PDFを開く - Kellogg`s Nutrition

Update
2016年 10月
No.126
健康寿命と朝食
2016年5月に世界保健機構(WHO)から発表された「世界保健統計2016」で、世界一の長寿国
は前年同様日本で、男女の平均寿命は83.7歳でした。この年齢は“平均寿命”と言われる、0歳の時に
何歳まで生きられるか、という年齢になります。寿命の考え方や算出方法にはいろいろありますが、その一
つに“健康寿命”があります。こちらは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を
指します。
日本は、平均寿命だけではなく、健康寿命も世界トップクラス*1ではありますが、平均寿命と健康寿命の
差は、男性で9歳、女性では12歳程度もあります*2。病気などにより、何等か生活に制限がある期間が
10年近くに及ぶともいえます。
「いつまでも元気で長生きしたい」これは誰もが思っていることかと思います。対策は、食事に配慮する、運
動をするなど、いろいろな方法が取り上げられていますが、これを食べれば、これをやれば、一発解決、と
いったものはありません。
今回の”Kellogg’s Update”では、朝食欠食と脳出血リスクに関する研究結果を発表された大阪大学
大学院医学研究科 磯博康教授と、骨や関節の健康と栄養について研究されている女子栄養大学
上西一弘教授から、成人期の健康や健康寿命についての知見をいただきました。
私が健康教育を行う時によく使うフレーズに「健康は一日にして成らず」というものがあるのですが、まさに、
「元気で長生き」は一日にして得られない、そんなことを考えさせられます。
※1厚生労働省 厚生労働白書
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/14/backdata/1-2-1-02.html
※2 厚生労働省 健康日本21(第二次)推進専門委員会資料
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf
日本ケロッグ栄養アドバイザー
博士(理学)・管理栄養士
田中恭子
– 特集記事 –
「朝食欠食が成人の健康に及ぼす影響」
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学教授
磯 博康
「カルシウムとビタミンD摂取の重要性」
女子栄養大学 栄養生理学研究室
上西 一弘
– 栄養・健康情報 –
Kellogg’s Updateは日本ケロッグ合同会社が1992年より発行している、栄養・健康情報誌です。2010年4月より、季刊で発行、
国内・海外の最新の話題を取り上げ、その分野の専門家の方々にご執筆頂いております。本誌内部の引用、転載は自由で
ございますが、ご使用の際は下記事務局にご一報いただき、“Kellogg’s Update (ケロッグアップデイト)”より転載の旨を御書き
添えいただければ誠に幸甚に存じます。
日本ケロッグ合同会社
日本ケロッグ WEBサイト:http://www.kelloggs.jp
Kellogg’s Update WEBサイト:https://www.kelloggsnutrition.com/ja_JP/home.html
<Kellogg’s Updateに関するお問い合わせ先>
Kellogg’s Update事務局(ブルーカレント・ジャパン株式会社)
TEL: 03-6204-4141
E-mail: [email protected]
Update
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1
朝食欠食が成人の健康に及ぼす影響
Update
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学教授
磯 博康
Hiroyasu Iso
1.朝食摂取回数と脳出血のリスクとの関連に
特に脳出血に関しては、朝食の摂取回数とその発
ついての疫学研究
症リスクとの間に、負の量-反応関係がみられた。
朝食を欠食すると循環器疾患のリスク因子である
すなわち、朝食を毎日摂取する群に比べて、脳出
肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病になり易くな
血の発症リスクは週に5~6回摂取する群で10%、
ることがこれまでの研究で示されてきた。しかし、朝食
週に3~4回摂取する群で22%、週に0~2回摂
欠食によって循環器疾患自体の発症リスクが上昇
取する群で36%、高くなった。
するかについては、これまでほとんど研究されておらず、
特に脳卒中に関する検討は皆無であった。そこで、
朝食欠食と脳卒中および虚血性心疾患との関係
を、一般住民を対象として長期間追跡を行うコホー
ト研究により検討した。対象者は、1995年に、岩
手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中
