燃焼の理論入門 (初版)

埼玉工業大学(小西克享)
燃焼の理論入門(初版)
燃焼の理論入門
(初版)
埼玉工業大学工学部機械工学科
小西克享
1
1/85
埼玉工業大学(小西克享)
燃焼の理論入門(初版)
2/85
はじめに
燃焼は,化学反応の一種であり,化学が不得意な機械系の大学生にとっては理解が容易ではな
い分野の一つである.しかし,熱機関を研究する上で,燃焼の問題は避けては通れないため,エ
ンジンや燃焼機器を扱うエンジニアにとっては必須とも言える重要な分野である.
平易なものから高度な内容のものまで,たくさんの教科書が出版されており,それらを読破す
れば,燃焼の知識は確かなものとなるが,一般学生には容易なことではない.そこで,本書では
燃焼の理論に関する入門書として,特に機械系の学生が知っておくべき内容に的を絞って,その
要点をまとめた.また,コンピュータを用いた燃焼計算について解説をしており,プログラミン
グを目指す上でガイドとなることを期待している.
本書は,「日本マリンエンジニアリング学会技術者継続教育 2007 年度「先進コース」《燃料・
潤滑》講習会,開催日:平成 20 年 1 月 15~16 日」用のテキストとして作成したものに加筆修正
したものである.特に,新たに図表を追加することにより,視覚的に内容を理解しやすくなるよ
う改良を行った.
内容は今後とも加筆修正の予定である.内容に関して不明な点やお気付きの点があれば著者ま
でご連絡いただきたい.
平成 21 年 12 月 1 日
埼玉工業大学 工学部 機械工学科 小西克享
2
埼玉工業大学(小西克享)
第1章
歴史
第2章
燃焼の基礎用語
燃焼の理論入門(初版)
3/85
・・・・・・・・・・・・・・
5
2.1 燃焼の条件
・・・・・・・・・・・・・・
6
2.2 点火率と点火エネルギ
・・・・・・・・・・・・・・
6
2.3 燃焼の形態(予混合燃焼と拡散燃焼)
・・・・・・・・・・・・・・
7
2.4 可燃範囲
・・・・・・・・・・・・・・
8
3.1.1 炭化水素燃料の分類
・・・・・・・・・・・・・・
9
3.1.2 代表的な炭化水素の特徴
・・・・・・・・・・・・・・
9
3.1.3 石油に含まれる元素の成分
・・・・・・・・・・・・・・ 10
3.1.4 石油蒸留
・・・・・・・・・・・・・・ 11
第3章
燃料および燃焼
3.1 石油の組成
3.2 ガソリン
3.2.1 気化性
・・・・・・・・・・・・・・ 11
3.2.2 アンチノック性
・・・・・・・・・・・・・・ 11
3.3 小型ディーゼルエンジン用燃料(軽油)
3.3.1 セタン価
・・・・・・・・・・・・・・ 12
3.3.2 ディーゼル指数
・・・・・・・・・・・・・・ 12
3.4 大型低速ディーゼル(重油)
3.4.1 直留重油
・・・・・・・・・・・・・・ 12
3.4.2 分解重油
・・・・・・・・・・・・・・ 13
3.4.3 混合重油
・・・・・・・・・・・・・・ 13
第4章
燃焼反応の基礎
4.1 総括反応式(化学量論式)
・・・・・・・・・・・・・・ 14
4.2 素反応
・・・・・・・・・・・・・・ 14
4.3 反応速度
4.3.1 反応速度
・・・・・・・・・・・・・・ 15
4.3.2 アレニウスの反応速度式
・・・・・・・・・・・・・・ 15
4.4 石油の基本反応
4.4.1 熱化学方程式
・・・・・・・・・・・・・・ 16
4.4.2 炭化水素燃料の燃焼反応
・・・・・・・・・・・・・・ 16
4.4.3 熱解離反応
・・・・・・・・・・・・・・ 17
第5章
燃焼計算
5.1 低位発熱量と高位発熱量
・・・・・・・・・・・・・・ 18
5.2 理論酸素量(化学量論酸素量)Ost
・・・・・・・・・・・・・・
19
5.3 理論空気量(化学量論空気量)Ast
・・・・・・・・・・・・・・
20
5.4 混合比
5.4.1 空燃比,燃空比
・・・・・・・・・・・・・・ 20
5.4.2 理論空気量,理論混合比
・・・・・・・・・・・・・・ 20
3
埼玉工業大学(小西克享)
燃焼の理論入門(初版)
5.4.3 当量比,空気過剰率
4/85
・・・・・・・・・・・・・・ 20
5.5 断熱火炎温度(理論燃焼温度,理論火炎温度)
5.5.1 ヒートバランス法
・・・・・・・・・・・・・・ 21
5.5.2 成分が不明な燃料の場合
・・・・・・・・・・・・・・ 22
5.6 化学平衡組成
・・・・・・・・・・・・・・ 22
5.7 窒素酸化物の反応
5.7.1 サーマル NO
・・・・・・・・・・・・・・ 28
5.7.2 プロンプト NO
・・・・・・・・・・・・・・ 28
5.7.3 フューエル NO
・・・・・・・・・・・・・・ 28
5.7.4
・・・・・・・・・・・・・・
NO2
5.8 硫黄酸化物
第6章
29
・・・・・・・・・・・・・・ 29
排ガス浄化
6.1 排気ガス成分と有害性
・・・・・・・・・・・・・・ 30
6.2 ガソリンエンジンの排気浄化対策
・・・・・・・・・・・・・・ 30
6.2.1 排気ガス再循環,EGR(Exhaust Gas Recirculation)
・・・・・・・・・・・・・・ 31
6.2.2 三元触媒
・・・・・・・・・・・・・・ 31
6.3 ディーゼルエンジンの排気浄化対策
6.3.1
NO の低減
・・・・・・・・・・・・・・ 32
6.3.2
HC の低減
・・・・・・・・・・・・・・ 32
6.3.3
SOx の低減
・・・・・・・・・・・・・・ 33
6.3.4
PM の低減
・・・・・・・・・・・・・・ 33
6.4 排気ガス規制
6.4.1 ガソリンエンジンの排気ガス規制
・・・・・・・・・・・・・・ 33
6.4.2 自動車用ディーゼルエンジンの排気ガス規制
・・・・・・・・・・・・・・ 34
6.4.3 舶用ディーゼルエンジンの排気ガス規制
・・・・・・・・・・・・・・ 34
4
埼玉工業大学(小西克享)
第1章
燃焼の理論入門(初版)
第1章
歴史
5/85
歴史 1)
あらゆる生物の中で,火を自ら作り出し,制御し,そして有効に利用する方法を身につけたの
は人類のみである.しかし,歴史を遡れば,古代人にとって「火」は恐怖の対象であり,また,
燃焼という現象が科学的に解明されるまで,「火」は神秘的のものの一つであった.紀元前に,拝
火教(ゾロアスター教ともいう.後に教えはユダヤ教の思想に継承され,イスラム教にも影響を
与えた)に見られるように,「火」そのものを信仰の対象とする宗教が現れたが,「聖火」のよ
うに,「火」を神聖なものとして捉える考え方は今日にまで受け継がれている.中世になって近
代科学がようやく芽生え始めるまで,人々が非科学的な考え方に支配されてきたことは,
「燃焼」
の分野でも同じである.古代ギリシャの哲学者アリストテレスは,現象に過ぎない「火」を物質
と捉え,「四原素説」を提唱したことは有名である.1700 年代のラボアジエが「質量保存の法則」
を発見するまで,物質は燃えて消散する「フロジストン」と燃えカス(燃焼残渣)として残る「カ
ルックス」から成るとする「フロジストン説」が支配した.1800 年代になって,急激に燃焼現象
の解明が進むが,これらはトンプソン(ラムフォード伯爵),マイヤー,ジュール,カルノー,
クラジウスなど後世に名を残す科学者の功績によるものである.
科学の歴史
紀元前
紀元
3 万年前
火の利用
BC600
拝火教
BC500
四原素説
万物は水,土,空気,火からなる
14~17 世紀
1600
錬金術
17 世紀 永久機関
1600 後半
フロジストン説
1600 後半
熱素説
1700
1700 後
1800
元素とガス発見
1777
フロジストン説否定
1800
Dalton の原子論
図 1 科学の歴史
5
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第2章
燃焼の理論入門(初版)
第2章
燃焼の基礎用語
6/85
燃焼の基礎用語
「燃焼」とは発熱と発光を伴う激しい化学反応で,同じ酸化反応である「さび」の現象とは反
応の速度が大きく異なる.また,発光は炭素によるものであり,水素―空気混合気のように燃焼
場に炭素が存在しない場合には例外的に発光しない.発熱と発光している部分は「火」もしくは
「炎」と呼ばれるが,「火」は物が燃える現象(燃焼現象)や燃えているそのものを指す場合も
あり,火は総称としての意味合いが強い.「炎」は本来「火の穂」の意味で,毛筆の穂先のよう
な形をした火のことである.火はライターの火のように炎を伴う場合(有炎燃焼)もあれば,煙
草の火のように炎を伴わない場合(無炎燃焼)もある.
化学反応
酸化反応
燃焼(激しい反応)
発光(炭素を含む燃料)
無発光(水素火炎)
還元反応
さび(緩やかな反応)
:
図 2 燃焼の定義
火
物が燃える現象や燃えているそのもの
炎
「火の穂」=毛筆の穂先の形をした火
発熱・発光している部分
図 3 火と炎
2.1
燃焼の条件
燃焼が成立するには,①可燃物,②酸素,③点火源の 3 つがすべて存在しなければならない.
点火源は火花や種火の場合もあれば,高温に加熱することや高温雰囲気との接触も含まれる.可
燃性混合気にある値以上の火花エネルギを与えた場合(火花点火)や,ある温度以上に加熱した
場合(自発点火,自己着火などという)に持続的に燃焼を行うことが出来る.また,ある温度以
上の空気中に燃料のみを噴射した場合も同様である.
