6.3 高等学校におけるレディネス学習による授業改善 6.

6.3 高等学校におけるレディネス学習による授業改善
6.3.1 高等学校の特性とレディネス学習
(1) 高等学校の特性
「高等学校学習指導要領解説 総則編」では「高等学校段階は,青年期に当たり,身体,生理面
はもちろん,心身の全面にわたる発達が急激に進む時期である。また義務教育の基礎の上に立って,
自らの在り方生き方を考えさせ,将来の進路を選択する能力や態度を育成するとともに,社会につ
いての認識を深め,興味・関心等に応じ将来の学問や職業の専門分野の基礎・基本の学習によって,
個性の一層の伸長と自立を図ることが求められている」と述べている。つまり,高等学校では,社
会を支える自立した存在として進路を決定できるように,それぞれの生徒の能力をできる限り伸ば
す多様な教育が目指されている。
また,高等学校への入学者は中学校からの調査書や学力検査等によって選抜される。この学力検
査等や入学希望者の多寡等により,各高等学校に入学する生徒の学力層の違い,いわゆる学校間格
差が生じているのも事実である。そのため各校では,入学した生徒の興味・関心,能力・適性,進
路希望等に応じて特色ある教育課程を編成し,それぞれに特色ある教育活動を展開している。した
がって,卒業までに履修する教科・科目も学科の違いや選択科目の増大等によって生徒一人一人で
異なり,同じ科目の授業であっても使用教科書の違い等で学校ごとに授業内容が異なることもある。
以上のことを踏まえ,高等学校では生徒の興味・関心,能力・適性,進路希望等に応じ,生徒の
個性の一層の伸長を図るような教育活動を展開することが必要と考える。
(2) 高等学校におけるレディネス学習のとらえ
高等学校では,学習内容の難易度が増し抽象的な内容も増えてくるため,小・中学校と比較する
と生徒にとって理解が困難な部分も多くなると考えられる。そのため宿題や家庭学習といった授業
以外の学習は,学校での学習内容を理解する上で重要と思われる。レディネス学習は,必ず次の授
業で生かされるという特徴をもつ授業以外の学習であり,宿題や家庭学習の一部をなすものと言え
る。また,本研究の「宮城県における児童生徒の学力にかかわる教員の意識調査」によると,高等
学校では「学ぶ意欲」を不十分と指摘する教員の割合が高くなっている。学習意欲を高めるには,
生徒の興味・関心,能力・適性,進路希望等を学習に結び付けることが重要と考えられ,特にレデ
ィネス学習によって授業以外の学びと学習意欲が結び付くことにより,学力向上に資することがで
きると考える。なお,良好な学習状況にある生徒に対しては,その能力・適性にこたえることので
きるレディネス学習の課題を設定することで,興味・関心をより高めることが必要になると考える。
(3) 高等学校における宿題や家庭学習とレディネス学習との関係
高等学校における学習内容の十分な定着には授業以外の学習が不可欠であり,レディネス学習を
契機とする家庭学習のより一層の充実が期待される。そのため,レディネス学習と宿題や家庭学習
をそれぞれ効果的に組み合わせることが重要となる。例えば,授業以外の時間における学習習慣が
定着していない生徒に対しては,興味・関心を引き出すレディネス学習の課題を設定して家庭学習
を促しながら,徐々に予習や復習の頻度を高めていくことが考えられる。家庭学習が定着している
生徒の場合は,レディネス学習が従来の家庭学習をより充実させる契機になることを授業の中で実
感できるようにすることが重要と考えられる。このようにレディネス学習と宿題や家庭学習の関係
を固定的にとらえず,両者が十分に機能するよう生徒や学校の実態を考慮して,課題の内容や割合
を変えることが必要である。
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35
−
6.3.2 高等学校におけるレディネス学習課題の在り方
(1) 興味・関心がわくようなレディネス学習の課題設定
高等学校の多様性を踏まえると,レディネス学習の課題は生徒や学校の実態に即したものでなけ
れば効果は期待できず,どの学校にも適用できるような一般化は難しいと言える。例えば,学習意
欲の喚起を図る場合にも,その学校やクラスの生徒の興味・関心が主にどこに向いているかによっ
