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SQiP2010 C2-1
オフショア開発における人に依存しない品質保証の仕組みとその運用
The People Free Quality Assurance System and Its Application in Offshore
Software Development
杭州東忠科技有限公司 品質保証部
HangZhou Totyutech. Co.,Ltd. Quality Assurance Dept.
○朱 小紅
○Shoukou Shu
高橋仁 1)
Hitoshi Takahashi1)
河合 清博 2)
Kiyohiro Kawai2)
Abstract The difference of value judgment benchmark came from different Sino-Japanese
cultures becomes the main problem in the Japan-oriented offshore software development in China.
This paper introduces the people free quality assurance system, which is built to resolve the
problem came from different value judgment benchmarks. The quality assurance system is capturing
7 means as the center to achieve quality assurance. At the end of the paper, the joint venture
companies established based on this quality assurance system and the role of BPM ( Business
Process Manager, Business Process Maker ) are also presented.
1. はじめに
近年、日本から中国へ発注するソフトウェアのオフショア開発はますますさかんになってきて
いる。日本企業から中国へのオフショア開発は、1980 年代後半から始まった。日本と中国は歴史
的に古くから交流がある背景もあって、日本企業は中国オフショア開発を盛んに進めてきた [1] 。
しかし一方では、中・日の文化差異により生じた価値判断基準の差異はオフショア開発を難航さ
せている最も大きな問題となっている。
本論文では中・日間のオフショア事業において、価値判断基準の差異を認知し、解消するため
に当社が構築した7つの手段を中心とする「人に依存しない品質保証の仕組み」と、その仕組み
をオフショア事業の基盤とする合弁会社の設立と BPM(Business Process Manager、Business
Process Maker)の役割についての事例を紹介する。本事例がオフショア開発を進める中・日双方
の企業の参考になれば幸いである。
2. 人に依存しない品質保証の仕組みの構築背景
従来から日本の多くの IT 関連企業が中国オフショア開発の拡大および中国市場への参画を目
的として中国現地法人を設立し事業を展開している。しかし、日本の管理プロセスをそのまま中
国側の開発チームに適用しオフショア開発を実施すると、価値判断基準の差異があるので、うま
く実行することが出来ず日本側の期待どおりの成果が達成されず継続的な発注の阻害要因となっ
ている。また、優秀な人材の確保の問題、中国人社員の流動性の問題、中国政府や中国現地企業
とのパイプ構築等の様々な問題を抱え計画通りの発展が出来ていないのが実情である。
杭州東忠科技有限公司 品質保証部
HangZhou Totyutech. Co.,Ltd. Quality Assurance Dept.
〒310052 杭州市濱江区長河路 590 号(東忠ビル 3F) Tel: 86-571-28065650
No.590 Changhe Road, BingJiang district ,HangZhou , 310052 China Tel: 86-571-28065650
1) 株式会社 東忠ソフト 取締役 BPMO 室長
