No.9 2011年12月 - NSプラント設計株式会社

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数値解析技報 No.9
December 2011
特集 「 大 規 模 解 析 の 実 現 に 向 け て 」
技術論文「OpenFOAMを用いたアプリケーション・ソフトウェアの開発」
Contents ・ ・ 巻頭言 数値解析技報第9号発刊のご挨拶・・・p.1 特集 大規模解析の実現に向けて 大規模解析の実現に向けて・・・p.2‐3 導入クラスタ仕様と速度検証結果の紹介・・・p.4‐5 並列計算環境におけるオープンソースソフトウェアの活用・・・p.6‐7 技術論文 OpenFOAM を用いたアプリケーション・ソフトウェアの開発・・・p.8‐13 技術レポート LS‐DYNA による粉体圧縮挙動シミュレーション・・・p.14‐15 実験計画法と FEM による最適構造設計・・・p.16‐17 非線形座屈解析における問題と対策・・・p.18‐19 製品紹介 Marc 2011 新機能紹介・・・p.20 表紙写真:新日鉄エンジニアリング株式会社殿 北九州技術センターE 館(平成 23 年 5 月竣工) 数値解析技報第 9 号発刊のご挨拶
2011 年 12 月
シミュレーションエンジニアリング・ソリューション部
上級リーダー 博士(工学)
大神 勝城
日本機械学会認定
計算力学技術者 上級アナリスト
技報9号の発刊にあたり、ご挨拶を申し上げます。
日鐵プラント設計㈱ シミュレーションエンジニアリング・ソリューション部(以降、SiES’S
部と記す)は、新日鉄エンジニアリング株式会社殿、新日本製鐵株式会社殿向け研究開発、設計
支援を中心に、これまで 6000 件を超える数多くのシミュレーションの実績を積み上げてきまし
た。構造解析、流体解析、電磁場解析の3本柱とともに、互いの場を連成させた連成解析も行っ
てきております。また、数値解析に関係するシステム開発やプラント設備の操業可視化などにも
取り組んでおります。組織の陣容は 40 名を擁し、博士取得者3名、日本機械学会計算力学技術者
認定資格 上級アナリスト 5 名を抱え、部員一同 皆様のご愛顧に応えるために、数値解析に関す
る技術を更に磨いているところです。
さて、数値解析の対象や解析環境が大規模化、精密化、高速化に向かう中で、私達は皆様のニ
ーズに応えるべく、以下のような最新技術に取り組んでおります。
1)クラスター導入による大規模問題・高速化の実現に向けた利用技術
2)OpenFOAM を核としたオープンソース利用によるシミュレーションの新たな革新的ツール開発
3)粒子法(DEM、SPH)のツール開発とエンジニアリングへの適用
4)電磁誘導・電磁流体など電磁気に関する特殊解析技術の適用拡大
SiES’S 部では、上記の高難度技術について研究開発による技術担保を図り、既にエンジニアリ
ングへの適用例が増えております。技術的成果については、次号以降の技報で継続して紹介して
いきたいと考えています。
また、対外活動として、数値解析技術の発展に貢献したいと考え、以降に示しますように、長
年 九州地区の数値解析に関する啓発活動、若手技術者の育成活動を進めてまいりました。今後と
も、微力ながら皆様のお役に立ちたいと考えております。
1)CAE活用事例セミナー開催
2)九州デジタル・エンジニアリング研究会(KDK)活動(副会長、事務局)
3)計算力学技術者 2級認定の付帯講習会講師
4)NPD数値解析技報の発刊
最後に、技報9号の内容について簡単に説明いたします。まず、上記
最新技術の中から「大
規模解析の実現に向けて」の特集を組みました。技術論文では、CFD-DEM 連成解析を取り上げ、
理論的にも詳しく説明しております。また、技術レポート3件は、私達が日頃取組んでいるシミ
ュレーションエンジニアリング業務において培われたものの一端を整理したものです。
ご一読いただき、ご質問・ご意見などありましたら、以下にメール送信いただければ幸いです。
メールアドレス:[email protected]
数値解析技報 第 9 号, 2011
1
特集
大規模解析の実現に向けて
~ 実現に向けての 1st stage 紹介 ~
熱流体解析チーム
山田 貴啓
博士(環境科学)
1.広がるHPC
数値シミュレーションは、実際に起きている現
象を数学モデル化、離散化し、それを有限要素法、
有限体積法、差分法などの方法を用いて、解を求
めていくものである。しかしながら、実際の現象
を突き詰めていくと、様々な現象の複合問題や境
界領域の問題となっており、また、ミクロとマク
ロの混在した現象にもなっていく。つまり実現象
は、元来はマルチフィジックス、マルチフェーズ、
マルチスケール問題であるとも言える。しかしな
がら、これらを実現するには、幾つもの物理モデ
ルの考慮や、それらを表現するための大規模な計
算メッシュが必要となってくる。
これらの対策として、ハイパフォーマンスコン
ピューテイング(頭文字をとって”HPC”と呼ばれ
る)環境によるシミュレーションが挙げられる。
HPC を簡単に言うと、
“単体の計算機、サーバを
複数つないだもの”であり、これらにより構成さ
れたシステムはクラスタ計算機とも呼ばれる。そ
の例を挙げると、国内では地球シミュレータや、
今年世界最速の演算性能の認定を受けた理化学
研究所の”京”と言ったスーパーコンピュータを
頭に浮かべる方も多いだろう。
ひと昔前までは、クラスタ計算機を所有する企
業、研究機関、大学は僅かであったが、近年の計
算機性能の向上や、低価格化の流れを受け、2005
年付近よりこの状況が変わってきた。クラスタ計
算機の性能を示す指標の 1 つとして価格が挙げ
られる。ある IT 系リサーチ会社の調査によると、
価格帯によって 4 分類されたうち、最も価格帯
の高いものを除く3分野の市場は 2006 年より堅
調に推移しているとの報告がなされている 1)。こ
れはクラスタ計算機がひと昔前と比べてリーズ
ナブルな価格で導入出来るようになった事を示
しており、様々な箇所でクラスタ計算機の導入が
加速していることが窺える。
2 数値解析技報 第 9 号, 2011
クラスタは、利用用途や予算に応じ、システム
の規模を自由に拡大、縮小可能という特徴を持
つ。クラスタの性能を決める要素としては、計算
機単体の性能に加え、複数のサーバ間で情報を通
信しながら並列計算を行うため、その通信能力も
重要となる。並列数が増すほど、計算機1台あた
りの計算量は減るものの、その分計算機間の通信
量は増加することになるため、注意が必要とな
る。また、並列数の増加に伴い、ソフトウェアの
コスト増にも注意が必要となる。コア数増加によ
り、計算に必要なソフトウェアライセンスが増加
することになるためであり、ソフトウェアによっ
てはシステムの半分程度の割合を占める場合も
ある。そこで近年では、このソフトウェアライセ
ンス費の高騰による負担を抑えるため、オープン
ソースコードを用いたソルバー開発の動きも加
速しているのが実態である。
以上をまとめると、クラスタ計算機の導入に際
しては、使用ソフトウェアの特徴や計算用途、規
模などを十分に把握し、最適なシステムの大きさ
を考えることが最も重要な要件となる。要素毎に
挙げると、
①CPU(周波数、コア数)
②メモリ(速度、搭載量)
③ネットワーク(通信性能)
④ソフトウェアのライセンス費
の4つとなろう。クラスタを構成するコンポーネ
ントは日々進化を遂げているため、これらのポイ
ントを考慮しつつ、コストと性能のバランスを取
ることが重要と言える。
2.企業にとっての HPC
続いて、企業にとっての HPC とは何か?につ
いて、もう少し掘り下げてみる。今や CAE は“モ
ノづくり”においても効率化、高品質化を進める
うえでなくてはならない技術である。HPC を用
いた“モノづくり”が今後進むと思われる方向を
図1に示す。従来の CAE では、設計における最
適な条件を見出すためのケーススタディ検討と
いった設計空間の広がりを求める方向と、現象の
複雑さや精密さにどんどんと踏み込んでいく方
向の二極化で進められていた。開発や設計検討で
は内容もさることながら、そのスピード感も重要
であることから、HPC の導入により、これら各
方向のシミュレーション高速化を図るという利
用法もあろう。
しかしながら、これらに加え、HPC の導入に
よりこの二極化した方向が1つに集約され、つま
り超大規模解析(高精細、マルチフィジックス、
多時間ステップ)と超多点同時解析(多ケース・
パレード)が集約された『超大規模多点同時解析』
に帰着することが HPC 導入に対する最大の期待
のようにも思える。
目的により様々であるが、いずれの場合もこれ
らの検討から得られるデータをふんだんに使い、
情報を提供することが、HPC の役割と考えても
良いだろう。
設計空間・対象の広がり
(どこまで広くとるか?)