て課題の内容は変わることになる。同じ課題であっても生徒の実態が異なれば妥当性は変化するか
らである。そのため教員は,生徒の日常生活に即したものから学問的な探究に迫るものまで幅広く
考えられる材料の中から,生徒の実態に応じて効果的と思われる課題を設定することになる。その
際に,幅広い教養や専門分野に関する深い理解等へ結び付くような発展性のある課題とすることが,
生徒の興味・関心,能力・適性,進路希望等に応じて一人一人の個性をできる限り伸ばすという高
等学校の特性に沿うと言える。
(2) レディネス学習の課題設定で配慮すべきこと
特定の科目で過重に難易度の高いレディネス学習の課題を設定すれば,生徒はその科目のレディ
ネス学習だけで授業以外の学習の大部分を費やしかねない。それでは他教科のレディネス学習やそ
れ以外の宿題や家庭学習を進めることが困難となる。高校生の発達段階を考慮すると,特定の教
科・科目や分野・領域への志向が強まることは重要だが,一方で幅広い知識や理解を得ることも必
要と考えられる。したがって,各教科・科目を含めた授業全体としてレディネス学習による学習効
果を高めるために,レディネス学習の課題は複数の教科・科目ごとに示されても取り組めるような
内容にすることが求められる。特に,語句の意味調べ等の予習や問題演習等の復習,定期考査に向
けた集中的な学習等も欠かせない高校生にとって,レディネス学習とその成果を生かす授業が,よ
り充実した家庭学習の契機となるよう配慮していく必要がある。
(3) レディネス学習の課題例
① 世界史B「オリエントと地中海世界」
(11 時間扱い)より
前述のように生徒や学校の実態に即したものでなければ効果は期待できないため,高校生の発達
段階を踏まえて興味・関心がわくようなレディネス学習の課題を設定する必要がある。そこで,た
だ単に興味・関心がわくだけでなく,できる限り発展性のある課題とすることで,生徒の能力をで
きる限り伸ばすということを目指し設定したのが,以下の例に示したレディネス学習の課題である。
例えば「古代ギリシアで生まれたピタゴラスの定理について調べてくる」に関しては,ピタゴラ
スの定理そのものを調べてくることでレディネス学習を終える場合や,ピタゴラスという人物まで
調べてくる,それ以外の古代ギリシア由来の数学の定理を調べてくる,古代ギリシアに由来する身
近なものがないかなど,生徒自身の興味・関心に応じて発展的に調べてくることも可能と考える。
≪例 世界史B「オリエントと地中海世界」のレディネス学習の課題と学習活動の概要,及び学習目標≫
小
単
元
◆レディネス学習の課題
時
・学習活動
○学習目標
◆古代ギリシア神話に「トロイの木馬」の話がある。内容を調べてくる。
ギリシア世界
4
・レディネス学習で調べてきたことを発表する。
○エーゲ文明について考察する。
・発表したこともとに,エーゲ文明の発見を把握し,オリエン
○ポリスの成立と,代表的なポリスで
ト文明との関係を考慮して,エーゲ文明の特色を把握する。
あるアテネに関して考察する。
・ポリスの形成と代表的なポリスであるアテネとスパルタの特
色を把握する。
◆古代ギリシアでなぜ民主政が成立したのか,オリエントと比較してその要因を1つ考えてくる。
−
36
−
5
○アテネでドラコンの成文法からペ
・レディネス学習で考えてきた要因を発表する。
・発表をもとに,なぜ古代ギリシアで民主政が成立したのか考
リクレスによる直接民主政の完成
までの過程を考察する。
える。
・その典型的な例としてのアテネの民主政の発展を把握する。
・ペルシア戦争で活躍した無産市民がアテネの民主化に与えた
影響について把握する。
◆ポリス社会が衰退するが,その要因を1つ考えてくる。
6
○ギリシア世界が衰退した過程をペ
・レディネス学習で考えてきたことを発表する。
・発表をもとにポリス衰退の原因を考える。
ロポネソス戦争とその後のポリス
・ペロポネソス戦争がギリシアに与えた影響とマケドニアのギ
の争いとマケドニアによる征服か
ら考察する。
リシア征服の意義を把握する。
・アレクサンドロスの遠征とその遠征で成立したヘレニズム時
○アレクサンドロスの遠征でヘレニ
ズム世界が成立し,ギリシア文化が
代の特質を把握する。
東方に拡大したことを理解する。
◆古代ギリシアで生まれたピタゴラスの定理について調べてくる。