Totyu Soft. Co.,Ltd. BPMO
2)株式会社 東忠 顧問
Totyu . Co.,Ltd. Consultant
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日本と中国は同じ漢字文化圏でありながら、日本と中国の文化、商習慣、価値観などが違うこ
とで、ものに対する価値判断基準の差異が生じる。例えば、
「謝る」[2]ということに対して、中国
人は自分が悪くないと思えば、あまり「すみません」といわないのに対し、日本人は自分がよく
ても、悪くてもすぐに「すみません」というのである。また、受託(中国)側はもう十分と判断
しているのに、委託(日本)側はまだ不十分と判断しているような場合は多々ある [3] 。
オフショア開発における中・日間の価値判断基準の差異を認知し、その差異を埋める一般的な方
法としては、多くの企業で行われているのがブリッジ SE(Bridge System Engineer)の投入であ
る。ブリッジ SE は委託側と受託側の間のニーズ、問題点、課題などを把握し、それらを中・日の
開発関係者へ伝え、解決を促し、オフショア開発をスムーズに展開していく重要な役割になって
いる。つまり、ブリッジ SE は中・日間の「差異」の認知のみならず、
「差異」を埋める存在でもあ
る [4] 。しかし、オフショア開発のニーズの増大により、ブリッジ SE の必要性は高まる一方だが、
優秀なブリッジ SE の人数には限りがあり、ボトルネックが発生する。また、新たにブリッジ SE
を育成しようとしても、時間的に間に合わない。さらに、ブリッジ SE のレベルにバラツキがある
ので、品質レベルがブリッジ SE に依存してしまう。レベルの低いブリッジ SE を投入することで、
中・日間の価値判断基準の差異を埋めることができなくて、逆に失敗する事例が少なくない。つ
まり、オフショア開発の成否がブリッジ SE に左右されてしまう(図 1)
。
図1、ブリッジ SE の位置付け[4]
したがって、オフショア開発をスムーズに展開するために人の要素、例えば、ブリッジ SE など
に依存しないように、たとえ経験の浅いメンバーであっても、中・日間の価値判断基準の差異も
埋める方法を考えなければならない。
当社が設立された 2000 年当時、杭州市にオフショア開発の経験者はほとんど存在せず、オフシ
ョア開発環境も未整備であった。そのため当時のプロジェクトにおいて、納品後相次いでトラブ
ルが発生した。その原因を分析した結果、コミュニケーションの問題、文化や価値判断基準の差
異であると判明した。当時の当社の技術者はほとんど日本の IT 企業経験どころか、日本や日本
人との接触すらもなかった。日本側との差異を認知することは全く不可能であった。
そこで、人の要素に依存せずに、価値判断基準
の差異を認知し解消するために当社は「差異認知
によるプロセス共有」という概念を創出した。そ
れは日本の管理プロセスと中国の管理プロセス
の間に差異を認知するプロセスを構築し、共有
することであった (図 2) 。価値判断基準の差異
の認知は差異を埋めていく管理プロセスの共有
を構築すれば、その過程で差異の認知も具体的
かつ正確になり、最終的に埋まることになるわ
けである。その概念に基づいて、2001 年に当社
は人に依存しない仕組み・仕掛けとしての体系
を構築し運用している。
2
図 2、差異認知によるプロセス共有[4]
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3. 人に依存しない品質保証の仕組み
3.1 7 つの手段
中・日間の価値判断基準の差異を認知し、解消するために、
「差異認知によるプロセス共有」と
いう概念により、構築した当社の品質保証の仕組みを 10 数年間で実践してきた。その中に特に効
果的だと思われる7つの手段がある。それは、①取引開始前の経営トップ層の現場視察、②取引
開始後の仕様説明、③各工程の質問票管理、④文書など同じフォルダの構成、⑤「開発手順・品
質管理」標準の実施、⑥品質保証部からの第三者チェック、⑦開発終了時の顧客評価である(表
1)
。この中で、①、②、③、⑦は主に認知差異の解消の仕組みで、④、⑤、⑥は主に人に依存し
ない仕組みであるが、これらの 7 つの手段をセットにして、人に依存しない仕組みとしている。
