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第11回
1
所有権移転登記(特定承継)
売買による移転登記
(1)通常売買
・所有権移転の登記手続は原則として共同申請による。その登記義務者は所有権保
存または所有権移転登記により、権利部の甲区に登記されているが、単有で登記
されているものもあれば、共有で登記されているものもある。
・所有権の移転登記がなされると、他の共有者に共有持分が移転する場合等を除き、
新たな登記名義人が生ずることになる。
①
所有権移転登記における登記の目的
・実質的には「所有権を移転する」ことに変わりはないが、不動産登記法は一般の
人に分かりやすくするため、単有の場合と共有の場合で所有権移転の登記の目的
の表現方法を変えている。
・例えば A 単有の所有権を B に移転する場合には「所有権移転」(図 1①)となる
が、A の所有権の一部(持分)を B に移転する場合には「所有権一部移転」
(図 1②)
と記載し、AB 共有の状態で、A が自己の持分を「全部」C に移転する場合には
「A 持分全部移転」(図 1③)となる。
・その場合でも、Aが自己の持分の「一部」を C に移転する場合には「A 持分一部
移転」(図 1④)となる。
・そして、AB がその持分「全部」を C に移転する場合には「共有者全員持分全部
移転」(図 1⑤)という表現をする。
図1
A
①
A
②
③
④
⑤
B
A
B
A
A
B
B
所有権移転
A
B
所有権一部移転
A
C
B持分全部移転
A C
C
1
B
A持分一部移転
共有者全員持分全部移転
・そうなると、共有者が 20 人のうち 19 人がその持分全部を第三者に移転する場合
に、19 人全員の名前を記載する必要があるかということになる。手続的には 19
人全員の名前を記載することも可能であるが、公示の一覧性を考え、残り 1 名を
除いた「何某を除く共有者全員持分全部移転」という登記も認められる。
・なお、AB がその持分を C に譲渡する場合、厳密には ABC の三者契約の場合と、
AC と BC の 2 つの契約の場合がありうる。後者のように別々な契約であれば同
一の登記申請書で登記申請することはできない。例えば 4 月 1 日に A と C の契
約があり、4 月 2 日に B と C の契約があった場合には、A 持分全部移転と B 持分
全部移転の 2 件に分けて申請しなければならない。
・この点、従来の取扱いは、申請書副本を添付すれば、登記原因を証明する情報は
必ずしも提供を要しなかったので、日付が同一の場合には同一の契約と考え、共
有者持分全部移転という登記を受け付けていた。登記原因を証明する情報を必ず
提供することとなった新法下においては ABC の三者契約なのか AC と BC の 2
つの契約なのかははっきりするので、日付が同一であっても 2 つの契約であれば
1 件の登記申請書で共有者全員持分全部移転という登記はできないことに注意が
必要である。
図2
AB
A
→
C
の譲渡
A
三者契約
2 つの契約
C
C
B
B
・また、同一人が数回に分けて各別に持分を取得しているときは、その持分全部を
第三者に売買による所有権移転登記を申請することもできるが、「何某持分一部
(順位何番で登記した持分)の移転」としてそれぞれの持分につき移転登記をす
ることもできる(S58・4・4 民三 2252 号通達)
・また、上記の場合に、取得した持分の一部に差押等の登記がされている場合には、
差押えのされている持分とされていない持分を 1 件として所有権移転登記申請す
ることはできず、その場合には上記の振合により持分を特定したうえで 2 件に分
けて申請しなければならない(S37・6・28 民甲 1748 号通達)
2
図3
A
B
B
順位 3 番 で 順位 4 番で
登記
登記
B 持分一部(順位 4 番で登記した持分)
の移転
C
②
売買の効力発生時期と登記原因日付
・売買の効力は、意思主義をとる民法のもとでは原則として売買契約が成立した日
に生ずる。
・しかし、民法の基本原則とは異なり、取引実務においては、所有権移転時期を売
買代金完済の日とする特約がされていれば、その場合の所有権移転の原因日付は
売買代金の完済の日(登研 446 号 P121 質疑応答)となる。停止条件付売買の場
合は、その条件の成就した日が所有権移転の日付となり、他人所有の不動産売買
(民法 560 条)の場合は、売主がその他人から所有権を取得した日(登研 437 号
P65 質疑応答)等が効力発生の日として、登記原因日付となる。
・農地法の許可など、第三者の許可等に基づき所有権が移転する場合は、当該許可