7
・レディネス学習で調べてきたことを発表する。
○ギリシア文化の特色を考察する。
・発表したことをもとに,なぜ数学が古代ギリシアで発達した
○ギリシア文化をもとにヘレニズム
文化の特色を考察する。
のか考え,ギリシア文化の特色を把握する。
・ギリシア文化の各分野での発展を把握する。
・ギリシア文化をもとに成立したヘレニズム文化の特色を把握
する。
◆「ローマは1日にしてならず」
「すべての道はローマに通じる」
「永遠の都ローマ」の3つのことわざの意味
を調べてくる。
8
○都市国家ローマの地中海世界への
・レディネス学習で調べたことを発表する。
・発表をもとに「ローマ」が歴史においてもつ意味を考える。
・ローマのイタリア半島統一とローマの民主政を把握する。
・ローマがポエニ戦争終了後どう変化したのか把握する。
進出を考察する。
○都市国家ローマの共和政の進展を
理解する。
◆古代ローマには「剣奴」というP44 の写真の奴隷がいた。
「剣奴」とは何か調べてくる。
9
・内乱の 1 世紀を経てローマに帝政が確立され,地中海世界を
○ローマにおける内乱の1世紀とい
う混乱から帝政への動きを考察す
統一したことを把握する。
る。
・レディネス学習で調べたことを発表する。
ローマ世界
・発表したことをもとに,古代ローマの特色である「パンと見
世物」という支配者と無産市民の関係について考える。
○ローマの地中海世界の統一と繁栄
を把握する。
・ローマ帝国が「ローマの平和」という繁栄の時代を迎えるこ
とを把握する。
◆キリスト教と仏教を比較して,キリスト教の特徴を 1 つ調べてくる。
10
・ローマ帝国の混乱と専制君主政の成立によるローマ帝国の変
○ローマの衰退とローマの政治の変
化を考察する。
質を把握する。
・ローマ帝国東西分裂と西ローマの滅亡について把握する。
・キリスト教について調べたことを発表し,キリスト教の特徴
○キリスト教の国教化について理解
する。
について考える。
・キリスト教の成立と国教化への過程を把握する。
◆現在日本で使われている暦は古代ローマに由来する。今使用している暦について調べてくる。
11
・レディネス学習で調べたことを発表する。
○ローマの生活と文化の特色を考察
・発表したことをもとに,古代ローマの文化の特色を考える。
・ローマ文化の各分野における活躍を把握する。
−
37
−
する。
② 国語総合「詩」
(5時間扱い)より
「高等学校学習指導要領解説 国語編」では「国語総合」の目標に「言語感覚を磨き」とあるの
は「言葉の美しさや用法の適否,表現の効果などを判断する能力を一層向上させることを述べたも
の」としている。また,
「C 読むこと」の指導事項には「ウ 文章に描かれた人物,情景,心情
などを表現に即して読み味わうこと」
「エ 様々な文章を読んで,ものの見方,感じ方,考え方を
広げたり深めたりすること」が示されている。このことについて,以下のように詩を教材とした授
業で具体化できるように単元を設定し,レディネス学習を位置付けた。
≪例 国語総合「詩」のレディネス学習の課題と学習活動の概要,及び学習目標≫
◆レディネス学習の課題
時
・学習活動
○学習目標
◆「二十億光年の孤独」の「くしゃみ」によって受ける印象をノートに記してくる。
1 ・詩全般に関する印象や感想を話したり聞いたりしながら,詩に対する興味を
○詩に興味をもち,表現技
巧に注意しながら読み味
深める。
・教員の朗読と各自の音読の後に印象や感想を発表したり聞いたりして各部分
わう。
の意味を検討する。
・レディネス学習をもとに最後の1行がもたらす影響について意見を交換し作
品理解を深める。
◆「サーカス」で感動の中心になる単語を一つ選び,蛍光ペン等で印を付けてくる。
2
・レディネス学習をもとに感動の中心として選んだ単語と人数を挙手で確認し, ○表現に即して詩を読み味
わい,詩の特徴や分類に
選んだ理由を発表したり聞いたりする。
・他者の発表や教員の解説から各連の内容や音韻上の表現効果を確認し,作品
ついて理解する。
全体を通した叙情について理解した上で繰り返し音読する。
・用語,形式,内容による詩の分類を知る。
◆「甃のうへ」の情景をできるだけ詳しく想像して,「わが身」の印象をノートに記してくる。
3
