KIISOUTPUT 2005年版(PDF)

関西情報化実態調査2005
(平成17年度 日本自転車振興会補助事業)
布施 匡章(調査グループ)
当財団では、平成10年度より、関西地域の自治体を対象に、情報化に関する施策展
開の状況や課題についてのアンケート調査を行ってきたが、平成17年度より、対象を
行政および産業界に拡大し、広く関西圏の情報化の現状を把握することとした。
平成17年度は、関西2府5県の上場企業と自治体におけるIT利活用と情報セキュリ
ティ対策について、アンケート調査とヒアリング調査を実施した。特にIT利活用につ
いては、経済産業省が示したIT利活用ステージ指標を用いて計測し、上場企業と自治
体の特徴を捉えた。
また、中小企業に対しても業務に関するIT導入状況のアンケート調査を行い、IT導
入の契機等について、先進事例に対するヒアリング調査を実施した。
1.調査の概要
用段階を初期段階から共同体最適化状態までのス
(1) 調査の方法
テージ1∼4に分類し、ステージごとの利活用の
1)アンケート調査
状況を示したものとなっている。平成17年に経済
関西圏の自治体、企業に対して郵送にてアンケ
産業省が行った『IT投資促進税制に関するアンケ
ート調査票を送付し、郵送及びFAXにて回収を行
ート調査』※1では、全国の上場企業を対象にアンケ
った。アンケート調査内容は、上場企業と自治体
ート調査を行い、ステージ3以上の企業が26%と
に対してはIT利活用ステージ指標に基づいた経営
いう結果であった。
とITに関連したものと、情報セキュリティ対策全
2)アンケート調査におけるIT利活用ステージの利 般についてである。また、中小企業に対してはIT
の導入状況について簡単なアンケート調査内容と
用解釈
本調査においてもIT利活用ステージを用いて、
した。
企業が経営判断や課題解決にITをいかに有効活用
2)ヒアリング調査
しているかという点に着目して調査を実施し、回
アンケート調査よりIT利活用並びに情報セキュ
リティ対策について、先進事例であると思われた
企業及び自治体に対し、ヒアリング調査を行った。
答結果をもとに上場企業のステージ分類を行い、
企業行動とIT利活用度との関係を見た。
また、自治体に対しても企業と同様にIT利活用
ステージの考え方を採用し、相応と思われるアン
(2) IT利活用の評価指標について
ケートを実施した。自治体版IT利活用ステージは、
1)IT利活用ステージとは
主に自治体経営という視点により作成した。評価
「IT利活用ステージ」は、IT利活用の進展度合い
項目は企業版と同じく「組織形態」、「人材、評価
を測る指標として、平成15年に経済産業省が発表
制度」等であり、企業における「顧客」を自治体
した評価指標である。その内容は、企業のIT利活
では「住民」と読み替えることとした。
※1:経済産業省『IT投資促進税制に関するアンケート調査』
(平成17年8月)
1
2.調査の内容
(1) アンケート調査
1)調査方針
主に「IT利活用」と「情報セキュリティ対策」
2)ヒアリング調査対象
アンケート結果より、IT利活用と情報セキュリ
ティ対策のそれぞれについて、優秀であると思わ
れた上場企業並びに自治体からそれぞれ2企業、
について、関西2府5県における自治体と三重県、
2団体を選出した。また、中小企業についてはIT
徳島県、さらに関西圏に本社を置く上場企業に対
導入が進んでいると思われた4企業を選出した。
し、アンケート調査を行い、状況把握を行った。
3)ヒアリング調査の着目点
また、関西圏にある中小企業に対しても、IT利
アンケート結果より「IT利活用ステージ」によ
用についての簡単なアンケートを行った。
る分類を行った際、ステージ2とステージ3の平
2)調査方法
均点を比較すると、上場企業・自治体ともに「組
郵送によりアンケートを送付し、郵送または
FAX、E-mailにて回収した。
織形態」の項目で差が開いており、特に自治体に
おいて顕著であった。そこで、
「組織形態」のアン
送 付 日:平成17年8月5日
ケート質問内容である、「IT投資を成功に導くため
回収期間:平成17年8月5日∼平成17年9月16日
の施策として、組織のフラット化とトップダウン
3)主な調査項目
■ 上場企業・自治体を対象として
・ 経営とIT
によるIT戦略の徹底を計ったかどうか」という観
点から、先進事例における取り組みを調査した。
また、中小企業においては「なぜITを導入した
・ 情報化推進体制等
のか」という、先進事例における情報化の契機に
・ CIOについて
着目して調査を行った。
・ 情報教育について
・ システムの効率化
・ 情報セキュリティ対策の現状
・ 今後の課題等
3.調査結果
(1) IT利活用について
本調査ではIT利活用ステージを利用し、関西圏
■ 中小企業を対象として
の上場企業のステージ分類を行った。また、自治
・ IT導入状況
体に対しても企業と同様にIT利活用ステージを採
・ IT活用状況/活用されてない理由
用した。その結果、平成17年8月に行われた経済産
・ 情報セキュリティ対策等
業省の調査との比較では、関西圏の上場企業の利
4)回収実績
活用進展度は全国に比べて高く、ステージ3以上
上場企業:89/797社(11.2%)
にある企業は31.5%(全国26%)に達した。関西の
自 治 体:130/296団体(43.9%)
自治体の利活用ステージ分類は実験的な試みであ
中小企業:851/4200社(20.0%)
るが、13.1%の自治体がステージ3以上を達成して
いるという結果であった。
(2) ヒアリング調査
■ IT利活用ステージ分析結果
1)調査方針
関西の情報化の実態を把握する上で、アンケー
ト調査では得られない具体例について、資料を補
完する目的で10月末∼11月にかけてヒアリング調
・上場企業(サンプル数89)
企業数
割合(%)
ステージ3(組織全体最適化)
28
31.
5
ステージ2(部門内最適化)
53
59.
6
8
9.
0
査を行った。
ステージ1(IT初期段階)
2
・自治体(サンプル数130)
団体数
割合(%)
ステージ3(組織全体最適化)
17
13.
1
ステージ2(部門内最適化)
71
54.
6
ステージ1(IT初期段階)
42
32.
3
事システムとの連動はまだ行われておらず、アン
ケート結果を裏付ける調査結果となった。
経営手法・経営スタイル
80%
I
T投資効果分析
<参考>平成17年経済産業省調査
40%
割合(%)
上場企業平均
20%
システム利用スキル
ステージ3以上
26
ステージ2
68
ステージ1
6
組織形態
60%
人材
自治体平均
0%
I
T部門の体制
1)上場企業のIT利活用
情報共有
変化への対応・BPR
取引関係
図1−1は、IT利活用ステージ分析で用いた得
点配分を、項目別平均点でそれぞれ表したもので
図1−1 IT利活用ステージ平均点チャート
ある。図1−2、図1−4は、それぞれ上場企業
経営手法・経営スタイル
100%
と自治体におけるIT利活用ステージごとの平均得
80%
I
T投資効果分析
点を項目別で表したものであり、図1−3、図
60%
1−5はさらに小項目別でチャート図にしたもの
40%
である。これを見ると、上場企業は、比較的「IT
20%
システム利用スキル
組織形態
上場企業ステージ3
上場企業ステージ2
人材
0%
部門の体制」と「情報共有」、「組織形態」、「IT投
上場企業ステージ1
資効果分析」にITを活用している。これは、経営
戦略とIT戦略の一致、組織のフラット化、IT投資
I
T部門の体制
情報共有
目的・評価の明確化といった項目であり、企業が
ITを活用した効率的な経営に努めている様子が窺
変化への対応・BPR
取引関係
える。ステージ3の上場企業において「人材」の
達成度が比較的低いのは、「IT活用以外の方法で人
図1−2 ステージごとの平均点分布(上場企業)
員整理や適切な人材配置を行っている」と回答し
た企業が多いためであり、特徴的である。
また、上場企業においてステージ2と3で得点
に差があるのは、小項目で見ると「e.経営資源の選
択と集中」、「f.組織のフラット化」、「q.業務の効率
的再編成」である。これらの点が、ステージ2に
ある上場企業のIT利活用における次の一手となる
かも知れない。
ヒアリング調査においては、IT利活用が進んで
いると思われる上場企業では、ポータルサイト等
a.グローバル・国際性
z.I
T投資評価の明確化
y.I
T投資目的の明確化
100%
b.顧客重視の経営
c.株主重視の経営
x.企業システムポリシーが全社員に浸透
80%
w.経営感覚を持ったC
IO
60%
d.自社独自の戦略打ち出し
e.経営資源の選択と集中
上場企業ステージ3
v.経営戦略とI
T戦略の一致
u.あるべき業務プロセス
明確化
40%
20%
f.組織のフラット化
上場企業ステージ2
0%
t.PDCAサイクル実践
h.人材の評価への取組
み状況
s.モジュール化されたシステ
ム構成
i.人材流動化
j.人員整理
r.業務の効率的再編成2
k.トップにおける業績把握
q.業務の効率的再編成
p.取引先の絞り込み・変更を含む見直し
o.サプライチェーンへの主体的取組み状況
g.トップダウンによる経営
方針の徹底
l.できごとのトップへの迅速な報告
m.全社課題のトップ・従業員への情報共有
n.従業員における経営理念浸透度
での情報共有やトップにおける業績把握、意向反
映が行われていた。また、人材評価システムと人
図1−3 小項目別の平均点分布(上場企業)
3
a.広域行政への対応
2)自治体のIT利活用 z.I
T投資評価の明確化
自治体全体としては、図1−1より、比較的
「経営手法・経営スタイル」に重点をおいてITを活
用していることが読み取れる。これは、ITによる
行政サービスの提供や住民とのパートナーシップ
の実現にITを活用しているという結果である。
図1−4より、自治体において、ステージ2と
3の傾向で特に差が開いている項目は「組織形態」
と「変化への対応・BPR」であり、図1−5の小
項目別で見ると、
「f.柔軟な組織の組換え」
、
「g.トッ
y.I
T投資目的の明確化
x.企業システムポリシーが全社員に
w.経営感覚を持ったC
IO
100%
b.住民とのパートナーシップ
c.I
Tによる行政サービスの提供
80%
d.I
Tを活用した特徴あるサービスの提供
60%
e.施策に応じた資源の選択と集中
40%
v.経営戦略とI
T戦略の一致
20%
u.あるべき業務プロセス
明確化
f.柔軟な組織の組み替え
上場企業ステージ3
g.トップダウンによるI
T
戦略の徹底
0%
t.PDCAサイクル実践
h.人材の評価への取組
み状況
上場企業ステージ2
s.モジュール化されたシステ
ム構成
i.職員スキルに応じた庁内
人事
j.人員整理
r.業務の効率的再編成2
k.トップにおける総合計画進捗度把握
q.業務の効率的再編成
l.危機管理対応の迅速化
p.調達先の絞り込み・変更を含む見直し
o.全庁的な調達の最適化
m.住民の意見・要望の首長把握
n.職員における政策理念浸透度
プダウンによるIT戦略の徹底」
、
「q.業務の効率的再
編成」といった事項が、ステージ2にある自治体
図1−5 小項目別の平均点分布(自治体)
における今後の重点項目になると思われる。さら
に、自治体においては、
「システム利用スキル」が
ステージ3にある団体においても達成度が低く、
(2) CIOについて
本調査では、調査対象企業において「CIOはいる」
職員におけるシステム利用スキルの浸透が、自治
と答えた上場企業は30%であった。一方で、2004
体全体における課題のひとつであるといえる。
年9月に行われた『国内CIO実態調査』※2において
ヒアリング調査では、先進事例においては首長
は、全国の企業が対象であるにも関わらず、専
の理解やCIO相当役による情報化計画の推進がなさ
任・兼任を合わせてCIOを選任している企業は
れているという回答が得られた。
42.6%である。同調査における2003年度の結果にお
いてもCIO選任率は38%であり、これは関西圏の上
場企業において、CIO選任率が低いと言える。
経営手法・経営スタイル
100.
0%
I
T投資効果分析
80.
0%
組織形態
CIOはいる
30%
60.
0%
40.
0%
システム利用スキル
自治体ステージ3
20.
0%
自治体ステージ2
人材
0.
0%
自治体ステージ1
I
T部門の体制
変化への対応・BPR
情報共有
CIOはいない
70%
取引関係
図1−4 ステージごとの平均点分布(自治体)
図2−1 上場企業におけるCIOの有無
※2:株式会社IDGジャパン発行 CIO Magazine『国内CIO実態調査』
(2004年9月)
4
おいてもCIOが統括している業務内容として多い回答
企業におけるCIOの選任状況
出典:
「国内CIO実態調査」
2004年9月
無回答 0.
5%
専任のCIOがいる7.
5%
兼任のCIOがいる
35.
1%
が「情報システム戦略の立案・執行」と「経営・事業
戦略の計画・立案」であることから裏付けられる。
情報システム
管理能力・実績 その他3%
3.
9%
情報政策企画
立案能力
17.
1%
いない
56.
9%
全体を見渡せる
経営感覚・能力
75.
0%
図2−2 企業におけるCIOの選任状況
また、今回のアンケート結果における上場企業の
「経営上の改革とITの関わり」については、
「経営戦略
とIT戦略は強く関わっている」という回答が29.2%、
「どちらかといえば経営戦略とIT戦略は関わっている」
図2−4 CIOに求められる資質
という回答が68.5%であり、関西圏の上場企業のIT戦
略は経営戦略に拠るところが大きいことを示した。
(3) 情報セキュリティ対策
情報セキュリティ対策については、ネットワー
ク管理や個人情報保護等についてアンケート調査
経営戦略とIT戦略は
全く独立して実施
されている
0%
無回答
2.
2%
どちらかといえば
経営戦略とIT戦
略は独立して実
施されている
0%
経営戦略とIT
戦略は強く関
わっている
29.