書等が到達した日(農地法の許可を得た後に売買した場合は、原則としてその売
買の日)となるが、農地の売買において、農地法の許可を得る前に地目変更によ
り農地以外のものとなった場合においては、農地法上の許可という条件が無条件
となるので、登記原因の日付は登記簿上の地目変更の日となる (登研 575 号) 。
③
売買による移転登記の申請構造
・売買による所有権移転登記は、買主を登記権利者、売主を登記義務者として共同
申請しなければならず、もし登記義務者の協力が得られないような場合には勝訴
判決を得て、単独で登記申請をするしかない。しかし、登記権利者が複数いる場
合に他の登記権利者が協力しない場合であっても、登記権利者のうちの1人は保
存行為として、登記義務者と共同して登記申請をすることができる(ただし、新
法においては保存行為をした者のみに対して登記識別情報が通知されるので注
意が必要である)。
3
事例1
不動産を売却したら
A は所有権の登記がなされている甲土地 1 筆を所有している。
A は平成 21 年 12 月 31 日付で、B に甲土地を金 1,500 万円で売却する契約を締結
した。土地の評価額は 1,000 万円である。
この場合、どのような登記をすることになるか。
(1)登記申請手続
売買による所有権移転登記の申請書
登記の目的
所有権移転
原
因
平成 21 年 12 月 31 日
権
利
者
(住所省略)
B
義
務
者
(住所省略)
A
添 付 書 面
登記原因証明情報
印鑑証明書
①
課 税 価 格
金 1,000 万円
登録免許税
金 20 万円
売買
登記識別情報(登記済証)
住所証明書
代理権限証書
登記の目的
・「所有権移転」と記載する。
②
原
因
・売買契約締結時の平成 21 年 12 月 31 日を記載する(76 条 1 項・令 3 条 6 号)。
③
申請人
・登記権利者として買主 B、登記義務者として売主 A の住所・氏名を記載する。
④
添付情報(添付書面)
(ア)登記原因証明情報(令 7 条 1 項 5 号)
(イ)登記識別情報(登記済証)(22 条)
(ウ)印鑑証明書(令 16 条 2 項)
(エ)住所証明書(令 7 条 1 項 6 号)
(オ)登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するときは、当該第三者
が許可し、同意し、又は承諾したことを証する情報(令第 7 条 5 号ハ) 1
(カ)代理人によるときは、代理権限証書(令 7 条 1 項 2 号)
⑤
登録免許税
・不動産価額の 1000 分の 20(登税法別表第 1・1(2)ハ)。
上記 事例1 の場合、
金 1,000 万円×1000 分の 20
=
金 200,000 円
1 登記原因について第三者の許可等が効力要件となっている場合に、当該許可証明情報は登記原因
証明情報の成立を証明している情報ではあるが、独立した添付情報として位置付けられている。
4
申請後の登記記録
【権利部(甲区)】(所有権に関する事項)
【順位番号】 【登記の目的】【受付年月日・受付番号】
【原
因】
【権利者その他の事項】
1
所有権保存
(省略)
余白
所有者
(住所省略)A
2
所有権移転
(省略)
平成 21 年 12 月 31
日売買
所有者
(住所省略)B
(2)注意すべき事項
①
申請人に関する添付書類について、売主または買主が法人の場合は、当該法人
の代表者の資格を証する書面として登記事項証明書を添付する必要がある。
②
買主が複数の場合、持分を記載する必要がある(令 3 条 9 号、11 号ホ)。
③
所有権移転に際し、共有物分割禁止の定め(民法 256 条 1 項、令 3 条 11 号ニ)
がある場合、所有権移転失効の定め(令 3 条 11 号ニ、M32・12・28 民刑 2059
号回答、S32・9・21 民甲 1849 号回答)がある場合は、その定めも登記申請する。
④
共有物分割禁止の定めは、所有者からの一部移転の登記(A から AB 共有名義
にする等、)と同時にも別個にも登記することができる(S50・1・10 民三 16 号
通達)。しかし、所有者から複数の買主に全部移転をして共有となった場合(A か
ら BC 共有名義にする等)や、相続人間でなされた共有物不分割の特約は、売買
や相続による所有権移転登記申請書に記載して申請することはできず、所有権の
変更登記として別個に申請する(S49・12・27 民三 6686 号回答)(旧不登法 39
条の 2 参照)。
・5 年をこえる期間内共有物の分割をしない旨の契約は、契約全部が無効であるた
め、5年以内に引き直したとしても、その旨の登記をすることはできない(S30・
6・10 民甲 1161 号通達)。
事例 2
