成年後見人の職務 - 東京成徳大学・東京成徳短期大学

成年後見人の職務
山 口 春 子 *
The Duties of Guardians for Adults
Haruko YAMAGUCHI
はじめに
成年後見制度は、任意後見制度と法定後見制度からなる。
任意後見人の職務は、本人と任意後見受任者との間で締結された任意後見契約にもとづいて本人を
支援することである。任意後見契約は委任契約の一種であるので、任意後見人は契約内容にもとづ
き、委託された本人の「生活、療養看護及び財産管理に関する事務の全部又は一部」(任意後見契約
に関する法律第2条第1項)を、委任された代理権を行使して行う。任意後見人が行う、「生活、療養
看護及び財産管理に関する事務」は、家庭裁判所により選任された任意後見監督人の監督の下で行わ
れる。
一方、法定後見人の職務は、法定の事務について、付与された法定の権限を行使して、本人を支援
することである。すなわち、家庭裁判所により選任された法定後見人が、本人の「生活、療養看護及
び財産管理に関する事務」(民法第858条)について、民法にもとづき、または家庭裁判所の審判によ
り付与された同意・取消権、代理権を行使して本人を支援する。
このように、成年後見人の職務は、本人の「生活、療養看護及び財産管理に関する事務」につい
て、任意後見契約あるいは民法の規定にもとづいて、付与された代理権、あるいは同意・取消権を行
使して、本人を支援することである。支援の具体的な内容は、任意後見の場合は任意後見契約の内
容、法定後見の場合は民法の規定によると言える。
任意後見人が職務を行うとき、よりどころとなる任意後見契約の内容は、当事者間の合意によって
決まる。したがって、本稿は、民法の規定にもとづく法定後見人の職務について検討することにした
い。
ところで、家庭裁判所により選任される法定後見人は、親族以外の「第三者」が選任される割合
が、徐々に増大する傾向にある。法定後見人と本人との関係を、「親族」(親、子、兄弟姉妹、配偶
*
Haruko YAMAGUCHI 福祉心理学科(Department of Social Work and Psychology)
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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 18 号(2011)
者、その他の親族)と親族以外の「第三者」(弁護士・司法書士・社会福祉士、友人、知人、法人)
に分け、選任された割合の推移を見ると、制度発足時の平成12年度は、「親族」が90%以上を占めて
いたが、平成21年には、親族63.5%、親族以外の「第三者」36.5%である(表1参照)。
表1 法定後見人と本人の関係別割合(%)
12年度
13年度
14年度
15年度
16年度
17年度
18年度
19年度
20年
21年
親族
90.9
85.6
84.1
82.5
79.5
77.4
82.9
72.2
68.5
63.5
第三者
8.5
14.0
15.9
17.5
20.5
22.6
17.2
27.7
31.5
36.5
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見事件の概況」各年版より作成
また、法定後見開始申立ての主な動機で最も多いのは、「財産管理に関する事務」に該当する「財
産管理処分」で、例年85%以上を占める。「生活、療養看護に関する事務」に該当すると思われる
「介護保険契約」および「身上監護」の合計は、例年30~40%程度である(表2参照)。
表2 主な申立の動機の終局件数に対する割合(複数回答)(%)
18年度
19年度
20年
21年
財産管理処分
70.0
85.6
86.8
88.8
介護保険契約
10.3
6.1
6.4
8.8
身上監護
30.4
26.4
26.5
31.4
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見事件の概況」各年版より作成
親族以外の第三者が、判断能力がすでに低下して不十分な状態となっている本人の法定後見人に選
任され、その権限を行使して本人の支援を開始するとき、まず把握する必要があるのは、法定後見人
として行うべき職務、すなわち「生活、療養看護及び財産管理に関する事務」の範囲と内容、その具
体的な実施方法である。「生活、療養看護及び財産管理」は、本人の健康状態、生活の状況と深くか
かわり、個別性が非常に強い領域と考えられる。だからこそ、よりどころとなる民法上の法定後見人
の職務に関する規定内容が明確にされる必要がある。
本稿は、民法上の法定後見人の職務である「生活、療養看護及び財産管理に関する事務」に関する
規定に焦点を当てて考察することにしたい。その方法は、まず、現行の法定後見制度の成立過程にお
ける「生活、療養看護及び財産管理に関する事務」にかかわる議論を整理する。次に、現行法上の法
定後見人の職務に関する規定を検討する。最後に、今後の検討課題を述べることにしたい。
1 現行制度の成立過程における成年後見人の職務に関する検討内容
(1)成年後見問題研究会(1)における検討内容
新しい成年後見制度の基本的な枠組みは、成年後見問題研究会(以下、研究会)での検討内容に
よって方向づけられたと言える。
ここでは、研究会報告書(2)の内容にもとづき、成年後見人の職務のうち、身上監護の権限・義務
