12年09月18日号

経済為替ニュース
SUMITOMO MITSUI TRUST BANK, LIMITED FX NEWS
第2129号 2012年09月18日(火曜日)
《 up-up and away 》 世界的に低迷している景気、島々を巡るアジアの主要国間の緊張激化などの不安要因を
横目に、世界の金融市場は株高を主軸に先週末まで“ハイ”な状況が続いていた。ニューヨ
ークの株価など史上最高値に700ドル以内に接近した。先週見られた世界的な株高は、こ
の週明けに欧米市場で「上げ一服」の様相となり先週の高値からは反落しているものの、
依然として基調は強いと言える。 世界的株高をもっぱら先導したのは、景気先導効果には多くの人が疑問符を付けている
FOMC の QE3 発動だ。株式市場の読みとしては、「これで世界的な一段の金融策の緩和が見え
てきた。少なくとも緩和資金の一部は株式市場に流れてくる筈だ」というもの。「金融相場」
の側面が強く見える。もっとも QE3 発動に見られる「世界的な緩和」の兆しは、世界的な景
気低迷の反映でもあるので、足下は危ういと考えるのが自然であり、月曜日の欧米市場に
おける株価の高値からの小反落は、今後の株価の「上げ一方ではない展開」への入り口か
も知れない。当然ながら株式市場にとっての最大の試練は、景気が持ち直して金利が上げ始
めた時に来る。 一方、ドルやユーロは地政学的リスクを抱えた円に対してともに上昇するという、これ
までにはあまりない展開を示し、今週に入って「円安」には拍車がかかっている。日本が休
みの海外市場では、ドルは一時79円、ユーロは104円に接近した。18日には尖閣海域
に中国漁船1000隻が押しかけるかもしれないという展開の中で、「不測の事態」が起き
ることも予想され、円安に拍車がかかる可能性がある。中国は「日本の尖閣諸島国有化の撤
回」を求めており、日本がそれに応じることは考えられないので、今のところ「落としど
ころ」はない。 中国は反日デモを容認しているが、デモ参加者の一部には明らかに反政府スローガンを
掲げており、その象徴は1976年に死んだ毛沢東主席の写真を掲げて行進することだ。こ
れは現政権、現政権の政策(鄧小平が確立した先富政策)への不満の表明以外のなにもの
でもない。今の中国には「貧しかったが平等だった昔」への回顧の気風もあると言われる。
今の格差が激しく、富が一部の人達に集中し、かつ党に繋がる官僚や警察官の横暴が目に
付くことへの反発でもある。 今後の展開を考えると、中国は「尖閣国有化の撤回」を要求として撤回しない限りは、
国内での反日デモを容認せざるを得ない。暴徒化は防ぐとしてもだ。反日デモを容認した事
実はなかなか撤回できないだろう。とすると、今後も展開する中国諸都市での反日デモの中
には「毛沢東」の肖像画を掲げるような反政府、反現政権の勢力が今後一層紛れ込む可能
性が高まる。繰り返すが、中国には今の共産党一党独裁制度を快く思っていない人々も多い。
ということは、反日デモを許容している間に中国の政情そのものが不安定化する可能性も
ある。円の動向はそこまで読んで進むだろう。 日中関係に「もしかしたら落としどころ」を探せる時期を予測するとすれば、習近平氏
が次期主席に就任して以降となる可能性がある。しかしそれまでの期間は長すぎる。繰り返
すが、その間に中国でのデモが先鋭化し、「反日」が「反現政権、現官僚・警察機構」にな
る危険性もある。もっとも、進み始めた「円安」も、「地政学的リスク」が新鮮度を失った
り、リスクが具体的に軽減される時には、そのモメンタムを失うかもしれない。具体的には
18日、今日ですがいわゆる柳条湖事件の日が過ぎて、対日抗議デモが一端沈静化する場
合など。 《 QE3 》 一連のマーケットの動きを先導した QE3 発動の FOMC の声明は、詰まるところ「雇用が思
ったように伸びない故に QE3 に踏み切りました」と説明している。声明の中味については後
述するが、この週末に興味深かったのは、「物価と雇用」のダブルマンデートを FRB に与え
ていることの妥当性に関する議論だ。 例えば物価が上がり始めた時点でも今回のようにあまりにも「雇用」に重点を置くと、
FRB の政策に矛盾が生ずるのではないか、との懸念は確かにある。FOMC 声明を読むとそれほ
どまでに FOMC は「雇用」を前面に出して QE3 の正統性を説明している。しかしそれで本当
に良いのか、という疑念がある。世界の中央銀行の中では、「物価の安定」を最大のマンデ
ートにしているところが多い。日本もそうだ。 もっとも株式市場が FOMC 決定を好感したのは、FOMC 声明発表と後の記者会見でのバーナ
ンキの「決意表明」、つまり「雇用が改善するまでは緩和を続ける」だったのかもしれない。 FOMC の声明内容は以下の通りです。 1. 月 あ た り 4 0 0 億 ド ル の 住 宅 ロ ー ン 関 連 の 証 券 ( agency 発 行 分 ) の 追 加 購 入
(purchasing additional agency mortgage-backed securities at a pace of $40 billion per month) 2. 従来措置と合わせて年末まで毎月約850億ドル分の市場への資金供給(These actions, which together will increase the Committee’s holdings of longer-term securities by about $85 billion each month through the end of the year) 3. 実 質 的 ゼ ロ 金 利 政 策 の 継 続 期 間 の 2 0 1 5 年 半 ば ま で の 半 年 先 延 ば し
(exceptionally low levels for the federal funds rate are likely to be warranted at least through mid-2015. 従来は 2014 年末だった) 問題は金融市場にはき出される資金の量がそれだけ多くなることは確かだとして、それ
が経済活動、企業活動の活発化に使われるかどうかです。FRB 組織に準備金として戻ってき
