ワタミの介護付き有料老人ホーム 「レストヴィラ舟入」の計画

── 実 施 例 ──
ワタミの介護付き有料老人ホーム
「レストヴィラ舟入」の計画
大成建設㈱ 中国支店 設計部 福 田 浩
■キーワード/介護・建築計画・設備計画
1.はじめに
2.建築概要
広島市中心部より南に位置し,繁華街からは一歩離れ
建物名称 レストヴィラ舟入
た舟入南の旧太田川沿いに建つ,介護付き有料老人ホー
所 在 地 広島県広島市中区舟入南
ムである。川沿いの土手を散歩する人や,遊覧船が行き
主要用途 有料老人ホーム
交う風景を日ごろから目にすることができ,周囲の環境
建 築 主 ㈱フィールド・アセット
に非常に恵まれた土地である。建物は介護棟と管理棟の
運営会社 ワタミの介護㈱
2棟で構成されている。介護棟の主用途は老人ホームで
設計監理 大成建設㈱一級建築士事務所 中国支店
あり,全室一人部屋の個室で1階から5階まで,トータ
施 工 大成建設㈱中国支店
ル100室が設けられている。管理棟の主用途は調剤薬局
敷地面積 2,606.34㎡
であり,介護棟への医薬品供給以外にも,近隣の在宅介
建築面積 1,442.87㎡
護への医薬品の配送を行う拠点として位置づけられてい
延床面積 5,021.57㎡
る。建築主は㈱フィールド・アセットで,老人ホーム自
構 造 鉄筋コンクリート造
体の運営は,ワタミの介護㈱が行う形態である。本稿で
階 数 地下:-階/地上:5階/塔屋:1階
は広島に建つ最新の有料老人ホームの事例として,レス
工 期 2011年1月〜2011年12月
トヴィラ舟入介護棟についての建築・設備全般の紹介を
施設建設における全体のコンセプトは「ホテルを思わ
行う。
せる演出」である。具体的には老人ホームに親を預ける
ご家族の不安感を和らげ,「親戚や友人に自慢できる上
品な設え」を備えもち,入居者の方が誇りを持って生活
でき,「専門的知識を取り入れた設え」で無意識に元気
になれる,寝たきりゼロをめざす老人ホームである。こ
の全体コンセプトに沿って建築の計画を進めた。
1階居室は認知症の方のフロアであり,1階共用部分
N
1,700
28,150
共用
階段
居室
ELV
居室
食堂
30,000
看護職員コーナー
共用
屋外
屋外
バルコニー
バルコニー
浴室
WC
居室
写真-1 施設外観
屋外
避難階段
図-1 基準階ブロックプラン(2~5階)
(単位:mm)
ヒートポンプとその応用 2012.9.No.84
─ 14 ─
1,700
居室
── 実 施 例 ──
には床暖房を採用することで,日常,靴を履かない素足
室 外 機 台 数 16台
の暮らしにより,
「日本人の住まい」の認識と感受性・
室 内 機 台 数 59台
認知機能の向上をさせることで,転倒リスク,ケガの軽
室外機合計容量 390kW(冷却能力)
減をめざした。
○空気熱源ヒートポンプ単独エアコン
2階屋上庭園
(ウッドデッキバルコニー)
は,車椅子を
系 統 数 12系統
使用しながらも「土いじり」ができる農園,ガーデニン
室外機合計容量 43kW(冷却能力)
グのスペースを食堂からアクセスできる位置に配置した。
○電気式床暖房
すべての入居者の方がリバーフロントという環境の良
対
さを感じられるよう,各階のリビングダイニングを川に
○電気式遠赤外線輻射暖房機
面して配置し,食事や談笑するための共用スペースとし
ての眺望を確保した。
象
範
囲 60㎡
機器能力1,000W×11台(脱衣室,浴室に設置)
【居室】
各階外周部分
(屋外)
に配置した回廊に車椅子が通行で
○空冷ヒートポンプ式ルームエアコン
きるスペースを取ることで安全で楽しくリハビリできる
機
器
台
数 100台
ことをめざした。
1階部分には家族とのひと時を過ごすためのスペース
本建物は24時間稼働の施設であり,多くのご高齢の方
として家族キッチンやカフェを用意した。
が居住するため,安全であり,安心な設備が求められる。