部、1998年に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知
県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健
所(呼称は2015年現在)管内在住の45~74
歳男女のうち、循環器疾患およびがんの既往がなく、
3.朝食欠食が脳出血のリスクを上昇させる理由
生活習慣等に関するアンケート調査で朝食に関す
最大血圧値は、正常血圧の人では、就寝から起床
る項目に回答した82,772人(男性38,676人、
前は70~80mmHg程度と低いが、目覚める1時
女性44,096人)である 1)。
間ほど前から朝起きて活動する準備をするため徐々
に上昇し、起床後2~3時間ほどでピークを迎え、
2.本研究から分かったこと
そして就寝に向けて徐々に下がっていくという、サーカ
1週間あたりの朝食摂取回数に関する質問項目
ディアンリズム(24時間の生体リズム)を呈する。
への回答から、「週に0~2回」、「週に3~4回」、
正常血圧以外の人でも血圧のレベルには差はあれ、
「週に5~6回」および「毎日」という4つの群に分けて、
一部の例外を除いて同様なリズムを呈する。
その後の脳卒中並びに虚血性心疾患の発症との
このサーカディアンリズムは、副腎皮質から分泌され
関連を分析した。2010年まで発症の追跡調査を
糖代謝・血圧などに関わるコルチゾールと呼ばれるホ
行った結果、朝食を週に0~2回摂取する群は、毎
ルモンが関与する。コルチゾールは、肝臓にあるグリ
日摂取する群と比較して、循環器疾患の発症リス
コーゲンを分解して血糖を生成すると共に、血圧値
クは、脳卒中と虚血性心疾患を合わせた循環器疾
を上げる働きをする。日常生活において身体が起き
患で14%、脳卒中全体で18%、脳出血で36%、
て活動する状態を整える上で大切なホルモンと言え
高かった(図)。
る。
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2
朝食を摂ることで、胃腸や肝臓が活動をはじめて、
それほど大きく血糖値を上げなくてもよいというシグナ
ルが脳に送られ、脳からの副腎皮質刺激ホルモンの
本研究において、脳梗塞に関してはその発症数は多
かったが、朝の血圧上昇は脳出血ほど重要な因子で
はないこと3)がその理由して考えられる。
Update
分泌が若干抑えられ、その結果コルチゾールの分泌
が若干抑えられて、結果として血圧の上昇も抑えら
れる。反対に朝食を欠食すると、コルチゾールがより
多く分泌され、血圧を押し上げることにつながる。朝
食を摂ることで、朝の最大血圧の上昇が5~
10mmHg抑えられることがヒトを対象としたオースト
ラリアでの研究で証明されている 2) 。一方で、脳出
血の最大の原因は高血圧で、朝の血圧上昇が脳
出血の発症リスクの上昇に関与していることが日本
人の疫学研究によって明らかにされている 3) 。した
がって、朝食欠食が、起床時の血圧上昇を介して、
脳出血のリスクを高めることとなる。
5. 望ましい朝食のタイミングと内容
朝食を摂るタイミングは、朝の血圧上昇は起床後2
~3時間ほどでピークを迎えるため、その前に摂ること
が薦められる。それ以降の食事は血圧上昇のピーク
後であるため、血圧上昇抑制効果は少ないと推測さ
れる。血圧を上昇させる食事成分は、第一にナトリウ
ム(食塩)の摂取過多である。一方、カリウムやカル
シウムはナトリウムを尿として体外に排出を促進する
作用があるため、それらの摂取不足が血圧上昇に働
く。カリウムは野菜や果物に多く含まれているため、そ
れらの適量摂取が薦められる。カルシウムは水に溶け
にくいため、小魚、野菜等のカルシウムは小腸からの
4.本研究から分かったこと
本研究は、世界で初めて朝食欠食と脳出血のリス
ク上昇との関連を示したコホート研究である。これま
で、朝食欠食は子どもや学生の集中力が低下して
吸収率は25%前後と低いが、牛乳・乳製品からのカ
ルシウムはタンパク質と結びついた状態で吸収される
ため、その吸収率は約50%と高く、そのため牛乳・乳
製品の適量摂取が薦められる。
成績に影響することが指摘されてきたが、今回の研
究で、成人であっても朝食欠食が長く続くと、脳出
血の発症リスクが上昇する可能性が明らかになった。
このことは、若いうちから朝食欠食の習慣がつくと、そ
れが壮年・中年期以降も続くことで脳出血のリスク
上昇につながる危険性を示しており、朝食欠食の習
慣を是正することの重要性を示した研究と言える。
一方で、朝食欠食とくも膜下出血、脳梗塞および
虚血性心疾患との関連は見られなかった。この理由
として、くも膜下出血および虚血性心疾患に関して
は、発症者数が少なかったこと(特に虚血性心疾
患の発症率は欧米に比べて非常に少ないのが日本
人の特徴)から、統計的な解析力が十分ではな
かったことがその理由の一つとして挙げられる。米ハー
カルシウムは、日本人が不足しやすい代表的な栄
養素である。カルシウムは骨の主要な構成成分で
