顧客視点の商品マスター(商品DNA) の可能性

特集 クロス・マーチャンダイジング
顧客視点の商品マスター(商品DNA)
の可能性
中 村
博
中央大学大学院ビジネス・スクール 教授
寺 本
高
財団法人流通経済研究所主任研究員
矢 野 尚 幸
財団法人流通経済研究所研究員
1. はじめに
ョンである。
本稿はこの新しいマーケット・セグメンテ
従来のマーケット・セグメンテーションの
ーションの方法について検討を加えることを
典型的なやり方は、性別や年齢およびライフ
目的とする。まず、マーケット・セグメンテ
ステージなどのデモグラフィックス変数によ
ーションの流れについて概観し、その方向性
るものである。しかし、このようなマーケッ
について述べる。次に、新しいセグメンテー
ト・セグメンテーションのやり方はマーケテ
ション手法である商品DNAを利用したマー
ィングの効果効率を高めることに必ずしも貢
ケット・セグメンテーションについて、英国
献していない。というのも、同じ20代の若者
最大の小売企業であるテスコのケースを取り
でも選択する商品は異なるし、同じ70代の高
上げ検討する。そして、日本における商品
齢者でも購入する商品はそのライフスタイル
DNAの作成およびそれを活用した顧客セグ
によって異なる。そこで個人のライフスタイ
メンテーションとそのマーケティングにおけ
ルを考慮したマーケット・セグメンテーショ
る活用可能性について検討する。
ンを行うべく、小売業やサービス業のロイヤ
ルティ・プログラムから得られる顧客の購買
履歴とブランドにライフスタイル属性を付与
することによる新しい効果的なマーケット・
セグメンテーションの取り組みが始まってい
2. マーケット・セグメンテーションの
流れ
2.1. マーケット・セグメンテーションの方法
る。新しい方法とは販売されている品目にラ
マス・マーケティングは、全ての消費者に
イフスタイル属性を付与して、それらの品目
対して単一の製品を大量生産し全ての流通チ
の購入状況から顧客のライフスタイルを類推
ャネルを通じてマスのプロモーションを展開
し、マーケット・セグメンテーションを行お
しながら販売を行うものである。マス・マー
うとする方法である。顧客の購買行動データ
ケティングは製品を低コストで生産すること
と商品DNAと呼ばれる顧客の心理的要因を
によって低価格を実現し、高い利益を獲得す
同時に考慮したマーケット・セグメンテーシ
ることができるという点で効果的かつ効率的
22
流通情報 2009.3
なマーケティング手法であるが、今日のよう
な製品・店舗固有の変数の4つである。
に市場が多様化している状況下ではこのよう
これまで、マーケット・セグメンテーショ
なマーケティング手法は非効率的である。消
ンは性別、年齢、ライフ・ステージなどのデ
費者のニーズの多様化、流通チャネルの多様
モグラフィックス変数によって行われてきた
化、消費者とのコミュニケーション手段の多
と言えよう。しかし、時代の流れは多様化・
様化をみれば、マス・マーケティングによっ
個性化の方向に向かっており、デモグラフィ
て自社の製品を購買してくれる顧客に到達す
ックス・セグメンテーションでは対応できな
ることは難しくなっていることは言うまでも
い。今日、マーケット・セグメンテーション
ない。今日では多様化した市場のニーズを的
は消費者の心理的側面からセグメンテーショ
確に捉え、それらのニーズの異質性を認識す
ンする「ライフスタイル・セグメンテーショ
ることなしに企業は商品やサービスを生産し
ン」と顧客の購買履歴データからセグメンテ
販売することはできない。消費者の一人一人
ーションを行う「購買行動セグメンテーショ
がどんな消費を志向しているかを見極め、製
ン」の方向に向かっている。
品化を考え、販売戦略を立てていくことが重
ライフスタイル・セグメンテーションは、
要であり、そのためにマーケット・セグメン
同じ50代の男性でもライフスタイルが異な
テーションが必要となる。
れば好みの商品は違うだろうし、同じ若者で
ここで、マーケット・セグメンテーション
もライフスタイルが異なれば広告への反応も
を実施するための4つの区分変数を表1から
異なる。したがって、消費者のライフスタイ
確認しておこう。まず、製品とは切り離され
ルによってセグメンテーションを行い、マー
た一般的な変数と製品や店舗に関連する製
ケティング戦略を展開した方が効果的である。
品・店舗固有の変数がある。さらに、変数の
ライフスタイルとは、生活空間、生活時間、
測定が可能かどうかという視点から観測可能
そして価値観のすべてを包括した、その人の
な変数と直接測定できない観測不能変数があ
生活様式、生活スタイルである(飽戸
