講演録[PDF版]

第19期
情報化推進懇話会
第4回例会:平成17年7月21日(木)
『ユビキタス時代のIT経営戦略』
講
師
日本経済新聞社
編集委員兼論説委員
関口
和一
氏
財団法人 社会経済生産性本部
情報化推進国民会議
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『ユビキタス時代のIT経営戦略』
―
プロフィール ―
日本経済新聞社
編集委員兼論説委員
関口
和一
◆ 略
氏
歴 ◆
昭和 57 年
一橋大法学部卒業、日本経済新聞社入社。
昭和 63 年
フルブライト研究員として米ハーバード大学に留学。
平成元年
「Japan Economic Journal(現 Nikkei Weekly)」キャップ。
平成 2 年−6 年
日経ワシントン支局特派員。
平成 7 年
日経産業新聞「サイバースペース革命」企画キャップ。
平成 8 年
編集局産業部編集委員。
平成 12 年
論説委員を兼務。
現在、産業部編集委員兼論説委員として、主に情報通信分野などを担当。
文化審議会著作権専門委員、早稲田大学、明治大学の非常勤講師を兼務。
著書に「パソコン革命の旗手たち」(日本経済新聞社刊)、共著に「著作権の
基礎知識」(宣伝会議刊)、「開戦前夜のディスカッション」(実業公報社刊)、
「サイバースペース革命」「サイバービジネス最前線」(日本経済新聞社刊)
など。
論文に「日米における知的所有権問題」(ハーバード大学)など。
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『ユビキタス時代のIT経営戦略』
新たなデジタルメディアの登場
メディアの世界では、皆さんが情報を入手する際の端末に大きな変化が起きていま
す。携帯音楽プレーヤーでは、アップルの「iPod」などの携帯端末が急拡大し、
さらにそれが単なる音楽プレーヤーだけでなく、ネットからラジオ番組をダウンロー
ドして好きなときに視聴したり、画像ビューワとして使えたりする最新機種まで出て
きています。ハードディスクやメモリの大容量化に伴い、一つの端末ですべてのこと
ができる時代になってきているわけです。
また、日本においても昨年 10 月から衛星を使ったモバイル放送が始まり、年内に
も地上デジタル携帯放送が開始される予定です。さらに、民間のラジオ会社5社が中
心となり、「見るラジオ」放送が来年にも始まるでしょう。
デジタルには音・映像・活字の境目はありません。大画面で見るハイビジョンの画
像は地上デジタル、持ち歩く小さな端末にはラジオ波を使った画像放送ということも
可能になってきています。
新たなケータイ端末の登場
日本において最も変化が激しいのが、ケータイ端末です。最初は通話目的だった携
帯電話にインターネット接続機能が付き、カメラ、テレビ、FMラジオ、GPS、そ
して「おサイフケータイ」などの決済機能も付いて、社会共通の決済基盤としてケー
タイ端末が使われるようになっています。さらに、QRコードリーダーやICタグリ
ーダーが付くことで、ケータイ端末は情報のセンサー代わりになるということまで起
きています。
通信業界を揺るがす三つの変化
この1月から話題を呼んでいるのが、固定電話の直収サービスです。日本テレコム
やKDDIが参画し、これまで従量部分だけだった競争が、基本料まで含めた値下げ
競争になると思われます。
来年からは携帯電話のナンバーポータビリティが導入され、番号変更の不便さから
の契約者の囲い込み効果がなくなり、携帯電話の分野でも、通信料金の引き下げ等、
事業者間の競争が一段と激化するでしょう。
さらにIP電話の世界では、スカイプというソフトで世界中の誰とでもインターネ
ットを経由して無料で話せるという画期的な技術が開発されています。
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スカイプの台頭
スカイプは、音楽ファイルの交換ソフトのような発想で、ネットワークにつながっ
ている人たちのリストを作り、だれがつながっているかを事前に知って、そこにメッ
セージを送ったり、電話をかけたりできるようにしたものです。
しかも、電話は帯域が限定されますが、スカイプはIP接続なので、端末や回線の
性能さえよければ非常に広い帯域で通話ができ、昔はIP電話は音が悪いというイメ
ージでしたが、全く逆の現象が起きています。
スカイプはルクセンブルクに本社がありますが、現在、世界に 4300 万人のユーザ