あり、骨代謝に維持に大切な栄養素であると共に、
血圧値の低下 5)
6) 、脳卒中(脳出血、脳梗塞)
の発症リスクの低下7)
8)に関与することが日本人の
疫学研究により示されている。
朝食は和食、洋食のどちらが良いかについて、現時
点ではどちらが優れていると判断できるエビデンスはな
い。和食は一般的にごはん・麺類を主食として、主菜
として肉類よりも魚介類、副菜として多様な野菜類
が特長を有するが、ともすると食塩の摂取過多、カル
シウムの摂取不足、タンパク質の摂取不足に陥りや
すい欠点がある。
バード大学が実施した大規模な観察研究では、朝
食欠食と虚血性心疾患の発症リスクとの関連が報
告されている4)。
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洋食は一般的にタンパク質の摂取には好都合であ
な食品や食品の組み合わせを考慮して食事をとるこ
るが、肉の脂や植物性油の摂取が多くなり、そのた
とが重要である。
め血中のコレステロール上昇に働く飽和脂肪の摂取
また、一日の食事の中でバランスよく栄養素を摂る
過多や、エネルギー過多、栄養バランスの偏重につ
ため、たとえ朝食である栄養成分が不足しても、昼
ながり易いという欠点がある。
食や夕食で補う、逆に、昼食や夕食で不足したもの
そのため、油脂がほとんど含まれず食物繊維・ビタ
は、朝食で補うという工夫も大切である。
ミンの豊富なシリアルに牛乳という組み合わせは、
今回の研究結果は、朝食を摂り、和食と洋食それ
朝食の一つの選択肢と考えられる。結論として、和
ぞれの欠点を補いつつバランスよい食事を摂る習慣
食、洋食の両者の長所を有し短所を避けられるよう
を長年持ち続けることで、脳出血のリスクを低下させ
ることを支持するエビデンスと言える。
<参考文献>
1) Kubota Y, Iso H, Sawada N, Tsugane S.Association of Breakfast Intake With Incident Stroke and Coronary Heart
Disease: The Japan Public Health Center-Based Study. Stroke. 2016;47:477-81.
2) Ahuja KD, Robertson IK, Ball MJ. Acute effects of food on postprandial blood pressure and measures of arterial
stiffness in healthy humans. Am J Clin Nutr. 2009;90:298-303.
3) Metoki N, Okubo T, Kikuya M, Asayama K, Obara T, Hashimoto J, et al. Prognostic significance for stroke of a
morning pressor surge and nocturnal blood pressure decline. The Ohasama Study. Hypertension. 2006;47:149-154.
4) Cahill LE, Chiuve SE, Mekary RA, Jensen MK, Flint AJ, Hu FB, Rimm EB. A prospective study of breakfast eating and
Incident coronary heart disease in a cohort of male U.S. health professionals. Circulation. 2013; 128: 337–43.
5) Iso H, Shimamoto T, Naito Y, Sato S, Kitamura A, Iida M, et al. Effects of a long-term hypertension control
program on stroke incidence and prevalence in a rural community in northeastern Japan. Stroke. 1998;29:1510-8.
6) Iso H, Terao A, Kitamura A, Sato S, Naito Y, Kiyama M, et al.Calcium intake and blood pressure in seven Japanese
populations. Am J Epidemiol. 1991;133:776-83.
7) Umesawa M, Iso H, Date C, Yamamoto A, Toyoshima H, Watanabe Y, et al. Dietary intake of calcium in relation to
mortality from cardiovascular disease: the JACC Study. Stroke. 2006;37:20-6..