に絡み合ったものであり、冒頭でも述べたマルチ
フィジックス、マルチフェーズ、マルチスケール
問題となる分野である。また、近年はこれら現象
の複雑化に対応する為に解析モデルも大規模化
への一途をたどっている。特に流体解析分野で
は、燃焼解析などの負荷の高い計算や、混相流に
代表される長時間にわたる非定常計算が増えて
きており、今までのハード環境では非現実的な計
算時間となり計算困難な場合があった。
製造設備の高品質・高効率化に資するシミュレ
ーションを更に加速させていくには、前述の計算
時間の問題をクリアし、結果をタイムリーに提供
できるようになる必要がある。加えて、革新的な
プラント商品開発に対しては、マルチフィジック
ス、マルチフェーズ、マルチスケール問題などの
高難度問題にチャレンジし、最終的には前節で挙
げた『超大規模多点同時解析』実現により、シミ
ュレーションの質向上を目指す必要もある。
そこで、この実現に向け弊社では、H23 年度
上期に HPC 環境によるシミュレーション実現に
向けての第一歩を踏み出した。今回の特集では、
以下の 2 項目について順に紹介する。
① 導入したクラスタ計算機について
② 並列計算環境における
オープンソースソフトウェアの活用
従来の CAE
(単一目的、単一現象)
超多点同時解析
多ケース・パレード
現状の CAE
現象の複雑さ・精細さ
(複雑現象が解析可)
ポイントを全網羅
的に計算し求解
超大規模解析
高精細・多時間ステップ
マルチフィジクス
図1:HPC 利用によるシミュレーションの方向性
3.NPD の取り組みについて
弊社は鉄鋼製造プラント設備のシミュレーシ
ョンを数多く出掛けた実績を持つ。鉄鋼製造プロ
セスも高温、高圧下において、流体場、電磁場、
温度場、構造等がミクロ・マクロスケールで複雑
①では今回導入したクラスタ計算機の詳細を
紹介する。引き続き②で、ライセンス費高騰への
対策として期待されるオープンソースコー
ド”OpenFOAM”の可能性及び、並列化、検討事
例などについて述べる。また、本特集に引き続き、
②に関しての具体的なアプリケーションソフト
ウェア開発例の技術論文”OpenFOAM による
CFD-DEM 連成解析ソルバーの開発”を紹介す
る。
尚、大規模計算環境実現の視点では、弊社はま
だまだ途中段階であり、現時点ではやっと 1st
stage に到達したに過ぎない。今後、利用状況や
ニーズなどを見ながら、定期的に環境を増強して
いく予定である。
参考文献
[1] http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/
20110620Apr.html
数値解析技報 第 9 号, 2011 3
導入クラスタ仕様と
速度検証結果の紹介
熱流体解析チーム
日本機械学会認定
計算力学技術者1級
大下 伸浩
概要
大規模モデル、長時間の非定常計算などの計算負荷の高いシミュレーションを実現可能とする
ため、SiES’S 部で今年度導入した並列計算機について紹介する。
1. 経緯
年々、流体解析をはじめとして、モデルが複雑
になるとともに大規模化している。また、一方で
LES※1や DEM※2、燃焼解析などの負荷の高い
計算や、長時間にわたる非定常計算が増えてきて
おり、今までのハード環境では非現実的な計算時
間となり計算困難な場合があった。そこで今年
度、SiES’S 部では並列計算機(以下クラスタ)
を導入した。
使用するソフトウェアにも依存するが、一般的
には図2で示すように、並列化するコア数が多く
なるほど計算時間は短縮していく。しかしなが
ら、コア数が多くなると一般的に並列効率は落ち
るため、計算時に使用するコア数が少ない場合
は、一般的なワークステーション(以下 WS)で
十分なパフォーマンスを得ることができ、クラス
タによる優位性を得ることはできない。
コア数と計算時間
管理ノード
高速通信ネットワーク
CPU 1
CPU 2
CPU 3
CPU 1
CPU 2
CPU 3
CPU 1
CPU 2
CPU 3
CPU 1
CPU 2
CPU 3
CPU n
CPU n
CPU n
CPU n
計算ノード1
計算ノード2
計算ノード3
計算ノードN
図1
クラスタ概念図
4 数値解析技報 第 9 号, 2011
16
計算時間[hr]
2. クラスタ計算機の概念
クラスタ計算機の概念図を図1に示す。クラス
タは、複数の CPU(コア)を持つ計算機(ノー
ド)を複数台、高速ネットワークで接続したもの
で、各計算ノードは、管理ノードにより CPU 負
荷等が管理される。CPU そのものを高速化させ
て計算時間を短縮するのではなく、複数の CPU
に計算領域を分割配分して並列処理し、CPU1
台当たりの計算負荷を軽くして計算時間を短縮
するというものである。近年、汎用ソフトウェア
も並列化機能が標準装備となってきており、企業
や大学で活用が盛んになっている。
20
12
8
4
0
0
16
32
48
64
80
96
112
コア数
図2
コア数と計算時間関係の一例
また、計算対象が大規模になればなるほど、並
列化による計算効率の恩恵は大きくなる。小規模
計算モデルに対しクラスタを使って多くのコア
で並列計算したとしても、分割された各領域の計
算値を集積し結合する際の負荷が高くなり効率
が落ちる。これもまたクラスタの優位性を得るこ
とができなくなる。
このように、コア数や計算モデル規模により計
算モデル対象全てがクラスタを利用することで
高速化する訳ではないが、ある程度のコア数を利
用した大規模モデルにおいては計算時間短縮に
非常に効果的である。
3. 導入したクラスタについて
導入するにあたっては、性能やコストだけでは
なく、使うソフトウェアとの相性を重要視しなが
ら、十分なベンチマークテストを行い、HP 製の
ProLiant SL6500/SL390s G7 に決定した。この仕
様は東京工業大学スパコン TSUBAME 2.0 と同等
となる。1ノード当たり 12 コアを搭載し、6 ノー
ドで構成された計 72 コアの仕様となっている。1
コア当たりメモリ 2GB を有し、計 144GB のメモ
リを搭載している。
ネットワークには、ギガビット・イーサネット
1000BASE-T※ 3 の 約 32 倍 の 通 信 速 度 を 持 つ
InfiniBand を採用し高速化を図っている。
速度性能を得ることができた。ちなみに、両機の
CPU 性能は同程度である。4 コアから 32 コアへ
とコア数が 8 倍に増えたことで計算も 1/8 となる
のが理想である。しかしながら、実際は、計算を
分割配分したものを集積・結合したりする必要が
あったり、計算モデルによっては並列化効果の出
難いものもあり、線形的に速度が増すことはな
く、計算効率が下がるのが一般的である(図2参
照)。それでも今回のケースでは十分な並列効果
が得られた。
また、同じ筐体内およびネットワーク内にWSを
組み込み、クラスタのファイルサーバーを共有化さ
せることで計算結果処理等の効率化を図っている。
OS には RedHat Enterprise Linux を採用し、利
用 可 能 ソ フ ト ウ ェ ア と し て 、 FLUENT お よ び
OpenFOAM がインストールされている。
5. おわりに
今後、解析モデルは複雑になると共に大規模化
し、かつ高精度な解を求められることにますます
なっていくと思われる。その中でネックとなる計
算時間をクラスタにより短縮することで効率を
上げてパラメータスタディを増やし、技術成果に
繋げてくことが可能となる。
来年度以降も、ノード(CPU)、メモリの増強
を予定しており、クラスタの活躍の場が増えてい
くことになるであろう。特にライセンス料が無料
である OpenFOAM を活用していきたいと考え
ている。また、ADVENTURE 等を利用したオー
プンソースによる構造解析にも取り組んでいき
たいと考えている。
今まで、「計算対象が大規模になるので解析で
きない」、
「長時間におよぶ非定常計算だから実現
不可能」、「解析精度を上げるために LES での計
算が必要」・・・とあきらめていた解析もクラスタ
を利用することで、実現可能となるかもしれな
い。
※1)Large Eddy Simulation の略。
流体解析の乱流モデルのひとつ。ナビエ・ストークス方程式を
活用した時間依存型の乱流モデルとなっており計算精度が良い
図3
SiES’S 部クラスタ
が、高解像のメッシュが必要で計算リソースが膨大になり計算
時間を要する。
4. 適用例