・教員の朗読と語句の解説の後に各自で音読し,レディネス学習をもとに印象
や感想を発表したり聞いたりして各部分の意味を検討する。
・レディネス学習によって具体的にイメージされた内容をもとに作品全体の内
○詩から読み取った内容を
広げたり深めたりして具
体的に表現する。
容を 350 字以上 400 字以内の解説文で詳細に書き表す。
◆「道程」以外の高村光太郎の詩を一つ調べ,正確にノートに書き写してくる。
4
・音読の後に作品に表された作者の考えや表現技巧について確認する。
・レディネス学習をもとに他の作品を挙げ,共通点や相違点に注意しながら印
○同じ作者の他の作品に興
味をもって読み味わい,
比
較して詩人や作品への理
象を発表し合う。
解を深める。
・教員の解説等を参考に詩人の作風や生き方を知る。
◆4編の中から最も印象深い作品を一つ選び,400 字以上 800 字以内の鑑賞文が書けるように「結び」の一文をノートに書
いてくる。
5
・レディネス学習により明確化された感想や意見の結論部分を意識しながら選
○詩の表現技巧,意味内容,
んだ詩の特徴や意味内容に対する説明を組み立てて 400 字以上 800 字以内の
自らの感想と意見を交え
鑑賞文を作成する。
た鑑賞文を作成する。
≪教材と採用教科書≫
「二十億光年の孤独」谷川俊太郎・・・ 東京書籍『新編国語総合』
,三省堂『新編国語総合』
,筑摩書房『精選国語総合』
,
旺文社『高等学校国語総合』
,桐原書店『展開国語総合』
「サーカス」中原中也・・・・・・・・・・・・・ 三省堂『新編国語総合』
,教育出版『国語総合』
,明治書院『精選国語総合』
,
筑摩書房『国語総合』
,桐原書店『展開国語総合』
「甃のうへ」三好達治・・・・・・・・・・・・・ 東京書籍『精選国語総合』
,教育出版『新国語総合』
,大修館書店『国語総合』
,
第一学習社『高等学校新編国語総合』
「道程」高村光太郎・・・・・・・・・・・・・・・ 東京書籍『新編国語総合』
,明治書院『新編国語総合』
,教育出版『新国語総合』
,
第一学習社『高等学校新編国語総合』
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6.3.3 高等学校におけるレディネス学習の成果を生かす授業
学校間で様々な違いをもつ高等学校においては,小・中学校に比べて教育課程や授業内容等を各
学校で幅広く設定することができるため,より生徒や学校の実態に応じた授業展開が考えられる。
例えば,生徒の多くが中学校までの学習内容を十分身に付けていなければその学習内容を授業で扱
うことも可能であり,学習状況が良好であればより専門的で高度な内容を授業で扱うこともできる。
それだけに,生徒や学校の実態に合わせることが重要で,それらを踏まえて各学校で定めた教育課
程や年間計画等にしたがって,各教科・科目の授業内容が計画され実践されることになる。特に高
校生の発達段階を踏まえると,生徒一人一人の興味・関心,能力・適性,進路希望等に応じた学習
内容となるように,授業を工夫することが求められる。
(1) レディネス学習の成果を生かす授業展開の3つの視点
① 取り組んできた生徒のレディネス学習をできる限り授業で取り上げる
高校生の発達段階を考えると,レディネス学習への取組を推進する際に生徒の学習意欲が最も重
要になる。前述したように,その学校やクラスの生徒の興味・関心が主にどこに向いているかを教
員が考えて設定したレディネス学習の課題に生徒が取り組み,その学習成果を授業で着実に取り上
げることで,生徒は授業への意欲を更に高めると考えられる。また,高校生は小・中学生と比較す
ると授業中に進んで発言したり,行動したりするのをためらう場合が多い。そのため,授業におい
て生徒の積極的な取組を引き出す工夫をすることが教員に求められる。
② レディネス学習の取組状況に応じた授業展開を想定しておく
生徒が様々な事情によりレディネス学習に取り組んでこないことも考えられるため,教員はその
ような生徒も参加できる授業展開を想定し,必要な準備を行うことになる。例えば,レディネス学
習に取り組んできた生徒の結果や考えを全体に示し,それをもとに学習活動を進めるという授業展
開を想定できる。また,より主体的な学習を促すためにグループを編成して授業を展開することも
