これぞコンピュータ産業盟主の発想 競合他社に決定的な差異をつけた

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最新コンピュータテクノロジー原点を探る
これぞコンピュータ産業盟主の発想
競合他社に決定的な差異をつけたシステム z
日本アイ・ビー・エム(株)
システムz事業部長
朝海
孝氏
コ ン ピ ュ ー タ 産 業 の 中 核 事 業 と は 何 か 。生 ま れ な が ら に コ ン ピ ュ ー タ が 存 在
し て い る 世 代 が ほ と ん ど と な っ た 昨 今 、そ し て コ ン ピ ュ ー タ 活 用 が 当 た り 前 の
時 代 に あ っ て 、こ の 基 本 テ ー ゼ は 意 味 を な さ な い か も し れ な い 。し か し 、待 っ
て も ら い た い 。コ ン ピ ュ ー タ 活 用 ベ ー ス の 大 規 模 プ ロ ジ ェ ク ト の 破 綻 、SI ビ ジ
ネ ス 事 業 者 の 損 失 計 上 な ど を 見 る と 、改 め て コ ン ピ ュ ー タ 産 業 の コ ア テ ク ノ ロ
ジ ー と は 何 か か ら 今 一 度 考 え 直 し て み る 必 要 が あ る と 思 う 。業 界 競 争 に 淘 汰 さ
れ 多 く の コ ン ピ ュ ー タ メ ー カ ー が 消 え て い っ た 。関 与 で き な く な っ た と い う 理
由 で「 コ ン ピ ュ ー タ 産 業 の コ ア と は 何 か 」の 基 本 テ ー ゼ に 背 を 向 け て い る メ ー
カ ー も 増 え て い る 。 コ ン ピ ュ ー タ 産 業 界 の 巨 人 IBM は ど う 考 え て い る の か 。
システム z ビジネスを指揮する朝海
孝事業部長に聞いた(編集部)。
システム z の位 置 付 け
本誌
まずは、システムzの最近の動向からお願い致します。
朝海
昨 年 、 シ ス テ ム z10 の ハ イ エ ン ド モ デ ル と ミ ッ ド レ ン ジ の モ デ ル を 発
表しています。
両方を同じ年に発表するというのは私どもにとっては異例のことでした。し
かも、エポックメイキングなテクノロジー製品の発表を、昨年 2 月、日本から
世界に向けて行ったというのも異例なことだと言えると思います。
こ の こ と か ら 日 本 の メ イ ン フ レ ー ム ユ ー ザ ー の 皆 様 が 私 ど も IBM に と り ま し
て 、非 常 に 重 要 度 の 高 い ID を 持 っ て い る と い う こ と を ご 理 解 し て い た だ け る も
のと思っています。
思い起こせば、日本のお客様はメインフレームしかなかった時代から、世界
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的に見ても高度かつ先進的な活用の仕方をして来られていると考えております。
本誌
例えばどういう点からですか。
朝海
日本の企業は、当初から企業の全体を最適化するという考え方を貫い
てきていることが上げられます。
部分最適ではなく、全社横断的なプロジェクトを立ち上げることが多くみら
れると思います。
かつての都市銀行/金融機関における第三次オンラインシステムプロジェク
トでもそうでしたが、企業単位だけでなく、業界全体の観点から全体最適を指
向した取り組みをしてきていることも指摘しておきたいと思います。
本誌
その後、ダウンサイジング論などが台頭し、その方針がぶれたように
も 思 え ま す が 、改 め て シ ス テ ム z を ど う 位 置 付 け て 考 え た ら い い の で し ょ う か 。
朝海
一口で言いますと、基幹系業務アプリケーションシステムはすべてシ
ステム z に実装し、集約統合することで、より効果的かつスマートな運用が実
現できると考えていただけましたら幸いです。
つ ま り 、COBOL ベ ー ス 、オ ー プ ン 系 の JAVA ベ ー ス で あ ろ う と 、基 幹 系 の ア プ
リケーションは、すべてシステム z に集約することで、障害対策、災害対策、
セキュリティ対策の面からも最適かつ安全なシステム運用稼働環境を確保する
ことができます。
メインフレーム系の良さ、オープン系の良さをそれぞれ活かしながら、両方
のシステム資産を融合する受け皿として位置付けていただけたらと思います。
シ ス テ ム z シ リ ー ズ は 、大 体 2 ∼ 3 年 の サ イ ク ル で 新 製 品 発 表 さ れ ま す の で 、
今年は新製品の発表は現時点ではありませんが、将来的な展望を持って今後と
も新製品が登場してくるものとご期待願いたいと考えています。
特にデータセンターの中は、実に様々なサーバーマシンが混在し、ヘテロな
システム製品環境にならざるを得ません。
しかし、基幹業務アプリケーションシステムから考えますと、ヘテロなシス
テム環境をパラダイムシフトしていく方向性で考え直されてくると思いますし、
システム z についても、そうした側面での機能拡張/改良が加えられてくるも
のと思います。
1400億 円 の開 発 投 資
本誌
例えばどんなパラダイムシフトが期待されますでしょうか。
朝海
ハイブリッド自動車が今話題になっています。ガソリン車の長所は、
ア ク セ ル を 踏 む と 即 、大 き な ト ル ク が 生 ま れ 、発 進 す る こ と が で き る こ と で す 。
