平成 13 年度 船舶運航に伴うバラスト水による 海洋

助成事業
競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて作成しました。
平成 13 年度
船舶運航に伴うバラスト水による
海洋生態系への影響低減に関する調査
報 告 書
平成 14 年 3 月
社団法人 日本海難防止協会
まえがき
この報告書は、当協会が日本財団及び日本海事財団から、助成金及び補助金を
受けて、平成 13 年度に実施した「船舶運航に伴うバラスト水による海洋生態系
への影響低減に関する調査」をとりまとめたものである。
平成 14 年 3 月
社団法人 日本海難防止協会
目
次
緒言
委員名簿
Ⅰ 研究概要
1.実施目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2.研究の内容および経過 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
3.本事業の成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
Ⅱ 研究の内容
1.研究の進め方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1.1 基本方針 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1.2 研究の対象範囲 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1.3 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2.機械的殺傷法の有用性検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
3.効果メカニズムに関する研究論文等の収集整理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
4.効果メカニズムに関する実験的解明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
4.1 実験目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
4.2 実験項目と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
4.3 実験時期及び場所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
4.4 実験装置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
4.5 効果判定方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
4.6 流速変化実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
4.7 減圧・加圧実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
4.8 流速変化および減圧・加圧実験のまとめ(機械的殺滅法のメカニズム) ・・・・41
4.9 機械的殺滅法の効果および実用性向上検討実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
4.9.1 スリット部流速と管内流速の関係実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
4.9.2 衝突板実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
4.9.3 気泡注入実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
4.9.4 面取り効果実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
4.10 機械的殺滅法のメカニズムと実用化に向けての要素技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64
5.機械的殺滅法の特徴と船舶への適応性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
6.周知用資料の作成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
7.今後の課題整理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78
8.むすび ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
緒
言
地球規模の海洋環境保護問題として、船舶の運行に不可欠なバラスト水を媒体とする有
害な海洋生物の国際間の移動とその拡散が問題となっている。
国際海事機関(IMO)
各国はこの問題に対処する指針として「船舶のバラスト水および沈殿物の排出による好ま
しくない海洋生物および病原体の移入を防止するためのガイドラインに関する決議MEP
C50(31)」を採択した。
また、IMOは、1993 年の第 18 回総会で、「船舶のバラスト水および沈殿物からの好ま
しくない水生生物と病原体の導入を防止するためのガイドラインに関する総会決議
A.774(18)」を採択した。
さらに、1997 年 11 月の第 20 回総会では、決議A.774(18)を
廃止して、新たに「有害水生生物・病原体の移動を最小化する船舶バラスト水制御・管理
するためのガイドラインに関する総会決議A.968(20)」を採択した。
2001 年5月に開催された MEPC 第 46 回会合では、2002 年中に行われる第 47 回および
48 会合で、バラスト水管理方法と管理基準を決定し、さらには条約案を作成して、2003 年
の第 49 回会合後の締約国会議に諮ることで合意している。
資源輸入国であるわが国は、大量のバラスト水の積み出し国でもあり、かかる国際規制
の影響は大きい。
この問題の現在の対策は、外洋におけるバラスト水の交換(リバラスト)が唯一行われ
ている。
ただし、この方法は、船体の安全性の問題や、海象・気象条件および短距離航
路では実施が困難、さらに船員の労働負担が増加するなど多くの問題を抱えており、必ず
しも万全の対策とは言い難い。
そこで本事業は、水生生物移動防止効果が高く、かつ経
済性等の実用性にも優れるバラスト水処理要素技術について、今後の開発方針を示したも
のである。
実用化に向けては、まだ実験検討を加える必要があるが、現時点における国
際審議への対処に十分寄与できるものであると信じる。
本事業を進めるにあたり、委員および関係官庁の方々に度々お集まり頂き、貴重な御意
見を賜った。 ご指導ご協力頂いた各委員および関係各位に厚くお礼申し上げる。
平成 14 年 3 月
社団法人 日本海難防止協会
平成 13 年度船舶のバラスト水管理方策に係る調査研究
(船舶運航に伴うバラスト水による海洋生態系への影響低減に関する調査)
委 員 名 簿
(順不同、敬称略)
委 員
長
徳田 拡士
委
元東京大学教授
員
加藤 洋治
東洋大学教授
児玉 正昭
北里大学教授
福代 康夫
東京大学アジア生物資源環境研究センター助教授
木暮 一啓
東京大学海洋研究所海洋微生物部門教授
上田 浩一
独立行政法人 海洋技術安全研究所装備部汚染防止研究室長
増田
社団法人 日本船主協会常務理事海務部長
恵
宇宿 行史
財団法人 日本海事協会船体部主管
桐明 公男
社団法人 日本造船工業会技術部長
関係官庁
岡部 直巳
国土交通省総合政策局環境・海洋課海洋室長
(増井 隆夫)
瀧口 敬二
国土交通省海事局外航課長
松尾 龍介
国土交通省海事局安全基準課長
(矢萩 強志)
田中
圭
国土交通省海事局舶用工業課長
(木澤 隆史)
野中 治彦
海上保安庁警備救難部環境防災課長
鈴木 克徳
環境省地球環境局環境保全対策課長
末永 芳美
水産庁資源増殖推進部漁場資源課長
中前
水産庁資源増殖推進部研究指導課長
明
注)
( )内は前任者を示す。
ご尽力いただいた方々
落合 眞和
社団法人 日本船主協会海務部
重冨
国土交通省総合政策局環境・海洋課海洋室
徹
中川 直人
国土交通省総合政策局環境・海洋課海洋室
木川 嘉将
国土交通省海事局外航課
平方
勝
国土交通省海事局安全基準課
村上
崇
国土交通省海事局舶用工業課
濱田 利之
海上保安庁警備救難部環境防災課
川島 雄一
環境省地球環境局環境保全対策課
森
義信
水産庁資源増殖推進部漁場資源課
小林 聖治
水産庁資源増殖推進部漁場資源課海洋保全班
溝部 隆一
水産庁資源増殖推進部研究指導課
工藤 栄介
シップ・アンド・オーシャン財団
菅原 一美
シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究部
信国 正勝
海上保安庁水路部海洋調査課海洋汚染調査室
松本 敬三
海上保安庁水路部海洋調査課海洋汚染調査室
青木
海上保安庁総務部海上保安試験研究センター化学分析課
事 務
繁
局
津田 眞吾
社団法人 日本海難防止協会
菊地 武晃
社団法人 日本海難防止協会
大貫
伸
社団法人 日本海難防止協会
中川
新
社団法人 日本海難防止協会
吉田 勝美
株式会社 水圏科学コンサルタント
久城
株式会社 水圏科学コンサルタント
圭
城野 清治
株式会社 海洋開発技術研究所
Ⅰ
研 究 概 要
Ⅰ 研究概要
1.実施目的
近年、船舶運航に不可欠なバラスト水の漲排水に伴い、外来生物が他国に越境移動
し、侵入地において生態系攪乱や経済・健康面への被害をもたらす事例が数多く報告さ
れてきた。
そのため、IMO(国際海事機関)では規制のための条約策定に向けた検討を続けて
おり、影響低減のためのバラスト水処理技術の開発が国際的急務事項となっている。
当協会においても、ここ数年来、当該調査研究を進めてきたところ、平成 11 年度に
実施したバラストパイプを工夫して水生生物を破壊・殺滅するミキサーパイプ法に代
表される、いわゆる機械的殺滅法が、現段階において最善の選択肢の一つになり得る
との結論に達した。
本年度の調査では、現在までの成果を発展させ、バラスト水による海洋生態系への影
響低減に関する方策について検討することを目的とした。
1
2.研究の内容および経過
2.1 研究の内容
本研究は、機械的殺滅法の実用機開発の方向性を見いだすことを目標とした。 実
用機の開発には、機械的殺滅法の水生生物殺滅メカニズムを正確に把握することが必
要であることから、既存知見を基に推定し、実験で検証した。 さらに、解明したメ
カニズムを応用した実験を実施して、今後の開発ポイントとなる改良要素を検討・把
握した。
実験結果を基に、他国で開発中の各種処理技術の性能を比較して、機械的殺滅法の
有用性を確認した。 また、機械的殺滅法の有用性を周知するための資料を作成する
と共に、実用機開発に向けての課題を整理した。
2.2 研究の経過
平成 13 年
5月 24 日 第1回委員会を開催して、事業計画を審議した。機械的殺滅法のメカ
ニズム解明実験方法等の詳細は作業部会で検討することとなった。
∼
5月 25 日 メカニズム解明等に関する既存文献を収集整理し、メカニズムを推定
すると共に、解明実験方法等を検討・作成した。
7月9日
7月 10 日
第1回作業部会を開催して、解明実験方法等を審議し、検討結果を各
委員に報告して承認された。
∼
8月1日
実験を実施し、機械的メカニズム殺滅法のメカニズムを解明した。
8月 15 日
8月 15 日 第2回作業部会を開催し、解明したメカニズムを承認し、追加実験と
して改良要素実験実施と実験方法を決定した。
∼
8月 16 日 改良要素実験を実施し、機械的殺滅法の実用機開発に向けての改良要
素を明らかにした。
9月2日
∼
9月3日
実験結果を整理・とりまとめた。
12 月 24 日
12 月 25 日第2回委員会を開催し、実験結果を審議し、承認された。
12 月 26 日各国におけるバラスト水処理技術に関する情報を収集・整理すると共に、
2
∼
実用機開発に向けての課題の整理および周知資料の作成した。 また、
報告書原案を作成した。
平成 14 年
2月 18 日
2月 19 日 第3回委員会を開催し、報告書原案を審議した。 原案の内容を一部
修正することで承認された。
3
3.本事業の成果
本事業では、国際的な緊急課題であるバラスト水による水生生物の移動・拡散を防
止するバラスト水処理技術の開発をテーマとし、平成 11 年度までの当協会の調査研究
で実用性が高いと考えられた水生生物の機械的殺滅法の実用機開発の方向性を見いだ
すことを目標とした。
各種検討や実験を実施することによって、機械的殺滅法のメ
カニズムを解明し、また、実用機開発に向けての改良要素を把握して課題を明らかに
した。
今後、改良を加え課題をクリアーすることで、国際的的要求に応えうる実用
的な処理技術に発展することを信じる。
また、これら成果を基に、国内外の学会お
よびシンポジウム、並びに MEPC 第 47 会合に機械的殺滅法を紹介・周知する資料を
作成した。
これら科学的,客観的な視点での検討および作成資料は、今後の国際規制に反映で
きるものであり、関係機関,海運業界およびその関係者が今後の対策を考える際の参
考資料として、事業の目的を満たすものであって十分な成果を得たといえよう。
4
Ⅱ
研究の内容
Ⅱ 研究の内容
1.研究の進め方
1.1 基本方針
本調査研究の基本方針は、水生生物の移動防止効果に加え、環境影響が無く,運用
性および経済性等においても優れた実用性の高いバラスト水処理技術開発の方向性
を科学的見地に基づいて示し、国際的な規制内容および各種論議の参考資料を提供す
ることである。
1.2 研究の対象範囲
研究の対象範囲は、バラスト水処理技術の1方法である機械的殺滅法の水生生物殺
滅および不活性化メカニズムを解明し、実用化に向けての技術開発要素を明らかにす
ると共に、本処理法の有用性を検討して国内外に周知することである。
1.3 研究方法
機械的殺滅法のメカニズムの解明は、関連文献による検討と各種実験で行った。
各種実験は、佐賀県伊万里市の臨海施設で、自然海水に含まれる浮遊性甲殻類を用い
て行った。 技術開発要素の検討についても、同施設で浮遊性甲殻類を用いて行った。
これら実験等の結果と、国際会議で報告された他国で開発中のバラスト水処理技術
情報を基に、水生生物移動防止効果,各種実用性等を比較し、機械的殺滅法の有効性
を評価して、国内外への周知資料を作成した。
なお、学識経験者,関連団体,関係官庁からなる委員会、および学識経験者と専門
家による作業部会を組織し、調査方法並びに結果の検討を行いながら調査研究を進め
た。
図Ⅱ.1.3-1 には、本事業の調査構成フローを示した。
5
平成 11 年度
(2)効果メカニズムに関する研究論文等の収集整理
調査研究事業等の成果
○水生生物と機械的殺傷に関する文献資料の収集・整理
↓
●機械的殺傷法による効果要素の抽出
●機械的殺傷法による効果メカニズムの推定
●機械的殺傷法による効果メカニズムの実証実験方法の検討
(1)機械的殺傷法の有用性検証