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成年後見人の職務
に関する検討内容を整理することとする。
研究会における検討の前提となる、成年後見人の身上監護の権限・義務に関連する、改正前の民法
第858条第1項・第2項の規定は、次のとおりであった。
第1項 禁治産者の後見人は、禁治産者の資力に応じて、その療養看護に努めなければならない。
第2項 禁治産者を精神病院その他これに準ずる施設に入れるには、家庭裁判所の許可を得なけれ
ばならない。
改正前の民法第858条の規定は、「未成年者の身上に関・・する教育監護と並んで、禁治産者の身上
に関する事項としてその療養看護に努めるべきことを後見の目的として規定したもの」(3)と理解さ
れていた。
研究会での最初の検討事項は、新しい成年後見制度において成年後見人に、本人に対する身上監護
の権限・義務を、新たに認めるべきであるか否かであった。検討の結果、見解は正反対の二つに分か
れた。
成年後見人に身上監護の権限・義務を、新たに認めるべきであるとする見解の根拠は、次の三点に
整理できる。
①高齢化の進展にともない、老夫婦二人や一人暮らしの高齢者世帯が増加し、日常生活や医療面で
の援助に対する社会の需要が増加することが予測され、これに応える必要がある。
②身上監護は、本人の身上について配慮し、必要な決定・監視を行うことと解すればよいのであ
り、現実の介護義務と解する必要はない。
③財産は、本人の身上監護のために利用されるべきものである。
これに対して、新たに認めるべきでないとする見解の根拠は、次の二点に整理できる。
①成年後見人に身上監護義務を課することは、事実上現実の介護義務を課するに等しい結果となり
かねない。
②身上監護の内容とされている事務のほとんどは、財産管理権の行使に還元されるものであるか
ら、身上監護に関する事務と財産管理権とを別個独立の職務として規定する必要性はない。
成年後見人に身上監護の権限・義務を、新たに認めるべきか否かをめぐるこのような見解の相違
は、身上監護の意義自体について共通理解が得られていないためと判断され、研究会では身上監護に
関する具体的な項目について職務内容が検討された。
検討方法は、個別具体的な事項に関して、民法第858条第1項の療養看護義務の角度からのアプロー
チと、法律行為に関する善管注意義務の角度からのアプローチの、双方の観点から検証するというも
のであった。
具体的には、大項目7に分けた60項目余の問題について、(ア)財産管理との関係(ⅰ財産管理を
伴う事項、ⅱ財産管理と関係するがそれが本質的要素ではない事項、ⅲ財産管理と関係しない事項の
3種)、(イ)被保護者の身体に強制を伴うか否か、の二つの指標で整理され検討された。
その結果、本人の身上監護に関連して、成年後見人の職務とするのが適当な事項として挙げられた
のは次の①~⑤の事項である。
①健康診断等の受診、治療・入院に関する契約の締結、費用の支払い等
②住居の確保に関する契約の締結、費用の支払い等
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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 18 号(2011)
③老人ホーム等の入退所に関する契約の締結、費用の支払い等、及び処遇の監視・異議申立て等
④介護を依頼する行為、及び介護・生活維持に関連して必要な契約の締結、費用の支払い等(但
し、現実の介護行為は含まない)
⑤教育・リハビリに関する契約の締結・費用の支払い等
但し、①~⑤の事項であっても、(ア)本人の意思に反する強制はできない、(イ)本人の一身専
属的行為は含まれない、(ウ)医的侵襲行為については、一般の場合における治療の決定・同意の根
拠と共通する問題であり、社会一般の共通認識が未だ得られていない状況であるため時期早尚、と結
論づけられた。
以上のような、成年後見人の職務としての身上監護事項に関する共通理解にもとづいて、検討され
た事項とその内容は、次のように整理できると考えられる。
第一は、身上監護に関する事項と財産管理の関係のとらえ方である。
成年後見人の職務とされる身上監護に関する「事項の多くは財産管理そのものか、あるいは財産管
理的色彩を有する行為であり、その意味でこれを財産管理行為に含ましめ、身上監護については、成
年後見人は本人の財産管理に当たっては、善管注意義務の一環として、本人の福祉に配慮しなければ
ならないと解することとすれば足りる」(4)との見解が示された。
第二は、身上監護についての権限・義務を、成年後見人の職務として認める規定を、新たに設ける
か否かである。
この点については、「何らかの形で、本人の身上監護についての権限及び義務を成年後見人に認め
る旨の規定を置くことが適当」(5)が多数意見であった。
多数意見の背景には、①今後、高齢化及び少子化・核家族化の進展に伴い、身上面での援助に対す
る社会の需要が増加すると予測される状況下で、現行法より身上監護について後退した印象を与える
立法は妥当でない、②本人の財産は、身上監護のためにも利用されるべきものであることを明確にす
ることが望ましい、との判断があった。
第三は、身上監護に関する新たな規定の位置である。
新たに設ける規定の位置は、①民法第858条第1項を改めて置く、②同条項の規定は維持した上で、
別個に規定を新設する、との二通りの意見があった。
第四は、身上監護に関する新たな規定の法的性質のとらえ方である。