その 7 つの手段が 53 種類のテンプレートからなる「開発手順・品質管理」標準としてまとめられ
た。それらはたとえ顧客の開発標準、開発プロセスが何であっても、ISO 国際規格の何に準拠し
ていても、オフショア開発なら、価値判断基準の差異を認知し、解消するために必ず実施しなけ
ればならない事項であろう。その 7 つの手段をセットにした当社の品質保証の仕組みはどのよう
なプロジェクトの事情があろうとも、また、プロジェクトの規模の大小に関係なく、この 7 つの
手段を実施することを義務づけている。
表 1、7 つの手段
認知差異の解消仕組み
人に依存しない仕組み
取引開始前の経営トップ層の現
④ 共通フォルダの構成
①
場視察
② 取引開始後の仕様説明
⑤ 「開発手順・品質管理」標準の遵守
③ 各工程の質問票管理
⑥ 品質保証部からの第三者チェック
⑦ 顧客によるプロジェクト評価
(1) 取引開始前の経営トップ層の現場視察
当社では、新規顧客との取引を開始する前に、顧客側の経営層に必ず開発現場を視察してもら
うように要請している。その結果、取引をスタートするか否か決めてもらう。これはオフショア
開発を開始するときの、重要な一歩だと考えている。中国に行ったことがない日本人にとっては、
オフショア開発は大丈夫かどうか、不安な気持ちを持っている。顧客側の経営層の現場視察によ
り、中国側の実態や管理プロセスを認知することができるし、担当リーダーとも気持ちが通じ合
える。それが、日本側と中国側の一体感を醸成することが可能となる。今後の作業をスムーズに
進めるための前提になる。
(2) 取引開始後の仕様説明
取引開始後、最初の受託作業について日本側の仕様作成者がオフショア開発現場に足を運んで、
開発を担当するメンバーに直に仕様を説明することが重要である。直接話し合うことで、仕様の
理解はもちろん、互いの気持ちが通じ合うことはコミュニケーションを円滑にするための土台に
なる。
当社では、現場における仕様説明を必須事項として、顧客に要請することをルール化している。
また、説明会の効果を保証するため、事前に仕様を確認しておくことが重要なので、顧客に一週
間前に資料を提供してもらうように要請している。仕様説明時は中国側の開発チーム全員が準備
した内容(Q&A など)を持って参加する。そうすると、日本語をベースに書いた仕様の問題や中国
側の開発メンバーの理解度など、プロジェクト開発の初期で把握できて、お互いの認識も合わせ
ることができる。問題があっても、早めに解決できる。ブリッジ SE の仕様理解不足やレベルのバ
ラツキにより生じる格差も避けられる。
この仕様説明は、(1)の現場視察における経営層から、この現場の開発チームにいたるまでの各
層を包含した、一体感、チームワークづくりの一端を担っている。
3
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(3) 各工程の質問票管理
当社では全てのプロジェクトに対し、質問票数(例えば:8 件/KL)を品質指標の一つとして、
仕様理解の段階から、各工程で提出した質問を管理する。質問のやり取りにより、中・日間の価
値判断基準の差異を認知し、解消することができる[3]。また、各工程の質問票管理は(2)の仕様説
明と対となって補完しあう関係にある。(2)の仕様説明により、後ろの開発工程中の質問票の提出
数(特に仕様確認の質問数)を低下させることができて、管理工数や無駄な確認を減少し、生産性
を向上することができる。
(4) 共通フォルダの構成
当社では全てのプロジェクトに対し、開発に関する全ての文書、ソース、納品物などのフォル
ダは同じ構成で、構成管理ツールにより管理し、プロジェクト管理専用サーバーで保管されてい
る(図 3)
。各フォルダの中にある開発計画書、開発ルール、仕様変更、レビュー票や障害票及び
関連台帳などは、当社の標準テンプレートにより統一されている。これにより、どの作業が今ど
の段階にあり、どのような資料が出ているか、それがどこにあるかが誰でもいつでも分かるし、
第三者のチェックも容易になる。そして、文書、ソースコード、納品物などに対する変更を安全
に実施・管理できる。また、開発メンバーに対し、どのプロジェクトに入っても、同一の環境お
よび手順のため、開発要員もすぐに慣れることできる。
図 3、文書など同じ構成フォルダ
(5) 「開発手順・品質管理」標準の遵守