実際に流体解析で利用した際の事例のひとつ
を紹介する。解析対象は燃焼炉。要素数は、約
500 万。熱流動に加え、燃焼および輻射を考慮し
ている。解析ソフトは、FLUENT である。この
計算を完了するのに、以前は WS の 4 コア並列
計算で約 5 日間(120 時間)要していた。今回導
入したクラスタの 32 コアを利用することで約 1
日(24 時間)で完了することができ、約 5 倍の
※2)Discrete Element Method の略。
個別要素法。自由に運動する球などの粒をひとつの要素とし、
集合したその要素の挙動を要素間の接触・滑動を考慮しながら
逐次追跡して解析する手法。多くの要素が必要で計算リソース
が膨大になり計算時間を要する。
※3)コンピュータネットワークの規格の一つ。
1 ギガビット/秒の通信速度を持つ。
数値解析技報 第 9 号, 2011
5
並列計算環境における
オープンソースソフトウェアの活用
熱流体解析チーム
日本機械学会認定
計算力学技術者1級
春日 悠
概要
計算モデルの大規模化に伴い、多数の CPU コアを使用した並列計算のニーズが増しているもの
の、商用ソフトウェア利用による対応では並列数増加によるライセンス料の高騰が問題となって
いるのが実態である。ここではその対策として、並列計算環境にけるオープンソースソフトウェ
アの活用、具体的にはその1つである ”OpenFOAM” 利用の可能性を中心に紹介する。
1. 背景
近年、計算機の性能が飛躍的に向上したと同時
に低価格化が進んだことにより、さまざまな設備
や部品の設計に数値シミュレーションが活用さ
れている。そうした流れの中で、設計者はさらに
よいものを作ろうという強い思いのもと、数値シ
ミュレーションのさらなる精度向上を要求して
きている。これは流体解析においては計算の大規
模化に直結する。
一方で、計算機はマルチコアが当たり前の時代
になり、汎用 GPU という新たな超並列デバイス
の可能性が示され始め、また国内では大規模ある
いは超大規模スーパーコンピュータの産業利用
が推進されている。こうした状況から、並列計算
環境におけるシミュレーションの重要性が高ま
っている。
2. 計算の大規模化
計算精度を向上させようとすると、一般的には
計算が大規模化する。すなわち、計算時間が長く
なり、メモリの使用量が増えることになる。
構造解析においては、精度向上とは主に材料モ
デルの精密化や、計算手法の工夫を意味する。し
たがって、巨大なものを丸ごと解析する必要でも
生じない限り、日常的なエンジニアリングでは計
算規模が極端に大きくなることはない。一方で、
流体解析においては、精度向上とは主に乱流モデ
ルの高精度化を意味する。金属は弾性範囲では結
晶のバネ挙動がマクロなバネ挙動として現れる
とみなせるし、塑性にしても現象論的な扱いで実
用十分な計算結果を得ることができる。しかし乱
流については、大きな渦が小さな渦に次々と崩壊
6 数値解析技報 第 9 号, 2011
していき、最後にコルモゴロフスケールで渦が散
逸する、というように現象がマルチスケールにな
っている。ミクロを単純に大きくしてもマクロ挙
動を得ることはできず、現象論的に高精度なモデ
ルを立てることが難しい。乱流現象を精確に表現
するには、コルモゴロフスケールの渦よりも小さ
い格子サイズが必要となる。つまり、流体解析に
とって精度向上とは、どれだけ格子をこのサイズ
まで小さくできるか、ということになる。
しかしながら、それでは実用的な計算ができな
いため、日常的なエンジニアリングにおいては乱
流モデルが使われる。だが前述のとおり、マクロ
なモデルを立てることが難しいため、いくつもの
乱流モデルが提唱され、それぞれに一長一短あっ
て決定的なものがない。現在、高精度乱流モデル
と し て 認 め ら れ て い る の は Large Eddy
Simulation (LES) である。これは、そこそこの
格子サイズで概ね良好な精度が得られるモデル
ではあるが、それでも単純な乱流モデルよりはず
っと小さな格子サイズが必要で、計算負荷が高
い。
以上のように、流体解析 (乱流解析) の高精度
化は計算の大規模化に直結している。
3. オープンソースソフトウェアの活用
計算の大規模化に対応するためには、多数の
CPU コアを使用した並列計算が必須である。し
かしながら、現状の商用ソフトウェアの多くのラ
イセンス形態は並列数に応じて価格が上がるよ
うになっており、並列計算環境が取り巻かれてい
る現状にそぐわない。そこで、その対策としてラ
イセンス費を必要としないオープンソースソフ
トウェアの活用が考えられる。
近年、オープンソースの流体解析ソフトウェア
と し て OpenFOAM が 注 目 さ れ て い る 。
OpenFOAM (Open source Field Operation And
Manipulation) と は 、 GNU Public License
(GPL) のもとで公開されているオープンソース
の数値流体力学 (CFD) ツールボックスである。
C++ のシンタックスをフルに活用して高い記述
性と拡張性を実現したクラスライブラリを提供
しており、このクラスライブラリを利用して書か
れた標準ソルバーやツールを多数備えている。例
えば、スカラー輸送方程式のソルバーの場合、方
程式を解く部分はつぎのようなコードになる。
solve
(
fvm::ddt(T)
+ fvm::div(phi, T)
- fvm::laplacian(DT, T)
);
T がスカラー場、phi が流束場、DT が拡散係
数、ddt は時間微分、div は発散、laplacian はラ
プラシアンを表わす。solve は方程式を解く関数
である。このように方程式をそのままコードで表
せば、それを解くプログラムができる。もともと
商用ソフトであったこともあり、ソフトウェアと
しての品質は高い。また、計算実績も多く、現在
も世界中のユーザーによって数々の実績が生み
出され続けている。ここではオープンソースソフ
トウェアとして主に OpenFOAM の利用を念頭
に置いて話を進める。
4. 並列計算のタイプ
オープンソースソフトウェアの利用を考える
場合、並列計算には二通りのタイプが考えられ
る。一つは、領域分割型のいわゆる並列計算であ
る。OpenFOAM は標準で OpenMPI を利用した
並列計算をサポートしている。ライセンス費がか
からないため、好きなだけ並列数を増やすことが
でき、クラスタなどのマルチコア・マルチノード
の計算システムを存分に活用できる。
もう一つは、多数のプロセスを一度に計算する
という意味での並列計算である。ライセンスでプ
ロセス数を制限されない利点により、膨大なパラ
メータスタディを手早く実施することが可能に
なる。このように、オープンソースソフトウェア
は並列計算環境でこそその真価を存分に発揮で
きるものと言えよう。
5. 検討事例
弊社クラスタシステムを利用した並列計算事
例を示す。OpenFOAM のチュートリアルから、
流体解析ではないが、計算性能のわかりやすさか
ら DEM 解析を実施した。計算結果として、粒子
の分布を図 1 に示す。ワークステーション 4 並
列で 6 時間程度かかるところが、クラスタシス
テム 32 並列では 1.5 時間程度で計算できた。
流 体 解 析 に つ い て は 、 OpenFOAM お よ び
ANSYS FLUENT による計算で、32 コアで並列
効率 60%程度 (ただし NFS 使用) であり、両ソ
ルバーとも 32 コア程度まで十分な高速化が見込
めるという結果を得ている。
6.今後の課題
OpenFOAM 特有の課題として、業務に必要な
標準ソルバーが必ずしもそろっていない点が挙
げられる。業務分析を行い、コスト的にインパク
トの大きなものについてソルバー開発を行い、商
用ソルバーとの置き換えを図りたい。
また、弊社の現クラスタシステムは 72 コアで
あり、利用人数あたりで見ると十分な規模とは言
い難い。今後、利用状況やニーズなどを見ながら
システムの増強を図っていきたい。
参考文献
[1] 春日 悠, “オープンソース CFD ツールボッ
ク ス OpenFOAM の ご 紹 介 ”, 数 値 解 析 技 報
No.8, 日鐵プラント設計株式会社, 2010
図1:DEM 解析の例
数値解析技報 第 9 号, 2011
7
OpenFOAM を用いたアプリケーション・
ソフトウェアの開発
~CFD-DEM 連成解析ソルバーの開発~
首藤
1.
