オンライン情報探索がブランド・パリティーに与える影響

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論文
オンライン情報探索がブランド・パリティーに与える影響
∼クリックストリーム分析による探索的研究∼
笊 ――― 既存研究
笆 ――― 仮説
笳 ――― 方法
笘 ――― 分析結果
笙 ――― ディスカッション
坂下 玄哲
果として単純な価格競争となってしまうこと
● 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 准教授
が多いからである。
いっぽう,インターネットの普及に伴い,
めまぐるしく変化する市場において,優れ
消費者を取り巻く情報環境は大きな変化を遂
たブランドを構築することはこれまで以上に
げている。メディア環境の変化により,消費
重要な課題となっている。Keller(1998)が
者は非常に低いコストで必要な情報を即座に
指摘するように,消費者の記憶内に強く,好
獲得できるようになった。このことは,企業
ましく,ユニークなブランド連想を創出し,
に新しいブランド構築のあり方を問うもので
優れたブランド・イメージを形成することは,
あり,たとえばサイトにおける効果的なコン
持続的な競争優位を築くためにも必要不可欠
テンツ構築,および,そこでのブランド情報
なことである。
の適切な提示方法といった問題を投げかけて
ブランド構築では他社との差別化を行うこ
いる。自社ブランドのユニークな特徴を消費
とが必須であるが,ここで重要なのが,自社
者にアピールすることは,インターネット上
ブランドが持つユニークさを消費者にいかに
のコミュニケーションにおいても必要不可欠
識別してもらうかである。本研究が注目する
である。ここで重要なのが,消費者のインタ
ブランド・パリティー(以下 BP)は,ある製
ーネット閲覧行動によって,彼らのブランド
品カテゴリーにおける複数の主要なブランド
に対する捉えかたがどのように変化しうるか
が,消費者にどの程度類似していると知覚さ
について把握することである。
れているかに関わる概念である。ここでは,
本研究の目的は,消費者のオンライン情報
BP をいかに下げるか,すなわち,自社ブラン
探索と BP との関連について,理論的,実証
ドと競合ブランドとの全体的な類似度をいか
的に検討を加えることである。具体的には,
に下げるかが重要である。なぜならば,競合
特定の企業サイト上における消費者の閲覧行
ブランドが消費者にとって同じものだと認識
動履歴データと,同一の消費者に対して実施
されてしまうと,彼らの購買意思決定におけ
したアンケートデータから収集された態度デ
る主たる関心が価格に集まりがちとなり,結
ータとを組み合わせることによって,オンラ
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論文
イン情報探索パターンの経時的変化と BP 知
ことである。たとえば,デジタルカメラの画
覚との関連を探ってゆく。以下ではまず,本
素数について,主要ブランド A が 1000 万画
研究におけるキー概念について整理を行った
素,主要ブランド B が 2000 万画素であったと
上で,仮説を導出する。次に,本研究が実施
しよう。実際の数値は両者において大きく異
した 2 つの調査の概要と,データ収集の手続
なるため,この点を考慮すればデジタルカメ
きについて説明する。収集されたデータを分
ラにおける BP は低いことになる。しかしな
析し,仮説の検証を行った上で,発見事項か
がら,消費者はある一定の画素数以上のカメ
ら得られるインプリケーションについて述べ
ラは「画像が優れたカメラ」として知覚して
る。
いるのが一般的であり,1000 万画素も 2000
万画素も同じようなものだと思っていること
笊――― 既存研究
もある。この場合,消費者の知覚において両
者は類似していると捉えられるわけであり,
①ブランド・パリティー
実際の BP は高くなる可能性があるのである。
Muncy(1996)はブランド・パリティーを
消費者購買意思決定局面における BP の効
消費者の視点から捉えており,「製品カテゴリ
果については,これまでいくつかの研究が明
ーにおける主要なブランド間の差異が小さい
らかにしてきている。たとえば,BP が高まる
ことに関する消費者の全体的な知覚(Muncy
ことによって消費者の価格感度が高くなり
1996, p411)」と定義している。したがって,
(Muncy 1996)
,したがって価格手がかり利用
ある製品カテゴリーに所属する複数のブラン
が高まることが指摘されている(Obermiller
ドが類似していると消費者が感じている場合,
and Wheatley 1984)。また,BP が高い場合
BP は高くなる。逆に,主要なブランド製品が
はどのブランドも同じだと感じられることか
類似しておらず,ブランドごとに違いがある
ら,市場情報の有用度が低く認識されてしま
と知覚されている場合,BP は低くなる。同概
うことも確認されている(Muncy 1996)。ブ
念の重要性は古くから指摘されており,たと
ランドごとの違いがよくわからない場合はど
えば Assael(1984)においては関与水準とブ
のブランドを購入しても同じだと認識される
ランド間知覚差異によって消費者の情報処理
ことから,特定ブランドへのロイヤルティが
のやり方が異なることがモデル化されている。
低くなることも指摘されている(Jacoby
知覚差異が大きなとき(BP が低いとき)はブ
1971 ; Muncy 1996)。さらには,満足や知覚
ランドごとの違いが大きく映るため,店頭に
品質が高まるとブランド・ロイヤルティも高
おける消費者の情報処理などもヨリ精緻なも
まることが知られているが,このような関係
のになることが指摘されている。
は BP が低い消費者にヨリ顕著となることも
先の定義で重要なことは,BP があくまでも
実証されている(Iyer and Muncy 2005)
。
消費者の知覚によって捉えられていることで
