日本のリバースモゲージの現状と課題*

*
日本のリバースモゲージの現状と課題
1)朴泰珍**
[email protected]
<要旨>
日本のリバースモーゲージは1980年代に導入されたが、バブル経済の崩壊後の不動産価格の急落
により リバースモーゲージ市場は停滞しはじめいまに至っている。しかし、いま日本の急速な高齢
化と都市․市街地再生の必要性が高まり、リバースモーゲージを利用した資金の需要が増加するこ
とになり、日本政府としても福祉政策と都市環境的な側面からリバースモーゲージを活性化させる
ことがぜひ必要となってきた。リバースモーゲージ利用の活性化のためにはリバースモーゲージが
抱えているいくつかのリスクを軽減させることが貸し手にとって重要な課題となってくるが、この
ためには政策的に公的な保険制度を導入することがなによりも優先されるべきである。また発行さ
れたリバースモーゲージを証券化して流通しうる流動化市場の育成と借り入れ手の需要に応えるよう
な多様なリバースモーゲージ商品の開発が必要になる。
主題語: リバースモーゲージ(reverse mortgage), 流動化(securitization), モーゲージ(mortgage),
公的保険制度(public insurance system), 都市再生(townrestructuring)
1. はじめに
日本におけるリバースモーゲージは1981年に武蔵野市が導入したものが始まりであり、
四半世紀以上の歴史がある。しかし、その認知度は依然として低調と言わざるを得ない。
地価が上昇した1980年代には、大都市圏の自治体や民間金融機関等により、一定の運用
実績が積み重ねられてきた。しかし、バブル崩壊以降、実施主体となる地方自治体や民間
金融機関では、リバースモーゲージの普及に消極的になっているようである。
そのような状況下においても、少子高齢化の進展による年金財政の悪化、高齢期ライフ
スタイル及び現役世代の将来設計の選択肢の多様化への対応策の1つとして、リバース
モーゲージが注目を浴びることがあるのも事実であり、毎年少数ながら一定の持続的な契
約者数も見られる。
* 本研究は東義大学校2006年一般研究課題(2006AA060)による結果である。
** 東義大学校、財務不動産学科、副教授
264 日本近代學硏究……第 25 輯
もともとリバースモーゲージは、高齢者の生活基盤の安定を目的とし、月々の生活資金
融資を行うのが主流であった。しかしながら、1995年に起きた阪神淡路大震災の復興の場
面では、住宅再建を目的とした融資制度としてリバースモーゲージの仕組みが活用され
た。また、昨今では住宅金融支援機構により住宅のリフォームやマンション建て替えにか
かる費用を融資する制度が開始され、その他でもバリアフリーや耐震補強にかかるリ
フォーム資金の調達手段としての活用もみられるようになっている。
このようにリバースモーゲージは、新たな展開を見せつつあるということができる。
本稿では、リバースモーゲージの新たな転換期である現時点において、リバースモーゲー
ジのスキームや現行制度の確認及び今後の展開の方向性と課題について検討を行うもので
ある。
2. リバースモーゲージの現状
2.1 リバースモーゲージの仕組み
リバースモーゲージ(reverse mortgage)は逆抵当融資とも訳され、通常の住宅ローン
(forward mortgage)の逆、つまり不動産(多くは土地)を担保に貸付金を分割して定期的に受
け取り、契約終了時に一括返済するものだ。一般には、持家に居住しながら年金生活する
(House rich, Cash poor)高齢者を対象に、日常の生活資金や福祉サービス代金を確保するた
めに利用されることが多い。借受人(高齢者)の死亡や転居で契約は終了し、担保不動産を
売却することで一括返済する仕組みとなっている。
また、一般的な抵当融資(フォワードモーゲージ)は、契約期間の進行とともに負債が減
少して、当該不動産の持ち分比率が上昇するが、リバースモーゲージは、逆に住宅や土地
等の不動産を担保に融資を受け、契約期間の進行とともに負債が増加し、不動産の持ち分
比率は減少していくことが特徴である。
日本のリバースモゲージの現状と課題 ······················································································· 朴泰珍 265
図1 リバースモーゲージの仕組み
表1 リバースモーゲージと住宅ローンの違い
リバースモーゲージ
住宅ローン
