指 摘 で き る 。し か し 、メ ン タ リ ン グ 行 動 と メ ン タ ー の 心 理 学 的 特 性 や メ ン
タ リ ン グ 経 験 と の 関 係 に つ い て の 実 証 研 究 の 蓄 積 は 極 め て 少 な く 、本 研 究 結
果 を 踏 ま え た と し て も 、メ ン タ ー の 選 抜 要 因 を 明 確 に 提 示 す る こ と は 不 可 能
である。今後は、本研究で取り上げた以外の心理学的特性や、また個人のメ
ン タ リ ン グ 享 受 経 験 以 外 の 、よ り 直 接 的 な 個 人 の メ ン タ リ ン グ へ の 認 識( 例
え ば 重 要 性 や 必 要 性 な ど )と い っ た 変 数 に つ い て の 吟 味 が 必 要 で あ る 。さ ら
に は 、 本 研 究 で 採 用 し た「 ど の 程 度 メ ン タ リ ン グ 行 動 を 行 っ て い る か 」 と い
った量的基準からメンタリング行動を捉えるだけでなく、
「行なわれたメン
タ リ ン グ は プ ロ テ ジ ェ に 対 し て 意 義 あ る も の な の か 」と い っ た 質 的 基 準 か ら
メ ン タ リ ン グ を 把 握 し 、メ ン タ リ ン グ に 関 わ る 諸 要 因 を 検 証 す る 必 要 も あ ろ
う。
F.メンタリングの位置づけについて
本 研 究 班 で は 、 今 年 度 を 含 め て 5 年 間 に わ た り 、メ ン タ リ ン グ に 関 し て 、
そのストレス対策の手法としての検討を行ってきた。
平成9年度、10年度の研究から示唆されているように、メンタリングは、
「 提 供 す る 側 」 に も「 受 け る 側 」 に も ス ト レ ス 低 減 作 用( メ ン タ ル ヘ ル ス 向
上作用)を有することが示唆されている。したがって、ストレス対策におけ
る 一 つ の オ プ シ ョ ン と し て は 有 用 で あ る と 考 え ら れ る 。 し か し な が ら 、メ ン
タ リ ン グ は 、 労 働 衛 生・ 産 業 保 健 の 枠 組 み と 人 事・ 労 務 管 理 の 枠 組 み に ま た
が る 手 法 で あ り 、 現 時 点 で は 、 労 働 衛 生・ 産 業 保 健 の 中 心 的 な 手 法 と し て 位
置 づ け る の で は な く 、む し ろ 人 事・ 労 務 管 理 に お け る 人 材 育 成 教 育 の 中 に 位
置 づ け る こ と が 妥 当 で あ る と 考 え ら れ る 。 そ の 中 で 、メ ン タ リ ン グ は ス ト レ
ス 対 策( メ ン タ ル ヘ ル ス 対 策 )と し て の 意 味 も 有 す る こ と を 強 調 す る こ と が
306
望ましい。
研 究 者:渡辺直登(慶應義塾大学大学院経営管理研究科)
研究協力者:久村恵子(南山大学大学院経営学研究科)
G . 文 献
1)Allen,T.D.,Poteet,N.L.,Russell,J.E.A.,& Dobbins,G.H. 1997 A field study
of factors related to supervisors’ willingness to mentor others. Journal
of Vocational Behavior, 50, 1-22.
2 ) Aryee,S.,Chay,Y.W.,&Chew,J. 1996
The motivation to mentor among
managerial employees. Group & Organization Management, 21 (3), 261-277.
3)Burke, R.J. 1984 Mentors in Organizations. Group & Organization Studies,
9 (3), 353-372.
4)Dreher, G.F. & Ash, R.A. 1990 A comparative study of among men and women
in managerial, professional and technical positions. Journal of Applied
Psychology, 75, 539-546.
5 ) Fagenson, E.A. 1989 The mentor advantage : Perceived career / job
experiences of proteges vs. non-proteges. Journal of Organizational
Behavior, 10, 309-320.
6)Fagenson, E.A. & Amendola, K.L. 1993 TQM - Total Quality Mentoring ";
Factors influencing mentoring functions provided and received. Academy
of Management Best Paper Proceedings, 58-62.
7 ) George,J.M. & Brief,A.P. 1992 Feeling good-doing good : A conceptual
analysis of the mood at work-organizational spontaneity relationship.
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8)Halatin,T.J. & Knotts,R.E. 1982 Becoming a mentor : Are the risk worth
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9)堀野緑 1987 達成動機の構成概念の再検討. 教育心理学研究, 35, 148-154.
10)Hunt, D.M. & Michael, C. 1983 Mentorship : A career development training
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11)Judge,T.A.,Kluger,A.N.,Locke,E.A. & Durham,C.C. 1998 Dispotional effects
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12 ) Kram, K.E. 1985 Mentoring at work : Developmental relationships in
organizational life. Glenview, IL : Scott, Foresman.
13)久村恵子. 1996 経営組織におけるメンタリング行動の研究. 南山大学大学院
経営学研究科修士論文.
14)久村恵子. 1997 メンタリング行動と組織内キャリアに関する研究―質問紙に
よる横断的研究結果をもとに―.産業・組織心理学会第 13 回大会発表論文集,
307
66-68.
15)Levenson,H. 1981 Differentiating among internality, powerful others, and
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15-63, NY : Academic Press.
16)McKeen, C.A. & Burke, R.J. 1989 Mentor relationships in organizations :
issues, strategies and prospects for women.
Journal of Management
Development, 8, 33-42.
17)Myers,D.W. & Humphreys,N.J. 1985 The caveats in mentorship. Business
Horizons, July-August, 9-14.
18) Noe, R.A. 1988 An investigation of the determinants of successful assigned
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19)Phillips-Jones, L. 1982 Mentors and Proteges. New York : Arbor House.
20 ) Ragins, B.R & Cotton, J.L. 1993 Gender and Willingness to mentor in
organizations. Journal of Management, 19 (1), 97-111.
21 ) Rosenberg,M. 1965 Society and the adolescent self-image. Princeton,
NJ : Princeton University Press.
「産業メンタルヘルスシステム」
研究グループ報告
309
Ⅴ − 1 .産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム グ ル ー プ 研 究 成 果 の
概要
研究の目的
平成 9 年度から研究グループが置かれ、実際の社会のなかで産業メンタ
ルヘルスの取り組みを進めていくシステムについて研究を行った。
過 去 2 年 間 ( 平 成 9-10 年 ) の 研 究 の 概 要
1.平成9年度研究の概要
3 グループに分かれ、①産業メンタルヘルスシステムの現状に関する全
国調査、②事業場のメンタルヘルスシステムの聞き取り調査、③アンケー
トまたは聞き取りによる利用者の立場から見たメンタルヘルスシステムの
あり方についての調査を行った。研究結果の概要は次のとおりである。
(1)産業メンタルヘルスシステムの現状に関する全国調査
a .産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス の 取 り 組 み は 大 規 模 事 業 場 ほ ど 実 施 率 が 高 か っ た 。
b .シ ス テ ム 導 入 に 積 極 的 な 事 業 場 は 約 4 分 の 1 で 大 規 模 事 業 場 に 多 か っ
た。
(2)事業場のメンタルヘルスシステムの聞き取り調査
事業場におけるメンタルヘルスシステムの創設や維持に関する聞き取り
調 査 を 11 事 業 場 に 行 い 、 事 業 場 で シ ス テ ム づ く り を 進 め る 方 策 に つ い て 次
のとおり整理した。
a.メンタルヘルスに関する組織診断の強化、技術開発
b.職制上、重要な存在である管理者教育の充実
c .事 業 場 に お け る メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム 開 発 を 援 助 す る 専 門 機 関 や 人
材の育成
d .シ ス テ ム づ く り を 指 導 で き る 産 業 医 の 確 保 等 に よ る 産 業 保 健 シ ス テ ム
の活性化
e.産業保健専門職等の職場をこえた交流の推進
f.実践事例集づくりと情報提供
g.事業場を越えて共に利用できる地域システムづくり
(3)利用者の立場から見たメンタルヘルスシステムのあり方
サポート資源と健康度、職場適応感について健康調査の解析を行ったと
ころ、次のことが明らかになった。
a.相談相手をもたない人は、身体健康度、精神健康度、職場適応に問題
が 多 い ( サ ポ ー ト 資 源 を 持 た な い 人 た ち へ の 支 援 が 課 題 で あ る )。
b .身 近 な 上 司 と の 関 係 性 が 職 場 適 応 感 に 大 き く 影 響 す る 。こ の た め 上 司
のマネジメント教育が重要である。
310
2 . 平 成 10 年 度 研 究 の 概 要
9年度の研究成果を踏まえて 3 グループで研究を進めた。各グループの
研究は、①事業場における産業メンタルヘルスシステムのあり様を、規模
別・業種別に全国調査すること、②事業場、行政、産業保健推進センター、
地域産業保健センター、健診機関、精神保健福祉センター等に聞き取り調
査を実施し、産業メンタルヘルスシステムを地域のなかのシステムとして
描き出すこと、③メンタルヘルスサポートシステムの利便性について、利
用 者 側 の 調 査 を 行 う こ と で あ っ た 。研 究 結 果 の 概 要 は 次 の と お り で あ っ た 。
(1)産業メンタルヘルスシステムのあり様の規模別・業種別の全国調査
a .メ ン タ ル ヘ ル ス 対 策 の 実 施 率 は 企 業 の 規 模 と 大 き く 関 わ り が あ る が 、
業種別には一定の傾向は認められなかった。
b . シ ス テ ム 導 入 上 の 困 難 を 37.5% の 事 業 場 が 表 明 し て い る こ と か ら 、
ノウハウを提供することによってシステム導入が進むと考えられた。
(2)産業メンタルヘルスシステムに関する聞き取り調査
メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム に 関 連 す る 、さ ま ざ ま な 機 関 の 役 割 に つ い て 現 状
と 将 来 の 可 能 性 を 検 討 し 、各 機 関 の 役 割 に つ い て 述 べ た う え で 、次 の ま と め
を行った。
a .産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス を シ ス テ ム と し て 根 付 か せ て い く た め に は 、産 業
保健と地域保健が互いの特徴を発揮しながら協力する取り組みを進め
ていく必要がある。
b . メ ン タ ル ヘ ル ス は 「 不 適 応 者 対 策 」「 疾 病 対 策 」 と 誤 解 さ れ る こ と が
多 い 。 こ の た め C S( 顧 客 満 足 ) を キ ー ワ ー ド に す る な ど 、 メ ン タ ル ヘ
ル ス が 健 全 な 企 業 活 動 を 支 え る 重 要 な 要 素 で あ る と い う 理 解 を 、経 営 者
に広める必要がある。
c .衛 生 管 理 者 を 、産 業 保 健 ス タ ッ フ の 重 要 な 一 員 と 認 識 す る 必 要 が あ る 。
d .研 修 や 情 報 ア ク セ ス の 向 上 等 に よ っ て 、個 々 の 事 業 場 が 主 体 的 に シ ス
テムづくりに取り組む機会を増やす必要がある。
(3)メンタルヘルスサポートシステムの利便性に関する調査
勤労者にメンタルヘルスサポートシステムの利用に関する意識や希望を
調 査 し た と こ ろ 、社 外 の 専 門 家 に 相 談 し た い と い う 希 望 を 半 数 以 上 が 持 っ て
いた。
平成 11 年度研究の概要
1.研究の目的
2 年 間 の 研 究 に 加 え て 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に お け る 調 査 研 究 や 追 加 的
な 聞 き 取 り 調 査 、 研 究 会 に お け る 検 討 を も と に 、事 業 場 の 規 模 別 に 見 た メ ン
タルヘルスシステムのあり方について検討した。
2.研究結果
研 究 は 、① 全 国 の 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 発 行 し た 研 究 報 告 書 の 要 約 を 作
311
成 し 、産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス の シ ス テ ム づ く り に 重 要 な 情 報 を 抽 出 す る こ と 、
②これまでの聞き取り調査で情報が不十分なところについて補充的な聞き
取 り 調 査 を 行 う こ と 、③ こ れ ま で の 研 究 で 重 要 な 意 見 を 得 る こ と の で き た 研
究 協 力 者 を 加 え て 研 究 会 を 開 催 し 、事 業 場 の 規 模 別 に 見 た メ ン タ ル ヘ ル ス シ
ス テ ム の あ り 方 に つ い て 検 討 す る こ と で あ っ た 。こ の 結 果 、メ ン タ ル ヘ ル ス
の 取 り 組 み を 進 め る に は 、① 事 業 場 規 模 に 応 じ た 社 内 シ ス テ ム 、② 地 域 資 源
の 活 用 を 進 め る シ ス テ ム と は 、 個 人 情 報 の 守 秘 は 当 然 の こ と と し て 、勤 労 者
が 事 業 場 外 の 相 談 機 関 や 医 療 機 関 を 利 用 す る と き の 利 便 性 を 高 め る こ と 、事
業場がシステムづくりを行うときに協力を得やすい環境づくりを目的とす
る も の で 、事 業 場 の 規 模 別 に 分 け て シ ス テ ム づ く り の 概 要 を チ ャ ー ト に 整 理
し た ( 図 1-3 )。
(1)事業場規模に応じたシステムづくり
a .社 内 に メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム を 持 つ 大 規 模 事 業 場 で は シ ス テ ム づ く
りの情報交換の場が重要である。
b . 中 小・ 零 細 事 業 場 で は 社 内 に シ ス テ ム を 持 つ こ と が 困 難 で あ り 、 地 域
保健機関が産業保健機関に協力できるシステムづくりが必要である。
c .事 業 場 の 規 模 に 関 わ り な く 、社 内 シ ス テ ム に お け る 衛 生 管 理 者 の 役 割
は 重 要 で あ り 、メ ン タ ル ヘ ル ス に お け る 役 割 の 明 確 化 を 図 る 必 要 が あ る 。
(2)地域資源の活用を進めるシステムづくり
a. 産業保健推進センターに精神保健福祉センターが技術協力を行い、
両 者 の 共 同 に よ っ て 、産 業 保 健 と 地 域 保 健 の 結 び つ く こ と で メ ン タ ル へ
ルスに取り組む技術基盤の整備を図る必要がある。
b .産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に は 、① シ ス テ ム づ く り を 支 え る 人 材 や 支 援 機
関 に つ い て の 情 報 提 供 、情 報 の デ ー タ ベ ー ス 化 、② 事 業 場 等 へ の シ ス テ
ム づ く り へ の 継 続 支 援 と 情 報 提 供 、③ 研 修 会 や 研 究 会 の 開 催 に よ る 産 業
メンタルヘルスに関する地域ネットワークづくりの支援が求められて
いる。
c.労災病院は産業医等への研修等を行うとともに、メンタルへルスセン
ターを充実させ、心の健康相談を希望する勤労者のニードに応えていく
必要がある。
d .中 小・零 細 事 業 場 の メ ン タ ル へ ル ス 推 進 に は 、地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー ・
保 健 所・ 市 町 村 な ど の 地 域 保 健 機 関 が 協 力 し 、勤 労 者 の 健 康 づ く り と し
て地域保健のなかに根付かせていく必要がある。
3年間の研究成果
産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス の 取 り 組 み を す す め る に は 、産 業 保 健 に 地 域 保 健 が 共
同 で き る 連 携 組 織 づ く り が 必 要 で あ り 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー と 精 神 保 健 福
祉 セ ン タ ー の 協 力 体 制 の も と に 、そ の 整 備 を す す め る こ と が 実 践 的 で あ る こ
と を 提 案 し た 。今 後 の 課 題 と し て 、産 業 保 健 の 共 同 に よ る パ イ ロ ッ ト 事 業 が
312
進 む よ う 、研 究 や 情 報 提 供 で バ ッ ク ア ッ プ す る 体 制 の 整 備 が 望 ま れ る 。ま た
研 究 結 果 の フ ィ ー ド バ ッ ク と し て 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に お け る 研 究 概 要
集と各都道府県の産業メンタルヘルスの資源をCD−ROMにおさめたも
のを作成した。
産業メンタルヘルスシステム研究グループ連絡員
吉川武彦(国立精神・神経センター精神保健研究所)
連携・連絡会議 精神保健福祉センター
産業保健推進センター
保健所
人材・外部支援機関の情報 システムづくりの 研修 助言・指導
システム診断 経験・情報 情報交換
システムづくりの支援 交流
研修等 メンタルヘルス推進のための事業場内組織 メンタルヘルス
労災病院 (産業医、衛生管理者、保健婦・士、人事・労務担当者等) サービス機関等
事業場 所属ごとの管理者………………………. 健康保険組合
相談 支援 普及啓発 相談
従業員・家族
特に充実の必要なところ
図1 大規模事業場におけるメンタルヘルスシステム
連絡調整 商工会、医師会、看護協会
産業保健推進センター 精神保健福祉センター 労働基準局、市町村
精神保健福祉協会、
保健所(連携組織) 医療機関
地域産業保健センター
助言・指導
人材・外部支援機関の情報 システムづくりの
職場診断 経験・情報 研修
システムづくりの支援
相談
労災病院 衛生管理者・人事・労務担当者・産業医 メンタルヘルス
派遣 相談 サービス機関等
事業場
相談 支援 普及啓発 相談
従業員.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
. 従業員・家族
特に充実の必要なところ
図2 中小規模事業場におけるメンタルへルスシステム
連携・連絡会議
産業保健推進センター 精神保健福祉センター
地域産業保健センター 医師会 保健所 市町村 商工会 メンタルヘルスサービス機関等
連携
事業場単位の支援
相談 支援
事業場 事業場 事業場
従業員・家族(地域住民)
地域社会
(支援の共同化) 特に充実の必要なところ
図3 零細事業場におけるメンタルヘルスシステム
316
平成 11 年度研究の目的
産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ の 目 的 は 、勤 労 者 の 精 神 健 康 の
保持増進に役立つメンタルへルスシステムの検討を行うことであった。
平 成 9 年 度 は 3 グ ル ー プ に 分 か れ 、① 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の 現 状
に 関 す る 全 国 調 査 、② 聞 き 取 り 調 査 に よ る 企 業 内 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の
現 状 分 析 、③ メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の あ り 方 に つ い て の 利 用 者 の 立 場 か ら
見たアンケートと聞き取りによる調査を行った。
平 成 10 年 度 も 3 グ ル ー プ に 分 か れ 、 ① 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の あ
り 様 に つ い て の 規 模 別・ 業 種 別 調 査 、② 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム を 総 合
的に描き出すことを目的とした、企業、行政、産業保健推進センター、地域
産 業 保 健 セ ン タ ー 、健 診 機 関 、精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー 等 へ の 聞 き 取 り 調 査 、
③メンタルヘルスサポートシステムの利便性に関する利用者側の調査を行
った。
平 成 11 年 度 は 2 年 間 の 研 究 成 果 を 踏 ま え 、 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に お け
る 調 査 研 究 報 告 か ら の 情 報 収 集 と 追 加 的 な 聞 き 取 り 調 査 を 経 て 、研 究 会 に お
ける検討をもとに事業場の規模別に見たメンタルヘルスシステムについて
まとめた。また、研究成果の活用を図るため、産業保健推進センターの行っ
た 研 究 報 告 の 概 要 集 作 成 と 、都 道 府 県 単 位 の 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス に 関 す る 社
会 資 源 マ ッ プ の CD-ROM 作 成 を 行 う こ と と し た 。
平成 11 年度の研究方法
本 研 究 の 目 的 は 、勤 労 者 の 精 神 健 康 の 保 持 増 進 に 役 立 つ 産 業 メ ン タ ル ヘ ル
ス シ ス テ ム の あ り 方 を 検 討 す る こ と で あ る 。平 成 11 年 度 の 研 究 に お い て は 、
こ れ ま で の 研 究 成 果 を 踏 ま え 、施 策 に 直 接 反 映 で き る メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ
ムを具体的に提示することを目的に、次の過程で研究を進めた。
① 労働福祉事業団の協力を得て、全国の産業保健推進センターの発行した
研究報告書から、メンタルヘルスシステムの検討に役立つと思われる研究
報告書の送付を受け、要約作成を行って重要な情報を抽出した。
② 産業メンタルヘルスシステムづくりについて聞き取り調査を行った。聞
き 取 り 調 査 を 行 っ た 機 関 は 、事 業 場 3 ヶ 所 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー 1 ヶ 所 、
労災病院 1 ヶ所、精神保健福祉センター2 ヶ所であった。聞き取り調査の
結 果 は 、こ れ ま で の 研 究 結 果 と 合 わ せ て メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム に お け る
各機関の役割としてまとめた。
③ 労働省のメンタルヘルス対策に関する検討会の状況と、①と②から得ら
れ た 情 報 を 踏 ま え 、3 年 間 の 研 究 の 重 要 な 情 報 提 供 者 で あ っ た 者 を 含 め た
研 究 会 を 3 回 開 催 し 、事 業 場 の 規 模 別 の 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の あ
り方についてまとめた。
317
主要な研究結果
1.産業保健推進センターの研究情報から
労 働 福 祉 事 業 団 の 協 力 を 得 て 、全 国 の 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー か ら 産 業 メ ン
タルヘルスのシステムづくりの検討に活用できる研究報告書の提供を受け、
報告書 1 冊についてA4 用紙 1 枚以内に要約作成を行った。
産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー か ら 提 供 を 受 け た 研 究 報 告 書 は 93 冊 で 、 テ ー マ 別
の 分 類 で は 、「 産 業 保 健 活 動 、 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー の 活 動 実 態 と 活 性 化 に
関 す る 調 査 等 」22 件 、「 産 業 保 健 従 事 者 の 活 動 状 況 、 関 係 者 の 連 携 に 関 す る
調 査 」9 件、「 事 業 場 に お け る 健 康 管 理 、 作 業 環 境 の 改 善 に 関 す る 調 査 」 4
件 、「 労 働 衛 生 管 理 の 現 状 お よ び 衛 生 管 理 者 に 関 す る 調 査 」 7 件 、「 産 業 保 健
活 動 の 経 済 的 評 価 」 3 件 、「 労 働 者 の 健 康 管 理 と 健 康 診 断 の 活 用 に 関 す る 研
究 」2 件 、「 欠 勤 や ア ル コ ー ル 問 題 な ど 、 労 働 者 の 不 適 応 行 動 と 対 策 」3 件 、
「 T H P な ど の 健 康 増 進 活 動 に 関 す る 調 査 」 8 件 、「 勤 労 者 の ス ト レ ス と メ
ン タ ル へ ル ス の 取 り 組 み 」20 件 、「 マ ニ ュ ア ル 、 チ ェ ッ ク リ ス ト ま た は 評 価
指 標 の 開 発 お よ び 活 用 に 関 す る 研 究 」 12 件 で あ っ た ( 表 1 )。 し か し 個 々 の
研 究 報 告 書 の 内 容 は 、必 ず し も テ ー マ の と お り に 明 確 に 区 分 で き る も の で な
か っ た た め 、研 究 報 告 書 か ら 得 ら れ た 重 要 な 情 報 を 、産 業 保 健 全 体 に 関 わ る
こと、メンタルへルスシステムに関わることの2つにまとめた。
表1 産業保健推進センターの研究報告
1 ) 産 業 保 健 活 動 、 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー の 活 動 実 態 と 活 性 化 に 関 す る 調 査 等 (2 2 件 )
(1)
山形県における産業保健活動の状況とその活性化に関する研究−産業保健に関するア
ンケート調査から−
(2)
山形県における小規模事業場の産業保健の現状と地域産業保健センターの活性化を支
援するための方策に関する調査研究
(3)
山形県内各地域における小規模事業場の産業保健の現状と特に地域特性に応じた地域
産業保健センター事業活性化を支援するための調査研究
(4)
保 健 婦 ・ 士 、 看 護 婦 ・ 士 の い る 事 業 場 に お け る 産 業 保 健 活 動に 関 す る 研 究
(5)
宇都宮地域の産業保健活動を支援する方策立案に関わる調査研究
(6)
産業保健活動を支援するための方策に関する調査研究(真岡地区)
(7)
産業保健活動を支援するための方策立案に関する調査研究(大田原地区)
(8)
愛知県の中小企業における産業保健の現状について実態調査報告書
(9)
産業保健活動の実態に関する調査研究報告書
(10) 中 小 規 模 事 業 場 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 実 態 と そ の 活 性 化 方 策 に 関 す る 調 査 研 究
(11) 大 阪 府 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 実 態 と そ の 活 性 化 に 関 す る 研 究
(12) 大 阪 府 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 実 態 と そ の 活 性 化 に 関 す る 研 究 報 告 書 ( 事 業 場 規 模 50
人未満の産業保健活動の実態)
(13) 岡 山 県 に お け る 産 業 保 健 の 現 状 と 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 支 援 活 動 の 活 性 化 に 関 す る
研究
318
(14) 広 島 県 に お け る 産 業 保 健 実 態 調 査 結 果 の 概 要
(15) 産 業 保 健 サ ー ビ ス の 需 要 調 査 結 果 −50 人 未 満 の 事 業 場 と 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー −
(16) 産 業 保 健 活 動 の 実 態 と そ の 活 性 化 方 策 に 関 す る 研 究 報 告 書
(17) 香 川 県 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 状 況 と そ の 活 性 化 に 関 す る 研 究 そ の 2 − 高 齢 化 問 題
と健康情報管理−
(18) 中 小 企 業 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 阻 害 因 子 と 促 進 因 子 に 関 す る 研 究
(19) 熊 本 県 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 実 態 と 問 題 点
(20) 産 業 保 健 活 動 計 画 作 成 の 理 論 と 実 践
(21) 鹿 児 島 県 内 小 規 模 事 業 場 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 現 状 と そ の 活 性 に 関 す る 調 査 研 究 報
告 書 − 労 働 者 30 人 以 上 50 人 未 満 の 事 業 場 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 実 態 を 把 握 し 、今 後
の産業保健活動の活性化を図るための基礎的調査研究報告書−
(22)離 島 に お け る 産 業 保 健 活 動 へ の 効 果 的 支 援 に 関 す る 調 査 研 究 報 告 書 − 鹿 児 島 県 の 離 島 地
域 に あ る 事 業 場 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 実 態 を 把 握 し 、今 後 の 活 動 へ の 効 果 的 支 援 策 を
明らかにするための基礎的調査研究報告書−
2 ) 産 業 保 健 従 事 者 の 活 動 状 況 、 関 係 者 の 連 携 に 関 す る 調 査 (9 件 )
(1)
産業保健関係者の連携等に関する実態について
(2)
認定産業医研修新規受講者の産業医活動に関する調査研究報告書
(3)
改 正 労 働 安 全 衛 生 法 施 行 後 の 健 康 診 断 、健 康 管 理 に 対 す る 千 葉 県 の 産 業 医 の 対 応 の 比 較
(4)
労働安全衛生法一部改正後における産業医の職務状況・意識調査に関する調査研究
(5)
大阪府下における事業場で働く保健婦・士、看護婦・士の実態に関する調査
(6)
保 健 指 導 に お け る 県 内 企 業 の 保 健 婦・ 士 等 、 看 護 婦・士 の 連 携 シ ス テ ム 作 りの た め の 調
査研究
(7)
産業医活動の実態 (認定産業医の意識と実践)に関する調査研究報告書
(8)
産 業 医 活 動 の 現 状 と 課 題 、そ の 有 効 な 展 開 の 模 索 − 安 衛 法 改 正 を め ぐ っ て の 香 川 県 下 の
実状−
(9)
鹿 児 島 県 に お け る 産 業 保 健 ス タ ッ フ( 特 に 産 業 医 、 保 健 婦 ・ 士 及 び 看 護 婦 ・ 士 ) の 活 動
阻害要因の解明とその支援対策に関する調査研究−鹿児島県の事業場における産業保
健 ス タ ッ フ( 特 に 産 業 医 、 保 健 婦 ・ 士 及 び 看 護 婦 ・ 士 ) の 実 態 を 把 握 し 、 今 後 の 産 業 保
健活動の発展への効果的支援策を明らかにするために実施した基礎的調査研究報告書
−
3 ) 事 業 場 に お け る 健 康 管 理 、 作 業 環 境 の 改 善 に 関 す る 調 査 (4 件 )
(1)