これらの研究の特徴は,規定因としての BP
あり,それが現実におけるブランドごとの実
の役割に注目している点である。BP の水準に
際の差異とは必ずしも一致しない場合がある
よってその後の消費者情報処理が変化するこ
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オンライン情報探索がブランド・パリティーに与える影響
とは,たとえば市場細分化などを行う際に参
慮した Howard and Sheth(1969)のモデル
考となり,マーケティング的にも非常に示唆
では,消費者の頭の中にあるとされる動機や
に富むものである。しかしながら,消費者が
選択基準,理解や態度,意図などは時間の経
新しい情報を獲得することでブランドに対す
過と共に変化するとされる。結果として,消
る把えかたも変化することが予想されるため,
費者の意思決定は拡大的問題解決行動,限定
BP 水準自体も経時的に変化すると考えられる。
的問題解決行動,ルーチン化された反応行動
したがって,結果としての BP がどのような
という 3 つに分類され,この順に意思決定の
要因によって影響を受けるかについて検討す
簡便化が図られるとされる。彼らのモデルに
ることも重要であるといえる。この点につい
よれば,特定ブランドに対する態度が強固に
て本研究は,消費者のオンライン情報探索と
なるにつれて消費者の購買意思決定も簡単に
BP 知覚との関連を探ることによって検討を加
なり,意思決定に必要な情報探索過程も省略
える。
されてゆく。すなわち,どのブランドがよい
かわからない段階では活発な情報探索が行わ
②消費者購買意思決定と情報探索
れ,次第に製品カテゴリーやブランドに関す
消費者の購買意思決定は複数のステップに
る情報が獲得されて学習が進んだ結果,特定
分割して捉えられることが指摘されており,
のブランドに対する態度が形成される。その
これまでもいくつかのモデル化が試みられて
結果,必要な情報のみが追加的に探索される
いる(たとえば Howard and Sheth 1969 ;
ようになることで情報探索が絞り込まれてゆ
Bettman 1979 ; Howard 1989 など)。最も代
く。最終的には決まったブランドが反復的に
表的なモデルの 1 つである Bettman(1979)
購入され,ここでの情報探索は非常に限定的
の情報処理モデルでは,消費者は特定の目標
なものとなるとされる 2)。
を達成するために購買意思決定を行うとされ
情報探索の規定要因については,これまで
ており,動機,注意,情報探索と評価,意思
もさまざまな研究がなされてきているが,探
決定プロセス,消費と学習プロセスといった
索行動をコストとベネフィットとの兼ね合い
ステップを経るとされる。
で捉える考えかたが一般的である(Newman
情報探索はまず記憶情報を対象に行われる
1977)。すなわち,情報を探索するためのコス
のが一般的であるが,記憶内に十分な情報が
トが探索によって得られるベネフィットより
無い場合,消費者は外部から情報を集めよう
も小さいと知覚される限りにおいて,探索が
とする 。外部からの情報探索によって必要
継続されるとするのである。具体的な要因と
な情報が獲得されると外部探索はストップし,
しては,課題要因(複雑性や情報提示フォー
次のステップへと進むとされる。外部探索と
マットのやりかたなど),個人差要因(関与や
記憶探索は相互に影響しあいながら進み,獲
知識,態度など),社会的コンテクスト(配偶
得された情報をもとに購買意思決定が行われ
者や社会階級からの影響など),リスク知覚な
る。
どが挙げられる 3)。
1)
情報探索によってもたらされるものとして
消費者の購買意思決定の時間的な変化も考
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は,Block et al.(1986)が興味深い整理を行
情報探索が活発化してきているという指摘や
っている。彼らは情報探索を購買前探索
(Dickson 2000),通常のリアル店舗における
(Prepurchase Search,購買などの意思決定
購買に比べてオンラインでの情報探索がヨリ
を促進するための情報探索)と継続的探索
活用されているという指摘からも(Rowley
(Ongoing Search,特定の購買欲求や意思決
2000)
,その重要性がうかがえる。
定とは独立のもの)の 2 つに分類し,その目
Hoffman and Novak(1996)はフロー概念
的や結果について論じている。前者は,特定
を用いて消費者のオンライン経験を記述して
の購買意思決定といった目的を達成するため
おり,インターネット上におけるフロー経験
に行われ,結果として製品や市場に関する知
によって消費者の学習が促進されることを指
識の上昇,ヨリ良い購買意思決定,購買結果
摘している 5)。オンライン情報探索における
へのヨリ高い満足度をもたらすとされる。こ
具体的な閲覧パターンについては,目的達成
れに対して後者は,特定の目的を伴わないよ
のために方向づけられた探索(Directed or
うな探索を指しており,結果として得られた
Purposeful Searching)と,そのような目的
製品や市場に関する知識の上昇は,将来にお
を伴わない探索(Browsing)の 2 つで捉える
ける購買の効率化や他者への口コミなどの個
のが一般的である(Rowley 2000)。目的が絞
人的影響を引き起こす。また,衝動買いの確
られた探索から対象が拡げられて情報探索が
率を高めたり,探索自体から得られる満足感
拡散することもあるが,一般的にはブラウジ
や問題解決スキルの上昇などをもたらしたり
ングから探索が収束してゆくとされており
(Rowley 2000),これは先の情報探索が経時
するとされる。
的に収束してゆくことと整合している。
これら一連の研究ポイントをまとめると,
以下のようになる。すなわち,さまざまな経
オンライン情報探索の規定因については,
験の蓄積に伴って特定ブランドへの態度が形
これまでもいくつかの整理がなされている。
