FDTD法を用いた電磁界解析シミュレータの開発

平成 25 年度
電子情報工学科
卒業研究発表会
FDTD 法を用いた電磁場解析シミュレータの開発
著者
大村 匠
指導教員
川上 由紀
前川 公男
1.は じ め に
複雑な形状を持つアンテナの開発では,理論解
析による設計が行えない.そのため,トライアン
ドエラーでの開発になり,時間と労力がかかって
しまう.そこで有用なのが,電磁場解析である.
計算機により電磁場を計算する電磁場解析では,
解析的に解くことができない空間においても近似
解を得ることができる.今回は,電磁場解析法の
一 つ で あ る FDTD(Finite Difference Time Domain)
法を用いて,パッチアンテナの設計を行った.ま
た,実験値とシミュレーション値とを比べること
で FDTD法 に よ る ア ン テ ナ 設 計 の 有 用 性 や 課 題 を
確認した.
2.概 要
2.1 FDTD法
FDTD法 は , 有 限 の 解 析 空 間 に お い て , 式 (1)で
示 す Maxwell方 程 式 を 空 間 ・ 時 間 領 域 で 差 分 化 し ,
タイムステップごとに電磁場を計算する手法であ
る [1][2].
𝜕𝑯
∇ × 𝑬 = −𝜇
𝜕𝑡
{
𝜕𝑬
∇ × 𝑯 = 𝜎𝑬 + 𝜀
𝜕𝑡
(1)
図2 電場と磁場の空間配置
2.2 パ ッ チ ア ン テ ナ
方形パッチアンテナは,代表的な平面アンテナ
の 一 つ で あ る .図 3に 示 す よ う に ,方 形 パ ッ チ ア ン
テ ナ は ,接 地 導 体 ,誘 電 体 基 板 ,放 射 素 子 の 3つ の
層でできているアンテナである.方形パッチアン
テ ナ の 共 振 周 波 数 は , 放 射 素 子 の 長 辺 1と 基 板
内の比誘電率 を使って次式で求められる.
≅
c
2 1 √𝜀𝑟
(3)
パッチアンテナの入力インピーダンスは,給電
ピンの位置により決まる.
こ こ で ,𝑯は 磁 場 ,𝑬は 電 場 ,𝜀は 誘 電 率 , は 透
磁率, は導電率である.
(1)式 を 空 間・時 間 領 域 で 中 心 差 分 を 行 う .こ の と
き , 電 場 ・ 磁 場 は 図 1, 図 2に 示 す よ う に 時 間 的 に
も空間的にも交互に配置されることになる.最終
的 に は 式 (2)の 差 分 方 程 式 が 得 ら れ る こ の 式 を 解
くことで,各時間,場所における電場と磁場が得
られる.
𝜎∆𝑡
∆𝑡
1 − 2𝜀
1
𝜀
𝑛−1
𝐸 =
𝐸
+
𝛻 × 𝐻 𝑛−2
𝜎∆𝑡
𝜎∆𝑡
1+
1+
2𝜀
2𝜀
1
1
∆𝑡
𝐻 𝑛+2 = 𝐻 𝑛−2 − ∇ × 𝐸 𝑛
{
𝜇
𝑛
(2)
ここで添え字の は,タイムステップ数を表す.
図3 パッチアンテナ
3.3 入 力 イ ン ピ ー ダ ン ス
アンテナ入力部の持っている抵抗値のことであ
る .共 振 状 態 で は ,リ ア タ ク タ ン ス 0と な る .ま た ,
同軸ケーブルの特性インピーダンスとアンテナの
入力インピーダンスが一致しなければ,反射が起
こし放射効率が低下してしまう.
3.FDTD法 に よ る 設 計
図1 電場と磁場の時間配置
3.1 設 計 目 標
2.5GHzで 共 振 す る パ ッ チ ア ン テ ナ の 設 計 を 行
う . 図 3に 示 す よ う に , 誘 電 体 基 板 ・ 接 地 導 体 は ,
厚 さ 1.60mm 縦 横 101mmと す る . 図 3の 1 及 び 2 を
調 整 し ,2.5GHzで 共 振 し ,か つ 入 力 イ ン ピ ー ダ ン
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電子情報工学科
ス が 50Ωと な る 放 射 素 子 の 長 さ を 探 す . 今 回 は ,
比 誘 電 率 = 2で あ る ガ ラ ス 繊 維 を 用 い た .