る(Wedel and Kamakura 2000)。つまり、
日々どんな生活空間に生きているのか、隣近
(1)地理的変数やデモグラフィックス変数(性
所が全生活の場なのか、いつも出歩いて、周
別、年齢、ライフ・ステージなどの変数)な
辺一帯の広い地域で活躍しているのか、早寝
どの観測可能な一般的な変数、(2)個人の性格
早起きのまじめ人間か、健康に気を配りなが
やライフスタイルなどの観測不能な一般的変
ら生活しているか、質素倹約を信条としてい
数、(3)店舗における購入金額やブランドの購
るかなど、そういった消費者のライフスタイ
入頻度および価格弾力性など購買行動データ
ルが商品の購入やブランド選択に影響を与え
にもとづく観測可能な製品および店舗固有の
ている。
変数、(4)知覚便益や購買意図などの観測不能
1999)。
一方、「購買行動セグメンテーション」は、
小売業やサービス業で導入が進んでいるフリ
表1 従来のマーケット・セグメンテーションの区分変数
一般的変数
製品・店舗固有の変数
観測可能
店舗における購入金額、ブ
地理的変数、デモグラフィック
ランド購入頻度、価格弾力
ス変数など
性など
観測不能
個人の性格、ライフスタイルな
知覚便益、購買意図など
ど
注 ) W.Michel and W.Kamakura (2000), Market Segmentation, Kluwer Academic Publishers. P7.を修正
ークエント・ショッパー・プログラムズ(FSP)
から得られる購買履歴データやインターネッ
トにおけるログ解析によって、顧客の購買行
動から顧客のセグメンテーションを行おうと
する。例えば、小売業はメーカーと共同で自
23
店でそのメーカーのブランドの買い物金額が
ら使用にいたるまでにかかる費用である。つ
多い顧客をターゲットにして割引クーポンを
まり、ライフスタイルがこれらのどの知覚価
送付するなど特別のプロモーションを展開す
値を重視するかを決め、最終的なブランド選
ることができる。今日、顧客の購買行動履歴
択を行う(図1参照)。商品DNAとは、ブラ
は多くの企業で収集可能であり、企業は顧客
ンドが提供するこれらのライフスタイルおよ
に直接コミュニケーションすることが可能に
びブランドの知覚価値のことである。
なりつつある。
2.3. 商品DNAによるセグメンテーションの意義
「ライフスタイル・セグメンテーション」
2.2. 商品DNAとブランド選択
消費者のブランド選択に消費者の生活様式
はマーケティング戦略を実行する際に極めて
や生活行動などの生活価値観が影響を与えて
有効な方法であると考えられるが、このセグ
いることに疑いの余地はないであろう。スー
メンテーションの方法の欠点(清水 2008)
パーマーケットでマヨネーズのプライベー
は、特定のライフスタイルの消費者にコミュ
ト・ブランドを購入する消費者は倹約志向で
ニケーションしにくいことである。ライフス
あろうし、また、脂肪分の少ないマヨネーズ
タイルというものの個々の消費者がどのよう
を購入する消費者は健康志向の消費者である。
なライフスタイルなのか知るすべがないので
しかし、最終的に消費者がブランド選択を行
直接特定のライフスタイルを持つ消費者にア
う際に決め手となるのは、ブランドを購入す
プローチすることが困難であり、マーケティ
ることによって受け取る何がしかの知覚価値
ングの効率は低くなってしまう。さらに、ラ
である。この知覚価値には機能的便益や情緒
イフスタイルを決定する項目はアンケート調
的便益および知覚コストがある。機能的便益
査でしか得られないため、調査を行った消費
(Aaker 1991)とは、消費者に機能面の効用を
者についてはセグメントを確定できても、そ
提供する製品属性にもとづく便益であり、機
うではない消費者についてはセグメントを決
能・性能、原材料、安全性、サポート、付帯
めることができない。
サ ー ビ ス な ど で あ る 。 情 緒 的 便 益 (Aaker
一方、
「購買行動セグメンテーション」は顧
1991)とは、特定ブランドの購入と使用が消
客の購買行動を明確に知ることができる点で
費者に与える肯定的な感情であり、見た目・
優れているが、なぜその商品を購入したかが
デザイン、質感や触感、原産地、物語性、ブ
わからない。図1にあるように上部の購入ブ
ランド名などである。知覚コストとは購入か
ランドについては購買履歴データからわかる
が、ライフスタイルやブランドの知覚価値に
図 1 ブランド選択プロセス
ついてはわからない。しかし、マーケティン
グでは、購入したというデータと何故購入し
たかというデータが極めて重要であることは
ブランド
いうまでもなく、購入した顧客の気持ちを把