はじめに
一昨年の事業仕分けでの指摘をきっかけとして、次
世代スーパーコンピュータ「京」のみならず、大学や
研究機関が有するスーパーコンピュータも含めた日
本全体のスーパーコンピュータインフラを利用でき
る環境が整いつつある[1]。しかしながら、スーパーコ
ンピュータを最大限活用するには商用ソフトウェア
では膨大なライセンス費が必要となり、非現実的なた
め、スーパーコンピュータを活かしきるだけのアプリ
ケーション・ソフトウェアがないのが現状の問題であ
る。そこで、この問題を解決すべく、解析業務に利用
できるアプリケーション・ソフトウェアの開発が必要
となっている。
アプリケーション・ソフトウェアの開発にはオープ
ンソースを用いることが開発コストを低減する上で
得策である。流体解析ソルバーの場合、汎用性や開発
者・ユーザー数の観点から OpenFOAM をベースとし
て採用することが現時点ではベストであろう。
以下では、OpenFOAM をベースとしたソルバー開
発の一例として、著者が以前に開発した「OpenFOAM
を用いた CFD-DEM 連成解析ソルバー」について、
その開発手法(第 2 章)と解析結果(第 3 章)を紹介する。
なお、OpenFOAM 2.0.0 以降のバージョンには DEM
(離散要素法)解析機能が追加されており、流体解析
ソルバー(2.3 節)のみ作成すれば CFD-DEM 連成解析
ソルバーが実現できる。
2.
史*
の他、流動層や粉体輸送などの解析がある[3] 。しか
し、実際の装置において、扱う粒子数が億から兆のオ
ーダーとなる場合、現在の計算機でその粒子数の DEM
解析を現実的な時間で実行するのは不可能である。そ
のため、この様な場合には粒径を実際のものより大き
くするなどして粒子数を減らしているが、それでも
DEM の計算には大規模高速計算機が必要とされるた
め、ソルバーの並列化は不可欠である。
本章では、OpenFOAM への DEM ソルバーの実装
方法(2.1 節)、DEM ソルバーの並列化方法(2.2 節)、
CFD-DEM 連成解析ソルバーの実装方法(2.3 節)を述
べる。
2.1 OpenFOAM への DEM ソルバーの
ソルバーの実装方法
OpenFOAM に は 離 散 相 モ デ ル (Discrete Phase
Model, DPM)が実装されている。DPM は粒子を質点
と見なし、流体力と重力によって粒子を移動させる方
法である。したがって、これを利用することにより
DEM を比較的容易に実装できる。図 1 に DEM の計
算手順を示す。OpenFOAM の DPM を利用して DEM
を実装するには、粒子間および粒子-壁間の接触判定
及びそれらの接触力計算を行う必要がある。以下に接
触力計算、接触判定の順で手法を説明する。
2.1.1 接触力計算
粒子の並進運動と回転運動は次式で表される:
mi
方法について
DEM は粒子間の衝突を考慮した粒子挙動をシミュ
レーションする手法であり、連続体シミュレーション
(Euler-Euler 法)では表現が困難な粒状体の自由表
面形状や応力ネットワーク構造を算出できるという
特徴をもつ。DEM の適用例には、高炉内現象の解析[2]
Ii
dv i
= F f ,i +
dt
dω i
=
dt
ki
∑ Fc,ij + mi g
(1)
j =1
ki
∑ (M t ,ij + M n,ij )
(2)
j =1
ここで、viとω
ωiはそれぞれ粒子iの並進速度と角速度で
ある。F
Ff,iは粒子-流体間の相互作用力、migは重力、
*日鐵プラント設計株式会社 シミュレーションエンジニアリング・ソリューション部、博士(水産科学)
8 数値解析技報 第 9 号, 2011
接触判定
NO
YES
接触力計算
NO
DEM
全粒子終了
YES
粒子速度更新
粒子移動
DPM
流体力計算
流体の運動方程式計算へ
図 2.1 DEM 及び DPM の計算手順
Fc,ijは粒子iとjに働く接触力である。粒子iに働く粒子j
によるトルクは2つに分けられる。一つは接線方向の
力によるもので、M
Mt,ij = Rij×F
Fs,ijで与えられる。ここ
Fs,ijは
でR
Rijは粒子の中心点から接触点へのベクトル、F
粒子iとjの間に働く接線方向せん断力である。もう一
Fn,ij| ω̂ n,ij で与え
つは回転摩擦トルクで、M
Mn,ij = -µr,ij|F
られる(µr,ijは摩擦係数)。
Fnと接線方向せん断力
接触力F
Fcは法線方向圧縮力F
Fsに分けて計算される:
Fc,ij = Fn,ij + Fs ,ij
リストを作成する方法が用いられている。
近傍粒子リストの作成方法としては、天体現象を予測
する重力多体シミュレーションや分子動力学シミュ
レーションでよく用いられる二分木ベース法(3 次元
の場合は八分木)、また、自動メッシュやメッシュフ
リー法、連成解析における異なるメッシュ間のマッピ
ングに用いられるバケット法などがある。
OpenFOAMのDPMでは計算セルに粒子情報を持
たせることができる。そこで、本ソルバーではこの点
を活かし、近傍粒子ではなく近傍セルリストを作成
し、セルから粒子を参照する方法を考案した。近傍粒
子リストは1ステップの時間更新ごとにリストを作
成する必要があるが、今回考案した近傍セルリストは
計算開始時に一度だけ作成すればよいという利点が
ある。
近傍セルリストは粒子径より少し大きいセルを用い
たバケット法によって作成する。セルのペアはどちら
か一方のセルリストに登録されていればよいので、セ
ルリストには自身のセル番号より大きい番号のセル
のみ登録するようにしている
図2.2に粒子間の接触判定に使用する近傍セルリス
トの例を示す。接触判定は図の黄色い線で囲ったセル
内にある粒子と黄色及び青線で囲ったセルにある粒
子との間で行う。
粒子-壁面間の接触判定についても同様の近傍セル
リストを作成する。図 2.3 に壁面との接触判定に使用
する近傍セルリストの例を示す。図の黄色いフェース
の壁面との接触判定は青線で囲ったセルにある粒子
との間で行う。この際、面、辺、節点の何れで接触し
ているのかも判定し、隣り合うセルで共有する辺や節
点での接触の重複は除外するようにしている。
また、接線方向せん断力 Fs には接線方向の粒子間(粒
子-壁間)相対速度に対する時間積分が含まれているた
(3)
以下の計算では法線方向圧縮力に Hertz モデルを、接
線方向せん断力に Mindlin モデルを用いている[4] 。
近傍セルリスト
(青線で囲ったセル)
2.1.2
2.1.2 接触判定
粒子間の接触判定は次式で行う:
δ ij = (ri + r j ) − x i − x j > 0
(4)
δ は粒子間のオーバーラップ、r は粒子の半径、x
x は粒
子の中心点の位置ベクトルである。下付き添え字 i, j
はそれぞれ粒子 i, j の、ij は粒子 i と j の間の物理量を
示す。
接触判定をすべての粒子ペアについて行うと計算
負荷が膨大なものとなるため、通常、DEM では近傍
粒子のみに絞って接触判定が行えるように近傍粒子
リストを保存するセル
(黄色いセル)
図 2.2 粒子間の接触判定に使用する近傍セルリスト
数値解析技報 第 9 号, 2011 9
領域 1
近傍セルリスト
領域 2
(青線で囲ったセル)
リストを保存するフェース
(黄色いフェース)
ピンク色のセルにある粒子との接触判定を
行う粒子を持つセルリスト
図 2.3 壁面との接触判定に使用する近傍セルリスト
め過去の接触状態を記憶しておく必要がある。この目
的で、近傍セルリストとは別に粒子との接触情報リス
トと壁面との接触情報リストを作成し粒子に持たせ
ている。
2.2
2.2 DEM ソルバーの
ソルバーの並列化方法
並列化方法
DEM ソルバーの並列化には分散メモリ計算機でも
使用できる領域分割法を用いる。この方法では計算領
域を任意の CPU(コア)数に分割し、分割した領域
