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[ロアルド・ダール『キス・キス』]
ロアルド・ダール『キス・キス』]
文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書にみる誤訳をとりあげ、文法面から解説してゆ
く。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映
画『007 は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編集『キス・キ
ス』(KISS KISS)。全 11 編を丁寧に点検してゆく。俎上にのせる邦訳は開高健・訳『キス・
キス』(早川書房)。
冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違
っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみな
がら英文法を学びましょう。
誤訳度:*** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
**
欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
*
愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)
第一回 『女主人』The
『女主人』The Landlady その①
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
バースの町に赴任した青年ビリーは、ちよっとかわった中年婦人の家に下宿する。ほかに
も二人下宿人がいるはずなのに、その気配がない。女主人との会話の中で、何年か前に失
踪した学生たちとこの二人に共通項があるのに気づく。女主人を問い詰めようとすると、
飲んだばかりの紅茶のせいか、意識が朦朧としてきた…。
・イディオム:*
…it was about nine o’clock in the evening and the moon was coming up out of a clear
starry sky over the houses opposite the station entrance.
(バス駅へ着いた時にはもう)夜の九時、駅の出口の、向い側に並んだ家々のかなたから、
澄み切って星星の輝く夜空へと、月が上ってゆく所だった。
[解説]
「家々のかなたから…夜空へと」では、家並のずっと奥から夜空目指して月が出てくる、
みたいだ。
over は、「全面的に覆って」の意味の前置詞。芝居の書割のような家並みの上に大きく夜
空が広がっている様が感じられる。
come up は、「(太陽・月が)上る」の意味もあるが、ここは次の out of 「(運動・位置)中
から外へ」と合わさり、「浮かび出る」ととるのが順当。「屋根の連なりの上に広がる夜
空、その中から月がグイっと浮き出そうとしている」のだ。
直訳「家々を覆う、
直訳「家々を覆う、星いっぱいの澄んだ
星いっぱいの澄んだ夜空で、月がグイっと浮き出
澄んだ夜空で、月がグイっと浮き出よう
夜空で、月がグイっと浮き出ようとしているとこ
ようとしているとこ
ろだった」
意訳「家々のうえに広がる澄み切った夜空に月がぽっかりと浮かんでいた
意訳「家々のうえに広がる澄み切った夜空に月がぽっかりと浮かんでいた」
と浮かんでいた
・冠詞:**
Briskness, he had decided, was the one common characteristic of all successful
businessmen.
てきぱきした態度こそは、成功した実業家すべてに共通した、ひとつの性格なのだと心に
決めていた。
[解説]
one+名詞は、「ひとつの…」。the one +名詞は、「唯一の…」。これ、混同されがちだ
が、大きな違い。
「唯一の性格」
・副詞句:**
名詞句:*
Suddenly, in a downstairs window that was brilliantly illuminated by a street-lamp
not six yards away, Billy caught sight of a printed notice propped up against the
glass in one of the upper panes.
と、六ヤードも進まぬうちに、街灯にあざやかに照らされた、ある家の階下の窓、その上
段の仕切りガラスにとめてある、印刷した文字が、ビリイの眼にとまった。
[解説]
not six yards away は、副詞句で a street-lamp を制限する。
「六ヤードと離れていない(
「六ヤードと離れていない(ところにある)
ところにある)街灯に」
街灯に」
素人下宿がわざわざ「印刷した文字」を刷る必然性は感じられない。この a printed notice
は、「活字体の宣伝文」
「活字体の宣伝文」とととるのが自然。
「活字体の宣伝文」
・イディオム:*
He had stayed a couple of nights in a pub once before and he had liked it.
彼は前にも一晩か二晩、パブに泊まったことがあったが、それは悪くない経験だった。
[解説]
a couple of nights は、二晩とは限らず「二、三の」「いくつかの」(四ぐらいまでの数字)
の意味。「一晩か二晩」ではすこし足りない。
「何度か」
・名詞:**
The name itself conjured up images of watery cabbage, rapacious landladies, and a
powerful smell of kippers in the living-room.
下宿屋という名前自身が、水っぽいキャベツや、強欲なおかみ、さては下宿人たちのもの
すごい臭いを彷彿とさせる。
[解説]
確かに kipper には「若僧、ガキ」という意味もあるが、並列の具合からして「ニシンの燻
「ニシンの燻
製の臭さ」
の臭さ」(英国ではよく朝食に出る)ととるのが筋。
・名詞:***
The old girl is slightly dotty, Billy told himself. But at five and sixpence a night,
who gives a damn about that?
このおばさん、少しおかしいな、とビリーは思った。一晩五シリング六ペンスだなんて、
そんなバカな話がどこにある?
自分にとってうれしいことに「バカな話」というのは日本語としていただけないが、まあ
驚きの強調表現として許すとしても、原文と照らし合わせると流れを読み違えた誤訳であ
るのがわかる。
a damn は、名詞だが副詞的に働き、通常否定文で用いられ「少しも」「全然」の意味とな
る悪態表現。give a damn は、否定表現とともに用いられるイディオムで「全然気にかけ(な
い)」。that は、前文の内容をさす。tell oneself は、イディオム「自分に言い聞かせる」。
who 以下は、反語。
全体の直訳:「このおばさん、少しおかしいな」とビリーは自分に言い聞かせた。「でも、
一晩五シリング六ペンスという点において、一体誰がそのことについて気にかけるだろう
か、いや気にかけはしない」
全体の意訳:「
全体の意訳:「このおばさん、ちょっとおかしいな、とビリーは思った。でも一泊五シリ
このおばさん、ちょっとおかしいな、とビリーは思った。でも一泊五シリ
ング六ペンスだぜ
ング六ペンスだぜ、そんなことどうでもいいや。」
、そんなことどうでもいいや。」
・仮定法:***
‘I should’ve thought you’d be simply swamped with applicants,’he said politely.
「泊る人が殺到してお困りなんじゃないかと思いましたが」と彼はていねいにいってみた。
[解説]
should have p.p は、(1)…すべきだったのに(過去の反実仮想) (2)…したことだろうに
(過去の仮定推量)で、ここは(1)。simply は強調(=very)。
直訳「泊まりたい人が殺到するはずだと、思いやるべきでしたのに」
意訳「忙しくしてらっしゃるのに僕なんかが来てすみません」
・代名詞:*
And it is such a pleasure, my dear, such a very great pleasure when now and again
I open the door and I see someone standing there who is just exactly right.
ときどき、扉をあけてみると、誰かがちゃあーんとそこに立っているのを目にした時は、
そりゃあ、とてもうれしいの。
[解説]
someone は、who 以下で限定される要素を持つ「誰か」のことで、誰でもいいわけではない。
just も exactly も強調。right は、「ふさわしい」「適切な」の意味。
直訳「(
直訳「(この家に)
この家に)ぴったりふさわしい誰かが立っている」
意訳「思ったとおりの人がい(
意訳「思ったとおりの人がい(てくれ)
てくれ)る」
・動詞:*
I’ve put a water-bottle between the sheets to air them out, Mr Weaver.
わたし、空気を暖めるために、湯たんぽをシーツの間に入れときましたわ。
[解説]
air out は、「乾かす」。them は、sheets。「
「(シーツを)
シーツを)温めようとして」
第二回 『女主人』The
『女主人』The Land Lady その②
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
バースの町に赴任した青年ビリーは、ちょっとかわった中年婦人の家に下宿する。ほかに
も二人下宿人がいるはずなのに、その気配がない。女主人との会話の中で、何年か前に失
踪した学生たちとこの二人に共通項があるのに気づく。女主人を問い詰めようとすると、
飲んだばかりの紅茶のせいか、意識が朦朧としてきた…。
・動詞:**
‘I’m so glad you appeared,’ she said, looking earnestly into his face. ‘I was
beginning to get worried.’
‘That’s all right,’ Billy answered brightly. ‘You mustn’t worry about me.’
「あなたが入ってくださって、うれしいわ」じいっと彼の顔をのぞきこみながら、彼女が
いった。「そろそろ心配になっていた所だったんですの」
「大丈夫ですよ」ビリーはほがらかに答えた。「ぼくのことなら、心配はいりません」
[解説]
前の worried は、形容詞「心配な」。後の worry about は、自動詞+前置詞「…を気にす
る」
ここ、おかみが「自分の家にふさわしい人がやってこないのではと、不安になりだしてい
たところへ、この家にぴったりのあなたが来た」とめぐり合わせをよろこんだのに対し、
ビリーが謙遜し、「そんなことないですよ」(That’s all right.は、感謝・謝罪に答え
ていう言葉:どういたしまして、気にしないで、といったニュアンス)、さらに「あなたは
僕のことを気にしてはいけない」→「僕は (来てくれるものかどうか) あなたが気をもむ
に値するほどの人間ではない」と答えたところ。この論理が通るように訳さねばならない。
意訳:「そんな」ビリーは明るく答えた。「僕でよかったんでしょうか」
・名詞:*
Everyone has to do that because it’s the law of the land, and we don’t want to go
breaking any laws at this stage in the proceedings, do we?
ここらでは、それがきまりになってますので、誰でもそう願っていますのよ。わたしたち、
たとえこんな形式みたいな法律でも、破りたくありませんもの、そうでしょ?
[解説]
「訴訟手続きにおけるこの段階」と読んで、「こんな形式みたいな法律」の訳が出来たの
だろうか?
at this stage は、「現段階では」。proceedings は、(1)広くは「出来事」 (2)狭くは「訴
訟手続き」。前後の流れから、ここは(1)で、the と限定される内容は、素人下宿関係のこ
とと思われる。
「今こうした(
「今こうした(仕事の)
仕事の)ことで法律を」
・形容詞:**
‘They sound somehow familiar’ he said.
‘They do? How interesting.’
「何か聞いたことのある名前ですね」と彼はいった。
「そうお?それはすばらしいわ」
[解説]
interesting は、他動詞の現在分詞形の形容詞で「人に興味を起させる」の意味。この「人」
とは自分も含まれるわけだから、「あなたの言ったことは何とわたしに興味を起させるこ
とか」。do は代動詞(=sound)
直訳「そう聞こえます?興味深いことね」
意訳「あら、どうしてかしら」
・代名詞:***
‘I’m almost positive I’ve heard those names before somewhere. Isn’t that queer?
…’
「どこかでこの名前を耳にしたことは、確かなんですが。変ですか?…」
[解説]
that は、前の文全体を指す。これは相手に掛けているセリフで、反語になっている(変では
ないですか、いや変です)。
「それっておかしくありませんか」
「それっておかしくありませんか」
・固有名詞:*
Christopher Mulholland…wasn’t that the name of the Eaton schoolboy who was on a
walking-tour through the West Country, and then all of a sudden …’
クリストファー・マルホランドと…ウェストカントリイを、ずっと徒歩旅行していて、突
然いなくなった、あのイートン校の生徒じゃなかったっけ…
[解説]
「ウエストカントリイ」では地名みたいだ。the West Country で、イングランド南西部地
方を指す。語頭(w,c)の大文字が、固有名詞化の印になっている。
「西部地方」
・間投詞:**
‘Milk?’ she said. ‘And sugar?’
‘Yes, please. And then all of a sudden…’
「ミルクは」と彼女の声。「お砂糖は?」
「ええ、どうぞ。あの生徒は、突然いなくなって…」
[解説]
この please は、相手に何かを勧める「どうぞ」ではない。お願いをしているのである。
「お願いします」
「すいません」。
「お願いします」または「すいません」。
ます」
・副詞:*
‘Eton schoolboy?’ she said. ‘Oh no, my dear, that can’t possibly be right because
my Mr mulholland was certainly not an Eton schoolboy when he came to me.…
「イートン校の生徒ですって?」と彼女はいった。「いえいえ。ここへいらしたとき、マ
ルホランドさんは確かにイートン校の生徒じゃありませんでしたもの、そんなはずはあり
ませんわ。…
[解説]
not possibly は、「先ず…でない」。日本語でも「そういうことは先ずないですね」と言
った場合は、「絶対にない」の婉曲な言い方であるが、この not possibly も同じで内容的
には「絶対に…ない」。これと cannnot+動詞「…のはずがない」が合わさったもの。
「どうしたってイートン校の生徒じゃありません」
・仮定法:***
‘That parrot,’ he said at last. ‘You know something? It had me completely fooled
when I first saw it through the window from the street. I could have sworn it was
alive.’
「あのオウムですけど」と、とうとう彼は口をだした。
「どうでしょう?ぼくは窓からのぞいてみた時から、だまされてたような気がするんです
が、あれ、生きてるんでしょう」
[解説]
後半のセリフの訳全体が間違っている。You know something?は話を切り出す決まりきった
言い方で、「あのね」「いいですか」。had fooled だから、「わたしを完全にだました」
→「わたしはだまされた」のだ。この仮定法過去完了は、過去の仮定の推量「(人にあのオ
ウムのことを生きているかどうかと問われていたら)生きていると誓ったことだろうに」
「いいですか。僕は窓から覗いたときすっかりだまされました。生きていると言われれば、
そう信じたでしょう」
第三回 『ウィリアムとメアリイ』William
『ウィリアムとメアリイ』William and Mary その①
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ウィリアムはオックスフォードの哲学教授。癌に侵され、余命いくばくもなくなったとき、
医師のランディに、脳だけを生かす実験に協力するよう頼まれる。これを受け入れる苦衷
の決断をして死んでいったウイリアム。遺書で事の次第を読んだ妻のメアリイは、ランデ
ィ医師の病院に赴く。そこで彼女が見たものは…
・代名詞***
・代名詞***
If this is about what I am beginning to suspect it is about, she told herself, then
I don’t want to read it.
「これが、どんなことを書いているのかしらとわたしが疑うようなものなら、と彼女はひ
とりごちた。わたしは読みたくない。
[解説]
下線部の意味が不明。原文を正確に読み取れないので、誤魔化したと思える訳文だ。what
を the thing which に置き換えた上で、二文に分解するとよくわかる。
This is about the thing. I am beginning to suspect that it is about the thing.と
なる。it は抽象性が高く、代名詞 this を受けるいわば代・代名詞(これはその事柄に関し
てのものだ。私はこれがその事柄に関してのものだとうすうす感じ始めている《ひょっと
したらそうかなと思っているまさにそのこと》)。suspect は、「(よくない事について)…
だと思う」。こう理解した上で、自然な日本語にすればよい。なお、別項で触れるが tell
oneself は「自分に言い聞かせる」。
意訳「あのことだったらイヤだなと私が思っていることが書かれてあるのだったら、
意訳「あのことだったらイヤだなと私が思っていることが書かれてあるのだったら、」
・間投詞*
・間投詞*
Can one refuse to read a letter from the dead?
Yes.
Well…
「死人の手紙を読むのを拒絶していいものかしら?
いいわ。
しょうがない…」
[解説]
ここだけでは分からないが、このあと、今でも夫の幻影に怯えることがあるとの叙述があ
って、ようやく手紙(遺書)を読もうとすることから、この well は、ためらい、または思案
を示しているものととるのがよいだろう。
「さて…」「でも…」
「さて…」「でも…」
・形容詞**
・形容詞**
…, every now and then a pair of eyes would glance up from the book and settle on
her, watchful, but strangely impersonal, as if calculating something.
「…、ときたま二つの眼が書物から、油断なく、けれど何かを計算するかのように、異常
なほど無関心にそそがれるのだった。」
[解説]
impersonal は「非人間的に」。無関心なのでなく、感情を殺している、その様が異常に思
えるのだ。
意訳「おそろしく無機的に」
意訳「おそろしく無機的に」
・形容詞**
・形容詞**
Do not be alarmed by the sight of all this writing.
「この手紙を読んで、心配したりしてはいけない。」
[解説]
「心配」よりもっと強い。何しろ脳だけ生き永らえさせようという試みなのだから。
「驚いてはいけない」
・否定***
This, as I have already told you, is a very foolish attitude to take, and I find it
not entirely an unselfish one either.
「これは、すでにお前にいったことだが、非常に愚劣な態度で、私が見るところ、他人に
対してとるべき態度ではないと思う。」
[解説]
it は(your) attitude。one は attitude。not either は、肯定文に続いて用いられる場合、
前節を補強し「といっても…ではない」の意味になる。それに部分否定 not entirely「全
く…というわけではない」が重なったもの。find は「気づく」「認識する」の意。
全文直訳「これは、私が既にお前にいったように、とるにはとても愚かな態度であり、と
いっても私はその態度が全面的に非利己的態度であるというわけではない、と思う」
全文意訳「これは前に言ったように非常に愚かな態度だが、かといって利他的な気持ちば
全文意訳「これは前に言ったように非常に愚かな態度だが、かといって利他的な気持ちば
かりともいえまい」→「これは前に言ったように愚かな態度だが、ある部分で自己中心的
でもあると思う」
・動詞*
・動詞*
‘Well,’ he said, and I could see him watching me carefully, ‘personally, I don’t
believe that after you’re dead you’ll ever hear of yourself again---unless…’
「まあ」と彼はいったが、注意深く私を見ているのが私にはよくわかった。「わし個人の
考えをいえば、死後のきみが自分の噂を聞くというような話は信じないね---もっとも…」
[解説]
believe は、意味の幅が広い言葉。「信じる」一点張りだと、大げさに感じられることがあ
る。例:I believe that Mary will arrive.(マリーは来ると思う)。ここも、そうしたほ
うがよいところ。
「ことになるとは思わない」→「ことができるとは思わないね」
「ことになるとは思わない」→「ことができるとは思わないね」
・形容詞**
・形容詞**
---provided, of course, that a supply of properly oxygenated blood could be
maintained.
「それも酸化した血液の補給が維持できればのばあいだがね。」
[解説]
「酸化した」では、物が悪くなったみたいだ(その場合 oxide、oxidized を使うだろう)。
ここは「酸素をきちんと供給された血液」のこと。
「血液への酸素の供給がきちんと」
・前置詞***
…; and my plans would not involve touching you at all until after you are dead.
「きみが死んだあとまで、きみに干渉するといったことは、わしの計画には入っておらん。」
[解説]
「死んだあとまで干渉しない」でなく、「死んでしまうまで干渉しない」→「死ぬまでは
一切手をつけない」といっている。
after がうるさい感じだが、you are dead だけでは「死んでいる」のか「死んだ」のかが
あいまいなので、
時間の前後関係をあらわす前置詞 after を前に入れたもの(この場合 after
以下は、名詞句。until は前置詞と取るのがよいだろう)。例:until after dark(日が暮れ
てしまうまで)。would は仮定法過去(現在から未来にかけての仮想)で、条件に当る部分が
省略されている形。
全文直訳すれば「私の計画は(それがもし実行された場合)、きみが死んでしまうまで、絶
対にきみに触れないことを伴うことになるはずだ」。
全文意訳「君が完全に死んでしまうまで、指一本触れはしないさ」
・ イディオム***
イディオム***
‘It seems to me there’d be some doubts as to whether I were dead or alive by the
time you’d finished with me.’
「きみがわたしと絶交するまでに、わたしが生きているか死んでいるかということに、い
ささか疑問があるように思えるが」
[解説]
there’d の’d は would の縮約形で仮定法。doubt は可算名詞化され、具体的な「疑問点」
に転化。whether ~ or -は、~か-かどちらかの選択を示すが、訳文は意味があいまい。
finish with を「私と終える」ととり、「絶交」としたのだろうが、「…を処理する」「…
を片付ける」のイディオム。ここは、脳を生きたまま取り出す手術の可否をやりあってい
る場面なので、状況がわかるように訳す。
全文直訳「
全文直訳「(
直訳「(もしそうなった場合)
もしそうなった場合)きみが私に対して(
きみが私に対して(手術を)
手術を)やり終えてしまうまで、私が
やり終えてしまうまで、私が
死んでいるか生きているかどうかについていくらかの疑問点が存在することになるものと、
私には思える」
全文意訳「きみの手術が終るまで果たしてぼくの命がもつだろうか」
全文意訳「きみの手術が終るまで果たしてぼくの命がもつだろうか」
第四回 『ウィリアムとメアリー』William
『ウィリアムとメアリー』William and Mary その②
その②
by 柴田耕太郎
・否定**
For one thing, you’d certainly lose consciousness when you died, and I very much
doubt whether you would come to again for quite a long time---if indeed you came to
at all.
「まず第一に、きみは死ねば、ぜったいに意識を失う。それに、長い時間がたったあとで
も、果たしてきみが意識を回復するかどうか---回復すればの話だがね---もはなはだ疑わ
しい。」
[解説]
訳文からは「長い時間がたっても、意識は回復しない」と読める(それに「回復すればの話」
と挿入があるのは矛盾)が、原文が言っているのは(回復するにしても)「長時間のあいだ、
意識は回復しない」ということ。come to は「正気づく」。
直訳「よしんば
直訳「よしんば元通りになるとしたって、長いこと、元通りになるものかどうか、はなは
よしんば元通りになるとしたって、長いこと、元通りになるものかどうか、はなは
だ疑わしい」
意訳「ともかくも意識が戻るにしたところで、長いこと意識は回復しないのではないかと
思う」。
・形容詞*
・形容詞*
‘Like hell, you wouldn’t,’ I said.
‘You’d be out cold, I promise you that, William.
「まさかそんな」と私はいった。
「いや、きみは完全に冷たくなっているんだ、ほんとだよ、ウィリアム。…」
[解説]
この cold は形容詞「死んだ」。out は副詞「すっかり」
「完全に死んでいるんだ」
・間投詞*
・間投詞*
‘You know,’ he went on, ‘it’s extraordinary what sometimes happens…’
「わかってるだろうが」と彼は話をつづけた。「ときによっては、とんでもないことが起
こる。…」
[解説]
You know は、相手に同意を求めたり、念を押したりする、いわば間投詞として使われるこ
とが多い。その場合、重い訳語をつけぬこと。
「あのね」「いいかい」
・比較***
‘Well,
Wertheimer
has
constructed
an
apparatus
somewhat
similar
to
the
encephalograph, though far more sensitive, and he maintains that within certain narrow
limits it can help him to interpret the actual things that a brain is thinking.
「とにかく、ワァーゼイマーは脳波電位記録器にいくらか似た器械をつくりあげた。もっ
とも記録器のほうははるかに敏感だがね。」
[解説]
下線部の省略を復元すると、 , though the apparatus is far more sensitive than the
encephalograph,
「似たといってもはるかに感度はよいものだがね」
・名詞*
・名詞*
Another thing that bothered me was the feeling of helplessness that I was bound to
experience once Landy had got me into the basin.
もうひとつのことは、ランディが私を容器に入れたときに、かならず味わうはずの絶望感
だった。
[解説]
helpless は「自分の力ではどうしようもないこと」。「絶望感」でも間違いではないが「無
「無
力感」のほうがよいだろう。
力感」
・間投詞**
・間投詞**
…, and a few minutes later, I might easily get the feeling that my poor bladder--you know me---was so full that if I didn’t get to emptying it soon it would burst.