8) Umesawa M, Iso H, Ishihara J, Saito I, Kokubo Y, Inoue M, Tsugane S. Dietary calcium intake and risks of stroke,
its subtypes, and coronary heart disease in Japanese: the JPHC Study Cohort I. Stroke. 2008;39:2449-56.
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磯 博康(いそ ひろやす)先生プロフィール
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学教授
米国ミネソタ大学大学院修士課程公衆衛生学疫学専攻修了。
修了後は、米国ミネソタ大学公衆衛生学疫学 研究員や、大阪成人病センター集団検診I部
技術吏員、筑波大学大学院教授などを経て、2005年7月より現職。また、2010年9月より環境
省エコチル調査 大阪ユニットセンター長、2015年4月より厚生労働省戦略研究 研究リーダーに
も着任。
学会活動にて日本疫学会理事長、日本公衆衛生学会理事・庶務担当、日本循環器学会
Circulation Journal 編集委員および予防部会長などを務める。
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「カルシウムとビタミンD摂取の重要性」
Update
女子栄養大学 栄養生理学研究室
上西 一弘
Kazuhiro Uenishi
はじめに
カルシウムとビタミンDは私たちの骨の健康を考えた
時に特に重要となる栄養素です。多くの人が、骨粗
鬆症の予防のためには骨を強く(骨密度を高め)
することが重要であることは知っていると思います。ま
た、そのためにはカルシウムの摂取量を増やすことが
大切であることも認識しているはずです。しかし、日
本人のカルシウム摂取量は少なく、近年、さらに減
少傾向にあります。今回はカルシウムとともに骨の健
康に関わるビタミンDについて、その摂取の重要性と
課題について紹介します。
カルシウムをどれくらい摂取しているかを知ること
は重要です。表1は臨床の現場でも使用されてい
る、カルシウム自己チェック表です。簡単に日常の
カルシウム摂取状況を推定することができます。日
常的な食事を思い浮かべて、1回の摂取量につ
いてはあまり気にせずに回答してみてください。合
計点数を40倍したものがカルシウム摂取量の推
定値となります。ちなみに、20点が800mg、16
点が640mgとなります。点数が低かった人は、い
ずれか、改善しやすい項目から取り組んでみては
いかがでしょうか。
カルシウムの摂取について
平成26年の国民健康・栄養調査の結果をみると
図1 カルシウム摂取量の経時変化
カルシウムの摂取量は国民1人1日あたり、497mg
と500mgを下回ってしまいました(図1)。この摂
取レベルは1970年代と同様です。性別に見ると、
男性では516mg、女性では480mgと女性の摂
取量がより少なくなっています。女性は男性よりも体
格が小さく、エネルギー摂取量も少ないということもあ
りますが、骨粗鬆症が女性に多いことを考えると、重
要な課題と考えられます。ちなみに「日本人の食事
摂取基準(2015年版)」では、カルシウムの摂取
基準で女性(15歳以上)の1日推奨量は650㎎
となっていますが、こちらの数値を大きく下回っていま
す 。また 、「骨 粗鬆 症 の予防 と治 療ガイドライ ン
2015年版」ではカルシウムの推奨摂取量は700~
800mgとされています。
カルシウム摂取量が減少してきている理由は、食
事摂取量全体が減少していることもありますが、牛
乳・乳製品摂取量の減少が大きく影響しているとい
えます。
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表1カルシウムチェック表
一見するとビタミンDの不足は見られないようにも思
います。しかし、年齢別に細かく見てみると、女性15
Update
~19歳5.5μg、20~29歳5.8μg、30~39歳
5.2μg、40~49歳5.4μgと、必ずしも十分ではな
いことがうかがえます。また、ビタミンDの栄養状態は、
ビタミンDの代謝物である、血中の25(OH)ビタミン
Dで評価しますが、実際にこの値を調べてみると、日
本人、特に女性にはビタミンDの栄養状態が悪い人
が多いことが分かってきました。
現在の摂取基準値である5.5µg/日という値が、海
石井他 Osteoporosis Japan 2005;13;497-502
外の値に比べると低いこと、ビタミンDの主要な供給
源である魚の摂取量が減少、とりわけ若い年齢層
ビタミンDの摂取について
で減少してきていることが理由の一つとして考えられ
ビタミンDは4つの脂溶性のビタミン中の1つです(残
ます。また、近年の過度の紫外線対策も皮膚でのビ