成されるにつれて,消費者の購買意思決定は
文献レビューから概念モデルを提示した
簡便化する。つまり,情報探索の結果として
Grant et al.(2007)においては,情報源(内
ブランドに関する知識が獲得され,特定ブラ
容やフォーマットなど),個人要因(認知的要
ンドへの態度が形成される。それにつれて,
因やスキル,パーソナリティ,個人的関与な
特定ブランドに探索が集中することによって
ど),製品カテゴリー特徴(探索財,経験財,
情報探索は経時的に収束するのである 。
サービス財など)といった要因によって消費
4)
者のオンライン探索が規定されることが提示
③オンライン情報探索
されている。経験データによる検証を加えた
冒頭でも述べたように,消費者を取り巻く
Rose and Samouel(2009)では,消費者に内
メディア環境は大きく変化してきており,消
在する内的要因による影響が強いことが確認
費者のインターネット上における情報探索へ
され,先行知識が低く,知識の構造化の程度
の実務的・理論的関心はますます高まってき
が低く,オンライン探索に対する動機や能力
ている。価格比較サイトなどでのオンライン
が高いほど,消費者のオンライン探索はヨリ
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活発に行われることが指摘されている。サイ
al.2008)。データ収集や分析上の問題が多く指
ト探索意図をベースライン探索とイナーシャ
摘されているものの,消費者のオンライン情
に分解し検討した Moe and Yang(2009)で
報探索過程がもたらす知見は多くの実務家や
は,競合の参入がストアサイト訪問に与える
理 論 家 の 関 心 を 集 め て い る ( Hupfer et
影響が検討されている。分析結果から,イナ
al.2008)
。
ーシャは競合の参入によって影響を受けるこ
クリックストリームによって収集されるデ
とが確認されている。この他にも,ウェブサ
ータは,消費者一人ひとりのサイト閲覧行動
イトの背景や色による影響や(Mandel and
履歴を URL ベースで積み上げたものが一般的
Johnson 2002),オンライン探索意図による影
であるが,その分析には量的側面からのもの
響(Shim et al.2001)などが指摘されている。
と質的側面からのものという大きく 2 つの視
オンライン情報探索によってもたらされる
点に分類可能である。まず,サイト閲覧行動
ものとしては,知覚された楽しさや遊び
の量的側面に注目した Huang et al.(2009)
(Play)といった経験価値の源泉が,サイトや
では,深さ(ページあたり閲覧時間)と幅
ブランドへの態度形成につながることが指摘
(総閲覧ページ数)といった視点から検討が加
されている(Mathwick and Rigdon 2004)。
えられている。彼らの研究では,経験財と探
また,先の Bloch et al.(1986)の主張にみら
索財とでオンライン閲覧行動が異なることが
れたように,オフライン探索のみならず,オ
指摘されており,経験財は探索財に比べてペ
ンライン探索においても,製品や市場に関す
ージあたり閲覧時間が長く,閲覧ページ数が
る知識が蓄積されることが予想される。すな
少ないことが確認されている。
わち探索経験が蓄積するにつれて特定ブラン
もう 1 つはサイト閲覧行動の質的側面に注
ドへの態度が形成され,オンライン探索の収
目するものであり,ここではサイトのコンテ
束がもたらされると考えられる。
ンツに応じた分析が行われる。Janiszewski
(1998)の類型化を踏襲した Moe(2003)で
④クリックストリーム分析
は,サイト閲覧行動を目的志向型(Goal-
消費者のオンライン情報探索についてヨリ
directed)と探索型(Exploratory)の 2 つに
詳細なサイト訪問データを分析対象とした研
分類している。前者は,「記憶内に貯蔵された
究蓄積に,クリックストリーム分析がある。
探索ルーチンや現行のタスク遂行のために行
クリックストリームデータは「ウェブサイト
われる計画された探索(Janiszewski(1998),
閲覧におけるページ遷移やパスに関する情報
291 ページ)」を指しており,消費者の意識的
を提供するもの(Montgomery et al.(2004),
な努力を伴うものである。後者は,「消費者が
579 ページ)」であり,消費者のオンライン情
特定情報を主体的に探索していない時に採用
報探索過程それ自体に注目した分析が行われ
される,周囲の環境をモニターする行為(同,
る。主な分析手法としては,ロジスティック
291 ページ)」を意味しており,目的を伴う探
回帰分析や一般線形モデル,クラスター分析
索行動とはその性質が大きく異なるものであ
やベイズ法などが一般的である(Hupfer et
る。Moe(2003)では,探索行動タイプと購
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買行動から閲覧行動が 4 つに分類されており,
ランド間の相違点が学習され,消費者の BP
それぞれの特徴と購買確率との関連が検討さ
知覚も低くなることが予想される 7)。したが
れている。
って,
仮説:消費者のオンライン情報探索が収束
クリックストリーム分析による研究の特徴
するにつれて,彼らの BP 知覚も低くなる。
は,購買やサイト訪問といった行動データが,
ページ遷移パターンという具体的な閲覧行動
笳――― 方法
データといかなる関連を有するかを解明する
ことに主たる関心があることである(たとえ
ば Montgomery et al.2004 ; Moe 2003 ;
本研究が掲げた仮説を検証するために,以
Moe and Yang 2009 など)。ここでは,行動
下の 2 つの方法によってデータ収集を行った。
データと行動データの関連が検討されており,
まず,消費者のオンライン情報探索に関する
消費者に内在する態度に関するデータとの関
データとして,健康食品(スポーツサプリメ
連を検討したものは稀少である。この理由と