不動産を売却後に売主が死亡した場合
A は所有権の登記がなされている甲建物を所有していた。
A は平成 21 年 12 月 31 日付で、同不動産を B に売買する契約を締結したが、所有
権移転登記未了の間に A が死亡した。A の相続人は、妻の C と成人している長男 D
である。
この場合、どのような登記をすることになるか。
C
A
H21・12・31 売買
D
5
B
(1)登記申請手続
登記の目的
所有権移転
原
因
平成 21 年 12 月 31 日
売買
権
利
者
(住所省略)
B
義
務
者
(住所省略)
亡 A 相続人
C
(住所省略)
亡 A 相続人
D
添 付 書 面
登記原因証明情報
印鑑証明書
登記識別情報(登記済証)
住所証明書
相続証明書
代理権限証書
(以下省略)
・登記の目的や原因日付については、通常売買と同様であり、その他の添付情報も
一般的なものと同様である。
・本件の場合には、登記義務者が死亡しているので、登記義務者の相続人全員であ
る C および D が A の相続人として登記申請をする。
・添付情報としては通常のもののほか、相続人からの申請であることを証明するた
め相続証明書を添付する(62 条、令 7 条 1 項 5 号イ)。また登記識別情報につい
ては登記義務者 A のものを提供する。印鑑証明書については死亡した A のものは
発行されないので、相続人全員の印鑑証明書(発行後 3 カ月以内)を添付する。
(2)注意すべき事項
・相続証明書については登記義務者の相続人に関しては全ての相続人に関する相続
証明証が必要であるが、登記権利者の相続人の相続証明書については一部の者が
保存行為として登記申請をすることができるので、当該登記申請をしている者の
みの相続証明書で足りる。
2
売買以外の契約による移転登記
・売買以外の契約による移転登記も、基本的には売買と同様に登記の目的を記載し、
添付情報(添付書類)を添付すればよい。さまざまな契約による所有権移転登記に
関し、それぞれの登記手続の違いの特徴を整理して覚えよう。
(1)贈与
・贈与とは、贈与者が自己の財産を無償で受贈者に与える意思表示をし、受贈者が
受諾することにより効力を生ずる契約である(民法 549 条)。よって、贈与の効
力は意思表示の合致により生じると言える。従って生前贈与、負担付贈与の登記
原因の日付については特に条件が付されない以上は贈与契約の成立の日となり、
死因贈与は贈与者の死亡の日となる。
・登記原因については生前贈与、負担付贈与、死因贈与のいずれについても区別な
6
く「贈与」となる。
・生前贈与や負担付贈与による登記の申請をする場合には、贈与契約の成立を証す
る情報がそのまま登記原因証明情報となる。しかし死因贈与の場合には、贈与契
約の成立のほかに贈与者が死亡したことを証する情報も提供しなければならな
い。また、受贈者が法人の場合は、当該法人の代表者の資格を証する書面として
登記事項証明書を添付する必要がある。
・贈与による所有権移転登記は、受贈者を登記権利者、贈与者を登記義務者とする
共同申請によるが、死因贈与の場合は、贈与者は既に死亡しているので、贈与者
の相続人全員が登記義務者となる。
(2)交換
・交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約すること
によって、その効力が生じる契約である(民法 586 条 1 項)。
・交換すべき財産については特別の制限はなく、金銭以外のものであれば交換する
ことができる。また交換されるべき互いの財産についても同等の価値である必要
はなく、たとえば不動産と自動車の交換ということもあり得る(税法上の等価交
換の要件を満たす必要はない)。
・その財産が不動産の場合、原則としてその契約が成立したことにより所有権が移
転し、その移転を第三者に対抗するためには、所有権移転登記を行わなければな
らない。
・交換よる所有権移転の登記原因は「交換」、登記原因の日付は交換契約が成立し
た日となる。
・交換によって所有権を得る者を登記権利者、所有権を失う者を登記義務者とする
共同申請による。
・なお、登記原因証明情報には交換であることを証明するため、交換すべき双方の
財産の記載が必要となる。
(3)代物弁済
・債務者が、債権者の承諾を得て、債務の履行としての本来の給付に代えて他の給
付をして債権を消滅させる契約を代物弁済契約という(民法 482 条)。代物弁済
とは、この代物弁済契約に基づき、本来の給付に代わる物を給付することである。
・この「他の給付」が不動産の場合、債務者が所有する不動産の所有権を債権者に
移転することになる。
・なお、金銭債務について不動産を給付物とする代物弁済契約は、仮登記担保契約