りは、A、E、Kです)。主にカルシウムの吸収・利用に
タ ミ ン D 合 成 を 減 少 さ せ てい る と 考 え ら れ ま す 。
関与しており、骨の健康のために重要です。食事から
ビタミンD摂取量を増やすこと、適度な紫外線曝露
の供給とともに、紫外線があたることで皮膚でも合成
が必要です。
されるという特徴を持っています。
ビタミンDは、近年、骨の健康だけではなく、筋肉
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、
量、筋力の維持にも関わっていることが報告されてき
ビタミンDの成人(18歳以上)の摂取目安量は1日
ています。骨と筋肉、ロコモティブシンドロームの予防
5.5µgです。なお、目安量というのは、推定平均必
と改善のためにもビタミンDの摂取について考えるよう
要量及び推奨量を算定するのに十分な科学的根拠
にしましょう。
が得られない場合に、国民健康・栄養調査結果など
をもとに算定される指標で、特定の集団の人々があ
る一定の栄養状態を維持するのに十分な量と考えら
れます。平成26年の国民健康・栄養調査の結果を
<参考文献>
厚生労働省 平成26年「国民健康・栄養調査」の結果
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h26houkoku.html
みると、ビタミンDの摂取量は、1人1日あたり、
厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2015年版)
7.7µg、男性(総数)で7.7µg、女性(総数)で
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000041824.html
6.7µgと、いずれも目安量は上回っていますので、
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
http://www.josteo.com/ja/guideline/index.html
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上西 一弘(うえにし かずひろ)先生プロフィール
女子栄養大学 栄養生理学研究室 教授、管理栄養士、博士(栄養学)
1986年 徳島大学大学院栄養学研究科 修士課程修了
雪印乳業生物科学研究所を経て、1991年に現在の女子栄養大学に勤務
2006年4月より現職
専門は栄養生理学、とくにヒトを対象としたカルシウムの吸収・利用に関する研究、骨の健康と栄
養など。
日本人の食事摂取基準2005年版、2010年版、2015年版策定ワーキングメンバー(ミネラ
ル)
Update
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会委員
No.126
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栄養・健康情報
食や健康づくりの専門家が考える、アクティブシニアに必要な栄養*1
きわめて速いスピードで超高齢化が進む日本。健康寿命の延伸のためにはロコモティブシンドローム(加齢に伴
い、筋肉・骨・関節の3つの部位に支障をきたし、日常生活が困難になり、悪化すると要介護・寝たきりになる現
象)やサルコぺニア(ギリシャ語:サルコ<筋肉>とぺニア<減少>の造語で、筋量の低下を特徴とする症候
群)といった虚弱化対策も欠かせません。しかし一方で、食や栄養の観点からの対策についてはまだ情報も少ない
のが現状です。“アクティブシニア「食と栄養」研究会”はロコモティブシンドロームやサルコペニアの予防や改善を通じ
てシニアのQOL(Quality of Life)の向上に寄与するため設立され、専門家、協賛会員、食や栄養の専門家
等の会員(プロシューマー会員*2)からなっており、会員にむけての情報やレシピの提供等を行っています。
ここでは、同研究会がプロシューマー会員にむけて、シニアに必要な栄養についてのアンケートを行った結果の一部
をご紹介します。
+++++++++++++++++++++++++++++++++ ++++ ++++
【以下、プロシューマー会員アンケート集計結果より抜粋】
<対象>
アクティブシニア「食と栄養」研究会 プロシューマー会員
登録時アンケート協力欄「Yes」回答者約400名のうち118名
<質問項目>
・シニアの食と栄養への意識について 6項目
・研究会がホームページ等で発信している情報について 5項目
・仕事をする上での情報収集について 2項目
<結果(抜粋)>
・シニアの健康維持に必要にもかかわらず、不足していると思う栄養素や機能成分は何ですか?
1位:タンパク質、2位:ビタミン、3位:ミネラル、4位:食物繊維、5位:脂質
追加設問:ビタミンを選択した場合の具体的な種類は? 1位:ビタミンD
ミネラルを選択した場合の具体的な種類は? 1位:カルシウム
・シニアの健康維持のために注目している栄養素や機能成分は何ですか?