2%
を行った。IT利活用と同様に、図3−1において、
項目ごとの平均点で上場企業と自治体の傾向を比
較した。その結果、「ウイルス対策」に重点を置か
れているのは、上場企業・自治体共通であるが、
上場企業は自治体に比べると、
「セキュリティ監査
とリスクマネジメント」の項目で達成度が勝って
どちらかといえば
経営戦略と
IT戦略は関
わっている
68.
5%
CIOの統括する業務 出典:
「国内CIO実態調査」2004年9月
0%
20%
40%
60%
76%
情報システム戦略の立案・執行
70%
経営・事業戦略の計画・立案
図2−3 経営上の改革とIT戦略との関わり
48%
業務プロセスの改善・再構築
46%
情報システムの開発・運用・管理
結果、関西圏の上場企業においては、経営とITの関
一般社員の情報リテラシー教育
態は取らずに経営トップの意向によりIT戦略が実行さ
企業間電子取引
れていると推測される。
次に、本調査におけるCIOに求められる資質として
は、
「全体を見渡せる経営感覚・能力」が73%であり、
CIOが経営や業務に深く関与することを求められてい
ることが分かる。この結果は『国内CIO実態調査』に
40%
ネットワーク・セキュリティ管理
わりを重要視してはいるが、CIOの設置という組織形
24%
15%
13%
情報関連子会社の管理
顧客向けEコマース事業
80%
7%
IT関連以外の業務
4%
その他のIT関連業務
3%
図2−5 情報セキュリティー対策平均点チャート
5
おり、逆に自治体は、
「情報セキュリティ研修」の
ムの適正導入」が75.4%であった。図3−3は、逆
点で上場企業を上回る達成度であった。セキュリ
にITを業務に導入できない理由を示したグラフで、
ティ監査やリスクマネジメントは、比較的新しい
「ITを理解できる人材の不足」という回答が70.7%
セキュリティ対策項目であり、それらを取り入れ
と他の回答を引き離して多く、これが関西の中小
ることに関しては、企業が速度の点で勝っている
企業におけるIT導入の最大の問題点であろうと思
と言えるかも知れない。一方、情報教育研修の実
われる。
施状況は、自治体の方がよく行っているという結
果である。
ヒアリング調査では、今後の課題として、上場
企業は継続的な運営を、自治体は費用対効果の算
出を、それぞれ挙げていた。
導入済みで
あるが、業務に
活かされて
いない
25%
ネットワーク管理
100.
0%
80.
0%
60.
0%
積極的に
活用し、業務
に活かしている
75%
個人情報保護
ウイルス対策
40.
0%
上場企業平均
20.
0% 自治体平均
0.
0%
図4−1 業務へのIT導入状況(中小企業)
セキュリティ監査と
リスクマネジメント
不正アクセス対策
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%
自社のホームページを作成
し、情報発信に努めている
76.
2%
企業間で電子商取引を行な
っている 情報セキュリティ研修
図3−1 情報セキュリティ対策平均点チャート
37.
7%
企業−消費者間で電子商取
引を行なっている 15.
2%
業務・システムの適正導入
75.
4%
(4) 中小企業
IT導入の結果による人員整
理・雇用調整 6.
6%
その他
6.
1%
中小企業には、ITインフラ整備状況等を考慮し、
業務へのIT導入状況をはじめとした比較的簡易な
アンケート調査を行い、関西における中小企業の
IT利活用状況とセキュリティ対策状況の傾向の概
要把握にとどめた。回答が多かった業種は、「建
設・土木業」「商社・卸売・小売業」「サービス業」
「その他製造業」であった。
図3−1は、回答のあった中小企業における業
図4−2 IT利用業務(中小企業)
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%
財政的理由
25.
5%
ITを理解できる人材の不足
70.
7%
効果が疑わしい
17.
8%
27.
4%
必要を感じない
その他
5.
3%
務へのIT導入状況である。75%の企業が「積極的
に活用し、業務に活かしている」と回答した。次
に図3−2は、それらの業務内容のグラフである。
6
図4−3 ITを導入できない理由(中小企業)
1)IT導入状況と業況 「自社のホームページを作成し、情報発信に努めて
中小企業におけるIT導入状況についての回答結
いる」が76.2%と最も多く、次いで「業務・システ
果と、調査対象の業況を4段階で質問した結果と
のグラフを示す。その結果、業務にITを導入し活
対策の導入状況を調査しているが、その結果では
用している企業の方が、業務に活用していない企
「ウイルス対策ソフトを導入している」と回答した
業に比べて「上向いている」と感じている割合が
企業は全体の90.6%であり、次に「不正アクセスの
高いことが分かる。また、「悪化している」と感じ
防止(ファイアウォールの導入等)を実施してい
ている企業の割合についても業務に活かされてい
る」という回答が68.9%と多かった。「中堅・中小
ない企業の方が回答率は高く、IT導入が中小企業
企業のIT導入実態調査」においては中堅企業まで
の業績向上に繋がっていることが分かる。
を対象としているものの、関西の中小企業におい
2)中小企業における情報セキュリティ対策 てウイルス対策状況は全国と同等であるが、ファ
イアウォール等のその次に行うべき対策について、
0%
20%
積極的に活用し、業務に
16.
9%
活かしている
(N=586)
40%
60%
28.
8%
42.
3%
80%
100%
遅れをとっているという結果であった。
11.
9%
上向いている
5.
9%
導入済みであるが、業務に 活かされていない(N=204)
ネットワークセキュリティ対策の実態
上向いているが、
将来は不透明
20.
1%
40.
7%
33.
3%
出典:
「中堅・中小企業のIT導入実態」2005年1月
横ばいである
0%
悪化している
20%
40%
60%
80% 100%
ウイルス対策ソフトを導入している
1%
全体(N=790)14.
26.
6%
41.
9%
90.
6%
17.
5%
不正アクセスの防止(ファイアウォールの導入
等)
を実施している 図4−4 IT導入状況と業況(中小企業)
68.
9%
55.
7%
データの二重化(バックアップ等)
を行っている
本調査では、関西圏の中小企業における情報セ
社内でアクセス制限を設けている
(個人認証の実施等)
35.
1%
キュリティ対策として、最も多く導入されている
対策は実施していない 1.
1%
のは「ウイルス対策ソフトの導入」であり、89.7%
という回答結果であった。次いで「ファイアウォ
5%
その他対策で実施している 1.
ールの設置」が39%である。2005年1月に行われた
『中堅・中小企業のIT導入実態調査』※3においては、
図4−6 ネットワークセキュリティ対策の実態(全国)
全国の中堅・中小企業を対象に情報セキュリティ
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 100%
ウイルス対策ソフトの導入
89.
7%
ファイアウォールの設置
通信データの暗号化
39.
0%
12.
7%
33.
4%
ワクチンプログラムの定期更新
17.
1%
ネットワーク管理の外部委託
その他
業務経歴
3.
6%
布施 匡章(調査グループ 研究員)
特に行なっていない
9.
8%
・関西情報化実態調査(2005∼)
・地域再生計画認定制度等の事後評価に関する調査(2005)
図4−5 情報セキュリティ対策導入状況(中小企業)
※3:ノークリサーチ社『中堅・中小企業のIT導入実態調査』
(2005年1月)
7
続・“里湖(さとうみ)自然館・マキノをめざして”
∼マキノにおける体験型観光産業振興計画活用調査∼
(平成17年度 電源地域振興指導事業)
高鳥 克己(地域・産業活性化グループ)
平成16年度より近畿経済産業局の委託(電源地域振興指導事業)を受けて、滋賀県高島
市・マキノ地域の「体験型観光産業の活性化調査」に取り組んできた。町内の観光施設、宿泊
事業者、農業・まちづくり団体と市との協働によるワークショップと調査委員会を組織し、平
成16年度に報告書「里湖(さとうみ)自然館・マキノをめざして」を取りまとめ、今後マキ
ノ地域で実施していきたい体験型観光プログラムについての提言を行った。
活動2年目の今年は、その観光プログラムのいくつかの具体的実施を図った。地域住民主体
の3つのワークショップ(部会)を作り、「できることからやってみよう!」を合言葉に、①
1泊2日の体験型観光モニターツアー、②マキノならではの地場料理の企画、③IT技術を活
用した新しいマキノのPRパンフレットの作成等を実施し、そこから得られた成果と課題を基
に今後のアクションプランを提示した。
1.平成17年度の取り組みの概要
(1)ワークショップの活動
ーの試験的な実施を試みることとした。具体的に
は、①宿泊を伴う体験型観光モニターツアー(参
“Plan”に終わらず“Do”を−。
加者を有料で募集)
、②地場料理「マキノ里湖(さ
これが、活動2年目となる17年度調査の主題と
とうみ)料理」の企画、③IT技術(QRコード)
なっている。
「地域の振興は地域が担う」という大
を活用した新しいマキノのPR用ツールの構築、
前提のもと、地域住民と行政が主体となったワー
作成である。
クショップでは、
「できることからやってみよう!」
(2)調査委員会の活動
を合言葉に、16年度に考案した体験型観光メニュ
上記ワークショップの上位組織として、学識経
験者、行政、地元団体代表者等からなる調査委員
表1 3つのワークショップと取り組みの目標
8
ワークショップ
取り組み目標
体験ツアー企画部会
宿泊を伴う有料体験型観光ツアー
「マキノ里湖もりもりツアー」を
実施する。(11月19日(土)∼20
日(日))
里湖料理企画部
マキノの春夏秋冬の野菜、果実、
山菜、魚貝類など地場の食材を使
った「マキノ里湖(さとうみ)料
理」を企画、創作し、「マキノ里湖
もりもりツアー」の参加者に提供
する。
PR企画部会
マキノの新しい観光PR手段とし
てのモバイル用観光ホームページ
の「携帯版マキノ観光ガイド」の
構築と、そこにアクセスするPR
ツール(チラシ)を作成する。
会を組織し、ワークショップの検討に対して大所
高所から吟味し、一定の方向性やあり方を示唆す
ることとした。
図1 ワークショップの様子
(3)広報紙「里湖(さとうみ)だより」の発行
することとなった「マキノ里湖(さとうみ)もり
「地域住民との情報共有」や「地域住民の参画意
もりツアー」は、“マキノ地域でもりだくさんな体
識の向上を図り、計画に対する理解を得る」とい
験をしていただく、元気もりもりになってもらう
う目的意識のもと、委員会やワークショップの検
ということと、マキノの里山=森(もり)とをか
討経過について広報紙「里湖(さとうみ)だより」
けて”命名されたもので、「里湖(さとうみ)」と
を2回発行し、町全域に配布することで、情報共
は、マキノの「里」「山」
「湖(うみ)」という3大
有を図っている。
地理的要素を包括した造語である。今回のモニタ
ーツアーの実施目的は以下に見る通りである。
実施目的1:観光客の「体験型観光」に対するニー
ズ把握
マキノ地域で今後、体験型観光ツアーをひとつ
の「観光商品」として育て上げていくことを考え
ると、観光客側(都市住民)の体験型観光に関す
るニーズを把握しておくことが重要になる。今回、
有料でのモニターを募集することにより、地元側
で用意した体験メニューが本当に価格に見合って
いるものかどうか、また、参加者のニーズに合致
しているかどうかについての正当な評価や、今後
の企画立案の際に参考となる旅行者ニーズについ
て把握することが可能となる。また、宿泊施設や
観光施設、さらには地元ガイドなど、受け入れ体
図2 「里湖だより」(17年度第2号)
制についての評価を聞くことができ、地元受け入
れ側の絶好のトレーニング機会となる。
(4)先進事例見学会の実施
委員会とワークショップのメンバーで株式会社
南信州観光公社(長野県飯田市)への先進事例見
実施目的2:宿泊を伴うプログラムの整備と収益性
の検討
学会を実施した。通過型観光からの脱却を図るた
昨年度調査において、マキノの観光入込みの現
め、平成7年から学生を対象とした体験観光の受
状として「県内と近畿圏からの観光客が最も多く、
入れをはじめ、飯田市商業観光課で教育旅行に的
「日帰り圏内」であると認識されている」ことが挙
をしぼった体験プログラムを作成し、旅行業者な
げられている。平成16年度「滋賀県観光入込客数
どへ積極的な働きかけを実施、平成13年に「株式
統計調査」では、マキノ町の延観光客数819,900人
会社南信州観光公社」を設立し、エージェントと
(前年比105.0%)のうち、82.1%にあたる673,000人
地域へのコーディネートを積極的に展開し、観光
が日帰り客であるという結果が出ている。地域の
振興を成功させた取り組みについて学んだ。
活性化のためには、こういった日帰り客にマキノ
に1泊してもらい、地域へお金を落としてもらう
2.「マキノ里湖(さとうみ)もりもりツアー」
の実施について
(1)ツアーの実施目的
11月19日(土)∼20日(日)の1泊2日で実施
(=地域の産業、経済への寄与を狙う)必要がある。
マキノにおいては、これまで日帰りを意識した体
験観光メニューは数多く用意されているが、
「宿泊」
を意識したプランが少ないという状況もあり、1
9
泊2日のツアープログラムを企画することとした。
キノ地域の情報にアクセスできる”手段、もしく
今回の実施からノウハウを得、今後の体験型観光
は都市住民が“
ツアープログラムの整備に繋げることが可能である。
も・どこでも」マキノの旬の情報にアクセスでき
また、ツアー全体にかかる経費についての積算
る ”体制の構築にあわせて、同時にそのホーム
ができることから、体験ツアーの「観光商品」と
ページに簡単にアクセスするための「QRコード
しての採算性・収益性について精査することも可
(2次元バーコード)」を取り入れたPRチラシも
都市にいながらにして、
「いつで
作成した。体験モニターツアー参加者にこれら一
能となる。
連のシステムを体験してもらい、評価を聞くこと
実施目的3:地場料理=マキノ里湖料理の企画
昨年度調査では、マキノ町内の観光事業者から
「マキノには特産品がない」、「観光客に持って帰っ
で、ICT(Information&Communication
Technology)時代におけるマキノの新しい情報発
信体制の構築に繋げることが可能となる。
てもらえる土産物がない」といった声が聞かれて
おり、
「マキノ町を訪れてくれた観光客が、町外で
昼食を取ってしまう」といった意見も聞かれてい
る。年間80万人を超える観光客が農業や商工業な
(2)ツアーの実施概要
「マキノ里湖(さとうみ)もりもりツアー」は、
下記の要領で実施された。
ど地場の産業に対する経済効果に繋がらないまま、
■開催日時:平成17年11月19日(土)∼11月20日(日)
通過型の観光に終わってしまっているといった課
■参加料金:9,500円/人(中学生未満8,500円)
題が浮かび上がっており、この課題に対するひと
1泊2日民宿泊(夕1、朝1、昼1食事付き)
つの取組みとして、ワークショップ「里湖料理企
■宿泊先:マキノ高原民宿村
画部会」が中心となり、マキノの地場食材を活か
■参加人員:30名
した「マキノ里湖(さとうみ)料理」の創作を行
■主な体験メニュー
った。地場料理を体験モニターツアーの参加者に
<1日目>・晩秋の赤坂山登山と天然キノコ採り
供することでその評価を聞き、料理の内容や価格
・地場の食材を使った里湖料理
など、今後のマキノの地元料理メニューの整備と
・マキノ高原温泉「さらさ」入浴
充実に繋げることが可能である。
<2日目>・「やまおやじ※1」を巡るツアー
・マキノピックランドでのリンゴも
実施目的4:新しいマキノの情報発信手段の構築
ぎ、リース作り体験
これまで、体験型観光・体験学習の団体向けパ
ンフレットや一般観光客向けのガイドマップ、地
元紹介のための冊子などを数多く発行しているマ
キノにおいて、さらなる情報発信の充実を図るた
め、今年度、PR企画部会が中心となって、イン
ターネット技術の普及発展に目を向けた「携帯版
マキノ観光ガイド」ホームページ(携帯電話から
アクセスできるホームページ)の構築に取り組ん
だ。
“体験をしながら、リアルタイムで関連するマ
図3 ツアーの様子(1)
※1やまおやじ:雑木林のクヌギ、コナラなどを里山の景観や生態系保全のために伐採しすることを繰り返すと幹の部分が次 第に太く大きく育つ。雑木林の中に大きな生き物が座っているように見える姿を、マキノ在住の写真家・今
森光彦氏が「やまおやじ」と名づけ、全国的に知名度が高まったもの。
10
ツアー全体に関する印象を聞いたところ、全員
が「大変良かった」(82.8%)もしくは「良かった」
(17.2%)と回答している。
②特に良かったと感じた内容(複数回答)
90
82.
