消費者が変わる、 保険が変わる

消費者が変わる、
保険が変わる
保険契約者 500 名の
アンケート調査結果より
re
ers
cts
はじめに
Trend 1
Trend 2
Consumers are more
digital than providers
acknowledge
Consumers prefer
personalized products
and services
Trend 3
Young consumers are
most reliant on digital
channels but are the
日本の保険市場は長らく典型的な成熟市場であるとされてきま
least targeted by insurers
した。世界的に保険加入率が高い上に少子高齢化のため人口増
加が見込めず、契約数を維持するのも困難であることが理由で
す。また、従来の消費者は保険の加入時期や保険商品の選択に
Trend 2
Trend 3
Consumers prefer
Young consumers are
関し営業や代理店に大きく依存してきましたが、景気低迷や消
personalized products
most reliant on digital
and services
channels but are the
費税増税の影響を受けて、商品の特性や価格により敏感になっ
least targeted by insurers
ています。近年はインターネットに加えソーシャルネットワー
クも普及しつつあり、従来のコミュニケーションだけでは既存
Trend 3
顧客を失う可能性も生じています。
Young consumers are
most reliant on digital
アクセンチュアは、保険に関する消費者の意識変化を把握する
channels but are the
least targeted by insurers
ため、2013 年に日本を含む世界 11 か国、6000 名超の保険契約
者を対象に意識調査を実施しました。本稿では、その調査結果
の中でも特に日本の消費者の動向に着目し、日本の保険会社の
取るべくアクションとして次の 3 点を提案しています。
第 1 のアクション
顧客との接点をクロスチャネルで設定し、収益増
加を図る
第 2 のアクション
顧客データをより積極的に収集し、個別化した商
品を開発する
第 3 のアクション
若年層へのアプローチを積極的かつ戦略的に行う
以下に、調査結果への考察を詳しく述べていきます。まずは、
日本の保険市場におけるマクロデータを用いて、消費者の意識
変化について説明します。
2
日本の保険市場の特徴と保険会社の抱える課題
生命保険業界
損害保険業界
日本の生命保険業界は、2012 年度末時点
の収入保険料ベースで約 43 兆円と世界全
体の 2 割を占め、米国に次いで第 2 位の規
1
模を有しています 。世帯加入率を見ても
2
90.5% 、また GDP に対する保険料の割合
でみる生命保険普及率も 9.2% と第 2 位の
3
米国の 3.7%を大きく上回り 、非常に成熟
した市場であることを示しています。
一方、日本の損害保険市場は、保険料収入
5
ベースで約 10 兆円超と世界第 3 位 の保険
大国であるといえますが、GDP に対する損
害保険料収入の割合では 2.1 %と世界平均
6
の 2.7%を下回ります 。日本の場合、大規
模な自然災害や労災に対する国からの補償
が諸外国に比べて充実していることがその
一因に挙げられますが、国家財政が逼迫し、
消費者自身の対策が必要となるにつれて、
潜在的な需要が顕在化することが見込まれ
ます。
保険料収入における市場シェアを分析する
と、上位 10 社で市場の 7 割を占めるとは
いえ、外資系を含め 43 社がひしめく非常
に細分化された市場であるという特徴があ
ります。主要な販売チャネルは生命保険会
社の営業であり、契約者へのアンケート調
4
査 によると、新契約の 3 分の 2(2012 年
で 68.2 %)は営業経由で成立しています。
しかしながら、同じ回答者に将来的に希望
する販売チャネルについて質問したところ、
営業と答えたのは 30.9%と 3 分の 1 にも満
たない結果となりました。
このように、現在の日本の保険市場は市場
拡大が望めない一方で、従来のチャネル構
成が変化する局面を迎えています。事業者
側の対応によって将来的な市場シェアが大
きく変わる可能性があるといえます。
損害保険業界では、販売チャネルの 9 割以
7
上(2012 年で 92% )が代理権をもった代
理店経由でなされており、その多くが自動
