2013年のNIS主要国の乗用車市場

特
集
特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
期待と不安が交錯するNIS経済
■ Research Report ■
2013年のNIS主要国の乗用車市場
ロシアNIS経済研究所 部長
坂口 泉
はじめに
地域別の新車の販売状況を見ると、販売台数
本稿では、NIS諸国のうちウクライナ、ベラ
が最も多かったのはキエフ市で、4万2,999台
ルーシ、カザフスタン、ウズベキスタンの4カ
を記録した。以下、ドネツィク州:3万1,451
国を取り上げる。ウクライナ市場に関しては特
台、ドニプロペトロウシク州:1万8,785台、
別関税とリサイクル税をめぐる動きに着目し、
ハルキウ州:1万2,171台、オデッサ州:7,625
ベラルーシ市場に関しては、リサイクル税をめ
台と続いている。最も市場規模が小さいのは西
ぐる状況に注目し、急激な成長を続けるカザフ
部のヴォルィニ、チェルニウツィ、テルノピリ、
スタン市場に関しては国内自動車産業の活発
リヴィウ、イヴァノフランキウシクの各州で、
な動きに留意し、ウズベキスタン市場に関して
2013年の販売台数は1,000~2,000台程度にとど
は同国唯一の乗用車メーカーであるGMウズ
まった。
ベキスタンの現状や政府の国内自動車産業保
いくつかのメーカーが在庫一掃セールに踏
護政策に注目しながら、それぞれの乗用車市場
み切った関係で2014年に入ってから新車市場
の現状と今後の見通しを紹介したい。
の状況は一時的に好転し、1~2月と2カ月連
続で前年同月の数字を上回った。しかし、政情
1.ウクライナ
不安の影響でグリブナ安が急激に進行したた
め、3月は輸入車を中心に販売が極端に不振と
(1)市場の状況
なり、同月の新車販売台数は前年同月の数字を
概況 ウクライナの新車市場の規模は、ピー
約50%も下回った。グリブナ安の影響は今後、
ク時の2008年には62万台以上に達していたが、
輸入部品の比率が全般的に高い国産車にも及
その後は、マクロ経済状況の悪化の影響を受け
ぶ可能性が高く、2014年の新車販売台数が2013
低迷が続き、2013年の販売台数は前年比10.2%
年を下回るのはほぼ確実とみられている。
1)
減の21万3,322台にとどまった(図表1) 。
一方、規則が変更され、車の名義替えプロセス
ブランド別販売動向
2013年の新車のブラン
が簡素化されたこともあり、中古車市場は活況
ド別販売台数は図表2のとおり。トップ3は低
を呈し、2013年の中古車販売台数は前年比48%
価格モデルを主力とする韓国の現代、ウクライ
増の41万2,773台に達した(autoconsulting.ua、
ナのAvtoZAZ(ザポリージャ自動車工場)、中
2014.2.6)。
国のGeelyのブランドにより占められている。
14
ロシアNIS調査月報2014年6月号
2013年のNIS主要国の乗用車市場
■ Research Report
現代は1位の座を死守することに成功した
措置を講じたこと、④年末に最大1万グリブナ
ものの、2013年の販売台数は前年を21.3%も下
に達する大幅値引きを実施したこと、⑤販売店
回った。不振の原因としては、①新モデルの市
の数を大幅に増やしたこと等が考えられる。
場への投入がなかったこと、②ウクライナ市場
4位には、ほぼ前年並みの販売台数を記録し
への割当量が少なかった関係でエラントラや
た日本のトヨタが入った。同社の場合、主力の
サンタフェといった人気モデルが品不足とな
カムリの売れ行きが安定していたことや、2013
ったこと、③2013年に導入された後述の特別関
年初頭より市場に投下したオーリス、RAV4、
税やリサイクル税の影響を受け価格が上昇し、
ヴェンザが好評であったことに加え、2012年夏
主力の低価格モデル「アクセント」の販売が低
に住友商事がウクライナ環境投資庁傘下の
迷したことなどが考えられる。
Derzhekoinvest社との間で締結した契約に基づ
2位の国産メーカー「AvtoZAZ」は、輸入車
く警察車両仕様のプリウスの納入が2013春ご
を対象とする特別関税とリサイクル税の導入
ろより開始されたことが、数字の堅調さに直結
という追い風を受け、ほぼ前年並みの販売台数
したと推測される。
を維持することに成功した。とくに「ZAZ セ
5位の起亜の場合は、主力のリオの販売が不
ンス」の販売は好調で、2013年のモデル別販売
振であった他、2013年に新たに市場に投下した
ランキングで1位に入った(図表3)。
ソレントとセラトの人気が低迷したことが響
ほとんどのメーカーが販売台数を落とすな
か、中国のGeelyは前年比で35.8%も販売を伸
き、前年比で17.9%販売台数を落とした。
6位のVW、7位のシュコダ、8位の日産、
ばし3位に食い込んだが、それを可能にした要
9位のルノーはいずれも特別関税とリサイク
因としては、①市場への投下モデル数を増やし
ル税導入の影響を受け、販売台数が前年比で2
たこと、②ウクライナでの現地生産を開始した
ケタ減少した。10位のフォードも税制変更の影
こと、③自動車ローンの金利の一部を負担する
響を受けたが、主力のフォーカスとフィエスタ
図表1 ウクライナの乗用車販売台数の推移
(単位 台)
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
265,475 371,019 542,332 623,252 162,291 162,595 207,453 237,602 213,322
(出所)ASMホールディング。
ロシアNIS調査月報2014年6月号
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特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
図表2 ウクライナ新車市場(乗用車)でのブランド別販売台数
(単位 台)
ブランド名
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
…
28
29
30
現代
ZAZ
Geely
トヨタ
起亜
VW
シュコダ
日産
ルノー
フォード
LADA
三菱自動車
プジョー
シボレー
シトロエン
ボグダン
メルセデスベンツ
ホンダ
双竜
大宇
…
スズキ
スバル
レクサス
ウクライナ全体
2012
2013
22,868
18,124
12,099
15,710
16,111
15,786
13,948
12,609
13,567
10,238
19,718
5,501
3,718
9,616
3,149
2,115
2,791
3,752
3,017
4,549
…
1,687
1,142
1,887
18,001
17,709
16,436
15,436
13,224
12,851
12,285
11,327
11,307
10,721
9,162
5,298
4,752
4,524
4,047
3,936
3,260
3,502
3,371
2,636
…
1,763
1,543
1,527
増減率(%)
▲21.3
▲2.3
35.8
▲1.7
▲17.9
▲18.6
▲11.9
▲10.2
▲16.7
4.7
▲53.5
▲3.7
27.8
▲53.0
28.5
86.1
16.8
▲6.7
11.7
▲42.1
…
4.5
35.1
▲19.1
237,602
213,322
▲10.2
(出所)ASMホールディング。
図表3 ウクライナ新車市場でのモデル別販売台数
(単位 台)
ブランド名
1
ZAZ センス
2
現代アクセント
3
Geely CK
4
Geely Emgrand EC7
5
Geely MK
6
起亜リオ
7
ルノー・ロガン
8
VW ポロ
9
ZAZ VIDA
10 ZAZラノス
(出所)ウクルアフトプロム。
16
2012
2013
価格
(グリブナ)
6,837
6,988
4,949
…
…
5,624
5,795
5,373
…
5,185
6,611
5,611
4,961
4,673
4,600
4,563
4,495
4,486
4,027
3,947
59,100
130,600
55,900
99,900
76,900
135,632
118,800