握することによってマーケティングの効率を
機能的 情緒的 知覚コ
便益
便益
スト
ライフスタイル
24
商品DNA
飛躍的に高めることができると考えられる。
両者のセグメンテーションの欠点を克服す
る方法が商品DNAによるセグメンテーショ
流通情報 2009.3
ンである。商品DNAは、店頭で販売されてい
な構成比で存在するかを確認し、店舗プロフ
るブランドにライフスタイル属性を付加する
ィールを作成し店舗の特徴を把握する。そし
ことによって、それらのブランドを購入した
て、店舗別に各クラスターに対応した棚割表
顧客のライフスタイルを類推し、ライフスタ
を作成することによって、ライフスタイルに
イル・セグメンテーションを行おうとする方
対応した個店別のマーチャンダイジング・プ
法である。現在、ブランドに商品DNAを付与
ログラムあるいはマーケティング・プログラ
す る 方 法 は (1) 小 売 業 が 自 ら の 判 断 で 商 品
ムを提供するのである。
DNAを付与する方法と(2)消費者調査に基づ
ここで、テスコが商品DNAによるセグメン
いて商品DNAを付与する方法がある。前者の
テーションを実施するまでの経緯を確認して
方法としてテスコを取り上げる。そして後者
おこう。テスコが「クラブ・カード」と呼ば
の方法として、消費者視点の商品DNAの作成
れるロイヤルティ・プログラムを開始したの
方法を紹介する。
は1995年2月である。購入金額1ポンドにつ
き1ポイントが提供され、四半期ごとに累計
3. テスコにみる小売視点の
商品DNAの展開状況
が150ポイントに達すると1.5ポンドの自社
の店舗で使える買物券を提供するというシン
プルなプログラムである。このプログラムは
テスコは主要な売れ筋の単品8,500品目に
英国の小売業では初めての試みであったこと
ついてライフスタイルの属性を付与している
もあり、導入後半年間で発行枚数は約850万
(Humby 2003)。単品に顧客のライフスタ
枚に達し、テスコの顧客の70%はカード保有
イル属性(テスコでは商品DNAと呼んでい
者であり、売上高の75%がそれらのカード保
る)を付与することによって、単品の購買履
有者によってもたらされた。1996年にはそれ
歴から顧客のライフスタイルを類推する。ま
まで売上高1位であったセインズベリを抜き、
ず、それぞれの単品に「健康によい商品」、
「鮮
さらに、1997年2月には期間利益でも首位に
度がある商品」、「調理が簡単な商品」、「イン
立った。その要因の一つがこのロイヤルテ
スタント製品ではない」
、
「PB商品」
、
「子供向
ィ・プログラムの導入である。
け商品」、「お買い得品」、「高級品」、
「高価格
テスコでは1996年5月から年4回、会員専
商品」、「ベジタリアン向け商品」、
「新商品」、
用のクラブカード・マガジンが発行され始め
「伝統的な商品」などの属性を(1,0)で振る。
た。ただし、この段階では顧客はセグメント
次に、顧客の単品の購買履歴からどのような
されていなかったが、1997年に1,800通りの
属性の単品をよく購入しているか分析する。
内容が異なるクラブカード・マガジンが発行
そして、各顧客を「価格重視派(経済的に豊
され、表紙や記事がセグメント別に異なる情
かではない)」、「主流派(平均的顧客)」、「保
報誌が発行されている。その顧客セグメント
守派(保守的で高齢者)」
、
「利便性追求派(惣
は当初、
「学生」、
「家族」、
「ヤングアダルト」、
菜好きで若いカップル)
」、
「健康志向派(健康
「オールドアダルト」、
「60歳以上」のデモグ
的なライフスタイル)」
、
「美食派(経済的に豊
ラフィックス属性によってセグメント分けさ
かな層)」といったライフスタイルに確率的に
れていたが、その後、入会時の情報(年齢等)
所属する顧客セグメントを作成する。さらに、
と購入商品から類推し、
「独身」、
「若いカップ
これらの顧客クラスターが各店舗にどのよう
ル」、
「若い家族(子供あり)」
、
「高年齢家族」、
25
「年金生活者」に分け、さらに、8週間の購
を振る(ステップ1)。例えば、ビールを購入
買履歴データからRFM分析(直近来店日、来
する際に消費者が重視する属性は「自分がお
店頻度、購入金額)を組み合わせたセグメン
いしいと思う」、「メーカーやブランドが信頼
テーションが行われている。
できる」などがあげられる。ブランド別に見
その後、情報誌に掲載されているクーポン
ると、ビールブランドAを購入する消費者は、
の回収率をより高めるために単品の購買履歴
「自分がおいしいと思う」、「メーカーやブラ
データから27の顧客のライフスタイル・セグ
ンドが信頼できる」といった属性を重視して
