症例報告 胃 GIST と巨大食道裂孔ヘルニアに対し腹腔鏡下手術を同時に

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聖マリアンナ医科大学雑誌
症例報告
Vol. 42, pp. 141–148, 2014
胃 GIST と巨大食道裂孔ヘルニアに対し腹腔鏡下手術を同時に施行した一例
ふくおか
あさ こ
てんじん
かず み
たけなか
よしはる
みやじま
のぶよし
の
だ
あきよし
さ
さ
き たかひろ
福岡 麻子1 天神 和美1 野田 顕義1 佐々木貴浩1
ふくなが
てつ
おおつぼ
たけひと
竹中 芳治1 宮島 伸宜1 福永 哲2 大坪 毅人2
(受付: 平成 26 年 4 月 26 日)
索引用語
胃 GIST,食道裂孔ヘルニア,腹腔鏡下噴門形成術
上部消化管内視鏡検査所見: 穹窿部に bridging fold
はじめに
を有する 25 mm 大の粘膜下腫瘍を認めた。表層粘膜
消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:
GIST)の外科治療は局所切除術が基本であり,大き
硬で可動性は不良であった。中心から boring biopsy
さ,発生部位によっては腹腔鏡手術が施行される事
を施行したが, 粘膜下成分を認めなかった。 また,
が多い。また,難治性の胃食道逆流症に対しての外
滑脱型の食道裂孔ヘルニアを認め,胃体部までが胸
の明らかな不整,delle や凹凸は認めなかった。弾性
科治療も腹腔鏡手術で施行する事が多くなっている。
腔内に存在した。ロサンゼルス分類で grade M の逆
今回胃 GIST と食道裂孔ヘルニアを合併した症例に
流性食道炎を認め,ヘルニア内には食物残渣を多量
対して腹腔鏡下胃部分切除術と腹腔鏡下噴門形成術
に認めた(図 1a)。
を同時に施行した症例を経験したので報告する。
超音波内視鏡検査所見: 胃壁を 5 層で観察した際に
第 4 層に連続する最大径 50 mm の腫瘤を認めた。形
症 例
態は球形と凹凸不整に見える部分が混在していた。
患 者: 82 歳,女性。
内部エコーは低エコー内に微小無エコー領域が多数
主 訴: 食後の嘔気,嘔吐。
見られた(図 1b)。
家族歴: 特記すべき事なし。
胸腹部造影 CT 所見: 巨大な食道裂孔ヘルニアを認
既往歴: 上行結腸癌に対して開腹手術(67 歳)。
め,胃穹窿部から壁外に突出する分葉状の腫瘤を認
総胆管結石に対し内視鏡的乳頭切開術,胆嚢結石
めた。腫瘍内部は不均一で,辺縁有意の造影効果が
に対し腹腔鏡下胆嚢摘出術(82 歳)。
認められ,中心部は造影欠損していた。有意な腹部
現病歴: 数年前から頻回に食後の嘔気,嘔吐を認め
リンパ節腫大や腹水は認めなかった。その他特記す
ていた。2012 年,胆石症に対し,当院で腹腔鏡下胆
べき異常所見は認めなかった(図 1c)。
嚢摘出術を施行した。術後に頻回の嘔吐を認め,上
上部消化管造影検査: 巨大な食道裂孔ヘルニアを認
部消化管内視鏡検査を施行したところ, 穹窿部に
め,胃体部まで縦隔内に脱出していた。また,食道
25 mm 大の粘膜下腫瘍と,巨大な滑脱型食道裂孔ヘ
胃接合部近傍に上方から圧排されていると思われる
ルニアを認めた。
変形を認めた(図 1d)。
入院時血液検査所見: HbA1c が 6.4% と上昇してい
胃粘膜下腫瘍は GIST が疑われ,腫瘍径が 50 mm
である事から手術適応とされた。腫瘍は穹窿部に認
たが,その他に異常所見を認めなかった。
めたが,噴門部にはかからないため,腹腔鏡下胃部
1 聖マリアンナ医科大学東横病院 消化器病センター
2 聖マリアンナ医科大学病院 外科学(消化器・ 一般外
分切除術の方針とした。また,巨大食道裂孔ヘルニ
アを認めており,術後に胃食道逆流が増悪する可能
科)
27
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福岡麻子 天神和美 ら
a b
c d
図 1 術前画像所見
a: 上部消化管内視鏡所見 b: 超音波内視鏡所見 c: 胸腹部造影 CT 所見
d: 上部消化管ガストロ造影所見
性があるため,逆流防止手術も同時に施行する方針
を授動し,内視鏡をブジーとして食道に挿入したま
とした。
ま,穹窿部を食道背側に通した。 180 度覆うように
手術所見: 臍に 12 mm,左季肋部に 5 mm,左側腹
し, 3–0 タイクロンを用いて,食道と左右 3 針ずつ
部に 5 mm のポートを挿入した。胆摘後の影響と思
