日中の視点 知財権

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中日知识产权法律观察特刊
日中の視点 / 知的財産権法
No.11
China-Japan IP Law Review
a special edition of DeBund Newsletter
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Date: 2015.3.01
大 邦 律 師 事 務 所 (DeBund)に つ い て
编者记:
“ 日 中 の 視 点 / 知 的 財 産 権 法 ”を 上 海 大 邦 律 师 事 务 所 Newsletter の 特 别 版
と し て お 届 け 致 し ま す 。知 的 財 産 権 法 は 最 も グ ロ ー バ ル 化 が 進 ん だ 法 律 分 野 で す
が 、そ れ で も 、日 本 と 中 国 の 間 に は 、問 題 の 捉 え 方・考 え 方 に 隔 た り が あ り ま す 。
そ こ に 焦 点 を 当 て つ つ ,経 営 的 な 視 点 も 踏 ま え 、知 的 財 産 の 保 護 の 在 り 方 、関 連
す る 契 約 問 題 等 に つ い て 、原 則 毎 月 、小 論 説 を お 届 け 致 し ま す 。第 十 一 回 の 今 回
は 、「 オ ー プ ン・イ ノ ベ ー シ ョ ン と 中 国 /そ の 6 - 国際ライセンス契約と独禁法 ・
特許の有効性と「不争義務」に つ い て の 日 中 の 考 え 方 の 違 い に つ い て で す 。日 本 と
中国の相互理解の一助になれば幸いです。
二零一五年三月一日
日中知財/ 小論説 No. 11
「オープン・イノベーションと中国 (6)/
「中国の国際ライセンス契約と独禁法 ・ 特許の有効性と「不争義務」
弁理士 川本敬二
上海大邦律师事务所 顾问
ライセンサーが特許権者としての優越的な立場を利用して、ライセンシーに
対し、理不尽なライセンス契約条件を飲むことを強く要求することがビジネス
の通常として見受けられます。前回の「その 5
国際ライセンス契約と独禁法
/·不公正な取引方法」では、そのような理不尽な契約条件が日本及び中国で法
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律的にどのような取り扱いを受けるのかについて、概観を説明致しました。今
回からは、問題となりうる具体的な契約条件を個別に検討していきたいと思い
ます。初回は、日本と中国の間で、合法性の取り扱いが最も異なっている「不
争義務」について、取り上げます。
1.不争義務とは
1)特許の有効性と「不争義務」:
不争義務とは、ライセンス対象の特許権について、ライセンサーがライセン
シーに対して、特許等の権利の有効性について争わない義務を課すことを言い
ます。権利の有効性を争うとは、具体的にどういうことかと言えば、例えば、
ライセンス対象の特許が、出願段階の未成立の特許であれば、特許庁に情報提
供(「情報提供」)をして、かくかくしかじかの理由で、その出願は特許を付与
されるべきでないと申し立てをすること、更には、成立した特許権であれば、
特許庁に無効審判を請求して、かくかくしかじかの理由で、特許が付与される
べきでなかったので、無効とすべきと主張する行為をいいます。
2)新製品・新技術のライセンスと「不争義務」:
さて、特許権者(ライセンサー)が自らの研究開発によって見出した新製品・
新技術について、それに関わる事業化に興味を示した第三者(ライセンシー)
に対し、ライセンスを許諾するような場合を考えてみましょう。例えば、医薬
品のライセンス・ビジネスによく見られる形態ですが、ライセンサーが研究開
発によって見出した新薬の開発・製造・販売権を第三者のライセンシーに許諾
するに当たって、ライセンサーが所有している当該新薬をカバーする物質特許
権等及びライセンサーが R&D 行為によって獲得した新薬の有効性・安全性等に
関するデータの権利に基づいて、第三者にライセンス許諾するといったビジネ
ス形態です。その場合、ライセンシーにとっては、当該新薬のジェネリック薬
の市場参入を阻止する為には特許権が生命線になりますので、ライセンシーが
ライセンス契約を締結後、多額の投資をして新薬の研究開発をしながら、当該
特許の有効性を争い、それを敢えて無効にすること、即ち、ジェネリック薬の
参入を可能な状態に自ら持って行くようなことを敢えてすることは、通常、考
えづらいように思います。従って、このような場合には、不争義務自体が、ラ
イセンサーとライセンシーの間で議論の焦点になることは少ないと言ってい
いかも知れません。
3)ブロッキング特許と「不争義務」:
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さて、前記の例では、新製品・技術のオリジネータが特許を取得後、当該新
製品・技術そのものについて第三者が開発・製造・販売を希望し、両者間でラ
イセンス契約が締結されるような場合について説明致しました。それとは逆に、
例えば、A 社が、基本発明をなし、製品・技術について広範な範囲の特許を有
しているような場合を想定してみましょう。その後、B 社が、そのような基本
発明に基づいて、自社で新技術・新製品を開発の上、当該製品・技術について、
別途、特許を取得することは可能です。この場合、A 社の特許が発明の上位概