ーがいて、それをなんと 80 人ぐらいの従業員でオペレートしているのです。日本で
もすでに 160 万のユーザーがいて、全世界では毎日 100 万人ずつ増えているというこ
とです。
広がる携帯インターネット
携帯の世界では、インターネットにつながる携帯端末が非常に増えています。特に
日本と韓国はず抜けていて、出ている端末の9割はインターネットにつなぐことがで
きます。続いて中国・シンガポール・台湾・イタリアの順番で普及率が高く、パソコ
ンのインターネットが比較的遅れていたところで急激に普及しているのが特徴で、特
にアジアを中心にユビキタス情報革命が起こっているといえます。
「電縁の時代」の到来
昨年1月、日経に「電縁の時代」という記事を掲載しました。今までの地縁、血縁
に代わり、「電縁」、電子ネットワークを使ったコミュニケーションが出てきて、それ
によって社会が変わってきています。
アメリカのハワード・ラインゴールドは、パソコンやインターネットを通じて市民
活動をする人々を「ネチズン」と呼びましたが、さらに携帯やインターネットの広が
りとともに、「スマートモブズ」が社会的影響力を行使するようになってきたと指摘
しています。
例えば韓国の盧武鉉大統領を当選させたのも、フィリピンのエストラーダ大統領を
倒したのも、さらには先般の中国の反日デモも、携帯ネットワークを通じ、多くの人
が一斉に集まることで起こったものです。これは、かつて日本にあった「結(ゆい)」
や「講」のようなものが、携帯やパソコンのインターネットを通じて復活してきたの
ではないかと思います。
ソーシャルネットワークの広がり
アメリカでは、昨年あたりからソーシャルネットワーキングサイト、ソーシャルネ
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ットワーキングサービスが始まっています。インターネットは、国防技術から学術ネ
ットワークに展開した段階では互いに知っている人たちどうしのコミュニケーショ
ンツールでしたから、そこに参加する人に悪い人はいないというのが前提でした。だ
からこそインターネットの世界は自由だったのです。しかし、商用化に伴い、スパム、
ウィルスなどをまき散らす者が現れました。
そこで、安心して使えるネットワークを目指し、そのネットワークに入るために知
人の紹介が必要な、ネット上のライオンズクラブやロータリークラブのようなものが
出てき、普及し始めました。それがソーシャルネットワーキングサイトです。
IT革命の3段階
インターネット革命には3段階あると思います。
第1が、最初にブラウザが登場したあたりのナローバンドの時代です(1993∼2000
年)。もちろんこれはアメリカ主導で起こりました。
第2が、ブロードバンドの時代です(1998∼2005 年)。これを率いたのは韓国でし
た。韓国は通貨危機で経済が破綻したあと、アメリカのような開放型、競争型経済シ
ステムを作るためのツールとして、情報通信ネットワークを活用しました。そのため
韓国は現在、約 75%というブロードバンド普及率を誇っています。
第3が、ユビキタス情報革命です(2003∼2010 年)。光ファイバーのような、さら
に高速のブロードバンドが登場し、携帯端末や無線LANが普及し、しかも自動車や
デジタル家電もネットに接続できるようになり、いつでもどこでもだれとでも、さら
に何とでもつながる社会が実現しつつあります。この革命のリーダーシップをとって
いるのは、私は日本ではないかと思います。
新サービスの登場
三つのIT革命に合わせて新しいビジネスモデルが登場してきました。ナローバン
ドで出てきたのがBtoC(Business to Consumer)、BtoBでした。ブロードバンド
が出てくると、BtoBtoCが登場し、これによって関係企業から顧客まで一気通貫で
サービスが展開されるようになりました。一例としては、旅館の予約サイトなどがそ
うです。そして、ユビキタスが始まると、CtoC、PtoP(Peer to Peer)となり、
個人と個人が直接結びつく時代がやってきました。先ほどのスカイプがその一例です。
さらに、これからはMtoM(Man to Man、Machine to Man)、携帯を含め身の回りの
機械がネットでつながり、人間と機械が直接コミュニケーションをしてしまう時代が
やってきます。
日本の経済はしばらく停滞したといわれますが、実は情報通信産業では、日本はこ