152,462
82,200
70,000
ロシアNIS調査月報2014年6月号
■ Research Report
2013年のNIS主要国の乗用車市場
の売れ行きが堅調であったため、前年比で
この活動は功を奏し、2009年3月6日から6カ
4.7%販売を伸ばすことに成功した。
月間、新車に対し23%の暫定輸入関税率が適用
2013年のウクライナ市場で最も苦戦を強い
されることとなった。しかし、景気の悪さもあ
られたのはロシアのLADAで、前年比で50%以
いまって、この間、新車の輸入はほぼ全面的に
上も販売台数が減少、順位を前年の3位から11
ストップしたものの、そのことが乗用車の国内
位にまで落とした。特別関税導入の結果、同ブ
生産の活性化につながることはなかった。国内
ランドのモデルの価格は全般的に大幅に上昇
自動車メーカー側は、2009年9月以降も23%の
したこと(同ブランドのモデルはすべて1,600
関税率の適用を継続することを要望していた
cc以上なので高い特別関税率が適用されるこ
が、WTOによる是正勧告もあり再び10%の関
とになった)が極端な不振につながったのであ
税率が適用されることとなった。
暫定輸入関税率撤廃後もウクライナの国内
る。
一方、LADAとは対照的に好調さが目立った
メーカーは執拗にロビー活動を続けていたが、
のは、プジョー(13位)、シトロエン(15位)、
その結果、2011年夏になり、省庁間貿易委員会
ボグダン(16位)で、これら3ブランドの場合
(担当省庁は経済発展・商業省)が、1,000~
は特別関税の導入が逆に追い風となった。たと
1,500ccの車については33.4%、1,500~2,200cc
えば、プジョーとシトロエンの場合は、特別関
の車については47%の特別関税を最長で4年
税の対象とならないディーゼル車のウクライ
間導入することを視野に入れた特別調査を開
ナ市場への輸出を強化したことが、販売の伸び
始した。その後、この調査に関する情報はほと
につながった。また、ボグダンの場合は、国産
んど出ていなかったが、2013年3月中旬に省庁
メーカーであるため特別関税とリサイクル税
間貿易委員会は、2013年4月15日より3年間、
が免除され、そのことが販売の大幅な伸びに直
1,000~1,500ccのガソリン車には6.46%、1,500
結した。
~2,200ccのガソリン車には12.95%の特別関税
トヨタ、日産以外の日本ブランドでは、三菱
自動車とホンダが20位以内に入っているが、い
(追加関税)をそれぞれ課すことを公式発表し
た(『ヴェードモスチ』紙、2013.3.15)2)。
ずれも堅調な売れ行きを示した。三菱自動車の
特別関税の導入は、ウクライナの自動車市場
場合は、パジェロスポーツ、ASX、アウトラン
に大きな影響を及ぼした。たとえば、特別関税
ダーといったSUVの販売がとくに好調であっ
導入の意向を省庁間貿易委員会が公式発表し
た。ホンダの場合は、アコードの売れ行きが好
た直後より駆け込み需要が観察され始め、3月
調で、そのことがほぼ前年並みの販売台数を維
の新車販売台数は2月を約60%も上回る約1
持した。
万9,000台に達した。4月も同様の状況が続き、
2万6,000台というここ数年のウクライナ新車
WTO加盟に伴い、ウクライナで
市場では記録的な月間販売台数となった。しか
は2008年5月中旬より移行期間が設けられる
し、特別関税導入前に輸入された車の在庫が切
ことなく、新車の輸入関税率が25%から10%に
れた5月から販売は不振となり、同月の新車販
一挙に引き下げられた。しかし、乗用車市場の
売台数は前月比で41%減、前年同月比で24%減
状況が悪化し始めた2008年秋ごろから、ウクラ
の1万5,000台にとどまった。
特別関税
イナの国内メーカーが新車の輸入関税率を引
き上げることを求めるロビー活動を開始した。
ロシアNIS調査月報2014年6月号
また、特別関税の導入は、課税対象から外さ
れたディーゼル車のプレゼンスの強化という
17
特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
現象も生んだ。調査会社「Autoconsulting」に
の販売台数は前月を約20%上回る1万8,000台
よれば、2013年3月の時点で14%程度であった
に達した。8月に入ってさらなる高まりを見せ、
ディーゼル車の市場シェアが6月には20%を
同月の新車販売台数は2万8,000台という記録
超えたとされている。既述の通り、プジョーと
的な水準に達した。ただ、駆け込み需要は長く
シトロエンはこの傾向をいち早く察知しディ
続かず、リサイクル税が導入された9月の販売
ーゼル車のラインナップを強化したため、販売
台数は8月の半分以下の1万3,000台にとどま
台数を大幅に伸ばすことに成功した。ディーゼ
った。
ル車の他に、排気量1,000cc未満の車と2,200cc
を超える車も特別関税の対象外となったが、該
特別関税とリサイクル税の見直し
特別関税
当するモデルの販売台数が顕著に伸びること
もリサイクル税も輸入車の価格の高騰につな
はなかった。
がり、一般市民や輸入業者には不評であったた
さらに、当然ながら、国産メーカーも特別関
め、ウクライナ政府は2013年秋ごろよりそれら
税導入の恩恵を受け、ZAZは外国のライバルメ
を廃止する方向での検討を開始した。そして、
ーカーがこぞって販売台数を減らすなか、前年
特別関税に関しては、2014年2月になり省庁間
並みの販売台数を維持することに成功した。ま
貿易委員会が2014年4月14日よりそれまでの
た、既述の通り、不振を極めていたボグダンも
税率の3分の2に軽減し、2015年4月からは
特別関税導入後に息を吹き返し、通年の販売台
(2014年4月14日以前の水準の)3分の1に軽
数は前年を大きく上回った。
減することを発表した。
リサイクル税に関しては、2014年4月初旬に
2013年7月初旬にウクライナ
ウクライナ最高会議がその廃止を決定した。し
の最高会議は、自動車リサイクル税の導入を規
かし、ほぼ同時期にウクライナ最高会議が新車
定した法案「税法典とリサイクル税に関する複
の物品税を2014年4月1日より2倍にするこ
数の法規の変更について」を採択した。その後、
とを規定した法律を採択したことや、グリブナ
8月初旬に当時のヤヌコーヴィチ大統領が法
安傾向が強まっていることなどを勘案すると、
案に署名し、9月1日より輸入車にのみリサイ
特別関税の軽減措置とリサイクル税の廃止措
クル税が課せられることが決定した。乗用車の
置が実施されても、自動車の価格が大幅に下が
場合は基本税額が5,500グリブナで、それに排
ることはないと予測される。
リサイクル税
気量により異なる係数(新車の場合は0.86~5.5、
中古車の場合は5.3~19.25)を乗じることによ
り最終的な税額が導き出されることになった。
(2)ウクライナの主要自動車メーカー
ウクライナの乗用車生産部門は一時、輸入中
また、トラックとバスの場合は基本税額が1万
古車の攻勢に苦しみ瀕死の状態にあったが、中
1,000グリブナで、それに総重量により異なる
古車の輸入関税率が大幅に引き上げられたこ
係数(新車の場合は0.5~2.9、中古車の場合は
となどもあって2002年ごろから急激に活性化
0.88~11.8)を乗じることにより最終的な税額
し、2008年には生産台数が40万台を突破した
が導き出されることとなった。
(図表4)。しかし、2009年に入り経済危機の
特別関税導入の時と同様に、リサイクル税導
影響が強く出始め、同年の生産台数は2002~
入が決定的となった7月半ばごろから駆け込
2003年の水準にまで落ち込んだ。その後、生産
み需要の高まりが観察されるようになり、同月
台数は若干回復してはいるものの、年産10万台
18
ロシアNIS調査月報2014年6月号
2013年のNIS主要国の乗用車市場
■ Research Report
工場、ポーランドの自動車メーカー「FSO」、
を下回る状況は現在も続いている。
ここ数年、ウクライナ市場での国産車のプレ
200近くのサービスセンターを傘下におさめて
ゼンスは低下傾向にあり、このままでは、ウク
いる。さらに、同社は、オペル、シボレー、メ
ライナの乗用車生産台数が2008年の水準にま
ルセデスベンツ、起亜、Chery、Tata(トラッ