この点については、意見が分かれた。①民法第858条第1項の療養看護を拡張したもの、②財産管理
に関する法律行為における身上監護に関連する事項についての善管注意義務 (民法第869条、第644条)
の内容を具体化・明確化したもの、③財産管理権を前提として、財産管理と関連ある範囲で身上監護
に配慮すべき新たな性質の権限・義務ととらえる、など法的性質のとらえ方に相違が見られた。
第五は、身上監護に関する新たな規定の適用範囲である。
この点については、すべての類型の成年後見人が、その権限の範囲及びこれと関連する範囲におい
て、身上監護義務を負うとするのが相当との見解であった。
第六は、住居に関する事項についてである。
住居に関する事項については、別に規定を設けて成年後見人の権限を制限する必要性が指摘され
た。すなわち、住居に関する事項は、「本来財産管理行為としての性格を有」するが、「精神医学的
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成年後見人の職務
な観点から、本人の身上監護にも強い影響を与える事項」のため、「成年後見人の権限に制約を加え
て、成年後見人が、本人の住居について、売却、賃貸、賃貸借契約の解約の申し入れその他本人の居
住を困難にする行為をしようとする場合には、後見監督人又は家庭裁判所の許可を得なければならな
いとする」(6)が、ほぼ一致した意見であった。
最後に、民法第858条第2項の規定は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に、医療保護入院
に関する後見人の同意権が残る(第35条)以上、維持するのが相当とされた。
(2)「成年後見制度の改正に関する要綱試案」および補足説明(7)における成年後見人の職務
「成年後見制度の改正に関する要綱試案(以下、試案)」で示された、「成年後見人の職務等につ
いて」のうち、身上監護に関連する部分を見てみよう。
まず、試案では、改正前の民法第858条第1項、第2項の規定は、そのまま維持された。
そして、成年後見人の、身上監護に関する権限・義務は、財産管理に関する権限・義務とは別個の
権限・義務としては規定されなかった。代わりに、成年後見人の権限(代理権・財産管理権等)の行
使に当たって、本人の身上に配慮すべきであるとの「身上監護に関する一般的な規定」が創設され
た。その中に、本人の意思の尊重についても併せて規定された。
創設された一般規定とは、「成年後見人は、その権限を行使するに当たって、本人の福祉を旨とし
て、本人の意思を尊重し、かつ、自己の権限の範囲に応じて本人の身上に配慮しなければならない」
というものである。
成年後見人がその権限行使に当たって、本人の身上を配慮する義務および本人の意思を尊重する義
務があるとする、このような一般規定の趣旨と内容、創設理由、法的性質は、法務省民事局「成年後
見制度の改正に関する要綱試案補足説明(以下、補足説明)」によれば、次のように整理できる。
第一は、このような一般規定の趣旨と内容についてである。
一般規定は、「本人の身体に対する強制を伴わず、かつ、法律行為(事実行為は含まれない)に関
する事項である限り、一身専属的な事項を除き、身上監護に関するあらゆる事項をその対象として含
み得る」。具体的には、研究会で分析・整理された身上監護に関する①~⑤の事項すべてが内容とし
て含まれるという解釈が前提とされた。
すなわち、成年後見人が、①~⑤の事項に関する「契約の締結(例:医療契約、住居に関する契
約、施設入所契約、介護契約、教育・リハビリに関する契約等)、相手方の履行の監視(例:施設内
処遇の監視)、費用の支払い(介護・生活維持のための社会保障給付の利用を含む)、契約の解除
(例:住居の賃貸借契約の解除、施設の退所等)、・・異議申立て等の公法上の行為」を行う際に「本
人の身上に配慮すべき義務」を負うと解される。
「また、『本人の身上に配慮する義務』の内容は、個々の法律行為の態様及び本人の身上をめぐる
状況に応じて多種多様なものが含まれ、・・アドヴォカシー等についても、当該規定の解釈として・・含
まれる」との説明が示された。
ちなみに、すでに述べたように、後見人の療養看護義務に関する民法第858条第1項の規定は、後見
類型に特有の規定として、そのまま維持された。その理由は、改正前の後見人の療養看護義務には、
療養看護を確保するための法律行為だけでなく、具体的な療養看護という事実行為も含まれると解釈
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できるためである。療養看護労働という事実行為は、財産管理に関する権限行使に当たって本人の
身上に配慮すべきとする、新設の「身上監護に関する一般的な規定」には含めることができない内容
だったのである。
第二は、このような一般規定を創設した理由である。その理由は次の3点にまとめることができ
る。
① 財産管理と身上監護の「密接不可分な関連性」(8)が考慮されたためである。研究会報告書で
示された見解が引き継がれ、成年後見人の職務として、財産管理とは別個の、独立した身上監護に関
する権限・義務は存在しない、と考えられたのである。
② 高齢社会、少子化・核家族化の進展に伴い、判断能力が低下した者への身上面の支援に関する
社会の需要の高まりである。このような需要の高まりを背景に、成年後見人の職務である法律行為に
