新課程研究会レポート 新課程研究会レポート - Kei-Net

特集
新課程研究会レポート
河合塾では、2009年3月に高等学校の新しい学習指導要領が告示された後、教科指導や大学入試への影響
等について分析や研究を行っている。2011年以降、2011年3月に学習指導要領解説書分析、2012年3月
に教科書分析を行い、
「新課程研究会」として報告した。2013年3月には、英語、地理歴史も含めて教科書分
析を行い、教科書分析を踏まえた指導のポイント等について、
「新課程研究会」で報告している。
ガイドラインでも、2011年度以降の新課程研究会の内容を「新課程研究会レポート」として、2011年7・
8月号、2012年7・8月号で掲載したのに続き、2013年度も「新課程研究会レポート」として特集した。なお、
2013年の「新課程研究会」では報告していない現代社会と国語の内容も掲載している。
CONTENTS
教科・科目
主な内容
ページ数
数学
「数学Ⅱ」「数学B」「数学Ⅲ」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
p3
物理
「物理」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
p6
化学
「化学」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
p9
生物
「生物」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
p13
英語
「コミュニケーション英語Ⅰ」「英語表現Ⅰ」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
p16
世界史
「世界史 A」「世界史 B」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
p20
日本史
「日本史 A」「日本史 B」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
p22
地理
「地理 B」の教科書分析に基づく指導のポイントや、センター試験への影響など
p24
現代社会 「現代社会」の教科書分析に基づく指導のポイントや、センター試験への影響など
p26
国語
p28
「国語総合」の教科書分析に基づく指導のポイントなど
●特集「新課程研究会レポート」に掲載している
図表について、出典が明記されていないものは、
河合塾で編集・作成したものです。
●高等学校では、2012 年4月から数学と理科が
先行実施され、
2013 年4月より、
すべての教科・
科目において新教育課程が実施されております
が、本特集では、各教育課程の名称を以下の
ように表記しています。
新教育課程
(新課程)
現行教育課程
(現行課程)
旧教育課程
(旧課程)
高等学校は 2009 年3月
に告示、中学 校は 2008
年3月に告示されたもの
高等学 校は 1999 年3月
に告 示、中学 校は 1998
年 12 月に告示されたもの
高等学校、中学校ともに
1989 年3月に告示された
もの
2 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
ご参考■ 2011 年度7・8月号、2012 年度7・8月号の内容
年度
2012
掲載教科
・科目
主な内容
数学
「数学Ⅰ」
「数学A」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
物理
「物理基礎」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
化学
「化学基礎」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
生物
「生物基礎」の教科書分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響など
国語
英語
世界史
日本史
新学習指導要領の分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響の分析など
地理
公民
物理
化学
新学習指導要領の分析に基づく指導のポイントや、大学入試への影響の分析など
2011 生物
数学
同上、高校での新カリキュラム検討状況
理科の新課程カリキュラム分析ー河合塾アンケート調査より、高校での新カリキュラム検討状況
※ ガイドラインのバックナンバーは Kei-Net ホームページ(http://www.keinet.ne.jp/)の「河合
塾の進学情報誌」でご覧いただけます。
特集 新課程研究会レポート
数学
今回は、
「数学Ⅱ」
「数学B」
「数学Ⅲ」の変更点を中心に、新教育課程(以下、新課程)の指導のポイントについて
報告する。
数学は、2003 年実施の教育課程(以下、現行課程)から新課程への移行において、「数学C」が廃止されて内容の
一部が「数学B」
「数学Ⅲ」に移行され、
「数学Ⅲ」が3単位から5単位に増加した。扱う内容をみると、
「数学Ⅲ」に「複
素数平面」が盛り込まれたことが最大の変更点である。
教科書分析の結果より
3科目の教科書の記述を分析
[ 指数関数・対数関数 ]
最高位の数を求める問題、小数首位の数を求める問題
を扱う教科書が増えている。
今回は「数学Ⅱ」
「数学B」
「数学Ⅲ」の3科目につい
て教科書の分析を行った。2013 年度は「数学Ⅱ」は 16
[ 三角関数 ]
種類、
「数学B」は 15 種類、
「数学Ⅲ」は 13 種類の教科
「和積・積和の公式」はほとんどの教科書で「発展」
書が新しい学習指導要領に基づいて出版される。河合塾
として扱われている。「3倍角の公式」についても、分
ではこの3科目について、数研出版3冊、東京書籍2冊、
析対象としたすべての教科書で扱われている。しかし、
啓林館3冊の計8冊の教科書を分析した<表>。
どちらの公式も、加法定理を使えば比較的容易に導ける。
「複素数平面」の復活を除いて、3科目とも学習指導
公式を覚えさせるよりも、式の立て方を身につけさせる
要領の改訂の影響があまりないが、教科書によって記述
ことが重要である。
に温度差がある分野もみられた。それぞれの科目の変更
新学習指導要領では「加法定理を利用した点の移動」
点について、高校での指導や大学入試に影響すると予想
に関して記述が追加されたが、1社の教科書で「研究」
される項目を中心に紹介する。
などで扱われる程度に留まった。
数学Ⅱ
[ 微分・積分の考え ]
「数学Ⅱ」
は
「いろいろな式」
「図形と方程式」
「指数関数・
「はどめ規定」の撤廃により、4次関数の微分、3次
対数関数」
「三角関数」
「微分・積分の考え」の5分野か
関数の積分がほとんどの教科書の「本文」で扱われるよ
らなる。大きな変更点はない。
うになった。しかし、これまでも「発展」として記載さ
れていた内容であり、また理系の生徒は「数学Ⅲ」で学
[ いろいろな式 ]
習していたため、指導への影響は小さい。
現行課程の「数学Ⅰ」から「3次式の展開、
因数分解」
放物線と、その放物線に2点で交わる直線に囲まれた
が、「数学A」から「二項定理」が移行された。これら
面積を求める公式(いわゆる1/6公式)は、分析対象
は分析対象としたすべての教科書で扱われている。
としたすべての教科書で記述されている。ただし、この
公式を使った場合、積分の意味を理解していることが採
[ 図形と方程式 ]
点者に伝わらない場合がある。大学入試の論述答案など
「軌跡」については、範囲に制限のある点の軌跡が2
では、面積を積分で表した後、この公式を用いるべきで
社の教科書で章末問題として扱われている。また、2つ
ある。
の円の位置関係について、円と円の共有点を求める方法
を扱う教科書が見られるようになった。
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 3
[ 極限 ]
数学B
ほ と ん ど の 教 科 書 で「 無 限 級 数 S n が 収 束 す れ ば
「数学B」は「確率分布と統計的な推測」
「数列」「ベ
a n →0」「a n →0でも S n が収束するとは限らない」こ
クトル」の3分野からなる。標準単位数は2単位であり、
とが「本文」で扱われている。掲載していない教科書を
ほとんどの高校が「数列」
「ベクトル」の2分野を選択
使っている場合も、生徒への指導が必要である。
すると考えられる。ここでは2分野の変更点を紹介する。
[ 微分法 ]
[ 数列 ]
微分可能でない点で極値をとるグラフがほとんどの教
「隣接3項間の漸化式」は現行課程同様、ほとんどの
科書で扱われている。教科書ではあまり詳しく触れられ
教科書で「発展」として扱われている。大学入試では多
ていないが、大学入試でも出題される内容であり、一度
く出題されるので、一度は授業で扱うとよい。
は指導しておきたい。
数学的帰納法を用いる問題で、n=k と n=k+1 を仮定
また、「ロピタルの定理」が3つの教科書で「発展」
するいわゆる「オトトイ帰納法」は、どの教科書にも掲
として掲載された。しかし、この定理は証明が難しく、
載されなかった。しかし、大学入試では多く出題される
使える条件も限られるため、大学入試の論述解答などで
ので、難関大を志望する生徒には、答案を添削するなど
は極力使わないように指導する必要があるだろう。
して、解答の流れを身につけさせたい。
[ 積分法 ]
[ ベクトル ]
「はどめ規定」の緩和により、部分積分を2回適用す
「座標空間での平面の方程式」は現行課程同様、ほと
る問題を「本文」で扱う教科書が増えたが、大学入試で
んどの教科書で「発展」として扱われている。この内容
は以前から出題されていたので、影響は小さい。
は「高校の学習指導要領の内容の自然な延長」とは考え
一部の教科書では、置換積分を活用して y 軸を中心と
にくく、大学入試で出題される可能性は低い。
した回転体の体積を求める問題を扱うようになった。参
考書や問題集では、その他にも、いろいろな積分のテク
数学Ⅲ
ニックが紹介されているが、まずは、基本的な公式をしっ
「数学Ⅲ」は「平面上の曲線と複素数平面」
「極限」
「微
かり使えるようにすることが重要である。
分法」
「積分法」の4分野からなる。なお、分析対象と
「微分方程式」はほとんどの教科書で「発展」として
した「数学Ⅲ」のすべての教科書が「数学B」の「数列」
掲載されている。一度は触れておかないと発想が難しい
「ベクトル」
の両分野の既習を前提としていることが、
「ま
ので、難関大を志望する生徒には指導が必要である。
えがき」で宣言されている。
「数学A」の「場合の数と
また、
「微分法」
「積分法」とも、
「数学Ⅲ」が5単位になっ
確率」
「図形の性質」を前提とする教科書も多い。
たことで学習時期が遅くなることが予想される。演習時
間を十分に取れるよう、工夫する必要がある。
<表>分析対象の教科書一覧
数学Ⅱ
数学 B
発行者
教科書番号・教科書名
数研出版
311
新編 数学Ⅱ
数研出版
309
数学Ⅱ
数研出版
310
高等学校 数学Ⅱ
東京書籍
301
東京書籍
302
啓林館
啓林館
啓林館
占有率
(%)
数学Ⅲ
発行者
教科書番号・教科書名
18.7
数研出版
309
数学B
15.8
数研出版
310
高等学校 数学B
14.5
数研出版
311
数学Ⅱ
8.5
東京書籍
新編数学Ⅱ
8.0
東京書籍
308
数学Ⅱ
3.3
316
新編 数学Ⅱ
2.6
307
詳説 数学Ⅱ
2.1
占有率
(%)
占有率
(%)
発行者
教科書番号・教科書名
25.1
数研出版
308
数学Ⅲ
35.5
20.4
数研出版
309
高等学校 数学Ⅲ
19.5
新編 数学B
18.3
数研出版
310
新編 数学Ⅲ
14.2
301
数学B
11.9
東京書籍
301
数学Ⅲ
11.7
302
新編数学B
4.9
啓林館
305
詳説 数学Ⅲ
6.5
啓林館
307
数学B
4.7
啓林館
306
数学Ⅲ
4.2
啓林館
306
詳説 数学B
4.1
東京書籍
302
新編数学Ⅲ
2.3
啓林館
308
新編 数学B
1.1
啓林館
307
新編 数学Ⅲ
0.1
(内外教育 2013 年1月 25 日号より)
4 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
特集 新課程研究会レポート
<問題例1>
(1) α,β は α ≠ β を満たす複素数とし,0 ≦ θ < 2π とする.複素数平面上で,点 α を点
β のまわりに θ 回転した点を表す複素数を γ とする.γ を α,β,θ で表せ.
(2) α=
i を原点のまわりに
π
γ とする.γ を求めよ.
3
回転した点を β とし,点 α を点 β のまわりに
π
4
回転した点を
(2002 奈良女子大)
<問題例2>
4i
(1) 複素数 の偏角を求めよ.
1 +√3i
− i を満たす複素数 z を求めよ.
n
4i
(3) α2= − i とするとき,αn と がともに実数となるような最小の自然数 n を求めよ.
1 +√3i
13
4i
(4) を求めよ.
