酸素同位体比 - 日本大学文理学部地理学科

地理誌叢 Vol.55 No. 2 pp.16∼36 (2014―2)
酸素同位体比(δ18O)分析から推論される
MIS-11 以降における海成段丘の形成期
― 既存研究のレビューと提言 ―
小元 久仁夫*
して 50 個の 14C 年代にもとづき, 15,000 年前から
Ϩࠉ研究の背景と研究目的
現在に至るまでの海水準変動を著書「 Glacial and
1.はじめに
Quaternary Geology 」の中で紹介している( p.326,
海水準は地形学において,究極の侵食基準面と
Figure 12・3 および 12・4)。
して海岸地形の形成や発達を規制し,地形面の対
比・地盤運動の有無や変位量などを検出する上で
2.酸素同位体比分析による海水準変動の研究
重要な指標である。海水準が潮汐作用や気圧変化
地形学や地質学的な野外調査を中心とする海水
などにより局所的に,また短周期で変化すること
準 変 動 の 研 究 に, 深 海 底 堆 積 物 の 安 定 同 位 体
は経験的に広く知られていた。しかし海水準が汎
(δ18O )を分析し,その結果にもとづき海水準変
世界的規模で中期更新世以降にくり返し変化して
動を論ずる研究手法が導入されるようになったの
きたことや,変動量が 100 m をこえる規模に達し
は第二次世界大戦以降である。Emiliani( 1966 )
ていたことが明らかにされたのは 19 世紀以降で
はカリブ海中央部から採取した有孔虫殻の
ある。すなわち Maclaren( 1841 )は海水準が第四
18
紀の気候変動にともない,氷河の拡大・縮小によ
期と温暖期が交互に存在したことを指摘した。
O/16O を分析し,第四紀に少なくとも 4 回の寒冷
り変化したと考え, これを「氷河性海水準変動
また Dansgaard et al.( 1969, 1971 )はグリーン
( glacio-eustatic sea-level change )」とよんだ。こ
ランドのキャンプ・センチュリー
(Camp Century)
の概念は Shepard and Suess( 1956 )により約 1 世
から採取した氷床のアイス・コアについてδ18O
紀後に実証された。一方, Kuenen(1950)は局地
の分析を行い,その変化が時系列的に気候変化の
的な隆起や沈降によらない汎世界的な海水準変動
記録と整合することを報告した。その後,深海底
を「eustatic change in sea-level」とよんだ。
堆積物や氷床のアイス・ コアのδ18O の変化が,
海水準変動の研究にとって旧汀線標高の認定と
汎世界的な規模の気候変動を反映していることが
正確な変動時期の決定はきわめて重要である。海
各地から次々に報告された。その結果,今日では
水準変動の研究を加速したのは Libby( 1955 )に
更新世の気候変化が深海底堆積物の有孔虫殻のδ
よって考案された 14C 年代測定法の導入であった。
18
従来相対年代でしか表示できなかった地質(経
極やグリーンランドの氷床のアイス・コアにも記
14
O の変化として記録されているだけでなく,南
過)年代が C 年代という数値年代で表示される
録されていることが明らかになった。特に氷床の
ようになった。Flint( 1964 )はこの時間尺を使用
アイス・コアにはδ18O の変化ばかりでなく,重
キーワード:酸素同位体比(δ18O)分析,氷期と間氷期,海水準変動,海成段丘,更新世
* 元日本大学文理学部
― ―
16
酸素同位体比分析から推論される海成段丘の形成期
水素(δD)
,メタン, CO2, Ca2+,36Cl,火山灰や
地質学的証拠により, その復元が試みられてき
微粒子数などの時系列変化が「タイムカプセル」
た。
となって記録されている( Kawamura et al. 2003;
Lea et al., 2002; Thompson et al. 1981;ほか多数)
。
18
間氷期と氷期でδ O がどのように変化するか,
3.海水準変動の地形・地質学的証拠
気候変動にともない寒冷期には氷床や山岳氷河
そのメカニズムについて図 1 で説明する。( a )は
が形成され拡大した結果,海水準は低下した。一
間氷期を示し,海洋から蒸発した水蒸気が陸地で
方,温暖期には氷床や山岳氷河が融解した結果,
降水となり流出し,ふたたび海洋に戻る過程を示
海水準は上昇した。このような海水準変動が中期
16
している。このため間氷期には O の循環は順調
更新世以降たびたびくり返されてきたことが地形
であり海水準が大きく低下するような変動は起こ
や堆積物に記録されている。すなわち間氷期の高
らない。一方( b )は氷期を示し,海洋から蒸発
海水準期に形成された海成段丘・離水ノッチ・離
した水蒸気は降雪となって中・高緯度の陸地に氷
水ベンチなどはその良い証拠である。また氷期の
16
河や氷床となって貯蔵され, O の海洋への流出
海面低下にともなって形成された埋没段丘・埋没
量は僅かとなる。この結果,海水準は低下し,海
谷・海底谷なども良い地形学的証拠である。
洋水に含まれる 16O の 18O に対する濃度は低くな
18
16
り, O/ O の割合が大きく変化する。
さらに,沖積層や海成段丘堆積物などの中にも
地質学的証拠が残されている。 沖積層の研究で
18
このようなδ O の変化は標準試料( SMOW )
は,堆積物の中から過去の海水準変動と関連する
試料(貝化石・化石サンゴ・珪藻・有孔虫・泥炭
からの偏差値として,
など)を採取し,その深度と 14C 年代から古環境
δ 18O=〔 {( 18O/ 16O )SAMPLE -( 18O/ 16O )SMOW }/
18
16
( O/ O)SMOW 〕× 1,000(‰)と表示される。
や海水準変動が復元された(小元・大内, 1978;
ほか多数)。また日本では海成段丘堆積物を被覆
する広域テフラの降下年代を使用して海成段丘の
18
以上記載したように,海水準変動とδ O の変
形成年代や海水準を推定した研究が行われた(町
化は相互に密接な因果関係がある。このため海水
田, 1971;町田ほか, 1974;町田 1991;ほか多
準変動の研究は,深海底堆積物や氷床のアイス・
数)。
18
コアのδ O の分析結果と,次に述べる地形学的・
海成段丘は海水準の安定期を経て,海面の急激
図 1 氷期―間氷期における 16O の移動
Siegert, 2001: p.12, Fig.2.1 より転載。
Fig.1 Schematic transfer process of 16O in ice core between glacial period and inter-glacial period (reprinted
from Siegert, 2001: p.12, Fig. 2.1).