北海道における中小企業の健康管理と環境改善の現状と今後の課題
(2)
宮城県における零細企業の健康管理とその活性化について
(3)
作業環境測定結果の活用状況の実態について
(4)
中小企業における作業環境及び健康管理の改善に関する調査研究
4 ) 労 働 衛 生 管 理 の 現 状 お よ び 衛 生 管 理 者 に 関 す る 調 査 (7 件 )
(1)
北海道における衛生管理者の労働衛生管理に対する取り組みに関する実態調査
(2)
じん肺防止 のための労働衛生管理手法のあり方に関する研究−中小鋳物製造業におけ
るじん肺防止対策の実態−
(3)
産 業 医 よ り 見 た 事 業 場 の 労 働 衛 生 に 対 す る 認 識 に 関 す る 調 査 研 究( 栃 木 県 上 都 賀 群 南 部
地区)
319
(4)
栃木県における衛生管理者の職務実態に関する調査
(5)
中小企業の衛生(安全衛生)委員会の活性化に関する調査研究
(6)
兵庫県下における労働衛生管理実態調査結果報告 (健康づくり推進のために)
(7)
熊本県における健康と安全の維持向上に関する職場改善事例の収集と解析
5 ) 産 業 保 健 活 動 の 経 済 的 評 価 (3 件 )
(1)
産業医活動の費用−効果に関する調査研究報告書
(2)
産業保健活動のコスト分析
(3)
産業保健活動の経済学的評価−高血圧対策について−
6 ) 労 働 者 の 健 康 管 理 と 健 康 診 断 の 活 用 に 関 す る 研 究 (2 件 )
(1)
個人健康情報を媒体とする健康異常者の就業態様調査に基づく継続管理に関する研究
(2)
健康診断の重要性と労働者の健康管理に関する研究(特にガン検診について)
7 ) 欠 勤 や ア ル コ ー ル 関 連 問 題 な ど 労 働 者 の 不 適 応 行 動 と 対 策 (3 件 )
(1)
勤 労 者 の absenteeism ∼ 若 年 勤 労 者 を 中 心 と し た 調 査 研 究 ∼
(2)
職場におけるアルコール問題へのアプローチに関する研究
(3)
機械製造事業場におけるアルコール依存と関連問題の実態
8 ) T H P な ど の 健 康 増 進 活 動 に 関 す る 調 査 (8 件 )
(1)
北海道におけるTHPの取り組みについて−1サービス機関から見たTHP−
(2)
事業場におけるTHP活性化対策について
(3)
栃木県下の事業場における健康支援の実態とその方策に関する検討
(4) 「 心 と か ら だ の 健 康 づ く り 運 動 」 に 関 す る 調 査 研 究 報 告 書 ―1986 お よ び 1995 年 の 調 査
結果の比較による評価―
(5)
THPにおける運動及び余暇活動の実態
(6)
THPを指向した労働態様と睡眠に関する研究
(7)
THPによる健康増進の効果と生活習慣病の予防に関する調査研究報告書
(8)
職場におけるライフスタイルと健康づくりに関する研究−肥満を中心として−
9 ) 勤 労 者 の ス ト レ ス と メ ン タ ル ヘ ル ス へ の 取 り 組 み (2 0 件 )
(1)
職場における心身ストレス対処行動と生きがい意識の関連−世代間比較−
(2)
職場のメンタルヘルスと生活習慣の関連について
(3)
職場におけるストレス問題への事業場と産業医の取り組み−健康状況調査票から−
(4)
茨城県内の職域におけるメンタルヘルス問題の実態調査
(5)
群馬県における職場ストレスと鬱状態のリスクに関する疫学研究報告書
(6)
熟年労働者のメンタルヘルスに関する実態について
(7)
千葉県内の職域におけるストレスと循環器疾患との関連性についての研究報告書
(8)
千葉県労働者における精神健康度と作業実態との関連に関する調査研究
(9)
腰痛対策におけるメンタルヘルス要因に関する研究
(10) 石 川 県 の 事 業 場 に お け る ス ト レ ス の 実 態 と メ ン タ ル ヘ ル ス ケ ア の 取 り 組 み に つ い て
(11) 岐 阜 県 に お け る 情 報 処 理 事 業 場 に お け る 従 業 員 の 精 神 健 康 調 査
(12) 中 規 模 事 業 場 に お け る メ ン タ ル ヘ ル ス の 支 援 方 法 に 関 す る 研 究
(13) 職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス に 関 す る 実 態 調 査 報 告 書
(14) 勤 労 者 の ス ト レ ス と そ の 影 響 に 関 す る 調 査 研 究 報 告 書
(15) 職 場 に お け る ス ト レ ス 要 因 と 各 世 代 間 の 生 き が い に つ い て の 調 査 研 究 報 告 書
320
(16) 阪 神 大 震 災 「 心 の 相 談 室 」 の 実 態 に つ い て の 調 査 研 究 報 告 書
(17) 長 期 間 に わ た る 職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス 活 動 の 成 果 に つ い て
(18) 職 場 の ス ト レ ス 要 因 と メ ン タ ル ヘ ル ス 向 上 対 策 に 関 す る 調 査 研 究 結 果 の 報 告
(19) 職 場 の ス ト レ ス と メ ン タ ル ヘ ル ス − 男 性 と 女 性 の 違 い −
(20) 職 場 に お け る ス ト レ ス 問 題 と そ の 効 果 的 支 援 に 関 す る 研 究
1 0 ) マ ニ ュ ア ル 、 チ ェ ッ ク リ ス ト 、 ま た は 評 価 指 標 の 開 発 お よ び 活 用 に 関 す る 研 究 (1 2 件 )
(1)
各種企業における A 型行動歴等を用いたメンタルヘルスの評価方法
(2)
神奈川県下の各種企業におけるメンタルヘルスの評価方法
(3)
小規模事業場の産業保健サービスの向上を図る産業医活動マニュアル
(4)
健康相談マニュアルの開発に関する研究
(5)
地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー の 活 性 化の た め の 評 価 指 標 の 開 発 と 応 用
(6)
大 阪 府 下 の 産 業 保 健 活 動 活 性 化の た め の 評 価 指 標 の 開 発 に よ る 総 合 評 価
(7)
評価指標の活用による大阪府下の産業保健活動の活性化
(8)
職 場 の 精 神 保 健 対 策 へ の S D S( 自 己 評 価 式 抑 う つ 性 尺 度 ) 活 用 に 関 す る 調 査 研 究
(9)
職場の精神保健対策へのSTAI (状態・特性不安検査)の活用
(10) 徳 島 県 に お け る 産 業 医 の た め の 業 務 マ ニ ュ ア ル 作 成 に 関 す る 研 究
(11) 病 院 に お け る 職 場 巡 視 チ ェ ッ ク リ ス ト の 開 発 に 関 す る 研 究
(12) 職 域 に お け る ヘ ル ス・ プ ロ モ ー シ ョ ン の 展 開 に 関 す る 実 証 的 研 究 − 産 業 保 健 活 動 の 客 観
的評価方法の作成−
11 ) デ ー タ ベ ー ス 化 に 関 す る 研 究 (3 件 )
(1)
産業保健関連事例のデータベース化システムの開発研究
(2)
地域の産業保健事例データべース作成・活用に関する調査研究
(3)
地域の産業保健データベース作成およびオンライン利用活用環境の検討
1)産業保健全体に関わること
(1) 衛 生 管 理 者 の 調 査 で は 、 そ の 半 数 以 上 が 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー 等 の 支
援機関についての情報を持たず、労働衛生管理者協議会への参加につい
ても関心のある者は少なかった。このため衛生管理者に対する情報伝達
と啓発が重要である。
(2) 事 業 場 の 調 査 で は 、THP の 継 続 に 重 要 な 要 素 は「 健 診 に 対 す る 理 解 度 が
高いこと」であって、事業場の求めているのは、病欠日数の低減や医療
費の低下など、成果が目に見えることである。
(3) 零 細 事 業 場 の 調 査 で は 、 健 康 づ く り に 取 り 組 む こ と の 困 難 な 理 由 は 、
時間が取れない、人手不足、経済的困難である。
(4) 小 規 模 事 業 場 の 調 査 で は 、 勤 務 者 が 安 全 衛 生 や 健 康 に つ い て 相 談 す る
機会は少なく、地域産業保健センターの利用を進めるためには、相談窓
口の開設時間を工夫することが必要である。
(5) 保 健 婦 ・ 士 等 を 対 象 に し た 調 査 に よ る と 、 産 業 保 健 活 動 の 阻 害 要 因 は
「 保 健 婦 ・ 士 等 の 職 場 で の 位 置 づ け が 低 い こ と 」「 保 健 婦 ・ 士 等 の 知 識 、
321
経 験 の 不 足 」「 保 健 婦 ・ 士 等 の 業 務 の 大 半 を 健 康 管 理 が 占 め 、 作 業 環 境 管
理 に 関 与 す る 時 間 が 少 な い こ と 」「 事 業 場 に 勤 務 す る 保 健 婦・ 士 等 の 交 流
が少ないこと」である。
(6) 「 中 高 年 齢 労 働 者 の 健 康 づ く り 運 動 」の 縦 断 的 な 評 価 を 行 っ た と こ ろ 、
健康づくり運動が活発でないと評価する事業場からは、事業場トップの
理解と、推進組織の強化が重要という意見が得られた。
(7) 医 師 会 員 の 調 査 で は 、 約 4 割 が 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 存 在 を 知 ら な
か っ た 。ま た 産 業 医 を し て い る 医 師 会 員 の 調 査 で は 、 衛 生 委 員 会 へ の 出 席
は 半 数 以 下 で あ り 、 職 場 巡 視 を 2-3 ヶ 月 に 1 回 以 上 行 う も の は 3 分 の 1
強であった。
(8) 事 業 場 の 調 査 を 行 っ た と こ ろ 、 50 人 未 満 の 事 業 場 の 回 答 率 が 低 く 、 調
査 の 趣 旨 が 理 解 さ れ て い な い と 考 え ら れ た 。 こ の た め 、50 人 未 満 、 特 に
10 人 未 満 の 事 業 場 に お け る 産 業 保 健 活 動 の 改 善 に は 、事 業 者 に 産 業 保 健
活動の目的・意義・活動の周知徹底を図る必要がある。
(9) 300 人 以 上 の 事 業 場 の 調 査 で は 、 産 業 保 健 ス タ ッ フ の 研 修 に つ い て は 、
「近くて短時間、単発の研修」が事業譲渡して派遣しやすいという答え
が多かった。そのような研修を産業保健推進センターで強化する必要が
ある。
(10) 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー は 、 専 門 家 等 に よ る ア ド バ イ ス 、 研 修 会 の 開 催
の ほ か 、有 用 な 情 報 を 整 理 し 、 利 用 し や す い 形 で 提 供 す る シ ス テ ム を 構 築
することが求められている。
(11) 産 業 保 健 の 実 務 担 当 者 の 教 育 に は 、 実 際 の 事 例 を 用 い た 教 育 が 有 用 で
あ る が 、 似 通 っ た 背 景 を 持 つ 事 業 場 で の 問 題 改 善 に つ い て 、産 業 保 健 推 進
センター間でデータベースを整備し、共有化を進める必要がある。
(12) 中 小 規 模 事 業 場 の 調 査 で は 、「 衛 生 管 理 者 の 選 任 の あ り 方 の 問 題 」「 労
使 と も に 産 業 保 健 へ の 関 心 が 低 い 」「 保 健 婦・ 士 等 の 専 門 職 が い な い 」等
の多くの困難があり、事業場単独での取り組みはきわめて困難と報告さ
れている。
2)メンタルへルスシステムに関わること
(1) 事 業 場 の 調 査 で は 、メ ン タ ル へ ル ス に 取 り 組 ん で い る 事 業 場 は 少 数 で 、
取 り 組 ん で い な い 理 由 は「 対 応 が 困 難 」「 相 談 員 が い な い 」 こ と が 挙 げ ら
れていた。
(2) 産 業 医 ・ 事 業 場 ・ 精 神 科 専 門 機 関 の 連 携 に 関 し て 、 そ れ ぞ れ の 立 場 か
ら 調 査 し た 。多 く の 産 業 医 は メ ン タ ル へ ル ス に 積 極 的 に 関 わ っ て お ら ず 、
ほとんど専門機関に任せていて、三者間で有効な連携は取られていなか
った。
(3) 事 業 場 の 調 査 で 、 メ ン タ ル へ ル ス 対 策 の 取 り 組 み 率 に 比 し て 、 効 果 に
ついての評価の実施率は低いという報告があった。
(4) 勤 務 者 を 対 象 に し た 調 査 で は 、 問 題 飲 酒 者 の 割 合 に 比 べ て 、 ア ル コ ー
322
ルの問題について産業医や専門医に相談することを希望する者が少なか
った。
(5) 50 人 以 上 の 事 業 場 の 調 査 で は 、 職 場 で メ ン タ ル へ ル ス の 取 り 組 み が 必
要 と 考 え て い る 事 業 場 は 6 割 以 上 で あ る が 、 実 際 に「 心 の 健 康 教 育 」 を 実
施しているのは 2 割以下で、産業保健推進センターがこれらの事業場に
どのように支援を行っていくかが課題である。
(6) 医 療 機 関 の 調 査 で は 、「 精 神 科 医 は も っ と 会 社 の 組 織 や 管 理 体 制 に つ い
て よ く 知 っ て お く べ き で あ る 」「 患 者 の 治 療 が う ま く 進 む た め に は 会 社
の協力が不可欠である」と答えながら、一方では、会社からの問い合わせ
に対して「プライバシーの問題があり困難を感じている」ことが問題と
してあがっていた。
(7) 労 働 者 数 100-299 人 の 中 規 模 事 業 場 の 事 業 者 調 査 で は 、 管 理 監 督 者 に
メンタルへルス教育を実施しているのは約 3 分の 1 で、こころの健康不
調者が 1 割以上いると考えている事業場は 2 割以上であった。
(8) 産 業 医 の ア ン ケ ー ト で は 、 回 答 の あ っ た 106 事 業 場 の う ち 約 4 割 に 過 去
3 年間にメンタルへルスの問題があり、内容はうつ病、職場不適応、心身
症が多かった。発症契機は職場の人間関係、配置転換、仕事量増加等、
職場要因が大半を占めていた。
(9) 看 護 婦 ・ 士 に 調 査 し た と こ ろ 、「 1 人 で 働 い て い る 」 者 が 4 割 以 上 で 最
も多く、今後取り組みたい課題としては「メンタルへルス」が最も多く
あげていた。
(10) 事 業 場 の 調 査 で は 、 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー を よ く 知 っ て い た の は 1 割
以下であった。また相談したい内容は、健診事後措置、メンタルへルス
の導入方法等で、データベース化を希望する情報内容は、教育に関する教
材と産業保健活動の取り組み事例であった。
こ れ ら の 要 約 か ら 、産 業 保 健 シ ス テ ム の 課 題 が そ の ま ま メ ン タ ル へ ル ス シ
ス テ ム の あ り 方 に 大 き く 影 響 し て お り 、そ れ に メ ン タ ル へ ル ス 固 有 の 問 題 が
重 な っ て い る も の と 考 え ら れ た 。研 究 報 告 書 か ら 得 ら れ た 重 要 な 情 報 は 、聞
き 取 り 調 査 結 果 に 加 え て 、産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の 検 討 に 活 か す こ と
とした。
2.聞き取り調査等から
平 成 10 年 度 に 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ で 行 っ た 調 査 に 、
平 成 11 年 度 に 行 っ た 調 査 を 含 め 、聞 き 取 り 調 査 を 行 っ た 機 関 は 計 34 機 関 で
あ っ た ( 表 2 )。 10 年 度 の 研 究 報 告 で 述 べ た と お り 、 中 小 あ る い は 零 細 事 業
場 を 含 め た 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の あ り 方 を 考 え る と き 、地 域 保 健 と
産 業 保 健 の 連 携 は 重 要 な 課 題 で あ る 。こ の た め 、次 の 作 業 を 経 て 研 究 成 果 を
まとめることとした。
323
表2 聞き取り調査の対象機関
種別 対象機関
国の労働行政機関 労働基準局 2
都道府県行政機関 職員厚生課 3
精神保健福祉センター 5(2)
労働福祉主管課 2
健康政策課 1
自治研修所 1
警察本部 1
産業保健関連機関 産業保健推進センター 2(1)
医師会または産業保健センター 2
労災病院 1(1)
健診機関 1
産業医学センター・診療機関 1
大学公衆衛生学教室 1
事業場 百貨店 1
銀行 1
電力会社 1
製造業 8(3)
コンピューター、電気、製紙
機械工業、建設機械、通信、情報
計 34(7)
カ ッ コ 内 は 平 成 11 年 度 研 究 で 聞 き 取 り 調 査 を 実 施 し た 機 関 の 内 数
① 産業メンタルヘルスシステムを利用する事業場の立場から「システムを
持 つ と こ ろ 」「 シ ス テ ム を 持 た な い と こ ろ 」「 健 康 保 険 組 合 」に 分 け て 論 点
を整理する。
② 産業保健の代表的な機関である産業保健推進センターと地域産業保健セ
ンターについて、各機関の基本的な役割を踏まえて、各機関の実践や課題
を も と に シ ス テ ム づ く り の 方 向 を 整 理 す る 。ま た 労 災 病 院 や メ ン タ ル ヘ ル
スサービス機関の役割と課題についても整理する。
③ 地域保健の代表的な機関である精神保健福祉センターと保健所について、
各 機 関 の 基 本 的 な 役 割 を 踏 ま え て 、各 機 関 の 実 践 や 課 題 を も と に シ ス テ ム
づくりの方向を整理する。
④ 上記の過程を踏まえ、事業場の内部システムとメンタルヘルス資源の連
携についてまとめる。
1)事業場・健康保険組合の取り組み
事 業 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の 有 り 様 は 、事 業 場 の 規 模 等 に よ っ て 多
324
様 で あ る 。 こ こ で は 事 業 場 内 部 に 「 シ ス テ ム を 持 つ 事 業 場 」「 シ ス テ ム を 持
た な い 事 業 場 」 に 分 け て 、 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス 取 り 組 み の 好 事 例・ヒントに
な る 情 報 を 整 理 す る 。こ こ で シ ス テ ム を 持 つ 事 業 場 と は 、産 業 保 健 ス タ ッ フ
が配置されている事業場である。
(1) シ ス テ ム を も つ 事 業 場
a. 保 健 婦 ・ 士 が 、 産 業 メ ン タ ル へ ル ス 研 究 会 の 会 員 と な り 、 研 究 会 へ の 参
加をとおして社外メンタルヘルス資源の情報を得て、顔と顔のつながっ
た形で自社に必要な情報収集に取り組んでいた。また会社も保健婦・ 士
が研修等に参加することや、産業メンタルへルス研究会に参加すること
の 必 要 性 を 理 解 し 、 勤 務 上 の 配 慮 を 行 う な ど 、保 健 婦・ 士 の 資 質 向 上 を 支
援 し て い た 。( 11 年 度 聞 き 取 り )
b. 産 業 メ ン タ ル へ ル ス 研 究 会 で 得 た 資 料 を も と に 、 保 健 婦・ 士 が メ ン タ ル
ヘルス関連機関に関するリストづくりを進めていた。リストに挙げられ
た機関は、精神保健福祉センター、保健所、精神科救急情報センター、児
童相談所、いのちの電話、エイズ電話相談、産業保健推進センター、福祉
事務所、女性相談所、身体障害者更正相談所、知的障害者更正相談所等で
あ っ た 。リ ス ト は 、そ れ ら の 連 絡 先 が 掲 載 さ れ て チ ャ ー ト に な っ て お り 、
従業員だけでなく、家族の問題でも利用できるよう、従業員の生活に密
着 し た 情 報 提 供 を 目 指 し て い た 。( 11 年 度 聞 き 取 り )
c. 保 健 婦 ・ 士 が 職 場 巡 回 や 健 康 相 談 等 を と お し て 、 職 場 や 個 々 の 職 員 の 状
況を継続的に把握するよう努めていた。得られた情報のうち、個人情報
に つ い て は プ ラ イ バ シ ー を 守 り 、 集 団 と し て の 情 報 は 人 事・ 労 務 担 当 者
とも情報を共有し、健康づくりに活かすよう努力していた。このような
個人情報と集団としての情報の区分によるプライバシーの保護は、保健
婦・ 士 の 息 の 長 い 努 力 に よ っ て 、 人 事・労務担当者や上層部に理 解 さ れ
て き た も の で あ る 。( 9 年 度 聞 き 取 り )
d. 自 殺 や 過 労 死 に 労 災 認 定 が 適 用 さ れ る 事 例 が 増 え る な か 、 企 業 の 安 全 配
慮義務における対応の充実が求められている。このため法的な背景を踏
まえた人事教育用のハンドブックの編集を進めている事業場があった。
項目は、①健康に関する基本的な考え方、②事業者・産業医・就業者の
関 係( 責 任 と 権 限 )、 ③ 企 業 内 サ ポ ー ト 体 制 の 概 要 、 ④ 予 防 的 対 応( 事 例
研 究 )、 ⑤ 組 織 的 対 応( 対 個 人 へ の 具 体 的 対 応 と し て 、 記 録 の 作 成 、 具 体
的 な ア プ ロ ー チ の 方 法 、家 族 と の 関 係 の つ く り 方 等 )、⑥ 人 事 担 当 者 の た
め の Q and A 等 で あ っ た 。こ の 編 集 過 程 に お い て メ ン タ ル へ ル ス の 重 要 性
が 社 内 に 浸 透 し て い く も の と 思 わ れ る 。( 11 年 度 聞 き 取 り )
e. 百 貨 店 で 、 産 業 保 健 の 取 り 組 み 充 実 と C S( Customer Satisfaction 顧 客
満足)を結びつけ、経営と結びついた形でメンタルヘルスを含む健康づ
くりを目指している事業場があった。この事業場では、保健婦・士がC
S 推 進 室 に 配 置 さ れ 、 販 売 営 業 の 第 一 線 を 巡 回 し 、安 全 衛 生 が 営 業 現 場 に
325
密 着 し て い た 。( 10 年 度 聞 き 取 り )
f. 保 健 婦 ・ 士 等 の 産 業 保 健 ス タ ッ フ が 、 従 業 員 へ の ス ト レ ス や こ こ ろ の 健
康 に つ い て の 教 育 の た め に 、賞 品 付 き の 簡 単 な ア ン ケ ー ト を 配 布 集 計 し 、
そ の 結 果 を 従 業 員 や 管 理 者 に わ か り や す い 形 で 伝 え て い た 。( 9-11 年 度
聞き取り)
g. 保 健 婦 ・ 士 、 福 利 厚 生 担 当 者 、 人 事 ・ 労 務 担 当 者 が と も に 衛 生 管 理 者 の
資格を取り、衛生管理者という共通の基盤のもとに、共同で産業保健活
動 の 推 進 に 当 た っ て い る 事 業 場 が あ っ た 。 (11 年 度 聞 き 取 り )
h. 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 研 究 報 告 に も あ る よ う に 、 衛 生 管 理 者 の 制 度 は
必ずしも有効に活用されているとは言えない。しかし衛生管理者の役割
をより明確にすることによって、産業保健スタッフと衛生管理者の共同
作業が進み、産業メンタルヘルスの取り組みを深めることができるとい
う 意 見 が あ っ た 。( 10-11 年 度 聞 き 取 り 、 研 究 報 告 書 )
(2) シ ス テ ム を 持 た な い 事 業 場
a. 中 小 規 模 事 業 場 で は 、衛 生 管 理 者 の 選 任 の あ り 方 と 事 業 場 で の 位 置 づ け 、
労 使 双 方 の 産 業 保 健 へ の 関 心 の 低 さ 、 保 健 婦・ 士 等 の 配 置 が な い 等 の 多
くの困難があり、事業場単独での取り組みはきわめて困難という報告が
あ っ た 。( 10-11 年 度 聞 き 取 り 、 研 究 報 告 書 )
b. 中 小 規 模 事 業 場 で は 、 メ ン タ ル へ ル ス に 取 り 組 も う と し て も 、 事 業 主 と
従業員双方の関心が低く、産業保健スタッフも配置がなく、情報に接す
る機会も少ない。中小規模事業場にメンタルへルスの取り組みの浸透を
図 る に は 、 事 業 者 へ の 啓 発 が 最 も 重 要 と い う 報 告 が あ っ た 。( 10-11 年 度
聞き取り、研究報告書)
c.50 人 規 模 以 上 の 、 産 業 医 の 配 置 の あ る 事 業 場 に お い て も 、 メ ン タ ル ヘ ル
スに関する産業医の知識・経験の不足、保健婦・士等の専門職の配置が
十分でない等、スタッフの知識・経験に課題がある事業場が多いと報告
さ れ て い る 。( 9-10 年 度 調 査 、 研 究 報 告 書 )
d. 労 働 者 の 多 く は 50 人 未 満 の 事 業 場 に 勤 務 し て い る 。対 象 数 の 多 さ を 考 え
ると、地域で働いている開業医等の地域資源を含めたシステムづくりが
必要という意見があった。また地域産業保健センターの活動が始まった
頃 か ら 、 医 師 会 員 の 産 業 保 健 へ の 関 心 は 高 ま り つ つ あ る と い う 。( 10-11
年度聞き取り)
e. 地 域 の 保 健 所 に と っ て は 、 事 業 場 の 従 業 員 は 地 域 住 民 の 一 員 で も あ る 。
中小零細事業場の従業員にとっては、産業保健サービス機関よりも保健
所などの地域保健サービス機関の方が、より身近に感じるという報告も
ある。高知県では、医科大学公衆衛生学教室の後援のもとで、地域の保健
所、市町村、医師会、労働基準監督署、地域産業保健センター、商工会議
所 等 が「 勤 労 者 健 康 づ く り 推 進 協 議 会 」を 設 置 し 、 お 互 い の 得 意 な 部 分 で
326
人 的・ 物 的 資 源 を 出 し 合 い 、広 範 な 支 援 体 制 を 整 備 す る よ う 進 め て い る 。
( 10 年 度 聞 き 取 り 、11 年 度 研 究 会 )
f. 衛 生 管 理 者 は 50 人 以 上 の 事 業 場 で 選 任 の 必 要 が あ る 。そ の 位 置 づ け を 明
確にすることで、中小規模事業場など、保健婦・士等の配置の無い事業
場においても、メンタルヘルスの取り組みを進めることができるという
意 見 が あ っ た 。( 10 年 度 聞 き 取 り )
(3) 健 康 保 険 組 合
健 康 保 険 組 合 は 、 被 用 者 医 療 保 険 に 関 す る 事 務 事 業 を 行 う 。被 用 者 全 体 の
健 康 状 態 が 良 好 で あ れ ば 、健 康 保 険 の 財 政 も 健 全 化 さ れ る こ と か ら 、最 近 は
健 康 増 進 や メ ン タ ル ヘ ル ス へ の 関 心 が 高 ま っ て い る 。行 政 的 に は 、健 康 保 険
組 合 は 厚 生 省 の 所 管 で あ り 、事 業 場 の 産 業 保 健 は 労 働 省 の 所 管 で あ る 。こ の
た め 両 者 の 持 つ 情 報 の 埋 め 合 わ せ が 重 要 に な る 。健 康 保 険 組 合 の 産 業 メ ン タ
ル ヘ ル ス 取 り 組 み の 好 事 例・ ヒ ン ト に な る 情 報 を 整 理 し た と こ ろ 、次 の と お
りであった。
a. 健 康 保 険 組 合 が 、メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー ビ ス 機 関 に 委 託 し て 、職 場 の 健 康 調
査、マネジャークラスの研修、自律訓練法の導入等を行い、その結果、健
康 保 険 の 財 政 改 善 が 実 現 さ れ た と い う 報 告 が あ っ た 。健 康 保 険 組 合 で 、保
健 婦・ 士 等 の 産 業 保 健 ス タ ッ フ の 配 置 が な い と こ ろ で も 、メ ン タ ル ヘ ル ス
サ ー ビ ス 機 関 と の 連 携 が あ れ ば 取 り 組 み を 進 め る こ と が で き る 。( 11 年
度研究会)
b. 健 康 保 険 組 合 の 事 業 は 、必 ず し も 従 業 員 が 参 加 し や す い 曜 日 や 時 間 帯 に 実
施 さ れ て い る と は 限 ら な い 。事 業 場 と よ く 連 携 を 取 っ て 、健 康 保 険 組 合 の
事業を従業員が参加しやすい時間帯に実施することが必要という意見が
あ っ た 。ま た 健 康 保 険 組 合 に お い て も 顧 問 医 を 積 極 的 に 活 用 す る こ と が 重
要 と い う 意 見 が あ っ た 。( 10 年 度 聞 き 取 り 、 11 年 度 研 究 会 )
好 事 例 と な っ た 事 業 場 に 共 通 し て い た の は 、 保 健 婦・士等の産業保健スタ
ッフの有無にかかわらず、担当者の抱え込みにならない態勢をつくり、プラ
イバシーに配慮しながらも、相互の意見交換を重視していたことである。
ま た 常 時 50 人 以 上 の 労 働 者 を 使 用 す る 事 業 場 で は 、 事 業 場 の 規 模 に 応 じ て
衛 生 管 理 者 を 選 任 し な け れ ば な ら な い が 、 実 際 に は 、事 業 者 が 衛 生 管 理 者 の
役割を十分に理解して積極的に活用している事業場は多くないと思われる。
し か し 聞 き 取 り 調 査 か ら 判 断 す る と 、衛 生 管 理 者 は 事 業 場 内 の メ ン タ ル へ ル
ス シ ス テ ム に お い て 重 要 な 存 在 で あ る 。衛 生 管 理 者 は 、そ の 研 修 に メ ン タ ル
へ ル ス を 位 置 づ け 、そ の 役 割 と 責 任 を 明 確 に す る こ と で シ ス テ ム づ く り に 大
きな役割を発揮すると考えられる。
2)産業保健機関の取り組み
(1) 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー
産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 役 割 は 、産 業 医 等 や 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー が 活 動
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す る に 当 た っ て 、そ の 機 能 を 十 分 に 発 揮 で き る よ う 専 門 的 技 術 や ノ ウ ハ ウ を
提 供 す る こ と で あ る 。業 務 内 容 は 、① 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー に 対 す る 支 援 、
② 産 業 保 健 に 関 す る 専 門 的 相 談 、③ 産 業 医 等 に 対 す る 研 修 及 び 支 援 の 実 施 、
④ 産 業 保 健 情 報 の 収 集 提 供 、⑤ 産 業 保 健 に 関 す る 広 報 啓 発 等 で あ っ て 、全 国
に 33 カ 所 設 置 さ れ て い る ( 平 成 11 年 9 月 現 在 )。 聞 き 取 り 調 査 等 か ら 得 ら
れ た 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に お け る 取 り 組 み の 好 事 例 ・ ヒ ン ト に な る 情 報
は次のとおりであった。
a. 産 業 メ ン タ ル へ ル ス 研 究 会 開 催 の 支 援 を 行 っ て い た 。こ の 研 究 会 の 目 的 は
「働く人々の心の健康を保持増進するため、事業場のメンタルへルス活
動を推進すること」であり、精神科医療機関、精神保健福祉センター、事
業場等が個人、団体で会員になっている。この研究会をとおして、事業
場の産業保健専門スタッフと精神科医療機関のスタッフ等の間に交流が
広 が り 、顔 と 顔 の つ な が っ た ネ ッ ト ワ ー ク が つ く ら れ て い る 。
( 11 年 度 聞
き取り)
b. 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー が 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー 、精 神 保 健 福 祉 協 会 と 共 同
で研修会を開催していた。この県では、産業保健推進センターの開設さ
れる前年から精神保健福祉センターが「メンタルへルス講座」で職場の
メンタルへルスに取り組んでいたが、産業保健推進センターの持つ「 事
業場と地域産業保健センターの直近のコンサルタントとしての固有の
力」との連携によって、包括的なメンタルへルス体制構築の手がかりが
得 ら れ て き た と い う 。( 11 年 度 聞 き 取 り )
c. 事 業 場 に お け る メ ン タ ル へ ル ス の 取 り 組 み が 進 む よ う 、産 業 保 健 推 進 セ ン
ターで、嘱託産業医や地域産業保健センターのコーディネーター向けの
研修に取り組んでいた。産業保健推進センターの研究報告書においても、
メ ン タ ル ヘ ル ス に 関 す る 産 業 医 の 知 識・ 経 験 の 不 足 等 が 指 摘 さ れ て お り 、
重 要 な 取 り 組 み と 考 え ら れ る 。( 10 年 度 聞 き 取 り )
d. 常 時 50 人 以 上 の 労 働 者 を 使 用 す る 事 業 場 に お い て は 、 安 全 衛 生 委 員 会 を
毎月 1 回以上開催しなければならないが、実際は定期開催が困難な事業
場も多い。嘱託医の参加が少ないこと、衛生事業が審議されることが少
ないことなども指摘されており、安全衛生委員会の運営の活性化につい
て 現 場 で 活 用 で き る 情 報 の 提 供 が 求 め ら れ て い る 。( 研 究 報 告 書 )
e. 事 業 場 の 聞 き 取 り 調 査 で は 、 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に 望 む こ と と し て 、メ
ンタルヘルスに関連する情報をわかりやすく提供すること、事業場でシ
ステムづくりを進めていくときに起こる疑問や課題に継続的に対応して
い く こ と が あ げ ら れ て い た 。( 10-11 年 度 聞 き 取 り )
f. メ ン タ ル ヘ ル ス に つ い て の 関 心 が 高 ま る に つ れ て 、事 業 場 の メ ン タ ル ヘ ル