1 +√3i
(2) z2 =
( )
( )
(2000 愛知教育大)
問題文の主旨がわかりやすくなるよう、問題文の表現を変更し、
「i は虚数単位とする」などの注釈は省いてある。また、角度はすべて弧度法に統一した。
「複素数平面」の指導のポイント
旧課程を参考に指導
原点以外を中心に回転・拡大した点に関する問題<問題
例1>を苦手とする生徒が多い。このような問題は、
「複
素数 α から複素数 z に向かうベクトルを θ だけ回転さ
新課程では「数学Ⅲ」に「複素数平面」が加わった。
せる」というように、ベクトルのイメージをもたせると
1994 年実施の教育課程(以下、旧課程)で扱われてい
良いだろう。
た内容とほぼ同じであるため、当時の大学入試問題など
「ド・モアブルの定理」については、2013 年度入試でも、
が参考になる。
慶應義塾大学理工学部で関連する問題が出題された。現
旧課程との大きな違いは、
「複素数平面」が「数学Ⅲ」
行課程の指導内容でも解けるように配慮がなされていた
に入ったことである。指導においては、
「数学B」の「ベ
が、今後は定理を学習していることを前提とした出題が
クトル」や、
「数学Ⅲ」の「平面上の曲線」内で扱う極
増えると予想される。
座標をイメージさせると良いだろう。ただし、複素数平
<問題例2>はド・モアブルの定理を使う問題の例で
r
面と極座標は「
(r,θ)と (cosθ
+ i sinθ)における
ある。(2)は現行課程の生徒であれば z = a + bi とお
r の符号」
「極の座標形と0の極形式表示」など若干の
いて計算していたところ、新課程では
違いがあるので、正確に捉えられるように指導したい。
z = r(cosθ + i sinθ)とすることができるようになる。
「複素数と図形」については、
「数学Ⅱ」
「図形と方程式」
項目ごとの指導のポイント
や「数学B」「ベクトル」と関連付けて指導すると良い。
複素数平面で平行移動を表現する際、教科書によって
2直線のなす角の表記については注意が必要である。
「向
「複素数 α を β だけ平行移動」と表現するものと「複
き付き角度」の記号∠ αβγ はほとんどの教科書で掲
素数 α を β に移す平行移動」と表現するものに分かれ
載されていないが、この角度の「向き」に注意しなけれ
る。どちらの表現にも慣れておきたい。
ば答案作成が繁雑になるような問題もあるので、この概
「極形式」は、
生徒が苦手としやすい分野である。特に、
念は指導しておきたい。
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 5
物理
2012 年度から実施されている教育課程(以下、新課程)の物理は、「物理Ⅰ」「物理Ⅱ」(各3単位)から「物理基
礎」
(2単位)と「物理」
(4単位)に移行した。今回は「物理」の教科書分析の結果を踏まえ、「物理」の指導のポイ
ントを紹介する。
新学習指導要領「物理」の特徴と指導への影響
力学から始まり、指導しやすい順序に
林館、東京書籍は 100 ページ以上、第一学習社は 48 ペー
ジ、実教出版は 16 ページと、かなり増加している。単位
数が3から4へ増加したこともあるが、単位数増加分よ
1999 年に告示された教育課程(以下、
現行課程)の「物
りもページ数は増加している。ページ増の要因は、各社
理Ⅰ」では、電気から始まっていたが、新課程では、力
とも記載内容が詳しくなったためである。例えば、途中
学からの開始となり指導しやすくなった。
の計算式が書いてあり、参考書のような書き方の部分も
今回の改訂では、波動の変更が大きい。現行課程では
ある。
「物理基礎」
「物理」の総ページ数で比較しても、
波動はすべてが「物理Ⅰ」に入っていたが、今回、2次
単位数は変更なく、選択分野がなくなったことによりペー
元の反射と屈折、干渉と回折、ドップラー効果、光波が
ジ数は減少するはずが、実際は数研出版、啓林館、東京
「物理」に移動した。力学では剛体のつり合いが、熱で
書籍は 80 ページ以上、第一学習社は 64 ページ、実教出
は気体が基本的に「物理」に移動する。
「物理」では選
版は 32 ページ増加するなど、すべての教科書で増加した。
択分野がなくなり、エネルギーバンドがなくなった。
各教科書の全体的な特徴としては、数研出版、啓林館、
第一学習社は、新たな項目を多く設け、かなり加筆して
「物理」教科書分析からみた指導への影響
大幅にページ数が増加
いる。一方、東京書籍と実教出版は、現行課程と同様に
最小限の記載にしているようだ。なお、実教出版以外は、
物理用語に英語表記も加えられている。
今回、新課程の「物理」の教科書は、三省堂と大日本
図書が出版をやめ、<図表1>の5社からの発行となっ
波動では、発展から本文へ記載となった項目が増加
た。今回はこの5社を分析した。なお、以下、分析の際、
今回の分析では、「物理Ⅰ」「物理Ⅱ」と「物理」で記
すべての教科書としている場合は、分析を行った5社す
載が異なる項目をピックアップした(逆に、現行課程で
べてという意味である。
すべての教科書に記載があり、新課程でもあるものは
「物理Ⅱ」の教科書のページ数と比較すると、今回の改
ピックアップしていない)。
訂では、
「物理」の教科書のページ数は、数研出版、啓
力学では、新学習指導要領に「日常生活との関わりの
中で防災などの観点から物体の重心、関連して物体が転
<図表1>「物理」教科書 各社総ページ数
出版社
数研出版
啓林館
第一学習社
東京書籍
実教出版
教科書名
物理 ( 物理 304)
物理 ( 物理 303)
高等学校物理 ( 物理 305)
物理 ( 物理 301)
物理 ( 物理 302)
ページ数
424
464
352
424
368
【参考】2012 年度『物理Ⅱ』教科書 総ページ数
出版社
数研出版
啓林館
第一学習社
東京書籍
実教出版
三省堂
大日本図書
教科書名
改訂版 高等学校 物理Ⅱ
高等学校 物理Ⅱ 改訂版
高等学校 改訂 物理Ⅱ 物理Ⅱ
物理Ⅱ 改訂版
高等学校 物理Ⅱ
物理Ⅱ
ページ数
312
352
304
320
352
338
208
(各社ホームページ資料より)
6 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
倒しない条件についても触れる」と記載された。これま
でも大学入試問題では出題されていたが、今回の改訂で、
教科書に「転倒しない条件」が記載されている。
熱では、「二原子分子の内部エネルギーの式」や「比
熱比とポアソンの法則の式」が各社記載された。
「二原
子分子の内部エネルギーの式」はこれまで大学入試での
出題は少なかったが、新課程では出題が増加する可能性
がある。また、ポアソンの法則の式は本文に記載されて
いる教科書もあり、大学入試問題でポアソンの法則の式
をあらかじめ与えずに解かせる出題も予想される。
波動では、現行課程で「発展」に記載されていたもの
特集 新課程研究会レポート
<図表2>「物理」と「物理Ⅰ」
「物理Ⅱ」記載項目比較
【記号について】◎本文に記載されている ○発展に記載されている △参考に記載されている
※( )は脚注・巻末など、通常とは異なる場所に記載されている場合の補足
項目
波動 正弦波の式
観測者が動く場合のドップラー効果
数研出版
4単位 Ⅰ
Ⅱ
○
◎ (巻末)
◎
○
△
反射板がある場合のドップラー効果 (Zoom)
△
風がある場合のドップラー効果
(Zoom)
△
斜め方向のドップラー効果
(Zoom)
△
衝撃波
(脚注)
凹面鏡と凸面鏡の式
◎
4単位
啓林館
Ⅰ
Ⅱ
◎
○
△
◎
○
◎
○
△
第一学習社
4単位 Ⅰ
Ⅱ
東京書籍
4単位 Ⅰ
Ⅱ
実教出版
4単位 Ⅰ
Ⅱ
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
△
(+Plus)
△
(+Plus)
○
(COLUMN)
○
◎
△
(Zoom)
◎
△
○
△
(話題)
△
(話題)
△
△
(COLUMN)
△
△
顕微鏡、望遠鏡
△
組み合わせレンズ
◎
光路長、光学距離
◎
◎
◎
◎
◎
光の反射による位相の変化
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
△
○
薄膜による光の干渉(条件式)
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
○
◎
◎
○
◎
○
くさび形空気層による光の干渉
(条件式)
ニュートンリング(条件式)
△
◎
△
△
(トピック)(トピック)
(COLUMN)
△
◎
◎
が、新課程では本文に記載されている項目が多い<図表
について、各教科書を比較した。「物理」に載せるべき
2>。
「正弦波の式」「観測者が動く場合のドップラー
内容が「物理基礎」の発展に記載されていたり、「物理
効果」は、すべて本文記載になった。
「観測者が動く場
基礎」の本文の内容が「物理」に再掲されていたりする
合のドップラー効果」はこれまでも大学入試で出題され
場合もあるからだ。
ていたが、新課程ではこれまで以上に出題されるだろう。
力学では、「等加速度直線運動の式」「ニュートンの運
ただし、ドップラー効果については反射板がある場合、
動の3法則」は、「物理」で再掲している教科書が多い。
風がある場合、斜め方向については教科書で扱いが異
「水平投射、斜方投射の式」が「物理」で追加されるため、
なっている。新課程での新しい項目である「凹面鏡と凸
「物理基礎」にある「自由落下、鉛直投射の式」も復習
面鏡の式」は本文記載の教科書が多い。
「光路長、光学
として「物理」で扱っている教科書もある。熱では、
「熱
距離」
「光の反射による位相の変化」
「薄膜による光の干
力学第一法則」「熱機関、熱効率」は「物理」にも記載
渉」「くさび形空気層による光の干渉」
「ニュートンリン
がある。波動では、
「うなり」は啓林館の教科書には「物
グ」はほとんどすべての教科書で本文記載となった。こ
理」にも記載があるが、基本的には他の「物理」の教科
れらの光の干渉は現行課程では「発展」だったため、現
書には記載がない。電磁気では、第一学習社を除く4社
行課程への改訂直後は大学入試での出題が見られなく
がほとんどの項目で、重複記載をしている。原子では、
なったが、徐々に増えてきている。新課程ではさらに出
「原子核の構成」「同位体」「放射線」「放射性崩壊」
「放
題の増加が予想される。
射線の測定単位」はほぼ重複記載されている。「半減期
電磁気では、
「インピーダンス」が注目だ。数研出版
の式」はおおむね「物理」のみの記載である。
の新課程の教科書では、直列インピーダンスは本文に、
つまり、「物理基礎」の内容で「物理」に記載されて
並列インピーダンスは「発展」に記載がある。インピー
いないのは、
「仕事と力学的エネルギー」「熱容量と比熱」
ダンスについては生徒への十分な説明が必要である。
「弦の共振・気柱の共鳴」「うなり」の4つである。理系
生には、この4つを補えば「物理」の教科書を使って「物
「物理基礎」の項目で「物理」に記載がない項目は4つ
次に、
「物理」に記載されている「物理基礎」の項目
理基礎」の指導をすることが可能だ。
なお、現行課程では多くの発展項目があったが、新課
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 7
程の「物理」ではかなり少ない。微分・積分については、
各社巻末に記載されるようになった。
大学入試への影響
大学入試センター試験の「物理基礎」は、現行課程の
各教科書の説明法、用語の比較
今回、各教科書の説明法、用語も比較した<図表3>。
「物理Ⅰ」より、現行課程の「理科総合 A」、旧課程の「物
理ⅠA」で出題されていた内容に近いと予想している。
例えば「モーメントの計算」である。力 × うでの長さ
「物理」は「物理基礎」に関連した内容も含まれるため、
で計算するのか、力分解して計算するのか、各教科書で
出題範囲が大幅に広がる。また、原子が出題される可能
説明法に違いがある。メインは説明法 A が多いが、各
性がある。原子が必答問題として出題される場合は小問
社とも両方の説明がある。また、
「電流がつくる磁界の
集合で出題されると予想している<問題例1・2>。
向き」は各社で説明法が異なっている。
国公立大2次・私立大入試でも原子が出題される可能
用語について見ると、反発係数は、旧課程から現行課
性がある。現行課程ではほぼ出題されていない原子分野
程になる際、反発係数で統一された。だが、新学習指導
も、旧課程、旧旧課程では全体の 10%程度原子が出題
要領でははね返り係数であり、反発係数を用いつつ、は
されていた。原子分野の扱いについては、例えば秋田大
ね返り係数を併記している教科書が多い。熱力学第一法
学教育文化学部、信州大学工学部では出題しないと発表
則は公式の書き方がまちまちである。また新学習指導要
しているが、このように大学が原子は出題しないと発表
領では、電界、磁界となっているが、教科書では、電界、
しない限り、出題を前提にした指導が必要である。
電場、磁界、磁場と各社で異なっている。今春入試では、
原子以外では、正弦波の式、観測者が動く場合のドッ
北海道大学は磁場(磁界)
、東北大学は磁場(磁界)、東
プラー効果、インピーダンスについても、新課程の大学
京大学は磁場、東京工業大学は磁場、名古屋大学は電場、
入試での出題の増加が予想される。
磁場、京都大学は電場、大阪大学は磁場、九州大学は電
場、磁場となっており、
「場」での記載が増加している
<問題例 1 >
ようだ。
このように各社で説明法や用語が異なる箇所もあるの
で、指導の際は注意が必要である。
<図表3>「物理」教科書による説明法の比較
注1)複数の説明方法(A、B)が考えられる学習項目について、各教科書ではどの説明方
法を主に採用しているのかをまとめたもの。脚注などで軽く言及してあるだけのも
のについては除外した。
注2)数…数研出版 啓…啓林館 第…第一学習社 東…東京書籍 実…実教出版
注3)A、B 両方の説明がある場合には、特に強調されていると思われる説明法を先(上)
にして、AB(A が主)あるいは BA(B が主)の順に並べた。
解答 9 ① 10 ⑥ 11 ③ 12 ④
(1994 年度センター試験本試験 第1問 問2)
<問題例 2 >
解答 6 ⑦ 7 ⑥
(1996 年度センター試験本試験 第1問 問4)
8 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
特集 新課程研究会レポート
化学
2009 年に告示され、2012 年度から先行実施されている課程(以下、新課程)の化学は、
「化学Ⅰ」「化学Ⅱ」
(各
3単位)から、
「化学基礎」
(2単位)
、
「化学」
(4単位)に移行した。今回は、
「化学」の教科書分析の結果を踏まえた、
指導のポイントや大学入試での留意点について見ていく。
るかは工夫が必要となろう。 新学習指導要領「化学」の特徴
「化学Ⅱ」の選択分野で扱われていたリン脂質、ATP
まず、
「化学基礎」
のポイントを振り返っておこう。「化
と代謝、農薬は、新学習指導要領に記載されていない。
学基礎」では、
「化学Ⅱ」から電気陰性度、分子の極性、
2社の教科書ではすべて削除され、他の教科書でも一部
配位結合が移行した。逆に「化学Ⅰ」からは、化学反応
についてごく簡単に触れられている程度である。
と熱、無機物質、有機化合物、電池と電気分解の大部分
(1)物質の状態と平衡
が「化学」に移行した。
「化学」で扱う内容は、
(1)物質の状態と平衡、
(2)
分子間力の扱いは教科書によってばらつきがある。3
物質の変化と平衡、
(3)無機物質の性質と利用、
(4)
社は分子間力をファンデルワールス力(無極性分子間、
有機化合物の性質と利用、
(5)高分子化合物の性質と
極性分子間)と水素結合に分けているが、1社はファン
利用の5つに分かれている。
