「賃金・雇用の再設計」木下武男講演録

■「虹と緑・経済雇用プロジェクト」ミニ政策研究会
2002.4.19.於:サンエールかごしま
「賃金・雇用の再設計」
木下 武男(鹿児島国際大学)
Ⅰ.日本型雇用の崩壊と年功賃金の解体
経済雇用のプロジェクトはマイナーだと聞いて、びっくりしています。戦後の労働運動や革新運動、ある
いは戦後の知識人の「労働嫌い」の反映で、それは、日本の労働運動、労働組合がそうさせた構造を持って
いたということの現れだと思います。日本の知識人は、「朝日ジャーナル」から始まって、いま「世界」「週
間金曜日」含めて労働ということを真っ正面から据えていない。これでは、日本の未来は開けない。私の分
野の知識人を見ると腹立たしい思いをしています。
「虹と緑」のオープンテキストについては、改定案の経済的な背景や理論的な裏付けになればと思います。
賃金と雇用が破壊されているという現状をふまえながら、どうするかという話をしたい。今から1年ちょ
っと前では、国民のかなりの人たちも日本がこんなになるという実感していなかった。去年の前半がITバ
ブル、IT経済の活況が続いていたときである。去年の後半の9月くらいから、政府も地域経済が崩壊しつ
つあるという認識に立った。だれもが分かるようになったのは、去年の後半からです。しかし、90 年代の
後半あたりから日本の経済は怪しくなってきていた。「朝日新聞」(2002.4.19)の失業率をみるとちょうどバ
ブル崩壊後の大型倒産あたりから大変になって、98 年が急激に率が飛び跳ねて高くなっている。そのあと
は5.6%になり、やや下げ戻しして5.3%となってきました。
だれもが、日本の行く末に危惧を抱くようになってきています。そこにこそ、賃金と雇用を新しく考え直
す必要が生まれてきます。日本の仕組みが壊れ、日本の賃金と雇用のあり方が崩れてきている。そして、い
まの小泉内閣は日本型の賃金と雇用のあり方によって、生活が支えられてきたという認識が十分ではない。
崩れていることに対して、どうしたらいいのかという明確の方向が出ていない。日本のこれまでの働く者達
が支えてきたシステムが崩壊しているにもかかわらず、それに対する手だてを打つのではなく、市場万能主
義で対応している。
私は二重の誤りをしていると思う。
つまり、今の現状に対する認識が甘い。日本のこれまでの仕組みが崩れかかっていることに対する深刻さ
が足りない。いまの状況が改善しないであろうと言うことを、雇用と賃金という形でお話ししていきたい。
1.日本型雇用の崩壊
(1)日本型雇用が崩れる
失業率は5.3%。これは潜在失業者の 420 万人を入れると、内閣府の試算でも10.4%になっている。
5.6%の比率が5.3%に下がったいうことの裏には潜在失業者、つまり求職意欲喪失者(求職活動し
ても仕事がないからハローワークには行かないという人)は労働者にも入らないから失業者にも入らない。
計算上、失業率が改善するということになってしまう。しかし、それは被扶養でいられる若年層、既婚の女
性、高齢者といわれる三つの階層ですが、これを一心に扶養し続けている中高年男性の賃金や所得はどうな
っているのか、つまり、もう支えきれないということがだんだんと明らかになってきた場合、失業率は跳ね
上がってしまうことは明らかです。不良債権処理を進めるのであれば、失業率は7∼8%になるというが民
間のシンクタンクの予想です。5.3%の倍が潜在失業率ですから、日本の状況は大変深刻な状況になって
くることは明らかです。
(2)U字形失業率の意味するもの
左の図を見ていただきたいのですが、これが 1999 年の年齢別の失業率です。私はU字形失業率といって
います。左が若年、右が中高年でいまの雇用問題を端的に示すグラフです。これは男性で、女性の場合右の
山がありません。長期勤続者が少なくパートタイマーが多いから、非自発的な失業率、自発的な失業率とい
う形での右側の山がなくなる。M字形の雇用の裏返しです。男性の失業率はすでに9.1%になっている。
倍くらいの若年層が失業していることになる。
U字形失業率の意味するところで大変重要なことは、若年層のフリーターという形でステレオタイプ化さ
れたような夢を追いかけて、自己実現だとかというような言い方がありますが、正規になりたくても正規雇
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用がない、正規雇用になっても「ああいった働き方はイヤだ」ということが背景にあることです。なぜ、若
年雇用が大事かというと、学校と企業の接合関係、これは「定期一括採用」ということであり、日本型雇用
の入り口にあたります。3月卒業、4月入社―これが日本の雇用の大前提で、学校と企業が結びついていて
時間的なずれがないということが日本の特徴である。学校を卒業し、会社に入りだんだん出世していき定年
を迎えるのが学校と企業の日本独特の仕組みであった。ところが、その間にくさびが打ち込まれ、横断的労
働市場という、新規学卒者として採用されない人たちが広大に広がってきた。これが、流動的労働市場とい
われるものです。
U字形の左の状況というのは、転職者、無職者、失業者が多い若年雇用の問題が、そのまま右にずれてき