をそれぞれの CPU に割り当てて計算させる。単一
CPU で DEM 解析する場合と異なるのは粒子が異な
る領域間を移動すること、及び粒子が異なる領域の粒
子と接触することである。
粒子が異なる領域を移動する機能は OpenFOAM
の DPM に既に実装されており、DEM 粒子への拡張
も容易にできる。
異なる領域の粒子との接触判定については、異なる
領域間のフェースに対して近傍セルリストを作成し、
そのセル内にある粒子情報を参照できるように粒子
情報を通信することで実現できる。前節で述べたよう
に、今回考案した近傍セルリストを用いる手法は計算
開始時に一度だけそれを作成すればよいため、並列計
算の場合も近傍粒子リストを作成する方法より計算
時間の面で優位性がある
図 2.4 に異なる領域にある粒子との接触判定に使用
する近傍セルリストの例を示す。図の黄色いフェース
の領域 2 における近傍セルリストが青線で囲ったセル
で、まず、これらのセルにある粒子の情報を領域 1 に
通信する。次に、通信された粒子情報を用いて領域 1
のピンク色のセルにある粒子との接触判定及び接触
力計算を行う。
また、粒子の通信と通信前の準備には時間を要するた
め、重複した通信を行わないよう、領域間の粒子情報
10 数値解析技報 第 9 号, 2011
図 2.4 異なる領域にある粒子との接触判定に使用する
近傍セルリスト
の通信はまとめて行っている。
2.3
2.3 CFDCFD- DEM 連成ソルバー
連成ソルバーの
ソルバーの実装方法
粒子相がある場合、非圧縮性流体の質量保存及び運
動量保存式はそれぞれ次式となる[5]:
∂α c
+ ∇ ⋅ (α c u c ) = 0
(5)
∂t
∂ (ρ c α c u c )
+ ∇ ⋅ (ρ c α c u c u c ) =
∂t
− ∇p + ∇ ⋅ (α c τ ) + ρ c α c g − F (6)
uc は流速、ρc は流体
ここで、αc は流体の体積分率、u
の密度、τは流体相の応力テンソル、g は重力加速度、
F は流体‐粒子間の相互作用力である。
流体‐粒子間の相互作用力には粒子が希薄な場合
と密な場合を組み合わせた Gidaspow モデルがよく使
用される。しかし、粒子が希薄な範囲から密な範囲に
遷移するところで不連続となり収束性に問題が出る
ことが知られている。その点を改良したものに Di
Felice のモデル[6]があるためそれを用いた。
個々の粒子に働く流体力 Ff,i にこのモデルを用いれ
ば、計算セル内の流体-粒子間の相互作用力は次式で
計算できる:
kc
F=
∑ F f ,i
(7)
i =1
計算の安定性のため、(7)式で計算した流体力を次式
のように変形する:
(
F = K u p − uc
)
(8)
ここで up は計算セル内の粒子の平均速度、K は運動
量交換係数である。(8)式の uc を陰的に取り扱うこと
で計算は安定化する。
また、式(5),(6)のカップリング・アルゴリズムには
SIMPLE 法を用いた。
流体の体積分率(空隙率)及び式(7)により CFD と
DEM は連成される。
結果と考察
3.1 DEM ソルバーの
ソルバーの検証
開発した DEM ソルバーの信頼性を確認するため
に、貯槽内粒子群流動挙動の実験データとの比較検証
を行った[7]。
実験装置は図 3.1 に示す透明塩化ビニル製の貯槽
(幅 242.0 mm、 奥行き 8.1 mm)で、粒子には球形度
の高いベアリング用剛球(粒子径 7.93 mm)が用いられ
ている。
まず、図 3.1 に示すように粒子を規則的に充填し、
次に貯槽下部のオリフィスを開け粒子群の流動を開
始させる。この粒子流動シミュレーションを表 3.1 に
示す材料定数と計算条件で行った。なお、シミュレー
ションは 3 次元で行い、前後の壁面と粒子の接触も考
3.2 並列化効率
並列化効率を調べるために粒子数および分割タイ
プが異なる並列計算を行った。粒子数は 600 個、
12,375 個、64,872 個の 3 ケース、分割タイプは図 3.4
に示す 2 タイプをテストした。粒子数 600 個のケース
は 3.1 節の貯槽内粒子群流動挙動シミュレーション、
12,375 個および 64,872 個のケースは図 3.4 の右図に
示すような充填層を想定したシミュレーションであ
る。CPU には Intel Core i7 を用いた。
図 3.5 にそれぞれのケースの解析所要時間を CPU
コア数=1 のときの計算時間で割ったものを示す。並
列化効率ηは以下の式で求められる:
η=
計算時間(CPUコア数 = 1)
1
⋅
解析所要時間
CPUコア数
粒子数 600 個の計算での並列効率は 73.3%であっ
た。また、粒子数 12,375 個のケースでは分割タイプ 1
の場合 91.8%、分割タイプ 2 の場合 94.2%となった。
分割タイプ 2 は分割タイプ 1 より異なる領域にある粒
図 3.1 粒子挙動観察用実験装置
(文献)
表 3.1 シミュレーション条件と使用物性値
排出粒子数 [-]
3.
慮した。
図 3.2 に積算流出粒子数の経時変化を示す。実験結
果、本シミュレーション共に積算流出量はほぼ直線的
に増加しており、粒子群流出量が粉体層高に関係なく
一定であることを示している。
図 3.3 に流動実験と開発した DEM ソルバーによる
シミュレーションから得られた流動挙動の比較を示
す。オリフィスの左右のエッジからすべり線が左右対
称に発達し、その間の領域にある粒子群が順次流動し
排出されている。この流動の発達の様子、その後の粒
子群内に形成される幾多のすべり線を含む流動模様
ともに両者は非常によく一致しており、開発した
DEM ソルバーの正確さがかなり高いといえる。
本シミュレーション
時間 [s]
図 3.2 積算流出粒子数の経時変化
数値解析技報 第 9 号, 2011
11
CPUコア数=1
CPUコア数=2, 分割タイプ1
CPUコア数=2, 分割タイプ2
計算時間
計算時間/
/ 1CPUコア
コア
コアでの
での
での計算時間
計算時間
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
600個
12375個
64872個
粒子数
図 3.5 並列計算時間の比較
[m/s]
(a) 実験
(b) 本シミュレーション
図 3.3 粒子群流動挙動の実験とシミュレーションの比較
粒子の挙動
流速ベクトル
(粒子の色は粒子番号による)
図 3.6 CFD-DEM 連成解析例
100%となった。したがって、粒子数が多く、適切な
領域分割を行った場合、今回開発した並列化 DEM ソ
ルバーによって非常に高い並列化効率が得られるこ
とがわかった。
分割タイプ 1
分割タイプ 2
なお、並列計算においては CPU(コア)数に対して粒
子数を均等に、且つ、領域のインターフェースの粒子
数が少なくなるように領域分割する必要があるが、現
在のところこの作業は手動である。今後、この作業の
自動化が必要であると考えられる。
図 3.4 並列計算時の領域分割タイプ
子との接触数が少ないため、分割タイプ 2 の方が、並
列化効率が高くなったと考えられる。粒子数 64,872
個のケースでも同様に分割タイプ 2 の方が、並列化効
率が高く、分割タイプ 1 で 93.6%、分割タイプ 2 で
12 数値解析技報 第 9 号, 2011
3.3
3.3 CFDCFD-DEM 連成ソルバー
連成ソルバーの
ソルバーの適用例
図 3.6 に CFD-DEM 連成解析例を示す。矩形容器
に 2 層の粒子を充填させ、下部中央から 60 m/s で空
気を吹き込んでいる。この図から流体力によって粒子
が舞い上がっている様子が確認でき、CFD-DEM 連成
解析ソルバーが実現できていることが分かる。
しかし、解析精度はまだ確認しておらず、今後、実
験との検証を通して CFD-DEM 連成解析ソルバーの
信頼性を確認する必要がある。
4.