の性質を有し、仮登記担保法が適用されることに注意しなければならない。
・代物弁済によって、その目的たる財産の所有権を債権者は取得することになるが、
目的物が不動産の場合、債権者が代物弁済契約を締結しただけでは足りず、登記
その他の引渡しが完了して初めて代物弁済が成立し、債権が消滅することになる
のが原則である(大判 S13・2・15)。
・ただし、代物弁済契約の内容により、登記や引渡しを要しないで債権を消滅させ
7
るものであるときは、当該契約によって効力を生じる場合もある。この契約と不
動産における要物性との関係は、当事者間の合意によって代物弁済契約の効力は
生じるが、代物弁済による債務の消滅は所有権移転登記の日に効力が生じると解
されている。
・よって、代物弁済による所有権移転登記の登記原因日付は代物弁済契約の日とな
る(代物弁済債務が消滅しなければ所有権移転の効果が発生しないと考える必要
はない)。
・代物弁済による所有権移転登記は、債権者を登記権利者、債務者たる所有者を登
記義務者として共同申請する。
(4)現物出資
・現物出資とは、会社設立の際、または会社の資本増加につき、金銭以外の不
動産、動産、有価証券等をもって出資することをいう。
・会社が特定の財産を必要とする場合や出資者の便宜を考え、金銭以外の出資
に対し、その価額に相当する株式を発行することを認めたものである。
・不動産を現物出資する場合は、出資の履行として会社に対し所有権移転登記
をする。
・なお、株式会社の場合、設立時における現物出資については引受後遅滞なく、
募集株式については払込期日または期間内に現物出資財産を給付しなければ
ならない(会社法 34 条 1 項本文、同 208 条 2 項)が、設立時の現物出資に
よる所有権移転登記は、発起人全員の同意があれば、会社設立後にすること
ができる(会社法 34 条 1 項ただし書)。
・株式会社の場合、「現物出資」を登記原因に、現物出資財産を給付した日が登記
原因日付となります(76 条第 1 項・令第 3 条第 6 号)。
・現物出資による所有権移転登記は、会社を登記権利者、出資者たる所有者を登記
義務者として共同申請する。
(5)譲渡担保
・譲渡担保とは、負担している債務を担保するため、債務者または第三者(物
上保証人)の所有する財産を債権者(譲渡担保権者)に移転することをいう。
・債務不履行があった場合、債権者はその不動産を売却して債権の弁済に充当
する(処分清算型)か、またはその不動産の所有権を取得する(帰属清算型)
ことによって、債権を保全する。
・この場合、仮登記担保法が適用されることに注意する必要がある。
・譲渡担保契約が解除されたとき、または債務が弁済されたときは、対象不動
産を債務者等に返還することになる。
・当該財産が不動産の場合、譲渡担保を設定するときは「譲渡担保」を原因と
して債権者への所有権移転登記をする(最判 S47・11・24、登研 80 号 P38
質疑応答)。
・なお、譲渡担保がなされた後に当該譲渡担保契約が解除された場合は、
「譲渡
8
担保契約解除」を原因として、所有権移転登記を抹消するか、所有権移転登
記をすることにより、譲渡担保権者から債務者または第三者(物上保証人)
名義に戻す(大判 T7・4・4、登研 342 号 P77 質疑応答)。
・また、債務が弁済されたときは、所有権移転登記により譲渡担保権者から債
務者または第三者(物上保証人)名義に戻す(精義P1643~1644)。
・譲渡担保を設定する場合、譲渡担保契約の成立の日をもって効力が生ずるため、
その日を登記原因日付とし、「譲渡担保」が登記原因となります。
・譲渡担保契約を解除する場合は解除契約が成立した日に、債務弁済の場合は債務
を完済した日に、それぞれ効力が生ずる。
・よって、前者は「譲渡担保契約解除」を登記原因、解除契約の日を登記原因日付
(記載例 132、登研 342P77 質疑応答)、後者は「債務弁済」を登記原因、債務完
済日を登記原因日付とする(精義 P1644)。
・譲渡担保による所有権移転登記は、譲渡担保権者を登記権利者、設定者たる債務
者または物上保証人を登記義務者とする共同申請による。
・譲渡担保契約解除ならびに債務弁済による場合は、設定者たる債務者または物上
保証人を登記権利者、譲渡担保権者を登記義務者として共同申請する。
・なお、譲渡担保権は債権を担保するものではあるが、非典型担保として登記が認
められるようになった経緯から、通常の担保権の登記のように債権額や利息・損
害金及び債務者等の登記をすることはできない。
・同様に、担保目的の所有権移転登記ではありながら、譲渡担保権の実行という登
記がないという点も実務上の問題とされている。
(6)共有物分割
・不動産を共有する共有者は、5 年を越えない期間内における共有物分割禁止の