ている。これから失業率が好転する見込みがない限り、この状況は若干下がるとしても左の問題はだんだん
右に移行していく。右の山、つまり定年まで働き続けられなかった人たちには、日本型雇用はこれで崩壊す
るであろうと考えている。みんなが出世していくという構造も成果主義賃金で解体していく。日本型雇用の
特徴であった新入社員から会社の中で出世していくという昇進制度、定年退職―定年まで居続けられるとい
う終身雇用、これがもろともの崩壊が始まり、現に崩壊している。これが大変重要なことです。
2.年功賃金の解体
これまで、日本の働く者達は定年までひとつの会社に居続けられるであろうと、もちろん大企業や公務員
では手厚く、中小企業ではやや薄く、零細企業ではほとんど保障されていない。グレーゾーン含めて強弱は
ありますが、定年まで一つの企業に居続けられることによって雇用保障がなされてきた。これが崩壊してい
るということが重要なことです。逆にいうとこれは日本型の仕組みであり、欧米は定年という仕組みがあり
ません。日本の山形になってやや下がるという年功賃金カーブではなく、40代でホワイトカラーでもフラ
ットになっていく。そのまま、企業を転職しても不利にならないという条件付きで、年金受給年齢まで接続
する形です。これは、企業を超えての横断的な労働市場といいます。これが国と組合・ユニオンによって整
備されています。このことによって、ヨーロッパの労働者は雇用保障されている。日本では、一つの企業に
定年まで居続けられることで、雇用保障がされていたが、こちらは崩壊している。どうすればいいのか?
小泉内閣は、これに替わる代替システムを考えていないということが大変大きな問題である。いうならば、
日本の雇用保障されていた仕組みが崩れてきている、ということが大変重要です。
(1)職能資格制度と「能力主義の終焉」=成果主義人事制度へ
それでは、賃金のほうはどうかというと、新しい賃金人事制度がマスコミを含めていろんなところで報道
されています。1995 年の「日経連」の報告は有名です。
労働力を3つに分け、雇用柔軟型、専門能力活用型、高度蓄積能力型という終身雇用のコアの部分を中心
におきながら、終身雇用ではなく有期雇用などに分けた。コアの部分で明確な方向性を打ち出したのが、2000
年の報告です。これは、グローバル経済化化の中でのホワイトカラーの処遇、これを今はやりの護送船団方
式を使って説明しています。
「中位グループを標準に、遅れている者についてはてこ入れし、先頭集団については突出を押さえながら同
一入社年次の集団を一定の昇進差の中に収めるという意味ではひとつの護送船団方式でもある」「95 年の時
点では日本型企業システムの中核をなす雇用システムについて一定の方向性を見極めた提案を行うことには
困難があったものと考えられよう」
これが成果主義の賃金です。突出を押さえるのではなく、突出した者だけを評価する方向に変わった。同
期入社者ごとに護送船団のように―護送船団にはいることができるのは男性従業員だけですが、だんだん上
がっていくこということであったと「日経連」は見ている。これをやめて突出し成果を上げた者だけを評価
する、男性であれば部長まではいけなくても課長まではいけるといわれていた大企業のシステムがもはや崩
壊していると見ていいと思います。
これは、民間の大企業の仕組みが年功制を解体していくということはハッキリしている。大変大きな変化
が現れてきています。
(2)新幹線出張に見る日本の人事制度の変遷
1995 年、98 年頃からほんとうに年功賃金が崩れると思うようになってきた。その時、能力主義の終焉と
いいました。能力主義と年功制とは、年功制という枠の中での能力主義だった。95 年の報告は、年功制の
中の能力主義の強化であった。年功制そのものをやめてしまって、成果を上げた者だけにしてしまう。それ
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は大きな変化である。これで年功型と日本型能力主義が崩れると思った。
日本型能力主義とは遅れた者にはてこ入れし、全員が能力開発のために励んでみんながお互い励まし合い
ながら、日本人は過労死するような働き方をしてきた。護送船団方式とは、なにやらゆるゆると動くようで
すが、日本は企業目的に向かって猛烈な早さですすむ護送船団で、それから落ちこぼれが許されないという
ことで、みんなが過労死するような働き方をしてきた。「日経連」の報告は嘘ではありませんが、欺瞞に満
ちているのは過労死と護送船団方式がどうして結びつくかということを理論的にも説明していない。ほんと
うはこれは結びついていたということです。それがいまがらっと変わってきています。
新幹線の出張におじさんがいなくなっている。東京から大阪を移動するとき3週間前にはたと気づいたこ
とですが、その前は、50歳代の部長と40歳代前後の課長の二人、その後「均等法」世代になると女性が
付く。女性とやや中年風とそれと部長というおじさんの三点セットとなって出張に新幹線の中にいたんです
が、この間乗ったらそうではなくて30歳代後半の課長代理あたりだと思います。それと30歳前後の課長
の二人が乗っていた。これは珍しいことではなくたくさんいる。中高年ではない世代がその企業をになって