燃焼が成立するには
燃焼の条件
①可燃物
②酸素
③点火源(火花エネルギ,高温雰囲気,加熱)
図 4 燃焼の成立条件
2.2
点火率と点火エネルギ
火花で可燃性混合気に点火するとき,火花の周りに出来た小さな火炎(火炎核)が燃焼を継続
6
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燃焼の理論入門(初版)
第2章
燃焼の基礎用語
7/85
できるまでに成長し,やがて燃焼室全体に火炎が伝播する.火花の持つ放電エネルギ(点火エネ
ルギという)が小さい場合には火炎核は消滅して燃焼を維持できない.点火エネルギが大きくな
るにつれて,点火できる場合と出来ない場合が生じる.点火エネルギが十分大きくなると,例外
なく点火可能となる.このように点火現象は統計的現象であり,火花発生回数に対して点火でき
た回数の比率を点火率という.図 5 は点火率と点火エネルギの関係を示すが,点火率 100%とな
る最小のエネルギを最小点火エネルギと呼ぶ.最小点火エネルギの値は燃料の種類や混合気の燃
料濃度で異なる.ガソリンの場合,実験では最小で 0.2~0.3mJ 程度注)であり,燃料希薄もしくは
過濃になるほど大きくなる.実際のガソリンエンジンの点火装置では確実性を期すため,最小点
火エネルギの数百倍のエネルギ 30~100mJ を与えている.
注)最小点火エネルギは電極形状や電極間隔によっても異なる.
点火率,%
100
火炎消滅
火炎発達
0
最小点火エネルギー
点火エネルギー
図 5 点火率と点火エネルギの関係
2.3
燃焼の形態(予混合燃焼と拡散燃焼)
バーナーの火とローソクの火は同じように見えるが,実際には燃焼の形態(燃え方)が全く異
なっている.バーナーの火では,予め燃料ガスが酸素(空気)と混合されており,炎は未燃の混
合気側に伝播しながら燃えている.炎がバーナー口に静止しているように見えるのは,火炎が伝
播する速度(火炎伝播速度という)が0,すなわち燃焼速度と混合気の速度が釣合うためである.
燃料と酸素との混合比で火炎の温度を調節でき,鉄を溶かすほど高温にすることもできる.一方,
拡散火炎
火炎(燃焼)
輝炎
予混合火炎(燃焼)
予混合火炎
予め燃料ガスが酸素(空気)と
混合して燃焼
・激しい燃焼
・千数百℃~
・火炎が伝播する
青炎
ブンゼンバーナ
ローソク
拡散火炎(燃焼)
燃料と酸素が互いに拡散して
燃焼
・穏やかな燃焼
・800℃~
供給空気減少
図 6 予混合火炎と拡散火炎
7
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燃焼の理論入門(初版)
第2章
燃焼の基礎用語
8/85
ローソクの火では,熱で溶けたローが灯心から蒸発し,周囲の酸素と出会って始めて燃焼する.
燃焼は穏やかで,火炎の温度も鉄を赤熱できる程度(800℃~)と比較的低く,温度の調節は困難
である.バーナーの例では予め混合された可燃性の気体が燃焼するため予混合燃焼といい,形成
される炎は予混合火炎という.ローソクの例では燃料が拡散して燃焼するため拡散燃焼といい,
形成される炎は拡散火炎という.予混合火炎には伝播性があり,拡散火炎にはない.圧力が一定
のとき,静止可燃性予混合気中を火炎が伝播する速度は燃焼速度と呼ばれ,燃料の種類,空気と
の混合比率,温度,圧力,混合気の乱れの程度(層流,乱流)などによって変化することが知ら
れている.常温常圧の層流火炎では 40~50cm/s 程度であるが,乱流火炎では数 m/s にまで増加す
る.火炎伝播速度は混合気の流れる速度と燃焼速度の相対速度となる.バーナー火炎では速度が
釣合って,炎が静止しているように見える.一方,室内でプロパンガスが爆発する場合,既燃部
が膨張するため,炎の速度は膨張する速度+燃焼速度となって,数十 m/s にも達する.
2.4
可燃範囲
可燃性予混合気が燃焼する場合,燃料の濃度は濃すぎても薄すぎても燃焼することが出来ない.
燃焼できる範囲を可燃範囲といい,燃料の希薄側の可燃限界を希薄可燃限界,過濃側の可燃限界
を過濃可燃限界という.可燃範囲は燃料の種類によって異なり,温度,圧力,火炎の伝播方向,
計測方法などによっても値に差が出ることに注意が必要である.1 気圧 25℃での上向き伝播の場
合の可燃範囲は表 1 のとおりである.水素と一酸化炭素は他の炭化水素系燃料に比較して可燃範
囲(特に過濃側)が広いことが分かる.
表 1 燃料の可燃範囲(代表例)
希薄可 過濃可
燃限界 燃限界
vol.% vol.%
水素
4
75
74
一酸化炭素(湿り空気) 12.5
メタン
5
15
エタン
3
12.4
プロパン
2.1
9.5
ブタン
1.8
8.4
燃料
8
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第3章
3.1
第3章
燃焼の理論入門(初版)
9/85
燃料および燃焼
燃料および燃焼
石油の組成
一般に内燃機関に用いられる燃料は原油を精製して作られる石油系燃料である.燃焼機器には
内燃機関を含め種々の形式があり,石油系燃料は各機器の燃焼方式に都合の良いように大別され
て製品化されている.ガソリンエンジンには文字通りガソリンというように,エンジンはそのタ
イプによって使用する燃料が決められている.仮にガソリンエンジンにディーゼルエンジンの燃
料である軽油や重油を使用しても,燃料の気化性の違いから正常に燃焼させることは出来ない.
3.1.1
炭化水素燃料の分類
油田やガス田から採掘される化石燃料(石油,天然ガスなど)は色々な構造を持つ炭素と水素
の化合物(炭化水素という)から成っている.炭化水素は化学構造の違いによって Fig. 7 のよう
に分類される.
CがH
パラフィン系
で飽和
鎖状
炭化水素
CがH
環状
炭化水素
CnH2n+2
CnH2n+2
側鎖型
iso-パラフィン
オレフィン系
アセチレン系
アスファルト系
不飽和
炭化水素
直鎖型
n-パラフィン
CnH2n
CnH2n-2
CnH2n-4
で飽和
ナフテン系
CnH2n
不飽和
ベンゼン系
ナフタレン系
CnH2n-6
CnH2n-12
図 7 炭化水素の分類
炭化水素の代表例の化学構造式を Fig. 8 に示す.
H
H H
H
H H H H
H
H C
H
H C
H
C
C H
C
C
H H
H
C
H H H
n-ブタン
(パラ
H
H
H C
H H H H
メタン
ロペンタン
(パラ
)
3.1.2
C
H C
H
C
H H
イソブタン
H
C
H
C
C
H
H
エチレン
) (ISO パラ
) (オ
)
図 8 炭化水素の化学構造式
C
H
C
H
H
H
H
ベンゼン
(芳香族)
C
C
H
C
H
C
C
C
H
H
シク
(ナ
代表的な炭化水素の特徴
炭化水素はパラフィン系,オレフィン系,ナフテン系,芳香族系の 4 種類に分類され,表 2 の
ような特徴を持つ.
9
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燃焼の理論入門(初版)
第3章
燃料および燃焼
10/85
表 2 炭化水素の特徴
① パラフィン系
(化学式Cn H2n +2)
② オレフィン系
③ ナフテン系
(化学式Cn H2n )
④ 芳香族系
(化学式Cn H2n -6)
3.1.3
直鎖パラフィン系ガソリン・・低オクタン価
側鎖パラフィン系ガソリン・・高オクタン価(良質)
直鎖パラフィン系軽油・・・・高セタン価(良質)
二重結合1つを持つ炭化水素,天然石油には少量含有
シクロペンタンC5H10ほか.二重結合,三重結合を含まない
安定な構造.ナフテン系ガソリンは直鎖パラフィン系より良
二重結合3つの環状不飽和炭化水素.ベンゼン
やトルエンなど.高オクタン価で燃料として良質.
石油に含まれる元素の成分
石油の主成分は炭化水素であるが,ほかに硫黄,酸素,窒素,微量の金属を含んでいる.組成
は産地によって異なる.炭化水素はパラフィン CnH2n+2,ナフテン(シクロパラフィン)CnH2n,
芳香族 CnH2n-6 からなり,炭素数は C4 から C50 まで広く分布する.オレフィンは原油中には存在せ
ず,精製中に生成する.表 3 に炭化水素の化学式,常温での状態を示す.表 4 に石油製品の成分
比率を示す.表 5 に石油の元素含有量を示す.
表 3 燃料の化学式と常温における状態
名称
メタン
エタン
プロパン
ブタン
ペンタン
ヘキサン
ヘプタン
オクタン
ノナン
デカン
ウンデカン
ドデカン
テトラデカン
ペンタデカン
ヘキサデカン
オクタデカン
アイコサン
化学式
状態
CH4
C2 H 6
C3 H 8
C4H10
C5H12
C6H14
C7H16
C8H18
C9H20
C10H22
C11H24
C12H26
C14H30
C15H32
C16H34
C18H38
C20H42
気
体
天然ガス
液化石油ガ
ス
ガソリン
液
体
化学
C2 H 4
C3 H 6
C4 H 8
C5H10
C6H12
C7H14
C8H16
C9H18
状
気
体
液
体
オレフィン系
灯油
固
体
状
n-パラフィン系
名称
ベンゼン
トルエン
エチルベンゼン
プロピルベンゼ
ブチルベンゼン
化学
状
C6 H 6
C7 H 8
C8H10
C9H12
C10H14
液
体
芳香族系
表 4 石油製品の炭化水素成分比率
ガソリン
nパラフィン
25%
iso パラフィン
25%
ナフテン
50%
芳香族
無(微少)
名称
エチレン
プロピレン
ブテン1
1ペンテン
1ヘキセン
1ヘプテン
1オクテン
1ノネン
灯油 軽油 重油 潤滑
←
←
←
10%
←
←
←
10%
←
←
←
30%
少
←
←
10
表 5 石油の元素含有量 2,3)
元 文献2
文献3
C 79~88% 82~87%
H 9.5~14% 11.7~14.7%
S
0~4%
0.1~3.0%
O 0~3.3%
0~1.0%
N 0~1.1%
0~1.0%
金
0~0.1%
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3.1.4
燃焼の理論入門(初版)
第3章
燃料および燃焼
11/85
石油蒸留
水は単一成分のため,蒸発し切るまで沸点は大気圧下では約 100℃で一定である.一方,石油
は沸点の異なる多数の成分からなるため沸点は一定せず,溜出(蒸発)に伴って上昇を続ける.