8
79.
3
65.
5
65.
5
図4 ツアーの様子(2)
60
58.
6
58.
6
62.
1
55.
2
48.
3
48.
3
44.
8
41.
4
37.
9
31.
0
30
20.
7
3.
4
0
図5 ツアーの様子(3)
晩
秋
の
赤
坂
山
登
山
天
然
キ
ノ
コ
採
り
里
湖
料
理
︵
夕
食
︶
里
湖
料
理
︵
朝
食
︶
高
原
温
泉
﹁
さ
ら
さ
﹂
入
浴
民
宿
で
の
宿
泊
﹁
や
ま
お
や
じ
﹂
ツ
ア
ー
リ
ン
ゴ
も
ぎ
里
湖
弁
当
︵
昼
食
︶
リ
ー
ス
作
り
マ
キ
ノ
の
自
然
、
風
景
地
域
の
人
と
の
交
流
専
門
ガ
イ
ド
の
解
説
ピ
ッ
ク
ラ
ン
ド
、
さ
ら
さ
な
ど
の
施
設
お
土
産
物
そ
の
他
2日間のツアーを通じて、どの体験メニューや、
(3)モニターのアンケート結果から
今回の体験モニターツアーは、大阪府、兵庫県、
内容が特に良いと感じたかについて聞いたところ、
「マキノの自然・風景」(82.8%)が最も多く、「里湖
京都府など近畿圏から30名の参加を得た。年齢層
料理(1日目夕食)
」(79.3%)、
「天然キノコ採り」・
は60歳以上が55.2%と過半数を占めている。『熟年
「
“やまおやじ”を巡るツアー」
(65.5%)の評価が高
の夫婦、グループなどシニア層』、『山あるき、町
い。特に、手間と時間をかけて作り上げた「里湖
あるきが好きな人』、『自然愛好家』など、主に
料理」が多くの参加者から高い満足度を得たこと
「60歳以上」の世代を今回の誘客ターゲットとして
は、特産品が少ないと言われるマキノにおいて、
設定したが、ツアー実施へのアンケート結果につ
大きな成果と言える。
いては概ね高い評価を得ており、そのニーズに応
えるプログラムを提供できたと考えられる。以下
にその結果をいくつか示す。
①ツアー全体の印象
③ツアーの適正な販売価格について
今回のツアーを実際の商品(観光ツアー)とし
て販売する場合の妥当な金額(税込み金額、現地
回答なし 6.
9%
良かった
17.
2%
15,
000円以上
3.
4%
13,
000∼
14,
000円
20.
7%
大変よかった
82.
8%
9,
500円未満
6.
9%
9,
500∼
10,
000円
27.
6%
11,
000∼
12,
000円
34.
5%
11
までの往復交通費は含まない)について聞いたと
1月にオープンしたが、その後、3月までのアク
ころ、「11,000∼12,000円」(34.5%)が最多で、
セス数の経緯を見たものが下図である。PR用の
「9,500∼10,000円」
)
(27.6%)と続く。
今回のツアーでは採算性については以降の検討
課題として位置づけ、9,500円/人(小人8,500円/
宣伝チラシを配布しはじめた1月に522件、2月に
911件とアクセス数が伸びており、携帯電話を通じ
た情報発信の可能性を示す結果が見られている。
人)という参加料金の設定を行ったが、少なくと
も、もう少し高めの料金設定でも観光客を呼び込
1000
むことは可能だと考えられる。しかしながら、地
800
域ガイドや事務スタッフの人件費なども含め、本
600
911
802
522
当に採算ベースに乗った事業として考えていくの
であれば、今後、バスのチャーター費用やPRチ
400
ラシの印刷費用の削減、旅行代理店との価格的な
200
交渉の実施など、コストを低減してくための様々
0
32
14
2005年11月 2005年12月 2006年1月
2006年2月
2006年3月
な工夫が必要となってくるであろう。
図6 携帯観光ガイドへのアクセス数(※3月は15日現在のデータ)
④今後の参加意向
(4)地元受け容れ側の評価
継続してツアーが実施された場合の参加意向に
取り組みを継続的なものとして育てていくため
ついて聞いたところ「必ず参加する」
(51.8%)が過
には、参加モニターからの意見以上に、地元受け
半数を占め、「できれば参加したい」(41.4%)を合
容れ側が今回のツアー実施をどう感じたかが重要
わせると全体の9割にのぼる。
である。ツアー実施後にワークショップのメンバ
ーに対して行ったアンケート調査では、今年度、
自らが作成したプランを実行へ移せたことを高く
回答なし
3.
4%
評価する声が多く聞かれている。同時に、改善す
わからない
3.
4%
べき点や不十分であった点についても多くの意見
できれば
参加したい
41.
4%
必ず参加する
51.
8%
が寄せられているが、総じて、今回の取り組みを
継続発展させていこうとする地域の意思が読み取
れる結果となっている。
3.今後の行動計画について
このように、今回のツアーは参加モニターから
この2年間のワークショップと委員会の活動は、こ
の評価が非常に高く、また、今後の継続への期待
れまで「それぞれの観光団体の連携が不十分であった
も大きいということが分かる。
(ワークショップメンバー)
」と言われているマキノに
おいて、地域の住民、観光事業者、NPO、行政が一
④新しい情報発信方法について
モニターツアーでは、天候の事情で「携帯版マ
12
体となった議論の場を持つことができたという点で大
きな意味があった。今後、一連の取り組みから生まれ
キノ観光ガイド」の操作性に関する実験をするに
た気運の盛り上がりを継続し、発展させていくため、
至らなかった。しかしPR企画部会の活動で、予
地域の関連団体の連携を呼びかけるコーディネーター
定していたマキノの観光情報をデータ入力するこ
機関の存在が必要である。そこで、マキノの体験型観
とができた。ホームページはツアーの行われた1
光産業振興のための推進体制として「マキノ里湖(さ
とうみ)体験振興協議会(仮称)
」の設立を提案する。
欠になってくるだろう。「継続は力なり」というよう
基本的には今回のワークショップを継続・拡大して組
に、事業を持続させていくことには大変な労力が必要
織するもので、今後、マキノ地域全体で取り組む体験
とされ、多くの観光振興を考える地域が、そこで苦し
型観光イベントの統括、調整や個別の体験型観光メニ
んでいる。ただし、コーディネート機能の担い手が確
ューのプログラム化を推進する組織である。この場合、
立できれば、マキノには地域でのプレイヤー、体験型
協議会の独立採算制が確保されることが理想だが、事
観光のエキスパートが揃っており、訪れた観光客に、
業が一定の規模に成長し、運営が軌道に乗るまでは財
“おもてなしの心”で接することができる。今回は秋
政的に厳しい状況が予想される。よって、県や市の補
に実施した「マキノ里湖(さとうみ)もりもりツアー」
助金の活用など、行政からの支援が期待されるところ
を、次は冬にやってみよう、その次の年は夏にやって
である。当面は、会員からの会費収入や、市や町で行
みよう、次は春に…となれば、4年間で4つの「もり
われる事業の受託による予算の確保が望まれる。
もりツアー」が生まれる。そこには「里」
、
「湖(うみ)
」
、
「山」が連携したマキノ固有の地理的環境を活かした
体験観光メニューや、マキノでしか味わえない「里湖
(さとうみ)料理」…それらの“マキノ・ブランド”が
散りばめられているはずで、その集積が、いつか自然と
通年型の体験型観光フィールド「里湖(さとうみ)自然
館・マキノ」の形成に繋がっていくものと信じてやまない。
5.おわりに
本調査研究事業の実施にあたっては、近畿経済産業
局、滋賀県、高島市及び地元代表で構成する「マキノ
図7 「マキノ里湖体験振興協議会(仮称)」のイメージ
における体験型観光産業振興計画活用調査委員会」お
よびワークショップの皆様から多大なご支援とご協力
4.里湖自然館・マキノの実現に向けて
今回の取り組みは、地域住民主体で構成された3つ
の部会の活動を中心に、「マキノ里湖(さとうみ)も
をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
また、調査委員長として事業をご指導いただいた加藤
晃規関西学院大学教授に深謝申し上げる次第です。
りもりツアー」を成功させよう!を合言葉に進められ
てきた。結果としてツアーは参加者からの評価も上々
業務経歴
で、成功に終わったと言える。成果を受けて、地元ス
タッフにも「来年、またやってみよう」という気運が
生まれてきている。しかし、継続して「事業」を続け
ていくとするなら、反省し、検証し、解決しなくては
ならない課題が多く存在している。企画を「体験型観
光商品」として販売し、事業として採算ベースに乗せ
ていくための工夫や地元の受け容れ体制作りが求めら
高鳥 克己(地域・産業活性化グループ 係長)
・IT(アクティブICタグ)を活用した児童生徒の
安心安全確保システム構築事業(2005)
・マキノにおける体験型観光産業振興計画活用調査(2005)
・マキノ町における体験型観光産業振興方策策定調査(2004)
・ITによる次世代観光ガイドサービスに関する調査
研究(2004)
れる。この2年間のワークショップ活動のように、商
・兵庫県朝来町資源循環活用方策策定調査(2002∼2003)
工会、観光協会、農協、農業団体、宿泊事業者、NP
・兵庫県家島町石材採掘業振興方策策定調査(2002)
O、そして行政が集まる場をコーディネートし、リー
ドしていくキーパーソン、組織、運動体の存在が不可
・近畿地域における情報産業の労働需給に関する実態
調査(2002)
他
13
地域再生計画認定制度等の事後評価に関する調査
布施 匡章(調査グループ)
本調査は、内閣府経済社会総合研究所より調査委託を受け、平成18年以降に行われる内閣府
による事後評価の下地となるような試験的調査を行ったものである。本稿は、調査結果のうち、
地域再生計画実施団体に対してヒアリング調査を実施し、特徴的な事例や現状、地域再生計画
の実施による効果に関して内容把握を行った部分について述べるものである。
1.地域再生制度について
地域再生計画の実施状況を詳しく調査する目的
近年における急速な少子高齢化の進展や、産業構造
で、地方シンクタンク協議会メンバーによるヒア
の変革といった社会経済情勢の変化は、地域に様々な
リング調査を行った。ヒアリング対象は、アンケ
問題をもたらしており、そこで地域の自主的かつ自立
ート調査等を踏まえ、特に効果的、特徴的である
的な取り組みによる地域経済の活性化、地域における
と思われる計画を実施している全国16の地方公共
雇用機会の創出、その他地域の活力の再生が求められ
団体である。
ている。平成17年4月1日に公布・施行された地域再生
ヒアリング内容は、地域再生計画の事業内容、
法は、地域再生の取り組みを総合的かつ効果的に推進
計画策定のプロセス、評価と進捗度、効果(メリ
することを目的として制定された。
ット、デメリット)、地域特有の資源の活用状況、
地域再生制度とは、地域の様々な声を背景に、地方
支援措置の利便性、制度に関する要望等である。
公共団体が自ら作成し申請する地域再生計画が内閣総
理大臣に認定された場合、当該計画に位置付けられた
(2)ヒアリング調査結果
各種事業を推進するための“支援措置”を活用するこ
1)地域再生計画の背景
とができる、というものである。
ヒアリング調査対象となった地方公共団体が実
支援措置は地域のニーズに対応したものとしてメニ
施している地域再生計画に関する発案主体や計画
ュー化されており、省庁横断型交付金といった使い勝
実施の背景を整理すると、①地方公共団体の主導
手の良い予算の仕組みの提供や、ひとづくり等の今日
による従来からの地域のプロジェクトを地域再生
的な課題への対応が可能な点が、これまでの制度には
計画としたもの、②地域再生制度の創設を契機に
なかった特長である。
プロジェクトとして地域再生計画を作成したもの、
また、
「地域再生基本方針(平成17年4月22日閣議決
定)」において、平成18年以降、地域再生計画の認定
の2つに大別できる。
2)計画のメリット
制度及び計画に基づく支援措置について、事後的な評
地域再生計画が認定されたことにより、目に見
価を行ない、当該評価に基づいて認定制度等の内容に
えないメリットを享受できたとの回答が多く得ら
ついて見直しを行うことが定められている。
れた。その具体的な内容は、地域再生計画策定に
より、庁内において部署横断的な組織や体制がで
2.ヒアリング調査
き、意識改革にも繋がったというものである。ま
(2)アンケート調査
た、PR効果があったという意見も多かった。市
1)調査方針
民参加型の計画では、メディアで取り上げられる
14
15
調査対象地方公共団体一覧
地方公共団体
地域再生計画名称
支援措置名
北海道函館市
特定地域プロジェクトチームの設置
函館国際水産・海洋都市構想の推進
∼水産・海洋に関する学術・研究拠点都市の形成∼ 日本政策投資銀行の低利融資
北海道足寄市
木質バイオマス未利用資源利活用構想
岩手県釜石市
スクラム21『チャレンジ・エコ』かまいしルネサンス計画
特定地域プロジェクトチームの設置
∼ものづくり150年目の挑戦∼
補助金で整備された公立学校の廃校校舎等の
転用の弾力化
地域の活力・中小企業再生プラン
地域資本市場育成のための投資家教育プロジ
ェクトとの連携
余裕教室の活用によるのびのび子育て支援計画
補助金で整備された公立学校の廃校校舎等の
転用の弾力化
富山県富山市
(旧八尾町)
八尾地域文化創造都市再生整備計画
公共施設の転用に伴う地方債繰上償還免除
公共施設を転用する事業へのリニューアル債の措置
福井県勝山市
ふるさと元気博物館・勝山市エコミュージア 道整備交付金
ム推進計画