当社ではソフトウェアのオフショア開発は工場の生産ラインと同じように実施、運用すること
が出来るように全工程において「開発手順・品質管理」標準を作成した。この「開発手順・品質
管理」標準は、ISO9000やCMMIなどの標準のみを反映したものではなくて、オフショア開発ための
特別な手順や品質管理手段も含まれている。すべての案件に対して、その標準を例外なく遵守し、
実施する。例えば、プロジェクトの製番を申請する前に、全ての受託作業について委託側の開発
作業依頼書が提供されていることを規定している。
また、全ての受注案件に対し、当社のプロジェクトマネージャー、プロジェクトリーダー、品
質保証部により、物件評価会議を実施する。
「良好なスタートが成功の半分に相当する」という中
国のことわざが、まさにこれを指している。物件評価が妥当な場合、プロジェクトの骨組みがで
きているので、それ以降は方向性に関わる問題が発生しにくくなる [5] 。問題がある場合、不足
しているところを見極めて、リスクを早期に把握することができるし、品質保証部のSQA(Software
Quality Assurance)担当も後開発の全工程で追跡することができる。
また、プロジェクト開始前に、プロジェクトリーダーは全ての作業において当社のテンプレー
トにより開発計画書、品質保証計画書などを作成し、品質保証部と一緒にプロジェクト開発計画
審査を実施する。PJの開発計画の合理性を評価し、PJ前期の問題を早期に発見、解決して、作業
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を正常な軌道に乗せることができる。
当社ではどんなプロジェクトにおいても、開発工程の認識ズレを解消するために、その標準の
中に、開発言語別や開発環境別などの標準規約及び各工程での成果物に向けのチェックリストも
含まれている。それらの標準規約やチェックリストは、多数のプロジェクトを経験して纏めた共
通的なものなので、プロジェクトの管理に役立っている。
この「開発手順・品質管理」標準を徹底的に遵守し、実施することにより、人の要素をできる
だけ除外して、プロジェクトの品質のバラツキを小さくすることができる。
(6) 品質保証部からの第三者チェック
日本ではルールを作成したら、皆ほとんど遵守するが、中国ではルールを作成しても、第三者
のチェックがないとうまく実行することができない。
「開発手順・品質管理」の標準を徹底して実
施することを保証するため、当社では開発チームとは異なる第三者機関(品質保証部)を設置し
ている。プロジェクトの起動時から、プロジェクトに参加し、プロジェクト完了まで全ての工程
中を検査する。ただ成果物の抜き取り検査だけではなく、機械的かつ物理的に「開発手順・品質
管理」標準が遵守されているかを、
「開発手順検査チェックリスト」により定期的にチェックし監
視する。問題があった場合、タイムリーに発見し解決することができる。問題があるプロジェク
トに対し、経営層(社長)まで「プロジェクト警報」で報告される。会社すべてのリソースを調
達して問題の解決を計るので、プロジェクトの失敗を抑えることができる。
(7) 顧客によるプロジェクト評価
当社の品質を継続的に向上するため、開発作業終了時に、リーダーに8つの評価項目(報連相、
品質、納期、管理、融通性、生産性、性能、総合)を顧客評価として収集させる。これにより、
オフショア開発工程中の問題点や相違点を発見でき、不足なところに対し、今後の改善対策を立
てることにより、改善できる。この顧客評価も(1)の経営トップ層の現場視察と対応し、日本側か
ら見れば妥当性を確認することになる。
上述の7つの手段をセットにして、構築した当社の人に依存しない品質保証の仕組みはオフシ
ョア開発事業で最も問題となる中・日間の価値判断基準の差異を認知し、解消することができる
と考えている。
3.2 人に依存しない品質保証の仕組みの運用
中国のオフショア開発事業を推進するうえで、価値判断基準の差異を認知し、解消するために
「差異認知によるプロセス共有」としてのその 7 つの手段をスムーズに機能する必要である。ま
た、従来の現地のソフトウェア会社と契約して開発する方法[1](提携型と呼ぶ)あるいは発注元
が現地へ進出して子会社を設立する方法(進出型と呼ぶ)で実施しているが、どちらもデメリッ
トがあり(表 2)
、日本企業の期待通りには発展が出来ていない。