石油を蒸留することにより,沸点が低く揮発しやすい成分から順にガソリン,灯油,軽油,重油
として製品化している.
石油ガス留分
<35 ℃
35~180
ガソリン留分
℃
170~250
原油
灯油留分
℃
240~350
加熱
軽油留分
LP ガス
ガスコンロ
タクシー
ガソリン
乗用車
ナフサ
化学製品
灯油
石油ストーブ
ジェット燃料
ジェット機
軽油
トラック
℃
重油
残油
>350 ℃
アスファルト
発電所
船
道路
常圧蒸留
図 9 蒸留常圧による石油精製
3.2
ガソリン
主に自動車に用いられるガソリンエンジン用の燃料である.
3.2.1
気化性
燃料の気化性(蒸発のしやすさ)はエンジンの始動性(冷態始動,再始動)と加速性能に影響
する.
①
冷態始動性
低温での気化性不良は,エンジンが冷えた状態(冷態)でエンジンのかかりが悪くなる原
因となる.冷態始動性改善のため極端に低沸点留分を増やすと,下記のベーパーロックやパ
ーコレーションが発生する.
②
ベーパーロック(蒸気閉塞,vapor lock)
エンジン暖機後にガソリン供給系路(ポンプ,配管,気化器)内部で,ガソリンが蒸発し,
燃料供給が阻害される現象.
③
パーコレーション(percolation)
再始動時,気化器内部でガソリンが沸騰し,吸気マニフォールド内に流れ込んで燃料過多
となり,再始動できなくなる現象.
3.2.2
アンチノック性
ガソリンエンジンでは,燃焼末期に未燃のガソリン-空気混合気が一挙に燃焼して圧力振動や
騒音を発生することがある.この現象をノック(knock)という.ノックが発生すると,熱伝達率
11
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燃焼の理論入門(初版)
第3章
燃料および燃焼
12/85
が大きくなるため,部品の末端部分を赤熱させ焼き付きを起こす原因となる.ノックの起こりや
すさ(ノック強度)は一定ではなく,ガソリンの組成によって異なる.ノックの起こりやすさの
指標がオクタン価である.
①
オクタン価
n-ヘプタンを 0,iso-オクタン(2,2,4 トリメチルペンタン)を 100 とする.CFR エンジンと呼
ばれる専用の試験エンジンで供試ガソリンのノック強度を測定し,同じノック強度を示す nヘプタンと iso オクタン混合物燃料の iso-オクタン体積割合%をオクタン価とする.値が大き
いほど,ノックが起こりにくい.
②
試験法
CFR エンジンによる試験法にはリサーチ法(F-1 法)とモータ法(F-2 法)がある.
リサーチ法=低速時,モータ法=高速時のアンチノック性を試験する方法である.
3.3
小型ディーゼルエンジン用燃料(軽油)
ディーゼルエンジンでは燃料が高温雰囲気にさらされたとき,点火源がなくても自然に火が点
く現象を利用するので,燃料の自発点火性(自己着火性)が重要な要素となる.燃料が噴射され
てから燃え始めるまでの時間(点火遅れ,着火遅れ)には燃料の蒸発と燃料蒸気の加熱に必要な
物理的遅れと,化学反応に必要な化学的遅れの 2 種類がある.後者の化学的遅れを表す指標をセ
タン価と呼ぶ.
3.3.1
セタン価
αメチルナフタリンを 0,セタンを 100 とする.CFR ディーゼルエンジンと呼ばれる専用の試
験エンジンで供試燃料の点火遅れを測定し,同じ点火遅れを示すαメチルナフタリン-セタン混
合物燃料のセタン濃度の値をセタン価とする.値が大きいほど点火性(着火性)が良い.
3.3.2
ディーゼル指数
点火性(着火性)を示すもう一つの指標.試験エンジンでのテストが不要なため簡便である.
DI =
アニリン点A [ F ] × API比重G
100
アニリン点:供試燃料と同量のアニリンが完全に溶けあう温度 [F]
API 比重 G =
141.5
− 131.5
60Fにおける供試燃料の比重
表 6 にディーゼル指数とセタン価の比較を示す.
表 6 ディーゼル指数とセタン価の比較 4)
ディーゼル指数 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
セタン価
18 20 24 28 30 34 37 40 43 46 50 53 56 59 62 65 68 71 75 78 81
3.4
大型低速ディーゼル(重油)
次のように分類される.
3.4.1
直留重油
12
埼玉工業大学(小西克享)
燃焼の理論入門(初版)
第3章
燃料および燃焼
13/85
常圧および減圧蒸留した後の残油(直留残油)と軽油を混合したもの.混合割合により,A 重
油,B 重油,C 重油に分類される.
3.4.2
分解重油
直留残油をさらに高圧下で触媒を使って分解し,軽質分(分解ガソリン,分解軽油)を取り除
いた残油(分解残油)と軽油を混合したもの.
3.4.3
混合重油
直留重油と分解重油を混合したもの
13
埼玉工業大学(小西克享)
第4章
4.1
燃焼の理論入門(初版)
第4章
燃焼反応の基礎
14/85
燃焼反応の基礎
総括反応式(化学量論式)
燃料が酸素と反応した結果として生成される物質は総括反応式(化学量論式)で表される.こ
の式は反応の始めと終わりの状態を等号で結んだだけで,反応途中の現象は無視しているが,実
際には何十種類もの反応(素反応)が同時にあるいは連鎖的に発生している.総括反応の例を図
10 に示す.図 11 に総括反応と素反応の比較を示す.
2H2+O2=2H2O
反応 2 C+O2=CO2
反応 3 aCmHn+bO2=cCO2+dH2O
反応 1
水素の燃焼(酸水素反応)
炭素の燃焼
炭化水素の燃焼
図 10 総括反応の例
反応前物質
完全燃焼
(化学種 A, B)
反応後物質
(化学種 C, D)
総括反応式(化学量論式)
素反応 1
反応前物質
素反応 2
(化学種 A, B)
素反応 3
反応後物質
(化学種 A, B,C, D, E,・・・)
:
図 11 総括反応と素反応の比較
4.2
素反応 5)
素反応には図 12 に示すように単分子反応,2 分子反応,3 分子反応などがある.素反応を表わ
す場合,等号の変わりに矢印を用いる.
A→B
(例 H2O2→2OH)
2 分子反応 A + B → C +・・・
(例 OH + H2 → H2O + H)
3 分子反応 A + B + C → D +・・・
単分子反応
図 12 素反応の例
酸水素反応 2H2 + O2 = 2H2O における代表的な素反応は図 13 に示す 5 種類の反応がある.矢印
の向きは順反応を示すが,高温状態では順反応だけでなく,逆反応は同時に存在する.逆反応は
順反応とは逆方向の矢印で表わす.
14
埼玉工業大学(小西克享)
素反応 1
素反応 2
素反応 3
素反応 4
素反応 5
燃焼の理論入門(初版)
第4章
燃焼反応の基礎
OH + H2 → H2O + H
反応熱 ΔH=-63.2J/mol
H + O2 → OH + O
反応熱 ΔH=70.7J/mol
O + H2 → OH + H
反応熱 ΔH=8.4J/mol
H + O2 + M → HO2 + M
反応熱 ΔH=-197J/mol
H, O, OH → 安定分子(H2,O2)へ
15/85
発熱
吸熱
吸熱
発熱
図 13 素反応の例
4.3
4.3.1
反応速度
反応速度
化学反応は瞬間的に生じるのではなく,時間とともに反応物質が生成物質へと変化していく.
反応の速さは反応物質の組合せや反応場の温度によって異なる.生成物のモル濃度の変化率を反
応速度という.図 12 に示す 3 種類の素反応において,反応速度[mol/(m3s)]は図 14 のように定義さ
れる.ここで,k を反応速度定数(単位は素反応の種類によって異なる),[A]は化学種 A のモル
濃度[mol/m3].
単分子反応
2 分子反応
3 分子反応
d [B]
= k1 [ A ]
dt
d [ C]
= k 2 [A][B]
dt
d [ D]
= k 3 [A ][B][C]
dt
k1 [1/s]
k 2 [m3/(mol s)]
k 3 [m6/(mol2 s)]
図 14 反応速度
4.3.2
アレニウスの反応速度式
反応速度は温度のみに依存し,次式で表される.これをアレニウスの反応速度式という.
⎛ E ⎞
k = fT n exp⎜ −
⎟
⎝ RT ⎠
f:頻度因子,E:活性化エネルギ,R:一般ガス定数=8.314J/(molK),T:絶対温度[K]
n:定数(-2 から 2 の範囲)
活性化エネルギとは,反応が完結するのに必要なエネルギであり,図 15 の反応プロセスに示す
ように反応前のポテンシャルエネルギとの差となる.図で,ΔH < 0 の場合が発熱反応(燃焼)で
ある.発熱しているにもかかわらず反応前より反応後の方が,エネルギレベルが下がることは一
見不思議に思えるが,これは熱化学反応式を考えれば容易に理解できる.たとえば,酸水素反応
H2(g) + (1/2)O2(g) = H2O(l) + 285.83kJ
は,25℃,1atm で 1mol の H2(g)が 1/2mol の O2(g)と燃焼して,1mol の H2O(l)を生成したとき,285.83kJ
の熱量が発生することを示すが,25℃における H2 と O2 のポテンシャルエネルギは,25℃におけ
る H2O(l)のポテンシャルエネルギより 285.83kJ 多い(発熱するだけのエネルギを持っている)と
いう意味でもある.反応プロセス図は反応前と反応後の物質の同温度・同圧力でのポテンシャル
エネルギのレベルを表すため,発熱反応の場合,反応後は反応前より低くなる.