車、不動産などの他事業を本業としている
ことから、消費者の購買行動に応じた販売
ネットワークが発達しているといえます。
また、日本市場には日本企業 30 社、外資系
23 社の計 53 社が存在していますが、上位
3 社の大グループ企業が収入保険料の 90%
を占めており、極めて寡占化の進んだ市場
といえます。代理店経由の BtoBtoC という
販売形態の中で、市場占有率は長らく安定
的に推移してきましたが、代理店を経由し
ないダイレクトセールスの増加や、後から
見るように消費者から新たなニーズが生じ
ており、敏感に反応できない事業者は市場
から淘汰されかねません。
3
消費者調査からの示唆
アクセンチュアは、保険をめぐる消費者の意識の変化やトレンドをいち早く捉え、保険事業者の変革を支援するため、
2013 年 7 月に日本を含む 11 か国を対象にグローバル調査を実施しました。以下の考察は、このうち日本における有
効回答 500 件の分析に基づいています。
アクセンチュア株式会社は、日本の保険事業者が特に注目すべき消費者トレンドとして、次の 3 点を挙げています。
Trend
1 Trend
Trend1 2 Trend
2 Trend
Trend
3 3
トレンド
トレンド
トレンド
1 1 Trend
2 23 Trend 3 Trend
Consumers areConsumers
more
areConsumers
more
Consumers
areprefer
more
Consumers prefer
Consumers
Young consumers
preferYoung
are consumers
Young
areconsumers are
digital
than providers
digital than providers
digital
personalized
than providers
products
personalized
products
personalized
most reliant
products
onmost
digital
reliant onmost
digital
reliant on digital
消費者は事業者の予想以上にデジタ
消費者はカスタマイズされた商品や
若者層は最もデジタル化されている
acknowledge
and services and
services andchannels
servicesbut are
channels
the but are
channels
the but are the
ル化しているacknowledge acknowledge
サービスを望んでいる
が、事業者からのコンタクトは極め
least targeted by
least
insurers
targeted least
by
insurers
targeted by insurers
て少ない
これらについて、次章以降で詳しく説明します。
消費者は事業者の予想以上にデジタル化している
Trend 1
Trend 2
Trend 3
「最後は人と話して決め
保険業界においてデジタル化がもたらす影 67% のうち、オンライン購入の対象として
Consumers
are more
Consumers prefer
Young consumers are20%
響は、図
1 が示すように保険ビジネスのバ
生命保険を挙げている回答者は全体の
digital
than
providers
personalized
products
most reliant on digital
リューチェーン全体に及んでおり、トラン 程度であり、現状の生命保険におけるオン
acknowledge
and
services
but are the
スフォーメーションを実現する上で不可欠 ライン購入比率がchannels
10.5%であることを考慮
8
least
targeted
by insurers
な要因の一つといえます 。
すると、更に伸びる余地があるといえます。
しかしながら、従来のデジタル化は事業者
の作業効率や品質の向上を目的として実施
されていました。導入の端緒として社内業
務を対象とする方が取り組み易く、結果と
して、サイクルタイムの短縮化や誤作業の
減少によるコスト削減など、一定の成果を
挙げています。また、生損保ともに安定的
な市場環境や販売チャネル構成のもとで、
消費動向の把握を重要視していなかった側
面があるのも事実です。
また、損害保険については、より多くの消
費者がオンライン購入をしてもよいと考え
ていますが、この結果には生命保険と比べ
た商品内容のシンプルさ、および契約期間
の短さなどの商品特性が反映されていると