○国内外で検討されている処理技術の
比較(効果,現実性,環境影響等)
↓
●機械的殺傷法の有用性検証
(3)効果メカニズムに関する実験的解明
○機械的殺傷法の個別効果要素(剪断,キャビテーション,衝突等)
の効果メカニズム検証実験
↓
●個別効果要素の効果と物理パラメータの定量的関係把握
↓
●バラスト水処理技術としての効果要素の選定,要素相乗効果の検討
↓
○実用化に向けた開発要素の検討実験
(4)周知用資料の作成
(5)今後の課題整理
○国内外周知活動のための和文/英文資料の作成
図Ⅱ.1.3-1
○実用化に向けた開発実験と方法の検討
等
調査構成フロー
6
2.機械的殺傷法の有用性検証
2001 年では、バラスト水管理方策に関する次の2つの国際会議が開催された。 バ
ラスト水処理技術に関する最新情報は、これら国際会議で発表報告されていると考える
ことができ、他国で開発中の処理技術内容は、会議の講演要旨集,論文集等の資料を基
に整理した。
表Ⅱ.2-1 には、各処理技術の特徴を後述する本調査研究による機械的殺滅法の特徴と
共に示した。 なお、表中の記載内容は、原資料中の表現を和訳したものである。
<2001 年に開催されたバラスト水管理方策に関する国際会議>
① 1st International Ballast Water Treatment R & D Symposium, and 1st
International Ballast Water Treatment Standards Workshop
主催:GEF,UNDP,IMO の共同プロジェクトである GloBallast
日時:2001 年3月 26∼30 日
場所:英国,ロンドン,IMO
参加国状況:26 カ国,173 名(Workshop は、内 68 名)
② First International Conference on Ballast Water Management
主催:Environmental Technology Institute(ETI,シンガポール)
日時:2001 年 11 月1・2日
場所:シンガポール
参加国状況:20 カ国,123 人
開発中の処理技術は、ろ過法,熱処理法,紫外線法,オゾン法,無酸素処理法,ガ
ス飽和法,電気化学法,化学処理法の単独処理技術と、ろ過法あるいは遠心分離法と
紫外線法を組み合わせた複合処理技術、それに本調査対象の機械的殺滅法の 10 技術に
まとめられる。
以下には、各技術の効果および実用性等について述べる。
① ろ過法
フィルターの目合い以上の水生生物を除去する。
フィルターの自動洗浄能力
が処理能力や装置の大きさおよびコスト等の実用性を大きく左右すると考えられ
7
るが、処理能力に関しては、シンガポールの提案では 10,000 トン/hr が可能であ
るとされている。
なお、原理から考えて、フィルター目合いより小さな水生生
物に対する効果は期待できない。
② 熱処理法
エンジンの廃熱やボイラーを使ってバラスト水を加熱する方法である。
殺滅
効果が得られる処理温度については様々であるが、多くの水生生物を殺滅するに
は、かなり高温にする必要があると思われる。
処理量やコストおよび装置の大
きさに関しては、漲水するバラスト水の水温と航路海域の水温に大きく左右され
ると考えられ、低温の場合には、処理量が低下すると共に、大きな装置と多大な
るコストが必要になると考えられる。
③ 紫外線法
紫外線で水生生物を殺滅および不活性化する方法である。
ただし、紫外線単
独の方法では、大型の水生生物に対して効果を発揮するのが難しく、ろ過法等と
の組み合わせが必要なようである。
また、処理量やコスト面等の実用性に関す
る課題も多いと思われる。
④ オゾン法
オゾンの水生生物殺滅能力を活用する方法であるが、現在、初期研究段階のよ
うである。
⑤ 無酸素処理法
効果は、動物性の水生生物に限られる。 また、処理量が 72 トン/hr と少ない
のもバラスト水処理技術としては実用性の面で難しいと考えられる。
⑥ ガス飽和法
動物性の水生生物に対する効果が確認されているが、現在、初期研究段階のよ
うである。
⑦ 電気化学法
海水に通電することで、酸化物質等を生成して水生生物を殺滅不活性化する方
法である。
ただし、ろ過法等の前処理を実施しないと効果および処理量の低下
を招くと考えられ、現時点での処理量も約 150 トン/hr と少ない。
8
⑧ 化学処理法
2種類の化学薬品が提案されている。
効果は高くほとんどの水生生物をほぼ
100%殺滅あるいは不活性化することが可能であり、薬品の購入コストも比較的安
価である。
ただし、提案者は環境に対して安全であるとしているが、二次汚染
への不安は拭えない。
⑨ ろ過法あるいは遠心分離法と紫外線法を組み合わせた複合処理法
ろ過あるいは遠心分離法で大型の水生生物を除去し、紫外線法で小型の水生生
物を殺滅・不活性化する方法である。
米国,カナダ,ノルウェーが開発中の技
術で、一部実船での実験も行われている。 処理量は、300・400 トン/hr から最
大 3000 トン/hr が可能とされているが、コストはかなりのレベルにあるようで
ある。
⑩ 機械的殺滅法
本事業で開発中の方法である。 現時点での効果は、浮遊性甲殻類の 90%を破
壊・殺滅するところまで確認している。
植物プランクトンや他の動物性水生生
物に対しては、同様のメカニズムであるミキサーパイプ法で同等の効果が得られ
ていることから、本処理法においても同等の効果が期待できる。
また、改良す
ることによって、さらに効果を向上することも可能である。
本処理法の最大の特徴は、単純な構造であることから、実船での運用や船舶の
搭載が簡単なことである。
既存船に適用する場合にはポンプを増設する必要が
あるものの、装置も安価で運用コストがほとんど必要無い。
また、構造と原理
から考えて、現存船舶の最大クラスである数千トン/hr の処理量が可能な点も大
きな特徴である。 なお、実施による環境影響も起こさない。
なお、Peilin Zhou et. al(2001)は、リバラスト,遠心分離と化学処理,ろ過法と紫
外線,熱処理に関する経済性の比較を行っている。 表Ⅱ.2-2 には、その結果を示し
た。
それによると、リバラスト以外の処理技術は、装置設置に係わるコストだけで US
$375,292∼US$869,429 とかなり高額である。 これに対して、機械的殺滅法の装
置設置コストは、表Ⅱ.2-2 と同じ条件で計算すると、多く見積もっても US$100,000
∼US$50,000 程度であり、また、基本的にはメンテナンスコストが必要ないことか
ら、経済性の面で優れている方法であると評価できる。
以上、本事業で開発中の機械的殺滅法をはじめ、他国で開発中のバラスト水処理
技術に関する最新情報を基に、それらの特徴をとりまとめた。
9
その結果、限られ
た情報ではあるものの、機械的殺滅法は、実用性に関連する運用性,船舶搭載性,
処理量,経済性,環境影響の面で他の処理技術の最高水準にあると考えられる。 ま
た、効果面では、改良要素が明らかになっていることから、さらに向上させること
が充分に可能である。
よって、機械的殺滅法は、バラスト水処理技術として実用
性が高いと考えられる。
表Ⅱ.2-2 バラスト水処理技術の経済性分析結果
System 1
Exchange
System 2
Cyclonic &
Chemical
656,089
4,193,193
System 3
Filtration &
UV
375,292
410,616
System 4
Thermal
Installation Cost
0
869,429
PV of Life Cycle
191,178
1,737,632
Cost
Ballast per ship
27,500,000
27,500,000
260000
29,500,000
life (m3)
Average Annual
12,850
427,086
41822
176,982
Cost
Ballast per year
1,375,000
1,375,000
13000
1,475,000
$/m3 of Ballast
.01
0.31
3.22
0.12
Treated
引用:Dr. Peilin Zhou(2001):A Comparison of Life cycle Costs for Alternative Ballast
Water Treatment Systems,Proceedings of the First International Conference on Ballast
Water Management
10
表Ⅱ.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(1)
技術名称 開発国
原理
水生生物に対する効果
運用の 船舶搭載 処理量
容易性 の容易性
経済性
環境影響
引用資料
スクリー
ン・ろ過シ
ステム
シンガ
ポール
漲水時に40μm以上の水 工学的改良によって10μ以下の粒子も除去
生生物をスクリーンによ 可能。自動洗浄能力が、効果を左右する。
る除去
8000∼
10000ト
ン/hr
○Jose T. Matheickal, Thomas. D. Waite an
Sam T. Mylvaganam(2001):Ballast Water
Treatment by Filtration,GloBllast
symposium.○Jose T. Matheickal, Sam T.
Mylvaganam and Alex Tang Meng(2001):
Filtration technologies for ballast water
treatment,First Interbnational Confrence
Ballast Water Management.
熱処理
オースト
ラリア
航行時にエンジンの廃熱 ○室内実験では、38℃4.5時間後に有害渦鞭
を利用して有毒渦鞭毛藻 毛藻のシストが死亡。○実船実験では、
等の有害生物を殺滅
50℃45分で80∼90%のGymnodinium
catenatumを殺滅。○実船実験では、加熱
30時間後に全てのバラストタンクが38℃以
上になり、植物プランクトンと動物プラン
クトンを殺滅。○岸での実験では80℃60秒
の処理で全てを殺滅し、90℃の場合では
Clostridium perfringensのシストを除く
病原体も100%殺滅。
5000トン 廃熱利用なので 環境に安全
/hrの処 経済的
理速度
Geoff Rigby, Alan Taylor and Gustaaf
Hallegraeff(2001):Ballast Water Treatmen
by Heat - An Overview,GloBallast symposiu
熱処理
熱処理
ニュー
ジーラン
ド
中国
航行時にエンジンの廃熱 36∼38℃6∼10時間の処理で有毒渦鞭毛藻
を利用して有毒渦鞭毛藻 を完全に殺滅した。
を殺滅
航行時にエンジンの廃熱 病原体や有害水生生物を殺滅する効果あり
利用で50℃近くにバラス
ト水を上昇させ、病原体
や有毒水生生物を殺滅
150トン
/hr
安価なエネル 二次汚染や化学汚染
ギーを利用し、 とならない。
操作費用も安
い。
Doug Mountfort(2001):Ballast Water
Treatment by Heat-NZ Shipboard Trials,
GloBallast symposium
Li Bin and Sun Pei-ting(2001):A New Metho
of heating Ballast Water Using the Waste
Heat in Marine Diesel Engine,First
Interbnational Confrence on Ballast Water
Management.
熱処理
英国
航行時にボイラーの2段
階加熱処理を行い生物殺
滅
435トン
/hr
187,028dwtの
バルクキャリア
で32℃の海水温
を44℃と70℃の
2段階加熱した
場合で、160ポ
ンド/日のラン
ニングおよび
102,000ポンド
の装備コストが
必要
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。
11
○Ehsan Mesbahi, Atilla Incecik and Joann
Black(2001): MARTOB: A New European
Community Funded Project for On-board
Treatment of Ballast Water and Applicatio
of Low Sulphur Fuels,First Interbnational
Confrence on Ballast Water Management.
表Ⅱ.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(2)
技術名称 開発国
原理
水生生物に対する効果
紫外線法
オースト
ラリア
UVによる生物不活性化
マルチウエ
イブ法
オランダ
オゾン法
ノル
ウェー
紫外線ランプ照射による 微小生物のDNA,タンパク質,酵素等に対し
水生生物の殺滅
て機能障害効果があり、大腸菌,クリプト
スポリジウム,Bacillus subtilisに対し
て効果が確認されている。
オゾンによる殺菌
航行中のバラストタンク
やホールド内のバラスト
水から吸引チャンバーを
用いて溶存酸素を除去
し、動物性水生生物を殺
滅する(the
AquaHabiStatTM
System)
○溶存酸素は、5日間で0.5∼1ppmに減少
し、10日間で0になる。○2日の処理で、
動物プランクトンの50∼75%を処理。○10
日間の処理で、10μm以下のATP活性の86%
を減少。
ガス超飽和
法
水生動物をガスが超過飽
和状態の水にさらし、減
圧させることにより、閉
塞や大出血を起こさせ殺
滅する。
ClorinoxylTM で製作し
たmixed oxidant gases
(O, N and Cl)を注入し
て殺滅
空気及び窒素+空気の超過飽和水に関して
は、エビ類 Artemia sp. and と二枚貝の
Mytilus edulisの幼生に対する効果が確認
されている。
電気イオン 米国
化法
(Clorinoxyl
TM
)
電気化学処 スイス
理法
経済性
環境影響
○渦鞭毛藻のAmphidinium sp.
Gymnodinium catenatumの遊泳細胞は、不
活性化○Gymnodinium catenatumのシスト
に対しては効果なし○細菌,ウィルス,海
藻の胞子にも効果あり○大型の生物や渦鞭
毛藻のシストを処理するのはろ過法との組
み合わせが必要
無酸素処理 米国
法(the
AquaHabiSta
tTM System)
ノル
ウェー
運用の 船舶搭載 処理量
容易性 の容易性
引用資料
Darren Oemcke, Doug Mountfort and Steve
Hillman(2001):Ultra violet of Ship's
ballast water-Research to reality,First
Interbnational Confrence on Ballast Water
Management.