いる。こんなに早く日本の人事制度が変わるとは思っていなかった。年功制が崩壊しているという現れです。
みごとに女性もいません。新幹線の出張風景を見れば、日本の人事制度の変遷が分かります。
(3)春闘の終焉
大幅賃上げから低額ベアへ 定昇ストップ→賃議の固定化へ
もう一つ実感したのは、春闘の終焉です。太田薫さんが『春闘の終焉』を書いたのは 1975 年です。それ
は、大型賃上げから低額ベアに移行したということです。このことをもって太田さんは春闘の終焉と言った。
ところが、低額のベースアップはずっと続いていたが、ここ3,4年くらいからベアゼロが出始め、
「日経」
では82.1%がベースアップし、2割程度がベアゼロと言っています。一部上場などの大手の場合です。
従って、これより下のところでは、ベアゼロが当たり前になってきている。
問題はベアゼロであっても定期昇給はありますから、個人賃金は上昇します。ベースアップでは、会社の
賃金原資というパイは変わらないが、かならず定年退職者がいますから、その分が一人一人に上乗せされ、
今年より来年、再来年と個人の賃金は上がっていきます。労働組合が闘わなくても一人一人の賃金はあがる
という構造なんです。これが、日本の労働運動をだめにしたというわけではないが、労働組合は闘わなくて
も個人の賃金は上がるというまか不思議なものになっていった。欧米の労働組合は、労働協約改定闘争によ
って、交渉によって賃金を上げるか、個人がスキルアップして賃金を上げるか二つに一つしかない。自動的
に上がるいう構造はない。これは年功賃金の労働組合に果たした強大なインパクトだと思います。パイは変
わらないけれど一人一人の賃金は上がる。ベアゼロであっても賃金は上がりません。
今年定昇しストップがかなり出てきています。そうすると賃金は固定化し、個人個人の賃金も上がらなく
なってしまう。企業の賃金原資はどんどん小さくなっていく。これをもって春闘は終演したといえると思い
ます。
(4)年功賃金下における賃金相場の低位形成
1)賃金下落の構造―単身者賃金が賃金の相場に
賃金がだらだらと下がっていく構造がどういう風にして生まれてくるのか、ということについてお話しし
たい。
二つの仕組みがあり、年功賃金と競争の構造です。論理的にいうと、年功賃金の「右肩上がり」の実態は
単身者賃金から男性世帯主賃金の上昇であった。高失業率では求職者よりも求人者が優位に立っており、企
業のほうが優位にいる。企業はキャリアを重視しない場合、年齢の要素は採用時に勘案しない。そうなると
単身者賃金から世帯主賃金への上昇という年功賃金の下限で相場形成される。つまり、若年の単身者賃金が
すべての働く者の賃金の相場化してしまう。いま進行している事態です。
これと労働者間競争と企業間競争が相まってどうなっていくのか、という事例が出回っています。「朝日
新聞」(2001.5.25)が詳しく載せていましたが、東京三鷹市の事例―「公設民営方式」これで日本の公立保
育園は姿を消すであろうことを見て取ることができます。
まず、企業間競争ですが、ベネッセコーポレーションが落札している。年間経費見積額、約7600万円
で落札、三鷹市の直接運営だと約1億7000万円でした。社会福祉法人の見積もりは約1億2500万円
でした。低額で落札しますから、当然ベネッセが受注した。これまでは社会福祉法人などが請け負ってきた
が、小泉内閣の規制緩和で営利を目的にした企業も営業してもよいことになりま、ベネッセがとることがで
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きた。
労働者間競争ですが、保育士の人件費は公務員では平均31.1歳の時年間830万円、ところがベネッ
セの賃金は1年目の常勤スタッフ1年更新の契約社員で月額15∼20万円です。約20人の枠に約340
人の応募が殺到したと報じられています。これが、労働者間競争です。
失業が高くなればなるほど職を求める労働者が殺到する。この場合は、企業ではなく自治体でしたが、民
間ではよくあることです。競争入札において低いほうにやらせる。これが、あとでお話しするリビング・ウ
ェッジ結びつく構造です。
これまで、日本にはこれらに対する規制はありませんでした。メカニズムや構造はあったが、一定の繁栄
と企業の発展がある間はこの仕組みは露呈してこなかった。
2)「年収200万円台時代」の到来」
どういうことかというと「年収200万円時代」が到来しているということです。
2000 年高卒者の初任給が男子15万3100円、女子で14万7600円、50歳代の失業者で「月収
相場15万円」、これは朝日新聞ですが、ハローワークで「パソコンの求人検索に50代でインプットする
と、結果はほぼゼロ。給料15万円、年齢40代で試すと、いくつか出てきました」(2001 年 9 月 25 日)
とあります。
東武バスで聞いた話ですが、別会社にすることによりこれまで正社員の550万円の年収が男性を含めて
260万円台の時代に入ってしまっています。
高失業時代と年功賃金、つまり社会的相場が形成されていなかったことを考えると、単身者賃金に相場価
格が下落し、相場が形成されてしまっているという構造になってしまっている。
Ⅱ.労働規制改革に対抗する賃金・雇用の再設計
1.規制緩和が何故、失業率の緩和になるのか
