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<ものづくり>
古代の石器づくり体験
古代の石器を模作することにより,人類の道具の進化や生活様式の変化など様々な分野を総合的
に学ぶことができる。ここでは,石器づくりについて年代や作り方が異なる旧石器時代の代表的な
3種類の打製石器と部分磨製石器の製造法を紹介し,人類がどのようにその製造技術や使い方を発
達させ,生活を変えてきたのかを検討した。
[キーワード]総合的な学習の時間
ものづくり 体験学習
はじめに
打製石器
部分磨製石器
道具
北海道では,多くの遺跡から多数の打製石器
石器づくりは約250万年前には行われていた
けつ
が見つかっており,その母岩は,黒曜石,頁岩,
最初のものづくりであり,その製造技術は現代
安山岩,チャートであることが多い。これらの
に近づくにつれ急速に進歩した。この技術の進
石の特徴を表1に示す。
歩は,旧石器時代の人類の進化の歴史そのもの
表1
打製石器に使われた岩石
黒曜石
であり,遺跡から発掘される石器により当時の
人類のもつ科学技術だけではなく,当時の人類
の生活様式も知ることができる。
頁
ここでは,打ち欠いただけの石器から部分磨
製石器までの4種類の製造法とそれぞれの石器
安山岩
の石材や使い方について述べる。
1
打製石器の原石探し
準
備
岩
チャート
校舎周辺の握りこぶし大の石,ハンマー
方
法
ガラス質の火成岩。透明であるが、不
純物のために黒色に見える。割れ目には
貝殻状の模様が見える。十勝石とも呼ば
れる。
粘土質の細かな堆積物が強く固まった
堆積岩。色は白、灰、黒色。薄くはがれ
やすい性質をもつ。
安山岩質のマグマが地表または地表近
くで冷えて固まった火成岩。日本にもっ
とも広く分布している岩石。石基の中に
斜長石などの斑晶が見える。色は灰色∼
暗黒色まで様々。
ち密で固い。SiO2 からなり、カッター
ナイフの刃でも傷がつかない。内部に石
英脈が見られるものが多い。色は赤、淡
黄、青、黒色など様々。
(1) 校舎周辺のいろいろな地点から,握りこ
ぶし大の扁平な石を集める。
(2) 集めた石の縁の部分をハンマーでたたい
て割る。
2
打製石器づくり
A
加撃法を用いた石器の作り方1(石と石)
準
備
(3) 割れ方や割れ口の形状から,石器の原石
参
握りこぶし大の石器の原石,ハンマーストー
としての適性を調べる。
ン(ハンマー代わりに使う固い石),軍手,安
考
全めがね,植物の茎や枝,肉など
打製石器として適している石
方
法
・固くてち密な石
(1) 安全めがねをかけ,両手に軍手をはめる。
・割れ目に貝殻状の模様がある石
(2) 左手に原石を持ち,右手にハンマースト
打製石器として適していない石
ーンを持つ(左利きの場合は左右を逆にす
・もろい石
る)。
・鉱物の粒が大きすぎる石
(3) ハンマーストーンで原石の端に近い部分
・特定の方向にきれいに割れる石
をねらって打ち欠いていく(図1)。
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理科教育指導資料
第34集(2002)
古代の石器づくり体験
(4) 方法(3)の作業を繰り返して行い,図2
(3) 左足の太ももの外側に黒曜石を密着させ,
のような形に近付けていく。
鹿の角で打撃を加える。その際,黒曜石の
中心部ではなく,端をねらって打ち欠くよ
うにする。
図1
石と石でつくる石器
図3
鹿の角を用いた石器づくり
(4) 飛び散った破片の中から,鋭利な部分を
図2
見つけ,植物の茎や新聞紙,肉などを切り,
安山岩からつくった握斧
その切れ味のよさを実感する。
はく
(5) 握るところがとがっている場合は,その
(5) 飛び散った破片の中から,細長い剥片を
部分を軽くたたいてつぶし,鈍化させる。
見つけ,鹿の角を使って石の辺を繰り返し
あ く ふ
(6) できあがった石器(握斧:ハンドアック
たたきながら打ち欠き,石器(尖頭器)づ
ス)で植物の茎や枝,肉などを切り,原石
くりに挑戦する(図4)。
による切れ味の違いを確かめる。
参
考
ハンマーストーン
打製石器をつくるために,母岩を打ち欠くの
に使われた石。手で持つ場合は,握りこぶし大
の大きさが適当。花こう岩や砂岩など硬い石が
適している。
B
加撃法を用いた石器の作り方2(石と角)
準
備
図4
打ち欠くポイント
留意点
黒曜石(または頁岩),鹿の角,厚手のビニ
飛び散った破片の中から薄く剥がれた石片は,
ルマット(60cm×60cm),革手袋,安全めがね,
後述の「C
切れ味を確認するもの(新聞紙や肉など)
使用するので,とっておく。
方
加圧法を用いた石器の作り方」で
法
(1) 安全めがねをかけ,両手に革手袋をはめ
る。
C
加圧法を用いた石器の作り方
準
備
(2) 左膝にビニルマットをかけ,左手に黒曜
飛び散った黒曜石片(または頁岩片),皮革
石,右手に鹿の角(右利きの場合)を持つ
(15cm×15cm),革手袋,安全めがね,鹿の角
(図3)。
の先,切れ味を確認するもの
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<ものづくり>