生活資金の補填
住宅の購入
毎月・数ヶ月ごとに分割
契約時に一括受取り
契約終了時に一括返済
契約期間中に定期的に分割
借り手の負債
徐々に増加
徐々に減少
借り手の純資産
徐々に減少
徐々に増加
借入目的
借入金の受取り
借入金の返済方法
2.2 日本のリバースモーゲージの種類
日本のリバースモーゲージは、公的機関と民間企業によって実施されているものに大別
することができる。
公的機関では、高齢者の生活基盤の安定を目的とした福祉施策の一環として、地方自治
体や全国の社会福祉協議会が、生活資金や有償福祉サービス購入資金等を融資している。
地方自治体のリバースモーゲージには、自らが融資を行う「直接融資方式」と民間金融機
266 日本近代學硏究……第 25 輯
関への仲介を行う「間接(斡旋)融資方式」がある。全国の社会福祉協議会が実施している
「長期生活支援資金貸付制度」は、厚生労働省によるリバースモーゲージである。
民間企業においては、富裕層や自社商品購入者に対するサービスの一環として、金融機
関や住宅メーカーが融資をしている。
① 公的機関によるリバースモーゲージ
前述の通り、日本におけるリバースモーゲージは1981年に武蔵野市が導入したものが始
まりであるが、その他多くの公的機関では1990年代前半に首都圏を中心に制度化がなされ
た。バブル崩壊以降は、神戸市における震災復興の一環の制度等を除いてほとんど見られ
ない。関西地域では、大阪市や神戸市等の都市部において制度化がなされているものの、
利用状況は低迷しており、大阪市では2005年3月末をもって実績ゼロのまま制度を廃止し
ている。住宅金融支援機構や都道府県社会福祉協議会は全国に制度を展開しており、毎年
一定の利用実績があると聞かれる。
公的機関におけるリバースモーゲージの特徴は、有償福祉サービスの購入やバリアフ
リー化及び耐震補強に係るリフォーム資金等、使途を限定しているものが多いことであ
る。
また、全国組織では直接融資を行っているものの、地方組織ではある一定の条件を満た
した対象者を民間金融機関へ仲介する斡旋方式を採用しているケースが圧倒的に多い。
② 民間企業におけるリバースモーゲージ
民間企業においては、信託銀行6社が1984年から1989年にかけてリバースモーゲージを
商品化している。1980年代の地価上昇期においては、契約件数及び金額を順調に積み上げ
ていたが、バブル崩壊以降、事実上停止している状態であった。しかし、近年リバース
モーゲージを改めて商品とする金融機関も見られ、比較的積極的な金融機関として、中央
三井信託銀行と東京スター銀行が挙げられることが多い。公的プランとの大きな相違は、
富裕層を対象としていることである。また、資金使途は、公的プランの場合は原則として
有償福祉サービスの購入資金用やバリアフリー・耐震補強等に係るリフォーム資金等に限
定されているが、民間のプランの場合は使途に制約がない。
また、金融機関だけではなく、住宅メーカーがグループのファイナンス企業と連携して
自社物件オーナー等を対象に商品化している例も見られる。
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表2 リバースモーゲージ商品・制度の種類
機関分類
公的機関
取扱機関
特徴
地方自治体
東京都武蔵野市、
世田谷区など
最も歴史があり、全国で20前後の自治体
が導入しているが、実績は少ない。融資
は直接自治体が行うものと、金融機関を
介するものがある。
厚生労働省
厚生労働省
低所得世帯向けの福祉政策的要素が強
く、利用者は伸びてきている。
独立行政法人
住宅金融支援機構
目的が住宅のリフォームや、マンション
の建替えに限定されており、融資限度額
も比較的少ない。
金融機関
信託銀行、銀行など
導入企業がまだ少ない。他の機関との提
携によるリスク低減などにとり、利用用
件の緩和と多様なプラン開発が必要。
ハウスメーカ
大手、地域ハウス
メーカなど
基本的に自社住宅の購入時のサービスで
あるため、利用者が自社の顧客に限定さ
れる。
民間企業
3. リバースモーゲージの問題点
高齢化の進展により需要が拡大するとみられていたにもかかわらず、90年代以降、今日
までリバースモーゲージの低迷が続いている背景は何なのか。次に、リバースモーゲージ
の三つの問題点である商品固有のリスク、日本固有の問題、高齢者の意識についてみてみ
よう。
3.1 商品固有のリスク
リバースモーゲージは、不動産を担保とした長期におよぶ逆抵当融資という性質、ま
たは契約者が高齢者であるという性質、様々なリスクが存在する。