メントが作成され、情報誌の内容も1999年に
いることがわかったため、ビールブランドA
は145万バージョンに増加し、2003年時点で
に上記の属性が振られた。
次に、各ブランドとライフスタイルの関係
は800万バージョンとなり、ワンツーワンに
を明らかにし、ライフスタイル属性を振る(ス
近い内容の情報誌となっている。
近年では前述したように売れ筋の商品にラ
テップ2)。例えば、ビールブランドAは「酒
イフスタイルの属性を付与し、購入商品から
好き志向」、
「安全志向」のライフスタイルを
顧客をセグメンテーションしている。
持つ消費者からの支持が高いことがわかった。
4. 消費者視点の商品DNA作成方
法
そのため、それらの属性が同ブランドに振ら
れた。
以上のステップを踏んで、各単品の商品
商品DNAとは、店頭で販売されているブラ
DNAが作成された。データ・ベースのイメー
ンドにライフスタイル属性を付加することに
ジは、表2のとおりである。このデータ・ベ
よって、それらのブランドを購入した顧客の
ースから、ビールブランドAの購買者は「酒
ライススタイルを類推し、ライフスタイル・
好き、安全志向の顧客グループ」からの支持
セグメンテーションを行おうとする方法であ
が高いことがわかる。
尚、各種調査と購買履歴分析は、
(財)流通
るが、ここでは消費者視点の商品DNAの作成
経済研究所が収集・管理しているWebパネル
手順を示す。
まず、ブランドを購入する際に消費者が重
を対象に実施している。Webパネルは都内
視する知覚価値属性を明らかにする。そして、
SMチェーンの上位顧客を中心に形成されて
ブランド別に消費者が重視する知覚価値属性
おり、2009年3月現在約1,300名のパネルに
表2 商品DNAデータ・ベースのイメージ
購入割合が高いライフスタイル
商品
ビールA
ビールB
ビールC
ビールD
ビールE
ビールF
ビールG
26
情緒的便益
節約
グルメ
酒好き
安全
健康
自分が
おいし
・・・ いと思
う商品
である
0
1
0
1
0
1
0
0
0
0
0
0
0
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
0
1
0
0
0
1
0
0
0
0
0
1
1
1
0
1
1
1
家族が
おいし
いと思
う商品
である
0
0
0
0
0
0
1
機能的便益
メー
カーや
高品質 ブラン
・・・
である ドが信
頼でき
る
0
0
1
0
1
0
1
1
0
0
1
0
0
0
・・・
知覚コスト
価格が
手ごろ ・ ・ ・
である
0
0
0
0
0
1
0
流通情報 2009.3
アンケート調査を行っている。また、これら
質問内容は、ビールを購入する際に商品の
パネルの購買履歴データを保持しているため、
機能・素材・品質と自分の感性や感覚ではど
アンケートによってパネルの意識を明らかに
ちらを重視するか、ビールを自宅で飲むのは
し、その意識を実際の購買行動と併せて分析
どのような時か(最低2つ以上記入)
、ビール
を行うことが可能となる。
を購入する時に値段以外に重視する点は何か
それでは、ステップ1とステップ2の作成
(最低3つ以上記入)を聞いた。尚、ビール
を普段飲まない人は、家庭で飲む人がどのよ
手順を詳しく説明していく。
うな時にビールを飲んでいるか、値段以外で
4.1. ステップ1:知覚価値属性を振る
重視している点は何かを回答してもらった。
自由回答調査の結果は、表3のとおりであ
4.1.1. 方法
知覚価値属性を振るためには、各カテゴリ
る。この結果から、ビールを飲むときは、
「友
ーをよく購入している消費者がどのような属
人達と集まるとき」、「夕食のとき」などがあ
性を重視して購入しているのかを明らかにす
げられていることがわかる。また、ビールで
る必要がある。そこで、まず各カテゴリーの
重視する属性は「ブランド」、
「カロリー」、
「味」
購入金額上位パネルに対して、自由回答調査
などがあげられたことがわかった。
を実施した。これにより、消費者がブランド
を選択する際に重視する知覚価値属性および
その属性から得られる機能的便益、情緒的便
益および生活価値観に関する情報を得る。
そして、それらの情報をWeb調査によって
多くのサンプルで確認し、ブランド別に消費
者が重視する属性を振っていく。
4.1.3. Web調査
自由回答調査によって、ビールで重視する
知覚価値属性が明らかになった。この結果を
基に、Webパネルの調査によって、各ブラン
ドに属性を振っていく。
調査は、自由回答調査を行った都内SM店で、
ビールをよく購入している消費者370名を対
象に、2008年12月にWebアンケートを実施