で回復する可能性はほぼゼロに近い。そこで、
ク)、I-VAN(バス)等の正規ディストリビュ
輸入車だけを対象とする特別関税とリサイク
ーターであると同時に、ディーラーとしてルノ
ル税を導入するという発想が出てきたわけだ
ー、日産、トヨタ等のブランドの車を取り扱っ
が、ウクライナの自動車メーカーの苦戦の主因
ている。
は技術の後進性や財務体質の脆弱さにあり、結
AvtoZAZでは、かつて複数のオリジナルモデ
局、それらの保護措置が事態の抜本的な改善に
ルが生産されていたが、乗用車に関しては、
つながることはなかった。
2007年にタヴリアというモデルの生産が中止
輸入車の攻勢により苦戦を強いられている
ウクライナの主要な乗用車メーカーの概要は
以下の通りである(各メーカーの生産台数は図
されたのを皮切りに、2010年末までにすべての
オリジナルモデルの生産が中止された。
2013年にAvtoZAZ(イリチウシク工場を含む)
では、シボレー(一部のモデルはZAZブランド
表5に示してある)
。
で販売されている)および起亜の複数のモデル
1969年に設立された会社で、
が生産されたが、主力はシボレーのラノス、同
AvtoZAZ、イリチウシクの自動車組立工場(年
モデルをベースとするZAZセンス、および、
間生産能力4万台。現在はAvtoZAZの支部とい
ZAZチャンス3)で、2013年には3モデル合計
う位置づけになっている)、多数の自動車部品
で9,887台が生産された。その他、シボレー関
ウクルアフト
図表4 ウクライナの乗用車生産台数の推移
(単位 1.000台)
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
17
26
44
98
174 192 267 380 406
64
75
98
70
46
(出所)2000~2008年はウクライナ統計国家委員会。2008~2012年はASMホールディング。
ロシアNIS調査月報2014年6月号
19
特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
連では、アベオをベースとする「ZAZ VIDA」
は以下の通である。
というモデルが2,333台生産された。起亜車は
第1自動車工場はソ連時代から存在する工
2009年より生産されているが、2013年にはシー
場で、元々はオリジナルの小型SUVを生産して
ド、ソレント、セラト、スポーテージの4モデ
いた。ボグダンの傘下に入った2000年ごろから
ルがSKD方式で合計2,351台生産された。
UAZとLADAのモデルのSKDを開始し、その後
その他、AvtoZAZでは、2009年まではオペル
現代車と起亜車のSKDも開始した。さらに2005
車と中国のCheryの車も生産されていたが、
年からはバスとトロリーバスの生産も開始。
2010年以降当該2ブランドの車の生産は中止
2007年時点の同工場での乗用車の生産台数は
されている。しかし、Cheryとの関係は続いて
5万3,919台で、ブランド別の内訳は起亜車が
おり、2011年2月よりAvtoZAZでChery A13を
1万7,990台、現代車が1万6,348台、LADA車
ベースとするZAZ Forzaというモデルの生産が
が1万9,581台となっていた。2008年6月に下
開始されている。同モデルの生産ラインの生産
記の第2工場が稼動を開始した後、第1工場で
能力は2万4,000台/年だが、2013年の生産台
は乗用車のSKDが中止され、現在はバスとトロ
数は4,687台で、うち3,426台がロシアに輸出さ
リーバスだけが生産されている(年間生産能力
れた(輸出の際のモデル名はCheryA13)
。
は8,000台だが、2013年のバスの生産台数は496
台だった)。
ボグダン
企業グループ「ウクルプロムイン
ヴェスト」
4)
の事実上のオーナーで大物政治
第2自動車工場は2008年6月より稼動を開
始した新しい工場で、チェルカスィに所在する。
家としても知られるポロシェンコと同氏のビ
2013年時点では、LADAのモデル、LADA2110
ジネスパートナーであるスヴィナルチューク
をベースとしたボグダン・ブランドのモデル、
が2005年に設立した会社だが、ポロシェンコは
現代のタクソン、エラントラ等の生産が行われ
ボグダンの業績が悪化した2009年、保有する同
ていた。同工場の年間生産能力は12万~14万台
社の株式をすべてスヴィナルチュークに売却
であるが、2013年の生産台数は5,958台であっ
しており、現時点ではスヴィナルチュークがボ
た。スヴィナルチューク社長によれば、同工場
グダンの株式の100%を保有している。
の採算ラインは年産6万台なので、現時点では
ボグダンは、第1自動車工場(旧ルツィク自
同工場の操業は完全に赤字ということになる。
動車工場)、第2自動車工場、第3自動車工場
状況を打開するためボグダンは、中国のLifan
を傘下におさめているが、それらの工場の現状
とJACのモデルのSKD方式での生産を2014年
図表5 ウクライナの主要メーカー別乗用車生産台数
(単位 台)
メーカー名
20
2010
2011
2012
2013
AvtoZAZ
42,336
59,355
39,917
19,258
ボグダン
19,190
20,240
12,034
5,958
KrASZ
6,341
6,329
3,180
9,049
エヴロカー
7,464
11,656
14,556
11,494
合 計
75,331
(出所)ASMホールディング。
97,580
69,687
45,759
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2013年のNIS主要国の乗用車市場
■ Research Report
から第2工場で開始することを計画している
VW車やセアト車の生産も行われていたが、
が、それが同社の業績の劇的な改善につながる
2013年には、オクタヴィア、ファビアFL、イ
可能性は低いと判断される。
エティ、スペルブ、ラピッドといったシュコダ
第3自動車工場も2008年9月から稼動を開
のモデルだけが合計で1万1,494台生産された。
始した新しい工場で、やはりチェルカスィに所
ちなみに、同工場の現時点での生産能力は4万
在する。年間生産能力1万5,000台の同工場で
台/年であるが、今後、増強工事が実施され最
は、いすゞの小型および中型トラック、現代の
終的には10万台/年に達する見込みとなって
トラック等のSKD方式での生産が行われてい
いる。
る。ロシアのASMホールディング発表の数字
自動車工場を傘下に収めるウクライナの他
によれば、2013年の同工場でのトラックの生産
の企業グループ同様に、アトル・ホールディン
台数は284台となっている。この数字から判断
グも、VWグループ(シュコダ、VW、セアト)
、
して、同工場の操業も赤字ではないかと推察さ
フォード、現代、スズキ、ルノー、プジョーと
れる。
いった外国ブランド車の販売店を経営してい
その他、ボグダンは自動車販売部門も有して
おり、ディーラーとして現代、LADA、スバル、
る。また、同グループはハーレーダビットソン
の正規輸入業者でもある。
シュコダ、Great Wall、いすゞ等の車を取り扱
っている。また、同社は中国のLifanの正規輸
AIS(アフトインヴェストストロイ)
国会議員の
入業者でもある。自動車販売部門の業績は比較
ドミトリー・スヴャタシとワシーリー・ポリャ
的堅調だといわれているが、生産部門の状況に
コフが事実上のオーナーだとされている企業
全く改善の兆しが見られないため、ボグダンの
グループで、KrASZ(クレメンチューク自動車
有利子負債の額は現在3億5,000万ドルを超え
組立工場)の他、UAZをはじめとするロシア
るといわれている。ボグダンの事業規模から判
の複数のブランド、双竜、Geely、MG(英国の
断して、これは致命的ともいえる数字であり、
スポーツカーのブランド。現在は、中国のSAIC
業績の立て直しには、外部(たとえば、今もス
の傘下に入っている)、Polaris(米国のスノー
ヴィナルチュークと良好な関係にあるといわ
モービルのメーカー)の輸入・販売会社や、シ
れているポロシェンコ)からの強力なサポート