その中でも融資総額が融資限度額を超えてしまう「担保われリスク」が大きな課題と
なる。担保われを生じさせる要因として「不動産価格の下落」「金利上昇」「利用者の長
生き」があり、これらは「リバースモーゲージの三大リスク」ともよばれている。
268 日本近代學硏究……第 25 輯
① 不動産価格下落リスク
契約期間中に不動産価格が下落することにより、契約が終了する前に融資残高が融資限
度額に達してしまうこと。
② 金利上昇リスク
契約期間中に金利が予想以上に上昇し、利息を含めた融資残高が膨らむことにより、契
約が終了する前に融資残高が融資限度額に達してしまうこと。
③ 長生きリスク
利用者が予想以上に長生きすることにより、利用者の存命中に融資残高が融資限度額に
達してしまうこと。
3.2 日本固有の問題点
日本固有の問題点として、住宅の質と住宅流通市場に問題があげられる。日本と欧米諸
国の住宅寿命を比較すると、日本では約30年と、イギリスの141年、アメリカの96年に比
べて大幅に短い1)。このため、貸し手側にとっては、日本の住宅資産の価値が欧米に比べ
て短期間で減価するリスクが存在する。とくに、高齢者の住宅資産については、すでに老
朽化しているものも少なくない。政府の調査によると、現在住んでいる住宅の問題点とし
て「住まいが古くなり傷んでいる」が21.2%ともっとも高くなっている2)[2]。
また、リバースモーゲージが普及するためには、担保不動産が円滑に処分できることが
前提となるが、日本の既存の住宅流通量は年間15万戸程度と、アメリカの500万戸に比べて
極めて少ない。このため、契約終了後に担保不動産が円滑に売却できず、不良債権化する
リスクが少なくない。これも、貸し手の取り組みを困難にしている要因の一つである。こ
うした住宅寿命の短さと住宅市場の厚み不足といった問題をもたらした要因の一つには、
日本のこれまで既存住宅の流通市場を活性化させる取り組みが十分でなっかたこともある
とみられる。
1) 国土交通省、全住宅数・年間新築戸数
2) 内閣府、「高齢者の住居と生活環境に関する意識調査」、2001年
日本のリバースモゲージの現状と課題 ······················································································· 朴泰珍 269
3.3 高齢者の意識の問題
借り手となる高齢者の間に住宅資産を遺産として子孫に残したいという動機が強いこ
とがリバースモーゲージの普及を遅らせたとしばしば指摘されている。しかし、最近では
都市部における高齢者のみの世帯の増加などを背景に価値観の変化が見られる。政府の調
査3)[3]によると高齢者の生活費の不足への対応に関して、1995年の調査でもっとも回答割
合の大きかった「子供と同居したり、子供に助けてもらう」は6.6%から26.6%に低下し3位
となり、代わって「生活費を節約して間に合わせる」、「貯蓄を取り崩してまかなう」が
1位、2位となっている。
4. リバースモーゲージの普及に向けた政策課題
4.1 今後の展開の方向性
日本のリバースモーゲージの展開は、高齢期の日々の生活を少しでも安定したゆとりあ
るものとする高齢期の生活基盤安定方策としての一面と、老朽化する資産の更新を図り、
生活再建、住居環境および地域環境の向上、防災上の向上を図る都市再生・市街地再生と
しての一面がある。さらに、今後の展開としてリバースモーゲージの市場形成も重要な
テーマとなる。
ここでは、それらの今後の展開の方向性について検討を行う。
① 高齢期の生活基盤安定方策
高齢期の生活基盤安定方策としてのリバースモーゲージとは、おもに生活資金の融資を
目的としている制度を示しており、長期生活支援資金貸付制度をいう。
長期生活支援資金貸付制度については、制度を開始した都道府県が39ヶ所、契約件数が
123件となる。制度を実施している都道府県の平均契約件数では3.15件であるが、既存の地
方公共団体が実施しているリバースモーゲージでは、いまだに契約件数ゼロであるものも
見られ、1981年に制度が開始された武蔵野市においても、2001年調査時点では累計契約数
が85件であることを考えると、2003年にスタートされわずか1年間で136件の実績を挙げて
3) 内閣府、「高齢者の経済生活の意識調査」、2002年
270 日本近代學硏究……第 25 輯
いる長期生活支援資金貸付制度は、生活基盤安定方策型のリバースモーゲージの普及を急
速に促進させる可能性を秘めていると考えられる。