考えられます。
一方、保険商品、特に生命保険商品につい
ては、インターネットだけでは完結しない、
「最後は人と話して決める」ことを希望する
消費者が多数いることも事実です。この事
実と既存チャネルの存在が、保険事業者に
今回の調査において保険商品のオンライン よるオンラインチャネルへの十分な投資を
での購買意向に関する設問があります。驚 抑制する一因となっています。
くべきことに、回答者の 3 分の 2 にあたる
67 %の消費者が、「保険商品をオンライン
購入してもよい」と回答しています(図 2)。
4
る」ことを希望する消費
者が多数いる
図 1 バリューチェーンにおけるデジタル化の領域
デジタル化が保険事業者にもたらすトランスフォーメーションはバリューチェーンの隅々まで及びます
マーケティ
ング
商品開発
デザイン
された
バリュー
チェーン
Analytics へ
ソーシャル
は企業の形
を変える
流通販売
十人十色の
顧客関係を
築く
引受
保全
クラウドを
ビジネスに
組み込む
今後のデジタル化の重点
支払
従来のデジタル化の重点
データ管理、分析
ソーシャル
は企業の形
を変える
IT の異次元
の進化を
経営の
Velocity に
変える
業務内容
・市場調査
・商品開発
・金融庁認可
取得
・システム仕様
定義
・宣伝広告
新しい商品やサービス
の実現
・新たなリスクの発見
・真の市場ニーズの反映
デジタル
化のイン
パクト
新しい課金体系の実現
・走行距離・運転状況と
の連動
・健康維持生活習慣との
連動
・新規顧客開拓
・商談育成
・設計と提案
・成約と手続き
・顧客との関係
深化
・アップセル
運用
・申込書類不備
確認
・リスクの診査
・契約書発行
・申込書保管
営業職員の生産性改善
・工業化によるノウハウ展開
・商談サイクル短期化
・商談獲得の底上げ
代理店の生産性向上
・代理店活動の見える化
・名義や住所変更
・保障内容変更
・収納
・契約者貸付
・保険料振替貸付
・解約手続き
クラウドを
ビジネスに
組み込む
SDN で IT
インフラ
の仮想化
は完了へ
・請求書不備確認
・支払い条件確認
・請求漏れ確認
・不当な支払確認
・請求書保管
新たな脅威
に備える
・市場分析
・ポートフォリ
オ分析
・運用計画策定
事務オペレーションの生産性改善 ( コスト削減 /
スピード向上 )
・電子化や工業化による業務量の削減
・セルフサービスによる事務オペレーションの
顧客への転嫁
事務オペレーションのコンプライアンス強化
・電子化によるオペレーション履歴の記録
リード生成の強化
・ホットリードのあぶり出し
・初期段階での商談捕捉
・既存顧客のエンゲージメント
図 2 オンライン購入を希望するサービス
消費者の多くはオンラインでの保険商品やサービスの購入に前向きです
どんな商品またはサービスをオンラインで購入したいと思われますか? ( 複数回答 )
保証期間の延長
37%
旅行保険および緊急時
アシスタンスサービス
36%
生命保険
20%
長期の自動車保険
20%
短期の自動車保険
16%
イベントチケットのキャンセル
16%
住宅保険
14%
冬季スポーツ用の保険
眼鏡およびレンズの保険
上記のいずれでもない
67%
10%
8%
33%
ベース : 全回答者
Source: Accenture 2013 Customer-Driven Innovation Survey
5
ここでもう一つ、興味深い設問への回答を
見てみましょう。
図 3 をご覧ください。この設問では、顧客
が保険会社とコミュニケーションを取る際
に好ましいと考えるチャネルについて、詳
細に調査しています。たとえば、住所変更
などをオンラインで行いたい消費者は 67%
であるのに対し、アドバイスをオンライン
で受けたいと考える消費者は 48 %にとど
まっています。一方、44% の消費者が対面
のアドバイスを求めていますが、住所変更
も対面で行いたいと考えている人は 29%に
過ぎません。コミュニケーションの内容や
アクションのタイプに応じてチャネルの使
い分けをしたいと考えている消費者が多い
ということが分かります。
内容やアクションのタイ
プに応じてチャネルの使
い分けをしたいと考えて
いる消費者が多い
図 3 複数のチャネルに対する消費者ニーズ
消費者はニーズに応じて複数のチャネルを利用したいと考えています
保険会社との取引で、以下のオプションが利用できる場合、いずれかを利用したいと思われますか? ( 複数回答 )
67%
63%
63%
59%
59%
53%
39%
29%
43%
38%
38%
29%
12%
29%
34%
21%
11%
10%