ント)を販売する実在メーカー企業のサイト
して,実験的な手法を除いては(たとえば
における消費者の閲覧行動を一定期間すべて
Mandel and Johnson 2002 など),実際のサイ
記録した 8)。具体的には,サイトに登録した
ト閲覧行動データ収集時点において,サイト
会員一人ひとりのサイト訪問について,閲覧
やブランドへの態度に関する測定も同時に行
ページの URL を閲覧順に閲覧時刻と共に積み
うことが,通常のウェブサイト上では難しい
上げて記録した 9)。データ収集は 2010 年 11 月
こ と が 考 え ら れ る 6)。これに対し本研究は,
1 日から 2011 年 1 月 31 日にかけて行われた。
サイト閲覧行動データと態度データの収集を
ここでは Hupfer et al.(2008)に倣い,サイ
別々に行い,分析時点において統合すること
トへのアクセスを増やす仕組みとして,2010
によって,両者の関連を検討している。具体
年 12 月にプレゼントキャンペーンを実施し,
的には,消費者のオンライン情報探索のタイ
会員へメールマガジンを通じて告知した。サ
プによって,彼らの BP 知覚がどのように異
イトのコンテンツをもとに,閲覧ページを意
なってくるかについて検討する。
味的に異なる 8 つのカテゴリーに分類し,カ
テゴリーごとの閲覧ページ数や閲覧時間,サ
笆――― 仮説
イト訪問回数や総閲覧時間などについて,同
一の会員による閲覧履歴データを集計してデ
以上の議論から,探索的な仮説を導出する。
ータ化した 10)。
まず,消費者のオンライン情報探索について,
次に,同一の会員に対して製品カテゴリー
サイト閲覧行動が進むにつれて,製品やブラ
知識や BP を含む態度データを測定するため
ンドに関する知識が蓄積される。これによっ
のアンケートを実施した。具体的には,サイ
て,彼らのオンライン情報探索も特定のブラ
ト会員向けのメールマガジンを配信してプレ
ンドや属性情報などの項目に収束してゆくこ
ゼントキャンペーンを告知し,キャンペーン
とが予想される。この過程の中で,主要なブ
応募時点においてアンケートへの回答を依頼
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オンライン情報探索がブランド・パリティーに与える影響
した。メールは 2011 年 1 月 17 日から同 2 月 4
が 46.6 %,公務員が 6.1 %,自営業が 6.7 %,
日にかけて 2 万件程度配信し,3138 件のアン
主婦が 19.5 %,アルバイトが 4.6 %,学生が
ケートへの回答を収集した。回答時間が極端
5.3 %,その他が 11.2 %であった。地域は北海
に短い,または長いデータ,および回答傾向
道 4.9 %,東北 5.7 %,首都圏 30.3 %,東海・
が不適切なものを削除した結果,2711 件のデ
北陸 16.0 %,関西 20.7 %,中国・四国 8.0 %,
ータを得た。
九州・沖縄 6.9 %であった。会員登録期間は
BP 尺度は Muncy(1996)の 5 項目を採用
30 日以下が 1.5 %,1 カ月∼ 2 カ月が 6.0 %,2
し,すべて「全く同意しない」から「非常に
カ月∼ 3 カ月が 6.3 %,3 カ月∼半年が 16.1 %,
同意する」の 5 点尺度によって測定した。具
半年∼ 1 年が 16.2 %,1 年∼ 2 年が 31.9 %,2
体的な尺度項目は「①私はスポーツサプリメ
年∼ 3 年が 6.3 %,3 年∼ 4 年が 3.8 %,4 年以
ントのブランドごとの違いが全くわからない」
上が 11.9 %であった。
「②スポーツサプリメントの,それぞれのブラ
当該ブランドへの選好は 1 項目の 6 点尺度
ンドには大きな違いがあると思う」「③スポー
による測定で平均 4.89(.75),満足度は 1 項目
ツサプリメントのブランドにおける唯一の違
の 6 点尺度による測定で平均 4.82(.76)と,
いは価格である」「④ほとんどのスポーツサプ
全体的に高い傾向があった 12)。いっぽう,製
リメントブランドは基本的にどれも同じであ
品知識は 1 項目の 6 点尺度による測定で平均
る」「⑤スポーツサプリメントの主要なブラン
3.04(1.13),製品関与は 8 項目の 5 点尺度に
ドは全て同じである」の 5 つである。
よる測定で平均 2.31(1.05),3.07(1.19),
3.23(1.14),3.23(1.11),2.34(1.07),3.30
収集された 2711 件のアンケートデータを,
(1.03),3.25(1.13),3.42(1.05)と,比較的
会員番号に紐付けて先のサイト閲覧データと
バラツキのある傾向を示していた 13)。
統合した。そのうち,クリックストリームデ
ータ収集期間中に一度もサイトを訪問しなか
サイト閲覧行動の傾向としては,総訪問回
った 934 サンプルを削除し,合計 1777 件を分
数平均 3.15(2.47)回,総閲覧ページ数平均
析対象サンプルとした。期間中のサイト訪問
9.33(19.48)ページ,総滞在時間平均 354.57
回数が極端に多い 7 サンプルを除外した結果,
(958.01)秒であった。訪問回数 4 回までで全
最終的な分析対象サンプルは 1770 件となった 。
体の約 8 割,閲覧ページ数 5 ページまでで全
11)
体の約 6 割を占めていた。
笘――― 分析結果
②オンライン情報探索の類型化
①分析対象サンプルの傾向
サイトにおける閲覧ページ数を意味的に異
分析対象となった 1770 件は,男性が 59.9 %,
なる 8 つのカテゴリーごとに集計し,クラス
女性が 40.1 %であった。年齢は 19 歳以下が
ター分析を行った結果,4 つのクラスターを
3.4 %,20 代が 7.8 %,30 代が 24.9 %,40 代
抽出した。クラスター 1 は,オンライン情報
が 36.4 %,50 代が 18.6 %,60 代が 7.3 %,70
探索自体をほとんど行わず,サイト訪問後す
代以上が 1.6 %となっていた。職業は会社員