このように、オープンソースを使用する際は(商用ソ
フトウェアでも同じことだが)、自らの責任で検証作
業をすることが不可欠であることを最後に述べてお
く。
文
おわりに
以上では OpenFOAM をベースとしたソルバー開
発の一例とし、並列化 CFD-DEM 連成解析ソルバー
の開発手法を紹介してきた。また、このソルバーを用
いた解析結果から、以下の知見を得た:
貯槽内粒子群流動挙動の実験データとの比較検
証 を 通 し て 、 OpenFOAM を 用 い て 開 発 し た
DEM ソルバーの信頼性が確認された。
粒子数が多い場合、適切な領域分割を行うことで、
開発した DEM ソルバーによって非常に高い並列
化効率が得られることがわかった。
CFD-DEM ソルバーの開発例を示すことで、
OpenFOAM を 用 い れ ば 比 較 的 容 易 に
CFD-DEM 連成解析ソルバーを開発できること
を示した。
献
[1] http://hpcic.riken.jp/outline.html
[2] 野内泰平, 佐藤道貴, 武田幹示, 離散モデルを活用した
高炉プロセス解析, JFE 技報, 2008, 22, 61-66.
[3] Zhu, H.P., Zhou, Z.Y., Yang, R.Y., Yu, A.B., Discrete
particle simulation of particulate systems: A review
of
major applications
and
findings,
Chemical
Engineering Science, 2008, 63, 5728-5770.
[4] Zhu, H.P., Zhou, Z.Y., Yang, R.Y., Yu, A.B., Discrete
particle
simulation
of
particulate
systems:
Theoretical developments, Chemical Engineering
Science, 2007, 62, 3378-3396.
[5] Feng, Y. Q., Yu, A. B., Assessment of Model
Formulations in the Discrete Particle Simulation of
Gas-Solid Flow, Ind. Eng. Chem. Res. 2004, 43,
8378-8390.
現在では、Kloss らのグループが開発しているオー
プ ン ソ ー ス の CFD-DEM 連 成 解 析 ソ ル バ ー
「CFDEM」が公開されており[8][9]、著者も利用して
いる(図 4)。しかし、流動層を対象に実験と解析を検
証した結果、CFDEM の流体解析ソルバーについては
改良しなければ高い精度が得られないものであった。
[6] Di Felice, R., The voidage function for fluid-particle
interaction
systems,
International
Journal
of
Multiphase Flow, 1994, 20, 153-159.
[7] 粉体工学会編, 粉体層の操作とシミュレーション, 日
刊工業, 2009.
[8] C. Kloss, C Goniva, G. Aichinger, S. Pirker,
Comprehensive DEM-DPM-CFD simulations -model
synthesis, experimental validation and scalability,
[K]
Seventh International Conference on CFD in the
Minerals and Process Industries, 2009.
[9] C. Goniva, C. Kloss, A. Hager and S. Pirker, An
Open Source CFD-DEM Perspective, 5th
OpenFOAM Workshop, 2010.
ガス温度
図4
粒子温度
CFDEM をベースに開発した
熱流体解析と DEM の連成解析例
数値解析技報 第 9 号, 2011 13
技術レポート No.1
LS-DYNA による粉体圧縮挙動シミュレーション
熱流体解析チーム
日本機械学会認定
計算力学技術者1級
~SPH 機能の調査~
今道 功治
概要
LS-DYNA に備わっている粒子法(SPH 法)の機能を用いて粉体の圧縮挙動シミュレーション
を行ったので紹介する。
1.粒子法について
粒子法は、流体や固体といった連続体を有限
個の粒子によって表し、連続体の挙動を粒子の運
動によって計算する方法である。離散化解析手法
の分類を図1に示す。代表的な計算手法として
は、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)
法や MPS(Moving Particle Semi- implicit)法、
また、粉体を粒子の集まりとして計算する DEM
(Discrete Element Method)が挙げられる。格
子法(有限要素法や有限差分法)でも粒子法でも、
連続的な空間を離散化することは同じである。格
子法と粒子法の違いを図2に示す。
格子法では空間を格子状に分割して節点に速
度などの変数を配置する。これに対し、粒子法は
空間の中に粒子を配置し、その粒子が速度などの
変数を持つ。よって、粒子法は格子を用いないの
で、格子のゆがみ問題が生じることが無く、大変
形問題や自由表面の表現に有利である。
2.粉体の圧縮挙動シミュレーションモデル
粉体物性をシミュレーションでモデル化する
には図3に示すような粉体特有の圧縮挙動を表
現する必要がある。圧縮荷重が小さい範囲では体
積圧縮率が急激に高くなり、それ以降は体積圧縮
率の増加勾配が一定となるような挙動である。
体積圧縮率
圧縮荷重
図3:粉体の圧縮特性
図1:離散化手法の分類
(a) 格子法
(b) 粒子法
図2:格子法と粒子法
1 4 数値解析技報 第 9 号, 2011
LS-DYNA にはいくつもの材料モデルが用意
されているが、SPH 機能に適用できる粉体材料
モデルとしては「土質体・クラッシャブルフォー
ム材料モデル(*MAT_SOIL_AND_FOAM)」
を用いる方法が適していると考えられる。その第
一の理由として図4に示すように、圧力を体積ひ
ずみの関数として付与出来ることから、粉体特有
の低圧縮域での体積圧縮変化を再現できる為で
ある。また、第2の理由として、降伏条件につい
ても、対応す る係数を換算することにより、
Drucker-Prager モデルを用いることが可能と
なることも挙げられる。
体積ひずみ
(圧縮方向)
圧力
図4:圧力-体積ひずみ関係
図5に粉体圧縮試験体モデルを示す。半径方向
の変形を拘束された円筒状の粉体に上から圧縮
荷重をかけて、その圧縮特性を評価する。解析モ
デルは面外方向を拘束した簡易2次元モデルと
し、FEM(軸対称要素)モデルと SPH 要素モデ
ル(粒子間距離:大、小の2モデル)について解
析を行った。その際、SPH 要素モデルは周囲を
剛体壁で覆うことで、粒子が面外変形しないよう
な条件を与えた。
S
ない場合は、精度が FEM よりも急速に低下する
という SPH 法特有の性質が確認できた。
次に、計算時間の比較を表1に示す。この表か
らもわかるように、SPH 要素モデル 2 は FEM
モデルの 75 倍の計算時間を要した。これは、解
析精度アップの為に要素数を増加したこと、時間
増分を小さくしたことに加え、SPH 法特有の圧
密されることで隣接する粒子との関係式を作る
数が増加した為と考えられる。
以上より、LS-DYNA/SPH 機能を用いて粉
体圧縮試験の圧縮挙動を調査することで、その基
本特性を確認することが出来た。
粒子間
距離:大
粒子間
距離:小
(b) SPH 要素 1
(a) FEM
(c) SPH 要素 2
図6:圧縮方向応力コンター
d
S
d’
圧縮前
圧縮後
図5:粉体圧縮試験体モデル
3.シミュレーション結果と考察
解析結果として圧縮方向の応力コンターを図
6に、荷重-体積圧縮率の関係を図7に示す。
FEM モデルは、解析上安定的に解くことができ、
低圧縮荷重時は体積圧縮率が線形に上がり、その
後、体積圧縮率の増加勾配が一定となる粉体特有
の性質を表現することが出来た。掲載していない
が、この結果は実験結果とも対応が取れている。
SPH 要素モデルは、粒子間距離:大(SPH 要
素モデル 1)では載荷途中に SPH 要素が突如剛
体壁を貫通する、圧力低下が起きる、などの挙動
が起き、結果として安定的に計算出来なかった。
粒子間距離:小 (SPH 要素モデル 2)では、粒
子間距離が大きい場合に見られた挙動は起きず、
荷重-体積圧縮率関係は粉体圧縮特性を表現す
る結果が得られた。このことからも粒子密度が少
図7:荷重-体積圧縮率関係
表1:計算時間の比較
要素数