汚水処理施設整備交付金
千葉県
東京都八王子市
山梨県
やまなし若者しごとプラン
地域再生雇用支援ネットワーク事業の集中化
愛知県豊川市
とよかわイナリズム(豊川稲荷☆住む)
∼住んでいいじゃん!訪れてもいいじゃん!∼
特定地域プロジェクトチームの設置
汚水処理施設整備交付金
滋賀県大津市
びわ湖大津・工業フェニックス計画
特定地域プロジェクトチームの設置
東大阪モノづくり人材育成計画
地域提案型雇用創造促進事業(パッケージ事業)
果樹と道が育む地域活力アップ計画
道整備交付金
大阪府東大阪市
和歌山県紀の川市
(旧那賀町)
広島県三次市
愛媛県松山市
福岡県北九州市
沖縄県沖縄市
「リバーリバイブ みよし」三次水環境再生計画
汚水処理施設整備交付金
『坂の上の雲』のまち再生計画
特定地域プロジェクトチームの設置
日本政策投資銀行の低利融資
下水道補助対象施設における目的外使用承認の柔軟化
小倉都心・門司港レトロ地区集客活性化事業
公共施設を転用する事業へのリニューアル債
の措置
「国際文化観光都市 チャンプルー・ルネッ
地域提案型雇用創造促進事業(パッケージ事業)
サンス計画」
ことにより、イベント参加率等が上昇した。また、
自由度の高さであり、交付金の活用に際して利便
地域再生計画の認定というお墨付きを得ることに
性が増したというものである。
より、許可申請等がスムーズに行えるようになり、
3)計画のデメリット
計画そのものの進捗度が増した、計画が早まった
デメリットとして寄せられた意見としては、交
という意見も得られた。内閣府からの情報提供が
付金について、従来の補助事業では関係行政機関
計画進捗に役立ったとの意見もあった。
にのみ手続き申請を行えばよかったが、地域再生
また、従来の補助金事業から交付金を活用した
計画に認定されることで、内閣府に対しても同様
支援措置に移行した事業について、メリットが生
の手続きを行う必要が生じ、事務手続きが増えた
じたという回答が得られた。その多くは交付金の
というものである。
15
3.地域再生計画事例
て幅広いPRを行ってきている。
(1)北海道 足寄町
木質バイオマス未利用資源利活用構想
北海道足寄町では、木材産業の活性化、地球温暖化に
対応した安定した新エネルギー利活用の観点から、地元
の森林資源(カラマツなど)を活用した固形燃料である
木質ペレットを開発、普及を図ることとした。町では、
「地域再生」制度の認定を受け、同町芽登地区にあった
廃校(旧足寄西中学校)の体育館を生産工場として転用
することにより、建設コストの削減を図り、校舎につい
ても展示施設、研究施設として活用し、資源リサイクル
体育館内のペレット生産設備
に関する情報発信拠点とすることを目指すこととなっ
た。地域再生の認定により、木質ペレットの有効活用に
よる省エネ推進、地球温暖化防止の意義が関係諸官庁に
周知されることとなり、林野庁、北海道などの支援制度
の活用や専門家のアドバイスも受けることが可能とな
り、事業は円滑に進展している。
1)地域再生計画策定について
足寄町は北海道東部に位置し、人口は8,500人
(平成17年3月末)、面積は全国市町村中第3位の
ペレットストーブ
1,408 k㎡で、その84%が森林となっている。この
ため、林業は町の基幹産業のひとつとなっていた
が、木材価格低迷や後継者難等から衰退の一途が
続き、森林の荒廃が懸念されていた。このため、
平成17年11月に完成した工場で、年間700トンの
町では、この豊富な森林資源を生かすとともに、
ペレット生産が開始されている。現在の市場はペ
地球温暖化対策、省エネ対策を推進するために、
レットの輸送費が高いために、十勝支庁内に留ま
地場木材を活用した木質ペレット燃料の活用を計
っているが、今後域外へも拡大したい意向にある。
画した。
また、ペレットストーブの開発も地域内で実施し、
この数年間、足寄町の主導により、森林資源の
域内での木質ペレットの生産から消費までの一貫
保全、林業の再活性化等の観点から、木質ペレッ
したシステムの開発を行えるような仕組みを考え
トを活用したバイオマスエネルギーの活用につい
ている。
て、検討が進められてきた。ただし、工場建設費
地域再生計画の認定自体は補助金獲得など直接
の負担軽減のために、廃校となった足寄西中学校
のメリットはないものの、地域再生認定と同時に
の活用を図ることとし、施設転用のための「地域再
内閣府から多様な助成制度の情報を得ることがで
生」制度の活用に関する情報を支庁から入手、内閣
き、生産までスムーズに進行した。申請後も多様
府と相談して、計画策定に至った。
な情報提供をもらっており、事業運営の参考にな
町では、住民向けシンポジウムを開催し、木質
ペレットの活用について町民の理解を促している。
16
2)地域再生計画実施について
っている。
町議会も地域再生の認定を受けたことにより、
さらに、林野庁でも木質ペレットの啓発パンフレ
木質ペレットの庁舎暖房への活用に前向きになっ
ットを作成するなど、木質ペレットの活用につい
た(当初は慎重な意見があったものの、徐々に方
向が変わってきた)
。これを受けて、町ではペレッ
祥の地とされる豊川稲荷があり、東三河における
トボイラーを8千万円で購入、年間300トンのペレ
観光拠点となっている。しかし近年のレジャーの
ットを利用することを確約し、先述のような住民
多様化などにより、初詣時期を除くと観光客数は
へのPRを行うなど、事業支援体制を確立している。
減少の一途を辿ることとなってしまった。
3)地域特有の資源の活用
そのような中、平成14年10月、駅前商店街商店
ペレット原料は、足寄町を中心とする木材の未
主である鈴木達也氏を中心とし、地域で自発的に
利用資源である。間伐材や台風による流木の活用
まちづくりを検討・実践する地元の体制として
も考慮すると、現在の需要見通しを踏まえれば、
「いなり楽市実行委員会」が組織された。以後毎週
原材料は地域周辺で十分な量を調達できる状況に
木曜日午後7時より、市役所職員有志も交えた会
ある。
合を開き、夜中まで熱心に検討を続け、様々なま
観光との連携も見込まれ、工場周辺で行われて
ちづくりアイディアを生み出した。その中で官民
いる放牧酪農、体験型農業、チーズ工場、レスト
がそれぞれの役割を理解し、地元中心の「できる
ランをセットにした産業観光、牛糞のバイオマス
ところから始めるまちづくり」を協働で進めるこ
プラントや氷による野菜保存などの新エネ事業も
ととした。
期待できる。
昨年度は、事業開始直後にもかかわらず、施設
行政(市役所)は地元住民主体のまちづくりを
重視し、地区全体の本格的な動きへと育てるため、
への視察者が200人近くあり、50代までの幅広い世
ハード先行ではなくソフト先行のまちづくりへの
代を対象にしたモニターツアー(周辺の資源を含
施策切替えを行った。地域再生プログラムに基づ
めたツアー)も実施している。2007年度には、春
き、路上イベントを円滑に開催できるよう道路使
夏秋冬それぞれの売り物を組み合わせた団塊世代
用許可を緩やかにする支援措置を取り入れたり、
を対象としたツアーも計画している。
補助金を受けて建設した駐車場を目的外転用した
りするなど、住民の活動を側面から支援する活動
(2)愛知県 豊川市
に徹している。
とよかわイナリズム(豊川稲荷★住む)
愛知県豊川市では、観光客の減少と中心市街地の衰退
2)地域再生計画実施について
に歯止めをかけるため、「住んでいい、訪れていい都市
豊川市地域再生計画では、計画の実施が地域に
づくり」を目標にさまざまな活動を行っている。ハード
及ぼす経済・社会的効果として、観光の推進に伴
整備先行のまちづくりに疑問を呈し、できるだけ資金を
う交流人口の増加、定住施策の推進による地域経
かけずに「自分たちでできるところから」取り組みを始
済の活性化を挙げている。具体的な数値指標とし
め、これに地域再生計画を適宜活用している。結果とし
て来訪観光客数の下げ止まり効果が生まれているが、そ
れ以上に地域全体の「まちづくり意欲」の向上効果が得
られたことが意義深い。地元商店街の若手商店主など、
ては、観光入り込み客数の増加、定住人口の増加
による経済効果を目標としている。
「いなり楽市」では、地域再生計画による支援措
地域に根ざしたキーパーソンの活躍によるところが大き
置も効果的に作用し、現在では約20,000人/回の集
いと思われる。
客のある事業となり、地域経済を活性化させてい
る。地元住民の中で実行委員会に共感する人が増
1)地域再生計画策定について
え、住民全体が豊川地区のまちづくりリーダとし
豊川市は愛知県の南東部に位置し、豊橋市に次
て育ちつつある。また、様々なメディアで注目さ
ぐ東三河地方の中核都市である(人口約12万人)。
れるようになったことで、市民の認識も高まり、
中心駅であるJR豊川駅前には、「いなり寿司」発
市民が豊川稲荷に行くようになった。
17
市役所内でも、地域再生計画の実施を通じて横
断的な組織や考えが持てるようになった。以前は
やはり縦割りで、これまではそういった考えは持
(3)大阪府 東大阪市
東大阪モノづくり人材育成計画
大阪府東大阪市は、中小企業のまちとして全国的な知
ちにくかった。職員全体の意識改革にもつながる
名度もあり、これまでも様々な取り組みを実施しており、
動きである。
中小企業の活性化については先進地である。
平成11年に実施した職員による、市内の全中小企業
への聞き取り調査などを経て、市内事業所との協働によ
る基盤が形成されており、地元事業所団体の活動の検討
から地域再生計画へつなげており、産官連携による産業
振興の仕組みのモデルが形成されつつあると見られる。
特に、地元事業者が抱える、高度な技術の継承や中小
企業のウィークポイントである営業人材の育成といった
ポイントにのみ焦点をあて計画を実施しており、ボトム
アップ型の事業展開を進めている。
1)地域再生計画策定について
まちづくり活動を始める前の町並み
東大阪市は、河内平野のほぼ中央部に位置し、
人口51.2万人、面積61.8 k㎡を有する市である。
金属製品を中心とした多種多様な基盤的産業が
集積する「モノづくり」の町として知られ、近年
では、メイドイン東大阪の人工衛星の打ち上げや、
ナノテクノロジーの分野で注目を浴びる中小企業
が立地するなどの特徴がある。
その一方で、バブル経済崩壊以降の平成2年と平
成15年では、事業所数で−28.7%、従業者数で−
「いなり楽市」開催時の商店街の様
33.2%、製造品出荷額で−43.7%と大きく低下して
おり、地域産業の活力低下が課題となっている。
3)地域特有の資源の活用
このような状況の中で、東大阪市の強みを活か
豊川稲荷及び駅前商店街に残る「時代に取り残
すべく、平成11年に庁内の課長級以上の職員全員
された」イメージを逆手に取り、「古さ」「懐かし
が市内の8,900事業所に対してヒアリング調査を実
さ」を強調した展示などを行っている。各店舗の
施し、市内の事業所のきめ細かなデータベースを
軒先や倉庫に眠っていた看板や道具などは、高齢
構築している。さらに、平成15年には独自の「東
者世代には懐かしく、若者世代には新鮮に受け止
大阪市モノづくり経済特区構想」により、高付加
められている。
価値製品製造業への転換促進や、創業・第二創業
地元には大学等研究機関は立地していないが、
の促進が進められているほか、平成17年に構造改
今後の取り組みとして、豊橋技術科学大学との共
革特区として「東大阪市モノづくり再生特区」が
同研究による商店街整備を行いたいと考えている。
認定され、工業再配置促進法において、市内の一
これも地域再生のスキームを活用したいと考えて
部に指定される移転促進地域の指定除外を行い、
いる。
基盤的技術産業集積の維持発展を進めようとして
いる。
地域再生計画はそれらの施策の延長線上にある
18
ものとして、地域提案型雇用創造促進事業(パッ
ケージ事業)を活用して、モノづくり企業の技術
継承、中小企業の営業企画人材の確保を目的に以
下の4項目で策定された。
①モノづくり人材教育訓練事業の実施
②モノづくり企業の営業企画員養成講座
③モノづくり企業で働く若者などを紹介する情
報誌の発行
④モノづくり企業と若年求職者との面談会
2)地域再生計画実施について
①と②の事業については、就職マッチング事業
として実施され、数名の就職につなげているが、
募集時に多くの問い合わせがあったほか、マスコ
ミ等に取り上げられるなど、大きな反響を得てお
り、中小企業のまちとして頑張っていることを広
くPRできたものと考えられる。
また、③については平成17年度は2回(10、12
月:各8,000部)発行しているが、ユニークな取り
組みとして評価され、地域再生計画終了後も、市
独自の取り組みとして展開していくことが検討さ
れている。
業務経歴
布施 匡章(調査グループ 研究員)−前掲−
19
地方公共料金の実態及び事業効率化への取組についての分析調査
高市 英司(調査グループ)
最近の公共料金の動きを見ると、国が関与する公共料金は全体として低下傾向で推移し
ているのに対し、地方公共団体が関与する公共料金(以下「地方公共料金」という)は上
昇傾向にある。
本調査は、公共料金全体が低廉化する中、なぜ地方公共料金の低廉化が進んでいないか、
その実態把握と要因分析を行った。加えて、調査結果を踏まえて事業効率化の取り組み等
を広く公表・紹介することで、地方公共団体の料金適正化・低廉化の取り組み促進に資す
るものである。
1.調査の背景
(1) 最近の公共料金の動向
公共料金は「国会、政府や地方公共団体といっ
た公的機関が、サービスの料金や商品の価格の決
定の場合は、それぞれ届出制となっている。また、