11%
12%
12%
6%
保険商品/
サービスに
関する情報
を得る
見積りを得る
保険契約の
条件を変更
する
保険商品の
加入申し込み/
購入を行う
保険金を
請求する
オンライン (PC、スマートフォン、タブレット ) を使用する
担当者と会う
顧客サービス/コールセンターに電話する
書状の送信/受信
* 生命保険のみ
ベース : 全回答者
Source: Accenture 2013 Customer-Driven Innovation Survey
6
43%
44%
27%
20%
個人情報を
更新する
48%
41%
25%
9%
43%
51%
* 契約を終了
/解除する
助言を得る
さらに、最近のデジタルトレンドとしてソー
シャルメディアの発展が挙げられます。今
回の調査においても、回答者の約 4 割が保
険会社や保険商品を選択する際にソーシャ
ルメディア上の評価を参考にするとしてい
ます。これに対し、事業者側はホームペー
ジと同内容の Facebook ページを設置して満
足する傾向にあります。しかしながら、消
費者はソーシャルメディアにはホームペー
ジと異なる役割を求めているのです。
図 4 にあるとおりソーシャルメディアに期
待する具体的な情報についての設問では、
単なる事業者や商品の一方的な情報提供で
はなく、顧客のクレームやコメントに対す
る事業者の対応など、双方向的なコミュニ
ケーション全体に興味を持っているという
ことがわかります。事業者は顧客とのコミュ
ニケーションのあり方そのものや対応ス
ピードを十分に考慮してサービスを行うこ
とが重要です。
双方向的なコミュニケー
ション全体に興味を持っ
ている
図 4 ソーシャルメディアでのサービス提供に対する関心
回答者の約半数が、保険会社によるソーシャルメディアでのサービス提供に関心を持っています
現在ご加入の保険会社がソーシャルメディアサイトで提案する以下のサービスにご興味がありますか? ( 複数回答 )
顧客のサービスに関する苦情/コメントに対応する
25%
キャンペーンや割引を提供する
24%
商品やサービスに関するフィードバックを活用して、
改善をはかり、新商品を開発する
20%
新商品および新サービスに関する情報を共有する
19%
保険やリスク管理に関する情報を共有して、
人々の保険やリスク軽減を行う方法の知識を高める
13%
顧客向けアシスタンスサービスを提供する
個人情報またはデータに基づいた個人に合った商品またはサービスを開発する
個人に合ったサポートや助言を行うために、
ライブチャット(テキストまたはビデオ)を通して顧客とやり取りする
全面的な「代理店」サービスを提供する、つまり、インスタントメッセージ、
アプリケーション、ビデオを通してすべてのサービスを利用できる
顧客にゲームへの参加を提供する
上記のいずれでもない ‒ 現在加入している保険会社が
ソーシャルメディアを活用することに興味ない
11%
49%
8%
8%
7%
5%
51%
ベース : 全回答者
Source: Accenture 2013 Customer-Driven Innovation Survey
7
消費者はカスタマイズされた商品やサービスを
望んでいる
Trend 2
Trend 3
2 つ目のトレンドは、カスタマイズされた 収集が難しく、実現が困難でした。現在、
Consumers prefer
Young consumers
are
技術面においては消費者の了解のもと自動
商品やサービスを消費者が強く望んでいる
personalized
products
most
reliant
on
digital
的に情報を収集する端末を車両に取り付け
ということです。
and services
channels but are
the
ることにより可能になりつつあります。ま
least targeted た、消費者心理の面においても、調査によ
by insurers
図 5 を見るとたとえば、自動車保険におい
て走行距離に応じ月々の保険料が変動する れば実に 8 割以上の消費者が保険料算定や
仕組みに対しては 7 割以上の消費者が興味 商品提供をカスタマイズするためであれば
を示しています。このような保険は代表的
なリスク細分化型保険といえますが、従来
は技術的、心理的な側面から必要な情報の
情報の提供を惜しまない、と回答していま
す(図 6)。
図 5 革新的かつ個別ニーズに合ったサービスに対する関心
保険会社が提供する、革新的かつ個別ニーズに合ったサービスについて、高い関心が寄せられています
保険会社が提案する以下のサービスにどの程度ご興味がありますか?
またはご興味を持たれると思われますか?