現在展開されている生活基盤安定方策型のリバースモーゲージをよく見ると、既存の地
方公共団体による制度では、制度を実施している市町村区に居住していなければ制度活用
の対象にならない。また長期生活支援資金貸付制度では、借入れ世帯が市長村民税非課税
程度の所得であることがひつようである。
すなわち、不動産を所有している高齢者であれば誰でも活用できる制度ではなく、居住
地域や所得による制限がある。公的な施策であれば、施策の目的に応じ利用するための要
件があることは当然であるが、高齢期の生活基盤を安定化させる方策のメニューとして活
用できる対象層が広がり、不動産を所有する高齢者にとって、リバースモーゲージという
門戸が大きく開かれ、高齢期の生活を設計する上での大きな選択肢の一つとなることが望
まれる。
② 都市再生・市街地再生
リバースモーゲージが都市再生・市街地再生に活用された発端は、阪神淡路大震災後の
住宅再建のために創設された「神戸市災害復興住宅高齢者向け不動産処分型特別融資制
度」であろう。
その後、住宅金融公庫により都市居住再生融資制度が創設されている。この制度は、住
宅の共同建替えやマンションた建替えに対して融資が行われる。リバースモーゲージとい
われる所以としては、60歳以上の高齢者で用件を満たすものは高齢者向け返済特例制度の
活用できるのである。この制度は、利息分については毎月の返済が必要であるが、元金に
ついては契約者死亡時に一括返済できる制度である。
また、密集住宅市街地の老朽化ストック更新のための「市街地整備型リバースモーゲー
ジ」なるスキーム開発の検討も行われており、リバースモーゲージの都市再生・市街地再
生への活用の展開も活発化を見せている。
③ リバースモーゲージ流通市場の形成
2003年6月に住宅金融公庫法及び住宅融資保険法の一部を改正する法律が公布・施行され
ることにより、住宅金融公庫による証券化支援事業(買取型・保証型)が行われることと
なった。買取型とは、民間金融機関などの貸付債権を公庫が買い取り、その貸付債権を信
託公社などに信託し、当該貸付債権を担保として、住宅金融公庫債券を発行するものであ
日本のリバースモゲージの現状と課題 ······················································································· 朴泰珍 271
り、保証型とは、公庫の住宅融資保険が付けられた民間金融機関の住宅ローン債権やその
信託受益権を担保とする債券などについて、公庫が期日どおりに元利払いを保証するもの
である。
アメリカの住宅ローン流通市場が本格稼動を見せたのは1970年代からであり、40年近く
の歴史があり、一次市場による保険と二次市場によるリバースモーゲージの買取りが行わ
れるHECM(Home Equity Conversion Mortgage)の創設についても、住宅ローン流通市場の
土台があるからである。
米国では1960年代に導入されたリバースモーゲージだが、民間企業ではほとんど失敗に
終わり、90年代に公的機関であるHECM (Home EquityConversion Mortgage)のもとで本格
的な普及に至った。米国の場合、貸付時に連邦住宅庁(FHA)による保険制度が完備し、証
券化市場でFNMA(連邦抵当権協会)によるリバースモーゲージ債権の買取りも行われてお
り、融資サイドの担保割れリスクは回避されている。90年代の米国では住宅価格が上昇し
たことも、普及の大きな要因となった。
一方、日本ではまだリバースモーゲージを流通させる市場が極めて制限されている。貸
し手にとってリバースモーゲージの証券化を通じる資産の流動化が困難であるならば、リ
バースモーゲージに積極的に取り組むメリットがない。
日本においても、住宅ローン流通市場の形成という大きな課題を見据えながら、それと
同時に、リバースモーゲージに関する市場システムの形成についても同時に検討されるこ
とが期待される。
4.2 普及に向けた政策課題
① 公的保険制度の整備
これまで日本ではリバースモーゲージ固有の3大リスクへの対応として、貸し手側が担
保の掛け目を低く設定することで担保割れのリスクを小さくするなどの方法がとられてい
たが、リバースモーゲージの利用を拡大させるためには、第一に、固有のリスクを軽減す
る公的保険制度の整備が不可欠と考えられる。
公的保険で、融資総額が不動産の資産価値を超える場合、超過分を保険でカバーできれ
ば、不動産価格低下や金利上昇リスクを解消できる。アメリカのケースは、日本に公的保