考えられる。レディネス学習に取り組んでこなかった生徒も含めたグループ内での話合いを通して,
レディネス学習に取り組んできた生徒の結果を共有したり意欲を高めたりできるようにしながら,
その成果を以降の学習に反映することが望まれる。
③ 主体的な活動場面を十分に確保する
レディネス学習に取り組んでくることで,抽象的で難易度の高い学習内容に対しても理解が進む
と考えられる。したがって,レディネス学習の課題に取り組むことは,学習内容を確実に定着させ
る上でも重要となる。高等学校では小・中学校と比較した場合に講義形式の授業が多く,生徒にと
っては受身的な学習活動が多かったと言える。そこで,レディネス学習として取り組んできたこと
を生かして,生徒が主体的に学習活動を展開し課題解決を十分に行なうことができたならば,学習
内容の理解が進み学習意欲もさらに高まると考える。
(2) 授業展開例
① 世界史B「オリエントと地中海世界」
(11 時間扱い)より ギリシア文化 (第7時)
上記の視点を踏まえて,グループを編成してレディネス学習を発表し合うことを授業に取り入れ
た。レディネス学習に取り組んでこなかった生徒も,グループで話し合う活動によりレディネス学
習の課題をもとに学習を深め合えると考えた。そして,より主体的な学習が展開されることを目指
した。
以下の学習過程は,世界史B「オリエントと地中海世界」の単元計画における第7時に該当する
−
39
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ものである。中学校では日本の歴史を学習する際の背景として世界史を扱う程度なので,生徒は高
等学校に入学して初めて本格的に世界史Bという科目を通して世界史を学ぶことになる。よって生
徒の興味・関心を高めて,意欲をもって世界史の学習に取り組むことができるように工夫すること
が科目の特性上求められる。
本時では「古代ギリシアで生まれたピタゴラスの定理について調べてくる」というレディネス学
習の課題を設定し,ピタゴラスの定理がなぜ古代ギリシアで生まれたのか考えることで,ギリシア
文化の特色を把握することをねらいとしている。生徒は身近なギリシア文化の所産であるピタゴラ
スの定理に関するレディネス学習に取り組むことで,ギリシア文化に関する興味・関心を高め,意
欲をもって授業に臨み学習内容をスムーズに理解することが可能と考えた。また,ギリシア文化の
特色の把握から,ギリシア文化の拡大であるヘレニズム文化の特色を考察することにつなげていく
授業展開を計画した。
≪例 世界史B「オリエントと地中海世界」より ギリシア文化 の学習過程(7/11 時)≫
学習目標
学習の流れ
●レディネス学
習の発表
○ギリシア文化の特色を考察する。
○ギリシア文化をもとにヘレニズム文化の特色を考察する。
学習活動
レディネス学習の課題
古代ギリシアで生まれたピタゴラスの定理
について調べてくる
●レディネス学習を発表する。
・グループを形成し,発表し合う。
・グループの代表が全体に発表し,全体で疑
問をもったことや関心をもったことについ
て話し合う。
●古代ギリシア
での数学発達
の要因
●ギリシア文化
の特色
●ギリシア文化
の各分野での
発展
●古代ギリシアにおける数学発達の要因を考
える。
・教科書をもとにオリエント世界との違いを
確認する。
・レディネス学習の成果と教員の話から古代
ギリシアでの科学的態度の成立を確認す
る。
・教科書をもとにイオニア自然哲学の発展と,
ピタゴラスの定理との関係を理解する。
●ギリシア文化の特色を考える。
○教員のはたらきかけと指導上の留意点
◆学習評価とその方法
△「努力を要する」と判断された生徒への具体的
な支援
○レディネス学習に取り組んできたか,挙手で確
認をする。
[視点(1)]
○グループ内で互いに発表し合うことで,レディ
ネス学習に取り組んでこなかった生徒も,レデ
ィネス学習で取り組んだ内容に触れることがで
きるようにする。
[視点(2)]
○より深く取り組んだ生徒のレディネス学習を取
り上げ,そのよさを共有できるようにする。
[視点(1)]
○質問が出ない時は教員が疑問を投げかけるなど
して,発言を促す。
[視点(3)]
○調べたことをクラスで共有して,ギリシア文化
について関心を高め,なぜ数学の定理が古代ギ