計算時間
[sec]
FEM との
時間比
FEM
500
385
1.0
SPH 要素 1
441
4,046
10.5
SPH 要素 2
1,881
28,942
75.2
参考文献
「SPH 粒子法の基礎と応用」;横浜国立大学
酒井 譲
「粒子法シミュレーションの大規模化と高速化」;東京大
学大学院
越塚
「粒子法」;丸善
誠一
越塚
誠一著
数値解析技報 第 9 号, 2011
1 5
技術レポート No.2
実験計画法と FEM による最適構造設計
ソリューション第一チーム
日本機械学会認定
計算力学技術者 2 級
尾西 利之
概要
シミュレーションを用いて最適設計を行う場合、通常の方法では FEM を最適化ループの中で
繰り返し行うことになる為、計算時間が増大する傾向がある。本稿では、その対策として、実験
計画法と FEM とを組み合わせた手法及び、その適用例について紹介する。
1.はじめに
従来の最適化は、図1に示すように FEM で求め
た特性値を利用し、数理計画法などで改良値を求
めるという処理を繰り返し行う。しかしながら、
この方法では FEM を最適化ループの中で繰り返
し行うことになり、計算時間増大の問題が生じ
る。また、FEM 結果から数理計画法へデータを引
き渡すインターフェース作成も必要となり、この
準備にも時間を要することになる。
一方、最適化ループの中で FEM を用いずに、推
定式を用いる方法がある。概念図を図2に示す。
この手法は、以下の2Step にて構成される。
Step1 ~ 実験計画法と FEM によって、応力、
重量などの特性の推定式を作成する
Step2 ~ この推定式を使って、数理計画法な
どで改良値を求める
寸法
初期値
この方法では、FEM を用いるのは推定式の作成
時のみとなり、大幅な時間短縮が期待される。今
回はその適用例と効果について紹介する。
2.実験計画法
ここでは、直交表を用いた実験計画法の適用に
ついて述べる。その手法は、設計変数を直交表の
列に割り付け、各行をそれに対応した入力データ
として FEM 解析を行い、それより得られた特性値
の分散分析結果をもとに推定式を用いて設計空
間における応力や変位の応答量を構成するもの
である。例えば 3 水準系の直交表L27 を用いる
と最大 13 設計要因まで解析可能で、その設計変
数の上限である 13 設計変数を持つ問題に対して
の全水準の組み合わせは 313=1,594,323 通りで
あるが、直交表を用いた場合の解析数は 27 回を
一度実施するのみとなる。
最適化ループ
3.実験計画法と FEM による特性式推定
3.1 FEM 解析
FEM 解析には汎用構造解析ソフト Marc を使用
した。平板に円孔及び円筒があり、円筒周りにリ
ブが配置された解析モデルとする。解析モデルの
イメージを図3に示す。
応力値
たわみ値
重量
数理計画法
FEM
寸法
改良値
寸法
最適値
平板
図1:従来の最適化の概念図
推定式の作成
寸法
初期値
円筒
最適化ループ
等分布荷重
蓋
応力値
たわみ値
重量
実験計画法
リブ
数理計画法
推定式
FEM
寸法
改良値
寸法
最適値
図2:推定式を用いた最適化の概念図
1 6 数値解析技報 第 9 号, 2011
図3:解析モデルのイメージ
平板および円筒の板厚は一定とし、設計要因と
して、リブの板厚 A~F の計6要因を設定する。
初期板厚は A~E:22mm,F=32mm とし、円筒の周辺
リブの最小重量設計を目的とする。特性値には、
FEM 解析から求めた円筒部分の応力,リブの応
力,リブの総体積を用いた。直交表に従い FEM
解析を行い、特性値を記録する。
3.2 分散分析結果
円筒部分のトレスカ応力の分散分析結果を表
1に示す。分散分析表から要因効果の有意性を判
定することができる。危険率の列にある記号
は”*”が 95%有意であることを、”**”が 99%
有意であることをそれぞれ表している。
表1:円筒のトレスカ応力 分析分散表
要因 次数 自由度f 変動S
分散V
分散比F0 危険率 純変動S' 寄与率ρ
A
1次
1 8.46E+02 8.46E+02 5.07E+01 **
8.29E+02
7.66%
2次
1 9.29E+00 9.29E+00 5.57E-01
0.00E+00
0.00%
B
1次
1 7.91E+03 7.91E+03 4.74E+02 **
7.90E+03
72.94%
2次
1 3.30E+02 3.30E+02 1.98E+01 **
3.13E+02
2.89%
C
1次
1 1.28E+03 1.28E+03 7.65E+01 **
1.26E+03
11.62%
2次
1 1.34E+01 1.34E+01 8.04E-01
0.00E+00
0.00%
D
1次
1 7.16E+01 7.16E+01 4.29E+00
5.49E+01
0.51%
2次
1 4.92E+00 4.92E+00 2.95E-01
0.00E+00
0.00%
E
1次
1 5.67E+00 5.67E+00 3.40E-01
0.00E+00
0.00%
2次
1 6.69E-02 6.69E-02 4.01E-03
0.00E+00
0.00%
F
1次
1 1.24E+02 1.24E+02 7.42E+00 *
1.07E+02
0.99%
2次
1 3.92E-01 3.92E-01 2.35E-02
0.00E+00
0.00%
誤差
14 2.33E+02 1.67E+01
3.67E+02
3.39%
合計
26 1.08E+04
1.08E+04 100.00%
F(0.05) = 4.600109
F(0.01) = 8.861592
3.3 推定式と FEM 解析の精度比較
特性値から求めたトレスカ応力(中立面)Y1
の推定式は次のようになる。
Y1=8.7167-0.6562822XA+0.00591888XA2-2.538697XB
+0.03524904XB2-0.004029594XD-0.004307042XD2-0.8
008059XC+0.007107941XC2-0.02313383XE-0.0005020
478XE2-0.106918XF-0.0006720725XF2[N/mm2]
XA,XB,…,XF:設計要因 A~F の板厚[mm]
推定式の精度を確認するために、FEM 解析結果
と推定式による値を比較した結果を図4に示す。
FEM 解析値と推定値はよく一致していることが
わかる。
140.0
トレス カ 応力[N/m m 2]
120.0
100.0
① 逐次二次計画法(SQP 法)を用いた連続値
② 汎用板厚置換に基づいた連続値
③ 離散値から最適値を採用
まず、数理計画法の一つである逐次二次計画法
を用いて連続値を表現する場合、制約条件を設定
する必要がある。ここでは、目的関数としてリブ
体積が最小になるように、制約条件として最大発
生応力値が許容値以下になるようにした。
続いて、汎用板厚置換により連続値を表現する
場合である。最適板厚は理想的な理論値である。
このような板厚は実設計では、優先的に使用すべ
き汎用的な板厚に置換する事が多い。リブ板厚の
例を表2に示す。ここでは、最適板厚以上の最小
値を表2から探し、板厚をこの値に置換する。
表2:リブ板厚
3.2 4.5
6
9
12
リブ板厚[mm]
14 16 19 22
25
28
32
36
40
離散値から最適値を採用する方法では、推定式
を使うため実行時間が短い。そのため全ての設計
要因および離散値の全組み合わせで計算するこ
とが可能である。それらの中から条件を満足する
条件を求める方法を用いる。また、離散値は等間
隔の必要はなく、任意の値を扱うことができる。
これら3手法によって得られた最適化結果を
表2に示す。このうち、離散値による最適値を採
用した場合では、円筒の一部が許容応力を超える
結果となった。そのため、円筒の応力を下げるた
めに最も影響度がある設計要因である板厚を増
すことが望ましいと言える。影響度の度合いは、
特性の推定式を要因で偏微分することにより得
られる感度式を用いて評価した。
最適化手法により、初期形状と比較して最大
30%の軽量化を達成出来た。また、検討もリーズ
ナブルな時間で実現出来、本手法の有効性も確認
出来た。
80.0
60.0
解析値
推定式
40.0
20.0
表3:最適化による板厚結果(単位:mm)
A
B
C
D
E
F
初期形状
22.0
22.0
22.0
22.0
22.0
32.0
100
SQP 法
9.9
30.0
15.7
1.0
1.0
40.0
70
板厚置換
12.0
32.0
16.0
0
0
40.0
76
離散値
12.0
32.0
12.0
0
0
36.0
71
0.0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
23
25
27
実行番号
図4:円筒のトレスカ応力(中立面)解析値と推定値比較
4.最適化計算
最適化検討では、設計変数を連続値あるいは、