スシステムを外部委託で引き受ける事例( メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー ビ ス 機 関
等)が増加している。しかしメンタルヘルス相談を外部委託するだけで
は社内のシステムづくりは進まないし、委託によって、社内の問題が解
328
決されないばかりか、社内の産業保健推進体制の過剰な縮小を来たす恐
れもある。事業場がメンタルヘルスサービス機関等を活用する場合、そ
れぞれの事業場に適した選択が可能になるよう、メンタルへルスサービ
ス機関等についての情報を事業場に提供するためのデータベースの整備
が 求 め ら れ て い た 。( 10-11 年 度 聞 き 取 り 調 査 、 11 年 度 研 究 会 、 研 究 報 告
書)
(2) 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー
労 働 者 数 50 人 未 満 の 小 規 模 事 業 場 に 対 し て 、 保 健 指 導 、 保 健 相 談 等 の 産
業 保 健 サ ー ビ ス を 提 供 し て い る 。実 施 機 関 は 郡 市 区 医 師 会 で 、全 国 347 カ 所
に 設 置 さ れ 、地 域 の 開 業 医 が 産 業 保 健 に 関 与 す る 機 会 を 広 く 提 供 し て い る 。
聞 き 取 り 調 査 等 か ら 得 ら れ た 、地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー に お け る 取 り 組 み の 好
事例・ヒントになる情報は次のとおりであった。
a. 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー は 、 労 働 者 数 50 人 未 満 と い う 産 業 構 造 の 最 も 脆 弱
な 部 分 を 対 象 と し て お り 、地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー 単 独 で は 事 業 の 効 果 が あ
が り に く い 。こ の た め 、地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー の コ ー デ ィ ネ ー タ ー を 産 業
保 健 と 地 域 保 健 の 双 方 で 支 え て い く こ と で 、取 り 組 み の 浸 透 が 期 待 で き る
と い う 意 見 が あ っ た 。( 10 年 度 聞 き 取 り 、11 年 度 研 究 会 、 研 究 報 告 書 )
b. 規 模 の 小 さ い 事 業 場 ほ ど 、メ ン タ ル ヘ ル ス に 限 ら ず 産 業 保 健 全 般 へ の 労 使
の 関 心 が 低 く 、産 業 保 健 専 門 ス タ ッ フ の 配 置 も 少 な い 。ま た 衛 生 管 理 者 の
役 割 に つ い て も よ く 理 解 さ れ て い な い 。こ の た め メ ン タ ル へ ル ス に 取 り 組
む場合も、衛生管理者等役割について事業場の認知を明確にすることが課
題 と い う 報 告 が あ っ た 。( 9-11 年 度 聞 き 取 り 調 査 、 研 究 報 告 書 )
(3) 労 災 病 院 の 取 り 組 み
労災病院は労働災害等における勤労者の医療確保を目的に設置されたが、
労 働 災 害 の 減 少 と と も に 、メ ン タ ル ヘ ル ス 等 の 新 た な 課 題 へ の 対 応 を 模 索 し
て い る 段 階 に あ る 。 労 災 病 院 は 全 国 で 39 ヶ 所 設 置 さ れ て い る が 、 そ の う ち
4 ヶ 所 ( 平 成 11 年 度 末 現 在 ) に メ ン タ ル ヘ ル ス セ ン タ ー が 設 置 さ れ 、 12 年
度 に 新 た に 2 ヶ 所 設 置 さ れ る こ と と な っ て い る 。聞 き 取 り 調 査 等 か ら 得 ら れ
た 、労 災 病 院 に お け る 取 り 組 み の 好 事 例・ ヒ ン ト に な る 情 報 は 次 の と お り で
あった。
a. 心 療 内 科 を 受 診 す る 患 者 数 の 増 加 を 受 け て 、労 災 病 院 内 に メ ン タ ル ヘ ル ス
センターを設置し、メンタルヘルス相談、ストレスドック、心理テスト等
に取り組んでいる病院がある。メンタルへルスセンターの責任者は、将来
は 、企 業 と の 個 別 契 約 に よ る メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー ビ ス の 提 供 、情 報 セ ン タ
ー 機 能 、 産 業 医 や 保 健 婦 ・ 士 の 産 業 保 健 ス タ ッ フ の 臨 床 研 修 や 教 育 等 、メ
ン タ ル ヘ ル ス に 関 す る 中 核 機 関 と し て の 役 割 を 目 指 し て い る と い う 。こ の
構想の具体化には産業保健推進センターとの役割分担等を整理する必要
が あ る が 、 産 業 医 や 保 健 婦・士 の 産 業 保 健 ス タ ッ フ の 臨 床 研 修 や 教 育 等 は 、
329
労 災 病 院 の 重 要 な 役 割 と 考 え ら れ る 。( 11 年 度 聞 き 取 り )
b. 事 業 場 の 求 め る メ ン タ ル ヘ ル ス の 事 例 は 、精 神 科 の 診 療 を 必 要 と す る 者 、
心 療 内 科 の 診 療 を 必 要 と す る 者 が 混 在 し て い る が 、事 例 に 応 じ て 受 診 先 を
紹 介 で き る 場 所 は 少 な い 。ま た 心 療 内 科 に つ い て の 診 療 情 報 を 提 供 で き る
ところは少なく、労災病院のメンタルへルスセンターが、メンタルへルス
セ ン タ ー の 利 用 を 直 接 希 望 す る 者 に 対 応 す る だ け で な く 、心 療 内 科 に つ い
て の 診 療 情 報 を 広 く 提 供 す る こ と が で き れ ば 、事 業 場 と 労 働 者 の 求 め に 大
き く 応 え る こ と に な る と 思 わ れ た 。( 11 年 度 聞 き 取 り )
(4) メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー ビ ス 機 関 等
こ こ で メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー ビ ス 機 関 等 と は 、 事 業 場 か ら 委 託 を 受 け て 、メ
ンタルへルス相談、ストレスチェック、事業場の診断、教育研修等のメンタ
ル ヘ ル ス サ ー ビ ス を 提 供 す る 機 関 や 人 材 、ま た T H P に 基 づ く 事 業 を 実 施 す
る 健 診 機 関 等 を い う 。メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー ビ ス 機 関 等 が サ ー ビ ス を 行 う こ と
に よ っ て 、自 前 の シ ス テ ム を 持 た な い 事 業 場 や 健 康 保 険 組 合 に お い て も 、メ
ン タ ル へ ル ス の 取 り 組 み が 可 能 に な る 。ま た 自 前 の シ ス テ ム を 持 つ 事 業 場 に
お い て も 、メ ン タ ル ヘ ル ス の 取 り 組 み を 充 実 す る 重 要 な 資 源 に な る 。し か し
単 に 外 部 委 託 す る だ け で は 、事 業 場 内 部 の メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム の 充 実 に
は 寄 与 し な い 場 合 も あ る 。こ こ で は 聞 き 取 り 調 査 等 か ら 得 ら れ た 、メ ン タ ル
ヘ ル ス サ ー ビ ス 機 関 に お け る 取 り 組 み の 好 事 例・ヒ ン ト に な る 情 報 に つ い て
整理したい。
a. 衛 生 管 理 者 や 保 健 婦・ 士 等 、 産 業 保 健 の 現 場 を よ く 知 っ て い る 者 が 地 域 産
業 保 健 セ ン タ ー の コ ー デ ィ ネ ー タ ー を つ と め る こ と が 、事 業 場 個 々 の 状 況
を理解した指導が行えて実践的であるという意見があった。しかし、その
よ う な 人 選 が 行 わ れ る 事 例 は 少 な い と い う 意 見 が あ っ た 。( 11 年 度 研 究
会)
b. 産 業 現 場 で 経 験 の 豊 富 な 保 健 婦・ 士 が 、 退 職 後 に 非 常 勤 で 事 業 場 の 健 康 管
理 に 携 わ っ て い る 事 例 が あ っ た 。こ の よ う な 人 材 情 報 を 、産 業 保 健 推 進 セ
ン タ ー や 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー が 、医 師 会 や 看 護 協 会 等 と 連 携 し て 事 業 場
に 提 供 す る こ と が 重 要 と 考 え ら れ た 。( 9 年 度 聞 き 取 り 、 11 年 度 研 究 会 )
c. 定 期 健 診 で 健 診 機 関 を 利 用 す る 事 業 場 は 多 い 。こ の 事 実 を 捉 え て 、プ ラ イ
バ シ ー の 保 護 、サ ー ビ ス の 品 質 管 理 と 助 言 指 導 を 行 う 体 制 が 確 保 す る こ と
が で き る の な ら 、健 診 機 関 が メ ン タ ル ヘ ル ス チ ェ ッ ク や 相 談 等 を と お し て
事 業 場 の メ ン タ ル へ ル ス 活 動 を 支 援 す る こ と も 可 能 と 考 え ら れ た 。( 10
年度聞き取り)
事業場が自己の必要性に適したメンタルヘルスサービス機関等を選択で
き る だ け の 情 報 に 接 す る こ と は 困 難 で あ る 。こ の た め 、メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー
ビ ス 機 関 等 の 利 用 に つ い て 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー が 情 報 提 供 と 相 談 を 行 う
ことが求められている。
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3)地域保健機関の取り組み
(1) 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー
精神保健福祉センターは、医療、福祉、労働、教育、産業等の精神保健福
祉 関 係 諸 機 関 と の 密 接 な 連 携 を も と に 、精 神 保 健 お よ び 精 神 障 害 者 の 福 祉 に
関 す る 総 合 的 技 術 セ ン タ ー( 地 域 精 神 保 健 福 祉 活 動 の 中 核 )と し て 活 動 す る
機 関 で あ る 。 現 在 、 全 国 の 都 道 府 県 47 に 対 し て 49 ヶ 所( 東 京 の み 3 ヶ 所 )、
政 令 指 定 都 市 12 に 対 し て 5 ヶ 所 設 置 さ れ て い る( 平 成 11 年 4 月 1 日 現 在 )。
精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー 運 営 要 領 に は 、① 企 画 立 案 、② 技 術 指 導 及 び 技 術 援 助 、
③教育研修、④普及啓発、⑤調査研究、⑥精神保健福祉相談、⑦組織育成の
7 つ の 業 務 が 示 さ れ て い る が 、 そ の 組 織 体 制 は 都 道 府 県・ 政 令 指 定 都 市 に よ
っ て 大 き く 異 な る 。 ま た 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー は 、 平 成 11 年 精 神 保 健 福 祉
法 改 正 に よ っ て 、 平 成 14 年 度 か ら 通 院 医 療 費 公 費 負 担 や 精 神 保 健 福 祉 手 帳
の審査や精神医療審査会の事務局を担当することになっている。
精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー に お け る 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス の 取 り 組 み は 、① 技 術
指 導 及 び 技 術 援 助 と し て の 講 演 や 講 師 派 遣 へ の 協 力 、② 産 業 保 健 ス タ ッ フ を
対 象 と し た 教 育 研 修 の 実 施 や 協 力 、③ 精 神 保 健 福 祉 協 会 や 産 業 保 健 推 進 セ ン
タ ー と の 共 同 に よ る 普 及 啓 発 や 調 査 研 究 、④ 勤 労 者 や 事 業 場 か ら の 相 談 の 求
めへの対応、⑤ストレスドックの取り組み等の報告がある。
聞 き 取 り 調 査 等 か ら 得 ら れ た 、精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー に お け る 産 業 メ ン タ
ル ヘ ル ス 取 り 組 み の た め の 好 事 例・ヒ ン ト に な る 情 報 は 次 の と お り で あ っ た 。
a. 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー の 医 師 が 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 専 門 相 談 を 担 当
し、必要に応じて精神保健福祉センターで相談を引き継ぎ、そのことによ
っ て 両 者 の 連 携 が 進 ん だ 事 例 が あ る 。こ の 事 例 で は 、精 神 保 健 福 祉 セ ン タ
ー の 医 師 が 産 業 保 健 に 関 心 が 高 か っ た こ と 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 専 門
相談に技術支援を行っていたことが、連携の進んだ大きな理由であるが、
そ の 普 遍 化 の 方 法 に つ い て 検 討 す る 必 要 が あ る 。( 11 年 度 聞 き 取 り )
b. 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー 医 師 が 、産 業 看 護 研 究 会 の 運 営 を 企 画 面 で 支 援 し 、
産 業 医 や 看 護 協 会 も 、こ の 医 師 を 活 用 す る こ と に よ っ て 、県 レ ベ ル の 産 業
メ ン タ ル へ ル ス 活 動 の 活 性 化 に つ な が っ て い る 事 例 が あ っ た 。( 11 年 度
聞き取り)
c. 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー が 、県 の こ こ ろ の 健 康 プ ラ ン を 背 景 に 、心 の 健 康 づ
く り の「 メ ン タ ル へ ル ス 講 座 」の な か で 職 場 の メ ン タ ル へ ル ス に 取 り 組 ん
だ 事 例 が あ る 。こ の 事 例 で は 、精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー の 働 き か け に よ っ て 、
数 年 の う ち に 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー と 精 神 保 健 福 祉 協 会 と の 共 催 が 実 現
し て い る 。 産 業 保 健 と 地 域 保 健 の 共 同 に よ る「勤労者の心の健康づくり」
の 取 り 組 み と し て 評 価 で き る も の で あ る 。( 11 年 度 聞 き 取 り )
d. 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー は 、 こ こ ろ の 健 康 相 談 に 応 じ て い る た め 、 一 般 住 民
や 職 域 か ら ア ク セ ス し や す い 。 ま た 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー に は 、医 師 、保
331
健 婦・ 士 、 心 理 職 等 、大 規 模 事 業 場 の 産 業 保 健 ス タ ッ フ と 共 通 し た ス タ ッ
フ が 配 置 さ れ て お り 、 専 門 職 と し て の 横 の 連 携 が 取 り や す い 。ま た 、 こ れ
ら の ス タ ッ フ は 中 小 規 模 事 業 場 に は 配 置 さ れ て お ら ず 、産 業 保 健 ス タ ッ フ
のいない事業場からのメンタルへルス相談に対応している。このように、
これまで産業メンタルへルスの取り組みを行っていない精神保健福祉セ
ン タ ー に お い て も 、 そ の 取 り 組 み を 行 う 準 備 性 は 有 し て い る 。( 10-11 年
度聞き取り)
e. 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー に お け る 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス に 関 す る 取 り 組 み で
は 、職 員 の 業 務 負 担 は 高 く な く 、事 例 a と b に 挙 げ た 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ
ーにおいても現在の組織体制で取り組むことは十分可能と考えられた。
( 11 年 度 聞 き 取 り )
(2) 保 健 所 の 取 り 組 み
保 健 所 は 地 域 住 民 の 健 康 の 保 持 及 び 増 進 に 係 る 企 画 、 調 整 、指 導 及 び こ れ
ら に 必 要 な 業 務 を 行 う 機 関 で あ っ て 、全 国 に 641 ヶ 所 設 置 さ れ て い る( 平 成
11 年 4 月 1 日 現 在 )。 保 健 所 の 精 神 保 健 福 祉 業 務 運 営 要 領 に は 、 ① 企 画 調 整 、
②普及啓発、③研修、④組織育成、⑤相談、⑥訪問指導、⑦社会復帰及び自
立 と 社 会 参 加 へ の 支 援 、⑧ 入 院 及 び 通 院 医 療 関 係 事 務 、⑨ ケ ー ス 記 録 の 整 理
及 び 秘 密 の 保 持 等 、 ⑩ 市 町 村 へ の 協 力 及 び 連 携 が 挙 げ ら れ て い る 。 平 成 11
年 の 精 神 保 健 福 祉 法 改 正 に 伴 い 、 平 成 14 年 か ら は 精 神 障 害 者 に よ る 福 祉 サ
ー ビ ス 利 用 の 調 整 は 市 町 村 を 中 心 に 行 わ れ る こ と と な っ て お り 、通 院 医 療 関
係 事 務 も 市 町 村 が 窓 口 に な る な ど 、保 健 所 の 精 神 保 健 福 祉 業 務 に も 大 き な 変
化 が 予 測 さ れ て い る 。聞 き 取 り 調 査 等 か ら 得 ら れ た 、保 健 所 に お け る 産 業 メ
ン タ ル ヘ ル ス 取 り 組 み の た め の 好 事 例・ヒ ン ト に な る 情 報 は 次 の と お り で あ
った。
a. 勤 労 者 の 健 康 づ く り に 保 健 所 で 取 り 組 む よ う 、準 備 を 進 め て い る 事 例 が あ
った。この県では、労働科学研究所と医科大学の協力を得て、保健所職員
を 対 象 に し た 職 域 保 健 研 修 プ ロ グ ラ ム を 平 成 10-12 年 に 実 施 し 、 職 域 保 健
事業を幅広く展開できる人材育成、環境づくり等、基盤整備に取り組んで
いる。職域保健研修プログラムでは、①産業保健トレーニングマニュアル
の作成、②作業環境評価や人間工学的なアドバイス等の知識・技術的能
力の向上、③地域における市町村、商工会議所、医師会、労働基準監督
署、地域産業保健センターの連携の場をつくることが課題にあげられて
いる。この取り組みが進めば、産業保健専門スタッフのいない中小規模
事業場・零細事業場への普及啓発や地域産業保健センターの活動推進、
市町村が勤労者の健康づくりを支援する基盤づくり等の大きな力になる
と 思 わ れ た 。( 10 年 度 聞 き 取 り 、 11 年 度 研 究 会 )
b. 保 健 所 が 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー に 連 携 を ア プ ロ ー チ し た 事 例 、保 健 所 と 職
場で連携してアルコール関連問題対策を行った事例が報告されている。
(学会報告等による)
332
c. 中 小 規 模 事 業 場 は 自 前 の 産 業 保 健 シ ス テ ム を 持 つ こ と が 難 し い た め 、メ ン
タルへルスの取り組み推進には、地域の医療機関や保健機関との密接な
連携が必要と報告されている。また聞き取り調査においても、産業医や
事 業 場 の 保 健 婦 ・ 士 か ら 、 保 健 所 に 、2 次 医 療 圏 等 の 広 域 で 産 業 保 健 と 地
域 保 健 の 連 携 を 図 る 機 会 を 持 つ こ と が 求 め ら れ て い た 。( 11 年 度 聞 き 取
り)
こ の よ う に 、精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー や 保 健 所 等 の 地 域 保 健 機 関 は 、産 業 保
健 推 進 セ ン タ ー や 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー と 連 携 し て 、地 域 保 健 と 産 業 保 健 の
間 に 連 携 を つ く る と と も に 、メ ン タ ル へ ル ス に 関 す る 技 術 基 盤 を 支 え る こ と
が求められている。
4)事業場の内部システムとメンタルヘルス資源の連携
平 成 10 年 度 の 研 究 に お い て 、 勤 労 者 に メ ン タ ル ヘ ル ス サ ポ ー ト シ ス テ ム
の 利 用 に 関 す る 意 識 や 希 望 を 調 査 し た と こ ろ 、「 悩 み ご と を 一 番 相 談 す る 相
手 」 は 、 家 族 が 42.9 % で 最 も 多 く 、 職 場 の 上 司 ・ 同 僚 等 は 合 計 で 18.7 % で あ
っ た 。 ま た 相 談 室 の 設 置 場 所 は 、 51.7 % が 社 外 設 置 を 望 み ( 社 内 設 置 は
11.5 % 、 ど ち ら で も よ い 36.8 % )、 カ ウ ン セ ラ ー に つ い て は 社 外 51% ( 社 内
10 % 、 ど ち ら で も よ い 38.8 % ) で あ っ た 。 ま た 相 談 の 利 用 で 心 配 す る こ と
で は 「 秘 密 が も れ る と 困 る 」「 人 事 考 課 に 反 映 す る 恐 れ が あ る 」 の 合 計 で
30 % を 越 え て い た 。こ の よ う に 社 外 の 専 門 家 に 相 談 す る こ と を 希 望 す る 者 は
多 い 。こ の た め 事 業 場 に お け る 対 応 と 社 外 の メ ン タ ル へ ル ス 資 源 の 連 携 が 大
き な 課 題 と な り 、 プ ラ イ バ シ ー の 問 題 を 避 け て 通 る こ と は で き な い 。こ の こ
とに関して、聞き取り調査等から次のような報告が得られた。
(1) 課 題 発 見 と 対 応 、 専 門 ス タ ッ フ の 役 割
a. 健 康 相 談 、 健 康 診 査 、 ス ト レ ス チ ェ ッ ク 等 を 行 っ た 場 合 、 そ の 統 計 的 な 全
体 像 は 産 業 保 健 専 門 ス タ ッ フ 、 安 全 衛 生 担 当 者 で 共 有 さ れ る が 、個 人 情 報
に つ い て は 、特 定 の 産 業 保 健 専 門 ス タ ッ フ に 留 め 置 か れ 、個 人 の プ ラ イ バ
シ ー は 保 護 さ れ な け れ ば な ら な い 。 こ れ に つ い て は 、 人 事・ 労 務 担 当 者 も
よ く 理 解 す る よ う に な っ た 。( 9 年 度 聞 き 取 り )
b. 衛 生 管 理 者 は 個 別 の 情 報 を 知 り う る 立 場 に あ る た め 、業 務 上 の 必 要 性 が 無
い 場 合 は 口 外 し な い よ う 、 そ の 責 任 を 明 確 に す る 必 要 が あ る 。しかし、本
人のために必要と考えられる場合は、産業医等に相談して、本人のセルフ
ケ ア 、ラ イ ン に よ る ケ ア 、産 業 保 健 ス タ ッ フ に よ る ケ ア の 調 整 が う ま く 進
む よ う 、 適 切 な 対 処 に 努 め な け れ ば な ら な い 。( 11 年 度 研 究 会 )
c. 社 外 の メ ン タ ル へ ル ス 資 源 と の 連 携 に お い て は 、産 業 医 や 保 健 婦・ 士 等 が
窓 口 と な り 、本 人 の 了 解 を 得 た う え で 社 内 関 係 部 署 と の 調 整 を 担 当 す る こ
と が 適 切 と 考 え ら れ る 。( 10-11 年 度 聞 き 取 り )
d. 事 業 場 の 内 部 産 業 保 健 ス タ ッ フ は 、カ ウ ン セ ラ ー や 専 門 医 等 が 、事 業 場 全
体 を 視 野 に 入 れ た メ ン タ ル ヘ ル ス 活 動 に 取 り 組 む よ う 、従 業 員 の 全 員 面 接
や 事 業 場 巡 回 へ の 誘 導 に 努 め る 必 要 が あ る 。( 9-10 年 度 聞 き 取 り 、11 年 度
333
研究会)
(2) 介 入 を 行 う 場 合 の 本 人 の 了 解 に つ い て
プライバシーの確保はメンタルヘルス対策の普及にきわめて重要であり、
産 業 保 健 ス タ ッ フ や 衛 生 管 理 者 の 、プ ラ イ バ シ ー 保 護 の 義 務 を 事 業 者 が 明 確
に す る よ う 検 討 す る 必 要 が あ る 。ま た メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 者 に つ い て 、そ の
支 援 の た め 外 部 機 関 と 連 絡 を 行 う 場 合 は 、本 人 の 了 解 を 得 る と い う 原 則 を 普
及 さ せ る 必 要 が あ る 。( 11 年 度 研 究 会 )
事業場の規模別に見た産業メンタルヘルスシステム
こ れ ま で の 研 究 結 果 か ら 、事 業 場 が 自 前 の シ ス テ ム を 持 っ て い る か 否 か 、
つまり事業場の規模が産業メンタルヘルスシステムのあり方を考えるうえ
で 重 要 で あ る こ と が わ か っ て い る 。研 究 の ま と め と し て 、事 業 場 の 規 模 別 に
見 た 、事 業 場 の 内 部 シ ス テ ム と メ ン タ ル ヘ ル ス 資 源 の 関 係 を チ ャ ー ト に 示 す 。
1.大規模事業場について(図 1)
大規模事業場においては、産業医や保健婦・士等の産業保健スタッフ、人
事・ 労 務 担 当 者 、 福 利 厚 生 担 当 者 等 が 、 メ ンタ ル ヘ ル ス 推 進 の た め の 中 核 を
形 成 す る 。こ の 中 核 メ ン バ ー が シ ス テ ム づ く り 、従 業 員 の メ ン タ ル へ ル ス の
評 価 、相 談 や ケ ア に わ た っ て 基 本 的 な 計 画 を 立 て 、分 担 し て 事 業 や 相 談 を 進
める。
保健婦・士等の専門職は個別相談に、人事・労務担当者、福利厚生担当者
は、事業や計画と評価に責任を持ち、産業医は全体を統括する。また事業の
企画に当たっては、健康保険組合と連携を取り、従業員や家族が利用しやす
い配慮を行う。
社 内 に シ ス テ ム を 持 つ 大 規 模 事 業 場 に お い て も 、他 の 事 業 場 と メ ン タ ル ヘ
ル ス シ ス テ ム の 情 報 交 換 を 行 う こ と は 、自 社 の シ ス テ ム を 成 長 さ せ る た め に
も 大 き な 意 義 が あ る 。こ の よ う な 事 業 場 間 の 交 流 は 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー
と 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー の 連 携 の も と に 展 開 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 。社
外 の メ ン タ ル ヘ ル ス 資 源 の 利 用 に つ い て は 、単 独 の 事 業 場 で は 困 難 な こ と に
も 取 り 組 め る の で 有 意 義 で あ る が 、個 々 の 事 業 場 に 必 要 な 情 報 を 収 集 す る こ
とが重要になる。
産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー は 、 事 業 場 に「 人 材 ・ メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー ビ ス 機 関
に 関 す る 情 報 」「 事 業 場 や 従 業 員 集 団 の メ ン タ ル ヘ ル ス 診 断 」「 メ ン タ ル へ
ル ス シ ス テ ム の 診 断 」「 シ ス テ ム づ く り の 助 言 指 導 」 を 行 う 。 ま た 精 神 保 健
福 祉 セ ン タ ー 等 と 連 携 し て 、さ ま ざ ま な 地 域 資 源 を 含 め た 、勤 労 者 メ ン タ ル
ヘ ル ス の 取 り 組 み を 進 め や す く す る ネ ッ ト ワ ー ク を 構 築 す る 。メ ン タ ル ヘ ル
スサービス機関に対しては、その情報を収集してデータベースを構築すると
ともに、活動のあり方について助言指導を行う。
精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー は 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー と 連 携 し て ネ ッ ト ワ ー ク
を構築するとともに、メンタルへルスの取り組みが進むよう、情報提供、企
334
画立案、教育研修等の支援を行う。
労 災 病 院 は メ ン タ ル へ ル ス の 取 り 組 み を 充 実 強 化 す る 必 要 が あ る 。労 災 病
院全体としては産業保健スタッフの臨床研修を含めた教育研修に積極的に
取 り 組 み 、メ ン タ ル へ ル ス セ ン タ ー で は 、心 身 医 学 や 精 神 科 領 域 の 診 療 や 相
談を実際に行うだけでなく、事業場や労働者等に診療情報の提供を行う。ま
た情報センター機能を充実させ、産業保健推進センターに広域的なバックア
ップを行うことが求められる。
2 . 中 小 規 模 事 業 場 ・ 零 細 事 業 場 に つ い て ( 図 2、 3 )
中小規模事業場や零細事業場がメンタルへルスの取り組みを進めるには、
産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー と 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー の 連 携 の も と に 、産 業 保 健 機
関 と 地 域 保 健 機 関 の 協 力 に よ る 連 携 組 織 づ く り を 進 め る 必 要 が あ る 。こ の 連
携組織には、事業場を中心に、保健所、労働基準監督署、地域産業保健セン
ター、市町村、商工会、医師会、看護協会、精神保健福祉協会、メンタルへ
ル ス サ ー ビ ス 機 関 等 が 参 加 す る 。こ れ ら の 機 関 が 組 織 団 体 の 連 携 を つ く り 、
そのもとに実務担当者を軸にした横のつながりを育てていくことが望まし
い。
産業保健推進センターと精神保健福祉センターは連携のための屋根をつ
くり、保健所はメンタルへルス相談に対応するほか、連絡会や研修会の形で、
勤 労 者の 健 康 づ く りの た め の 産 業 保 健 と 地 域 保 健 の 広 域 的 な 地 域 ネ ッ ト ワ
ークの場を設ける。また産業保健推進センター等では、産業医、衛生管理者
及 び 、 保 健 婦 ・ 士 等 の( 産 業 保 健 ス タ ッ フ ) 研 修 を 行 う と と も に 、 メ ン タ ル
へ ル ス 資 源 に つ い て の 情 報 提 供 を 行 う 。中 小 規 模 事 業 場 等 は メ ン タ ル ヘ ル ス
サービス機関等についての情報を得て、人材派遣を受け、また相談を委託す
ることによって、事業場のメンタルヘルスの取り組みを進める。
零 細 事 業 場 に お い て は 自 前 の シ ス テ ム を 持 つ こ と は 不 可 能 で あ り 、事 業 場 自
体 が 地 域 の な か に と け 込 む よ う に 存 在 し て い る 。こ の た め 地 域 保 健 と 密 接 な
連 携 を 持 た な い 限 り シ ス テ ム は 成 り 立 た な い と 考 え ら れ る 。市 町 村 は 地 域 住
民 に 身 近 な 対 人 保 健 サ ー ビ ス を 総 合 的 に 提 供 す る も の で あ り 、勤 労 者 の 健 康
づくりを地域保健の一環として取り組むことが求められる。
中 小 規 模 、零 細 事 業 場 に お け る 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス の 取 り 組 み に つ い て は 、
労働省と厚生省の統合が、従来の地域保健と産業保健の枠組みにも影響し、
両者の連携がさらに進む可能性も考慮しながら、産業保健と地域保健の共同
によるパイロット研究事業の検討が必要と思われる。
連携・連絡会議 精神保健福祉センター
産業保健推進センター
保健所
人材・外部支援機関の情報 システムづくりの 研修 助言・指導
システム診断 経験・情報 情報交換
システムづくりの支援 交流
研修等 メンタルヘルス推進のための事業場内組織 メンタルヘルス
労災病院 (産業医、衛生管理者、保健婦・士、人事・労務担当者等) サービス機関等
事業場 所属ごとの管理者………………………. 健康保険組合
相談 支援 普及啓発 相談
従業員・家族
特に充実の必要なところ
図1 大規模事業場におけるメンタルヘルスシステム
連絡調整 商工会、医師会、看護協会
産業保健推進センター 精神保健福祉センター 労働基準局、市町村
精神保健福祉協会、
保健所(連携組織) 医療機関
地域産業保健センター
助言・指導
人材・外部支援機関の情報 システムづくりの
職場診断 経験・情報 研修
システムづくりの支援
相談
労災病院 衛生管理者・人事・労務担当者・産業医 メンタルヘルス
派遣 相談 サービス機関等
事業場
相談 支援 普及啓発 相談
従業員.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
. 従業員・家族
特に充実の必要なところ
図2 中小規模事業場におけるメンタルへルスシステム