4.1.2. 自由回答調査
今回はビールカテゴリーを例にとり説明す
した。163名から回答があった。
る。自由回答調査は、都内SM店でビールの購
調査は、購入したことのあるブランド、ビ
入金額が高い消費者60名に対し、2008年12
ールを購入する際に商品の機能・素材・品質
月に調査票をEメールで送付した。18名から
と自分の感性や感覚ではどちらを重視するか、
回答があった。
ビールを自宅で飲むのはどのような時か(2
表3 ビールの自由回答結果例
性別
ビール重視
(機能・品質V
S感覚)
男性
・家に友 ・誕生
・パッケー
・炭酸が強
自分の感覚を 人を招いて 日、記念日 ・特売をし ジの量
いか弱い ・ブランド
重視
お食事会 など、特別 ていた時 (350mlか
か
をする時 な日
500mlか)
女性
・友人た
自分の感覚を ・夕食の
ちで集まる
重視
とき
とき
ビールを飲むとき
ビールで重視する点
・味
・カロリー
・友人の嗜 ・料理に
好などを考 よって変え
えて
る
27
つ選択)、ビールを購入する際に重視する点
に購入されているか分析を進める。
(2つ選択)
、ビールを購入する際に重視する
点がこれまでに購入したことのあるビールに
4.2.2. ライフスタイル属性調査
あてはまるかどうか、を聞いている。尚、ビ
どのようなライフスタイルを持った人が購
ールを普段飲まない人は、家庭で飲む人が普
入しているかを分析する前に、似たような食
段どのような時に飲むか、どのような点を重
生活価値観を持つ人ごとに分類し、各ライフ
視しているかを回答してもらった。
スタイルの特徴を明らかにする。調査対象は
この調査結果から、各ブランドが評価され
ている知覚価値属性が明らかになる。そして、
都内SM店のWebパネル1,307名に対して、
2008年7月に実施した。
各ブランドに振られた属性から、クラスター
食生活価値観に関しては、飽戸(1999)を
分析を実施し、似た属性を持つブランドのグ
基に13項目を調査した。質問項目は以下のと
ループを作成した。ビールは表4のように、
おりである。
7つのグループに分類された。
ビールAとビールBのグループは「自分が
おいしいと思う」、「メーカーやブランドが信
質問内容
・新聞や雑誌でレストランの記事をみて食べ
に出かけるほうである
頼できる」、
「価格が手頃である」といった評
価が他のブランドに比べて高く、ビールCと
・人の知らないおいしい店を探して食べに行
くほうである
ビールDのグループは、
「自分がおいしいと思
う」、「高品質である」といった評価が他のブ
・お金や暇を惜しまずにおいしい料理を食べ
るほうである
ランドに比べて高いことがわかった。
・うまい、まずいより栄養や健康を考えて食
べ物を選ぶほうである
4.2. ステップ2:ライフスタイル属性を振る
・食事は三度きちんと、なるべく家族と食べ
4.2.1. 方法
るようにしている
ステップ1の調査において、各ブランドの
知覚価値属性が振られた。次に、各ブランド
・食品は添加物や品質表示に気をつけるほう
がどのようなライフスタイルを持った人に主
である
表4 ビールのクラスター分析結果
グループ1
グループ2
グループ3
グループ4
グループ5
グループ6
グループ7
ビールA
ビールC
ビールE
ビールG
ビールH
ビールJ
ビールK
ビールB
ビールD
ビールF
ビールI
自分がおいしい 自分がおいしい メーカーやブラン 自分がおいしい 価格が手ごろで 自分がおいしい 家族がおいしい
と思う
と思う
ドが信頼できる と思う
ある
と思う
と思う
メーカーやブラン
価格が手ごろで
家族がおいしい
高品質である
ドが信頼できる
ある
と思う
価格が手ごろで
高品質である
ある
28
流通情報 2009.3
・食事の時はその料理にあわせてお酒を選ぶ
地はきちんと確認する。栄養や健康も考えた
いという意識が他のグループよりも高い傾向
ようにしている
・いろいろなお酒で食事を楽しいものにした
にある。
い
4.2.3. ライフスタイル別購買履歴分析
・食事より他のことにお金をかけたい
・ふところが苦しい時はまず食費を切りつめ
食生活価値観によって5つのライフスタイ
ルに分類されたが、各ライフスタイル別の商
る
・食べ物でぜいたくをするのは後ろめたい
品購買履歴を分析し、商品ごとのライフスタ
・食品は特売などの価格の安いものを買うよ
イル属性を明らかにする。本稿ではビールの
商品別ライフスタイル属性割合を明らかにす
うにしている
る。
この食生活価値観調査で似たような回答を
分析対象 パ ネルは都 内 SM店 Webパネル
した人をグループ分けするために、クラスタ
1,307名で、ビールのDNAグループ別のライ
