中国知財保護への挑戦

中国知財保護への挑戦
平成16年9月13日
日本弁理士会
目次
1.はじめに
<飯島紳行>
2.本田スクーター事件の意義
<吉田芳春>
3.本田スクーター事件の概要
<小倉啓七>
4.意匠類似判断と新審査基準
< 鷺健志 >
5.本田スクーター事件よりの啓発
< 魏啓学 >
6.パネルディスカッション
−中国の意匠保護について−
7.提言
<水野清,吉田,鷺>
<佐藤辰彦>
本田スクーター事件の意義
弁理士
吉田芳春
本田スクーター事件の特徴
・中国の意匠権の有効性が訴訟まで
争われた最初ケース
・旧審査基準(2001年)の
公表前のケース
中国意匠制度の特徴
・無審査登録主義を採用
・意匠登録の有効性は覆審委員会の審判
で判断
・創作容易性の要件は不要
・基本的には消費者保護の観点が強い
中国意匠登録有効性に係る訴訟手続
・無効審判は覆審委員会に対して請求
当事者は請求人と意匠権者
・不服申立は二審制、第一審は北京中級人民
法院
被告は国家知識産権局
一方当事者は訴訟参加
・第二審は北京高級人民法院
本田スクーター事件の概要
−中国側の3つの判断と
日本の判定とを対比して−
弁理士
小倉啓七
本田スクーターの中国展開
事案の概要
「本田スクータ」
意匠を中国専利局
に出願
意匠権成立
意匠権
侵害
訴訟提起
専利覆審委
員会に無効
請求
専利覆審委
員会は意匠
登録の無効
決定
市場に
模造品
93-7
意匠出願
92-11
94-6
意匠権成立
94-1
旧審査基準
施行
97-12
98-1
01-9
01-10
先願がある。類似
意匠を先に台湾企業
が意匠登録済
旧審査基準
改定
事案の概要
専利覆審委
員会は意匠
登録の無効
決定
北京市中級人民法院
に無効決定の取消訴
訟を提起
北京市中級人民法院
は専利覆審委員会の
無効決定を支持判決
新審査基準
施行
04-7
01-9
02-3
02-9
02-10
北京市高級人民法
院に上訴
03-5
「スクーター」意匠
を無効とした一審の
判決及び覆審委員会
の決定を取消
本田スクーター外観
引例意匠外観
本件意匠(本田スクーター)と
引例意匠(先願)の類否判断
„
„
„
専利覆審委員会
北京市中級人民法院(第一審)
北京市高級人民法院(最終審)
類似判断
・誰を基準とするか(判断主体)
・どんな判断方法が適切か(判断手
法)
本田「スクータ」外観
バックミラー
vs
引例意匠外観
フロントカバー,ランプの数量
テール部
サイレンサー
(消音器)
シート
ステップ
車体,フレーム
意匠類似判断と新審査基準
(2004年)
ー 本田スクーター事件
北京高級人民法院判決の影響 ー
弁理士
鷺健志
本田スクーター事件との時期的関係
1984. 3
意匠法、意匠法施行規則 施行
1993. 3
意匠審査基準 施行
1993. 7
本田スクーター意匠出願
1998. 1
無効審判請求
2001. 7
2001. 9
2001. 10
意匠法、意匠法施行規則 改正施行
専利覆審委員会 審決
意匠審査基準 改訂施行 (旧審査基準)
2002. 9
北京市第一中級人民法院 判決
2003. 5
北京市高級人民法院 判決
2004. 7
意匠審査基準 改訂施行 (新審査基準)
意匠の類否判断
新審査基準の改正点
項 目
改 正 ポイント
1
判断主体
「一般消費者」の中身 ⇒ 意匠物品の消費者層
2
判断原則
意匠の「類似」とは :
容易に混同する ⇒ 差異が全体的視覚効果に
顕著な影響を与えない
3
判断方法
4
総合判断 ①一般物品の意匠 : 総合判断 の採用が必要
と
要部判断 ②要部判断の適用 : 特に消費者の注意を
引き易い部分に限る
離隔観察
⇒ 廃止
本田スクーター事件よりの啓発
中国弁理士 魏啓学
パネルディスカッション
−中国の意匠保護について−
論点1『判断主体は一般消費者』
弁理士
吉田芳春
論点1『判断主体は一般消費者』
1.判断主体は新審査基準(2004年)
の一般消費者であって、我が国でいう
「創作者」ではない。
2.一般消費者の概念は、高級人民法院の
判決によれば「具体的な消費者層」であ