(1)ブルーカラーの派遣労働化と専門職ホワイトカラーの「有期労働契約」へ
どう再設計していくのか、これからお話ししていきたいと思います。
総合規制改革会議の去年の答申「規制改革の推進に関する第一次答申」(2001 年 12 月)ですが、「今や5
%を超える失業率は、構造改革が待ったなしの状況にあることを象徴的に示している」「今こそ、構造改革
を実現するための重要な柱として、規制改革を強力に推進すべき時である」というくだりを読んだときに、
一瞬、構造改革・規制緩和と高失業率がどう結びつくのか、クェッションマークが出たのですが、これはと
んでもないことを考えているなと後で分かりました。
規制改革には主に二つの柱が重要です。ブルーカラーとホワイトカラー、ブルーカラーと言っても製造業、
運輸、建設関係ですが、建設は派遣対象ではありませんが、ものの製造に関し派遣禁止の解除をする。製造
業ブルーカラーが派遣労働者に取って代わられる構造がこれで作られてしまう。
もう一つ重要なものが、専門職ホワイトカラーの「有期労働契約」3年から5年にするということ。期間
もさることながら、専門職の「範囲を広げる」ことも入っている。これまでは「高度の専門的な知識、技術
又は経験を有する等の要件」ということだったが、専門職の「範囲を一層拡大する」と言っています。ある
特定の、大学のマスターを出るとかいう規定がありましたが、その規制が緩和されると一般の専門のホワイ
トカラー、つまり一般の事務職は派遣労働者、そして上の専門職のホワイトカラーは有期労働契約になって
しまう。3年から5年にするというのは、企業のプロジェクトが3年から5年内では収まりきれなく使いに
くいという面が企業から出されていたからだ。
(2)1990年代に非正規雇用労働者による入れ替え(雇用の流動化)
製造業ブルーカラー、専門職ホワイトカラー、そして一般事務が派遣労働者になっていく。90 年代を見
てみると非正規労働者による入れ替えが現に行われてきています。95 年から 2000 年にかけて雇用者数は1
05万人増えている。しかし、非正規労働者243万人増、正規労働者138万人減、プラスマイナス10
5万人ですから、いうまでもなく非正規に置き換わってきている。ここでおわかりのように、規制緩和によ
る失業率の緩和は醜悪なワークシェアリングというか、500万円の正規労働者を解雇しておいて、失業者
二人を200万円で採用することによって失業率を半減してきている。これが5.6%の失業率が5.3%
に下がった原因かどうか分かりませんが、そういうことを本格的に考えている。
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オランダモデルとか、ワークシェアリングだとか出てきていますが、それ自身は有用な議論ではあります
が、規制緩和の方向は醜悪な形での失業率の緩和をねらっています。
2.
「日本型雇用」による雇用保障から福祉国家型労働政策による雇用保障へ
(1)貧困な日本の労働政策からの転換へ
雇用について、どこまで政策化するかについては、まだ研究することが必要だと思っています。基本的に
は、「日本型雇用」による雇用保障から福祉国家型労働政策による雇用保障へ転換していくことを出すべき
です。
「終身雇用制か、さもなくば有期雇用か、という意図的な政策提起が見られる。一つの企業に定年まで働く
ことによって雇用が保障される終身雇用制は今や否定されるべきである。しかし、それは有期雇用化を意味
するのではない。一つの企業による雇用保障から、ヨーロッパ型の福祉国家とユニオンによって整備された
横断的労働市場への代替システムがもとめられる。
」
このことが具体的にどういう政策であるのか、国レベルでも詰められなければいけないし、あまり広く共
有されていないが、まさしく研究者の仕事でもあります。急いでやらなければならない研究テーマでありま
す。
これまで一つの企業に定年まで働くことによって雇用が保障されるという仕組みは、国が関与しなくても
済んだということです。企業が肩代わりをしてきたということでもあります。国の労働政策や労働力政策は、
ヨーロッパに比べて大変貧困でした。
ハローワークは、唯一無料で職業紹介をする。それが、ILOもヨーロッパもそうですが、国の職業紹介
の基本にならなければならない。そのサブシステムとして民間の職業紹介があるということは国際水準であ
りますが、日本の小泉内閣は民間の職業紹介の活用を総合規制改革会議のメインに据えています。学生や中
高年の女性だとか、紹介することにより手数料をもらって利益を得るという民間職業紹介所は安定的に確立
するわけがない。民間はヘッドハンティングだとか人材の質の高いところをねらってそこで利益を得る。と
ころが、ハローワークの充実は基本的な方針になっていない。
政府の雇用政策は、崩れゆくものが日本の働く者の支えであったという認識が欠落している。ヨーロッパ
型の代替システムを構築することが急がれます。「実業保険・職業訓練・職業紹介」の国を基本においたシ
ステムを構築していくことが必要です。
今年初めて大学4年生を出したんですが、10人男性、11人が女性でした。半分近くの女性は就職が決
まらず卒業してしまった。男性は2∼3割が就職が決まらず卒業した。3月卒業4月入社ということはとっ