トロエン、アウディ、現代、シボレー、ルノー
が必要不可欠となるであろう。
の販売会社などを傘下におさめている。
KrASZ で は 、 2000 年 ご ろ か ら こ れ ま で に
オレグ・ボヤ
LADA、GAZ、UAZ、中国のGreat Wall、FAW
リンという人物が率いる持ち株会社「アトル・
等の車が生産されてきたが、現在はGeelyのモ
ホールディング」の傘下に入っている会社。同
デル(CK2、MK2等)と双竜のモデル(Actyon、
社が保有する工場は、2001年にドイツのVWの
Kyron、Rexton等)だけが生産されている(い
技術支援を受けて完成した近代的な工場で、ス
ずれもSKD方式での生産)。生産台数は2004~
ロバキアおよびハンガリーとの国境近くのザ
2008年までは年間2万台前後で推移していた
カルパチエ州ソロモノヴォ村の自由経済ゾー
が、2009年に3,738台にまで激減し、それ以降、
ン「ザカルパチエ」に所在する。同工場では、
2010年:6,341台、2011年:6,329台、2012年:
2001年末にシュコダ車の試験生産が開始され、
3,180台、2013年:9,049台と低迷が続いている。
非公開株式会社「ユーロカー」
2002年春から量産に移行した。その後、一時、
ロシアNIS調査月報2014年6月号
21
特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
2.ベラルーシ
強いられ、2013年の販売台数は前年比8.2%減
の2,709台にとどまり、順位を3位にまで落と
(1)新車市場の状況
した。以下10位までの顔ぶれは、起亜:2,407
概況 2013年の新車販売は非常に好調で、通
台、シュコダ:1,931台、現代:1,164台、トヨ
年の数字は小型商用車を含め2万8,807台に達
タ:1,034台、日産:888台、アウディ:767台、
した(乗用車が前年比33%増の2万3,991台、
大宇:686台。トヨタと日産以外の日本メーカ
小型商用車が前年比3.3%増の4,816台)
。これは、
ーでは、三菱が14位に(市場シェア2.2%)
、マ
2008年の2万5,296台を上回る、ここ10年で最
ツダが16位(1.7%)にそれぞれ入っている。
高の数字である。もっとも、2万8,807台とい
新車小型商用車ブランド別販売ランキング
う数字は、ロシア連邦構成主体別新車販売ラン
でトップにたったのは価格の安さを武器に安
キングでいえば20位程度にしか相当せず、少な
定した人気を誇るロシアのGAZ(ゴーリキー
くとも現時点では、各自動車メーカーはベラル
自動車工場)で、2013年の市場シェアは32.6%
ーシ市場をそれ程重視していない。
に達した。以下、UAZ(ウリヤノフスク自動
2013年のベラルーシの経済状況が突出して
車工場)
:14.9%、VW:12.2%、プジョー:7.5%、
よかったわけではなく、同年の新車市場の好調
フォード:7.1%、ルノー:5.6%、フィアット:
さを牽引した要因は正直よくわからないが、①
3.9%、IVECO:3.2%、シトロエン:2.0%、メ
付加価値税が事実上値上がりした関係で
5)
ルセデスベンツ:1.8%と続いている。
2012年は車の買い控え現象が生じたが、そのこ
とと関連する繰越需要が2013年に顕在化した
モデル別販売動向
ベラルーシでも他のNIS
可能性、②秋ごろから2014年にリサイクル税が
諸国同様に低価格乗用車の人気が高く、2013
導入されるとの情報が出始め駆け込み需要が
年に最もよく売れたモデルはVWのロシア製
生じた(2013年11~12月期の新車販売台数は前
低価格車「ポロ・セダン」であった(販売台数
年同期の数字を約2,000台上回った)、③VWポ
は2,029台)
。以下、2位から15位までの顔ぶれ
ロ・セダン、ルノー・サンデロ、ルノー・ダス
は、ルノー・サンデロ:1,434台、ルノー・ダ
ターといったロシア製の低価格外国ブランド
スター:1,375台、起亜リオ:1,322台、現代ア
車の販売台数が急激に伸び、そのことが市場全
クセント(ロシアでの名称はソラリス):899
体の活性化につながった、等が考えられる。
台、LADA NIVA:783台、シュコダ・オクタヴ
ィア:698台、シュコダ・ラピッド:650台、
2013年の新車乗用車ブ
LADA2114:574台、起亜スポーテージ:559台、
ランド別販売ランキングでトップにたったの
LADAプリオラ:460台、LADAラルグス:457
はサンデロとダスターの販売が好調であった
台、起亜シード:447台、LADAグランタ:418
ルノーで、前年比60%増の3,305台の販売を記
台、Geely SC7:350台となっており、ロシア製
録した。VWはベラルーシで根強い人気を誇っ
の低価格車のプレゼンスが圧倒的に強いこと
ており、常にトップの座を争っているが、2013
がわかる。
ブランド別販売状況
年の販売台数は前年比13%増の2,925台にとど
小型商用車部門で最も人気の高いモデルは
まり、2位の座に甘んじることとなった。2012
GAZのガゼリで、2013年には1,300台の販売を
年の時点でトップであったロシアのLADAは、
記録した。以下、UAZ Farmer:636台、VWキ
サンデロやVWポロ・セダン等の攻勢に苦戦を
ャディ:392台、VWトランスポーター:360台、
22
ロシアNIS調査月報2014年6月号
■ Research Report
2013年のNIS主要国の乗用車市場
フォード・トランジット:340台と続いている。
「ユニゾン」(旧フォード・ユニオン)6)、お
車体タイプ別の状況を見ると、SUVの人気が
よび、ベラルーシのBelAZと中国のGeelyの合
最も高く、シェアは35.3%に達した。最も人気
弁企業であるBelGeがSKD方式での生産を行
の高いSUVはルノーのダスターであるが、その
っている。
他、LADA NIVA、起亜スポーテージ、シボレ
ユニゾンでは2006年よりイランのホドロ社
ーNIVA、日産ジューク、ボルボXC60、アウデ
のサマンドというプジョー405をベースとした
ィQ5、UAZパトリオット、VWトゥアレグ等の
モデルのSKDが行われているが、同モデルの市
人気が高くなっている。
場での人気は高いとは言い難く、生産台数も
SUVに次いで人気が高かったのはBセグメ
2007年:239台、2008年:240台、2009年:191
ントカーで、シェアは30.3%であった。最も人
台、2010年:139台、2011年:167台、2012年:
気の高いBセグメントカーはVWポロ・セダン
190台、2013年:63台とごく少量にとどまって
であるが、その他、起亜リオ、ルノー・サンデ
いる(ASMホールディング発表の数字)
。サマ
ロ、現代アクセト、LADAグランタ、シュコダ・
ンドの市場での可能性に見切りをつけたユニ
ラピッド等の人気も高くなっている。
ゾンは、同モデルに替わる新モデルの生産を現
Cセグメントカーの人気も安定しており、シ
在検討しており、中国のZotye Z300、オペル・
ェアは17.3%となっている。ベラルーシで人気
コルサ、中国のHaimaのモデル等が候補として
の高いCセグメントカーとしては、シュコダ・
浮上している。
オクタヴィア、起亜シード、Geely SC7、マツ
BelGeはボリソフの「アフトギドロウシリチ
ダ3、VWゴルフ、オペル・アストラ、トヨタ・
ェリ」という工場の敷地内に建設した年間生産
カローラ等の名を挙げることができる。
能力1万台の組立工場において、Geely SC7と
他のNIS諸国同様にベラルーシでもAセグメ
いうCセグメントカー(小売販売価格は約1万
ントカーの人気は低く、大宇マチス以外のモデ
3,000ドル~)のSKD方式での生産を2013年よ
ルはほとんど売れておらず(マチスの2013年の
り開始しており、同年の生産台数は2,490台に
販売台数は324台であった)、そのシェアは
達した。その他、BelGeはボリソフとジョジノ
1.4%と非常に低くなっている。
の境界付近に約120haの敷地を確保しており、
ロシア市場を念頭に置き同地に、溶接ラインと
(2)生産の状況
塗装ラインを装備した年間生産能力12万台の
ベラルーシではトラックおよびバスの生産
工場を建設することを計画している。建設は2
