腎動脈/下肢動脈エコー検査スタート!

2010 年
3 月 16 日発行
検査部ニュース 第 26 号
腎動脈/下肢動脈エコー検査スタート!
検査部では 2010 年 3 月から腎動脈と下肢動脈のエコー検査をスタートいたしました。
今回はこれらの検査の目的や意義などについて特集します。
腎動脈エコー検査
●腎動脈エコー検査の意義
腎動脈狭窄(Renal Artery Stenosis;RAS)は、全身の動脈硬化性病変を反映し、頚動脈
狭窄や心血管疾患との合併が多いことが知られています。RAS の評価は、心筋梗塞や脳
梗塞など生命予後に影響を及ぼす疾患の診療上、重要な情報になると考えられます。
RAS の診断には、放射線を用いた CT 血管造影やデジタルサブトラクション血管造影、
磁気を用いた MR 血管撮影などがあります。これらは RAS の存在を正確に証明することが
できますが、被ばくや造影剤の問題もあり、ペースメーカーが挿入された患者さんでは検
査ができない場合もあります。一方、エコー検査は、従来の方法では得られない血流速度
が評価できること、また腎障害のある患者にも繰り返し施行できることなどの利点があり、
簡便かつ安全なスクリーニング検査として有用です。
●腎動脈エコーの検査法
右腎動脈
大動脈
左腎動脈
腎動脈起始部の収縮期 最高血流速度( Peak
systolic velocity;PSV)を測定し、腎動脈の狭窄の
程度を評価します(図1)。同時に腹部大動脈の血
流も測定します。これは後述する RAS の評価基準
の一つに、腎動脈と大動脈の血流速度比があるた
めです。また腎内血管(区域動脈・葉間動脈)の血
流を測定することにより、腎実質障害の程度を評
価することも可能です(図 2)。このデータは、RAS
に 対 す る 経 皮 的 腎 動 脈 形 成 術 ( Percutaneous
(図1)腹部大動脈横断像から分岐する左右腎動脈
葉間動脈
区域動脈
Transcatheter Renal Angioplasty; PTRA)適応判定
にも用いられています。
●腎動脈狭窄の評価方法
腎動脈起始部の片側または両側の PSV が
180cm/sec 以上、または腎動脈/腹部大動脈血
流速度比(renal/aorta ratio:RAR)が 3.5 以上の
場合、有意な腎動脈狭窄(径狭窄率 60%以上)
(図2)腎内血管(区域動脈と葉間動脈)
が示唆されます(表1)。
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●腎内血流(区域・葉間動脈)の評価方法
(表 1)
腎機能評価において、末梢血管抵抗を示す指標 RI
測定結果
狭窄の程度
PSV:<180cm/s,RAR:<3.5
正常
(resistance index:抵抗係数)値が用いられています。
PSV:>180cm/s,RAR:<3.5
60%未満
これは腎内血管の収縮期最高血流速度と拡張末期血
PSV:>180cm/s,RAR:>3.5
60%以上
流速度から求めることができる簡便な指標です。RI>0.8
血流シグナルなし
閉塞
の場合には高度の腎機能障害で予後不良とされていま
Standness,Jr.,D.E.:Am.J.Kidney Dis.,24:674~678,1994
す。RI 値が高値となる例では血流を PTRA で回復しても
腎機能の改善が難しいことが報告されています。
このように、腎動脈エコーは非侵襲的に RAS が評価できるだけでなく、腎実質障害の程度、治療方針
や効果などの判定に役立つ情報が得られる大変有用な検査法です。
下肢動脈エコー検査
●下肢動脈エコー検査の意義
閉塞性動脈疾患は末梢動脈疾患のなかでも最も頻度が高く、大部分は動脈硬化症によるものです。下
肢では閉塞性動脈硬化症(ASO)が最も多く、エコー検査は主にこれが疑われる場合のスクリーニングに
用いられます。下肢の脈の触れる部分の血流波形を観察することで、動脈血流障害の有無を評価するこ
とができます。またステント留置後の経過観察にもエコー検査は威力を発揮します。MRI でステント内部の
評価はできませんが、エコーでは血流をカラードプラで描出可能であり、再狭窄の有無を比較的容易に評
価できます。このようにエコー検査の最大の利点は、侵襲性も放射線被ばくもなく、簡便に下肢動脈の血
行動態を評価できることです。
●下肢動脈の測定部位とドプラ波形の分類
D1
D2
急峻な立ち上がりの収縮
期の山 とそれ に続く逆流
成分を伴う正常波形
ピークの形成はあるが収縮
期の山の幅は広く、逆流成
分が消失
D3
D4
総大腿動脈、浅大腿動脈、膝窩動脈、後脛骨動脈
の4か所で血流波形、PSV、収縮期開始から PSV に
達するまでの時間(acceleration time:ACT)を計測し、
右記の4型に分類します(平井らの分類)。
D1型を示した場合は、この測定部位よりも中枢
側には有意な狭窄はないと判断されます。D2型は、
測定部よりも中枢側に50%未満の狭窄が疑われる
収縮期の山はなだらかで、
ピークの形成がないもの
緩やかな連続波形
パターンです。一方、D3型や D4型のように波形のピ
ークがなく、ACT が延長している場合は、測定部位よりも中枢側に50%以上の重度の狭窄や閉塞がある
ことが示唆されます。また狭窄がある場合は狭窄部位での PSV が有意に上昇します。
以上、腎動脈/下肢動脈エコー検査の概要を紹介いたしました。エコー検査の利点と限界をご理解の上、
有効にご活用ください。
謝辞
このたび腎動脈・下肢動脈エコー検査開始にあたり、また本稿の執筆に対し御指導を
いただきました放射線部 吉村宣彦先生、神経内科 荒川博之先生、赤岩靖久先生に
深謝いたします。
(検査部 小林清子)
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自己抗体測定試薬の特異性 UP!!