「地方公共団体が決定するもの」としては、公営水
道料金、公立学校授業料、公衆浴場入浴料、印鑑
証明手数料などが挙げられる。
定や改定に直接関わっているもの」と定義されて
いるが、最近の動向を消費者物価指数(総務省統
表1 公共料金の行政関与の方法による分類
計局発表 以下「CPI」とする)の対前年度増減の
動きで見てみると、公共料金全体は平成11年度
(1999年度)以降低下傾向で推移しており、平成16
年度(2004年度)は前年比1.0%の低下となってい
る。なお、CPI(総合)の動向は、平成11年度
(1999年度)以降低下傾向で推移しており、平成16
年度(2004年度)は0.1%の低下となっている。
公共料金をその決定方法で分類してみると、「国
会や政府が決定するもの」、「政府が認可・上限認
可するもの」、「政府に届け出るもの」、「地方公共
団体が決定するもの」、に大きく分けることができる。
それぞれの内訳は、
「国会や政府が決定するもの」
としては、社会保険診療報酬、介護報酬などがあ
公共料金は、CPI全体(10,000)の2割近く
り、 「政府が認可・上限認可するもの」では、電
(1,854)を占めており、日常生活への影響が大きい。
気料金、鉄道運賃、都市ガス料金、乗合バス運賃、
中でもウェイトが高いものは、「電気代」(294)、
高速道路料金などが代表的である。 「政府に届け
「自動車保険料」(180)、「固定電話通信料」(180)、
出るもの」としては国内航空運賃などがあり、電
「診察料」(163)、「鉄道運賃」(154)、「水道料」
気料金や都市ガス料金は引き下げ改定の場合、鉄
道運賃、乗合バス運賃は上限価格の範囲内での改
20
(2) 地方公共料金について
(100)となる。
こうした公共料金を、更に大きなくくりとして、
電気料金、都市ガス料金など「国が関与するもの」
と、水道料、清掃代など「地方公共団体が関与す
るもの」の2つのグループに分けると、以下の表の
ような物価指数の推移となる。
(2) 調査のステップ
本調査は以下のステップにより実施した。
1) アンケート調査
地方公共料金のうち、CPIウェイトが高く、多く
の住民がサービスを利用し関心度も高いと思われ
表2 CPIの増減(対前年度増減)
る「水道料金」、
「下水道料金」、及び清掃代のうち
「一般ごみ処理手数料」に関して、全国の市(政令
指定都市を含む)を対象に調査を行った。
2) 水道事業ヒアリング調査
事業に要した費用が料金に反映される割合が高
く、またCPIウェイトから住民への影響が大きい
平成12年度以降、国が関与する公共料金は全体
「水道料金」に対象を絞り、事業効率化に向けて取
として低下傾向で推移しており、平成16年度は
り組んでいる各地方の事例についてヒアリング調
1.5%の低下となっている。一方、地方公共団体が
査を実施した。
関与する地方公共料金は上昇傾向にあり、平成16
年度は0.5%の上昇となっている。
主な公共料金の推移は以下の図のとおりである。
水道事業に関しては、水の卸元である用水供給
事業者も密接に関係するため、用水供給事業者と
末端給水事業者(自治体)双方を調査の対象とした。
3.アンケート調査
(1) 調査対象
(2) 回収実績
図1 主な公共料金(CPI)の推移(H4=100)
2.本調査の目的、方法
(1) 調査の目的
本調査は、公共料金全体が低廉化する中、なぜ
(3) 調査結果
アンケート調査は、調査対象別に次のような結
地方公共料金の低廉化が進んでいないか、その実
果となった。
態把握と要因分析を行うことであり、さらに調査
1)水道事業
結果を踏まえての事業効率化の取り組み等を広く
・料金の今後の見通しは、現状維持ないし上昇傾
公表・紹介することで、地方公共団体の料金適正
向にある。上昇する主な原因は、
「施設の改修」
化・低廉化の取り組み促進に資することを目的と
にかかる経費増加と「需要量減少」による収
している。
入の減少にある。
21
2)下水道事業
・料金の今後の見通しは、現状維持ないし上昇傾
向にある。上昇する主な原因は、「施設の改
修・新設」による経費の増加にある。
図2 水道料金の見通し
・料金体系は、使用量を抑制する方式を採用して
いる。
・事業効率化の取り組みは、外部委託を中心に行
っており、料金の維持ないし値上げ幅縮小の
図5 使用料見通し
効果をあげているが、値下げまでには至って
いない。
・料金体系は、使用量を抑制する方式を採用して
いる。
・事業効率化の取り組みは、外部委託を中心に行
っているが、その効果は料金に影響していな
いとする回答が多い。
図3 事業効率化のための取組
・事業の広域化・統合化※を必要と感じているが、
団体間の格差の調整が難しいことから、具体
的な取り組みは進んでいない。
図6 事業効率化のための取組
図7 効率化の取組と料金の関係
・料金は、政策的判断により決まっている例が多
い。
図4 広域化統合化の必要性(末端給水事業者)
22
3)一般ごみ処理事業
・料金の有料化は今後も続く見通しである。
・有償化の原因としては、「ごみ減量化」、「負担
4.水道事業ヒアリング調査
(1) 調査対象
全国19の団体を対象とした。
公平化」
、
「住民の意識改革」が多くあげられて
おり、財政負担以外の要因が大きいようであ
る。
図8 有料化の目的
・事業効率化の取り組みは、外部委託を中心に行
(2) 調査結果
主に事業効率化に関する取り組みや考え方につ
っているが、その効果は料金と「連動なし」
いてヒアリングを行い、以下のような調査結果を
若しくは「影響なし」とする回答が大半であ
得た。
る。
1)水道事業効率化の取り組み
・将来の経営計画やビジョンにおいて、具体的な
効率化目標が定められている。
・業務の外部委託はほとんどの事業者で実施。あ
る程度の人件費削減効果を生む。
・人件費削減による効率化分が、資本費(特に減
価償却費や企業債償還費)の増加に相殺され
ている。
・用水供給事業者から受水している末端給水事業
図9 事業効率化のための取組
者では、受水費負担も大きなウェイトを占めて
おり、効率化の取り組みに影響を与えている。
2)水道事業の広域化・統合化に対する考え方
・水道事業の広域化・統合化に対する期待は大き
いが、具体的な取り組み度合いは低調である。
「団体間の経営条件の差」がその要因として挙
げられる。
・地域の実情に応じ、広域化・統合化の範囲や方
図10
効率化の取組と料金の関係
・料金は、政策的判断により決まっている例が多
い。
法を柔軟に取り入れることで、より合理的な
事業スキームが構築できる可能性がある。
3)用水供給事業者と末端給水事業者の関係性
・末端給水事業者と用水供給事業者との間で、事
23
業効率化すべき主体とその方針について認識
慮や団体経営の視点から、「下水道事業」や「一般
の差がある。
ごみ処理事業」についても、その料金の仕組みを
・事業広域化・統合化を行う際には、用水供給事
業者がエリア全体の調整役となり取りまとめ
を行うことが期待されている
再検討するべき時期が来るのではないかと思われる。
2)経営効率化の方向性
では、「水道料金」のように既に総括原価方式に
よる料金決定が行われているものについて、更な
5.総括
(1) 調査からの導出
ないかというとそうではない。
1)地方公共料金上昇の要因
①部分委託から包括外部委託への転換
地方公共料金のうち「水道料金」、「下水道料金」
多くの団体で事業効率化の取り組みとして行な
については、現在上昇傾向にあり、今後も現状維
われていた「外部委託」は、現行は検針業務や水
持ないしは上昇すると見通しを立てている団体が
質試験検査等の部分的な業務の委託であり、人件
多いことがわかった。また、
「一般ごみ処理手数料」
費の削減等、一定の効果は現れているが、現行料
についても、有料化を図っていくと考える団体が
金を引き下げるまでの効果を上げることは難しい
無料化の団体を上回ったことから、公共料金とし
としている。しかし、経営の効率化を図る中では、
ては上昇することが把握できた。
業務の部分的な最適化より、水道事業全体の最適
その上昇する理由としては、人口減少や利用者
化を図る方が効率的・効果的であることは明らか
の節約意識の向上、節約機器の改良等による「収
である。民間のノウハウを活かした効率的な運営
入の減少」と、提供するサービス品質の向上や施
が可能な場合は、事業全体の包括的な民間活力の
設の改修、新設等による「経費の増加」が挙げら
導入(指定管理者制度やPFIの導入等)を検討する
れる。また、「収入の減少」と「経費の増加」によ
ことも有用である。無論、この際には、受け皿と
る収益の悪化は、各団体がその対策として行って
なる民間企業が十分存在するか否かをはじめ、現
いる事業効率化の取り組みの効果を上回る、いわ
行の職員の雇用問題、安定的な高品質サービスの
ゆる設備型産業の構造上の問題に相当程度起因し
維持等に対する不安などが課題として挙げられる。
ているものであることが明らかとなった。
しかし、これらの多くは、地元地域での新規事業
しかし、その収入源となる料金の決定について
の創出や、住民との連携・協力による新たな体制
は、公共料金の基本的な考え方である受益者負担
づくり、行政による評価・監査機能などによって
の原則による「水道料金」の総括原価方式の考え
解決できるものと考えられる。
方と、
「下水道料金」の雨水公費・汚水私費のよう
②事業の広域化・統合化の推進
に一部公費で負担する考え方、さらには「一般ご
設備型産業である水道事業の構造的な問題とし
み処理手数料」のように、住民へのごみ量抑制へ
ては、多くの用水供給事業者と末端給水事業者の
の意識向上を狙ったもの等、その基本的な考え方
両事業者から、減価償却費の経費全体に占める割
が違うため、この三つの事業において、一律に低
合の高さが指摘されている。この減価償却費は、
廉化の方策を探ることが適正であるとは言い難い。
事業の広域化・統合化の視点で両者間での透明性
さらに、社会の流れは自然環境に配慮した循環
24
る「経費の削減」により料金低廉化を図る余地が
をはかり、設備等の重複や無駄をなくすことで、
型社会づくりを求めており、今後ますます、節水
大幅な削減が図れるものと考えられる。特に、周
やごみのリサイクル、リユース等への住民の関心
辺自治体との広域化による施設の更新や改廃時期
は高まるものと予想される。寧ろ社会的な流れを
にあわせた統廃合や、あるいは用水供給事業者と
勘案すると住民負担の増大は免れず、環境への配
の施設の共同利用を行うことで、二重投資の無駄
が無くなり大幅な費用負担の削減が期待できる。
(2) 残された検討課題
また、用水供給事業者と末端給水事業者の関係
今回の調査結果から、地方公共料金の低廉化を
性として、その費用負担に大きなウェイトを占め
図るための方策として、包括的な外部委託と事業
る受水費については、両者間で、需要の見通しの
の広域化・統合化を提案した。
格差や料金引き上げに対する認識等にズレが生ず
最後に、今回の調査では十分議論されなかった
ることが多かった。この両事業者間のズレが、無
が、検討すべき課題としては、1)現行の「公営」
駄な設備の投資等による受水費の上昇につながり、
(直営)の枠組みを維持しつつ、組織内的効率化を
受水の割合が高い団体においては経営を大きく圧
さらに強化させるための取り組み 2)現行の
迫するおそれがある。用水供給事業と末端給水事
「公営」の枠を超えて、さらなる制度的改革を試み
業とを別個にそのあり方を考えるのではなく、今
るための取り組みとして以下のものが挙げられる。
後は一体として考察していく視点が一層重要性を
1)組織内効率化の強化
増してくると考えられる。
まずは、用水供給事業者と末端給水事業者との
双方で経営の透明性を図り、相互に課題を抽出し
①マネジメント思考の導入
②本業を超えて、持てる経営資源を活用する道 を探ること
合うことからはじめ、施設の共同利用や管理の共
③インセンティブの導入
有化、そして組織の垂直統合さえ射程に入れた検
④ 消費者の経営への参画
討が必要である。ヒアリング等によれば、両事業
2)さらなる制度的改革への取り組み
者共にその必要性は感じており、一部事業者にお
① 公企業の「間接営」方式化
いては、既に実現に向けての勉強会等を進めてい
②公と民との多様なパートナーシップの活用
るところもある。しかし、その歩みは順調ではな
く、地勢や環境、事業構造の違いが取り組みを進
地方公共団体が関与する公共料金の低廉化には、
めていく上で大きな阻害要因となっていることも
まずは当然のことではあるが組織内的視点からの
指摘されている。それゆえ双方で、まずは具体的
効率性の追求が基本であり、事業者においては喫
ないくつかの広域化・統合化のシナリオやロード
緊の課題であることはいうまでもない。その過程
マップを作り、実現可能性についてシミュレーシ
において、本調査結果として提案した、包括的な
ョンを行ってみることが必要であり、第一歩であ
外部委託や事業の広域化・統合化への道筋も導き
ると言える。併せて、ソフト面での経営改革や制
出されるものと思われる。すでに選択肢は相当数
度改革を行い、広域的には施設の共同利用等、取
用意されてきており、それらをいかに選び組み合
り組みやすいところから手がけていくこともひと
わせ実践するか、その経営マネジメントが今問わ
つの方法であろう。
れているというべきであろう。
また、地方公共団体に必要なのは協力と支援体
制であろう。一つの突破口が開かれ、成功事例が
業務経歴
取り上げられ語られることで、他の団体も追随す
ることが期待される。そのためにも情報公開は不