部門は比較的発達しており、MAZ(ミンスク
段階に分け実施される予定で、年間生産能力6
自動車工場)の他、MAKT(ミンスク・トレー
万台の1期工事分は2017年までに完成し、設計
ラーヘッド工場)、BelAZ(ベラルーシ自動車
生産能力12万台/年は2期工事分が完成する
工場)、MOAZ(モギリョフ自動車工場)、
2019年以降に達成される見込みとなっている。
NEMAN等の複数のメーカーがトラックもし
生産車種は未定となっているが、SC7の他、
くはバスの生産を行っている。2013年のベラル
GX7、SC5、パンダ・クロスなどが候補として
ーシのトラックの生産台数は前年比28.7%減
浮上しているようである。
の1万8,265台(うち1万5,949台がMAZで生産
された)、バスは0.8%減の2,099台となっている。
乗用車部門では、ベラルーシ・英国合弁企業
ロシアNIS調査月報2014年6月号
(3)リサイクル税
周知の通り、ロシアは2012年9月よりリサイ
23
特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
クル税を導入しているが、関税同盟国であるベ
3.カザフスタンの乗用車市場
ラルーシもロシアに追随する形で2014年3月
よりリサイクル税を導入した。その結果、ロシ
アとカザフスタンを含む諸外国からベラルー
(1)新車市場の状況
概況
カザフスタンの自動車市場ではつい
シに輸入される車すべてにリサイクル税が課
最近まで中古車のプレゼンスが非常に強く、新
せられることになった。
車の販売台数は低迷していたが、個人に適用さ
税額の算定方式はロシアと全く同じで、乗用
れる中古車の輸入関税率が2011年7月1日以
車の場合は、基本税額2万ロシア・ルーブルに
降大幅に引き上げられたことを契機に、市場で
排気量と中古車・新車の別により異なる係数を
の中古車のプレゼンスが低下した。一方、新車
乗じることにより、税額が導きだされることに
の販売台数が急激に増加し始めており、2013
なっている。たとえば、排気量1,000cc~2,000cc
年も前年比約69%増の16万5,710台の販売を記
の新車乗用車には1.34という係数が適用され
録した(カザフスタン自動車ビジネス協会発表
るので(同じ排気量の車齢3年以上の中古車に
の商用車を含む数字:図表6)。2013年の新車
は8.26という係数が適用)、リサイクル税の額
市場の好調さの最大の要因は中古車の輸入台
は2万6,800ロシア・ルーブルとなる(中古車
数の大幅減であるが(2011年までは年間10万台
の場合は16万5,200ロシア・ルーブル)。一方、
以上の中古車が輸入されていたが、現在はその
商用車の場合は、基本税額が15万ロシア・ルー
10分の1以下の水準にまで落ち込んでいる)、
ブルで、それに総重量、中古車・新車の別によ
その他の要因としては、①油価の高値安定に伴
り異なる係数を乗じることにより、税額が導き
うカザフスタン経済の堅調さ、②乗用車の国内
出されることになっている。たとえば、総重量
生産台数および生産車種の増加、③自動車ロー
3.5~5tの新車トラックの場合は1という係
ンの利用率が大幅に上昇したこと(大手ディー
数(中古車の場合は1.6)が適用されるので、
ラーであるアスタナ・モータースでは、前年の
リサイクル税額は15万ロシア・ルーブルとなる
11%から33%に上昇した。また、BIPEKでは
わけである(中古車の場合は24万ロシア・ルー
29.3%から58.6%に上昇した)等を挙げること
ブル)
。
ができる。
このように税額はロシアと全く同じである
2014年に入ってからも販売の好調さは続い
が、課税対象の範囲はロシアとは異なっている。
ており、第1四半期の販売台数は前年同期を
具体的にいえば、ロシアでは輸入車・国産車の
23%上回る3万1,213台に達した(カザフスタ
別を問わずすべての車が課税対象になるのに
ン自動車ビジネス協会発表の数字)。ただ、今
対し、ベラルーシでは輸入車だけが対象になる。
後については、不透明感が漂う。2014年2月11
ただ、リサイクル税の導入と同時に、輸入関税
日に実施されたカザフスタンの通貨「テンゲ」
率が5%引き下げられることになったので、輸
の切り下げ7)の影響を受け、輸入車を中心に
入新車乗用車の価格が大幅に上昇する可能性
価格が上昇し、切り下げ前に輸入された車の在
は低いとみられている。一方、輸入商用車や輸
庫が切れる年後半には販売が低迷し始める可
入中古車の場合は税額が大きくなるので、リサ
能性が高いからだ。現時点では、テンゲ切り下
イクル税の導入が及ぼす影響は大きくなると
げの影響を正確に予測することは不可能であ
みられている。
るが(たとえば、輸入がドル建てかルーブル建
てかで状況は大きく異なってくる)、市場の拡
24
ロシアNIS調査月報2014年6月号
2013年のNIS主要国の乗用車市場
■ Research Report
大テンポが鈍化するのはほぼ確実との見方が
2,000万ドル多い6億4,418万ドルであった(カ
優勢となっている。
ザフスタン自動車ビジネス協会発表の数字)。
5位以下に目を転じると、起亜(5位)、シ
ブランド別販売動向
カザフスタンの新車市
ボレー(6位)、ルノー(8位)
、シュコダ(9
場(乗用車市場)では、数年にわたりLADAが
位)、双竜(10位)といった、カザフスタンも
販売台数トップの座に君臨している(図表7)
。
しくはその他の旧ソ連諸国で生産されている
2009年こそ経済危機の直撃を受け販売台数が
低価格車を主力とするメーカーが目立つが、日
前年の約3分の1まで落ち込んだが、2010年は
本メーカーも健闘しており、7位に日産が、11
年初からCIS域外から輸入される車の関税率
位に三菱自動車がそれぞれ入っている。その他、
が引き上げられたため、無関税で輸入される
日本ブランドでは、15位にレクサス、16位にス
LADA車の価格競争力が強まり、販売台数が前
バル、17位にスズキ、18位にホンダがそれぞれ
年比41.1%増の5,058台にまで回復した。2011
入っている。なお、日本ブランドの場合、モデ
年夏以降はライバルである輸入中古車のプレ
ルの価格が全般的に高いので、販売額によるラ
ゼンスの急激な低下という要因が加わった関
ンキングの順位が台数ベースの順位を上回る
係でLADA車の販売の伸びはさらに加速して
ケースが多くなっており、上位15位以内にトヨ
おり、2013年の販売台数は前年比63.6%増の5
タの他、日産(5位、2013年の販売額は2億
万7,478台に達した。その結果、市場シェアも
2,412万ドル)
、レクサス(7位、1億5,358万ド
急増し、2010年時点では約24%だったものが
ル)、三菱自動車(8位、1億3,093万ドル)の
2013年には37.4%に達した。
3ブランドが入っている。
2位には、主力の低価格車「ネクシア」と「マ
カザフスタンの商用車市場(2013年の市場規
チス」の販売が好調で、前年比で71%も販売台
模は前年比7%増の1万2,046台)では、低価
数を伸ばしたGMウズベキスタン(ブランド名
格を武器とするロシアのGAZとUAZが圧倒的
は大宇)が食い込んだ。ただ、カザフスタンの
な強さを発揮しており、2013年には順に6,709
車の安全基準が厳格化された関係で、2014年1
台と2,909台の販売を記録した。カザフスタン
月1日より当該の主力2モデルのカザフスタ
の商用車市場におけるその他の主要なプレー
ンでの販売が困難となっており、今後GMウズ
ヤーとしては、現代(2013年の販売台数は1,040
ベキスタンのプレゼンスが大幅に低下するの
台)、IVECO(659台)、いすゞ(236台)、VW
はほぼ確実とみられている。
(124台)等の名前を挙げることができる。
3位には、前年比79%増の1万2,250台の販
売を記録した韓国の現代が入った。同社の主力
モデル別販売動向
モデル別の市場シェア
はロシア製のアクセント(ロシアでの名称はソ
は図表8の通りだが、この表からもわかる通り、
ラリス)で、全体の約7割を占めた。
ロシア、ウズベキスタン、ウクライナおよびカ
4位には、以前よりカザフスタンで安定した
ザフスタンで生産されている低価格車が市場
人気を維持しているトヨタが食い込んだ。なお、 の核を形成している。その一方で、日本ブラン