それから二、三分たって、私の膀胱---お前は知っているだろうが---いっぱいになりすぎ
て、もし膀胱をからっぽにしなければ、爆発してしまいそうだといった感じをかんたんに
持つかもしれない。
[解説]
これも、そんなに重い意味ではない。はしたないことを言及するので、緩衝的に入れたあ
まり意味のない言葉。
「いいかい」「そうだ
「いいかい」「そうだ」「うん」など
「うん」
・助動詞***
But really! You would think a widow was entitled to a bit of peace after all these
years.
でも、まったくだわ!未亡人ならば、いままで送ってきた生活のあとで、ささやかな平和
をたのしむ資格があると、あなたは考える。
[解説]
夫からの細かい戒めが列挙された追伸を読んで、うんざりした気持ちになった描写のあと
に続くことば。中間話法になっているが、直接話法なら ‘But really! You will think a
widow is entitled to a bit of peace after all these years.’となるところ。
亡き夫に対し、自由の身になった妻の気持ちをぶつけたもの。
この would は、義務をあらわす will が、中間話法のため would になったもの。この really
は、驚き・失望・不承知などを示す間投詞的な使われかた「まったく、もう!」。but は、
発話に勢いをつけるもので、意味はない。
ちなみに will は大きく分けて次のような役割がある。文脈依拠の場合が多く、またどちら
ともとれそうなこともある。(1)確定的未来:I will be twenty tomorrow.(明日、二十歳
になります)---客観的事実
(2)確信的未来:He will come tomorrow.(彼は明日来ます
よ)---主観的確信 (3)意志未来:I will study hard.(これからまじめに勉強しよう) (4)
義 務 : You will leave tomorrow.( 明 日 出 発 し な さ い )
(5) 現 在 の 推 測 : He will be
upstairs.(彼は上にいるはずだ) (6)現在の習慣:Boys will be boys.(男の子は男の子《や
んちゃで当然》)
「考えなさいよ」
考えなさいよ」→「思ってみてほしいものだわ」
・イディオム*
・イディオム*
You know what, she told herself, looking behind the eye now and staring hard at the
great grey pulpy walnut that lay so placidly under the water,…
なんだかわかる気がするわ、と彼女はひとりごちながら、水の中にじっとしている、大き
な灰色のどろんとしたくるみをいっしょうけんめいに見た。
[解説]
you know what は、発話で相手の注意を引くために発する間投詞的なもの。ふつう「いいで
すか」「あのね」といった具合だが、ここは…以下のセリフを導くもの。
tell oneself は「自分に言い聞かせる」。ひとりごつ、は talk to oneself。心の中で考
える、は say to oneself。考えごとを口に出す、は think aloud。
前の下線部を削除し、あとの下線部を次のように変える。
「見て、彼女は思った。そうね、…」
・イディオム***
…,I’m not at all sure that I don’t prefer him as he is at present. In fact, I believe
that I could live very comfortably with this kind of a William.
I could cope with
this one.
現在の彼のほうが好きかどうか、ちっともわからない。じつをいうと、こんなウィリアム
となら、たいへんたのしく暮してゆけると思う。このウィリアムになら勝てるわ。
[解説]
not at all は「全く…でない」。be sure that ~ は「~を確信して」。~内が否定になっ
ているので、全文は否定の否定→強い肯定になる「全然好まなくない」→「とても好む」。
as は関係代名詞で who の役割(非標準:本来なら such または the same - as となるところ)
「彼が現在の在り様で存在するところの彼自身」→「今の彼」。in fact は前後のつながり
で(1)「実際に」(前文を肯定強調)(2)「実際は」(前文を否定強調)(3)「それも」(前文を
肯定補強)(4)「それどころか」(前文を否定補強)などの訳語が与えられる。ここは(4)(い
やでないどころか…)。a William と不定冠詞がついているのは、William のひとつの面・
姿をいっているから。
cope with は「勝てる」でなく「対処する」。折り合いをつけて暮らしてゆける、と言って
いるのだ。
「今の彼はちっとも嫌じゃない。それどころか気持ちよく一緒に暮らせると思う。このウ
ィリアムとなら
ィリアムとならやってゆける」
とならやってゆける」
・形容詞**
・形容詞**
‘Isn’t he sweet?’ she cried, looking up at Landy with big bright eyes. ‘Isn’t
he heaven? I just can’t wait to get him home.’
「かわいいじゃありません?」彼女は、大きな輝く眼でランディを見上げながら、そう叫
んだ。「かわいらしいでしょう?あたくし、家へ連れて帰りたくてしょうがありませんわ」
[解説]
heaven が、「すばらしい」とか「しあわせ」といった意味で形容詞として使われている反
語(he は、脳髄と目玉だけになっている夫)。この台詞で小説が終るので、オチになるよう
なことばが欲しい。
意訳「
意訳「あの人って、素敵」
あの人って、素敵」
第五回 『天国への登り道』The
『天国への登り道』The Way up to Heaven
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
フォスター夫妻はニューヨークに住む富豪。なに不自由ない暮らしに見えるが、夫の底意
地の悪さに妻は辟易している。その妻がパリにいる娘に会いに出かける当日のこと。フラ
イトの時間に間に合わないと焦る妻は、まだぐずぐず屋敷内にいる夫を呼びに玄関まで来
た。そこで、夫が乗っているはずの奥のエレベータが中空で停まっているのに気づく。瞬
時ためらったが、知らないそぶりで、そのまま夫を置き去りにして空港へと急いだ。それ
から 3 週間。妻が自邸に戻ってみると、どうやら夫は…。
・①形容詞**
形容詞** ②形容詞* ③形容詞**
フォスター夫人には奇妙なくせがある。何かの時間に遅れると思った途端、目の隅がピク
ピクと痙攣するのだ。このくせをよく知っているはずの夫が、わざと遅れようとするかの
ように見受けられることも時々あった…。という内容に続く記述。
Assuming (though one cannot be sure) that the husband was ①guilty, what made his
attitude ②doubly unreasonable was the fact that, with the exception of this one small
irrepressible foible, Mrs Foster was and always had been a good and ③loving wife.
本当にフォスター氏が、こんなことを①企んだのだとしたら(これとてはっきり断言できる
わけではないが)、②この態度たるや、まさに非難さるべきものだ。というのは、このささ
いな、不可抗力のやまいが玉にキズで、その他の点では、フォスター夫人はまことに申し
分ない、③可愛い奥さんだったからである。
[解説]
assuming that は「…だと仮定して」(=if)。guilty は、この場合「生じたまずい事に対
して責任がある」(→非難されて然るべき)の意。つまり、「本当にわざと意地悪している
こと」。doubly は「一層」、unreasonable は「不当な、不合理な」。loving は、他動詞の
現在分詞形の形容詞「人を愛する」(この場合、人とは夫のこと)。さらにそれが形容詞化
した「愛情に満ちた」。
全体の直訳:「(
全体の直訳:「(確かとは言い切れないが)
確かとは言い切れないが)夫に責任があると仮定して、その夫の態度を一
層不当にしたものは、このささいな抑制できない欠点の例外はあるが、フォスター夫人は
その時も、それまでもずっと良き愛情あふれる妻であったことだ。」
全体の意訳:「どうも夫は確信犯であるように思えるのだが、このささいな欠点はあるに
せよ、フォスター夫人は申し分ない妻であることが、夫の分をさらに悪く
せよ、フォスター夫人は申し分ない妻であることが、夫の分をさらに悪くする
ない妻であることが、夫の分をさらに悪くする。」
する。」
・間投詞*
・間投詞*
今日は、フォスター夫人がパリにいる娘と孫に会いに行く日。その間、夫はクラブに宿泊
するので、召使一同が荷物のまとめに大童となっている。表面はともかく、夫婦の間は決
してうまくいっているわけではない。妻が夫に、半分はお愛想で尋ねる。
‘Will you write to me?’ she asked.
‘I’ll see,’ he said. ‘But I doubt it. You know I don’t hold with letter-writing
unless there’s something specific to say.’
「お手紙はくださいます?」
「そのつもりだが」と彼はいった。「どうかな。なにかよほど重要なことでもないかぎり、
わたしが手紙を書かんことぐらい、わかっておるはずだろう」
[解説]
I’ll see は、即答をさける言い方「考えておこう」
「考えておこう」。
「考えておこう」
・仮定***
・仮定***
‘Be sure to miss it now if it goes. We can’t drive fast in this muck.’
飛行機がでるとしたら、間違いなく乗りおくれたろうよ。この霧じゃ、車のスピードをあ
げるわけにもいくまい。
[解説]
if 節が現在形、帰結節が現在形なので、仮定法でなく単なる仮定。この if には even の気
持ちが入っている。Be sure to は、You are sure to の略形。
「飛行機が出るにしても、今じゃ間違いなく乗り遅れるさ」
・動詞**
・動詞**
Other lights, some white and some yellow, kept coming out of the fog toward them,
and there was an especially bright one that followed close behind them all the time.
ほかの車の白や黄色のヘッドライトが、霧の中からこちらへと向かってくる。そして、そ
のずっとうしろには、ひときわ目立つ大きなライトが見えていた。
[解説]
元訳では、
「ひときわ目立つ大きなライト」は何なのだろうかと考えてしまう。them は other
lights でなく車の中のフォスター夫妻のこと。対向車線から次々ヘッドライト流れてくる
一方、後ろから(渋滞のため)ぴったり後続車がついてくる、その灯りがまぶしいのだ。all
the time(四六時中)、close behind(ぴったりうしろに)。bright one の one は、light。
「後ろにはずっとぴったり」
・仮定法*
・仮定法*
‘And what’s wrong with combs, may I ask?’ he said, furious that she should have
forgotten herself for once.
「櫛で悪かったな、え」一瞬、夫人がわれを忘れるほど、良人は怒った。
[解説]
so ~ that の so が略されている。forget oneself は、この場合「気を失う」「呆然自失
する」の意。should have forgotten は(1)過去の反実仮想(《本来であれば》気を失ってし
まったことだろうに) (2)過去の推量(気を失ったのだろう)、のうち(1)。「彼女が意識を
失ってしまいかねなかったほど怒って、彼は言った」のだ。for once は、「一瞬」でなく
「この場限りは(いつもと違って、例外として)」。
意訳:「その言い方があまりに凄かったので、このときばかりは
意訳:「その言い方があまりに凄かったので、このときばかりは夫人
「その言い方があまりに凄かったので、このときばかりは夫人も
夫人も思わず気を失いか
けた」
・イディオム*
・イディオム*
Arriving at Idlewild, Mrs Foster was interested to observe that there was no car to
meet her. It is possible that she might even have been a little amused.
空港に着き、フォスター夫人は迎えの車が来ていないのを見て、どきどきした。いや、む
しろ、それがうれしい気分だったのかもしれない。
[解説]
be interested to do(…に興味をもつ)。observe that は、…ということに気づく。
「来ていないのがわかって、興味がわいた。」
例:I’m interested to know more about it.(そのことについてもっと詳しく知りたいと
思います) I was interested to learn the fact.(その事実を知って興味がわいた)
*to 不定詞が「目的」か「結果」かは文脈による。
第六回 『牧師のたのしみ』Parson
『牧師のたのしみ』Parson’
Parson’s Pleasure その①
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ロンドンの古物商であるボギス氏は、掘り出し物を見つけるため、いかにも公的に聞こえ
そうな「骨董家具保存協会会長」を名乗り、田舎の旧家を巡っている。今回はすごいカモ
が引っかかった。名人チッペンダール作の衣装戸棚だ。大金持ちになり、業界での名声も
得られると有頂天だったが、安く買い叩こうと「脚だけがほしいのだが…」とケチをつけ
たのが運のつき。車を取りに行っている間に、売主は親切心から、戸棚の躯体部分を解体
してしまう…。
・①前置詞* ②副詞**
副詞**
The hawthorn was exploding white and pink and red ①along the hedges and the primroses
were growing ②underneath in little clumps, and it was beautiful.
山査子は生け垣にそって、白い花、桃色の花、赤い花、が咲き乱れ、桜草は小さな茂みの
下で伸びてきて、それがまたなんともいえない。
[解説]
山査子の生け垣なのだから「そって」はおかしい。この along は(1)…の側を 例:There are
trees all along the banks.(両岸に沿って並木がある) (2)…(の中)を(ずっと) 例:sail
along the river(川を航行する)、のうち(2)。「生け垣の山査子にはずっと」
「生け垣の山査子にはずっと」
「下で伸びてきて」は underneath、in を共に前置詞ととったためのあやふやな訳(特例を
除き、前置詞が重なることはない)。自動詞+副詞+前置詞+名詞の形は、副詞で大まかな
位置、前置詞句以下で具体的な場所を示すのが通例。「下のほうに」具体的には「小さな
塊で」。「茂み
茂みとなって、
茂みとなって、(
となって、(生け垣の)
生け垣の)下に生えてきている」
生えてきている
・前置詞***
・前置詞***
Not many of his Sunday sections had a nice elevation like that to work from.
日曜日に出かけるところで、こんなに見事な眺めの土地はざらにない。
[解説]
二文に分解してみる。Not many of his Sunday sections had a nice elevation like that.
He is to work from the nice elevation. 直訳:「彼の日曜の区域の多くが、その場所か
ら始めるべきこのようなよい高度をもっているわけではない」
意訳「いつもやる日曜の仕事が、こんなにすばらしい眺めのところから始められることは
意訳「いつもやる日曜の仕事が、こんなにすばらしい眺めのところから始められることは
めったにない」
めったにない
・副詞**
・副詞**
He drove up the hill and stopped the car just short of the summit.
彼は丘を登りきると、村のはずれにある頂上の手前で車を停めた。
[解説]
この up は副詞で「上へ」。「すっかり」とはとれない。例:He climbed the mountain. (登
山した《頂上まで登った》 He climbed up the mountain.(山を登った《上に登っていった》)。
「丘を登ってゆき」
・イディオム**
・イディオム**
The people there could probably do with some money.
住んでいる人間はおそらく、なにがしかの金でも欲しいのだろう。
[解説]
do with は「…で満足する」。could は仮定法。
「なにがしかの金をやれば満足するだろう」
・相関詞***
・相関詞***
; and often, at the end of an unusually good performance, it was as much as he could
do to prevent himself from turning aside and taking a bow or two as the thundering
applause of the audience went rolling through the theatre.
そして、われながら稀にみる名演技にこたえて、思わず傍らを向いて、一、二度頭を下げ
る役者みたいな苦労を味わった。
[解説]
全体的にちょっとずれている。as much as ~ can は「…の最大限」の意味。it は to
以下。
直訳「そしてしばしば、いつになくうまくいった演技の最後には、観客の歓呼の轟きが劇
直訳「そしてしばしば、いつになくうまくいった演技の最後には、観客の歓呼の轟きが劇
場中をゆるがす時、脇にのいて一、二度お辞儀することから自らを阻むことが、彼ができ
うる最大限であった」
うる最大限であった」。
意訳「そしてうまくいった時などは、劇場の万呼の声に応え脇により頭を下げる役者よろ
意訳「そしてうまくいった時などは、劇場の万呼の声に応え脇により頭を下げる役者よろ
しく、あいさつをしたい衝動を抑えるので精一杯だった」
・名詞***
・名詞***
He spent two minites delivering an impassioned eulogy on the extreme Right Wing of
the Conservative Party, then two more denouncing the Socialists.
彼は熱狂的な極右保守党礼賛を二分ばかりまくしたてると、こんどはまた二分間ほど労働
党をこきおろしにかかった。
[解説]
「極右保守党」というものがあるのでなく、「保守党」の「極右派」。「保守党の極右派」
保守党の極右派」。
保守党の極右派」
・①名詞** ②形容詞**
形容詞**
It was a favourite test of his, and it was always an intriguing sight to see him lowering
himself delicately into the seat, waiting for the ‘give’, expertly gauging the
precise but infinitesimal degree of shrinkage that the years had caused in the mortice
and dovetail joints.
それは彼得意の試験法であったし、①結果を待ちながら、上品な座り方をして、年代もの
のためにほぞ継ぎにできた、②正確な、ごく微小の収縮具合まで玄人らしく測る彼を見る
のは、興味をそそられる光景だった。
[解説]
give は名詞で「たわみ」。「たわ
「たわむがままに
「たわむがままに」
むがままに」。この precise は、限定用法で「はっきり
した、明瞭な」の意味。次の infinitesimal と対比され「ごくわずかだがはっきりとわか
る縮みぐあい」といっている。「明らか
「明らかにある
「明らかにある」
にある」。
・接続詞*
They had seen him stop and gasp and stare, and they must have seen his face turning
red, or maybe it was white, but in any event they had seen enough to spoil the whole
goddamn business if he didn’t do something about it quick.
三人はボギス氏が立ちどまって、喘ぎ、眼を丸くするのをその眼で見たし、ボギス氏の顔
が赤くなるか、あるいは、まっさおになるところをきっと見たにちがいない。が、いずれ
にしろ、はやくこちらがなにか手を打たなければ、折角のぼろ儲けをふいにするほどの光
景を、三人に見られてしまったのだ。
[解説]
or は、言い換え。「、いや
「、いやたぶん
「、いやたぶん蒼白になったの
たぶん蒼白になったのだろうが
蒼白になったのだろうが、」
だろうが、」
・名詞***
・名詞***
It was a most impressive handsome affair, built in the French rococo style of
Chippendale’s Directoire period, a kind of large fat chest-of-drawres set upon four
carved and fluted legs that raised it about a foot from the ground.
チッペンデールが監督だったころのフランス的なロココ・スタイルでつくられた、うっと
りするほどみごとなもので、模様と溝が彫られた四本の脚のついた、一種の大きな、たっ
ぷりした箪笥だが、その脚の長さは約一フィートである。
[解説]
語頭の大文字は固有名詞化のしるし。フランス史でいう総裁政府期(1795-99)のこと。家
具・衣装の分野では、新古典主義傾向を指す。「チッペンデールの新古典主義作風時代」
「チッペンデールの新古典主義作風時代」
・掛かり方
The men were staring at this queer moon-faced clergyman with the bulging eyes, not
quite so suspiciously now because he did seem to know a bit about his subject.
三人の男はこのおかしな、お月さまみたいな顔をした牧師を、だいぶ疑惑の色のうすれた、
いまにもとびだしそうな眼で凝視している。というのも、ボギス氏が家具の世界に少々明
るいように思われてきたからだ。
[解説]
「いまにもとびだしそうな眼」をしているのは、牧師。with は「…を持った」。カンマは
以下情報を付け加えるしるし(主体は the men)。全文
全文「三人は
全文「三人は、おかしなな奴だなと
「三人は、おかしなな奴だなとこの出
、おかしなな奴だなとこの出
目で丸顔の牧師を見つめていたが、家具について一家言あるのがわかったので、胡散臭さ
そうに見る態度は消えていた。」
第七回 『牧師のたのしみ』 Parson’
Parson’s Pleasure その②
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ロンドンの古物商であるボギス氏は、掘り出し物を見つけるため、公的に聞こえそうな「骨
董家具保存協会会長」を名乗り、田舎の旧家を巡っている。今回はすごいカモが引っかか
った。名人チッペンダール作の衣装戸棚だ。大金持ちになり、業界での名声も得られると
有頂天だったが、安く買い叩こうと「脚だけがほしいのだが…」とケチをつけたのが運の
つき。車を取りに行っている間に、売主は親切心から、戸棚の躯体部分を解体してしまう
…。
・イディオム ***
‘Oh dear,’ Mr Boggis said, clasping his hands. ‘There I go again. I should never
have started this in the first place.’
「いや、私は帰ります。はじめからこんなことをするべきではなかった」
[解説]
これは、嬉しくないことが、言ったとおり、または懸念したとおりに実現してしまったと
きにいう紋切り型表現「ほら見たことか」「だから言ったでしょう」「やっぱりね」「こ
「ほら見たことか」「だから言ったでしょう」「やっぱりね」「こ
んなことになると思ってた」など。
んなことになると思ってた」
・イディオム ***
What wouldn’t a newspaperman give to get a picture of that!
新聞記者はただで、この写真をとるだろうなあ!
[解説]
これはイディオム「…を手に入れるためには(人は)どんなことでもしたい」
意訳:「新聞記者はさぞかしこの写真をとりたがるだろうな」
意訳:「新聞記者はさぞかしこの写真をとりたがるだろうな」
今回は誤訳が少ないので、表現で検討したい部分をいくつかとりあげます。
・表現
コロケーション
Just the right amount for a leisurely afternoon’s work.
悠長な午後の仕事にはちょうどいい数だ。
[解説]
「悠長な午後」または「悠長な仕事」(「悠長な仕事振り」ならよい)とはいわない。「悠
長」ときたら「に構える」とか、「なことを言う」といったコロケーションになる。
元訳を生かすなら「ゆったりした」
「ゆったりした」。語順を並べ替えるなら「午後ゆったりと仕事をする
「午後ゆったりと仕事をする
「ゆったりした」
には」
誤用
He could become grave and charming for the aged, obsequious for the rich, sober for
the godly, masterful for the weak, mischievous for the widow, arch and saucy for the
spinster.
老人には勿体らしく気に入られるように、金持にはさからわずに追従し、信心深い者には
落ち着きはらい、弱い者には横柄に、未亡人には胸にいちもつありげに、オールドミスに
はずるく、厚かましくといった具合になれる男なのだ。
[解説]
「勿体らしい」は「重々しげに見える」という形容詞。「勿体らしく」は副詞になるが、
「気に入られる」とはつながらない(勿体らしく振舞う、というように使う)。
語順を変えて「老人には気に入られるように重々しく」
「老人には気に入られるように重々しく」としてはどうか。
「老人には気に入られるように重々しく」
表現が大げさ
The idea behind Mr Boggis’s little secret was a simple one, and it had come to him
as a result of something that had happened on a certain Sunday afternoon nearly nine
years before, while he was driving in the country.
ボギス氏のささやかな秘密の鍵は簡単なものだった。九年ほど前のある日曜日の午後、田
舎をドライヴしていたときに、たまたまあったある事件の結果、思いついたのだった。
[解説]
「ある事件」とは、このあと出てくるのだが、車のラジエターがこわれ、水をもらいに立
ち寄った旧家で珍品家具をたまたま眼にしたこと。「たまたまのめぐり合わせから」
「たまたまのめぐり合わせから」
意味のズレ
Each of these squares covered an actual area of five miles by five, which was about
as much territory, he estimated, as he could cope with on a single Sunday, were he
to comb it thoroughly.
それらの正方形はそれぞれ、実際には、五平方マイルの面積にあてはまり、彼の計算では、
日曜日一日でくまなく歩きまわれるくらいの地域だったから、徹底的に探して歩くことも
可能だった。
[解説]
「その面積にはめ込まれる」と読めてしまうが、「面積相当」ということ。「五平方マイ
「五平方マイ
ルほどの面積であり」
ルほどの面積であり」
並列が不自然
It was the comparatively isolated places, the large farmhouses and the rather
dilapidated country mansions, that he was looking for;
比較的に人里離れた地方や、大きな農家、かなり荒れ果てた田舎屋敷といったところこそ
彼が求めているものだった。
[解説]
1, 2 and 3 の並列。「地方」という抽象的なものと建物のように具体的なものは並列でき
ない。するとこの places は、farmhouses、mansions と同義語の「屋敷」ととるべき。また
isolated は「人里離れた」でなく「孤立した」。comparatively は「比較的」との訳がつ
くが、比較の対象がみられぬときは「割と」の感じになる(ここもそう)。
「ぽつんとある邸宅
「ぽつんとある邸宅」
邸宅」
時制
From now on, it was all farmhouses, and the nearest was about half a mile up the road.