特約がない限り、いつでも共有物の分割を請求することができる(民法 256
条 1 項)。
・共有物の分割には、共有者全員の協議による場合と、協議が調わないときに裁判
所に分割を請求する場合がある。
・さらに分割の方法には、現物分割・代金分割・価格分割がある。
・共有物分割による移転登記手続には次のような場合が考えられる。
① 2 筆の共有不動産をそれぞれ単有にする場合。
・例としては、AB 共有の甲土地、乙土地があり、甲土地につき A、乙土地につ
き B、それぞれ単有にする共有物分割がなされた場合。
・この場合、甲土地につき、「共有物分割」を登記原因として、登記権利者 A、
登記義務者 B の共同申請でB持分全部移転登記を、乙土地につき、「共有物分
割」を登記原因として、登記権利者 B、登記義務者 A の共同申請で A 持分全
部移転登記をそれぞれ行う。
② 1 筆の土地を分筆してそれぞれを単有にする場合。
・例としては、AB 共有の甲土地につき、分筆して甲土地と乙土地にし、甲土地
は A 単有、乙土地はB単有とする共有物分割がなされた場合。
9
・この場合は、まず分筆登記を行う。その後は上記①と同様である。
③
共有物分割により他の不動産を取得させる場合。
・例としては、AB 共有の甲土地につき、A 単有とし、B は交換として A が所有
する乙土地を譲渡するという共有物分割がなされた場合である。
・この場合は、甲土地につき、「共有物分割」を登記原因とし、登記権利者 A、
登記義務者 B の共同申請により B 持分全部移転登記を、乙土地につき、「共有
物分割による交換」を登記原因(記録例 141)として、登記権利者 B、登記義
務者 A の共同申請により所有権移転登記を行う。
・共有物分割として所有権を取得する者が登記権利者、所有権を失う者が登記義
務者として登記申請をする。
共有物分割による登録免許税の税率は原則として 1,000 分の 20(登税法施行
④
令 5 条の 3、登税法別表 1・1・
(二)ハ)であるが、次の要件を充たすことで 1,000
分の 4 に減税される(登税法施行令 5 条の 3、登税法別表 1・1(二)ロ)。
(ア)目的の土地につき、共有物分割による持分移転登記手続の申請前に分筆登記
がなされていること。
(イ)分筆登記によって生じた他の土地と、当該土地の共有物分割の登記が同時に
なされること。(例えば AB2 分の 1 ずつ共有の甲土地 100 ㎡を分筆して甲土地
50 ㎡と乙土地 50 ㎡に分筆した場合に、甲土地の B 持分を A に全部移転する登
記と、乙土地の A 持分を B に全部移転する登記が同時にされること)
(ウ)共有物分割によるお互いの対価が等しいこと(その差額については原則通り
1,000 分の 20 となる)
(7)財産分与
・財産分与は離婚した当事者の一方が相手方に対して、夫婦共同生活中に形成した財
産の清算や、慰謝料、養育費等の性格を有するものと解されている。
・そして、財産分与は離婚に伴うものであるから、離婚の効力発生日と財産分与契約
の双方が効力を生じている必要がある(その日が財産分与の日付となる)。
・離婚については協議上の離婚(民法 768 条)や、裁判上の離婚(民法 771 条)はも
とより、婚姻の取消(民法 749 条)の場合にも財産分与請求が可能と解されており、
婚姻関係になくても内縁離婚をした件につき「被告は、原告に対し、〇〇の不動産
につき年月日財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ」との判決正本を添
付して所有権移転登記を申請する場合には、登記原因を「財産分与」とすることが
できる(S47・10・20、民三 559 号回答)。
・財産分与による所有権移転の登記原因は「財産分与」である。
・財産分与の日付は、上記の通り財産分与契約と離婚後効果が双方とも生じていなけ
ればならないので、離婚前に財産分与契約をした場合には離婚の日付が、離婚後に
財産分与契約をした場合には財産分与契約の日付がそれぞれ登記原因の日付とな
る。
・離婚前における財産分与の予約を登記原因とする所有権移転請求権仮登記の申請は
受理できない。(S57.1.16 民事甲第 251 号民事局長回答)
10
・財産分与による所有権移転登記は所有権を取得する者が登記権利者、所有権を失う
者が登記義務者となり、共同申請(60 条)するのが原則であるが、審判や調停に
基づき不動産の給付を命じている場合には、判決による登記に準じて、登記権利者
の単独申請をすることができる(63 条 1 項)
2
契約によらない移転登記
(1)契約解除・取消
事例1
売買契約の解除または取消
