企業価値向上につながる 戦略的ワークプレイスとは?

企業価値向上につながる
戦略的ワークプレイスとは?
従業員エンゲージメントを向上させる新しいオフィスの在り方
2016年12月
収益性の改善や収益規模の
拡大など、企業価値向上を果
たしていくためには、企業文
化を醸成し、従業員の業務に
対するモチベーションを挙げ
ていくことが重要となる。その
具体策となるものが、戦略的
ワークプレイスの実現である
グローバル化に伴う競争とコラボレーションの拡大をはじめ、ICT
「戦略的ワークプレイス」づくりによる企業文化の醸成である。
(情報通信技術)やAI(人工知能)、モバイルに代表されるような技
従来のワークプレイスづくり、すなわち、従業員が働く環境であ
術革新の採用、そして、少子高齢化や女性の活躍促進を背景とした
るオフィスづくりは、不動産コストの低減や、利用率、面積効率
人材の確保・活用など、企業を取り巻く環境は、大きな変革期を迎
の向上等に主軸が置かれてきた。だが、これからのワークプレイ
えている。そうした中で、現在の企業に求められる、事業規模の拡
スは、俊敏なビジネスの反映、従業員のコラボレーションや学習
大や生産性の改善といった「企業価値向上」を果たしていくために
機会の促進、健康管理/ウェルネス経営の実現、イノベーション
は、どのような一手を打っていけばよいのか。
の創出や生産性の向上、ICT/新技術の活用といった、様々な要件
対して、企業不動産の分野(Corporate Real Estate、CRE)の観点
から、企業価値向上のための1つの解決策として挙げられるのは
2 企業価値向上につながる戦略的ワークプレイスとは?
を満たし、企業価値を向上させていくための推進力とならなけ
ればならない。
企業文化がエンゲージメント向上の
企業文化を積極的に
醸成した企業は、そうでない
企業に比べて、516%高い
収益と755%高い収入を
実現している
従業員の幸せは、
「顧客満足の向上」
働きがいのある会社
ランキングに名を連ねる企
「離職率の低下」
「病欠の減
業の株価は、主要株価指数
直結し、その全てが成長と
自発的離職率は競合他社の
少」
「容易な採用」に
収益性を加速させる
に比べ常に300%高まり、
半分に抑えられている
企業価値向上につながる戦略的ワークプレイスとは? 3
理想的なワークプレイスがもたらすメリット
給与が許容最低水準より5%低くても就職を決める可能性が高い企業:
給与が許容最低水準より5%低くても就職を決める可能性が高い企業:
給与が許容最低水準より5%低くても就職を決める可能性が高い企業:
友人が働きがいがあると言う企業
友人が働きがいがあると言う企業
73%
73%
YES
YES
オンラインでの評価が極めて高い企業
オンラインでの評価が極めて高い企業
67%
67%
YES
YES
27%
27%
NO
NO
33%
33%
NO
NO
採用プロセスを通して印象が非常に良かった企業
採用プロセスを通して印象が非常に良かった企業
YES
YES
68%
68%
32%
32%
NO
NO
35%
35%
NO
NO
新聞や雑誌等での好意的な報道が多い企業
新聞や雑誌等での好意的な報道が多い企業
YES
YES
65%
65%
新しい就職先を検討する際、次の中で最も重視するものは?
新しい就職先を検討する際、
次の中で最も重視するものは?
新しい就職先を検討する際、
次の中で最も重視するものは?
%
56
56%
%
20
20%
%
17
17%
%
7
7%
働きがいのある職場
働きがいのある職場
として評判が高い企業
として評判が高い企業
素晴らしい商品やサービスで
素晴らしい商品やサービスで
評判が高い企業
評判が高い企業
優秀な人材で
優秀な人材で
評判が高い企業
評判が高い企業
一流企業としての
一流企業としての
名声がある企業
名声がある企業
出所 : JLL 「Fully Engaged」
そうした課題を踏まえ、JLLが研究した結果から、従業員の自社に
を拡大し、その所有・使用コストを最適化する各種サービスを包括
対する帰属意識や、仕事に対するモチベーションを高める施策であ
的に提供しきた。その中で、近年、もっとも注目を浴びているのが、
る「従業員エンゲージメント」が企業の業績の向上に大きな影響を
ワークプレイス変革による企業価値向上、そして生産性の向上であ
与えること、そして、従業員の帰属意識やモチベーションを高める
る。JLLは株主による利益追求の目が厳しい欧米企業を長きに亘り
原動力は、企業文化の醸成にあることが明らかとなった。
支援してきたが、その経験に基づき日本企業の状況を俯瞰した際
これまで日本企業の動向を振り返ると、生産現場や販売現場といっ
た所謂コアビジネスでの生産・販売におけるコスト管理が徹底さ
れ、1円、数銭単位でのコスト削減を行ってきたが、そうした施策に
も限界が生じつつある。JLLは長年にわたり、不動産の生み出す収益
4 企業価値向上につながる戦略的ワークプレイスとは?