Ben F. Kalisvaat(2001):Ballast Water
Treatment by Multiwave Lamps, GloBallast
symposium
Aage Bjorn Anderson, Egil Dragsund and
Bjorn Olaf Johannessen(2001):Ballast Wate
Treatment by Ozonation,GloBallast symposi
○72トン 低コスト
/hrの速
度で処理
○10日間
で処理完
了
Wilson J. Browning, Jr. and Wilson J.
Browning III(2001):Ballast Water Treatme
by De-Oxygenation(the AquaHabiStatTM
System),GloBallast symposium
Anders Jelmert(2001):Ballast Water
Treatment by Gas Super-saturation,
GloBallast symposium
2分間の処理で300L中のバクテリアの90%
を殺滅、15分間でバクテリアを完全に殺滅
処理時間が短い場合
の残留塩素は0.3ppm
以下
漲水時あるいは航行中に 細菌類,ウィルスを8分以内、原生動物を
電気処理装置(25μmの 30∼100分程度の処理でほぼ100%殺滅
前ろ過装置付)に通電す
ることで水酸基ラジカル
等の強い酸化物質を生成
し細菌,ウィルス等の病
原体を殺滅・不活性化
小型で特別
な部屋はい
らない。
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。
12
装置を5
個使用す
ると7000
トン/2
日、ただ
し、フィ
ルター等
の前処理
が必要
7000トン/2日
の場合で消費電
力量は200kw以
下と少ない。メ
ンテナンスはほ
とんどいらな
い。
Joseph Aliotta, Andrew Rogerson, Courtney
B. Campbell and Mark Yonge(2001):Ballast
Water Treatment by Electro-ionisation,
GloBallast symposium
Pupunat L., Rychen Ph., Fontecha Camara M
A., Haenni W. , Klaus B. and Rossi
P.(2001):Latest Electrochemical Water
Treatment Technology for Ballast Water
Disinfection (Biological
Inactivation),First Interbnational
Confrence on Ballast Water Management.
表Ⅱ.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(3)
技術名称 開発国
電気化学処
理
中国
原理
水生生物に対する効果
漲水時に海水への通電で 20mg/lでバクテリア,植物プランクトン、原
発生する塩素による水生 生動物のほとんどを殺滅
生物殺滅
米国
SeakleenR
法,(化学処
理)
漲水時に化学薬品
SeakleenRを投入し、毒
性で全ての水生生物を殺
滅
PeracleanRO ドイツ
sean法(化
学処理)
漲水時に
350ppm以上で遊泳期のAltemia salinaの
PeracleanROseanを投入 100%を殺滅
し、プロキシ酢酸および
過酸化水素の酸化力で全
水生生物を殺滅
粒子分離+
UV法
運用の 船舶搭載 処理量
容易性 の容易性
経済性
環境影響
引用資料
Pan Xinxiang, Dang Kun and Yin
Peihai(2001):Research on Ballast Water
Treatment with the Electrolysis
Method,First Interbnational Confrence on
Ballast Water Management.
○SeakleenR濃 SeakleenRは、海水中 David A. Wright and Rodger
度1ppmとする においては、16∼30 Dawson(2001):SeakleenR, a Potential Natur
Biocide for Ballast Water Treatment,
と、1トン当た 時間で半減するた
り1∼2gの投 め、安全に放出する GloBallast symposium
入量となり、 ことができる。
0.2ドル以下の
値段となる。○
SeakleenR注入
機器は、1600ド
ルで販売
○魚卵稚仔,トゲミジンコを含む浮遊性甲
殻類,ゼブラマッスルを含む二枚貝幼生,
コレラ菌を含むビブリオ菌に対して効果を
発揮し、シストを含む渦鞭毛藻に対しては
2時間で完全に葉緑体色素が消滅○
SeakleenRの配合率約2では、セディメン
ト中に生息する端脚類Amphipod
Leptocheirus plumulosusも殺滅○全ての
生物に対して1ppmで効果を発揮
2トンの
Peraclea
nで10000
トンのバ
ラスト水
が処理可
能
米国
漲水時に粒子分離器で大
型の生物を除去し、UVで
小型の生物を殺滅・不活
性化
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。
○下水処理施設の
他、様々な水処理で
使用されており、冷
却水や生物的に汚染
された水を処理し、
それらは排出されて
いる。○USAにおいて
は、二次的及び間接
的な食品添加剤とし
て100mg/Lまでの使用
が強化されている。
○Altemiaの実験時に
は、酸性である
PeracleanROseanの影
響でpHが8.2∼6.1
まで低下した。○最
終的には水,酢酸,
酸素に分解する。
○Rainer Fuchs, Norbert Steiner, Ingrid d
Wilde, and Matthias Viogt(2001):
PeracleanROcean - a Potential Ballast Wat
Treatment Option, GloBallast symposium,○
Gol l asch and R. Fuchs( 2001) : Per acl ean®
Ocean – A Pr omi si ng Envi r onment al l y Sound
Chemical
Ballast Water Treatment Option,First
Interbnational Confrence on Ballast Water
Management.
Birgir Nilsen, Halvor Nilsen and Tom
Mackey(2001):The OptiMarin System,
GloBallast simposium
13
表Ⅱ.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(4)
技術名称 開発国
原理
水生生物に対する効果
ろ過法+紫
外線法,遠
心分離+紫
外線法
米国
漲水時にろ過及び遠心分
離によって大きな動物プ
ランクトンと植物プラン
クトンを除去し、小型の
バクテリア,植物プラン
クトン,微小動物プラン
クトンに対してはUVで殺
滅
○全工程を通じた場合では、細菌,ウィル
ス,動物プランクトン,植物プランクトン
に対して効果がある。○ろ過+UVの方が遠
心分離+UVよりも効果がある。○25μmフィ
ルターの動物プランクトン除去率は85%,植
物プランクトンは55%、50μmフィルターで
は78%と43%であった。○UVはバクテリアと
植物プランクトンの不活性化および微小動
物プランクトンを殺す。
機械的処理
+紫外線法
米国
漲水時に自動洗浄ろ過
(50μmのステンレス製
メッシュを装着した炭素
鋼とステンレス鋼製)で
大型の動物プランクトン
等を除去+UVで微小生物
を殺滅,遠心分離
(Krebs Model KSH20)で生物除去+UVで生
物殺滅
○遠心分離(Krebs Model KSH-20)はゼブ
ラマッスルの幼生に対する効果が確認され
ている。○UVは、第二段階の処理法として
有効であることを示している。
分離器
米国
(patented
'voraxial'
)+紫外線
or
Chemical(Se
akleen or
Peraclean
Ocean)法
漲水時に分離器で大型の
水生生物を除去し、UV
or Chemicalで小型の水
生生物を殺滅・不活性化
遠心分離+
UV法
漲水時に遠心分離器で大
型の水生生物を除去し、
UVで小型の水生生物を殺
滅・不活性化
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。
運用の 船舶搭載 処理量
容易性 の容易性
341トン
/hr
経済性
環境影響
引用資料
○Allegra A. Cangelosi, Ivor T. Knight,
Mary Balcer, David Wright, Rodger Dawson,
Chip Blatchley, Donald Reid, Nicole Mays
and Jessica Taverna(2001): Great Lakes
Ballast Technology Demonstration Project,
GloBallast symposium.○A. Cangelosi, M.
Balcer, E. R. Blatchley III, R.Dawson, X.
Gao, R. Harkins, A. Huq, I. T. Knight, N.
L. Mays, B. McGregor, D. Reid10, R.
Sturtevant, C. Swan, J. Taverna1, C. Well
& D. Wright(2001):Experimental Studies
Comparing Biological Effectiveness of
Commercially
Available Ballast Treatment Systems,First
Interbnational Confrence on Ballast Water
Management.
Thomas D. Waite, Junko Kazumi, Linda
Farmer, Thomas R. Capo, Peter Lane, Gary
Hitchcock, Sharon L. Smith and Steven G.
Smith(2001):Testing of Ballast Water
Treatment Technologies at Large Scale,
GloBllast symposium
Richard Fredricks, Jeffrey Miner and
Christopher Constantine(2001):Shipboard
Trials of Ballast Water Treatment Systems
by Maritime Solutions
カナダ
Terri Sutherland, Colin Levings, Shane
Petersen and Wayne Hesse(2001):Effects of
Cyclonic Separation and UV Treatment,
GloBallast symposium
14
表Ⅱ.2-1 各国で開発中のバラスト水処理技術の特徴(5)
技術名称 開発国
原理
水生生物に対する効果
OptiMarin法 ノル
ウェー/
米国
漲水時にろ過および遠心
分離で大型の動物プラン
クトン等を除去し、UV
(将来のオプションとし
てSeacleen)で微小生物
を殺滅
○微小生物に対して100%の効果は得られな
かった。UVの照射量を検討する必要が生じ
た。○動物プランクトン,珪藻,バクテリ
ア,病原体の組織を破壊もしくは不活性化
した。
機械的殺滅
法
剪断力とキャビテーショ 剪断力だけの効果で、浮遊性甲殻類の約
容易
ンで動・植物プランクト 90%を破壊、他の動物性の水生生物や植物
ンを破壊,不活性化
性の水生生物に対しても同等の効果が期待
できる。
日本
運用の 船舶搭載 処理量
容易性 の容易性
客船では
既存のバ
ラスチン
グのシス
テムを変
更しな
かった。
注:空白は、引用文献に記載無し。 表中の表現は、引用文献の表現を忠実に和訳した。
15
客船では、
バラストパ
イプにバイ
パスとつけ
ることで既
存の構造を
変えなかっ
た。
経済性
環境影響
最大3000 ○客船の2週間
トン/hr の航海で装備費
は可能
用は18000ド
ル,○
187,000dwtト
ンのバルクキャ
リアーで435ト
ン/hrの処理量
の場合での主要
なパイプのコス
トは420,000ポ
ンド(導入費を
除く)
容易、ただ 数千トン 安価
しバラスト 以上/hr
ポンプに余
裕のない既
存船では
3kg/m2の圧
力を発生さ
せるポンプ
増設の必要
がある。
引用資料
○Birgir Nilsen(2001):OptiMar Ballast
System: A Practical Solution to the
Treatment of Ballast Water on Ships,First
Interbnational Confrence on Ballast Water
Management. ○Ehsan Mesbahi, Atilla Incec
and Joanne Black(2001): MARTOB: A New
European Community Funded Project for Onboard Treatment of Ballast Water and
Application of Low Sulphur Fuels,First
Interbnational Confrence on Ballast Water
Management.
無し
本調査事業
3.効果メカニズムに関する研究論文等の収集整理
水生生物の機械的損傷に関して、次の 12 編の研究論文を収集した。
1) M. Sato, D. P. Theret, L. T. Wheeler, N. Ohshima and R. M. Nerem (1990).
Application of the micropipette technique to the measurement of cultered
porcine aortic endothelial cell viscoelastic properties. J. Biomech. Engng.
2) W. H. Thomas and C. H. Gibson (1990 a). Effects of small-scale turbulence on
microalgae. J. Appl. Phycol. 2, 71-77.
3) W. H. Thomas and C. H. Gibson (1990 b). Quantified small-scale turbulence
inhibits a red tide dinoflagellate, Gonyaulax polyedera Stein. Deep-Sea Res.
37, 1583-1593.
4) M. I. Latz, J. F. Case, and R. L. Gran. (1994). Excitation of Bioluminescence
byLaminar Fluid Shear Associated with Simple Couette-Flow. Limnol. Oceanogr.
39, 1424-1439.
5) J. H. Power (1996). Simulations of the effect of advective-diffusive on
observations of plankton abundance and population rates. J. Plankt. Res. 18,
1881-1896.
6) H. Tennekes and J. L. Lumley 著,藤原仁志・荒川忠一訳「乱流入門」東海大学
出版会(1998).
7) M. I. Latz, and J. Rohr. (1999). Luminescent response of the red tide
dinoflagellates
Lingulodinium polyedrum to laminar and turbulent flow. Limnol.
Oceanogr. 44, 1423-1435.
8) S. Wendling, C. Oddou, and D. Isabey. (1999). Stiffening response of a cellular
tensegrity model. J. Theor. Biol. 196, 309-325.
9) D. M. Lewis and T. J. Pedley (2000). Planktonic contac rates in homogeneous
isotropic turbulence: Theoretical Predictions and kinetic simulations. J.