念をカバーしているのに対して、B 社の特許は下位概念をカバーしており、そ
のような二つの特許が併存する場合があります(両特許は、所謂、利用関係に
あります)。そのような場合、B 社が当該新技術・新製品を製造・販売するこ
とは、A 社の特許(「ブロッキング特許」)を侵害することになります。従って、
B 社は、特許侵害を回避する為には、A 社から特許ライセンスを取得する必要
があります。
然しながら、この場合、ブロッキング特許について、たとえ、両者間でライ
センスが成立したとしても、A 社の特許が先行特許である以上、B 社の特許よ
り先に特許満了を迎えることから、類似品の市場参入に対して、具体的にカバ
ーする自社の B 特許に比べて、大きな武器になることはなく、ライセンシー(B
社)にとってみれば、煩わしい特許権者(A 社)に対して、単に、ライセンス・
フィーの追加出費を強いられるという、つらい立場となってしまいます。その
ような場合、ブロッキング特許についてのライセンス契約が成立後も、ライセ
ンシーにとってみれば、当該ブロッキング特許を無効にすることによって、ロ
イヤルティー支払い義務から免れようとする強い動機があるわけです。従って、
そのような場合には、ライセンサーは、ライセンス契約に不争義務の条項を入
れて、これに対抗しようとします。
2.日本における「不争義務」の独禁法上の位置づけ
日本の「独禁法・知財ガイドライン」上は、この「不争義務」は、原則とし
て、白条項(違法ではない条項)と位置付けられており、不公正な取引方法に
は該当しないとされています。ライセンシーは、当該特許のライセンスを受け
るに当たって、特許に無効理由の存否、即ち、その有効性については、事前に
分析・検討しているでしょう。その結果を踏まえて、無効の可能性を疑わせる
事実が出てきた場合であっても、敢えて、特許庁に対して無効を申し立てず、
特許権者との交渉によって問題を解決する、即ち、低率のライセンス料を払っ
てでも、特許問題を回避することもあります。このような場合、両者間の協議
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を経たうえで、両者、納得してライセンス契約の締結に進んだはずです。そも
そも、当該特許が有効でない、即ち、無効であるならば、ライセンシーを含め
誰でも特許庁に情報提供をする、又は、無効審判を請求することができるとい
う制度が準備されているなかで、当事者間の協議を踏まえて辿りついた契約を
締結後に、その話を元に戻すようにして、ライセンス対象の権利の有効性を争
うようなことをしないことを特許権者が求めることは、合理性がある(即ち、
公正競争阻害性はない)と考えているわけです。
ここで、対象特許が新規性・進歩性等の特許要件を満たすか否かは、ライセ
ンシーも調査・分析すれば分かります。しかしながら、対象特許について、ラ
イセンシーが公開情報に基づいて調査しても知りえないような特許の無効理
由であって、特許権者がこれに関して知っていたにも拘らず、隠して、ライセ
ンス契約の締結に進んでしまったような場合には、特に、その手段が公正でな
いとして、不公正な取引方法に該当する可能性が高くなってくるとされていま
す。
一方で、不争義務を課すことなく、契約上、もし、ライセンシーが権利の有
効性を争った場合、ライセンサーは、契約を解除することができる、との規定
は、白条項とされており、「不公正な取引方法」には、該当しないとされてい
ます。
3.中国における「不争義務」の取り扱い
1)特許法と特許の有効性についての争い:
特許法の下での基本的な考え方を整理しますと次の様になります。
先ず、特許の有効性を争う手段ですが、日本同様に、特許法上、特許庁(SIPO)
の審査により特許が付与される前は、誰でも権利化を阻止する為に審査当局で
ある SIPO に公知文献等の情報提供が出来ますし(特許法実施細則§48)、更に
は、特許が付与された後は、誰でも無効審判を請求できます(特許法§45 条)。
従って、中国の特許出願段階で、ライセンスの許諾がされた場合、特許法上は、
当該ライセンス契約のライセンシーは、中国特許庁に対して情報提供をして、
特許化を阻止する手段を取れますし、特許として成立した後は、無効審判を請
求して、特許を無効にする為の手続きを取ることが可能です。
そして、無効審判の最終結果として、特許が無効になったような場合であっ
ても、当該特許のライセンス契約は、契約締結時にさかのぼって、無効との扱
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いを原則として受けることにはならない(特許法§47)と規定されています。
従って、ライセンサーは、特許が無効になるまでに受け取ったロイヤルティー
等をライセンシーに返金する必要は、原則、ないということになります。
2)中国の契約法・対外貿易法等と「不争義務」:
次に、「不争義務」の中国法上の問題点ですが、前回号で説明した通り、契
約法(及び司法解釈)、技術輸出入管理条例(及び対外貿易法)に関連規定が
置かれているので、これらを視野に入れていくことが先ず、重要です。その上
で独禁法上の取り扱いも考慮する必要があります。
3)中国の国内ライセンス契約と「不争義務」:
中国の国内企業同士のライセンス契約については、契約法が適用されますが、
契約法§328 には、「技術を不法に独占し、技術の進歩を阻害する- - -ライセ