に、今後、取り組むべき対策の余地はまだまだあると考えている。
本稿では、企業文化を醸成し、企業価値を高めるための“戦略的
ワークプレイス”の重要性と、その実現に向けて、いかに取り組んで
いくべきか解説していく。
企業価値向上の となる従業員エンゲージメント
「従業員エンゲージメント」というキーワードについて、もう少し掘
り下げていこう。そもそも「エンゲージメント」とは、人事労務用語
エンゲージメントと企業業績
辞典(Weblio辞書)によれば、従業員の自社に対する「愛着心」や
「思い入れ」を表すものと解釈される。より踏み込んだ考え方とし
ては、
「個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係」と
されている。つまり個人が組織に対して愛着を感じるとともに、組
-25%
従業員
離職率
-26%
業務の萎縮
常習的欠勤
-37%
織の将来像や価値観に共感することで組織と個人が一体となって、
医療安全上の
インシデント
安全上の
インシデント
-41%
双方の成長に貢献しあう関係を言うが、“もうひと頑張りする”従業
員という表現をすれば、より分かりやすいのではないだろうか。
-46%
このエンゲージメントの反対となる、
「ディスエンゲージメント」の
状態に従業員が陥った場合、企業に多大な損失がもたらされてしま
う。米国有数の世論調査会社であるギャラップ社が2013年に行っ
顧客からの支持
た調査である「State of the American Workplace」によれば、米国では、
短期的なコスト効率を重視したオフィスデザインやワークプレイス
では、常習的欠勤や業務の萎縮、離職など、従業員が意図的にディ
10%
生産性
21%
収益性
22%
スエンゲージメントする傾向にあり、結果、推計で年間4,500億ドル
から5,500億ドルの損失が生じているという。同調査では、従業員の
70~80%が「仕事にエンゲージしていない」または「意図的にディス
エンゲージメントしている」と回答しており、この状況が有害な職場
環境を生み出し、顧客との接し方や社内の協業体制に大きな影響
を及ぼしているという。
-60% -50% -40% -30% -20% -10% 0% 10% 20% 30%
従業員エンゲージメントの高い企業と
低い企業の差(192社中、上位1/4と下位1/4の比較)
出典:The State of the Global Workplace(Gallup Consulting社/2013年)
ディスエンゲージメントの問題
反対に、エンゲージメントの高い従業員を育成することには、財務
2012
18
52
30
2011
19
52
29
2010
19
53
28
では、競合他社に比べて一株当たりの利益が147%高いという結果
2009
18
54
28
が報告されている。さらに従業員エンゲージメントの水準が上がれ
2008
20
51
29
2007
20
50
30
55
30
2006
15
2005
15
59
的合理性があり、意図的にディスエンゲージメントしている従業員
一人に対してエンゲージメントの高い従業員が平均9.3人いる企業
ば、顧客満足度や生産性が向上して最終利益が改善されるだけで
なく、常習的な欠勤や離職など業績に悪影響を及ぼす非生産的要
素が減少するとの報告もされている。
26
2004
17
54
29
競合他社に比べ、
2003
17
55
28
2002
一株当たり利益が
17
53
30
2001
16
54
30
147%高い!
2000
18
53
29
意図的にディスエンゲージしている
エンゲージしていない
エンゲージメントが高い
9.3人
1人
出所 : JLL 「Fully Engaged」
企業価値向上につながる戦略的ワークプレイスとは? 5
単なるコストカットと捉えると失敗を招く経営者の想いや
企業文化を具現化するワークプレイス
人材の環境
グローバル化
テクノロジーの台頭
高齢化
グローバル視点の戦略と経営
テレコミューティング・モバイル
世代間ギャップ
海外企業とのM&A
ロボティクス・AI
転職の一般化
グローバルなコラボレーション
自動化・IoT
女性の活躍
グローバルな競争
セキュリティ問題
企業価値向上を実現するためには、従業員のエンゲージメントを向
ように、これまでのワークプレイスづくりでは、従業員の帰属意識
上させ、
「もうひと頑張りする従業員」を増やしていくことが不可欠
やモチベーションの向上が視野に入れられていなかったのではな
となる。そのために、企業や経営者がなすべき事は何であろうか。
いか。
その回答の1つが、冒頭で述べた「戦略的ワークプレイスづくりによ
る、企業文化の醸成」である。
これからのワークプレイスは、企業文化を醸成し、ブランド価値を
伝え、従業員のモチベーションを再活性化するための理想的なツー
繰り返しとなるが、従来のワークプレイスづくりでは、不動産コス
ルとならなければならない。つまり、単に出社時に心地よさを感じ
トの削減やスペースの効率化が主軸に行われてきた。経営者にとっ
ることだけでなく、従業員自ら企業活動にかかわっている手ごたえ
て、従業員が働くスペースを縮小し、固定費を削減することは、経
を感じさせ、自身の仕事の意義を見出し、従業員同士の協力体制や
営戦略の常套手段の1つであることは間違いない。だが、そうした
コミュニケーションを促進させる場所でなければならないのだ。
手法だけでは、従業員の働くモチベーションの低下を招くだけでな
く、優れた人材を確保できないといった問題も生じさせてしまう。
日本企業において、そうした傾向は多々見受けられ、製造業を例に
挙げれば、製造原価についてはシビアに捉え、継続して製造プロセ
スの効率化を図ってきたものの、ワークプレイスの改善策に関して
は、総務部や施設管理部に任せきりという経営者も多く、単にコス
ト削減の実施に留まっているようなケースが散見される。その結果
として、コアビジネスの業績が良い時にはワークプレイスの改善と
いった経営課題は全く注目されないといったことになってしまって
いる。
また、ICTの活用によるワークプレイスにおけるコスト削減と業務効
率向上を目指し、フリーアドレスの導入やテレワークに多くの企業が
取り組んだことも記憶に新しいだろう。しかし、当時のICTが未熟で
あったことに加え、従業員の業務の進め方や現場における課題を考
慮にいれない、
「始めに手段ありき」での導入を進めていった結果、
想定していたような効果を得られなかった企業も少なくない。この
6 企業価値向上につながる戦略的ワークプレイスとは?