Theor. Biol. 205, 377-408.
10) F. Peters and C. Marras・ (2000). Effects of turbulence on polankton: an
overview of experimental evidence and some heoretical considerations. Mar. Ecol.
Prog. Ser. 205, 291-306.
11) 加藤洋治(2001).キャビテーションの環境保全への応用,キャビテーションに関
するシンポジウム(第11回)
12) Kato, H. (2001): Utilization of cavitation for environmental protection,
Killing planktons and dispersing spilled oil , [B6.006] 4th International
Symposium on Cavitation, Pasadena.
16
剪断応力と関連する乱流の水生生物への影響に関しては、乱流の強さを表すエネル
ギー散逸率ε10-1∼103cm2S-3 のオーダーで検討されている。 この範囲は、静穏から
悪天候までの自然の海表面の状態に該当しており、機械的殺滅法のエネルギーよりも
遙かに小さいレベルである。 W. H. Thomas and C. H. Gibson(1990a,b)2)3)によれば、
有毒種 Alexandrium が属する渦鞭毛藻は、自然海域の状態でも特に強い乱流が数日継
続する場合には細胞数が減少すると報告されている。
また、Wedling et al.(1996)8)
は、細胞の剛性をモデルで表現して、応力による細胞の変形を明らかにし、 Sato et
al.(1990)1)はマイクロピペットを用いた実験で、後生動物の細胞の弾性には応力による
閾値が存在するとしている。 さらに、
Latz et al.(1994)4)と Latz and Rohr(1999)7)は、
有毒種 Alexandrium と同じ渦鞭毛藻の Lingulodinium polyedrum が剪断力を感じる
と蛍光を発することを確認している。
以上の知見は、極弱い剪断力でも水生生物が
何らかの影響を受けることを示している。
したがって、機械的殺滅法で発生してい
ると考えられる強い剪断力では、例え短時間の作用でも水生生物に対して大きなダメ
ージを与えていると考えられる。
キャビテーションの水生生物に対する作用に関しては、加藤(2001)11)にまとめられて
おり、プランクトンを殺滅あるいは除去する効果があること、最大圧力 100Mpa ∼
150Mpa で水中の固形物が小型化(プランクトン等の粒子が粉砕)することが報告され
ている。
このように、機械的殺滅法の水生生物に対する作用・効果に関しては、剪断力とキ
ャビテーションの両方が考えられる。
なお、これら研究論文の知見をふまえ、後述する「効果メカニズムに関する実験的
解明」の実験方法を決定した。
17
4.効果メカニズムに関する実験的解明
4.1 実験目的
機械的殺滅法の物理パラメータと効果との定量的関係を把握し、水生生物に対する
効果メカニズムを解明する。
4.2 実施実験と目的
実施した実験と目的およびそれらの関係は次の通りである。
(1)流速変化実験
目的:噴流ノズルの流速を段階的に速くし、流速
及び圧損と効果との基本的な関係を把握する。
(2)減圧・加圧実験
目的:減圧してキャビテーションの
発生を増幅した場合と、加圧してキ
ャビテーションの発生を抑制し剪断
力だけが作用する場合の効果を把握
両実験の結果を比較し、噴流ノズルで機能する
効果が剪断力あるいはキャビテーションであ
るか、または両機能の複合作用であるかを判定
する。さらに、バラスト水処理技術として噴流
ノズル単独で得られる効果を評価する。
(3)噴流ノズル部流速と管内流速との関係実験
目的:両部位の流速差による効果向上の検討
(4)衝突板実験
目的:噴流ノズルで発生したキャビテーションを衝突
板で崩壊させた時の効果向上の検討
(5)気泡注入実験
目的:気泡注入による効果向上の検討
(6)面取り効果の検討
目的:噴流ノズル部の角を面取りした場合の圧損軽減の
検討
効果向上方法及び
圧損低減による実
用性向上を検討す
る。
機械的殺滅法のメカニズムと実用
化に向けての要素技術の選定
18
4.3 実験時期及び場所
実験は、平成 13 年8月1日から8月 31 日に、佐賀県伊万里市の臨海実験施設で行
った。
4.4 実験装置
実験装置は、噴流を発生させるノズル部(試験片)および各種物理パラメータを観
測するセンサー等を装着した試験装置と、試験海水を圧送するプランジャーポンプ、
減圧実験で使用したクレーン、加圧実験で使用した加圧弁、それに処理前の対照海水
(コントロール)と処理水の採水を行う弁と採水口で構成した。 写真Ⅱ.4.4-1 及び図
Ⅱ.4.4-1 には、各実験共通である試験装置と実験装置概略図を示した。
各種実験は、対象とする試験片を装着し、プランジャーポンプの流量を調節するこ
とで流速を変え、また、クレーンや弁操作で圧力を変化させて行った。
試験片
流れ
上流側
下流側(透明可視化パイプ)
写真Ⅱ.4.4-1 試験装置
19
つり上げクレーン(減圧用)
加圧弁
プランジャーポンプ
試験装置
切替弁
処理水
(60 ㍑)
海水
(約 1000 ㍑)
コントロール水(60 ㍑)
試験片
水中マイク
圧力計
圧力計
水中カメラ
流れ
透明パイプ
貯水箱
図Ⅱ.4.4-1 実験装置概略図
20
4.5 効果判定方法
効果の判定に用いた水生生物は、自然海水中の浮遊性甲殻類(動物プランクトン)
である。
この水生生物は、自然海水中に常時多数存在している。
明等には多くの実験データが必要であり、一回の実験で約1m3
メカニズムの解
の海水を使う。 した
がって、自然海水中の浮遊生甲殻類は、膨大な数の生物を必要とする本実験に適して
いる。
処理基準および対象生物に関する国際的な議論は、まだ十分ではなく様々な意見が
出されたままとなっている。
ただし、その中で、実船実験を実施している米国等の
「ろ過法」では、水生生物の大きさに着目した基準を提唱しており、その大きさは 50
μm∼100μm 以上としている。 浮遊性甲殻類の大きさは大凡 30μm 以上であり、
この点においても初期実験の対象生物として適当であると考え採用した。
効果の判定は、処理前の海水(コントロール)と処理後の海水中に存在する正常個
体(写真Ⅱ.4.5-1)及び損傷個体(写真Ⅱ.4.5-2)の出現数を顕微鏡下で種別に計数観
察し、変化状況を見ると共に、正常個体の出現数を用いて次の式で損傷率を算出して
行った。
処理による損傷率計算式:
(コントロール中における各種の正常個体数−処理後の正常個体数)
×100=損傷率(%)
(コントロール中における各種の正常個体数)
触角が消失
個体全体が破損
腹部が消失
写真Ⅱ.4.5-1 正常個体
写真Ⅱ.4.5-2 損傷個体
(Oithona davisae)
(Oithona davisae)
21
4.6 流速変化実験
(1) 実験方法
噴流を発生させるノズル(試験片)
は、
図Ⅱ.4.6-1 のように、
厚さ 6mm,
直径 49.5mm
のステンレス製の板に、幅 0.5mm のスリット状の隙間を均一に 11 本開け(総面積
227.4mm2)たものを用いた。
スリット幅
0.5mm
総面積
227.4mm2
板厚6mm
49.5mm径
図Ⅱ.4.6-1 流速変化実験で用いた試験片
実験した流速は、ノズル部(スリット)の噴流流速(以下、スリット部流速)で、
約 5m/sec,約 12m/sec,約 19m/sec,約 26m/sec の4ケースである。 なお、流速
は、計測値ではなく、一定量のバケツ満水時間の計測に基づく流量から次の式で求
めた計算値である。
スリット部流速計算式
スリット部流速=計測流量/スリット状隙間の総面積(227.4mm2)
実験は、次の手順で行った。
①貯水タンクに自然海水約1m3 を採水
②プランジャーポンプを起動し、スリット部流速が実験流速で一定になるまで流量
を調節
③切替弁を開きコントロールサンプル(20L)を採水
④切替弁と閉め処理後サンプル(20L)を採水
22
⑤「③と④」の操作を計3回行い、コントロールと処理後それぞれの3サンプルを
採水
⑥採水した各サンプルを開口径 20μm のステンレス製メッシュを用いてろ過し、サ
ンプルを濃縮
⑦メッシュ上に残ったプランクトン等をビーカーに移行
⑧ビーカー内の海水容量を定容して、自然海水1L 分をシャーレに移し、実体顕微鏡
で浮遊性甲殻類の種類と状況(正常,損傷等)別の個体数を計数
各実験時には、試験片前後で歪みゲージ圧力計を用いて管内壁の静圧を計測し、
水中カメラを用いてキャビテーション発生状況を観察した。
また、水中マクロフ
ォンで音を計測し、キャビテーション発生状況の参考とした。
なお、本報告書における圧力の表示は、水頭表示を用いている。 Pa と水頭表示
(mAq)との関係は、次の通りである。
Pa と水頭表示(mAq)との関係
10mAq=0.98*105Pa=1kg/cm2
圧損(mAq)は、圧損(mAq)=試験片上流圧力(mAq)―試験片下流圧力(mAq)
で算出した。
図Ⅱ.4.6-2 には、圧力等の観測システムを示した。
水中カメラ
圧力計
水中マイク
ア
ン
プ
FFT アナライザー
ビデオ/TV
動ひずみ計
図Ⅱ.4.6-2 圧力等の観測観測システム
23
ペンレコーダ
(2) 実験結果
写真Ⅱ.4.6-1 には、各流速時の試験片下流側の状況を示す。
スリット部流速約
26m/sec では、下流側は白色化し、キャビテーションが発生していると考えられた。
この白色化現象は、流速が低下すると共に小さくなり、約 12m/sec ではごく僅かに
なる。
流速:約 12m/sec
流速:約 19m/sec
写真Ⅱ.4.6-1
流速:約 26m/sec
各流速時の試験片下流側の状況
図Ⅱ.4.6-3 には、音圧スペクトル計測結果を示した。 各流速ケース共に、数 kHz
∼20kHz の周波数帯において音圧スペクトルの強さ(Pa)が増しており、また、流
速が速いほど増加は顕著になっている。
この音圧スペクトルの状況は、白色化現
象の程度と共に、流速 12m/sec からキャビテーションが発生し、流速が速いほど発
生量が多いことを示していると考えられる。
24
音圧スペクトル強さ (Pa)
1000
流速 12.3m/sec
100
10
100
周波数 (kHz)
流速 18.7m/sec
音圧スペクトル強さ (Pa)
1000
100
10
100
周波数 (kHz)
流速 25.7m/sec
音圧スペクトル強さ (Pa)
1000
100
10
100
周波数 (kHz)
図Ⅱ.4.6-3 流速変化実験における音圧スペクトル計測結果
25
図Ⅱ.4.6-4 には、スリット部流速と圧損の関係を示した。 圧損は、流速5m/sec
では微少であったが、その後流速増加と共に上昇した。 両者の関係は、スリット
部流速の2乗とほぼ比例関係にあり、配管などの一般的な関係と同じであった。
y = 0.0136x2.3885
流速と圧損の関係
30
25
圧損(mAq)
20
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速(m/sec)
図Ⅱ.4.6-4 流速変化実験におけるスリット部流速と圧損の関係
図Ⅱ.4.6-5 には、各スリット部流速における浮遊性甲殻類の変化、図 4.6-6 には、
スリット部流速と浮遊性甲殻類損傷率との関係、図Ⅱ.4.6-7 には、圧損と損傷率との
関係を示した。 なお、圧損がほとんど生じなかったスリット部流速5m/sec では、
浮遊性甲殻類の損傷は認められなかった。
スリット部流速 12.3m/sec 以上の処理では、個体数全体が減少している。 これ
は、処理することによって粉砕される個体があることを表している。
また、正常
個体が減少し、運動停止及び体の一部が破損する個体が増えている。
これら処理
による効果は、個体が大きいほど顕著に表れ、流速が 18.7m/sec,25.7m/sec と速く
なるなるほど大きくなっている。
浮遊性甲殻類全体(甲殻類合計)に対する効果を3回の実験の平均損傷率でみる
と、スリット部流速 12.3m/sec では約 20%、18.7m/sec では約 60%、25.7m/sec で
は約 90%となっている。
圧損と平均損傷率との関係は、約 15mAq で約 60%、約 30mAq で約 90%であり、
圧損が大きいほど効果は高くなるが、圧損が2倍になっても損傷率は 1.5 倍の増加に
とどまっており、損傷率÷圧損の数値は 15mAq(流速 12.3m/sec)の方が大きい。
26
均一スリット,厚さ6mm,流速25.7m/sec,圧損29.6mAq
Copepoda nauplius(40
μm∼0.1mm)
Cirrpedia nauplius(0.2
∼0.4mm)
Oithona属(0.3∼
0.6mm)
Euterpina属(0.5∼
1.0mm)
止
処
理
後
,破
損
常
処
理
後
,停
処
理
後
,正
co
n
tro
l,
tro
l,停
止
co
n
co
n
破
損
Paracalanus属(0.5∼
1.0mm)
tro
l,正
常
個体数/L
800
700
600
500
400
300
200
100
0
Acartia属(0.6∼
1.2mm)
均一スリット,厚さ6mm,流速18.7m/sec,圧損15.1mAq
800
Copepoda nauplius(40
μm∼0.1mm)
700
個体数/L
600
Cirrpedia nauplius(0.2
∼0.4mm)
500
400
Oithona属(0.3∼
0.6mm)
300
200
Euterpina属(0.5∼
1.0mm)
100
,破
損
処
理
後
,停
止
処
理
後
,正
常
処
理
後
co
nt
ro
l,
l,停
止
co
nt
ro
l,正
常
co
nt
ro
破
損
0
均一スリット,厚さ6mm,流速12.3m/sec,圧損6.1mAq
Paracalanus属(0.5∼
1.0mm)
Acartia属(0.6∼
1.2mm)
Copepoda nauplius
(40μm∼0.1mm)
800
Cirrpedia
nauplius(0.2∼
0.4mm)
700
個体数.L
600
Oithona属(0.3∼
0.6mm)
500
400
Euterpina属(0.5∼
1.0mm)
300
200
Paracalanus属(0.5
∼1.0mm)
100
後
,破
損
Acartia属(0.6∼
1.2mm)
処
理
後
,停
止
処
理
後
,正
常
処
理
co
nt
ro
l,
l,停
止
co
nt
ro
l,正
常
nt
ro
co
破
損
0
図Ⅱ.4.6-5 流速変化実験の各スリット部流速における浮遊性甲殻類の変化
27
流速変化とOithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
normal最大損傷率(%)
50
normal平均損傷率(%)
40
normal最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
流速変化とCopepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