3.2 解 析 モ デ ル
今 回 の 解 析 に お け る モ デ ル を 図 4に 示 す .解 放 空
間での解析を行うために,境界に電磁波の反射を
抑 え る 条 件 を 用 い て い る .接 地 導 体 や 放 射 素 子 は ,
波 長 に 比 べ 十 分 に 薄 い も の と し た . 図 4に お け る ,
放 射 素 子 の 寸 法 は ,2.5GHzで 共 振 し た と き の 値 で
あ る . 解 析 空 間 の 分 割 数 は 100×100×200で あ る .
計算所要時間は,1時間であった.
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ラ メ ー タ で あ る 2 1は , 誤 差 が 2 % と 良 好 に 一 致
した。
誤 差 の 原 因 と し て 、 FDTD 法 で は , 給 電 ピ ン の
場所を自由に決められないことや,給電ピンの太
さなどを考えていないことなどのモデリングの部
分で誤差が生じていると考えられる.また,誘電
体と真空での境界面でも誤差が生じていると考え
られる.
表1 放射素子の寸法
シミュレーション
実験
27.27
29.00
1 [mm]
8.08
10.00
2 [mm]
4.2 相 対 反 射 電 力
アンテナの放射効率を示すパラメータである相
対 反 射 電 力 11 [dB]を 計 算 し た .そ の 結 果 を 図 6に 示
す.実験値と比較した結果,最大効率点での違い
があるものの,帯域は,ほぼ一致した.誤差の原
因 と し て は , 入 力 イ ン ピ ー ダ ン ス が 50Ωで な か っ
たことなどが考えられる.
図4 解析モデル
3.3 入 力 イ ン ピ ー ダ ン ス
2.5GHzで 共 振 す る よ う 設 計 し た パ ッ チ ア ン テ
ナ の 入 力 イ ン ピ ー ダ ン ス の 解 析 結 果 を 図 5に 示 す .
2.5GHzで リ ア タ ク タ ン ス 0と な り 共 振 し て い る こ
と が わ か る . ま た , そ の と き 抵 抗 値 は , 58Ωと 目
標 で あ る 50Ωに 近 い 結 果 を 得 る こ と が で き た .
図6 相対反射電力
5.ま と め と 今 後 の 課 題
図5 入力インピーダンス
4.実 験 結 果 と の 比 較
4.1 モ デ ル の 比 較
シミュレーションにより設計したアンテナと実
際 に 2.5GHzで 共 振 し ,入 力 イ ン ピ ー ダ ン ス が 50Ω
であったアンテナの放射素子の寸法とを比較した.
そ の 結 果 を 表 1に 示 す . 1 は , 実 験 値 と 比 べ 6% の
誤差があった.入力インピーダンスを決定するパ
FDTD 法 を 用 い た ア ン テ ナ 設 計 の 有 用 性 に つ い
て検討し,アンテナのモデリングの部分での誤差
が 大 き く な っ て し ま う こ と が わ か っ た .そ の た め ,
解析空間の分割を増やすことで,細かい部分まで
モデル化できるようにするなど改善が必要である.
しかし,分割数を増やすと計算時間が大きく増加
してしまうため,並列計算機の導入など計算速度
を向上させる工夫も必須である.さらには,複雑
な形状を持つアンテナで解析及び設計を行うなど
FDTD 法 の 有 効 性 を さ ら に 検 証 す る 必 要 が あ る .
[参 考 文 献 ]
[1 ] 宇 野 , 新 井 , 道 下 , “ ア ン テ ナ ・ 電 波 に お け る 設 計 ・ 解 析 手 法 ワ
ー ク シ ョ ッ プ (第 43 回 )
電子情報通信学会
FD TD 法 に お け る ア ン テ ナ 解 析
応用編”
ア ン テ ナ ・ 伝 搬 研 究 専 門 委 員 会 , Se p t 2 0 1 2
[2 ] 宇 野 , “ FD T D 法 に よ る 電 磁 界 お よ び ア ン テ ナ 解 析 ” , コ ロ ナ 社