そうした環境の実現に向けた取り組みを、JLLでは「ワークプレイ
ス・エクスプレッション」、すなわち「ワークプレイスによる企業文
化やブランドの表現」と定義し、戦略的ワークプレイスの中でも特
に重要視している。感度の高いワークプレイス・エクスプレッション
を実現できれば、オフィスは単に居心地のよい場から、従業員の認
識、モチベーション、行動を形作る「企業文化の醸成の場」へと進化
することが可能となる。そして、経営陣にとって戦略を具現化する
場、つまり、企業のビジョンやミッションが明確に提示され、
「業績
向上の促進につながる場」へと変革を遂げられるようになるのだ。
JLLでは、戦略的ワークプレイスの実現は、従来の「Efficiency(効率)」
と「Effectiveness(効果)」に、企業文化やブランド価値を伝達する
「表現(Expression)」の視点を付加した3つの「E」が必要と考える。
これにより、従業員にとってダイナミックで魅力的な職場環境を創
出し、ひいては企業におけるイノベーションや生産性を新たなレベ
ルへと押し上げることが可能となる。
多角的に企業の要望を捉え、最適なワークプレイスづくりを支援
企業文化を醸成するワークプレイスづくりを実現していくために
られる体制も構築済みコスト削減やスペース効率化はもちろんのこ
は、社内に存在するさまざまな課題を多角的に分析し、包括的な解
と、オフィスデザインの再構築やテレワークによる在宅勤務等も含
決策を打ちだしていかなければならない。経営層が目指す業績の向
めた働き方の改善、フリーアドレスやICTの導入や活用、ビジネスプ
上、財務的な視点によるコスト削減と効率化、人事部門の考える優
ロセスのアウトソーシング等、様々な要件に対応した提案やコンサ
秀な人材の確保・保持、従業員のモチベーション向上や健康管理、
ルティングを行い、数多くの実績を積み上げてきた。コンサルティ
そして、IT部門が推進するICTを活用した生産性向上など、あらゆる
ングファームや人事/ITコンサルタントといった競合他社が個別の案
側面を考慮して進めていく必要があるのだ。
件ごとにしか対応できないのに対し、CRE戦略の立案からワークプ
対してJLLでは、企業にとって最適なワークプレイスを実現するた
め、経営層から財務、人事、ITと各部門が抱える課題や求める要件
レイスの構築、さらにその運営支援に至るまで、すべてのCRE改善
プロセスをサポートできる点は、JLLの強みである。
にも複合的に対応し、最適な解決策を提示する戦略的ワークプレ
“わくわく”するワークプレイスを作り出すことで、従業員は働く喜び
イスのコンサルティングを提供している。
と誇りを感じてもらえるようになる。また、経営陣の戦略を「具現化
単にオフィスを構築するだけではなく、経営層との対話を重ねるこ
とで、その理念や思いを反映するとともに、従業員エンゲージメン
トを向上させる企業文化を醸成するワークプレイスを実現するた
め、JLL社内において多様な人材を配備するほか、人事施策のコン
サルタント、健康経営のコンサルタント等の特殊なナレッジを提供
する場」として、ビジョンやミッションを明確に示すことが可能とな
り、業績向上、企業価値向上を実現できるようになる。JLLでは、独
自の企業文化を醸成するワークプレイスづくりを多彩なコンサル
ティングサービスを介して支援することで、従業員エンゲージメント
を高め、企業価値向上に貢献していきたいと考えている。
できる外部企業とコラボレーションすることで、様々な要望に応え
企業価値向上のための戦略的ワークプレイス
収益の改善
俊敏な
ビジネスの反映
ブランド強化 +
優れたデザイン
コラボレーション +
学習機会の促進
健康管理 +
ウエルネス経営
イノベーション +
生産性向上
優秀な人材
確保・保持
エンゲージメント
・モチベーション
ICT・新技術
不動産コスト
の低減
利用率の向上
面積効率の向上
環境への
インパクト低減
コスト削減
企業価値向上につながる戦略的ワークプレイスとは? 7
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