連携・連絡会議
産業保健推進センター 精神保健福祉センター
地域産業保健センター 医師会 保健所 市町村 商工会 メンタルヘルスサービス機関等
連携
事業場単位の支援
相談 支援
事業場 事業場 事業場
従業員・家族(地域住民)
地域社会
(支援の共同化) 特に充実の必要なところ
図3 零細事業場におけるメンタルヘルスシステム
338
まとめ
平 成 11 年 度 研 究 は 、 ① 全 国 の 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 発 行 し た 研 究 報 告
書 の 要 約 を 作 成 し 、産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス の シ ス テ ム づ く り に 重 要 な 情 報 を 抽
出 す る こ と 、② こ れ ま で の 聞 き 取 り 調 査 で 情 報 が 不 十 分 な と こ ろ に つ い て 補
充 的 な 聞 き 取 り 調 査 を 行 う こ と 、③ こ れ ま で の 研 究 で 重 要 な 意 見 を 得 る こ と
の で き た 協 力 者 を 加 え て 研 究 会 を 開 催 し 、事 業 場 の 規 模 別 に 見 た メ ン タ ル ヘ
ル ス シ ス テ ム の あ り 方 に つ い て ま と め る こ と を 行 っ た 。 こ の 結 果 、メ ン タ ル
ヘ ル ス の 取 り 組 み を 進 め る に は 、① 事 業 場 規 模 に 応 じ た 事 業 場 内 の シ ス テ ム 、
②地域資源の活用を進める産業保健と地域保健の共同ネットワークが重要
であり、事業場の規模別にシステムづくりの概要をチャートに整理した。
(1) 事 業 場 規 模 に 応 じ た シ ス テ ム づ く り
a. 社 内 に メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム を 持 つ 大 規 模 事 業 場 で は シ ス テ ム づ く り
の情報交換がきわめて重要である。
b. 中 小・ 零 細 事 業 場 で は 社 内 に シ ス テ ム を 持 つ こ と が 困 難 で あ り 、地 域 保 健
と産業保健の共同によるシステムづくりと支援が必要である。
c. 事 業 場 の 規 模 に 関 わ り な く 、社 内 シ ス テ ム の 一 員 と し て 衛 生 管 理 者 の 役 割
は 重 要 で あ り 、メ ン タ ル ヘ ル ス に お け る 役 割 の 明 確 化 を 図 る 必 要 が あ る 。
(2) 地 域 資 源 の 活 用 を 進 め る シ ス テ ム づ く り
a. 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー が 技 術 協 力 を 行 い 、両 者 の
共同によって、産業保健と地域保健の連絡組織をつくり、相互の連携を進
める必要がある。
b. 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に は 、① シ ス テ ム づ く り を 支 え る 人 材 や 支 援 機 関 に
つ い て の 情 報 提 供 と デ ー タ ベ ー ス 化 、② 事 業 場 等 へ の シ ス テ ム づ く り の 継
続支援と情報提供、③研修会や研究会の開催による、事業場と組織団体、
産業保健と地域保健スタッフや医療機関等の担当者相互の顔と顔のつな
がったネットワークづくりが求められている。
c. 保 健 所 に は 圏 域 レ ベ ル の 地 域 保 健 と 産 業 保 健 の 連 携 組 織 づ く り に 役 割 を
持つことが期待されている。
d. 中 小・ 零 細 事 業 場 の メ ン タ ル へ ル ス 推 進 は 、勤 労 者 の 健 康 づ く り と し て 、
産業保健だけで取り組むことなく、地域保健も共に取り組む体制づくりが
必要で、パイロット研究の実施が望まれる。
産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス の 取 り 組 み を 進 め て い く に は 、産 業 保 健 と 地 域 保 健 の
共 同 作 業 が 必 要 で あ り 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー と 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー の 協
力 体 制 の も と に 実 践 研 究 的 な 取 り 組 み を 進 め て い く 必 要 が あ る 。こ の た め に
は 、全 国 レ ベ ル で 情 報 提 供 や 研 究 面 で バ ッ ク ア ッ プ す る 体 制 の 整 備 が 望 ま れ
る 。ま た 、シ ス テ ム づ く り に は 産 業 保 健 と 地 域 保 健 双 方 の 経 験 の あ る 人 材 が
き わ め て 重 要 で あ り 、 そ の よ う な 人 材 の 発 掘・育成に努める必要がある。
最 後 に 、研 究 結 果 の フ ィ ー ド バ ッ ク と し て 、産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に お け
る 研 究 概 要 集 と 、 各 都 道 府 県 の 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス の 資 源 を お さ め た CD −
339
ROM の 作 成 を 行 っ た こ と を 報 告 す る 。
平 成 11 年度 「 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム 」 研 究 グ ル ー プ ( 研 究 体 制 )
研 究 者 ( 連 絡 員 ): 吉 川 武 彦 ( 国 立 精 神 ・ 神 経 セ ン タ ー 精 神 保 健 研 究 所 )
分担研究者:後藤 敕(社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所)
児玉 隆治(東京学芸大学保健管理センター)
高塚 雄介(早稲田大学学生相談センター)
竹島 正(国立精神・神経センター精神保健研究所)
丸山 晋(淑徳大学社会福祉学科)
研究協力者:大久保靖史(千葉大学医学部衛生学教室)
堀江 正知(日本鋼管病院京浜保健センター)
森 晃爾(エッソ石油・ゼネラル石油医務産業衛生)
研究協力者(研究報告書作成)
大久保靖史(千葉大学医学部衛生学教室)
織田 弘子(TDK)
數川 悟(富山県心の健康センター)
甲田 茂樹(高知医科大学公衆衛生学教室)
後藤 敕(社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所)
*竹島 正(国立精神・神経センター精神保健研究所)
*編集担当
研 究 協 力 者 ( 要 約 集 作 成 ・ CD-ROM 作 成 )
小田 泰宏(国立精神・神経センター精神保健研究所)
川村 香織(日本女子大学卒)
木沢由紀子(日本女子大学大学院)
佐野 光正(全国精神保健福祉センター長会)
別所 晶子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
*竹島 正(国立精神・神経センター精神保健研究所)
* 編集担当
成 果 物
「健康影響評価」研究グループ成果物
1.事業場におけるストレス対策計画マニュアル
2 .「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 マ ニ ュ ア ル
341
事業場におけるストレス対策計画マニュアル
Ⅰ.仕事のストレスとその影響
1.仕事のストレスとは
仕 事 の ス ト レ ス( 職 業 性 ス ト レ ス ) と は 、 仕 事 の 心 理 社 会 的 な 特 徴 に よ っ
て 引 き 起 こ さ れ る 身 体 的 ・ 精 神 的 な 反 応 の こ と で あ る 。「 ス ト レ ス は 人 生 の
ス パ イ ス 」と い わ れ る よ う に 、困 難 な 状 況 を 乗 り 越 え た 経 験 は 人 に 満 足 と 成
長 を も た ら す 。 し か し「 ス ト レ ス 」 で は 問 題 が 過 度 に 困 難 だ っ た り 、 自 分 の
力 で は 解 決 で き な か っ た り 、解 決 の た め の 手 段 や 助 力 が な か っ た り し て 状 況
を 改 善 す る こ と が で き ず 、疲 労 感 や 絶 望 感 が 持 続 す る 。こ う し た 状 況 が 職 場
の健康保持増進において注目しなくてはいけない仕事上のストレスである。
仕事のストレスの原因となる諸要因
作業内容および方
法
① 仕 事 の 負 荷 が 大 き す ぎ る 。あ る い は 少 な す ぎ る 。
②長時間労働である。あるいはなかなか休憩時間
がとれない。
③仕事上の役割や責任がはっきりしていない。
④ 労 働 者 の 技 術 や 技 能 が 活 用 さ れ て い な い 。」
⑤繰り返しの多い単純作業ばかりである。
⑥労働者に自由度や裁量権がほとんど与えられて
い な い ( 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル が 低 い )。
職場組織
①上司・同僚からの支援や相互の交流がない。
②職場の意志決定に参加する機会がない。
③昇進や将来の技術や知識の獲得について情報が
ない。
職場の物理化学的
環境
①重金属や有機溶剤などへの暴露
②換気、照明、騒音、温熱。
③作業レイアウトや人間工学的環境。
2.仕事のストレスの影響
・仕事のストレスは、労働者の健康に大きな影響を与えている。
・ 仕 事 の ス ト レ ス は 労 働 コ ス ト の 損 失 、医 療 費 の 増 加 な ど 事 業 場 に 経 済 的 な
影響を与えている。
・ 仕 事 の ス ト レ ス は 、ミ ス の 増 加 な ど 労 働 生 産 性 も 低 下 さ せ て い る 可 能 性 が
ある。
342
3.事業場におけるストレス対策
仕 事 の ス ト レ ス 対 策 は 、以 下 の 目 的 の た め に 重 要 な 労 働 安 全 衛 生 活 動 で あ
る。
仕事のストレスが関係する健康問題
重症度が高く、 虚血性心疾患
職業性ストレス 脳血管疾患
との関連が比較 自殺
仕事上の事故災害
的強いもの
交通事故
頻度が高く、仕 高血圧
事および生活の 不整脈
質への影響が大 肥満
きく、職業性ス 高脂血症
トレスと関連が 糖尿病(耐糖能異常)
脂肪肝
あるもの
胃・十二指腸潰瘍
アルコール関連障害
腰痛、頚肩腕痛
うつ病
事業場におけるストレス対策:3つの目的
・労働者の健康の保持増進―ストレスを考慮した労働者の健康保持増進活動を推
進する。
・生産的で活気のある職場組織づくり―ストレスを対策して、より生産的で想像
的な職場組織を実現する。
・事業主の安全配慮義務の遂行―ストレスによる労働災害や事故を防ぐ。
343
Ⅱ.事業場ごとにストレス対策を計画・実施する
ステップ1.事業場としてのストレス対策を計画する
事 業 場 ご と に ス ト レ ス 対 策 を 計 画 し 、 実 施 す る こ と が 必 要 で あ る 。そ の た
め に ま ず 、事 業 場 と し て 労 働 者 の ス ト レ ス ・ メ ン タ ル ヘ ル ス 対 策 に 積 極 的 、
継続的に取り組むことを表明することが大事である。
ステップ2.ストレス・メンタルヘルス対策のための組織づくりを行う
労 働 者 、 管 理 監 督 者 、 事 業 場 内 産 業 保 健 ス タ ッ フ[ 産 業 医 、 衛 生 管 理 者 ・
衛 生 推 進 者 、 保 健 婦・ 士 、 等 ]の 役 割 を そ れ ぞ れ 定 め る と と も に 、 事 業 場 外
の専門機関との連携体制をつくるようにする。例を下に示す。
n
労働者:自らのストレスへの気づきと対処を行う。
n
管理監督者:職場環境のストレス要 因の改善や部下のサポートを行う。
n
産 業 保 健 ス タ ッ フ: 職 場 環 境 の 評 価 、 個 別 の 相 談・ 指 導 、 従 業 員 や 管 理 監 督 者
の教育・研修を行う。
n
事 業 場 外 の 専 門 機 関: 事 業 場 の ス ト レ ス 対 策 に つ い て 助 言 、指 導 や 情 報 提 供 を
し て も ら う( 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー 、 保 健 所 ・ 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー 、 民 間 の
メ ン タ ル へ ル ス サ ー ビ ス 機 関 な ど )。 専 門 的 な 相 談 や 治 療 を し て も ら う ( 医 療
機 関 や カ ウ ン セ ラ ー な ど )。
組織づくりと計画
組織づくりと計画・
実施のポイント
ストレス対策の方針表明
組織づくりと短期・
中期目標の設定
ストレス対策計画の作成
実施
1.組織づくり
•労働者
2.計画および実施事
項
•職場環境のストレス
要因の評価と対策
•管理監督者
•教育・
研修
•事業所内の産業
保健スタッフ
•健康診断・
健康増進
におけるストレス対策
•事業所外の専門
機関
•メンタルヘルス相談
体制の確立と運用
評価・改善
図 自主的労働安全衛生活動としてのストレス対策の進め方
344
ステップ3.ストレス対策の目標を設定する
事業場の現状やニーズを考慮して、短期(年間)および中長期(数年間)
の 対 策 の 目 標 を 設 定 す る 。目 標 は で き る だ け 具 体 的 に た て る よ う に す る 。短
期 目 標 の 例 と し て は 、管 理 監 督 者 全 員 に ス ト レ ス の 教 育 研 修 を 実 施 す る な ど
が あ る 。 中 長 期 の 目 標 の 例 と し て は 、 ス ト レ ス の 訴 え 率 を 10 % 減 ら す 、 ス ト
レス性疾患による疾病休業を現在の半分にするなどがある。
ステップ4.ストレス対策の計画をたてる
ス ト レ ス 対 策 に は 4 つ の 活 動 が あ る 。こ れ ら 4 つ が バ ラ ン ス よ く 実 施 で き
るように計画をたてるのがよい。
1)職場環境のストレス要因の評価と対策
n
職 場 環 境 、作 業 方 法 、職 場 の 組 織 に お け る ス ト レ ス 要 因 を 職 場 ご と に 評 価 す る
( ⇒ 「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」)。
n
職 場 環 境 、作 業 方 法 、職 場 の 組 織 な ど の 改 善 に よ っ て 職 場 の ス ト レ ス 要 因 を 対
n
策する。
対策によってストレス要因が改善されたかどうかを評価する。
2)ストレスに関する教育・研修
n
管 理 監 督 者 に 対 す る 教 育・ 研 修 を 実 施 す る( ⇒「 管 理 監 督 者 教 育 マ ニ ュ ア ル 」)。
n
労 働 者 に 対 す る 教 育 ・ 研 修 の 機 会 を 設 け る( ⇒「 リ ラ ク セ ー シ ョ ン 法 マ ニ ュ ア
ル 」)
n
産業保健スタッフに教育・研修の機会を与える。
3)健康診断・健康増進におけるストレス対策
n
健康診断などの機会を活用して労働者のストレスを把握する工夫をする( ⇒
「 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 」)
n
ス ト レ ス に 対 す る 事 後 指 導 や 保 健 指 導 を 行 な う ( ⇒ 「 保 健 指 導 マ ニ ュ ア ル 」、
「 運 動 指 導 マ ニ ュ ア ル 」、「 リ ラ ク セ ー シ ョ ン 法 マ ニ ュ ア ル 」)。
n
健康増進活動の中で個人向けのストレス対策を充実する(⇒同上)
4)メンタルへルスの相談体制の確立と運用
n
労働者が相談しやすい悩みやメンタルヘルスの相談窓口や経路を設ける( ⇒
「 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム マ ニ ュ ア ル 」)。
n
メ ン タ ル ヘ ル ス 相 談 体 制 を 周 知 し 、そ の 活 用 の た め の 教 育・研 修 を 実 施 す る( ⇒
n
「 管 理 監 督 者 教 育 マ ニ ュ ア ル 」)。
外部の専門機関・医療機関との連携方法を日頃から定めておく。
345
ステップ5.ストレス対策を実施し、評価・改善する
労 働 者 、管 理 監 督 者 、産 業 保 健 ス タ ッ フ が そ れ ぞ れ の 役 割 を 果 た し な が ら 、
相 互 に 、ま た 社 外 の 専 門 機 関 と 協 力 し て ス ト レ ス 対 策 を 実 施 す る 。ス ト レ ス
対 策 の 進 め 方 に つ い て は 必 ず 見 直 し を 行 い 、不 具 合 を 改 善 し 、ま た 不 足 な 点
を 追 加 す る な ど し て 、ス ト レ ス 対 策 を よ り 効 果 的 で 充 実 し た も の に な る よ う
継続的に努力する。
346
Ⅲ.労働者の特性にあわせたストレス対策を計画する
事 業 場 や 労 働 者 の 特 性 に 合 わ せ て 、ス ト レ ス 対 策 を 計 画・ 実 施 す る こ と で
効 率 的 な 対 策 が 実 施 で き る 。以 下 に そ れ ぞ れ の 労 働 者 に 対 す る ス ト レ ス 対 策
のポイントについて述べる。
○性差に配慮したストレス対策
性差に配慮したストレス対策を行うことが必要である。職場への進出の歴史の
短い女性に対する配慮が必要で、次のような対策が必要と思われる。
1.女 性 労 働 者 の 心 理 を 理 解 す る 管 理 職 の 育 成 − 管 理 職 の 教 育 ・ 研 修 に 女 性 の ス ト
レスの理解と対応に関する内容を加える。
2.中 高 年 女 性 労 働 者 の 能 力 開 発 事 業 − 社 会 的 、 心 理 的 に 不 安 定 に な り や す い 中 高
年女性労働者の能力開発、心理的健康教育事業を行う。
3.SOHO (Small Office Home Office)の 推 進 − 情 報 ネ ッ ト ワ ー ク シ ス テ ム を 使 っ て 、
家 庭 あ る い は 自 宅 に 近 い 小 規 模 な 職 場 で 仕 事 に 従 事 す る こ と を 可 能 に し 、妊 娠 、
出産、育児、介護に伴う離職・復帰によるストレスを軽減する。
○年齢別のストレス対策
1.20 ∼ 30 代 の 若 年 層 で は 、役 割 葛 藤 や 職 務 へ の 不 満 足 か ら ス ト レ ス を 生 じ や す い 。
役割をはっきりさせ、役割を変えるとき相互に了解するようにする。職務への
不満は積極的に聞き、改善できるものは改善する。
2.40 ∼ 50 代 の 中 高 年 層 は 、 対 人 面 で ス ト レ ス を 感 じ や す い 。 対 人 面 の 問 題 は 、 個
人的に処理させるのではなく、積極的に相談するように働きかける。個人が相
談しやすい職場をつくるとともに、相談窓口、それを支える事業場内の組織の
確立が重要である。
3.世 代 間 の ギ ャ ッ プ は 、 上 司 や 管 理 職 が 若 年 層 と ど う か か わ る か を 中 心 に 埋 め る
ことが重要である。研修会や講演会を通し啓蒙・教育を行い、一部若年層に合
わせたやり方で関係をつくっていく。
○職種ごとのストレス対策
A.管理職のストレス対策のポイント
1.管 理 職 に 多 い 「 職 場 の 人 間 関 係 」 や 「 サ ポ ー ト 不 足 」 の ス ト レ ス に つ い て 管 理
職自身が知り、自己管理能力を向上するための教育研修が必要である。
2.管 理 職 の 労 働 量 を 把 握 す る こ と が 必 要 で あ る 。
3.事 業 主 や 経 営 者 が ス ト レ ス 対 策 に 関 す る 目 標 や 方 針 を 明 確 化 し 、 管 理 職 に 徹 底
する必要がある。
347
B.事務職のストレス対策のポイント
1 . 長 時 間 労 働 は 職 場 ス ト レ ス の 大 き な 要 因 で あ る 。上 司 に よ る 適 切 な 管 理 と 従 業
員自らの意識づくりが必要である。
2.職 場 環 境( 温 度 、 騒 音 、 換 気 、 椅 子 、 レ イ ア ウ ト 等 ) の 改 善 に も 配 慮 し 、 快 適
な職場づくりを心がける。
3.VDT 作 業 に 関 す る 衛 生 教 育 や 対 話 型 の VDT 健 診 を 行 う 。
4 . 事 務 職 で は さ ま ざ ま な 労 働 者 が 働 い て い る た め 、日 頃 か ら 職 場 内 で 相 互 に サ ポ
ートする雰囲気づくりが重要である。
C.製造組み立て従事者のストレス対策のポイント
1 . 作 業 内 容 や 手 順 の 決 定・ 変 更 に あ た っ て は ,労 働 者 の 意 見 を 反 映 で き る よ う に
し,自主的な参加を促す。
2 . 管 理・ 監 督 者 が ス ト レ ス に つ い て の 理 解 を 深 め ,上 司 と し て の 支 援 が 高 ま る よ
うにする。
3 . 新 し い 不 慣 れ な 作 業 に 従 事 す る こ と の ス ト レ ス を 緩 和 す る た め 、仕 事 の 進 め 方
について,充分な教育・トレーニングを行う。
4.物 理 化 学 的 お よ び 人 間 工 学 的 作 業 環 境 が 快 適 な も の と な る よ う 努 め る 。
D.運輸従事者のストレス対策のポイント
1 . 長 時 間 労 働 や 不 規 則 交 代 制 勤 務 に よ る 負 担 を 軽 減 す る た め ,ゆ と り を 持 た せ た
スケジュール管理や休憩時間の確保を徹底する.
2 . 運 転 作 業 者 の 孤 立 化 を 防 ぐ た め 、的 確 な 指 示 を 与 え た り 相 談 に の れ る よ う な 支
援システムを 充実し,コミュニケーションなどの場を提供する.
3.人 間 工 学 的 手 法 を 用 い て 運 転 作 業 に よ る 負 担 の 軽 減 を 図 る 。
4.運 転 の 健 康 へ の 影 響 や 休 憩 時 間 の 大 切 さ な ど 健 康 に つ い て の 自 己 管 理 意 識 を
高める。
E.ソフトウェア技術者のストレス対策のポイント
1 . フ レ キ シ ビ リ テ ィ が 高 く 、働 き や す い 人 事・ 労 務 管 理 制 度 を 工 夫 す る − 仕 事 量
の変動を配慮した休暇制度( 忙 し い 時 に 働 き 、 繁 忙 期 が 過 ぎ た ら 連 続 休 暇 を
取 り 、 メ リ ハ リ を つ け る )、 コ ア タ イ ム を 工 夫 し た( コ ア タ イ ム の 拘 束 を な く
するなど)フレックスタイム制度、裁量労働制などを導入する。
2 . ソ フ ト ウ ェ ア 技 術 者 や 管 理 者 を 対 象 に 、プ ロ ジ ェ ク ト チ ー ム と し て 働 く 際 の サ
ポ ー ト ・ ス キ ル 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン・ ス キ ル な ど を 教 育 ・ 研 修 に 取 り 入 れ
る。また、管理者に対するメンタルヘルスの助言や支援を産業保健スタッフ
および人事管理スタッフが連携して行う。
3 . ス ト レ ス 教 育 に 加 え 、ソ フ ト ウ ェ ア 技 術 者 と し て の キ ャ リ ア カ ウ ン セ リ ン グ を
含んだ教育を、人事管理担当者、健康保険組合、業界団体などが協力して実
施する。
348
F.医療関係者のストレス対策のポイント
1 . 医 療 職 自 身 が ス ト レ ス に 耐 え ら れ る 能 力 や 資 質 の 向 上 を 目 的 と し た 教 育 、対 人
関係の技術を修得できる研修を実施する。特にバーンアウトがおきやすい新
卒3年目までを対象に、ストレス教育や喪失体験に対する教育を、管理者を
対象に職場におけるストレス対策立案のための研修を実施する。 また個人の
専門性を活かしたキャリア開発のための研修、教育プログラムを現場で設定
する。
2 . 労 働 条 件 の 改 善( 時 間 外 労 働 時 間 の 短 縮 、 夜 勤 体 制 、 休 憩 時 間 や 休 暇 の 取 得 な
ど)に対する対策を充実する。
3 . 医 療 関 係 者 間 で 話 し 合 う 時 間 と 場 を 設 け 、体 験 を 共 有 し 、医 療 チ ー ム と し て 総
合的な支援体制を確立する。
○中小規模事業場のストレス対策
1 . 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー 、都 道 府 県 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の ほ か 、保 健 所 な ど 地
域保健機関と連携する。
2 . 複 数 の 中 小 規 模 事 業 場 が グ ル ー プ と し て( 同 一 企 業 に 所 属 す る な ら 企 業 全 体 と
して、これ以外なら企業団地、同業者組合、事業団体、健康保健組合連合な
ど)ストレス対策を計画・実施する。
3 . ま ず で き る と こ ろ 、 身 近 な と こ ろ か ら は じ め る 。「 明 る い 職 場 づ く り 」を 目 標
としたり、労働者に対する啓蒙教育、職場環境の改善や休憩室の設置など快
適職場づくりに類する活動、あるいは運動会やハイキングなどレクリエーシ
ョン活動の開催からもストレス対策はスタートできる。
○リストラ、アウトソーシングが進む事業場のストレス対策
1 .「 公 平 性 」 の 重 視 − 人 員 削 減 を 実 施 す る 際 に は 、
「何故行うのか」
「対象者はど
のように選出されるのか」について、トップ・マネジメントの職位にある役
職者から説明を行う。退職者の選出に際しては、できるだけ不公平感を抱か
せないように留意する。また、退職者に対して、再就職支援や退職割増金の
支給等による支援を実施するとともに、その旨を退職者以外の残留する従業
員に対してもきちんと告知する。
2 . 上 司 の メ ン タ リ ン グ 機 能 の 強 化 − 人 員 削 減 実 施 後 は 、企 業 に 残 っ た 従 業 員 の 同
僚間関係、上司―部下関係が悪化しやすいので注意が必要である。特に、仕
事の量的負荷の増加によるストレスや、自分自身の将来に対する不安感が高
まりやすいので、上司は部下に対して、メンタリングなどを通じた心理的支
援とキャリア的な支援を行うことが必要である。派遣社員に対しても、指揮
命令件を持つ派遣先の管理者として適切な配慮を行うことが、職場環境を向
上につながる。
3 . 個 人 の キ ャ リ ア デ ザ イ ン 力 の 強 化( 中 長 期 的 な 対 策 と し て )− 自 分 の キ ャ リ ア
を会社まかせにしないよう、個人が自分自身でキャリアデザインをできるよ
う従業員を支援する。特に、雇用関係が不安定な登録型の派遣社員について
は 、 派 遣 元 企 業 の 主 導 に よ り 、 各 個 人 の エ ン プ ロ イ ヤ ビ リ テ ィ( 雇 用 可 能 性 )
の向上をはかる。
349
Ⅳ.ストレス対策の成功事例
•
•
•
•
•
ある電機メーカーでは、生産ラインの人間工学的デザインを女性のサイ
ズ に 合 わ せ て 見 な お し た と こ ろ 、女 性 労 働 者 の 疲 労 や 自 覚 症 状 が 減 少 し 、
生産性がアップした。
ある半導体製造ラインでは、夜勤から日勤への引継ぎが十分できるよう
に交替勤務のスケジュールを改善したところ、労働者の仕事の負担感が
低下し疾病休業日数が減少した。
ある製造組み立てラインでは、マシントラブルに細かく対応できるよう
に小グループごとに権限をもったサブリーダーを設置したところ、労働
者の疲労やストレスの自覚症状および疾病休業日数が減少した。
ある通信機器メーカーでは、管理監督者向けメンタルヘルス教育・研修
を全管理職に実施したところ、労働者の疲労やストレスなどの自覚症状
が減少し、上司からのサポートが増加した。
ある重機メーカーでは、管理監督者全員に心理相談担当者が部下の精神
的問題への気づきと対処法、社内の相談窓口への相談方法について教
育・研修を実施し、うつ病の早期発見を行っている。
350
Ⅴ.事業場におけるストレス対策の進め方のチェックリスト
事業場におけるストレス対策の進め方のチェックリストを以下に示した。
事 業 場 で 実 施 し て い る 項 目 に チ ェ ッ ク を つ け る こ と で 、現 在 ま で に 何 が で き
ているか、今後何をすべきかについて整理することができる。
1.事業場としての労働安全衛生計画にストレス対策が考慮されているか。
¨
事業場としてストレス対策に積極的、継続的に取り組むことを表明している
か。
¨
短期(年間)および中長期の目標と計画には立てられているか。
¨
ス ト レ ス 対 策 の 実 施 の た め に 必 要 な 社 内 外 の 組 織 づ く り が な さ れ て い る か( 産
業 医 が 選 任 さ れ て い る 事 業 場 で は 産 業 医 が 参 画 し て い る か 、事 業 場 外 の 支 援 機
関 と の 連 携 は ど う か 、 な ど )。
2.職場環境の改善によるストレスの対策が実施されているか。
¨
職 場 環 境 の ス ト レ ス 要 因 の 評 価 が 計 画・実施されているか。
¨
職 場 環 境 の ス ト レ ス 要 因 の 改 善 が 計 画・実施されているか。
¨
改善の効果評価がなされているか。
3.ストレス対策のための教育・研修が実施されているか。
¨
管理職の教育・研修が計画・実施されているか
¨
従業員の教育・研修が計画・実施されているか
¨
産業保健スタッフの教育・研修が計画・実施されているか。
4.健康診断とその事後措置および健康保持増進におけるストレス対策が実施さ
れているか。
¨
健康診断等の機会を活用して従業員のストレスを把握する工夫がなされてい
るか。
¨
ストレスを考慮した健康診断の事後措置や保健指導が実施されているか。
¨
健康保持増進においてストレス対策が考慮されているか。
5.メンタルヘルスの相談体制の確立と運用がなされているか。
¨
従業員が利用しやすい相談経路や窓口が確立されているか。
¨
事 例 へ の 気 づ き や 対 応 に つ い て 管 理 職・ 従 業 員 の 教 育・ 研 修 が 実 施 さ れ て い る
か。
¨
社外の専門機関との連携が円滑にできるよう計画されているか。
351
「仕事のストレス判定図」マニュアル
労働省「作業関連疾患の予防に関する研究」班健康影響評価グループ
1 .「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 と は
「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」は 、職 場 や 作 業 グ ル ー プ な ど の 集 団 を 対 象 と し
て 目 に み え な い 仕 事 上 の ス ト レ ス 要 因 を 評 価 し 、そ れ が 労 働 者 の 健 康 に ど の
程 度 影 響 を 与 え て い る か を 判 定するために開発されたツールである。
低い
仕事の要求度
(
負荷や責任)
高い
仕事のコントロール
(
自由度や裁量権)
高い
職場の支援が低
いとさらにストレス
フルになる
高ストレス群
心身の不調や
健康問題
低い
仕事の負荷が大きく、これに比べて自由度が低
い場合にストレスが生じやすい
「仕事のストレス判定図」では、健康との関係が深いことがわかっている4つ
の ス ト レ ス 要 因 − 「 仕 事 の 量 的 負 担 」、「 仕 事 の コ ン ト ロ ー ル 」( 裁 量 権 や 自 由
度 の こ と )、「 上 司 の 支 援 」 お よ び 「 同 僚 の 支 援 」 − を 所 定 の ス ト レ ス 調 査 票 で
測定し、その結果にもとづいて、職場のストレス要因の程度や健康問題の起き
やすさ(健康リスク)の程度を知ることができる。
2.仕事のストレス判定図の特徴
・特別な専門知識がなくても、誰でも簡単に使用できる。
・ 最 小 で 12 問 の 質 問 の 回 答 を 合 計 す る だ け で 判 定 が で き る 。
・ あ る 職 場 の ス ト レ ス の 大 き さ を 、 全 国 2 .5 万 人 の 労 働 者 の 平 均 と く ら べ
て判定することができる。
・ ス ト レ ス の 大 小 だ け で な く 、そ の た め の 健 康 リ ス ク も 知 る こ と が で き る た
め対策の必要性が判断しやすい。
3.仕事のストレス判定図の活用場面
・体調を崩す者や事故が多いなどストレスが高いことが疑われる職場に対
する調査
・職場ごとに仕事上のストレスを定期的に評価したい場合
352
・新しい機械の導入などの変化にともなうストレスの増加を評価したい場
合
・ストレス対策の効果評価をしたい場合
4.結果からストレスの対策へ
・ 対 策 が 必 要 か ど う か 判 断 す る 。 健 康 リ ス ク が 120-130以 上 の 職 場 で は い ろ
いろなストレス問題が顕在化している場合が多い。
・仕事のストレス判定図の結果からその職場のストレスの特徴に見当をつ
ける。
・ 職 場 巡 視 や 労 働 者 か ら の 聞 き 取 り を 行 い 、具 体 的 に ど ん な 問 題 に よ っ て 起
きているのかを調べ、これをリストアップする。
・ 関 係 者 が 集 ま っ て リ ス ト ア ッ プ さ れ た 問 題 を 検 討 し 、改 善 の た め の 計 画 を
たてる。
・ 改 善 を 実 施 し そ の 進 捗 状 況 を 記 録 す る 。実 施 中 は 労 働 者 か ら の 意 見 な ど に
基づいて適宜計画の見なおしを行う。
・ 改 善 後 は 、仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 を 再 度 実 施 す る な ど に よ り そ の 効 果 を 評
価 す る 。改 善 の 効 果 が 不 充 分 で あ れ ば そ の 理 由 を 検 討 し 、計 画 を 見 な お す 。
353
図解:仕事のストレス判定図の使用方法
仕事量と
コントロー
ル(
自由
度)
のバラ
ンスがや
や悪い
④職場の平均点を判
定図上にプロットしま
す
70
9
80
8
90
7
●
11
0
10
0
6
4
5
6
7
8
9
15
0
4
14
0
13
0
12
0
5
10
11
仕事の量的負担(点数)
仕事の量的負荷(
点数)
11
70
9
80
●
90
0
10
8
0
0
12
7
18
上司の支
6
援が特に
低い
5
③1人1人の調査表
から4つの点数を計
算し、全員の平均を求
めます
職場名
経理課
⑤自分の職場のスト
レスの特徴を全国平
均(◇印)と比べて判
定します
11
同僚の支援(
点数)
10
0
13 0
14
0
15 0
16 0
17
0
仕事のストレス判定図(
男性)
②従業員の性別によっ
て判定図を選びます
仕事のコントロール(点数)
①所定のストレス調
11
査票(最少12問)
に、
従業員に回答してもら
10
います。
4
5
6
7
8
9
上司の支援(
点数)
管理職
専門技術職
現業職
全平均
対象者数(人)
20人
事務職
⑥斜めの線の値から、
健康リスクを読みとり、
ます.