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地 理 誌 叢 第 55 巻 第 2 号(2014)
な低下あるいは陸地の急激な隆起により,海面下
りである。しかし氷期―間氷期における気温変化
に形成されていた波食台または海食台が離水する
や氷床表面の標高変化にともない,積雪のδ18O
ことによって形成される。このため海成段丘は海
も変化するため(Mix and Ruddiman, 1984;後述),
水準変動を示す証拠であり,野外で観察可能なた
これを補正した分析結果の使用が 2000 年以降重
め多くの研究者によって研究対象とされた。
視されてきた。
よって本論では従来の研究成果を踏まえて,
4.研究目的と研究方法
2000 年以降に発表された中期更新世以降のδ18O
第二次世界大戦後,質量分析装置をはじめ各種
分析結果に関する研究資料を収集し分析した。そ
の分析機器や年代測定装置の開発と改良が行われ
の着眼点は,
『海水準が変化した年代はδ18O が大
てきた。一方,南極大陸やグリーンランドの雪氷
きく変化した年代と同期する』という考えに立脚
学的調査が進み( Denton and Hughes, 1981; Reeh,
するものであり,『この年代が海成段丘形成の契
1989 )
,氷河地形やアイス・コアの分析結果に関
機(離水年代)となり得る』という解釈にもとづ
する多くの研究資料(Siegert,2001 および本論で
いている。すなわち「間氷期から氷期に入り,海
取り上げた文献など多数)が蓄積されてきた。
水準は次第に低下したが,その間に海水準が一次
海水準変動に伴う海成段丘の形成過程を解明す
的に停滞したり,上昇後低下したりした際に,離
るためには,海水準変動に関する正確な年代・規
水した波食台や海食台が海成段丘形成の出発点に
模・ 旧 汀 線 標 高 などの 資 料 収 集 が 不 可 欠 であ
なる」と考えた。離水後に海水準が上昇したとし
る . 汎世界的な気候変動により生じた海水準変動
ても,それを上回る隆起が継続されれば,先に離
18
が海底堆積物や氷床のアイス・コアのδ O の変
水した波食台や海食台は海成段丘となって残存す
化として記録されていることは前節で紹介した通
る筈である。このような海成段丘の形成過程に照
図 2 南極「ドームふじ」から採取した氷床のアイス・コアの分析結果
Kawamura et al. 2003:p. 80, Fig.4 より転載。
上線:CO2 濃度。下線:酸素同位体比(δ18O)。
Fig.2 Isotope analysis of ice core collected from Dome Fuji, East Antarctica (reprinted from Kawamura et al.
2003:p. 80, Fig. 4).
Upper panel: carbon dioxide, Lower panel: Oxygen isotope (δ18O).
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18
酸素同位体比分析から推論される海成段丘の形成期
準を合わせて最終間氷期までと,最終間氷期以前
動を示しているが,δ18O について移動平均を行
に形成された海成段丘の年代をδ18O の分析結果
い「なめらかな曲線」で表示してある点が注目さ
にもとづき描かれたグラフから抽出した。離水年
れる。
代は, 後掲の海水準変動図を拡大して読み取っ
次にグリーンランド氷床のアイス・コアについ
た。そして海成段丘が形成される条件(平均隆起
て分析した結果(Wolff et al. 2010)を図 5 に示す。
量)について考察した。
このグラフからδ18O が短周期で 25 回大きく変化
この想定が成立するためには,海水準の低下量
したことが認められる。この現象は発見者の名を
を上回る地盤の隆起が必要である。そこで太平洋
とって「 Dansgaard-Oeschger events 」と名付けら
プレート・ 北アメリカプレート・ ユーラシアプ
れている。このイベントは短期間に生じた急激な
レートおよびフィリピン海プレートがせめぎ合っ
δ18O の変化を示している。
ている関東南部は,この構想を検証する上で適し
(2)サンゴ礁および深海底堆積物
たフィールドであると考えた。これを踏まえて本
前項に続きサンゴ礁と深海底堆積物のδ18O 分
論の最後に,中期更新世以降に形成されたと推論
析結果と,海水準変動に関する資料を紹介する。
した海成段丘の形成年代を,これまで先学によっ
図 6 は Muhs et al.( 2011 )がフロリダ半島のキー
て明らかにされた関東南部の地形面の形成年代と
ス・サンゴ礁(Keys Reef)から採取した化石サン
対比し,両者の整合性について検討した。
ゴのボーリング・コアを試料として行った,δ18O
分析結果( Fig.13 )を示している。上図は高海水
ϩࠉ資料と分析結果
準時を示す陸上から採取した試料の標高と,ボー
1.資料
(1)氷床のアイス・コア
リ ン グ 試 料 の 深 度 と 年 代 を 示 す。 また 下 図 は
Rohling et al.( 2009 )が紅海から採取した試料の
南極氷床から採取したアイス・ コアについて
δ18O 分析結果(赤線)と, Lea et al.( 2002 )が太
18
δ O の分析を行った研究例は多い。その中から
平洋東部の Cocos Ridge から採取した試料のδ18O
2000 年以降に発表された文献から「ドームふじ」
分析結果(青線)を示している。二つの分析曲線
のボーリング・ コアについて分析した渡辺ほか
に示されたδ18O の変動パターンと海水準変動図
(2002)
, Watanabe et al.( 2003)および Kawamura
には差異が認められる。
et al.( 2003 )の 3 報告について検討した。そして
次に David et al.( 2002 ) および Waelbroeck et
Kawamura et al.( 2003)の Fig.4 を取り上げた。図
al.( 2002 )の 2 論文から,後者の Fig.1 を紹介す
2 は南極「ドーム ふじ」から採取した氷床のアイ
る。 図 7 はサンゴ礁のボーリング・ コアのδ18O
ス・コアについて,過去 32 万年間の CO2(上図)
分析結果と, 北大西洋から採取された海底コア
18
とδ O(下図)を分析した時系列変化を示してい
18
(NA 87-22/25)および太平洋から採取した海底コ
る。CO2 の分析試料数はδ O 分析試料より少な
ア( V19-30 )の底棲有孔虫について行ったδ18O 分
いが, 両者の時系列変化はきわめて類似してい
析結果を示している。詳細にグラフをみれば多少
る。
の「時間的なずれ」は認められるものの,北大西
さらに氷床のアイス・コアの分析資料として南
極ヴォストーク基地から採取した氷床のアイス・
洋と太平洋から採取した海底堆積物のδ18O 分析
結果は類似した時系列変化を示している。
コアのδ18O 分析結果を図 3 および図 4 に紹介す
Chappell and Shackleton( 1986 )や Shackleton
る。図 3(上図)には氷期と間氷期を通じて変化
( 1987 )の論文は,δ18O と海水準変動の関連を報
したボーリング地点の気温や氷床表面標高の補正
告した先駆的な研究成果であり,これまで多くの
量が示されている。また図 4(下図)は海水準変
研究者によって引用されてきた。本研究では最近
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地 理 誌 叢 第 55 巻 第 2 号(2014)
図 3(上)および
図 4(下) 南極ヴォストーク基地から採取した氷床コアの解析結果
Huybrechts, 2002:p.207, Fig.1 より転載。
図 3:温度および高度変化。図 4:海水準変動。時間尺は ka(1,000 年)単位。
Fig.3 (upper) and
Fig.4 (lower) Result of isotope analysis of ice core collected from Vostock station, East Antarctica (Reprinted
from Huybrechts, 2002:p.207, Fig.1) .