15
燃焼の理論入門(初版)
活性化エネルギ
ポテンシャルエネルギ
ポテンシャルエネルギ
埼玉工業大学(小西克享)
反応前
ΔH<0 発熱
反応後
第4章
燃焼反応の基礎
16/85
活性化エネルギ
反応後
反応前
ΔH>0 吸熱
時間
時間
図 15 反応プロセスにおけるポテンシャルエネルギ変化
4.4
4.4.1
石油の基本反応
熱化学方程式
石油中には各種の炭化水素や硫黄,窒素などが含まれるが,燃焼によって生じる高温雰囲気下
で種々の物質に分解され,さらに酸素との反応が起こる.燃焼反応の基本となる元素は C,H,S
であり,それらの素反応は石油の燃焼における基本反応となる.反応生成熱(反応熱)は発熱量
(燃焼熱)とも呼ばれる.反応熱を記入した化学反応式は熱化学方程式という.発熱量の値は文
献 6)参照.
C + O2 = CO2 + 407 kJ/mol
発熱反応
C + ½O2 = CO + 123 kJ/mol
発熱反応
CO + ½O2 = CO2 + 284 kJ/mol
発熱反応
H2 + ½O2 = H2O + 286 kJ/mol
発熱反応
S + O2 = SO2 + 297 kJ/mol
発熱反応
図 16 反応プロセスにおけるポテンシャルエネルギ変化
4.4.2
炭化水素燃料の燃焼反応
炭化水素燃料 1 モルと酸素および空気との反応は図 17 に示すとおりである.ただし,空気の組
成は,体積比率で窒素 79%,酸素 21%とし,他の成分は無視した.
n⎞
n
⎛
⎟O 2 → mCO 2 + H 2 O
4⎠
2
⎝
100 ⎛
79 ⎛
n⎞
n
n⎞
空気との反応: C m H n +
⎜ m + ⎟N 2
⎜ m + ⎟ Air → mCO 2 + H 2 O +
21 ⎝
4⎠
2
21 ⎝
4⎠
酸素との反応: C m H n + ⎜ m +
図 17 反応プロセスにおけるポテンシャルエネルギ変化
16
発熱反応
発熱反応
埼玉工業大学(小西克享)
4.4.3
燃焼の理論入門(初版)
第4章
燃焼反応の基礎
17/85
熱解離反応
1400℃以上の雰囲気下では燃焼反応と熱解離反応が同時に起きる.燃焼反応と熱解離反応の比
率は雰囲気の温度で異なり,高温になるほど熱解離反応の割合が増加する.熱解離反応は吸熱反
応であるため,場の温度を下げる働きがある.二酸化炭素と水蒸気の熱解離反応は図 18 で表わさ
れる.
熱解離反応:
熱解離反応:
1
CO 2 → CO + O 2 − 282940kJ (67580kcal)
2
1
H 2 O → H 2 + O 2 − 241790kJ (57750kcal)
2
図 18 熱解離反応の例
17
吸熱反応
吸熱反応
埼玉工業大学(小西克享)
第5章
5.1
第5章
燃焼の理論入門(初版)
燃焼計算
18/85
燃焼計算
低位発熱量と高位発熱量
水素の燃焼では燃焼生成物として H2O(水蒸気)が得られる.水蒸気(気体)は水(液体)よ
り蒸発潜熱(気化熱)に相当する分だけエンタルピが大きい.そこで,水の蒸発潜熱分を含まな
い発熱量を低位発熱量,含む発熱量を高位発熱量という.燃焼によって発生する熱(燃焼熱 = 発
熱量)を動力に変換する際,排気ガスの温度は 100℃以上であるから,H2O は水蒸気のまま排出
され,蒸発潜熱分は利用されずに捨てられることになる(図 19).動力に変換できるのは,低位
発熱量の方である.
注意:
高位と低位の区別は水素および水素を含む燃料の場合に問題となるのであり.水素を含
混合気のエンタルピ
まない場合には関係ない.
反応後 H2 +½O2 =H2 O のエンタルピ
燃焼
排気
高位発熱量
排気ガスの
エンタルピ
低位発熱量
反応前の
エンタルピ
蒸発潜熱
廃熱分
時間
図 19 混合気のポテンシャル変化
純粋燃料の発熱量の値は多くの文献に記載されている.ここでは,混合燃料の発熱量の計算方
法を解説する.燃料成分 Ai の体積分率 m3/m3 を [Ai] ,高位発熱量を Hu,Ai,低位発熱量を Hl,Ai,
とすると,混合燃料の発熱量は図 20 に示す式で計算できる.
n
高位発熱量: H u =
∑ [A ]H
低位発熱量: H l =
∑ [A ]H
i =1
n
i =1
i
i
u , Ai
l , Ai
図 20 混合燃料の発熱量の計算式
・計算例,天然ガス(メタン 0.900,エタン 0.090,プロパン 0.010 m3/m3)の高位発熱量および低
位発熱量は次の通り.
高位発熱量 H u = 39.72 × 0.900 + 69.64 × 0.090 + 99.00 × 0.010 = 43.0 MJ/ m3
低位発熱量 H l = 35.79 × 0.900 + 63.76 × 0.090 + 91.15 × 0.010 = 38.9 MJ/ m3
図 21 天然ガスの発熱量
18
埼玉工業大学(小西克享)
燃焼の理論入門(初版)
第5章
燃焼計算
19/85
理論酸素量(化学量論酸素量)Ost
5.2
理論酸素量とは 1kg の燃料が完全燃焼するのに必要な酸素量のことである.通常の燃料に含ま
れる元素は C(炭素:原子量 12.01),H(水素:1.01),S(硫黄:32.06),O(酸素:16.00),
N(窒素:14.01),灰分であり,各元素の反応式は図 22 となる.
C + O 2 = CO 2
H + 1 4 O2 = 1 2 H 2O
S + O 2 = SO 2
図 22 元素の反応式
C, H, S, O, N の反応式および各元素に対する O の比率は,表 7 のようになる.
表7
元素
C, H, S, O, N の反応式および各元素に対する O の比率
反応式
C
C + O 2 = CO 2
H
H + 1 4 O2 = 1 2 H 2O
S
S + O 2 = SO 2
O
O −1 2 O2 = 0
N
N =1 2 N2
各元素に対する O の比率
質量: 16.00 × 2 / 12.01 = 2.6644 ≈ 2.664
体積: 2.6644 × 10 3 / 32 × 22.41 × 10 −3 = 1.8659 ≈ 1.866
質量: 16.00 × 1 / 2 / 1.01 = 7.921
体積: 7.921 × 10 3 / 32 × 22.41 × 10 −3 = 5.547
質量: 16.00 × 2 / 32.06 = 0.99813 ≈ 0.9981
体積: 0.99813 × 10 3 / 32 × 22.41 × 10 −3 = 0.69900 ≈ 0.6990
質量: 16.00 × / 16.00 = 1
体積: 1 × 10 3 / 32 × 22.41 × 10 −3 = 0.70031 ≈ 0.7003
質量:0
体積:0
燃料 1kg 中の質量分率[kg/kg]をそれぞれ c,h,s,o,n,a とすると,たとえば C の係数は
質量に対して 16.00 × 2 / 12.01 = 2.664 ,体積に対して, 2.664 × 10 3 / 32 × 22.41 × 10 −3 = 1.866 であるか
ら,理論酸素量は次の通りとなる.
質量に対して, Ost ,m = 2.664c + 7.921h + 0.9981s − o [kg/kg]
体積に対して, Ost ,v = 1.866c + 5.547h + 0.6990s − 0.7003o [m3/kg,標準状態]
・質量分率の計算例
①水素ガス
H2: h = 1, c = s = o = n = a = 0
②炭化水素
CmHn: c = 12.01m / (12.01m + 1.01n ), h = 1 − c,
19
s=o=n=a=0
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燃焼の理論入門(初版)
第5章
燃焼計算
20/85
・理論酸素量の計算例
C6H6 c = 0.9224, h = 0.0776, s = o = n = a = 0
= 2.664 × 0.9224 + 7.921 × 0.0776 = 3.072 kg/kg
ベンゼン
O st , m
理論空気量(化学量論空気量)Ast
5.3
理論空気量とは 1kg の燃料が完全燃焼するのに必要な空気量のことである.標準乾き空気中の
酸素の割合を質量分率 0.2320kg/kg,体積分率を 0.2099m3/m3 とすると,
質量に対して,
Ast , m = O st , m / 0.2320 = 11.48c + 34.14h + 4.302 s − 4.310o [kg/kg]
体積に対して,
Ast ,v = O st ,v / 0.2099 = 8.890c + 26.43h + 3.330 s − 3.336o [m3/kg,標準状態]
・理論空気量の計算例
ベンゼン C6H6
5.4
Ast ,m = 11.48 × 0.9224 + 34.14 × 0.0776 = 13.24 kg/kg
混合比
気体燃料と空気の混合比率を表すパラメータには下記のものがある.
5.4.1
空燃比,燃空比
空気と燃料の質量比を空燃比と呼び,その逆を燃空比と呼ぶ.
5.4.2
理論空気量,理論混合比
燃料が過不足なく完全燃焼するだけの酸素を含む空気量を理論空気量という.また,その場合,
燃料と空気の混合気を理論混合気(量論混合気)という.さらに,理論混合気の混合比を理論混
合比(量論混合比,量論比)という.ただし,理論混合比だけでは何と何の比率か,定義が不明
確になるため,理論燃空比もしくは理論空燃比の用語を使用することが望ましい.