の 10 年間で 70 兆円から 140 兆円と2倍に膨らんでいるのです。カーナビやデジタル
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家電など、また新たに膨大な数の情報トランザクションが出てくると、これからまだ
まだ爆発的な展開を遂げうるものと考えます。
インターネットの新技術
コア技術は 1969 年に開発されていましたが、インターネットが一般家庭に普及し
始めたのは、1993 年のブラウザ登場以降のことです。それからサーチエンジン、モバ
イルコンピューティング、ブロードバンド等、毎年のように新技術が開発されてきて、
今年はデジタルホームが始まっています。ブロードバンドが普及したことによって、
今後はいよいよ家庭内のネットワークに焦点が移ろうとしています。
デジタルコンバージェンス
コンバージェンスとは、融合という意味です。これまではテレビはテレビ、ラジオ
はラジオ、電話は電話、それぞれ別個に存在したサービスでしたが、デジタル技術に
よりそれが全部横につながり始めています。
デジタルホーム時代の到来
今、DLNA、コーラル、DTCP、エコーネットなど、世界の企業の集まりの中
で日本が中心となってユビキタス時代におけるさまざまな標準化の動きが進んでい
ます。今までのデジタル革命の担い手はパソコンでしたが、ユビキタス革命では家電、
自動車、携帯電話など身の回りものが端末となり、パソコンはそのワンオブゼムにな
っていきます。
2010 年には、パソコンが 2200 万台の国内販売見通しに対して、ネット家電は1兆
5000 万台のマーケットになるという予測もあります。それにどう対応するかは、日本
のメーカー、日本の国策として求められていることではないかと思います。
デジタルコンテンツの成長
ネットワーク端末が普及してくると、それに乗せるデジタルコンテンツのビジネス
が重要になってきます。デジタルコンテンツは、これまでDVD、CDなど、パッケ
ージメディアで提供するのが通例でしたが、これからはネットワークを使った配信サ
ービスが増えてきます。特に成長すると思われるのは、携帯端末向けのデジタルコン
テンツです。
情報のマトリックス
情報の性格をグローバルとローカル、マスとパーソナルという軸で整理すると、グ
ローバルでマスの情報は、マスコミの世界です。そこに、インターネットや携帯電話
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の登場で、パーソナルでローカルなメディアが出てきました。次いで出てきたのは、
CDやDVD、ゲームのようなグローバルにパーソナルな情報を発信する、いわゆる
趣味情報です。そして、マスでローカルな情報は地域情報、例えば新聞チラシのよう
なものです。新聞チラシは一日一度しか入りませんが、地上デジタルやブロードバン
ドが普及することによって、インタラクティブで適時対応可能な情報サービスが登場
してくるのではないかと考えられます。
デジタルホームで変わる配信
放送の世界では、マスが全国一波のBSです。しかし、NHKはいいとして、広告
メディアとしての汎用性がないため、民放各局のBSデジタルはかなり厳しい状況に
あります。趣味情報はCSです。これはスカパーが代表格で、趣味情報を個別の人に
出すという意味でいいと思います。地上デジタル放送が出てくると、地域別に分割し
て地域に合わせた情報を提供でき、それを利用したビジネスモデルも出てくるでしょ
う。ブロードバンド、ユビキタスの普及によって、我々の情報の世界は大きく変わる
ことが予測されます。
ガートナーのハイプカーブ
アメリカにある調査会社のガートナーが出しているハイプカーブというものがあ
ります。ハイプは、皆が騒ぐ、話題になるということです。例えば新しい技術が出て
くると、最初は急激に話題を呼び、ある段階で期待値が最大に高まりますが、それを
過ぎるとそれほどでもないと一気に熱が冷めます。それでも、一生懸命にやる人たち
がいてビジネスが安定化していく、そのカーブをハイプカーブといいます。
ユビキタス関連の技術をこれに当てはめると、WiMax、ICタグなどは話題に
はなっていますが、ビジネスになるかどうかは皆目見当がつきません。今ピークにい
るのが Blog ですが、これも本当にサービスになるかどうか分かりません。WiFi、
ソーシャルネットワーキングはそろそろピークアウトし、メールマガジンは増えすぎ