くに崩壊している。卒業式に「就職が決まりました」と指宿の病院の事務ですが、
「よかったね。どこで?」
と聞いたら、「ハローワークで探しました」と。大学の就職活動はあてにならない。昔は、大学の就職課に
余るほど求職が来ていたが、今はこない。日本的雇用が崩れていることを身近に感じたのはこのときです。
その時に、彼女たちは言っていましたが、行っても並ばされてなかなか対応してくれない、と。職安の人員
をどう拡充していくのか、必ずしも公務員の数を増やせばいいということにはなりませんが、緊急にどうや
って手当をうつのか、管轄課の中でも問題にしていかなければならないと思います。
今の政府は、こういった問題意識を持っていない。
(2)仕事を基準にした賃金とヨーロッパのパートタイマー
ヨーロッパ型のパートタイマーは、いろんな団体が調査に行き明らかになっているように、有期雇用を限
定化してきている。労働基準法にいう「期間の定めのない」労働者を基本としている。これは終身雇用とは
違って終身雇用かしからずんば有期雇用かということではなくて、期間の定めのない労働者を基本にしてい
る。そして、転職しても不利にならない労働市場を作っている。このことを賃金の基準にすべきである。政
府の「ものさし研」といいますが、「パートタイム労働者研究会」も短時間正社員という言い方をしだして
います。今度の中間報告の中でも、短時間労働者という言葉を使いだしてことは、中身はともかく評価でき
ます。
根本的な話としては、オランダモデルとかワークシェアリングだとか議論が活発化していますが、雇用の
均等待遇は正規雇用、期間の定めのない雇用、パートタイマーを今の正規雇用並みに均等にすること、期間
の定めのないパートタイマーにすることです。賃金については、今の従業員をパートタイマー並みにするこ
と、つまり仕事を基本にした賃金にやがて変えていくということです。このことによってしか、根本的な解
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決はできない。パートの賃金と言うとみんなぎょっとするかもしれないが、仕事を基準にした賃金にすると
いうことなのです。仕事を基準にした賃金と正規雇用、これによってはじめてオランダモデルもワークシェ
アリングも議論ができる。
このことが大前提だ。昨今の議論においても重要なことです。
3.賃金下落に対抗する新しい賃金運動
(1)賃金下落に歯止めをかける「底固め」の基準(最低規制の基準)
賃金下落に対抗する新しい賃金運動ということで、「すべての労働者」―パート、有期、派遣を含めてで
すが―に適用されるべき「フェア」で「グローバル・スタンダード」の賃金基準は上記のような視点から見
ていく必要があります。
新しい基本給の設定、これは企業内のことですが、年功賃金を修正していく。早期立ち上げ高原型といい、
若年が定期昇給ストップになったら、ずっと単身者賃金のママになってしまう。これは、どんなに賃金体系
があっても年齢別に賃金を抑えながら、早期立ち上げにしていって、あるところから高原型にしていく、理
想的には雇用保障を確保し年齢制限、つまり年齢による差別をなくすという意味では定年制を廃止していく
ことが必要だと思います。
「賃金規制」の新しい賃金運動が大変重要だと思います。年収200万円時代になって、賃金が下落して
行く中でどうやって歯止めをかけていくのか、ということです。
1)労働組合による地域における職種別賃金運動
一つは、地域による職種別賃金運動。原理的には、「業者間競争によって低額受注したとしても、業者が
労働者に支払う賃金の最低が決められており、また、労働者間競争が激しく展開されても、労働者が受け取
る賃金の最低が存在していることがきわめて重要ある。その『底』を築く基準は『仕事』でしかありえない。
具体的には職種別賃金ということになる。
」
直ちに運動化しなくても、このことを問題意識として地域における賃金相場を一般的地域債賃とか全国債
賃運動に解消するのではなく、一人一人の労働力の銘柄別最低規制というものを念頭に置くことが必要であ
る。
2)生活賃金運動「リビングウェッジ運動」
二番目に、それとリビングウェッジ運動をリンクさせていく。いま、生活賃金運動は脚光を浴びています。
このことが、地域ごとのミニマム運動、連合が言っていることでもありますが、地域の職種ごとのミニマム
運動と結合させることが重要だ。
アメリカでは、市と契約しているところと市の施設を借りて営業しているところも対象になっている。ロ
サンジェルスでは市の空港の職員・従業員にもリビングウェッジが適用されている。空港の警備員など比較
的職種賃金が低いところに規制がかかっている。そして職種別賃金ではなく時間給という最低額です。時給
いくら以下にはならないという条例になっている。時給だからと言って、研究者の中の議論もありますが、
福祉サービスなど自治体に関連する職種の大きな関心事になっている。
(2)自治体の民間・下請け契約に最低制限価格の導入に向けた条例化の動き
小畑さんは江戸川ユニオンの創設者で、コミュニティーユニオンについては、十分に承知している方です。
小畑さんの一番新しい論文―今年3月下旬の『賃金と社会保障』の中で、これまでの到達点と入札制度を絡
めながら次のように書いています。