売買により A から B に所有権移転登記がされた後、当該売買契約が解除または取消
された場合に、どのような登記手続ができるだろうか。
図1
①売買による所有権移転登記
A
B
×
②契約解除の意思表示
・このような場合、「解除」または「取消」を登記原因として B から A に所有権移転
登記をすることができる。
・ただし、A から B への所有権移転登記を、解除により B から A に再度所有権移転
登記する場合には、登録免許税の関係から、通常は A から B への所有権移転登記
を抹消する。
図2
方法1 「解除」によるBか
方法2
らAへの所有権移転登記
Bへの所有権移転登記の抹消
A
×
B
A
「解除」によるAから
×
B
・抹消登記については項をあらためて説明することとし、ここでは契約の解除・取消
に基づく所有権移転登記について説明する。解除または取消により、B から A に所
有権が復帰するが、その復帰する現象をとらえて、対抗要件による登記と解されて
いる。
・実体法上、A は B に解除や取消の効果を主張することができるか、また、B が第三
11
者に権利を処分した場合に、解除や取消は処分の前後により、結論が分かれること
は、既に民法で学習したとおりである。
・登記原因については、契約の合意解除の場合には「合意解除」とし、法定解除の場
合には「解除」と記載する(S31・6・19 民甲 1247 号通達)。また、日付は解除の
意思表示が効力を発生した日を記載することになる。
図3
売買
解除
遡って無効となるが、原因日付
は解除等の日付
・なお、売買契約そのものが錯誤による場合には、所有権移転の効果自体が契約当初
から発生しておらず、所有権が B から A に復帰するわけではないので、「錯誤」を
原因とする所有権移転登記はできないこととされている(登記研究 541 号 P137)。
(2)時効取得
・時効には、取得時効と消滅時効があるが、所有権には消滅時効は適用されないので、
対象が所有権の場合には、取得時効にのみ注意が必要である。
・第三者が時効取得したことにより、所有者の所有権が消滅するのは取得時効の反射
効とされており、消滅時効によるものではない。
所有権
取得時効のみ適用あり
所有権以外
取得時効と消滅時効の適用あり
・なお、取得時効の性質は、原始取得とされているが、登記手続としては所有権移転
の手続による。それは、もし原始取得を厳格に表現しようとすれば、前所有者から
の承継取得ということではなく、初めから時効取得者が所有していたこととなるの
で、前所有者の所有権を抹消し、ひいては表示登記まで抹消したうえで、時効取得
者が表題登記、所有権保存登記を申請しなければならないこととなってしまい、手
続上不経済であることと、前所有者が登記記録上公示されていたほうが情報として
も有益であるなどの理由による。
・また、登記原因の日付については、時効の効果は占有の初めに遡るので(遡及効)
時効完成から 10 年または 20 年遡った占有の開始日となる。所有の意思をもって占
有を開始した時期が特定できないからといって、「年月日不詳時効取得」を原因と
する所有権移転の登記の申請は、受理すべきではない(S57・4・28 民三 2986 号回
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答)とされており、日付は必ず特定しなければならない。売買による所有権移転の
登記を判決によってする場合、判決の主文または理由中に売買の日付が表示されて
いない場合は、「登記原因及びその日付」は、「年月日不詳売買」と記載するほかな
い(S34・12・18 民甲 2842 号回答)、とする先例と比較して覚える必要がある。
・なお、原始取得の関係で、時効取得により所有権を失う者が設定した抵当権等の第
三者の権利は、初めから設定されていなかったものと解されるはずであるが、登記
手続上は所有権移転の形式をとるため、第三者の権利が付着したまま所有権の移転
登記をする。
・そして第三者の権利は、時効取得者には原則として対抗できないので、時効取得に
よって所有者となった者は、第三者との共同申請により「所有権の時効取得」を登
記原因として、当該抵当権等を抹消登記申請することになる。その際の登記原因日
付も占有の開始日である。
・もし第三者が抹消登記に協力しない場合には、その者に対する勝訴判決を得て単独
申請により抹消登記ができる。
(3)持分放棄
・単独所有の不動産を放棄した場合には、無主の不動産となり、その不動産は国庫に
帰属してしまうので(民法 239 条 2 項)、登記上はあまり問題となることはない。
・問題となる場合は共有関係における、共有者の持分放棄の場合である。
共有者が持分を放棄すると、その持分は他の共有者に帰属することになるが(民法