ぐに離脱するグループであったため,非探索
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クラスターと名付けた(N=1283)。クラスタ
を有すると考えられる。すなわち,訪問回数
ー 2 は,ある程度サイト訪問を行うものの,
では際立った差が無いものの,C2 が閲覧ペー
キャンペーン情報のみを探索して離脱するグ
ジあたり平均して 20.31 秒程度の時間をかけ
ループであったため,キャンペーン探索クラ
て主にキャンペーン情報のみを閲覧している
スターと名付けた(N=228)。クラスター 3 は,
のに対し,C3 では 45.10 秒と倍以上の時間を
トップページ閲覧が低く,特定情報(主に製
割いて商品紹介や栄養情報などを閲覧してい
品や栄養に関する情報)の探索が他と比べて
る。このことから,C2 は純粋にキャンペーン
高めだったため,栄養情報探索クラスターと
商品獲得のみを目的としたサイト訪問となっ
名付けた(N=200)。クラスター 4 は,サイト
ているのに対し,C3 は絞り込まれた特定の情
訪問が頻繁で,トップページも含めた幅広い
報を選択的に探索,閲覧していることが予想
コンテンツをくまなく探索していたため,ア
できる。オンライン情報探索の収束という視
クティブ探索クラスターと名付けた(N=59)。
点と照らし合わせてみると,C4 が拡大的な情
各クラスターのオンライン探索行動の特徴を
報探索を行っているのに対し,C3 はヨリ選択
まとめたものが 表− 1 である。なお,表の全
的な探索へと収束している可能性が高いと言
ての項目について,クラスターを因子とした
える。
一元配置分散分析を行った結果,全ての項目
③仮説検証
において 1 %水準で有意差が確認されている。
表− 1 からもわかるように,C4 によるオン
先に挙げた BP の 5 項目について,閲覧ク
ライン情報探索が突出して活発であり,探索
ラスターを因子とした分散分析をそれぞれ行
自体ほとんど行わない C1 と対照的である。
った結果,項目②を除く 4 つの変数において,
C2,C3 はいずれも絞り込まれた情報探索を
1 %水準で有意差が確認された(5 項目順に F
行っていると言えるが,閲覧ページ数や滞在
(3,1761)=7.41, p<.01,F(3,1761)=.44, p>.05,
秒数からもわかるように,両者は異なる性質
F(3,1757)=4.86, p<.01,F(3,1760)=7.46,
■表―― 1
オンライン情報探索の類型ごとの特徴
カ
テ
ゴ
リ
ー
ご
と
の
閲
覧
ペ
ー
ジ
数
閲覧クラスター
C1(非探索)
総訪問回数
2.15(1.10)
C2(キャンペーン探索) C3(栄養情報探索) C4(アクティブ探索)
5.28(1.28)
4.72(2.18)
11.44(4.26)
総閲覧ページ数
4.46(4.93)
8.61(4.10)
24.68(23.67)
66.14(66.55)
総滞在時間(秒
161.28(417.72)
174.88(483.75)
1113.17(1387.21)
2680.69(2859.26)
トップページ
.94(1.63)
2.32(1.48)
3.02(3.06)
14.51(8.37)
ブランド紹介
.03(.25)
.02(.15)
.18(.50)
.61(1.13)
個別商品の紹介
.72(3.19)
.31(1.41)
9.51(16.10)
32.58(52.31)
スポーツ&ニュートリションラボ
.10(.85)
.14(.86)
2.04(5.87)
2.53(5.07)
スポーツと栄養
.16(1.10)
.14(.86)
3.18(4.83)
4.59(10.19)
ファンクラブ情報
.29(.86)
.30(.91)
3.03(3.52)
4.85(5.47)
イベント情報
.02(1.64)
.01(.13)
.12(.39)
.36(.76)
キャンペーン情報
2.09(1.19)
5.29(1.43)
2.29(1.56)
3.63(2.59)
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オンライン情報探索がブランド・パリティーに与える影響
p<.01,F(3,1754)=6.36, p<.01)。閲覧クラス
(1.34),項目③ 2.57(1.02)&2.69(.97)>2.34
ターごとの BP 項目の平均値をまとめたもの
。
(1.12)&2.40(1.04)。図− 1 および図− 2 参照)
が表− 2 である。BP 項目①および③において
すなわち,他の 2 つのクラスターと比較して,
は,C1 と C2 が C3 と C4 に比べて高い数値を
C3 と C4 は「ブランドごとの違いが全くわか
示している(平均値は順に,項目① 3.15
らない」や「唯一の違いは価格である」とい
(1.07)&3.15(1.06)>2.82(1.17)&2.78
った項目にヨリ否定的な反応を示していた。
■表―― 2
オンライン情報探索の類型ごとの BP 平均値
閲覧クラスター
C1(非探索)
BP 項目①
3.15(1.07)
C2(キャンペーン探索) C3(栄養情報探索) C4(アクティブ探索)
3.15(1.06)
2.82(1.17)
BP 項目②
3.09(.97)
3.12(.93)
3.05(1.20)
3.20(1.11)
BP 項目③
2.57(1.02)
2.69(.97)
2.34(1.12)
2.40(1.04)
BP 項目④
2.70(1.02)
2.70(.95)
2.34(1.04)
2.54(1.30)
BP 項目⑤
2.52(.95)
2.45(.91)
2.21(.96)
2.42(1.12)
■図―― 1
■図―― 2
BP 項目①の平均
BP 項目③の平均
3.20
2.80
3.10
2.70
3.00
2.60
2.90
2.50
2.80
2.40
2.70
2.30
2.60
2.20
2.50
2.78(1.34)
2.10
1
2
3
4
■図―― 3
■図―― 4
BP 項目④の平均