(2)では光が新しく学習
デルワールス力、極性分子間に働く静電気的な引力、水
項目として加わっている。電池、電気分解は 1999 年に
素結合に分けている。また、1社はどちらの分け方かが
告示された課程(以下、現行課程)の指導要領とは逆に、
明確ではない。生徒への説明はどちらの分け方でもよい
電気分解→電池の順で記載されている。また、新学習指
だろうが、教科書によってばらつきがある点は留意が必
導要領では、単糖類・二糖類と多糖類、アミノ酸とタン
要だ。
パク質を、それぞれ(4)と(5)に分けて配している。
水と二酸化炭素の状態図はすべての教科書に記載され
ており、必ず教える必要があるだろう。また、超臨界状
「化学」教科書分析からみた指導や大学入試への影響
態、超臨界流体についてすべての教科書に記載があり、
大学入試では主に穴埋め問題として出題されると予想さ
河合塾では、
「化学」の5社の教科書について分析し
れるので、少なくとも用語としては教えておく必要があ
た<表1>。本文中、すべての教科書と表記しているの
るだろう。 は分析した5社すべてという意味である。
気体の性質では、実在気体の圧縮率因子のグラフはす
「参考・発展」の合計項目数は、53 項目から 96 項目
べての教科書の本文で扱われている。ファンデルワール
までと教科書間でばらつきがある。
スの状態方程式はすべての教科書で「参考・発展」で扱っ
「無機物質と人間生活」
「有機化合物と人間生活」「高
ている。今後の大学入試では実在気体の出題頻度が高く
分子化合物と人間生活」の内容は、教科書によってばら
なる可能性があるため、重視して指導しておきたい。
つきがある。どの物質、事項を重視し、どのように教え
固体の構造では、イオン結晶はこれまで NaCl 型と
<表1>「化学」教科書 総ページ数
CsCl 型を教えておけばよかったが、新課程では ZnS 型
出版社
教科書名
短縮名
総ページ数
(本編+巻末資料)
東京書籍
化学(化学 301)
東書 301 527(471 + 56)
実教出版
化学(化学 303)
実教 303 415(366 + 49)
啓林館
化学(化学 305)
啓林 305 463(440 + 23)
数研出版
化学(化学 306)
数研 306 446(421 + 25)
第一学習社 高等学校 化学(化学 307) 第一 307 416(384 + 32)
も「参考」を含めるとすべての教科書に記載されている。
また、限界半径比は「発展」としてすべての教科書に記
載されており、イオンの価数・イオン間距離と融点の関
係についても3社に記載されている。難関大を志望する
生徒には、これらについて説明しておきたい。
金属結晶について、新学習指導要領では、体心立方格
子、面心立方格子、六方最密構造を扱うこととなってい
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 9
<表2>各教科書における「アモルファス」の記載例
教科書短縮名
アモルファスの表記と例
東書 301
非晶質
(アモルファス)
実教 303
アモルファス
(非晶質)
※ 教科書短縮名については表1参照
啓林 305
数研 306
第一 307
アモルファス
(非晶質)
(無定形固体)
無定形
アモルファス
(非晶質)
非晶質
アモルファス
欄外に無定形固体
アモルファス
シリコン
アモルファス
シリコン
アモルファス
シリコン
シリコン
アモルファス
シリコン
金属
アモルファス金属
アモルファス合金
非晶質合金
アモルファス金属
アモルファス金属
アモルファス合金
ガラス ※
石英ガラス
石英ガラス
ソーダ石灰ガラス
石英ガラス
石英ガラス
ソーダ石灰ガラス
※「固体の構造」で扱われている物質のみを記した
る。単位格子中の原子数、配位数、原子半径と一辺の長
法則に関する出題は増加傾向にある。
さの関係は、すべての教科書の本文に記載されている。
コロイドは、塩析と凝析のほかに、塩析と凝析を区別
配位数が用語として使われていることに留意したい。充
しない凝集という用語や、凝析と同じ意味で凝結という
塡率はすべての教科書に「発展」等で記載がある。また、
用語を挙げている教科書もある。
積層の様子についてはすべての教科書で詳しく記載され
ている。模型を使いながら説明すると生徒に理解させや
(2)物質の変化と平衡
すいだろう。
化学反応とエネルギーでは、比熱が用語として扱われ
共有結合の結晶では、ダイヤモンド型構造を詳しく扱
ている点に注意が必要だ。ヘスの法則と結合エネルギー
う教科書が増加した。
については、イオン結晶の格子エネルギーとボルン・ハー
新学習指導要領ではアモルファスに触れることとの指
バーサイクルが、「参考・発展」として4社に記載され
示があり、多くの教科書で独立項目として1ページ程度
ている。これについては、今春入試の慶應義塾大学看護
でアモルファスの性質やアモルファスシリコン、アモル
学部など現行課程でも出題されているが、今後はもっと
ファス金属、ガラスなどが紹介されている<表2>。
出題が増える可能性がある。
今春入試の慶應義塾大学理工学部では空欄補充でダイ
光は、新学習指導要領のポイントの1つである。化学
ヤモンド型とアモルファスを答えさせる問題が出題され
発光の例としてルミノール反応が4社で、光化学反応の
た。結晶構造の名称や用語を積極的に使って授業を展開
例として水素と塩素の反応が3社で記載されている。ま
するとよいだろう。
た、光合成はすべての教科書に記載されている。これら
溶解平衡について、極性と溶解度の関係に触れるなど、
の具体例を通じて、化学反応の過程での光の放出と吸収
溶解の仕組みがやや詳しく説明されるようになった。過
が、それぞれ物質のエネルギーの減少と増加に結びつい
飽和についてすべての教科書で説明がある。今後、大学
ていることを指導する必要があるだろう。なお、光の波
入試では空欄補充で問われる可能性が高くなるだろう。
長とエネルギーの関係や「発展」で基底状態と励起状態
また、
「発展」で分配平衡に触れている教科書もあった。
について触れている教科書もある。河合塾では、
「化学」
今春入試では分配平衡についての出題が増加しており、
では光についてあまり踏み込んだ指導をする必要はない
今後も増加するだろう。
と考えているが、これらについて詳しく説明する場合は、
溶液とその性質では、
「はどめ規定」が削除され、沸
「物理」の進度との兼ね合いが問題になるだろう。
点上昇度、凝固点降下度や浸透圧は定量的な扱いとなっ
電池、電気分解については、新学習指導要領に沿って、
ている。ファントホッフの法則はその名称も記載されて
電気分解→電池としたのは啓林館の教科書のみであった。
いる。ラウールの法則を「発展」で扱っている教科書も
ボルタ電池はすべての教科書の参考で記載が残っている
多い。2012 年度の東北大学後期日程など、ラウールの
点に注意が必要である。減極剤の記載はない。ダニエル
10 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
特集 新課程研究会レポート
<表3>各教科書における「飽和炭化水素」の記載項目
教科書短縮名
※ 教科書短縮名については表1参照
東書 301
実教 303
啓林 305
発展
(アルコールで)
本文
本文
メタンハイドレート
参考
写真、欄外
石油の分留
参考
参考
シクロヘキサンの構造
発展
シクロプロパンや
シクロブタンの反応性
本文
枝分れアルカンの
ファンデルワールス力
数研 306
第一 307
参考
巻末
本文
参考
参考
本文
参考
本文
参考
本文
(いす形の構造のみ) (変換、ねじれは発展)
配座異性体
参考
本文
欄外
巻末発展
欄外発展
欄外発展
電池、燃料電池、鉛蓄電池、アルカリマンガン乾電池は
錯イオンでは、先の IUPAC 勧告により、陰イオンの
すべての教科書の本文で記載されている。また、標準電
配位子名が変更され、OH−がヒドロキソからヒドロキ
極電位が「化学基礎」で「発展」として記載されている
シド、CN−がシアノからシアニド、Cl−がクロロからク
が、「化学」では3社が記載している。標準電極電位は、
ロリド、Br−がブロモからブロミド、I−がヨードからヨー
2012 年度の東京理科大学理学部で出題された。この問
ジドになった。大学入試ではしばらくの間はこれまでの
題は生徒への説明にも好適な問題である。新課程の入試
名称と併記されるだろうが、新課程では新しい名称で指
では、難関大を中心に標準電極電位に関する出題が増え
導する方がよいだろう。
ると予想している。
金属イオンの分離については、現行課程の指導要領で
反応速度では、アレニウスの式が4社に「発展」とし
は、イオンの種類は3種類までという「はどめ規定」が
て記載がある。大学入試での出題も増加傾向にあり、今
あったが、これが削除された。そのため、大学入試セン
後も 2012 年度の立命館大学理工学部のような簡潔な問
ター試験でも、4種類以上の金属イオンの分離について
題から本格的な問題まで幅広い出題が予想される。
出題される可能性があるので留意しておきたい。
化学平衡では、すべての教科書の脚注に平衡状態にあ
無機物質と人間生活では、合金とセラミックスが主に
ることを表す記号として⇌が示されている。不均一系の
扱われている。また、酸化チタン(Ⅳ)の光触媒作用がす
平衡は、すべての教科書で記載されている。生徒に対し
べての教科書に記載されている。
て、今までより詳しい説明が必要である。
電離平衡では、多くの教科書で生体内の緩衝液として
−
−
(4)有機化合物の性質と利用
HPO42−の系が記載さ
有機化合物の特徴と構造では、質量分析や NMR、吸
れている。難溶性塩の溶解度積ではモール法が4社で記
収スペクトルの記載が増加している。2012 年度の北里
載されている。電離平衡は現行課程の大学入試でも出題
大薬学部では質量分析とクロスカップリングを絡めた問
頻度が高いが、新課程でもこの傾向は続くであろう。
題が出題されており、指導上も参考になるであろう。ま
H2CO3 と HCO3 の系、H2PO4 と
た、ジアステレオ異性体、メソ体、旋光性など立体異性
(3)無機物質の性質と利用
体に関する記載がかなり詳しくなった。今春入試の早稲
無機物質の記載内容は現行課程からほとんど変化して
田大学人間科学部ではマレイン酸、フマル酸に対する臭
いないが、水銀については詳しくなっているので留意し
素のトランス付加(アンチ付加)で生成する立体異性体
ておきたい。なお、IUPAC(国際純正・応用化学連合)
について考える問題が出題されている。これらについて
の 2005 年勧告を受けて、希ガスを貴ガス、アンモニウ
は今後出題の増加が予想されるので、特に難関大を志望
ム イ オ ン を ア ザ ニ ウ ム イ オ ン、 次 亜 塩 素 酸 HClO を
している生徒には指導が必要であろう。
HOCl と併記している教科書もある。
脂肪族炭化水素については、シクロプロパンやシクロ
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 11
ブタンは環歪みが大きいため反応性が高いことが多くの
<問題例>ポリプロピレンの立体規則性
教科書で記載があり、今後の大学入試に影響を与えそう
だ。シクロヘキサンのいす形と舟形の立体構造について
合成高分子化合物では、立体異性体の存在しない
はすべての教科書で記載がある<表3>。用語として
単量体から合成しても、立体異性体を生じる場合が
知っておく必要があるだろう。また、マルコフニコフ則、
ある。合成高分子化合物の中の立体異性体は、合成
アルケンのオゾン分解と過マンガン酸カリウムによる酸
化開裂はすべての教科書に記載があり、カルボカチオン
の安定性まで踏み込んで説明した教科書もある。今春入
試の同志社大学理工学部の問題などは、カルボカチオン
の安定性を知っていれば解きやすいので、生徒に指導し
樹脂の性質に大きな影響を与えるため、これらを制
御することはたいへん重要である。ポリプロピレン
は立体異性体を生じる例であるが、どのような立体
異性体が生じるか、構造式を用いて説明せよ。
ておくとよいだろう。
(2013 年度 浜松医科大学 前期日程)
酸素を含む脂肪族化合物では、ザイツェフ則について
すべての教科書で記載されている。銀鏡反応、フェーリ
類・二糖類とアミノ酸が、「天然高分子化合物」に多糖類、
ング液の還元、ヨードホルム反応の反応式はすべての教
タンパク質、核酸が振り分けられている。教科書を見る
科書で記載されている。大学入試での出題も非常に増え
と、第一学習社は新学習指導要領に準拠しているが、他
ているので、正確に書けるよう十分に指導しておきたい。
の4社は「天然高分子化合物」の中などでまとめて扱っ
油脂のけん化価、
ヨウ素価については触れないという「は
ている。
どめ規定」が削除され、新課程ではすべての教科書で記
糖類では、ほとんどの教科書でグルコースのいす形構
載されている。現行課程の大学入試では定義を知ってお
造に触れている。二糖類は、マルトース、セロビオース、
く必要はほとんどなかったが、今後は覚えさせておく必
ラクトース、スクロースに加えて、トレハロースを記載
要が生じるかもしれない。
している教科書もあり、今春入試の早稲田大学人間科学
芳香族化合物については、ベンゼンの共鳴安定化がほ
部のように、近年、非還元糖としてトレハロースの出題
とんどの教科書で、置換反応の配向性がすべての教科書
が増加している。
で記載されているので、指導する必要があるだろう。ま
アミノ酸とタンパク質については、現行課程から大き
た、メチルオレンジの構造についてすべての教科書で記
な変化はない。
載されている。今後は、今春入試の岡山大学前期日程の
核酸については、ヌクレオチドの構成成分と DNA の
ような、メチルオレンジなどの有機化合物の合成に関す
二重らせん構造がすべての教科書の本文で簡潔に記載さ
る出題が増加すると予想している。
れている。RNA の種類、遺伝情報の転写→翻訳は主と
有機化合物と人間生活では、医薬品と染料、洗剤が主
して「発展」で扱われている。現行課程に比べると若干
に扱われている。
軽めの扱いになっているが、今春入試の慶應義塾大学薬
学部では、DNA について、その電気泳動も含めて網羅
(5)高分子化合物の性質と利用
的に出題された。核酸については、基本的な知識から応
合成高分子化合物については、現行課程からの内容面
用まで幅広く出題される可能性があるので、個別試験
(2
の大きな変化はないが、付加縮合が新たに用語として加
次試験)に対応するには、生徒に多少詳しい説明をして
わり、フェノール樹脂やアミノ樹脂の合成は付加縮合と
おくとよいだろう。
されているので留意しておきたい。
「発展」でポリプロ
最後に、新課程の「化学」全体では、選択分野がなく
ピレンの立体構造の種類やプロペンが結合する向きの違
なるため、理系生にとっては学ぶべき分量が増加すると
いによる構造の違いに言及している教科書がある。今春
ともに、内容も高度化している。個別試験(2次試験)
入試の浜松医科大学前期日程では、この立体構造に関す
では、「参考・発展」項目からの出題の増加が予想され
る問題<問題例>が出題されている。
るため、これらをどのように扱うかが課題となる。理系
新学習指導要領では「有機化合物と人間生活」に単糖
生の単位数の増加や補習での対応が考えられる。
12 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
特集 新課程研究会レポート
生物
2012 年度から実施されている教育課程(以下、新課程)では、現行の教育課程(以下、現行課程)の「生物Ⅰ」
(3
単位)
、
「生物Ⅱ」( 3単位 ) から、
「生物基礎」( 2単位 )、「生物」( 4単位 ) に移行した。
今回は、
「生物」の教科書分析の結果を踏まえ、
「生物」の指導のポイントを紹介する。
新学習指導要領「生物」の特徴と指導への影響