例
水素ガス H2
の場合,質量分率は h = 1, c = s = o = n = a = 0 ,理論空気量,理論空燃比,理
論燃空比は図 23 になる.
Ast , m = 11.48 × 0 + 34.14 × 1 + 4.302 × 0 − 4.310 × 0 = 34.14 kg/kg
理論空燃比
理論燃空比
( A / F )st
(F / A)st
= Ast , m = 34.14
= 1 / ( A / F )st = 1 / 34.14 = 0.02923
図 23 水素ガス H2 の理論空気量,理論空燃比,理論燃空比
5.4.3
当量比,空気過剰率
当量比φは燃料の濃さを表す数値として用いられ,次式で定義される.当量比の逆数は空気過
20
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剰率λと呼ばれる. φ < 1
燃焼の理論入門(初版)
第5章
燃焼計算
21/85
(λ > 1) は希薄燃焼, φ = 1 (λ = 1) は化学量論燃焼, φ > 1 (λ < 1) は過濃
燃焼である.
φ=
実際の混合気の燃空比
理論空燃比
実際の混合気が含む燃 料の重量
=
=
理論燃空比
実際の混合気の空燃比
完全燃焼できる燃料の 重量
λ=
実際の混合気の空燃比
(A / F ) = 1
=
( A / F )st φ
理論空燃比
図 24 当量比と空気過剰率
例,ベンゼン 2.00kg を 28.0kg の空気で燃焼させるとき,
( A / F )st = Ast ,m = 13.24
( A / F ) = 28.00 / 2.00 = 1.057
空気過剰率は λ =
( A / F )st
13.24
理論空燃比
当量比は φ = 1 / λ = 0.9461 ( φ < 1
5.5
(λ > 1) なので希薄燃焼.)
断熱火炎温度(理論燃焼温度,理論火炎温度)
5.5.1
ヒートバランス法
断熱火炎温度は,生成物質のエンタルピが反応物質のエンタルピと一致する温度と定義され,
値を計算するには,図 25 に示すヒートバランス法を用いる.
生成物質のエンタルピ( n pi :モル濃度)
反応物質のエンタルピ( nri :モル濃度)
H 0 p (Tb ) = ∑ n pi ∫ C p dT + ∑ n pi Δ f H o i (T0 )
Tb
T0
H 0r (T 0 ) =
∑ nri Δ f H o i (T0 )
H 0 p (Tb ) = H 0 r (T0 ) ?
Yes
Tb =断熱火炎温度
右辺第 1 項は, H − H (T0 ) として JANAF 7)の表に記載.
o
o
右辺第 2 項は,標準温度T 0 =25℃における標準生成熱.
図 25 ヒートバランス法による断熱火炎温度の計算
図 25 において,生成物質のエンタルピは,モル濃度を n pi として
H 0 p (Tb ) = ∑ n pi ∫ C p dT + ∑ n pi Δ f H o i (T0 )
Tb
T0
21
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第5章
燃焼計算
22/85
で表わされる.右辺第 1 項は,H o − H o (T0 ) として JANAF 7)の表に記載されている.右辺第 2 項は,
標準温度 T0 =25℃における標準生成熱である.反応物質のエンタルピは,モル濃度を nri とすれば
H 0 r (T0 ) =
∑n
ri Δ f
H o i (T0 )
となる. H 0 p (Tb ) = H 0 r (T0 ) を満たす Tb が断熱火炎温度となる.
5.5.2
成分が不明な燃料の場合
ガソリンや軽油のように厳密な燃料成分比率が不明な場合でも,燃料の低位発熱量 H l が判明し
ており,炭素分と水素分の比率が質量分析結果や規格などから分かっていれば,平均炭素数を m,
平均水素数を n と仮定して,燃料を CmHn とすることにより断熱火炎温度の推定値を求めることが
可能である.すなわち,燃焼ガスの比熱を Ci ,燃焼ガスのモル数を ni とすれば,
∑∫
Tb
T0
ni C i dT = H l
を満たす Tb が断熱火炎温度となる.炭化水素 CmHn の化学反応式は
CmHn +
79 ⎛
100 ⎛
n⎞
n
n⎞
⎜ m + ⎟ Air → mCO 2 + H 2 O +
⎜ m + ⎟N 2
21 ⎝
4⎠
21 ⎝
4⎠
2
であるから,初期温度を Ti [K],反応後の温度を Tb [K]とすると,燃焼生成物のエンタルピ変化は
次のようになる.
CO2:
Tb
m ∫ c CO 2 dt ,
Ti
H2O:
n Tb
c H O dt ,
2 ∫Ti 2
N2:
n ⎞ Tb
79 ⎛
⎜ m + ⎟ ∫T c N 2 dt
21 ⎝
4⎠ i
よって,
Tb
m ∫ c CO 2 dt +
T0
79 ⎛
n Tb
n ⎞ Tb
c
dt
+
m
+
⎜
⎟ c N dt = H l
H
O
2 ∫T0 2
21 ⎝
4 ⎠ ∫T0 2
を満たす解が断熱火炎温度となる.ただし,比熱は,燃焼期間中に圧力は変化せず燃焼ガスの体
積が変化する等圧燃焼の場合には定圧比熱を用い,容積が変化せず圧力の方が変化する定容燃焼
の場合には定容比熱を用いなければならない.比熱は温度によって変化する関数であり,温度の
関係式で与えるか物性値表を参照する必要がある.また,温度を仮定して式の等号が成立するか
判定し,成立しないときは温度を修正して再度計算するという手順で収束計算を行わないと解に
到達しない.このため,解法のためにはコンピュータプログラミングを行うことが一般的である.
また,次項に記述するように,高温状態ではガス成分は化学平衡状態にあるため,化学平衡濃度
を同時に計算しないと,断熱火炎温度は正確とは言えない.
5.6
化学平衡組成
燃料が燃焼するとき,火炎の内部では完全燃焼が行われているのではなく,熱解離によってい
ろいろな化合物が生成されている.たとえば,炭化水素の燃焼では,完全燃焼後の生成物は CO2,
H2O, O2, N2 の 4 つであるが,実際の火炎内部では雑多な成分(CO2, H2O, O2, N2, CO, H2, O, OH, H,
NO, N など)が生成されている.このとき,各成分は火炎の温度(断熱火炎温度)における化学
22
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燃焼の理論入門(初版)
第5章
燃焼計算
23/85
平衡状態にあると考えられ,このときの濃度を化学平衡濃度という.
化学平衡濃度の計算手法は文献 8 に詳しく記載され,出版社のホームページ上で計算プログラ
ムが公開されている.この手法は,10 成分(CO2, H2O, O2, N2, CO, H2, O, OH, H, NO)が関与する
6 つ熱解離の反応式と,全圧と各成分の分圧に関する 5 つの方程式に含まれる 11 の未知数を連立
して解くものである.燃焼ガス温度を仮定して化学平衡定数を計算し,各成分の分圧を求めて,
燃焼後のエンタルピを計算する.生成熱を含めた燃焼前後のエンタルピが一致しなければ,温度
を修正してエンタルピの値が一致(収束)するまで計算を繰り返す.値が収束したときの温度が
断熱火炎温度であり,そのときの組成が化学平衡組成となる.この手法では各成分の分圧比が計
算できるため,燃焼前後で全圧が変化しないバーナー火炎のような定圧燃焼時の平衡濃度を計算
する場合に適している.図 26 に計算フローチャートを示す.
6 つ熱解離の反応式:10 成分
11 の未知数
(CO2, H2O, O2, N2 , CO, H2 , O, OH, H, NO)
全圧と各成分の分圧に関する 5 つの方程式
①燃焼ガス温度を仮定
②化学平衡定数を計算
③各成分の分圧を求める.
④燃焼後のエンタルピを計算する.
⑤生成熱を含めた燃焼前後のエンタルピが一致?
一致?
燃焼ガス温度を仮定しなおす
Yes
収束したときの温度=断熱火炎温度,組成=化学平衡組成
図 26 化学平衡濃度の計算手法
一方,燃焼反応では反応前と反応後では成分の合計モル数が変化するのが一般的である.たと
えば酸水素反応 2H2 + O2 = 2H2O では,反応前の混合気は 3 モルで,反応後は 2 モルとなるため,
容器内燃焼では,単に熱発生に伴う状態変化だけでなく,モル数の変化による圧力変化も同時に
発生することになる.この場合,反応後の各成分のモル数が計算できると都合が良い.反応後の
各成分のモル濃度が計算できるものとして,文献 9 の付録である京都大学と立命館大学が共同開
発したプログラムを利用することができる.
文献 10, 11 の方法を用いてプログラムを自作することもできる.この方法では系に含まれる元
素がすべて 4 つの独立成分に変化するものとし,その独立成分から残りの成分(従属成分)を化
学平衡式に従って求める.反応後の各成分のモル数も計算可能である.ただし,当量比によって
反応式が異なるため,場合分けが必要であり,注意を要する.プログラミングを行う上で参考に
なるよう,反応式の補足と計算方法の概略を以下に説明する.詳細は文献 10, 11)を参照していただ
きたい.
23
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第5章
燃焼計算
24/85
仮定
①
化学種は CO2, H2O, O2, N2, CO, H2, O, OH, H, NO, N の 11 とする.
②
系に含まれる C, H, O, N の元素数を nC, nH, nO, nN とする.
③
まず,系に含まれる C, H, O, N から次の反応式で 4 つの成分のみが生成されると考える.こ
の成分を独立成分[A], [B], [C], [D]とする.
nc C + nH H + nO O + n N N → qi , A [A] + qi , B [ B] + qi , C [C] + qi , D [ D]
④
11 の化学種から独立成分を除いた 7 つの成分を従属成分とする.従属成分は独立成分から生
成される.
計算手順
①
酸素の元素数 nO の範囲を判定する.
酸素過剰の場合(当量比 φ < 1 ): n O > 2n c + n H 2
酸素不足の場合(当量比 φ ≥ 1 ): n c + n H 2 < n O ≤ 2n c + n H 2
nc < nO ≤ nc + n H 2
②
表 8 に従い,4 つを独立成分と 7 つの従属成分を決定する.