ー分析を行った。この結果、調査対象のパネ
フスタイル別購買履歴を分析し、特徴を明ら
ルは、5つのライフスタイルに分類された。
かにする。データ分析期間は2008年1月~
1つ目は「節約志向」であり、食費を切り
12月である。
詰めたい。特売でなるべく安いものを買いた
分析では、購入者割合と平均購入金額を分
いという意識が他のグループよりも高い傾向
析指標とした。購入者割合は、各商品DNAグ
にある。
ループを購入しているライフスタイルの割合
2つ目は「グルメ健全志向」であり、新聞・
を算出し、分析期間中に1回でも購入履歴が
雑誌で情報を収集する。お金を惜しまずおい
ある人を購入者としている。平均購入金額は、
しい料理を食べたいという意識が他のグルー
各商品DNAグループを、分析期間中に1,000
プよりも高い傾向にある。
円以上100,000円未満購入していたパネルの
3つ目は「酒好きグルメ志向」であり、お
一人当たりの平均購入金額を算出した。
酒で料理を楽しくしたい。料理に合わせてお
購入者割合分析の結果例を表5に示してい
酒は選ぶという意識が他のグループよりも高
る。ここでは、グループ2のビール2商品の
い傾向にある。
ライフスタイル別構成比を表している。これ
4つ目は「安全価格志向」であり、添加物
によると、全パネル(1,307名)のうち酒好
や産地はきちんと確認するが、特売で安いも
きグルメ志向が占める割合は14.3%にすぎな
のを買いたいという意識も高いグループであ
いが、グループ2を購入している人(350名)
る。
に限定すると、23.1%が同ライフスタイルに
5つ目は、
「健康志向」であり、添加物や産
該当している。このことより、グループ2の
表5 グループ2のライフスタイル別構成比
節約
グルメ健全
酒好きグルメ
安全
健康
グループ2(n=350)
18.9%
19.1%
23.1%
20.3%
18.6%
ライフスタイル割合(n=1,307)
20.8%
18.9%
14.3%
26.1%
19.9%
29
表6 グループ2のライフスタイル別平均購入金額
グループ
グループ2
節約
グルメ健全
酒好きグルメ
121.8
122.9
89.7
安全
66.2
健康
全体平均
99.3
100.0
※各グループの実績を、全体の平均購入金額を100に換算して指数化した
商品は酒好きグルメ志向のライフスタイルを
データ・ベースが作成された。
持つ人に支持されていることがわかる。
平均購入金額の分析結果例を表6に示して
いる。ここでは、グループ2のライフスタイ
ル別平均購入金額を表している。これによる
5. 日本における商品DNAの活用の
方向
と、酒好きグルメ志向は全体平均よりも1.2
商品DNAは、店頭での売場づくりにおいて
倍平均購入金額が高いことがわかる。また、
様々な活用が期待できる。図2は、商品DNA
グルメ健全志向も1.2倍平均購入金額が高い
の活用の全体イメージを示したものになる。
ことがわかる。
図の左側には複数のカテゴリーの商品DNA
購買者割合と平均購入金額の分析より、グ
がある。まずこのマスター自体を活用する方
ループ2の商品は、
「酒好きグルメ志向」の購
向、つまり、
「商品軸による活用」が考えられ
入する割合が高く、さらに購入する金額も高
る。次に、その複数のカテゴリーのマスター
いことがわかった。また、「グルメ健全志向」
とFSP顧客(ここではAさん)の購買レシー
の購入割合は平均並みだが、平均購入金額は
ト情報(購買履歴情報)をマッチングするこ
高いことがわかった。このことより、グルー
とで、当該FSP顧客(Aさん)のライフスタ
プ2の商品は酒好きグルメ志向のライフスタ
イル、価値観の類推が可能となることについ
イルを持つ人全般と、グルメ健全志向の一部
ては前述したが、ここで類推されたターゲッ
の層から支持されていることがわかった。以
ト層に向けて売場づくりを仕掛けていく、
「タ
上より、ビールカテゴリーにおける商品DNA
ーゲット顧客軸による活用」が考えられる。
図2 商品DNAの活用の全体イメージ
FSP顧客Aさんの
購買レシート情報
顧客視点型
商品マスター
****
食器洗剤
ビール
無糖茶
チーズ
めんつゆ
に 商品
よ
る 軸
活
用
30
レシート情報と
商品マスターの
マッチング
+
領収証
毎度ありがとうございます
XXストア
領収証 ¥136
チョコレート毎度ありがとうございます
¥188
緑茶2L
チョコレート 領収証 ¥136
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ガム
¥188
緑茶2L
チョコレート
¥408 ¥136
りんご酢
¥94
ガム
¥198 ¥188