「非常に興味がある」「ある程度興味がある」と
回答した人の割合
現在ご加入の自動車保険の保険料が、毎月の自動車の利用頻度に応じて決定される **
72%
より優れた、安全なドライバーになるための指導を行い、
改善に応じて保険料の減額を提供する **
68%
現在ご加入の保険会社のウェブサイトに定期的にアクセスして、
資産保護の方法に関する記事を閲覧する場合、住宅保険の保険料率が下がる *
67%
67%
交通情報や自動車事故に関する情報を送信する **
利用状況/行動に基づいて、現在ご加入の保険会社が
より個人に合った商品を提供する ****
65%
現在ご加入の自動車保険の保険料が、ある程度、お客様の運転パターンを監視/記録する
自動車搭載の携帯機器またはスマートフォンのアプリケーションによって最適化される **
58%
ご自宅に PC やスマートフォンで監視できる警報やカメラを設置する場合、
住宅保険の保険料率が下がる *
57%
お子様が、最高速度、過度のブレーキ、または特定の場所へ行くなど、
運転上の制限を無視する場合、テキストメッセージを受信する **
50%
46%
所在地や目的地に基づいた最適な日程表を提供する **
健康状態や体調が改善される場合に保険料が減額されるように、
現在ご加入の生命保険会社に対してお客様の医療記録へのアクセスを許可する ***
現在ご加入の生命保険の保険料率が、ある程度、ジョウボーン(Jawbone)、
ナイキプラス(Nike Plus)またはガーミン(Garmin)などの装着可能な機器で
記録される活動レベルやその他の指標に基づいて決定される ***
* 住宅保険
** 自動車保険
*** 生命保険
**** 住宅保険または自動車保険
ベース : 全回答者
Source: Accenture 2013 Customer-Driven Innovation Survey
8
38%
33%
図 6 保険料の最適化や個人に合った商品提供のための利用状況/行動に関する情報にアクセスについて
回答者の多くは、保険料の最適化や個人に合った商品提供を受けるためであれば、保険会社が自分の利用状況/行動
に関する情報にアクセスしても良いと思っています
現在ご加入の保険会社が、より個人に合った商品を提供するだけでなく、
自動車保険の保険料を最適化するために、お客様の利用状況/行動に関する情報に
アクセスすることに対して、問題ありませんか?
はい
33%
37%
88%
86%
アクセスする
情報による
51%
53%
いいえ
12%
14%
保険料を
最適化するため
より個人に合った
商品を提供するため
ベース : 全回答者
Source: Accenture 2013 Customer-Driven Innovation Survey
9
s
若者層は最もデジタル化されているが、
事業者からのコンタクトは極めて少ない
Trend 3
図 7 が示すように、20 代の保険加入率は総
Young consumers are
じて低くなっています。生命保険について
most reliant on digital
は、一般に若年層は高齢者に比べ健康であ
channels but are the
るため必要性を感じにくい傾向にあり、ま
least targeted by insurers
た、主要な販売チャネルである営業の高齢
化により営業との接点が少なく、需要が掘
り起こされにくいことが一因です。また、
損害保険においても、若年層は乗用車や住
宅などの所有率が低いため、保険の加入率
も低い状況となっています。
一方で、調査における消費者のデジタル化
状況を年代別に見ると、明らかに若年層の
デジタル化が進行していることがわかりま
す(図 8・図 9)。日本は世界でもモバイル
端末の普及率に関しては群を抜いています
が、中でも若年層によるモバイル端末の保
9
有率は他年代を圧倒しています 。そして、
彼らは、より年齢の高い層に比べて、ソー
シャルネットワーク上の情報をとても重要
視していることがわかります(図 10)。
図 7 生命保険加入率(性別 - 年齢別)
男性
( 単位 :%)
女性
82.3 79.7
79.0 79.5
89.0 88.8
89.5 85.4
40 歳代
345
484
50 歳代
370
453
78.6 91.1
51.3 52.8
全体
男性
女性
N: 1848
N: 2228
20 歳代
228
250
30 歳代
339
428
60 歳代
519
572
出所:生命保険文化センター
図 8 スマートフォン・タブレットの利用率(年齢別)
( 単位 :%)
スマートフォン
76.3
タブレット
60.7
51.7
49.8
40.2
20.5
17.4
10 ~ 20 歳代
30 歳代
出所:IDC Japan、2013 年
10
6月
21.6
40 歳代
20.2
50 歳代
20.7
15.7
60 歳代以上
20.1
全体
図 9 若者のデジタル化率
若年層の消費者はデジタル化率が高い傾向にあります
過去 2 年以内に、モバイル機器を利用して、現在ご加入の保険会社とオンラインで
取引されたことがありますか?