例えば,nO > 2nc + nH 2 であれば,独立成分は CO2, H2O, O2, N2 となり,従属成分 CO, H2, O, OH,
H, NO, N となる.このとき,独立成分のみが生成される反応式は
nc C + nH H + nO O + nN N → qi ,CO2 CO 2 + qi ,H 2O H 2 O + qi ,CO CO + qi ,N 2 N 2
となる.
③
nO > 2nc + nH 2 の場合,独立成分と従属成分の関係および係数ν ij は次の行列式で表される.
i = 5 ⎡ X CO ⎤
⎢X ⎥
6
⎢ H2 ⎥
⎢ XO ⎥
7
⎥
⎢
8
⎢ X OH ⎥ = ν ij
⎢ XH ⎥
9
⎥
⎢
10 ⎢ X NO ⎥
11 ⎢⎣ X N ⎥⎦
j =1
⎡ X CO 2 ⎤
⎥
⎢X
⎢ H 2O ⎥
⎢ XO ⎥
2
⎥
⎢
X
⎣⎢ N 2 ⎦⎥
[ ]
④
2
3
4
⎡1 0 − 1 2 0 ⎤
⎢0 1 − 1 2 0 ⎥
⎢
⎥
⎢0 0
12
0⎥
⎢
⎥
ν ij = ⎢0 1 2 1 4
0⎥
⎢0 1 2 − 1 4 0 ⎥
⎢
⎥
1 2 1 2⎥
⎢0 0
⎢0 0
0
1 2⎥⎦
⎣
j =1
2
[ ]
3
4
i=5
6
7
8
9
10
11
従属成分 i のモル分率は次式となる.
4
X i = K i ∏ X jν ij
j =1
(i = 5,6,L,11)
ここで,従属成分 i の熱力学的平衡定数 Ki は生成反応に対する平衡定数(生成平衡定数)より,
たとえば CO に関して
24
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K f ,CO
K CO =
(
)
K f ,CO 2 K f ,O 2 −1 / 2
=
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第5章
燃焼計算
25/85
K f ,CO
K f ,CO 2
となる.JANAF の熱化学的性質表には K f ,CO の対数値 C f ,CO が与えられている.
K f ,CO = 10
C f , CO
の関係から,
K f ,CO
K CO =
10
=
K f ,CO 2
10
C f , CO
C f , CO 2
= 10
C f , CO − C f , CO 2
として計算することができる.
⑦
化学平衡濃度は
11
4
11
i =5
j =1
i =5
G = 1 + ∑ (ν i − 1) X i ,ν i = ∑ν ij , F j = q j G − X j − ∑ν ij X i
において, Fj = 0
( j = 1,2,3,4) の 条 件 を 満 た す 濃 度 と し て 与 え ら れ る . 独 立 成 分 は ,
( j = 1,2,3,4) ,従属成分は, X i
Xj
(i = 5,6, L ,11) である.混合気の全モル数は n = 1 / G とな
る.
⑧
解法には反復計算が必要である.Newton-Raphson 法を適用すれば,独立成分モル分率 X j の r
回目の近似値を X j
(r )
としたとき,r+1 回目の近似値は補正量を h j
{
X j ( r +1) = X j ( r ) 1 + h j ( r )
となる. h j
(r )
は連立方程式 [ A jk
(r )
(r )
とすると,
}
] [h j ( r ) ] = [ F j ( r ) ] から計算される.
ただし, A jk = U jk − q j Vk
11
U jk = X j δ jk + ∑ν ijν ik X i
i =5
11
V k = ∑ν ik (ν i − 1)X i
i =5
δ jk = 1 ( j = k )
δ jk = 0 ( j ≠ k ) ( k = 1,2,3,4)
25
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燃焼の理論入門(初版)
第5章
燃焼計算
26/85
表 8 従属成分を求める化学平衡式
当量比
酸素範
囲
独 立 成
酸素過剰(当量比 φ < 1 )
酸素不足(当量比 φ ≥ 1 )
② nc + n H 2 < nO ≤ 2 nc + n H 2
③ nc < nO ≤ nc + nH 2
CO2, H2O, O2, N2
CO2, H2O, CO, N2
H2, H2O, CO, N2
CO, H2, O, OH, H, NO, N
O2, H2, O, OH, H, NO, N
O2, CO2, O, OH, H, NO, N
1
CO →
← CO 2 − 2 O 2
1
H2 →
←H 2 O − O 2
2
1
O→
← 2 O2
1
1
OH →
← 2 H 2O + 4 O 2
1
1
H→
← H 2O − O2
4
2
1
1
NO→
←2 N2 + 2 O2
1
N→
← 2 N2
O2 →
← 2CO 2 − 2CO
O2 →
← 2H 2 O − 2H 2
H2 →
←H 2 O − CO 2 + CO
CO 2 →
← CO + H 2 O − H 2
O→
← CO 2 − CO
O→
← H 2O − H 2
① nO > 2 nc + nH 2
分
従 属 成
分
従属成分を求める化学平衡式
1
1
1
1
→
OH →
← 2 H 2 O + 2 CO 2 − 2 CO OH ← H 2 O − 2 H 2
1
H→
← H2
2
1
1
1
H→
← 2 H 2 O − 2 CO 2 + 2 CO
1
NO→
← 2 N 2 +H 2 O − H 2
1
NO→
← 2 N 2 + CO 2 −CO
1
N→
← 2 N2
1
N→
← N2
2
計算プロセスをまとめると,図 27 のようになる.
①
酸素の元素数 nO の範囲を計算する.
②
表 8 に従い,4 つを独立成分[A],[B],[C],[D]を選ぶ.
③
系に含まれる C,H,O,N から,独立成分[A],[B],[C],[D]のみが生成される反応式は
nc C + n H H + nO O + n N N → q i , A [A] + q i , B [ B] + q i ,C [C] + q i , D [D]
④
4つの独立成分から7つの従属成分を求める化学平衡式は,酸素過剰(当量比 φ < 1 )の場合,
すなわち,酸素の元素数 nO > 2 nc + nH 2 の場合,次式で表わされる.
⎡ X CO ⎤
⎢X ⎥
⎢ H2 ⎥
⎢ XO ⎥
⎢
⎥
⎢ X OH ⎥ = ν ij
⎢ XH ⎥
⎢
⎥
⎢ X NO ⎥
⎢X ⎥
⎣ N⎦
[ ]
j =1
⎡ X CO 2 ⎤
⎢X ⎥
⎢ H 2O ⎥
⎢ X O2 ⎥
⎢
⎥
⎣⎢ X N 2 ⎦⎥
ただし,
[ν ]
ij
2
3
4
⎡1 0 − 1 2 0 ⎤
⎢0 1 − 1 2 0 ⎥
⎥
⎢
⎢0 0
12
0⎥
⎥
⎢
= ⎢0 1 2 1 4
0⎥
⎢0 1 2 − 1 4 0 ⎥
⎥
⎢
1 2 1 2⎥
⎢0 0
⎢0 0
0
1 2⎥⎦
⎣
26
i=5
6
7
8
9
10
11
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⑤
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第5章
燃焼計算
27/85
従属成分のモル分率 Xi と平衡定数 Ki は次のように表わされる.
生成平衡定数(JANAF の熱化学的性質表)
K i = K CO =
4
X i = K i ∏ X jν ij
j =1
K f ,CO
(
)
K f ,CO 2 K f ,O 2 −1 / 2
=
K f ,CO
K f ,CO 2
CO の熱力学的平衡定数
(i = 5,6,L11)
11
4
11
i =5
j =1
i =5
G = 1 + ∑ (ν i − 1) X i ,ν i = ∑ν ij , F j = q j G − X j − ∑ν ij X i
⑥
n = 1 / G :混合気の全モル数
F j = 0 ( j = 1,2,3,4) のとき,Xi は化学平衡濃度となる.
図 27 化学平衡濃度の計算手法
ここで紹介した文献 8 と 10 の 2 種類の方法を用いて,平衡濃度を計算した例を表 9 に示す.と
もに火炎温度は 2300K とした.H と NO の計算結果には若干の差があるが,その他の成分に関し
ては値がほぼ一致することがわかる.ただし,計算例 1 では N の平衡濃度は計算されず,反応前
後のモル数変化は考慮されない.なお,NO 濃度は反応速度の関係から次項で解説するように独
自の反応式を用いて計算する必要がある.
表 9 化学平衡濃度および断熱火炎温度の比較
C3H8-空気混合気,当量比 1,初期温度 300K,初期圧力 0.1013MPa,abs
化学種
CO2
H2 O
O2
N2
CO
H2
O
OH
H
NO
N
反応前モル数
反応後モル数
反応後モル数比
火炎温度, K
計算例1
文献8
1.008E-01
1.474E-01
6.613E-03
7.197E-01
1.423E-02
3.770E-03
4.011E-04
3.727E-03
5.918E-04
2.804E-03
2300
27
計算例2
文献10
1.007E-01
1.475E-01
6.590E-03
7.197E-01
1.429E-02
3.753E-03
4.005E-03
3.807E-03
4.871E-04
2.999E-03
3.287E-08
24.81
26.08
1.051
2300
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5.7
燃焼の理論入門(初版)
第5章
燃焼計算
28/85
窒素酸化物の反応
5.7.1
サーマル NO
1500℃以上の雰囲気下では,雰囲気中の窒素が酸化して一酸化窒素 NO(サーマル NO)が生成
される.NO の反応は他の成分に比べて緩やかで,最終的な化学平衡濃度に到達するには時間が
かかる.NO の生成量は拡大 Zeldovich 機構と呼ばれる次の反応式から計算することが出来る.
k
1f
N2 + O →
← NO + N
k1r
k 2f
N + O2 →
← NO + O
k 2r
k3 f
拡大 Zeldovich 機構
N + OH →
← NO + H
k3 r
化学種 A のモル濃度[mol/m3/s]を[A]で表すと,NO と N の反応速度[mol/m3/s]は,
d [NO]
= k1 f [N 2 ][O] + k 2f [N ][O 2 ] + k 3f [N ][OH ] − k1r [NO ][N ] − k 2r [NO][O] − k 3r [NO][H ]
dt
d [ N]
= k1 f [N 2 ][O] − k 2f [N ][O 2 ] − k3f [N ][OH ] − k1r [NO][N ] + k 2r [NO][O] + k3r [NO ][H ]
dt
k は反応速度定数.添え字 f は正反応,r は逆反応を表す.N は微量なため,d [ N ] dt = 0 とおけば,
[N] =
k1 f [N 2 ][O] + k 2r [NO][O] + k 3r [NO][H ]
k 2f [O 2 ] + k 3f [OH ] + k1r [NO]
となるので,NO 以外に化学平衡濃度を用い,数値積分すれば NO を求めることが出来る.
