悪路におけるサスペンション設計の提案

悪路におけるサスペンション設計の提案
7班
堀古翔太
1.
はじめに
操縦性や乗心地といった部分は人が乗車する際に
まず感じることであり、特に乗心地は乗員全員が感
じるものである。この乗心地は主にサスペンション
の特性によって決まる。そこで今回の研究では、あ
る程度の悪路であっても、乗員が不快なくかつ最低
限の安全性があるようなサスペンションの設計を考
えることを目的とする。
理論
まず、サスペンションとは車両の支持および車体
の振動を抑制して走行性を高めるための装置をいい、
主にスプリングとダンパによって構成されている。
スプリングとはばねのことであり、この上下方向へ
の弾性が車体の振動を抑制するはたらきをする。ス
プリングの硬さは固有振動数𝑓𝑛 [Hz]によって決まり、
ばね定数𝑘[kg/m]と 1 車輪にかかる荷重𝑊[kg]から、
量𝑀[kg]、重心高𝐻[m]、ロールセンタ高ℎ[m]として
4.9 × 𝑀(𝐻 − ℎ)
360
𝜃=
×
(5)
𝑚𝑓 + 𝑚𝑟 − 𝑀(𝐻 − ℎ) 2𝜋
と表す。3)この値が 6°以下であれば安全に走行がで
きるといわれている。また、(5)式における𝑚[N ∙ m]
はそれぞれフロントとリアのロール剛性を表してお
り、ばね間距離を𝑏[m]、スプリングとスタビライザ
のばね定数をそれぞれ𝑘1 [N/m]、𝑘2 [N/m]として
1
𝑚 = (𝑘1 + 𝑘2 )𝑏 2
2
2.
𝑓𝑛 =
1 𝑘𝑔
√
2𝜋 𝑊
(1)
と表される。 1)ダンパはばねによる振動を減衰させ
る役割を持っている。この特性は減衰係数比ζ[%]で
決まり、ダンパの粘性減衰係数𝑐[kg ∙ s/m]を用いて、
𝑐
ζ=
× 100
(2)
√(𝑊/𝑔)𝑘
と表される。1)
一方乗心地については、Janewayの限界曲線で評
価される。これは振幅𝑦𝑔 [cm]と振動数𝑓[Hz]により、
𝑦𝑔 × 𝑓 3 ≤ 5
(3)
1) 4)
と表される。 自動車の場合、実際に乗員が感じる
振幅𝑦[cm]が(3)式で求まった限界値の 5 倍以内であ
れば、苦痛なく乗っていられる範囲であるといえる。
また乗員に伝わる振動は振動伝達率X[%]より求め
ることができる。これは路面から入力される振動が
ばね上へどれだけ伝達するかを表したものであり、
入力が周期的な振動である場合、
1 + {2𝜁(𝑓⁄𝑓𝑛 )}2
X=√
{1 − (𝑓⁄𝑓𝑛 )2 }2 + {2𝜁(𝑓⁄𝑓𝑛 )}2
と表される。3)
3.
計算方法
今回の計算は以下の図 1 にあるようなモデル、条
件で行った。図1のモデルは三菱パジェロ 4WD・
3.2D・LONG・GR・AT が元となっている。これを選ん
だ理由としてパジェロのような SUV 車は車高が高く、
ロール率が大きいので、他の一般車への適用範囲を
カバーできると考えたためである。乗心地について
は図 1 右のような周期的な上下動のある路面を走る
ときを考えた。また、計算を行う際にサスペンショ
ン形式は車軸懸架式、輪荷重𝑊[kg]を車両重量𝑀[kg]
の 4 分の 1、重心高𝐻[m]を全高の半分、ロールセン
タ高ℎ[m]を車軸の高さ、スプリング位置をホイール
端にあるとし、前後左右で同じサスペンションを使
うものとして計算を行った。この計算は数式処理シ
ステムである Mathematica を用いて行った。
4.
結果
まず(4)式をグラフに表わすと図 2 のようになる。
これを見ると振動数𝑓が大きいと考えられる普通の
走行の場合、減衰係数比ζが小さい方がより制振効果
が大きいことがわかる。またζの値は一般に30~50%
が適正といわれるため、今回は30%として粘性減衰
係数𝑐を定めて計算を行った。その結果が図 3 であ
る。このグラフから上の直線以上だと安全、下の直
(4)
と表すことができる。2)
また、安全性について今回はロール率𝜃[deg]を用
いて評価した。ロール率とは横加速度が𝑔/2[m/s 2 ]
かかるときの車体の傾きを表すものであり、車両重
(6)
図 1 計算モデル
表 1 サスペンションの設計例
図 2 振動伝達率
図 3 安全性および乗り心地から求めたばね定数
線以下だと乗心地が良いということができる。
5.
考察
図 3 の結果より安全性と乗り心地を両立する車は、
一般車の重量範囲では存在しないことがわかる。こ
の差を埋めるために考えられることは、スタビライ
ザによるロール剛性の補強である。スタビライザと
はねじりばねの剛性を利用した装置であり、上下振
動については影響を与えない。よって乗心地に影響
を与えることなくロール率を抑えることができる。
今回の場合、ある車両重量において上下グラフの差
図 4 振幅および振動数と乗り心地の関係
以上のスタビライザ𝑘2 を用いればよい。これにより
設計される一般車の例は表1よりあらわされる。
また、今回設定したサスペンション設計の適用範
囲を考える。このサスペンションで乗心地よく走る
ことができる範囲は(3)式より𝑦が5𝑦𝑔 より小さいと
きであり、振動数𝑓と最大振幅𝑌[cm]を変数とすると、
図 4 のように表すことができる。このグラフで 0 の
平面より上が乗心地よく乗車できる範囲である。グ
ラフより、振動数および振幅が高いほど乗心地が良
い範囲が狭く、振幅に関しては15cmより高いと今回
のサスペンション設計では乗心地が良くならないこ
とが読み取れる。
今回設計したサスペンションは、市販されている
車よりかなり小さいものとなった。この理由として、
まずサスペンションの設計が異なっていることがあ
る。今回はホイール端にサスペンションがあるとし
て考えたが、実際は少し内側に取り付けられる場合
が多い。よってタイヤにかかる力よりばねにかかる
力の方が大きいため固いばねが必要となる。また一
般車は公道を速く走ることを考慮されているため、
悪路を低速で乗心地良く走行するよう設計された今
回の結果とは目的が違うことも理由の 1 つである。
6. まとめ
計算の結果悪路を乗り心地よく走れるサスペンシ
ョンの具体的なパラメータを求めることができた。
また今回の設計は最大で15cm程度の振幅の道路を
不快なく走れることがわかった。
参考文献
1) カバヤ工業株式会社,自動車のサスペンション,
山海堂(2005)
2) 日本機械学会,機械システムのダイナミックス
入門,日本機械学会(1990)
3) 自動車技術会,自動車技術ハンドブック<第 5 分
冊>設計(シャシ)編,自動車技術会(2005)
4) 平尾収,理論自動車工学,山海堂(1964)