2つの図の値を
10
掛け合わせたものが
総合した健康リスクに
なります
主な作業内容
事務、伝票処理
尺度名
平 均 点
読みとった健康リスク
仕事の量的負担
8.5
(A) 108
仕事のコントロール 6.4
上司の支援
6.0
(B) 112
同僚の支援
8.8
この職場では仕
総合した健康リスク[=(A)x(B)/100]
事のストレスに 121
より健康リスク
が通常の20%増
加と推定
354
5.使用上の注意
1 )で き る だ け 産 業 保 健 ス タ ッ フ と 連 携 し て 職 場 の ス ト レ ス 評 価 を 実 施 す る
こと。
2 ) ス ト レ ス の 評 価 と 対 策 に お い て は 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 に と り あ
げられていないこの他のストレス要因についても考慮に入れること。
3 )仕 事 の 量 的 負 担 に つ い て は 、過 小 な 場 合 に も ス ト レ ス と な る こ と が あ る
ことに注意する。
4 ) 職 場 環 境 の ス ト レ ス の 評 価 に は 、「 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 」 の 他 、 健 康
診 断 デ ー タ の 職 場 比 較 や 年 次 推 移 、職 場 巡 視 に よ る 観 察 、労 働 者 や 職 場 上
司からの意見の聞き取りなど他の情報源も活用すること。
5 )労 働 者 に 調 査 票 に 記 入 を 求 め る 際 に は 調 査 目 的 を 明 確 に 伝 え 、個 人 の 回
答 が 秘 密 に さ れ る こ と を 保 証 す る こ と 。調 査 は 無 記 名 式 で 実 施 し て よ い 。
355
仕事のストレス判定図(
職業性ストレス簡易調査票用)
女性
11
10
10
4
5
6
7
8
9
10
0
5
4
11
4
5
11
10
10
70
8
9
4
10
5
専門技術職
現業職
全平均
職場名
6
7
8
9
上司の支援(点数)
上司の支援(
点数)
管理職
0
90
5
7
0
11
6
0
12
5
0
13 0
14
4
7
0
15 0
16
0
17
0
18
5
8
6
0
15 0
16 0
17
0
18
6
9
0
10
0
11
0
12
7
11
80
90
0
10
8
6
7
8
9
10
仕事の量的負担(
点数)
仕事の量的負荷(
点数)
70
80
9
同僚の支援(点数)
11
0
13 0
14
同僚の支援(
点数)
仕事の量的負担(
点数)
仕事の量的負荷(点数)
13
12
0
15
0
16
0
4
14
0
13
0
12
0
5
6
0
11
0
10
0
6
7
11
90
7
8
10
80
8
9
90
9
80
仕事のコントロール(点数)
11
70
仕事のコントロール(点数)
男性
事務職
管理職
専門技術職
現業職
全平均
対象者数(人)
尺度名
平 均
仕事の量的負荷
仕事のコントロール
上司の支援
同僚の支援
総合した健康リスク[=(A)x(B)/100]
点
事務職
主な作業内容
読みとった健康リスク
(A)
(B)
10
356
付録:仕事のストレス判定図を使用するための質問票*
あなたの 性別は(いずれかに○)
1 男性 2 女性
あなたのお仕事についてうかがいます。最もあてはまる回答の欄に○を記入して下さい。
そうだ
まあ
やや
そうだ
ちがう
ちがう
(1)一生懸命働かなければならない
(2)非常にたくさんの仕事をしなければならない
(3)時間内に仕事が処理しきれない
(4)自分のペ−スで仕事ができる
(5)自分で仕事の順番・やり方を決めることができる
(6)職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる
あなたの周りの方々についてうかがいます。最もあてはまる回答の欄に○記入して下さい。
非常に
かなり
多少
全くない
(7)上司
次の人たちとはどのくらい気軽に
(8)職場の同僚
話せますか?
あなたが困ったとき、次の人達はど (9)上司
のくらい頼りになりますか?
(10)職場の同僚
あなたの個人的な問題を相談した (11)上司
ら、次の人達はどのくらい聞いてく
(12)職場の同僚
れますか?
○得点の計算方法:問1∼6は、そうだ= 4 点、まあそうだ= 3点、ややちがう= 2点、ちがう= 1
点を与える。問7∼12 は、非常に= 4点、かなり= 3点、多少= 2 点、全くない= 1点を与える。以
下の式に従って各得点を計算する:仕事の量的負荷=問1+問2+問3、仕事のコントロール=
問4+問5+問6、上司の支援=問7+問9+問11 、同僚の支援=問8+問10 +問12 。
* この調査票は、職業性ストレス簡易調査票から必要部分を抜粋したものである。
「ストレス測定」研究グループ成果物
職業性ストレス簡易調査表使用マニュアル
357
はじめに・・
今 日 、 職 場 に お け る ス ト レ ス 問 題 と そ れ に よ る ス ト レ ス 性 健 康 障 害 は 、長
期 に わ た る 欠 勤 や 過 労 死 な ど と の 関 連 性 が 報 告 さ れ て お り 、職 場 に お け る 健
康管理上、重要な問題となりつつあります。
し た が っ て 、 従 来 の 定 期 健 康 診 断 等 を 中 心 と し た 健 康 管 理 だ け で な く 、職
場 で の ス ト レ ス 状 態 を 把 握 し 、作 業 環 境 や 作 業 と の 関 連 を 検 討 す る こ と に よ
り 、労 働 者 の 健 康 障 害 を 未 然 に 防 ぐ こ と が で き る よ う 、適 切 に 対 処 す る こ と
が必要です。
そ こ で 、 労 働 省「 作 業 関 連 疾 患 の 予 防 に 関 す る 研 究 班 」 ― ス ト レ ス 測 定 研
究 グ ル ー プ で は 、 労 働 省 か ら の 委 託 を 受 け 、既 存 の 多 く の ス ト レ ス に 関 す る
質 問 票 を 検 討 し 、 現 場 で 簡 便 に 測 定・評価することが可能であり、しかも信
頼性・妥当性の高い 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票を開発いたしました。
職業性ストレス簡易調査票の特徴は・・
職業性ストレス簡易調査票は以下のような特徴を持っています。
1 ) 従 来 の ス ト レ ス 反 応 の み を 測 定 す る 多 く の 調 査 票 と 異 な り 、職 場 に お け
るストレス要因をも同時に評価できること、
2)心理的なストレス反応の中でネガティブな反応だけでなくポジティブ
な反応も評価できること、
3)身体的なストレス反応や修飾要因も評価する多軸的評価法とであるこ
と、
4 ) 労 働 現 場 で 簡 便 に 使 用 可 能 と す る た め に 質 問 項 目 は 57 項 目 と 少 な く 約
10 分 で 回 答 で き る こ と
5)あらゆる業種の職場で使用できる調査票であること、
6)被験者本人が記入する自記式調査票であること、
などです。
職 業 性 ス ト レ ス 調 査 票 は 、 仕 事 の ス ト レ ス 要 因 ( 17 項 目 )、 ス ト レ ス 反 応
( 29 項 目 )、 修 飾 要 因 ( 社 会 的 支 援 9 項 目 、 満 足 度 2 項 目 ) の 計 57 項 目 か
らなります。
仕 事 の ス ト レ ス 要 因 に 関 す る 尺 度 は 量 的 労 働 負 荷 ( 項 目 No.1,2,3 )、 質 的
労 働 負 荷 ( 4,5,6 )、 身 体 的 労 働 負 荷 ( 7)、 コ ン ト ロ ー ル ( 8,9,10 )、 技 術 の
低 活 用 ( 11 )、 対 人 問 題 ( 12,13,14 )、 職 場 環 境 ( 15 )、 仕 事 の 適 性 ( 16,17 )
で 、 項 目 数 は 合 計 17 項 目 で す 。
ス ト レ ス 反 応 に つ い て は 、心 理 的 ス ト レ ス 反 応 と 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 に つ
い て 測 定 出 来 る よ う に な っ て い ま す 。心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の ネ ガ テ ィ ブ 尺 度
と し て 、「 緊 張 − 不 安 」、「 怒 り 」、「 疲 労 」、「 抑 う つ 」、ま た 、ポ ジ テ ィ ブ な 尺
度 と し て 「 活 気 」 の 計 18 項 目 ( 項 目 No.1 ∼ 18 )、 身 体 的 ス ト レ ス 反 応 ( 身
体 愁 訴 ) に 関 し て は 11 項 目 ( 項 目 No.19 ∼ 29 ) か ら な り ま す 。
修 飾 要 因 と し て は 、 職 場 と 家 庭 で の 支 援 〔「 上 司 」「 同 僚 」「 家 族 ・ 友 人 」〕
( 項 目 No.1 ∼ 9) を 入 れ た 3 項 目 お よ び 職 場 と 家 庭 に 対 す る 満 足 度 の 2 項 目
( 項 目 No.1 ∼ 2) が あ り ま す 。
358
359
職業性ストレス簡易調査票の採点方法は・・
職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 票 の 採 点 方 法 は 2 種 類 あ り ま す 。1 つ は 標 準 化 得 点
を 用 い る 方 法 ( 約 10,000 名 の デ ー タ か ら 算 出 ) で あ り 、 も う 1 つ は 回 答 肢
を二分割しチェック項目がいくつあったかを数える簡易採点法です。
1)標準化得点からの採点法
コンピュータを用いた採点方法
仕 事 の ス ト レ ス 要 因 か ら 修 飾 要 因 ま で の 計 57 項 目 に 対 す る 1 か ら 4 の 回 答
肢 を コ ン ピ ュ ー タ 入 力 し 、作 表 プ ロ グ ラ ム で デ ー タ フ ァ イ ル を 読 み 込 む 事 に
よ り 、自 動 的 に フ ィ ー ド バ ッ ク の た め の 図 表 2 枚 が 出 力 で き ま す 。フ ィ ー ド
バ ッ ク の た め の プ ロ グ ラ ム (Windows95 以 上 ) も 作 成 さ れ て お り 、 結 果 を 簡
単に出力することが出来ます。
2)簡易採点方法
コ ン ピ ュ ー タ を 用 い た 表 の 出 力 が で き な い 場 合 や 、調 査 票 に 回 答 し て も ら
ったと同時にその結果をフィードバックして判定評価を行いたい場合には、
簡易採点法を用いて採点する事が可能です。
具体的には、採点部分を指示した透明シートを調査票にあわせ、グレーの
ゾーンに回答した数を、質問のグループごとに数える作業を行います。
仕 事 の ス ト レ ス 要 因 か ら ス ト レ ス 反 応 ま で の 、要 チ ェ ッ ク と な っ た 数 を 調
べます。
仕事のストレス要因である、仕事の負担度、コントロール度、対人関係、
仕 事 の 適 合 性 の い ず れ か が 要 チ ェ ッ ク と な る 数 が 1 つ の 人 は 、チ ェ ッ ク の な
い 人 と 比 較 し て 、 心 理 的 ス ト レ ス 状 態 の 発 現 リ ス ク が 男 性 で は 3.4 倍 、 女 性
で は 4.4 倍 、 チ ェ ッ ク 数 が 2 つ の 人 は 、 男 性 で は 7.7 倍 、 女 性 で は 11.8 倍 、
3 つ 以 上 の 人 は 男 性 で は 26.7 倍 、女 性 で は 31.3 倍 に な る こ と が わ か っ て い
ま す 。同 様 に 、身 体 的 ス ト レ ス 状 態 の 発 現 リ ス ク も ス ト レ ス 要 因 の チ ェ ッ ク
数に応じて高まることが、明らかになっています.
要 チ ェ ッ ク 数 が 3 つ 以 上 と な っ た 人 は 、「 ス ト レ ス 問 題 が 高 い 確 率 で 疑 わ れ
る ケ ー ス 」 と し て 、 産 業 医 、 保 健 婦・ 士 の 面 談 や 、 心 理 相 談 の 受 診 を す す め
た り 、「 要 観 察 ケ ー ス 」 と し て 、 注 意 深 い フ ォ ロ ー が 必 要 と 考 え ら れ ま す 。
360
361
職業性ストレス簡易調査票の使用法
Ø 職場の定期健康診断などで簡単に使用できる、職業性ストレスの調査
票です。
Ø 特 徴 は 、ス ト レ ス 反 応 だ け で な く 、そ の 原 因 と 考 え ら れ る 仕 事 上 の ス ト
レ ス 要 因 や 、ス ト レ ス を 緩 和 す る 因 子 の 有 無 を 測 定 で き る 多 軸 的 な 調 査
票であることです。
使用方法
① 職場で労働者に配布します。
② 封筒に入れてもらって回収します。
③ コンピュータに入力し、結果を出力します。
④ 表 で は グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ て い る ○ の 数 が 多 い ほ ど 、ま た レ ー ダ ー チ ャ
ートでは範囲が狭い程、好ましくない状況を示します。
活用方法
① 職 場 の 定 期 健 康 診 断 等 の 機 会 に 施 行 す る 事 で 、労 働 者 の メ ン タ ル ヘ ル ス
チェックに使用できます。
② 事業所の作業環境の改善や、管理・監督者へのストレス教育などの前後
に使用する事により、その効果の判定に使用できる可能性があります。
使用にあたっての注意点
① 調 査 票 へ の 回 答 は 各 労 働 者 の プ ラ イ バ シ ー に か か わ る の で 、封 筒 に よ る
回収もしくは表紙をつけた形での回収が望ましい。
② グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ て い る 数 が 多 い 場 合 は 、メ ン タ ル ヘ ル ス の 観 点 か ら
「要チェック」状態であり、必ずしもうつ病などの精神神経疾患と診断
する事はできません。
③ 身 体 愁 訴 が グ レ ー ゾ ー ン に 入 っ て い る 場 合 に は 、必 ず し も ス ト レ ス の み
が 原 因 と は 限 り ま せ ん 。定 期 健 康 診 断 の 結 果 に 基 づ い た 適 切 な 対 応 を 考
慮してください。
本調査票は、職場におけるこころの健康管理の補助的資料として使用すべ
きものであり、ストレス状態の診断は必ず労働者本人との面談によって行
ってください。
使用のてびき
職業性ストレス簡易調査票を施行することにより、産業医や保健婦・ 士
は、労働者一人一人のストレスの状態を知り、同時に仕事に関連したスト
レス要因についての情報が得られます。そして、ストレス状態にある人を
早期に見つけ、対処することが可能となります。また労働者個人が自分の
ストレスに気づき、ストレスに対する意識が高まることが期待できます。
0
活気
①労働者に調査票を配布し、記入してもらいます。
②コンピュータで結果を出力します。
身体愁訴
イライラ感
③ レ ー ダ ー チ ャ ー ト 中 段 の 、ス ト レ ス に
よ っ て お こ る 心 身 の 反 応が高い状態で
あるかを調べます
全体的にチャートが大きいほ
ど心理的・身体的ストレス反
応が低く、良好な状態である
ことを示します。チャートが
小さくなり、特にグレーゾー
ンに入っている場合には、ス
トレス反応が高くなっている
状態が疑われます。
疲労感
抑うつ感
不安感
例: グ レ ー の 部 分 に 入 っ て い
る疲労感が高いことがわ
かります。
心理的な仕事の負担(量)
④回答者の仕事に関連した ス ト レ ス の 原 因 と
働きがい
考 え ら れ る 因 子が高いかを調べます。
例: グ レ ー の 部 分 に 入 っ て
いる心理的な仕事の負
担 ( 量 )が 大 き い と 考 え
られます
心理的な仕事の
負担(質)
あなたが感じてい
る仕事の適性度
自覚的な身体的
負担度
あなたの技能
の活用度
⑤ストレス反応に影響を与える他の
職場の対人関係
でのストレス
仕事のコントロール度
因 子の程度を調べます。
職場環境によるストレス
上司からのサポート
例:周囲からのサポートが
あ り 、ま た 仕 事 や 生 活 の
満足度も高いことを示
しています。
仕事や生活の満足度
同僚からのサポート
⑥ストレス反応が高い状況にある場合は、
④で仕事の原因と考えられる因子のチ
ェックを行いましょう。グレーゾーンに
入る軸が多い場合は、産業医、保健婦・
士、看護婦・士による面談を奨め早期に
対策をたてましょう。
家族や友人からのサポート
363
簡易ストレス調査票の利用方法は・・
1)セルフチェック
調 査 票 を 労 働 者 自 身 で 記 入・採点したり、社内イントラネットを使用して
自 己 判 定 す る こ と が ス ト レ ス の 気 づ き へ の き っ か け と な り ま す 。ス ト レ ス 軽
減のためのリラクセーション法やその効果を解説した対処法マニュアル等
を配布してあげることも有効でしょう。また、社内の産業医、カウンセラー
等 に 相 談 で き る 体 制 を 整 備 す る こ と が 望 ま れ ま す 。こ の よ う な 体 制 を 整 備 で
きない場合は社外の専門機関や中小企業にあっては地域産業保健センター
を活用するとよいでしょう。
2)健康診断時の問診および保健指導の補助としての利用
こ の 調 査 票 は ス ト レ ス の 状 況 を 把 握 す る 目 的 で 開 発 さ れ た も の で あ り 、特
定 の 疾 患 を 早 期 に 発 見 す る た め の 調 査 票 と は 異 な り ま す 。健 康 診 断 時 に 医 師
が 行 う 問 診 の 補 助 や 健 康 診 断 結 果 に 基 づ い て 医 師 や 保 健 婦・士 等 が 行 う 保 健
指導の補助として利用することができます。
3)ストレス対処後の評価に利用
本 人 の 気 づ き に 基 づ い て 何 ら か の ス ト レ ス 対 処 を 実 行 し た 場 合 、再 度 こ の
調査票を利用し、その対処法の有効性について判定することができます。
4)職場および職種間の評価に利用
職 場 あ る い は 職 種 間 の ス ト レ ス 状 況 を 把 握 す る こ と は 、事 業 場 の ス ト レ ス
対 策 を 推 進 す る う え で 大 変 重 要 で す 。デ ー タ を 職 場 ご と あ る い は 職 種 ご と に
集 団 と し て 解 析 す る こ と に よ っ て 、そ の 集 団 の ス ト レ ス 状 況 が 容 易 に 把 握 で
き ま す ( 仕 事 の ス ト レ ス 判 定 図 マ ニ ュ ア ル 参 照 )。
5)健康測定(THP)心理相談対象者の選定に利用
現在THPの心理相談対象者は医師の判断および希望者となっています
が 、こ の 調 査 票 を 利 用 す る こ と に よ っ て よ り 客 観 的 に ス ト レ ス 状 況 を 評 価 し 、
相談対象者を選定することが可能になります。
364
簡易調査票
セルフチェック
社内イントラネット
健康診断
健康測定
社内診療所
などの受診者
自己判定或いは産業医・嘱託医などの判定
判定結果の返却、ストレスへの気づきを促す
知識の普及、よりよい対処法などの紹介
ストレスプロフィールに問題のある人
アドバイスの希望者
産業医、看護婦・士などと面談、
専門医などの紹介
仕事のストレ
ス判定図(健
康影響評価班
参照)
高ストレス職場
職場へのアプローチ
365
366
367
利用上の注意点・・
1)家庭生活上のストレス要因は測定していません
したがって、職場のストレス要因の得点が低いにもかかわらずストレ
ス反応得点が高い場合は、家庭生活上のストレス要因がある可能性があ
ります。そのような場合はプライバシーに留意しながら、面談時にその
有無等について配慮する必要があります。また、職場のストレス要因、
家庭生活上のストレス要因ともに無く、ストレス反応が高い場合もあり
うるので、そのようなケースでは面談をかさね経過観察していくことが
必要です。
2)パーソナリティは考慮されていません
パーソナリティに関しては測定しておりません。ストレス反応得点が
高いケースを、即、ストレス状態であると決め付けることは出来ません。
面談時にパーソナリティを考慮する必要があります。また、ストレス反
応が高いケースでは、それがストレス状態と判断できる場合もあります
が、同時にパーソナリティも考慮される必要があります。パーソナリテ
ィの考慮には、面談が必要であり、時に専門家の支援が必要とされます。
3)調査時点のストレス状況しか把握できません
ストレス反応は最近1ヶ月間の状態について質問しており、それ以前
については把握できません。
4)プライバシーの保護が必要です
ストレスに関する調査結果は健康診断結果と同じです。プライバシー
の保護に十分留意する必要があります。
5)結果が必ずしも常に正確な情報をもたらすとは限りません
職業性ストレス調査票は、上記1∼4のような限界が有り、また自記
式調査票であることから、ありのままの状態を記入していないなどの可
能性があり、必ずしも常に正確な情報を示しているとは限りません。労
働者のストレスは調査票のみで判断するのではなく、面談を含め、労働
者の声をきくことにより判断する必要があるでしょう。
ストレス対策研究グループ成果物
ストレス対策の概念図
369
ストレス対策の概念図
事 業 所 に お い て ス ト レ ス 対 策 を 策 定 す る に あ た っ て 、以 下 の 点 に 沿 っ て 考
える必要があります。
(1)ストレスの現状の把握
① 事業者におけるストレスの現状の把握
こ の た め に は 、簡 易 ス ト レ ス 問 診 票 が 有 用 で す 。こ の 問 診 票 は 多 数 例 を
対 象 と し て 、 そ の 信 頼 性・ 妥 当 性 が 確 認 さ れ た も の で す 。 こ の 問 診 票 を 用
い る こ と に よ り 、簡 便 に 当 該 の 事 業 所 に お け る ス ト レ ス の 現 状 が 把 握 可 能
で す 。ま た 安 全 衛 生 委 員 会 で の 議 論 や 職 場 巡 視 も ス ト レ ス を 把 握 す る う え
で重要です。
② 従業員個人におけるストレスの状態の把握
簡 易 ス ト レ ス 問 診 票 を 用 い る こ と に よ り 、個 人 の ス ト レ ス の 状 態 を 把 握
することが可能になります。健康診断による情報の活用も有用です。
(2)事業所におけるストレス対策の立案
( 1 ) の 結 果 を も と に し て 、職 場 に お け る ス ト レ ス 対 策 の 立 案 を 行 い ま す 。
こ の 場 合 、事 業 所 全 体 に 対 す る 対 策 と 従 業 員 個 人 に 対 す る 対 策 を 分 け て 考 え
ることが肝要です。
① ス ト レ ス の 要 因 が 多 い と 判 定 さ れ た 場 合 に は 、ス ト レ ス 要 因 を 減 ら す
た め に 事 業 所 と し て の 対 策 を 講 じ ま す 。詳 細 は 当 該 の 項 目 を 参 照 し て 下 さ
い。
② 従 業 員 個 人 に お け る ス ト レ ス に 対 す る 抵 抗 力 を 増 す た め に は 、T H P
に も と づ い た 健 康 づ く り を 行 う こ と が 有 用 で す 。具 体 的 な 方 法 は 当 該 の 項
目を参照して下さい。
③ 従 業 員 に お い て ス ト レ ス に よ る 心 身 の 反 応 が み ら れ る 場 合 に は 、健 康
管 理 の 中 で 対 策 を 講 じ る こ と に な り ま す が 、事 業 所 の 規 模 に よ っ て 具 体 的
な方法は異なってきます。当該の項目を参照して下さい。
(3)事業所におけるストレス対策の実施とモニタリング
ス ト レ ス 対 策 を 実 施 に 移 し ま す が 、定 期 的 に モ ニ タ リ ン グ を す る 必 要 が あ
り ま す 。こ の 場 合 簡 易 ス ト レ ス 問 診 票 が 有 用 で す 。ま た 健 康 診 断 に よ る 情 報
も こ の 目 的 で 利 用 で き ま す 。こ の モ ニ タ リ ン グ に よ り 、ス ト レ ス 対 策 の 効 果
を測定してストレス対策法の有用性の確認を行います。
( 4 )( 3 ) の 結 果 に も と づ い て ス ト レ ス 対 策 法 の 修 正 を 行 っ て 再 度 実 施 に
移します。
こ の( 1 ) か ら ( 4 ) を 繰 り 返 す こ と に よ り 、 事 業 所 に お け る ス ト レ ス 対
策を推進します。
370
ストレスマネージメントの流れ
ストレスの状態の評価
簡易問診票
健診データなど
事業所の評価
従業員の評価
ストレス要因対策
ストレス反応対策
ストレス抵抗力増 強
事業所におけるストレスマネージメント方針の決定
ストレスマネージメントの実施
簡易問診票・健診データなどによる
モニタリング
ストレスマネージメントの再評価
ストレスマネージメントの修正・実施
371
職場のストレス対策に関わる担当者の役割
職場のストレス対策を、効率よく有効に行うためには、ストレス対策に関
わ る 方 々 を 適 正 に 配 置 す る と と も に 、そ れ ぞ れ の 役 割 分 担 を 明 確 に す る こ と
が 大 切 で す 。 こ の た め に は 、( 1 ) 労 働 者 自 身 に よ る ス ト レ ス 対 策 、(2)ラ
イ ン に よ る ス ト レ ス 対 策 、( 3 )健 康 管 理 資 源 に よ る ス ト レ ス 対 策 、( 4 )外
部資源によるストレス対策、に分けて考えることが便利です。
(1)労働者自身によるストレス対策
労 働 者 自 身 が ス ト レ ス に つ い て 理 解 し 、積 極 的 に 自 ら の ス ト レ ス 要 因 を 予
防 、 除 去 ( 軽 減 )、 あ る い は こ れ に 対 処 で き る こ と が 重 要 で す 。
(2)ラインによるストレス対策
ラインの管理監督者には、快適な職場環境の形成、個々の労働者に対する
支 援 、指 導・ 助 言 お よ び 相 談 に お い て 中 心 的 な 役 割 を 果 た す こ と が 求 め ら れ
て い ま す 。職 場 の 物 理 的 環 境 を 改 善 し て 、作 業 内 容 を 人 間 工 学 的 観 点 か ら 改
善 し ま す 。ま た 労 働 者 の 労 働 状 況 を 日 常 的 に 把 握 し 、労 働 が 過 度 な 精 神 的 負
担や困難を生じないように個々の労働者に合わせた調整を行います。
(3)事業場内健康管理スタッフによるケア
産業医、保健婦・士、看護婦・士、衛生管理者などの事業場内健康管理ス
タッフは、本人、ライン、組織全体が行うストレス対策に対して助言・勧告、
支 援 お よ び 実 行 を 行 う 役 割 を 担 っ て い ま す 。健 康 診 断 、健 康 測 定 や 職 場 巡 視