てしまったらなんの役にも立たない。FOMC 声明は以下の通りです。 Release Date: September 13, 2012 For immediate release Information received since the Federal Open Market Committee met in August suggests that economic activity has continued to expand at a moderate pace in recent months. Growth in employment has been slow, and the unemployment rate remains elevated. Household spending has continued to advance, but growth in business fixed investment appears to have slowed. The housing sector has shown some further signs of improvement, albeit from a depressed level. Inflation has been subdued, although the prices of some key commodities have increased recently. Longer-term inflation expectations have remained stable. Consistent with its statutory mandate, the Committee seeks to foster maximum employment and price stability. The Committee is concerned that, without further policy accommodation, economic growth might not be strong enough to generate sustained improvement in labor market conditions. Furthermore, strains in global financial markets continue to pose significant downside risks to the economic outlook. The Committee also anticipates that inflation over the medium term likely would run at or below its 2 percent objective. To support a stronger economic recovery and to help ensure that inflation, over time, is at the rate most consistent with its dual mandate, the Committee agreed today to increase policy accommodation by purchasing additional agency mortgage-backed securities at a pace of $40 billion per month. The Committee also will continue through the end of the year its program to extend the average maturity of its holdings of securities as announced in June, and it is maintaining its existing policy of reinvesting principal payments from its holdings of agency debt and agency mortgage-backed securities in agency mortgage-backed securities. These actions, which together will increase the Committee’s holdings of longer-term securities by about $85 billion each month through the end of the year, should put downward pressure on longer-term interest rates, support mortgage markets, and help to make broader financial conditions more accommodative. The Committee will closely monitor incoming information on economic and financial developments in coming months. If the outlook for the labor market does not improve substantially, the Committee will continue its purchases of agency mortgage-backed securities, undertake additional asset purchases, and employ its other policy tools as appropriate until such improvement is achieved in a context of price stability. In determining the size, pace, and composition of its asset purchases, the Committee will, as always, take appropriate account of the likely efficacy and costs of such purchases. To support continued progress toward maximum