し か し CO2 が 排 出 さ れ て し ま い ま す 。
一方、電気自動車は環境には優しいけれども、肝心なところでのパワー不足
があります。
そこで、これらの両方の機能をうまく併せ持った自動車としてハイブリッド
車が登場し、フォーカスされています。
このハイブリッド車を運転するとき、ユーザーは二つのエンジンのどちらを
使うかを意識しながらアクセルを踏むかというと、そうではありません。ほと
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んど無意識だと思います。
同じようことが、コンピュータシステムの世界でも実現されるようになって
くると考えていただけたら良いのではないでしょうか。
メインフレーム、オープン系マシンの、どちらがガソリンエンジンで、どち
らがモーターエンジンかは別にして、ユーザーの皆様には意識していただかな
くても、最適なシステム運用環境での稼働が保証されるようになるとご期待し
ていただけたらと思います。
本誌
ハイブリッドコンピューティングの世界ですか。
朝海
そのように考えていただいても良いかと思います。
適材適所といわれますが、ポリシーを基にコンピュータが自動配分して、最
適なコンピュータエンジンを活用してユーザーの期待する処理結果をアウトプ
ットしてくれるコンピューティング環境が実現されると思います。
システム z はそうしたコンピューティング環境の中核マシンとして活用され
るものと考えています。
本誌
そのためのシステム z の年間の開発予算はどれほどですか。
朝海
約 1400 億 円 、 正 確 に は 1 4 億 ド ル で す 。 シ ス テ ム z は 今 年 で 生 誕 4
5周年ですが、今年はまさに、オープンとレガシーのシステム融合が大きなテ
ーマとなっています。
過去45年間を振り返ってみますと、基幹系情報システムに求められる要件
を毎年ずっと上位互換性を保持しながら改善を積み重ねてきている歴史があり
ます。
特に、新しいオープン系システムの抱えている諸問題も、改善が積み重ねら
れてきたシステム z の上で拾い上げていけると確信しています。
本誌
ハイブリッド車のコンピュータ版が実現できるということですか。
朝海
その通りです。
JAVA でなくてもいい
本誌
過 日 開 か れ た シ ス テ ム z フ ェ ア で の テ ー マ に 「 こ こ ま で 進 化 し た COB
OL と PL/ 1」 と い う も の が あ り ま し た 。
朝海
COBOL も PL/ 1 も 依 然 と し て サ ポ ー ト さ れ て い ま す 。
本誌
一 時 の 勢 い で す と 、 す べ て JAVA で ア プ リ ケ ー シ ョ ン は 書 か れ る よ う
になると喧伝されていたかと思いますが・・。
朝海
正 確 に 言 う と 、JAVA の エ ン ジ ニ ア が 増 え る 傾 向 に あ る の で 、そ れ を 取
り込まないといけないということだったと思います。
COBOL 資 産 を JAVA に 書 き 換 え る 必 要 が あ る の で は な い か と い う 指 摘 も あ り ま
したが、冷静に考えますと、プログラムを新しい言語に書き換えただけではメ
リットはありませんので、本当に書き換えなくてはいけないのか、リフォーム
する必要があるのか、それとも従前のままで一部補強すればいいのかという検
討がされてきました。
現実問題として、業務仕様も変更の必要がないユーザーの皆様は、そのまま
に し て SOA に 対 応 で き る よ う に ミ ド ル ウ ェ ア を 変 え よ う か 、 い や ミ ド ル ウ ェ ア
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だけ変えても駄目だからコンパイラまで変えようかなど検討されてきました。
結 果 、 COBOL や PL/ 1 は そ れ ほ ど 難 し い 言 語 体 系 で は な い の で 容 易 に で き て し
まうことも解りました。
実はメインフレーム系言語は何が問題かというと、言語体系そのものではな
くて、コンパイラやエディタを動かすときのお点前(作法)が旧態依然として
いることだったのです。
そ れ を 解 消 す る た め に パ ソ コ ン で も 動 く COBOL、PL/ 1 の ツ ー ル を 用 意 し た り 、
し か も ECLIPSE の 分 散 開 発 環 境 で も 活 用 で き る よ う に し て き ま し た 。
こ う な り ま す と 、何 だ COBOL で も 十 分 で は な い か と な り 、同 時 に 何 で も JAVA
でなくてもいいのではないかと、選択肢が拡がってきたことが評価されてきて
います。
ではダウンサイジング、オープン系システムとは何だったかというと、多く
の場合、開発環境の柔軟性が注目されたのではないかと思います。
逆に言いますと、メインフレーム系システムが運用段階は盤石だったけれど
も、開発環境に制約がありすぎたということではないでしょうか。
ですから、良いとこ取りで、開発系はオープンでやって、運用系はメインフ
レームでやる、これが今実現されようとしている融合化だと考えています。
一 番 安 いメインフレーム
本誌
そうしますと、やはりシステム運用段階を考えると、メインフレーム
系システムが注目されるということですね。
朝海
そう言えると思います。
