D - 大阪府立大学

日本生態学会第55回大会,福岡,2008年3月16日
雑食:食物網における直接効果と間接効果をつなぐ
ギルド内捕食系の安定性と個体群動態
Stability and Population Dynamics of
Intraguild Predation
難波 利幸
大阪府立大学・理学系研究科
共同研究者:田辺久美,前田奈緒美
(大阪女子大学)
雑食:複数の栄養段階にまたがって餌をとること
複雑なランダム食物網は不安定 (May, 1972)
雑食のリンクを持つ(持たない)8つの4栄養段階食物連鎖
N4
N3
N2
N1
31link
42link
41link
3141link
4142link
3142link
雑食のリンクとは他の栄養段階をまたぐリンク
4


i  1..4
N i   bi   aij N j  N i
j 1

 Pimm and Lawton (1978)
314142link
内部平衡点の存在を仮定して,
安定性の解析
不安定なモデルの割合
Rank of omnivory
0
1
2
3
Position
species linked
―
3-1
4-2
4-1
4-1 & 4-2
3-1 & 4-2
3-1 & 4-1
3-1, 4-1 & 4-2
群集行列の要素 aij Ni*
を乱数を振って決める
Model parameter distributions
Vertebrate Vertebrate/
Parasitoid
insect
0
0
0
81
78
40
91
91
68
96
96
51
98
98
59
97
97
74
99
99
50
100
100
72
不安定平衡状態を持つ割合が非常に高い
(雑食のリンクの位置によらない)
自然界で多くの雑食者を含む食物網は稀 (P&L 1978).
雑食の普遍性
1980年代後半から,複雑な食物網の詳細な
解析によって,雑食は稀ではないという認識
が広まった
(Winemiller 1990, Polis 1991).
アザミウマ
ハダニ
安田(1996)
(Polis(1991)より)
アザミウマの個体数は大きく振動する
Davidson and Andrewartha (1948)
カオス?
Thrips imaginis
ギルド内捕食の数理モデル
1. 共存の必要条件は,
資源利用でギルド内被
食者の効率がいいこと
(Polis & Holt 1992, Holt & Polis 1997)
2. ギルド内捕食者とギル
ド内被食者は,生産性
が中程度のとき共存で
きる (Holt & Polis 1997, Diehl &
Feißel 2000).
3. 共存平衡状態が不安
定で,リミットサイクル
や多重安定状態が現
れることがある (Holt & Polis
1997, Holt 1997).
Lotka-Volterra model(Holt
& Polis 1997, Holt 1997)

dR  
R
 r 1    aN  a ' P  R
dt   K 

dN
 abR  m  P N
dt
dP
 N  a ' b' R  m' P
dt
実験的にもある程度検証され
ている (Morin 1999).
II型の機能の反応
(McCann & Hastings,1997)
dR
R
CR

 R 1    xC yC
dt
R  R0
 K
PR
 xP y PR
R02  (1   )C  R

dC
R 

  xC C 1  yC
dt
R  R0 

 (1   ) xP y PC
PC
R  (1   )C  C0
dP
CP
  xP P  (1   ) xP y PC
dt
R  (1   )C  C0
 xP y PR
PR
R02  (1   )C  R
雑食は食物網を安定化する
捕食者の資源利用と被食者利用にトレード
オフがある
Lotka-Volterraモデル
(Tanabe & Namba 2005, Namba, Tanabe & Maeda 2008)
dN 1
 r1  a11N1  a12 N 2  a13 N 3 N1
dt
dN 2
  r2  a21N1  a22 N 2  a23 N 3 N 2
dt
dN 3
  r3  a31N1  a32 N 2  a33 N 3 N 3
dt
定常状態
 r

(i) (0, 0, 0) (ii)  1 , 0, 0 
 a11

 r1a33  r3a13
 r1a22  r2a12

r1a21  r2a11
r1a31  r3a11 




(iii) 
,
, 0  (iv) 
, 0,
a11a33  a13a31 
 a11a22  a12a21 a11a22  a12a21 
 a11a33  a13a31
(v)