関する権限の行使の在り方に関して、すなわち職務遂行の指針として、本人の身上に配慮すべき義務
規定を設ける必要があると判断されたのである。
③ ドイツ・オーストリア等の諸外国における立法の状況である。制度の自己決定の尊重の理念を
明確にするためには、これらの立法例に倣い、成年後見人の権限行使に当たって、本人の意思を尊重
すべきとする明文規定を設けることが必要と考えられたのである。
第三は、このような一般規定の法的性質についてである。
一般規定の法的性質は、「成年後見人が本人の身上面について負うべき善管注意義務 (民法第869
条、第644条)の内容を明確にし、かつ、敷衍したもの」
(9)
との位置づけが示された。そして、単に
善管注意義務の解釈を具体化しただけでなく、理念的に本人の身上への配慮が事務処理の指導原理で
あることを明示することにより、本人の身上監護面に関する職務・機能の実効性を十分に高めていく
ことへの期待が述べられた。
以上のほかに、身上監護に関する個別規定として、成年後見人による本人の居住用不動産の処分等
の行為については、成年後見人の権限を制限し、家庭裁判所の許可を要するとの規定が創設された。
研究会報告書の指摘に沿って、本人の住居の確保を保障する観点から、設けられた規定と言える。
(3)要綱試案後の修正事項
要綱試案公表以降の主な修正事項は次の三点である。
その第一は、要綱試案が公表され、関係各界の意見照会が行われた結果、改正前の民法第858条第1
項が削除されたことである。
要綱試案に対する意見照会の結果、削除を求める多数の反対意見が寄せられたという。(10)同条項
の療養看護義務が、事実上の療養看護を義務づけたものとして解釈され得るため、「成年後見人のな
り手に対する多大なプレッシャーとして働く・・との懸念がみられ」、なり手の確保が困難になると考
えられた。
第二は、要綱試案で創設された、成年後見人の権限行使に当たっての一般規定の文言の修正であ
る。
①成年後見人は、「その権限を行使するに当たっては・・」が「成年被後見人の生活、療養看護及び
財産の管理に関する事務を行うに当たっては・・」と修正された。
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成年後見人の職務
「療養看護」に加えて「生活」が新たに明示されたのは、成年被後見人が日常生活において身の回
りの世話に関するさまざまなサービスを利用することが想定されるため、「療養看護」の文言だけで
はこれらのサービスを含みきれない、と考えられたためである。(11)
②「身上に配慮しなければならない」が「心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」
と修正された。「身上」の内容をより具体的に表現するために行われた修正である。(12)
③「本人の福祉を旨として」の文言が削除された。この文言が試案に規定された理由は、客観的に
みて本人の意思が本人の福祉に反する場合には、後者が優先する趣旨を調和的に表現するためであっ
たが、本人の意思の尊重および心身の状態及び生活上の状況に配慮することが明文で示されることに
よって、十分その趣旨は表現されていると考えられたためである。(13)
第三は、改正前の民法第858条第2項が削除されたことである。
精神保健及び精神障害者福祉法の平成11年改正により、医療保護入院手続きの整備が進められたこ
とによる。この改正により、後見人に加えて保佐人も保護者となることとなったが、保護者となる後
見人、保佐人は家庭裁判所により選任されているため、親族が保護者である場合の医療保護入院手続
きとのバランスが考慮され、同条項は削除された。
2 現行法上の法定後見人の職務
成立過程における、以上のような議論は、現行法上の法定後見人の職務に関する規定にどのように
反映されているのだろうか。ここでは現行法上の法定後見人の職務に関する規定を検討してみたい。
法定後見人の職務は、民法にもとづきまたは家庭裁判所により付与された権限を行使して、本人の
「生活、療養看護及び財産に関する事務」を行うことによって、本人の権利を擁護することである。
(1)法定後見人の権限
法定後見人に付与される同意権・取消権、代理権の範囲は、「後見」「補佐」「補助」の各類型に
よって異なり、さらに各類型の枠内で、一つひとつの事例によっても異なる。
①後見人の権限
後見人は、本人が行う法律行為について取消権(第9条)を有する。また、本人の財産を管理し、か
つその財産に関する法律行為について包括的な代理権を有する(第859条第1項)。
②保佐人の権限
保佐人は、第13条第1項1号~9号の法律行為について、同意・取消権を有する(第13条第1・4項、第120
条第1項)。また、法にもとづく保佐人の同意・取消権は、保佐開始の申立人および保佐監督人の申立
てにもとづき、家庭裁判所の審判により拡張することができる(第13条第2項、第120条第1項)。
保佐人の代理権は、本人の同意を要件として、特定の法律行為について、家庭裁判所の審判により
付与される。付与された代理権は、本人の同意を要件として、その全部または一部を、家庭裁判所の
審判により取消すことができる(第876条の4)。
③補助人の権限
補助人の同意・取消権は、本人の同意を要件として、第13条第1項1号~9号の法律行為の一部につ
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いて、家庭裁判所の審判により付与される(第17条第1・2・4項、第120条第1項)。