こんどからは、農家という農家にみんなあたってみよう。いちばん近い農家は、ほぼ半マ
イルも行ったところにあった。
[解説]
「こんどから」では「次回から」と読めてしまう。実はここ、中間話法になっていて、主人
公の今の意志を示す心のつぶやき。「このあとは」
「このあとは」。ついでながら、「農家に片端から当
「このあとは」
る」のではなく、「訪ねる先は全部、農家に定めよう」ということで、この部分は訳にズ
レがある。
誤用
When the men caught sight of Mr Boggis walking forward in his black suit and parson’s
collar, they stopped talking and seemed suddenly to stiffen and freeze, becoming
absolutely still, motionless, three faces turned towards him, watching him
suspiciously as he approached.
三人の男は、黒い僧服に牧師のカラーをつけたボギス氏がやって来るのを見つけると、話
を止めて、急によそよそしい、凍りついたような表情になり、身じろぎもせず、一様にボ
ギス氏に顔をむけて、近づいてくる彼を胡散な眼で見た。
[解説]
「胡乱な眼」の間違い。
正確さ
‘Oh dear me, no. It’s just my heart. I’m so sorry. It happens every now and then.
…’
「とんでもないことです。私の心臓ですよ。どうも申し訳ありません。ときどきかかる病
気でしてな。…」
[解説]
「心臓病にときどきかかる」と読めてしまう。会話ではこうしたカジュアルな表現をする
こともあるが、書き物としては正確な表現を心がけたい。持病の発作がときどき起こるの
だと、わかるように訳さねばならない。「ときどき、こうなるんです」
「ときどき、こうなるんです」。
「ときどき、こうなるんです」
カタカナ語
He knew their history backwards---that the first was ‘discovered’ in 1920, in a
house at Moreton in Marsh, and was sold at Sotheby’s the same year;
彼は三つの家具の、その後の歴史についても知っていた---最初のものは、モアトン・オン・
ザ・マーシュのある家で、一九二〇年に発見されて、同じ年に、サズビイの競売で売りに出
された。
[解説]
定訳で「サザビーズ」。
意味不明
The serpentine front was magnificently ornamented along the top and sides and bottom,
and also vertically between each set of drawers, with intricate carvings of festoons
and scrolls and clusters.
箪笥のねじれたようなフロントは、上下左右、抽斗のあいだの垂直のあきと、花づなや渦
巻や花の房の精緻な彫刻で、目もあやな装飾が施してある。
[解説]
「垂直のあき」とはどこに対する訳語だろう?ここ原文もあいまいだと思う。以下、私の
解釈。and が前置詞句 along ~と between-を並列させている。with 以下は、直前にカン
マがあること、~と-の両方に掛けて不自然でないこと、から両方に掛かるとするのがよ
いだろう。between の前に動詞(過去分詞)がないのは嬉しくないが、前と同じ ornamented
が省略されたととる。直訳すると「花綱装飾と渦巻装飾と総房装飾の複雑な彫刻でもって、
曲線を描く前面は、天辺・各面・底部に沿って素晴らしく飾られ、かつまた引出し相互の
間は垂直に飾られていた」。意訳:「優美な曲線を描く前面には上下脇に渡って美しい装
意訳:「優美な曲線を描く前面には上下脇に渡って美しい装
飾が、そしてまた引出しと引出しの間には縦飾り
飾が、そしてまた引出しと引出しの間には縦飾りが施されていた
飾りが施されていた。花綱、渦巻、総房など
が施されていた。花綱、渦巻、総房など
の文様が浮き出ていた」。
の文様が浮き出ていた」。
語義選択
I’ve got a rather curious table in my own little home, one of those low things that
people put in front of the sofa, sort of a coffee-table, and last Michaelmas, when
I moved houses, the foolish movers damaged the legs in the most shocking way.…
私の家にはたいへん不思議なテーブルがありましてね、ソファの前に置いたりする、高さ
の低いやつで、コーヒー・テーブルみたいなものですが、去年のミカエル祭に引越しをし
ました時、頓馬な運送屋がテーブルの脚をすっかりめちゃくちゃにしてしまった。
[解説]
「不思議」と curious はちょっとズレる。curious は(1)それについて強く知りたいという
興味を人に起こさせる (2)尋常でなく一風変わった、のうち、ここでは(2)。rather の幅
は広い(「とても」「かなり」「わりと」などの訳語がつくが、思いのほか、とか、強いて
言えば、といった気分がこもっている)。大げさに聞こえぬような訳をつけるのがよい。
「ちょっと面白い」
俗表現
‘Take a look at that. Notice the exact evenness of the spiral? See it? …’
「これを見なさい。螺線がぜんぜん一様なことに気がつきましたか?
[解説]
俗な表現では「ぜんぜん」が「とても」の意味で使われるが、小説のなかの会話としては、
正しい言葉遣いをさせたい(牧師のふりをしているボギス氏は多少のインテリなのだろう
し)。「きちっと
「きちっと均一
「きちっと均一」
均一」。
誤用
In ten minutes it’s worth fifteen or twenty thousand! The Boggis Commode! In ten
minutes it’ll be loaded into your car---it’ll go in easy---and you’ll be driving
back to London and singing all the way!
そうしたら、お前は途中のべつに歌を歌って、ロンドンにお帰りあそばすわけだ!
[解説]
「のべつ歌を歌う」とはいっても、「のべつに歌を歌う」とはいわないだろう。
「途中のべつ歌をうたって」
第八回 『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs
『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’
Colonel’s Coat
その①
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ビクスビー夫人はニューヨーク在住の歯科医の妻。月に一度、伯母の介護という名目でボ
ルチモアに出かけ、そこで「大佐」と呼ばれる渋い中年男と逢瀬を楽しんでいた。やがて
別れがやってきてが、手切れ金代わりに高価なミンクの毛皮をもらったビクスビー夫人は、
質札を拾ったことにして夫への説明を切り抜けようとする。ところが、夫のほうが一枚上
手だった…。
動詞 *
Divorce has become a lucrative process, simple to arrange and easy to forget;
離婚は儲かる事業になって、かんたんに成立し、あっさり忘れ去ることができる商売にな
った。
[解説]
lucrative は「儲けを生む」process は「ある特定の結果にたどりつくためになされる一連
の事柄」。arrange は「何かの段取りをつける」simple は、to arrange にかかる副詞。simple
to arrange 以下全体は、前の本文に対する修飾語。カンマがあるのでいったん意識が切れ
情報を補足する感じ(文法的には、前の process に掛かる不定詞の形容詞的用法)。直訳:
直訳:
離婚は儲けを生むための手段となり、簡単に仕掛けられ、さっさと忘れられる。
意訳:離婚は金儲けの手段と化し、仕組むのもた易く、後腐れもない。
動詞 *
; and ambitious females can repeat it as often as they please and parlay their winnings
to astronomical figures.
そして、野心的な女性たちは、好きなだけ離婚をくり返し、天文学的な数字の賞金を獲得
できる。
[解説]
parlay A to B は「A を元金として、B へとまた掛けに出る」B を到達点として訳し→「A を
元手に B に至る」。their winnings は、離婚による慰謝料の例え。can は、理論的可能性(…
しうる)。「慰謝料を元手に、莫大な財産を築く」
「慰謝料を元手に、莫大な財産を築く」
形容詞 *
They know that the waiting period will not be unduly protracted, for overwork and
hypertension are bound to get the poor devil before long, and he will die at his desk
with a bottle of benzedrines in one hand and a packet of tranquillizers in the other.
彼女たちは、待つ期間が途方もなくのびはしないことを承知しているのだ。過労と高血圧
が遠からず、確実に、哀れな亭主を捕えるはずなので、彼は、片手にベンゼドリンの瓶を、
もう一方に精神安定剤の包みを持って、デスクで昇天する運命にある。
[解説]
心情をあらわす形容詞は副詞化するとよい。「可哀想に亭主を」
「可哀想に亭主を」
名詞 *
Young men marry like mice, almost before they have reached the age of puberty, and
a large proportion of them have at least two ex-wives on the payroll by the time they
are thirty-six years old.
彼らは、ほとんど思春期の年齢に達しもしないうちに、さながらネズミのように妻をめと
り、三十六歳になったころには、すくなくも二人の先妻を雇っているのが大部分である。
[解説]
養育費を払い続ける比喩であるのがわかるように訳す。
直訳:給与支払い名簿に少なくとも二人の先妻を持っている。
意訳:先妻二人分の生活費も見る羽目になる。
意訳:先妻二人分の生活費も見る羽目になる。
関係詞 ***
To support these ladies in the manner to which they are accustomed, the men must work
like slaves, which is of course precisely what they are.
かねがねやりつけているやりかたでこれらのご婦人連を養っていくために、男性どもは奴
隷のごとく働かねばならないのだが、むろん正確にいえば、彼らはけっして奴隷ではない。
[解説]
ここ先行詞と、what の中身(the thing which)の指すものが分裂している(こういうことは、
ママある)。先行詞は、like slaves。the thing にあたるのは slaves。
直訳:これらの婦人を彼女たちが慣れ親しんでいるやり方で扶養するために、男たちは奴
隷のように働かねばならないのだが、奴隷状態こそ当然彼らがまさしくそうであるところ
のものなのだ。
意訳:結婚していたときと同じ生活レベルを維持してやるため、男たちは女のために奴隷
のように働かねばならない、いや実際男たちは奴隷そのものなのだ。
形容詞 **
These are many of these stories going around, these wonderful wishful thinking
dreamworld inventions of the unhappy male, but most of them are too fatuous to be
worth repeating, and far too fruity to be put down on paper.
これらは、不幸な男性が生む希望的観測にあふれたすばらしい夢の世界であるが、その大
部分があまりにも空虚すぎて、くり返して語るほどの値打ちもなく、また、あまりにも話
がうますぎて、とても書きしるせるものではない。
[解説]
この fruity は「正常でない」「やばい」「きわどい」の意。「あまりにきわどすぎて」
「あまりにきわどすぎて」
イディオム *
So far so good.
それでいままでのところは、うまくいったのである。
[解説]
これはイディオム「ここまではよかった」
「ここまではよかった」
接続詞 **
As it turned out, however, the aunt was little more than a convenient alibi for Mrs
Bixby.
しかし、やがて、伯母さんはビクスビー夫人に都合のいいアリバイだということがわかっ
た。
[解説]
力点が異なる。時制を現在にずらせて考えるとよくわかる。As it turns out, however, the
aunt is little more than a convenient alibi for Mrs Bixby.(しかしながら、判明する
ように、伯母というのはビクスビー夫人にとってのほとんど都合のよいアリバイなのであ
る。)
「アリバイ」が重要なのであって、「わかった」ことが重要なのではない。
「あとでわかるのだが
「あとでわかるのだが(
のだが(…アリバイ)
…アリバイ)なのであった」
なのであった」「結局のところ(
「結局のところ(…アリバイ)
…アリバイ)なのであ
った」
第 9 回 『女主人』The
『女主人』The Land Lady の気になる表現
の気になる表現
by 柴田 耕太郎
前回、『ビクスビー夫人と大佐のコート』に見る表現上の誤りを指摘したが、見直してみ
ると他の短編にも結構ある。今回は第 1 回、第 2 回『女主人』の、表現として気になる部
分を取り上げる。
[ストーリー]
バースの町に赴任した青年ビリーは、ちょっとかわった中年婦人の家に下宿する。ほか
にも二人下宿人がいるはずなのに、その気配がない。女主人との会話の中で、何年か前に
失踪した学生たちとこの二人に共通項があるのに気づく。女主人を問い詰めようとすると、
飲んだばかりの紅茶のせいか、意識が朦朧としてきた…。
・言い回し
He was wearing a new navy-blue overcoat,
「…、まあたらしい茶色のフェルト帽を一着に及び、…」
[解説]
「一着に及び」は、「衣服を着用すること」の意味だが、ちょっと古い。読者にわかるだ
ろうか。
「かぶって」
・ひらがな
He went right up and peered through the glass into the room, and the first thing he
saw was a bright fire burning in the hearth.
「彼はまぢかまで近寄って、…」
[解説]
漢字にしたほうが読みやすい。
「間近まで」
・意味の重複
He was in the act of stepping back and turning away from the window when all once
his eye was caught and held in the most peculiar manner by the small notice that was
there.
「彼がちょうどくびすをかえし、窓からふりむこうとした時、彼の眼はそこにある注意書
きに釘づけになってしまったのだ。」
[解説]
「窓からふりむく」では、室内にいて窓辺から室内に目を移したかのようだ。これに眼を
つぶるにしても、「くびすをかえす」と「窓からふりむく」は、意味が重複しており、お
かしい。
ここは、外から窓辺を見ていたのを止め、後戻りし(stepping back)、窓辺から向きを逆に
変え立ち去ろう(turning away from the window)としていた、のである。
「後戻りし、くびすをかえし窓辺から去ろうとしたその時、彼の目は何ともおかしなこと
だが、そこにある小さな張り紙に釘付けになってしまった。」
・不自然な表現
Each word was like a large black eye staring at him through the glass, holding him,
compelling him, forcing him to stay where he was and not to walk away from that house,
and the next thing he knew, he was actually moving across from the window to the front
door of the house, climbing the steps that led up to it, and reaching for the bell.
「そして、あっと思うまに、彼は本当に窓を横切ると、その家の玄関の方へ行き、…」
[解説]
「窓を横切る」では、「窓から侵入したのか」と思われかねない。「外の窓辺に沿って玄
関に移動した」のである。
「そして、気づいてみると、実際に窓辺をたどって玄関の下までゆき、階段をのぼり…」
・原文と意味の誤差を生じる表現
・原文と意味の誤差を生じる表現
‘I should like very much to stay here.’
「ぼく、よろこんでここへ泊らしてもらいますよ」
[解説]
very much を訳したのだろうが「よろこんで」では、相手の誘いに答えたかのようだ。should
like to(…したい)の強調。
「ぼく、ぜひここへ泊まらせてもらいたいです」
「ぼく、ぜひここへ泊まらせてもらいたいです」
・コロケーション
Billy took off his hat, and stepped over the thresh-old.
「ビリイは帽子をぬぎ、敷居をまたいだ。」
[解説]
「帽子」は「ぬぐ」とは、あまりいわない。
「帽子をとり」
・誤字
It’s such a comfort to have a hot water-bottle in a strange bed with clean sheets,
don’t you agree?
「清潔なシーツを敷いた始めてのベッドに、暖かい湯たんぽが入っているのは気持ちがい
いものよ。」
[解説]
誤字「始めての」→「初めての」
「初めての」。
「初めての」
・表現の強さ
Now, the fact that his landlady appeared to be slightly off her rocker didn’t worry
Billy in the least.
「さて、この女主人がいささか常規をいっした所があることも、別にビリイの心をなやま
すほどのことはなかった。」
[解説]
off one’s rocker は、「ばかな」「気の狂った」だから、「常軌をいっした」でもだめで
はないが、訳としてはちょっと表現がきつい(そこまで狂っていそうにない)。またその場
合「いっした」を「逸した」と漢字にしないと、収まり具合が悪い。
「すこし変なところがあるにしても」
・展開が面白くなくなる
‘Such charming boys’ a voice behind him answered, and he turned and saw his landlady
sailing into the room with a large silver tea-tray in her hands.
「みんな、すばらしいひとたちでしたわ」
[解説]
過去形でいっているが、ここではまだこの青年たちは下宿にいることになっている(殺され
たのは伏せられている)。体言止にしておく。
「ステキなひとたちよ」
・並列が不自然
The back was hard and cold, and when he pushed the hair to one side with his fingers,
he could see the skin underneath, grayish-black and dry and perfectly preserved.
「灰色を帯びた黒で、乾燥し、完全に保存されている。」
[解説]
grayish-black を「灰色を帯びた黒」とするのは、よくない。黒も灰色も無彩色で同類だか
らだ。この preserved は「保存加工されて」の意味。三つの並列がうまくされていない。
「濃い灰色で、すっかり乾いて、保存加工が施されている」
第 10 回 『ウィリアムとメアリイ』Wi
『ウィリアムとメアリイ』William
William and Mary の気になる表現
by 柴田 耕太郎
今回は第 1 回、第 2 回『ウィリアムとメアリイ』の、表現として気になる部分を取り上
げる。
[ストーリ]
ウィリアムはオックスフォードの哲学教授。癌に侵され、余命いくばくもなくなったとき、
医師のランディに、脳だけを生かす実験に協力するよう頼まれる。これを受け入れる苦衷
の決断をして死んでいったウィリアム。遺書で事の次第を読んだ妻のメアリイは、ランデ
ィ医師の病院に赴く。そこで彼女が見たものは…
・誤用
The solicitor was pale and prim, and out of respect for a widow he kept his head on
one side as he spoke, looking downward.
顔色の悪いとりすました様子の事務弁護士は、未亡人のご機嫌をうかがうように、伏し目
になりながら、小首をかしげて話をした。
[解説]
「小首をかしげる」は「疑問、思案」を想起させるが、原文は「遠慮、ためらい」を含意
している。それがわかるように、意訳するしかないだろう。
「未亡人への配慮からか、眼を見ずにうつむき加減で切り出した。
「未亡人への配慮からか、眼を見ずにうつむき加減で切り出した。」
・意味ない強調
I haven’t even begun and already I’m falling into the trap. So let me get started
now;
私はまだ話をはじめてもいないのにすでに罠にかかっているのだ。だから、私もこれから
はじめるとしよう。
[解説]
誰に対する「私も」なのかわからない。「だから」も因果が読めない。自分の気持ちを切
り替える表現にすると流れがよくなるだろう。
「さあ、さっさと」
・誤用
I am sure he was expecting me to jump when he said this, but for some reason I was
ready for it.
そういったとき、彼はきっと、私がとびあがるとでも思ったにちがいないが、どうしたわ
けか、私はそれを予期していた。
[解説]
「予期」は「前もっての予想」。ここは「ひどいことを言われても取り乱さない覚悟」の
こと。「私の心構えはできていた」
「私の心構えはできていた」
・ことばのズレ
I’m at the stage now where I’m ready to have a go with a man. It’s a big idea,
and it may sound a bit far-fetched at first, but from a surgical point of view there
doesn’t seem to be any reason why it shouldn’t be more or less practicable.’
いまや、わしは人間に試してもいい段階まで来ている。大した研究だよ、これは。そりゃ、
はじめはちょっと無理に思われるかもしれんが、外科の立場からみれば、まだ実行の段階
でないという理由は、どこにもないようなのだ。
[解説]
far-fetched は「信じがたい」「荒唐無稽な」。「無理に」と意訳する必要はない。「最初は
「最初は
ちょっと信じがたく思われそうだが」
・色の感覚
There were some blue grapes on a plate beside my bed.
ベッドの横の皿に、青い葡萄がのっている。
[解説]
green と blue、青と緑は、日英語で範囲が微妙にずれる。葡萄の色は、我々日本人にすれ
ば「暗紫色」(blue)または「淡緑色」(green)。「
「紺色の葡萄」
紺色の葡萄」
・擬人化の是非
“Just lie still. Don’t move, I’m nearly finished.”
‘”So that’s the bastard who’s been giving me all those headaches,” the man said.’
「じっとしずかにねていたまえ。うごかしたりしちゃいかんよ。すぐ終るからね」
「『するとあの野郎のおかげで、頭が痛かったのだな』とその男はいった」
[解説]
the bastard は、この文の前にある「血のかたまり」を指す。擬人化するのはどうだろう。
「それのせいで
「それのせいで」「そいつ
のせいで」「そいつのおかげで
」「そいつのおかげで」
のおかげで」
・多義の形容詞の語義選択
The whole thing was just too awful to think about. Beastly and awful. It gave her
the shudders.
一切のことがただただ、あまりのおそろしさに、考えることもできなかった。獣じみてい
る上に、おぞましいことだ。
[解説]
亡き夫が脳だけを生かす実験に身を提供したことを知った妻の内面描写。
beastly は(1)獣のような (2)野蛮な、下品な (3)嫌な、など多義。ここでは(2)。
「下劣な」
・慣用表現
‘I want to speak to Mr Landy, please.’
‘Who is calling?’
‘Mrs Pearl. Mrs William Pearl.’
「ランディ先生にお話があるのですけれど」
「どなたですか?」
「パール夫人です。ウィリアム・パール夫人ですわ」
[解説]
たとえば山田太郎・花子夫妻の細君のほうを正式に呼ぶには英語では Mrs Taro Yamada と
するので、訳は間違っていないが、ふつうの日本人に抵抗ない呼びかたにしたほうが、翻
訳としてはよいだろう。「ウイリアム・パールの妻です」
「ウイリアム・パールの妻です」
・リズム
What a queer little woman this was, he thought with her large eyes and her sullen,
resentful air.
なんておかしな、小さな女なのだろう、と彼は思った。眼がでかくて、ぶあいそうな、怒
りっぽい様子をして。
[解説]
訳語が長すぎて、意味が重くなってしまう。little は意味範囲が広いが、ここは軽蔑的に
「けちな、チンケな、つまらない」に力点がある(queer を強調)ので「小ささ」をいいた
いわけではない。
「変なばあさんだ」「変な女だ」
「変なばあさんだ」「変な女だ」といった所。
「変な女だ」
・語義選択
She was studying the eye closely, trying to discover what there was about it that
gave it such an unusual appearance.
彼女は眼をしげしげと見ながら、このように異常な印象を眼に与えている原因を探ろうと
した。
[解説]
夫が脳髄と目玉だけになって生きながらえている様を見ての、夫人の感懐を叙した部分。
what(the thing which)以下が、二重連鎖節(the thing which ~ that -:~でいて-で
あるもの)になっている。
直訳すると「彼女は二つの眼を細かく調べた。眼のまわりに存在しているもので、眼にこ
のような尋常でない様子を与えるものを、発見しようとしながら。」
「異常な印象」では、強すぎる。語義を広げて、訳語をつける。「なんともおかしな感じ」
「なんともおかしな感じ」
・ことば足らず
‘And he can see me?’
‘Perfectly.’
‘Isn’t that marvelous? I expect he’s wondering what happened.’
「では、あたしが見えますの?」
「そりゃもう」
「すてきじゃありません?どんなことになったのか、不思議に思っているんじゃないかし
ら」
[解説]
間違いではないが、和文和訳しないと頭に入ってこない。
「すごいことね。彼、なにが起こったんだろうって、きっと思っているわ」
・訳のズレ
‘It’s my husband, you know.’ There was no anger in her voice. She spoke quietly,
as though merely reminding him of a simple fact.
‘That’s rather a tricky point,’ Landy said, wetting his lips.