5.7.2
プロンプト NO
希薄火炎では,空気中の窒素から拡大 Zeldovich 機構によって NO が生成される.このとき,
NO の生成量は温度に大きく依存する.一方,過濃火炎では,燃料の熱分解によって生じた CH,
CH2 が空気中の窒素と反応して HCN や HN を生成し,さらに酸素と反応して NO となる.このと
き,NO の生成量は温度にあまり依存せず,大きな変化を示さない.後者の場合をプロンプト NO
という.
希薄火炎:
拡大 Zeldovich 機構による NO 生成.生成量は温度に大きく依存.
過濃火炎:
CH,CH2(燃料の熱分解)+窒素(空気中)→HCN+HN
↓
HCN+HN+O2→NO(プロンプト NO)
生成量の温度依存性低い.
5.7.3
フューエル NO
燃料中に N 分が含まれるとき,火炎内部の高温で燃料が分解されて発生した N ラジカルが空気
中の O ラジカルと反応することによって NO が生成される.これをフューエル NO という.フュ
ーエル NO は火炎帯とその近傍で生成されるとされる.
28
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燃焼の理論入門(初版)
第5章
燃焼計算
29/85
N 分(燃料中)→N ラジカル(燃料の熱分解)
↓
N ラジカル+O ラジカル(空気中)→NO(フューエル NO)
5.7.4
NO2
エンジン内部で生成される窒素酸化物は主に NO である.NO はエンジンから排出されると空気
中の酸素と容易に反応して二酸化窒素 NO2 となる.NO2 は光化学スモッグの原因物質であり,き
わめて有害である.
NO(エンジン内部で生成)
↓
NO(排気)+1/2O2(空気中)→NO2
5.8
硫黄酸化物
硫黄は次の反応により酸素と反応して SO2 となる.
S + O 2 = SO 2
余剰の酸素がある場合には,次の反応によって SO3 の生成が起きる.
1
SO 2 + O 2 →
← SO 3
2
SO3 はさらに次のように水蒸気と反応して,燃焼室を構成する金属を腐食する原因となる硫酸
を生成する.
SO 3 + H 2 O = H 2 SO 4
29
埼玉工業大学(小西克享)
第6章
6.1
燃焼の理論入門(初版)
第6章
排ガス浄化
30/85
排ガス浄化
排気ガス成分と有害性
エンジンから排出されるガスには表 10 のような種類がある.このうち,ガソリンエンジンで特
に問題となるのは,CO,HC,NOx の 3 種類である.ディーゼルエンジンで特に問題となるのは,
NOx,SOx,PM の 3 種類である.
表 10 排ガス成分とその有害性(◎:影響の大きな成分)
成分名称
二酸化炭素
水蒸気
水素
窒素
化学 ガソ ディー
発生原因
記号 リン ゼル
CO2 ◎
◎ 炭化水素の燃焼
H2O ○
○ 炭化水素の燃焼
H2
燃料の熱分解
N2
○
○ 新気中のN2
一酸化炭素
CO
◎
酸素
O2
炭化水素
HC
◎
○
窒素酸化物
NOx
◎
◎
硫黄酸化物
粒子状物質
未燃分
SOx
PM
SOF
○
◎
◎
○
有害性
地球温暖化の原因物質
血液中のヘモグロビン(血色素)と結
混合気の酸素不足(燃料 合して酸素の運搬を阻害する.臓器に
過濃)
酸素が供給されなくなり,死に至らし
める.
混合気の酸素過多(燃料
希薄)
不完全燃焼,ミスファイ
光化学スモッグの原因物質.
ア,壁面での消炎
光化学スモッグ,酸性雨(硝酸)の原
新気中のN2が高温状態で
因物質.呼吸器系への障害.目の粘膜
反応
を刺激.
シリンダライナの腐食,以上磨耗
重油中のSが燃焼
燃料の不完全燃焼
発がん性.呼吸器系への障害.
燃料,潤滑油の未燃分
PM:粒子状物質 Particulate Matter,(PM が凝集して「すす」となる.組成は C:H≒5:2)
SPM:浮遊粒子状物質 Suspended Particulate Matter
SOF:燃料,潤滑油の未燃分 Soluble Organic Fraction
6.2
ガソリンエンジンの排気浄化対策
エンジンの燃焼室内部で生じる窒素酸化物はほとんど(約 95%)が一酸化窒素 NO である.NO
は新気に含まれる N2 が高温状態で酸素と反応することによって生じる(サーマル NO という).
このほかにも燃料に含まれる N2 が発生原因となることもある(フューエル NO という).ただし,
NO がエンジンから排出されると,空気中の低温雰囲気において容易に酸化して二酸化窒素 NO2
となる.NO は高温かつ酸素過多の条件で発生しやすく,一方,HC と CO は酸素不足の条件で発
生しやすい.
ことから,発生原因は相反しており,対策が厄介なものとなっている.
サーマル NO,フューエル NO→高温・酸素過多で発生
発生原因が相反
未燃 HC,CO→低温・酸素不足で発生
対策が厄介
硫黄酸化物 SOx は燃料に含まれる S が酸素と反応することによって生じる.生成される SOx は
30
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第6章
排ガス浄化
31/85
高温雰囲気中でさらに水蒸気と反応して硫酸 H2SO4 を生成する.すすは粒子状物質 PM(および
浮遊粒子状物質 SPM)の代表例である.
6.2.1
排気ガス再循環,EGR(Exhaust Gas Recirculation)
一酸化窒素 NO を低減する方法として,燃焼温度を低下させ,N の反応を抑制することが効果
的である.EGR を行うと燃焼が抑制されて場の温度を下げる効果があり,NO の低減方法として
有効である.しかし,EGR のみでは規制値をクリアできないため,次項の触媒と組み合わせて用
いることが必要である.
NO の低減には,燃焼温度を低下させ,N の反応を抑制することが効果的.
EGR=排気の一部を吸気に戻すこと
EGR
燃焼反応抑制
場の温度低下
N の反応抑制
NO 低減
NO 低減のメカニズム
重要: EGR のみでは規制値クリア困難,三元触媒と組み合わせが必要.
図 28
6.2.2
EGR の効果
三元触媒 12)
図 29 に三元触媒の特性を示す.NO を低減するため,燃焼温度を下げたり,酸素濃度を減らし
たりすると,逆に HC や CO が増加するという逆効果を生じる.NO と HC もしくは CO はトレー
ドオフの関係にあると言える.発生側の燃焼系の改善だけでは限界があり,現在では排気ガスを
触媒で還元する方法が採用されている.触媒は白金 Pt,ロジウム Rh,パラジウム Pd などの貴金
属が,酸素が存在する場合には CO,HC を酸化させ,酸素不足では NO を還元する性質を利用し
ている.触媒には色々な種類があるが,現在用いられるのはほとんどが三元触媒と呼ばれるもの
で,NO,HC,CO を同時に浄化する働きがある.ただし,浄化率(転換率)にはウィンドウがあ
り,排気中の酸素濃度は 0.2%付近に制御することが必要である.このため,触媒入口には O2 セ
ンサを取り付け,電子噴射制御システムにフィードバックして空燃比の制御することが不可欠と
なる.
転換率,%
100
50
NO
HC
CO
0
0.94
過濃側
1.00
理論混合比
1.06
希薄側
空気過剰率
図 29 三元触媒の特性
31
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燃焼の理論入門(初版)
第6章
排ガス浄化
32/85
三元触媒における反応式は,つぎのとおり.
⎛ CO ⎞ ⎛ NO ⎞
⎟⎟ → CO 2 + H 2 O + N 2
⎜⎜
⎟⎟ + ⎜⎜
⎝ HC ⎠ ⎝ O 2 ⎠
ただし,NO は還元反応,CO と HC は酸化反応が行われる.
2NO → N 2 + O 2
2CO + O 2 → 2CO 2
2HC + 4O 2 → 2CO 2 + H 2 O
6.3
ディーゼルエンジンの排気浄化対策
ディーゼルエンジンでは排気ガスに酸素が多く含まれるため,三元触媒では NO の浄化が出来
ない.また,触媒そのものが高温となって溶融や急激な劣化が起こること.PM が触媒を目詰ま
りさせるなどの弊害が起きる.対策は以下のとおり.
6.3.1
NO の低減
①
燃料の対策
・
②
水エマルジョン化
燃焼系の対策
・
燃焼温度の低下させる(吸気冷却,噴射系の最適化「噴射時期調節,水噴射など」)
・
酸素濃度を低下させるため,排気再循環(EGR)を行う.
③
排気系の改善
・
還元触媒を用いる.
アンモニアは危険なため,自動車では 32.5%尿素水溶液(AdBlueⓇ)を用いる.