どの内容をどの程度まで教えるか
検討が必要
<図表2>「生物」の分野名
学習指導要領の分類
教科書分析における分野
生命現象と物質
(1) 生命現象と物質
「生物」は(1)生命現象と物質、
(2)生殖と発生、
(3)生物の環境応答、
(4)生態と環境、
(5)生物の
進化と系統の5分野から構成されている。
(4)と(5)
は現行課程では選択分野として扱われていたが、新課程
遺伝子のはたらき
(2) 生殖と発生
生殖と発生
(3) 生物の環境応答
生物の環境応答
(4) 生態と環境
生態と環境
(5) 生物の進化と系統
生物の進化と系統
では両分野とも必修となった。
項目や用語、記載内容が詳しくなった項目などについて、
また、
「生物Ⅱ」で「参考」や「発展」として扱われ
分野ごとに指導のポイントをみていく。なお、一部の教
ていた高度な内容が「生物」の「本文」に盛り込まれた。
科書では、先述の5分野のうち(1)生命現象と物質を、
標準単位数の4単位で指導するのは困難であり、時間不
①生命現象と物質、②遺伝子のはたらきに二分している。
足に陥る可能性があるので、事前に教科書の内容を精査
ここでは、両分野を区別して紹介する<図表2>。
し、どの内容をどの程度まで教えるのか、十分に検討し
(1) 生命現象と物質
ておく必要がある。
河合塾で実施したアンケート
(注)
によると、標準単位
① 生命現象と物質
数に比べて多くの単位数を配当する高校も多い。理系で
最も大きな変化は「細胞骨格」と「細胞接着」につい
は理科に 18 ~ 20 単位を確保している高校が多く、
「生物」
て述べられるようになったことである。細胞骨格に関連
は6単位程度で指導する高校が多いようだ。
して「エンドサイトーシス」
「エキソサイトーシス」
「モー
タータンパク質」が4社すべてで扱われている。細胞接
「生物」教科書分析からみた指導への影響
新たに扱う内容や用語の変更に注意
着については、細胞間結合の種類まで記載されている教
科書もみられる。また、4社すべてで「輸送タンパク質」
「受容体タンパク質」の扱いが詳しくなった。
河合塾では、4社の「生物」の教科書について、各分
「細胞」に関して注意しなければならないのは、「浸透
野の記載内容を分析した。
圧」の扱いである。3社の教科書で扱いが軽くなったが、
教科書分析に基づき、新しく記載されるようになった
大学入試ではこれまで通り出題される可能性もある。大
学入試の出題傾向を見ながら、しばらくは従来通り、時
<図表1> 2013 年度「生物」教科書採択状況
出版社
教科書名
間をかけて指導する必要があると思われる。
占有率
数研出版
生物(生物 303)
38.4%
東京書籍
生物(生物 301)
24.4%
第一学習社
高等学校 生物(生物 304)
24.1%
啓林館
生物(生物 302)
13.1%
合計
100.0%
「呼吸」については、用語や表現の変更がみられる。
例えば、「好気呼吸」は「呼吸」に、「嫌気呼吸」は「発
酵」「解糖」に改められた。
「呼吸」「光合成」では、具体的な物質名をあげて経路
が詳細に扱われるようになった<図表3>。
(占有率は文部科学省まとめより)
(注)
「教科に関するアンケート」。全国の高等学校を対象に 2012 年7月〜9月に実施し、910 校から回答いただいた。
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 13
<図表3>好気呼吸の経路
動物の受精については、「表層粒」「表層反応」が3社で
解糖系
(細胞質基質)
C6 グルコース
2NAD+
2NADH+2H+
2NAD+
2NADH+2H+
2 C4
2ATP※
クエン酸回路
(マトリックス)
2 C2 アセチルCoA
(活性酢酸)
2CO2
2NAD+
2 C4
2CO2
2NADH+2H+
C4
2ATP
_
10NADH+ 24e 電子伝達系
2
2FADH
10NAD+
エネルギー
+14H+
2FAD
ATP合成酵素
扱われるようになった。ショウジョウバエの頭尾軸の決
なった。さらに、形態形成時にはたらく遺伝子の階層性
が扱われるようになった。
2CO2
6O2+24H+
12H2O
ることが明記されている。原口背唇部が神経を誘導する
分子機構(神経誘導)についても2社で扱われるように
2NAD+
2NADH+2H+ 2 C5
2FADH2
2FAD
2H2O
2
いが、両生類の表層回転による背腹軸の決定のしくみが
3社では頭尾軸を決定する物質が「母性効果因子」であ
2NAD+
2H2O
が大きく変わった。初期発生には大きな変化がみられな
定についても4社すべてで扱われるようになり、さらに
2 C6 クエン酸
2NADH+2H+
8NADH+
2FADH2
最も変化が大きかったのは動物の発生である。生命現
象を遺伝子レベル、物質レベルで説明するように、記述
2 C3 ピルビン酸
2H2O
オキサロ酢酸
「本文」で扱われており、内容もかなり詳しくなった。
電子伝達系
(内膜)
34ADP 34ATP
※解糖系でははじめ2分子のATPが消費され(基質レベルのリン酸化), その後4分子のATPが生成する。
(3) 生物の環境応答
神経については、興奮の伝達のしくみが2社で詳しく
扱われるようになり、神経伝達物質が多く掲載された。
行動については、生得的行動に関して「定位」
「ミツ
バチのダンス」がそれぞれ3社で扱われるようになった。
② 遺伝子のはたらき
学習による行動に関しては、「慣れ」「条件づけ」
「知能
新しく扱われるようになった項目もあるが、それほど
行動」が掲載され、全体的に神経系のはたらきによる行
大きな変更はみられない。
動のメカニズムが扱われるようになった。
DNA複製については、
「複製開始点(レプリケー
植物の環境応答については、「生物Ⅰ」で扱われてい
ター)
」が3社で扱われるようになった。また、複製開
た「水の移動」の内容が削除され、「光-光合成曲線」
始時に「RNAプライマー」が必要であることや、複製
が「生物基礎」に移行した。植物の各反応については、
のしくみとして「リーディング鎖」
「ラギング鎖」「岡崎
遺伝子のはたらきを中心に詳しく扱われるようになった。
フラグメント」などが扱われるようになった<図表4>。
光受容体として「フォトトロピン」「クリプトクロム」
転写調節では、
「ラクトースオペロン」が4社すべて
が扱われるようになった。
で扱われるなど、オペロン説が詳しくなった。また、真
核生物における「ヒストン」による転写調節についても
4社すべてで扱われるようになった。
(4) 生態と環境
個体群の分野では、
「つがい関係」の扱いが詳しくなり、
「一遺伝子一酵素説」は2社で削除されたが、大学入
「ヘルパー」が4社すべてで、「一夫多妻制」「共同繁殖」
試では引き続き出題される可能性があるため、指導して
が2社で扱われるようになった。血縁関係に関する用語
おきたい内容である。
も「血縁度」「包括適応度」が2社で扱われている。
生物群集の分野では、多様な種が共存するしくみとし
(2)
生殖と発生
新課程では遺伝の内容の一部が中学校に移行したため、
て「攪乱」と「中規模攪乱仮説」が4社すべてで扱われ
ている。
「生物」における遺伝の扱いは全体的に軽くなった。「伴
生態系の分野では、「エネルギー効率」が3社で、3
性遺伝」は2社で「発展」として扱われているのみであ
つのレベルの生物多様性(遺伝子の多様性・種の多様性・
るが、大学入試で出題される可能性があるため、授業で
生態系の多様性)が4社すべてで扱われるようになった。
どの程度扱うかは検討する必要がある。
14 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
「生産構造図」については、3社で扱われているが、
特集 新課程研究会レポート
<図表4>DNA複製のしくみ
複製の際に新たに合成されるヌクレオチド鎖は5’末端側から3’末端側にのみ伸長するため , 新たに合成される2本
のヌクレオチド鎖のうち一方は , 複製が進行する向きとヌクレオチド鎖が伸長する向きが逆向きとなる。
このため , 新たに合成されるヌクレオチド鎖のうち一方は連続的に伸長する(リーディング鎖)が , もう一方のヌクレ
オチド鎖の伸長方向が複数方向と逆向きになる鎖では , 短いヌクレオチド鎖が不連続的に合成され , これらがつなぎ合わ
される(ラギング鎖)。このとき , ラギング鎖側で合成される短いヌクレオチド鎖を , 岡崎フラグメントという。
3’
複製の進行方向
⇒
3’
⇒
5’
5’
3’
3’
リーディング鎖
③
ラギング鎖
②
5’
①
①→②→③の順で ,
ヌクレオチド鎖が合成される。
5’
第一学習社のみ「生物基礎」に掲載されている。大学入
ただし、大学入試センターでは選択問題の配置も検討
試では「生物」で出題されると考えられるが、指導にお
しており、負担が軽減される可能性も残されている。ま
いては注意が必要である。
た、「生物Ⅰ」に比べて理系の受験生の割合が増えるこ
とが予想され、難化する可能性がある。
(5)
生物の進化と系統
「生物基礎」で「発展」として掲載されている内容の「生
地球の歴史で
「全球凍結」
が2社で扱われるようになっ
物」での扱いにも注意が必要である。例えば、
「生物基礎」
た。進化については、
「擬態」
「性選択」が2社で、「共
で扱われる内容のうち、「遺伝子」「代謝」については同
進化」が4社すべてで扱われるようになった。遺伝子重
様の内容が「生物」でも出題されると思われるが、
「生
複による進化のしくみについても3社で扱われている。
物基礎」のみで扱われる「腎臓」「血液凝固」「自律神経
系統分類に関しては、動物・植物ともに分子系統樹な
とホルモン」「遷移」「群系」などは「生物」では出題さ
どに基づいた分類が行われ、これまでとは大きく異なっ
れないだろう。
た系統樹が掲載されているので、注意が必要である。
「代謝」「生態系」の問題については 2005 年度以前の
センター試験の問題が参考になる。
大学入試への影響
センター試験への影響
国公立大2次試験・私立大入試への影響
全体として大きな変化はない。ただし、「生物」の教
「生物基礎」の分量は「生物Ⅰ」よりも減少し、
「生物
科書に高度な内容が盛り込まれることにより、高度な内
Ⅰ」に比べて文系の受験生の割合が増えると予想される
容が出題されることが予想される。
ため、大学入試センターが目標としている平均点約 60
また、学習指導要領の改訂内容が各大学に浸透するま
点を維持するために出題はやや易しくなる可能性がある。
でには時間がかかる傾向があるため、「浸透圧」「一遺伝
「生物」は現行の「生物Ⅰ」に比べて、学習する分量
子一酵素説」
「伴性遺伝」など、教科書での扱いが軽くなっ
が増えるとともに内容もかなり高度になる。したがって、
た項目も、これまで通り出題される可能性がある。授業
「生物Ⅰ」の受験に比べて大幅な負担増になるものと思
われる。
ではこれまでと同様に指導することも検討する必要があ
るだろう。
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 15
英語
高校外国語科の新教育課程(以下、新課程)では、高校においては文法や訳読が中心で、
「聞くこと」
「話すこと」を
中心とした指導が十分でないのではないかという指摘を受けて、科目構成の見直しや、
「授業は英語で行うことを基本と
する」といった指導方針の転換が行われた。それを踏まえ、新課程の指導内容は、4技能のうちの1つの技能だけを使う
力ではなく、複数の技能を統合的に活用する、より実践的なコミュニケーション能力の育成を重視したものになっている。
今回は、今年4月から指導が開始され、多くの生徒が履修する「コミュニケーション英語Ⅰ」と「英語表現Ⅰ」の教
科書の分析や、指導法の提案に加え、最近の大学入試問題を中心に新課程のねらいを先取りした、複数の技能を統合的
に扱った問題や新課程でのあるべき入試問題を紹介する。
などの学習を通じて補完することになる。
教科書分析「コミュニケーション英語Ⅰ」
センター試験は「コミュニケーション英語Ⅱ」までを
出題範囲としており、必要な語彙力はこれまでと同程度
4技能の統合を意識した指導を行うための
素材の増加や、語数の充実
と予想される。一方で東京大などは「コミュニケーショ
「コミュニケーション英語Ⅰ」では「聞く」
「話す」
「読
ン英語Ⅲ」までを出題範囲と発表している。現行課程で
む」
「書く」の4技能をバランスよく取り入れ、生徒に
はセンター試験と同じ「英語Ⅱ」までが出題範囲だった
さまざまな言語活動を経験させながら、文構造や文法事
ことを考えると、これまでよりも語彙力や未知の語彙を
項を定着させることが求められる。
推測する力を求めるような出題に変わる可能性もある。
7社の教科書
いずれにしても、新課程では増加した語彙の指導も重要
(注1)
の内容をみると、
『PROMINENCE』
(東京書籍)など、単元の導入や質問文を英語に切り替
になる。派生語や接頭辞・接尾辞などの知識を活用して
えた教科書が目立つほか、
『Genius』
(大修館)など、単
効率よく指導するとともに、日常のコミュニケーション
元の後ろに英文の補助教材を付記して、各単元の内容を
でよく使う語、最近の社会の変化に関する語などは教科
別の英文で確認するような構成が多く採用されている。
書の内容に絡めて積極的に取り入れるとよいだろう。
要約文作成や内容一致問題などの演習問題、ペアワーク
やプレゼンテーションなどを行うしかけも全体的に増え
た。本文を訳して内容を理解したり、文法の解説をした
りすることが中心の授業ではなく、生徒が本文を基点に、
英語を使って能動的に活動できる授業をするための素材
教科書分析「英語表現Ⅰ」
文法、発信する力の扱い方にばらつき
「コミュニケーション英語Ⅰ」との連携が重要
を、各社とも充実させたと考えられる。
「コミュニケーション英語」が4技能をバランスよく
さて、ここで新指導要領における指導内容の変更点と
扱うのに対し、「英語表現」は「話す」「書く」といった
して記されている語数の充実に目を向けてみる。大学入
発信能力の育成に重点を置いた科目である。6社9冊の
試センター試験(以下、センター試験)第6問と東京大
教科書
2次試験(前期)第5問の問題に対する語彙カバー率
イティング」をベースに再編していることがわかる。
「ラ
をみると、センター試験、東京大のどちらの問題につい
イティング」の1科目が新課程では「英語表現Ⅰ」
「英
ても、現行教育課程(以下、現行課程)の「英語Ⅰ」で
語表現Ⅱ」の2科目に分割されたため、「英語表現Ⅰ」
は各社とも 80%台半ばから後半だったのに対し、「コ
の教科書は、
「ライティング」の 65 ~ 90%程度にページ
ミュニケーション英語Ⅰ」では各社とも約 90% となっ
数が減ったものが多いが、なかには『VISION QUEST
ており、語彙カバー率は高くなっている。ただし 90%
Advanced』
(啓林館)などのように巻末に基礎的な英文
という数値は1文につき1、2語程度不明な語が含まれ
法をまとめたものが付記されて、ページ数が増加した教
ている状態であり、まだスムーズに文章が読み取れる状
科書もある。
態ではない。残りの語彙は
「コミュニケーション英語Ⅱ」
現行課程の「ライティング」は「英語Ⅰ」で学んだ文
(注2)
(注3)
の内容をみると、各社とも、現行課程の「ラ
(注1)
「コミュニケーション英語Ⅰ」の教科書分析の比較対象としたのは『PROMINENCE』(東京書籍)、『CROWN』(三省堂)、『Genius』
(大修館)
、
『ELEMENT』
(啓林館)、『POLESTAR』(数研出版)、『UNICORN』(文英堂)、『PRO-VISION』(ピアソン桐原)の7社7冊。
16 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
特集 新課程研究会レポート
法を短英作文や自由英作文として活用する力をつけるこ