険制度を導入する際の参考になると思われる。アメリカのリバース・モーゲージには次の
ような3種類の商品がある。
272 日本近代學硏究……第 25 輯
ⓐ連邦政府の住宅都市開発省のHECM(低所得者向け)
ⓑホームキーパー(低・中所得者対象)
ⓒ民間金融機関のファイナンシャルフリーダム(高額所得者対象)
アメリカの場合、リバースモーゲージはとくにHECMを中心に増加してきており、
HECMを提供する金融機関も年々拡大している。その理由は、FHA(連邦住宅庁)保険によ
るところが大きい。これは住宅都市開発省傘下の連邦住宅局による保険で、保険料が割安
である点と融資主体が支払不能になった場合、契約者への支払いを保証すること、契約者
に対する融資総額が住宅の資産価値を超えた場合、超過分を融資体に保証することとなっ
ている。また遺族の同意が得られやすいように税制の配慮が求められ、各所得者層に合わ
せたメニューの多様化もアメリカに学ぶべき点が多いと思われる。4)
② 中古住宅市場整備
高齢者住宅を流動化するためには、中古住宅市場の規模が拡大し、市場が整備される必
要があるが、日本の中古住宅市場の現状は、お寒い限りである。中古住宅の流通量は、米
国の年間400万戸に対し、日本は15万戸と市場規模が圧倒的に小さい。
さらに国内の中古住宅流通市場の特性として建替え周期の短さが指摘されている。木造
で20~30年で建替えられている。戦前は、木造住宅も躯体が強固なものが多く、かなり長
期間使用されていたが、戦後、特に高度成長期は、社会変化が激変するため設備や間取り
が陳腐化し居住ニーズにすぐ合わなくなるため短期間で使い捨て状態になつた。欧米の住
宅が45年~70年程度の建替え周期を持ち大事に使用されてきたことと対照的である。高齢
者の住宅は、一般に経年が進み、老朽化している。住宅に市場価値がないといきおい担保
評価は土地価額のみとなってしまう。
しかし市場に変化の兆しがでてきたため、今後、中古住宅の価格査定法が変わり、リバー
スモーゲージを後押しするかもしれない。まず「住宅の品質確保の促進等に関する法律
(品確法)」と住宅性能表示制度の創設である。品確法では10年間の瑕疵担保責任が全ての
業者に義務つけられた。構造上の欠陥だけでなく屋根、外壁からの雨漏りも10年間とされ
たため構造体の欠陥、手抜き工事による住宅の従来の短命化が相当カバーされる。大手住
宅メーカーは躯体部分の保証を20年まで対象にしているところもある。
さらに2002年、国土交通省大臣が指定した指定住宅性能評価機関が、不動産売買やリホー
4) UFJ総合研究所(2004.7)、「改めて注目されるリバースモーゲージ」、調査レポート
日本のリバースモゲージの現状と課題 ······················································································· 朴泰珍 273
ム工事の当事者でない第三者機関として、客観的に評価する「中古住宅の検査・評価制
度」がスタートした。
これらの施策による建物の長寿命化の進行により、従来の中古住宅の価格査定法も変わ
り、建物価格を一律に経年減価する従来方式から住宅性能表示制度に近い個別の価格査定
が普及すると思われる。住宅メーカーもスクラップ&ビルドから地球環境に優しい住宅再
生へ舵を切り、住宅各社ともリホーム事業を整備、拡大している。100年住宅など高耐久住
宅やSI住宅を標榜する時代になってきている。中古住宅市場が整備され、透明性が高い価
格付けが行われ、新築住宅の高耐久化が進み、リホームなど住宅再生化が軌道にのれば、
リバースモゲージの制度環境が飛躍的に整備されるだろう。
③ 証券化
アメリカではリバースモーゲージ債権を政府系の住宅金融機関である米連邦抵当金庫
(ファニーメイ)が買い取り、資金調達を支援、信用補完するシステムができており、同制
度の普及に大きく寄与している。
モーゲージ証券はアメリカでは国債並みの巨大市場を形成している。住宅ローンの貸し
手であるオリジネーターが、住宅ローンを貸し出し、この住宅ローン債権を証券発行体に
売却をし、証券発行体は、これをもとにしてモーゲージ証券を発行する。発行された証券
は、元利金支払の保証がされるなど信用力や格付が高められた上で、投資家に販売され
る。モーゲージ証券の大部分は、政府系の機関である連邦政府抵当金庫、連邦住宅抵抗公
庫、連邦住宅金融抵当金庫により発行されており、信用格付けの高い債券として米国債券
市場における取引高の主要な地位を占めている。