可欠である。サービス内容や料金の根拠等が公開
され、利用者が事業の評価や事業間の比較秤量が
できるようになると、事業者間での競争意識の醸
成にもつながると期待されるからである。
高市 英司(調査グループ 研究員)
・市町村合併が公共料金に与える影響についての実態
分析調査(2005)
・行政の情報化に関するアンケート調査(2004)
・地域における生活産業が雇用創出に与える影響に関
する調査(2003)
25
ITを利用したクリエイティブ都市に関する調査・研究
∼堺・泉北ニュータウンにおける地域活性化に向けての調査・研究∼
(平成17年度 情報化未来都市構想推進協議会 調査・研究事業)
石橋 裕基(地域・産業活性化グループ)
高度経済成長期に集中的・計画的に整備されたいわゆるニュータウン地域では、都市基
盤や施設の老朽化とともに、少子高齢化などによるコミュニティ構造の転換など、
「再生」
の時期が到来していると言われている。人々の新しいライフスタイルに合った都市機能・
サービスを実現するとともに、それらを地域や住民が主体的に推進する仕組みが重要となる。
本調査研究は、堺・泉北ニュータウンをフィールドに、ITを活用したニュータウン再
生のあり方を検討したものである。既存都市基盤を活用し、コンシェルジェ機能やセキュ
リティ機能、ヘルスケア機能等を備えた「ニューライフサポートセンター」の整備・運用
方針を提案した。
1. 泉北ニュータウンの現状
(1) 概要
(2) 課題
1)都市環境の視点
泉北ニュータウンは大阪府南部、堺・和泉両市
現在、ニュータウン各住区のほぼ中心に位置す
にまたがる泉北丘陵に位置し、昭和40年度から開
る「近隣センター」は、当初は地域住民の生活必
発が行われた、わが国でも多摩や千里と並ぶ有数
需品買いまわり先として重要な役割を占めていた。
の規模を誇るニュータウンである。現在、15万人、
しかし近年、大型ショッピングセンターの台頭等
5.3万世帯が暮らしている。周辺部は今なお田園・
により、必ずしも近隣住民のニーズにかなった商
緑地帯が広がり、他のニュータウンと比較して、
業施設とはなりえておらず、商業的求心力が低下
自然と触れ合える良好な居住環境が維持されてい
している。つまり、設置当初の目的・役割が今の
ることが特徴である。
ライフスタイルにマッチしていないということで
しかしながら、開発からほぼ40年が経過し、コ
あり、今後は住民のニーズに応じたコミュニティ
ミュニティ施設など都市基盤の老朽化が進展し、
拠点としての活用の可能性を見出すなど、その機
モータリゼーションの成熟とともに求心力も郊外
能や立地について見直していくべき局面を迎えて
型店舗に奪われつつある。また少子高齢化のなか、
いる。
堺市他地域との比較では高齢化率は低いが(市平
均17.0%、ニュータウン部14.8%)、成熟した都市
2)コミュニティの視点
環境の中で予想外に転出入が少なく、今後は急速
現在の地域コミュニティ活動を支える人々が高
に高齢化が進むと予測される。現実に地区内の自
齢化しており、今後も高齢化の急速な進展が予測
治会への加入率の低下や、単位自治会の解散など、
されている。しかし、団塊の世代を中心とするア
地区毎のコミュニティの維持が大きな課題となっ
クティブシニアの活動の場を充実させることで、
ている。さらに治安面においても、地区内の車上
コミュニティ維持・活性化させることも重要である。
狙いやひったくり等の犯罪が増加している状況に
一方、概ねどの住区においても、若者や子育て
ある。
世代の人口が減少している。コミュニティが再び
活性化し活気を取り戻すために、この若者や子育
26
て世代の転入、定住を促進し、若い世代によるコ
して位置付けられるためにはどういったコンセプ
ミュニティ活動を活性化させる必要がある。
トが必要となるのであろうか(図1)
。
2.
“ニューライフサポートセンター”の構築
(1) 近隣住区理論の破綻とニューライフサポートセ ンター整備ビジョン
泉北を含むわが国におけるニュータウンまちづ
くりの基本的考え方として、アーサー・ペリーに
より体系化がなされた「近隣住区理論」がある。
これは幹線道路で区切られた「小学校区」を一つ
のコミュニティと捉え、商店やレクリエーション
施設、公共施設を計画的に配置するというもので
ある。わが国におけるニュータウン開発において
は、想定人口は10,000人程度とする計画が中心であ
図1 近隣センター転換イメージ
旧来型の「クローズで均質」なセンターでは、
り、泉北もその基準にほぼ合致した住区構成とな
時代や住民の意識の変化にも対応することが難し
っている。通過交通は住区内には入り込まず(歩
く、閉鎖的であるがゆえに域内の人の交流まで阻
車分離)
、日常生活は歩行可能な住区の範囲内で完
害してしまうことになる。物理的な移動や情報の
結させることができるよう、各種商店・施設等を
流通が容易となった現在においては、各住区がそ
住区内中心部に配置する点が特徴である。
れぞれ同一の機能を担うのではなく、地域の特
この近隣住区理論に基づく都市・住区計画が、
性・個性に応じた機能分担を行い、かつそれらが
特に近年、「画一的」
「閉鎖的」「自己完結的」に過
ネットワークにより連携することによって、全体
ぎ、時代に不適合であるという指摘がなされるよ
として住民の新しい生活をサポートする機能を担
うになった。特に商業機能を担う近隣センターに
う「センター」とすることが望ましいと考えられ
おいては、その後の流通環境の変化、モータリゼ
る。本調査においては、こういった近隣センター
ーションの普及による生活圏の拡大、日常生活に
の新しい形を「ニューライフサポートセンター」
おける購買行動の変化などに対応することができ
として、そのあり方について検討した。
なくなったということである。マイカーを持つ購
買者は、エリア中心部にあるがゆえに徒歩でしか
行くことができない近隣センターを避け、郊外な
(2) ニューライフサポートセンターの機能提案
地域の活力を維持するためには、外部からの人
がら幹線道路沿いにある大型小売店舗を利用する。
口流入、特に若者・子育て世代(20歳∼40歳)の
近隣センター内店舗は次第に敬遠され、経営環境
エリア内居住を促すことが重要であると考える。
は悪化し、多くの空き店舗が生じるようになった。
地域に若者が流入することでまちは活気づき、特
一方で住民のコミュニティ活動は近年ますます
に芸術文化を志す若者の場合は新しい文化の誘致
活発化し、自治会館やホールなどの予約も満杯と
にもつながり、文化的イメージ戦略を図ることが
なっている。日常コミュニティの中心施設として
可能となる。また、子育て世代は、福祉や教育等
整備されたはずの近隣センターが、その機能を果
の分野で行政と関わる機会も多く、政策的に支援
たしていないという声も多い。
が必要な部分が多いと考えられる。ニューライフ
こういった旧来型の「近隣住区理論」の破綻を
サポートセンターの実現により、子育て世代に対
受け、近隣センターが地域コミュニティの中心と
する泉北ニュータウンのブランドイメージを高め
27
図2 コア・プロジェクトアイデア
28
ることができると考えられる。
また、高齢化の進展により今後エリア内の人口
の多くを占める前期高齢者世代(65歳∼75歳)
については、それまでのキャリアや経験を生かし、
地域での貢献活動を行う意識が高い。地域活動の
主要構成員として前期高齢者を位置付け、それら
世代が積極的に参加できるニューライフサポート
センターのあり方を設定することで、より実効性
を高めることができると考える。
これら若者・子育て世代、前期高齢者世代は人
口構成的にもピークを形成する世代であり、サー
ビスの対象及び担い手を論じる際にもっとも重視
すべきグループであると考えられる。
こういった点などを考慮し、研究会においては
10個の具体的な「コア・プロジェクト」を設定し
た(図2)
。
3.
“ニューライフサポートセンター”展開イメージ
「ニューライフサポートセンター」の概念及び想定
されるコア・プロジェクトを実現するにあたっては、
既存近隣センターのインフラを適宜活用する、あるい
図3 抜本的建て替え型(上)と既存ストック活用型(下)の展開イメージ
は必要に応じ施設を抜本的に改修するなど、住区ごと
(1) 【モデルA】抜本的建て替え型
に異なる整備方針を検討しなければならない。各住区
目指すまちのイメージ:若者(子育て世代含む)が
はネットワーク化されたニューライフサポートセンタ
集まるまち
ーを拠点として機能連携し、ITを活用したサービス
コントロールを行うものと想定する。
公的賃貸住宅の空き住居を、絵画や彫刻など芸
術分野で活動したい若者に安価で賃貸提供する。
またサービス実現の「担い手」については、市民や
各住居あるいは建物ではアトリエ機能も有し、一
NPO・ボランティアなど、地域自治の観点を重視し
定のエリア内では壁や道路を使ってそれぞれの作
つつ、コミュニティ・ビジネスの要素を取り入れた自
品のプレゼンテーションを自由に行うことができ
律型のサービス提供を目指す必要があると考えられ
る。
る。その際、ビジネスとして利潤を生む機能とそうで
起業を志望する若者が入居しやすいインテリジ
ない機能の峻別、並びに分野での整理を行った上で、
ェンス住宅を整備し、またそれら入居者が手軽に
誰がどのようにサービスを実現するか、あるいはサー
使える共用OAスペース等を整備することで、ビ
ビス実現に至るステップについて計画的なサポート体
ジネス立ち上げ時の初期負担を軽減させる。
制を講じておく必要がある。
今回、各住区の特性に応じたセンターの整備方針と
して、本調査では大きく「既存ストック活用型」「抜
既存建物施設は抜本的にリニューアルし、高層
住宅や高機能オフィス棟、防災拠点なども合わせ
て整備する。
本的建て替え型」の2つのモデルパターンを想定する
こととした(図3)
。
29
(2) 【モデルB】既存ストック活用型
目指すまちのイメージ:心と体の健康づくりサービス
住宅街が広がる泉北ニュータウンへ周辺の農村
地域から新鮮な野菜を定期的に届けることで、遠
くに行くのが困難となりがちな、子育て世帯・後
期高齢者が新鮮な野菜を手に入れる仕組みを作る。
また、農業体験を通じて「生きがい」を感じる機
会を創出し、周辺部ともつながりをもった広い範
囲での活性化を図る。農業応援や里山管理ボラン
ティアなど区域内交流の推進策の具体化を図る。
既存インフラの改修は最小限にとどめるものの、
コンシェルジェサービスやセキュリティサービス
図4 インターミディアリーのイメージ
を実現するためのITインフラ整備等は積極的に
行う。
(2) 行政に期待される役割
1) 初期段階(立ち上げ期)への活動支援
4.プロジェクト実現に向けて
(1) プロジェクト実現をバックアップする仕組み
ニューライフサポートセンターを核としたコミ
最後に、ネットワーク化された「ニューライフ
ュニティ活動を支援するインターミディアリーに
サポートセンター」を実現するための、ヒト・モ
対しては、制度面・信用度に対する支援が重要な
ノ・カネが循環し、地域経済が活性化する仕組み
役割を担うと考えられる。特に主体的な取り組み
をについて検討する。
を期待したい。
コミュニティ活動の活発な米国では、NPO活
■新しい政令市としてのアピール度を活かした、
動に対し資金面等においてバックアップする組織
NEW堺ブランド化戦略
として地域主導事業支援機構(LISC)が置か
平成18年4月、堺市は政令市となり、新たなま
れている。LISCは政府や民間企業から資金を
ちづくりがスタートした。国内の注目度が高まっ
集め、資金提供や資金調達の際の保証人になるな
ているこの機に、例えば「ずっと住み続けたい安
ど、協力的な支援活動を行う中間組織「インター
全・安心なまち」、あるいはアートビレッジのまち
ミディアリー」であり、資金や人材等を提供する
づくりを通じた「クリエイティブ都市」などを新
行政や企業とNPOとの仲介をする組織となって
しい堺のイメージとするなど、「NEW堺ブランド」
いる。
の提示・確立も重要である。
泉北ニュータウンにおいてもニュータウン活性
30
■住民主体の取り組みに対する理解と協力
■国の計画的住宅団地の再生動向を受けて
化のためのコミュニティ活動に対し、またその活
国土交通省の「地域住宅交付金制度」を活用し
動拠点となるニューライフサポートセンターに対
た「地域住宅協議会の設置」については、地元行
しても、持続発展していくためには仲介機能をも
政の主導が必要となる。しかしエリア内には府営
つ「インターミディアリー」の創設が必要となっ
住宅や公団住宅、民間マンション等も多く立地し
てくると考える。この検討に際しては、行政・地
ているため、行政のみならず民間主体による積極
元企業はじめこの活動のスポンサーとなりうるア
的参加も必要となることは言うまでもない。さま
クターによる充分な議論、意識合わせを行う必要
ざまな主体が「地域再生」の目標のもと、役割分
がある(図4)
。
担して今回の提案したプロジェクトに取り組むこ
とが、ニュータウン全体の再生へとつながる原動
力となるのである。
2) 第2段階(活動期)への活動支援
■地元での経済活動の支援
近年特にコスト削減効果を挙げている「行政業
務のアウトソーシング」については、その結果が
地元の経済活動や雇用創出にも繋がる事から、自
治体経営の視点から行政でしかできないことを見
極め、確実に実行されることを期待する。
また、このアウトソーシングによって、今後、
地域経済活動の担い手として期待が高まる(地元)
業務経歴
石橋 裕基(地域・産業活性化グループ)
NPOが主体となって、コミュニティ・ビジネス