の 場 面 を 活 用 し て 、 ス ト レ ス に 関 す る 個 別 教 育・個別指導を行います。また
衛 生 管 理 者 や 衛 生 推 進 者 は 、労 働 者 自 身 お よ び ラ イ ン に よ る ス ト レ ス 対 策 を
健 康 管 理 ス タ ッ フ と 協 力 し な が ら 支 援 し ま す 。な お 人 事 ・ 労 務 管 理 ス タ ッ フ
は、事業場のストレス対策の計画立案に参加し、その実施に協力します。
(4)外部資源によるストレス対策
事 業 場 の ス ト レ ス 対 策 を 有 効 に 機 能 さ せ る た め に は 、事 業 場 外 の 諸 機 関 と
の 連 携 が 重 要 で す 。事 業 場 と 外 部 の 諸 機 関 と の ネ ッ ト ワ ー ク の 形 成 を 推 進 す
ることによって、ストレス対策を推進します。
372
職場のストレス対策に関わる担当者の役割
*ストレス源の予防・除去
*ストレス対処
人事・労務
労 働 者 本 人 管
理
ラ イ ン の
監 督 * 快 適 職 場 形 成
*労務管理によるストレス対策
理
ス
健 康 管
タ ッ フ * 健 康 診 断 ・ 健 康 測 定 ・ 職 場 巡 視
におけるストレス対策
*本人・ラインへの支援
業 所 外 諸 機 関
事
*専門的ストレス対策技術支援
373
ストレス対策と管理者教育
1.管理者教育の重要性
職 場 の ス ト レ ス 対 策 を す す め る に あ た っ て は 、管 理 者 教 育 が 必 要 不 可 欠 で
あると言っても過言ではありません。その理由は、以下の点にあります。
① 職場ストレスの程度は管理者によって左右される
平 成 9 年 に 労 働 省 が 実 施 し た 労 働 者 健 康 状 況 調 査 の 集 計 結 果 に よ る と 、職
場における主なストレス要因としては、人間関係、仕事の質、仕事の量、仕
事 の 適 性 な ど が あ げ ら れ ま す ( 表 1 を ご 参 照 く だ さ い )。 こ れ ら の 中 に は 、
管理者が適切な心配りや注意深い配慮を行うことによってある程度軽減で
きるものが少なくありません。
② 管理者は精神不健康者の早期発見のキーパーソンである
身体の不調はもとより、精神面の不調もまた、職場での言動や業務効率の
低 下 な ど の 面 に 影 響 を 及 ぼ す こ と が 知 ら れ て い ま す 。し た が っ て 、日 頃 か ら
職 場 内 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を よ く し 、職 場 全 体 を よ く 観 察 し て い れ ば 、管
理 者 は 早 期 の う ち に 精 神 不 調 者 を 発 見 す る こ と が 可 能 で あ る と い え ま す 。精
神 面 の 不 調 も 、早 期 の う ち に 適 切 な 対 応 を 行 う こ と に よ っ て 、そ れ だ け 速 や
かな回復が期待できます。
2.管理者教育に求められる事柄
管 理 者 は 、心 の 健 康 の 専 門 家 で は あ り ま せ ん か ら 、医 学 あ る い は 心 理 学 的
な 専 門 知 識 を も つ 必 要 は あ り ま せ ん 。次 の よ う な 役 割 を 認 識 し て も ら う こ と
が重要です。
① 職場のコミュニケーションを良好にすること
② 部下をよく観察し、必要に応じて個別面談などの場をつくること
③ ストレスの受け止め方や心の不調への陥りやすさには個人差があるこ
とを理解し、それに基づいた対応を図ること
④ 特 に 高 ス ト レ ス 下 に あ る 者 に 対 し て は 、業 務 上 の 配 慮 を は じ め と す る 支
援を怠らぬこと
⑤ 必 要 に 応 じ て 、産 業 医 を は じ め と す る 産 業 保 健 ス タ ッ フ と 連 携 を と る こ
と
⑥ プライバシーに対する配慮を十分に行うこと
また、教育をすすめるにあたって、管理者がこうした注意や心得を苦痛と
感 じ な い よ う に 工 夫 す べ き で す 。実 際 に 、上 記 の よ う な 対 応 を 管 理 者 が 適 切
に 行 う こ と が で き れ ば 、明 る く 働 き や す い 職 場 の 形 成 が 実 現 で き 、管 理 者 と
しての仕事もやりやすくなるはずなのです。
374
3.管理者教育の実施
管 理 者 教 育 の 担 当 者 と し て は 、 産 業 医 、 衛 生 管 理 者 、 T H P( ト ー タ ル ヘ
ル ス・ プ ロ モ ー シ ョ ン・プラン)の心理相談担当者などがあげられます。教
育の効果を高めるには、教育担当者が、各種研修等を通じて、従来の労働衛
生 の 知 識 だ け で な く 、精 神 面 の 健 康 に 関 す る 考 え 方 や 技 法 な ど に 習 熟 す る こ
とが望まれます。
教 育 内 容 は 、 上 に 掲 げ た ① ∼ ⑥ に 関 す る 点 を 中 心 と す べ き で す が 、事 例 な
ど を 織 り 交 ぜ て 、で き る だ け わ か り や す い 実 践 的 な も の に し た 方 が よ い で し
ょ う 。 所 要 時 間 は 、 最 低 60 分 程 度 は 必 要 で あ る と 考 え ら れ ま す 。
表 2に は 、 管 理 者 教 育 プ ロ グ ラ ム の 一 例 を 示 し ま し た 。
なお、事業所の内部に適当な教育担当者がいない場合には、地域産業保健
センターや産業保健推進センターなどを活用することもできます。
表1 仕事や職業生活での強い不安,悩み,ストレスの主な内容
人間関係 仕事の質 仕事の量 仕事への適性
46.2 % 33.5 % 33.3 % 22.8 %
平成 9 年労働者健康状況調査報告より
表 2 管 理 者 教 育 プ ロ グ ラ ム の 一 例
労働安全衛生法の要点
5 分
安全配慮義務と事業者責任
5 分
ストレスと健康との関係概説
10 分
ストレス対策における管理者の役割
15 分
事例検討
15 分
10 分
業務上災害認定の新しい考え方
375
保健指導におけるストレス対策
健 康 診 断 は す べ て の 労 働 者 が 年 1 回 は 受 け る 必 要 が あ り 、こ こ ろ の 面 も 含
めた健康状態を確認し、必要な支援を行うよい機会となります。
健 康 診 断 に お い て こ こ ろ の 健 康 状 態 を 的 確 に チ ェ ッ ク す る た め に は 、面 接
に よ る 問 診 が 重 要 な 意 味 を も ち ま す 。肝 臓 の 機 能 な ど と 異 な り 、血 液 検 査 な
ど で こ こ ろ の 健 康 度 を 測 定 で き る 簡 便 な 方 法 は な い か ら で す 。こ の 問 診 に は 、
少 な く と も 5∼ 10 分 程 度 の 時 間 を か け る こ と が 必 要 で す 。 問 診 を 効 率 よ く
行うには、よく吟味された質問票を活用することもすすめられます。
健 康 診 断 に よ っ て 、さ ら に 時 間 を か け た 面 接 を 行 う こ と が 望 ま し い と 判 断
さ れ た 場 合 や 、本 人 が 希 望 し た 場 合 に は 、改 め て 保 健 指 導 の 形 で 面 接 の 場 が
設定されるようにしてください。
労 働 安 全 衛 生 法 で は 、健 康 診 断 の 結 果 必 要 で あ る と み と め ら れ た 場 合 に 保
健 指 導 を 行 う こ と が 定 め ら れ て い ま す 。保 健 指 導 を 行 う の は 、医 師 ま た は 保
健 婦・士であり、面接による個別指導、文書による指導などの方法がありま
す。しかし、保健指導をより実効性の高いものにするためには、面接による
個別指導を行うことが重要であるといえます。
こ の 過 程 で 、高 ス ト レ ス 状 態 に あ っ た り 、大 き な 悩 み を か か え て い る と 判
断 さ れ た 例 で は 、 健 康 状 態 が 悪 化 し な い よ う に 、適 切 な 支 援 が な さ れ る べ き
で す 。高 ス ト レ ス 状 態 に あ っ て も 自 分 自 身 が そ れ に 気 づ か な い と 、適 切 な 対
応 が と ら れ ず 健 康 の 保 持 増 進 は ま ま な り ま せ ん 。自 分 の ス ト レ ス 状 態 に 対 す
る 気 づ き を 高 め る よ う な 助 言 や 指 導 が 効 果 的 で す 。ま た 、高 ス ト レ ス の 原 因
の 大 半 が 仕 事 上 の 諸 問 題 に あ る 場 合 に は 、 本 人 と よ く 話 し 合 っ た 上 で 、職 制
や 人 事 担 当 な ど の 関 係 部 署 が か か わ っ て 、何 ら か の 業 務 上 の 配 慮 を 検 討 す る
余 地 も あ る で し ょ う 。一 部 の 例 で は 専 門 医 療 機 関 を 受 診 す る よ う 勧 奨 す る 必
要 が あ る か も 知 れ ま せ ん 。す で に 通 院 を し て い る 労 働 者 に は 、服 薬 が 主 治 医
の 指 示 通 り 行 わ れ て い る か ど う か を 確 認 す る な ど 、適 切 な 受 療 を 支 援 す る よ
うな働きかけを行いたいものです。
一 方 、精 神 面 の 健 康 に 特 に 留 意 す る 必 要 が な い と 判 断 さ れ た 労 働 者 に 対 し
て も 、ラ イ フ ス タ イ ル の 偏 り な ど が み ら れ る 場 合 に は 、そ の 適 正 化 を す す め
る こ と に よ っ て 、 各 々 の 労 働 者 の 健 康 レ ベ ル が 高 ま り 、明 る く 健 康 な 職 場 形
成の実現に寄与できることが期待されます。
右 に は 、健 康 診 断 を も と に し た メ ン タ ル ヘ ル ス 活 動 の 進 め 方 を 例 示 し ま し
た。
問 診 で 精 神 面 の 健 康 度 を 推 し 測 っ た り 、 適 切 な 助 言 を す る に は 、ス ト レ ス
や こ こ ろ の 健 康 に 関 す る 一 定 の 知 識 と 技 術 が 必 要 で す 。 健 康 診 断 の 問 診 、そ
の 後 の 保 健 指 導 に 携 わ る 医 師 や 保 健 婦・士は、研修等を通じて、そ れ ら を 習
得することが望まれます。
376
健康診断
問診:心身の不健康状態のチェック、治療状況の確認
ライフスタイルなどの問題点の把握
職場適応状態などの確認
(質問票の活用)
健診結果の通知
面接による個別指導
文書による助言・指導:
結果のフィードバック、面接のすすめ
健康の保持増進への気づきを促すコメントなど
新規受療、受療継続に関するコメントなど
詳細な問診とその結果に応じた指導・助言
無所見群 高リスク群 要治療群
健康づくりの支援
・ライフスタイル(食
事、運動、飲酒、
喫煙、睡眠など)
の見直し
・ 健康の保持増進に
関する動機づけ
・働きやすい職場形
成に関する助言
高ストレス状態の緩
和に対する助言・指導
・ストレスに対する
気づきの促進
・ストレス対処法の
改善提案
・ストレス軽減法の
指導
・外部資源活用の提
案
・業務上の配慮の検
討
適切な受療への支援
・受療の勧奨
・主治医の指示に基
づいた服薬の指導
・専門機関との連携
・業務上の配慮の検
討
・
(必要に応じて)
家族との連携
健康診断をもとにしたストレス対策のすすめ方(例)
377
管理監督者に求められるリスナーマインド
急 激 な 雇 用 調 整 や 裁 量 労 働 制 の 導 入 等 、 雇 用 形 態 の 大 き な 転 換 期 の 中 、働
く人々のストレスは増加し、心身の不調、問題飲酒、過労自殺、更には事故
災 害 を も 引 き 起 こ す 結 果 と な っ て い ま す 。働 く 人 自 身 に は 自 己 の メ ン タ ル ヘ
ル ス 確 保 の 意 識 が 求 め ら れ ま す が 、企 業 に は 組 織 と し て メ ン タ ル ヘ ル ス に 対
す る 具 体 的 対 策 を 積 極 的 推 進 す る 必 要 が あ り ま す 。働 く 人 が 疲 労 や ス ト レ ス
を 溜 め ず 、 職 務 に 励 め る「 物 理 的 環 境 、 人 的 環 境 、 作 業 環 境 や 作 業 方 法 な ど
の 諸 側 面 」 で の 働 き や す さ( 快 適 性 ) を 追 求 し 、 作 業 負 荷 の 軽 減 と 疲 労 回 復
策 を 取 り 入 れ る 等 、職 場 ス ト レ ス 因 の 軽 減 と 対 処 資 源 対 策 を 含 め た ス ト レ ス
マ ネ ー ジ メ ン ト の 実 践 が 求 め ら れ ま す 。具 体 的 に は 、職 場 メ ン タ ル ヘ ル ス 活
動 を 労 務 管 理 、リ ス ク マ ネ ー ジ メ ン ト で あ る と の 視 点 に 立 っ た 管 理 監 督 者 に
よるリスナー活動が有効です。
リ ス ナ ー と は Active Listening( 積 極 的 傾 聴 ) か ら 生 ま れ た 言 葉 で す が 、
リ ス ナ ー 教 育 で は 作 業 関 連 疾 患 や 職 場 不 適 応 現 象( 部 下 の 心 身 の 変 調 ・ 不 調
や 問 題 行 動 ) に 対 す る 理 解 を 深 め 、 部 下 の 心 身 の 変 調・ 不 調 に 対 し て 医 療 の
対 象 と し て 関 わ る 以 上 に 、対 人 関 係 を 含 め た 職 場 環 境 や 職 務 や 作 業 態 様 の 変
化 、 仕 事 の 質・ 量 等 に 焦 点 を 当 て 、 部 下 の 問 題 解 決 に 係 わ る 姿 勢 を 育 み ま す 。
部 下( 個 人 ) が 抱 え る 問 題 は 職 場( 組 織 ) の 問 題 で も あ る と 捉 え て 、 職 場 に
おけるストレスの改善・調整に努める視点を身に付けます。
管 理 監 督 者 を リ ス ナ ー と し て 養 成 す る の は 『 ① 働 く 人 の 苦 し み 、悩 み 、
迷い等は作業行動、勤務状況、日常の態度 に 現 れ る ② そ れ ゆ え 、 部 下 の
ス ト レ ス 等 に よ る 困 惑 や「 つ い う っ か り … 」な ど の 日 常 的 な 心 の 動 揺 に 対 す
る援助者としての役割は第一線の管理監督者が最適である ③管理監督者
に は 部 下 に 対 す る 安 全 配 慮 義 務 が あ る 』 か ら で す 。リ ス ナ ー と し て の 職 場
活動の実践にあたって、具体的なポイントは以下の通りです。
先 ず 第 一 は 日 常 の 職 場 生 活 で の 部 下 へ の「 気 配 り 」 で す 。 部 下 の 微 妙 な 変
化に「気づき」、気づいたことには「声かけ」をします。 声かけに対してその
際 ど の 様 な 反 応 (応 答 ) が 見 ら れ る か を 観 察 し 、 気 づ い た 問 題 に 対 し て は 回 答
するというよりは全身で応ずる姿勢を示します。この様な日々の『 気 配 り
⇒ 気 付 き ⇒ 声 か け ⇒ 応 答( ⇒ リ ス ニ ン グ )』の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 繰
り返すことが、部下との良好な人間関係や信頼感を育み、その結果、職場・
作 業 に 内 在 す る 問 題 や 対 人 関 係( 職 場 風 土 )を 含 め た 環 境 を 正 確 に 把 握 す る
ことが出来るようになるのです。
・把握した問題は整理し、後刻、生ずると予測される影響、支障を未然に予
防して、快適で安全な職場づくりを進めて行きます。
・ 問 題 を 個 人 の 要 因( パ ー ソ ナ リ テ ー 面 、 生 育 歴 、 学 歴 、 能 力 ) と 共 に 、 組
織 の 問 題(職場風土、職務内容、人事方針、経営政策、昇進、配置転換、出
378
向、地位、役割)としても捕らえて改善を図ります。
・そのためには職場と健康管理部門と人事労務部門の三位一体となった関
わりが不可欠です。
以上がリスナーとしてのメンタルヘルス支援活動のキーポイントですが、
このことは職場生活で当然必要とされるマネージメントの知識とパーホー
マ ン ス に 他 な ら な い の で す 。ラ イ ン リ ス ナ ー 教 育 を 通 し て 、管 理 監 督 者 は リ
スナー・マインドの重要性を認識し、 従来の上意下達のコミュニケーショ
ンから、部下と相補性、双方向性で関わる支援態度を獲得し、日々のマネー
ジ メ ン ト の 中 で 部 下 の 業 務 能 力 、適 応 能 力 を 把 握 し 、職 場 環 境 に 潜 む ス ト レ
ッ サ ー を 考 察 す る こ と の 重 要 性 を 認 識 し ま す 。そ の 結 果 は 職 場 の 能 率 改 善 、
生産性の向上として反映されて行くことになります。
ストレスマネージメントを労務管理の一環に位置づけたリスナー教育は
その意味からも従業員個人と組織の両面への健康アップの有効手法である
といえます。
リ ス ナ ー 活 動 の 基 本『 気 配 り ⇒ 気 付 き ⇒ 声 か け 』の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ
ンは、管理監督者の日常実務として不可欠と言えましょう。
379
メンタリングによるストレス対策
従 業 員 が 精 神 健 康 を 維 持・向上させるためには、職場におけるストレス対
策 が 不 可 欠 で す 。ス ト レ ス 対 策 に は 大 き く 分 け て 2 つ の 種 類 が あ り ま す 。第
1 の 対 策 は 、心 に 病 を 抱 え る 人 を 発 見 し 治 療 し 、職 務 に 復 帰 さ せ る と い う 治
療 的 な 対 策 で す 。 こ の 対 策 に は 、専 門 医 や 産 業 カ ウ ン セ ラ ー な ど の 持 つ 専 門
的 な 知 識 や 技 法 が 極 め て 重 要 な 役 割 を 果 し ま す 。第 2 の 対 策 は 、ス ト レ ス が
原 因 で 従 業 員 が 身 体 面・精 神 面 に お い て 不 健 康 な 状 態 に 陥 る の を 未 然 に 防 ぐ
予 防 的 な 対 策 で す 。こ の 対 策 に は 、専 門 的 な 知 識 や 技 法 を 持 た な い 人 で も 十
分 に 関 わ る こ と が で き ま す 。こ の 第 2 の 対 策 の 中 で 、最 近 注 目 さ れ て い る の
が「メンタリング」の理念と技法を用いた対策です。
メ ン タ リ ン グ と は 、「 知 識 や 経 験 の 豊 か な 人 々 ( = メ ン タ ー ) が 、 ま だ 未
熟 な 人 々( = プ ロ テ ジ ェ ) に 対 し て 、 キ ャ リ ア 的 側 面 と 心 理 ・ 社 会 的 側 面 か
ら 一 定 期 間 継 続 し て 行 う 支 援 」 の こ と で す 。キ ャ リ ア 的 側 面 か ら の 支 援 と は 、
プロテジェのキャリア形成やキャリア発達を促すことを目的としたメンタ
ー の 支 援 行 動 を 意 味 し ま す 。 一 方 、 心 理・ 社 会 的 側 面 か ら の 支 援 と は 、 社 会
や 企 業 に お け る プ ロ テ ジ ェ 自 身 の 立 場 、役 割 、ア イ デ ン テ ィ テ ィ に つ い て の
理 解 を 向 上 さ せ 、一 人 の よ り 成 熟 し た 人 間 と し て の 成 長 を 促 す 支 援 を 意 味 し
ます。
職 場 で 自 発 的 に 多 く の メ ン タ リ ン グ が 実 施 さ れ て い れ ば 、た と え 過 度 な ス
ト レ ス に 直 面 し て い る 人 が い た と し て も 、職 場 の よ り 身 近 な 人 々 に よ っ て 身
体・ 精 神 面 で の 不 健 康 な 症 状 に 陥 る 前 に 発 見 さ れ た り 、日 常 的 に 必 要 か つ 適
切 な キ ャ リ ア 的 支 援 や 心 理 的 支 援 を 受 け る こ と が で き る の で す 。つ ま り 、メ
ン タ リ ン グ に よ る ス ト レ ス 対 策 と は 、職 場 で 働 く 人 々 が 主 体 と な っ て 繰 り 広
げ ら れ る ス ト レ ス に よ る 身 体・ 精 神 的 不 健 康 状 態 の 早 期 発 見・ 予 防 策 と 言 え
ましょう。
では、このメンタリングが職場の中で行われるようにするには、どのよう
に し た ら よ い の で し ょ う か 。メ ン タ リ ン グ は 本 来 、職 場 で 働 く 人 々 に よ っ て
自 発 的 に 行 わ れ る べ き 性 質 も の で あ り ま す が 、こ れ を 職 場 に 根 づ か せ る た め
には、ある程度の制度的なバックアップが必要です。具体的には、各組織や
職 場 の 理 念 、制 度 や 慣 行・ 風 土 を 考 慮 し 計 画 的 に 設 計 さ れ た メ ン タ リ ン グ ・
プ ロ グ ラ ム を 導 入 し 、ま ず は 人 為 的 な 形 で 人 々 の 間 で 行 わ れ る メ ン タ リ ン グ
を 促 し て い く の が 効 果 的 で す 。 一 般 的 な メ ン タ リ ン グ・プログラムは、以下
の 7 つ の ス テ ッ プ か ら 成 り 立 っ て い ま す 。す な わ ち 、① プ ロ グ ラ ム の 実 施 準
380
備 、 ② プ ロ グ ラ ム 告 示 と 参 加 者 公 募 、 ③ メ ン タ ー / プ ロ テ ジ ェ の 選 抜 、④メ
ン タ ー と プ ロ テ ジ ェ に 対 す る 訓 練 と オ リ エ ン テ ー シ ョ ン 、⑤ メ ン タ ー と プ ロ
テジェのマッチング、⑥実施とモニタリング、⑦評価と修正、です。
こ の よ う に 十 分 に 設 計 さ れ た メ ン タ リ ン グ・ プ ロ グ ラ ム を 活 用 す る こ と に
よ っ て 、組 織 内 に 潜 在 す る 自 発 的 な メ ン タ リ ン グ を 誘 発 し 、人 々 の メ ン タ リ
ン グ・ マ イ ン ド と 組 織 の メ ン タ リ ン グ 風 土 の 形 成 を 促 進 し 、働 く 人 々 の 心 に
優しい職場づくりの実現が期待できます。
381
身体活動・運動によるストレス解消
身 体 活 動 や 運 動 に よ る ス ト レ ス 解 消 に 対 す る 効 果 は 、理 論 的 に 解 明 さ れ て
いるわけではない。しかし、多くの肯定的な報告があることも確かである。
世 界 保 健 機 構 は 1 9 9 6 年 8 月 に「 高 齢 者 の 身 体 活 動 を 促 進 す る た め の ハ
イ デ ル ベ ル グ 指 針 」を 公 表 し た が 、こ の 指 針 の 中 で 適 当 な 身 体 活 動 は 即 効 的
な 効 果 と し て ス ト レ ス と 不 安 の 軽 減 を 図 る と と も に 、リ ラ ク セ ー シ ョ ン を 誘
発するとしている。また、長期的な効果として、うつ病や心身症をはじめい
く つ か の 精 神 疾 患 に 対 し て 治 療 的 効 果 が あ る と し て お り 、一 般 に 身 体 活 動 や
運動のストレス解消効果は、認知されているところである。
労 働 省 の「 労 働 者 健 康 状 況 調 査 報 告 (1997)」 で も 、 労 働 者 に 対 す る「 あ な
た の 疲 労 ・ ス ト レ ス 解 消 法 は 何 で す か 」 と い う 問 い か け に 、 男 性 の 35.1%、
女 性 20.7%が ス ポ ー ツ と 答 え て お り 、多 く の 労 働 者 が 身 体 を 動 か す こ と を 肯
定的にとらえていることがわかる。
運 動 を 定 期 的 に 実 施 し て い る 者 は 、全 く 運 動 を し な い 者 や 、た ま に し か 運
動 を 行 わ な い 者 に 比 べ 、仕 事 や 生 活 満 足 度 が 高 く 、ス ト レ ス レ ベ ル は 有 意 に
低 か っ た 。( 表 参 照 )
表 「Q.運動をしていますか?」に対する回答と精神健康度
性
男
性
平均値
SD
平均値
SD
2051
6.4
1.8
7.1
1.7
5.2
2.0
1.8
2.1
たまに
4223
6.4
1.7
6.7 a
1.8
5.4 a
1.9
1.9
2.1
しない
2888
6.1 a,b
1.9
6.3 a,b
2.0
5.6 a,b
1.9
2.2
2.4
合計
9162
6.3
1.8
6.7
1.8
5.4
1.9
1.9
2.2
頻度
人数
定期的
平均値
SD
仕事満足度(p=0.000) 生活満足度(p=0.000) ストレスレベル(p=0.000)
女
性
平均値
SD
GHQ(p=0.000)
定期的
609
5.9
1.8
7.4
1.6
5.2
2.0
2.1
2.3
たまに
1393
6.0
1.9
7.1
1.8
5.5
2.6
2.0
2.3
しない
1283
5.7b
2.1
6.7 a,b
2.9
5.6
1.8
2.2
2.4
合計
3285
5.9
1.9
7.0
2.3
5.5
2.2
2.1
2.4
仕事満足度(p=0.005) 生活満足度(p=0.000) ストレスレベル(p=0.002)
GHQ(p=0.084)
(p):一元配置分散分析、a:多重比較,p<0.05,「定期的」群との比較、b:多重比較,p<0.05,
「たまに」群との比較
また、図に示したように、男性では2年間の運動を継続した者は、GHQ
得点、ストレスレベルは有意に低かった。運動開始群は、生活満足度が向上
し 、ス ト レ ス レ ベ ル が 低 下 し て お り 、運 動 中 断 群 は 逆 の 傾 向 を 示 し て い る 。
女性でも同様の傾向が見られる。
382
* : p< 0.05、 一 元 配 置 分 析 後 、 多 重 比 較 検 定 、 # : p< 0 . 0 5 、 Wilcoxon 検 定
図 2 年 間 の 運 動 実 施 状 況 と 精 神 健 康 度 と の 関 連 ( 男 性 、 n=3722)
な お 、身 体 活 動 や 運 動 は ス ト レ ス へ の 解 消 効 果 が 認 め ら れ る が 、そ れ 自 体
も 大 き い ス ト レ ッ サ ー と な り う る の で 、リ ー フ レ ッ ト で は 呼 吸 や 筋 弛 緩 法 な
ど日常生活に取り組みやすい活動や身体の不快感を解消するための活動を
取 り 上 げ た り 、あ る い は 自 然 と 親 し む と 言 っ た 日 常 生 活 の 延 長 線 上 で 行 え る
ような活動も取り上げている。
ま た 、基 礎 体 力 を 向 上 さ せ る と ス ト レ ス へ の 抵 抗 性 が 増 す と 言 わ れ て お り 、
健康確保推進活動や従業員が自主的にいろいろな運動に取り組む機会を増
やす意味で、軽スポーツメニューの提供、イベントの開催、運動施設の設置、
外部施設の利用契約なども重要な施策となる。
からだを動かし
リラックス!