て広告効果が弱くなってきています。サーチエンジンは淘汰の時代を経て安定してい
ます。
メディアでは、IP電話がこれからで、携帯電話がピーク、BSデジタルは赤字状
態、新聞は安定していますが、これさえもこの先はまだ落ちていく時期に入りつつあ
ります。
新たな著作権問題
そのうえで、さまざまな新しい問題が出てきています。その一つが著作権問題です。
「冬のソナタ」は成功しましたが、NHKではそこに使われている音楽などの著作権
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でかなり苦労をしたと聞いています。インターネットで流す場合は、日本と海外では
著作権法の保護範囲や仕組みが違いますから、そこも問題になってきます。
また、スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授が「クリエイティブ・コモ
ンズ」を提唱し、著作権そのものの在り方について問題を提起しています。彼は、表
現活動、著作権活動の第一義は、自分の作品を皆に見てもらいたいということであっ
て、著作者によっては 10 年たったら権利は放棄して公共の価値として皆で共有する
ということを認めてもいいのではないか。特に先人のいいものをベースに次を作って
いくのがデジタルコンテンツの作り方なので、積極的に開放していくべきだと言って
いるのです。
通信と放送の融合への課題
通信は1対1、放送は1対多という違いがあります。法律的には、通信では個人の
秘密が守られ、中で何を話していても事業者は一切タッチしませんが、放送は有害な
コンテンツを流すわけにはいきません。
何よりも、地上放送の場合は放送局免許をもらった人だけがコンテンツを作って流
せるようにバンドルがされています。これは、放送が政治的ツールにも使えるため、
放送局免許でそこにコントロールを及ぼしたいからですが、ブロードバンド放送にな
ると、ネットワークとコンテンツが別個に運営できるようになるため、一体化原則の
見直しが必要になります。
IT革命が促す企業買収・合併
さらに、ライブドアの例にも見られるように、ネットワーク上のビジネスを拡大せ
んがための合併・買収が最近増えてきています。商法改正で株式交換によって買収が
可能になると、海外からも買収の手が伸びてくることが予想されます。
ネットが新たな社会リスクを増大
中国ではネットが反日デモを誘発し、アメリカでも対イラク戦争のときの反戦活動
は Blog を通じてなされました。ネット社会が広がるに伴い、以前は存在しなかった
新しい社会リスクが登場しています。
新たなセキュリティの問題∼相次ぐ個人情報流出事件
携帯端末にさまざまな機能が付加されると、便利になる一方で、個人情報がすべて
把握されてしまうということも認識しなければなりません。そこには、情報流出とい
う新たなセキュリティの問題が出てきます。
個人情報保護法が施行されてから、多くの個人情報流出事件が起きています。これ
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は経営者が過剰反応し、後から法律違反が見つかると大変なことになると恐れ、ささ
いなことまでいちいち早めに発表するようになったことも一因と思われます。
ファイル交換ソフトが招く情報流出
もう一つの大きな問題は、ファイル交換ソフトです。音楽の交換ソフトを使ってい
た技術者が、会社の情報を在宅作業のために自宅のパソコンに入れたところ、運悪く
そのソフトにウィルスが入っていたためにすべてのデータが公開されてしまったと
いう例があります。ファイル交換ソフトは、主に音楽ファイルを得るために使われま
す。iPodは普及しても、音楽配信ビジネスがまだまだ本格的に立ち上がっていな
いこともあって、日本にはこのようなソフトを使用している人が約 130 万人はいると
いわれていますが、近年のCD、DVDの売上低迷とも絡んで、ファイル交換ソフト
の問題はレコード協会が個人に賠償請求するというところまできています。
日本でもサイバー犯罪が急増
2004 年の数字では、サイバー犯罪の検挙数は 2000 件、相談件数も前年比 1.7 倍の
7万件にもなっています。さらに、フィッシングやスパイウエアなどが増殖すると、
本来安全であるべきネットワークが不安で使えなくなります。
偽造キャッシュカードの問題
以前はクレジットカードの不正使用が多く、そのためいろいろな防御策がとられて