本誌
にもかかわらず、オープン系システムの導入が優先的に進められてき
たのは何故でしょうか。
朝海
導入コストというか、システムの原価計算の考え方が影響していたの
ではないでしょうか。
実は、これはアメリカのある大手のユーザーさんであった実話なのですが、
あ る 時 、 新 任 の CIO の 方 が オ ー プ ン 系 シ ス テ ム に 比 べ て メ イ ン フ レ ー ム の コ ス
トがあまりにも高いというので、メインフレームコストの明細を算出してみた
そうです。
そうしましたら、電算センターの不動産はメインフレームの勘定科目でつい
ていたし、使用電力費用も全額メインフレームのチャージに含まれていたそう
です。
一方、オープン系システムでは電気代は無料になっていたし、オペレータや
開発者の人件費も、トラブル発生時の経営に対するインパクトの原価計算も、
何ら紐付けできていなかったということです。
そうした一切を含めて、オープン系システムとメインフレームとの原価計算
をし直し、ユーザー当たりいくら、トランザクション当たりいくら、さらには
電 気 代 、OS 代 、ハ ー ド ウ ェ ア 代 、オ ペ レ ー タ 代 、ト ラ ブ ル 修 復 代 、ネ ッ ト ワ ー
ク代などを算出したところ、メインフレームが一番安かったそうです。
本誌
よく解る気がします。
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例 え ば 、 シ ス テ ム z の OS に は カ ー ネ ル ( 基 本 料 込 み : 無 償 ) 部 分 と PP( プ
ログラムプロダクト:有償)部分からなっていますね。
朝海
その通りです。
本誌
し か も カ ー ネ ル 部 分 と 言 っ て も Linux で い う カ ー ネ ル と は 規 模 も 内 容
も違っています。その辺の解説が少なすぎて、先のユーザー事例のような原価
コスト計算での勘違い(誤り)の元になっているのではないでしょうか。
朝海
メ イ ン フ レ ー ム ユ ー ザ ー の 場 合 、カ ー ネ ル OS に 付 属 し て い て 当 た り 前
と い う も の が 、オ ー プ ン 系 シ ス テ ム で は ど う な っ て い る の か 知 ら な い こ と か ら 、
正確な比較検討ができていないケースがあると思います。
メインフレームではあって当たり前のミドルウェアが、オープン系システム
では有償で、かつユーザー責任で別途調達しなくてはならないケースがほとん
どです。
一方、オープン系システムのユーザーは、元よりなくて当たり前、裸同然の
OS と zOS と を 単 純 比 較 し て 、 何 で そ ん な に 高 い の だ と 言 う わ け で す 。
確かに、その辺の事情説明をもう少しきめ細かくする必要があるかもしれま
せんね。
決 め手 はマイクロコード
本誌
話を進めさせていただきますが、最後にシステム z から見たクラウド
コンピューティングの世界観をお聞かせ下さい。
朝海
クラウドコンピューティングの考え方は、業務要件、システム要件を
IT イ ン フ ラ か ら 切 り 離 し た い と い う も の で す 。
換 言 す れ ば 、 ミ ド ル ウ ェ ア が 何 で あ れ Web サ ー ビ ス と い う 共 通 最 低 限 の ル ー
ルさえ守っていれば、その下で動くアプリケーションのポータビリティを保証
するということだと思います。
そこが、企業内であろうと、企業外であろうと、アプリケーション処理がサ
ービスされるという考え方です。
そ の 発 想 か ら CPU の 仮 想 化 だ け で な く 、 ス ト レ ー ジ か ら 、 ネ ッ ト ワ ー ク 、 ユ
ーティリティまでのすべてのインフラを仮想化してしまい、最終的なサービス
レベル、サービスそのものをユーティリティコンピューティングとしてユーザ
ーの皆様が調達できるシステム環境を目指すものだと考えています。
そのためには、インフラの提供側には、システムリソース全体のガバナンス
能力が強く要求されてくるものと思います。
そのためには、システム z の活用が大きなキーポイントになるものと考えて
きます。
本誌
そうしたガバナンス能力を支えるシステム z の秘密はどこにあるので
しょうか。
朝海
高いサービス料金が求められるクラウドコンピューティングでしたら、
原価計算、ポリシー制御も含めて一番進化しているのがシステム z ですから、
中核にシステムzを据えることが一番自然な形だと思います。
今 非 常 に ユ ー ザ ー の 皆 様 の 求 心 力 が 高 ま っ て い る LinuxOS を シ ス テ ム z 上 で
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稼働させることで、ユーザーの皆様は、これまでにシステム z シリーズが蓄積
してきた安定稼働に必要な様々なノウハウを謳歌し、ガバナンス能力を高める
ことができます。
具体的には、様々なユーティリティ機能、ミドルウェア機能がマイクロコー
ド(ファームウェア)としてシステム z に取り込まれている事で、これを実現
しています。
特に、システム z の場合には、使用率が上がっても挙動が不安定になること
がありません。
本誌
ありがとうございました。(文責:在記者)
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