384
からだを動かしてリラックスしませんか
い ろ い ろ な ス ト レ ス 解 消 法 が あ り ま す が 、適 度 に か ら だ を 動 か し て リ ラ ッ
ク ス す る 方 法 も あ り ま す 。職 場 で も 簡 単 に 取 り 入 れ ら れ る の で 、ぜ ひ 試 し て
みてください。
か ら だ を 動 か し て 、緊 張 し た か ら だ を と き ほ ぐ し た り 、ス ト レ ス の 原 因 か
ら 少 し 離 れ て み る 、別 の 自 分 を 見 つ け る 、さ ら に ス ト レ ス に 対 す る 抵 抗 力 を
高 め る な ど 、か ら だ を 動 か す こ と で 、ス ト レ ス と う ま く つ き あ う こ と が で き
ます。
ス ト レ ス 解 消 の た め に か ら だ を 動 か す 方 法 に は 、決 ま っ た ル ー ル は あ り ま
せん。気が向いたときに、自分が楽める活動に取り組んでみてください。
た だ し 、ほ か の ス ト レ ス 解 消 法 と 同 じ よ う に 、あ う か あ わ な い か 人 そ れ ぞ
れ違います。むりに勧めることは避けてください。
1.まず呼吸から
からだが緊張してくると、呼吸が浅く、
早くなってきます。
大きく深呼吸をするだけでも、緊張が少
しときほぐされていきます。また、ゆっく
りと長い息を吐くと、リラックスすること
も知られています。中国には、こういった
呼 吸 を 蚕 が ゆ っ く り と 細 い 絹 を 吐 い て い く 様 子 に た と え て 、「 春 蚕 吐 糸 綿 々
不断」という言葉で表すことがあります。こんな、イメージでゆっくりと細
い息をできるだけ長く吐いてみてください。
2.からだの緊張をやわらげる
緊張すると筋肉が収縮して自然とからだが
こわばってきます。でも、緊張した筋肉のこわ
ば り を と き ほ ぐ す と 、こ こ ろ も リ ラ ッ ク ス す る
ことができます。
筋肉をゆるめようとしても、なかなかゆるん
できません。そこで、少しだけ筋肉に力を入れ
て か ら 力 を 抜 く と 、筋 肉 の 緊 張 は ず っ と ゆ る み
やすくなります。
肩 が こ わ ば っ た と き は 、肩 を ぎ ゅ っ と 縮 め て
10秒ぐらい保ってから、力を抜いてみましょう。
ほ ぐ れ た 所 に 血 行 が 戻 り 、あ た た か く な る の が 感 じ ら れ ま し た か ? 筋 肉 が
緊張した感じと、ゆるんでいく感じを、いろいろな場所で確かめて下さい。
385
3.瞑想にふける
ト ラ ン ス 体 操 と 言 い ま す が 、体 操 と い っ て も 決 ま っ た 動
きがあるわけではありません。
床 に あ ぐ ら を か い た り 楽 な 格 好 を し て 、自 分 の 好 き な 音
楽 を 流 し な が ら 、か ら だ に 任 せ て 上 半 身 を 自 由 に 動 か し ま
す 。何 も 考 え ず に 最 初 は 首 や 腕 な ど を ゆ っ く り と 動 か し て
みましょう。
4.自然と親しむ
郊外をのんびりと歩いたり、自転車に乗ってみる、ちょ
っと本格的にハイキングに出かける、あるは、花を植えた
り釣りをするなど、自然にふれてすごしてみませんか。
夏は海水浴、冬はスキーというように、季節に応じた活
動も楽しんで下さい。
カヌー教室や、探鳥会、星を見る催しなどが開かれてい
れば、そういったところに出かけてみませんか。新しい発
見があるかも知れません。
5.いろいろなスポーツにトライアル
か ら だ の 調 子 が 悪 い と 、ち ょ っ と し た こ と で も 気 に な
っ た り 、他 の 人 に 対 し て ゆ と り を 持 っ て 接 す る こ と が で
き な く な っ た り し ま す 。逆 に 体 調 が よ い と 、少 し く ら い
ス ト レ ス が か か っ て も 、あ ま り 影 響 を 受 け な く て す ま す
ことができます。
ま た 、ふ だ ん か ら ス ポ ー ツ し て い る 人 は 、ス ト レ ス レ
ベルが低いことが知られています。
で す か ら 、ス ポ ー ツ が そ れ ほ ど 嫌 い で な け れ ば 、何 か
スポーツに挑戦してみませんか。
マイペースで行なえるウ
ォーキングやジョギング、
水泳、いろいろな人たちとコミュニケーション
を楽しみながら行うテニスや野球といった球技
など、自分で楽しめるスポーツがあればぜひ取
り組んで見てください。
公共施設やスポーツクラブなどの、初心者向
けの教室に参加するのも良いでしょう。
ただし、昔経験したスポーツを再開するとき
は要注意。初心に戻って、まずゆっくりとペー
ス を 落 と し て 、少 し ず つ な れ て い っ て く だ さ い 。
386
インターネットの活用によるメンタルヘルス活動
最 近 、メ ン タ ル ヘ ル ス の 分 野 で も イ ン タ ー ネ ッ ト の 利 用 が 盛 ん に な っ て き
ました。中でも、ホームページを用いた教育・啓蒙活動や電子メールを使っ
た相談活動は、すでにいくつかの企業で定着し有効に活用されています。
ホ ー ム ペ ー ジ に よ る 情 報 提 供 の 長 所 と し て 、多 く の 情 報 を 様 々 な 方 法 で 表
現 で き る こ と 、一 度 に 多 く の 人 に 情 報 を 提 供 で き 、比 較 的 簡 単 に 情 報 の 更 新
が 行 え る こ と な ど が あ げ ら れ ま す 。こ の た め や や 難 解 に な り が ち な メ ン タ ル
ヘ ル ス の こ と も わ か り や す く 説 明 で き ま す し 、従 業 員 全 員 に 対 し て 新 し い 情
報 を タ イ ミ ン グ よ く 提 供 す る こ と が 可 能 に な り ま す 。 他 に 、 右 図 に 示 す「 職
業 性 ス ト レ ス 簡 易 評 価 ホ ー ム ペ ー ジ 」な ど を 使 っ て 仕 事 上 の ス ト レ ス や 健 康
状 態 を チ ェ ッ ク し た り 、ス ト レ ス へ の 対 処 方 法 を 提 示 し て も ら う と い っ た 使
い 方 も 役 に 立 つ で し ょ う 。ま た 色 々 な 悩 み に 対 す る 専 門 家 か ら の ア ド バ イ ス
を ま と め た サ イ ト や 、様 々 な 事 例 に 対 し 管 理 者 は ど の よ う に 対 処 す べ き か シ
ュ ミ レ ー シ ョ ン す る サ イ ト な ど 、す で に 公 開 さ れ て い る 人 気 サ イ ト に リ ン ク
させて従業員教育や管理者教育に利用するのも効果的です。
今や電子メールは一般的なコミュニケーションツールの一つとなってい
ま す が 、場 所 や 時 間 に 制 約 さ れ ず 守 秘 性 が 高 い と い っ た そ の 特 徴 は メ ン タ ル
ヘ ル ス 相 談 に お い て も 大 き な 利 点 と な り ま す 。わ ざ わ ざ 健 康 管 理 室 や 専 門 機
関 に 足 を 運 ば な く て も 自 分 の 机 か ら メ ー ル で 相 談 で き る よ う に な る と 、そ の
気 軽 さ か ら よ り 多 く の 人 が よ り 早 い 段 階 で 悩 み を 寄 せ る よ う に な り 、心 身 の
不 調 に 対 す る 早 期 発 見 と 早 期 介 入 が 可 能 と な り ま す 。も ち ろ ん メ ー ル 相 談 で
す べ て 解 決 さ れ る わ け で は な い た め 、面 接 に よ る カ ウ ン セ リ ン グ や 専 門 医 へ
の 受 診 を 勧 め ら れ る ケ ー ス も 多 い わ け で す が 、そ の 場 合 で も 事 前 に メ ー ル 相
談で正確な知識や的確なアドバイスが得られればスムーズに受療行動に結
び つ く こ と が 期 待 さ れ ま す 。電 子 メ ー ル を 使 っ た 相 談 で は 、何 度 か メ ー ル を
や り と り す る 手 間 や セ キ ュ リ テ ィ ー 管 理 等 の 問 題 も あ り ま す が 、気 軽 に 相 談
し て も ら え る と い う こ と は 何 よ り も 大 き な メ リ ッ ト で あ り 、メ ン タ ル ヘ ル ス
相 談 の 窓 口 の 一 つ と し て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い く と 思 わ れ ま す 。最 近 で は
いくつかの機関でインターネットを使ったメンタルヘルスサービスの提供
が 始 ま っ て い ま す が 、自 社 内 で の シ ス テ ム 運 用 や 相 談 担 当 者 の 確 保 が 難 し い
場合にはこれらの外部機関を利用するのも一つの方法かもしれません。
今後もインターネットを利用したメンタルヘルス活動はさらに拡がって
い く と 思 わ れ ま す 。し か し 、そ の 優 れ た イ ン タ ー フ ェ ー ス と し て の メ リ ッ ト
は 生 か し な が ら も 、同 時 に 機 密 の 保 持 や 利 用 範 囲 な ど に つ い て の き ち ん と し
たルール作りを行っていくことが不可欠なのは言うまでもありません。
387
388
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「産業メンタルヘルスシステム」
研究グループ成果物
391
1 メンタルへルスとは
2 メンタルへルスのシステムをつくる
3 セルフケアの支援
4 事業場の取り組み
5 社会のなかの取り組み
6 主な資源リスト
1 メンタルへルスとは
人 間 は 心 を 持 ち 、 ま た 意 識 的・ 理 性 的 に 考 え る 。 こ れ を 精 神 機 能 と 呼 ぶ 。
精神機能の主役である脳は、感覚器から間断なく情報を受け取り、思考や判
断 な ど 高 次 の 活 動 を 休 む 間 も な く 行 っ て い る 。「 昼 に 何 を 食 べ る か 」「 き ょ
う 何 を 着 て い く か 」と い っ た 日 常 の こ と か ら 、人 生 に と っ て 重 要 な こ と が ら
に 至 る ま で 、私 た ち は 休 む 間 も な く 判 断 を 繰 り 返 し て い る 。も し 眠 れ な い 日
が 続 き 、 翌 日 に 悩 み や 考 え ご と が 持 ち 越 さ れ る と し た ら 、脳 も 身 体 も 疲 れ る 。
そして睡眠は障害され、心の健康は損なわれていく。
職場がらみでいえば、納期の迫った仕事、先の読めない仕事、自由度の低
い仕事、協力のない職場、板挟み、昇進の遅れ、早すぎる昇進、業績不振、
過 重 労 働 な ど 、 心 の 健 康 の 低 下 す る 要 因 は 枚 挙 に 暇 が な い 1 )。
そ れ な の に 私 た ち は 、心 の 健 康 に あ ま り に も 無 頓 着 で あ る こ と に 注 意 す る
必要がある。身体健康のためには、毎年 1 回健康診断を受け、血液検査や消
化器の X 線検査を受けるにもかかわらず、職場の人間関係がもたらすスト
レ ス に は 、ほ と ん ど 個 人 的 な 努 力 で 解 決 す る こ と を 求 め る 。し か し 人 間 は 心
と身体を合わせ持つ存在であって、その有り様も変わっている。
社 会 環 境 が 激 し く 変 わ っ て き た に も か か わ ら ず 、心 の 健 康 の 問 題 に あ ま り
に も 注 意 を 怠 っ て き た こ と 、心 の 健 康 の 問 題 を 精 神 障 害 者 や 不 適 応 者 な ど 、
限 ら れ た 者 だ け の 問 題 と 捉 え て き た こ と が 、最 近 の 未 成 年 に よ る 重 大 犯 罪 や 、
勤労者の過労自殺などに現れているように思われる。
メンタルへルスとは、人間を心身の総合的存在ととらえ、勤労者の健康を
心の面から守り育てる活動である。
2 メンタルへルスのシステムをつくる
メ ン タ ル へ ル ス は 決 し て 「 こ こ ろ の 病 ( 精 神 障 害 )」 を 持 つ 人 の 職 場 適 応
を 援 助 す る こ と だ け で は な い 。 最 も 重 要 な 目 的 は 、勤 労 者 の 心 身 の 健 康 づ く
392
りをとおして、勤労者の健康を保持増進し、明るく働きやすい職場づくりを
行い、その結果として事業場全体の生産性向上を実現することである。
財 団 法 人 社 会 経 済 生 産 性 本 部 メ ン タ ル・ ヘ ル ス 研 究 所 が 蓄 積 し て き た 180
万 人 の 勤 労 者 の デ ー タ に よ る と 、「 病 気 と い う わ け で は な い が 、 ス ト レ ス を
た め こ ん で 半 健 康 の 状 態 に あ る 者 」 が 10% も い る と い う 1 )。 こ の 半 健 康 の
段階で、何らかの援助の手が打てれば、本人は病気にならずに済むし、事業
場 も 貴 重 な 人 材 を 失 う こ と な く 、生 産 性 を 向 上 さ せ る こ と が で き る 。ま ず メ
ン タ ル ヘ ル ス の 取 り 組 み が 、 人 的 資 源 ( Human Resource ) を 活 か す と い う
生産性向上の根幹にかかわるものという認識を持っていただきたい。
ところでメンタルへルスの取り組みは、勤労者だけの努力でも、事業者だ
けの努力でも達成されない。職場環境を良好に保つこと、問題が発見された
と き に 適 切 な 対 応 を 取 る こ と は 事 業 者 の 努 力 な し に は 不 可 能 で あ る 。ま た 事
業 者 が 努 力 を し て も 、勤 労 者 が そ れ を 利 用 し な け れ ば 効 果 は な い 。つ ま り「 勤
労 者 の 心 の 健 康 づ く り 」が 成 果 を あ げ る に は 、事 業 者 と 勤 労 者 の 共 同 作 業 が
大切である。
メンタルへルスにおける勤労者の役割はセルフケアである。
事 業 者 の 役 割 は 、勤 労 者 が セ ル フ ケ ア を す す め る 環 境 を 整 え る こ と で あ り 、
こ れ は 上 司 -部 下 と い っ た ラ イ ン に よ る ケ ア や 、 産 業 保 健 ス タ ッ フ に よ る ケ
ア で 実 現 さ れ る が 、 こ れ は「 事 業 所 の 取 り 組 み 」 に ま と め る こ と が で き る 。
また中小規模の事業場では産業保健スタッフを事業場内に確保すること
は で き な い し 、大 規 模 の 事 業 場 に お い て も 、メ ン タ ル へ ル ス の 取 り 組 み に 必
要 な す べ て の 資 源 を 事 業 場 内 に 確 保 で き る わ け で は な い 。ま た 勤 労 者 も 相 談
や診療の必要な場合に外部資源を利用することがある。
こ の た め 、「 セ ル フ ケ ア 」「 事 業 場 の 取 り 組 み 」「 社 会 の な か の 取 り 組 み 」
の 3 つ が 相 互 に う ま く 働 き 合 う よ う に す る こ と が「 メ ン タ ル へ ル ス の シ ス テ
ムをつくる」ことである。
このレポートでは、個人が、事業場の組織が、外部資源を含む地域社会が、
互いに協力して勤労者の心の健康を守り育てるシステムをつくるためのヒ
ントになる情報と事例を紹介する。
3 セルフケアの支援
勤労者のセルフケアを高めるには、心の健康を身近なものととらえるため
の 啓 発 と 、必 要 な と き に 利 用 で き る 資 源 に つ い て の 情 報 提 供 が 重 要 で あ る 。
セルフケアの支援のための基本的な視点といくつかの事例を提示する。
1)勤労者全員を対象としたアプローチ
勤 労 者 全 員 を 対 象 と し た ア プ ロ ー チ に は 、 パ ン フ レ ッ ト 配 布 、健 康 相 談( 健
康 診 断 な ど を 利 用 し て の 全 員 面 接 、職 場 を 巡 回 し て の 健 康 相 談 、電 子 メ ー ル
を 利 用 し て の 相 談 な ど )、 ス ト レ ス チ ェ ッ ク 、 外 部 の 相 談 診 療 機 関 に つ い て
の 情 報 提 供 な ど が あ る 。こ れ ら は 勤 労 者 が 自 ら の ス ト レ ス に 気 づ き 、適 切 な
393
対処を取れるようにすることを目的としている。
2)従業員研修
従業員研修はセルフケアについての情報を提供する重要な機会である。
新 規 採 用 者 に は 、雇 い 入 れ 時 研 修 の 一 環 と し て メ ン タ ル へ ル ス 研 修 を 実 施
する。研修で取り上げる内容は、①産業保健スタッフの役割とその紹介、②
人 間 関 係 ト レ ー ニ ン グ 、 ③ 入 社 後 の 健 康 管 理( 講 義 ) な ど が 考 え ら れ る が 、
事業場によっては入社一定期間後に全員面接を行うところもある。
管 理 者 研 修 は 、管 理 者 が 委 ね ら れ た 職 場 の 心 の 健 康 づ く り に 直 接 関 与 し 、
心の健康の問題をかかえた勤労者が職場にいる場合は直接対処する立場に
あ る こ と 、ま た 管 理 者 自 身 も 心 身 と も に 多 忙 な 立 場 あ る こ と を と ら え た 研 修
内 容 と す る 。管 理 者 研 修 で よ く 取 り 上 げ ら れ る 内 容 は 、① メ ン タ ル ヘ ル ス か
ら 見 た 部 下 の 扱 い 方 ( リ ス ナ ー 教 育 )、 ② 管 理 職 自 身 の メ ン タ ル ヘ ル ス 、 ③
心 の 健 康 に つ い て の 医 学 的・ 心 理 学 的 基 礎 知 識 、④ 事 例 を 用 い て の グ ル ー プ
ワークなどである。
3)健康増進的な視点から心の健康についての関心を高める
「 子 育 て や 子 供 の 学 校 生 活 」「 職 場 の ス ト レ ス 」「 退 職 後 の 生 活 」「 高 齢 者
の 介 護 」な ど 、心 の 健 康 に つ い て の 関 心 は ラ イ フ サ イ ク ル に 応 じ て 変 化 す る
ことが知られている。勤労者の生活は、職場だけでなく、家庭、地域を含め
た な か に あ る こ と か ら 、生 活 の な か に あ る 話 題 を 自 然 に 取 り 上 げ る こ と が 大
切 で あ る 。こ の よ う な 、疾 病 対 策 的 で な く 健 康 増 進 的 な 視 点 か ら の 取 り 組 み
が、相談や診療が必要な場合になったときの勤労者の心理的抵抗を少なくす
る。
事例1
勤 労 者 の 生 活 に 密 着 し た 情 報 提 供2)
A社では、産業メンタルへルス研究会に参加した看護婦・士が、そこで得
た 資 料 を も と に 、メ ン タ ル ヘ ル ス 関 連 機 関 に 関 す る リ ス ト づ く り を 進 め て い
た。リストに挙げられた機関は、精神保健福祉センター、保健所、精神科救
急 情 報 セ ン タ ー 、 児 童 相 談 所 、 い の ち の 電 話 、エ イ ズ 電 話 相 談 、 産 業 保 健 推 進
センター、福祉事務所、女性相談所、身体障害者更正相談所、知的障害者更正
相 談 所 等 で あ っ た 。リ ス ト は 、そ れ ら の 連 絡 先 が 掲 載 さ れ た チ ャ ー ト に な っ
ており、従業員だけでなく、家族の問題でも利用できるよう、従業員の生活
に 密 着 し た 情 報 提 供 を 目 指 し て い た 。( 資 料 1 に カ テ ゴ リ ー 表 に し た も の を
示す) (事例1おわり)
394
395
396
397
事例2
勤労者の心の健康づくりへの関心を高める3)
B 事 業 場 で は 、 保 健 婦・ 士 等 の 産 業 保 健 ス タ ッ フ が 、 勤 労 者 の ス ト レ ス や
こ こ ろ の 健 康 に つ い て 関 心 を 高 め る た め に 、賞 品 付 き の 簡 単 な ア ン ケ ー ト を
配 布 し 、そ の 集 計 結 果 を 絵 入 り の パ ン フ レ ッ ト の ま と め 、従 業 員 や 管 理 者 に
わかりやすい形で伝えていた。取り上げられた内容は、職場の人間関係、ア
ルコールの摂取量、睡眠時間、食事の時間や内容、休暇のすごし方など、生
活 の な か で 心 の 健 康 を 考 え る と い う 方 向 で 取 り 組 ん で い た 。( 資 料 2 に 作 成
されたヘルスケアアンケートを示す) (事例2おわり)
4 事業場の取り組み
事 業 場 に お け る 取 り 組 み は 産 業 保 健 ス タ ッ フ の 配 置 の 有 無 で 異 な る 。産 業
保健スタッフの配置の有無は事業場の規模と密接に関係している。
C 百 貨 店 で は C S ( Customer Satisfaction 顧 客 満 足 ) 経 営 指 針 と し て 掲
げ ら れ 、産 業 保 健 の 取 り 組 み も C S を 結 び つ け 、経 営 と 結 び つ い た 形 で メ ン
タ ル ヘ ル ス を 含 む 健 康 づ く り を 目 指 し て い た 。 こ の 事 業 場 で は 、 保 健 婦・士
がCS推進室に配置され、販売営業の第一線を巡回し、安全衛生が営業現場
に 密 着 し て い た 4 )。
一 方 、 D 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 行 っ た 調 査 研 究 に よ る と 、「 中 高 年 齢 労
働 者 の 健 康 づ く り 運 動 」の 縦 断 的 な 評 価 を 行 っ た と こ ろ 、健 康 づ く り 運 動 が
活 発 で な い と 評 価 す る 事 業 場 か ら は 、事 業 場 ト ッ プ の 理 解 と 、推 進 組 織 の 強
化 が 重 要 と い う 意 見 が 得 ら れ て い る 5 )。
これらの事例や情報からわかることは、事業者の健康づくりやメンタルへ
ルスに対する考え方が、事業場内の取り組みに密接に反映する。
事 例 3 は 内 部 に シ ス テ ム を 持 つ 事 業 場 の 活 動 経 過 で あ る 。こ の 事 例 の 中 に 、
事業場内のシステムづくりにメンタルへルス研究会などの外部資源を活用
し た 経 過 や 、事 業 場 内 部 で 産 業 保 健 ス タ ッ フ と 人 事・労 務 担 当 者 な ど が 協 力
し て 作 成 し た マ ニ ュ ア ル の 内 容 が 紹 介 さ れ て お り 、産 業 保 健 ス タ ッ フ の 力 を
事業場がうまく活用していった例として興味深い。この事業場では、保健
婦・士、福利厚生担当者、人事・ 労 務 担 当 者 が と も に 衛 生 管 理 者 の 資 格 を 取
り 、衛 生 管 理 者 と い う 共 通 の 基 盤 の も と に 、共 同 し て 産 業 保 健 活 動 の 推 進 に
当たったという。
事例3
「T社のメンタルヘルスシステム」2)
産業メンタルヘルスシステムの研究をすすめるなかでのT社の取り組み
に つ い て 紹 介 し た い 。自 社 で は 、従 業 員 の メ ン タ ル ヘ ル ス 相 談 の 窓 口 と し て
398
平 成 7 年 3 月 に 健 康 管 理 室 の 一 角 に 相 談 室 を 開 設 し た 。設 置 場 所 に つ い て は 、
産 業 看 護 業 務 に 支 障 を き た さ な い 為 と 従 業 員 の 入 り や す さ を 重 視 し た 。ピ ー
アールは、2 ケ月に 1 度発行される社内報のみである。
最初は、従業員個人の相談が多かった。例として、職場の人間関係の悩み、
家族の病気や子供の不登校、親の介護、伴侶を亡くした悲しみなどである。
日 が 経 つ に つ れ 、職 場 の 上 司 や 人 事 か ら の 職 場 不 適 応 者 や 出 社 困 難 者 の 相
談 が 多 く な っ て き た 。相 談 を 受 け て い る な か で 外 部 専 門 機 関 、特 に 精 神 科 へ
の 紹 介 が 必 要 と 思 わ れ る ケ ー ス に い き あ た る よ う に な っ て き た 。し か し 当 初
は精神科との連携が困難でその方法を模索している状況だった。
平 成 8 年 5 月 、千 葉 県 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス 研 究 会 が 発 足 し た 。筆 者 は 発 足
と 同 時 に 入 会 し た 。研 究 会 で は 精 神 疾 患 の 知 識 の 修 得 や 、精 神 疾 患 が 関 与 し
て 出 社 困 難 な 状 況 と な っ て い る 従 業 員 へ の 対 応 方 法 な ど が 修 得 で き た 。ま た
メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 に 陥 っ た 従 業 員 の 精 神 科 へ の 紹 介 が 必 要 な 場 合 、直 接 コ
ンタクトの可能な精神科医と出会うことができた。
そ し て 、さ ら に 従 業 員 や 家 族 を 含 め 職 場 以 外 で の 様 々 な 相 談 の 対 応 が 求 め
ら れ る よ う に な っ て き た 。そ こ で 精 神 科 に と ど ま ら ず 社 外 専 門 機 関 と の 連 携
が 必 要 と な っ た 。 そ の 為 、従 業 員 や 家 族 の 相 談 に も 対 応 で き る 県 内 専 門 機 関
のリストづくりの必要性がでてきた。
リ ス ト の 内 容 は 、県 内 の 精 神 保 健 福 祉 対 策 の 概 要 、保 健 所 管 轄 区 域 と 出 先
機関等の一覧、精神障害者社会復帰施設一覧、精神科医療施設案内、保健所
一 覧 な ど で あ る 。他 に 世 代 別 の 相 談 窓 口 案 内 や 電 話 相 談 案 内 な ど が 掲 載 さ れ
て い る 。こ の リ ス ト は 従 業 員 へ の 相 談 窓 口 の 情 報 提 供 に 非 常 に 役 立 っ て い る 。
なかでも社外における従業員の家族問題の対応には地域保健所の相談窓
口 が 多 く 利 用 さ れ て い る こ と が わ か っ て き た 。各 種 電 話 相 談 も 気 軽 に 利 用 で
きることから役立っている。
研 究 会 で は 、 平 成 10 年 度 か ら 「 事 業 体 と 相 談 ・ 保 健 ・ 医 療 機 関 と の 連 携
に つ い て 」 の テ ー マ に 取 り 組 ん で い る 。 こ の テ ー マ は「 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス
シ ス テ ム 」 と 重 複 す る 部 分 が あ る 。 企 業 外 と の 連 携 は 看 護 婦・士の企業での
役 割 の 重 要 な 部 分 で も あ る 。連 携 に お い て 人 事 担 当 者 と の 話 し 合 い や 、具 体
的な動きがメンタルヘルスシステムに関わってくる。
シ ス テ ム の な か で 看 護 婦・士 で あ り 衛 生 管 理 者 で も あ る 筆 者 は 安 全 衛 生 管
理者と人事の衛生管理資格者と同じ目的意識をもって従業員個人のメンタ
ル ヘ ル ス に 関 わ っ て い く こ と が で き る 。企 業 に お け る 健 康 管 理 は 、労 働 安 全
衛生法に基づいた健康診断実施など従業員の健康管理対象が身体を中心と
していることがその基本となっていた。
し か し 、 近 年 、企 業 が 行 う 健 康 管 理 の 範 囲 に 対 す る 考 え 方 が 拡 大 さ れ て き
た。例えば、業務負担による精神障害の発症例により、企業の安全配慮義務
に不足があったとして、企業側に損害賠償責任を認める判決もでてきた。
こ の よ う な 傾 向 は 従 来 型 の 健 康 管 理 の 考 え 方 を 、精 神 の 領 域 に ま で 踏 み 込
399
んだ管理へと管理ポイントを変えていく必要性を示唆している。
看 護 婦・ 士 や 人 事 担 当 者 と し て 精 神 障 害 を も つ 従 業 員 に 接 す る 場 合 、安 全
配慮義務など関連法令について必要充分な理解と認識をもって適切な対応
が出来なければならない。
そ の 対 応 い か ん に よ っ て は 、 安 全 配 慮 義 務 違 反 を 生 じ る 可 能 性 も あ る 。そ
の為に安全配慮義務をふまえた対処方法や考え方をできるだけわかりやす
く 、実 用 的 に 活 用 で き る よ う に 人 事 担 当 者 の 為 に 自 社 独 自 の メ ン タ ル ヘ ル ス
ハ ン ド ブ ッ ク を 平 成 11 年 に 作 成 し た 。 メ ン タ ル ヘ ル ス に 関 す る 予 防 的 措 置
お よ び 発 生 事 例 に 対 し 、ハ ン ド ブ ッ ク に 沿 っ た 対 応 を 検 討 し な け れ ば な ら な
い 。特 に 人 の 心 を 取 り 扱 う 領 域 で あ る こ と か ら 、関 係 者 は 誠 意 を つ く し た 対
応 に 心 が け な け れ ば な ら な い こ と を 明 記 し て い る 。内 容 の 概 略 を 紹 介 す る 。
1.T社の健康に関する基本的な考え
1 )社 員 に と っ て 心 身 の 健 康 は 、生 涯 に わ た る 人 生 設 計 実 現 の た め の 必 要 か
つ重要な資源である。
2)T社にとっても社員の健康は、その能力を充分に発揮し、企業活動に貢
献するうえでの必要かつ重要な資源である。
3)健康は、自らが維持管理し、自分自身で守るものであるが、会社はその
活動の一部を支援する。
2.事業者、人事担当者、職場の管理職、産業医、看護婦・士、従業員の役
割(省略)
3.企業内サポート体制の概要
レベル
症例
対応者および内容
第1次ケア
・本人が悩んでいる場合
・他人が気づく場合
第 2 次 ケ ア・ 職 場 管 理 者 が 対 応 し き れ な
かった場合
・本人が自発的に来談してき
た場合
第 3 次 ケ ア・ 健 康 障 害 を 伴 う 症 例 の 場 合
第 4 次 ケ ア・ 入 院 や 内 服 治 療 を 要 す る 場
合
・ 法 律・ 福 祉 な ど が 必 要 な 場 合
職場管理者によるリスニング
産業医、看護婦・士、カウン
セラーによるリスニング
産業医・嘱託精神科医による
リスニングおよび医療ケア
専門精神科医、弁護士、行政
(保健所等)による医療ケア
4.予防的対応(管理職研修)
管 理 職 は 部 下 に メ ン タ ル ヘ ル ス 問 題 が 発 生 し た 場 合 、医 療 担 当 者 の 患 者 に
対 す る 守 秘 義 務 の 関 係 か ら 、症 状 に つ い て の 全 て を 把 握 す る こ と が で き な い
場 合 が あ る 。だ か ら と い っ て 、部 下 が 精 神 疾 患 に 罹 患 し た 場 合 に 主 治 医 任 せ
に し て 全 く か か わ ら な く て 良 い と い う こ と で は な い 。現 在 ど の よ う な 病 気 で
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ど の よ う な 治 療 を う け て い る の か 、い つ ま で こ の 状 態 が 続 く こ と が 予 想 さ れ
る か な ど 、管 理 職 と し て 職 場 管 理 の 責 任 上 最 低 限 の 状 況 把 握 と 対 応 を 行 う 必
要 が あ る 。職 場 の メ ン タ ル ヘ ル ス の 予 防 す る 上 で 、管 理 職 は キ ー パ ー ソ ン 的
役 割 を 担 う こ と が 多 く 、メ ン タ ル ヘ ル ス の 予 防 的 対 応 の 一 つ と し て 、部 下 へ
の 対 応 と そ の 際 の 注 意 点 を 盛 り 込 ん だ 研 修 が 必 要 と な る 。基 本 的 な 項 目 を 参
考例とする。
1)管理職に必要なメンタルヘルスの基礎知識
・ストレスと疾患形成との関係
・メンタルヘルス症例の知識
2)キーパーソンとしての基本的行動知識
・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン(事例を紙上で体験する)による対応パターンの研究
5.組織的対応(対個人への具体的対応)
1)記録の作成(発生内容・発生時期・対応者・対応内容・記録者)
専 門 医 へ 受 診 の 際 の 資 料 、回 復 後 の 部 署 決 定 の 資 料 、退 職 後 の 企 業 対 応 に
関 す る リ ス ク 回 避 の 資 料 な の で 大 切 に 保 管 す る こ と 。そ の 際 、プ ラ イ バ シ ー
に関する記録なので保管にあたっては十分な注意が必要である。
2)医療を受けさせるまで
職場で同僚や上司がメンタルヘルス不全に陥った従業員を早期発見でき
た と し て も 、適 切 な タ イ ミ ン グ で 精 神 科 医 へ の 受 診 に 繋 げ な け れ ば 、本 人 の
人 格 を 傷 つ け た り 、後 で ト ラ ブ ル を 起 こ す こ と も あ る 。そ の 為 十 分 な 注 意 が
必 要 で あ る 。そ し て 本 人 の 同 意 を 得 な け れ ば 専 門 医 へ の 受 診 を 行 う こ と は で
き な い 。専 門 医 が 診 察 す る こ と で 初 め て 医 学 的 に 的 確 な 診 断 が な さ れ る 。受
診させるまでには職場関係者の協力体制が必要となる。
3)本人へのアプローチの前に
職場における状況、言動、態度など、事実を細かく観察し、記録をつくる。
記 録 に も と づ い て 専 門 家 と 相 談 し 、本 人 と の 対 応 の 仕 方 、ア ド バ イ ス の 仕 方 、
家 族 と の 連 絡 の 仕 方 な ど の 助 言 を 受 け る 。本 人 を だ ま し て 医 者 に つ れ て い く
こ と は 絶 対 に し な い 。だ ま し て 医 者 に 連 れ て い く と 、本 人 と の 信 頼 関 係 を 失
うなど後々の対応に悪い影響を与えることが多くなる。
4)具体的なアプローチ方法
メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 者 と 認 め ら れ る 従 業 員 へ の ア プ ロ ー チ は 、本 人 の 立 場
上、職場の上長が対応するのが好ましい。しかし、上長と本人の信頼関係に
問 題 が あ る よ う な 場 合 は 、信 頼 関 係 に あ る 先 輩 や 同 僚 の 協 力 を 得 る な ど 、臨
機 応 変 に 適 切 な 対 応 が 望 ま れ る 。最 初 の 切 り 出 し 方 は 、本 人 に 自 分 自 身 の 疲
れ 、 不 調 さ 、 具 合 の 悪 さ を 自 覚 さ せ る 。 例 え ば「 最 近 、 少 し 疲 れ て い る よ う
に 見 え る け ど … 」「 何 か 考 え ご と を し て い る よ う な 感 じ だ が 、 不 安 な こ と で
も … 」「 こ の 頃 、 元 気 が な い よ う だ け ど 、 食 欲 や 睡 眠 は ど う … 」 な ど の ア プ
ロ ー チ を し て 、こ ち ら か ら 決 め つ け る よ う な 言 い 方 は 絶 対 に し な い 。こ ち ら
401
からの問いかけに応じ始めたら、絶対に反論、説教、言い聞かせをしない。
よ く 耳 を 傾 け 、 聴 く こ と 。「 相 手 が 話 し 始 め た 時 が 話 せ る と き 」 と 考 え 、 時
間を区切らない、話を中断しない、後回しにしない等を徹底する。
自 分 の 状 態 を 自 分 で 判 断 し て 、自 分 自 身 の 意 志 で 専 門 医 の 診 断 を 受 け る よ
うになるのが理想だ。しかし、それでもためらう場合には、自分の困ってい