固定した。食道裂孔にパリテックスコンポジットメッ
われる,腹壁に癒着した大網を剥離した後に,右季
シュ, 9x8 cm(COVIDIEN Japan 社)を当て,エン
肋部に 5 mm,右側腹部に 12 mm のポートを挿入し
側よりヘルニア嚢の切開を開始し,食道の周囲を全
65°ステープラー(COVIDIEN
Japan 社)を用いて食道裂孔に固定した(図 2c, d)。
形成した穹窿部と横隔膜脚を 3–0 タイクロンを用い
て 2 針ずつ固定した。 手術時間は 4 時間 41 分で出
血は 5 ml であった。
切除検体肉眼所見: 4.1 cmx3.8 cm の乳白色充実性,
多結節状の粘膜下腫瘍を認めた(図 3a)。
周性に剥離した。横隔膜脚部の筋線維を露出し,3–0
病理組織診断: 軽度の異型を有する紡錐形細胞が流
タイクロン(COVIDIEN Japan 社)を 4 針用いて食
れるように配列しながら充実性に増殖する C-KIT 陽
道裂孔を縫縮した。次いで腫瘍に癒着した大網を切
性の腫瘍で, GIST の診断であった。 核分裂像数は
ドユニバーサル
た。胃体部までが縦隔内に陥入しており,滑脱型の
食道裂孔ヘルニアを認めた。胃を腹腔側に還納する
と,穹窿部の大彎前壁側に腹腔内に突出する 50mm
大の腫瘍を認めた(図 2a)。 肝転移や腹膜播種の所
見は認めなかった。超音波凝固切開装置を用いて右
TM
離し,術中内視鏡を施行して腫瘍の位置を確認した。
10 個以上/50HPF で, Modified-Fletcher 分類では高
エンド GIATM 45–2.0 mm,60–2.0 mm(COVIDIEN
リスク群に相当した(図 3b)。
Japan 社)で胃を部分切除し(図 2b),エンドキャッ
術後経過: 術後 3 日目に上部消化管造影検査を施行
チ(COVIDIEN Japan 社)に挿入後,臍の皮切を 3 cm
したが,通過は良好で,逆流は認めなかった(図 3c)。
延長して摘出した。短胃動脈を数本切離して穹窿部
術後 4 日目に食事を開始し, 経過良好で術後 14 日
28
胃 GIST と巨大食道裂孔ヘルニア
143
a b
c d
図 2 手術所見
a: 胃穹窿部に粘膜下腫瘍を認めた。
b: linear stapler を 2 回用いて腫瘍を部分切除した。
c, d: 180 度の wrap を施行した。
a
c
b
図 3 術後病理所見及び上部消化管ガストロ造影所見
a: 切除検体肉眼所見 b: 病理組織学的所見(HE 染色) c: 上部消化管ガストロ造影所見
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福岡麻子 天神和美 ら
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目に退院した。現在術後 1 年が経過しているが,逆
ンプインヒビターに治療抵抗性を示す症例は手術適
流の症状は無く,通過障害も認めていない。
応とされ7),Nissen 法,Toupet 法などの噴門形成術
が主に施行されている。 1991 年に腹腔鏡下 Nissen
考 察
法の報告がされて以来8)9),腹腔鏡下噴門形成術と開
腹手術を比較した文献が散見され,腹腔鏡下手術は
消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:
GIST)は消化管固有筋層に発生する間葉系腫瘍で,
術後入院日数が少ない事に加え,24 時間 pH モニタ
免疫組織学的に KIT の発現を 95% 以上に認める。約
リング,食道内圧測定,上部消化管内視鏡等の検査
60∼70% は胃に発生し, 小腸は 25∼35%, 大腸は
5% の発生率であり, 稀に食道(<2%)や虫垂に発
所見,逆流症状の改善において従来の開腹手術と同
等の短期10)11),長期成績が報告されている12)13)。
生するが,極めて稀に大網,腸間膜,後腹膜から発
Nissen 法は下部食道全周を胃穹窿部で覆う全周型
生する事がある1)。 胃の中では胃底部から胃体上部
噴門形成術であるが,術後の嚥下障害が問題となる
に好発するとされている2)。 胃粘膜下腫瘍は生検に
事がある。これは,穹窿部を完全に授動し,ラップ
よる術前病理診断が困難な場合があるが,腫瘍径が
の長さを 2 cm にして, 60Fr の食道ブジーを挿入し
2 cm 以上の場合,急速に増大する場合,悪性化を疑
て緩く形成する floppy Nissen 法を施行する事で改善