Upper panel (Fig.3): Temperature and elevation change. Lower panel (Fig.4): Sea-level change.
Time scale is expressed with ka unit.
の研究成果として Bowen(2010)の論文を紹介す
読み取ることができる。このような海水準の変化
る(後述)
。
を示す図上でδ18O が下降から上昇に転じ,ふた
たび下降した時のピークを示す年代が海成段丘を
2.分析結果
(1)離水時期の判定
形成する契機となった離水期と判断し,その年代
と海水準を読み取った。なおδ18O の変動が著し
海水準は最終間氷期以降,一様な速度で低下し
続けたのではない。海水準は一次的な気候の温暖
い MIS-2 から MIS-3 の区間については Wolff et al.
(2010)の図 3 および図 4 を併用した。
化と,その後の寒冷化にともなって上昇と下降を
図 5 を見るとδ18O は短期間で顕著な変化を示
繰り返したことが,これまでに紹介した各図から
し,その振幅も大きい。この原因として 「氷床や
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酸素同位体比分析から推論される海成段丘の形成期
図 5 グリーンランド氷床コアの酸素同位体比分析結果( reprinted from Wolff et al. 2010:p.2,839, upper
part of Fig.1)
図中の数字は Dansgaard-Oeschger events を示す。MIS 1∼MIS 5 は安定同位体ステージ番号(奇数
が寒冷期,偶数が温暖期)。
Fig.5 Isotope analysis of ice core collected from Greenland Ice Sheet (reprinted from Wolff et al. 2010:
p.2,839, upper part of Fig.1 ).
Figures in the graph indicate Dansgaard-Oeschger events. MIS 1∼MIS 5 indicate marine isotope
stage numbers.
図 6 堆積物の酸素同位体比による過去 26 万年間の海水準変動
Muhs et al. 2011:p.586, Fig. 13 より転載。
上図:Florida Keys Reef の分析結果を示す。下図:赤線は紅海(Rohling et al. 2009),青線は Cocos
Ridge (Lea et al. 2002) の分析結果を示す。図中の数字は海洋同位体ステージ番号(MIS)を示す。
Fig.6 Sea-level change curves of the past 260ka revealed by oxygine isotope analysis. (reprinted from Muhs
et al. 2011:p.586, Fig. 13) .
Upper panel: Florida Keys Reef, Lower panel: Red Sea, Blue line in lower panel: Cocos Ridge).
Figures in the graph indicate MIS number.
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地 理 誌 叢 第 55 巻 第 2 号(2014)
図 7 サンゴ礁堆積物および海底コアの酸素同位体比と相対的海水準変動
Waelbroeck et al. 2002:p.297, Fig.1 より転載。
㸨印:サンゴ礁の資料。太い実線:北大西洋海底コア( NA 87-22/25 )。細い実線:太平洋海底コ
ア(V19-30)の有孔虫殻のδ18O,下段の 1 ∼ 6 は MIS ステージ番号を示す。
Fig.7 Results of oxygen isotope analysis and relative sea-level change (reprinted from Waelbroeck et al.
2002: p.297, Fig.1) .
㸨 : coral data, bold line: North Atlantic Core (NA 87-22/ 25), fine line: Pacific Ocean core (V19-30).
Figures of lower part indicate MIS number.
山岳氷河が短期間に急激な変化をした」 という解
変動とみなした。
釈も考えられる。しかし氷や水の比熱と急速な地
球温暖化の原因を考察すると,このような解釈は
(2)430ka BP までの海成段丘形成期の推定
きわめて短絡的であり否定せざるを得ない。急速
前節を踏まえて,図 3 ∼図 7 から最終間氷期以
な寒冷化によって氷床や山岳氷河が急激に拡大す
降に海成段丘が形成されたと推定される離水年代
るという説明もまた同様である。このためδ18O
と海水準を読み取った。次いで最終間氷期以前に
が短期間で急激に変化したとしても,同時に海水
ついても同様の方法で読み取った。その結果,最
準が急激に変化したとは考えにくい。したがって
終間氷期の 125 ka BP( MIS 5.5 )の +6 m(詳細は
海成段丘の形成時期をδ18O の変化時期から読み
後述)の海水準を出発点として, 100 ka BP(MIS
取る場合,単一資料によらないことは当然である
5.3 )には -35 m,80 ka BP( MIS 5.1 )には -35 m,
が, Huybrechts( 2002 )が Fig.1(図 4 )に示した
55 ka BP( MIS 3 )には -80 m, 30 ka BP( MIS 3 )
短時間に生じた変動を無視した「なめらかな」変
には -100 m の 各 年 代 と 海 水 準 をそれぞれ 読 み
動曲線から離水時期を読み取った方がより適切で
取った。しかし最後の 30 ka は研究者のグラフに
18
ある。 以上記載した観点を踏まえて, δ O が
よっては海水準の上昇と下降を読み取れないもの
5,000 年以内に複数回変動をくり返しても 1 回の
もあり,離水時期として採択するにあたり疑問が
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酸素同位体比分析から推論される海成段丘の形成期
図 8 430ka までのδ18O と海水準変動
Waelbroeck et al. 2002 p.299, Fig.4 より転載。
左欄の目盛りは相対的海水準(図中の太い実線)を示し,X印はサンゴ礁から得られた海水準
を, は Rohling et al. (1998) による海水準,右欄の目盛りは Shackleton (2000) による平均海洋水の
δ18O(図中の薄い実線)を示す。
Fig.8 Sea-level change curves expanded to 430ka by δ18O analysis (reprinted from Waelbroeck et al. 2002:
p.299, Fig.4).
X:Coral data, : sea level by Rohling et al. (1998). Right scale indicates figure of δ18O of SMOW
(Shackleton, 2000).