normal最大損傷率(%)
50
normal平均損傷率(%)
40
normal最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
流速変化と甲殻類合計の損傷率(%)
y = 96.656Ln(x) - 222.96
100
90
80
損傷率(%)
70
normal最大損傷率(%)
60
normal平均損傷率(%)
50
normal最小損傷率(%)
40
対数 (normal平均損傷率(%))
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
図Ⅱ.4.6-6 流速変化実験におけるスリット部流速と浮遊性甲殻類損傷率との関係
28
圧損とOithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
normal最大損傷率(%)
50
normal平均損傷率(%)
40
normal最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
圧損とCopepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
normal最大損傷率(%)
50
normal平均損傷率(%)
40
normal最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
圧損と甲殻類合計の損傷率(%)
y = 45.097Ln(x) - 62.07
100
90
80
損傷率(%)
70
normal最大損傷率(%)
60
normal平均損傷率(%)
50
normal最小損傷率(%)
40
対数 (normal平均損傷率(%))
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
図Ⅱ.4.6-7 流速変化実験における圧損と浮遊性甲殻類損傷率との関係
29
4.7 減圧・加圧実験
(1) 実験方法
減圧実験は、流速変化実験と同じ試験片を用いて、流速変化実験では地上1mで
行った実験を、白色化現象の程度から明らかにキャビテーション発生量が多くなっ
たと判断される地上 7.5m まで試験装置を持ち上げて行った(写真Ⅱ.4.7-1)
。 スリ
ット部流速は、流速変化実験で効果が確認された 12.2m/sec と 18.8m/sec である。
加圧実験は、加圧弁(5個のボール弁)を試験片後方のキャビテーションが消失
するまで絞る条件で行った。
スリット部流速は、減圧実験とほぼ同じ 12.2m/sec
と 18.7m/sec で行い、加圧弁の操作で、結果的に 12.2m/sec では4mAq、18.7m/sec
では 44mAq の加圧となった。
なお、他の実験方法に関しては、流速変化実験と同様である。
試験装置
写真Ⅱ.4.7-1 減圧実験風景
30
(2) 実験結果
写真Ⅱ.4.7-2 には、減圧・加圧実験の各流速時における試験片下流側の状況を示し
た。
減圧実験では、白色化現象が確認され、速い流速でより顕著であり、キャビテー
ションが発生していたと考えられる。
一方、加圧実験では、白色化現象は観察さ
れず、キャビテーションは発生していなかったと考えられる。
減圧実験,流速 12.2m/sec
減圧実験,流速 18.8m/sec
加圧実験,流速 12.2m/sec
加圧実験,流速 18.7m/sec
写真Ⅱ.4.7-2
減圧・加圧実験における試験片下流側の状況
図Ⅱ.4.7-1 には、減圧実験における音圧スペクトル計測結果を示した。 なお、加
圧実験では、計測範囲以下の微小な音圧しか観測されなかった。
減圧実験における音圧スペクトルは、流速変化実験と同様に数 kHz∼20kHz の周
波数帯において音圧スペクトルの強さ(Pa)が増していた。
この結果は、加圧実
験における非観測の結果と共に、減圧した場合に限りキャビテーションが発生して
いることを指示している。
なお、減圧実験における数 kHz∼20kHz の周波数帯の
増幅程度は、流速変化実験における流速 12.3m/sec のレベルに留まっている。 一
方、キャビテーション発生状況を白色化現象は、減圧実験の流速 12.2m/sec および
18.8m/sec の方が明らかに顕著であった。 この矛盾する結果の理由は、減圧実験で
31
は多く発生したキャビテーションの気泡で音が減衰したためと考えられる。
以上の、試験片下流側の状況と音圧スペクトル計測結果から、減圧実験ではキャ
ビテーションの発生と剪断力が共に作用した状況下、加圧実験では剪断力単独作用
状況下における観測が実施できたと判断した。
32
音圧スペクトル強さ (Pa)
1000
100
10
100
周波数 (kHz)
減圧実験,流速 12.2m/sec
音圧スペクトル強さ (Pa)
1000
100
10
100
周波数 (kHz)
減圧実験,流速 18.8m/sec
図Ⅱ.4.7-1 減圧実験における音圧スペクトル計測結果
33
図Ⅱ.4.7-2 には、減圧・加圧実験時のスリット部流速と圧損の関係を示した。
両者の関係は、流速が速くなると減圧実験での圧損が高くなり、キャビテーショ
ンの発生が圧損を高めていると考えられる。
流速と圧損の関係
30
25
圧損(mAq)
20
減圧実験
加圧実験
15
線形 (減圧実験)
線形 (加圧実験)
10
5
0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
スリット部流速(m/sec)
図Ⅱ.4.7-2 減圧・加圧実験におけるスリット部流速と圧損の関係
図Ⅱ.4.7-3 および 4 には、減圧・加圧実験における浮遊性甲殻類の変化、図Ⅱ.4.7-5
および 6 には、スリット部流速と浮遊性甲殻類損傷率の関係、図Ⅱ.4.7-7 および 8
には、圧損と損傷率の関係を示した。
減圧および加圧実験共に、処理後に個体数が減少しており、粉砕された個体があ
ることを表している。
また、正常個体が減少し、運動停止及び体の一部が破損す
る個体が増えている。 それら効果は、流速が速いほど大きくなっているが、特に、
加圧実験の流速 18.7m/sec で顕著に表れている。
浮遊性甲殻類全体(甲殻類合計)に対する効果を3回の実験の平均損傷率でみる
と、減圧実験の流速 18.8m/sec が 60%弱であるのに対し、加圧実験の流速 18.7m/sec
が約 65%とやや高くなっている。
圧損と損傷率との関係においても、減圧実験では圧損 17.6mAq で 60%弱であるの
に対し、加圧実験では 13.6mAq で 65%と低い圧損で高い効果が得られている。
34
均一スリット,厚さ6mm,流速12.2m/sec,圧損6.1mAq,減圧7.5m
800
700
600
500
400
300
200
100
0
Cirrpedia nauplius(0.2
∼0.4mm)
Oithona属(0.3∼
0.6mm)
Euterpina属(0.5∼
1.0mm)
損
Acartia属(0.6∼
1.2mm)
理
後
,破
,停
止
処
処
理
後
理
後
,正
常
損
処
止
破
co
nt
ro
l,
co
nt
ro
l,正
常
Paracalanus属(0.5∼
1.0mm)
co
nt
ro
l,停
個体数/L
Copepoda nauplius(40
μm∼0.1mm)
均一スリット,厚さ6mm,流速18.8m/sec,圧損17.6mAq,減圧7.5m
800
700
600
500
400
300
200
100
0
Cirrpedia nauplius(0.2
∼0.4mm)
Oithona属(0.3∼
0.6mm)
Euterpina属(0.5∼
1.0mm)
,破
損
止
Acartia属(0.6∼
1.2mm)
処
理
後
,停
理
後
処
処
理
後
,正
常
Paracalanus属(0.5∼
1.0mm)
co
nt
ro
l, 停
止
co
nt
ro
l,
破
損
co
nt
ro
l, 正
常
個体数/L
Copepoda nauplius(40
μm∼0.1mm)
図Ⅱ.4.7-3 減圧実験の各スリット部流速における浮遊性甲殻類の変化
35
均一スリット,厚さ6mm,流速12.2m/sec,圧損5.6mAq,加圧4mAq
Copepoda nauplius(40
μm∼0.1mm)
1400
Cirrpedia nauplius(0.2
∼0.4mm)
個体数/L
1200
1000
Oithona属(0.3∼
0.6mm)
800
600
Euterpina属(0.5∼
1.0mm)
400
200
Paracalanus属(0.5∼
1.0mm)
損
止
理
後
,破
Acartia属(0.6∼
1.2mm)
処
理
後
,停
処
理
後
,正
常
損
処
止
破
co
nt
ro
l,
co
nt
ro
l, 停
co
nt
ro
l, 正
常
0
均一スリット,厚さ6mm,流速18.7m/sec,圧損13.6mAq,加圧44.2mAq
Copepoda nauplius(40
μm∼0.1mm)
1400
Cirrpedia nauplius(0.2
∼0.4mm)
個体数/L
1200
1000
Oithona属(0.3∼
0.6mm)
800
600
Euterpina属(0.5∼
1.0mm)
400
200
Paracalanus属(0.5∼
1.0mm)
co
nt
ro
l, 停
止
co
nt
ro
l,
破
損
処
理
後
,正
常
処
理
後
,停
止
処
理
後
,破
損
co
nt
ro
l, 正
常
0
Acartia属(0.6∼
1.2mm)
図Ⅱ.4.7-4 加圧実験の各スリット部流速における浮遊性甲殻類の変化
36
減圧7.5mにおける流速とOithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
40
最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
減圧7.5mにおける流速とCopepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
40
最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
減圧7.5mにおける流速と甲殻類合計の損傷率(%)
y = 6.0712x - 56.737
100
90
80
損傷率(%)
70
最大損傷率(%)
60
平均損傷率(%)
50
最小損傷率(%)
40
線形 (平均損傷率(%))
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
図Ⅱ.4.7-5 減圧実験におけるスリット部流速と浮遊性甲殻類損傷率との関係
37
加圧実験における流速とOithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
40
最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
加圧実験における流速とCopepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
40
最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
加圧実験における流速と甲殻類合計の損傷率(%)
y = 5.4141x - 34.956
100
90
80
損傷率(%)
70
最大損傷率(%)
60
平均損傷率(%)
50
最小損傷率(%)
40
線形 (平均損傷率(%))
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
図Ⅱ.4.7-6 加圧実験におけるスリット部流速と浮遊性甲殻類損傷率との関係
38
圧損とOithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
40
最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
圧損とCopepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
40
最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
圧損と甲殻類合計の損傷率(%)
y = 3.4843x - 3.9233
100
90
80
損傷率(%)
70
最大損傷率(%)
60
平均損傷率(%)
50
最小損傷率(%)
40
線形 (平均損傷率(%))
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
図Ⅱ.4.7-7 減圧実験における圧損と浮遊性甲殻類損傷率との関係
39
圧損とOithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
40
最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
圧損とCopepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
40
最小損傷率(%)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
圧損と甲殻類合計の損傷率(%)
y = 4.1959x + 7.5991
100
90
80
損傷率(%)
70
最大損傷率(%)
60
平均損傷率(%)
50
最小損傷率(%)
40
線形 (平均損傷率(%))
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
図Ⅱ.4.7-8 加圧実験における圧損と浮遊性甲殻類損傷率との関係
40
4.8 流速変化および減圧・加圧実験のまとめ(機械的殺滅法のメカニズム)
流速変化実験および減圧・加圧実験結果を比較し、噴流ノズル(スリット状の隙間
を均一に配置した試験片)の水生生物に対する損傷効果(殺滅効果)のメカニズムを
検討する。
図Ⅱ.4.8-1 には、各実験のスリット部流速と圧損の関係を示した。 キャビテーショ
ンの発生を抑えた加圧実験のスリット部流速と圧損の関係は、流速変化実験とほぼ同
じであるが、キャビテーションの発生を増幅させた減圧実験では、流速が速くよりキ
ャビテーションの発生が多い場合に若干高くなっている。
この結果は、キャビテー
ションの発生が多少圧損を高めていることを示している。
流速と圧損の関係
y = 0.0136x2.3885
30
25
圧損(mAq)
20
normal実験
減圧実験
15
加圧実験
累乗 (normal実験)
10
5
0
0
5
10
15
20
スリット部流速(m/sec)
25
30
注:normal 実験は流速変化実験
図Ⅱ.4.8-1 流速変化実験および減圧・加圧実験におけるスリット部流速と圧損の関係
図Ⅱ.4.8-2 には、各実験のスリット部流速と浮遊性甲殻類損傷率の関係、図Ⅱ.4.8-3
には、圧損と損傷率の関係を示した。
キャビテーションの発生を抑えた加圧実験では、同じ流速でも流速変化実験の損傷
率よりもやや高いが、キャビテーションの発生を増幅させた減圧実験では、わずかに
低い損傷率となっている。