補助人の代理権は、本人の同意を要件として、特定の法律行為について、家庭裁判所の審判により
付与される。付与された代理権は、本人の同意を要件として、その全部または一部を、家庭裁判所の
審判により取消すことができる(第876条の9、第876条の4、第2・3項)。
以上のように、法定後見人は、各類型に応じて、さらに各事例に応じて、同意・取消権および代理
権を有する。法定後見人は、その権限を行使して法定の事務を行う。
ただし、次の(ア)~(ウ)の法律行為には、3類型に共通して、法定後見人の同意・取消権、代
理権が認められていない。
(ア)婚姻、離婚、養子縁組、離縁などの身分上の法律行為は、被後見人が単独で完全に有効に行
うことができる。(第738条、第764条、第799条、第812条)。ちなみに、被保佐人には、このような規定
はない。十分な判断能力を有していると解されているためである。
(イ)遺言は、法定後見人の同意を要しない(第962条)。遺言は本人の意思が尊重されるべき事項
であるため、判断能力を有する状態に回復したときに本人自身が行う(第973条)。
(ウ)「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、法定後見人は取消すことがで
きない(第9条但書、第13条第1項但書)。本人が日常生活を継続するうえで通常必要な法律行為であるた
め、自己決定尊重の理念にもとづき、本人が単独で有効に行うことができる。
(2)法定後見人が行う事務
法定後見人が行う事務は、立法過程の議論で明確にされたように、法律行為を指し、事実行為は含
まれない。ただし、法律行為に当然付随する事実行為は含まれる。
①財産管理に関する事務
「財産の管理に関する事務」とは、財産の保存・維持および財産の性質を変更しない利用・改良を
目的とする行為ならびに処分行為をいう。(14) 具体的には、預貯金の管理、収入・支出の管理、金
融商品の管理、税務処理などである。
生活、療養看護に関する事務である施設利用契約、介護契約なども、費用の支払いが伴う限り財産
管理に関する事務に含まれる。
ところで、後見人は包括的な財産管理権を有するため、就任時に次の事務を行う義務がある。一
方、保佐人・補助人は付与された代理権の対象となる行為についてのみ財産管理権を有するにすぎな
いため、財産調査、目録作成に関する規定はない。(15)
(ア)財産の調査および目録の作成
後見人は、就任後直ちに、本人の財産の調査を始め、1か月以内にその調査を終えて、財産目録を
作成する義務がある(第853条第1項)
(イ)毎年支出すべき金額を予定
法定後見人は、就任したとき、本人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出す
べき金額を予定しなければならない(第861条第1項)。
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成年後見人の職務
②生活、療養看護に関する事務
「生活、療養看護に関する事務」の内容は、民法上規定されていない。試案補足説明によれば、本
人の身体に対する強制を伴わず(16)、かつ、法律行為である限り、一身専属的な事項(17)を除き、身
上監護に関連するあらゆる事項が含まれ得ると解される。(18)
具体的な内容は、研究会報告書で示された事項である(ア)介護・生活維持に関する事項、(イ)
住居の確保に関する事項、(ウ)施設の入退所、処遇の監視・異議申立て等に関する事項、(エ)医
療に関する事項、(オ)教育・リハビリに関する事項、のすべてが含まれると解釈されている。この
他、実例報告の分析にもとづき、「就労・余暇活動・文化的活動等の社会参加に関する事項」も含ま
れるとの指摘がある。(19)
「生活、療養看護に関する事務」は、これらの事項に関する契約の締結、契約の相手方の履行の監
視、費用の支払い(社会保障給付の利用を含む)、契約の解除、異議申立て等の公法上の行為を含
む。
法定後見人の「生活、療養看護に関する事務」に関する権利・義務は、民法上規定がない。「生
活、療養看護」と「財産管理」は密接に関連するものであり、財産管理から独立した「生活、療養看
護に関する事務」は存在しないと考えられているためである。(20)
(3)法定後見人の事務遂行に当たっての義務
法定後見人は、「生活、療養看護、財産管理に関する事務」を遂行するに当たって、①本人の心身
の状態、生活の状況に配慮する義務、②本人の意思を尊重する義務、がある(第858条)。
この義務の法的性質は、後見事務の遂行に当たり、善管注意義務(第869条、第644条)を具体化し、
明確にしたものと解されており、法定後見人が後見の事務を行うに当たっての指針と解されている。
(21)
法定後見人が、後見事務の遂行に当たり、本人の身上配慮義務、あるいは本人の意思尊重義務を
怠っている場合は、解任事由に該当する。また、損害賠償責任が認められる場合もあり得ると考えら
れる。
ところで、本人の身上配慮義務あるいは本人の意思尊重義務を果たすためには、あらかじめ本人の
心身の状態や生活状況、本人の意思を把握する必要がある。その把握自体は当然、法定後見人の職務
に含まれる。しかし、把握方法について、民法は規定していない。把握の方法として間接的な把握を
否定できないが、本人と面会して直接把握する方法が最も望ましいと考える。(22)
①本人の心身の状態、生活の状況に配慮する義務