・手続案内サービス実装調査研究(2005)
が創出され、また育成されることが望ましい。
・地域再生計画認定制度等の事後評価に関する調査
■IT基盤の整備と利活用
最後に、近隣センターの再構築「ニューライフ
サポートセンター」を核とした泉北ニュータウン
の再生を図る上で「IT基盤の整備」は欠かせな
いものであり、また住民の利便性・安全性を向上
させるためにも必要な生活インフラであることか
ら、早期整備を期待する。特に、本調査で提案し
た各ニューライフサポートセンターを中心とした
ヘルスケアサポートやSOHO・NPOサポート、
コンシェルジェサービスに関するIT利活用の向
上はもとより、タウンモビリティや街・生活見守
(2005)
・地方公共料金の実態及び事業効率化への取組につい
ての分析調査(2005)
・平成17年度関西情報化実態調査(2005)
・官民連携ICT基盤を活用した都市型広域行政に関
する調査研究(2004)
・利用者の視点に立った電子自治体エージェントシス
テム実現に向けた調査研究(2004)
・共同利用型自治体版CRM実現に向けた研究会
(2004)
・行政の情報化に関するアンケート調査(2002∼2003)
・生活産業を中心とする雇用拡大に関する実態調査
(2003)
りシステム等の実現には、ニュータウン内にネッ
・NIRA型ベンチマーク・モデルを活用した政策評
トワーク化されたニューライフサポートセンター
価システムおよび行政改善への提案に関する研究
の設置が不可欠であり、効率的・効果的な活用が
できるよう整備されるべきである。
(2003∼)
・滋賀県データセンター機能構築基本調査(2003)
・大阪におけるコンテンツ振興方策に関する検討調査
(2003)
・自治体における電子申請システムに関する調査研究
(2003)
・構造改革による地域経済への影響及び地域経済の将
来に関する調査(2002)
・ベンチマーキングの導入によるアーバン・マネジメ
ントの改善(2002)
・電子自治体の構築に向けた課題についての調査研究
(2002)
・先進的iDC研究会(2002)
31
ケータイコミュニティサービス「れんらくん」のサービス提供事業について
井澤 隆博(情報化推進グループ)
平成17年度からCDC(コミュニケーションデータセンター)事業の一環としてスタート
した、携帯電話を活用したコミュニティ形成のためのツール「れんらくん」サービスにつ
いて、その概要と具体的な活用方策、今後の展開について報告する。
1.事業の背景
地域を網羅したコミュニティの形成を目指している。
昨今、子供が被害者となる事件が後を絶たず、地域
をあげて「安全・安心」に対する関心が高まり、地域
(1)システム構成
の安全の確保には、生活圏に密着したコミュニティづ
「れんらくん」のシステムは、Webアプリケーシ
くりが不可欠とされている。大阪府池田市では、平成
ョン部分のAPサーバ、メールアドレス等を格納す
16年度から、子どもの安全にかかわる情報を携帯電話
るDBサーバ、及びメールの配信を専門に行うメー
やパソコンなどにインターネットメールで送信する
ルサーバの3つの機器で構成されている(図1)。
「ANSINメール」制度を実施し、大阪府警察本部
メールの配信部分については、大量のメールを高
でも、ひったくりや子供の被害等、犯罪から身を守る
速に配信するためのアプリケーションを搭載し、
ために、利用者が選択した地区の犯罪発生情報及び防
効率的なメール配信を実現している。
犯対策情報をメールで配信する「安まちメール」を開
始するなど、地域コミュニティづくりをサポートする
ための情報ツールの必要性が高まっている。
2.サービス及びシステムの内容
「れんらくん」は、大阪府立インターネットデータ
センターを基盤として、地域情報化と公共サービスの
充実の実現を目的に、KIISが協力事業者とともに運営
する、コミュニティデータセンター「eおおさかCD
C」の事業として、企画・提供している。(システム
の開発及び運用には株式会社スマートバリューの協力
を得ている。
)
具体的には、メールの高速一括配信と、日常的に利
用できるメーリングリストサービスを組み合わせた
図1 れんらくんサービスシステム構成図
(2)サービス機能
・メール一括配信機能
ASPサービスである。いざというときの重要な情報を
サービスを利用する団体ごとに、予め住民によ
的確に配信できる媒体として、保有率の高い携帯電話
り登録されたアドレスにメールの一括配信を行う
を主たるインタフェースとしている。そしてユビキタ
ことできる。時刻設定による予約機能や、予め設
ス社会を具現化する携帯電話のメール(一般のEメー
定された管理者による配信権限の制限設定も可能
ルでも利用可能)を活用することで、生活圏に密着し、
である。
32
・カテゴリ・エリア別配信機能
利用者(住民)が登録したカテゴリまたはエリ
3.利用実績
「れんらくん」のサービスは平成17年度から提供を
アごとに、情報を配信することができる。
開始し、寝屋川市などで平成18年1月から団体での利
・自治体・地域に即した設定カスタマイズ
用が始まった。平成18年3月までに、計4団体が利用を
画面デザインや説明文など、表示部分を団体ご
とにカスタマイズできる。オプションとして独自
ドメインの設定も可能である。
・メーリングリスト
団体からの一括配信のほか、予め登録された利用
者のグループ内で任意にメール発信が可能な、メー
開始しており、平成18年度中には利用団体が10団体を
超える予定である。
受信登録者数は、多い団体で1万件強に達している。
メール配信は1団体あたり週に数件程度であり、配信
時間は、配信数の最も多いものでも概ね10分程度で配
信を完了している。
リングリスト機能を有する。発信に責任が伴わない、
100人程度の情報共有ツールとして利用できるほか、
一括配信で出された危機事案に対して、市民側で
4.利用状況
「れんらくん」のサービス利用を最も早く開始した
「こういう事態なので有志で集まって街角に立とう」
寝屋川市情報化推進室様に、サービス提供開始後1ヶ
「屋外に立って子供の下校ルートを見守ろう」
月の段階で、利用状況についてのヒアリングを実施し、
など、草の根ベースの声掛けに使っていただく
ためのツールとしての利用を想定している。
・情報アップロード掲示板
貴重なご意見をいただけた。感謝の意と共に、その一
部について紹介する。
・導入の背景と必要性
住民からの情報を受け付けるためのWeb掲示板
2005年2月14日に発生した寝屋川市内の事件をき
機能である。一旦書き込まれた内容は、予め設定
っかけに、同市では子どもたちの安心・安全の確
された管理者が内容を確認し、住民に公開するか
保を目的とした地域の防犯活動に積極的に取り組
削除するかなどを操作できる。
んでいる。「れんらくん」の導入については、情報
・セキュリティ
通信技術を使用することによる安心・安全情報の
収集したメールアドレス等の個人情報を厳重に
管理するために、大阪府立インターネットデータ
センター「eおおさかiDC」にサーバを設置し、
インターネット接続及びサーバを物理的に安全・
地域での情報共有を目的に進めてきた。
・運用上の特徴
①校区単位でのエリア設定、学校単位での発信
管理を行う。
安定的に管理している。また、運用体制として24
②安全情報の地域での共有を中心に、最終的には
時間365日の監視体制をおき、トラブル対応につい
市民自身の手による情報発信ができるように
て万全の体制を敷いている。
し、地域の活性化につなげていく。
・機能上のメリット
ASPサービスのメリットとして、「どこでも使え
る」という点が大きい。庁内からの情報発信のほ
か、自宅や携帯からでも発信が可能であり、体制
が整えば24時間安心・安全メールを届けることも
可能である。市側の意識とスキルが高まることで、
さらなるスピードアップが見込まれる。
・住民の反応
質問事項としては、SSL通信に関する内容が多く、
図2 れんらくん利用イメージ図
33
これまでインターネットを身近に使用されていな
広範囲な地域情報ポータルが構築されていくことを目
い市民の方からの操作への質問が多い。
指すものである。
・運用上の課題
実際に運用を開始すると、自治体という組織の
中では、意思決定などに時間がかかったり、個人
情報の取扱いなど難しいところがあるのも事実で
ある。運用面でのタイムラグをできるだけ短縮し
なければならないと、痛切に感じている。
・今後の展開
現在は安心・安全に関する危機事案のみでの利
用であるが、今後は寝屋川市の携帯サイトを制作
し、それと連携した形での情報配信を検討してい
る。メールマガジンなどが出来れば地域の情報化
が進み、ゆくゆくは地域の活性化に繋がっていく
と考えている。
学校での情報発信も危機事案だけではなく、学
級閉鎖や警報がでたときの休校情報など、有効に
活用できればと考えている。また、幼稚園や保育
所などの狭い範囲内でのサービスがもっと出来れ
ばとも思っている。
5.課題と今後の展開
今後の課題としては、より安定した運用を目指すた
め、メール配信の速達性確保策の徹底がある。昨今の
携帯及びインターネットメールの利用状況として、特
に迷惑メールを取り巻く携帯キャリア等の対策に対し
て、システムとしての機能だけではサービスの確実性
を担保できない。如何にしてメールアドレスの到達率
を高い水準で確保し、ネットワークとしての負荷を下
げるか等を、運用面でも考慮しなければならない状況
である。
また利用団体からは、より広範な情報カテゴリ、住
民の属性分類に対応するシステム改善の要望が寄せら
れている。今後もニーズを分析し、より使いやすいサ
ービス水準を維持することで、より公共性の高いシス
テムとしてのプレゼンス向上に努めていく。
長期的には、多くの利用団体により地理的に連続し
た範囲が網羅されることで、結果的に住民からみても
行政界を意識しない情報発信ツールとなれるような、
34
業務経歴
井澤 隆博(情報化推進グループ 係長)
・利用者の視点に立った電子申請エージェントシステ
ム実現に向けた調査研究(2004)
・自治体における電子申請システムに関する調査研究
(2003)
・先進的iDC研究会(2002)
・CCCコンソーシアムにおけるEC実証実験(1996∼1998)
・インターネット関連の技術動向調査(1995∼)
Palne/PS−Ⅱの開発
(平成17年度 日本自転車振興会補助事業)
木村 修二(情報化推進グループ)
本システムは、アウトソーシングのツールとして開発した。本システムは通信の暗号化
だけでなく、高速プリンター自体が暗号化されたデータを復号しながら印刷するので、委
託先には平文の電子情報は一切残らない。また委託先の作業を常時監視することが可能で
あり、発注者の直接のコントロール下でアウトソーシングすることができる。情報主体の
権利を保障するセキュリティシステムへの第1歩である。
1.システム開発の理念
期待して情報保有者に自らの個人情報を提供する
(1) 情報主体から見た内部統制
のであるが、情報保有者ではいわゆる情報セキュ
1)内部統制と情報主体の権利保障
リティで対応するため、大きな齟齬が生じること
情報主体と情報保有者との関係は、個人情報保
になる。ここから、情報セキュリティの理論を自
護条例によって(また個人情報保護法によって)、
己情報コントロール権としてのプライバシーの権
自己情報コントロール権としてのプライバシーの
利で再構築することが不可欠となる。
権利を中心に規定された。内部事務については、
情報セキュリティのサイドから情報保有者の権利
(たとえば財産権)を中心として「機密性・完全
性・可用性」を実現するために規定された。この
混乱を克服するためには、自己情報コントロール
権としてのプライバシーの権利と情報セキュリテ
ィといわれるものを整理しなければならない。
情報主体と情報保有者との関係は、個人情報保
護条例や保護法によってプライバシーの理論で語
られるが、一旦個人情報を情報保有者に提供して
しまうと、情報保有者内部は情報セキュリティの
図1 支配する理論の領域
理論で内部統制が語られることになる。この情報
セキュリティの理論にはプライバシーの概念は存
(2) 情報主体の直接的なコントロール下に
在しない。情報セキュリティでは、組織の活動の
情報主体とすれば、できれば自己情報を他人
継続性とか財産権の保障とかが求められ、機密情
(情報保有者)の管理に委ねたくないし、できれば
報(財務情報、技術情報等)を権限を有しない者
直接のコントロール下におきたいと考えて当然で
のアクセスから防衛することが目的とされる。個
ある。
人情報の保護についても万が一のときには大きな
データの管理権を、データの正当な所有者であ
損失を被ることになるから取り組むという位置づ
る情報主体の直接の管理下におき、自分の個人情
けである。
報は自分自身が管理する。つまり、ユーザが、デ
情報主体は、プライバシーが保護されることを
ータの管理権をシステム管理者に譲り渡すことは
35
ないという状態を期待するが、しかし、情報主体
の個人情報を提供することなどありえない。
が直接にコントロールする仕組みは、単なるアプ
代行者が管理権限を委譲することなく、代行者
リケーションプログラムの課題ではなく、社会シ
の直接のコントロール下に置かれており、このこ
ステムであろうし、今現在すぐに提供できる社会
とが公開されているならば、情報主体の不安は少
基盤はないので、個人情報を「提供する」という
ないであろう。情報主体とすれば、危険を覚悟し
方法を取らざるを得ない。
て、やむを得ず代行者に権限を委譲し、間接的な