1階に事務室,各階には介護職員コーナーを設置し,
さらに設備機器の操作のしやすさも同時に重要となる。
入居者の方に対してきめ細かく対応を行うことを可能と
そのため居室内の空調機をはじめ,建物全体の主な熱源
した。
は電気を主体とした。また,居室の空調設備では各個人
による要求を満たすことができることに配慮し,中央熱
3.設備概要
源およびファンコイルユニットを設置する中央方式の空
3-1 空調設備
調は採用せず,各室個別運転制御が可能なルームエアコ
ンを設置することとした。食堂,洗濯リネン室,廊下な
【共用エリア】
○空気熱源ヒートポンプマルチエアコン
ど,共用スペースは各階をエリア分けし,空気熱源ヒー
系 統 数 16系統
トポンプエアコン(ビルマルチ)を設置した。脱衣室は冷
暖房を自由に切り替えることが可能なように,単独空調
系統とした。
外気の導入は各階の共用スペースを2つのゾーンにエ
リア分けし,空気熱源ヒートポンプエアコン(外気処理
写真-2 居室
写真-3 居室(洗面)
写真-5 施設外観(夜景)
写真-4 居室(WC)
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ヒートポンプとその応用 2012.
9.
No.84
── 実 施 例 ──
専用機)を各ゾーンに1台ずつ設置し,WCなどの室排
3-3 電気設備
気とエアバランスを保つよう,廊下部分へ温度調整され
受 変 電 容 量 動力 200kVA×1
た外気を供給した。また,冬季の湿度低下を防止するた
電灯 150kVA×3
め,外気処理専用機には加湿器を設置した。
非常用発電機 ディーゼル発電機
1階のメイン厨房はスポット空調方式とし,厨房用空
47kVA×1台
気熱源ヒートポンプエアコンを設置した。
看護システム設備,ナースコール設備,電灯コンセント
1階認知症エリアの共用部分である食堂および通路部
設備,電話設備,放送設備,インターホン設備,テレビ
分には,電気式の床暖房設備を設置した。時期や運用方
共同受信設備,防犯警備設備,自動火災警報設備,避雷
法によっては,エリアを限定して運転を行うことが可能
設備 他
なように,食堂エリアは3系統,通路部分は2系統に床
今回の施設において,電気設備のうちで特筆すべきは,
暖房系統を分割した。
看護システム設備や防犯警備設備などの弱電設備であ
各階の浴室,
脱衣室には輻射式暖房機
(壁掛)
を設置し,
る。看護システム設備は介護記録をIT化によって,簡
ご高齢の入居者の方が入浴時に温度差によるヒート
単に情報登録・蓄積・共有するシステムで,入居者個人
ショックを受けないよう,配慮した。
の食事時間,食事量,入浴,睡眠などの一日の様子を細
共用エリアの空調室外機は屋上の設備機器置き場に設
かく記録に残すことができる設備である。システムは1
置した。また,居室ルームクーラーの空調室外機は外周
階事務室と各階のケアステーションをつなぎ,各エリア
に配置されているバルコニーに設置した。
にパソコンを設置。また各階共用エリアにi-Padを設置。
3-2 衛生設備
このことから館内のどこからでもパソコンやi-Padを使
給 水 方 式 受水槽+加圧給水ポンプ方式
用して情報の記録,閲覧を常時可能とし,介護サービス
受水槽容量 FRP製 有効容量27㎥
の質の向上をはかっている。
給 湯 方 式 個別方式
(電気,ガス併用)
防犯警備設備では機械警備のほかに,テンキーおよび
(共用エリアはガス瞬間湯沸器,居室は電
気貯湯式湯沸器)
電気錠を各所の扉に有効に設置し,入居者の方が安心し
て生活できることを目的に,安全と安心を確保した。自
消 火 設 備 全館スプリンクラー設備
動火災警報設備の火災警報によって電気錠は開錠となる
厨 房 設 備 電化厨房
システムとした。
受水槽は屋外に設置し,加圧給水ポンプによって各所
ナースコール設備(ビジネスホン連動)は本体のナース
に上水を供給した。
コール制御機(親機)は1階事務室に設置。各居室内は