ただし、この差は有意なものとは判断しがたく、損傷率
にキャビテーションは寄与していないと考える。
したがって、スリット状の隙間を均一に配置した試験片においては、水生生物に対
する機械的損傷効果は、剪断力によるものと考えられる。
41
なお、流速変化実験のスリット部流速 25.7m/sec,圧損 29.6mAq で得られた浮遊性
甲殻類に対する殺滅効果約 90%は、これまで有力な技術であると考えられてきたミキ
サーパイプ法による動物プランクトンに対する損傷率約 65%(図Ⅱ.4.8-4)が圧損約
50mAq で得られた結果であること考えれば、本試験片を基本とする技術は、かなり実
用性が向上した方法であると評価できる。
42
流速変化とOithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
normal平均損傷率
50
減圧平均損傷率
40
加圧平均損傷率
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
流速変化とCopepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
normal平均損傷率
50
減圧平均損傷率
40
加圧平均損傷率
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速m/sec
流速変化と甲殻類合計の損傷率(%)
y = 96.656Ln(x) - 222.96
100
90
80
損傷率(%)
70
normal平均損傷率
60
減圧平均損傷率
50
加圧平均損傷率
40
対数 (normal平均損傷率)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
スリット部流速m/sec
25
30
注:Normal は流速変化実験
図Ⅱ.4.8-2 流速変化実験および減圧・加圧実験におけるスリット部流速と
浮遊性甲殻類損傷率の関係
43
圧損とOithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
normal平均損傷率
50
減圧平均損傷率
40
加圧平均損傷率
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
圧損とCopepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
normal平均損傷率
50
減圧平均損傷率
40
加圧平均損傷率
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
圧損mAq
圧損と甲殻類合計の損傷率(%)
y = 45.097Ln(x) - 62.07
100
90
80
損傷率(%)
70
normal平均損傷率
60
減圧平均損傷率
50
加圧平均損傷率
40
対数 (normal平均損傷率)
30
20
10
0
0
5
10
15
20
圧損mAq
25
30
注:Normal は流速変化実験
図Ⅱ.4.8-3 流速変化実験および減圧・加圧実験における圧損と浮遊性甲殻類損傷率の関係
44
Damaged rate(%)
100
After passage
75
50
25
54.8
65.1
Phytoplankton
Zooplankton
0
図Ⅱ.4.8-4 ミキサーパイプ法(圧損約 50mAq)によるプランクトン損傷率
45
4.9 機械的殺滅法の効果および実用性向上検討実験
前記、流速変化実験および減圧・加圧実験において、スリット状の隙間を均一に配
置した試験片(以下、均一多スリット)の噴流ノズル装置では、水生生物に対する殺
滅効果の主要因が剪断力であることを明らかにした。 そして、平成 11 年度に実施し
たミキサーパイプ法よりも効果および実用性の面で優れていると評価した。
以降の実験では、さらなる効果および実用性の向上を目指し、本試験片に付加する
技術要素の検討を行った。
なお、付加する技術要素の評価を明確にするため、試験片を図Ⅱ.4.9-1 に示す単スリ
ットに変更して実験した。
0.5mm
30mm
図Ⅱ.4.9-1 機械的殺滅法の効果および実用性向上検討実験に用いた
単スリット試験片
各実験に先立ち、単スリットの特性に関する実験を実施した。 実験装置および方法
は、基本的に流速変化等の均一多スリットの実験と同じである。
図Ⅱ.4.9-2 には、浮遊性甲殻類に対する損傷率、図Ⅱ.4.9-3 には、スリット部流速と
圧損の関係、図Ⅱ.4.9-4 には、管内流速とスリット部流速の関係をそれぞれ均一多スリ
ットの実験データと共に示した。
なお、管内流速とは、試験片前のパイプ管内流速のことで、次の式で算出している。
管内流速の計算式
管内流速=計測流量/パイプ管内径 49.5mm
単スリットによる浮遊性甲殻類の損傷率は、同程度のスリット部流速の場合で明らか
に均一多スリットよりも劣っている。 この理由としては、単スリットではスリット部
流速と管内流速に大きな差が生じることが考えられる。
なお、単スリットの損傷率は多スリットに劣るが、圧損は大差なく、水生生物の殺滅
に寄与しないエネルギーロスが大きいと考えられる。
46
均
均
一
多
47
ット
,流
18
速
25
/s
ec
/s
ec
.7
m
.3
m
ec
ec
/s
/s
.7
m
.1
m
25
速
18
速
,流
速
ット
,流
スリ
スリ
ット
ット
,流
スリ
スリ
多
単
一
単
損傷率(%)
ト,流
速
25
25
.7
m
/s
ec
.3
m
/s
ec
.7 m
/s
ec
.1
m
/s
ec
18
ト,
流
速
均
一
多
スリ
ッ
単
スリ
ッ
ト,流
速
ト,流
速
18
均
一
多
スリ
ッ
単
スリ
ッ
損傷率(%)
均
均
ト,
流
25
速
25
ット
,流
速
スリ
ッ
一
多
スリ
単
ec
.7m
/s
ec
.3
m
/s
ec
.7m
/s
ec
.1
m
/s
18
ト,流
速
18
ット
,流
速
スリ
ッ
一
多
スリ
単
損傷率(%)
Oithona属の損傷率(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
最大損傷率(%)
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
Copepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
最大損傷率(%)
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
甲殻類合計の損傷率(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
最大損傷率(%)
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
図Ⅱ.4.9-2 単スリットと均一多スリットの浮遊甲殻類損傷率の比較
y = 0.0136x2.3885
流速と圧損の関係
30
25
圧損(mAq)
20
均一多スリット
15
単スリット
累乗 (均一多スリット)
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速(m/sec)
図Ⅱ.4.9-3 単スリットと均一多スリットのスリット部流速と圧損の関係の比較
管内流速とスリット部流速の関係
4.0
y = 0.1184x + 0.0001
3.5
管内流速(m/sec)
3.0
2.5
均一多スリット
単スリット
2.0
線形 (均一多スリット)
線形 (単スリット)
1.5
1.0
0.5
y = 0.0078x - 0.0008
0.0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速(m/sec)
図Ⅱ.4.9-4 単スリットと均一多スリットのスリット部流速と管内流速の関係の比較
48
4.9.1
スリット部流速と管内流速の関係実験
実験に用いる単スリットの特性で、試験片前の管内流速とスリット部の流速の差
が効果を左右している可能性が示された。
そこで、本実験は、試験片前の管内流
速を変えて、効果の違いを検討した。
(1) 方法
実験は、スリット部流速を 25.3m/sec に固定し、試験片前の管内に図Ⅱ.4.9.1-1
の内管を取り付けて管内流速を 0.62m/sec と速くした場合と、内管を設置せずに
管内流速 0.197m/sec の場合で行った。
単スリット試験片
内管
26mm
内管
70mm
図Ⅱ.4.9.1-1 試験片前に取り付けた内管
49
(2) 実験結果
図Ⅱ.4.9.1-2 には、試験片前の管内流速の違いによる浮遊性甲殻類の損傷率の比較、
図Ⅱ.4.9.1-3 には、スリット部流速と管内流速の関係(均一多スリットにおけるデー
タを含む)、図Ⅱ.4.9.1-4 には、スリット部流速と圧損の関係(均一多スリットにお
けるデータを含む)を示した。
浮遊性甲殻類に対する損傷率は、試験片前の管内流速が速い方が高い。
この結
果から、スリット内および噴流内あるいは試験片上流部の縮流部の剪断力は、管内
流速が速く、スリット部の流速との差が小さいほど大きいこと示している。
したがって、試験片前の管内流速とスリットの配置が効果および実用性の向上要
素の候補となる。
50
Oithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
40
30
20
10
0
管内流速0.197m/sec
管内流速0.62m/sec
Copepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
40
30
20
10
0
管内流速0.197m/sec
管内流速0.62m/sec
甲殻類合計の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
40
30
20
10
0
管内流速0.197m/sec
管内流速0.62m/sec
図Ⅱ.4.9.1-2 試験片前の管内流速による浮遊性甲殻類損傷率の比較
51
管内流速とスリット部流速の関係
4.0
y = 0.1184x + 0.0001
3.5
管内流速(m/sec)
3.0
均一多スリット
2.5
単スリット
2.0
単スリット管内流速0.62
線形 (均一多スリット)
1.5
線形 (単スリット)
1.0
0.5
y = 0.0078x - 0.0008
0.0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速(m/sec)
図Ⅱ.4.9.1-3 均一多スリット,単スリット,単スリット管内流速増加の
スリット部流速と管内流速の関係
流速と圧損の関係
40
y = 0.0136x2.3885
35
圧損(mAq)
30
25
均一多スリット
単スリット
20
単スリット管内流速0.62
累乗 (均一多スリット)
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速(m/sec)
図Ⅱ.4.9.1-4 均一多スリット,単スリット,単スリット管内流速増加の
スリット部流速と圧損の関係
52
4.9.2 衝突板実験
平成 11 年度に実施したミキサーパイプ法では、ノズル部下流の配管内に突起を設置
した場合に、効果が向上することを確認している。
本実験では、同様の効果の有無
および程度をノズル部の下流に衝突板を設置することで検討した。
本実験の結果、
衝突板の設置により、効果が向上し、かつ圧損が大幅に増加しない場合には、効果お
よび実用性向上技術になる考え実施した。
(1)実験方法
実験は、単スリットの試験片の下流部に写真Ⅱ.4.9.2-1 のようにアルミ製の衝突板
を取り付けて行った。
本実験に先立ち、その取り付け位置を図Ⅱ.4.9.2-1 のように試験片から 2.5mm,
5mm,10mm,15mm に設置し、衝突板に発生するエロージョンの観察を行った。
エロージョンは、試験片からの距離が短いほど激しく(写真Ⅱ.4.9.2-2)
、水生生物に
対する効果も大きいと推測した。
したがって、実験は、対象データとして取り付
けない場合、最も近距離の 2,5mm、最も遠い 15mm、それにキャビテーション崩壊
の効果を明確にするために、距離 2.5mm で加圧することでキャビテーションの発生
を抑えた実験も行った。
実験流速は、スリット部流速で約 25m/sec ( 25.3 ∼
25.8m/sec)である。
なお、他の実験装置および実験方法は、流速変化実験等と同じである。
衝突板
写真Ⅱ.4.9.2-1 試験片に取り付けた衝突板
53
試験片
スリット板と衝突板の距離
衝突板
2.5mm, 5mm, 10mm ,15mm
(距離/スリット幅= 5 ,10,20,30)
20mm
衝突板
図Ⅱ.4.9.2-1 衝突板の取り付け概略
激しいエロージョン
使用前
距離:2.5mm での発生状況
エロージョンは殆ど発生していない
距離:15mm での発生状況
写真Ⅱ.4.9.2-2 衝突板の距離とエロージョン発生状況
54
(2)実験結果
図Ⅱ.4.9.2-2 には、衝突板実験におけるスリット部流速と圧損の関係を示した。
衝突板無しの場合に比べて、衝突板を設置しても特に圧損が大きくならないこと、
また、試験片と衝突板の距離に係わらず圧損が大きく変わらないことは、衝突板の
存在で効果が向上する場合には、衝突板によるキャビテーションの崩壊が実用性の
面で有効な要素になることを示している。
なお、加圧してキャビテーションの発生を抑えると若干圧損が低下している。 こ
の結果は、もし、機械的殺滅法を剪断力単独の方法で構成する場合には、弁の開度
調整ではなく、圧損が増えない方法でキャビテーションの発生を抑えることが、実
用性の面で有効となる可能性を示している。
流速と圧損の関係
30
25
衝突板無
圧損(mAq)
20
衝突板距離2.5mm
衝突板距離2.5mm加圧21m
15
衝突板距離5mm
衝突板距離10mm
衝突板距離15mm
10
線形 (衝突板無)
5
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速(m/sec)
図Ⅱ.4.9.2-2 衝突板実験におけるスリット部流速と圧損の関係
図Ⅱ.4.9.2-3 には、衝突板実験における浮遊性甲殻類の損傷率を示した。
浮遊性甲殻類の損傷率は、衝突板を取り付けた方が衝突板無しに比べた場合に比
べて高く、特に、激しいエロージョンの発生が観察された近距離の 2.5mm では衝突
板無しの約2倍の効果が得られている。
また、加圧してキャビテーションの発生
を抑えた時は、ほぼ衝突板無しの場合と同じ効果であることから、衝突板を設置に
よる集中的なキャビテーション崩壊が損傷率を高めている可能性が高い。
よって、今回のスリットでは、キャビテーションはその発生だけでは効果に寄与
しないが、衝突板の設置によって一カ所で集中的に崩壊させることで効果を発揮す
ると考えられた。
しかも、衝突板の存在で圧損が増幅しないことから、機械的殺
滅法の改良技術として有効な要素になり得ると判断された。
55
Oithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
40
30
20
10
0
無
2.5mm
2.5mm,加圧21m
15mm
Copepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
40
30
20
10
0
無
2.5mm
2.5mm,加圧21m
15mm
甲殻類合計の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
40
30
20
10
0
無
2.5mm
2.5mm,加圧21m
15mm
図Ⅱ.4.9.2-3 衝突板実験における浮遊性甲殻類の損傷率
56
4.9.3 気泡注入実験
平成 11 年度に実施したミキサーパイプの実験では、気泡注入により水生生物殺滅効
果が向上した。
本実験では、スリット状の隙間による噴流ノズルにおいても、気泡
注入による効果向上が存在するかを確認した。
(1) 実験方法
実験は、図Ⅱ.4.9.3-1 のように試験片の全部にコンプレッサーで気泡を注入して行
った。
気泡注入量は、ミキサーパイプで最も効果が向上した対海水流量比 16%
(4.5L/min.)である。
実験ケースは、衝突板無しの気泡注入と気泡注入無し、衝突板を試験片の後方
2.5mm に設置した場合の気泡注入と気泡注入無しである。
なお、実験時のスリット部流速は、23.8∼25.8m/sec の範囲とし、他の実験施設お
よび方法は、流速変化実験等と同じである。
試験片
コンプレッサーへ
図Ⅱ.4.9.3-1 気泡注入実験の模式
57
(2)実験結果
図Ⅱ.4.9.3-2 には、気泡注入実験のけるスリット部流速と圧損の関係を示した。
気泡を注入すると、わずかであるが圧損が増える傾向がある。
したがって、気
泡注入は、スリット状の隙間による噴流ノズル装置の場合には、著しく効果が向上
しない場合以外に技術要素として採用するメリットはない。
流速と圧損の関係
y = 0.0836x1.7776
30
25
圧損(mAq)
20
衝突板無
衝突板無,エアー注入
15
衝突板距離2.5mm
衝突板距離,エアー注入
累乗 (衝突板無)
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速(m/sec)
図Ⅱ.4.9.3-2 気泡注入実験におけるスリット部流速と圧損の関係
図Ⅱ.4.9.3-3 には、気泡注入実験における浮遊性甲殻類の損傷率を示した。
剪断力だけが機能する衝突板無しの場合、剪断力とキャビテーションの崩壊が機
能する衝突板有りの場合の両者共に、気泡を注入すると浮遊性甲殻類の損傷率が低
下した。
したがって、スリット状の隙間による噴流ノズル方式による機械的殺滅
法では、気泡注入は、効果および実用性を向上させず、むしろ低下させると評価さ
れる。
ミキサーパイプでは気泡注入により効果が向上し、本実験では反対に低下した理
由としてはエアーの混入位置が違うことが考えられる。
ミキサーパイプではノズ
ル後端に気泡を注入したため、気泡による剪断効果の低下が避けられたためであろ
う。
また、ミキサーパイプでは、注入した気泡がパイプ内の中心部を通ることで
(図Ⅱ.4.9.3-4)
、ノズル部下流での噴流速度の減衰が抑えられ、パイプ内の突起付近
での剪断やキャビテーションの崩壊による効果が作用した可能性が考えられる。
58
59
単スリット,流速
23.8m/sec,衝突板距離
2.5mm,エアー注入
単スリット,流速
25.8m/sec,衝突板2.5m
単スリット,流速
24.3m/sec,エアー注入
単スリット,流速25.3m/sec
損傷率(%)
単スリット,流速
23.8m/sec,衝突板距離
2.5mm,エアー注入
単スリット,流速
25.8m/sec,衝突板2.5m
単スリット,流速
24.3m/sec,エアー注入
単スリット,流速25.3m/sec
損傷率(%)
単スリット,流速
23.8m/sec,衝突板距離
2.5mm,エアー注入
単スリット,流速
25.8m/sec,衝突板2.5m
単スリット,流速
24.3m/sec,エアー注入
単スリット,流速25.3m/sec
損傷率(%)
Oithona属の損傷率(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
最大損傷率(%)
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
Copepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
最大損傷率(%)
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
甲殻類合計の損傷率(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
最大損傷率(%)
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
図Ⅱ.4.9.3-3 気泡注入実験における浮遊性甲殻類の損傷率
水
エアー
ノズル
水流の旋回の影響もあり、中心部は気泡の密度大
水
図Ⅱ.4.9.3-4 ミキサーパイプでの注入気泡の動向(推定模式図)
60
4.9.4 面取り効果実験
隙間に水を通した場合に、隙間を作る試験片の角を面取りすると圧損が低下するこ
とが一般的に知られている。 そこで、図 4.9.4-1 に示すように試験片の上流部の角を
丸め、この圧損低下状況と浮遊性甲殻類の損傷率を調べた。
もし、圧損の低下が大
きく、かつ効果が低下しない(あるいは低下率が小さい)場合には、実用性の面で有
効な方法となりうる。
(1)実験方法
図Ⅱ.4.9.4-1 には、試験片の面取り模式を示した。
実験は、面取り無しの場合でスリット部流速 25.6m/sec 、面取り有りの場合で
25.2m/sec で行った。
他の実験施設および方法は、流速実験等と同じである。
試験片
6mm
1mm 程度の角丸め
図Ⅱ.4.9.4-1 試験片の面取り模式
61
(2)実験結果
図Ⅱ.4.9.4-2 には、面取り実験におけるスリット部流速と圧損の関係を示した。
面取りしても圧損は、大きく変化しなかった。
したがって、実用性向上要素と
しては、期待できないと判断された。
流速と圧損の関係
y = 0.0836x1.7776
30
25
圧損(mAq)
20
衝突板無
15
衝突板無,面取り
累乗 (衝突板無)
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
スリット部流速(m/sec)
図Ⅱ.4.9.4-2 面取り実験におけるスリット部流速と圧損との関係
図Ⅱ.4.9.4-3 には、面取り実験における浮遊性甲殻類の損傷率を示した。 実用性
を向上させない面取りは、浮遊性甲殻類に対する損傷率も低下させており、効果向
上要素としても適切ではなかった。
62
Oithona属の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
40
30
20
10
0
単スリット,流速25.6m/sec
単スリット,流速25.2m/sec,面取り
Copepoda naupliusの損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
40
30
20
10
0
単スリット,流速25.6m/sec
単スリット,流速25.2m/sec,面取り
甲殻類合計の損傷率(%)
100
90
80
損傷率(%)
70
60
最大損傷率(%)
50
平均損傷率(%)
最小損傷率(%)
40
30
20
10
0
単スリット,流速25.6m/sec
単スリット,流速25.2m/sec,面取り
図Ⅱ.4.9.4-3 面取り実験における浮遊性甲殻類の損傷率
63
4.10 機械的殺滅法のメカニズムと実用化に向けての要素技術
機械的殺滅法による水生生物殺滅効果のメカニズムは、噴流ノズル部では剪断力だ
けが作用していることが明らかになった。
その効果は、流速が速いほど高く、下流
側に衝突板等を設置すると向上することも明らかになった。
なお、衝突板等による
効果は、キャビテーションが集中崩壊するエネルギーによるものと考えられる。
ま
た、噴流ノズル部の上流側の管内流速を速めること、および噴流ノズルの配置を工夫
することも、効果および実用性を向上させる要素候補技術であると評価された。
今
後は、これら各要素等の適切な組み合わせを実験・検討することが機械的殺滅法の有
効性をさらに高めると考えられる。
本実験で用いたスリット状の隙間を均一に配置した噴流ノズル試験板は、現時点で
の効果でも、平成 11 年度に実験したミキサーパイプよりも効果(損傷率:約 60%→約
90%)および実用性(圧損:約 50mAq→約 30mAq)面で優れており、実船への適用
性は高い。
これに、上記、改良を加えれば、十分に実用化が可能であると評価され
る。
64
5.機械的殺滅法の特徴と船舶への適応性
機械的殺滅法の船舶への適応性は、以上の各種調査実験から次のようにまとめられる。
機械的殺滅法の最大の特徴は、他の処理技術のように複雑な構造をしておらず、処理
の原理と装置構造が極めて単純なことにある。
この特徴で、処理量は最大クラスの数
千トン/hr が可能となり、通常のバラストパイプシステムに組み込むことも容易に行え
る。 その結果、多くの船舶への適用が可能となる。
船舶適用上の問題としては、本処理法の場合に、現在のところ約3kg/cm2 の圧力損
失が発生することが挙げられる。
既存船においては、バラストポンプにこの圧損に対
応するだけの余力が無い場合が多い。
る必要性が生じる。
も出てくる。
このようなケースにおいては、ポンプを増設す
また、ポンプ設置場所の確保や発電機の能力をアップさせる必要
しかし、このような問題点に関しても、他国で開発中のろ過法や紫外線
法、および複合技術等が実船で実施する場合に必要となるポンプ等の諸装置に比べれば、
かなり小さな付帯設備であると考えられる。
65
6.周知用資料の作成
周知資料資料としては、すでに発表したものとして、2001 年 11 月1・2日にシンガ
ポ ー ル で 開 催 さ れ た 「 First International Conference on Ballast Water
Management」での発表講演資料(英文,周知資料 No.1)
、来る 2002 年3月に開催さ
れる MEPC 第 47 回会合に提出した information paper(英文,周知資料 No.2)およ
び同会合で配布予定の説明資料(英文,周知資料 No.3)
、同 2003 年3月に開催される
日本海洋学会春季大会で発表講演する要旨(和文,周知資料 No.4)の計4編を作成し
た。 以下に、これら周知資料を示す。
66
周知資料No.1
Possible Practical Countermeasures For Ballast Water
Treatment
ABSTRACT
It is urgently necessary to develop ballast water treatment techniques in
order to minimize transfer of aquatic organisms.
Once the transported
organisms have settled down in new areas, they induce biodiversity change
and cause harmful impacts to public health, natural resources and aquatic
environments. Six treatment techniques so far tested in Japan are
compared by taking their effectiveness, ship’s safety practicability, cost and
consequential environmental impacts as criteria.
1.
Exchange of ballast water at mid-ocean This technique is useful to
reduce the total number of organisms, but the percentage of
organisms eliminated is not constant and unknown. It is highly
suspected that organisms of benthic life forms may not be
discharged easily, comparing to those floating in the water.
Although this technique is practicable to both existing and new
ships without installing new expensive mechanisms, operation is
sometimes difficult. Because exchange is not preformed during a
short voyage which does not pass mid-ocean and under bad sea
weather.
2.
Also strength and stability of ship may have trouble.
Mechanical termination method using ballast pipes. This is a
method to terminate organisms by using a special pipe which has
nobs inside surface. The device is planed to be integrated in
ballast pipe system for sterilization of seawater through its
passage during ballasting and/or deballasting operations. This
method can be adopted without changing usual ballast operation,
being not necessary extra energy supply or maintenance. This
67
device showed high termination rate for phyto- and zooplankton, if
the passage through the pipe can be repeated. But it could not
terminate resting cysts of dinoflagellates and bacteria well. It is
presumed that organisms smaller than 10 micrometer may not be
terminated. This method is excellent since it is harmless to
environment, easy to operate, and not expensive to install and
maintain. It gives no particular problem to ship’s safety.