employment and price stability, the Committee expects that a highly accommodative stance of monetary policy will remain appropriate for a considerable time after the economic recovery strengthens. In particular, the Committee also decided today to keep the target range for the federal funds rate at 0 to 1/4 percent and currently anticipates that exceptionally low levels for the federal funds rate are likely to be warranted at least through mid-2015. Voting for the FOMC monetary policy action were: Ben S. Bernanke, Chairman; William C. Dudley, Vice Chairman; Elizabeth A. Duke; Dennis P. Lockhart; Sandra Pianalto; Jerome H. Powell; Sarah Bloom Raskin; Jeremy C. Stein; Daniel K. Tarullo; John C. Williams; and Janet L. Yellen. Voting against the action was Jeffrey M. Lacker, who opposed additional asset purchases and preferred to omit the description of the time period over which exceptionally low levels for the federal funds rate are likely to be warranted. — — — — — — — — — — — — — — 今週の主な予定は以下の通り。 9月17日(月) インド金融政策委員会 米9月NY連銀製造業景気指数 休場/東京、マレーシア 9月18日(火) 日銀金融政策決定会合(19日まで) 米9月NAHB住宅市場指数 エバンズ米シカゴ連銀総裁が講演 ダドリー米NY連銀総裁が講演 9月19日(水) 白川日銀総裁記者会見 米8月住宅着工件数 米8月中古住宅販売件数 ジョージ米カンザスシティ連銀総裁が講演 9月20日(木) 8月貿易統計 7月全産業活動指数 9月金融経済月報 8月全国百貨店売上高 8月コンビニエンスストア売上高 ユーロ圏9月PMI スペイン国債入札 米新規失業保険申請件数 米9月フィラデルフィア連銀製造業景気指数 米8月景気先行指数 フィッシャー米ダラス連銀総裁が講演 ローゼングレン米ボストン連銀総裁が講演 ロックハート米アトランタ連銀総裁が講演 9月21日(金) コチャラコタ米ミネアポリス連銀総裁が講演 ピアナルト米クリーブランド連銀総裁が講演 ブラード米セントルイス連銀総裁が講演 ロックハート米アトランタ連銀総裁が講演 《 have a nice week 》 二週間お休みを頂きましたが、皆さんいかがでしたか。相変わらずの暑さですが、さすが
に朝晩は秋の気配ですね。体調など崩されませんように。 私の夏休みは8月末から9月初めまでの約10日間に渡るしシルクロードの旅でした。
トルファン、ウルムチ、タシケント、それにサマルカンドなど。日本と全く環境が違う場所
で面白かったと同時に、日本という国について考える良い切っ掛けにもなりました。その点
などに関しては、また時間を見て取り上げたいと思います。 一つだけご報告しておきましょう。それは全く予想外なことに「野菜と果物が美味しかっ
た」ということです。特にウルムチ、トルファン、タシケントで。サマルカンドでは香草が
美味しかった。食事の最後は羊だったり、豚だったり、牛だったりの肉が出てくるのですが、
その前の野菜が美味しいこと。それに食事のあとの「ハミウリ」など果物。「なぜオアシス
都市の野菜や果物はこんなに美味しいのか、香り豊かなのか」と本当に考えさせられまし
た。 達した結論は「環境が厳しいから」。そもそも水が少ない。冬は長い。短い間に生きなけれ
ばならない。日中でも温度差がある。そういう環境の中では食物も一生懸命生きようとする。
生き延びようとする。瀬戸内海の流れが厳しいところの鯛が美味しいようなものです。 野菜、果物が美味しいこの地方のレストランですが、砂漠地帯の特有の天候故に、日本
ではあまり見られないレストラン形式を生んでいました。それは、「木の下レストラン」。木
は葡萄でも楡でもポプラでも何でも良い。昼は木漏れ陽の下で、夜は涼しげな緑の下、風が
吹き抜ける中で。 雨の確率は毎日非常に低い。だから、新疆でもここタシケントでも本当にその手のレスト
ランが多い。これがまた気持ち良いのです。また行きたいレストラン形式です。またレスト
ランにもちょっと大きな家にも、オープンの小上がりスペースが一つくらい庭にある。真ん
中にテーブル、周りは絨毯とクッション。囲いもあって子供も大丈夫。 一般の家ではそれが「くっちゃべりスペース」となっているのです。近所の人が来ても、
お客さんが来ても、その青天、木の下のスペースで食事をし、お茶を飲み、そして時には
寝る。夜は最高じゃないでしょうか。オアシスならではの時間の過ごし方です。 それでは皆さんには良い残りの一週間を。 《当「ニュース」は三井住友トラスト基礎研究所主席研究員の伊藤(E-mail ycaster@gol.com)の相
場見解を記したものであり、三井住友信託銀行の見通しとは必ずしも一致しません。本ニュースのデー
タは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。
また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的
としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し
上げます。》