給湯設備は各階の共用エリアにある浴室,
パントリー,
ベッドサイドおよびトイレにナースコール子機を設置。
リネン室などはガス瞬間湯沸器を個別に設置。居室の手
共用スペースは浴室,脱衣室,トイレなどにナースコー
洗いへの給湯は電気貯湯式湯沸器を個別に設置した。熱
ル子機を設置。1階事務室や各階のケアステーションに
源の選定については多量の給湯量を使用し,かつ看護ス
常時在席しているスタッフへの連絡を可能としている。
タッフが主に操作する場所は熱源をガスとし,それ以外
各居室のメインの照明器具にはリモコン付きのLED
の部分については電気式とした。
無線LAN
厨房器具の熱源はオール電化とし,厨房内はドライな
環境とした。
PC端末
iPad
5階
ケアステーション
PC端末
iPad
4階
ケアステーション
PC端末
iPad
3階
ケアステーション
メインサーバ
PC端末
iPad
2階
ケアステーション
PC端末
PC端末
1階事務室
写真-6 食堂
1階
ケアステーション
図-2 介護システム概略図
ヒートポンプとその応用 2012.9.No.84
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図−2 介護システム概略図
iPad
共用エリア
── 実 施 例 ──
シーリングライトを採用した。この照明器具は無段階で
用しない機器については運用面で機器を停止することに
調光および調色が可能である。調色は白熱電球に近い暖
よって,省エネを行うことができるシステムとしている。
色系から昼光色に近い寒色系まで,シチュエーションに
よって調節することができる。
5.おわりに
電気の計量は各居室では行わず,全体光熱費用を按分
本稿では,レストヴィラ舟入の建築・設備計画につい
する方式とした。
て紹介を行った。最新の形態の有料老人ホームであり,
4.省エネ
(CO2削減)に対する取り
組み
随所に建築の意匠性の高さや,またきめ細かな空調設備
により,高いレベルの室内環境や快適性を持ち合わせて
いる。さらに介護設備システムなどの弱電設備について
本プロジェクトにおいて省エネルギー,節電について
は,非常に進んだシステムを今回取り入れていることな
の取り組みについて紹介する。
ど,施設としてグレードの高いものであることが皆さま
にもお伝えすることができたのではないかと思う。
「ホー
【建築】
・窓面積率の削減
ムは,ご入居様の幸せのためだけにある」というワタミ
・外周部に配置したベランダによって外壁や窓ガラス
の介護様の基本理念に添い,実際の施設を作りあげるこ
とができ,このプロジェクトに携われることができ,光
からの日射を遮蔽する庇効果
栄に感じている。今後施設を運営していく中で,構築し
【設備】
・高効率空調機の採用
(高APF機器)
た建築・設備が十分に機能を発揮し,いつまでも入居者
・共用エリアに外気処理用全熱交換器を設置
の方に喜ばれる施設となり続けることとなれば,幸いで
・節水型器具の採用
ある。
・LED照明
最後に,建設の計画から完成まで,ご指導,ご鞭撻を
・共用エリアWC,階段,他居室に人感センサによる
いただいた関係者各位の皆さま方に,この場をお借りし
て厚く御礼申しあげます。
照明の自動点滅
照明器具は各居室のシーリングライトにLEDを採用
したほか,共用エリアや屋外にもLEDを採用したこと
で,大きく電力の削減が期待できる。
また,前述したように今回の施設では各機器が個別に
運転が可能なため,24時間の施設でありながら,常時使
写真-9 1階カフェ
写真-7 2階屋上庭園
写真-8 屋上設備置き場
写真-10 共用部ひのき風呂
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ヒートポンプとその応用 2012.
9.
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