ポイントとなる文法項目を含んだ英文を生徒にできるだ
とを主な目的にしていたが、これを「英語表現Ⅰ」「英
け活用させる。この際、教員は生徒が英語を正しく使え
語表現Ⅱ」に再編した各社の方針は3パターンに分かれ
ているかチェックする。
た。①『POLESTAR』
(数研出版)のように「英語表現
こうして重要な語彙・表現などを確認した後、英文内
Ⅰ」に短英作文だけでなく自由英作文の応用までを積極
容が理解できているかを確認する。グループごとに重要
的に含むもの、②『CROWN』
(三省堂)のように「英
な構文を含む英文の一部を訳出し発表させるなどして言
語表現Ⅰ」では短英作文を中心として、
「英語表現Ⅱ」
語活動を工夫する。グループごとの訳出の違いを見なが
では自由英作文を中心とした編集になると想定されるも
ら、間違えやすい箇所、理解が不十分な箇所などを生徒
の、③『VISION QUEST Advanced』
(啓林館)のよう
と対話しながら掘り下げていくと効果的な授業ができる
にライティングだけでなくスピーキングを含めた活動と
だろう。一通り本文が理解できたあとは、パラグラフの
して新たに独立したページを加えたもの、の3つである。
要旨などを英語で書かせると「書く」技能を伸ばすこと
①は論理的な文章を書くところまで「英語表現Ⅰ」の
ができる。
段階から指導でき、②のような短英作文に絞った教科書
「授業は英語で行う」という文言からは教員が一方的
は文法の網羅性が高いため、基礎的な文法を幅広く身に
に英語で授業をするイメージを持たれがちだが、本来の
つけるのに適している。③は4技能の統合という今回の
趣旨は異なる。教科書に掲載が増えた演習問題などを用
改訂の趣旨を強く意識した内容になっている。スピーキ
いて、英語での質疑応答やグループ活動などを行い、生
ングも積極的に扱い、現行課程の「ライティング」と同
徒が英語を活用する場面を増やしていくことが必要だ。
様に論理構成や段落展開を意識するように指導する。
教員はそのフォローや最終的なまとめの役割を担うとよ
このように教科書によって文法指導の方針や、発信す
いだろう。
る力の捉え方の幅に違いがあるため、それらの特徴を十
分に理解した上で、授業の進め方や指導方法を考える必
要がある。
「コミュニケーション英語Ⅰ」の担当教員と
連携して、どちらの科目で何をどのように教えるのか、
分担の工夫や情報共有が重要になるだろう。
「英語表現Ⅰ」の指導法の一例
音声としての英語に触れることや
自由英作文などの取り組みを重視
次に「英語表現Ⅰ」の指導の一例を紹介する。
「コミュニケーション英語Ⅰ」の指導法の一例
まず CD で英文を聞かせながら、英語表現の重要例文
を部分的に書き取らせ、音声と文字の一致、さらには英
グループ活動など
生徒が能動的に参加する場面を作ることが重要
語の構造を音声上で把握させる。その際、アクセントの
新課程が提唱する4技能あるいは複数技能を統合して
知っていても正しく発音できない受験生は多く、難関大
バランスよく活用する力をつけることで、大学入試問題
を志望する受験生でもセンター試験の発音・アクセント
にも対応する力をつけることができる。その指導の一例
の問題を苦手としている場合も多い。一橋大をはじめ、
を紹介する。
ディクテーションをベースにした出題をする大学もある
最初は文字情報から入るのではなく、教員が英文を音
ため、音声を聞き取り、書く指導を通して、英語が身に
読したり、CD を聞かせたりして、音声と文字が一致す
つくように指導したい。
ることを心がけながら指導する。
その後は英文内容が理解できているかどうかの確認の
それから生徒に音読させた後、指導の焦点を徐々に文
ために英文についての質疑応答などをするほか、すでに
字と意味が一致する段階に移していく。英語で簡単な質
学んだ文法が着実に活用できるように、本文から文法の
問をしたり、日本語で意味を答えさせたりして生徒の理
テーマを含んだ表現を取り出し、その音声を聞き取らせ
解度を確かめながら授業を進める。文法指導は、理解と
たり、表現を含んだ英文を発話させたり、語形を変化さ
運用の2つに分けて行う。文法の概念が理解できた後は、
せながら、英語の表現がスムーズに口をついて出るよう
位置や英語を読むリズム、強弱などを指導する。単語を
(注2)語彙カバー率…中学校での既習語と現行課程の「英語Ⅰ」、もしくは新課程の「コミュニケーション英語Ⅰ」で扱う語彙が、センター試験第6問、
東京大の2次試験(前期)第5問(ともに 2012 年度)で出現する総語数に対してそれぞれどれくらいの割合を占めるかを示したもの。知ってい
る語彙が総語数の 98% 程度あると楽に読むことができ、95% 程度で最低限の理解ができるとされている。
(注3)
「英語表現Ⅰ」の教科書分析の比較対象としたのは『NEW FAVORITE』
(東京書籍)、
『CROWN』
(三省堂)、
『New ONE WORLD』
(教育出版)、
『VISION
QUEST Advanced』(啓林館)、『VISION QUEST Standard』(啓林館)、『POLESTAR』(数研出版)、
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 17
『BIG DIPPER』
(数研出版)、『UNICORN』(文英堂)、『Grove』(文英堂)の6社9冊。
に指導する。
また、大学入試は主にペーパーテストで行うため、
「話す」
最後に、短英作文、もしくは大学入試問題から、本文
力の多くは会話文の形式の文章を読ませて、適切な応答
と似たテーマの自由英作文の問題に取り組ませる。例え
ができるかどうかで測ることが多かった。しかし近年、
ば今回のように「国境なき医師団」に関する英文を扱っ
スピーキングテスト導入に向けて動き出す大学が出始め
た場合は、過去の入試で出題されたものなどが利用でき
ている。上智大は4技能を測る、アカデミック英語能力
る。例えば、
「外国へ行くとしたらどこへ行きたいか、
判定試験(TEAP)を 2015 年度の一般入試で一部導入
またその理由は何か」
(2004 年度、大阪女子大)といっ
することを既に発表している。また、京都工芸繊維大な
た設問の冒頭に、授業で扱った文法や単語が使えるよう
どは、早ければ 2016 年度入試でのスピーキングテスト
に< I would like to go to Africa. Since I was a child, it
実施を検討している。
has been my dream to become a doctor and join
そこで河合塾では、スピーキングテストも含んだ、1
“Doctors Without Borders”
. >を加え、書き出しに続く
つの大問で4技能を統合的に活用できる力を測定する試
内容を英語で書かせるといった工夫をするだけで、英語
験問題を作成した<問題例>。
表現の授業が入試にも活用できるようになる。
問題を4つのセクションに分け、4技能のうち1つの
さらに英文の内容を時系列や因果関係に沿って英語で
技能を中心に、適宜ほかの技能も統合的に使いながら解
まとめたり、問題解決策を提案したりして、グループ学
くような構成となっている。< Listening Section >は
習の形態で「聞く」
「話す」
「読む」
「書く」の4技能を
本文の冒頭部分を読解させ、それに続く内容を音声で聴
統合的に活用できる指導を取り入れると一層効果的な学
き取り、設問に答えたり図表を完成させたりする2技能
習ができる。
統合の問題であり、< Reading Section >は要約問題と
内容真偽問題の2種類で本文を精読できているかを測る
大学入試問題分析
問題になっている。< Writing Section >は全体の内容
を把握した上で自分の意見を述べる自由英作文問題であ
4技能を1つの大問で統合的に問う問題への対応や
スピーキングテスト導入を見据えた指導が必要
り、< Speaking Section >は本文に対する自分の意見
英語の新課程に対応した大学入試は 2016 年度からだ
となっている。発信する力を測るという点では自由英作
が、既に新学習指導要領に沿った、複数の技能を統合的
文と共通しているが、スピーキングテストではより実践
に使って解く問題が出題され始めている。
的なコミュニケーションの力を測定することができる。
このような出題例として 2012 年度の入試問題を見る
すべての大学がこのような4技能を統合的に使う力を
と、
会話文を読んで空欄に適切な文章を記入する「読む」
重視する方向で入試問題を変えてくるわけではないだろ
「話す」能力を問う上智大の外国語・法・総合人間科・
うが、文部科学省が 2011 年に発表した「国際共通語と
神学部での出題や、本文と< Answers >として書かれ
しての英語力向上のための5つの提言」では、2016 年
た箇条書きの文章の2種類を読み、本文の内容を踏まえ
度までに達成する目標のひとつとして、「聞くこと」
「読
て、< Answers >が正しい解答になるような質問文を
むこと」といった技能だけでなく「話すこと」
「書くこと」
書くといった「読む」
「話す」
「書く」能力を問う小樽商
といった技能も含めた4技能をバランスよく問うタイプ
科大の前期試験の問題などがある。2012 年度入試では
の入試問題の開発・実施を促すという文言が盛り込まれ
このような複数の技能を統合的に使って解く問題は、複
ている。日常の授業やテストでも、生徒がより能動的に
数の大問のうち1つ程度だったが、今後はその割合が増
英語を使う場面を増やすことで、こうした大学入試にも
えていくことが予想される。
対応できるような力を育成していく必要があるだろう。
出題の割合が増えることに加えて、問い方も変わると
考えられる。前述の上智大や小樽商科大のように、これ
までは2~3技能を統合的に使えるかをみる問題が中心
で、4技能すべてを1つの大問で問う出題は少なかった。
18 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
とその根拠について、120 秒で準備し、60 秒で話す問題
特集 新課程研究会レポート
<問題例>
Read the following lecture and answer the questions below. In the Listening Section, you will listen to the continuation of the lecture 20 minutes
after the examination starts. The lecture will be read two times. You may take notes.(本文・図表は省略)
< Listening Section >
You will listen to the continuation of the lecture 20 minutes after the examination starts.
1. Listen to the following lecture, and choose the most appropriate word to fill in brackets (a), (b) and (c).
① Africa ② Asia ③ Aus/Pacific ④ Europe ⑤ North America ⑥ South America
Table 1 Percentages of languages according to continent of origin
having fewer than indicated number of speakers
Continent
( a )
( b )
Central Am.
<150
<1000
<10,000
<100,000
<1,000,000
1.7
7.5
32.6
72.5
94.2
5.5
21.4
52.8
81.0
93.8
1.9
9.9
30.2
46.9
71.6
22.6
41.6
77.8
96.3
100.0
6.1
12.1
36.4
89.4
100.0
27.8
51.8
76.5
89.1
94.1
( c )
22.9
60.4
92.8
99.5
100.0
World
11.5
30.1
59.4
83.8
95.2
[Source: Nettle, Linguistic Diversity. Oxford University Press, 1999:114]
2. According to the speaker, which is true about the extent of endangerment?
① Large languages can disappear much faster than small ones.
② Size is not an important factor in determining survival any longer.
③ Technological strength is difficult for small communities to acquire.
④ There are some correlations between the linguistic and biological worlds.
< Reading Section >
Question 1
Fill in brackets (A), (B) and (C) with the most appropriate words from text, one word in each bracket, in order to reflect the meaning to the
underlined part (1).
There were three factors that led to a decline in the use of the Hawaiian language, chief among them population loss, loss of (
and ( B ) and ( C ) dislocation.
A
) autonomy,
Question 2
According to the underlined part (2) and Figure 1, which is NOT true about the distribution of global biodiversity?
① Biodiversity is concentrated through the tropics and tails off towards the poles, just as linguistic diversity does.
② Certain characteristics of species may be responsible for their different latitudinal ranges.
③ Those areas which are rich in languages also tend to be rich in biodiversity value.
④ Those who have traveled to Alaska will be convinced of its great biological diversity.
< Writing Section >
Write an English essay of not more than 80 words.
It is said that there are about 3,000 to 8,000 languages spoken now. If there were only one language in the world,
< Speaking Section >
What do you think about endangered languages, and why?