尿素水溶液を排気中に噴射すると,加水分解によりアンモニアを生成
尿素水を排気中に
NO
エンジン
NO + NO 2
酸化触媒
加水分解
CO(NH 2 ) 2 + H 2 O → 2NH 3 + CO 2
SCR 触媒
酸化触媒
排気
4NO + 2NH 3 + O 2 → 4N 2 + 6H 2O
6NO 2 + 8NH 3 → 7N 2 + 12H 2O
図 30 アンモニアによる排ガス浄化
6.3.2
①
HC の低減
燃焼系の対策として,
・ 燃焼温度を上昇させる(高圧縮比化,吸気加熱,噴射系の最適化「噴射時期調節,高圧
32
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第6章
排ガス浄化
33/85
噴射など」)
②
排気系の改善として,
・
6.3.3
酸化触媒を用いる.
SOx の低減
・ 燃料の低サルファ化を行う.
6.3.4
①
PM の低減
燃焼系の対策
・
充填効率を向上させるため,過給を行う.
・
混合を促進するため,スワール比の増大,高圧噴射,噴射期間の短縮などを行う.
②
潤滑系の対策
・
③
潤滑油消費量を低減する.
排気系の対策
・
6.4
6.4.1
除去フィルタを使用する.
排気ガス規制
ガソリンエンジンの排気ガス規制 12)
1940(昭和 15 年)年代:ロサンゼルスで光化学スモッグ多発(その原因が自動車排ガスと判明)
1950(昭和 25 年)年代:アメリカで排ガス浄化触媒の研究
1960(昭和 35 年)年代:モータリゼーションが本格化
1966(昭和 41 年):カリフォルニア州で自動車排ガス規制施行,東京都“環 7 ぜんそく”問題化
1968(昭和 43 年):大気汚染防止法(CO のみ)施行
1970(昭和 45 年):5 月,東京都新宿区牛込柳町の鉛中毒事件
7 月 18 日,東京都杉並区の私立立正高校で,日本初の光化学スモッグの被害発
生
12 月,米議会でマスキー法成立
1972(昭和 47 年):環境庁,マスキー法実施決定
1975(昭和 50 年):日本,昭和 50 年規制実施(CO,HC90%低減,NO 半減)ガソリン無鉛化
1976(昭和 51 年):日本,昭和 51 年規制実施(酸化触媒を搭載した自動車が走り出す)
1978(昭和 53 年)以降:日本,昭和 53 年規制実施(CO,HC,NO90%低減),54,56,57,63 年
規制実施
1989(平成元年):ヨーロッパでも排ガス規制,日本,平成元年,2 年,4 年規制実施
1992(平成 4 年):日本,排出ガス試験法を 10 モードから 10・15 モードに変更(表 9 参照)
1994(平成 6 年)以降:日本,平成 6 年,7 年,10 年,11 年,12 年,13 年,14 年規制実施
2005(平成 17 年):日本,排出ガス試験法をコンバインモード(10・15+11 モード)に変更.
33
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排ガス浄化
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表 11 ガソリン車排ガス規制の変遷(型式あたりの平均値)
西暦
年号
CO, g/km
HC, g/km
NOx, g/km
PM, g/km
運転パターン
6.4.2
1961 1963 1965 1966 1967 2000
S48 S50 S52 S53 S54 H12
←
←
← 0.67
18.4 2.1
←
← 0.08
2.94 0.25 ←
2.18 1.2 0.6 0.25 ← 0.08
10 mode
10・15 mode
2005 2009
H17 H21
1.15 1.15
0.05 0.05
0.05 0.05
0.005
Combine
自動車用ディーゼルエンジンの排気ガス規制
1965(昭和 40 年)頃~:スモーク濃度を 50%以下に制限
1979(昭和 54 年):日本,昭和 54,57,58 年規制
1986(昭和 61 年)以降:日本,乗用車は排出ガス試験法を 6 モードから 10 モードに変更,61,
63 年,平成元年,2 年規制実施
1992(平成 4 年):日本,自動車 NOx 法施行.4 年,5 年規制実施
1994(平成 6 年):日本,トラックは排出ガス試験法を 6 モードから 13 モードに変更
濃度規制から重量規制 g/(kW・h)へ,スモークは 40%以下(マンセルマン法)
1997(平成 9 年)以降:日本,平成 9 年,10 年,11 年規制実施
2001(平成 13 年):日本,自動車 NOx・PM 法施行.14, 15, 16 年規制実施
2005(平成 17 年):日本,排出ガス試験法をコンバインモード(10・15+11 モード)に変更.
2009(平成 21 年):日本,ディーゼル車は排ガス中の粒子状物質(PM)をほぼゼロに(予定)
2015(平成 27 年):日本,3.5 トン超 20 トン超まで 11 段階の燃費規制,2002 年度比でトラック
12.2%,バス 12.1%の燃費改善(予定)
表 12 ディーゼル小型乗用車(新車)の排ガス規制
西暦
年号
CO, g/km
HC, g/km
NOx, g/km
PM, g/km
運転パターン
6.4.3
(1)
1986 1997 2002 2005 2009
S61 H9
H14
H17
H21
←
2.1
0.63 0.63 0.63
←
0.4
0.12 0.024 0.024
0.4 0.28 0.14 0.08
0.08 0.052 0.013 0.005
Combine
10・15 mode
表 13
NOx・PM 法
西暦
2000
年号
H12
CO, g/km
HC, g/km
0.48
NOx, g/km
0.055
PM, g/km
運転パターン
舶用ディーゼルエンジンの排気ガス規制
経緯
参考: 国土交通省 Web ページ:http://www.mlit.go.jp/kaiji/imo/imo_.html
1912 年(明治 45 年):4 月 14 日深夜,タイタニック号(総トン数 46,328 トン)沈没(乗船客 2200
人中約 1500 名が犠牲)
1914 年(大正 3 年):1 月,タイタニック号事件を受け,ロンドンで国際会議開催.「海上にお
ける人名の安全のための国際条約」採択
1958 年(昭和 32 年):IMCO 設立(政府間海事協議機関)→1975 年 IMO(国際海事機関),2000
年 3 月現在加盟 158 カ国,準加盟 2 カ国(香港,マカオ)
1973 年(昭和 48 年):「1973 年の船舶による汚染の防止のための国際条約」採択
1978 年(昭和 53 年):2 月,海洋汚染防止条約「1973 年の船舶による汚染の防止のための国際
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燃焼の理論入門(初版)
第6章
排ガス浄化
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条約に関する 1978 年の議定書(MARPOL73/78)」採択.
1988 年:IMO(国際海事機関)において,ノルウェーが提案.
MEPC(海洋環境保護委員会),BCH(バルク・ケミカル小委員会)で検討
1997 年(平成 9 年):9 月,「附属書 VI:船舶からの大気汚染防止のための規則」追加.すべて
の船舶に適用.
2005 年(平成 17 年)5 月 19 日
効力発生
表 14 MARPOL73/78 条約発行状況(2005 年 12 月 31 日現在)
条約名
採択日
(年月日)
附属書I/II;油/化学物質
1978/2/17
附属書III;容器輸送される有害物質 1978/2/17
附属書IV;糞尿,汚水
1978/2/17
附属書V;船舶からの廃物
1978/2/17
附属書VI;船舶による大気汚染
1997/9/26
(2)
発効日
(年月日)
1983/10/2
1992/7/1
2003/9/27
1988/12/31
2005/5/19
締約国数
138
123
113
128
37
世界の船腹量
に占める
割合(%)
98
94
75
96
72
窒素酸化物 NOx
2000 年 1 月 1 日以降建造の船舶に搭載される出力 130kW を超える舶用ディーゼル機関に適用
a. 定格回転数 n =130rpm 未満:
17g/kWh
b. 定格回転数 n =130rpm 以上 2000rpm 未満:
c. 定格回転数 n = 2000rpm 以上:
(3)
45*n-0.2g/kWh
9.8g/kWh
硫黄酸化物 SOx
燃料中の硫黄分を上限 4.5%とする.
(4)
船上焼却
2000 年 1 月 1 日以降に建造される船舶に搭載される焼却炉について,所定の構造・運転要件を
満足すること.重金属・PCB 等の焼却禁止ほか
(5)
オゾン層破壊物質
故意による排出およびオゾン層破壊物質を含む設備の船舶への新規搭載禁止
(6)
発効要件
新議定書は 15 カ国以上が締結し,商船船腹量合計が総トン数で世界の商船船腹量の 50%とな
った日の 12 ヵ月後に発行.(2003 年現在)12 カ国 54%,手続き中 3~4 カ国,
引用文献
1) 疋田 強:火の科学,倍風館
2) 小川 勝:燃料油及び燃焼,海文堂
3) 小西 誠一:燃料工学概論,裳華房
4) 西山 善忠:燃料油・潤滑油,海文堂
5) 疋田強,秋田一雄:燃焼概論,コロナ社
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燃焼の理論入門(初版)
第6章
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6) 新岡 嵩,河野 通方,佐藤 順一:燃焼現象の基礎,オーム社
7) JANAF Thermochemical Tables, Third edition, (1985)
8) 水谷 幸夫,燃焼工学第 3 版,森北出版
9) 日本機械学会編:燃焼工学ハンドブック,丸善
10) S. R. Brinkley, Jr.: High Speed Aerodynamics and Jet Propulsion; Vol. Ⅱ, pp. 64~98 (1956)
11) 滝下利男:火花点火機関における排気組成の計算-化学平衡計算,内燃機関臨時増刊,(1972)
12) 村山,常本:自動車エンジン工学,山海堂
13) 国土交通省 Web ページ:http://www.mlit.go.jp/kaiji/imo/imo_.html
参考文献(入門書として)
14) 新岡 嵩:燃える
ろうそくからロケットの燃焼まで,オーム社
15) 小口 正七:火をつくる,裳華房
16) 秋田 一雄:火のはなしⅠ,火のはなしⅡ,技報堂出版
17) 水谷 幸夫:燃焼工学入門,森北出版
18) 樺山 紘一,河野 通方,下村 道子,徳本 恒徳,平野 敏右 編:火の百科事典,丸善
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燃焼の理論入門(初版)
第6章
燃焼の理論入門(初版)
燃焼の理論入門(初版)
平成 21 年 12 月 1 日 初版
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著者
小西克享
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