一般競争入札という入札制度において、最低価格で落札するという形でいま決められている。警備員や事
務請負は自治体では物件費に入ります。そして最低落札価格で落ちる。安ければ安いほどいい。たとえば、
「日立」が東京の文書管理システムを750円で落札した。一番やすい方に落ちる。つまり、東京都の文書
管理システムを「日立」がやりましたという宣伝のために750円で受けた。こういうバカなことが通用す
る。公共工事ではこういうことはなく、最低制限価格つまり一番最低ではなくてそこそこのものを自治体が
提示してそこで落とす、という入札制度もあるが、物件費の場合それが適用されない。安ければやすい方に
なってしまうのが、日本の自治体委託労働者の最も劣悪な労働条件を生み出す根本となっている。
この論文では、低入札価格制度というのが入って、国でも自治体でも契約の入札制度ではきちんと監視し
ていくということが国は決まったが、国も自治体にも波及させるということを言っています。それは、自治
体の事業を請け負ったもの達の労働条件に大きな関わりがあります。これとリビングウェッジ運動は密接な
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関わり合いを持つことになります。それを具体的に各自治体でやるかという点ではいろんなことがありえま
すが、ここでは東京都三鷹市の「公契約条例と生活保証賃金条例」の報告がなさています。去年否決されて
いますが、3月定例議会で質問と答弁があっと言うことでまた議会で取り上げている。このほかにも、公契
約陳情の趣旨採択が、厚木市、相模原市、東大和市、武蔵野市でされていることも紹介されています。
4.地域経済の再生と労働組合
(1)労働を中心とする福祉型社会へ
年功制などの日本型システムが崩壊していくなかで、夢も希望もあるビジョンや運動を今語ることが必要
だと思います。事態は真っ暗闇ですから、得てして暗いほうに行きがちですが、日本型システムが崩壊した
あとに新しい方向があるんだということをつかみ取ることが必要だ。
「連合」も去年の秋の大会で、
「労働を
中心とする福祉型社会」というビジョンを出しており、新笹森会長は記者会見の中で「弱肉強食の市場社会、
アメリカンスタンダードではなくてヨーロッパ型スタンダードをめざすんだ」と言っています。ヨーロッパ
型社会をめざすということの一定の方向性を示しています。もちろん、連合は民間の大企業や、中小企業あ
るいは公務員の労働組合という三つの複合体でありますから、確たる足腰があるわけではありませんが、ビ
ジョンそのものについては一つの議論の素材として重要な点、日本型とアメリカ型、ヨーロッパ型の3つを
峻別する、きちんと分けるという点ではビジョンを語る第一歩だと思います。
1)企業誘致と公共工事に頼った地域経済
鹿児島の話ですが、鹿児島に来て現時点でつくづく思ったのはこれまでの労働組合は、企業内であったこ
とはもちろんですが、産業の育成だとか産業の創出だとかいうところまで視野を広げなければならないと思
ったところです。
鹿児島に限ったことではないが、地方経済はこれまで企業誘致と公共工事という「二つの翼」に頼った雇
用確保であったとみてよいでしょう。鹿児島では、製造業における新規求人は前年同月と比べて 2001 年9
月50.6%の減、建設業は21.2%の減を示している。この二つの産業は、前年月平均の新規求人の3
4.5%を占めていたが、2001 年9月には27.0%になっている。この分野における雇用吸収力が急速
に低下し、かなりの勢いで縮小している。そう言う点では、企業誘致があったところでは撤退や縮小がかな
りのところで行われている。公共事業全体が縮減していくというなかでは、地域経済をどのようにするのか
ということを考えなければならない。
2)“土建国家”から福祉国家への転換の模索
地域における“土建国家”から福祉国家への転換の模索ということを地域でどう探るのか、かなり分権化
が必要だとかかなりの議論が行われていますが、
「岩波」で金子勝さんや神野勝彦さんなど提案しています。
地域でどうするかということを考えなければいけない。ただ、産業の育成や創出だとか簡単に出てくるもの
ではない。しかし、
「不良債権を処理して、規制緩和をすれば、新しい産業が自然に育つという考えは、鹿児島では特に空想
的である。企業誘致でも公共事業一辺倒では産業構造を鹿児島でどう創出するのかが大きな産業としての一
・五次産業、福祉部門や社会サービス部門、新しい観光産業、それらの産業を支える情報産業、これらを育
成することだと思われる。新しい産業の育成に対応したその基盤整備として公共事業を組み替えることが必
要であろう。いずれにしても、重要なことは、時代転換の中で地位経済のあり方を能動的に考える人材が生
み出されることが必要だと思われる。」
最後の一文を一般的に書いてしまったんですが、大きな枠組みのことはお話しできませんが、「旬報社」
というところから『ポリティーク』という雑誌を出しています。去年から季刊で出し今3号目です。渡辺治、
後藤道夫、中谷慎太郎、二宮達也の5人で雑誌を作っています。5人しかいないが、5人だけと言ってもい
いですけれども……日本の現状の分析と方向については、割と共有しています。