リシアで生まれたのかを考えるようはたらきか
ける。
[視点(3)]
○オリエント世界とギリシア世界の違いについて
教科書をもとに理解するようはたらきかける。
○万物の根源を考えたイオニア自然哲学で数学の
発達が見られたことを,教員が説明する。
○ギリシア文化の特色がポリスの生活から生まれ
たことを教員が説明する。
・ギリシア文化の特色が生じた要因を考える。 ◆合理的で人間中心的な文化というギリシア文化
の特色を把握し,その時代に活躍した人物や作
・教科書をもとにポリスでの市民の生活を考
品に関する基本的知識を身に付けている。
える。
【知識・理解】
(発表,観察)
・本時の学習と教員の説明からギリシア文化
△ポリスでの生活について教科書をもとに確認す
の特色を理解する。
るようはたらきかける。
●ギリシア文化における各分野での発展を調 ○ワークシートを用いてギリシア文化の宗教,文
学,哲学,歴史,建築などの分野で活躍した人
べる。
物や作品に触れことができるようにする。
・ワークシートを利用し,各分野で活躍した
人物等について教科書をもとにまとめる。
−
40
−
●ヘレニズム文
化の特色
●ヘレニズム文化の特色を考える。
・ヘレニズム文化の特色を考察する。
・教科書からヘレニズム文化の特色を理解す
る。
・なぜ政治からの逃避と個人の内面の追求を
説く哲学が広がったか考える。
・教科書をもとにポリスの伝統の崩壊を理解
する。
●次時の予告
●次時のレディネス学習を予告する。
◆政治からの逃避と個人の内面的な幸福を追求す
る哲学が広がることと自然科学,人文科学が発
展するというヘレニズム文化の特色を考察し,
その歴史的な意義を判断している。
【思考・判断】
(観察,発表)
△ギリシア文化の特色を本時の授業からもう一度
とらえるようはたらきかける。
○政治から逃避した理由を考えることで,ギリシ
ア文化とヘレニズム文化の違いを理解するよう
はたらきかける。
○ローマについて次回から扱うので,ローマの歴
史的な地位を調べるレディネス学習に取り組む
ことで,興味・関心を高める。
レディネス学習の課題
「ローマは1日にしてならず」
「すべての
道はローマに通じる」
「永遠の都ローマ」
の3つのことわざの意味を調べてくる。
※視点(1) (2) (3)は次の通り
(1) 取り組んできた生徒のレディネス学習をできる限り授業で取り上げる
(2) レディネス学習の取組状況に応じた授業展開を想定しておく
(3) 主体的な活動場面を十分に確保する
いし
② 国語総合「詩」
(5時間扱い)より 甃のうへ (第3時)
次の学習過程は,
「詩」の単元計画における第3時に該当する。レディネス学習を「
『甃のうへ』
の情景をできるだけ詳しく想像して,
『わが身』の印象をノートに記してくる。
」とした。作品の読
み取りをあらかじめ授業時間外に行うことで生徒一人一人が自分にあったペースで詩を読み味わ
うことができ,難解な言葉の意味等に関する疑問も明確に意識すると考えられる。それらを反映さ
せて授業での発表や作文がスムーズに展開できたり,言葉に対する疑問の解決や発見が生まれたり
すると,他の作品の紹介や文学史的事項を扱う学習もより効果的に展開できると考えた。
≪例2 国語総合「詩」より 甃のうへ の学習過程(3/5 時)≫
学習目標
学習の流れ
●作品音読と
初発の感想
発表
○詩から読み取った内容を広げたり深めたりして具体的に表現する。
○教員のはたらきかけと指導上の留意点
◆学習評価とその方法
学習活動
△「努力を要する」と判断された生徒への具体
的な支援
○歴史的仮名遣いに注意を促して範読した後,
・本時の学習課題を確認する。
情景を思いえがくよう指示し,再度範読する。
○各自で微音読をしながら情景を思いえがくよ
三好達治の作品「甃のうへ」を読み味わ
・ うに指示する。
う。その上で読み取った内容を書き表す。
・ ◆表現に即して音声を使いながら詩を読み味わ
・初発の感想を発表し他者の感想を聞く。
っている。 【読むこと】
(観察,机間指導)
△個別に声をかけ,語句の読み等を再確認して
音読を促す。
レディネス学習の課題
○レディネス学習への取組を挙手で確認し,初発
「甃のうへ」の情景をできるだけ詳しく想像
の感想と併せて「わが身」に対する印象も発表
して「わが身」の印象をノートに記してくる。