BP 項目⑤の平均
2.80
1
2
3
4
1
2
3
4
2.55
2.50
2.45
2.40
2.35
2.30
2.25
2.20
2.15
2.10
2.05
2.00
2.70
2.60
2.50
2.40
2.30
2.20
2.10
1
2
3
4
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論文
次に,項目④および項目⑤においては,C3 が
(1.07))
。
他のクラスターよりも低い数値を示していた
オンライン情報探索の経時的変化と BP と
(平均値は項目④ 2.34(1.04),項目⑤ 2.21
の関連という視点から分析結果を解釈すれば
(.98)。 図− 3 および 図− 4 参照)。すなわち,
以下のようになる。すなわち,探索が行われ
他の 3 つのクラスターと比べて,C3 だけが
ない C1 はブランド選好や満足度,製品カテ
「ほとんどのブランドは基本的にどれも同じで
ゴリー知識が低く,BP 知覚は相対的に高いも
ある」や「主要なブランドは全て同じである」
のであった。一見すると探索を選択的に行っ
といった項目にヨリ否定的な反応を示してい
ていた C2 についても,ブランド選好や満足
た。すなわち,BP 知覚は C3 が最も低く,当
度,製品カテゴリー知識は C1 に類似して低
該製品カテゴリーにおけるブランド間の差異
くなっており,BP 知覚も同様に高くなってい
をヨリはっきりと知覚していた。次いで C4
た。したがって,C2 は購買意思決定に必要な
が低く,C1 および C2 において BP は高いと
情報を選択的に探索しているというよりはむ
認識されていると言える。したがって,オン
しろ,単にキャンペーン商品を獲得すること
ライン情報探索が C4 から C3 へと収束してい
だけを狙った層であると言える。
る可能性を合わせて考えると,仮説は概ね支
これに対し,C4 のオンライン情報探索は極
持されていると言ってよいだろう。
めて活発であり,先の Janiszewski(1998)や
Moe(2003)における探索型(Exploratory)
笙――― ディスカッション
の行動に近いと言える。この段階の消費者は,
さまざまな情報を探索することを通じて,購
①結果の解釈
買意思決定に必要な情報を広く獲得しようと
分析結果をヨリ詳細に検討するために,ク
していると言えよう。もしくは,明確な目的
ラスターごとにブランド選好や満足度,製品
を伴わないブラウジング的な探索において,
カテゴリー知識を比較してみたところ,いず
探索それ自体を楽しんでいる可能性もある。
れの変数においても有意差が確認された(順
いずれにしてもこのことは,C4 のブランド選
に F(3,1766)=25.44, p<.01,F(3,1164)
好や満足度,製品カテゴリー知識が相対的に
=3.39, p<.05,F(3,1766)=24.38, p<.01)。ブ
高いものであったこと,および BP 知覚の水
ランド選好は C3 と C4 が C1 と C2 よりも高く
準がある程度低かったことと整合的であると
(平均値は順に 5.26(.69)&5.25(.66)>4.84
言える。すなわち,当該製品購入のための情
(.75)&4.77(.73)),当該ブランド製品に対す
報を積極的に探索しつつ,製品知識を高めた
る満足度も同様の傾向を示していた(同様に
りブランド間の違いを見定めたりしようとし
4.94(.72)&5.02(.96)>4.80(.76)&4.73
ている過渡的な段階にある可能性が高い。
(.69))。また,製品カテゴリー知識について
C3 のオンライン情報探索は C4 と比べて収
も同様の傾向が確認され,C3 と C4 が C1 と
束されていたと言え,かつ,選択的に探索さ
C2 よりもヨリ高くなっていた(同様に 3.54
れていた情報は当該製品の購買意思決定に必
(1.02)&3.66(1.01)>2.97(1.14)&2.82
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要とされるタイプのものであった。これは,
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オンライン情報探索がブランド・パリティーに与える影響
先の分類における目的志向型(Goal-directed)
第 1 に,具体的なデータ収集方法を提示しつ
の探索に近いと言える。必要な情報のみを選
つ,消費者の実際の企業サイトにおけるオン
択的に探索できるようになっていると推測で
ライン情報探索の実態を明らかにしている点
きるため,情報探索の段階としては最も進ん
がある。本研究によって識別された 4 つの特
だ状態にある可能性が高いと言えるだろう。
徴的なクラスターから,消費者の経時的な情
このことは,彼らのブランド選好や満足度,
報探索行動の変化を推測することができ,こ
製品カテゴリー知識が総じて高く,同時に,
れによりロイヤル顧客育成のための具体的な
BP 知覚が突出して低いものであったことと整
方法について検討することができるだろう。
合的である。C1 や C2 が活発なオンライン情
第 2 に,BP 知覚やブランド選好,製品知識な
報探索を行っていない点には慎重な解釈が求
どの水準が,オンライン情報探索のいかなる
められるものの 14),探索が C3 → C4 と収束し
段階においてどのように異なるかを提示する
ていること,それに伴って BP 知覚も低くな
ことによって,サイトにおけるコンテンツ構
っていることは,重要な発見物であると言え
築や,それに伴った効果的なキャンペーンの
よう。
立案に示唆を与えることが期待できる。
②インプリケーション
③限界と展望
本研究によってもたらされた理論的含意と
一定の知見を得た本研究ではあるが,いく
しては,以下の 2 点が重要であろう。第 1 に,
つかの重大な限界も有している。外的妥当性
オンライン情報探索の類型化について,日本
については,今回収集されたデータは,当該
の健康食品市場における実際の企業サイト上