本人の心身の状態、生活の状況に配慮する義務は、生活、療養看護に関する事務を行うときの指針
となるだけでなく、財産の管理の指針でもある。したがって、法定後見人が行う財産の管理は、財産
をただ増やすだけでなく、本人の生活状況の改善のために活用することが重視されなければならな
い。
また、生活、療養看護に関する介護契約や福祉サービス利用契約を締結した場合は、相手方の履行
を監視するだけでなく、本人の心身の状態、生活の状況の変化に対応して契約内容を適切に見直す義
務があり、そのために必要な見守りも義務に含まれると考える。
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②本人の意思を尊重する義務
本人の意思の尊重は、本人を保護する必要とのバランスのなかで、どこまで本人の意思を尊重する
かの決定が、さまざまな場面で迫られる事柄である。法定後見人に付与されている取消権の行使が、
この点にかかわって課題となる。法定後見人に付与されている取消権は、本人の保護が必要な行為を
対象にして付与されているのであるから、保護が必要な場合は行使すべきである。しかし、実際上、
取消権の行使は本人の意思に反することになるから、本人との関係に影響を及ぼす可能性がある。
したがって、取消権を行使するかどうかは、公序良俗や行為の不可逆性、自己決定を尊重する視点か
ら総合的に検討される必要がある。また、行使の判断が難しい場合は、家庭裁判所と協議し、または
家庭裁判所の処分により執行することもあり得るであろう。(23)
(4)権限の制限に関する事項
①居住用不動産の処分
法定後見人が、代理権を行使して、本人の「居住の用に供する建物又はその敷地」を、「売却、賃
貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なけ
ればならない」(第859条の3、第876条の5第2項、第876条の10第1項)
居住環境の変化は、精神医学的に、本人の心身の状態に大きな影響を与える点が考慮され、法定後
見人の代理権行使に制限が加えられている。
「その他これに準ずる処分」としては、「贈与、使用貸借契約による貸渡、使用貸借契約の解除、
譲渡担保権・仮登記担保・不動産質権の設定」(24)などがあげられる。つまり、「処分」とは本人が
居住用不動産に居住できなくなるような処分行為を指すと言える。
家庭裁判所の許可を得ないで行われた処分は無効となる。
②法定後見人が複数の場合
法定後見人が複数の場合、法定後見人の権限は制限される場合がある。
家庭裁判所は、職権で、複数の法定後見人が、共同して又は事務を分掌して権限行使すべきことを
定めることができ、またその定めを取消すことができる(第859条の2第1項、第2項、第876条の5第2項、第
876条の10第1項)。したがって、家庭裁判所が事務の分掌の審判をした場合、法定後見人の権限は、分
掌された範囲の事務に制限される。
ちなみに、事務の分掌には、財産管理に関する事務は法律専門家(弁護士・司法書士)、生活、療
養看護に関する事務は福祉専門家(社会福祉士)という分担、あるいは親族と各分野の専門家とで分
担という例が見られる。このような事務の分掌の場合には、財産管理から独立した生活、療養看護に
関する事務の権限は存在しないとされているので、生活、療養看護に関する契約費用の支払い権限
が、実務上不明確にならないように分掌される必要がある。(25)
③利益相反行為の禁止
本人と後見人の利益が相反する行為(自己契約、遺産分割の双方代理など)は禁止されている(第
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成年後見人の職務
860条)。本人の利益を保護するためである。
法定後見監督人が選任されている場合は、法定後見監督人が、その利益相反行為について法定後見
人の権限を行使する(第851条第4項、第876条の3第2項、第876条の1第2項)。法定後見監督人が選任されて
いない場合は、後見人は特別代理人、保佐人・補助人は臨時保佐人・臨時補助人の選任を、家庭裁判
所に請求しなければならない(第860条、第876条の2第3項、第876条の7第3項)。
選任された特別代理人・臨時保佐人・臨時補助人は、当該利益相反行為について、法定後見人の権
限を行使する。
ちなみに、本人と、初めから利益相反関係の立場にたつ個人・法人は、その本人の法定後見人と
して適格性に欠ける(第843条第4項、第876条の2第2項、第876条の7第2項)。例えば、福祉サービス事業者
は、その福祉サービスの利用者とは利益相反関係の立場に立つので、利用者の法定後見人としては不
適格であり、選任されるべきでない。(26)
(5)家庭裁判所の指導・監督等に従う義務
家庭裁判所は、いつでも、法定後見人に対し事務の報告、財産目録の提出を求めることができる。
また、法定後見の事務、本人の財産状況を調査することができる。法定後見監督人が選任されている
場合は、同様の監督権が認められている(第863条第1項、第876条の5第2項、第876条の10第1項)。
法定後見人が家庭裁判所・法定後見監督人による、事務報告や財産目録の提出、調査の求めに応じ
ない、あるいは協力しない場合は、任務怠慢として解任事由(第846条)に該当する。
さらに、家庭裁判所は、請求にもとづき又は職権で、本人の財産の管理その他法定後見の事務に
ついて必要な処分を命じることができる(第863条第2項、第876条の5第2項、第876条の10第2項)。この「処