(2)保守基盤を支えてきた公共工事
1)疑似福祉国家を支えた企業中心社会と保守基盤
新自由主義とグローバリズムに最も果敢に闘う5人だけの研究集団と自負しています。
共通認識は、二つの視点です。一つは、開発主義国家と企業国家という言葉です。10年くらい前から企
業社会という捕まえ方をしていました。企業中心社会、年功制、能力主義、企業別労働組合、労働者を企業
に統合してしまう、反抗を押さえてしまう。経営側にとっては非常に優れた仕組みだった。日本の労働運動
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の後退もそれで説明してきました。95 年あたりまでは、それでいっていたんですが、そのあとこの分析の
枠組みは狭すぎるとなって、持ち出してきたのが、疑似福祉国家という言い方をしてきました。福祉国家に
似せている。それは何かというと、労働者に対して労働運動に圧されて社会保障や社会福祉、賃金やさまざ
まな労働政策を整備し完備するのではなくて、保守基盤の安定のために、中小企業の業者団体の保護や自由
化反対による農業の保護そして公共事業の展開によった都市の自営業者や農民層を保守の基盤にするという
こと。それは、政財官、政財業の複合体で展開してきた。こうして地方は、保守の盤石の基盤が作られてき
たと考えなければならないと思いました。
2)開発主義国家を守る抵抗勢力
疑似福祉国家ではなくて、開発主義国家ということばを共有するようになりました。それは、開発独裁で
はない。かつての韓国、南米、インドネシアやあるいはかつての社会主義のように強力な独裁・専制国家に
よって国主導による企業発展していくということではなくて、自由と民主主義ある中で経済発展を最優先に
していく。このような国の作り方、そういう点ではヨーロッパ福祉国家でも開発独裁でもない、けれども開
発主義国家という言い方をしています。それが、日本の膨大な赤字を生み出し、これが破綻してきている。
これをやめようとして、小泉が立ち上がった。これまでの開発主義国家を守りたいということで抵抗勢力が
いる。いまとても複雑な局面である。
抵抗勢力が社会保障や国民の医療と言うところの族議員としてそれを守という点ではある意味では、僕ら
の言う新しい福祉国家路線と結びつく部分はあるけれども、公共事業をもっと展開してゼネコンを育成する
という点では違う。抵抗勢力の中でもきちんとした区分けをしなければいけない。だけれども年功制や能力
主義に支えられてきた企業主義社会、企業中心社会、この二つともが崩壊しつつある。グローバル経済化の
なかで太刀打ちできなくなってきている。
ただ、公共事業と企業誘致で支えられてきた地域経済をどうやって立て直すのか、これが重要な課題です。
この能動的な人材が問題です。開発主義国家の場合は自分の選挙権を売り渡して仕事は上から降ってくる。
自分たちは何も考えない。地域の有力者、地域の保守的な政治家にお願いし、自分の投票権を売り渡して上
から仕事や雇用が降ってくるという仕組みだった。だから、能動的に考える人材は行政の中にも地元住民の
中にもあまりいなかった。みなさん、市民派議員が苦戦しているというのが、今までの実情ではなかったの
でしょうか。
あるいは、年功制でも闘わなくても賃金は上がってきた、だから企業に依存してなるべく会社に逆らわな
いようにしてきた。定年まで会社に雇用を保障してもらえればいいんだという労働者を作り上げてきた。こ
れも能動的に考えない人材です。これを変えるということ非常に大変なことである。これを変えるには、あ
たらして労働組合を作ることです。少なくとも、地域を基盤とした新しい労働組合がなければ物事は発展し
ないというのは明らかです。
3)都市の税金を農村に回す、不況対策としての「公共工事」
第一次産業の育成を考えても、日本の場合は土木なんです。農道を作るなどと言ってさも農業を育成する
かのようですが、そうではなくて 1972 年に田中角栄が登場したとき、初めて 75 年から社会保障の伸び率と
公共工事の伸び率が違ってくるんですが、それは何かというと明確に自由化ということを意識しています。
農業はこれから衰退していくという判断を田中角栄は「列島改造」のときに明確に自覚している。そのため
には、都市では税金は使わず民間デベロッパーによって効率的なことをやってもらう。その税金で公共事業
を地方、農村で展開する。農業には未来がないからそういうところに公共事業をやるんだと言っている。公
共事業は前からあったんですが、その性格が非常に政治的になってきた。不況対策になった。それが 72 年
の田中角栄以来出てくる構造になってくる。
それを見たとき、『マッカーサーの伝記』という新聞書評しか見ていませんが、その中で、マッカーサー
の農地改革は共産革命に巨大な力を発揮したと言っている。地主と小作農をやめて、自作農を作った。それ
から農民運動は日本では衰退していく。第二の農地改革としての農村における公共事業という位置づけがで
きるファクターだったのだと思います。
(3)コミュニティ・ユニオニズムと、自治体からの新福祉国家戦略
1)『新世紀の労働運動―アメリカの実験』
『新世紀の労働運動』緑風出版からでいています。なぜ、ABELCIAは変わったのかという理論的に分