Preparation Time: 120 seconds
Recording Time: 60 seconds
(河合塾作成)
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 19
世界史
世界史の新教育課程(以下、新課程)は全体的に現行教育課程(以下、現行課程)から大きな変化はないが、日本の
歴史との関連付けや、地理的視点の重要性、資料の活用などを強調している点がポイントである。また、高校教科書の
ページ数は増加しており、学習量は増加傾向にある。
新学習指導要領のポイント
日本の歴史との関連付け
地理的視点の重要性を強調
けて、目次が3部構成から2部構成に変化した。第2部
「地球社会と日本」は近現代史のみで構成されている。
内容も、現代の世界情勢を踏まえた新テーマが設定され
るなど、現代史が充実している。具体的には、「地域紛
「世界史A」
「世界史B」ともに、新学習指導要領の科
争への取り組み」「新しい時代 共生の未来へ」などの
目の目標には、世界の歴史を地理的条件や日本の歴史と
新たなテーマが設定された。また、各時代においても地
関連付けながら理解させることが掲げられている。
名の補足解説が丁寧になったり、日本史関連の記述が増
変更ポイントとしては、
「世界史A」は、より近現代
加するなどの、新課程の特徴を反映した改訂が行われて
史の内容を重視した構成となった。
「世界史 B」は、時
おり、総ページ数も若干増加している。
間軸・空間軸に基づく歴史理解の必要性が強く打ち出さ
全体として大きな変化はないが、現代史の充実に伴い
れた。関連する事項を年代順に並べたり、因果関係で結
情報量が増えているため、現行課程よりも前近代史をコ
びつけたりして世界史の時間的つながりに着目して整理
ンパクトに教える必要があるだろう。
すること、同時代性に着目して諸地域世界の接触や交流
などを地図上に表して世界史の空間的つながりに着目し
て整理することを求めている。
「世界史B」は時間軸・空間軸に基づく
歴史理解を意識
「世界史B」では『詳説 世界史』(山川出版社)
、
『世
教科書分析の結果より
中学校では「はどめ規定」が撤廃され
教科書も世界史関連の内容が増加
界史B』(東京書籍)、『新詳 世界史B』(帝国書院)の
3冊の教科書を分析した。3冊とも総ページ数は増加し
ているが、全体的に大きな内容の変化はない。
新課程で求められている時間軸・空間軸に基づく歴史
中学校では高校よりも学習指導要領が大きく変更され、
理解については、さまざまな形で改訂に反映されている。
教科書も世界史に関する記述が増加している。
例えば山川出版社や東京書籍の教科書では、「時間軸か
今回分析した中学校教科書『新しい社会 歴史』(東
らみる諸地域世界」
「空間軸からみる諸地域世界」をテー
京書籍)でも、カルバンやバスコ = ダ = ガマ、インカ
マとして新しいコーナーが設けられた<表1>。年表を
帝国など、これまでは日本史と直接関わらないため扱わ
作って歴史事項を年代順に整理し、その因果関係を考え
れていなかった世界史の用語が新たに取り上げられてい
させることで時間軸に基づく歴史理解を、同時代におけ
る。そして巻末には、歴史用語の解説が新たに盛り込ま
る諸地域間の交流の特色を考えさせることで空間軸に基
れた。例えば、奴隷・右翼・王政・主権・赤字・資本主
づく歴史理解を促している。
義・協商など、重要な歴史用語が簡潔に説明されており、
指導においては、これらを活用して知識を関連付ける
その内容は高校生でも十分に利用できる内容だ。
工夫が必要になるだろう。例えば、時間軸の視点では、
年表のそれぞれの事柄について、前後関係だけでなく因
「世界史A」は現代史の内容が充実
果関係も含めて押さえておけば、記述式の問題はもちろ
「世界史A」では『明解 世界史A』
(帝国書院)を分
んのこと、「年代の古い順に並べよ」という設問にも対
析した。新学習指導要領で、19 世紀までの前近代史の
応できるはずだ。また、授業で世界地図を示しながら、
すべてが「世界の一体化と日本」に編成されたことを受
その時代の他地域の歴史を確認することで、生徒に空間
20 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
特集 新課程研究会レポート
<表1>時間軸・空間軸に基づく
歴史理解を促す教科書の記述
山川出版社
【主題学習Ⅰ】 時間軸からみる諸地域世界
『詳説 世界史』 ・年表を作ることによって事項を年代順に整理し、因果関係を
考えさせる
・課題 ローマ…ローマの発展とその後の推移を年代順に整理
させる
【主題学習Ⅱ】 空間軸からみる諸地域世界
・扱われた時期における諸地域間の交流の特色を考えさせる
・課題 近代以前の交流圏
東京書籍
『世界史B』
時間軸からみる諸地域世界
・ビザンティウム、コンスタンティノープル、イスタンブル
空間軸からみる諸地域世界
・マルコ = ポーロと『世界の記述』の時代
軸の視点をもたせることができるだろう。
その他、具体的な記述内容の変化を教科書ごとに見て
いくと、山川出版社では、著作者とは別に日本史校閲と
して新たに日本史の専門家が2名加わっており、東アジ
<表2>帝国書院『新詳 世界史B』の内容分析
2章
南アジア世界
の形成
・現行課程版では「海と山脈と大河の南アジア世界」
「南アジ
アのモンスーン文化と移動」
「アーリヤ文化とドラヴィダ文化」
という三つの見出しに分かれていた内容が、新課程版では「南
アジア世界」と一本化された。ただし内容的には大きな変化
なし。
・
「紅玉髄のネックレス」の図版が加わり、インダス文明圏とメ
ソポタミアとの交流について言及が加えられた。
・ドーラビーラー遺跡の CG がなくなり、モエンジョ = ダロの
大沐浴場の図版になった。
・
「社会をみる ヴァルナ制」という説明のなかで、
「不浄=け
がれは生のエネルギーとして肯定されもする」という言及が加
わった。
・
「都市の発展、思想的活況、帝国の形成」という見出しが設
けられ、マガダ国やコーサラ国が栄えた時代における社会経
済への言及が充実した。
・
「都市は人・モノ・情報の流れの結節点となり、そこを拠点に
学者や宗教家が交流を活性化させ、それまでの祭式主義の
宗教を批判しつつ、インド世界を代表する新しい哲学・思想
を生み出した」という言及が加わった。
・最後の見出しが「古典文化の開花とヒンドゥー文化の波及」
となり、
内容が大幅に加筆された。世界遺産である
「カジュラー
ホの寺院」の図版が加わり、チャンデーッラ朝についての説
明が入った。また、ジャーティへの言及が詳細になっている。
ア史における日本と中国との関係についての記述が、ど
の時代においても少しずつ加筆されている。また、現代
史の分野では、環境保全に関する記述が詳しくなってお
り、国連人間環境会議・地球サミット・京都議定書・エ
コロジーなどが加筆された。教科書各部の冒頭に
「概観」、
大学入試への影響
時間軸・空間軸に基づく歴史認識の重視など
新課程を先取りする出題も
末尾に「まとめ」が設けられたことも合わせて全体に説
大学入試センター試験では、新課程で強調されている、
明が丁寧になっている。
日本の歴史と関連付けた問題や地理的視点を意識した問
東京書籍では記述内容に大幅な変更はないが、他の教
題は既に出題されており、今後もこの傾向は続くだろう。
科書よりも章の入れ替えが多く見られる。例えば、現行
ただし、今回の改訂により、「世界史A」ではより近現
課程の教科書では、イスラーム世界を学んだ後に、宋や
代史を意識した出題が、「世界史B」では時間軸・空間
遼・西夏・金などの歴史が続き、その後、中世ヨーロッ
軸に基づく歴史認識を要求するような出題が増加する可
パ史へ、という順番になっていたが、新課程では、イス
能性もある。
ラーム世界を学んだ後に、中世ヨーロッパ史が続き、そ
国公立大2次(個別)試験・私立大入試も、大きな変
の後、宋や遼・西夏・金などの歴史へ、という構成になっ
化はないと予想される。ある特定の地域を通史的に扱っ
ている。
た時間軸を意識した問題や、同時代における複数地域間
帝国書院では南アジア史の専門家が新たに執筆に加わ
の交流関係を問う空間軸を意識した問題も既に複数の大
り、「南アジア世界の形成」についての記述が充実した。
学で出題されている。例えば 2012 年度中央大学(2 月
「都市の発展、思想的活況、帝国の形成」というテーマ
10 日日程)の問題(第Ⅰ問)は、アフリカ・ユーラシ
が設けられ、マガダ国やコーサラ国が栄えた時代におけ
ア全体の空間軸を意識した出題であり、ある特定の時代
る社会経済について詳細に言及されている<表2>。ま
の歴史を空間的なつながりの中で整理して理解すること
た、数ページごとに「Let’
s try」という論述問題のコー
が求められている。
ナーが新たに設けられている。
また、新学習指導要領でさまざまな資料を活用した学
なお、
「世界史A」
「世界史B」ともに、人類の登場が
習が重視されていることから、資料を利用した問題が増
約 700 万年前に変更されるなど、年代を中心に先史時代
加する可能性もあるが、世界史では出題に利用できる資
の記述が改められている。昨今の研究成果を反映した改
料が限られることもあり、資料そのものの読解を厳しく
訂だろう。
要求するような問題の出題は難しいだろう。
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 21
日本史
新教育課程(以下、新課程)では、日本史は「はどめ規定」の撤廃を受けて用語の掲載が増えたほか、「歴史を考察
し表現する学習の重視」として、データや資料を読み取って考察する学習が重視される。今回は主に山川出版社の『詳
説 日本史』の教科書分析と、新課程が大学入試に及ぼす影響についての分析を行った。
里の歴史と古文書」などが追加されている。データの読
新学習指導要領のポイント
み取りを重視する方針が反映されている。
「日本史A」
「日本史B」とも近現代重視が明確化
データや資料の読み取りも重視
教科書全体としては、「はどめ規定」撤廃と近現代重
視を受け、既に大学入試で出題の実績がある用語、近現
新学習指導要領の変化をまず確認しておこう。「日本
代の用語を中心に、用語が増えたのが大きな変化である。
史A」の最も大きな変更点は現行教育課程(以下、現行
こうした場合、教科書に掲載されたことで、さらに大学
課程)の日本史全体の範囲に相当する「歴史と生活」が、
入試での出題が一般化し、大学入試問題が難化する、と
近現代に限定した「私たちの時代と歴史」に変更された
いう変化が起こることが予想される。一方で、山川出版
ことだ。学習対象を近現代に絞ることが一層明確化され
社で削除された用語も他社で掲載されていれば、大学入
た。 試に出題される可能性がある。図説の活用や、複数の用
「日本史B」でも「原始・古代」
「近世」の項目数が減
語を関連づけて教えるなど、指導に工夫が求められる。
り、近現代の学習が重視される。そのほかには「歴史の
以下に章ごとに変化の内容をみていく。
考察」がなくなり「歴史と資料」
「歴史の解釈」
「歴史の
<古代>
説明」
「歴史の論述」の4つになったことが大きな変化だ。
「第1章 日本文化のあけぼの」の纏向遺跡や八角墳、
構成は変わったが、通史的な視点の重視という方向性に
まきむく
「第2章 律令国家の形成」の入唐求法巡礼行記は、大
は大きな変化はない。
学入試で既に出題されていたが、新課程から『詳説 日
「日本史A」
「日本史B」で共通する変化としては、
「は
本史』にも用語として掲載されるようになった。
「第3
どめ規定」の撤廃のほか、歴史を考察し表現する学習の
章 貴族政治と国風文化」では「はどめ規定」撤廃の影
重視がある。資料やデータから情報を読み取り、考察、
響が大きく、経塚、夜光貝など文化史の用語の増加が目
表現する力がより求められるようになった。
立つ。このほか受領、荘園に関する説明の仕方が変わる
など、生徒への解説に工夫が必要な箇所が散見される。
<中世~近世>
教科書分析の結果より
「第4章 中世社会の成立」は按司、常滑焼など、
「第
『詳説 日本史』は用語の増加が目立つ
近現代の経済史は特に詳細に
まず「日本史A」の教科書
5章 武家社会の成長」では今川了俊、信玄堤などの用
語が増えた。「第6章 幕藩体制の確立」では「天皇と
をみると、各社とも前
朝廷」や「禁教と寺社」の項目が新たに立てられ、記述
近代の扱いが小さくなった。近年の大学入試センター試
が増加した。また、江戸時代の産業について、一部江戸
験(以下、センター試験)でも、前近代からは1、2問
初期の状況を第7章から第6章に移した。その結果、
(注1)
程度しか出題されていない。近現代重視の傾向が新課程
「第7章 幕藩体制の展開」は経済史に関する用語が増
の教科書にも鮮明に表れている。
加し、熱田魚市場や枇杷島青物市場など江戸、大坂以外
「日本史B」では山川出版社『詳説 日本史』を分析
の市場についても触れられている。「第8章 幕藩体制
した。まず編集の方針や注目度の高いテーマを読み取る
の動揺」では化政文化が、宝暦・天明期の文化と化政文
ことができる、コラムの内容をみてみよう。新課程の教
化に分割された。情報量はそれほど変わっていないが、
科書では、世界遺産に登録された「石見銀山」が新たに
それぞれの文化を特徴づけて指導するには工夫が必要で
掲載されているほか、
「年輪年代法と炭素 14 年代法」「山
ある。
(注1)分析したのは山川出版社『現代の日本史』、東京書籍『日本史A』、第一学習社『日本史A』の3つ。
22 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
特集 新課程研究会レポート
<近代~現代>
<表>山川出版社『詳説 日本史』の現行課程、新課程の用語の掲載状況比較
「第9章 近代国家の
節
分量
小見出し
用語
現行課程 新課程
成立」は大きな変化は見
平成不況
×
本文G
られない。
「第 10 章 二
資産デフレ
×
本文M
つの世界大戦とアジア」
住宅金融専門会社
×
本文M
北海道拓殖銀行
×
本文M
山一証券
×
本文M
日本債券信用銀行
×
本文M
日本長期信用銀行
×
本文M
輸出主導・量産指向型
×
本文M
バイオテクノロジー
×
本文M
×
本文M
所得格差
×
本文M
地域格差
×
本文M
循環型社会形成推進基本法
×
本文M
リサイクル
×
本文M
は大きく変化し、特に大
平成不況下の
日本経済
正文化の記述が詳細と
なり、情報量が増えてい
る。
「第 11 章 占領下の
日本」は変化がみられな
冷戦の終結と
日本社会の動揺
増加
い。
「第 12 章 高度経済
「失われた 10 年」
の時代」は「朝鮮特需と
経済復興」
「高度経済成
日本社会の
混迷と諸課題
長」「大衆消費社会の誕
生」の項目を中心に経済
史の記述が増えている。
※ ×は掲載なし、本文Gはゴシック体(太字)での掲載、本文Mは明朝体での掲載を示す。
「第 13 章 激動する世界
と日本」も経済史の記述が増えた。例えば「ドル危機と
ループと同じ傾向ながら記述型は特に減少していない。
石油危機」についてはスミソニアン体制の前に変動相場
難関大ほど記述型が多いと考えがちだが一概にそうとは
制の時期があったことなど過渡期についても細かく書か
いえず、Cグループの大学では基本用語を記述させて、
れているほか、平成不況についても大幅に加筆された
正確な知識を確認しようとしていると考えられ、こうし