分」とは、後見事務に関して監督上必要な一切の処分を意味し、後見事務に関する指示も含まれる。
法定後見人が家庭裁判所の処分に従わない場合は解任事由に該当する。
(6)終了時の事務
法定後見の終了原因には、①法定後見自体が終了する場合の本人の死亡、開始審判の取消し、②法
定後見自体は終了しないが、当該法定後見人との法律関係が終了する場合の法定後見人の死亡、辞任
(第844条)、解任(第846条)、資格喪失(第847条)がある。
法定後見人は、任務終了時に、原則として2か月以内に、管理していた財産の収支計算を行い、家
庭裁判所に報告する義務がある(第870条第876条の5第3項、第876条の10第2項)。
辞任による終了の場合は、新たな法定後見人の選任を、家庭裁判所に遅滞なく請求する義務を負う
(第845条、第876条の2第2項、第876条の7第2項)。
3 今後の検討課題
最後に、今後の検討課題をまとめておきたい。
第一は、成年後見制度の利用対象にかかわる課題である。
成年後見人の職務として、財産管理を行うに当たり、本人の心身の状態、生活の状況を配慮する義
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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 18 号(2011)
務、本人の意思尊重義務があるということは、管理すべき財産がなければ、法定後見制度の利用対象
ではないことになる。
しかし、一方で、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成17
年)には、高齢者虐待の防止、虐待を受けた高齢者の保護等、高齢者の権利擁護のために成年後見制
度の利用促進が規定されている(第28条)。また、成年後見制度利用支援事業の利用対象の拡大、実
施の普及が図られている。つまり、判断能力が不十分な状態で財産がない成人も、成年後見制度の利
用対象と捉えようとする動向がある。
成年後見制度が、財産管理を通じて本人を権利擁護する制度であるならば、利用対象の範囲は財産
管理との関係で限界づけられるはずであるが、その観点からだけではこれらの動向を説明することは
できない。
第二は、法定後見人が職務として行う「生活、療養看護に関する事務」の範囲・内容にかかわる検
討課題である。
現行法上、法定後見人には、財産管理とは別個の独立した「生活、療養看護に関する事務」の権限
が認められていない。その理由は、「生活、療養看護に関する事務」が、「財産管理事務」と密接不
可分な関連性を有するものと捉えられているためである。
確かに、生活、療養看護にかかわる保健医療・福祉サービス等の利用には、通常、費用の支払いが
必要である。費用の支払いを伴わないサービスとして考えられるのは、本人の家族・友人・近隣住民
等によるインフォーマルサービス、ボランティアによる無償サービスなどであるが、契約を締結して
利用するサービスとは言えないであろう。そういう意味で、「生活、療養看護に関する事務」は、
「財産管理に関する事務」と密接不可分な関連性を有する。
しかし、「生活、療養看護に関する事務」には、法律行為に付随する事実行為も含まれる。付随す
る事実行為の外縁はあいまいであるし、その中には、財産の管理と関係がない事実行為もある。つま
り、「生活、療養看護に関する事務」は「財産管理に関する事務」と密接不可分な関連性を有すると
しても、その全体を「財産管理に関する事務」に含めることはできないのではないだろうか。今後、
「生活、療養看護に関する事務」の具体的な内容、特に法律行為に付随する事実行為の範囲、内容等
を、実践の積み重ねと検討により明確にしていくことが課題と言えよう(27)。
第三は、「生活、療養看護に関する事務」の特徴とかかわって、家庭裁判所の相談機能の拡充の課
題である。
「生活、療養看護に関する事務」の特徴は、本人の健康や生活の維持・改善のためのサービス利用
に関する事務であるため、個別性が強いことである。具体的には、サービスの種類・利用形態・組み
合わせなど選択肢がいろいろあり、その決定は本人が行うのが原則であるため、一つひとつの決定に
本人意思の把握・確認が重要となる。また、本人の健康状態や生活状況の変化に応じてサービス内容
の適切な変更が必要となるため、利用開始後の見守りは不可欠である。さらに、複数のサービスを利
用する場合はサービス事業者、関連機関、担当者間の調整が必要となる。
一方、法定後見人が職務として行うべき「生活、療養看護に関する事務」の遂行にあたり、よりど
ころとなる実施基準に関する規定は、法律上見当たらない。
したがって、法定後見人の職務遂行の効率性・実効性を今後高めていくためには、後見事務の監督
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成年後見人の職務
責任を負う家庭裁判所の相談機能の拡充が図られる必要がある。相談機能の拡充により、身近な地域
で、より簡便に、法定後見人が相談できる環境が整備されることが望まれる。
最後に、法定後見人の「生活、療養看護に関する事務」が円滑に行なわれ、さらに実効性を高める
ためには、地域に利用可能なサービス資源が十分整備されていることが前提となることを指摘してお
きたい。
利用契約を締結するためには、利用できる十分なサービス資源がなければならない。たとえ、「生
活、療養介護に関する事務」は、法律行為および付随する事実行為を指し、介護労働のような事実行