Ϫࠉ考 察
残る。
同様に最終間氷期以前についても図 3 ∼図 7 お
1.δ18O 分析結果の評価
よび図 8(Waelbroeck et al.2002)を使用し,430 ka
Shackleton and Opdyke(1973)は,δ18O の 0.1 ‰
BP まで遡る離水年代と海水準を次のように読み
の変動が海水準にして 100 m に相当すると推定し
取った。すなわち最終間氷期の 125 ka BP より一
た。すなわち 0.01 ‰のδ18O 変動は 10 m に相当す
つ前の 170 ka BP( MIS 6.5 )の海水準 -70 m から
る海水準変動となる。δ18O の数値を用いて海水準
スタートし 195 ka BP(MIS 7.1)には -5 m,215 ka
変動を論ずるにあたり Mix and Ruddiman( 1984 )
BP( MIS-7.3 )には -18 m, 240 ka BP( MIS 7.5 )
は, 氷期を通じて氷床表面の気温が変化するた
には -28 m,
255 ka BP(MIS 8.3)には -80 m,288 ka
め,降雪のδ18O も変化することを指摘した。ま
BP(MIS 8.5)には -50 m,310 ka BP(MIS 9.1)に
た Shackleton(1987)は,深海底堆積物のδ18O 濃
は -15 m, 330 ka BP(MIS 9.3)には -5 m, 368 ka
度が海洋表面の数値と一致しない原因が氷期―間
BP( MIS 10 )には -50 m,そして 406 ka BP( MIS
氷期を通じて生じた海水温度の変化に起因すると
11)と +5 m(?)の各年代と海水準が該当する。
述べた。このような研究が契機となって,δ18O
が氷床のアイス・コアと深海底堆積物で異なるこ
とに着目して,汎世界的な海水準変動の研究が多
くの研究者によって行われてきた。
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地 理 誌 叢 第 55 巻 第 2 号(2014)
氷床のアイス・コアや深海底堆積物のδ18O の
2.海水準変動量の評価
数値が,試料採取地点や年代により異なることは
1956 年から国際地球観測年(予備観測)が開始
当然である。 しかしその変化は大気や海洋のグ
されたことにより,南極大陸の科学的調査が本格
ローバルな変化を記録しているため,その時系列
的 に 行 われた。 その 結 果, 海 水 準 変 動 量 の 約
変化は試料採取地点が異なっても類似する(図 2
90 %を占める東西南極大陸の正確な氷量が次第
18
∼図 8)
。西暦 2000 年以前に報告されたδ O の分
に明らかになった( Denton and Hughes, 1981 )。
析結果は,氷床のアイス・コアの場合に試料採取
一方,グリーンランドについても欧米の科学者達
地の標高変化の補正が,また深海底堆積物の場合
を中心に調査が行われ,氷床の面積・氷厚・氷床
には水温変化の時系列補正が十分ではない点が問
形態などが次第に明らかになり,氷量も正確に推
題となった。このため, 2000 年以前と 2000 年以
定 さ れ る よ う に な っ た( Denton and Hughes,
降の分析結果には補正の有無により差異が認めら
1981; Reeh, 1989 など)。表 1 は氷期―間氷期にお
れる。
ける氷床および氷河の氷量と海水準の変動量(Pi18
Siddall et al.( 2010 )は約 5,000 件のδ O の分析
razzoli, 1996)を示している。
結果から偏差の小さな 100 件のデータを選別編集
地球の水分は宇宙空間に飛散することがないた
し, 120 ka BP までのδ18O と海水準変動の時系列
め,全水量と酸素同位体比に関する時系列変化の
変化を報告した(図 9 )。 それによると現在から
資料が得られ,かつ海水量の増減にともなう地殻
MIS 2 の低海水準までは太線で表示され各データ
平衡による海底の隆起や沈降が生じないと仮定し
は一致しているように見える。しかしそれ以前は
た場合,海水準は氷床のアイス・コアや深海底堆
複数の線で表示され,分析結果が一致しないこと
積物のδ18O によって推定できる。氷期や間氷期
を示している。この変動幅(ブレ)が海水準変化
の海水準変動の研究は,地殻変動の影響が少ない
を決定する際に大きな問題となる。
安定陸塊やサンゴ礁海岸で行われてきた。すなわ
ち,旧海水準は間氷期に形成された海成段丘の旧
図 9 最終間氷期(MIS-5)以降の海水準変動
Siddall et al. 2010:p.419, Fig.7 より転載。
Fig.9 Sea-level change curves after the last inter-glacial period (reprinted from Siddall et al. 2010:p.419,
Fig.7) .
― ―
24
酸素同位体比分析から推論される海成段丘の形成期
表 1 氷期―間氷期の氷床および氷河の氷量と海水準変動
Pirazzoli, 1996:p.8, Table 2 を改変。 Table 1 Ice volume and equivalent ocean water depth for the main ice-caps, at glacial period and present
time (After Pirazzoli, 1996).
氷 期
氷床および氷河
氷量(106km3)
現 在
水深相当量(m)
%
氷量(106km3)
水深相当量(m)
%
37.7
104.3
40−56
27.9−29.3
77.2−81.1
90−91
2.9− 5.6
8.0− 15.5
4− 6
2.5− 3.0
6.9− 8.3
8− 9
北アメリカ
18.0−36.7
49.8−101.6
27−39
ユーラシア
8.2−14.3
22.7− 39.6
12−15
66.8−94.3
184.8−261.0
100
南 極
グリーンランド
その他
合 計
0.2
0.6
1
30.6−32.5
84.7−90.0
100
汀線標高や堆積物の年代,氷期の低海水準時に形
アジアのスンダ陸棚( Sunda Shelf )を研究対象と
成された海底谷や埋没波食台,あるいは沖積層下
した。 そして海水準は 14.6 ka ∼ 14.3 ka BP の間
の埋没谷の深度などの地形学的証拠と,その堆積
に 16m/ka の割合で上昇したこと,またその原因
物の深度(標高)と年代から明らかにされてきた。
は氷床の急速な融解によると述べた。
Yokoyama et al.( 2000 )はオーストラリアのボ
以下にその概要を記載する。
ナパルテ湾( Bonaparte Gulf )を調査した。そし
【海水準変動と変動速度】
Dodge et al.( 1983 ), Chappell and Shackleton
て最終氷期の海水準が現在より 135 m 低かったと
(1986)
, Fairbanks(1989)らは最終氷期の海水準
述 べ た。 さ ら に 22 ka ∼ 19 ka BP の 3,000 年 間,
変動を低緯度のサンゴ礁で行ったボーリングコア
海 水 準 変 動 はなく, 氷 期 が 終 了 に 転 じたのは
のδ18O から明らかにした。しかし同時に地域的
19 ka BP であり, その後数百年間に 10 m という
な地殻変動の影響を完全には消去されないことも
速度で海水準が上昇したと報告した。