させる。
[視点(1)]
○レディネス学習に取り組んでこなかった生徒も
感想を吟味できるよう,音読の時間を確保し,行
ってきた生徒の後に指名発表させるなどの配慮
をする。
[視点(2)]
−
41
−
●作品読解と
解説文作成
・難解な語句を中心に意味を確認し,作品上の解
釈を検討する。
・ 「をみなご」と「わが身」について,それぞれ
の様子と取り囲むもの等から比較し,作品の情
景や詩人の心情を想像して発表したり他者の
考えを聞いたりする。
・ 具体的にイメージされた内容をもとに作品全
体の内容を 350 字以上 400 字以内の解説文で詳
細に書き表す。
●感想発表と ・ 学習を振り返り作品や三好達治について感想
発展
●次時の予告
を発表する。
・ 三好達治の他の作品を知り,特徴や共通点を考
える。
・レディネス学習の内容を確認する。
レディネス学習の課題
「道程」以外の高村光太郎の詩を一つ調べ,
正確にノートに書き写してくる。
○1行ごとに注意すべき語句を取り上げ,どの
ような意味に読み取ったか問いかけながら考
えを深めるように促し,辞書的意味や一般的
解釈を解説する。
○想像の根拠となった作品の言葉の意味や音律
等を確認できるように問いかけ,イメージの
広がりを図る。
[視点(3)]
◆読み取った内容を広げたり深めたりして具体
的に書いている。
【書くこと】
(観察,机間指導,解説文の分析)
△個別に声をかけ,つまずきの原因等を確認し
ながら解決を探り作文を促す。
○作文の進み具合を見ながら発表者や人数を決
めて指名する。
[視点(3)]
○詩人への関心が高まるように,知っている生
徒が多いと考えられる「雪」や「土」
,
「甃の
うへ」と共通点を感じとり易い作品等を紹介
する。
○中学校で習っている可能性がある「レモン哀
歌」や「ぼろぼろな駝鳥」等に触れ,図書館
で全集本等を利用することも呼びかける。
※視点(1) (2) (3)は次の通り
(1) 取り組んできた生徒のレディネス学習をできる限り授業で取り上げる
(2) レディネス学習の取組状況に応じた授業展開を想定しておく
(3) 主体的な活動場面を十分に確保する
6.3.4 高等学校における実践上の留意点
(1) 教員間の連携
レディネス学習の成果を生かす授業をより推進するためには,教員間の連携が求められる。教科
担任制をとる高等学校においては教科会でレディネス学習を取り入れた単元計画,授業を検討する
ことが重要と考える。同じ教科の教員同士で互いの授業を見合うことにより,レディネス学習の課
題やレディネス学習の成果の授業での生かし方について協議することが望まれる。また,学年会で
各教科でのレディネス学習による授業実践の状況や生徒の取組状況を報告し合い,情報を共有し合
うことも重要と考える。そうして得られた情報をもとに,ホームルーム担任をはじめとして,多く
の教員が生徒への声がけを行っていくことが大切である。
(2) 学校と家庭の連携
高等学校においてレディネス学習を推進する上で,家庭との連携が必要と考える。高校生の発達
段階ではレディネス学習の実施に直接的に家庭の協力が必要な場合はあまり考えられないが,家庭
に授業以外の学習の必要性やレディネス学習を取り入れている趣旨を伝えて理解を促すことは,特
に生徒の授業以外の学習があまり定着していない場合に,状況の改善に向けた方策を探る上で重要
である。
具体的な方法としては,教員が保護者との面談や各種連絡の際に家庭でのレディネス学習の取組
状況を聞いたり,家庭へ学校での学習状況を伝えたりすることが考えられる。また,各種PTA行
事,学校便り,学年便り等を利用することも考えられる。
(3) 高等学校における学科に関する留意点
各高等学校では生徒や学校の実態を踏まえて特色ある教育活動を展開している。そのため,例え
ば専門学科をもつ高等学校においては,その専門とする科目に関して重点的にレディネス学習を設
定するなど,学校の実態に応じて柔軟に対応することが必要になる。また,学科ごとに生徒の興味・
関心や進路希望等に違いが見られることもある。こうした生徒や学校の実態に応じて,レディネス
学習の課題や授業での生かし方を検討する必要がある。
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