離散値として扱うかにより、幾つかの手法が考え
られる。ここでは、以下の3通りを調査する。
重量比
方法
数値解析技報 第 9 号, 2011 1 7
(%)
技術レポート No.3
非線形座屈解析における問題と対策
ソリューション第一チーム
日本機械学会認定
計算力学技術者1級
~Marc の BUCKLE INCREMENT オプション~
松瀬 善信
概要
非線形座屈現象(Postbuckling)は、現象自体が不安定であるが故、一般的な弧長法を用いた解析
では収束解を得難いケースがしばしばある。これらを踏まえ本稿では、非線形座屈解析における
問題と対策について紹介する。
1.はじめに
非線形座屈解析では、一般的に弧長法と呼ばれ
る手法で計算することが多い。しかしながら、座
屈自体が不安定挙動であるが故、解析対象によっ
ては、収束解が得にくい、非現実的な解となる、
などの問題が起きており、この手法は全ての対象
において有効的ではないのが実状である。これら
問題に起因する検討時間の増大は、設計において
も工期遅延などにも影響することから、早急に問
題を回避できるテクニックを持っておくことが
重要である。
そこで本稿では、弧長法を使用した非線形座屈
解析において、収束解が得られない場合の回避策
として、汎用構造解析ソルバーMarc の BUCKLE
INCREMENT オプションを用いて得られる座屈固
有値からアプローチする方法について紹介する。
2.弧長法について
弧長法は、与えられた荷重 F に対して複数の変
位ベクトル u が存在するような場合に正しい変
位ベクトルを見つけることができる手法である。
具体的には、図 1 に示すような飛び移り現象が生
じる問題を扱うことができる。
図1:飛び移り挙動
1 8 数値解析技報 第 9 号, 2011
しかしながら、この手法は多くの反復計算が必
要となる、もしくは、同じ釣り合い経路に戻って
計算を繰り返すことで収束解が得られない、など
の問題が生じることがしばしばある。したがっ
て、全てのケースにおいて有効的な手法とは言い
難く、これを解決するのは、何らかの別手法での
アプローチが必要となってくる。
3.BUCKLE INCREMENT オプション
Marc の BUCKLE INCREMENT オプションは、任意
のインクリメントにおいて座屈固有値解析を行
うことができる。ここで得られた座屈固有ベクト
ルは、ユーザ指定の係数を乗じた座標値を不整と
して組み込み、所望の座屈モードを含んだ変形を
得ることが可能となる。
今回、このオプションを使用することにより、
前述の弧長法の問題解決を図ることにする。
4.解析例
解析モデルは単純ハット断面とし、座屈モード
の非対称性を考慮してフルモデルとする。境界条
件を図2に示す。両端ともにピン‐ローラー拘束
とし、一様に面圧が作用するものとする。また、
材料は図3のごとく弾塑性体とする。
また、分岐点を逃さないように、線形座屈固有
値解析で得られた1次モードと、相似で微小な初
期不整を与えるものとする。これらの条件の下で
弧 長 法 に よ る 荷 重 増 分 解 析 を 行 い 、 BUCKLE
INCREMENT の有無による結果比較を行った。
図2:境界条件
700
応力[MPa]
600
500
400
300
200
100
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
4.2 BUCKLE INCREMENT ありでの結果
前項の推定より、1600N 付近で BUCKLE INCREMENT オプションを使用し座屈固有値解析を実行
したところ、図6に示すように局部座屈が発生す
ることが判った。また、座屈固有値解析から算出
した座屈荷重は 2,404N で、折り返し点の荷重と
近接していることも確認出来た。
ここで得られた座屈固有ベクトルに係数を乗
じた座標値を不整(不整量は板厚の約 0.5%)とし
て組み込んで計算を続けたところ、同じ釣り合い
経路に戻ることなく変形は伸び続け、最大耐力に
至ることが分かった。本結果での荷重-変位関係
を図7に示す。
ひずみ[‐]
図3:応力-ひずみ関係
2500
荷重[N]
2000
局部座屈発生
図6:局部座屈モード(高さ方向変位コンター)
4000
3500
座屈固有値解析
3000
荷重[N]
4.1 BUCKLE INCREMENT なしでの結果
図 4 に示すように、線形座屈固有値解析により
算出した座屈荷重 1031N に近づくと剛性が低下
し、横倒れ座屈モードが顕著に現れてくる。これ
を表す座屈モードを図 5 に示す。その後も耐力は
上昇するが、2000N を超えたあたりで折り返し、
元の荷重変位関係に戻った。ここで、折り返し点
の変形状態を確認すると、横倒れの全体座屈によ
り片方のフランジが圧縮を受けており、これ以降
に新たな座屈が発生する可能性があることが推
定でき、現実的には、全体変位が成長すると思わ
れたが、解析では表現できていない。
2500
2000
1500
1000
Buckle Incrementなし
500
Buckle Incrementあり
0
1500
0
座屈荷重
1000
20
40
60
80
100
120
中央部高さ方向変位[mm]
500
図7:荷重-変位関係
0
0
5
10
15
20
25
30
35
中央部高さ方向変位[mm]
図4:荷重-変位関係
5.おわりに
BUCKLE INCREMENT オプションを使用し、局部
座屈の釣り合い経路に誘導することで、折り返し
の挙動は回避され、最大耐力を求めることができ
た。
参考文献
圧縮応力
発生部
「Marc2008 マニュアル A 編」
図5:横倒れ座屈モード(幅方向変位コンター)
数値解析技報 第 9 号, 2011
1 9
製品紹介 :
M arc2 0 11 新 機 能 紹 介
Marc2011 の新機能 トピックス
2011年リリースのMarcは、より使いやすく、洗練され、処理速度も速くなりました。
◆ Mentat2011 インターフェイスの一新
-新しい GUI の採用と、CAD インターオペラビリティおよび
メッシュ機能の強化
-直感的なインターフェイスを備え、ユーザーの作業効率を改善
◆ HPC の改良
・Solver プロセスの並列処理(標準機能)
- Pardiso のアウト・オブ・コア対応を追加
イン・コア・ソルバーと遜色の無い性能
-MUMPS ソルバーの i8 対応
◆ 接触機能の改良
・接触機能
Segment-to-Segment
- 大変形・大すべり解析に対応
- 摩擦の考慮
- 連成解析での接触解析の改良
・ユーザメリット
・ユーザメリット
-生産性の向上
-より少ない時間でより多くの
設計検討が可能
-外部ファイルの活用により少ない
メモリーでの計算が可能となり ,
メモリー増設費用を削減
より精度の良い解析が可能
※ 記載の製品名等の固有名詞は各社の商標または登録商標です。
20
数値解析技報 第 9 号, 2011
【システム開発】
設計・研究開発等の種々の課題に対して、
Marcによる切削解析
円形容器のスロッシング解析
【電磁場解析】
誘導加熱
【光ファイバセンシング】
測定機器
数値シミュレーションを軸として、システム開発および
【ソフトウェア販売】
数値解析ソフトウェア販売の連携により、
鋼管の塑性座屈解析
総合シミュレーション エ ンジニアリングを提供します。
【構造解析】
【熱流体解析】
赤線 :光ファイバ
青線 :LNG液
MicroAVSによる可視化
LNGタンクの温度監視システム
お問合せメールアドレス
シミュレーションエンジニアリング・ソリューション部
http://www.npd.nsc‐eng.co.jp/simulation/
MSC S ft
MSC.Software
正規代理店
取扱品目
Marc 、MSC Nastran 、Patran、University 他
[email protected]
※お気軽に ご相談ください。
お問い合わせ先
E-mail:[email protected]
<本社>
担当:長嶋,小笠原
TEL:093‐588‐7233 FAX:093‐882‐7655
<東京分室> 担当:湯本,加来
TEL:03‐6665‐4606 FAX:03‐3492‐2023
数値解析技報 第 9 号 2011 年 12 月 1 日 発行
発
本
行
日鐵プラント設計株式会社
社 : 〒804-0002 福岡県北九州市戸畑区中原 46 番地の 59
東京分室 : 〒141-0032 東京都品川区大崎 1 丁目 5 番 1 号 大崎センタービル 12 階
発行責任者 シミュレーション・エンジニアリングソリューション部 【SiES’S 部】 大神 勝城
http://www.npd.nsc-eng.co.jp/ TEL: 093-588-7236 FAX:093-882-7655
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