参加的組織風土が労働者の健康と働く意欲に及ぼす影響に関する研究

参加的組織風土が労働者の健康と働く意欲に及ぼす影響に関する研究
東京大学大学院
医学系研究科
健康社会学教室
○榊原(関)圭子
山崎 喜比古
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目的
健康的に働くことのできる職場づくりに欠かせないものとして、組織全体でオープンなコミュ
ニケーションが行われ、従業員が組織の意思決定過程に広く関わっている組織風土、すなわち「参
加的組織風土」の重要性が先行研究で指摘されている。近年、経営環境が激変する中、多くの労
働者が心身の疲労を訴え、政策上でも蓄積疲労やうつに対する取り組みが重視されている。特に
ホワイトカラーのストレス増大が報告されており、健康への影響が懸念される。一方で、労働者
の働く意欲の低下も報告されている。そこで本研究では、職場における参加的組織風土が労働者
の蓄積疲労度、抑うつ度、ワークモティベーションに及ぼす影響について検討し、ホワイトカラ
ーが健康的かつ意欲的に働くことのできる職場づくりの示唆を得ることを目的とした。
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方法
大手 5 社の製薬企業の労働組合員 680 名に自記式質問紙調査を実施し、625 名を分析対象とし
た。対象企業における参加的組織風土の測定には、「良好なチームワーク」「組織への信頼」「会
社・仕事に関する十分な情報伝達」「社員の発言の重視」「上司の適切なマネジメント」「効果の
高いミーティング」の6つの下位項目からなる尺度を用いた。参加的組織風土が蓄積疲労度、抑
うつ度、ワークモティベーションに及ぼす影響の検討には、仕事の要求度・コントロール度、週
の平均労働時間、参加的組織風土を独立変数、蓄積疲労度、抑うつ度、ワークモティベーション
を従属変数とした重回帰分析を行った。その際、性別、年齢、配偶者の有無、慢性疾患の有無、
暮らし向き、職種などの個人属性で制御した。
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結果
蓄積疲労度に対しては、仕事の要求度と正(β=.161; p<.001)の、仕事のコントロール度と
負(β=-.083; p<.05)の、参加的組織風土と負(β=.251; p<.001)の有意な関連性が示され
た。抑うつ度に対しては、仕事の要求度と正(β=.096; p<.01)の、参加的組織風土と負(β=
-.270; p<.001)の有意な関連性が示された。仕事のコントロール度との間には、有意な関連性
は認められなかった。ワークモティベーションに対しては、仕事の要求度と正(β=.111; p<.01)
の、仕事のコントロール度と正(β=.080; p<.05)の、参加的組織風土と正(β=.422; p<.001)
の有意な関連性が示された。蓄積疲労度、抑うつ度、ワークモティベーションのすべての目的変
数に対し、参加的組織風土の影響力が最も強かった。参加的組織風土の各下位項目の検討につい
ても、蓄積疲労度、抑うつ度と負の、ワークモティベーションと正の有意な関連性が示された。
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考察
心身の健康度の向上には、ストレッサーリダクションが重要であるという従来から示されてい
る方策に加え、参加的組織風土の醸成が、ホワイトカラーの心身の健康の向上と仕事への意欲の
促進の双方に資する有効な方策であることが示唆された。英国のストレス研究者 Cooper や、米
国国立職業安全保健研究所(NIOSH)の提唱する「健康職場」は、従業員の心身の健康と組織の
生産性の両立する職場であるとされているが、参加的組織風土の醸成はこのような健康職場づく
りに貢献するものと考える。