指摘した。 サンゴ礁のδ18O 分析結果によれば
40 ka ∼ 28 ka BP 間の海水準には最大 60 m の差が
生じている。また Chappell and Shackleton(1986)
【氷床の盛衰と海水準変動量】
Shackleton( 1987 ) はδ18O の分析にもとづき
MIS 12 の海水準を最終氷期の海水準より 15 %低
はニューギニアの隆起汀線を調査し,LGM(最終
かったと推定した。その後 Clark and Mix( 2002 )
氷期最盛期)の海水準が現海水準より 120 m 低下
は LGM の海水準を -130 m と報告した。この結果
していたと報告した。一方 Fairbanks(1989)はバ
を受け入れると Shackleton( 1987 ) が推定した
ル バ ド ス 島 南 部 の 海 岸 で, 礁 嶺 から 採 取 した
LGM の海水準は -140 m となる(図 4 ∼図 9 参照)。
14
Acropora palmata の C 年代から 19 ka 以降の海水
Clark and Mix( 2002 )による海水準の推定値は,
準変動について次のように報告した。海水準は最
紅海のバブエルマンダブ( Bab- el- Mandab )海峡
低時に -121 ± 5 m を記録後, 12 ka ころまで 24 m/
から採取した堆積物のδ18O 分析結果( Rohling et
ka ずつ上昇した( MIS 1a: 14.5 ∼ 11.5kaBP 相当)。
al,1998)を支持している。
し か し 11ka BP こ ろ に は 海 水 準 上 昇 率 が 最 小
MIS 11 の海水準が +20m であったという推定
( Younger Dryas 相当)を示した。これに続く海水
は,バミューダ( Hearty, 1998, 2002; Hearty et al.,
準上昇は 9.5 ka BP(MIS 1b)であると述べた。
1999; Olson and Hearty, 2009),
バハマ諸島(Kindler
Hanebuth et al.( 2000 )は安定陸棚である東南
and Hearty, 2000 ), ハワイのオアフ島( Hearty,
― ―
25
地 理 誌 叢 第 55 巻 第 2 号(2014)
2002)など各地から報告されている。この結果を
準変動が契機となって,継続的に隆起の傾向下に
受け入れると, MIS 12/11 の海水準変化量は∼
あった地域では離水した複数の波食台または海食
160 m に達する。MIS 2/1 の移行期に生じた 130 m
台が多数の海成段丘を順次形成するに至った」と
の海水準変動との差は 30 m に達するが,この水
いう可能性を指摘できる。このような海成段丘の
量について Hearty et al.( 1999 )は南極氷床の融
形成過程を「多輪廻海成段丘形成説( Theory of
解により高海水準が生じたと報告した。 しかし
multiple marine terrace formation )とよび」,また
Rohling et al.( 2009 )は海水準上昇が西南極とグ
その結果形成された海成段丘を「多輪廻海成段丘
リーンランド氷床の融解によると推定した。最近
Bowen(2010)は地殻変動の影響を除去した場合,
MIS-11 の海水準は,ほぼ現海水準に近似( 1.5 ±
(multistage marine terrace)」とよぶことにする。
多輪廻海成段丘は,海水準が間氷期から氷期に
低下していく過程で, 海水準が上下に変動した
( fluctuation )ことが契機(離水年代)となり形成
3 m)すると報告した。
MIS-11 の 海 水 準 が 現 海 水 準 に 近 い 場 合 は
される。ただし,その後に海水準低下量を上回る
140 m の海水準変動分として西南極やグリーンラ
隆起がともなわない場合は,この海成段丘が現海
ンド氷床の完全な融解は必ずしも必要ではない。
水準以上に到達できない。また海水準が低下して
140 m という数値は MIS2/1 の海水準上昇より約
いく過程で海成段丘が形成されたとしても,その
10 m 大きいだけである。この数値はすでに Sibra-
後の海水準上昇過程で侵食されて残存しない場合
va et al.( 1986 )や MacMaunus et al.( 1999 )が報
も考えられる。
告した過去 50 万年間で,北半球の中緯度に存在
図 8 において 406 ka 以降今日まで 0.075 m/ka 以
したと推定されている氷床や山岳氷河がすべて融
上の隆起率が継続したとすれば, MIS 11, MIS
解した時と同じである。
9.3,MIS 7.5,MIS 7.3,MIS 5.5,MIS 5.1 の各ス
18
MIS 7.3 や MIS 9 の高海水準についてδ O 分析
テージの海水準変動時に離水した波食台や海食台
結果にもとづき詳細に論じた 2000 年以降の文献
が, その後海成段丘となった可能性が考えられ
は検索できなかった。このため Muhs et al.(2011)
る。また隆起率が 406 ka 以降 0.125 m/ka で継続し
や Waelbroeck et al.(2002)の報告は貴重である。
たとすれば, MIS 11, MIS 9.3, MIS 7.5, MIS
MIS 5e の海水準について Shackleton( 1987 )は
7.1, MIS 5.5, MIS 5.3, MIS 5.1 の海水準変動時
深海底堆積物のδ18O から+5 m,
Bloom et al.(1974)
に離水した波食台や海食台が,海成段丘となった
はヒュオン半島のサンゴ礁段丘の研究から +5 ∼
可能性を指摘できる。
7 m, Smart and Richards( 1992 )はバミューダの
次にこれまでの検討事項をふまえて,汎世界的
サンゴ礁の研究から +5 ∼+6 m の数値を報告し
な海水準変動が,日本の海岸地形形成にどのよう
ている。また Chen et al.( 1991 )はバハマのサン
に反映されているかを検討する。このため,日本
234
230
U- Th 年代にもとづ
において最終間氷期以降の地形編年で多くの研究
き,また Muhs et al.( 2011 )はフロリダ南部のサ
者が指標としている関東南部の地形面を取り上げ
ンゴ礁の研究により約 +6 m の海水準を報告して
る。
ゴ礁から採取した試料の
いる(図 7)
。
4.関東南部における地形面形成年代の評価
図 10 は貝塚(1998)が最終間氷期以降の海水準
3.多輪廻海成段丘形成説
前節で記載したように「中期更新世以降,数次
変動図に関東南部における地形面の形成年代を記
にわたる汎世界的規模の気候変動により,海水準
入した模式図である。海水準変動を示す原図は,
は上下動( fluctuation )を繰り返した。この海水
Shackleton( 1987 )が報告した深海底コアのδ18O
― ―
26
酸素同位体比分析から推論される海成段丘の形成期
図 10 最終間氷期以降の海水準変動と関東南部における地形面の形成年代
貝塚,
1998:p.214, 図8 .6 による。
Fig.10 Sea-level change and formative age of geomorphic surfaces of southern Kanto since the last interglacial period (reprinted from Kaitsuka, 1998:p.214, Fig. 2.1).