表 2、提携型と進出型のメリット/デメリット[1]
内容
メリット
デメリット
・即戦力として開発を期待でき
る。
・適時に必要な量だけを発注
できる。
提携型
中国のソフトウ
ェア会社と契約
進出型
・開発体制構築後には、長期
間に渡る低コストでの開発を期
待できる。
中国へ進出して
・ノウハウの蓄積が期待出来
子会社を設立
る。
・中・日共有の開発プロセス整
備が進め易い。
5
・複数の会社と提携することが多く中・日共
有の開発プロセス整備が進まない。
・経験者を継続的に活用することが難しくノ
ウハウの蓄積が進まない。
・人材確保及び人材育成に手間と時間、コ
ストが掛かる。
・日本人管理者による人事管理等では中国
人技術者の流動等の問題が発生する。
・定常的な発注が出来ない場合、空き要員
の発生により収益が悪化する。
・子会社として発注されるのを待ち、受注す
るための企業努力が薄れてしまう。
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上記の様々な問題を解決するため、当社の戦略の1つとして合弁会社の設立を推進している。
その合弁会社は、上記の提携型と進出型のメリットを発揮して、そのデメリットを埋めることが
できる。当社との合弁会社の主な特徴は以下である。
①人材の確保は当社の人材育成事業で当社の品質保証の仕組みを習得した要員を供給する。
②各合弁会社には当社の品質保証部の担当者を配置し、品質保証の仕組みをベースに各社の管
理プロセスを統合し適用している。
③合弁会社の社員は、少数精鋭の管理者から構成されている。また、合弁会社とのオフショア
開発の実務は、その合弁会社のみを担当する開発要員で組織された事業部にて実施されてい
る。これにより組織としてノウハウの蓄積を実現している。
④国際分業を推進する方法としてブリッジ SE を介さず各合弁会社の日本人技術者から直接中
国人技術者へ業務ノウハウの伝承を計画的に実施し、中国側の担当する開発工程を広げてい
る。
これらの特徴により各合弁会社は各社の方針や計画に基づきスムーズなオフショア開発の実施
を実現している。この合弁会社の事業展開にあたっては、前述の 7 つの手段を中心とした品質保
証の仕組みが重要な事業基盤となっている。
当社では、従来からの人に依存しない仕組みを更に効果的に強化するために、新たなビジネス
プロセスを構築する上級 BPM(Business Process Maker)と、構築されたビジネスプロセスを管理
する中級 BPM(Business Process Manager)という役割を定義し、担当を割り当てて活動している。
上級 BPM の機能は、当社のビジネスプロセスおよび品質保証の仕組みを利用しオフショア事業の
進め方を提案することにより、顧客のビジネスプロセスの流れを変えることである。中級 BPM は
当社の品質保証の仕組みを熟知し、プロジェクトの統合管理を押し進める役割を果たすことが求
められる [6] 。なお、当社では独自の BPM 認定制度を運用しており、現在では上級 BPM が 5 名、
中級 BPM が 4 名認定されおり継続的に BPM 認定者を育成する計画となっている。
前述の 7 つの手段を上記の合弁会社で生かすため、上級 BPM が各合弁会社に当社の「7つの手
段という仕組み・体系」を中心とする品質保証の仕組みを説明し導入を支援している。中級 BPM
はその運用が適切に実施されているかを管理者の立場で把握し問題がある場合は合弁企業と調整
し適正化を行っている。これにより合弁会社は短期間でオフショア事業の立上げを実現し、安定
的に事業を継続しているものである(図 4)。したがって、7 つの手段と、合弁会社という枠組み、
BPM という推進力が一体となって、人に依存しない仕組みが構成され、運用されている。
図 4、7 つの手段を生かすための合弁会社の設立と BPM の役割
4. まとめと考察
差異認知によるプロセス共有として、当社の品質保証の仕組みは、オフショア事業の最初から
最後まで、質問票管理を含めて、その 7 つの手段を中心として、セットにして、構築されている。
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オフショア開発事業で最も問題となる中・日間の価値判断基準の差異を認知し、解消することを