6Pチーズ緑茶2L
¥408
りんご酢
ガム
¥94
¥228
ビール350
¥198
6Pチーズ
りんご酢
¥408
¥228
¥1,252
合計ビール350
6Pチーズ
¥198
¥228
¥1,252
合計ビール350
合計
商品(ブランド)の機能・
情緒属性、ライフスタイ
ル属性をキーにした店外
クロス・プロモーション、
店内クロスMD、棚割等
¥1,252
Aさんのライフスタイル
/価値観を類推
⇒ 「美食健全派」
ターゲット
顧客軸による
活用
チョコレート
XXストア
毎度ありがとうございます
XXストア
Aさんをはじめとした 「美食健全派」が多い
「美食健全派」に向け 店舗でのクロスMD
たターゲット・プロモー
ション(クーポン等)
流通情報 2009.3
以下、このマスターをクロスMDに活用して
ートブランドDにおいて、グルメ健全志向の
いく方向として、
「商品軸による活用」と「タ
購買者の割合が共に40%程度を示している
ーゲット顧客軸による活用」の2つのパター
とした場合、グルメ健全をテーマにし、牛乳
ンから検討する。
ブランドAとチョコレートブランドDのクロ
スMDを展開することが考えられる。
5.1. クロスMDへの活用
5.1.2. ターゲット顧客軸による活用
5.1.1. 商品軸による活用
商品軸による活用として、購買者による商
ターゲット顧客軸による活用として、類推
品属性評価が同様の複数商品を組み合わせて、
されたターゲット層の購買履歴を基に、彼ら
その商品群による店頭でのクロスMDの推進
がよく購買する商品群を抽出し、その商品群
が考えられる。当然この商品群は、クロスカ
による店頭でのクロスMDの推進が考えられ
テゴリーを想定している。表7は、商品DNA
る。「よく購買する商品群」の捉え方として、
のイメージを示している。例えばここで牛乳
同時購買率の高低に限らず、単純に購買数量、
ブランドAとチョコレートブランドDは、機
回数が多いという点でも判断してよい場合も
能的便益のうち、
「メーカーやブランドが信頼
ある。例えば、図3はターゲット顧客軸によ
できる」という属性の評価が共に高い(評価
るクロスMD企画のイメージを示したもので
が高い属性項目にフラグ「1」が付いている)
あるが、ここでのターゲット層である「美食
という状況になっている。この状況を踏まえ、
健全派」の顧客は、他の顧客層に比べて野菜
「信頼性の高いブランド」をテーマにし、牛
飲料ブランドA、ヨーグルトブランドBの購
乳ブランドAとチョコレートブランドDのク
買数量が多い。この実態から、野菜飲料ブラ
ロスMDを展開することが考えられる。商品
ンドAとヨーグルトブランドBは、美食健全
軸による活用では、商品属性評価を基にする
のライフスタイルを持つ顧客層に支持されて
方法だけでなく、ある特定のライフスタイル
いる商品だと想定できる。美食健全派の顧客
を持つ購買者の割合が同等の商品群による組
構成比の高い店舗などで、美食健全をテーマ
み合わせを基に、クロスMDを展開する方法
にした野菜飲料ブランドAとヨーグルトブラ
もある。例えば、牛乳ブランドAとチョコレ
ンドBのクロスMDを展開することによって、
表7 商品DNAのイメージ
購買者ライフスタイル割合(合計100.0%)
商品
節約
牛乳ブランドA
しょうゆブランドB
ドレッシングブランドC
チョコレートブランドD
無糖茶ブランドE
ビールブランドF
焼酎ブランドG
XX%
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XX%
XX%
XX%
XX%
XX%
グルメ 酒好き 安全価
健全 グルメ
格
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XX%
健康
XX%
XX%
XX%
XX%
XX%
XX%
XX%
情緒的便益
知覚
コスト
機能的便益
…
メー
自分が 家族が
カーや
おいし おいし
価格が
高品質 ブラン
いと思 いと思
手ごろ
である ドが信
う商品 う商品
である
頼でき
である である
る
1
1
1
0
1
1
1
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1
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0
0
0
0
0
0
0
1
0
31
図3 ターゲット顧客軸によるクロスMD企画のイメージ
店頭でのクロスMDの展開により、
同時購買を促す
ヨーグルト
B
野菜飲料
A
よく購買する商品
美食健全派
同時購買の促進、客単価の向上を目指すこと
イフスタイル層に適したテーマ、商品内容の