の分析結果にもとづく海面変化曲線と,Chappell,
以上の結果を踏まえると,最終間氷期以降の海
J.( 1994 )および Chappell et al.( 1996 )がパプア
水準は下末吉面形成以降,Tc2 形成時期まで 0.8 m/
ニューギニアのヒュオン半島のサンゴ礁段丘から
ka の割合で低下した。言い替えれば最終間氷期
得た標高(黒丸)である。
以降 0.8 m/ ka 以上の隆起が継続し, 海水準変動
この図から下末吉面は 125 ka BP( MIS 5e )に
に伴って離水した波食台や堆積台が関東南部の地
形成され,以下引橋面は 116 ka BP( MIS 5e ),小
形面を形成したと解釈できる。なお図 10 で Tc3 が
原台面は 100 ka BP( MIS 5c ),三崎面は 80 ka BP
形成された 20 ka BP( MIS 2 )は,最終氷期の最
( MIS 5.1 ), Tc1 は 54 ka BP( MIS 3.31 ), Tc2 は
低海水準に近い年代である。この時期に離水した
36 ka BP(MIS 3),そして Tc3 は 20 ka BP(MIS 2)
波食台(または海食台)が,その後の地盤の隆起
にそれぞれ形成されたと読み取ることができる。
によって段丘となるためには大きな隆起量(率)
上記の年代は, 前節で推論した海水準の変動時
を要する。ただし上記の地形面形成モデルに関し
期,すなわち最終間氷期以降の海成段丘の形成期
疑問もある。その 1 は海水準が上昇から下降に転
と最後の 20 ka BP を除き一致する。
じた際に, これに対応した地形面が形成されな
― ―
27
地 理 誌 叢 第 55 巻 第 2 号(2014)
かったケースの存在である。例えば引橋面と小原
形成されても小規模であったため次の海進時に侵
台面の間,小原台面と三崎面の間,三崎面と Tc1
食されて消滅した,などの可能性を指摘できる。
の間, Tc1 と Tc2 の間, Tc2 と Tc3 の間などの海水
もう一点は Tc3 の形成年代である。 図 10 から
準変動がこれに該当する。一例として小原台面形
Tc3 の形成期は前述のように約 20 ka BP( MIS-2 )
成直後の 94 ka BP ころの海水準変動について検討
と読み取れるが,離水年代はその一つ前の 28 ka
した結果を述べる。
BP(高海水準)の誤り(作図時)ではないかと推
図 10 から海水準は小原台面を形成した約 3 ka
察される。28 ka BP という年代は前節で海成段丘
後に約 -45 m まで 19 m ほど低下し,さらにその約
形成の可能性を推論した 30 ka BP に近い数値であ
3ka 後には約 -30m まで上昇した後で海退に転じ
る。現在 Tc3 面の旧汀線標高が 3 m と仮定し 20 ka
ている。この間なぜ海成段丘が形成されなかった
BP 頃に離水したとしたら,当時の海水準から判
かという疑問に対して,①海底地形が急峻なため
断して 5.55 m/ka 以上の隆起率が必要である。こ
離水時に平坦な地形(例えば波食台)が存在しな
のような大きな平均隆起率は大規模な地殻変動量
かった,②離水後次の海水準変動まで長時間にわ
(中田ほか, 1978 および 1980 ほか)を考慮しない
たり安定な海水準が維持されなかった,③段丘が
限り到底達成されず, 20 ka BP に離水して形成さ
表 2 平均隆起率からもとめた地形面の形成年代(ka)
Table 2 Formative ages (ka) of geomorphic surfaces calculated by average rate of uplift.
m/ka\m
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
2
3
4
5
m/ka\m
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
2
3
4
5
5
15
20
25
30
35
40
45
50
55
50
25
17
13
10
8
8
6
6
5
3
2
1
1
150
75
50
38
30
25
21
19
17
15
8
5
4
3
200
100
67
50
40
33
29
25
22
20
10
7
5
4
250
125
83
63
50
42
36
31
28
25
13
8
6
5
300
150
100
75
60
50
43
38
33
30
15
10
8
6
350
175
117
88
70
58
50
44
39
35
18
12
9
7
400
200
133
100
80
67
57
50
44
40
20
13
10
8
450
225
150
113
90
75
64
56
50
45
23
15
11
9
500
250
167
125
100
83
71
63
56
50
25
17
13
10
550
275
183
138
110
92
79
69
61
55
28
18
14
11
60
65
70
75
80
85
90
95
100
600
300
200
150
120
100
86
75
67
60
30
20
15
12
650
325
217
163
130
108
93
81
72
65
33
22
16
13
700
350
233
175
140
117
100
88
78
70
35
23
18
14
750
375
250
188
150
125
107
94
83
75
38
25
19
15
800
400
267
200
160
133
114
100
89
80
40
27
20
16
850
425
283
213
170
142
121
106
94
85
43
28
21
17
900
450
300
225
180
150
129
113
100
90
45
30
23
18
950
475
317
238
190
158
136
119
106
95
48
32
24
19
1000
500
333
250
200
167
143
125
11
100
50
33
25
20
― ―
28
酸素同位体比分析から推論される海成段丘の形成期
れた海成段丘は陸上には存在しない可能性がきわ
隆起量を算出した(表 3)。各地形面の標識地は大
めて高い。
部分が更新世の隆起量が大きい三浦半島,もしく
はその周辺地域である。したがって海水準変動量
5.平均隆起率と海成段丘の形成年代
に地殻変動分が加味されていることを留意すべき
最終間氷期に形成された段丘(以下, S 面)は
である。また 4 面すべての地形面と,その比高は
広い平坦な段丘面と,最終間氷期以前に形成され
同一地点において確認されていない。
た谷を埋積する堆積物を有し,その中には温暖な
表 3 の下末吉面 2 の標高は武蔵野台地付近のも
気候を示す貝化石や植物化石を包含するという特
ので,関東ローム層の厚さを減じた数値である。
徴を有する。このような S 面の特徴は,他の地域
また更新世に隆起量が大きい三浦半島や房総半島
の海成段丘と対比する際に指標として使用されて
より離れているため,同じ S 面であっても低い標
きた。S 面(または相当面)の旧汀線標高が明ら
高となっている。S 面は小原台面より古い地形面
かになれば,その平均隆起速度にもとづき低位段
であり高位の段丘であるから,その旧汀線標高は
丘の形成年代を推定できる。
小原台面より高い筈である。しかし表 3 では下末
表 2 は 標 高 5 m から 100 m まで 5 m ごとの 旧 汀
吉面 1 と小原台面 1 の標高は 100 m と同じ数値と
線を有する海成段丘を想定し,隆起率を 0.1 m/ka
なっており,その結果隆起率も異なっている。こ
から 5 m/ka まで変化させたとき,その旧汀線高度
の理由は上記のように,同一地域において各地形
に達するまでの経過時間, 逆に言えば 5 m から
面の旧汀線標高を確認できないことと隆起量が場
100 m まで 5 m ごとの標高を有する海成段丘のお
所によって異なるためである。したがって表 3 の
およその形成年代が明らかになったとき,平均隆
隆起率は必ずしも完全とは言えないが,平均隆起
起速度はどれ位であったか,についてまとめたも
率を示す一つの目安となろう。
のである。例えば標高が 55 m の海成段丘の場合,
図 10 から S 面の離水年代を 125 ka BP,旧汀線
隆起率が 0.1 m/ka であれば 550 ka を必要とし,ま
標高を 6 m と読み取った。その後海水準は下降と
た隆起率が 1 m/ka であれば 55 ka を要することを
上昇を繰り返しながら小原台面, 引橋面, 三崎
示している .
面,Tc1,Tc2,Tc3 を順次形成していった。しかし
次に前節で取り上げた関東南部の地形面の平均
Tc3 の形成時期には問題があることを先に述べた。
隆起率について検討する。図 10 から読み取った
そこで Tc2 の形成年代を 36 ka BP とし,離水時の
各地形面の離水時の年代および海水準と, 貝塚
旧汀線標高を -76 m とすれば, S 面形成以降の平
(1998,2000)および太田(2000)による各地形面
均海水準低下率は 82 m/89 ka,すなわち 0.92 m/ka
の標高資料にもとづき S 面から三崎面までの平均
となる。この間に離水した波食台や堆積台が海成
表 3 関東南部の指標段丘の平均隆起率
Table 3 Calculated average rates of uplift of typical marine terraces of the southern Kanto.