スマートフォン /
携帯電話の使用率
18-24 才
26%
25-34 才
84%
32%
67%
25%
35-54 才
55 才以上
タブレットの使用率
39%
13%
20%
ベース : スマートフォン / タブレットを保有する回答者
Source: Accenture 2013 Customer-Driven Innovation Survey
図 10 若年層のソーシャルメディアサイトの活用
若年層の消費者は、ソーシャルメディアサイトに掲載された保険会社に
関するコメントやアドバイスを重視する傾向にあります
保険へのご加入を検討する場合、どの商品やどの保険会社を選択すべきか
決定する上で、ソーシャルメディアサイト上のコメントやアドバイスは
どの程度重要ですか?
60%
非常に重要
13%
57%
9%
34%
2%
ある程度重要
47%
29%
2%
48%
32%
27%
18-24 才
25-34 才
35-54 才
55 才以上
ベース : 全回答者
Source: Accenture 2013 Customer-Driven Innovation Survey
11
more
oviders
事業者のとるべきアクションと先進事例
次に、前章で挙げた 3 つの消費者トレンドに対し保険事業者が取るべき施策、「3 つのアク
ション」について説明します。
第 1 のアクション:顧客との接点をクロス
チャネルで設定し、収益増加を図る
トレンド 1 では、日本の消費者が、事業
者の想像をはるかに超えるペースでデジ
タル化していることを示しました。また、
デジタル化へのニーズが、保険の購買プ
ロセスやその後の保全プロセスにおける
アクション毎に異なることも明らかとな
りました。
この事実は、事業者側にも極めて自然に
感じられるかもしれません。しかしなが
ら、消費者のニーズに即して顧客との接
点をデジタル化することに成功している
事業者はごく一部といえます。顧客がオ
ンラインでの処理を望むプロセスを順次
個別にデジタル化するだけでは十分では
ないからです。保険商品の情報収集か
ら契約、支払、保全処理に至る一連のプ
ロセスにおいて、デジタルとそれ以外の
チャネルを組合せて最終的な成約数を増
やす方法や、デジタル化により入手した
データを活用し見込み客数を引き上げる
方法を、チャネル横断的に考えていくこ
とが必要となります。
先進事例
: オランダの最大手保険会社
Trend
2
Trend 3 Aegon のソーシャル
Consumers
prefer 」
Young consumers are
チャネル「
Kroodle
personalized products
most reliant on digital
and
services
channels
but are the
社
は、
社
内
ベ
ン
チ
ャ
ー
と
し モバイルを多用する若年層やテクノ
Aegon
least targeted by insurers
てモバイル端末に特化したチャネル ロジーに敏感な消費者をターゲット
Kroodle を Facebook に 開 設 し ま し とすると共に、Facebook のソーシャ
付与(商品購入時割引として使用可
能)サービスを設けています。日本
市場においては、モバイル端末で完
た。Kroodle は Aegon 社の社内組織 ルネットワーキング機能をフル活用 結するサービスの有効性や、特別利
ですが、商品開発は行わず代理店と したマーケティングを試みています。 益の供与を禁止する厳しい規制環境
して他社の商品も併せて取り扱って 具体的には、保険商品は従来から口 下でディスカウント施策が提供可能
い ま す。 ま た、PC 対 応 の ペ ー ジ も コミや人を介したネットワークを経 かという点を考慮する必要がありま
存在しますが、原則としてモバイル て販売されていたという特徴を活か すが、ソーシャルメディアが持つ特
端末からのアクセスを前提としてお し、ソーシャルメディア上での紹介 性をチャネルの一つとして取りこむ
り、モバイル端末のみで全プロセス によるディスカウントの提供やソー Kroodle の発想は非常に参考になる
が完結するよう設計されています。 シャル活動への参加によるポイント と考えられます。
第 2 のアクション:顧客データをより積極的に
収集し、個別化した商品を開発する
トレンド 2 として、消費者はカスタマイ