方
法
すべての石器はこの原理によってつくられ
(1) 安全めがねをかけ,両手に革手袋をはめ
る。
(2) 皮革の上に黒曜石片をのせ,右手に持っ
た鹿の角の先を使い,石片のへりに沿って
やや下向きに適当な圧力を加え押し欠いて
いく。
(3) 力をうまく調整しながら方法(2)の操作
を繰り返し,平たい剥片を剥がし取ってい
ぞく
き,石器(石鏃)を作る(図5)。
図6
加圧法による石刃づくり
(名寄市北国博物館展示)
図7
図5
加圧法による石器づくり
剥離の原理
る。
留意点
(3) 黒曜石などに打撃を加えると図8のよう
(1) 小さな破片が飛び散るので,安全めがね
に円錐形の部分(割れ円錐)が打ち欠かれ
を必ず装着し,細かな破片が目に入らない
る。このとき,衝撃によって,石にさざ波
ようにする。また,加工する際には近くに
のように広がる波状模様ができる。この模
人がいないことを確認して作業するように
様のへりにそって石を打ち欠くと剥片を得
する。
ることができる。
(2) 飛び散った破片は鋭利になっているので,
素手でかき集めたり,つかんだりすること
のないように注意する。
(3) 破片はすべて集め,燃えないゴミとして処
分するなど,遺跡の出土品と間違われない
ように配慮する。
参
考
(1) 二人一組で図6のような装置を使って,
図8
せきじん
分離した割れ円錐
黒曜石の岩塊に加圧し,石器(石刃)を作
ることもできる。
(2) 図7は,直方体の均質なガラスを用いて
剥離の原理を示したものである。この中央
に強い力で打撃を加えると,その力は図中
に点線で示したような円錐に沿って伝わる。
3
磨製石器(石斧)づくり
準
備
扁平な石器の原石(かんらん岩,結晶片岩な
ど),平らな面をもつ研ぎ石(砂岩などざらざ
らした硬い石),ハンマーストーン,水
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理科教育指導資料
第34集(2002)
古代の石器づくり体験
方
法
当な研ぎ石がない場合は,耐水性のサンドペー
(1) 扁平な石器の原石の周辺部をハンマース
パーを用いてもよい。
トーンで打ち欠いて,おおまかな形に整え
る。
北海道で見つかっている磨製石器は,緑色の
泥岩,結晶片岩,かんらん岩であることが多い。
(2) 研ぎ石を水で濡らし,石器の刃部になる
これらの石の特徴を表2に示す。
部分を研ぎ石の平らな部分にあてる。この
表2
とき石器の原石と研ぎ石のなす角度が約30
泥
磨製石器(石斧)に使われた岩石
粘土質、火山灰質の細かな堆積物が固
まった堆積岩。石器に向くのは強く固ま
ったもので、緑色のものがよいとされて
いる。
結晶片
岩石が熱や圧力の影響で変成してでき
岩
た変成岩。平行な面が見られ薄くはがれ
やすい特徴をもつ。
かんら
もともとはマントル上部にあり地殻変
ん岩
動で地表に出てきた岩石。緑色または暗
緑色で輝石などの小粒の結晶が肉眼でわ
かる。
度になるようにする。
(3) 原石を研ぎ石の上で前後に動かし,原石
を削っていく(図9)。
参
岩
考
石器の起源と発達史
250万年前
世界最古の石器。石を簡単に打ち欠いた
チョッパーや剥片の出現(東アフリカ)。
180万年前
図9
原石の全周を両面から打ち欠いて加工し
た握斧などの出現(東アフリカ)。
磨製石器づくり
20万年前
(4) ある程度,刃の面ができたら,裏返して
原石の形を整えた後、打ち割って得た薄
い剥片を利用した石器の出現(アフリカ、
反対の刃の面を削る。
ヨーロッパ、アジアなど)。
(5) できあがった石器(図10,11)で畑の掘
4万年前
尖頭器など加工が精巧できれいに仕上げ
り起こしや木片の加工を行ってみる。
られた石器の出現(ヨーロッパ)。
3∼2万
5000年前
石器の一部を磨いてつくった部分磨製石
器の石斧が出現(日本)。
遺跡から出土する石器にはいろいろな種類が
見られ,これらを調べることにより,文化や科
図10 磨製石器の刃部
参
図11
磨製石器の磨き面
考
学技術だけではなく,当時の生活様式を知るこ
とができる。例えば,石鏃などの鋭い刃をもっ
磨製石器(石斧)に適している岩石
た石器が多く出土する場合は狩猟中心の生活と
・適度な固さをもつ石
推測することができる。
・衝撃に強い石
参考文献
磨製石器(石斧)として適していない石
・砕けやすい石
・硬すぎる石,軟らかすぎる石
なお,磨製石器をつくるための研ぎ石も石器
である。研ぎ石として適しているのは,硬い石
で表面がざらざらしている砂岩などである。適
北海道立理科教育センター
関根秀樹 原始生活百科 pp.22-35 創和出版 1996
杉原荘介 日本の考古学Ⅰ先土器時代 河出書房
坪井清足他監修 新版[古代の日本]⑨東北・北海道 角川
書店 1992
F.Clark Howell 原始人 ライフ/ネーチュアライブラリー
pp.107-127 1970
小野昭 人類博物館(http://www.jinrui.net/top.html)
北海道埋蔵文化財センター(http://www.domaibun.or.jp/)
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