文 献
貝塚(1998)
貝塚(2000)
太田(2000)
太田(2000)
太田(2000)
地形面
下末吉面1
下末吉面2
引橋面
小原台面1
小原台面2
太田(2000)
三崎面
標 高
100m
40∼20m
96m
100m
65∼50m
40∼35m
海水準
6m
6m
-5m
-26m
-26m
-33m
比 高
94m
34∼14m
101m
126m
91∼76m
73∼68m
年 代
125ka
125ka
116ka
100ka
100ka
80ka
隆起率
0.75m/ka
0.27∼0.11m/ka
0.87m/ka
1.26m/ka
0.91∼0.76m/ka
0.91∼0.85m/ka
― ―
29
地 理 誌 叢 第 55 巻 第 2 号(2014)
段丘として残存するためには,0.92 m/ka 以上の平
は,最終間氷期以降に形成された多段化した海成
均隆起率が継続することが必要である。表 3 では
段丘は前節で述べた年代または表 2 のいずれかの
小原台面の平均隆起率( 0.91 m/ka ∼ 0.76 m /ka )
組み合わせに近い年代で形成されたといえよう。
を除けば, ほかの地形面の平均隆起率は 0.92 m/
しかし調査地域において複数の海成段丘の形成年
ka 以下の数値となっている。しかし複数の海成
代を確定するためには,指標とする S 面もしくは
面が実在することを考慮した場合,前述のように
1 つ以上の任意の海成段丘の形成年代と旧汀線標
関東南部では地殻変動による隆起が大きかったと
高を正確に決定する必要がある。
解釈せざるを得ない。
最後に中期更新統以降に形成された地形面につ
いて,これまで推論した海成段丘の形成期と実在
6.海成段丘の対比
する地形面との整合性について検討する。使用し
海成段丘の形成年代や旧汀線標高が既知の地形
た資料は MIS-1 から MIS-13 まで(一部 MIS13 以
面を指標として,遠隔地の海成段丘と対比するこ
前を含む)に形成された関東地方の地形面の形成
とができる。調査地で S 面と判定した旧汀線標高
年代について論じた貝塚ほか(2000)および鈴木・
から平均隆起速度をもとめれば,低位段丘の標高
町田( 2000 )の中から関東南部に該当するものを
から形成年代を推定できる。この結果が標識地の
抽出し,これに久保(2000)の相模野台地の編年を
S 面以下の形成年代と整合しない場合について検
加えたものである。また酸素同位体ステージの境
討する。海水準変動の傾向は各地で同じであって
界年代は http://lorraine-lisiecki.com/stack.html に
も地殻変動は地域により異なる。このため調査地
よった(ただし MIS-5 は peak 値を使用した)
。関
で S 面の認定を誤れば,低位段丘の形成年代は標
東南部に形成された地形面の形成年代を酸素同位
識地の海成段丘の形成年代と不整合となる。
体ステージ(MIS)ごとにまとめて表 4 に示す。
最終氷期の最低海水準( -130 m: 約 16 ka BP )
表 4 の地形面の形成年代の中で, MIS 3, 5a,
に 形 成 さ れ た 海 成 段 丘 が 存 在 す る と す れ ば,
5c,5e,6,7,8,9,10,11 の年代は先に指摘した
130 m/16 ka 以上の隆起率( 8.13 m/ka )が継続され
中期更新世以降の海水準変動に対応して形成され
なければならない。しかしこの隆起率は日本で最
た海成段丘の形成年代と一致している。しかし各
大級の隆起率を示す房総半島南部( 3 m/ka;中田
地形面の形成年代を数値年代で示す資料は少な
ほか, 1980 )をはるかに凌駕する隆起率となる。
い。また編年資料の多くは広域テフラの年代に準
したがって 16 ka BP ころ離水したとしても海成段
拠している。この場合,離水後どれ位の時間が経
丘として現海面上に残存する確率はきわめて低
過して指標テフラが降下し既存の地形面を覆った
い。また 16 ka BP 以後の海水準上昇の結果,侵食
かについては明らかでないことが多い。今後各種
されて消滅した可能性も十分に考えられる。ただ
の物理・化学的な年代決定法により,地形面のよ
し地殻変動による急速かつ大きな隆起量を想定す
り一層正確な年代決定が行われることを期待した
れば海水準変動のみによる隆起率は小さな数値で
い。
十分である。調査地が海溝に近接しているような
最後に,これまで論じてきた 多輪廻海成段丘
場合には地殻変動の影響を大きく反映している可
の形成年代と整合しない海成段丘が存在する場
能性がある。関東南部の房総半島南部,三浦半島
合,その段丘は地殻変動によって形成された可能
や大磯丘陵周辺,四国の室戸岬,そして南西諸島
性が高い。日本の海溝に近い位置に形成された海
喜界島の海成段丘(中田ほか, 1978)はこの事例
成段丘には,この種の成因によるものが多いと推
に該当する。
定される。
長期間にわたり等速隆起を継続してきた地域で
― ―
30
酸素同位体比分析から推論される海成段丘の形成期
表 4 関東地方の地形面および地形面構成層の編年
Table 4 Correlation of geomorphic surfaces and sediments of the Kanto district, since the Middle Pleistocene.