析したものです。これは戸塚秀夫さんの完訳本を「連合」がA3版で出しています。そこいは、大変示唆的
なことがあります。ABELCIAの例は新自由主義のレーガンの攻撃の中で、パートタイム、有期雇用化
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していくときに、徹底的にやられていくときに労働組合を立て直すということ、1995 年に執行部が変わっ
ていく。それがなぜなのか。あるいはどういうふうに労働組合は立て直さないといけないのか。詳細に書い
ています。これを「連合」が出したということ事態が、大変な事件と言えば事件です。そこで、このことだ
けお話しすると、二つだけふれておきます。
「労働組合が経済を再検討した結果がレーバー・マーケット・ユニオニズムである。」労働市場規制型労
働運動と訳せばいいと思います。「つまり未組織が圧倒的な経済圏では、事業所を一つずつ組織していたの
では不十分であるとの現実認識にたどり着く。労働組合が、賃金を競争の枠外に置こうとしたら、」横断的
労働市場のことを言っています。地域における横断的労働市場の労働者競争が激しくなる、枠外におく「そ
の地域と産業全体の巧妙な戦略を立てなければならない。経済の再検討は政治の再検討につながる」つまり、
労働市場の規制型、労働市場全体の流動的横断的労働市場を組織しなければならない。それがレーバー・マ
ーケット・ユニオニズム、労働市場規制型ユニオンだと。
「コミュニティーユニオンは、レーバー・マーケット・ユニオニズムの政治版である。地域が次第に人々
を結ぶ基本的な経済圏になっているとしたら、都市や産業全体で賃金を競争の枠外におかせるためには、地
域を組織化するプロジェクトが必要で、そこでは公の政策がしばしば主戦場になる。」
これは、生活賃金運動と結びつくということです。生活賃金に限らず、地域を基盤とした政治家、再びア
メリカでは政治の話が出てくる。これは、単に共和党、民主党という話ではなくて、レーバー・マーケット
・ユニオニズムというひとつの地域を基盤とした労働組合運動とその上に立つ新しい政策、新しい労働組合
と政治の話をここではいっています。
アメリカでもそうなんですが、地域における産学労の提携、第二次産業が海外に出ていって日本よりも早
く徹底的になされた。アメリカ国内ではテレビは一台もつくっていない状況になっているくらい、海外に行
っている。そうすると地域の産業は崩壊していく。どうしたら地域の産業が再生できるのか、アメリカの労
働運動がさきに直面した課題です。そのときに、大学の周辺でシンクタンクを作ってこういたった産業や技
術が重要だとかその知恵を借りて産業を育成することが地域でなされてきた。われわれもそういうことを構
想する必要がある。
2)地域からの仕事おこし―雇用創出政策を模索する
次に仕事おこし、「新公共サービス」
、国の補正予算の段階で予算配分がなされてきています。これもネオ
「失対」闘争ではありませんが、かつての「全日自労」、いまでは労働者協同組合という事業団で三重県な
どで進められてきています。再び失対事業をやるわけではありませんが、それに匹敵するくらいの高失業時
代ということを言いたかった。
「失業対策事業の再現ではなく、自治体が管理し、NPOやワーカーズコレクティブなどが実質的に運営
する仕組み」―つなぎではなく恒常的な雇用の受け皿として必要でしょう。
日本の公務員が多いというのは嘘です。実態はフランスの三分の一、アメリカの二分の一というのが公務
員数です。これを正規にするのか臨時するのかさまざまな議論はあるにしても、公共サービス部門を短時間
公務員という話もありますが、さまざまなことを考えながら雇用の受け皿を広げていくことが必要だろうと
思います。
「新しい産業の創出」と「福祉などの公共的社会的サービス」、福祉を軸として産業を再編することは大
変重要な点ですけれど、福祉だけではだめです。
地域で所得を増やす産業をどうやって作っていくのか、なしには福祉だけではまずい。要するに、住んで
いる人たちの所得が潤うような産業の創出と、そういう人たちを対象にした社会的公共的なサービス、そし
て公共事業の改革、そうして地域の産業構造の再編を労働組合も積極的にコミットしていく。
なぜかというと、その中で働く者の雇用確保と賃金確保を図ることができる。つまり、これまで賃金の最
低規制だとか雇用の確保だとか企業の外ではあまりいって来なかったとしても、そのことだけをいえば何と
かなるという時代ではなくなってきた。雇用の場をどうやって作るのかということ自身が労働組合の課題に
なってきている。その中でこそ新しい賃金運動もできる。組織化運動、賃金運動、雇用確保運動といったこ
とを混ぜながら新しい福祉国家のミニ版みたいなものから自治体を改革していくということから展望を持つ
ことが必要だろうと思います。
その場合は、レーバーポリティクスあるいはジェンダーポリティクスと言いますが、政党と労働組合、政
党と社会団体の関係を戦後続いてきた関係をきちっと総括して、明確していくことが必要です。選挙のマシ
ーンにするでもなく労働組合を指導するわけでもない新しい関係を築くことが重要な点です。
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