N1* , N 2* , N 3*

 N1*n N 2*n N 3*n 

 
,
,
D
D 
 D
分母のDに注目
D  a11a22a33  a12a23a31  a13a21a32
 a11a23a32  a13a22a31  a12a21a33
Routh-Hurwitzの条件
3  c12  c2  c3  0
c1  DN1* N 2* N3*
D<0ならば,共存平衡状態は不安定で多重安定性が現れる
密度効果を無視できるとき a11=a22=a33=0
*
* *
c1c2  c3  (a12a23a31  a13a21a32 ) N1 N2 N3
D>0ならば負になることがある→振動
a12 a23 a31  a13 a21a32
a31 a21 a32

, or e13  e12 e21
a13 a12 a23
直接経路の効率が
低いとき,振動が起こる
安定性と分岐
内的自然増加率と死亡率
密度依存性
食うー食われる関係
e12 
a21
が大きいとき,
a12
カオスが現れる
e23 
a
a32
が大きいとき, e13  31 が小さいとき,
a13
a23
カオスが現れる
カオスが現れる
直接経路の効率 e13 が,間接経路の効率
e12 e21 よりずっと低いとき, カオスが現れる
自然界でカオスがめったに現れないとすると,何
が複雑な食物網を安定にしているのか?
第4の種を加えることの効果
第4の種は,基底の資源,ギルド内被食
ギルド内捕食者を食う
者,ギルド内捕食者のうち1種しか食わ
上位の捕食者
ないと仮定する
ギルド内被食者を
基底の資源を食う
食う捕食者
消費者
Namba, Tanabe, and Maeda, 2008
基底の資源を食う種を加えたモデル
dN1
 r1  a11N1  a12 N 2  a13 N 3  a14 N 4 N1
dt
dN 2
  r2  a21N1  a23 N 3 N 2
dt
dN 3
  r3  a31N1  a32 N 2 N 3
dt
dN 4
  r4  a41N1 N 4
dt
安定性は a14 には依存しない
安定性はa24 には依存しない
ギルド内被食者を食う種
dN 1
dt
dN 2
dt
dN 3
dt
dN 4
dt
 r1  a11N1  a12 N 2  a13 N 3 N1
  r2  a21N1  a23 N 3  a24 N 4 N 2
  r3  a31N1  a32 N 2 N 3
  r4  a42 N 2 N 4
安定性は a34 には依存しない
ギルド内捕食者を食う種
dN1
 r1  a11N1  a12 N 2  a13 N 3N1
dt
dN 2
  r2  a21N1  a23 N 3 N 2
dt
dN 3
  r3  a31N1  a32 N 2  a34 N 4 N 3
dt
dN 4
  r4  a43 N 3 N 4
dt
基底の資源を食う第4の種を加えた場合
3種系がカオスであるときに,
第4の種を加える
第4の種が侵入できるようになると,
すぐに,ギルド内被食者とfギルド
内捕食者が絶滅する定常状態が
安定になる。食物連鎖は崩壊する。
ギルド内被食者を食う第4の種を加えた場合
第4の種が侵入すると,カオス的振動は治
まり,リミットサイクルを経て安定平衡状態
に落ち着く。 安定化効果は,間接
経路の効率を下げるためかもし
れない。
ギルド内捕食者を食う第4の種を加えた場合
第4の種が侵入しても,カオス
的振動は治まらない。 この理由
は,第4の種が直接経路と間接
経路の相対的効率に影響しな
いからかもしれない。
弱い相互作用に歪んだ相互作用の強さの分布
Emmerson and Yearsley (2004)
安定な食物連鎖では,直接経路が非効率的
カリブ海の食物網での相互作用の強さの分布と雑食
Bascompte et al. (2005)
相互作用の強さの分布は,対数正
規分布(わずかに有意ではない)
強い相互作用が続いて現れることは,
TFCs(3栄養段階の食物連鎖)では稀。
二つの強い相互作用が続いて現れるTFCs
は, 強い雑食のリンクを持つ。
つまり,間接経路の効率が悪いときには,
直接経路の効率も悪い。
Neutel et al. (2007)
地下の食物網の4段階の初期遷移
長さ3の(ポジティブフィードバック)
ループの最大重み
1


f13 B2  2 
 f 23 f12
 
max 
e13
E3
d1 B1  
 d 3 d 2


捕食者ー被食者群集の安定性は,
雑食に組み込まれた3種の フィー
ドバックループの最大重みによっ
て制限される。
ギルド内捕食などの雑食は,食物網
の構造と安定性を決める重要な要因
の一つかもしれない
直接経路が間接経路に比べてエネル
ギー効率において劣ることが,複雑な
食物網を安定化させるかもしれない。