MIS-1
年 代
0∼14ka
K-Ah
MIS-2
MIS-3
14∼29ka
29∼57ka
A-Tn
MIS-4
MIS-5a
57∼71ka
Hk-TP
指標テフラ
関東南部 野比Ⅰ∼Ⅲ*1 陽原面
青柳面
田名原面
中津川面
房総半島 沼Ⅰ面∼Ⅳ面*2
河口成3段丘*3
相模原4, 5面
MIS-5c
87∼109ka
Hk-KmP-1∼12
109∼130ka
Hk-KIP-1∼16
Hk-OP
F-YP
Ata
On-Pm1
Ag-Mz8∼10
下末吉面(S面)
三崎面
小原台面
大磯丘陵
吉沢面
相模原3面
武蔵野面(M2面) 武蔵野面(M1)
下総下位面
姉崎面
三船山面
下総上位面
田尻浜Ⅱ面*4
那珂台地
東茨城台地
田尻浜Ⅰ面*4
那珂台地
東茨城台地
関東中部
参考文献
http://lorraine-lisiecki.com/
stack.html
1熊木, 1982,
*
2 中田ほか, 1980;
3 桑原ほか, 1999
*
*
大宮台地
関東東部
関東北部
田原面
那須野原
新期扇状地面
MIS-6
年 代
MIS-5e
71∼87ka
Aso-4
MIS-7
伊閑面
塩ヶ崎面
MIS-8
上市面
MIS-9
MIS-10
130∼191ka 191∼243ka 243∼300ka 300∼337ka
TAu
Ata-Th
Aso-1
TC, TD, TE
337∼374ka
MIS-11
MIS-12
374∼424ka
TE
424∼478ka
TF
指標テフラ Ag-MoP
Iz-KTa
TCu-1
Kkt
TE-5
Ksm5
関東南部 大沢面*5
早田面*6
中井面
七国峠面*6
*
滝の前面 6
長尾面*6
土橋面*6
多摩Ⅱ面
雑色面
座間丘陵砂礫層
港南面層*7
鴨澤層*7
坂下面
多摩Ⅰ面
房総半島
*
4 町田, 1971; 杉原, 1970;
貝塚, 1958;鈴木, 1989
参考文献
http://lorraine-lisiecki.com/
stack.html
5
6
7
*
7
*
7
*
*
*
横田層
清川層
上泉層
今泉・吉山, 1999
高野, 1987
町田ほか, 1974
関東第四紀研究会, 1973
三梨・菊地, 1982
地蔵堂層
関東中部 羊山面
友部丘陵
尾田蒔面
関東東部
関東北部 鹿沼面
金丸原
六町歩面
MIS-13
年 代
MIS-13
MIS-13以前
参考文献
478∼533ka 533ka∼
指標テフラ
http://lorraine-lisiecki.com/
stack.html
KMT
関東南部 屏風ヶ浦層 狭山丘陵
阿須山丘陵
房総半島 笠森層上部
関東中部
関東東部
関東北部
喜連川丘陵
上位面
海底堆積物の酸素同位体比(δ18O )や,氷床のア
ϫ 結 論
イス・コアのδ18O,δD,CH4,CO2,Ca2+,36Cl,
微粒子数などの分析結果や,地形や堆積物に残さ
以上記載した内容を要約し結論とする。
1.中期更新世以降,数次にわたる汎世界的な気
れた証拠から明らかにされてきた。
候変動により海水準変動が生じた。この変動は深
2.上記の海水準変動が契機となって継続的な隆
― ―
31
地 理 誌 叢 第 55 巻 第 2 号(2014)
起が生じた地域では,多数の海成段丘が形成され
の海成段丘の旧汀線標高からその形成年代を推定
たと想定される。このような海成段丘を「多輪廻
できる。
海成段丘( Multistage marine terrace )」と命名し,
8.対比した地形面の形成年代が標識地の地形面
その形成過程を「多輪廻海成段丘形成説( Multiple
と一致しない場合,その原因として調査地で指標
marine terrace formation theory)」とよぶ。
とした海成段丘の旧汀線標高認定時の誤りや,地
18
3.2000 年以降に発表されたδ O の分析結果と
形面の形成年代の誤り,あるいは平均隆起率の誤
海水準変動の研究成果にもとづき多輪廻海成段丘
りを指摘できる。
の形成年代を推定した。その結果,最終間氷期ま
9.関東南部の下末吉面,引橋面,小原台面,三
での 30 ka BP, 55 ka BP, 80 ka BP, 100 ka BP,
崎面の各平均隆起率は,最終間氷期以降の海水準
125 ka BP の各年代に海成段丘が形成された可能
低下率を下回っている。それにも拘わらず海成段
性が高いことが明らかになった。
丘が形成されていることは,当該地域における地
4.関東南部において最終間氷期以降に形成され
殻変動による隆起が大きいことを示している。
た海成段丘や河成段丘の形成年代は, 28 ka BP,
36 ka BP,54 ka BP,80 ka BP,100 ka BP,116 ka
今後各種の年代測定法の改良や新たな年代測定
BP および 125 ka BP と推定される。この年代はほ
法の開発に伴って,表 4 に示す各地形面の形成年
ぼ上記 2 の推定結果と整合する。
代や堆積物に関する年代資料は増加するであろ
5. 最 終 間 氷 期 以 前 の 海 成 段 丘 の 形 成 年 代 は,
う。それにともなって,本研究において中期更新
170 ka BP, 195 ka BP, 215 ka BP, 240 ka BP,
世以降に形成されたと推論した海成段丘の形成年
255 ka BP, 288 ka BP, 310 ka BP, 330 ka BP,
代と一致する報告が現れて,本研究の成果が実証
368 ka BP および 406 ka BP と推定される。なお海
されることを期待したい。
成段丘の数は隆起率により変化する。
6.日本で最終間氷期以前に形成された地形面は,
謝辞
本論で使用した多数の酸素同位体比や海水準変動の
上記の推定年代の海水準が基準面となって形成さ
れた可能性が高い。しかし関東南部のように地殻
変動分が加算されている地域が標識地である場合
グラフについて快く転載許可をいただいた Elsevier,
John Wiley & Sons, Ltd.,国立極地研究所および東京
大学出版会と原著者各位に深甚なる謝意を表する。文
は,平均隆起速度から地形面の形成年代を推定す
献資料の収集にあたり国立極地研究所情報図書室の担
る場合は注意を要する。
当者にお世話になった。査読に長時間を要したことは
7.調査地域において,高位の海成段丘の旧汀線
きわめて遺憾であるが,匿名の査読者のコメントに敬
標高と形成年代が確定している場合,低位の海成
意を表する。以上の方々に篤く御礼を申し上げます。
(2012 年 7 月 28 日受付)
段丘の形成年代を推定できる。すなわち平均隆起
(2013 年 7 月 20 日受理)
率をもとめ等速隆起を仮定することにより,低位
文 献
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地 理 誌 叢 第 55 巻 第 2 号(2014)
Ages of Marine Terraces Formed after MIS-11 Inferred from Oxygen Isotope Analysis:
Review of Previous Studies and Proposal
Kunio OMOTO*
Sea level change during the Pleistocene have been revealed by large number of oxygen isotope analysis
of ice cores, benthic sediments, coralline sediments, and by many geomorphic and geologic evidences collectid
from all over the world.
Based on the previous studies, Omoto tried to estimate ages of emergences and/or formative ages of
marine terraces formed after the Middle Pleistocene based on the time of the past sea level fluctuations.
The ages of emergences were identified occurred at 30ka BP, 53ka BP, 80ka BP, 100ka BP, 120ka BP, 170ka
BP, 195ka BP, 215ka BP, 240ka BP, 255ka BP, 288kaBP, 310ka BP, 330ka BP, 368ka BP, and 406ka BP, respectively.
We are able to estimate formative age of the marine terrace by applying average rate of uplift of the geomorphic surface of the type locality. Therefore it is strongly recommended to the researcher who should determine at least one accurate formative age and elevation of the old strand line in order to complete the
chronology.
Key words:oxygen isotope(δ18O)analysis,glacial and interglacial period,sea-level fluctuations,marine terrace,
the pleistocene.
*Department of Geography,College of Humanities and Sciences,Nihon University,retired
― ―
36