トヨタは販売台数の点では1位のLADAに大
ドの中・大型セダンやSUVの人気も根強く、ト
きく水をあけられているが、高価格帯のモデル
ヨタのカムリ、日産キャシュカイ、ランドクル
を主力としている関係で販売額は同社の方が
ーザープラド、ランドクルーザー200、日産ジ
大きく、2013年の数字は2位のLADAよりも約
ュークなどが上位に食い込んでいる。
ロシアNIS調査月報2014年6月号
25
特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
図表6 カザフスタンの新車(小型商用車含む)販売台数の推移
(単位 台)
180,000
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
2004
8,328
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
12,858 19,099 32,906 22,867 16,424 21,686 45,302 98,242 165,710
(出所)カザフスタン自動車ビジネス協会。
図表7 カザフスタンのブランド別新車乗用車販売台数
(単位 台)
ブランド名
1
LADA
2
大宇
3
現代
4
トヨタ
5
起亜
6
シボレー
7
日産
8
ルノー
9
シュコダ
10
双竜
11
三菱自動車
12
ZAZ
13
VW
14
UAZ
15
レクサス
16
スバル
17
スズキ
18
ホンダ
19
フォード
20
メルセデスベンツ
(出所)カザフスタン自動車ビジネス協会。
26
2012
2013
35,140
7,804
6,839
8,108
5,491
5,133
3,849
1,184
1,860
2,030
2,128
1,919
980
1,195
1,006
581
569
138
269
200
57,478
13,371
12,250
12,132
11,913
10,041
6,392
4,920
4,703
3,800
3,477
3,180
2,491
1,668
1,237
1,192
838
534
412
374
ロシアNIS調査月報2014年6月号
2013年のNIS主要国の乗用車市場
■ Research Report
車体タイプ別の状況をみると、最も人気が高
LADAサマラ:1,641台、ZAZチャンス:1,386
いのはBセグメントカーで、全体の46.20%を占
台と続いている。日本車では、日産キャシュカ
める。以下、SUV:29.11%、Cセグメントカー:
イ、トヨタ・カムリ、日産ジュークの人気が高
16.34%、Eセグメントカー:2.83%等となって
く、順に1,142台、1,134台、888台の販売を記録
いる。ロシア同様カザフスタンでもAセグメン
した。
トカーの人気は低く、そのシェアは2.43%にと
2番目に販売台数が多かったのはアスタナ
で、前年比102.6%増の2万6,365台に達した。
どまっている。
8)
を見ると、最も人気
人気の高いモデルの顔ぶれはアルマトィとほ
が高いのは1万~1万5,000ドルのモデルで、
ぼ同じで、1位:LADAプリオラ(2,549台)、
全体の30%を占めている。以下、3万ドル以
2位:LADAサマラ(1,796台)、3位:現代ア
上:19%、1万5,000~2万ドル:18%、1万
クセント(1,510台)となっている。日本車で
ドル未満:16%、2万5,000~3万ドル:9%、
は、キャシュカイが761台の販売を記録して7
2万~2万5,000ドル:8%となっている。
位に、カムリが722台で9位にそれぞれ入った。
価格帯別の販売状況
3番目に販売台数が多かったのはアティラ
主要都市別販売状況 2013年に新車販売台
ウで、前年比55%増の1万1,982台の販売を記
数が最も多かった都市はアルマトィで、前年を
録した。同市ではLADAの人気が圧倒的に高く
約70%上回る3万5,743台の新車が売れた。同
なっており、上位3位を同社のモデル(プリオ
市で最もよく売れたモデルは、現代のアクセン
ラ、グランタ、サマラ)が独占した。同市では
トで2,487台の販売を記録した。以下、LADA
低価格車が好まれる傾向が強く、上位10モデル
プリオラ:2,431台、大宇ネクシア:2,221台、
の中に日本車の名前を見出すことはできない。
図表8 カザフスタン新車乗用車市場における主要モデルのシェア
(単位 %)
ブランド名
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
LADAプリオラ
LADAサマラ
大宇ネクシア
LADAグランタ
LADA 4×4
現代アクセント
起亜リオ
LADA ラルグス
シボレー・クルーズ
トヨタ・カムリ
ルノー・ダスター
日産キャシュカイ
大宇マチス
シボレーNIVA
ZAZチャンス
2012
2013
13.79
13.23
6.85
6.08
6.12
4.86
1.34
0.00
2.09
2.49
0.35
1.26
2.11
1.44
2.21
13.25
9.00
6.94
6.43
5.77
5.28
2.45
2.27
2.20
1.93
1.79
1.78
1.76
1.69
1.64
(出所)カザフスタン自動車ビジネス協会。
ロシアNIS調査月報2014年6月号
27
特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
4番目に販売台数が多かったアクトベでも
等)をSKD方式で生産していた。アジア・アフ
(2013年の新車販売台数は9,564台)、LADAの
トの年間生産台数に占める各ブランドのシェ
人気が高く、上位3位を同社のモデル(プリオ
アは、2013年時点でシボレー:31%、起亜:28%、
ラ、サマラ、4×4)が独占している。また、同
LADA:22%、シュコダ:19%となっていた。
市でも、上位10位以内に日本のモデルは入って
生産台数の方は、2007年:6,000台強、2009
年:1,000台弱、2010年:3,099台、2011年:7,326
いない。
台と伸び悩んでいたが、2012年以降は市場の急
乗用車普及率
カザフスタンの人口1,000人
激な拡大という追い風を受け数字が大幅に伸
当たりの乗用車保有台数は全国平均で219台で
びており、2012年は前年比125.4%増の1万
あるが(2013年春時点)、かなり大きな地域格
6,513台の生産を、2013年は前年比87.8%増の3
差が存在する。最も数字が大きいのはアルマト
万1,005台の生産をそれぞれ記録した。
ィ市で、343台。以下、アスタナ市:305台、北
アジア・アフトは現時点ではSKD方式での生
カザフスタン州:283台、アティラウ州:241
産しか行っていないが、CKD方式での生産へ
台、アルマトィ州:240台、カラガンダ州:238
の移行を視野に入れ、戦略的パートナーである
台、東カザフスタン州:237台と続いている。
AvtoVAZ お よ び カ ザ フ ス タ ン の 政 府 系 企 業
一方、最も数字が小さいのは南カザフスタン
「Eptic」と共同で、プレス、塗装、溶接の各
州で、アルマトィの半分以下の145台となって
ラインを装備した新工場の建設プロジェクト
いる。その他、数字の小さい州としては、キジ
に取り組んでいる。1期工事は2016~2017年に
ルオルダ州(156台)、西カザフスタン州(161
完成し、年産6万台規模でLADAのグランタと
台)、マンギスタウ州(165台)、アクチュビン
新型カリーナの生産が開始される予定となっ
ス ク 州 ( 168 台 ) を 挙 げ る こ と が で き る
ている。さらに、2020年ごろには2期工事が完
(kapital.kz、2013.5.6)。
成し、生産能力が12万台/年に達する見込みと
なっている。2期工事の完成後に生産モデルを
(2)生産の状況
増やすことが検討されており、LADAの新型
現在カザフスタンでは2つの乗用車組み立
NIVAが候補として浮上している。その他、ル
て工場が稼働している。2工場の概要と現状は
ノーおよび日産のモデルが生産される可能性
以下の通りである。
もある。新工場で生産される車はカザフスタン
国内で販売される他、ロシアのシベリア地方と