ができる。ここでの活用の特長は、特定のラ
レシートクーポンを発行し、購買を促す。図
イフスタイル層に支持されている商品を抽出
4では、ターゲット・プロモーションへの活用
すれば、そこで抽出された商品間の同時購買
イメージを示している。ここでのFSPカード
率は高くなくても、その商品を組み合わせて
顧客Bさんのレシート情報を基に、Bさんは
クロスMDを展開することで、同時購買の促
「酒好きグルメ派」と類推されたため、酒好
進、客単価の向上の可能性があるということ
きグルメ派の顧客層に多く購買されている商
である。
品を提案すれば、このBさんも買ってくれる
だろうという想定の基、酒好きグルメ派によ
る購買率の高い商品のディスカウント・クー
5.2. ターゲット・プロモーションへの活用
ここでは、商品DNAをクロスMD以外に活
ポンを発行し、トライアル、またはリピート
用する案を示したい。具体的にはレシートク
購買を促していく。ここでの活用の特長は、
ーポンなどのターゲット・プロモーションに
ライフスタイルが同じと想定されるターゲッ
も活用できるものと考えられる。その方法と
トに限定し、ターゲッタブルな面での精度の
して、まずFSPカード顧客の購買レシート情
高い、効率的なプロモーションの展開の可能
報(購買履歴)から、FSPカード顧客のライ
性があるということである。
フスタイルを類推する。次に類推された各ラ
図4 ターゲット・プロモーションへの活用イメージ
Bさんのレシート情報
ライフスタイルを
類推
XXストア
毎度ありがとうございます
XXストア
領収証
毎度ありがとうございます
XXストア
チョコレート 領収証 ¥136
毎度ありがとうございます
緑茶2L
¥188
¥136
ガムチョコレート 領収証¥94
¥188
緑茶2L
りんご酢
¥408
¥136
ガムチョコレート
6Pチーズ
¥198¥94
緑茶2L
¥188
¥408
りんご酢
ビール350
¥228
ガム
¥198¥94
6Pチーズ
¥1,252
合計ビール350
りんご酢
¥408
¥228
6Pチーズ
¥198
¥1,252
合計ビール350
¥228
合計
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例・Bさんは
酒好きグルメ派による
購買率の高い商品の
クーポンを発行する
酒好きグルメ派
商品○○ご購入で
100P
¥1,252
流通情報 2009.3
6. まとめ
性もはらんでいる。商品DNAは、過去の実績
であるFSPの購買履歴データのみでは見えな
本稿では、商品DNAの概要と海外での活用
い、消費者のライフスタイル、価値観をキー
状況をレビューしたうえで、商品DNAのマス
とした新しい仮説を抽出することができ、よ
ターの作成の考え方、手順、マスターの活用
り消費者の志向にフィットした売場作りに繋
方向について述べた。
げられる可能性がある。
前述の通り、商品DNAの活用によって購入
した顧客の気持ちの把握につながることが可
〈参考文献〉
能になり、マーケティングの効率を飛躍的に
Aaker,D.A. (1991), MANAGING BRAND EQUITY,
高めることができると考えられる。また今回
The Free Press. (邦訳:陶山計介,中田善啓,
紹介した商品DNAは、FSPの優良会員の意見
尾崎久仁博,小林哲訳『ブランド・エクイテ
によって生成されており、いわば「顧客の声」
ィ戦略-競争優位をつくりだす名前、シンボ
を表現した商品マスターになっていることが
ル、スローガン-』ダイヤモンド社.).
特長として指摘できる。
FSPデータの普及により、ショッピングバ
飽戸弘(1999),『売れ筋の法則』,ちくま新書.
清水聰(2008),「消費者のライフスタイルを用いたブ
スケット分析(同時購買分析)の結果などに
ランド評価」,『流通情報』No.467,(5月).
基づいた売場づくりの仮説を抽出して、それ
Humby,C. and T.Hunt (2003), how Tesco is writ-
を実際に売場で展開するケースも増えてきて
ing customer loyalty, Kogan Page Ltd.(大竹
いるが、あくまでFSPの購買履歴データは、
佳憲監訳『Tesco 顧客ロイヤルティ戦略』海
過去の購買の実績に過ぎないという問題を含
文堂出版)
んでいる。したがってFSPの購買履歴データ
に依存した売場作りは、過去の購買実績に囚
Wedel,M and W.Kamakura (2000), Market Seg-
mentation, Kluwer Academic Publishers.
われた、いわば「硬直した売場」になる危険
33