「あたしの良人ですのよ」その声に怒りはこもっていなかった。まるで、ひたすら彼に単
純な事実を思い出さようとするかのように、静かにいうのだ。
「そこが、どちらかといえば、まぎらわしいところですね」とランディはいって、唇をし
めした。
[解説]
rather は通例、(1)あまりよくないことに関し
(2)強いて選べといわれれば、の感じで
(3)ふつうに思われるより意外と程度が高い、を示し、「かなり」「わりと」「むしろ」な
どの訳語を得る。tricky は「したり、扱ったりするのが、厄介である」こと。訳文は、少
しズレている。
「そこがちょっと微妙なんですが」
第 11 回 『天国への登り道』The
『天国への登り道』The Way up to Heaven の気になる表現
by 柴田 耕太郎
今回は第 5 回『天国への登り道』の、表現として気になる部分を取り上げる。
[ストーリ]
フォスター夫妻はニューヨークに住む富豪。なに不自由ない暮らしに見えるが、夫の底意
地の悪さに妻は辟易している。その妻がパリにいる娘に会いに出かける当日のこと。フラ
イトの時間に間に合わないと焦る妻は、まだぐずぐず屋敷内にいる夫を呼びに玄関まで来
た。そこで、夫が乗っているはずの奥のエレベータが中空で停まっているのに気づく。瞬
時ためらったが、知らないそぶりで、そのまま夫を置き去りにして空港へと急いだ。それ
から 3 週間。妻が自邸に戻ってみると、どうやら夫は…。
・ことばの強さ
Mr Foster may possibly have had a right to be irritated by this foolishness of his
wife’s, but he could have had no excuse for increasing her misery by keeping her
waiting unnecessarily.
フォスター氏が、こういった夫人の馬鹿馬鹿しい仕打ちに腹をすえかねたのは、もっとも
だとしても、だからといって、必要以上に彼女を待たせ、いっそう夫人にみじめな気持ち
を味わせていいというわけのものではあるまい。
[解説]
「腹にすえかねた」なら、何をしてもよいことになってしまいかねない。「いらだって当
「いらだって当
然だったにしても」
・正確性
He had disciplined her too well for that.
こういう点については、実に良人はきびしかった。
[解説]
訳はこれでよいだろうが、意味は「良人はよくしつけていた」
「良人はよくしつけていた」
・誤用
She reached over and pulled out a small paper-wrapped box, and at the same time she
couldn’t help noticing that it was wedged down firm and deep, as though with the
help of a pushing hand.
と同時に、それが誰かの手で、奥の方へむりやりおしこめられてあったのだということが、
夫人の頭にひらめいた。
[解説]
wedge は状態動詞(くさびを入れて状態を保つ)、動的動詞(押し込む)のどちらにもとれるが、
「…押し込められてあったのだ」と状態に訳すより「…押し込められた」と行為に訳すほ
うが自然ではないか。「ひらめく」は「思いつきが頭に浮かぶ」ことで、cannot help ~
ing の意味「《しまいと思っても》どうしても《つい》…してしまう」とはちょっとずれる。
「押し込められたのだと、思わずにはいられなかった
「押し込められたのだと、思わずにはいられなかった」
思わずにはいられなかった」
・比喩の適正さ
The new mood was still with her.
あの新しい興奮はまだ、夫人の内部に息づいている。
[解説]
「内部に」では物みたいだ。「夫人の心
夫人の心(
夫人の心(の中)
の中)に」
・ことばの古さ
・ことばの古さ
She waited, but there was no answer.
しばらく待ってみたが、何のいらえもない。
[解説]
「いらえ」が「答え」「返事」の意味であることがわかる人がどれだけいるだろうか。
「何の返事もない」
*今回は表現に文句をつける箇所が少なかった。訳者が気合を入れて訳したのか、それと
も下訳者が優秀なのか…
第 12 回 『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs
『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’
Colonel’s Coat
その②
by 柴田耕太郎
[ストーリ]
ビクスビー夫人はニューヨーク在住の歯科医の妻。月に一度、伯母の介護という名目でボ
ルチモアに出かけ、そこで「大佐」と呼ばれる渋い中年男と逢瀬を楽しんでいた。やがて
別れがやってきたが、手切れ金代わりに高価なミンクの毛皮をもらったビクスビー夫人は、
質札を拾ったことにして夫への説明を切り抜けようとする。ところが、夫のほうが一枚上
手だった…。
前置詞 ***
‘Tally-ho!’ the Colonel would cry each time he met her at the station in the big
car.
「タリホウ!」大佐は駅に彼女を出迎えるたびに大型の自動車から叫ぶのだった。
[解説]
「…から」なら、from か out of を使うはずだし、cry と離れた文末には来まい。この in
は、「…に乗って」の意味。交通手段としての乗り物はおおまかに言って、立っていられ
る大きなものなら on を、座ってすっぽり収まるものなら in を使う。
大型車に乗って、駅で彼女を出迎える、そのたび毎に、大佐は「タリホウ!」と叫ぶのを
常とした、ということ。
訳:「タリホウ!」大佐は大型車に乗ってきて、駅に彼女を出
訳:「タリホウ!」大佐は大型車に乗ってきて、駅に彼女を出迎えるたび、こう叫ぶのだ
「タリホウ!」大佐は大型車に乗ってきて、駅に彼女を出迎えるたび、こう叫ぶのだ
った。
名詞 ***
But then the Colonel’s company always did that to her these days. The man had a way
of making her feel that she was altogether a rather remarkable woman, a person of
subtle and exotic talents, fascinating beyond measure;
しかし、最近は、大佐の仲間がいつも彼女をそんな気持にしてくれるのだ。その男は、彼
女に、自分は人眼を惹く女で、繊細な、異国風の魅力に恵まれた、はかり知れないほど魅
惑的な女性だという気持にさせてくれる。
[解説]
ここで初登場の「大佐の仲間」「その男」が、この後まったく出てこないのを、訳者は不
思議に思うべきだった。company は、集合名詞的に使われ無冠詞。「だれだれさん」といっ
た具体的な人を指しはしないで、「仲間づきあい(またはその相手)」といった意味合い。
did は本動詞で「もたらす」、that は直前に述べられた「今回の密会が楽しかったので、
ウキウキしていること」。
下線部の直訳:とはいえ、大佐との仲間づきあいは、このごろ彼女にとっていつも気分の
よさをもたらした。この大佐という男は、…
下線部の意訳:とはいえ、大佐といるとこのごろはいつもそうなのだ。この男は、…
代名詞 ***
; and what a very different thing that was from the dentist husband at home who never
succeeded in making her feel that she was anything but a sort of eternal patient,
someone who dwelt in the waiting-room, silent among the magazines, seldom if ever
nowadays to be called in to suffer the finicky precise ministrations of those clean
pink hands.
自分はいつまでたっても患者みたいなものだという気持にしかしてくれない歯科医の良人
とは、なんと大きな違いだろう。ちかごろは、あの清潔な桃色の手で気むずかしい、几帳
面な診察をしてもらう患者もめったに訪れず、待合室で雑誌にかこまれて押し黙っている
誰かさんとは、なんと大きな相違だろう。
[解説]
someone が a sort of eternal patient の言いかえなのがわかっていないので、訳がおかし
くなっている。元訳では、「歯科医の夫」=「誰かさん」と読めてしまう。
全体の直訳:自分はある種の永遠の患者、つまり
全体の直訳:自分はある種の永遠の患者、つまり、雑誌に埋もれ静かに待合室に居住し、
つまり、雑誌に埋もれ静かに待合室に居住し、
あの夫の清潔なピンクの手の難しい繊細な施術を受けるために中に呼ばれることが、最近
あの夫の清潔なピンクの手の難しい繊細な施術を受けるために中に呼ばれることが、最近
ではあったにせよめったにない人間
ではあったにせよめったにない人間でしかない
しかない、
ない、と彼女に感じさせてしまう
と彼女に感じさせてしまう、家にいる歯
てしまう、家にいる歯
科医の夫とはそれはなんと大きく違ったことであることか。
全体の意訳:家にいる歯科医の夫とはなんと大きな違いだろう。夫といると、自分は待合
室で雑誌に埋もれ永遠に順番を待つ患者ではないかと思ってしまう。内に呼ばれあの清潔
なピンクの手で施される繊細なご奉仕も受けることも、そういえばこのところとんと無い
なピンクの手で施される繊細なご奉仕も受けることも、そういえばこのところとんと無い
のだ。
のだ。
名詞 **
There was some tissue paper on top;
上にティッシュ・ペイパーがのっている。
[解説]
この場合の tissue paper は「薄葉紙」(高級薄物衣料品を傷つけぬよう覆う紙)。いわゆる
ティッシュペーパーは tissue (paper)、facial tissue。
修正訳:上に薄紙がのっている。
修正訳:上に薄紙がのっている
名詞 *
And the sense of power that it gave her!
そして、そのコートは彼女に魅力を感じさせたのである!
[解説]
ちょっと、ずれる。
直訳:そしてそのコートが彼女に与えた
直訳:そしてそのコートが彼女に与えた力の感覚!
意訳:これを着ると、なんと力がみなぎることか!
意訳:これを着ると、なんと力がみなぎることか!
イディオム ***
What you lose on the swings you get back on the roundabouts.
ひとがあっさり失うものを、あたしはもってまわったような失いかたをする。
[解説]
元訳では、意味がわからない。
これはイディオム「悪いことがあればよいこともある」「苦あれば楽あり」
「悪いことがあればよいこともある」「苦あれば楽あり」
形容詞
形容詞 **
‘It’s purely personal.’
「ほんとうにわたしのものなんだから」
[解説]
ミンクのコートを質入れする際、店主に住所・氏名を求められ、無記名にしてほしいと頼
んだあと、ビクスビー夫人がいう台詞。
この personal は、「所有」でなく「かかわりごと」の意味。
修正訳:全く個人的なことですから。
イディオム * 名詞**
But Mrs Bixby knew better. The plumage was a bluff.
しかし、ビクスビー夫人のほうが一枚うわてだった。羽毛ははったりなのだ。
[解説]
省略された than 以下(夫が自分の身につけるものに腐心すること)に対し、それより知識・
経験などが優れている、ということ。
直訳:しかしビクスビー夫人は夫より良く物事を心得ていた。
修正訳:しかし、ビクスビー夫人はお見通しだった。
また、「羽毛」とあるが the plumage は(夫の)「儀式張った服装」のこと。
修正訳:凝った服装ははったりなのだ。
代名詞 ***
‘I think it’s terribly exciting, especially when we don’t even know what it is.
It could be anything, isn’t that right, Cyril? Absolutely anything!’
‘It could indeed, although it’s most likely to be either a ring or a watch.’
「ほんとうに、品物はあるんでしょうね、シリル?いいえ、ぜったいにあるんだわ!」
「そりゃあるとも。もっとも指輪か時計らしいけどね」
[解説]
この anything は「何でも」が辞書的な意味だが、「何でも」のうち「自分が期待できるも
の」の気持ちが入るので、実質的に「たいしたもの」の意味。
直訳 :「何でも考えられ得るわね、シリル?全くどんなものでも!」
:「何でも考えられ得るわね、シリル?全くどんなものでも!」
「実際、考えられ得るさ、でもたいていは指輪か時計のことが多い」
修正訳:「きっとすごいものよ、そうじゃないシリル?ぜったいにすごいもの!」
「確かにすごいものかもね。でもたいていは指輪か時計のことが多いけど」
副詞 ***
‘Because I’m too busy. You’ll disorganize my whole morning schedule. I’m half
an hour behind already.’
「だって、ぼくはすごく忙しいんだ。きみが来れば、ぼくの午前のスケジュールがすっか
り狂っちゃう。あと三十分しかないからね」
[解説]
この behind は「(時刻に)遅れて」の意味。
修正訳:今だって 30 分遅れてるんだから。
分遅れてるんだから
名詞 前置詞
‘Isn’t it a gorgeous day.’ Miss Pulteney, the secretary-assistant, came sailing
past her down the corridor on her way to lunch.
「すばらしい日じゃありません?」バルトニイ嬢はちらりと微笑をうかべながら、そうい
ってすれちがった。
[解説]
ここ、名前が重要なわけではないのでこのままでもよいが、正しくは「パルトニー」。
past her の前後の位置関係がわかりにくいが読み解くと、こうだ。(パルトニー嬢が)や
ってきて、ビクスビー夫人の傍らを颯爽と過ぎ、昼食をとりに出かけるべく廊下を遠ざか
ってゆく。訳はこのままでよいだろう。
第 13 回『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs
回『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’
Colonel’s Coat の気にな
る表現
by 柴田耕太郎
今回は『ビクスビー夫人と大佐のコート』の表現があやしい部分を取り上げる。
・言葉の幅
There is one, however, that seems to be superior to the rest, particularly as it has
the merit of being true.
けれどもひとつだけ、とくに真実という長所があるので、ほかの物語よりもすぐれている
ように思われる話がある。
[解説]
パブロフの犬みたいに true とくると「真実」と訳すのが、プロ・アマを問わずよく見られ
る。
だが true の幅は広い。「ありのまま」「…そのまま」とするとピタッとくることが結構あ
る(true to life ありのままの人生、人生そのまま)。
ここは「真実」とすると、あいまい、あるいは大げさに響くところ。「事実」「本当」の
語を当てるとよさそう。
修正訳:「事実であるという長所」
「事実であるという長所」「実話だという取り柄」
「事実であるという長所」「実話だという取り柄」。
「実話だという取り柄」
・難字
---that there was little or no chance of their growing bored with one another. On
the contrary, the long wait between meetings only made the heart grow fonder, and
each separate occasion became an exciting reunion.
それどころか、尾生の辛さがひたすら恋しい気持をつのらせ、おたがい、はなれて暮らし
ていることが、心ときめく再会とはなった。
[解説]
「尾生」を「びせい」と読める人がどれくらいいるだろうか。まして、言葉の意味を知っ
ている人は。とくにこれはエンタテイメントなのだ、一般人の教養の程度に訳文もあわせ
ねばならない。
修正訳:「会う約束」
「会う約束」それでは情緒がないというなら「
「またの逢瀬」
「会う約束」
またの逢瀬」。
の逢瀬」
*参考:尾生の信
尾生の信(広辞苑より)
尾生の信
荘子 (尾生が女と橋の下で会う約束をしたが女は来ず、大雨で増水してきたのに待ちつづ
け、ついに溺死したという故事に基づく)固く約束を守ること。愚直なこと。
・他動詞
I’d almost forgotten how ravishing you looked. Let’s go on earth.
「わたしはきみのうっとりするような姿を忘れかけていた。さあ、夢からさめよう」
[解説]
こののままだと、「君自身がうっとりする」ようにとられかねない。他動詞の現在分詞形
の形容詞は「ひとを…させる」の意味だから、「ひとをうっとりさせる」
修正訳:「魅力あふれる姿」
「魅力あふれる姿」。
「魅力あふれる姿」
・語義
・掛かり方
; and even a man like Cyril, dwelling as he did in a dark phlegmy world of root canals,
bicuspids, and caries, would start asking a few questions if his wife suddenly waltzed
in from a week-end wearing a six-thousand-dollar mink coat.
根管、二頭歯、虫歯といった暗い、無気力な世界に住んでいるとはいっても、たとえシリ
ルのような男でも、自分の妻が六千ドルもするミンクのコートを着て週末の旅行から踊る
ような足どり帰宅したとすれば、あれこれと質問してくるだろう。
[解説]
phledgmy は、本来慌てるような時でも変わらずにいること、だから「無気力な」ではまず
い。人間なら「冷静な」だが、ここは世界をいっているので訳語を工夫する。
修正訳:「無感動
「無感動な世界
「無感動な世界」
な世界」
つづく箇所、日本語の掛かり方がわかりにくい。「…ても」「…でも」のように両方が強
調される場合は、並列が自然に読めるものでなくてはならない。例:雨が降っても、休み
の日でも、彼は会社に出かける。ここがおかしいのは、「…ても」の部分はシリルの状況、
「…でも」の部分はシリル自身をあげており、並列されるべきものが適当でないことから
起こっている。
修正訳:「
「(無感動の世界)
無感動の世界)に住んでいるシリルのような男でも」。
・言葉のつづき具合
・言葉のつづき具合
But the thought of parting with it now was more than Mrs Bixby could bear.
しかし、これを手離すかと思うと、ビクスビイ夫人には到底耐えられなかった。
[解説]
「には」を生かすなら、「ビクスビー夫人には苦痛しか浮かばなかった」のようにする。
直訳は「だが、それを手離すという考えは、ビクスビー夫人が耐えることのできる以上の
ものだった」。
修正訳:「だがこれを手離すのかと思うと、ビクスビー夫人は耐えがたかった」
「だがこれを手離すのかと思うと、ビクスビー夫人は耐えがたかった」
・イディオム
イディオム
‘l’ve got to have this coat!’ she said aloud.
「ぜがひでもこのコートを持っていなければ!」と彼女は思わず大声が出た。
[解説]
これは誤訳に分類した方がよいかもしれない。say aloud は「声に出して言う」。 say loud
が「大声でいう」。
修正訳:「
「思わず声が出た」
「夫人は思わず口にした」
思わず声が出た」または「夫人は思わず口にした」
声が出た」
第 14 回 『ローヤル・ジェリイ』Royal
『ローヤル・ジェリイ』Royal Jelly
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
アルバート・テイラーは若き養蜂家。子宝に恵まれたばかりだが、その乳飲み児の娘の食
が細くて、妻ともどもとても心配している。アルバートの案じた一計で、目出度く娘の食
欲を回復させることができた。ローヤル・ジェリイを大量に飲ませたのだ。これで一安心
と喜んだのも束の間、よくよく見ると、乳児であるはずの娘は、女王蜂さながらに変身
中!?…。
比較級 ***
‘You can’t tell me it’s natural for a six-week-old child to weigh less, less by
more than two whole pounds than she did when she was born! Just look at those legs!
They’re nothing but skin and bone!’
「もう六週間もたっているのに、二ポンドにも充たないなんて、生まれた時より目方がへ
ってるなんて、あたりまえじゃないじゃありませんか!あの足をごらんなさいな!まるで
骨と皮だわ!」
[解説]
比較級については、次の視点をつねに持つことが大切。
何と何を、何の点で比較しているか。
ここでは、赤ん坊について、その産まれたときと六週間たった現在の体重を、増減の点で
比較している。
該当部分だけ抜き出して一文にすると、She(the six-week-old child) weighs less (by more
than two whole pounds) than she did when she was born.
つまり、「生後 6 週間の赤ん坊」について(she)、その生まれたときの体重(did《=weighed》
when she was born)と、現在の体重(weighs)を、増減(less than )の点で比較。
by more than two whole pounds が挿入的に入って(前の less に掛かる副詞句)、わかりに
くくしているが、ここの by は単位を示す前置詞で「…分」、more than two whole pounds
は「まるまる 2 ポンド以上」で、by 以下の全体は「まるまる 2 ポンド以上分」が直訳。
修正訳:「
「2 ポンド以上も」
間投詞 *
‘Yes?’
「そうかな?」
[解説]
これは、相手の呼びかけについて、それを受けるあいずち。日本語でも同じ。
「はい?」
助動詞(まがい)
助動詞(まがい) *
He picked up the magazine that was still lying on his lap and glanced idly down the
list of contents to see what it had to offer this week.
彼はひざの上においたままになっている雑誌をとりあげ、今週眼を通しておかねばならな
いものを探すために、目次をぼんやりと眺めた。
[解説]
had to を「…しなければならない」と取ったのだろうが、「…おかなければならない」こ
とを「ぼんやりと」するのはおかしい。ここは、had と to の間は区切りがあると考えるべ
き。what の中に含まれる先行詞を the thing で置換え、it had the thing to offer this
week(雑誌は今週提供すべきものを有する)と読む。直訳「雑誌に今週乗っているものに目
を通すために」。
修正訳:「今週の内容を見ておこうと」
「今週の内容を見ておこうと」。
「今週の内容を見ておこうと」
名詞 **
Regurgitations
『修復論』
[解説]
じつはこの前後に The Healing Power of Propolis, British Beekeepers Annual Dinner
とあって、いかにも養蜂家雑誌の目次を思わせる。そこに突然「修復論」が出てくるもの
だから、読んでいるほうは面食らう。なるほど、辞書によっては「修復」の訳語を載せた
ものもあるが、ここはミツバチが「吐くこと」「もどすこと」ととりたい。
修正訳:「反芻」
「反芻」
名詞 ***
He never had to use smoke when there was work to do inside a hive and he never wore
gloves on his hands or a net over his head.
彼は巣箱の中での仕事があるときには、決して煙草を吸おうとはしなかったし、手袋もは
めず、頭にネットをかぶるようなことも、決してなかった。
[解説]
何で、やぶからに「煙草を吸う」ことに焦点が当てられるのだろう。刺されないよう用心
して、煙をたいて燻すことを意味しているのだ。
修正訳:「煙を焚こうとは」
「煙を焚こうとは」
動詞 ***
He doubted very much whether there would be anything in this that he didn’t know
already:
彼がまだ未知のこの分野に何か意義があるのか、彼は大いに疑問だった。
[解説]
主人公のアルバートは、少年時代からの天才的養蜂家なのだ。「未知」とか「疑問」とか
は無縁だという自負があるはず。
doubt whether は「半信半疑」だが very much で修飾され「whether 以下のことはない」に
可能性が移動する。that 以下は anything に掛かる。this は、ここだけでは分からないが、
いま読もうとしている雑誌記事を指す。
修正訳:「この記事のなかに、自分がま
「この記事のなかに、自分がまだ知らないことなんて出て
「この記事のなかに、自分がまだ知らないことなんて出ているわけがあるまい
だ知らないことなんて出ているわけがあるまい、
いるわけがあるまい、
と彼は思った。
名詞 ***
Albert Taylor took the pipe out of his mouth and examined the grain on the bowl.
アルバート・テイラーはパイフを口から離すと、鉢の中に入っている穀物を調べた。
[解説]
この bowl は「パイプの鉢」。the grain はここでは「木目」の意味。
修正訳:「鉢の
「鉢の木目模様に目をやった
「鉢の木目模様に目をやった」
木目模様に目をやった」。
動詞 **
‘Will you come in and watch the next one and see if she does it again, Albert?’
He told her he wouldn’t miss it for anything, and she hugged him again, then turned
and ran back to the house, skipping over the grass and singing all the way.
ぼくのやること間違いなんかあるものかと、彼はいってきかし、彼女はもう一度彼を抱き
しめると、身をひるがえしてスキップをふみ、ずっと歌を唄いながら家の方へ走っていっ
た。
[解説]
直訳すると「絶対にそれを逃しはしない」といっている。it は「二人の愛児がちゃんと食
事をとること」。for anything は否定形と結び「少しも…ない」の意。miss は「…しそこ
なう」→この場合「見損なう」。
修正訳:「ぜったい見逃すものか」
「何があっても家に戻るさ」
修正訳:「ぜったい見逃すものか」または意訳して「何があっても家に戻るさ」
「ぜったい見逃すものか」
イディオム *
‘Albert, stop pulling my leg.’
「アルバート、ごまかさないでよ」
[解説]
pull one’s leg は、イディオムで「からかう」。
修正訳:「からかわないで」
「からかわないで」。
「からかわないで」
イディオム *
動詞 *
They mix a tiny pinch of it into a big jar of face cream and it’s selling like hot
cakes for absolutely enormous prices.