自己免疫疾患は、全身性疾患と特定の臓器だけが影響を受ける
臓器特異的疾患の 2 種類に分類されます。前者には、関節リウマチ、
表1
自己抗体
対象となる主な疾患
全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎
抗 dsDNA
SLE、MCTD
(PM/DM)、結節性動脈周囲炎などが、また後者には、自己免疫性
抗 RNP
MCTD、強皮症
糖尿病、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変などがあります。
抗 Sm
SLE、MCTD
抗核抗体(ANA)検査は自己免疫疾患のスクリーニングに広く利用さ
抗 SSA
SjS、SLE
れ、また抗 dsDNA、抗 RNP、抗 Sm、抗 SSA、抗 SSB、抗 CENPB、抗
抗 SSB
SjS、SLE
Jo-1、抗 Scl-70 抗体も自己免疫疾患の診断や病型分類、予後の推
抗 CENPB
強皮症
測などに有用です(表 1)。
抗 Jo-1
PM/DM
抗 Scl-70
強皮症
検査部では、2009 年 11 月よ
抗 Sm 抗体
抗 SSB 抗体
り新しい検査法(MESACUP3、
MBL 社)を導入しましたが、これ
により抗 Sm 抗体、抗 SSB 抗体、
抗 Scl-70 抗体、抗 Jo-1 抗体に
ついて特異性が大きく向上しま
し た 。 従 来 の 方 法
(MESACUP2 )では、抗原に含
まれる微量の夾雑物により、非
特異的な反応を示す例がありま
抗 Scl-70 抗体
抗 Jo-1 抗体
したが、新しい方法ではこれら
が回避できるようになりました。
図 1 は従来法と新法との相関
を示したものです(小林ら; 医学
と薬学 59(6):1101-1110,2008)。
新法の登場により、偽陽性ある
いはグレーゾーンとなる割合が
尐なくなり、より確かな情報をお
届けできるようになりました。
図 1 従来法との相関
縦軸:新法
横軸:従来法
単位:インデックス値
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(武田宏子)
3
お知らせ
脳波計が
新しくなりました
昨年12 月、検査部の脳波計が新しくなりました。23 年ぶりの更新です。これまでの骨董品のような
アナログ脳波計から、最新のデジタル脳波計にようやく切り替わりました。
“脳波”というアナログ情報をデジタル情報に切り替えるデジタル脳波計には、これまでになかった
様々なメリットがあります。従来はペーパー記録がすべてでしたが、今後はCD-ROM による報告も
可能になります。CD-ROM による脳波記録の再生表示では、判読時にリモンタージュやリフィルタリ
ング、イベントごとの頭出し、高速再生などを自由に行うことができます。周波数分析も容易になりま
す。このような諸機能を利用することで、より精密な脳波判読ができるようになるものと期待されま
す。CD-ROM の再生には特別なソフトを必要とせず、WindowsPC(Windows XP または Vista)の環境
があればどこでも再生表示が可能です。ただし病院システムの PC を使用することはできません。
さらに今回、ポータブル脳波計も導入されました。ポータブル脳波計は 12 チャンネル(検査室での
据え置き型は16チャンネル)で、若干の制約はありますが、病棟へ出張検査が可能になりました。検
査室への移動が困難な患者さんが対象となります。ご利用の際は、オーダー画面のフリーコメントに
その旨を入力し、脳波室(☎2676)へ電話連絡をお願いします。最新の機器が日々の診療に役立
てば幸いです。 (尾崎京子)
検査部ホームページ : http://www.med.niigata-u.ac.jp/labdiv/welcome.html
検査項目や基準値など、様々な情報を載せております。
検査部ニュースのバックナンバーもアップしています。ぜひご覧ください。
編
集
後
記
新しく始まるエコー検査を特集しました。
検査部では絶えず新しい試みにチャレンジしていきます!! (草間)
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℡2685 へ
岡田正彦
新潟大学医歯学総合病院検査部
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