<表>。経済史に加え日本社会の諸課題についての記述
た傾向に注意して学習指導をしていく必要がある。
も増え、
「現代社会」や「政治・経済」担当の教員と連
次に出題範囲について、大学入試問題を時代区分別に
携して指導をするなどの工夫も必要になりそうだ。
分類して分析した。戦後史の出題は 1990 年代に比べる
と 2000 年代には増えている。ただし 2000 年代のみをみ
大学入試への影響
用語の増加と、近現代の重視という特徴は
大学入試に既に表れ、今後も継続
ると横ばいで、新課程以降も急激に出題が増えることは
ないと予想される。なお、地区による差が大きく、近畿
圏では原始時代の出題が他地区より多い反面、戦後史の
単独問題の出題は非常に少ない。関東圏、特に東京圏で
学習すべき用語の増加と、近現代の重視という新課程
は戦後史の単独問題が多く、新しい時代の出題が多い。
の2つの特徴は、近年の大学入試に既に見られ、新課程
戦後史については、志望大学にあわせて指導するとよい
以後も継続すると考えられる。
だろう。
まず大学入試の実態を分析するため、河合塾では
このほか、新課程の特徴を意識した指導としては、グ
1993 ~ 2012 年度の大学入試問題を、解答形式別に分類
ラフや図表を使った学習や資料問題の演習を充実させる
した。グループ別
とよいと考えられる。
にみると、Aグループでは記述型
(注2)
が減少し、記号+記述型が増加傾向にある。Bグループ
これらの傾向を踏まえた具体的な出題例としては、
では記号+記述型が減少し、記号型が増加している。も
2012 年度慶應義塾大学経済学部の問題(第Ⅲ問)が参
ともと記述型が多かったAグループは記号+記述型へ、
考になる。記号+記述型の問題で、バブル経済や不良債
記号+記述型の多いBグループでは記号型へと、A、B
権など戦後史の知識がないと解けない内容になっている
グループとも記号型の問題が増加するという傾向がある
ほか、グラフの読み取りの要素も含まれている。今後は
ことがわかる。一方でCグループでは全体としてはAグ
こうした出題が増加する可能性がある。
(注2)分析対象とした大学は国立大 11 大学、公立大3大学、私立大 30 大学、の 44 大学。偏差値 55.0 以上をAグループ、47.5 以上 55.0 未満をBグルー
プ、47.5 未満をCグループと分類している。
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 23
地理
今回は、新課程の教科書の分析結果を踏まえて指導のポイントをあげ、最近の入試問題の分析も行った。新教育課程
(以下、新課程)の「地理B」の教科書は、図版や注釈、コラムなどが豊富になり、情報量が大幅に増加している。
新学習指導要領のポイント
地図、系統地理、地誌の3つにまとめられ
「地理B」はスムーズな教え方が可能に
メッシュマップは読図できるだけでもよいが、折れ線グ
ラフ、帯グラフ、円グラフ、棒帯グラフ、三角グラフ、
人口ピラミッド、階級区分図については作成法も身に付
けておかねばならない。
新課程の地理では、
「地理A」と「地理B」の方針の
なお、
「様々な地図と地理的技能」のうち、地図の変遷、
違いが明確になり、両科目ともに「地理的技能」の習得
地図投影法、地理情報技術は、両教科書で扱いが異なり、
が一層重視されるようになった点に大きな特色がある。
二宮書店は「地理情報と地図」の章の本文で解説してい
「地理A」は、
地理的事象や諸課題をグローバルスケー
るのに対して、帝国書院は巻末でまとめて解説している。
ルとローカルスケールの双方から、主題的な方法を基に
学習することになった。一方「地理B」は、
「様々な地
第三次産業が産業として扱われる
図と地理的技能」
「現代世界の系統地理的考察」
「現代世
第2編の「現代世界の系統地理的考察」は、
「自然環境」
界の地誌的考察」という3部構成になっており、系統地
「資源、産業」「人口、都市・村落」「生活文化、民族・
理学と地誌学の成果を背景とする内容となった。現行教
宗教」の4章立てになっている。まず「自然環境」の章
育課程で教えづらいと指摘されてきた問題点の多くが解
では、模式図を豊富に提示すると同時に、「乾燥地形」
消されている。
など、従来の教科書で記述が手薄だった小地形について、
両教科書とも項目を立てて記述するなど、記述が網羅的
教科書分析から
全体的に情報量が増加し
歴史的地図の取り扱いも視野に
になっている。また、氷河地形のエスカーやドラムリン
(帝国書院)、海食台と波食棚(二宮書店)など、細かな
地形についてもコラムなどで言及している。
「資源、産業」の章で特筆されるのは第三次産業の扱
今回は『新詳 地理B』
(帝国書院)と『新編 詳解
いである。帝国書院では「第三次産業」「世界を結ぶ交
地理B』
(二宮書店)の2冊の教科書を分析した。いず
通・通信」「現代世界の貿易と経済圏」をそれぞれ独立
れも従来のA5版から一回り大きなB5版へと判型が大
した節を設けて取り上げているのに対して、二宮書店で
きくなり、図版も大きく見やすくなった。本文の文章量
はこれらを「流通と消費」という節にまとめて記述して
にはそれほど変化はないが、図版の見方、脚注や欄外の
いる。扱い方には差があるものの、いずれも第三次産業
用語の説明、コラムなど、本文以外の部分の情報量が大
が産業構造の変化の中で扱われている。産業別就業人口
幅に増えた。
構成を示す三角グラフも、第三次産業と連結する形で提
両教科書とも学習指導要領の大項目に沿って3編に分
示されている。また、余暇活動や消費行動など、従来は
かれているが、第1編で注目しておきたいのは、歴史的
消費者の側から扱っていたものが、新課程では第三次産
地図の扱いである。プトレマイオスの世界地図、メルカ
業として産業の側から取り上げられることになった。
トルの世界地図、伊能忠敬の日本地図をはじめ、新たに
いくつもの歴史的地図が加わっている。
地誌では比較地誌的な考察の指導も
地理的技能に関しては、地形図の読図や地域調査の方
第3編の「現代世界の地誌的考察」は、世界各地域を
法などに加えて、さまざまな統計図表の作成法や読図法
網羅的に扱っており、ページ数も増加しているが、地域
に習熟しておく必要がある。散布図、レーダーチャート、
の扱い方には両教科書で大きな差が見られる。
面グラフ、雨温図、ハイサーグラフ、等値線図、流線図、
帝国書院は、大陸、州など形式的な地域区分による指
24 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
特集 新課程研究会レポート
標で各地域を取り上げており、考察方法も多様な
<問題例>
事象を項目ごとに整理する総合地誌が中心だが、
二宮書店では、地域区分の指標として地域経済水
準や経済成長率を重視しており、考察方法もテー
マ地誌や比較地誌が中心である。帝国書院は比較
的オーソドックスな地誌、二宮書店は今回の新課
程の狙いをより意識した地誌といえる。
比較地誌は、近年の国公立大2次(個別)試
験における重要なテーマになっており、2つの
地域の共通点と相違点をコンパクトに論述させ
る問題が頻出している。総合地誌、テーマ地誌
的考察方法だけでなく、比較地誌的考察方法の
習得についても指導する必要があるだろう。
大学入試問題分析とその対策
地域や国のタイプを把握することで
教科書にない統計を読み解く
大学入試センター試験(以下、センター試験)
は新課程の動向を先取りする傾向が見られる。以
下では、センター試験を例に、正答率の低い問
題の例を紹介する。
センター試験の「地理B」は、70 点を取るの
は比較的容易だが、難度の高い統計や資料を提
(2013 年度センター試験本試験 第6問 問2)
示して応用的な知識を問う問題が、毎年数問出題されて
物の単位面積当たりの収量」の各増減を、1965 年を 100
いるため、90 点以上の高得点をとりにくい科目である。
とする指数で示した表から、アフリカ、東南アジア、南
難度の高い問題は次の3つのタイプに分かれる。第1
アメリカを選択させる問題はその典型だろう。表を見る
は「教科書に掲載されていない統計」が出題されるタイ
と東南アジアと南アメリカの「穀物の単位面積当たりの
プだ。例えば、2013 年度の本試験では、月別日照時間
収量」の増加率がほぼ等しいため、「緑の革命が土地生
のグラフから会津若松市、徳島市、宮古島市を選ぶ問題
産性を大幅に向上させた」「緑の革命の恩恵を最も受け
が出題された<問題例>。日本の気候の問題は地域調査
たのはアジアである」という正しい理解をもとにしても、
では頻出だが、この問題に関しては、南西諸島では冬の
判定が極めて難しく、単純に「穀物生産量」の増加率が
日照時間は短いという知識がないと解けない。受験生に
最も高い地域を東南アジアとすると正答となる。
とっては非常に難問だったといえる。このように、教科
第3は「位置や歴史に関する知識問題」だ。2012 年
書に掲載されていない統計資料を用いた問題に対処する
度本試験・第5問・問4では、資源・エネルギーをめぐ
には、個々の統計情報にあまり振り回されずに、その国
る紛争や戦争などを世界地図にマッピングし、正しい記
や都市がどのようなタイプなのかを考えて統計指標の値
述を選択させる問題だったが、インドネシアの国家領域
を読み取る、という訓練が必要だろう。
に関する正確な知識や、1990 年代の湾岸戦争に関する
第2は、
「深く考えすぎると判定が困難となる問題」
知識が要求された。地図上で正確な位置を把握しておく
である。2012 年度本試験・第5問・問3で出題された、
こと、地理においても歴史的な事柄と結びつけて学習す
1965 年と 2005 年の「穀物耕作面積」
「穀物生産量」「穀
る姿勢が求められている。
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 25
現代社会
新教育課程(以下、新課程)の現代社会の標準単位数は、現行教育課程(以下、現行課程)と変わらず(2単位)
。
「現
代社会」または「倫理」
「政治・経済」のいずれかが必修となっていることも含め、新学習指導要領の内容に大幅な変
化は見られない。しかし、知識重視(
「確かな学力」の育成)の方針を反映してか、新課程の教科書では扱うべき項目
や注意すべき事柄がやや増加している。
[1]倫理分野
新学習指導要領の特徴
現行課程に比べて扱われる人物や思想内容が増加して
指導項目が増加
いる。ベンサムやロールズ、センなど、現行課程では教
学習項目の変化として、政治分野では「現代の民主政
科書ごとに掲載の有無に違いが見られたが、新課程では
治と民主社会の倫理」が、
「現代の民主政治と政治参加
いずれの教科書にも掲載されるようになったものもある。
[2]企業
の意義」と「個人の尊重と法の支配」に分割された。
経済分野では、新たな指導事項として「消費者に関す
各教科書が今まで記述の薄かった知識事項を補強して
る問題」が明示された。ここでは消費者保護政策につい
いる。企業をめぐる新しい概念や用語等の記述を追加し
ての知識のみならず、
「契約に関する基本的な考え方に
ており、全体として記述量が若干増加傾向にある<表1>。
ついて理解させ」ることが重視されている。また、金融
[3]金融・財政
に関する学習として「クレジットカードや電子マネーな
金融市場をめぐるさまざまな制度・状況の変化の中で、
どの普及によるキャッシュレス社会の進行、金融商品の
日本銀行の金融政策手段が大きく変化したことを踏まえ、
多様化」が重視されることとなった。
各教科書とも今日の日本銀行の金融政策についての説明
そして、大項目「共に生きる社会を目指して」が新設
が加えられている。また、日本の税制の変化、国・地方
された。これは「現代社会」という科目全体のまとめ的
における財政改革の推移、昨今の日本の財政危機の状況
なものとして位置づけられており、他の大項目で学習し
などについての部分的な説明の追加や補強も目立つ。
た事柄を活用する課題探究型の学習項目となっている。
[4]生命倫理 内容的にも、法的な思考力の重視が打ち出され、情報
臓器移植に関する説明が詳細になっている点や、iP
モラル指導の注意が付加されるなどの変化が見られる。
S細胞など再生医療に関する記述が増えている点が目に
つく。このことは、臓器移植法の改正や、山中伸弥教授
のノーベル賞受賞でますます注目が集まっているiPS
教科書分析からみた指導への影響
細胞への期待などが背景にあるようだ。
次に、教科書によってその扱い方に特徴が見られた事
各教科書に共通の変化と
教科書ごとに扱いの異なる項目
柄について述べる。 今回分析の対象とした新課程の教科書は、採択率上位
[1]法的思考力
の、第一学習社『高等学校 現代社会』
(現社 311)、東
現行課程と比較した場合、教科書本文の内容はそれほ
京書籍『現代社会』
(現社 301)
、実教出版『最新 現代
ど大きく変わった印象は受けない。しかし、法的思考力
社会』
(現社 303)の3冊である。なお分析に際しては、
第一学習社『高等学校 現代社会』
(現社 026)
、東京書
籍『現代社会』
(現社 017)
、実教出版『新版 現代社会』
(現社 019)の現行課程教科書も併せて参照している
。
(注)
各社の新課程教科書を比較検討し、それらに共通して
見られた変化には次のようなものが挙げられる。
(注)教科書名および、短縮名にある数字(311 など)は教科書の記号番号。
26 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
<表1>新課程における企業をめぐる新たな記述の例
出版社
記述の概要
第一学習社
バランスシート(貸借対照表)・損益計算書の意義や
役割を掲載
東京書籍
企業の内部統制 ― 金融商品取引法に基づく内部統制
報告制度について言及
実教出版
コーポレート・ガバナンスに関して、ステークホルダー
と結びつけた説明を補足
特集 新課程研究会レポート
を養成するために、各教科書ともコラム等でさまざまな
ケーススタディを紹介するなどの工夫を凝らしており、
それぞれ独自色の強いテーマ設定をしている。
[2]金融商品
投資信託や、証券化商品とサブプライムローン問題と
の関わりについて説明している教科書があるなど、取り
上げ方にはある程度の違いが見られた。しかし、いたず
らに難易度の高い項目が記述されているわけではなく、
「安全性」
「流動性」
「収益性」という金融商品を選ぶ基
準や、選択の際には自己責任が求められることなどにつ
いての記述にウエイトが置かれている。
[3]調べ学習
「調査する」
「レポートを書く」
「発表する」といった
諸技法を扱う「調べ学習」に充てられているページ数が、
現行課程と比べると、従来どおりかもしくは減少してい
る。だが、内容を見ると、各教科書とも「調べ学習」に
<問題例>
問 5 下線部ⓔ(物事の根本を,古今東西いろんな形で考えてきた
1
4
人たち)に関する記述として適当でないものを,次の ~ のう
ちから一つ選べ。 5 1
プラトンは,不変の本質から成るイデア界が,感覚的な世界
を超えた所に存在すると主張した。
あし
2
パスカルは,人間は弱き葦
のような存在ではあるが,自らの
りょうが
力をはるかに凌駕する宇宙について考えることのできる存在だ
とみなした。
3
夏目漱石は,異文化との接触で苦しむなかで,他者を排した
よ
エゴイズムとしての自己本位の立場に自らの拠りどころを見い
