中国の金融引き締め策とアジア株、人民元の動向

F i n a n c i a l M a r k e t R e v i e w | 2010年2月12日
中国の金融引き締め策とアジア株、人民元の動向
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中国の金融引き締め効果は限定的であり、アジア株の大幅下落要因にはならない。
中国通貨当局は、緩やかなペースで人民元の切り上げ等を行い、長期的には人民元高を容認方向へ。
1月中旬に中国人民銀行は、約1年半ぶりに民間金融機関が中国人民銀行に預け入れる資金の預金準備率を引き上げました(図表①
参照)。この影響もあり、アジア株式市場は足元、反落しています。しかし、中国の引き締め策は、そもそも景気や金融市場の堅調を長続
きさせるためのものであり、中長期的にはプラス材料と考える向きがあるようです。また、金融引き締め効果は中国の現行為替制度(人民
元相場を前日比0.3%までの変動幅に収束させる管理フロート制)の下では限定的と考えられています。なぜなら、通常、好調な中国景気
や資産市場を背景に、海外から流入する資金があれば、人民元高圧力となりますが、管理フロート制の下では、中国人民銀行がドル買い
介入をして、人民元高圧力を吸収します。このため、対価である人民元が銀行部門に供給され、実質、金融緩和をしているのと同じ効果
になってしまうからです。また、金利の引き上げは、海外との金利差が中国優位となり、こちらも人民元高圧力となり、中国への資金流入を
促します。米-中金利差とドル/人民元相場の連動性の高さを見れば、もっと人民元高が進んでもよさそうですが、それを抑制しているの
が、管理フロート制下でのドル買い/人民元売り介入で、実質の流動性供給=金融緩和効果なのです(図表②参照)。過去の金融引き締
め局面では、その効果が限定的であったことの一つの証左としてアジア株指数は上昇しています(図表①参照)
【 図表② 】
【 図表① 】
800
(%)
18
16
700
14
600
12
500
10
400
8
300
6
中国預金準備率(右軸)
200
4
アジア株指数(MSCI Asia Free 日本除き:左軸)
100
0
06/6
07/12
08/9
(%)
09/6
8.2
(元)
3
米中国金利格差(12ヶ月ドルlibor-人民元オ
フショア人民元スワップ金利:左軸)
2
ドル/中国元(右軸)
8
7.8
7.6
7.4
1
7.2
7
0
6.8
6.6
-1
2
0
07/3
4
6.4
↓中国金利>米金利=人民元高要因
-2
06/4
出所:ブルームバーグのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成
6.2
07/1
07/10
08/7
09/5
10/2
出所:ブルームバーグのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成
中国では管理フロート制維持のため、金融引き締め効果が限定的
と前述しました。実際、中国の通貨供給量は依然として、高水準にあ
り、金融機関の融資残高の前年比は30%を超えており、いずれ更な
る金融引き締めを強化しなければならないことは明らかです(図表③
参照)。また、人民元の流動性供給を受けて、行き場のなくなったオ
カネは不動産市場に流れてバブルの様相を呈しているようです(図
表④参照)。この状態の中、海外からの対中国直接投資も急増して
おり、アジア株もこれに連れて上昇しています(図表⑤参照)。
40%
【 図表③ 】
↑通貨供給量増加/融資増加
35%
30%
中国金融機関の融資総額(前年比)
中国通貨供給量(M2※前年比)
25%
20%
15%
※M2(図表③、④内):通貨・準通貨(定期預金+貯蓄性預金+
その他預金)を指す
10%
99/6
01/2
02/10
04/6
06/2
07/10
09/6
出所:ブルームバーグのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成
120
【 図表④ 】
(%)
35
150
【 図表⑤ 】
(億ドル)
800
アジア株指数(MSCI Asia Free 日本除き:右軸)
700
130
115
30
中国不動産景気指数 販売価格(左軸)
海外企業の対中国直接投資額(左軸)
110
110
25
105
100
20
95
15
90
中国通貨供給量(M2※前年比:右軸)
85
00
01
02
03
04
05
06
07
10
08
09
出所:ブルームバーグのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成
中国景気が堅調で海外からの資金流入があるにもかかわらず、管
理フロート制の下では、ドル買い/人民元売り介入を継続しなくては
ならず、結果的に市場に人民元の流動性を供給することになり、結
果、本来必要である金融引き締めを十分行えず、金融政策の有効
性が低下しているのが現状の中国です。このため、長期的には、フ
リーフロート制(完全変動相場制)への移行を見込む向きが多くなっ
ているようです。この過程を考える上で、日本の為替制度との比較が
役立ちます。中国は日本の為替制度の歴史を踏襲しているように見
えます。現在の中国の局面は1971年当時の日本の局面に該当し、
今後はかつての日本がそうだったように、緩やかな通貨切り上げ等を
経て、最終的には日本が1973年に移行した変動相場制に向かうと考
えるのが妥当なのかもしれません(図表⑥参照)。
600
90
500
70
400
50
300
30
200
100
10
00/1
02/12
05/11
08/10
出所:ブルームバーグのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成
(円)
【 図表⑥ 】
400
350
ドル/円(左軸)
ドル/中国元(1994年~現在 右軸:約34年間ずらして表示) (元)
10
日本(1971年):為替変動幅を±2.5%に拡大
9
16.88%通貨切り上げ(360円から308円へ)
8
300
日本(1949年):
250 ドルペッグ制移行
1$=360円
200
150
100
50
7
日本(1973年):
円の変動場制移行
・中国(1994年):ドルペッグ制移行
・中国(2005年):ドルペッグ制から通貨バスケット制
管理フロート制へ
2 %の通貨切り上げ実施
6
5
4
3
2
1
0
0
49 52 55 58 61 64 67 70 73 76 79 82 85 88 91 94 97 00 03 06 09
出所:ブルームバーグのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成
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