255 条)、他の共有者が現在の共有登記名義人になっているかどうかという点がポイ
ントである。
・かつては共有名義の不動産の共有者の 1 人の持分について、共有名義人でない第三
者のために放棄を原因とする共有持分移転登記申請があつた場合、受理すべきであ
る(S45・2・2、民甲 439 号回答)とし、ABC 共有の不動産について、A の持分放
棄により B に帰属した持分のみ移転登記がされている場合において、A の残余持分
につき第三者 D を権利者とする売買による持分移転の登記申請があつたときは、受
理すべきである(S44・5・29、民甲 1134 号回答)とされ、実体法上登記名義のな
い者に対しても、持分放棄の効果は発生するという考えに基づいて、持分放棄を原
因として登記名義のない者に対する移転登記も認めていたが、昭和 60 年に、先例
が変更された。
・その先例は、AB 共有名義の不動産につき、A の持分について共有名義人でない C
のために「持分放棄」を登記原因とする共有持分移転の登記の申請は、受理できな
い(S60・12・2、民三 5441 号通達)とするものであり、現在では登記名義のない
者への持分放棄による移転登記はできないものとされている。
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図4
登記簿 上 AB の共 有で ある場
Aの放棄によるCへの持分
合、Bがその持分をCに売買
移転登記をするためには、B
し、その後共有者Aが持分を放
からCへの売買による所有
棄した場合にはその持分はC
権移転登記が前提として必
に帰属する。
要
A
B
①売買
A
C
②放棄
B
C
B
×放棄による持分移転
・さらに、AB 共有の不動産について、「持分放棄」を登記原因として B の持分を A
に移転する場合、A の住所が従前の住所と相違する場合には、その前提として A の
住所移転の登記をする必要がある(登記研究 473 号 151)ので、今回の持分放棄に
よる新しい登記のほかに、従前の登記名義についても、住所・氏名の一致により、
同一人であるということが必要とされる。
・なお、ABC 共有の場合に、A の持分放棄を原因とする B のみへの持分一部移転の
登記は、C が登記をするかどうかは私的自治の原則により自由であるという理由か
ら、申請は可能である(S35・9・29 日民甲 2751 号回答)。
事例 2
A が 5 分の 3、BC 各々5 分の 1 の持分割合で共有していた場合に、C が持
分放棄をした場合
1/5×3/4 = 3/20
A
3/5
B
C
1/5
1/5
1/5×1/4 = 1/20
・C の放棄により、その持分は A と B の持分割合に比例して帰属する。
・C の放棄による持分移転の登記は A のみが 20 分の 3 の持分移転登記をし、
Bが登記しないことも可能である。
(4)真正な登記名義の回復
・真正な登記名義の回復というのは登記に独自の言い回しであり、現在の登記が無
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効である場合に、抹消登記請求権のほか所有権移転登記請求権をも有するとの判
例もあり(最判 S34・2・12)、抹消登記に代わる所有権移転登記または更正登記
の変形とみることもできる。
・したがって、登記原因は「真正な登記名義の回復」であるが、新たな物権変動を
申請するわけではないので、原因の日付は記載しない。これは「錯誤」に原因日
付を記載しないのと同様である。
・基本的には次の 3 つの類型が考えられる。
①
A から B へ売買による所有権移転登記がされている場合、AB 間の売買が無効
であったときの、B から A への所有権移転登記。
・この場合には、錯誤を原因とする B から A の所有権移転登記はできないので、A
から B への所有権移転登記を抹消するほかないはずであるが、B の所有権に A が
対抗することができない抵当権等が設定されている場合には、抹消登記もするこ
とはできず、所有権移転登記をするほかなく、その場合の登記原因が、真正な登
記名義の回復ということになる。
図5
A
B
抵当権
真正な登記名義の回復
②
A から B へ売買による所有権移転登記がされている場合、本来は A から C へ
の売買であったときの、B から C への所有権移転登記。
・この場合には、当事者を間違えているので、B から C の更正登記をしたいところ
であるが、当事者が全部入れ替わる更正登記は認められていない。よって本来で
あれば、B への所有権移転登記の抹消および A から C への所有権移転登記をすべ