アジア・アフト
2002 年 に 操 業 を 開 始 し た
極東地方、および、他の中央アジア諸国等に輸
BIPEK-Avtoグループ傘下の設計生産能力4万
出される見込みとなっている。現在の計画では、
5,000台/年の工場で、ウスチカメノゴルスク
2020年時点で生産される12万台のうち7万台
市に所在する。当初はLADAの1モデル(4×4)
以上がロシアに輸出される予定となっている
だけを生産していたが、その後生産モデルを大
(国内市場への供給量は4万台程度になる見
幅に増やし、2013年末の段階では4×4の他に、
込み)
。
起亜の11モデル(クオリス、ピカント、セラト、
なお、アジア・アフトは2010年6月に工業ア
スポーテージ等)、シボレーの6モデル(キャ
センブリ措置に関する協定をカザフスタン政
プティバ、アベオ、クルーズ等)、シュコダの
府 と の 間 で 締 結 し て お り ( auto.gazeta.kz 、
5モデル(ラピッド、オクタヴィア、イエティ
2010.6.29)、上記の新工場建設プロジェクトは
28
ロシアNIS調査月報2014年6月号
2013年のNIS主要国の乗用車市場
■ Research Report
同措置の適用を受けた上で実施される予定と
ではノマド生産開始の情報は出ていなかった。
なっている。当該の協定ではローカルコンテン
ツ30%の達成が義務付けられているので、新工
フーチュナーの生産
日本のトヨタは2013年
場の周辺に複数の部品工場が建設され、2016
2月に、コスタナイのサリアルカ・アフトプロ
~2017年ころより生産が開始される見込みで
ムで2014年春からSUV「フォーチュナー」の
ある。
CKDを開始するという計画を発表した。サリ
アルカ・アフトプロムは、上記のコスタナイ自
2009年12月に、アグ
動車工場の主要株主であるAllur Autoと政府系
ロマシホールディング・カザフスタン社(ロシ
企業であるサリアルカの合弁企業で(2010年の
アの農業機械メーカー「アグロマシホールディ
設立当初はソラーズとサリアルカの合弁企業
ング」の子会社)、自動車販売会社「Allur Auto」、
であったとの情報も存在する)、現在、コスタ
および、韓国の自動車メーカー「双竜」の3社
ナイ自動車工場の敷地内でUAZとIVECOの車
は、アグロマシホールディングが保有するコス
の少量生産をSKD方式で行っている。この状況
タナイのディーゼル・エンジン工場に1,600万
から判断して、トヨタ車の生産もコスタナイ自
ドル以上を投下して年間生産能力2万5,000台
動車工場の敷地内の施設で実施される可能性
の乗用車組立ラインを設置し、双竜のSUV4モ
が高いと推測される。サリアルカ・アフトプロ
デル(Kyron、Acyton、Acyton Sports、Rexton)
ムの設計生産能力は3,000台/年であるが、同
のSKDを開始するという計画を発表した(『エ
工場で生産されるフォーチュナーはすべてカ
クスペルト・カザフスタン』誌、2011.1.31)。
ザフスタン国内で販売される予定となってい
そして、2010年8月より試験生産が開始され、
る。
コスタナイ自動車工場
年末までに合計で77台の双竜車が組立てられ
た。当初の計画では、2011年に約1,500台が生
(3)リサイクル税をめぐる動き
産されることになっていたが、実際の生産台数
2013年秋にロシア連邦法「生産・消費廃棄物
は869台にとどまった。2012年からは、双竜車
に関する連邦法の第24.1条の改訂について」が
の他にウクライナのZAZのチャンスのSKDも
採択された結果、それまでは対象外となってい
開始され、同年の生産台数は2,581台に達した。
たロシア国産車、ならびに、関税同盟国である
さらに、2013年春からはZAZのVIDAの生産が、
カザフスタンおよびベラルーシからロシアに
同年夏からはプジョーの複数のモデル(301、
輸入される車にも2014年1月1日からリサイ
3008、508等)の生産がそれぞれ開始され、同
クル税が課せられることになった。この法律の
年にはZAZ、双竜、プジョーの3ブランドのモ
採択を受け、既述の通り、ベラルーシはロシア
デルが合計で6,464台生産された。
と全く同じ税率のリサイクル税を導入する措
同工場も上記のアジア・アフト同様に、工業
置を講じた。カザフスタン政府も何らかの対抗
アセンブリ措置の適用を受けた上で生産を行
策を講じる可能性を示唆していたが、2014年4
うことを視野に入れており、2013年春に、双竜
月時点では具体的な動きは見受けられない。現
のSUVをベースとするノマドというモデルの
在、カザフスタンはWTO加盟交渉の最終段階
CKD方式でのライセンス生産を2013年末から
にあり、リサイクル税の導入のようなWTO側
開始するとの発表を行った。ただ、何らかの理
の反感を買う可能性の高い措置は講じられな
由で作業が遅れているようで、2014年4月時点
いという同国政府の判断が存在するものと推
ロシアNIS調査月報2014年6月号
29
特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
タイヤは生産されておらず、すべてを輸入に依
測される。
ただ、カザフスタン政府は自国製の車がロシ
存しているが、2013年末になり国営企業「ウズ
アのリサイクル税の対象となったことに強い
ヒムプロム」が、2009年に操業を停止したタシ
憤りを隠しておらず、WTO加盟後にロシアの
ケント州の工場「レジノテフニカ」の敷地内に
意向に反するような措置を講じる可能性も考
年間生産能力300万本のタイヤ工場を建設する
えられる。たとえば、現在30%の水準
9)
に設
計画を発表した。事態が理想的に推移すれば、
定されている新車乗用車の輸入関税率をロシ
2015年夏ごろに建設が、2019~2020年には操業
アよりも早いテンポで15%にまで引き下げる、
が開始される見込みである。このプロジェクト
15%よりも低い水準に設定するという措置を
が実現されれば、ローカルコンテンツの値はさ
講じてくるかもしれない。仮にそうなれば、大
らに上昇することになるであろう。
量の輸入車がカザフスタン経由でロシア市場
GMウズベキスタンの生産台数は2003年ま
に流入することになり、ロシア側は大きな損失
では3万~5万台前後で推移していたが、2004
を被るだろう。その他、国産車の価格競争力を
年以降に生産台数が急激に増加し始め、2009
維持するために、組立用部品の輸入関税率を大
年にはついに年産20万台を突破した。その後も
幅に引き下げる措置が講じられることも考え
高い生産水準が維持されており、2013年には前
られる。
年比4.4%増の24万6,641台が生産された。生産
されるモデルの数も年々増加しており2013年
4.ウズベキスタン
には合計で9モデルが生産されたが、最も生産
台数が多かったのはコバルトで、2013年は6万
(1)生産の状況
412台に達した。以下、ネクシア:5万9,709台、
ウズベキスタン唯一の乗用車メーカーであ
ラセッティ:3万4,183台、マチス:3万1,205
るGMウズベキスタンは、1996年にウズベキス
台、スパーク:2万9,290台、ダマス:2万2,842
タンの「ウズアフトサノアト(ウズベキスタン
台となっている。その他、エピカ、キャプティ
自動車協会)」と韓国の大宇自動車の対等出資
バ、マリブの3モデルが合計で9,000台、SKD
で設立された(当時の名称はUZ-Daewoo)。大
方式で生産された。列挙した9モデルのうちダ
宇破綻後はウズアフトサノアトが大宇側のシ
マスに関しては、2014年中にホレズム自動車生
ェアを買い取り株式の100%を保有していたが、
産合同でも生産が開始される予定となってい
2007年末にGMがそのうちの25%を買い取る
る。生産は当初はSKD方式で実施されるが、後
という形で新会社「GMウズベキスタン」が設
にCKDに移行しピーク時には年間4万台のダ
立され現在に至っている。GMウズベキスタン
マスが生産される見込みとなっている。
の自動車組立工場(年間生産能力25万台)はア
クサイ市に所在するが、その周辺には合弁の部
(2)輸出の状況
品工場が10以上存在し組み立て工場に部品を
ウズベキスタン政府はGMウズベキスタン
供給している。モデルによりローカルコンテン