企業への好意的態度がある程度形成されたサ
の閲覧行動データを用いて行っている。これ
ンプルに偏っていたため,発見事項の一般化
により,同概念の精緻化に貢献するだけでな
には慎重を期すべきである。同時に,今回の
く,オンライン情報探索が次第に収束する可
調査対象となった健康食品は比較的高関与な
能性があることを提示しており,消費者購買
商品であるため,たとえば低関与な製品カテ
意思決定過程の動的な変化を捉えようとして
ゴリーにおいても同様の結果が得られるかど
いる点において,非常に意義のあるものであ
うかについては,異なる製品カテゴリーを採
る。第 2 は,オンライン情報探索と BP 知覚
用した調査を実施する必要があるだろう。
との関連を,理論的,実証的に探ることによ
内的妥当性については,オンライン情報探
って,探索行動と消費者の市場環境に対する
索の規定因として重要な変数である関与の影
知覚との関連を解明している点に関わる。特
響が検討される必要があるだろう。今回のサ
に,異なる 2 つのデータセットを統合する手
ンプルは全体的に製品関与水準が高く,その
法によって,ヨリ直接的な関連について検討
意味においてある程度統制されていたと考え
していることは,消費者情報処理過程の更な
られるものの,たとえば購買関与の水準が異
る解明に資するものである。
なれば,オンライン情報探索行動自体も影響
実務的含意としては,以下の 2 つがある。
を受けるはずである。また,調査期間内にサ
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イト会員が他のコミュニケーションメディア
特定の消費者が真に経時的変化を辿っている
に接触していた可能性は排除できないため,
かどうかの直接的解明をしたことになるとは
この点に関する統制も必要であったと言える。
言えないだろう。この点については,たとえ
しかしながら,クリックストリーム分析は実
ば分析単位をサイト訪問に落とした上で検討
在するブランドのサイトを対象としたもので
を加えるなどの対応が必要である。また,オ
あることから,この問題を完全に排除するこ
ンライン情報探索が BP 知覚に影響を与える
とは難しいだろう。この点については,別の
という因果の方向性は,今回収集されたデー
アプローチとして,たとえば架空ブランドや
タにおいては,オンライン探索の記録がアン
架空サイトなどにおける実験的手法による研
ケートデータの測定に時間的に先行していた
究も可能である。また,データ収集期間にお
点を除けば,直接的なサポートのないもので
ける市場環境の変化(たとえば,競合ブラン
ある。既存研究ではむしろ,BP 知覚や知識,
ドからの新製品導入など)についても,同様
関与の水準によって,消費者の情報探索が変
の対応が望まれるところであろう。
化することが強調されている。しかしながら,
構成概念妥当性については,オンライン情
このような関係はむしろ,双方向的に捉える
報探索の類型化において採用された手法がク
べきものであると考えられる。因果の方向性
ラスター分析であり,データを起点とした類
を厳密に特定するためには,たとえば実験的
型化となっている点は重大な限界であると言
手法を用いた経験データの収集などが必要不
えよう。特に,キャンペーン探索クラスター
可欠であると言えよう。オンライン情報探索
の位置付けについては,補完的な分析から推
が消費者の購買意思決定局面において果たす
論をする以外に方法がなかったが,この点に
役割はますます高まってくることが予想され
ついても改善が望まれるところである。また,
るため,更なる実証研究が待たれるところで
ブランド選好や満足度,製品カテゴリー知識
ある。
の測定が単一項目による尺度であったことも
問題である。アンケート回収率をできるだけ
謝辞
高めるために,被験者負荷や軽減することが
本研究の実施にあたり,ご協力いただいた
目指されたことがその主たる原因であるが,
企業様からは貴重なデータをご提供いただき
この点についても包括的な尺度を採用した研
ました。また,日経広告研究所の新クロスメ
究が待たれるところである。
ディア研究会の研究メンバーの方々からは,
その他の限界としては,収集されたデータ
お忙しい中貴重なご意見や多大なるサポート
の分析単位が個人レベルに集計された訪問の
を頂戴いたしました。ここに記して謝意を申
データであったため,厳密には個人内の経時
し上げます。なお,本稿におけるありうべき
的変化を直接的に捉えた分析であったとは言
誤謬は全て著者の責めに帰すべきものです。
えないことがある。データ収集期間における
消費者個人が,理論的に想定される探索収束
のどの時点に位置するかを分類しただけでは,
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オンライン情報探索がブランド・パリティーに与える影響
注
1)情報探索は外部探索と記憶探索の 2 種類があるが,
特に断りが無い限り,以下では単に情報探索と表
記する場合はオンライン探索も含めた広い外部探
索を意味する。
2)意思決定の簡便化を指摘する彼のモデルにおいて,
たとえば購買サイクルが長い場合などは,市場環
境の変化や選択基準のあいまい化といった要因に
よって,逆に探索が進むことがあることも捉えら
れている。
3)この点に関する詳細な記述については,坂下
(2008)などを参照されたい。
4)このことは,ブランドだけでなく,製品カテゴリ
ーに関する情報についても言えるだろう。すなわ
ち,探索の結果として製品知識が蓄積することに
よって,特定の事項に関する情報のみが探索対象
とされるようになり,情報探索は経時的に収束す
ると考えられる。
5)フロー経験とはインターネット閲覧中に生起する
状態のことを指し,①双方向性によって促進され
る継ぎ目のない反応の連続,②本質的に楽しい,
③自己意識の喪失を伴う,④それ自体が単独で強
化され続ける,といった性格を有する(Hoffman
and Novak 1996)
。
6)実際,クリックストリームデータが収集されるの
は通販サイトなどが多いが,閲覧履歴を記録した