連中は大きな美顔クリームのカンの中に、ほんのちょっぴりこいつを混ぜ合わせて、とん
でもなく馬鹿高い値段のホット・ケーキみたいに、売るのさ。
[解説]
like hot cakes はイディオムで「飛ぶように」。
修正訳:「
「馬鹿高い値段で飛ぶように」
馬鹿高い値段で飛ぶように」
この sell は自動詞で「売れる」。
修正訳:「売れているのさ」
「売れているのさ」
動詞 *
‘and quite apart from that, we had a shocking honey corp last year, and if you go
fooling around with those hives now, there’s no telling what might not happen.’
「それに、その話はともかくとして、去年の蜜の収穫量はぜんぜんひどかったわ。だから、
あなたがあの巣箱をいいかげんにしておくつもりなら、どうなったって知らないわよ」
[解説]
fool around は「バカな真似をする」。
修正訳:「あの巣箱にへんなことをするなら」
「あの巣箱にへんなことをするなら」
名詞 *
‘What the hell are you talking about, Mabel?’
‘Albert,’ Mrs Taylor said. ‘Your language.’
「なにをばかみたいなことをいってるんだ、メイベル?」
「アルバート」と彼女はいった。「なんてことを」
[解説]
the hell などと品のない言葉を夫が口にしたので、とがめたのだ。
修正訳:「その言い方
「その言い方って
「その言い方って」。
って」。
名詞 ***
‘Three times the normal amount! Isn’t that amazing!’
「三回も定量だけ飲んだんだ!こいつはおどろきじゃないか!」
[解説]
この times は「…回、倍」
修正訳:「定量の三倍飲んだんだ」
名詞 ***
‘She weighs a ton.’
「一トンもふえてるぞ
一トンもふえてるぞ!」
一トンもふえてるぞ
[解説]
この weigh は自動詞「…の重さがある」。赤ん坊の目方を計っているのだ、一トンにもな
るわけがあるまい。a ton は口語で「たくさん」。
修正訳:「すごく増えてる」
「すごく増えてる」
イディオム **
‘I thought that might surprise you a bit. And I’ve been making it ever since right
under your very nose.’ His small eyes were glinting at her, and a slow sly smile
was creeping around the corners of his mouth.
「きみにはちょっとおどろきだったかもしれんが、きみの反対は予想の上で、つくってみ
たんだ」彼の小さなひとみは、きらきらしながら彼女をみつめ、かすかな微笑みが口の端
から、ゆっくりと顔にひろがってゆく。
[解説]
might は may の過去形で可能性を示している。ever since は副詞句で「以来」。right は強
調の副詞「まさに」
直訳:「君を驚かすかもしれなと思ったんだ。それで以来、君の目と鼻の先でそれを作っ
「君を驚かすかもしれなと思ったんだ。それで以来、君の目と鼻の先でそれを作っ
てきた」
意訳:「驚かすといけな
「驚かすといけないと思って、
「驚かすといけないと思って、なにも言わずに作って
いと思って、なにも言わずに作ってきたんだ」
なにも言わずに作ってきたんだ」
第 15 回 『ローヤル・ジェリイ』Royal
『ローヤル・ジェリイ』Royal Jelly
の気になる表現
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
アルバート・テイラーは若き養蜂家。子宝に恵まれたばかりだが、その乳飲み児の娘の食
が細くて、妻ともどもとても心配している。アルバートの案じた一計で、目出度く娘の食
欲を回復させることができた。ローヤル・ジェリイを大量に飲ませたのだ。これで一安心
と喜んだのも束の間、よくよく見ると、乳児であるはずの娘は、女王蜂さながらに変身
中!?…。
・表現
She lifted the bottle out of the saucepan of hot water and shook a few drops of milk
on to the inside of her wrist, testing for temperature.
彼女はお湯の入っているシチューなべから、壜をとりだすと、二、三滴ミルクをふりだし
て、手首の内側にかけ、熱さをみた。
[解説]
「振って中から出す」のが「ふりだす」の意味だから、よさそうな気になるが、これはコ
ロケーション(言葉と言葉の親和性)の問題。「ふりだす」だと、ずいぶん力が加わる感じ
だし、対象が固形物のようだ。例:瓶から味の素をふりだし…。
修正訳:ミルクをたらして
修正訳:ミルクをたらして
But the mother said it was a gift given him by God, and even went so far as to compare
him with St Francis and the birds.
けれども、母親は、これはこの子が神からもらったさずかりものだといい、彼を聖フラン
シスと小鳥たちにたとえたりまでしたのだった。
[解説]
この compare A with B は、「喩える」より「比較する」のほうがよいだろう。慈愛あふれ
る人柄から、説教に小鳥までもが集まってきたという、イタリアはアッシジの聖フランチ
ェスコ(名前は現地語読みとする)と小鳥の親密さを、若き養蜂家ロバートと蜂の親密さと
比べたのだ。
修正訳:彼を小鳥に好かれる聖フランチェスコと比べたりもするのだった。
修正訳:彼を小鳥に好かれる聖フランチェスコと比べたりもするのだった
‘And we just finished the last feed ten minutes ago.…’
「それで、十分ほど前に最後のお乳を終ったところだ。…」
[解説]
「最後の」では、もうお乳は永久にあげないみたいだ。「直近の」の意味がはっきりわか
るように訳す。
修正訳:すぐ前のお乳は十分前に終った。…
‘It’s curing her, isn’t it?’
‘I’m not so sure about that, now.’
「あの子は元気になったじゃないか、そうだろ?」
「それがもう、何だかあやしい気持ちになってきたわ
それがもう、何だかあやしい気持ちになってきたわ」
それがもう、何だかあやしい気持ちになってきたわ
[解説]
「あやしい気持ち」では、気分が危険なほうへ傾くみたいだ。be sure about は、…を確信
する。赤ん坊が本当に元気になったのかどうか、わからなくなったといっている。
修正訳:もう、わからなくなったわ。
‘Don’t be a fool, Albert! You think it’s normal for a child to start putting on
weight at this speed?’
「へんなこといわないで、アルバート!こんなに、体重をふやして、それで子供には正常
だと思っているの?」
[解説]
主語がねじれている。体重を増やしたのは、子供。「それで」は、前の節を受けにくい。
修正訳:子供がこんなに体重を増やすことが、あっておかしくないって思ってるの?
第 16 回『ジョージ・ポーギー
回『ジョージ・ポーギー』
ジ・ポーギー』Georgy Porgy
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ジョージ・ポーギーは青年副牧師。女性と付き合ったことがまだ無い。だが、劣情は人一
倍強く、かつまた教区の独身女性たちの誘惑もはげしく、それらを押し留めるのに苦慮し
ている。そんなとき、めずらしく清楚ではつらつ、インテリジェンスのある中年のローチ
嬢に巡り会った。勧められるまま、アルコールらしき飲み物を一口啜る。気分が高揚し勢
いでローチ嬢に迫ったのはよいのだが、そのプロセスが拙かったらしく、彼女はいたくお
かんむり。ジョージは思わず彼女の口の中に飛び込み、今やその十二指腸の上に小部屋を
作って、ほとぼりが醒めるまでしばらくのんびりを決め込んでいる。
イディオム *
Without in any way wishing to blow my own trumpet, I think that I can claim to being
in most respects a moderately well-matured and rounded individual.
自画自賛しようという気持ちをぜんぜん持たずとも、私は、ほとんどあらゆる点で、温厚
円満な人物であるといってさしつかえないと思う。
[解説]
blow one’s own trumpet は「大法螺を吹く」の意。
修正訳:自慢するわけではないが
冠詞 ***
And even then I always tried to ensure that I touched only the shoulder or the waist
or some other place where the skin was covered, because the one thing I never could
stand was actual contact between my skin and theirs.
しかも、手を貸してやるときですら、私は、皮膚がかくされている肩とか胴とかほかの部
分にしかさわらないことにいつも気を使った。私に到底耐えられないことのひとつは、自
分の皮膚と他人の皮膚がじかに触れ合うことだったのである。
[解説]
the+one(形容詞)+名詞、の場合の one は「唯一の」の意。
修正訳:私が
修正訳:私が唯一耐えられないのは
私が唯一耐えられないのは→こればかりはどうしても我慢できないのは
唯一耐えられないのは→こればかりはどうしても我慢できないのは
形容詞 **
My features were regular,
私の容貌は人並みである。
[解説]
regular は多義だが、ここは「均整のとれた」。例:regular feature 整った目鼻立ち。「人
並み」は average、ordinary、common など。
修正訳:整ったほうだ
動詞 **
My flock, you understand, contained an inordinate number of ladies.
ご承知のように、私の会衆には途方もなくたくさんの婦人が含まれていた。
[解説]
「ご承知のように」はおおげさ。それほど重い意味ではない。あいずちを求める間投詞に
近い。
修正訳:実は
仮定法 ***
One would have thought that with all the careful training my mother had given me as
a child, I should have been capable of taking this sort of thing well in my stride;
子供のころ、母が私に与えた慎重な教育をもってすれば、私がこういったことを始末でき
るのではないか、とひとは考えるだろう。
[解説]
would have thought は、仮定法過去完了(過去における反実仮想)「(考える機会がもしあっ
たとすれば)思ったことだろう」。should have been capable of taking は、仮定法過去完
了で(1)…すべきであったのに(過去の反実仮想)
(2)…したことだろうに(過去の推量)の
うち、(2)。
修正訳:たやすく処理することができたはずだ、と誰でもが思っただろう。
修正訳:たやすく処理することができたはずだ、と誰でもが思っただろう。
副詞 **
冠詞**
冠詞
It always ends at precisely the same place, no more and no less, and it always begins
in the same peculiarly sudden way, with the screen in darkness, and my mother’s voice
somewhere above me, calling my name;
それはつねに正確に同じところで終り、多くなることも少なくなることもなく、また始ま
るときはいつも、闇のなかのスクリーンのように妙に唐突で、どこか私の頭上あたりから
母の声が私の名前を呼んでいるのだ。
[解説]
「正確に」では ends に掛かってしまう。precisely は強調的に、the same place に掛かる
→修正訳:まさに
修正訳:まさに
「闇のなかのスクリーン」では、なにも見えまい。
in は状態を示す前置詞、darkness は総称用法で暗闇(であること)。「闇のなかのスクリー
ン」なら闇は特定化されるので、the screen in the darkness。 the screen in darkness
は、暗闇状態にあるスクリーン→修正訳:「真っ暗なスクリーン」
修正訳:「真っ暗なスクリーン」。
修正訳:「真っ暗なスクリーン」
*前後で文がねじれている(主語が一文内で分裂)が、ここでは取り上げない。
副詞 **
We creep back around the cage to keep the baby in view.
私たちは赤ん坊から眼をはなさずに、檻のまわりを這うようにして元の位置にもどった。
[解説]
「元の位置に」とは書かれていない。creep back around は、自動詞+副詞+前置詞の形。
副詞で大状況を、前置詞句で小状況を示す。creep は(1)這う (2)忍び足で歩く、のうち(2)
のほうがよいだろう。忍び足する→後ろにさがって→檻の周りを
修正訳(
修正訳(全体)
全体):私たちは赤ん坊が見えるように、檻を後ずさりしてそっと
:私たちは赤ん坊が見えるように、檻を後ずさりしてそっと回り込んだ。
そっと回り込んだ。
名詞 ***
I would see them eyeing me covertly across the room at a whist drive, whispering to
one another, nodding, running their tongues over their lips, sucking at their
cigarettes, plotting the best approach, but always whispering, and sometimes I
overheard snatches of their talk--私は、部屋からこっそりと私を見ている彼女たちの存在に、静かなドライヴウェイで気が
ついたものだった。彼女たちはおたがいに囁きをかわし、うなずき合い、忙しく唇を舌で
なめて、煙草を吸い、うまい手を考えるのだが、いつも囁きあうばかりで、その話の断片
が聞こえてくることもあった--[解説]
whist drive は、トランプゲームの一種「ホイスト・ドライヴ」。across は貫通を示し、
「部屋の向こう側からこっち側にいる自分を見ている」こと。
修正訳:彼女たちが
修正訳:彼女たちが)
彼女たちが)トランプ遊びをしながら、部屋の向こうからこっそり私を見ているの
に気がついてい
に気がついていた。
ていた。
代動詞 ***
Nothing stimulates them quite so much as a display of modesty or shyness in a man.
And they become doubly persistent if underneath it all they happen to detect---and
here I have a most difficult confession to make---if they happen to detect, as they
did in me, a little secret gleam of longing shining in the backs of the eyes.
男が遠慮や内気を示すほど女性を刺激するものはない。しかもその裏でたまたま---ここで
私はもっとも難しい告白をしなければいけないが---たまたま彼女たちが私にいったよう
に、眼の奥に輝く渇望のひそやかな光を発見しようものなら、そのしつこさは倍になる。
[解説]
直訳は「彼女たちが私の中に見て取ったごとく」。この did は代動詞で、detect の代わり。
修正訳:彼女たちがズバリ私の内面を見抜いたごとく
代名詞 ***
I first isolated the sexes, putting them into two separate cages, and I left them
like that for three whole weeks. Now a rat is a very lascivious animal, and any
zoologist will tell you that for them this is an inordinately long period of
separation.
私はまず雄と雌を隔離して、別々の檻に雄と雌を入れ、まるまる三週間そのままにしてお
いた。ところでネズミは非常に色好みの動物であるが、動物学者ならば、これを甚しく長
い期間にわたる隔離のせいだ、というだろう。
[解説]
this は、直前のことを指す。ここでは「三週間、ネズミのオスとメスを隔離しておいたこ
と」。
修正訳:さてネズミは非常に色好みの動物であって、動物学者なら、これは長すぎる隔離
期間だというはずだ。
期間だというはずだ
冠詞 **
A Miss Montgomery-Smith came next, a small determined woman who had once tried to
make me believe that she had been engaged to a bishop.
次はモンゴメリイ・スミスとかいう雌だった。これは自分が僧正と婚約していることをか
つて私に信じこませようとした小柄な頑固女である。
[解説]
一見よさそうだが、どこが悪いのだろうか。自分みずから、旧知の女性の名前をネズミに
名づけたのだ。「…とかいう」ではおかしいだろう。
修正訳:次はモンゴメリイ・スミスと名づけた雌だった。
前置詞 **
She died trying to creep on her belly under the lowest wire, and I must say I thought
this a very fair reflection upon the way in which she lived her life.
彼女は、腹を上にしていちばん低い電線の下を通ろうとして死んだ。この死にかたは、彼
女が生きた一生の姿をみごとに反映したものだ、と私は思った。
[解説]
前置詞 on は、接触を示す。腹の上に体を置いている、また、腹と地面が触れ合っている、
と理解する。
体を腹の上に乗せて→修正訳:
修正訳:腹這いで
修正訳:腹這いで
名詞 **
; not thin and stringy like the necks of a lot of these so-called modern beauties,
but thick and strong with a slight ridge running down either side where the sinews
bulged.
いわゆる現代美人の項のようにほっそりとして筋ばってはいない。筋肉が張っている背筋
がいかにもがっしりとして丈夫そうである。
[解説]
項(うなじ)を比べている箇所。
修正訳:太くがっしりしていて、筋肉の盛り上がった両肩につながり背はシャンとしてい
る。
形容詞 **
But here I was now, the same old me, actually relishing the contact of those enormous
bare arms against my body!
しかし、いまここにいる私は、昔ながらの私なのだが、自分の身体と巨大なむきだしの腕
との接触を実際にたのしんでいるのだ!
[解説]
女嫌いのはずの自分が女性との接触を楽しんでいることを、自分でも面食らっている場面、
「昔ながらの私」はないだろう。「いつもと変わらぬ」の意味。例:the same old excuse(い
つもの口実)
修正訳:前と同じ
修正訳:前と同じ私なのだが
同じ私なのだが
仮定法 ***
Had it been a red-hot iron someone was pushing into my face I wouldn’t have been
nearly so petrified, I swear I wouldn’t.
もしそれが、私の顔に押しつけようとしている真赤な熱い鉄だったら、私だって我慢でき
なくなるはずである。
[解説]
仮定法過去(現在の反実仮想)ではなく、仮定法過去完了(過去の反実仮想)。それに譲歩の
気持ちも含まれている。「…だったとしても、-だったことだろうに」。
修正訳:自分の顔に真っ赤に燃えた鉄を押し付けられてきたとしても、あ
修正訳:自分の顔に真っ赤に燃えた鉄を押し付けられてきたとしても、あれほど驚愕する
ことはまずなかっただだろう、誓ってそう思う。
前置詞 *
名詞 **
I was right inside this enormous mouth, lying on my stomach along the length of the
tongue, with my feet somewhere around the back of the throat;
私はこのばかでかい口のなかに吸いこまれ、胃が長い舌の上に、脚は喉の奥あたりにあっ
た。
[解説]
lying on my stomach(腹這いになっている)。また、the length は「全長」→「端から端ま
で」。along は(1)…に沿って (2)…のところをずっと、のうち(2)。
修正訳:舌の上に腹這いとなり
修正訳:舌の上に腹這いとなり
動名詞 ** 否定語 **
I remember screaming for help, but I could hardly hear the sound of my own voice above
the noise of the wind that was caused by the throat-owner’s breathing.
私は助けを求める悲鳴をいまでも記憶していたが、風の音よりも大きい自分の声のひびき
が耳に入ってくるだけだった。
[解説]
初歩的な文法ミス。remenber ~ing は「~したことを覚えている」。元訳では誰の悲鳴か
わからない。
hardly は、準否定語「ほとんど…ない」。above は、優越を示す前置詞(…に勝って)。
例:Her voice could be heard above the noise. (彼女の声は騒音の中でも聞きとれた)。
修正訳:私は助けを求める叫びを上げたのを覚えている。だがその自分の声は、喉の持ち
修正訳:私は助けを求める叫びを上げたのを覚えている。だがその自分の声は、喉の持ち
主が呼吸する音にほとんどかき消されてしまっていた。
動詞 **
I also sing madrigals in the evenings, but I miss my own harpsichord terribly.
私はまた晩になるとマドリガルを歌うけれど、ハープシコードをひくのがひどく下手だ。
[解説]
この miss は「…がなくてさみしく思う」の意味。
修正訳:ハープシコードがそばにないのがとても残念だ。
第 17 回 『ジョージ・ポーギー』George
『ジョージ・ポーギー』George Porgy の気になる表現
by 柴田耕太郎
・表現
‘Josephine has just started having her babies,’ my mother says.
「ジョジフィンがたったいま赤ちゃんを生みはじめたのよ」と母がいった。
(解説)
人名、地名は現地語読みが原則。ここ Napoleon に対する Josephine だから、フランス皇帝
ナポレオンの后である「ジョセフィーヌ
ジョセフィーヌ」の名で呼ばなければならない。
ジョセフィーヌ
Josephine is reclining on a help of straw inside the low wire cage in one corner of
the room---large blue rabbit with small pink eyes that watch us suspiciously as we
go towards her.
ジョジフィンは車庫の片隅にある低い檻のなかの藁山に寄りかかっている---私たちが近
寄っていくと、大きな青いウサギは小さな赤い眼で警戒するように私たちを見た。
(解説)
本当に「青い」わけでなく、薄い灰色を「青」と呼んでいるのだ。くすみを感じさせる「蒼」
の語を充ててはどうだろう。訳:
訳:蒼いウサギ
訳:蒼いウサギ
, and I scream again, and this time I can’t stop.
私はまた悲鳴をあげ、こんどは、それを抑えることができなかった。
(解説)
元訳では「それを」が指すものがあいまい。この stop は自動詞「(作業《この場合、悲鳴
をあげること》)をやめる」。
訳:それが
それが止まらなかった。
それが止まらなかった。
I run down the drive and through the front gates, screaming all the way, and then,
above the noise of my own voice I can hear the jingle of bracelets coming up behind
me in the dark, getting louder and louder as she keeps gaining on me all the way down
the long hill to the bottom of the lane and over the bridge on to the main road where
the cars are streaming by at sixty miles an hour with headlights blazing.
私はドライヴウェイを走り、門を抜けていきながら、その途中ずっと叫びつづけていた。
…
(解説)
「ドライヴウェイ」が、「道路から玄関・車庫に通じる私設車道」だとわかる読者がどれ
ほどいるだろうか。訳:私は玄関から
訳:私は玄関から引き込み車道
訳:私は玄関から引き込み車道を走り
引き込み車道を走り
---she must have come tip-toeing up behind me---all at once I felt a bare arm sliding
through mine, and one second later her fingers were entwined in my own, and she was
squeezing my hand, in out, in out, as though it were the bulb of a throat-spray.
きっと爪立ちで背後からそっと寄ってきたに相違ない。
(解説)
「爪立ち」との言葉はたしかにあるが、あまり使わないのでは。訳:「爪先立ち」
訳:「爪先立ち」
Miss Foster was a woman in the village who bred cats, and recently she had had the
effrontery to put up a large sign outside her house in the High Street, saying FOSTER’S
CATTERY.
フォスター嬢というのは猫をなん匹も飼っている村の女で、最近、厚かましくもハイ・ス
トリートの家の前に「フォスターの猫飼育所」という大きな看板を出した。
(解説)
「ハイ・ストリート」が何か、読者にわからない。町の中心の目抜き通りのこと、がわか
るように訳す。訳:本通り
訳:本通り
Your poor throat sounded hoarse today during the sermon, it said.
「お気の毒に、今日の説教では、あなたの声はかすれておりました」その手紙にはそう書
いてあった。
(解説)
「かすれておりました」は自分がへりくだる謙譲語。相手を立てる言い方に直す。訳:か
訳:か
すれておられました
‘Mens sana in corpore sano.’
「メンス・サノ・イン・コルポリ・サナ」
(解説)
ラテン語は原則ローマ字読み。訳:メンス・サー
メンス・サーナ
メンス・サーナ・イン・コルポレ・サーノ
・イン・コルポレ・サーノ
‘The fruit cup is only made of fruit, Pardre.’
「フルーツ・カップはフルーツしか入ってませんのよ、牧師さん」
(解説)
このあと、「Padre ということばの軍隊的な厳しい感じが気に入った」と言う意味が続くの
だから、「牧師さん」ではまずいだろう。そのままカタカナで感じがわかると思う。
訳:パードレ
‘Listen,’ she said softly. ‘How about the two of us taking a little stroll down
the garden to see the lupins?’
「あたしたち二人でちょっと庭園を散歩して、ルピナスでもごらんになりません?」
(解説)
前後で文がねじれている。前半の、散歩するのはあたしたち、後半の、ルピナスを見るの
はあなた。主語をあたしたちに統一する。
訳:ルピナスでも見ませんこと
I could feel my legs being drawn down the throat by some kind of suction, and quickly
I threw up my arms and grabbed hold of the mouth-entrance, and I could actually look
right out between the lips and see a little patch of the world outside--私は、ある種の吸引力によって私の脚が喉をひきこまれていくのを感じて、すぐさま腕を
思いきりふりほどき、下の前歯をつかむと、命かわいさにしばらくそのままにしておいた。
私の顔は口の入り口の近くにあったが、その唇のあいだから眼をやると、ほんのわずか外
の世界が見えた--(解説)
「脚が喉をひきこまれていく」とはどんな状態だろう?