ンス契約- - -は、無効」との趣旨の一般規定があります。その具体的な内容
については、司法解釈(技術契約紛争案件の審理における法律適用の若干問題
に関する解釈)§10 に、そのような無効となる契約条件が列挙されており、
その 6 号に、不争義務について、下記のような規定が置かれています。
「(6) ライセンシーがライセンス契約の対象の知的財産権の有効性について
異議を申し立てることを禁止すること、或は、異議を申し立てることについて、
条件を付けること」
従って、中国の国内企業同士のライセンス契約に於いては、不争義務は、per
se illegal、即ち、本来的に違法であり、個別具体的な競争への効果を検討す
ることなく、無効という位置づけになります。更には、契約書中に、「ライセ
ンシーが権利の有効性を争った場合、ライセンサーは、契約を解除することが
できる」との規定を盛り込んだ場合、当該規定も同様の扱いを受けるとされて
います。中国では、近年、知財重視の時代背景にありますが、その前の時代に
於いては、例えば、新しい技術について特許ライセンス契約を締結し、関連す
るノウハウ等の提供を受けた後、ライセンシーが特許は無効であると主張して、
ロイヤルティーを払わず、新技術のタダ乗りといったことが行われた時代が続
きました。「不争義務」が無効であるとの法制度は、そのような時代の流れの
中で形成されたのかも知れません。今後、制度改革が必要な課題だと思われま
す。
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4)日中間の国際ライセンス契約と「不争義務」:
さて、中国も加盟している TRIPs 協定§40 に「ライセンス契約に於ける反
競争的行為の規定」として、
「排他的グラント・バック」、
「不争義務」及び「一
括ライセンス」、の 3 つの契約条件が例示されています。これを受けて、中国
においては、国際ライセンス契約に適用される「対外貿易法」§30 に、この
3つの契約条件が問題となる規定の例として特記されており、下記の通り、そ
の中に「不争義務」の類型が明記されています。
「ライセンス契約が対象とする知的財産権の有効性に異議を唱えることをラ
イセンサーが阻止する」
その上で、§30では、かかる条項によって、対外貿易の公正な競争を阻害
する場合には、当局は、これを排除する為の措置を講じる、と規定しています。
従って、日本企業と中国企業間で締結される国際ライセンス契約においては、
「不争義務」は本来的に違法というわけでなく、ライセンス許諾がなされた事
業環境等を勘案し、公正な競争を阻害するか否かが検討された上で、「不争義
務」が合理的か否かが判断されることになります。
更に、「対外貿易法」の§32では、対外貿易ビジネスにおいて、独占禁止
に関わる法律・行政法規(独禁法等が含まれる)に反して、独占的な行為をし
てはならないとした上で、かかる違法行為があり、且つ、対外貿易秩序を害す
る場合には、当局は、これを排除する措置を取るとしています。
5)中国独禁法と「不争義務」:
では、独禁法上、「不争義務」は、どの様な扱いを受けるのでしょうか?
特許権者がライセンス契約中に「不争義務」を盛り込んだ場合、独禁法上の禁
止行為とされる3類型のうちの一つ「市場支配的地位の濫用」(独禁法§⒘)
に該当するか否かを検討する必要性が出てきます。ここで、「不争義務」が、
具体的に違反行為に該当するか否かは、そのような義務を課すことに「合理的
な理由」があるか否かがポイントとなります。中国では、独禁法知的財産のガ
イドラインが現在、起草(工商総局:2014 年 2 月に第五版が公表)中ですが、
その第五版の§⒘(4)に、ライセンス契約中に正当な理由なく「知的財産の不
合理な取引条件を付加」する行為は、「支配的地位の濫用」であるか否かを具
体的に検討し、その当否の認定をする必要性がある行為であるとしています。
そして、その§19(2)に、
「知的財産の不合理な取引条件の付加」の一類型と
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して、ライセンシーの意思に反して、「不争義務」の契約条件を押し付ける行
為が挙げられています。然しながら、具体的にどのような判断基準に基づいて、
認定していくのか、前記の「合理性」についても具体的な説明はされていませ
ん。
以上を踏まえ、前記した「ブロッキング特許」のライセンス許諾の場合のよ
うに「不争義務」を入れる必要性がある場合、中国企業同士の国内ライセンス
契約の場合は、法律上、無効であることが明示されているので、ライセンシー
にその旨、主張された場合には、ライセンサーとしては、対応が難しくなりま
す。これに対し、日中間の国際ライセンス契約に於いては、当然無効ではなく、
所謂、合理の原則によってその可否が判断されます。従って、中国のライセン
シーを説得の上、契約に盛り込むことが可能となった場合には、特許ライセン
スの締結に至った背景、更には「不争義務」の合理性等の説明を具体的にライ
センス契約に盛り込んでいく等の対応をとる必要が出てくると思われます。
さて、次回以降、「グラント・バック」等のその他の制限条項について、説
明していきます。
以上
「その他の日本語版の中国法律情報は、こちらからお入りください。」
その他の中国語版の中国法律情報:
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