る 問 題 を 、自 分 一 人 で 解 決 す る こ と に は 無 理 が あ る こ と 。専 門 医 に 相 談 し 、
助 言 を 求 め る 方 が 、よ り 合 理 的 で 効 果 的 な 結 論 が 得 ら れ る こ と を す す め る 。
5)家族との関係のつくり方
本 人 と の 話 し 合 い が う ま く い か な い 場 合 、家 族 な い し 保 護 者 と 連 絡 を と り 、
職 場 で の 不 適 応 行 動 や 、勤 務 状 況 の 実 際 を 伝 え 早 期 治 療 の 必 要 性 を 十 分 説 明
す る 。そ し て 家 族 の 責 任 で 本 人 を 専 門 医 へ 受 診 さ せ る よ う に 指 導 す る 必 要 が
ある。
緊急の場合以外は、善意であっても、職場の者が、家族の意志を無視した
り 同 意 の な い ま ま に 強 引 に 専 門 医 に 受 診 さ せ た り 、入 院 さ せ た り す る こ と は 、
人 権 上 の 問 題 を 起 こ し た り 、感 情 的 な し こ り を の こ す こ と が 多 い の で 慎 重 を
要する。
本 人 が 単 身 者 で 寮 な ど で 生 活 し て い て 家 族 が 遠 方 に い る 場 合 で も 、家 族 と
じ ゅ う ぶ ん に 連 絡 を 取 り 、本 人 の 保 護 と 治 療 の た め に 家 族 を 呼 び 寄 せ る 努 力
をしなければならない。
家族が本人に対する認識と理解を欠き、受診を拒否したり、同意しない場
合 、 例 え ば 「 う ち の 子 に か ぎ っ て 」「 う ち で は 何 も 変 わ っ た こ と は な い 」 と
い う こ と が 意 外 と 多 い の で 、誠 意 を 尽 く し て 状 況 を 説 明 す る と 共 に 、家 族 が
日常生活で本人の変化に気づくように促すことが大切である。
ま た 、 近 年 メ ン タ ル ヘ ル ス ケ ア を 進 め る に あ た っ て の「 事 業 体 と 相 談 、保
健、医療機関との連携」をテーマとした事例検討会も多くなっている。事例
発 表 に 際 し て も 看 護 婦・士 と し て の 倫 理 を 守 り 従 業 員 個 人 と 企 業 に 不 利 益 を
かけない配慮が必要となる。留意点を箇条書きにしてみる。
・事例検討会では、連携において個人のプライバシー、人権への配慮、守秘
義務が個人と企業体においても配慮され確保されなければいけない。
・ メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 者 を 医 療 に 結 び つ け る 場 合 、本 人 の 自 己 認 知 と 判 断 力
が 弱 い の で 、本 人 了 解 の う え 家 族 と も 接 触 し 勤 務 状 況 を 説 明 す る な ど 上 司 、
衛生管理者の協力が必要になる。
・ 休 職 後 の 復 職 時 、リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 出 勤 を 治 療 者 側 が 要 請 し た 時 職 場 も
了 解・協力してくれる体制が望まれる。しかし仕事の質や量、対人関係の
調整など困難な部分も多い。
・ 企 業 体 か ら 相 談 や 医 療 へ の 紹 介 は 事 例 に よ り 困 難 度 が 異 な る が 、担 当 者 の
判断と適切な動きが相談受領の鍵になる。
・企業体と相談医療機関両者が、顔見知りの関係にあり、守秘義務や、実際
402
的 な 動 き 方 が 相 互 に 理 解 さ れ て い る と 、双 方 が 信 頼 感 の 上 に 事 例 の 対 応 を
進めることができる。このことは再出勤の場合にも当てはまる。
・ 連 携 が ス ム ー ズ に い く た め に は 、企 業 内 の メ ン タ ル ヘ ル ス 教 育 な ど で 相 談
の受けやすい企業風土づくりが必要となる。
以 上 、企 業 の メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム に つ い て の ま と め と 私 感 を 述 べ る 。
製 造 業 に お い て は 、現 代 の 厳 し い 経 済 不 況 と 社 会 情 勢 の 不 安 の な か で 、世 界
競 争 の た だ 中 に 立 た さ れ て い る と い っ て も 過 言 で は な い 。そ の な か で 企 業 の
安 全 配 慮 義 務 を 従 業 員 の メ ン タ ル ヘ ル ス に ま で 拡 大 し て き た 。し か し 企 業 の
生 産 性 を 上 げ 、活 性 化 を は か ら な け れ ば 世 界 競 争 に は 生 き 残 れ な い の で あ る 。
個人の心の健康とともに企業体として世界競争に生き残るためのメンタル
ヘ ル ス の 強 化 が 求 め ら れ て い る 。そ の 為 に 両 者 の 利 害 が 共 存 し て い く 為 に で
き る こ と は 何 か が メ ン タ ル ヘ ル ス の 取 り 組 み に も 問 わ れ て い る と 思 う 。メ ン
タルヘルスシステムは外部の相談機関や相談窓口を利用することによって
企 業 の メ ン タ ル ヘ ル ス 不 全 者 の 将 来 を 見 据 え た 対 応 が 可 能 に な る 。人 間 の 一
生 を 通 じ て 、企 業 の 中 で 生 き る 部 分 は 限 ら れ て い る 。だ か ら こ そ 家 族・地 域 ・
行政を視野に入れたメンタルヘルスのシステムづくりが求められている。
「 産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム 」研 究 者 の 一 員 に 加 わ っ た こ と で 企 業 体 以 外
の専門機関の様々なメンタルヘルスシステムの取り組みを知ることができ
た 。今 後 、産 業 メ ン タ ル ヘ ル ス シ ス テ ム が 企 業 の 中 に 浸 透 す る こ と に よ っ て 、
メンタルヘルス不全者の予防とメンタルヘルスの増進に役立つことを願っ
ている。 (事例3おわり)
5 社会のなかの取り組み
E 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー に よ る 中 小 規 模 事 業 場 の 調 査 で は 、「 衛 生 管 理 者
の 選 任 の あ り 方 の 問 題 」「 労 使 と も に 産 業 保 健 へ の 関 心 が 低 い 」「 保 健 婦・士
等 の 専 門 職 が い な い 」等 の 多 く の 困 難 が あ り 、事 業 場 単 独 で の 取 り 組 み は き
わ め て 困 難 と 報 告 さ れ て い る 5 )。ま た 労 働 者 の 多 く は 50 人 未 満 の 事 業 場 に
勤 務 し て い る 。対 象 数 の 多 さ を 考 え る と 、地 域 で 働 い て い る 開 業 医 等 の 地 域
資 源 を 含 め た シ ス テ ム づ く り が 必 要 と い う 意 見 が あ っ た 3 )。
富 山 県 で は 、 心 の 健 康 セ ン タ ー( 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー ) が 県 の こ こ ろ の
健 康 プ ラ ン を 背 景 に 、 心 の 健 康 づ く り 事 業 の「 メ ン タ ル へ ル ス 講 座 」 で 職 場
の メ ン タ ル へ ル ス に 取 り 組 ん だ 。そ の 後 、精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー の 働 き か け
に よ っ て 、 平 成 8 年 か ら 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー( 設 立 は 平 成 6 年 )と 精 神 保
健 福 祉 協 会( 平 成 6 年 に 産 業 部 会 を 設 置 ) と の 共 催 が 実 現 し て い る 。産 業 保
健 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 持 つ「 事 業 場 と 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー の 直 近 の コ
ン サ ル タ ン ト と し て の 固 有 の 力 」と の 連 携 に よ っ て 、包 括 的 な メ ン タ ル へ ル
ス 体 制 構 築 の 手 が か り が 得 ら れ て き た と い う 。産 業 保 健 と 地 域 保 健 の 共 同 に
403
よ る「 勤 労 者 の 心 の 健 康 づ く り 」の 取 り 組 み と し て 評 価 で き る も の で あ る 。
ま た 心 の 健 康 セ ン タ ー で は 、平 成 9 年 の 新 築 移 転 を 機 に ス ト レ ス ド ッ ク に 取
り 組 み 、 平 成 10 年 か ら 共 済 組 合 に よ る 集 団 利 用 が 始 ま っ て い る 6 )。
中小規模事業場や零細事業場は単独ではメンタルへルスの取り組みはな
か な か 困 難 で あ る 。こ の た め 、ま ず は 産 業 保 健 機 関 と し て の 産 業 保 健 推 進 セ
ン タ ー と 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー に 、地 域 保 健 機 関 と し て の 精 神 保 健 福 祉 セ ン
タ ー と 保 健 所 が 協 力 す る こ と に よ っ て 、メ ン タ ル ヘ ル ス 取 り 組 み の た め の 連
携 組 織 を つ く り 、そ の も と で 産 業 保 健 の 一 環 と し て メ ン タ ル へ ル ス に 取 り 組
ん で い く 必 要 が あ る 。こ こ で は 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 設 置 が な く 、ま た 中
小 規 模 あ る い は 零 細 事 業 所 の 多 い 高 知 県 に お け る 、産 業 保 健 と 地 域 保 健 の 連
携によるネットワークづくりを紹介する。
事例4
高知県における勤労者の健康づくり支援活動に向けた取り組み7)
はじめに
小規模事業所で働く勤労者の健康問題をどのように支援していくのかは
依 然 と し て 大 き な 課 題 で あ る 。 産 業 保 健 の 分 野 で は 、企 業 規 模 が 小 さ い ほ ど
労 働 災 害 や 業 務 上 疾 病 の 発 生 状 況 も 高 く 、勤 労 者 の 安 全 や 健 康 を 脅 か す 課 題
が 多 い と さ れ て き た 。 平 田 ら 8)は 、 小 規 模 事 業 所 の 労 働 衛 生 管 理 上 の 問 題 点
として、①投資が少ない、②要員が少ない、③経営者や労働者に時間的余裕
がない、④改善のための技術が乏しい、⑤情報収集の遅れ、⑥単一業種であ
る た め 健 康 上 問 題 の あ る 労 働 者 の 配 置 転 換 が 困 難 で あ る 、⑦ 現 行 労 働 安 全 衛
生 法 で は 法 的 要 求 事 項 が 少 な い な ど を 挙 げ て い る 。そ の よ う な 課 題 を 克 服 す
る た め に は 、従 来 の 産 業 保 健 の 資 源 や マ ン パ ワ ー の み を 活 用 す る の で は 限 界
の あ る こ と は 以 前 よ り 指 摘 さ れ て き て お り 、地 域 の 中 で 活 用 で き る 様 々 な 保
健機関が協力していくことが期待されている。
1994 年 に 地 域 保 健 法 が 制 定 さ れ 、 保 健 所 の 業 務 内 容 の 見 直 し が 進 み 、 い
く つ か の 業 務 が 徐 々 に 市 町 村 に 移 行 し て い っ た 。そ れ に 伴 っ て 、保 健 所 に は 、
精 神 保 健 や 難 病 対 策 へ の 取 り 組 み を 強 化 す る だ け で な く 、よ り 広 域 的 な 保 健
活動や取り組みの不十分であった領域への保健活動を展開することが期待
さ れ て い る 。 そ こ で 、 高 知 県 で は 、 1994 年 よ り 高 知 県 地 域 保 健 問 題 検 討 会
が 発 足 し 、ラ イ フ ス テ ー ジ を 通 じ た 健 康 づ く り を 推 進 す る た め に 、具 体 的 に
職場と学齢期における健康づくりを取り組むことの重要性が強調されてき
た 9)。
地域保健と職域保健の連携の取り組み
高 知 県 の 勤 労 者 は 卸・ 小 売 業 や サ ー ビ ス 業 、し か も 中 小 零 細 企 業 に 従 事 し
て い る 割 合 が 高 く 、従 来 の 労 働 行 政 で は 法 的 な 制 約 や 人 的・ 物 的 資 源 の 制 限
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などから十分な職域保健サービスが提供されているとは言い難い状況にあ
る 。 こ の よ う な 状 況 に 対 応 す べ く 、 1990 年 よ り 高 知 県 商 工 労 働 部 労 政 訓 練
課を事務局として、保健環境部の担当部局、県医師会、高知労働基準局、商
工 会 議 所 連 合 会 な ど に よ る「 勤 労 者 健 康 づ く り 推 進 協 議 会 」 を つ く り 、 職 域
保 健 活 動 の 実 態 把 握 の た め の ア ン ケ ー ト 調 査 や 健 康 づ く り の た め の 教 育・啓
蒙 活 動 な ど の 様 々 な 事 業 を 展 開 し て き た 。 し か し 、保 健 所 の 職 域 保 健 へ の 関
与 を 引 き 出 す ま で に は 至 ら な か っ た 。こ の 協 議 会 は 、地 域 保 健 法 の 施 行 に 伴
っ て 、 1996 年 よ り 地 域 保 健 推 進 重 点 強 化 事 業 と し て 「 高 知 県 勤 労 者 健 康 づ
く り 推 進 協 議 会 」 と 名 称 も 改 め 、市 町 村 も そ の 構 成 員 と し て 参 加 す る こ と と
な っ た 。こ の 段 階 で 、行 政 的 に は 担 当 課 が 健 康 福 祉 部 健 康 政 策 課 に 変 わ っ た
こ と で 、保 健 所 の 職 域 保 健 へ の 関 与 が よ り 現 実 的 な 検 討 課 題 と し て あ が っ て
き た 。し か し な が ら 、多 く の 保 健 所 職 員 は 職 域 保 健 サ ー ビ ス を 提 供 す る と い
う 立 場 か ら 事 業 所 に 赴 い た こ と は 少 な く 、知 識 及 び 技 術 的 な 研 修 の 欠 如 や 事
業 所 の 対 応 な ど へ の 不 安 な ど か ら 、保 健 所 職 員 の 職 域 保 健 サ ー ビ ス の 経 験 が
培 わ れ そ の 能 力 が 向 上 す る よ う な 、研 修 を 行 う 必 要 が 生 じ て き た 。そ こ で 、
職域保健の分野では豊富な経験と実績のある労働科学研究所の協力を得て、
県内の5保健所と高知市保健所の職員を対象に職域保健研修プログラムを
1998 年 か ら 実 施 し て き た 。
職域保健研修プログラムの実際について
保 健 所 職 員 を 対 象 と し た 職 域 保 健 研 修 プ ロ グ ラ ム の ね ら い は 、従 来 よ り 持
っ て い る 専 門 性 を い か し 、実 際 に 事 業 所 に 赴 い て 勤 労 者 の 健 康 問 題 に 影 響 を
与 え る 要 因 を 評 価 し 、健 康 づ く り 支 援 の た め の 改 善 や 対 策 な ど を ア ド バ イ ス
する知識や技術、能力を養成することに置かれた。そのため、研修プログラ
ム は ILO が 提 案 す る 「 実 行 し な が ら 学 ぶ 」 と い う 研 修 者 が 実 際 に 参 加 す る
方 式 ( 参 加 型 研 修 プ ロ グ ラ ム ) 10,11)を 採 用 し 、 対 象 職 種 も 医 師 、 獣 医 師 、 薬
剤 師 、 保 健 婦 ・ 士 、 検 査 技 師 、 事 務 職 な ど 幅 広 く 設 定 し た 。研 修 対 象 者 を 医
師 や 保 健 婦・ 士 以 外 の 幅 広 い 職 種 に 設 定 し た の は 、提 供 す る 職 域 保 健 サ ー ビ
ス も 健 康 診 断 な ど に 限 定 さ れ る こ と な く 、作 業 環 境 や 作 業 方 法 な ど の 事 業 所
の抱える幅広い課題に対応できるようになると考えたからである。
職 域 保 健 研 修 プ ロ グ ラ ム は 、 講 義 と 実 習 、グ ル ー プ ワ ー ク が 主 体 と な る 前
期( 2 日 間 ) 及 び 後 期 研 修( 1 日 間 ) と 、 実 際 に 事 業 所 に 赴 く 実 施 研 修 に 分
け て 行 わ れ た 。前 期 研 修 で は 、あ ら か じ め 協 力 の 得 ら れ た 事 業 所 に 実 際 に 赴
き 、 改 善 ・ 対 策 を 提 案 す る ア ク シ ョ ン 型 チ ェ ッ ク リ ス ト 12) を 用 い て 人 間 工
学 的 な 課 題 や 作 業 環 境 面 で の 有 害 要 因 の 評 価 な ど を 行 い 、事 業 所 に 提 案 す る
対 策 や 改 善 の 提 案 を 少 人 数 の グ ル ー プ ワ ー ク と し て ま と め た 。前 期 研 修 の 経
験 を も と に し て 、 実 地 研 修 で は 各 保 健 所 が 管 内 の 事 業 所 に 赴 き 、対 策 や 改 善
な ど の ア ド バ イ ス を ま と め た 報 告 書 を 作 成 す る こ と を 目 標 に し た 。後 期 研 修
で は 、各 保 健 所 が そ の 報 告 書 を も と に 実 施 し た 職 域 保 健 サ ー ビ ス を 発 表 し 、
その内容や課題などについて相互に討議した。
405
研 修 初 年 度 の 訪 問 事 業 所 は 、保 健 所 業 務 に 関 連 し た 事 業 所 が 多 く な っ て い
た が 、2 つ の 保 健 所 が 独 自 に 地 域 の 事 業 所 へ と 赴 い て 産 業 保 健 サ ー ビ ス を 提
供 す る こ と に 成 功 し た 。次 の 年 度 の 実 地 研 修 で は 、さ ら に 多 く の 保 健 所 が 食
品業のように本来の権限が及ぶ事業所以外の製造業などの事業所を訪問し
て い る 。こ の 研 修 を 通 じ て 参 加 し た す べ て の 保 健 所 が 実 際 の 事 業 所 を 訪 問 し 、
なんらかの報告書を作成したことは大きな成果であった。
職域保健事業が成功した事例の特徴と課題
初 年 度 の 研 修 を 通 じ て 各 保 健 所 の 取 り 組 み を 概 括 す る と 、全 て の 保 健 所 が
事 業 所 に 赴 き 報 告 書 を 提 出 で き た が 、職 域 保 健 事 業 の 内 容 や 継 続 的 な 関 係 と
いう点では、全てでうまくいったとは評価できない。そこで、最もうまくい
っている高幡保健所の職域保健事業を通して成功事例の特徴を考察するこ
と に す る 。高 幡 保 健 所 で は 、以 前 よ り あ っ た 管 内 の 市 町 村 と の 協 力 体 制 を 基
盤 に 、 前 述 し た 協 議 会 活 動 に つ い て 、 モ デ ル 地 区 と し て「 高 幡 地 区 勤 労 者 健
康 づ く り 推 進 協 議 会 」 が 1994 年 に 設 置 さ れ た 。 こ の 協 議 会 に は 、 管 内 の 市
町村、商工会議所/商工会、地区医師会、地域産業保健センター、労働基準
監督署、労働基準協会が組織されている。
県 内 の 他 の 保 健 所 と 同 様 に 、高 幡 保 健 所 で は 従 来 よ り 中 小 零 細 事 業 所 の 労
働 者 の 健 康 診 断 に 係 わ っ て き た が 、こ の 事 業 が 始 ま っ て 以 降 、各 組 織 と の 連
携 の も と に 事 業 所 で の 個 別 疾 患 の 健 康 教 育( 保 健 所 と 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー
の 共 催 )、 事 業 所 T H P 事 業( 保 健 所 、 事 業 所 と 町 の 共 催 )、 健 康 づ く り 研 修
会 や 講 演 指 導( 保 健 所 、労 働 基 準 監 督 署 、地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー 、町 の 共 催 )
等を行い、関係機関とのネットワークづくりを行ってきた。
今 回 の 職 域 保 健 研 修 プ ロ グ ラ ムの 実 地 研 修 の 事 業 所 を 選 定 す る に あ た っ
て は 、「 高 幡 地 区 勤 労 者 健 康 づ く り 推 進 協 議 会 」 で あ ら か じ め 協 議 を 行 い 、
訪 問 を 希 望 す る 事 業 所 を 対 象 に し た 。し か し な が ら 、今 ま で の 事 業 は 産 業 保
健 活 動 の 三 管 理 の 中 の 健 康 管 理 で あ る た め 、事 業 所 の 職 場 巡 視 や 作 業 環 境 管
理 や 作 業 管 理 に 属 す る 実 際 の 知 識 や 評 価 に つ い て は 不 慣 れ で あ る た め 、高 知
医 科 大 学 公 衆 衛 生 学 教 室 の 教 官 と 共 に 事 業 所 へ 赴 く こ と に し た 。具 体 的 に は
一つの事業所に3∼4回赴き、その都度、訪問する目的と作業を設定し、作
業 環 境 評 価 や 人 間 工 学 チ ェ ッ ク リ ス ト の 作 成 と 評 価 、報 告 書 を も と に し た 事
業 主 と の 話 し 合 い や 職 長 ク ラ ス へ の 教 育・指導を実施した。その結果、最終
的 に は 事 業 所 よ り 自 発 的 な 改 善 計 画 を 導 き 出 す ま で に な っ た 。高 幡 保 健 所 で
は、今後、この自信と経験をもとに、管内で事業所環境診断サービス事業と
して展開していく予定である。
高幡保健所がこのようにうまくいった要因をまとめると、
①地区を組織する「勤労者健康づくり推進協議会」が存在していた
②人間工学チェックリストをうまく活用した職場診断が事業所に受け入れ
られた
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③ 専 門 的 な 作 業 環 境 診 断 を 実 施 す る た め の 知 識 や 技 術 に 対 す る 大 学・研 究 所
の支援体制が存在した
④保健所長が産業保健活動への関心が高かった
⑤事業所側が意欲的に対策や改善に取り組んだ
⑥職域保健研修プログラムの参加者が職域へのアプローチにある程度慣れ
てきた
などが挙げられる。
さ ら に 、訪 問 し た 事 業 所 か ら は 継 続 し た 職 場 へ の ア ド バ イ ス の 依 頼 が 保 健
所 に な さ れ 、今 後 の 職 域 保 健 活 動 に お け る パ イ プ 役 と し て の 保 健 所 の 位 置 が
確 立 し つ つ あ る よ う に 思 え る 。こ の よ う な 職 域 保 健 へ の 関 与 を き っ か け に し
て 、 事 業 所 と 保 健 所 と の 信 頼 感 が 生 ま れ 、 ア ク セ ス ビ リ テ ィ ー( 相 談 の し や
す さ )が 芽 生 え る こ と で 、職 場 に お け る 健 康 づ く り や メ ン タ ル ヘ ル ス な ど の
保健指導の面でも保健所の活躍は充分に期待できる。
そ の 反 面 、今 回 の 研 修 で 積 極 的 な 職 域 保 健 活 動 を 引 き 出 す に は 至 ら な か っ
た保健所では、その主な原因として管内に「勤労者健康づくり推進協議会」
の存在しなかったことが挙げられるが、やはり、縦割り行政の中で、保健所
が 職 域 保 健 に 関 与 す る こ と に 抵 抗 が あ っ た も の と 考 え る 。そ の た め 、多 く の
保 健 所 が 積 極 的 に 職 域 保 健 に 関 与 で き る よ う に 働 き か け る た め に は 、厚 生 省
ないしは県レベルからの行政的な指導や法的な根拠をより明確にする必要
があるだろう。
職域保健事業の確立にむけた職域保健研修プログラムの展開と課題
高 知 県 の 職 域 保 健 研 修 プ ロ グ ラ ム の 取 り 組 み は 現 在 進 行 中 で あ る が 、こ れ
ま で の 保 健 所 の 職 域 保 健 事 業 を 評 価 し 、今 後 の 恒 常 的 な 職 域 保 健 事 業 の 確 立
に向けた課題をあげると、
① 産 業 保 健 以 外 の 保 健 従 事 者 が 職 域 保 健 活 動 に 精 通 す る た め の「 職 域 保 健 ト
レーニングマニュアル」を作成する
② 職 域 保 健 研 修 プ ロ グ ラ ム を 継 続 的 に 実 施 し 、研 修 修 了 者 を 増 や す こ と で 保
健所内で課間を越えた職員間の協力体制をはかる
③ 作 業 環 境 評 価 や 人 間 工 学 的 な ア ド バ イ ス な ど に 関 わ る 知 識・技 術 的 能 力 の
向上を図り、旧式の作業環境測定機器などを更新していく
④地域における市町村、商工会議所、医師会、労働基準監督署、地域産業保
健センターなどの他機関との連携を協議する場を設定する
などが重要になってくる。
地 域 の 保 健 所 に と っ て は 、事 業 所 の 労 働 者 は 地 域 住 民 の 一 員 で も あ る 。労
働 安 全 衛 生 法 施 行 以 来 、大 規 模 事 業 所 に お け る 産 業 保 健 サ ー ビ ス 活 動 や 提 供
す る 体 制 は 整 っ て き た が 、中 小 零 細 企 業 に お け る 産 業 保 健 サ ー ビ ス は 依 然 と
し て 不 十 分 な 状 態 に あ る 。地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー を 各 労 働 基 準 監 督 署 管 内 に
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整 備 さ れ た が 、医 師 会 が 具 体 的 な 運 営 を 実 施 し て い る た め 、時 間 的 に も 制 約
のある臨床医が健康診断や保健指導以外の職域保健活動を提供することに
は 困 難 が あ る 。中 小 零 細 企 業 の 労 働 者 に と っ て 、産 業 保 健 サ ー ビ ス 機 関 よ り 、
保 健 所 な ど に 代 表 さ れ る 地 域 保 健 サ ー ビ ス 機 関 の 方 が 、よ り 身 近 に 感 じ る と
も 報 告 さ れ て き た 8,13,14)。 そ こ で 、 地 域 の 保 健 所 、 市 町 村 、 医 師 会 、 労 働 基
準 監 督 署 、 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー 、 商 工 会 議 所 な ど が「 勤 労 者 健 康 づ く り 推
進 協 議 会 」 を 設 置 し 、 お 互 い の 得 意 な 分 野 で 人 的・物的資源を出し合い、職
域 保 健 活 動 を 提 供 で き る 広 範 な 支 援 体 制 を 整 備 す る こ と が 重 要 と な る 。そ の
際 に は 、 保 健 所 に は 医 師 や 保 健 婦・ 士 、 薬 剤 師 な ど 幅 広 い 職 種 が 存 在 し 、 ま
た 、母 子 保 健 や 老 人 保 健 に お い て 各 種 機 関 の コ ー デ ィ ネ イ ト を 行 っ て き た 経
験 も 有 す る た め 、地 域 に お け る 職 域 保 健 活 動 を 展 開 す る 中 心 的 な 存 在 と し て
大きな期待が寄せられる。
高 知 県 の 計 画 で は 、 2000年 度 ま で こ の 職 域 保 健 研 修 プ ロ グ ラ ム を 継 続 し 、
県 内 で 職 域 保 健 事 業 が 幅 広 く 展 開 で き る 人 材 育 成 、環 境 づ く り や 基 盤 整 備 に
取り組んでいく予定である。 (事例4おわり)
6 主な資源リスト
事 業 場 の メ ン タ ル へ ル ス の 取 り 組 み を す す め る た め に は 、事 業 場 外 の 産 業
保 健 機 関 や 地 域 保 健 機 関 の 連 携 が 必 要 で あ る た め 、重 要 な い く つ か の 機 関 を
紹介する。
1)産業保健推進センター
産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー の 役 割 は 、産 業 医 等 や 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー が 活 動
す る に 当 た っ て 、そ の 機 能 を 十 分 に 発 揮 で き る よ う 専 門 的 技 術 や ノ ウ ハ ウ を
提 供 す る こ と で あ る 。業 務 内 容 は 、① 地 域 産 業 保 健 セ ン タ ー に 対 す る 支 援 、
② 産 業 保 健 に 関 す る 専 門 的 相 談 、③ 産 業 医 等 に 対 す る 研 修 及 び 支 援 の 実 施 、
④ 産 業 保 健 情 報 の 収 集 提 供 、⑤ 産 業 保 健 に 関 す る 広 報 啓 発 等 で あ っ て 、全 国
に 33 カ 所 設 置 さ れ て い る ( 平 成 11 年 9 月 現 在 )。
2)地域産業保健センター
労 働 者 数 50 人 未 満 の 小 規 模 事 業 場 に 対 し て 、 保 健 指 導 、 保 健 相 談 等 の 産 業
保 健 サ ー ビ ス を 提 供 し て い る 。 実 施 機 関 は 郡 市 区 医 師 会 で 、 全 国 347 カ 所 に
設 置 さ れ 、地 域 の 開 業 医 が 産 業 保 健 に 関 与 し て い く 機 会 を 広 く 提 供 し て い る 。
3)労災病院
労災病院は労働災害等における勤労者の医療確保を目的に設置されたが、
労 働 災 害 の 減 少 と と も に 、メ ン タ ル ヘ ル ス 等 の 新 た な 課 題 へ の 対 応 を 模 索 し
て い る 段 階 に あ る 。 労 災 病 院 は 全 国 で 39 ヶ 所 設 置 さ れ て い る が 、 そ の う ち 4
ヶ 所( 平 成 11 年 度 末 現 在 ) に メ ン タ ル ヘ ル ス セ ン タ ー が 設 置 さ れ 、12 年 度 に
新 た に 2ヶ 所 設 置 さ れ る こ と と な っ て い る 。
4)メンタルへルスサービス機関等
メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー ビ ス 機 関 等 と は 、 事 業 場 か ら 委 託 を 受 け て 、メ ン タ ル
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へルス相談、ストレスチェック、事業場の診断、教育研修等のメンタルヘル
ス サ ー ビ ス を 提 供 す る 機 関 や 人 材 を い う 。メ ン タ ル ヘ ル ス サ ー ビ ス 機 関 等 が
サ ー ビ ス を 行 う こ と に よ っ て 、自 前 の シ ス テ ム を 持 た な い 事 業 場 や 健 康 保 険
組 合 に お い て も 、 メ ン タ ル へ ル ス の 取 り 組 み が 可 能 に な る 。ま た 自 前 の シ ス
テ ム を 持 つ 事 業 場 に お い て も 、メ ン タ ル ヘ ル ス の 取 り 組 み を 充 実 す る 重 要 な
資 源 に な る 。し か し メ ン タ ル へ ル ス の 事 業 を 外 部 委 託 す る だ け で は 、事 業 場
自 体 の か か え る メ ン タ ル ヘ ル ス の 問 題 は 解 決 し な い 場 合 も あ る の で 、利 用 に
当たっては産業保健推進センターなどに相談することが望ましい。
5)精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、医療、福祉、労働、教育、産業等の精神保健福
祉 関 係 諸 機 関 と の 密 接 な 連 携 を も と に 、精 神 保 健 お よ び 精 神 障 害 者 の 福 祉 に
関 す る 総 合 的 技 術 セ ン タ ー( 地 域 精 神 保 健 福 祉 活 動 の 中 核 )と し て 活 動 す る
機 関 で あ る 。 現 在 、 全 国 の 都 道 府 県 47 に 対 し て 49 ヶ 所( 東 京 の み 3 ヶ 所 )、政
令 指 定 都 市 12 に 対 し て 5ヶ 所 設 置 さ れ て い る( 平 成 11 年 4 月 1 日 現 在 )。精 神 保
健福祉センター運営要領には、①企画立案、②技術指導及び技術援助、③教
育研修、④普及啓発、⑤調査研究、⑥精神保健福祉相談、⑦組織育成の7つ
の 業 務 が 示 さ れ て い る が 、そ の 組 織 体 制 は 都 道 府 県・政 令 指 定 都 市 に よ っ て
大 き く 異 な る 。ま た 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー は 、平 成 11 年 精 神 保 健 福 祉 法 改 正
に よ っ て 、平 成 14 年 度 か ら 通 院 医 療 費 公 費 負 担 や 精 神 保 健 福 祉 手 帳 の 審 査 や
精神医療審査会の事務局を担当することになっている。
6)保健所
保 健 所 は 地 域 住 民 の 健 康 の 保 持 及 び 増 進 に 係 る 企 画 、調 整 、指 導 及 び こ れ ら
に 必 要 な 業 務 を 行 う 機 関 で あ っ て 、 全 国 に 641 ヶ 所 設 置 さ れ て い る ( 平 成 11
年 4 月 1 日 現 在 )。 保 健 所 の 精 神 保 健 福 祉 業 務 運 営 要 領 に は 、 ① 企 画 調 整 、 ②
普及啓発、③研修、④組織育成、⑤相談、⑥訪問指導、⑦社会復帰及び自立
と 社 会 参 加 へ の 支 援 、⑧ 入 院 及 び 通 院 医 療 関 係 事 務 、⑨ ケ ー ス 記 録 の 整 理 及
び 秘 密 の 保 持 等 、 ⑩ 市 町 村 へ の 協 力 及 び 連 携 が 挙 げ ら れ て い る 。平 成 11 年 の
精 神 保 健 福 祉 法 改 正 に 伴 い 、平 成 14 年 か ら は 精 神 障 害 者 に よ る 福 祉 サ ー ビ ス
利 用 の 調 整 は 市 町 村 を 中 心 に 行 わ れ る こ と と な っ て お り 、通 院 医 療 関 係 事 務
も 市 町 村 が 窓 口 に な る な ど 、保 健 所 の 精 神 保 健 福 祉 業 務 に も 大 き な 変 化 が 予
測されている。
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文献
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411
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労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する
研究報告書
平 成 12 年 3 月 発 行
発行者「作業関連疾患の予防に関する研究」研究班
班長 加藤正明
発行所 東京医科大学 衛生学公衆衛生学教室
〒 160-8402 東 京 都 新 宿 区 新 宿 6-1-1
電 話 03-3351-6141 内 線 237
e-mail [email protected]