う所見がある場合は手術適応となる3)。GIST の治療
されるとされている14)。Toupet 法は下部食道を胃穹
は,切除可能であれば外科的完全切除が第一選択で
窿部で 270 度覆う非全周性の後壁型噴門形成術であ
あり,切除後の病理診断によりリスク評価を施行す
る。Nissen 法との比較では,術後の嚥下障害の発生
る。 GIST の外科治療においてはリンパ節郭清の臨
率が低いとの報告があり15)16),逆流の再発に関して
床的意義は確立されておらず,臓器機能の温存を目
は,Nissen 法と比べて遜色の無い短期成績15),長期
指した部分切除が推奨されている。そのため,腹腔
成績が報告されている16)17)。 1994 年∼2008 年まで
4)
鏡下手術でも安全に切除できるとされているが ,粗
の本邦の報告では腹腔鏡下 Nissen 法/腹腔鏡下
暴な操作を行うと偽被膜損傷をきたす可能性がある
Toupet 法は 54%, 42% となっており, 最近の報告
ため,腫瘍自体を直接鉗子等で把持しないように注
では Toupet 法が増加する傾向にある18)。
意しなくてはいけない1)2)5)。本症例でも胃を牽引し
胃食道逆流防止機構として His 角は重要であり,
たり,部分切除を施行する際に腫瘍を把持しないよ
穹窿部の内圧上昇時に鋭角となり,穹窿部が下部食
うに十分注意した。 本症例は術前診断で腫瘍径が
道を圧迫して逆流を防止するとされている。今回の
50 mm であったが,腫瘍径が大きくなると,適切な
症例では穹窿部の GIST と巨大な食道裂孔ヘルニア
視野を出すことが困難になり,腫瘍を把持して被膜
の合併を認めており,胃部分切除後に His 角の鈍化
が破綻するリスクが高くなる。被膜の破綻は再発の
や穹窿部の縮小を認め,胃食道逆流が増悪する可能
リスクを高めるため,腫瘍径が 5.1 cm 以上の場合で
性があると思われた。また,本症例は数年前から食
は腹腔鏡下手術は推奨されていない。同様の理由で,
後の嘔吐を繰り返しており,上部消化管内視鏡検査
画像上血流が豊富な場合,偽被膜が脆弱な場合,臨
ではヘルニア嚢内に多量の食物残渣を認めており,
床的に悪性度の高い場合では腹腔鏡下手術は推奨さ
術前より食道裂孔ヘルニアによる胃食道逆流があっ
3)5)
れていない
。また,噴門部,幽門部に近いもので
たと思われた。そのため,術後の胃食道逆流の増悪
は切除断端を確保しにくい上に残胃の変形により通
を予防するため, 逆流防止手術も同時に施行した。
過障害をきたす懸念があるため,腹腔鏡下手術が困
270 度の噴門形成術を試みたが, 穹窿部を部分切除
難な場合があるとされている4)5)。
したために十分に覆えず, 180 度の形成となった。
食道裂孔ヘルニアは食道裂孔を介して腹腔内臓器
しかし術後の経過は非常に良好で,逆流の症状は一
が縦隔内に入り込んだ状態で,胃食道逆流症の成因
切認めていない。 食道裂孔ヘルニアと胃 GIST の因
となる事が知られている。 I 型(滑脱型), II 型(傍
果関係について明記したものはないが,本症例のよ
食道型),III 型(混合型)に分類され,混合型は胃壊
うに胃 GIST と食道裂孔ヘルニアを合併した症例は
死や軸捻転などの合併症が多く,手術が選択される
過去にも報告されている。 医中誌で GIST, 食道裂
事が多い。逆流性食道炎による狭窄,出血などを合
孔ヘルニアをキーワードに検索した結果,会議録も
併する症例,呼吸器症状を有する症例,プロトンポ
)
1)。胃前庭部に
含め,12 例の報告を認めた19–30(表
30
胃 GIST と巨大食道裂孔ヘルニア
145
表 1 GIST と食道裂孔ヘルニアの合併例
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31
福岡麻子 天神和美 ら
146
発生した症例を 1 例認めたが,ほとんどの GIST は
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孔ヘルニアの原因は加齢による食道裂孔の弛緩や,
腹圧の上昇とされており, GIST が食道裂孔ヘルニ
アの発症に関与しているとは考えにくい。 しかし,
胃 GIST が食道裂孔ヘルニアに嵌頓した報告もあ
り25), 嵌頓を繰り返すうちにヘルニア門が開大し,
より大きなヘルニアとなる可能性はあると考えられ
た。 手術は, 腫瘍径が 9 cm 以上の大きな場合には
胃全摘術が施行されていた。腫瘍径が 5.5 cm 以下の
場合は,前庭部に発生した 1 症例以外は,胃部分切