為は含まないと解されていたとしても、身近な地域に活用できるサービス資源が十分整備されていな
ければ、法定後見人の職務遂行上の困難や負担は、実際上増大すると考えられる。
注
(1)成年後見問題研究会は、法制審議会民法部会で成年後見制度の見直しを検討課題として取り上げるこ
とが決定された後、その準備作業をするために法務省民事局内に設置された研究会である。1995年7月
から2年間にわたり調査研究が行われ、その結果は「成年後見問題研究会報告書」にまとめられた。
(2)「成年後見問題研究会報告書」(1997年9月30日)社団法人 金融財政事情研究会 1997年
(3)前掲「成年後見問題研究会報告書」p46
(4)前掲「成年後見問題研究会報告書」p49
(5)前掲「成年後見問題研究会報告書」p50
(6)前掲「成年後見問題研究会報告書」p48
(7)「成年後見制度の改正に関する要綱試案」およびその補足説明は、1998年4月に公表された。日本社会
福祉士会編「成年後見制度資料集」筒井書房 1998年
(8)前掲「要試案」第二の二2
(9)前掲「補足説明」2(2)ア
(10)小林昭彦・原司共著「平成十一年民法一部改正法等の解説」p258 法曹会 2002年
(11)前掲「平成十一年民法一部改正法等の解説」p266 (12)前掲「平成十一年民法一部改正法等の解説」p266 (13)前掲「平成十一年民法一部改正法等の解説」p263
(14)小林昭彦・大鷹一郎・大門匡「新成年後見制度の解説」p139 金融財政事情研究会 2000年
(15)日本社会福祉士会編「権利擁護と成年後見」p313 民事法研究会2009年、は保佐人・補助人は、財産
調査、財産目録作成不要と指摘する。
(16)前掲「新成年後見制度の解説」p144、は身体に強制を伴う事項とは、手術や入院、健康診断の受診、
施設入所への強制などであり、成年後見人の権限は、意思表示にもとづく法律行為に限られるため含
まれないと指摘する。
(17)前掲「新成年後見制度の解説」p144、によれば一身専属的な事項とは臓器移植の同意などのことであ
る。
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(18)前掲「新成年後見制度の解説」p145、は手術・治療行為など医的侵襲についての成年後見人の権限
は、時間をかけ慎重に検討されるべき事項であるので、緊急性がある場合は、緊急避難・緊急事務管
理等の一般法理にゆだねられると指摘する。
(19)名川勝・菅井昌恵・笠原美和子・佐々美弥子「実例から見た身上監護の枠組みと運用」『実践 成年
後見』No.23 p34 民事法研究会 2007年
(20)民法第858条の規定は、法定後見人が「生活、療養看護に関する事務」の権利・義務を有していること
を前提としているとの解されるとの見方もある。「東京家裁後見センターにおける成年後見制度の運
用の状況と課題」『判例タイムズ』1165号 p104 判例タイムズ社 2005年
(21)小林昭彦・大鷹一郎・大門匡「一問一答 新版 新しい成年後見制度」p122 商事法務 2006年、前
掲「平成十一年民法一部改正法等の解説」p261、新井誠・赤沼康弘・大貫正男編「成年後見制度―法
の理論と実務」p89 有斐閣 2006年。一方、上山泰「専門職後見人と身上監護」p87 民事法研究会
2009年、は成年後見人に課せられた身上配慮義務や本人の意思尊重義務の法的性質について、通常
の善管注意義務と異なり、特約や無償性を理由に義務の免除や軽減は認めるべきでないと指摘する。
(22)状況把握の方法として、道垣内弘人「成年後見人の権限―身上監護について」『判例タイムズ』1100
号 p239 判例タイムズ社 2002年、は専門家と契約するなどして間接的に把握に努めるのが原則と
述べる。一方、佐藤彰一「制度ではないかかわり方」p21『知的障害がある人の成年後見と育成会―
10年の歩みと展望』社会福祉法人 全日本手をつなぐ育成会 2010年、は財産管理については適切に
行っているが、就任以来7年間本人に一度しか会っていない専門家後見人が認められる現行制度の現状
を批判的に指摘する。また、田山輝明「続・成年後見法制の研究」p215 成文堂 2002年、は本来後
見というのは、可能ならば顔が見えるような関係で、マン・ツー・マンで行われるべきものと指摘す
る。
(23)前掲「成年後見制度―法の理論と実務」p102 (24)前掲「新成年後見制度の解説」p139
(25)前掲「平成十一年民法一部改正法等の解説」p282、は「身上監護に関する事務」について権限分掌し
た場合、身上監護に関する契約による費用支出が含まれるかが一義的には明確にならないが、「身上
監護に関する一切の事務」とすれば、身上監護に関する契約に伴う財産の処分も含まれると解釈でき
ると述べる。
(26)前掲「平成十一年民法一部改正法等の解説」p29・30は、施設入所者の本人と利益相反関係に立つ施
設経営者は、成年後見人になれないとする欠格条項を設けるべきでないか、との国会審議における質
問に対し、立法担当者が「利益相反という概念は非常に幅広い概念であるため」、法定後見人選任の
「重要な考慮要素として、最終的には家庭裁判所の適切な判断」にゆだねたと応えたと述べる。
(27)成果として、日本後見法学会「身上監護研究会 平成19年度報告書」2008年。
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