目指している。その体系の実施により、明確な因果関係は言えないが、当社で以下の効果をもた
らしたものと考えている。
4.1 全社の外部障害率の低下
当社は 2001 年品質保証の仕組みを構築して、2002 年から全社の外部障害率が Q&A 票提出率の
増加に伴って、安定し低下している(外部障害率は納品後ステップ数あたり発生したオフショア
側の原因で作り込んだバグの件数である。)
(図 5)
。開発工程中、質問(Q&A)数を品質管理指標の
一つとしており、仕様理解の段階から要求されるので、異文化コミュニケーションのギャップも
減少でき、開発は順調に進められた。
Q&A の提出により、内部・外
部とも障害率が低下。
単位:件/KL
図 5、年度別障害率と Q&A 提出率の遷移図
4.2 顧客クレームの減少
当社は 2001 年品質保証の仕組みを構築してから、
「報・連・相」の変化は顧客クレーム(評価項
目:不満足)が 50%から 0%に激減し、それ以降は数%で安定している。残りの数%のクレームは、
業務知識の不足や、設計に対する提案が足りないことについての不満である。この仕組みにより
オフショア開発の取引開始前の経営トップ層の現場視察から、積極的に顧客と報告、連絡、相談
をしているので、
「報・連・相」を短期間に向上させることが可能であることが分かる(図 6)
。
単位:比率
仕組みを導入
した後、顧客
クレーム(評
価項目:不満
足)は 50%か
ら 0%に激減
図 6、年度別顧客評価‐-「報・連・相」の遷移図
4.3 顧客評価の向上
2001 年品質保証の仕組みを構築してから、「満足」以上の評価は 2000 年の 33%から 70%以上に
向上した(図 7)
。この仕組みにより、オフショア開発のプロジェクトの品質を確保でき、顧客の
信頼度も高くなった。
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単位:比率
品質保証の仕
組みを構築し
て か ら 、「 満
足」以上の評
価は2000年の
33%から70%
以上に向上。
図 7、年度別顧客総合評価遷移図
5. 今後の課題
オフショア開発事業において、人の要素、たとえばブリッジ SE などに依存しないことと、異文
化コミュニケーションの中・日間の価値判断基準の差異を認知し解消することを目指して、質問
票管理を含むその 7 つの手段、合弁会社、BPM をセットにして、構築した人に依存しない品質保
証の仕組みを述べたが、まだ完全とはいえない。今後の課題としては、当社の事業拡大に伴い、
顧客も増えるにつれ、その 7 つの手段で対応しきれるか検証することである。また、今後の研究
課題としては、次の 3 つの課題を考えている。それは①7 つの手段のそれぞれが顧客満足度に対
して、どれだけ効果を上げているか明確にすること、②今まで収集された Q&A などを DB 化し、
プロジェクトの支援機能を強化すること。③プロジェクトのリスクを早期に発見するため、デー
タの分析を高めること、である。これらの課題を解決していくことにより、品質保証部の機能を
さらに強化し、オフショア開発の問題点である価値判断基準の差異の解決に役立てていきたい。
6. 参考文献
[1] 赤尾圭昭,誉田直美 “中国オフショア開発の品質・生産性向上事例”
,第23回ソフトウェ
ア生産における品質管理シンポジウム発表報文集,
(財)日本科学技術連盟,pp.147~148,
2004
[2] 相原茂,株式会社講談社,
“感謝と謝罪”
,pp.77,2007
[3] 朱小紅,郭依群,呂響亮,河合清博 “オフショア開発における中・日間の価値判断基準相
違点の解決方法”第28回ソフトウェア品質シンポジュウム発表報文集,
(財)日本科学技術
連盟,pp.218,2009
[4] 朱小紅,郭依群,河合清博 “オフショア開発における現状と課題”
,日科技連「クオリティ
マネジメント」誌5月号 , pp.30~32,2010
[5]
呉暁波,
“オフショア開発における低コスト高品質の実現”
,第92回研究発表会研究発表要
[6]
旨集,(財) 日本品質管理学会 , pp.138,2010
郭依群,
“BSEを超えるBPMの勧め”第92回研究発表会研究発表要旨集,
(財)日本品質管理学
会,pp.140,2010
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