の自動車を貴重な外貨獲得源と位置付けてお
ツの値は異なるが、一部のモデルでは6~7割
り、国内販売よりも輸出を重視している。その
以上に達している。残りの部品は輸入されてい
関係で、GMウズベキスタンで生産されるモデ
るが、その多くにつき特恵的な輸入関税率が適
ルの輸出価格は国内価格よりもはるかに低く
用されている。なお、ウズベキスタンでは現在
設定されている。たとえば、2014年3月時点で
30
ロシアNIS調査月報2014年6月号
■ Research Report
2013年のNIS主要国の乗用車市場
のネクシアのロシアでの販売価格は約8,000ド
車の関税率は30%+1cc当たり3ドル)
、いわゆ
ル~となっているが、国内価格の方は2013年末
る「遠い外国」(CIS域外)製の乗用車を輸入す
時点で1万7,000ドル近くに達していた(公式
ることは極めて困難となっている。政府間協定
レートで換算した数字。闇レートで換算すると
に従い、ロシアのLADAの車だけは無関税で輸
約1万3,000ドル)
。また、マチスもロシアでの
入できるが(ロシア製の外国ブランド車は高い
販売価格が7,000ドル~であるのに対し、国内
輸入関税率の対象となっている)、LADAの輸
での販売価格は1万800ドル(闇レートで換算
入業者による決済用の外貨購入額を制限する
すると8,400ドル)に達していた。しかも、GM
といった措置をウズベキスタン政府が講じて
ウズベキスタンの車の国内価格はここ数年、毎
いる関係で、LADA車の輸入も少量にとどまっ
年大幅に上昇しており、2014年も7~12%の値
ている。その他、輸入車に関しては、国産車と
上げが計画されているので、内外価格差は今後
比較して車検が通り難いという噂もある。
さらに広がる可能性が高い。
ただ、破格の安値にもかかわらず、GMウズ
以上のような状況が存在するため、同国の新
車市場における輸入車(その大半がLADA車)
ベキスタンのモデルの外国市場での人気は低
のシェアは5~6%程度で、残りはすべてGM
迷しており、2013年の輸出台数は前年比16.4%
ウズベキスタン社の車により占められている。
減の9万795台にとどまった(ASMホールディ
ASMホールディングのデータによれば、2013
ング発表の数字)。モデル別の状況を見ると、
年のGMウズベキスタンの国内販売台数は15
陳腐化の傾向が顕著である主力のネクシアの
万7,784台とされているが(一部には、国内で
落ち込みが最も大きく、輸出台数は前年比
販売された車についても最終的には輸出に供
53.8%減の3万771台にとどまった。また、同
されるケースが多いとの説も存在する)、その
様に陳腐化の傾向が強いマチスの輸出も不振
数字を信じれば、同年のウズベキスタンの新車
で、前年比43%減の2万243台となった。一方、
市場の規模は17万台前後だったということに
生産が開始されたばかりのコバルトの外国市
なる。しかし、ウズベキスタンの新車乗用車に
場での人気は上々で、2013年の輸出台数は前年
対する実際の需要はそれよりも遥かに大きく、
の449台から一挙に2万5,798台にまで増加し
GMウズベキスタン製の新車を購入するには
た。同様に新型ラセッティ(外国ではGentraと
通常1年もしくはそれ以上待つ必要があると
いうモデル名で販売されている)の輸出台数も、
いわれている。また、順番待ちをせずに新車を
前年の17台から9,603台に急増した。
購入したければ、販売店に対し「追加料金」を
支払う必要があるといわれている10)。もっとも、
(3)国内市場の状況
ウズベキスタンではGMウズベキスタンを
「追加料金」を支払っても多少は待たされるの
で、それよりも急ぐ客は中古市場で1~2年落
保護するために極端に高い輸入関税率が導入
ちの中古車を購入することが多い。このため、
されている。排気量2,000ccの新車を例にとれ
ウズベキスタンでは1~2年落ちの中古車の
ば、関税額は通関価格の20%+1cc当たり2ド
価格が新車の価格を上回ることが珍しくない。
ルに設定されている。その他、物品税、付加価
ちなみに、ウズベキスタンでは新車の購入規
値税、通関手数料を支払う必要があり、実質の
則も特異であり、GMウズベキスタン製の新車
関税率は100%を超えてしまう。中古車にも同
を購入する際には、原則的に、銀行に決済用の
様の関税が課せられることになっており(中古
口座を開設し販売価格の85%に相当する資金
ロシアNIS調査月報2014年6月号
31
特集◆期待と不安が交錯するNIS経済
を振り込むことが必要となっている。その約1
【注】
年後に新車を獲得できるわけだが、その間に新
1)ASMホールディング以外の調査機関も乗用車の
車価格が上昇した場合は、その分を追加で当該
販売台数の数字を発表しているが、それらの数
の口座に振り込まなければならない。
おわりに
字の間には微妙な差異が存在する。たとえば、
ウクライナの調査機関「Autoconsulting」によれ
ば、2013年の新車市場の規模は前年比7.36%減
の20万1,566台とされている。
ウクライナの乗用車市場は2000年から2008
2)排気量1,000cc未満のガソリン車、2,200cc以上の
年までは順調に拡大しており、非常に注目され
ガソリン車、および、ディーゼル車は特別関税
ていたが、2008年秋のリーマンショック以降は
低迷が続いている。低迷の主因は、経済状況の
悪化とめまぐるしく変化する税制にあると考
えられるが、最近になりそれらに政情不安とい
の対象外となる。
3)ZAZチャンスは、センスの輸出仕様車である。
4)自動車部品生産部門(ウクルアフトザプチャス
チという会社が統括)、農業部門(アグロプロ
ドインヴェスト社が統括)、造船・機械製造部
う大きな否定的要因が加わり、今のところウク
門(レーニンスカヤ・クズニャ社が統括)、製
ライナ市場が不振から脱却する兆しは見受け
菓部門(ROSHEN社が統括)等で構成されてい
られない。
る。
カザフスタンの乗用車市場は2011年夏以降、
急激に拡大しており2013年の新車販売台数も
前年比で69%も増加した。2014年に入ってから
も販売は好調で、順調にいけば同年中にもウク
ライナの新車市場の規模を上回るとみられて
5)すなわち、それまで車の小売価格と卸売価格の
差額分(つまり、小売店の利益分)だけが付加
価値税(税率は20%)の課税対象となっていた
ものが、車の小売価格全体が課税対象になった。
その結果、車購入時の消費者の負担額は16~
20%増加した。
いたが、2月11日にテンゲの切り下げが実施さ
6)フォード・ユニオンでは1997年春よりフォー
れ、一転して先行きが不透明となった。最悪の
ド・トランジットとエスコートの生産が開始さ
場合は、販売の停滞傾向が比較的長期にわたり
れたが、販売の伸び悩みなどもあり、2001年に
続くかもしれない。
フォードはこのプロジェクトから撤退した。
ベラルーシの乗用車市場は、規模が小さすぎ
て日本の完成車メーカーにとっては魅力的な
存在ではないかもしれないが、関税同盟に加盟
している国なので、ロシアで生産される日本ブ
ランド車の販売先として無視できない存在だ
といえる。
ウズベキスタンの乗用車市場は非常に閉鎖
的かつ特殊なので、少なくとも現時点では、日
本の完成車メーカーにとって重要な市場にな
ることはないであろう。ただ、日本の部品メー
7)カザフスタン中央銀行は2014年2月11日に、自
国通貨テンゲの対ドル為替レートを10日時点
より約20%安い1ドル=約185テンゲに切り下
げると発表した。
8)カザフスタン自動車ビジネス協会発表の2014年
1~2月期の数字。
9)2012年夏にロシアがWTOに加盟し新車乗用車の
輸入関税率を30%から25%に引き下げた後も、
カザフスタンとベラルーシはWTO加盟国では
ないとの理由から30%の水準を維持していた。
10)ウズベキスタンの自動車販売店のマージンは平
均で2%程度にすぎないが、この「追加料金」
カーもしくは設備機器メーカーとGMウズベ
のおかげでどの販売店も巨額の利益をあげて
キスタンとの間にビジネス上の接点が生まれ
いるといわれている。
る可能性は十分に考えられる。
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