訳:私の脚が喉の下のほうにひきこまれてゆく
「ふりほどく」というよりも「腕を上げる」。「命かわいさにしばらくそのままにしてお
いた」は原文にないし、不必要。
訳:すぐさま腕を伸ばし、前歯をつかんだ
Oh dear, oh dear. Looking back on it now, some three weeks later, I don’t know how
I ever came through the nightmare of that awful afternoon without taking leave of
my senses.
三週間ばかりたったいま、振り返ってあのときのことをつらつら考えてみると、私は、自
分の感覚を失うことなく、どうやってあの恐ろしい午後の悪夢をくぐり抜けてきたのか、
いまもってわからない。
(解説)
これは誤訳。take leave of one’s senses は、イディオム「血迷う」「気が狂ったように
振舞う」(senses は「五感」)。訳:気も狂わずに
訳:気も狂わずに
He is civil and dignified, and I imagine he is lonely because he likes nothing better
than to sit quietly in my room and listen to me talk.
礼儀正しく、威厳のある男で、彼が孤独なのは、私の部屋に静かに座って私の話を聞くの
がなにより好きだからではないかと想像している。
(解説)
何で「孤独」なのかがわからない。この lonely は「孤独」でなく「社交ぎらい」「一人で
いることを愛する」の意味。imagine は、以下全文に掛かるのでなく、he is lonely に掛
かる。
訳:わずらわしい人との付き合いを嫌っているらしいのは、…好きなことからわかる。
第 18 回 『誕生と破局』Genesis
誕生と破局』Genesis and Catastrophe
by 柴田耕太郎
[ストーリ]
ドイツの国境に近い町で、一人の男の子が生まれる。母親にとっては 4 人目の子だが、こ
れまでは皆幼くして亡くなってしまっていた。健やかに育ってと母親は祈るような気持ち
だが、様子を見に来た酔っ払いの税官吏の夫は、子供の小ささを指摘する。見るに見かね
た医者がふたりの仲をとりもち、子供の未来をともに祝福するようにと諭す。さてその子
とは、のちのヒトラーなのであった…
副詞 *
His voice was miles away in the distance and he seemed to be shouting at her.
なんマイルも遠くからつたわってくる声だが、そのくせ彼は、女をどなりつけているよう
な気がした。
[解説]
miles は名詞だが副詞的に働き「遥かに」。away は「離れて」。in the distance は「遠く
に」。意味の似た言葉を重ねて気分的な遠さを示しているので、実際に遠方から声がした
わけではない。
修正訳:彼の声はずっと離れたところにあって、彼女をどやしているようだった。
形容詞 **
And she was very sad.
それにまた、非常に哀れでもあった。
[解説]
やさしそうな単語にこそ配慮が必要。she 本人が「悲しい状態」なのでなく、人から「悲し
く見える」のだ。しつこくいえば「悲しみを誘う」こと。
修正訳:「そして彼女はとても寂しげだった。」
修正訳:「そして彼女はとても寂しげだった。」
動詞 ** 形容詞 **
Also there was a rumour that this was the husband’s third marriage, that one wife
had died and that the other had divorced him for unsavoury reasons.
前の細君は、ひとりは死に、もうひとりはつまらないことから離婚してしまったというの
である。
[解説]
divorce は「…と離婚する」(彼を離婚したわけではない)。unsavoury reason(s)は「まと
もな感じのしない」(unpleasant or morally unacceptable)こと。「訳ありの」「よから
ぬ理由で」など。
修正訳:これが三度目の結婚で、前の一人とは死に別れ、もう一人
修正訳:これが三度目の結婚で、前の一人とは死に別れ、もう一人とは訳ありの理由で別
一人とは訳ありの理由で別
れた、との噂があった。
形容詞 *
But he was always ill.
でも病気ばかりしている子でした。
[解説]
「いつも病気」より意味範囲を広くとったほうがよい。
「病気がち」
「いつも具合が悪い」。
修正訳:でもいつも具合が悪かった。
強調 *
But the small ones are often a lot tougher than the big ones.
しかし柄は小さくても、柄の大きな赤ん坊よりはるかに芯が強いですからな。
[解説]
ones は「赤ん坊」。a lot は名詞だが副詞的に働き「ずいぶん」「大層」。
一般論をいっている。「小さくても」では、特定の赤ん坊をいっているように聞こえる。
修正訳:でも小さい子は大きい子より丈夫なことが多いですからな。
名詞 *
‘You must forget about the others, Herr Hitler. Give this one a chance.’
「ほかのお子さんのことはみんな忘れなさい、ヒットラーさん。このお子さんにだって希
望はあるんですよ」
[解説]
この chance は「機会」の意。例:Give me a chance!(私にやらせてください)。
修正訳:他のお子さんのことは忘れなさい、ヒットラーさん。この子の可能性を見てやっ
修正訳:他のお子さんのことは忘れなさい、ヒットラーさん。この子の可能性を見てやっ
てください。
・表現
表現
今回、誤訳が少ないので、あやしい表現もいっしょに取り上げます。
・文のねじれ
文のねじれ
‘Your baby is being made to look pretty for you,’ the doctor said.
「赤ちゃんはね、あなたに見てもらうために、きれいにしているところですよ」と医者は
いった。
[解説]
「…見てもらうために、」の前後で主語が違っている(前は赤ちゃん、後は関係者)ので、
統一する。
修正訳:赤ちゃんはね、きれいにされて、あなたにこれから見てもらうんですよ。
修正訳:赤ちゃんはね、きれいにされて、あなたにこれから見てもらうんですよ。
・人名の呼び方
人名の呼び方
‘My little girl was called Ida. She died a few days before Christmas. That is only
four months ago. I just wish you could have seen Ida, Doctor.’
「娘はアイダといいました。その子はクリスマスの二、三日前に亡くなりました。それも、
四ヶ月前のことですわ。アイダを先生にお見せしたかったですわ」
[解説]
人名、地名は現地語読み。
修正訳:「アイダ」でなく「イダ」。
・指示語
指示語
‘When she died…I was already pregnant again when that happened, Doctor.
「あの子が死んだとき---わたしがまた妊娠したとき、あんなことになったのです、先生。」
[解説]
元訳では「あの子が死んだとき」=「わたしがまた妊娠したとき」に、「何か(あんなこと)
が起こった」と読めてしまう。
修正訳:あの子が死んだとき--修正訳:あの子が死んだとき---それが起こったとき、私はすでに再び妊娠していました。
---それが起こったとき、私はすでに再び妊娠していました。
・近親語
近親語
‘I don’t know. I’m not sure. I think my husband said that if it was a boy we going
to call him Adolfus.’
‘That means he would be called Adolf.’
‘Yes. My husband likes Adolf because it has a certain similarity to Alois. My husband
is called Alois.’
「わかりませんわ。はっきり存じません。主人の話ではもし男の子ならアドルフスにしよ
うということだったと思いますわ」
「するとアドルフというわけですな」
「はい。主人はアドルフという名前が好きなんです、アロイスにいくらか似ているんで。
主人はアロイスという名前なんです」
[解説]
元訳では名前相互の関係がわからない。Adolf は「狼」の意味で、高貴さイメージする。
Adolfus はその異名。Alois はそれらに響きが似ている。こういった情報を会話に盛り込ま
ねば、読者は戸惑ってしまう。
修正訳:「さあ、どうでしょうか。主人は、男の子だったらアドルファスとつけよう、と
言ったと思います。」
「すると、アドルフって呼ばれるんですね」
「はい。アドルフは、アロイスに似た感じがあるので、主人は好きなんです。主人は、ア
「はい。アドルフは、アロイスに似た感じがあるので、主人は好きなんです。主人は、ア
ロイスって名前なんです。」
・色
色
A small man in a dark-green uniform stepped softly into the room and looked around
him.
濃い緑の制服を着た小男がそっと部屋に入ってきて、ぐるりと見まわした。
[解説]
色の感じ方は日欧な微妙に異なる。日本は青が緑の上位概念(青信号:緑。青リンゴ:緑)
だが、欧米では緑が青の上位概念(The light went green.信号が青になった
green field
青々した野原)。
修正訳:濃
修正訳:濃い青の制服を着た小男が、そっと部屋に入ってきて、まわりをぐるっと見回し
い青の制服を着た小男が、そっと部屋に入ってきて、まわりをぐるっと見回し
た。
・テニオハ
テニオハ
‘Every day for months I have gone to the church and begged on my knees that this
one will be allowed to live.’
「何ヶ月も、毎日、教会に行って、この子に永生きさせてくださいとひざまずいておねが
いしたの」
[解説]
「この子」が、何かを「長生きさせる」わけではあるまい。
修正訳:この子を長生きさせてくださいと…
修正訳:この子を長生きさせてくださいと…
第 19 回『暴君エドワード』Edward
『暴君エドワード』Edward the Conqueror その①
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ルイザとエドワードは初老の夫婦。あるとき庭仕事をしていて、見慣れぬネコに出会う。
ネコを家に入れたまま、ルイザがピアノの稽古をしていると、ネコは曲によって異常な反
応を示す。またあろうことか、ネコの顔には大作曲家リストと同じ位置にホクロがある。
ルイザはこのネコがリストの生まれ変わりに違いないと思い込むが、エドワードはこの話
に取り合わない。ルイザがネコいやリストのために晩餐を用意している間、エドワードは
ネコを伴って庭に出ていたようだ。肝心のリストはどこにいったのか、問い詰めるルイザが
エドワードの腕に眼をやると、手首に一条の鋭い傷がある。あなた、まさか…、と逆上し
そうになるルイザ。
並列 **
It was blazing fiercely, with orange flames and clouds of milky smoke, and the smoke
was drifting back over the garden with a wonderful scent of autumn and burning leaves.
たき火は、オレンジ色の焔をあげ、ミルク色の煙をたなびかせながら、猛烈に燃えさかっ
ていた。煙は秋のすばらしい香りを放ちながら、庭園いっぱいに漂い、木の葉をこがして
いる。
[解説]
drift back over ~ は、自動詞+副詞+前置詞句の形で、漂う→後ろへ(大まかな位置)→
<庭を>覆って(具体的な場所)、と読む。
with 以下の掛かり方が次の四つにとれる。
(1)形容詞句として the garden を修飾。
① a wonderful scent of autumn と burning leaves の並列
② autumn と burning leaves の並列
(2)副詞句として drifting を修飾 ③④
(1)①「秋の素晴らしい匂いと燃える葉っぱのある庭」
②「秋と燃える葉っぱの素晴らしい匂いのある庭」
(2)③「秋の素晴らしい匂いと燃える葉っぱを伴って漂う」
④「秋と燃える葉っぱの素晴らしい匂いを伴って漂う」
引用文の前を読むとわかることだが、焚き火は庭を下った敷地はずれで焚いている。そこ
から斜面の上にある庭に煙がたなびいてゆくのだ。(1)①は、「燃える葉っぱ」が庭にあっ
てはおかしいし、(1)②は、「煙がそこに漂った」結果として「匂い」がするわけだから不
可。(2)③は、煙が「燃える葉っぱを伴う」はずがないのでダメ。(2)④が正解。
また、
and は(1)autumn と burnig を並列(秋の燃える、
葉っぱ) (2)autumn と burning leaves
を並列(秋と、燃える葉っぱ)、の二つにとれそうだが、(1)であれば異種の形容詞は and も
カンマもなしで並べるのが普通(autumn burnig leaves)であり、and を介在させ両者を強調
する必要性もないことから、不可。(2)を採る。
下線部、直訳すると「煙は、秋と燃える葉っぱの素晴らしい匂いを伴って、後ろの庭園を
覆うように漂っていった。」
元訳は並列の誤り以外にも、意訳したつもりなのだろうが、「煙」が「木の葉をこがす」
ととれるのがよくない。
修正訳:こがした木の葉からでる煙は、秋のすばらしい香りを含みながら、庭園いっぱい
に広がっている。
イディオム ***
Had she wanted she could easily have called again and made herself heard, but there
was something about a first-class bonfire that impelled her towards it right up close
so she could feel the heat and listen to it burn.
そうしようと思えば、もう一度良人を呼んでみるのはたやすいことだし、また今度は気が
つかせることもできたのだろうが、そのすばらしいたき火には、なにか彼女をひきつける
ものがあったのだ。あまりたき火に近づいたのでその火照りが感じられ、燃える音が彼女
の耳に聞こえてきた。
[解説]
so that ~ can(…できるように)の that が抜けた形。「それで」の so ではない。
直訳は「しかし、第一級のたき火には、彼女がその熱を感じられ、かつそれが燃える音を
聞けるように、彼女をしてそのたき火のほうのもっとずっと近くに駆り立てるなにものか
があった。」
修正訳:そのすばらしいたき火には、なにか彼女をひきつけるものがあり、もっと近づい
てその熱気を感じ燃える音を聞きたいという気持ちになった。
てその熱気を感じ燃える音を聞きたいという気持ちになった。
形容詞 **
‘It’ll get burnt!’ Louisa cried, and she dropped the dishcloth and darted swiftly
in and grabbed it with both hands, whisking it away and putting it on the grass well
clear of the flames.
「やけどするわ!」とルイザは叫んで、ふきんをおとすと、軽々と身を走らせ、両手でネ
コを抱きあげたかと思うと、さっと身をひき、もうすっかり焼きはらわれた草地の上にそ
れを置いてやった。
[解説]
whisk O away は「O を(元のところから離して)さっと移動させる」。it は、ネコ。訳はこ
のままでよいだろう。clear を「きれいになる」ととって「焼きはらわれた」としたのだろ
うか?clear of はイディオムで「…から離れて」。
修正訳:焔から十分離れた草地にそれを置いた。
形容詞 **
There was a veiled inward expression about the eyes, something curiously omniscient
and pensive, and around the nose a most delicate air of contempt, as though the sight
of these two middle-aged persons---the one small, plump, and rosy, the other lean
and extremely sweaty ---were a matter of some surprise but very little importance.
眼には、妙にもの思わしげで、わけしりめいた表情をうかべ、鼻のあたりには、ほんのか
すかながら、軽蔑の色をただよわせている。まるでこの中年の夫婦---小柄でぽっちゃりし
た、顔の赤い妻と、やせこけて、汗まみれの良人---が、気をまぎらわすにはまあ恰好の相
手だが、大して重要な連中ではないといった風情なのだ。
[解説]
a matter of は(1)…の問題 (2)わずか、だが(2)は数量名詞を伴うので、ここは(1)。「い
くぶん驚きの問題(対象)」→「
「(いることは)
いることは)ちょっとした
ょっとした驚
した驚きであるにせよ」
きであるにせよ」
イディオム *** 名詞 ***
And after that---well, a touch of Liszt for a change. One of the Petrarch Sonnets.
The second one---that was the loveliest---the E major.
そしてそのあとは---そうね、変化をもたせてリストの小品。『ペトラルカのソネット』の
なかの一曲。それも二番目---これがいちばんすばらしいから---のホ短調。
[解説]
for a change はイディオム「気分転換に」。
the second one は、「ソネット第 2 番」(one=sonnet)。「二番目のホ短調」でなく、「第
2 番ホ短調」(第 2 番=ホ短調)
修正訳:そしてそのあとは--修正訳:そしてそのあとは---そうね、気分転換にリストの小品。
---そうね、気分転換にリストの小品。『ペトラルカのソネット』
のなかの一曲。ソネット第 2 番---これがいちばんすばらしいから
---これがいちばんすばらしいから--これがいちばんすばらしいから---ホ短調。
---ホ短調。
数詞 ***
And lastly, for the encore, a Brahms waltz, or maybe two of them if she felt like
it.
そして、おしまいはアンコールとしてブラームスのワルツか、気がむいたら、この作曲家
たちの作品から一曲奏く。
[解説]
two は Brahms waltz のうちの二つ。them は Brahms waltz。
修正訳:そして、おしまいはアンコールにブラームスのワルツを一曲か、気分が乗ったら
二曲。
イディオム *** 代名詞 ***
The animal, who a few seconds before had been sleeping peacefully, was now sitting
bolt upright on the sofa, very tense, the whole body aquiver, ears up and eyes wide
open, staring at the piano.
‘Did I frighten you?’ She asked gently. ‘Perhaps you’ve never heard music
before.’
No, she told herself. I don’t think that’s what it is. On second thoughts, it seemed
to her that the cat’s attitude was not one of fear.
ほんのすこし前までのどかに眠っていたネコはいま非常に緊張して、全身をふるわせ、耳
をたてて、大きく見開いた眼でじっとピアノを見ながら、ソファに立っている。
「びっくりしたの?」と彼女はやさしく訊いた。「きっと前に音楽を聞いたことがないの
ね」
きっとそうなんだわ、と彼女はひとりごちた。そんなところだと思った。だが、ネコの様
子から察するに、どうもこわがっているのではないらしい。
[解説]
tell oneself は「自分に言い聞かせる」。that は直前に述べられたこと。it は文中で問題
になっていること。ここでは that は、ネコが今はじめて音楽を聞いたこと。it は、何でネ
コがブルブル震えているのかの理由。on second thoughts は、「考え直して」。
直訳:いや、ちがうわ。と、彼女は自分に言い聞かせた。はじめて音楽を聴いたから、こ
のネコが興奮してブルブル震えているのだ、とは思わない。考え直せば、ネコの態度は恐
れの態度ではないように見受けられる。
修正訳:いや、そうじゃない、と彼女は思った。第一、このネコ、恐がっているように見
えないもの。
非制限用法 *
The final proof for her that the animal was listening came at the end, when the music
stopped.
ネコが聴いているという決定的な証拠は、曲が終ったとき、やっと訪れた。
[解説]
「やっと」とは言っていない。the end=when the music stopped.
修正訳:曲が終ったときに訪れた。
修正訳:曲が終ったときに訪れた。
仮定法 ***
‘You like that’ she asked. ‘You like Vivaldi?’
The moment she’d spoken, she felt ridiculous, but not ---and this to her was a trifle
sinister---not quite so ridiculous as she knew she should have felt.
「あんたは好きなの?」と彼女は訊いた。「ヴィヴァルディが好きなの?」
そういった瞬間、彼女はばかばかしい気になったが、といって---これは彼女にとってちょ
っといやだったが---自分でもそれは承知していたので、そうばかばかしい気はしなかった。
[解説]
仮定法がわかっていない。she should have felt は、「本来であれば彼女が感じるべきで
あった」。knew は、認識して(いた)。not quite は、部分否定。this は、直前・直後のこ
とを受け得るが、ここでは直後のこと。
直訳:そう話したとたん、彼女はばかばかしく感じたが、---そして次のことは自分でもい
ささか不吉だったのだが---本来だったらそう感じて然るべきだと自分で認識しているほ
どにはばかばかしくはなかった。
修正訳:自分でも意外だったが、それほどばかばかしいとは実は感じていなかったのだ。
第 20 回 『暴君エドワード』 Edward the Conqueror その②
by 柴田耕太郎
形容詞 *
‘You’re not ill, are you, Louisa?’
「お前はまさか病気じゃないだろうね、ルイザ?」
[解説]
これでも間違いではないが、もうすこし意味範囲を広くとったほうが会話としては良い。
修正訳:君、具合でも悪いのかい?
副詞 ***
‘Twice,’ the husband said. ‘He’s only done it twice.’
‘Twice is enough.’
「2 回だろう」と良人はいった。「2 回やればわかるだけじゃないか」
「2 回で充分よ」
[解説]
only は副詞で、twice に掛かる。「だけ、しか、こそ、すら、ばかり、だに、のみ、はじ
めて」などの訳語を適宜宛てる。
修正訳:2
修正訳:2 回しかやっちゃいない。
しかやっちゃいない。
動詞 ***
‘Come on, then. Let’s see him perform. Let’s see him tell the difference between
his own stuff and someone else’s.’
「それじゃ、やってごらん。あいつの演奏するところを拝見しようじゃないか。自分の作
曲したものと、ほかの作曲家のもののちがいをあいつに教えてもらおうじゃないか。」
[解説]
前がなくてはわからないだろうが、この perform は「演奏」でなく、「演奏しているとき
ネコが示す動作」のこと。
修正訳:あいつがどんな動きをするか
あいつがどんな動きをするか
数詞 **
‘You watch. And one thing is certain---as soon as he recognizes it, he’ll refuse
to budge off that stool where he’s sitting now.’
「まあ、見てなさい。それに、ひとつだけたしかなことがあるのよ---彼にそれとわかれば
すぐにも、いま座っているベンチからおりようとしなくなるわ」
[解説]
one thing は「ひとつ」。「ひとつだけ」なら the one thing。
修正訳:ひとつ
否定 **
‘Oh, but I couldn’t possibly go out now. There’s no question of that.’
「あら、そうだったわ。でも、たぶん出かけられないわね。そんなこと問題外よ」
[解説]
「たぶん…でない」だったら、probably not の形になる。例:“Will the operation be
successful?” “Probably not.”(「手術はうまくいくだろうか」「うまくいかないでし
ょう」)
not possibly は「まず…ない」(柔らかく言っているが「絶対に…ない」の意)。
修正訳:どうしたって
修正訳:どうしたって
否定 **
No one could possibly be certain about a thing like that.
そういったことを確信をもっていえるひとなんておそらくどこにもいはしない。
[解説]
no= not any。便宜的に書き換えると、Any one could not possibly be certain about likethat.
前と同じく not possibly の形「まず…ない」。
修正訳:まずどこにも
名詞 *
It didn’t say who Mme Blavatsky had been.
ブラヴァトスキイ夫人がなにものかということは触れていなかった
[解説]
読み方については、一般に流通しているものを優先させる(信頼できる辞書、事典、専門書
の表記を採る。ここではジーニアス英和に拠った)。「ブラバ
ブラバツ
ブラバツキー夫人」。ロシアの神智
キー夫人
学者(1831~91)。
代名詞 *
Wait a minute! I do believe they’re in the same places!
ちょっと待って!いぼのあり場所も同じだと思うわ!
[解説]
they は「いぼ」。(他の何かに加え)いぼの「あり場所も同じ」なのではなく、いぼの「あ
る場所自体が同じ」なのだ。
修正訳:同じ場所にいぼがある
同じ場所にいぼがある
副詞 **
And another on the left, at the top of the nose. That one’s there, too! And one just
below it on the cheek.
それから、鼻の上の左にもひとつあるわね。それもあるわ!それからほっぺたすぐ下にひ
とつ。
[解説]
one は「いぼ」のこと。it は「鼻の上の左に新しく見つけたいぼ」。「ほっぺすぐ下」だ
と顎のあたりになってしまうが、言っているのは「鼻の上の左に新しくみつけたいぼのす
ぐ下のほっぺのところにもうひとつのいぼがある」ということ。焦点が狭まってゆくのが
英語の叙述の特徴。just below it →on the cheek。
修正訳:その下のほっぺたのとこに。
動詞 *
‘No,’ he said, without turning round, ‘I’m not having it. Not in this house. It’ll
make us both look perfect fools.’