3.
Heating method. This method is considered to have a high
sterilizationeffect. As large-sized heat source is, however, required
to raise ballast water to sufficient temperature to be effective,
running cost of heating equipment is considered to be expensive.
There are no concerns regarding possible environmental impacts.
It is the advantage of the method that it can terminate all
organisms taken in tanks including pathogens and resistant forms
of microalgae such as dinoflagellates cysts.
4.
Chemical method using ozone, chlorine and hydrogen peroxide
Sterilization effects of chemicals, ozone, chlorine and hydrogen
peroxide against pathogens and microplankton are very excellent.
However there are several problems common to the three
chemicals. For example, generating or storage facilities are
expensive and large. Chemicals may cause hull corrosion and give
environment impacts, unless decomposition of excess chemicals is
made in ballast tanks rather quickly.
Proceedings of the First International Conference on Ballast
Management
68
Water
周知資料 No.2
69
70
周知資料 No.3
Reference to MEPC47/INF.18
Development of Mechanical
Treatment System
Improved Special Pipe System
JAPAN
(The Japan Association of Marine Safety)
71
Introduction
We are developing a ballast water treatment system, under the
sponsorship of The Nippon Foundation, to satisfy criteria related to ship’s
safety, operational complexity, capability to be installed on board ships, cost
effectiveness and consequential environment impacts in addition to the
effectiveness of treatment. Based on the results of extensive research, we
believe a mechanical treatment system using a special pipe will match to
the criteria.
We have already given the presentation of the special pipe method at
the GloBallast Symposium (March 2001 in London), at the MEPC 46 (April
2001 in London) and in the First International Conference on Ballast Water
Management (November 2001 in Singapore). In this document, we report
the effectiveness of the special pipe system as an improving treatment.
Treatment Mechanism
The special pipe is modified to cause mechanical damage like shear
stress to the organisms in the water. Organisms in the water are
terminated or rendered harmless while ballasting or deballasting.
The improved special pipe system described in this paper has a
simpler mechanism and is more efficient than the pipe reported at MEPC 46,
although the mechanisms of both pipes are the same in principle.
Experiment method
We conducted the experiments with the treatment system installed on land,
using natural seawater collected in a harbor area.
The experiment flow is shown Fig.1. The inside diameter of the
improved special pipe used for the experiments is 49.5 mm. The seawater
flow rates were 170L/min, 260L/min and 350L/min in the experiments. The
experiments were repeated three times at each speed
72
Pressure gauge
Pump
Fig. 1
Valve
Special pipe
Camera
Valve
Natural
Seawater:
1000L
Pressure gauge
Control
Treated
sample
Sea water
Experiment flow of the effectiveness
of the improved special pipe system
We evaluated the effectiveness of destroying aquatic organisms based on
changes in the conditions of such organisms in seawater after one passage through the
improved special pipe.
The observed parameter used to evaluate effects on aquatic organisms was the
number of normal individuals planktonic Crustaceans (Zooplankton). Examples of
normal and terminated individuals are shown in Fig. 2.
Normal individual
Fig. 2
Terminated individuals
Photograph of normal and terminated individuals of
planktonic Crustaceans (Oithona davisae, Copepoda)
73
The effectiveness and advantages
of the improved special pipe system
We reported at MEPC 46 that one passage of natural seawater in the
special pipe gave us an effectiveness of about 55% of phytoplankton and
about 65% of planktonic Crustacean (zooplankton) in treated water at the
outlet point of such a pipe.
The improved special pipe system can terminate about 90% of total
planktonic Crustacean (zooplankton) in natural seawater (Fig.3c).
This
effectiveness was obtained using 60% of the energy of the special pipe
reported at MEPC 46 based on our experiment.
In this way, the special pipe system was improved with respect to
both the termination effect and the energy efficiency. Also, the improved
special pipe system can terminate lager species (Fig. 3a and c) and provide
higher flow rates (see Fig. 3a, b and c).
We believe that the treatment effectiveness of the improved special
pipe system could improve the termination efficiency for other phyto/zoo
planktons, as both pipes could have the same treatment mechanism.
Our
experiments have also demonstrated that higher speeds in the pipe lead to
higher treatment effectiveness.
As this system is simple, it has the advantages of being able to be
installed on board a ship, easy operation, cost effectiveness and others.
Accordingly, we believe that mechanical treatment by using the special pipe
is expected to become available and practical in near future, although still
some matters must be solved such as reducing pressure loss and stuffing by
the organisms and other substances in passing water in the pipe.
The next
stage of our research and development solves these subjects, and are to
update the system in accordance with the standards to be developed in near
future for aquatic organism treatment.
74
Genus Oithona (body length:0.3∼0.6mm)
a
100
90
Termination rate(%)
80
70
60
max. damage rate(%)
50
av. damage rate(%)
40
min. damage rate(%)
30
20
10
0
0
100
200
300
400
Flow rates (L/min.)
Copepoda nauplius (body length:40μm∼0.1mm)
b
100
90
Termination rate(%)
80
70
60
max. damage rate(%)
50
av. damage rate(%)
40
min. damage rate(%)
30
20
10
0
0
100
200
300
400
Flow rates (L/min.)
Total of Planktonic Crustaceans
y = 98.618Ln(x) - 487.34
100
c
90
Termination rate (%)
80
70
max. damage rate(%)
60
av. damage rate(%)
50
min. damage rate(%)
40
対数 (av. damage rate(%))
30
20
10
0
0
100
200
300
400
Flow rates (L/min.)
Fig. 3
Result of experiments for one-time treatment
using the improved special pipe system
75
周知資料 No.4
船舶バラスト水による生物拡散防除対策として
機械的手法によるプランクトン殺滅装置の開発
【背景および目的】
有毒および赤潮原因プランクトン等の有害水生生物の地球規模での広域化が国際的な問題となっている。この
広域化は、増養殖種苗の移植時における移動、船舶バラスト水に混入しての移動によって起こると考えられてい
る。
これら広域化要因のうち、船舶バラスト水に関しては、国際海事機構(IMO)で水生生物の移動防止に関する条約
化作業が 2003 年を目標に進められている。しかし、移動防止効果に加え、環境への影響,船舶への適用および経
済性等にも優れた実施可能な対策技術は、現在のところ見いだせていない。
本研究は、実施可能なバラスト水処理技術、すなわち、船体の構造や艤装および運航スケジュールの大幅な改
変をせずに実施でき、しかも、環境への影響がなく、低コストで運用できる技術の開発を目的として開始したも
のである。
研究は、化学的処理,電気化学処理,熱処理などの様々な技術を対象に行った。現在は、バラストパイプに簡
単な装置を設置するだけの機械的処理法が、目的の達成に最適な技術であると判断して開発を進めており、実用
化の目途がつきつつある。
今回は、これまでの研究で明らかになった機械的処理法の原理,プランクトンに対する効果について報告する。
【試験装置】
機械的処理法の試験装置は、直径約 50mm のパイプに、幅 0.5mm のスリット型噴流ノズル 13 本を均一に配置し
た、厚さ 6mm のステンレス鋼を直角に設置して作成した。
【実験方法】
各種評価は、カイアシ類等の浮遊性甲殻類の損傷率を用いて行った。
機械的処理法のプランクトン損傷原理は、噴流ノズル部で生じる剪断力とキャビテーションあるいは両方であ
ると想定して行った。そして、剪断力だけが生じる条件(加圧)
,キャビテーションが増幅する条件(減圧),両
者が共に生じる条件で実験し、損傷原理を特定した。また、噴流ノズル部の流速を約 5m/sec∼約 25m/sec の範囲
で変化させて損傷効果を求めた。
実験は、自然海水を1m3 の貯水槽に汲み上げ、充分に攪拌した後に、プランジャーポンプで送水して試験装置
を通水(1pass)する方法で行った。浮遊性甲殻類の損傷率は、通水中におけるバルブの操作で、試験装置通過
前にコントロールサンプル,通過後に処理後サンプルを採水し、両サンプルに含まれる正常な形態の浮遊性甲殻
類数を基に次の式で算出した。
(コントロール中の正常形態個体数―処理後の正常形態個体数)/(コントロール中の正常形態個体数)×100
=損傷率(%)
76
また、実験は基本的に3回繰り返し、同時に、試験装置上下流の管内圧力,下流側のビデオ映像,音圧スペク
トル等についても観測した。
【結果及び考察】
機械的処理法の原理に関しては、試験装置下流部のバルブの操作で管内を加圧してキャビテーションの発生を
抑え剪断力だけが作用する条件下において損傷率が最も高く、次いで剪断力とキャビテーションが共に作用する
条件下で高く、試験装置をつり上げて減圧しキャビテーションを増幅させた条件下においては、剪断力とキャビ
テーションが共に作用する条件下と同等あるいはやや下回る損傷率となった(図1)
。 この結果、当試験装置に
おける機械的処理法の損傷原理は、剪断力によるものであることが明らかになり、キャビテーションの発生その
ものは、損傷効果に影響を与えないと考えられた。
また、噴流ノズル部流速が約 25m/sec で、約 90%の損傷率が得られた。僅か1回の通水でこの高い損傷率が得
られたこと、およびこの時の装置前後の圧力損失が約 30mAq とそれ程大きくないことから、多くの船舶に適用で
きる可能性が広がったと考えられる。
以上、プランクトンの機械的処理法は、船舶バラスト水の処理技術として実用化が充分に期待できると考える。
なお、この技術の簡易性や経済性および環境への安全性は、赤潮対策等にも応用できる可能性を秘めていると考
えられる。
【謝辞】
実験方法および効果の評価に関して、愛国大学徳田拡士教授,東洋大学加藤洋冶教授,東京大学福代康夫助教
授に多大なるご指導を頂いた。また、本研究は、日本財団の補助を受けて実施した。ここに謝意を表します。
100
90
浮遊性甲殻類損傷率(%)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
30
噴流ノズル部流速m/sec
剪断力+キャビテーション
剪断力(加圧)
図1
キャビテーション増幅(減圧)
対数 (剪断力+キャビテーション)
機械的処理法の原理要素および
噴流ノズル部流速と浮遊性甲殻類損傷率との関係
77
7.今後の課題整理
本事業では、平成 11 年度調査研究事業において、バラスト水処理技術として実用性
が高いと評価されたミキサーパイプによる処理法いわゆる機械的殺滅法の実用化に向
けての方向性を明らかにするために、水生生物殺滅等のメカニズムの解明および改良要
素に関する各種調査実験を行った。
その結果、機械的殺滅法の効果メカニズムは剪断力で、改良要素としてキャビテーシ
ョンの活用等が有効であることが明らかになった。 また、これら実験で得られた効果
および実用性に関する結果は、ミキサーパイプ法を大きく上回るものであり、実用化に
向けて確実に前進したといえる。 さらに、他国で開発中のバラスト水処理技術に関す
る最新の情報も収集整理し、効果および実用性に関して検討したところ、機械的殺滅法
は実用性の面で他の技術よりも優れている内容が多かった。 また、水生生物に対する
効果についても、改良を加えることで充分に対応可能であると評価された。 これら研
究成果は、MEPC をはじめ本年度内の国内外の会議および学会で発表・講演し、機械
的殺滅法がバラスト水処理技術として適していることを周知した。
今後は、改良要素に関する実験を実施して、さらなる効果および実用性の向上をはか
ることが当面の技術的課題となる。 この課題をクリアーすることで、実用試作機の検
討が可能になり、実機ベースでの実験実施となる。 また、重要な課題は、処理基準に
関する国際的な議論を注視し、その内容に沿った実験データを取得することである。
これら実験データによる水生生物に対する効果および実用性の評価を行い、また、周知
活動を行うことで、機械的殺滅法がバラスト水処理技術として有効な一手段であること
を国内外にアピールできるものと考える。
78
8.むすび
本調査研究は、国際的な海洋汚染問題として論議されている船舶のバラスト水による
有害海洋生物の移植防止対策として、機械的殺滅法を考案し、海洋生物殺滅実験をはじ
め各種調査実験を実施し、その有効性を評価した。
また、さらなる効果および実用性
向上のための具体的な方向性と評価および周知活動に関する課題も整理した。
これらは、ともに本事業の成果であり、今後の国際的な知見の確立にとって有効な資
料として活用され、海洋環境保全および健全な海上貿易の振興に寄与できれば幸いであ
る。
79
社団法人
日本海難防止協会
〒 105-0001
東 京 都 港 区 虎 ノ 門 1 丁 目 15 番 16 号
海洋船舶ビル 4 階
TEL:03−3502−3543
FAX:03−3581−6136