だした。
4
西田幾多郎は,主観と客観が対立する以前の状態に純粋経験
を見いだし,それこそが真の実在であるとした。
(2007 年度センター試験追試験 第1問 問5)
ついて網羅的に記述しており、
「削減」というよりは「圧
年の財政データや税制の変化などについても、知識をき
縮」といったほうが適切である。
ちんと更新しておく必要があるだろう。
「生命倫理」に関する出題は、年々、具体的かつ詳細
センター試験への影響
現行課程より細かい知識を問う出題も
な知識を問うものが見られるようになってきている。こ
のため、今後も臓器移植や再生医療、遺伝子組み換えな
どの知識問題の出題は続くと予想される。
新課程の教科書が今後の大学入試センター試験(以下、
「法的思考力」では、知識を中心に問うのではなく法
センター試験)にどのような影響を与えるかについて、
的な思考力を問う問題が、過去のセンター試験において
先に注目した分野・項目ごとに分析した。 は追試験で出題されている。こうした追試験の傾向が今
「倫理分野」では、扱われる人物や思想内容が増加し
後は本試験にも及ぶ可能性がある。
た。このことから、今後のセンター試験では、これまで
「金融商品」については、新学習指導要領解説では、
「金
に出題されたことのない人物や思想内容が登場する可能
融商品に関する学習の重視」とともに、「消費者に関す
性は高くなるだろう。ただし、設問数が急増することは
る問題の学習の重視」も打ち出されている。こうしたこ
考えにくい。また、出題の形式も従来のものと同様のも
とから、今後は、多様化している金融商品の特徴や選択
の、すなわち「特定の人物の思想について詳細に問う形
の基準などについて、消費者問題などと絡めながら出題
式」ではなく「複数の人物の思想をまんべんなく問う形
される可能性がある。
式」<問題例>が中心となるだろう。
「調べ学習」は、出題はほぼ定着しているが、学習指
「企業」については、従来から企業や株式会社をめぐ
導要領での扱いの強化、教科書の記述が内容的に軽く
るやや細かい知識事項を含む問題が出題されてきたが、
なったわけではないことを考えると、これまでと同様の
引き続きそうした知識問題に対する準備は必要であろう。
出題が続くと予想している。
そのうえで、新しい概念・用語などをめぐる問題が出題
最後に、現行課程と比較して教科書の記述の増減は各
される可能性もある。
社まちまちであるが、知識に関する説明の記述量が増え
「金融・財政」では、日本銀行の金融政策について、
ていることは共通している。今後センター試験では、扱
近年の動向や旧来の金融政策との違いを理解しているか
われる人物や項目について、現行課程よりもやや細かい
どうかを試す問題が出題される可能性がある。また、近
知識事項を含む問題が出題される可能性があるだろう。
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 27
国語
国語は新教育課程(以下、新課程)への移行によって、科目構成が「国語総合」「国語表現」「現代文A」「現代文B」
「古典A」
「古典B」の6科目となる。うち「国語総合」のみが共通必履修科目となり、他の5つの科目は「国語総合」
の内容を発展させた選択科目となった。
現場のニーズや動向を想定した両面的な編集となってい
教科書の分析
る。
「国語総合」では、2013 年度に 23 種 31 点の教科書が
[3]第一学習社 新学習指導要領に基づいて出版された。今回は、東京書
収録されている教材数は、『高等学校 国語総合』が
籍3冊、教育出版2冊、第一学習社3冊の計8冊の新課
22、『高等学校 標準国語総合』が 20、『高等学校 新
程教科書の内容を分析した<表>。以下に、現代文・古
編国語総合』が 18 である。『高等学校 国語総合』は評
典(古文)
・古典(漢文)別に、その特徴を紹介する。
論が多く、小説も古典的なものが多いのに対して、
『高
等学校 新編国語総合』は随想が多く、小説も現代的な
<表> 2013 年度「国語総合」
分析対象教科書
出版社
教科書名
占有率(%)
12.4
小説が多くなっている。また、『高等学校 国語総合』
と『高等学校 標準国語総合』で収録されている古典的
東京書籍
新編国語総合(国総 301)
東京書籍
国語総合 現代文編(国総 303)
4.0
な小説が、芥川龍之介・夏目漱石・志賀直哉の作品であ
東京書籍
国語総合 古典編(国総 304)
4.0
るのに対して、『高等学校 新編国語総合』では芥川龍
教育出版
国語総合(国総 309)
3.8
之介と宮沢賢治の作品が収録されており、明らかに読み
教育出版
新編 国語総合 言葉の世界へ(国総 310)
2.1
やすく親しみやすい教材を選んでいる。
第一学習社
高等学校 国語総合(国総 326)
7.3
第一学習社
高等学校 標準国語総合(国総 327)
7.9
第一学習社
高等学校 新編国語総合(国総 328)
3.5
※ 占有率は文部科学省まとめより
※ 教科書名および短縮名にある数字(301など)は教科書の記号・番号
現代文
教科書の編集方針を反映した収録教材の選択
[1]東京書籍 学習指導要領改訂の影響は小さい
生徒に文章読解を促す工夫も
新課程教科書では全体的に教材数が増えたが、高校現
場の混乱を避ける意図からか、現行教育課程(以下、現
行課程)の教科書に採録されていた定番の教材を外す、
というようなことは顕著には見られなかった。総じて内
容的には前回の学習指導要領改訂時同様、大きな変化は
収録されている教材数は『国語総合 現代文編』は
見られない。しかし「国語表現」が必履修科目から外さ
24、
『新編国語総合』は 19(
[参考]を含まず)で、『国
れたこと、新学習指導要領で「話すこと」「書くこと」
語総合 現代文編』の方が、
『新編国語総合』よりも評
が強調されていること、を踏まえ、「表現」に関する教
論の数も多く、読解力が求められる教材が選ばれている。
材や編集の工夫が目立つ。
これはそれぞれの教科書が従来から示していた編集方針
また3社の教科書を上位層向け同士、下位層向け同士
を踏襲したものである。ただし、巻末にある[言語活動
というように比較してみた場合も、上位層向けの教科書
編]は、ほぼ共通の内容になっている。
では発展的な読書などへと誘い、下位層向けの教科書で
[2]教育出版 は教科書自体で学習を完結させる、という点で3社に類
収録されている教材数は、
『国語総合』が 21、『新編
似した部分がある。さらに「現代文」を身近なものとし
国語総合 言葉の世界へ』は 17 である。
『国語総合』は
て生徒に受容させようという工夫が各社の教科書に共通
「読むこと」を重視した旧来型のもの、
『新編 国語総合
しているが、これは新学習指導要領の影響というより、
言葉の世界へ』は新学習指導要領の指針に則って編集さ
昨今の時代的な趨勢を受けたものと言えるだろう。
れたものと、両者の性格がかなり明確に区別され、教育
昨今の高校生らに見られる、文章読解に対する消極的
28 Kawaijuku Guideline 2013.7・8
特集 新課程研究会レポート
姿勢や語彙力・読解力の不足に対しては高校現場でさま
ている。
ざまな工夫が行われている。受験という枠組みに限定さ
れているとはいえ、河合塾でもそれらに対する取り組み
文語文法は助詞の扱いに変更が目立つ
を実践しようと動き始めている。新学習指導要領を一つ
新学習指導要領では「文語のきまり、訓読のきまりな
の契機としながら、さまざまな教科書や高校の取り組み
どを理解すること」とあるものの、「読むことの指導に
などを参考にしつつ、読解力などを養成する指針やプロ
即して行うこと」となっている。現行課程と大きく異な
グラムを立てていくことの重要性を、教科書分析を通じ
ることはないが、「読むことの指導に即し」た文語文法
再認識させられた。
の指導について、各社の教科書では次のような変化が見
最後に、大学進学を志望する生徒を対象として想定し
られた。
た場合、2013 年度の大学入試センター試験に小林秀雄
東京書籍では、『国語総合 古典編』において、現行
の文章が出題されたことは気になるところである。この
課程版の[古文学習のしおり]にはあった「助詞」が、
傾向が新課程における入試のあり方を示唆したものであ
新設の[古文学習のしるべ]では削除された。また、
『新
るのかは、もう少し注視していく必要があるが、多くの
編国語総合』では、『国語総合 古典編』と同じく[古
教科書が中心に据えている「評論」だけでなく、
「随想」
文学習のしるべ]に「現代語訳のために」が新設された。
「随筆」や「国語表現」についても、ある程度踏み込ん
だ学習が必要となると言えるだろう。
教育出版では、
『国語総合』において、現行課程版の[解
釈のために]にあった文法事項のうち、「助詞の分類と
働き」が削除されて、[附録]へ移動した。また、[文法
古典(古文)
「読むこと」の言語活動の充実が図られ
古典常識のコラムが増強
コラム]として「係り結び」
「助動詞『き』と『けり』
」
「音
便」が新設された。そして『新編 国語総合 言葉の世
界へ』では、[解釈のために]にあった文法事項はほぼ
踏襲されているが、現行課程版にあった[解いてみよう]
東京書籍『国語総合 古典編』では「古典を自分の言
が削除された。
葉で書き換える」
「桜の歌を読み比べる」が、
教育出版『国
第一学習社の教科書では、文法事項の扱いについて大
語総合』では「
『ものは』づけを作ろう」
「古典を現代の
きな変化はなかった。
物語に書き換えてみよう」が、第一学習社『高等学校 国語総合』
『高等学校 標準国語総合』では「
『竹取物語』
古典に関連する近代以降の文章の採択は微少
の求婚譚を調べる」などが新設された。これは、新課程
新学習指導要領で、〔伝統的な言語文化と国語の特質
で「国語表現」が必須科目ではなくなり、
「国語総合」
に関する事項〕が新設され、「国語総合」の内容の取り
の古典においても「表現」との関連が重視されたことに
扱いには「古典の教材については、…古典に関連する近
よる影響と思われる。新学習指導要領には、言語活動例
代以降の文章を含めること」と記されたことから、新課
として「文章を読んで脚本にしたり、古典を現代の物語
程の教科書では、古典の教材数や文章量は増加し、古典
に書き換えたりすること」
「様々な文章を読み比べ、内
に関する評論や随筆なども多く採り上げられるのではな
容や表現の仕方について、感想を述べたり批評する文章
いかと予想された。
を書いたりすること」が示されている。
収録された教材数は、第一学習社では大きな変化はな
さらに、古文に興味を持たせるために、東京書籍『国
かったが、東京書籍では増加していた。また、教育出版
語総合 古典編』では「兼好法師、こんな一面も」「恋
では教材の変更が目立った。各社とも、教材や文章量の
愛と結婚」として、
教育出版『国語総合』では「秋の月」
変更・増加に伴って、単元の順序変更やコラムの名称変
「夜の帰京」としてなど、古文常識的なコラムが新設さ
更などがなされていた。
れている。また、第一学習社では、
[古典のしるべ]と
「古典に関連する近代以降の文章」については、それ
して「和歌の伝統と継承」
「
『奥の細道』と和漢の文学」
ほど積極的には採用されなかったが、和歌の単元で俵万
などが設けられ、日本文学の伝統と中国文学とを比較し
智の文章を収録している教科書が複数あった。また、東
Kawaijuku Guideline 2013.7・8 29
京書籍の『国語総合 古典編』では、古語に関する堀井
令以知の文章を収録しており、教育出版の『国語総合』
では、現代文の芥川龍之介の小説や漢文の白居易の詩と
の関連づけを狙ったと思われる教材が収録されていた。
以上のように、新課程教科書における、表現活動の充
実化、文法の扱いや教材の変更などは、現行課程版を基
にしたものであり、新学習指導要領を積極的に取り入れ
た抜本的改訂とまではなっていない。
出版『国語総合』では、
「漢詩」の項目を「詩文」として、
古典(漢文)
学習の動機付けを促すため
漢文学習の導入部分などに工夫も
韓愈の「雑説」を新たに採り上げている。また、同じ教
育出版では、『国語総合』で「孟子」が、『新編 国語
総合 言葉の世界へ』では「老子」「荘子」が採り上げ
られている等、若干の変化は認められる。また、
「漢詩」
各教科書ともに、
[漢文入門]という項目で、訓読に
についても、例えば、東京書籍『国語総合 古典編』で
ついての説明が展開されており、一部教科書で項目名称
は、
「自然をうたう」「友情をうたう」「人生をうたう」と、
の変更はあるものの、構成そのものとしては現行課程版
新たに項目を立てて分類がなされている。その一方で、
と大きく変わってはいない。ただし、説明自体は概して
教育出版『国語総合』では、これまで「四季の歌」
「自
丁寧になっており、また古代の日本において漢文が受容
然と人生」と項目分けされていたものが、「詩文」とし
されることとなった経緯の説明や、漢文を学習する意義
てまとめられている。
について新たに記述したものなど、漢文学習の動機付け
採り上げられた文章や漢詩については、多少の差はあ
に工夫を試みたものも出てきている。
るものの、各教科書とも差し替えがなされている。ただ
生徒の漢文学習を促すためと思われる工夫は他にも散
し、差し替えられたものは、東京書籍『新編国語総合』で、
見される。東京書籍
『国語総合 古典編』
『新編国語総合』
近年の教科書ではやや目にすることが珍しい漢詩が採り
で[漢文の窓]として、漢文の背景常識的色合いの濃い
上げられているのが目を引く程度で、他は目新しい文章
内容が加えられていたり、第一学習社『高等学校 標準
や漢詩が採り上げられているわけではなく、いずれも教
国語総合』の[言語活動]では「故事成語の由来と意味
科書では定番と言えるような教材ばかりである。
を調べる」
「漢詩と訳詩を読み比べる」とある。また、
東京書籍『国語総合 古典編』で李白の「静夜思」につ
いて、
井伏鱒二による訳が載せられ、
同じ東京書籍の『新
学習指導要領改訂による変化より
教育現場での漢文学習を補完する変化
編国語総合』では、李白「汪倫に贈る」の吉川幸次郎に
新学習指導要領での、「国語総合」の漢文に関する変
よる訳が付せられている。逆に教育出版『新編 国語総
更としては、「訓点を付け、必要に応じて書き下し文を
合 言葉の世界へ』では、これまで掲載されていた大岡
用いる」という記載が「古典」から移行したこと程度で
信の訳詩が削除されているが、全般的には、概ね漢文と
ある。その点で、第一学習社や東京書籍の教科書で、日
日本文化との関連性を意識づけようとする意図がうかが
本語訳に関わる内容を加えているのは、新学習指導要領
われる。
を多少なりとも意識したものと考えられる。全般的には、
より丁寧な説明を試みようとする意図は伺えるものの、
教科書の構成に大きな変化はなし
新学習指導要領に基づくと言えるほどの大きな変化を見
「故事」
「漢詩」
「史話」
「思想」を適宜配置することを
出すことはできない。導入部分の変化や工夫、題材の変
基本としており、構成そのものに目立った差異は無い。
更、漢文常識に関わる内容の付加なども、学習指導要領
ただし、東京書籍『国語総合 古典編』では、
「故事」に、
に基づくというよりも、教育現場での漢文教授の難しさ
さらに「寓話」という項目を新たに加えていたり、教育
を反映したものと捉えられよう。
30 Kawaijuku Guideline 2013.7・8