「おれはあいつを飼うつもりはない。この家ではいやだ。あいつにかかると、おれたちは
完全なばかに見えてくる」
[解説]
make+目的語+原形不定詞で「O を…のように見せる」。自分でばかと思うわけではない。
直訳:あのネコは我々両人を完全にバカに見えるようにさせてしまうことだろう。
修正訳:あいつのおかげでおれたちはバカ扱いされるようになる。
形容詞 **
‘We’ve been having too many of these scenes just lately, Louisa,’ he was saying.
‘No no, don’t interrupt. Listen to me. I make full allowance for the fact that this
may be an awkward time of life for you, and that---‘
「おれたちは、このところ、こんなことばかりくり返しているね、ルイザ」と彼はいって
いた。「いやいや、だまっててくれ。おれのいうことも聞いてくれ。こういえばきみにい
やな思いをさせるということは、こっちだって百も承知なんだ、それに---」
[解説]
どこから「いやな思い」との訳がでてくるのか。この an awkward time とは、女性の更年
期のことだろう。
直訳:この時期が君にとって人生のやっかいな時期でありうるということは
修正訳:君がいま、大変な時期にいるのは
動詞 *
…I wish I knew what his favourite dishes used to be. What do you think he would like
best, Edward?’
‘Goddamn it, Louisa!’
‘Now, Edward, please. I’m going to handle this my way just for once. You stay here,’
she said, bending down and touching the cat gently with her fingers. ‘I won’t long.’
…彼のお気に入りの料理がどんなものだったかわかればいいのだけれど。なにがいちばん
好きだと思う、エドワード?」
「勝手にしろ、ルイザ!」
「まあ、エドワード、よしてよ。こんどだけは、あたしが勝手にお料理するわ。あなたは
ここにいらっしゃってね」と彼女はいい、身をかがめて、ネコにやさしく指を触れた。「長
くかからないわ」
[解説]
this は「ネコの好む料理を供すること」。my way は名詞句だが、副詞句的(私流に)に
handle(対処する)に掛かる。
直訳:今度だけは、私はネコのための料理を自分流に按配するつもりです。
修正訳:今度ばかり
修正訳:今度ばかりは、
ばかりは、好きにやらせてちょうだい。
は、好きにやらせてちょうだい。
動詞 ***
Louisa went into the kitchen and stood for a moment, wondering what special dish she
might prepare. How about a soufflé? A nice cheese soufflé? Yes, that would be rather
special. Of course, Edward didn’t much care for them, but that couldn’t be helped.
ルイザは台所に入っていくと、しばらくその場に立ちつくして、どんな特別料理をあげよ
うかしらと考えた。スフレはどうかしら?おいしいチーズのスフレは?そうだわ、これな
ら特別料理になる。もちろん、エドワードは料理には口がうるさくないけれど、だからと
いってなにを食べさせてもいいというものではない。
[解説]
them は、スフレのいろいろ、のこと。care for は、(否定文で)「好む」。can’t be helped
は「どうしようもない」。
修正訳:もちろん、エドワードはスフレの類は好きでないが、そ
修正訳:もちろん、エドワードはスフレの類は好きでないが、それはしょうが
の類は好きでないが、それはしょうがない。
れはしょうがない。
形容詞 **
She was only a fair cook, and she couldn’t be sure of always having a soufflé come
out well, but she took extra trouble this time and waited a long while to make certain
the oven had heated fully to the correct temperature.
ただ彼女の料理の腕前は相当なものだった。スフレがうまくできあがるかどうかは、かな
らずしも自信がなかったものの、今日は苦心に苦心を重ね、長い時間をかけてオヴンの火
が適度の温度でまわっているかどうかをたしかめた。
[解説]
fair は「まあまあの」。only は a fair cook を強調する副詞「まずもって、まさに、それ
こそ、ほんの」などを文脈に合わせ、適宜採用する。
修正訳:腕前はそこそこでしかない
修正訳:腕前はそこそこでしかない
第 21 回 『暴君エドワード』の気になる表現
『暴君エドワード』の気になる表現
by 柴田耕太郎
今回は日本語表現があやしい部分です。
[ストーリー]
ルイザとエドワードは初老の夫婦。あるとき庭仕事をしていて、見慣れぬネコに出会う。
ネコを家に入れたまま、ルイザがピアノの稽古をしていると、ネコは曲によって異常な反
応を示す。またあろうことか、ネコの顔には大作曲家リストと同じ位置にホクロがある。
ルイザはこのネコがリストの生まれ変わりに違いないと思い込むが、エドワードはこの話
に取り合わない。ルイザがネコいやリストのために晩餐を用意している間、エドワードは
ネコを伴って庭に出ていたようだ。肝心のリストはどこにいったのか、問い詰めるルイザ
がエドワードの腕に眼をやると、手首に一条の鋭い傷がある。あなた、まさか…、と逆上
しそうになるルイザ。
・表現
代名詞の取り違い
As soon as she began to play, the cat again stiffened and sat up straighter; then,
as it became slowly and blissfully saturated with the sound, it relapsed into the
queer melting mood of ecstasy that seemed to have something to do with drowning and
with dreaming.
彼女が奏きはじめるやいなや、ネコはまたも身体をかたくしてすっと立った。それから、
曲がゆるやかな、至福にみちたところまでくると、ネコは例の奇妙な、うっとりした恍惚
の表情になった。まるで曲に溺れこみ夢みているような表情だった。
[解説]
訳文では前の it は曲、後の it はネコととれるが、同じ文にある同じ代名詞が違うものを
指すのはあまりよろしくない。it はいずれもネコを指す、ととるべきだろう。
直訳:ネコはゆっくりとこの上なく幸せに音響に浸されるようになるにつれ、溺死と夢想
に関わる何物かがあるようにみえる恍惚の奇妙なとろっとした気分に再び陥った。
修正訳:音楽が徐々に昂まり、陶酔に満たされそうな
修正訳:音楽が徐々に昂まり、陶酔に満たされそうなところまでくると、
れそうなところまでくると、…
ところまでくると、…
比喩的な意味
It stayed quite still, with its head on one side and its nose in the air watching
the man and woman with a cool yellow eye.
ネコは頭を一方にかしげ、鼻を空中につきだし、冷たい黄色い眼でこの夫婦をじっと見守
ったまま、身じろぎもしない。
[解説]
its nose in the air は表の意味では「鼻を空中に突き出し」、裏の意味では「傲慢な態度で」。
どちらともとれそうだが、リストの生まれ変わりとヒロインが思い込むネコだ、ツンとし
た感じを出したほうが、面白いのではないか。
修正訳:ツンとした様子で
ツンとした様子で
事実に即す
The Bach adaptation for organ of the D minor Concerto grosso.
バッハの曲を編曲したオルガンのためのニ短調コンチェルト・グロッソ。
[解説]
ちょっと調べれば、わかること。ヴィヴァルディの曲をバッハが編曲したのだ。
修正訳:バッハによる
修正訳:バッハによるオルガンのための編曲
によるオルガンのための編曲、ニ短調コンチェルト・グロッソ。
オルガンのための編曲、ニ短調コンチェルト・グロッソ。
補足すると、アントニオ・ヴィヴァルディ『調和の霊感』作品 3.(全 12 曲から成る協奏曲)
の第 11 番ニ短調『2 つのヴァイオリンとデュオのための協奏曲』を、J・S・バッハが『オ
ルガン協奏曲ニ短調 BWU596』に編曲した。
日本語のコロケーション
日本語のコロケーション
She wasn’t, at that particular moment, watching the cat at all---as a matter of fact
she had forgotten its presence---but as the first deep notes of Vivaldi sounded softly
in the room, she became aware, out of the corner of one eye, of a sudden flurry, a
flash of movement on the sofa to her right.
彼女は、そのときにかぎって、ネコをぜんぜん見ていなかった---正直な話、ネコがいるの
を忘れていたのだ---が、ヴィヴァルディの最初の感動的ななん小節かがしずかに部屋にひ
びくと、彼女は眼のすみから、右手のソファで急にはげしく身動きするものに気がついた。
[解説]
「眼のすみから…気がついた」とのコロケーションがおかしい。
修正訳:右手のソファで急にはげしく身動きするものを、
修正訳:右手のソファで急にはげしく身動きするものを、眼のすみで捉えた。
を、眼のすみで捉えた。
原文とのズレ
And what made it more screwy than ever Louisa thought was the fact that this music,
which the animal seemed to be enjoying so much was manifestly too difficult, too
classical, to be appreciated by the majority of humans in the world.
しかも、ルイザが考えたところでは、このネコを前よりも奇妙な状態にしたこの曲は、実
をいうと、ネコには非常にたのしく聞けるのに大多数の聴衆には非常に難解で、また古典
的なのでわからない曲なのだ。
[解説]
「曲」がネコを「奇妙」にしたのでなく、「難解な曲」をネコが理解できるのが「奇妙」な
のだ。
直訳:ルイザが思ったことに、このネコをさらに一層奇妙に思わせたのは、ネコがとても
楽しんでいるように見えるこの音楽は、きわめて難解かつ古典的で、世間の人の大多数に
は良さがわからないという事実なのであった。
修正訳:このネコ、普通じゃないと、ルイザは改めて
修正訳:このネコ、普通じゃないと、ルイザは改めて思った。なにしろ、世間の人にはあ
改めて思った。なにしろ、世間の人にはあ
まりよく理解できない難解さを伴った曲を、ネコはいっそう楽しんで聞いているようだっ
まりよく理解できない難解さを伴った曲を、ネコはいっそう楽しんで聞いているようだっ
たからだ。
ニュアンス
‘I’m quite sure of that.’
「それはわかっているよ」
[解説]
妻が興奮して、天才的なネコを発見した、とわめいているのに対し、夫はうんざりして、
いやみな相槌を打ったところ。それらしく訳さねばならない。
修正訳:「はいはい、そうでしょうとも」
想像力過剰
He had the tight-skinned, concave cheeks of a man who has worn a full set of dentures
for many years, and every time he sucked at a cigarette, the cheeks went in even more,
and the bones of his face stood out like a skelton’s.
彼は、ながいあいだに、ひとそろいの歯をことごとくすりへらしてしまった男特有の、皮
膚がひきつった、くぼんだ頬をしていて、煙草を吸うたびに頬がなおいっそうへっこみ、
顔の骨が骸骨のそれのように出てきた。
[解説]
wear は「身に付けている」。a full set of dentures は「総義歯」
修正訳:総義歯を入れている男特有の
総義歯を入れている男特有の
語義選択
‘My dear woman! This is a cat---a rather stupid grey cat that nearly got its coat
singed by the bonfire this morning in the garden.
おい、お前!あいつはたかがネコなんだよ---今朝、庭のたき火で危うく火傷しかけた、ど
ちらかといえば、たりないねずみ色の猫なんだぜ。
[解説]
rather は、よくないことを修飾する場合「かなり」の訳語を得る。「どちらかといえば」
となるのは、(1)rather ~ than の構文内 (2)前後から「強いてどちらかを選べと言われ
れば」と読めるとき。
修正訳:かなり
言い習わされている表現
Unskilled labourers
不熟練労働者
The bourgeoisie
中産階級
Those in the Path of Initiation
創造者
[解説]
修正訳:「不熟練労働者」→「未熟練労
「不熟練労働者」→「未熟練労働者」
「不熟練労働者」→「未熟練労働者」
「中産階級」→「有産階級」
「創造者」→「解脱者」
訳語選択の甘さ
On the other hand, she didn’t think much of the author’s methods of grading.
ところで、彼女は作者の分類法についてあまり考えていなかった。
[解説]
「考えない」のでなく、「顧慮しない」の意味を採る。
修正訳:ところで、彼女は作者の再生格付けに注意を払っていなかった。
誤訳
I don’t like to see you making a fool of yourself like this.
おれは、こんな具合に自分で自分を欺いているお前を見るのがたまらないよ。
[解説]
make a fool of oneself はイディオム「ばかな真似をして物笑いになる」
修正訳:君がこんな風にばかな真似をして、人に笑われるのを見たくないよ。
訳が稚拙
‘I refuse to get hysterical about it, that’s all.’
「おれは、そんな問題でぜったいにヒステリックになるまいと思っているだけさ」
[解説]
もう少しくだいたらどうだろう。
修正訳:こんなことでヒステリックになりたくない、そうおもっているだけさ。
語義選択
‘Edward, listen. As you insist on being so horried about all this, I’ll tell you
what I’m going to do.
「エドワード、よく聞くのよ。あなたがあんまりいやなことだといい張るんなら、あたし
がこれからすることを教えてあげるわ。
[解説]
as は条件でなく、理由。
修正訳:エドワード、よく聞いて。あなたがあんまりショックだと言い張るから、私はこ
修正訳:エドワード、よく聞いて。あなたがあんまりショックだと言い張るから、私はこ
れからやろうとすることを教えてあげる。
語義選択
‘Here it is. Oh yes, I remember it. It is rather awful.
「これだわ。ああ、そうだ、思い出したわ。これはひどいわ。
[解説]
awful は、ネコと作曲家リストに共通する重大な点(ほくろ)を言っている。awful はこの場
合、悪いことでなく素晴らしいという意味。
修正訳:これだわ。そうこれ。思い出した。
これだわ。そうこれ。思い出した。これってすごいの。
これだわ。そうこれ。思い出した。これってすごいの。
誤訳
‘Now, Louisa. Don’t let’s get hysterical.’
「おいおい、ルイザ。ヒステリックになるなよ」
[解説]
Let’s だから自分も妻と一体化している。
修正訳:いいかい、ルイザ。ヒステリックになるのは止めよう。
修正訳:いいかい、ルイザ。ヒステリックになるのは止めよう。
イディオム
but she took extra trouble
、今日は苦心に苦心を重ね
[解説]
take trouble は「骨折る」「尽力する」。「苦心」ではちょっとずれる。
修正訳:だが、彼女はまるで苦労をいとわなかった
修正訳:だが、彼女はまるで苦労をいとわなかった。
まるで苦労をいとわなかった。
仮定法の訳ヌケ
仮定法の訳ヌケ
It would be fun to watch his reaction. It really would.
(それを二ついっしょにサラダにして食べさせることに決めた。)(このあとヌケ)
[解説]
修正訳:彼の反応を見るのは楽しいはずだ。ほんとうに早く反応が見たい。
語義選択
But the way she was staring made him uncomfortable.
しかし、自分を見る彼女の態度が彼の気持を不安にした。
[解説]
ここは、夫が自分の大事なネコをどうにかしてしまったようなのがわかって、妻が怒りを
身のうちに蓄えつつある叙景。「見る」「態度」ともに、もっと強くしないと、このあと
に来るであろう夫婦の修羅場が想像できない。
修正訳:だが、彼女
修正訳:だが、彼女が自分を見つめる様子が、どうも落ち着かなかった
彼女が自分を見つめる様子が、どうも落ち着かなかった。
が自分を見つめる様子が、どうも落ち着かなかった
第 22 回『豚』Pig
回『豚』Pig
by 柴田耕太郎
[ストーリー
ストーリー]
ストーリー]
レキシントンは生後 2 ヶ月で孤児となり、大叔母のグロスパンに育てられた。菜食主義者
のグロスパンの手ほどきで料理を習い、腕前をめきめき上げた。その叔母が死ぬと、遺言
に従いレキシントンはニューヨークに出かけた。この地で遺産を相続し、さらに料理修行
に励むつもりだった。ところが、菜食しかしていないレキシントンは、はじめて食べた豚
肉の旨さにとりつかれる。豚肉の仕入先を求めて、屠殺場に赴くが、どうしたことか豚を
絞め殺すためのベルトコンベアーに乗せられてしまう。哀れなレキシントンの運命は…。
形容詞 ***
They had known her for two days, that was all, and she had a thin mouth, a small
disapproving eye, and a starchy bosom, and quite clearly she was in the habit of
sleeping too soundly for safety.
二人があの女と暮したのはたった二日、たったそれだけ、知っていることといえば、薄い
唇、それと認めがたいような小さな眼、骨ばった胸、それに、ぐっすりと実によく眠る女
だということぐらいだ。
[解説]
英和辞書を引くと disapproving:形容詞「不満の、不賛成の」とある。『「小さな不賛成の
眼」…「小さい目に対し人が不賛成である、ということか」…「小さくてよく見えない眼」
ということだな。』そう考えて「それと認めがたいような小さな眼」との訳にしたのだろ
う。現在分詞形の形容詞は誤訳の元となることが多い。辞書にでている意味があいまいだ
からである。おっくうがらずに、次のように考えるくせをつけるとよい。
(1) 他動詞の現在分詞形の形容詞は「人を…させる(する)」。例:interesting person(人
《自分も含まれる》を面白がらせるひと《当人》→《自分を含めた一般の人にとって》
面白いひと)
(2) 自動詞の現在分詞形の形容詞は「…している」a sleeping baby(眠っている赤ん坊)。
disapprove には自動詞と他動詞両方あるが、ここは他動詞(her eye disapproves others:
彼女の眼は他人を認めない、と読める)だから、直訳すれば「小さな、他人を好ましく思わ
ない眼」。ついでに eye が単数なのは、単数で全体を示す代表単数の使い方。別に、片目
なわけでない。
意訳:いつも文句がありそうな小さな眼
いつも文句がありそうな小さな眼
前置詞 ***
動詞 *
Then, holding it by the toe, he flung it hard and straight through the dining-room
window on the ground floor.
それから、そいつを爪先にひっかけて、力一杯けりあげ、一階の食堂の窓へぶちあてた。
[解説]
hold 物 by 部分「物の部分をつかむ」。by は位置を示す前置詞。
修正訳:それ
それ(
それ(靴を指す)
靴を指す)のつま先のところをにぎって
「爪先にひっかけて」としたものだから、「けりあげる」と続けざるをえなかったのだろ
う。
修正訳:力いっぱい投げつけた
力いっぱい投げつけた
冠詞 ***
He knew from experience that women like very much to be kissed in this position, with
their bodies held tight and their legs dangling in the air, so he went on doing it
for quite a long time, and she wiggled her feet, and made loud gulping noises down
in her throat.
こういうふうに、お互いが固く抱きあい、両脚をだらんとしてキスするのが、この女性は
大好きなのだということを、経験上ようく知っていたから、彼のキスは入念をきわめ、長
かった。
[解説]
women は可算名詞の総称用法で「女なるもの」(女性というもの)。前の that は knew の目的
語となる名詞節を導く接続詞。
修正訳:女性は
女性は
名詞 ***
The news of this killing, for which the three policemen subsequently received
citations, was eagerly conveyed to all the relatives of the deceased couple by
newspaper reporters, and the next morning the closest of these relatives, as well
as a couple of undertakers, three lawyers, and a priest, climbed into taxis and set
out for the house with the broken window.
二人が殺されたというニュースは、三人の警官がつづいて感状をもらったことから、新聞
記者たちの手によって、直ちに故人の親類すべてに伝わり、その翌朝、特に近親の者たち
は、二、三の葬儀屋、三人の弁護士、それに一人の牧師ともども、タクシーに乗って、こ
の窓の破れた家へ馳せつけた。
[解説]
無実の市民を殺して「感謝状」をもらえるはずがあるまい。この citation は(1)引用(文)
(2)感状 (3)召還、のうち(3) 。
修正訳:召還された
召還された
名詞 ***
She was a strict vegetarian and regarded the consumption of animal flesh as not only
unhealthy and disgusting, but horribly cruel.
厳格な菜食主義者である彼女は、動物たちの病気も、ただ具合が悪いとか元気がないとい
うことばかりではなく、ひどく凶暴になるということまで、きちんと始末するのだった。
[解説]
consumption を「体力の消耗」ととったようだ。でもそれでは意味が続かない。ここは「動
物の肉を食べること」
修正訳:肉食は不健康でおぞましいばかりでなく、とても無慈悲なことだと考えていた。
肉食は不健康でおぞましいばかりでなく、とても無慈悲なことだと考えていた。
名詞 **
Then take this certificate to my lawyer, a man called Mr Samuel Zucker-mann, who lives
in New York City and who has a copy of my will.
そして、その死亡診断書をわたしの弁護士、サミュエル・ザッカーマンさんという人の所
へ持ってお行き。その人はニューヨークに住んでいて、わたしの遺書をあずかっているは
ずだからね。
[解説]
「遺書」では自殺でもするみたいだ。死後のため、あらかじめ言い遺すことをまとめた書
付だから「遺言」のほうがよいだろう。
修正訳:遺言
遺言
動詞 ***
‘Never undertip a tax inspector or a policeman,’ Mr Zuckermann said.
「税官吏やお巡りに袖の下を使うのと、わけがちがいますぞ」とザッカーマン氏はいった。
[解説]
undertip は「チップを惜しむ」こと。never=not ever。ever=at any time。not ~ or ―
は両者否定。
修正訳:課税官と警官には決し
課税官と警官には決してチップを惜しまんことです。
課税官と警官には決してチップを惜しまんことです。
イディオム
The youth, who by this time was delighted to be getting anything at all, accepted
the money gratefully and stowed it away in his knapsack. Then he shook Mr Zuckermann
warmly by the hand, thanked him for all his help, and went out of the office.
いまはもう何でも手に入る気になって、すっかり浮き浮きしている少年は、大喜びで金を
もらい、それを背負い袋の中へしまいこむと、ザッカーマン氏の手を暖かくにぎりしめ、
氏の援助に心から礼をいって、オフィスから出た。
[解説]
be getting は確実な近未来「手に入る」。anything は「何でも」(all)ではなく、「どん
なものであれ」(何がくるか分からないが、とにかく手に入りさえすればよい、といった感
じ)。at all は肯定文で「とにもかくにも」。
直訳:少年はこの頃までには、もう兎に角手に入る確実性があるものは何であろうと喜ん
で受け入れるつもりになっていて
意訳:少年は今はもう
少年は今はもう、
少年は今はもう、何でもいいから早く手にしたいという気になっていて
何でもいいから早く手にしたいという気になっていて
第 23 回 『豚』Pig
『豚』Pig
の気になる表現
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ストーリー]
レキシントンは生後 2 ヶ月で孤児となり、大叔母のグロスパンに育てられた。菜食主義
者のグロスパンの手ほどきで料理を習い、腕前をめきめき上げた。その叔母が死ぬと、遺
言に従いレキシントンはニューヨークに出かけた。この地で遺産を相続し、さらに料理修
行に励むつもりだった。ところが、菜食しかしていないレキシントンは、はじめて食べた
豚肉の旨さにとりつかれる。豚肉の仕入先を求めて、屠殺場に赴くが、どうしたことか豚
を絞め殺すためのベルトコンベアーに乗せられてしまう。哀れなレキシントンの運命は…。
接続詞の訳
接続詞の訳
So that evening they both dressed themselves up in fancy clothes, and leaving little
Lexington in the care of a trained infant’s nurse who was costing them twenty dollars
a day and was Scottish into the bargain, they went out to the finest and most expensive
restaurant in town.