除術に併せて噴門形成術が施行されていた。自験例
では 180 度の噴門形成術を施行したが, 文献でも,
胃部分切除後に Nissen 法や Toupet 法が施行されて
いた。2010 年以降の報告では,2 症例で自験例と同
様に腹腔鏡下手術が施行されていた。
おわりに
胃 GIST に食道裂孔ヘルニアを合併した症例を経
験し,腹腔鏡下に胃部分切除術と噴門形成術を同時
に施行した。穹窿部を切除したが 180 度の噴門形成
術が可能であり,術後の経過は非常に良好であった。
文 献
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胃 GIST と巨大食道裂孔ヘルニア
147
孔ヘルニアに合併した,開胸開腹にて切除され
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2002; 49: 186–192.
33
148
福岡麻子 天神和美 ら
Abstract
A Case of Gastric GIST and Giant Hiatal Hernia Simultaneously Treated by
Laparoscopic Surgery
Asako Fukuoka1, Kazumi Tenjin1, Akiyoshi Noda1,
Takahiro Sasaki1, Yoshiharu Takenaka1, Nobuyoshi Miyajima1,
Tetsu Fukunaga2, and Takehito Otsubo2
An 80-year-old woman underwent simultaneous laparoscopic gastric wedge resection and laparoscopic
fundoplication for a 4.1-cm gastrointestinal stromal tumor( GIST )in the gastric fundus and a giant hiatal hernia. There were no postoperative complications or difficulties. Surgical treatment for gastric GIST does not
involve lymph node dissection and laparoscopic surgery is recognized as a reliable option depending on the
tumor diameter and the area in which the tumor originates. When fundoplication is necessary, the Nissen or
Toupet procedure is most commonly performed, and the results of laparoscopic surgery are reportedly superior
to those of open surgery. GIST complicated by hiatal hernia occurs only rarely. Gastric wedge resection and
fundoplication are performed mainly for GIST that dose not exceed 5.5cm. Wedge resection of the gastric fundus in our patient necessitated partial fundoplication, for which we created a 180°wrap.The patient has progressed favorably and has not experienced reflux or dysphagia during the year that has passed since the surgery.
1 Center of Gastroenterology, St.Marianna University Toyoko Hospital
2 Department of Gastroenterological Surgery, St.Marianna University School of Medicine
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