きました。それに対して、日本の銀行業界は長らく護送船団でやってきて、メインフ
レームにはだれも入れないという前提がありました。しかし、不良債権等の問題が長
引く中であまりメンテナンスがされず、そのシステムも確かなものとはいえなくなっ
ています。
そこで、最近出てきたのが生体認証ですが、これに対応するATMが少ないことも
あり、実は生体認証カードに磁気ストライプ情報も入っています。ですから、生体認
証だから絶対安全というわけではありません。それ以上に、他行との差別化のために
独自の認証方式を採用することで、せっかくつながったネットワークがまた分断され
かねない状況にあります。
首都圏直下型地震の恐れ
東京で直下型地震が起きた場合、人的被害もさることながら、情報の中枢に大きな
損害を受けることが予想されます。もちろん、バックアップを沖縄などに置く流れは
ありますが、メンテナンスをどうするかは、2007 年問題で技術者が減少することを考
えると非情に問題です。
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情報管理が招く大事故・事件
結局、情報化されたシステムを使うのは人間です。先日の管制官のミス、東武鉄道
の踏切事故、JR西日本の電車脱線事故は、システム化だけでは事故は防げないこと、
情報化が進めば進むほどそれを使う側の人間の体制整備が必要であることを示して
います。
コーポレートガバナンスの要請
会社の事業活動についても、せっかく情報メディアがあるのですから、速やかに情
報を開示するシステムを作っていかなければいけません。日本が抱えている問題は、
電子化が進んでいるにもかかわらず、人間の体質があまり変わっていないことです。
ピラミッド構造が情報伝達を阻害し、工業社会型時間管理、集団主義が日本の競争力
を損なっています。そこをネットワーク社会に見合ったシステムに変えていかなけれ
ばなりません。
IT時代のABCDEFリスク
IT時代以前は、A(atomic:核兵器)、B(biology:生物兵器)、C(chemistry:
化学兵器)、D(disaster:天災)、E(energy:石油)、F(fire:火事)の頭文字
を取って、ABSDEFリスクといわれました。
IT時代になると、それがA(access:接続)、B(broadband:回線網)、C(contents:
知的財産)、D(data:情報)、E(entry:入退管理)、F(frequency:電波)の、
それぞれのレイヤーでのリスクが考えらます。
セキュリティを巡る海外の動向
アメリカでは9・11 を受けてパトリオット法ができ、国を挙げて安全を担保してい
こうとしています。ヨーロッパでも、欧州評議会がサイバー犯罪条約を提案し、それ
が各国で少しずつ批准されつつあります。さらにアメリカでは、エンロン事件以降、
企業改革法を制定し、財務情報の透明性確保を図っています。
日本でも、経団連が企業行動憲章を出し、ステークホルダーへの情報開示の義務付
けを要請しています。また、個人情報保護法やe-文書法など、情報の安全性を担保
するための制度ができています。
サイバー犯罪防止を狙う法改正
特にサイバー犯罪については、日本はサイバー犯罪条約の批准と並行し、越境的組
織犯罪防止条約にも署名しています。サイバーの世界には国境がないので、そこで起
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きた犯罪には必ず国際的な協力が必要であり、国内法がばらばらでは国際捜査も意味
がありあません。ただ、あまり規制を厳しくするとオープンなネットワーク社会を損
なう要素にもなりかねません。安全対策は大事ですが、一方で合理性、経済性との兼
ね合いを考える必要があるでしょう。
ABCDEFリスクへの対応策
先ほどのIT時代のABCDEFリスクに対しては、A(accountability:説明責
任)、B(budget:予算管理)、C(compliance:法令順守)、D(due diligence:適
正評価)、E(empowerment:権限委譲)、F(forensics:監査証跡)、G(governance:
統治)、H(human resource:人材教育)、このそれぞれの項目にわたって対応策を考
えていかなければいけないと思います。
以上
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