り、新審査基準(2004年)の「一般
消費者層」と似ている。
論点1『判断主体は一般消費者』
3.一般消費者による判断は、意匠物品の一般
消費者層の知識水準と認知能力に基づき、視
覚効果に影響を与えるか否かを基準とする。
我が国でいう『創作者』の判断は、意匠の主
たる創作の共通性に基づき、美感が共通する
か否かを基準とするので、原則として類似の
範囲が相違する。
また、『創作者』による判断は物品分野の
趨勢に応じて変化するが、一般消費者層によ
る判断は物品流通に基づき変化が少ない。
論点1『判断主体は一般消費者』
4.一般消費者の概念については、旧審査
基準(2001年)の『仮想の人間』を、
判決では日常概念と判断し、新審査基準
(2004年)では判決を踏襲している。
判決では具体的物品の具体的消費者層
を基準とするので、新審査基準(200
4年)より注意力・判断能力の基準が高
められている。
論点2『要部と類否判断』
弁理士
鷺健志
論点2『要部と類否判断』
1.高級人民法院の判決は、消費者の注意を引
く意匠の「要部」を対比した後、全体観察・
総合判断の方法を採用すべき、と判断した。
この要部対比を認めることにより、緻密・
客観的な意匠の類否判断が可能となった。
2.判決後、新審査基準は、意匠を各部に分割
して対比するのを禁止した規定を削除した。
但し、総合判断に際し、要部対比を認める
ことを積極的に記載しなかった。
論点2『要部と類否判断」
3.高級人民法院の判決は、「要部」の認定に
際し、公知意匠の参酌を述べていない。
4.新審査基準では、「要部」の認定に際し、
先行の同一・類似物品にありふれた意匠の形
式を考慮できると規定した。
しかし、周辺の公知意匠の参酌を運用して
いるかは不明である。
5.日本では、①公知意匠を参酌して、意匠の
「要部」を認定し、②「要部」を比較するこ
とで、意匠の類否判断がより客観化される。
これが日中の相違点と考える。
論点3 『美感上の混同の意義』
弁理士
水野清
論点3 『美感上の混同の意義』
1.高級人民法院の判決によれば、両意匠区別
でき、美感上の混同を生じない、と判断した。
この「美感上の混同」とは、我が国でいう
「創作説」の立場からの判断か。
2.判決における類似判断方法では、両意匠は
「全体として違った美感がある」と判断して
いる一方、その判断主体は依然として「一般
消費者」であり、「混同説」を採用している。
そうすると、「創作説」と「混同説」を併せ
た「折衷説」のように思える。
論点3『美感上の混同の意義』
3.この判決を受けて、新審査基準(2004
年)では、従来の「誤認混同」から「視覚効
果に影響」を与えるか否か、という判断方法
に改訂し、「誤認混同」という考え方を削除
した。
4.高級人民法院の判決は、旧審査基準(20
01年)の改訂につながる画期的なものであ
るが、意匠の創作を保護するという創作性の
立場を依然として採用していないことから、
類似の幅は狭いと考えるべきである。
提言
−中国における意匠保護の観点から−
弁理士
佐藤辰彦
提言
1.中国の意匠制度の運用はいまだ充分な経験と
蓄積が少ない。⇒ ユーザーは権利保護のため
自らの主張を積極的にすることが必要。
2.中国の意匠の類似判断基準は直接対比の消費
者の視覚的効果に影響与えるかにあるため 、原
則として類似の範囲は狭い。⇒ 確実な保護を
求めるためには数多くの戦略的な権利化が必要。
3.中国の意匠登録は無審査制度のために既に公
知の意匠でも登録され、これを悪用して水際差
止めをするような悪質な事例が発生。⇒ 十分
に注意すべき。
提言
4.知財の保護強化は中国の産業育成のためにも
必要。⇒ 意匠保護強化のためには中国は審査
主義を採用し、創作保護の制度に改革すべき。
5.中国の反不正当競争防止法では商品形態の保
護の規定を欠く。⇒ 速やかに商品の形態を保
護する改正を実現すべき。
6.中国における知財保護強化は東アジアの市場
が公正な競争の下に発展するために不可欠。
⇒ 日本は中国の知財制度の発展を促すよう
に積極的に働きかけることが必要。