そこで、その夜二人はすっかりおめかしすると、一日に二十ドルも給料をとり、おまけに、
スコットランド人の乳児専門の看護婦にレキシントンをまかせて、町中で一番豪華なレス
トランへ出かけていった。
[解説]
この訳では、何で「おまけに」なのかがわからない。Scottish には、俗語で「けちな」の
意味がある。二十ドルもの日当(作品が書かれた数十年前としては高額)と、締まり屋のス
コットランド人の対照を and が示している。多少の説明訳にする必要があるだろう。
修正訳:…日給二十ドルもとるくせに、締り屋で有名なスコットランド人の乳児専門看護
修正訳:
婦に…
語義選択
‘What a fabulous place this is!’ he cried as he stood at the corner of Fifty-seventh
Street and Fifth Avenue, staring around him.
「わあ、ここは、なんてすばらしい所なんだろう!」五番街と五十七丁目の角に立って、
あたりを見まわしながら、彼はこう叫んだ。
[解説]
fabulous には二義あり(1)とてもよい→すばらしい (2)壮大→ものすごい。このあと「ど
こにも牝牛や鶏なんかいない」との台詞が続くことからも、(2)ととるのが順当だろう。
修正訳:何て凄いとこなんだろう!
修正訳:
一般人称
語義選択
In fact, the whole business affected him profoundly, almost as profoundly, one might
say, as the birth of Christ affected the shopkeeper.
実際すべてのビジネスは彼に深い感動を、あたかも、ある人がいったように、クリスト誕
生が小売商人に与えるような、深い感動を与えるのであった。
[解説]
affect は(1)[SVO の形で]…に影響する。例:A damp, cold day affects his health.(じ
めじめした寒い日は彼の健康に悪い) (2)[通例 be ~ed で]…で感動する。例:I was much
affected by her excellent performance.(私は彼女のすばらしい演奏に深く感動した)。
ここは(1)。
one might say の one は一般人称(人間全般を指す)であって、特定の誰かを指すものではな
い。
「クリスト誕生が小売商人に与える」ものは「感動」でなく「影響」。ここ、皮肉っぽく
言っている。キリストが生まれ、クリスマス・プレゼントで小売商が潤い嬉しい悲鳴をあ
げる、のと同じ効果を、生命ビジネスはザッカーマン氏にもたらしている(人が死ねば葬儀
で儲かる)、ということ。
修正訳(
修正訳(全文)
全文):それどころか、ザッカーマン氏の関わる葬式ビジネス全体は、氏に深い影
響を及ぼした。キリストの生誕記念日で小売商が大いに潤いうれしい悲鳴をあげるのとほ
とんど同じ深い影響を氏にもたらした、といえるかも知れない。
第 24 回『ほしぶどう作戦
ほしぶどう作戦』The
ほしぶどう作戦 The Champion of the World
その①
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ストーリー]
クロードとゴードンはガソリンスタンドの共同経営者。ヘイゼル氏が所有する森で密猟を
することに決めた。ヘイゼルは成金で、上流階級に入り込むための手段として、年に一度、
自分の森で、雉の狩猟会を催している。その前に、ほしぶどうを使った新式の狩猟法でご
っそり雉をせしめ、ヘイゼルの鼻を明かしてやろうというわけだ。ことは予定通り進んだ
はずだったが、思わぬ計算違いが生じた。ほしぶどうに注入した睡眠薬の量が少なく、仮
死状態になっていたはずの雉が隠していたところから大量に飛び出し、二人の目論見は泡
と消える始末に。
間投詞 **
‘I don’t usually approve of new methods,’ he said. ‘Not on this sort of a job.’
‘Of course.’
‘But by God, Gordon, I think we’re on to a hot one this time.’
「ふつうなら、おれは新しい方法なんて認めないんだがな」と彼はいう。「ことに、こう
いう仕事のばあいは認めないんだ」
「あたり前じゃないか」
「しかしだな、ゴードン、こんどというこんどはすげえ名案だと思うんだ」
[解説]
of course は、(1)もちろん (2)確かに…だが (3)ああ、そうだった(忘れていたことを示
唆されて)、のうち(3)。無神経に(1)を機械的に充てると会話の流れがおかしくなることが
ある。
修正訳:なるほど
修正訳:
イディオム ***
‘Nobody ever shoots pheasants, didn’t you know that? You’ve only got to fire a
cap-pistol in Hazel’s woods and the keepers’ll be on you.’
「雉を鉄砲で撃つやつなんかひとりもいないんだよ、そんなこと知らなかったのか?ヘイ
ズルの森で撃てるのは玩具のピストルだけだ。それに番人が見張ってるじゃねえか」
[解説]
ここ、直訳すると「君はおもちゃのピストルを発砲しさえすればよい。すると番人たちが君
の側にいるようになる」。have only to はイディオムで「…しさえすればよい」。got は動き
を強調するが、虚字のようなもので特に意味はない(have to = have got to)。and は「そう
すれば」。on は、接近を示す前置詞「…の側に」。
修正訳:おもちゃのピストルでも撃ってみろ、すぐさま番人が飛んでくるぞ。
修正訳:
間投詞 **
‘Do you know,’ he said, ‘my dad used to keep a whole flock of prime cockerels in
the back yard purely for experimental purposes.’
「知ってるだろうが」と彼はいった。「親父は純粋に実験の目的から、裏庭に雄のひよこ
を飼っていたものだった」
[解説]
これも、重い意味でないことが多い。「あのね」「でね」「…ね」といった感じ。
修正訳:あのな。
修正訳:
名詞 **
We had been walking steadily for about forty minutes and we were nearing the point
where the lane curved round to the right and ran along the crest of the hill towards
the big wood where the pheasants lives.
もう四十分も休まずに歩いていたので、小道が右にカーヴして、丘の頂上を、雉子が棲息
している大きな森へとつづいているあたりに近づいていた。
[解説]
and は curved round to と ran along を並列。crest は(1)頂上 (2)尾根、だが ran along
するのだ、(2)をとる。
直訳すると「野道が右に回りこみ、雉が生息している大きな森のほうへ丘の尾根沿いに走
っている地点、に近づいていた」
修正訳:野道が右に折れて雉のいる森に向かって尾根沿いに進む地点がまもなくだった」
修正訳:
イディオム ***
‘I don’t suppose by any chance these keepers might be carrying guns?’ I asked.
「万が一にも番人どもが銃を持ってないってことがあるかな」と私は訊いた。
[解説]
I don’t suppose (that) ~ は、いらつきや不安、怒りを含意する。例:I don’t suppose
she’ll come.(彼女は来ないんじゃないかな)。by any chance はイディオムで「ひょっと
して」「万が一にも」だが、前の not と結び「どうあっても(…ない)」。平叙文にクエス
チョン・マークがあるのは、驚き・不安を含意。例:You are not going yet?(まだ行かな
いんですか)。
直訳すると「万が一にも、番人たちが鉄砲を携えているなんて思えないよね」
修正訳:番人が鉄砲を持ってるなんてこと、絶対にないよね。
修正訳:
第 25 回『ほしぶどう作戦』The
回『ほしぶどう作戦』The Champion of the World その②
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ストーリー]
クロードとゴードンはガソリンスタンドの共同経営者。ヘイゼル氏が所有する森で密猟
をすることに決めた。ヘイゼル氏は成金で、上流階級に入り込むための手段として、年に
一度、自分の森で、雉の狩猟会を催している。その前に、ほしぶどうを使った新式の狩猟
法でごっそり雉をせしめ、ヘイゼルの鼻を明かしてやろうというわけだ。ことは予定通り
進んだはずだったが、思わぬ計算違いが生じた。ほしぶどうに注入した睡眠薬の量が少な
く、仮死状態になっていたはずの雉が隠していたところから大量に飛び出し、二人の目論
見は泡と消える始末に。
副詞 ***
The lane ran right up to the wood itself and then skirted the edge of it for about
three hundred years with only a little hedge between.
小道は森までまっすぐにのびていて、それから森のへりを三百ヤードばかりつづいている
が、そこは道の両側に生垣がまばらにあるだけだ。
[解説]
between は副詞で「間に」。小道が森のところまでまっすぐに伸び、突き当たったところで
300 ヤードばかり森の縁を回りこんでいる。一つづきの低い生け垣が、森と小道の間を隔て
ていることになる。
修正訳:低い生け垣がずっと境目をつくっていた。
動詞 ***
He kept his head moving all the time, the eyes sweeping slowly from side to side,
searching for danger. I tried doing the same, but soon I began to see a keeper behind
every tree, so I gave it up.
しじゅう頭を動かして、視線をゆっくり左右にくばりながら、油断を怠らなかった。私も
おんなじことをやってみたが、まもなく、どの木立のかげにも番人のいることがわかって
きて、途中で諦めてしまった。
[解説]
see は意味範囲がひろく「わかる」「理解する」の訳になることもあるが、ここは「(意識
せずとも)自然と目に入る」の意味。恐怖感のため、いもしない番人がいるように見えてし
まったのである。
修正訳:どの木のうしろにも番人がいるように見えてきたので、止めた。
イディオム **
Poacher’s arse is nothing to the punishment that a female is willing to endure.
密猟者の尻は、女性が嬉々として耐える罰とはくらべものにならないのだ。
[解説]
この前に、女性は宝石をもらうためならどんなことでもしかねない、といった意味のこと
が述べられている。密猟者の誇り(後ろから撃たれた名誉の負傷の証しである尻の傷)と、
女性が貴金属を男からせしめるための(肉体などの)代償とを比べてほしくない、といった
皮肉が原文からは窺われる。意訳が必要だろう。
修正訳:女が宝石を男からせしめるのに払う犠牲などと比べものにならないほど、誇り高
修正訳:女が宝石を男からせしめるのに払う犠牲などと比べものにならないほど、誇り高
いものなのだ。
イディオム ***
Claud had told me that the clearing was the place where the young birds were introduced
into the woods in early July, where they were fed and watered and guarded by the keepers,
and where many of them stayed from force of habit until the shooting began.
「その空地で、ひなは餌を与えられ、水浴びをさせてもらい、番人に守られながら、ひな
の多くは狩猟が解禁になるまでに習性からぬけだすのだ。
[解説]
from force of habit は「習慣の力で」「習慣の力によって」→「習慣になっているので」。
人間にあれこれ世話されるのが習慣になって、そのままシーズンまでその場所に留まる、
のだ。
修正訳:そこでそのままぬくぬくするのが習慣となるのだ
代名詞 ***
Both birds turned their heads sharply at the drop of the raisin. Then one of them
hopped over and made a quick peck at the ground and that must have been it.
と、一羽が跳んできて、急いで地面をついばんだが、ほしぶどうにちがいなかった。
[解説]
that は直前のことを、it は文中で問題になっていることを指す。ここでは that は「一羽
が跳んできて、急に地面をついばんだ」こと。it は、上掲部分だけでは分からないだろう
が「鳥の密猟に役立つ方法」。直訳すれば、「鳥が一羽跳んできて急いで地面をついばん
だことが、自分たちが模索している一番効果的な密猟法であるにちがいなかった」
修正訳:これこそまさに求めていた密猟法だった
名詞 **
His lips were thin and dry, with some sort of a brownish crust over them.
唇がうすく、かわいていて、茶色のパンの皮みたいなものがくっついている。
[解説]
crust には確かに「パンの皮」の意味もあるが、over とある以上「くちびる全体を覆って」
いるのだ。with は状態を示す前置詞。「くちびる全体を覆ったある種の茶色っぽい堅い外
皮をともなって」くちびるはうすく乾いていた、のだ。
例:A crust had formed on his lips.彼のくちびるはかさかさになっていた。
修正訳(
修正訳(全体)
全体):うすい唇は表面が茶色っぽくかさかさに乾いていた。
名詞 *
Claud was in a whirl of ecstasy now, dashing about like a mad ghost under the trees.
クロードは、すっかり有頂天になって、気ちがいの幽霊そこのけに木の下をかけずりまわ
っている。
[解説]
「有頂天」(in a whirl of ecstasy 直訳は「有頂天の旋回状態」)から「気ちがい」の連
想が浮かばない。mad は多義だが、ここは「陽気な」「浮かれた」の語義を採るべきだろう。
修正訳:浮かれた幽霊
名詞 **
He spoke the name proudly and with a slight proprietary air, as though he were a general
referring to his bravest officer.
まるで、勇猛果敢な部下の将校のことを口にした将軍のように、誇らしげに、ちょっと財
産家らしい様子をみせて、名前をいった。
[解説]
proprietary を「所有者の」の原義から「物持ち」ととり、「財産家」の訳をあてたのだろ
う。だがこの将軍が所有するものは「将校」。つまり「有能な部下」を持っていることを
誇りに思っているのだ。
修正訳:有能な手下を抱えている余裕を見せ
動詞 ***
But they were too dopey still to take any notice of us and within half a minute down
they came again and settled themselves like a swarm of locusts all over the front
of my filling-station.
しかし、まだ薬が効いているので、私たちにはいっこうに気がつかない。それどころか、
三十分としないうちに、雉子どもはまたやってきて、ガソリン・スタンドの前に、バッタ
の群のように、落ちついてしまった。
[解説]
half a minute は「三十秒」。
修正訳:一分と経たないうちに
第 26 回『ほしぶどう作戦』The
回『ほしぶどう作戦』The Champion of the World の気になる表現
by 柴田耕太郎
[ストーリー]
ストーリー]
クロードとゴードンはガソリンスタンドの共同経営者。ヘイゼル氏が所有する森で密猟
をすることに決めた。ヘイゼルは成金で、上流階級に入り込むための手段として、年に一
度、自分の森で、雉の狩猟会を催している。その前に、ほしぶどうを使った新式の狩猟法
でごっそり雉をせしめ、ヘイゼルの鼻を明かしてやろうというわけだ。ことは予定通り進
んだはずだったが、思わぬ計算違いが生じた。ほしぶどうに注入した睡眠薬の量が少なく、
仮死状態になっていたはずの雉が隠していたところから大量に飛び出し、二人の目論見は
泡と消える始末に。
名詞の意味がわかりにくい
名詞の意味がわかりにくい
On his head he wore a brown cloth cap with the peak pulled down low over his eyes,
and he looked like an apache actor out of a nightclub.
上のとんがった茶色いラシャの帽子をまぶかにかぶった彼は、まるでナイトクラブから抜
けだしてきたアパッシュ・ダンサーそっくりだった。
[解説]
「アパッシュ・ダンサー」では、例えがわからない。apache actor は「悪役」。
修正訳:ナイトクラブから抜けだしてきた悪役そのもの
間投詞のニュアンス
間投詞のニュアンス
‘But it’s over three miles up to that wood.’
‘Yes,’ he said. ‘And I suppose you realize we can get six months in the clink if
they catch us.’
「でも、あの森まで三マイルじゃきかないよ」
「そうだとも」と彼はいった。「それに、お前だって百も承知だと思うが、つかまったら
最後、六ヶ月くさい飯を食わされるんだ」
[解説]
この前に「車でいこう」「いや、見つかる危険がある」とのやりとりがある。Yes 以下は相
手の台詞の全面肯定でなく「たしかに…だが」の感じ。
修正訳:「なるほど」と彼はいった。「だがな、…」
修正訳:「なるほど」と彼はいった。「だがな、…」
コロケーション
Mr Victor Hazel was a local brewer with an unbelievably arrogant manner. He was rich
beyond words, and his property stretched for miles along either side of the vally.
ヘイゼル氏はパイとソーセージの製造業者で、態度のおよそ横柄な男である。お話になら
ないほどの大金持で、その地所は谷の両側のなんマイルにもわたっていた。
[解説]
「お話にならないほどの」ときたら、次には悪いものが続く(例:お話にならないほどのケ
チ)のが普通。「大金持ち」の形容は、驚きを表しこそすれ肯定的なものでなければなるま
い。
修正訳:言葉では尽くせないほどの大金持ちで
同じ表現による日英語意味の誤差
Claud cried, rubbing his hands together hard.
クロードはえらいいきおいでもみ手をしながら叫んだ。
[解説]
日本語で「もみ手する」といえば、頼みごとでもするようだ。英語の rub one’s hands は、
満足のしぐさ。
修正訳:嬉しそうに両手を合わせ
訳しすぎ
‘You never invited my opinion,’ I said.
「ぼくの意見を聞くきみか」と私はいった。
[解説]
この前に「何で早くその名案を教えてくれなかった」と相棒が僕を責める台詞がある。そ
れを受けてだから、直訳すれば「君は僕の意見を求めなかった」。元訳は間違いとはいえな
いが、素直に訳したほうが、理解しやすい。
修正訳:「僕の意見なんか聞いたことないじゃないか」
ことば足らず
When she had gone, he remained standing in the middle of the driveway squinting
anxiously up at the sun which was now only the width of a man’s hand above the line
of trees along the crest of the ridge on the far side of the vally.
女が行ってしまっても、クロードは車道のまんなかに突ったったまま、眼を細めて心配そ
うに太陽を見た。その太陽も、いまや谷のむこう側の尾根に沿った森の上まで落ちて、お
となの手の大きさぐらいしかなかった。
[解説]
訳文では、尾根にびっしりと木が植わった森があるかのようだ。直訳は「尾根の馬の背づ
たいにずっと木々が連なっているその上に」
修正訳:尾根を飾る木々の上に
分かりにくい表現
As he flashed by, we would sometimes catch a glimpse of the great glistening brewer’s
face above the wheel, pink as a ham, all soft and inflamed from drinking too much
beer.
その車がさっと走りすぎるとき、ハンドルの上の大きな脂ぎった顔をときたまちらっと見
ることがあった。その顔ときたら、ハムのようにあかく、あんまり肉を食べすぎたために、
ぶよぶよして、その上、いまにも火を噴きそうだった。
[解説]
何で「火を噴きそう」なのかわからない。直訳は「ハムのように血色よく、あまりに多量
のビールを飲むことによりすっかりぶよぶよで赤く腫れていた」
修正訳:その顔ときたら、ハムのようなピンク色で、ビールの飲みすぎでぶよぶよと腫れ
修正訳:その顔ときたら、ハムのようなピンク色で、ビールの飲みすぎでぶよぶよと腫れ
ていた
誤植
‘The shooting-season opens Saturday and the birds’ll be scattered all over the place
after that---if there’s any left.
「猟の解禁は土曜日だし、そうなったら、鳥どもはほうぼうらじゅうに散らばっちまって
---もっとも雉子がいればの話だがな」
[解説]
「ほうぼう」と「そこらじゅう」が混じってしまったのだろう。
修正訳:そこらじゅうに
修正訳:そこらじゅうに
コロケーション
Claud paused and glanced over his shoulder as though to make sure that there was nobody
listening.
クロードは話をやめて、まるで聞いている人間がほかにいないのを確かめるみたいに、肩
ごしにふり返ってみた。
[解説]
「肩越し」は他人の、が含意される。「自分の肩越し」とはまず言わない。
修正訳:首を後ろに向けた
コロケーション
‘I know it,’ he said. ‘Many’s the night when I was a nipper I’ve gone into the
kitchen and seen my old dad lying face downward on the table and Mum standing over
him digging the grapeshot out of his buttocks with a potato knife.’
「餓鬼のころ、しょっちゅうあったことだが、夜、おれが台所に入っていってみると、親
父がテーブルに顔をうなだれ、その前におふくろが立って、ポテトナイフで親父の尻から
葡萄弾をえぐりだしてたっけ」
[解説]
「(親父が)うなだれ、…」のつながりでは、…の箇所には、親父の行為がつづくものと予
期して読者は読んでゆく。それが読点のあと主語が変わってしまうため、文の流れがすっ
きりしない。
修正訳:テーブルに顔を落とした親父がいて、
強調しすぎ
‘Follow me,’ Claud whispered. ‘And keep down.’ He started crawling away swiftly
on all fours, like some kind of a monkey.
「かがんだままでだぞ」彼はある種の猿みたいに四つん這いになって、すばやく這ってい
った。
[解説]
どんな種類の猿なのか、と思ってしまう。「ある種の」は不要だろう。
修正訳:猿
コロケーション
This one was a tall bony man about forty with a swift eye and a hard cheek and hard
dangerous hands.
この番人は、四十がらみの上背のある骨ばった男で、目つきが鋭くて、顔のつくりがごつ
く、いかにも腕っぷしの強そうな手をしていた。
[解説]
「顔のつくり」に対し「ごつい」という形容はあまりしない。「手」が「腕っ節強い」と
も言いかねる。
修正訳:頬が厚く締まって、一発食らわされたらヤバそうな腕をしていた
目的語が不明
‘Keep looking!’ Claud shouted. ‘They can’t be far.’
「さがしてみろ!」と、クロードがどなる。
「遠くまで行けないんだから」
[解説]
睡眠薬を飲んだ雉たちが、あちこちにどんどん落ちてくる。それをかき集めようとする件
が、この前にある。They は、雉をさす。can は論理的可能性。直訳は「雉たちは遠くに存
在しようがない」。探していたほうの視点で述べているところ。
修正訳:この近くにいるはずだ
訳ヌケ
‘One hundred and twenty birds! It’s an all-time record!’
I didn’t doubt it for a moment.
‘The most my dad ever got in one night was fifteen and he was drunk for a week
afterward.’
‘You’re the champion of the world,’ I said. ‘Are you ready now?’
「百二十羽だぞ!世界新記録だ!」
(ヌケ)
「きみは世界選手権をとったんだ」と私はいった。「もういいか?」
[解説]
ここ、大事な箇所。訳抜け箇所を埋める。not ~ for a moment で「ちっとも…ない」。
修正訳:私はまるで疑わなかった。「親父が一番捕ったときでさえ、一晩十五羽だ。それ
から一週間、ドンちゃん騒ぎだったぜ。」
から一週間、ドンちゃん騒ぎだったぜ。」
原文とのズレ
Bessie ignored him and flew on, and she was so close now I could see her big red face
with the mouth wide open, painting for breath. I noticed she was wearing white gloves
on her hands, very prim and dainty, and there was a funny little white hat to match
perched right on the top of her head, like a mushroom.
ベッシイのほうは知らん顔をして、走っているのだが、すぐ近くまで来ていたので、口を
大きく開けて、あえぎながら息をしているベッシイの大きな赤い顔が見えた。私は、彼女
が両手にまっ白な手袋をはめていることに気がついた。それがまた、ひどくとりすまして、
気むずかしく見える。それに、頭の上には、マッシュルームみたいな、妙なかたちの、小
さな白い帽子をのせているのだ。
[解説]
, and の前後で、映画でいえば視点が変わる。
prim and dainty が示す「優雅に気取った装身具」と、慌てふためく様の対比を訳に出して
ほしいところ。
funny とあるが、帽子自体が「奇妙」なのでなく、この修羅場(ベッシイが引く乳母車の中
から雉が飛び出しそうなこと)と、かわいい帽子の取り合わせを、筆者が funny と感じてい
るのだ。
修正訳(
修正訳(全体)
全体):ベッシイのほうは知らん顔をして走りつづけていたが、近づくにつれ、口
を大きく開け、顔を真っ赤にして喘いでいる様が目に入った。気取ったオシャレな白い手
袋と何か不釣合いだ。おまけに、頭にちょこんと乗せた小さな白い帽子がやけに可笑しく
袋と何か不釣合いだ。おまけに、頭にちょこんと乗せた小さな白い帽子がやけに可笑しく
見える。
(了)