ズされた商品やサービスに関心があり、
そのための情報提供にも積極的であるこ
とが明らかになりました。デジタル化が
進むにつれて消費者に関する詳細データ
の取得が容易になる一方、今日ではア
ナリティクスを用いデータを有効に活用
することが可能です。いち早くこの分野
に乗り出し、データを保険料算出や商品
12
開発に活用して消費者の心を捉えること という視点を合わせて考慮しなければな
が、非常に大きな差別化要因となります。 りません。また、データ収集の前提とし
てデータの活用方法を考案することも必
そのためには、まず消費者のニーズを踏 要ですが、完成形を目指して検討を重ね
まえた上で顧客および潜在顧客のデータ る間に現在の潜在顧客を逃してしまう可
取得方法をチャネルごとに策定し、可能 能性があります。将来的に市場をリード
な限り早い段階から情報収集を始める必 していくためには、まず先行事例や既存
要があります。この際、第 1 のアクショ のアプリケーションを活用して、データ
ンで挙げた顧客との接点を最適化する、 や経験の蓄積を開始することが重要です。
fer
oducts
先進事例 : アジアを拠点とする保険会社へのアクセンチュアの
CRM 支援事例
アクセンチュアのクライアントであ
る某保険会社は、保険商品を代理店
チャネルおよびコールセンターやマ
スマーケティングを主軸とするダイ
レクトチャネルで販売しています。
アクセンチュアは、2 か所あるコー
ルセンターにおいて顧客とのやりと
りから取得した情報を、シームレス
に全社内で活用できるようにするシ
ステムの導入を支援しました。当シ
ステムの導入により顧客情報は一元
化され、保全やクレーム対応・販売
など、顧客のニーズに応じ適したオ
ペレーターが対応することが可能と
なりました。次フェーズでは、アナ
リティクスを用いて蓄積されたデー
タを活用し、クロスセリングやアウ
トバウンドコールキャンペーンなど、
より積極的なセールス活動の支援を
計画しています。
先進事例
: ヨーロッパや米国で先行する個別化商品の開発
Trend
3
Young
consumers
are
「テレマティクス」
most reliant on digital
channels but are the
テレマティクスとは、自動車などと
least targeted by insurers
通信サービスを組み合わせて提供さ
れるサービスで、自動車保険への応
用としてはユーセージベースイン
シュアランス(UBI、走行距離に応じ
本では、損保ジャパンが自動車に記
録装置を搭載し、2 年目以降走行距
離に応じた保険料を設定する「ドラ
ログ」を 2013 年 7 月に発売してい
ます。先行する欧米では、より高度
て保険料が変動する自動車保険)が なアナリティクスを活用して運転時
代表として挙げられます。自動車に の行動様式(走行速度やブレーキの
専用ボックスを搭載することで詳細 頻度など)を詳細に評価し料率に反
な走行データの記録・送信を実現し、 映したり、車載ボックス自体に防犯
さらにアナリティクスによりデータ 装置の機能を持たせるなど、更に付
を保険料算定へ応用しています。日 加価値の高い商品が開発されていま
す。欧米の事例でも示されているよ
うに、リスク細分化保険はまず低リ
スク(低料率)な顧客を集客するため、
結果的に高リスク顧客が増えた場合、
収益減を避けるために既存の保険を
適正にプライシングすることが必要
となります。従って顧客にとって保
険料の低減のみならず長期的に付加
価値を提供できるサービス開発を進
めていくことが重要になります。
第 3 のアクション:若年層へのアプローチを
積極的かつ戦略的に行う
トレンド 3 では若年層がデジタル化や
モバイル化という側面で他の年代を圧
倒しているという点に注目しました。
特に、現時点で加入率が低く、既存チャ
ネルではなかなか到達しえない 20 代
の潜在顧客を対象とした、モバイル端
末やソーシャルメディアなどデジタル
チャネルを用いたアプローチを、より
積極的かつ戦略的に追及する必要があ
ります。
先進事例 : 東京海上日動の「ちょいのり保険」
東京海上日動は、自家用車を持たず
友人の車やレンタカーを時々運転す
る機会のある若者を対象に、運転時
のみ加入する単発のドライバーズ自
動車保険「ちょいのり保険」を開発
しました。この保険はインターネッ