(3) 情報主体の権利を代行
コントロールで受忍するのであるから、せめてこ
情報セキュリティを実施するのは情報保有者で
の程度のことは要請して当然であろう。
ある。プライバシー保護のセキュリティといって
情報主体としては管理権限を委譲しなくていい
も、実施するのは情報保有者であるから、やむを
ようにしてほしいにもかかわらず、「管理が適正に
得ず情報主体の権利を情報保有者が組織内部で
行われているか」という間接コントロールの実効
「代行」して実現することになる。代行者は内部を
性を評価することは、あまりに情報保有者と情報
統制する権限を情報主体から委譲され、情報主体
主体の意識が乖離しているのではないだろうか。
のプライバシーの権利を実現する責務を負う。つ
まり代行者の権限の根拠は情報主体にある。とこ
ろが情報セキュリティでは、内部統制であるから、
企業の組織意思が権限の根拠になっている。
情報主体は、一切の権限を代行者に委譲するの
ではなく、プライバシーの権利に基づいて、どこ
で、どのように管理され、どういう目的で利用さ
れているのか、誰に提供されているかについて本
人の知り得る権利があるし、もしも不適正な取り
扱いがあれば、適正な取り扱いを自治体に求める
権利があることに変わりはない。
情報保有者内部で、情報主体には全く見えない
ところで、さらに情報保有者内部で権限委譲が繰
り返され、さらには下請け・孫受けまでにも権限
図2 多段の権限委譲
委譲が繰り返されることまでも受忍しなければな
らないのだろうか。情報主体にとっては全く見ず
知らずの他人を信頼することなどできようもない
36
2.本システム概要
(1) 直接のコントロール下へ
から、もしもこれを受忍しなければならないとし
「住民のプライバシーの保護に関する新しい考え
たら、代行者による相当の担保が提示されねばな
方と 電子自治体におけるそのシステム的な担保の
らない。
仕組み についての研究会」
( 報告書 平成16年3
情報主体から個人情報の管理の権限の委譲を受
月)では、直接のコントロールを情報主体自らが
けてそれを代行する情報保有者内部の代行者にし
行えるシステムを構築すべきとの提言がなされて
ても、当該個人情報を取り扱う可能性のあるすべ
いる。情報そのものを、持ち出し用に加工し、目
ての社員・下請け業者の従業員を信頼することな
的外に利用できないようにする方法である。本来
ど不可能であろう。代行者が薄氷を踏む思いで運
これを実現すべきとは考えるが、今回は、情報保
営しているのであれば、情報主体が安心して自ら
有者が情報主体を代行するという形で権利を保障
する手法を探った。この意味では、残念ながら従
号文をハードディスクから入力するのみとなって
来のセキュリティの水準でしかないが、平文に戻
いる。復号用の暗号鍵も、メモリー空間のみで使
さずに暗号文のまま、その後の処理までを行うこ
用しており、第三者の目にふれる事のない様シス
とのできるという発注者の直接コントロール下に
テム化している。
おく仕組みを開発した。
送信側から見て、安全な印刷を行う事が約束さ
れているが、契約した場所で約束した印刷機で印
字されているかの不安が残る。例えば、暗号文の
ままではあるが、その印刷データと暗号鍵をそっ
くりコピーし、別の場所で印刷される可能性があ
る。これを防ぐために、復号化に必要な暗号鍵の
算出に、印刷制御機とは別装置のエニグマ型暗号
装置を使用している。このエニグマ型暗号機は、
印刷制御機のボディ内に取り付けられている。こ
のエニグマ型暗号機が存在しない限り、暗号鍵が
算出できない仕組みとなっており、暗号文を複写
したとしても、復号して印刷される恐れがなく、
図3 システム全体像
(2) 具体的な手法
安心のできる構造を取っている。
次に、最も重要な役目をする印刷プログラムが、
送信側は、印刷のために重要なデータを伝送す
受信側で改造され、復号後、別のエリアに印刷デ
る時、情報の漏洩を防ぐために暗号化して送信す
ータを出力しているかも知れない。送信側から見
る。このシステムでは、平文の印刷データを得て、
て、受信側は仲間でもなく、この可能性が存在し、
暗号化して暗号ファイルを作成する。送信データ
これが発生した時、発見できる仕組みが入ってい
を一旦、ハードディスクに置く事も考えられるが、
なければならない。印刷プログラムを、両者立合
別の媒体で入力し、暗号を行ないながら、暗号フ
いの上で、初期段階で検査する。この検査済のプ
ァイルを出力するべきである。印刷データは、暗
ログラムに対し、通常のファイルとして扱い、ハ
号文のまま伝送され、印刷機側のハードディスク
ッシュ値を算出する。暗号の世界で使用する認証
に到着する。
子を、印刷プログラムに対して算出する。即ち、
この時点で、印刷データは、送信側の暗号化し
重要な印刷プログラムが改ざんされた場合、検査
た形で存在している。印刷管理者は、送信側より
によりハッシュ値が変わり、改造が発見できる事
復号用の鍵を得て、印刷実行指示となる。印刷プ
をシステムに取り入れている。
ログラムは、印刷担当者からの印刷指示により、
この印刷プログラムのハッシュ値を、送信側の
半分の暗号鍵を得て、エニグマ型暗機を使い暗号
管理するエージェント機(代理人機)の管理下に登録
鍵を算出し、印刷データの暗号文をメモリー空間
する。そして、このハッシュ値を、RFIDを工
で復号しながら印刷する。この復号処理と、印刷
夫した物理鍵付きのS-BOXの中に封じ込む。これ
を同時に行う事で、受信側のハードディスク上に
は、絶対に変更不可のエリアとなっており、第 三
平文の印刷データが残る事を防いでいる。
者が変更できない。印刷プログラムが実行された
印刷機に印刷指示を行う制御機にて復号してお
後、プログラムのハッシュ値が算出され、業務ロ
り、第三者からは、平文が見えない構造となって
グに出力する。これを送信側エージェント機が検
いる。復号処理は、メモリー空間で行なわれ、暗
査し、プログラムの改ざんを監視している。
37
この様に、送信側より印刷データを暗号化し、
送信し、受信側は、送信側で約束した場所の印刷
行する事となり、受信者を疑う以上、エージェン
トの立場を守れ通せるものではないと断定している。
機で、約束されたプログラムで印刷していること
が監視できる。受信側が約束以外の事を行った後、
受信側を監視しているエージェント機が警報を発
する事ができ、安全に印刷するシステムとしてい
る。
この様に、送信側の外部に出したデータが直接
管理下の元で、確実に印刷される仕組みとし、且
つ、管理のできるシステムとしている。
図4 暗号鍵の処理
(3) エージェントの位置
印刷発注者と、印刷の部門の距離は長く、印刷
を監視するものとして、印刷データの受信や、印
刷部門の近くに、発注者の代理人(エージェント)を
設定した。
このエージェントの役割を分析するに、印刷の
状況監視の役目を与えた。この形で分析してゆく
に、受信者、印刷者の近くにおり、且つ、発注者
と同様の権利を持たせた。受信者、印刷者を疑う
とすると、その中で全権を持つエージェントを守
る事は、不可能となった。
この様な理由から、エージェントは、印刷部門、
木村 修二(情報化推進グループ 部長)
・印刷業務に特化した安全なシステム構築(2005)
編集部門の監視を中心とし、復号用の、共通キィ
・NPO情報セキュリティ研究所会員(2003∼)
ーの管理等の権利を持たない様に設計している。
・情報セキュリティに関する調査研究、コンサルティ
もし、エージェントを設置したとしても、受信側
の人間が、エージェントとしてのICカードで実
38
業務経歴
ング(2003∼)
・安全なファイル伝送システム構築(2004)
KIIS成果一覧表
報 告 書 名
関西情報化実態調査2005
内 容
メ ン バ ー
仕 様
公開の
可 否
関西2府5県の上場・中小企業と自治体に (委員)
おけるIT利活用と情報セキュリティ対策に
大阪市立大学大学院教授
中野 潔氏 他
ついて、アンケートとヒアリング調査を実施
A4
100頁
可
(日本自転車振興会補助事業) し、IT利活用ステージ指標を用いて計測した。
地域再生計画認定制度等の事
内閣府経済社会総合研究所より調査委託を (委員)
後評価に関する調査
受け、地域再生制度評価並びに再生計画につ
関東学院大学教授
いて、アンケート調査および特徴的な計画を
大住 莊四郎氏
行っている16の地方公共団体に対してヒア
地方シンクタンク7機関 他
A4
121頁
不可
リング調査を実施し、その現状やもたらされ
(内閣府経済社会総合研究所) た効果についてとりまとめた。
地方公共料金の実態及び事業
公共料金全体が低廉化する中、地方公共料 (委員)
効率化への取組についての分
金の低廉価が進んでいない問題について、水
放送大学教授 佐々木 弘氏
析調査
道・下水道・一般ごみ処理料金を対象に実態
近畿大学助教授教授
把握や要因の分析調査を行い、課題解決への
(内閣府) 提言した。
ITを利用したクリエイティ
浦上 拓也氏
A4
298頁
地方シンクタンク7機関 他
可
泉北ニュータウンをフィールドに、民間企 (委員)
ブ都市に関する調査・研究
業・行政・NPO等で構成する研究会を設置
∼堺・泉北ニュータウンにお
して、ITを活用したニュータウン再生のあ
(内容
大阪府立大学大学院教授
増田 昇氏
ける地域活性化に向けての調
り方を検討するとともに、コンシェルジェ機
査・研究∼
能やセキュリティ機能、ヘルスケア機能等を
竹中 英紀氏
備えた「ニューライフサポートセンター」の
情報化未来都市構想推進
(財団法人ニューメディア開発協会) 整備・運用方針を提案した。
可
桃山学院大学助教授
照会は
A4
ニューメ
91頁 ディア開
発協会
に応じ
協議会メンバー 他
る)
手続案内サービス実装調査研究
大阪府内市町村が手続案内サービスを行う (WG)
際に参考となる手続案内共通コンテンツの充
堺市他、大阪府下7団体
実を図るとともに、大阪電子自治体推進協議 (事務局)
A4
会が提供する共同利用電子申請受付システム
400頁
大阪電子自治体推進協議会 他
不可
をベースに住民の利用しやすい手続案内サー
ビスの実装仕様などについて、検討した。
東大阪市地図情報システム導
東大阪市の地図情報システム導入に向けて
入についての調査研究
のマスタープランを策定し、次世代GISエン
ジンや、基図の整備方針等を検討した。
(東大阪市)
京都大学 助教授
高倉 弘喜氏 他
iDC事業部 木村 修二
井澤 隆博
セキュアなプリントデータ配
自治体の情報システム運用のアウトソーシ
信システムの設計・構築の調
ングが進む中で、印刷業務についても安心し
査研究
てアウトソースできる環境への期待が大きい。
高倉 弘喜氏
上原 哲太郎氏
カーネギーメロン大学日本校
身が復号化、印刷を行うシステムのプロトタ
教授 武田 圭史氏
データが維持されるため、安全性の高いもの
(日本自転車振興会補助事業) が実現できた。
不可
京都大学 助教授
まで暗号化されたデータを送り、プリンタ自
注者から印刷機まで暗号化された状態の電子
30頁
京都大学 助教授
本調査で、印刷事業者に設置されたプリンタ
イプの開発を行った。本システムにより、発
A4
工学院大学 講師 山崎 文明氏他
iDC事業部 木村 修二
芝原 努
A4
80頁
可
報 告 書 名
内 容
メ ン バ ー
セキュアなデータ通信による
印刷業務の発注者(自治体)から印刷事業
iDC事業部 木村 修二
プリンティング事業
者までセキュアな通信を実現するインフラを
芝原 努
提供するにあたり、総務省の「地方公共団体
仕 様
A4
における個人情報保護強化のためのソリュー
52頁
公開の
可 否
不可
ションの実証プロジェクト」に参加し、その
(総務省) 有効性を実証した。
関西学院大学 教授
続・“里湖自然館・マキノ”
滋賀県西北部(湖西)に位置するマキノ町
をめざして ∼マキノにおけ
は琵琶湖や里山など四季折々の自然に恵まれ
加藤 晃規氏
る体験型観光産業振興計画活
た町である。本調査では「湖(うみ)」、
他40名
用調査報告書
「里」、「山」といったマキノの3大地理的
A4
152頁
特性に着目し、他地域と比較して優位性を持
可
つマキノ独自の「観光ブランド」メニューの
(電源地域振興指導事業) 立案とそのPR方策について提言した。
関西における人材育成のあり
大手企業を中心に21機関にヒアリングを
方に関する調査報告書
行い、求める人材像や業績評価制など、最近
地域振興事業部 橋本 恵子
の企業の経営戦略との関わりにおける人材戦
A4
113頁
不可
(民間企業) 略の動向をとりまとめた。
関西をめぐる物流の現状と課
製造業の物流に関わる19機関にヒアリン
題に関する調査報告書
グを行い、現在の我が国、関西の物流の現状
地域振興事業部
橋本 恵子
や課題の要点を把握、政策提言に向けた物流
A4
132頁
不可
(民間企業) 現場の声を収集した。
地域防災計画推進調査報告書
新たに2箇所の広域避難場所を選定すると
ともに近接した広域避難場所をグループ化し
地域振興事業部 西田 佳弘
た新たな避難圏域を設定した。さらに、要避
A4
難人口を軽減するための新たな考え方を提案
60頁
不可
し、地域防災計画策定のための基礎資料を作
(大阪市) 成した。
安全帯使用状態監視システム
電力設備工事等における現場高所作業での
研究会報告書
転落災害軽減を目指すため、安全帯の使用状
岸野 文郎氏
態を適切に把握できる遠隔監視と注意喚起の
他14名
方法について検討し、考えられるシステムイ
(民間企業) メージについて提案した。
大阪大学大学院 教授 A4
50頁
不可