1位:タンパク質、2位:ミネラル、3位:食物繊維、4位:ビタミン、5位:乳酸菌
追加設問:ビタミンを選択した場合の具体的な種類は? 1位:ビタミンD
ミネラルを選択した場合の具体的な種類は? 1位:カルシウム
+++++++++++++++++++++++++++++++ +++++ +++++
食や栄養の専門家がシニアに対して注目している栄養素のトップは「タンパク質」でした。不足していると思う栄養素
ならびに注目している栄養素のトップ5に入っていたビタミンとミネラルの中では、「ビタミンDとカルシウム」と専門家なら
ではの回答でした。注目している成分として、食物繊維と乳酸菌が上がってきたのは、最近とても注目を浴びている
「腸内環境の改善」による健康増進効果が影響しているのでしょうか。
*1 アクティブシニア「食と栄養」研究会 プロシューマー会員アンケート集計結果より
*2 アクティブシニア「食と栄養」研究会 プロシューマー会員登録は同研究会HPから行えます。https://activesenior-f-and-n.com/
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栄養・健康情報
シリアルの摂取と全死亡率、原因別死亡率の関係*3
欧米では日本で食べられているグラノラやコーンフレークなどのシリアルを”Ready-to-Eat Cereal”(RTEC:す
ぐに食べられるシリアル)と呼び、主に朝食の主食として非常になじみ深いものとして生活に根付いています。
さて、このRTECの摂取が冠動脈疾患や2型糖尿病、特定のがんなどのリスク要因として逆相関するということが
知られていますが、全死亡率や原因別死亡率との関連については不明なままでした。今回紹介する論文は、アメリ
カで30万人以上の追跡調査を行い、死亡率とRTECの摂取の関連を検討したものです。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++ +++++ +
【以下、本文より抜粋】
<方法>
アメリカ国立衛生研究所が行う、全米退職者協会における食事、健康調査の登録者(50歳から71
歳の約56万人)のうち1995年および1997年にメールでの質問に回答が得られ、かつ、回答が不十分、
その時点でがん、心疾患、糖尿病などの病気がある者を除外した対象者(約36万人)について、約
14年間の追跡調査を行い、RTECの摂取状況との関連を調べた。
<結果・結論>
約14年の追跡期間中に46,067名の死亡が報告された。
RTECの消費は全死亡リスク、冠動脈疾患および糖尿病による死亡リスク、全がん死亡リスク、消化器
官死亡リスク減少と有意に相関していた。
RTEC非摂取群とRTEC摂取群を比較すると、RTEC摂取群は全死亡リスクで15%、各種疾患別で
は10~30%、死亡リスクが低かった。RTEC摂取群の中で、RTECの1日あたり摂取量で4群に分けて
比較を行ったところ、RTEC摂取量が多くなるほど食物繊維摂取量が増加し、食物繊維の摂取量に、
全死亡リスク、冠動脈疾患および糖尿病による死亡リスク、全がん死亡リスク、消化器官ならびに呼吸
器疾患による死亡リスクの減少との相関がみられた。RTECの摂取は、食物繊維の摂取量増加を介し
て死亡率の低下に関与していると考えられる。
+++++++++++++++++++++++++++++++ ++++ ++++++
この調査は、スタート時の年齢が最も若くても50歳からのため、それまでの生活習慣などが影響しているのでは?
と思われる方が多いかもしれませんが、少なくとも調査開始時点での身体状況や身体活動の有無・頻度、食事か
らのエネルギー摂取量、野菜、果物、肉の摂取量などを把握しており、死亡率はそれらの要因をすべて調整して比
較しています。この結果から、「○○を食べれば長生きできる」、といった一足飛びな考えを導くべきではありませんが、
RTECが“日常的に食べる食品”として根付いているアメリカでは、RTECの摂取が、食物繊維の摂取量の増加など
とも関連しながら、結果的に健康に寄与しているのだろうと思われます。
※3 Min Xu, et al: Ready-to-Eat Cereal consumption with total and cause-specific
mortality: Prospective analysis of 367,442 individuals. J Am College of Nutrition 2016;
35, 217-223
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