最近のアメリカにおけるモーゲージ発経済危機はモーゲージ商品自体の問題ではなく、
それを運用する金融機関の放漫な投資慣行に問題の根源があり、規律のある投資慣行が定
着すれば、モーゲージを活用した資産の流動化はこれを必要とする人だけではなく経済の
活性化にも大いにつながるものと考えられる。
リバースモーゲージが日本でアメリカ並みの証券化市場に成長するには、課題が多い。
まず日本ではリバース・モーゲージ融資案件が極端に少なく、債権をプールし、証券化す
るにはロットが小さい。さらに制度の性格上、融資期間が確定しにくいという問題もあ
る。いずれにせよ、リバースモゲージを急成長させる総合的施策や住宅金融証券化のイン
フラストラクチャーが急がれる。
274 日本近代學硏究……第 25 輯
④ 高齢者のニーズに合った商品設計
国や自治体が取り組んでいるリバースモーゲージを普及させるためには借り手側のニー
ズを満たすような実務レベルの工夫の余地も大きいとみられる。
たとえば、契約時には不動産鑑定料や登記費用など数十万円の諸費用がかかるといわれ
るが、この点については、借り手側の負担を軽減する施策が重要であろう。また対象物件
については、現状は戸建てとなっているが、戸建てを離れてマンションに移転する高齢者
が増えていることを考慮すると、今後はマンションも対象物件に加えることを検討する必
要があろう。
現状の制度では、融資の取り組みを実施する際に、資産価値が大幅に下落したときの補
填や遺産創造をめぐるトラブルの発生を想定して連帯保証人を求めてきたが、本来、住宅
資産そのものを返済原資とするリバースモーゲージでは、保証人による返済は二次的なも
のである。また連帯保証人を要求することは、高齢者が子供から自立して生活し資産を処
分するという考え方と矛盾する面がある。
5. おわりに
これまで見てきたように、日本のリバースモーゲージは1980年代に導入されたものの、
バブル崩壊後、不動産価格の大幅な下落によって、貸し手側のリスクが高まった結果、90
年代を通じて取り組み件数は低迷していた。2003年度から全国の都道府県がリバースモー
ゲージを制度化した点は注目されるが、福祉政策的な性格が強い限定的対応となってお
り、高齢化社会に向けた抜本的な施策という観点からは力不足という感がある。
しかし、日本の急速な高齢化という現象と都市や市街地再生などを踏まえると、高齢者
が住宅資産を現金化することで年金を補完していく仕組みの意義は一段と重要になってく
るとおもわれる。リバースモーゲージの利用拡大のためにも、公的保険制度を早期に整備
することで民間部門の貸し手の育成・参入を促進していく必要がある。アメリカではファ
ニーメイ(連邦住宅抵当金庫)が提携金融機関からリバースモーゲージ債権を買い取ってい
ることもリバースモーゲージの拡大に寄与しているといわれている。日本においても、ア
メリカの事例を参考にしつつ、リバースモーゲージのリスクを軽減するために、保険制度
とともに証券化スキームの導入も今後の検討課題であるといえる。
日本のリバースモゲージの現状と課題 ······················································································· 朴泰珍 275
【참고문헌】
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学術発表
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松浦克己・白石小百合(2004)『資産選択と日本経済―家計からの視点―』、東洋経済新報社
三橋,中島,加藤,小松,吉田(1999)「全国の木造専用住宅の寿命に関する研究」『日本建築学会大会学術講演梗
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課題」、『環境』Vol.3、日本環境共生学会
東京都生活文化局(1997)『高齢期における資産運用と生活設計』
都市基盤整備公団(2000)『既成市街地整備手法に関する基礎的調査』
UFJ総合研究所(2004.7)、「改めて注目されるリバースモーゲージ」、調査レポート
<필자인적사항>
박태진
근무처: 동의대학교 재무부동산학과
주 소: 641-715 부산광역시 부산진구 엄광로 9950
전 화: 890-2202
직위: 부교수
HP: 010-7245-7774
논문투고일
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