きであるが、それを直接 B から C への所有権移転登記をする場合が本事例である。
図6
更正登記
A
B
×
C
B
C
真正な登記名義の回復
①抹消
A
A
B
C
②改めて移転
③
A の名義で所有権保存登記がされている場合、本来の所有者は B であったとき
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の、A から B への所有権移転登記。
・この場合も上記 事例 2 と同様、いったん所有権保存登記を抹消したうえで、B の
登記を表題登記からし直すという方法が原則であるが、便宜 A から B への所有権
移転登記をするといった事例である。
・その他、AB 共有の登記をすべきところ、AC と登記をしてしまった場合には、C
から B への「真正な登記名義の回復」を原因とする持分全部移転登記を申請する
ことができる。
・なお、真正な登記名義の回復は、原則として所有権の登記に限って認められる原
因であり、抵当権移転登記等には認められない(S40・7・13 民甲 1857 号回答)
が、A から B の抵当権移転登記を「真正な登記名義の回復」を登記原因として B
から A に抵当権移転の登記を申請することは、無効な抵当権を創設するわけでは
ないので、例外的に認められている。
・また、競売による売却により所有権移転登記をした後、当事者の申請により「真
正な登記名義の回復」を登記原因とする所有権移転の登記は申請することができ
ないが、判決による場合は登記をすることができる(登記研究 367 号 P138)
(5)その他の原因
①
委任の終了
・権利能力のない社団が不動産を所有する場合には、当該社団には法人格がないた
め、社団名義で登記をすることはできない。その場合には規約によって財産を代
表者名義とする定がある場合には、その者の名義とし、その他の場合は、当該団
体を構成する個人全員の名義(持分の定があるときは持分も記載)とすることと
なる(S28・12・24 民甲 2523 号回答)。
・上記のように権利能力のない社団の財産を、その代表者名義で登記している場合
に、代表者の交代により移転するときの登記原因が「委任の終了」である。登記
原因の日付は新代表者が就任した日となる(登記研究 450 号 P127)。
・登記手続としては新代表者が登記権利者、旧代表者が登記義務者となるが、代表
者が死亡し、新たな代表者が選任された場合には、旧代表者には相続が開始して
いないので、相続を原因とする所有権移転登記は申請することができず(登記研
究 459 号 P98)、新代表者が選任された日をもって「委任の終了」による所有権
移転登記をすることになる(登記研究 573 号 P124)。
②
民法第 287 条による放棄
・承役地の所有者は、設定行為または設定後の契約により、自己の費用で地役権の
行使のために工作物を設けたり、修繕をする義務を負担することがある(民法 286
条)。その負担を免れるために、承役地の所有者は、いつでも、地役権に必要な
土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し、この義務を免れることができ
る(民法 287 条)。
・この承役地所有者の地役権者への所有権の「放棄」を平成 16 年の現代語化に伴
う民法改正前の規定では「委棄」と表現されていた。
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・従って、この場合は承役地所有者が所有権を放棄した日をもって「民法第 287 条
による放棄」を登記原因とし、地役権者が登記権利者、承役地所有者が登記義務
者となって所有権移転登記を申請する。
・委棄の結果、地役権者と承役地所有者が同一人となるので、当該地役権は混同に
より消滅する(民法 179 条)。
③
民法第 646 条 2 項の規定による所有権移転登記
・受任者は、委任事務を処理するにあたって受け取った金銭その他の物を委任者に
引き渡さなければならず(民法 646 条1項)、それが自己の名で取得した権利で
あれば、委任者に移転しなければならないこととされている(民法 646 条 2 項)。
そのため、受任者が委任事務を処理するために委任者のために自己の名で取得し
た不動産については「民法 646 条 2 項による移転」を登記原因として、受任者か
ら委任者への所有権移転登記を申請することになる。
・なおその場合の登記原因日付については、移転日につき、特約があればその日を
記載するが、それ以外の場合には登記の申請日が原因日付となる(登記研究 526
号 P192)。
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