後で詳細なアンケートなどを実施すると顧客が離
脱してしまう可能性が高いため,現実的には行わ
れないのが通常である。
7)たとえばコモディティー化が起こっている市場に
おいては,絶えざる同質化と差別化の結果,主要
なブランド間にそもそも差異がない場合も想定さ
れる。このような場合,消費者のオンライン探索
が進んだ結果として,BP が必然的に高いものとな
ってしまうことが予想される。このような状況を
回避し,オンライン探索行動と結果としての BP と
の関連のみを探るために,本研究では比較的ブラ
ンド間の差異があると考えられる製品カテゴリー
を対象としたサイトが選択されている。
8)スポーツサプリメントという製品カテゴリーは,
主要なブランドごとの成分や内容量,効果などの
違いが比較的存在すると考えられるため採用され
た。また,製品の購入はどちらかと言えば認知的
な意思決定によって行われることが想定され,実
際の購入に際してある程度の製品・ブランド情報
が必要とされるため,クリックストリームデータ
と知識や態度データとの関連を検討するのに適し
ていると考えられる。
9)以降の分析はすべて集計ベースで行い,特定会員
の閲覧行動が識別されることはないよう配慮した。
10)それらのカテゴリーとは,①トップページ,②ブ
ランド紹介,③個別商品の紹介,④スポーツ&ニ
ュートリションラボ,⑤スポーツと栄養,⑥ファ
ンクラブ情報,⑦イベント情報,⑧キャンペーン
情報の 8 つである。なお,カテゴリー分類は,実
際のサイト構築関係者の意見をもとに行った。
11)期間中のサイト訪問回数は,平均 3.34(標準偏差
3.95)回,最小値 1,最大値 78 であった。訪問回数
についてヒストグラムで確認したところ,1 回∼ 4
回で全体の 80.4 %,5 回∼ 24 回で 19.2 %,25 回∼
78 回が 0.3 %(実際は 32 回∼ 78 回)であった。実
際のサイトコンテンツも考慮し,訪問回数 32 回以
上のサンプルを異常値とみなし,分析から除外し
た。
12)この理由としては,今回収集されたデータがサイ
ト会員対象の調査によるものであったことが考え
られる。サンプルに偏りがあるため,結果の解釈
には慎重を期すべきである。なお,カッコ内の数
値は標準偏差である。
13)選好は「あなたは当該ブランドをどの程度好まし
いと思っていますか」で「非常に好ましい」から
「全く好ましくない」の 6 点尺度,満足度は「過去
1 年間で最も購入した当該ブランドの製品について,
どの程度満足していますか」で「非常に満足」か
ら「非常に不満」の 6 点尺度によって測定した。
製品知識は「あなたはスポーツサプリメントにつ
いてどの程度詳しい知識をお持ちですか」で「非
常に詳しい」から「全く詳しくない」の 6 点尺度
で測定した。製品関与は Laurent and Kapferer
(1985)による 16 項目のうち,「スポーツサプリメ
ントを購入する際,間違った製品を選んでしまっ
ても大したことではない」「スポーツサプリメント
購入後,もし自分の選択がよくなかったとわかる
とイライラすると思う」「スポーツサプリメントの
陳列棚の前でいつもどの製品を選ぶべきか多少戸
惑う」「スポーツサプリメントを選ぶのは非常に複
雑なことだ」「その人が選んだスポーツサプリメン
トによって,その人がどんな人かよくわかる」「ス
ポーツサプリメントを購入することは楽しい」「ス
ポーツサプリメントを購入するのは,自分にプレ
ゼントを買うようなものだ」「スポーツサプリメン
トは自分にとってとても重要なものだ」の 8 項目
を改変し,全て「非常に同意する」から「全く同
意しない」の 5 点尺度で測定した。
14)探索が行われなかった理由としては,たとえば店
頭やテレビ,雑誌など他の情報媒体を利用してい
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るため,企業サイトを対象とした情報探索が行わ
れなったことや,そのようなオンライン探索のス
キルが低かったことなどが考えられる。または,
過去における活発なオンライン探索の結果,必要
な情報がそれ以上サイトから得られないと考えて
いる可能性もある。この点については,今回収集
されたデータから特定することができなかったた
め,結果の解釈には慎重を期すべきである。
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坂下 玄哲(さかした もとたか)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。専攻は
消費者行動論。神戸大学経営学部卒業,同大学院経
営学研究科博士前期課程修了(修士),同後期課程
修了(博士(商学))。2004 年上智大学経済学部専任
講師を経て,2007 年より現職。最近の主要業績は,
Sakashita, Mototaka (2010),“An Exploratory Study
of Limited Information Acquisition : Do Brand
Names Make Product Evaluations Easy?,” Psy-
chologia, Vol.53, No.4 pp. 246-255. Sakashita, Mototaka and Kimura, Junko (2010),“Daughter as
Mother's Extended Self,”European Advances in
Consumer Research , Vol.9. 坂下玄哲・余田拓郎
(2010)「製品開発局面における成分ブランドの効果
ー空気清浄機の開発事例を手がかりに」,池尾恭
一・青木幸弘編『日本型マーケティングの新展開』,
有斐閣,pp.267-291。坂下玄哲・杉本徹雄・堀内圭
子(2009)「リピート購買要因の探索的研究∼トラ
イアル購買との関連を手がかりに∼」,『季刊マーケ
ティングジャーナル』,Vol.28,No.3,pp.16-27。
59
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