トで事前登録を済ませていれば、乗
る直前にスマートフォンから簡単に
加入することが可能です。また、加
入時の無事故記録は通算され、自動
車を保有した後通常の自動車保険に
加入する際の割引適用対象として利
用出来ます。「ちょいのり保険」は、
従来保険対象とならなかった若者を
潜在市場と捉えてオンラインやモバ
イル端末を活用してアプローチし、
商品に組み込んだ加入履歴サービス
で潜在顧客の囲い込みを実現する、
非常に戦略的で興味深い保険商品と
いえます。
13
結論
日本の保険会社は、従来のデ
ジタル化戦略をさらに発展さ
せると共に、顧客との接点と
なるチャネルを最適化し、ア
ナリティクスを活用して顧客
の個別化要求に応える商品や
サービスの開発を早急に進め
る必要があります。また、市
場シェアの拡大にはデジタル
化を有効活用しつつ若年層顧
客の開拓に戦略的に取り組む
ことが不可欠です。
14
保険に関するグローバル調査について
本稿中で言及しているグローバル消費者調
査 は、2013 年 7 月 に ア ク セ ン チ ュ ア が、
11 か国 6,135 名の自動車保険・火災保険・
生命保険契約者を対象に、オンラインで実
10
施しました 。
本稿中で紹介しているデータは特に記載の
ない限り、上記の母集団から日本の有効回
答 500 件についてデータを抽出したもので
す。回答者の属性は図 11 に示す通りです。
図 11 アクセンチュア 2013 年消費者調査 (The Accenture 2013 Consumer-Driven Innovation Survey)
日本の調査サンプル500名について
175名
175名
自動車保険に
ついて回答
住宅保険に
ついて回答
150名
生命保険に
ついて回答
年齢層
49名
18-24 才
(10%)
120名 (24%)
25-34 才
35-44 才
100名
45-54才
(20%)
111名
(22%)
120名 (24%)
55 才以上
性別
男性
女性
251名
249名
(50%)
(50%)
合計: 500名 (100%)
参照資料
1、3、5、6 Swiss Re, "World Insurance in 2012" 2013 年 6 月
2、4 生命保険文化センター「平成 24 年度生命保険に関する全国実態調査」2012 年 9 月
7 損害保険協会「日本の損害保険ファクトブック 2013」2013 年 9 月
8“Accenture Tech Vision Insurance 2013”
9 IDC Japan「2013 年 国内モバイル/クライアントコンピューティング市場
家庭ユーザー利用実態調査:ブランド認知度と購買行動の変化」2013 年 10 月
10“The Digital Insurer : Accenture 2013 Consumer-Driven Innovation Survey”
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28 万 1 千人の社員を擁し、世界 120 カ国以
上のお客様にサービスを提供しています。豊
富な経験、あらゆる業界や業務に対応でき
る能力、世界で最も成功を収めている企業
に関する広範囲に及ぶリサーチなどの強みを
活かし、民間企業や官公庁のお客様がより高
いビジネス・パフォーマンスを達成できるよ
う、その実現に向けてお客様とともに取り組
んでいます。 2013 年 8 月 31 日を期末とす
る 2013 年会計年度の売上高は、286 億 US
ドルでした(2001 年 7 月 19 日 NYSE 上場、
略号:ACN)。
金融サービス本部
マネジング・ディレクター
林 岳郎
保険グループ担当
[email protected]
アクセンチュアリサーチに
ついて
アクセンチュアリサーチは、アクセンチュアの
グローバル組織として、経済や戦略調査を専
門に行う目的で設立されました。現在、200
名のスタッフが、北米、欧州、アジア太平洋
地域の主要オフィスで、経済や社会学、調査
研究を専門に行っています。 本レポートは、
アクセンチュアリサーチによるグローバル調
査の結果より、日本市場について取りまとめ
たものです。
アクセンチュアリサーチ・ジャパンリード
馬越 美香
保険業担当
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